特許拒絶査定不服審判
2022-017541
電解コンデンサ
- 審判番号
- 2022-017541
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-558985
- 請求日
- 2022年11月01日
- 審決日
- 2024年01月29日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人河崎特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 岩田 淳
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P18 .121-Z (H01G) / P18 .56 -Z (H01G) / P18 .572-Z (H01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-558985「電解コンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月 5日国際公開、WO2018/123525〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年12月11日(パリ条約に基づく優先権主張2016年12月27日 日本国(JP)、2016年12月28日 日本国(JP))の国際出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年11月18日付け:拒絶理由通知書
令和4年 3月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年 8年 1日付け:拒絶査定
令和4年11年 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年11月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年11月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
一対の電極を含むコンデンサ素子と、
前記一対の電極間に介在する電解液と、
前記コンデンサ素子および前記電解液を収容し、開口を有するケースと、
前記開口を封止する封口部材と、
前記一対の電極にそれぞれ電気的に接続され、かつ、前記封口部材を貫通する一対のリードと、
前記開口側を臨む前記封口部材の外面の少なくとも一部を覆うとともに実装面を有するモールド樹脂層と、を備え、
前記電解液に含まれる溶媒が、グリコール化合物を含むと共に、スルホン化合物またはラクトン化合物の何れか1つを含み、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の含有割合が、30質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物および前記ラクトン化合物の合計含有割合が、70質量%以下であり、
前記モールド樹脂層が、前記実装面に凹部を有し、
前記凹部における前記モールド樹脂層の薄肉部の平均厚さが、0.5mm以上4mm以下であり、
前記封口部材と前記モールド樹脂層との界面から、前記界面の法線方向における前記実装面までの最大距離が、1.0mm以上4.5mm以下であり、
前記モールド樹脂層の熱伝導率が、1.0W/mK以下である、電解コンデンサ。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和4年3月22日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1ないし8の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
一対の電極を含むコンデンサ素子と、
前記一対の電極間に介在する電解液と、
前記コンデンサ素子および前記電解液を収容し、開口を有するケースと、
前記開口を封止する封口部材と、
前記封口部材の外面の少なくとも一部を覆うモールド樹脂層と、を備え、
前記電解液に含まれる溶媒が、グリコール化合物を含むと共に、スルホン化合物またはラクトン化合物の何れか1つを含み、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の含有割合が、30質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物および前記ラクトン化合物の含有割合が、70質量%以下であり、
前記モールド樹脂層の熱伝導率が、0.7W/mK以下である、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記モールド樹脂層が、前記封口部材の前記外面とともに前記ケースの前記開口に続く側面の少なくとも一部を覆っている、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記モールド樹脂層が、実装面を有し、
前記封口部材と前記モールド樹脂層との界面から、前記界面の法線方向における前記モールド樹脂層の実装面までの最大距離が、1.0mm以上である、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記グリコール化合物が、エチレングリコールである、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記モールド樹脂層が、実装面に凹部を有し、
前記凹部における前記モールド樹脂層の薄肉部の平均厚さが、0.1mm以上であり、
前記凹部に、一対のリードの少なくとも一部が収容されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記モールド樹脂層の最大厚さが、6.5mm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記モールド樹脂層が、絶縁性の粒子を含み、
