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特許拒絶査定不服審判

2022-016191

トリチウム水含有汚染水の処理方法

審判番号
2022-016191
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-119033外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年10月11日
審決日
2024年01月22日
公報発行日
2024年04月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .536-WZ (G21F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-119033「トリチウム水含有汚染水の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月 7日出願公開、特開2019- 35735〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成30年6月22日(優先権主張 平成29年8月21日)の出願であって、その手続の経緯の概要は次のとおりである。 令和 4年 4月25日付け:拒絶理由通知書 同年 6月 7日 :意見書、手続補正書の提出 同年 8月 2日付け:拒絶査定 ( 同月 9日 :原査定の謄本の送達) 同年10月11日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 5年 9月 7日付け:拒絶理由通知書 (以下「当審拒絶理由通知書」という。) 同年 11月 8日 :意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1~3に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、令和5年11月8日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の請求項1~3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1の記載は、次のとおりのものである。 「トリチウム水含有汚染水を吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマー又は含水吸水性ポリマーを含む水相とすること、含水吸水性ポリマー中に、グルコースが吸水性ポリマー1重量部に対し密度1.18g/mlの糖質溶液として10~1000重量部の範囲で存在すること、この含水吸水性ポリマー又は水相の水分を20~60℃で吸水量の50%以上を蒸発させてグルコースの少なくとも一部が析出して生ずる析出物を含むグルコースが濃縮された半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーとすること、半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーを更に蒸発処理に付して、水分濃度を減少させると共に、水分中のトリチウム濃度を減少させること、及び蒸発処理された半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーを容器に保管することを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法。」 第3 当審拒絶理由通知書における拒絶の理由 当審拒絶理由通知書で通知した、本件補正前の請求項1~4に係る発明に対する拒絶の理由の概要は、以下の理由を含むものである。 理由3.(実施可能要件)本件出願は、発明の詳細な説明が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 請求項1では、「水分中のトリチウム濃度を減少させる」こと(以下、「本件トリチウム濃度減少」という。)が発明特定事項とされているところ、発明の詳細な説明には本件トリチウム濃度減少を伴うトリチウム水含有汚染水の処理方法を当業者が実施できる程度に開示されているものとは認められない。 第4 当審の判断 1 当審の判断の概要 当審は、以下のとおり、当業者といえども、本件トリチウム濃度減少を伴うトリチウム水含有汚染水の処理方法を、本願の発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと判断する。 2 本願明細書等の記載事項 本件補正後の明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)には、第一の態様、第二の態様及び第三の態様に関して、以下の記載がある(下線は当合議体が付した。)。 (1) 第一の態様についての記載事項 ア 「【0009】 本発明は、トリチウム水含有汚染水を、吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマーとすること、含水吸水性ポリマーの水分を80℃以下の低温で吸水量の50%以上を蒸発又は留出させて水分中のトリチウム水を吸水性ポリマー中に濃縮して濃縮含水吸水性ポリマーとすること、トリチウム水が濃縮された濃縮含水吸水性ポリマーを容器に保管することを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法である。」 イ 「【発明の効果】 【0015】 本発明によれば、トリチウム水含有汚染水の容量を大幅に減量できる。蒸発又は留出は、80℃以下の低温、好ましくは雰囲気温度に近い温度で行うので、100℃での蒸留に比べて、蒸気圧比(分離性能)が格段に向上し、更に吸水性ポリマーは先行文献に開示されたシリカゲルビーズと同等以上の分離性能向上効果を示すので、気体として排出される水蒸気中のトリチウム水の濃度を大幅に低減することが可能となる。この結果、気体として排出される水蒸気中のトリチウム水の濃度を規制値以下とすることが容易にできる。また、トリチウム水が濃縮された水を吸水した吸水性ポリマーは、吸水により膨張した体積から大幅に減量できる上、固体のゲル状を示すので安全に保管可能となる。」 ウ 「【発明を実施するための形態】 【0019】 以下、本発明を説明する。 本発明は、トリチウム水含有汚染水を吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマーとすること、含水吸水性ポリマーの水分を80℃以下の低温で吸水量の50%以上を蒸発又は留出させて水分中のトリチウム水を吸水性ポリマー中に濃縮して濃縮含水吸水性ポリマーとすること、及びトリチウム水が濃縮された濃縮含水吸水性ポリマーを容器に保管することを要件として有する。 【0020】 トリチウム水含有汚染水は、規制値以上のトリチウム水を含むものが適するが、あまりに高濃度であると、排出されるガス又は留出水の濃度を安全な程度に下げることが困難となるので、規制値の100倍程度以下にあることが好ましい。したがって、あまりに高濃度である場合は、淡水等で希釈することがよい。また、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のイオンは、吸水性ポリマーの吸水性能を妨害し、低下させるので、これらの妨害イオンを事前に除去することがよい。ここで、トリチウム水の濃度は、Bq/Lで管理することが望ましく、規制値は排水の場合は6万Bq/L以下であり、排ガスの場合は5Bq/L以下である。」 エ 「【0024】 トリチウム水含有汚染水を吸水した含水吸水性ポリマーは、次に蒸発又は蒸留処理により、吸水量の50%以上を蒸発又は留出させる。この処理は、含水吸水性ポリマーの水分の一部を除去して乾燥する処理であるので、乾燥処理という。ここで、乾燥処理は、80℃以下、好ましくは60℃以下で行う。下限の温度は水が液体を保持する0℃以上とすることがよいが、雰囲気温度以上で行えば、冷却操作が不要となる。また、雰囲気温度付近で行えば、加熱を最小限とすることも可能である。このような観点から、好ましくは、10~60℃、より好ましくは15~40℃で行う。この温度を80℃以下の低温とすることにより、蒸気圧比P(H2O)/P(HTO)を高くすることが可能となる。例えば、100℃でのP(H2O)/P(HTO)は、760/739であるが、80℃では355/341となり、20℃では24/22となる。なお、吸水性ポリマーは低温となると、そして乾燥が進むと、周囲の水分を吸水する特性があるので、吸水性ポリマーの種類や雰囲気の湿度にもよるが、乾燥処理の後半では温度を30℃以上とすることがよい。 【0025】 また、前記したようにシリカゲルビーズを使用すると、比揮発度が向上するという現象があるが、吸水性ポリマーの場合はそれを上回る効果が期待できる。これは、汚染水を吸水した含水吸水性ポリマーがゲル化した固体であること、固体中の水分を低温でゆっくり蒸発又は留出させることにより、無限段数の連続蒸留に近い環境がもたらせること、そして吸水性ポリマー自体が水素を多量に含む化合物であるため、汚染水中のトリチウムと吸水性ポリマーの水素が置換する反応が生じることによるものと考えられる。