前記絶縁性の粒子は、シリカ、アルミナ、ガラス、タルク、マイカおよびクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記モールド樹脂層中における前記絶縁性の粒子の含有割合は、20質量%以上、80質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記絶縁性の粒子は、シリカを含む、請求項7に記載の電解コンデンサ。」
2 補正の適否
(1)本件補正前の請求項1に基づく補正について
本件補正後の請求項1が、本件補正前の請求項1に基づいて補正された場合について検討する。
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の請求項1に係る発明に対して、「モールド樹脂層の熱伝導率」の数値範囲を「0.7W/mK以下」から「1.0W/mK以下」に変更する補正(以下「補正事項1-1」という。)、及び「前記一対の電極にそれぞれ電気的に接続され、かつ、前記封口部材を貫通する一対のリード」を追加する補正(以下「補正事項1-2」という。)を含む。
上記補正事項1-1は、「モールド樹脂層の熱伝導率」の数値範囲を「0.7W/mK以下」から「1.0W/mK以下」に変更することで、特許請求の範囲を拡張するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。さらに、上記補正事項1-1は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでもない。
また、上記補正事項1-2は、「前記一対の電極にそれぞれ電気的に接続され、かつ、前記封口部材を貫通する一対のリード」を追加することで特許請求の範囲を減縮するものである。しかしながら、本件補正前の請求項1に係る発明において「リード」は発明を特定するために必要な事項として記載されておらず、上記補正事項1-2には、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。さらに、上記補正事項1-2は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでもない。
そうすると、上記補正事項1-1、1-2を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
(2)本件補正前の請求項2ないし4、及び請求項5を引用しない請求項6ないし8に基づく補正について
本件補正後の請求項1が、本件補正前の請求項2ないし4、及び請求項5を引用しない請求項6ないし8のいずれかに基づいて補正された場合について検討する。
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の請求項2ないし4、及び請求項5を引用しない請求項6ないし8に対して、上記補正事項1-1、1-2を含む。そして、上記(1)で述べたとおり、上記補正事項1-1、1-2は特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれかの事項を目的とするものではない。
そうすると、上記補正事項1-1、1-2を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
(3)本件補正前の請求項5に基づく補正について
本件補正後の請求項1が、本件補正前の請求項5に基づいて補正された場合について検討する。
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の請求項5に係る発明に対して、「モールド樹脂層の熱伝導率」の数値範囲を「0.7W/mK以下」から「1.0W/mK以下」に変更する補正(以下「補正事項2-1」という。)、及び「前記凹部に、一対のリードの少なくとも一部が収容されている」を削除する補正(以下「補正事項2-2」)を含む。
上記補正事項2-1は、「モールド樹脂層の熱伝導率」の数値範囲を「0.7W/mK以下」から「1.0W/mK以下」に変更することで、特許請求の範囲を拡張するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。さらに、上記補正事項2-1は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでもない。
また、上記補正事項2-2は、「前記凹部に、一対のリードの少なくとも一部が収容されている」を削除することで、特許請求の範囲を拡張するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。さらに、上記補正事項2-2は、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものでもない。
そうすると、上記補正事項2-1、2-2を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
(4)本件補正前の請求項5を引用する請求項6ないし8に基づく補正について
本件補正後の請求項1が、本件補正前の請求項5を引用する請求項6ないし8のいずれかに基づいて補正された場合について検討する。
本件補正後の請求項1に係る発明は、本件補正前の請求項5を引用する請求項6ないし8に対して、上記補正事項2-1、2-2を含む。そして、上記(3)で述べたとおり、上記補正事項2-1、2-2は特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれかの事項を目的とするものではない。
そうすると、上記補正事項2-1、2-2を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
(5)補正の適否についてのまとめ