低温にする効果と含水吸水性ポリマーとすることによる効果の相乗効果により、排出される気体又は排水のトリチウム水濃度を大きく低下させることができる。」 オ 「【0027】 蒸発により乾燥処理を行う場合は、低温で大気に晒しながらゆっくり蒸発させる方法があるが、大量に処理する場合は、空気のような流通ガスを流しながら蒸発させることがよい。このようにガスを流しながら蒸発させると、排ガス中の水分が十分に希釈され、上記規制値を満足させることが容易となる。別の観点からは、上記規制値を満足させるような温度と流通ガス量とすることがよい。流通ガスを流しながら行う場合は、含水吸水性ポリマーを穴あきの容器や袋に入れて行うことがよい。 また、乾燥が進むと含水吸水性ポリマー中の水分のトリチウム水濃度が高まるので、温度を徐々に低くするか、流通ガス量を多くして排ガス中のトリチウム水濃度を一定値以下に保つことが望ましい。そして、乾燥温度を雰囲気温度より高くする場合は、原発設備の運転又は事故処理で発生する比較的低温の廃熱を有効利用することが可能である。また、流通ガスの湿度を上げることは乾燥を促進するために有効であり、この場合も原発設備の廃熱又は排ガスが使用可能である。乾燥処理時間は、含水吸水性ポリマーの表面積にもよるが1日以上であることがよく、5~15日程度が好ましい。 また、太陽光を利用する自然乾燥法であれば、加熱手段や冷却手段を大幅に簡素化できる利点がある。この場合は、太陽光を取り入れる窓がある屋内や屋外において、上部が開放された容器や袋に含水吸水性ポリマーを入れて、日光が当たるようにして、又は温室効果により温度を上げた屋内として、保存するだけで乾燥を行わせることができる。この乾燥法は、処理時間が長くなり、所定の湿度管理や排ガス管理が必要ではあるが、強制的に乾燥させる場合に比べて、乾燥処理コストが大幅に低減できる。必要であれば、屋内の換気に加熱された空気等を使用することもできる。 【0028】 留出により乾燥処理を行う場合は、蒸留装置のような装置を使用してもよく、上記蒸発に使用するような装置を使用してもよい。いずれにしても、発生又は排出されるガスの少なくとも一部は、冷却されて留出し、排水となる。この排水が規制値を満足しない場合は、再度本発明の処理に付すことができる。 乾燥処理は、トリチウム水含有汚染水を吸水させた初期の含水吸水性ポリマーに含まれる水分の80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95~99%が除去されるまで行うことがよい。これ以上を除去しようとすると、排ガス中又は排水中のトリチウム水濃度が高いものとなる。一方、水分除去率が低いと残る含水吸水性ポリマーの体積が増えて保管量が増えることになる。吸水性ポリマーの1~2重量倍程度の水分は残すことが望ましい。 【0029】 乾燥処理がなされ、トリチウム水を吸水性ポリマー中に濃縮して含む濃縮含水吸水性ポリマーは、規制値を大きく超えるので、これは容器に入れて規制値以下となるまで保管することがよい。本発明では、乾燥処理によりその体積を大幅に減少させている上、全体として固体状のゲルであるので、保管が容易である。半減期から計算される十分な保管期間を経た後は、これを燃焼させて処理すれば、最終的な廃棄物量も大幅に減少する。また、乾燥処理が流通ガスを流して行われる場合は、高温や密閉装置を必要としないので、装置が簡素化できるだけでなく、流通ガスとして空気が使用可能であるので、運転コストに優れる。更に、排ガス中のトリチウム水濃度は温度又は流通ガス量を変化させることにより容易に制御可能なので、安全に運転ができる。」 カ 「【0034】 以下に具体的な運転例を説明する。 例1 吸水性ポリマーとしてアクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物からなる高吸水性樹脂TAISAP-SK273(台湾塑膠工業有限公司社製)を使用し、この10gを目開き60メッシュのステンレス網製円筒状の1000mL容器に入れ、トリチウム60000Bq/Lを含有する汚染水1000gを吸水させて試料S1とする。 この試料をステンレス網製容器ごとガラス製の容器内に設置し、30℃の空気を10日間流して水分重量が1/10となるまで乾燥させる。 この時の乾燥後の試料中に含まれる水分中のトリチウムは、蒸気圧比P(H2O)/P(HTO)からのシミュレーション結果から最低でも76400Bq/L以上となるが、吸水性ポリマーによるトリチウム含有水のゲル化効果により更に大きな値が期待できる。