上記(1)ないし(4)によれば、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年11月1日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明のうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年3月22日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものであると認められる。
2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1-5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1 特開昭60-245106号公報
引用文献2 特開2012-164777号公報
引用文献3 特開2014-123685号公報
引用文献4 特開2016-63186号公報
引用文献5 特開昭61-182212号公報(周知技術を示す文献)
3 引用文献1に記載された事項及び引用発明
(1)原査定に引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開昭60-245106号公報(以下「引用文献1」という。)には、「チップ形アルミ電解コンデンサ」について、図面とともに以下の各記載がある(下線は当審で付与した。以下同様。)。
ア 第2頁左上欄第20行~右上欄第11行
「発明の構成
本発明はチップ形アルミ電解コンデンサにおいて、コンデンサ素子を有底金属ケースに電解液と共に陰,陽電極リード線を開口部に向けて挿入し、封口材で開口部を封口し、前記封口材より一方向に突出して陰,陽電極リード線を設けたコンデンサユニットを構成し、前記有底金属ケースの底部には防爆弁を設け、前記封口材を含むコンデンサユニットの全長の1/3~2/3に対応する長さで前記コンデンサユニットの上部周囲に樹脂モールド層を設け、前記樹脂モールド層の上面部に沿ってリード線を折曲し、外部電極端子としたものである。」
イ 第2頁右上欄第12行~左下欄第16行
「実施例の説明
以下本発明によるチップ形アルミ電解コンデンサの一実施例を図面を用いて説明する。
第2図の実施例について説明する。
電極箔と電解紙を巻回してなるコンデンサ素子9を電解液と共にケース底部に防爆弁10を設けた有底金属ケース11に収納し、封口材12で封口し、この封口材12を貫通するようにコンデンサ素子9から引出した陽極リード線13、陰極リード線14を引出してコンデンサユニットを構成する。次に、コンデンサユニットを樹脂モールド成形金型でコンデンサユニットのケース底部全長寸法の約1/2~1/3部分と外部電極となるリード線13,14部をチャックしてこの部分に樹脂が囲りこまないように固定して、残りのコンデンサユニットの部分に樹脂を流し込んで樹脂モールド層15を形成する。成形後、樹脂モールド層15より外側に引出されたリード線13,14を、樹脂モールド層15の表面に沿って折曲し外部電極とする。第3図は外部電極端子16を樹脂モールド層15にインサート成形し、コンデンサユニットのリード線13,14と嵌合によって接合したものである。なお、第2図において、17は樹脂モールド層15に形成した極性判別用カット部である。」
ウ 第2頁左下欄第17行~右下欄第10行
「発明の効果
以上のように、本発明のチップ形アルミ電解コンデンサによれば、コンデンサユニット本体を成形金型でチャックするためコンデンサユニットと成形金型のセンターを容易に合わすことが可能であり、樹脂モールド層の樹脂肉厚を0.5mm以下にしかも非常に安定した形状にて成形でき、成形不良を大巾に低減できると同時にコンデンサユニット全体をモールド成形しなくても、封口部を樹脂成形にて固定しているため、熱ストレス、機械的強度も強く、更に防爆弁を有することから安全性が確保でき、更に片側だけ樹脂モールド層成形のため寸法的に小形で有利であるという、効果を生ずる。」
エ 第2図
「
[図:0001408516000001.jpg]
」
(2)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 上記(1)アによれば、引用文献1には「チップ形アルミ電解コンデンサ」が記載されている。
イ 上記(1)イによれば、「電極箔と電解紙を巻回してなるコンデンサ素子」「を電解液と共に」「有底金属ケース」「に収納し、封口材」「で封口し、この封口材」「を貫通するようにコンデンサ素子」「から引出した陽極リード線」「、陰極リード線」「を引出してコンデンサユニット」が「構成」される。
ウ 上記(1)アによれば、「封口材を含むコンデンサユニットの全長の1/3~2/3に対応する長さで」「コンデンサユニットの上部周囲に樹脂モールド層」が「設け」られる。
また、上記(1)イに「コンデンサユニットのケース底部全長寸法の約1/2~1/3部分と外部電極となるリード線13,14部をチャックしてこの部分に樹脂が囲りこまないように固定して、残りのコンデンサユニットの部分に樹脂を流し込んで樹脂モールド層15を形成する」ことが記載されているところ、上記(1)エ(第2図)から、樹脂モールド層は封口材12の外面を含む位置に形成されていることが見てとれる。
(3)上記(2)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「電極箔と電解紙を巻回してなるコンデンサ素子を電解液と共に有底金属ケースに収納し、封口材で封口し、この封口材を貫通するようにコンデンサ素子から引出した陽極リード線、陰極リード線を引出してコンデンサユニットが構成され、
封口材を含むコンデンサユニットの全長の1/3~2/3に対応する長さでコンデンサユニットの上部周囲に樹脂モールド層が設けられ、樹脂モールド層は封口材の外面を含む位置に形成されている、
チップ形アルミ電解コンデンサ。」
4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「コンデンサ素子」は、「電極箔と電解紙を巻回してな」り、「陽極リード線、陰極リード線」が「引出」されるから、陽極の電極箔と陰極の電極箔を有することは明らかである。してみれば、引用発明の「電極箔と電解紙を巻回してなるコンデンサ素子」は、本願発明の「一対の電極を含むコンデンサ素子」に相当する。
イ 引用発明の「電解液」は、「電極箔と電解紙を巻回してなるコンデンサ素子」「と共に有底金属ケースに収納し」て「コンデンサユニット」を「構成」するものであるから、電解紙に保持され電極箔の間に介在することは明らかである。そして、上記アの対比を考慮すると、引用発明の「電解液」は本願発明の「一対の電極間に介在する電解液」に相当する。
ただし、本願発明は「電解液に含まれる溶媒が、グリコール化合物を含むと共に、スルホン化合物またはラクトン化合物の何れか1つを含み、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の含有割合が、30質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物および前記ラクトン化合物の含有割合が、70質量%以下であ」るのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
ウ 引用発明の「有底金属ケース」は、「コンデンサ素子」と「電解液」を「収納」し、「封口材で封口」されるものであり、開口を有することは明らかである。してみれば、上記ア、イの対比を考慮すると、引用発明の「有底金属ケース」は、本願発明の「前記コンデンサ素子および前記電解液を収容し、開口を有するケース」に相当する。
エ 引用発明の「封口材」は、上記ウの検討を考慮すると、本願発明の「前記開口を封止する封口部材」に相当する。
オ 引用発明は「樹脂モールド層は封口材の外面を含む位置に形成されている」から、引用発明の「樹脂モールド層」は、本願発明の「前記封口部材の外面の少なくとも一部を覆うモールド樹脂層」である点で一致する。
ただし、モールド樹脂層が、本願発明は「熱伝導率が、0.7W/mK以下である」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
カ 引用発明の「チップ形アルミ電解コンデンサ」は本願発明の「電解コンデンサ」に含まれる。
キ したがって、上記アないしカによれば、本願発明と引用発明とは、
「一対の電極を含むコンデンサ素子と、
前記一対の電極間に介在する電解液と、
前記コンデンサ素子および前記電解液を収容し、開口を有するケースと、
前記開口を封止する封口部材と、
前記封口部材の外面の少なくとも一部を覆うモールド樹脂層と、を備える、
電解コンデンサ。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は「電解液に含まれる溶媒が、グリコール化合物を含むと共に、スルホン化合物またはラクトン化合物の何れか1つを含み、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の含有割合が、30質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物および前記ラクトン化合物の含有割合が、70質量%以下であ」るのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
(相違点2)
モールド樹脂層が、本願発明は「熱伝導率が、0.7W/mK以下である」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
5 相違点の判断
(1)相違点1について
原査定に引用された引用文献3(特開2014-123685号公報)の段落【0029】、【0042】【表1】には、電解コンデンサ用電解液の溶媒を、エチレングリコール60wt%、γ-ブチロラクトン40wt%とすることが記載され、原査定に引用された引用文献5(特開昭61-182212号公報)の第2頁左下欄第14行~右下欄第12行には、電解コンデンサ用電解液の溶媒を、エチレングリコールとγ-ブチロラクトンとの重量比が30:70の混合溶媒とすることが記載されるように、電解コンデンサ用電解液の溶媒を、エチレングリコールを30質量%以上、γ-ブチロラクトンを70質量%以下とすることは、本願出願時における周知技術(以下「周知技術1」という。)である。
なお、周知技術1に関して、上記引用文献3、5の記載のほかにも、特開2013-187515号公報(以下「周知例1」という。)の段落【0057】に、電解コンデンサ用電解液の溶媒を、エチレングリコールとγ-ブチロラクトンの質量比が8:2の混合溶媒とすることが記載され、さらに特開2009-182275号公報(以下「周知例2」という。)の段落【0038】の実施例1~5に、電解コンデンサ用電解液の溶媒を、エチレングリコールとγ-ブチロラクトンの混合割合が約77.8質量%:約22.2質量%~約44.4質量%:約55.6質量%の混合溶媒とすること(段落【0038】【表1】の実施例1~5には、「エチレングリコール」と「γ-ブチロラクトン」の混合割合が「70.0」「質量%」:「20.0」「質量%」~「40.0」「質量%」:「50.0」「質量%」であり、「溶質」が「10.0」「質量%」含まれる「電解液組成」が記載されており、溶質を除いたエチレングリコールとγ-ブチロラクトンの混合割合を計算すると、約77.8質量%:約22.2質量%~約44.4質量%:約55.6質量%となる。)が記載されている。
そして、引用発明と周知技術1とは、電解液を用いた電解コンデンサに関する点で共通の技術分野に属するものであり、引用発明において周知技術1を採用し、相違点1に係る構成の電解液とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2)相違点2について