よって、トリチウム含有汚染水を、高度に減容化できる。 他方、乾燥により排気中に含まれるトリチウム濃度はシミュレーション結果から、その最大値が0.0016Bq/cm3以下となり、トリチウムの大気中排出基準0.005Bq/cm3以下を満たしている。 【0035】 例2 例1で使用したと同様の試料S1を用い、この試料をステンレス網製容器ごとガラス製の容器内に設置し、50℃の空気を5日間流して水分重量が1/10となるまで乾燥させる。 この時の乾燥後の試料中に含まれる水分中のトリチウムは、同様にシミュレーション結果から最低でも69700Bq/L以上となるが、吸水性ポリマーの効果により、更に大きな値が期待できる。よって、トリチウム含有汚染水を、高度に減容化できる。 他方、排気中に含まれるトリチウム濃度のシミュレーション結果から、その最大値が0.0044Bq/cm3以下となり、トリチウムの大気中排出基準を満たしている。なお、この条件下で乾燥温度が52.8℃以上となると、排気中に含まれるトリチウム濃度の最大値が大気中排出基準値の0.005Bq/cm3以上に達する可能性があるため、注意が必要である。 【0036】 例3 例1と同様の試料S1をステンレス製トレイ上に設置し、室内のドラフト内に15日間放置して水分重量が1/10となるまで乾燥させる。この時の温度、湿度は雰囲気条件(室温約25℃)とする。乾燥後の試料中に含まれる水分中のトリチウム濃度のシミュレーション結果は76500Bq/L以上であり、トリチウム含有汚染水を、高度に減容化できる。 他方、周囲の空気中に含まれるトリチウム濃度の最大値は0.0012Bq/cm3以下であり、トリチウムの大気中排出基準を満たしている。」 (2) 第二の態様及び第三の態様についての記載事項 ア 「【0010】 本発明の第二の態様は、トリチウム水含有汚染水を吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマー又は含水吸水性ポリマーを含む水相とすること、この含水吸水性ポリマー又は水相の水分を80℃以下の低温で吸水量の50%以上を蒸発又は留出させて半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーとすること、半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーを容器に保管することを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法である。 【0011】 上記トリチウム水含有汚染水を吸水性ポリマーに吸水させて含水吸水性ポリマーとする際に非電界質の水溶性の糖質を存在させることなどして、含水吸水性ポリマー中に上記糖質を存在させることが望ましい。また、半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーを更に蒸発処理に付して、水分濃度を減少させると共に、水分中のトリチウム濃度を減少させることが望ましい。 【0012】 上記蒸発又は留出は、雰囲気温度以上、好ましくは20~60℃で行うことができる。また、吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系のポリマーが使用できる。そして、吸水性ポリマーの10~1000重量倍の水を吸水させて、吸水量の90~99%を蒸発又は留出させることにより、大幅な減量化が達成可能となる。 【0013】 本発明の第三の態様は、密閉空間において、トリチウム水含有汚染水に非電界質の水溶性の糖質を溶解させた後、糖質を結晶化させて、糖質中にトリチウムを取り込むことを特徴とするトリチウム水含有汚染水の処理方法である。」 イ 「【0016】 また、本発明の第二の態様によれば、吸水性ポリマーを加えることによって、水分が濃縮され半固形状態となったとき、表面積が増大して蒸発速度を向上させることができる。また、空気中の水分との同位体交換を促進し、吸水性ポリマーに吸水されたトリチウム水中のトリチウム量の減少を促進することができる。更に、これに非電解質の糖分を加えることによって、濃縮されるにつれて結晶化が生じて吸水性ポリマーの表面積をより増大させて上記効果を更に向上させることができる。 【0017】 本発明の第三の態様によれば、糖質を結晶化させることにより、糖質中又は結晶水中に効率良くトリチウムを取り込むことができる。 