原査定に引用された引用文献4(特開2016-63186号公報)の段落【0030】、【0038】に、電解コンデンサの封口体をエポキシ樹脂でモールドすることが記載されるように、電解コンデンサにおいて、封止部材をエポキシ樹脂でモールドすることは、本願出願時における周知技術(以下「周知技術2」という。)である。
なお、周知技術2に関して、上記引用文献4のほかにも、特開2001-232722号公報(以下「周知例3」という。)の段落【0003】~【0005】に、電解コンデンサの封口体の上部にエポキシ樹脂を注型することが記載され、さらに特開平8-78287号公報(以下「周知例4」という。)の段落【0029】~【0031】に、電解コンデンサの封止体における表出面にエポキシ樹脂を流し込み且つ硬化させてエポキシ樹脂膜を形成することが記載されている。
そして、引用発明と周知技術2とは、封止部材を樹脂でモールドした電解コンデンサに関する点で共通の技術分野に属するものであり、引用発明において引用文献4、及び周知例3ないし4に例示される周知技術2を採用し、モールド樹脂層をエポキシ樹脂で構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
ここで、以下の周知例5の「プラスチックの熱伝導率」の表には「エポキシ樹脂」の「熱伝導率【W/m・K】」は「0.15から0.21」であることが記載され、また以下の周知例6の第30頁第2~3行には「一般にエポキシ樹脂の熱伝導率は0.15~0.25W/mK」であることが記載されるように、エポキシ樹脂の熱伝導率が0.7W/mK以下であることは技術常識であると認められるから、エポキシ樹脂から構成されるモールド樹脂層の熱伝導率が、本願発明の「0.7W/mK以下」に含まれることは明らかである。
したがって、相違点2に係る構成は、引用発明、及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
周知例5 プラスチックの熱伝導率の一覧、ダイヤモンドホイール・ダイ
ヤモンド砥石・CBN工具・CBN砥石と研削研磨の情報の総合情報サイト、[
online]、2013年5月14日、[2023年12月25日検索]、イ
ンターネット <URL:https://www.toishi.info/sozai/plastic/thermalc
onductivity.html>
周知例6 松本 一高、外1名、7 高熱伝導性エポキシ樹脂成形材料、
討論会講演要旨、合成樹脂工業協会、1994年、44巻、第29~32
頁
(3)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、概略、相違点A、Bとして「(A)前記凹部における前記モールド樹脂層の薄肉部の平均厚さ(Tave)が、0.5mm以上4mm以下」、「(B)前記封口部材と前記モールド樹脂層との界面から、前記界面の法線方向における前記実装面までの最大距離(Tmax)が、1.0mm以上4.5mm以下」を挙げ(審判請求書第5頁第9~13行)、「溶媒組成を制御し、更に、Tave、Tmaxまで詳細に検討することにより、電解液成分の蒸散を抑制しつつ、低ESRを達成することができる構成を見出した本願発明は、引用文献1~6に対して進歩性を有するもの」である(審判請求書第6頁第19~22行)旨主張する。
しかしながら、令和4年11月1日付け手続補正は上記第2の[補正の却下の決定の結論]のとおり却下されており、本願の請求項1に係る発明は上記相違点A、Bに係る構成を含まないから、請求人の上記主張は採用することができない。
また、請求人は、令和4年3月22日付け意見書において、「封口部材を熱伝導率が0.7W/mK以下のモールド樹脂層により覆った場合に、電解液の熱伝導性を考慮してグリコール化合物の含有量を本願補正後の請求項1に記載の範囲とすることについては記載も示唆もしていません。さらには、封口部材を熱伝導率が0.7W/mK以下のモールド樹脂層により覆った場合に、電解液の溶媒として、スルホン化合物またはラクトン化合物の少なくとも何れか1つを含有させ、その割合を70質量%以下とするは記載も示唆もしていません。」と主張している(第3頁第9~14行)。
しかしながら、モールド樹脂層の「熱伝導率が、0.7W/mK以下である」であること、及び「電解液に含まれる溶媒が、グリコール化合物を含むと共に、スルホン化合物またはラクトン化合物の何れか1つを含み、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の含有割合が、30質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物および前記ラクトン化合物の含有割合が、70質量%以下であ」ることは、それぞれ、上記(2)、(1)で述べたとおり、引用発明において周知技術を採用して当業者が容易に想到し得たことである。また、モールド樹脂層の「熱伝導率が、0.7W/mK以下である」であること、及び「電解液に含まれる溶媒が、グリコール化合物を含むと共に、スルホン化合物またはラクトン化合物の何れか1つを含み、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の含有割合が、30質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物および前記ラクトン化合物の含有割合が、70質量%以下であ」ることを兼ね備えることによって格別な効果が生じるものとも認められない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
6 まとめ
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
上記のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-017541