本発明の第四の態様によれば、密閉空間において、トリチウム水含有汚染水と吸水性ポリマーを離間配置することで、トリチウム水を吸水性ポリマーに移動させることが可能となる。」 ウ 「【0030】 本発明の第二の態様において、上記乾燥処理は上記と同様に行うことができるが、空気中の水蒸気との同位体交換反応を進めるためには、常温付近において行うことが有利である。乾燥処理が進行すると含水吸水性ポリマー又はこれを含む水相の流動性が徐々に減少し、含水吸水性ポリマー相からなる半固形状となるが、この場合、通常の液状の水溶液に比べて表面積を著しく増大させることができる。吸水性ポリマーの最大吸水率以下の水分量となると純粋な水相は消失し、全体として半固形状となり、更に水分量を減少させると流動性が低下し、吸水性ポリマーの1重量倍程度以下の水分量となるとほぼ固形状となるので、吸水性ポリマー最大吸水率の10~90%程度の半固体状となるように乾燥処理することがよい。 【0031】 半固体状になった後においても、乾燥処理することが有利である。この場合、吸水性ポリマーが存在するため、表面積が増大し、常温付近においても蒸発が促進され、空気中の水分との同位体交換反応が増加し、最終的に得られる半固形状の濃縮含水吸水性ポリマーに含まれる汚染水中のトリチウム濃度を減少させることができる。 そして、吸水性ポリマー又はこれを含む水相中に糖質が存在する場合は、乾燥が進むとこれが結晶として析出して、表面積を更に増大させて乾燥と同位体交換反応が増加する。 【0032】 本発明の第三の態様においては、トリチウム水含有汚染水に、非電界質の水溶性の糖質を溶解させた後、糖質を結晶化させて、糖質中にトリチウムを取り込み濃縮すると同時に、トリチウム水含有汚染水中のトリチウム水濃度を低下させる。これは、糖質とトリチウム水が接触して糖質の水素との同位体交換と、結晶化した糖質の結晶水として含まれる水分としてのトリチウム水の取り込みが生じることによるものと推測される。なお、水溶性の糖質としては、グルコース以外にアラビノース、水溶性デンプン等に同様な取り込みが認められるが、セルロース等の水に不溶の糖類はトリチウムの取り込みがほとんど認められない。」 エ 「【0037】 実施例4 トリチウム水原液(Perkinelmer HTO 37MBq/mL)を使用して、各種の試料を作成した。 試料として、約O.6kBq/mLのトリチウムを含む純水10mL(試料S4A)と、トリチウムを約O.6kBq/mLのトリチウムを含む純水10mLに吸水ポリマー(三洋化成工業社製:サンフレッシュST-500D)O.1gを加えたもの(試料S4B)と、約0.5kBq/gのトリチウムを含むグルコース(富士フイルム和光純薬社製:特級試薬)水溶液10mL(濃度0.18g/mL)に吸水ポリマーO.1gを加えたもの(試料S4C)を用意した。 これらの試料S4A、S4B、S4Cを、同一の試料について各8本の液体シンチレーションカウンタ測定用の20mLガラスバイヤル瓶(直径2.4cm、高さ4.5cm、開口部直径1.5cm)に入れた。試料を入れたバイヤル瓶を、ドラフト中に放置して常温で自然蒸発、乾燥させた。1~4日ごとに、そのうち1本づつの重量を測定して、トリチウムを含まない超純水を加えて蒸発分を補った上で液体シンチレーター(Aquasol-2)10mLを加えて、液体シンチレーシ ョンカウンタ(PerkinElmer,Tri-Carb)で各試料を5分間測定した。各試料の放射能をトリチウム既知の試料と比較して定量することにより、トリチウム量(T量:Bq)の経時変化を求めた。 【0038】 結果を表1、及び図1~3に示す。各試料S4A、S4B、S4Cの乾燥速度は、ほとんど差がない(図3)が、トリチウム濃度の減少速度については吸水ポリマーとグルコースを加えた試料S4Cでは、劇的に増大した(図2)。また、吸水ポリマーとグルコースを加えた試料S4Cは、濃縮による乾燥残留物中のトリチウム濃度の上昇が認められなくなる(図1)。 表1において、試料重量(g)は、トリチウム含有水、吸水ポリマー及びグルコースの合計量であり、バイヤル瓶中に残った試料(乾燥残留物)の重量である。トリチウム濃度(T濃度:Bq/g)は、次式で計算したものであり、トリチウム量の測定にあたり超純水を加えて蒸発分を補っていることから、初期試料重量基準に換算した値である。 トリチウム濃度(Bq/g)=トリチウム量(Bq)/試料重量(g)×初期試料重量(g)/試料重量(g) ここで、トリチウム量(Bq)/試料重量(g)をT1(Bq/g)とし、初期試料重量(g)/試料重量(g)をkとすれば、上記式は、下記式で表される。 トリチウム濃度(Bq/g)=T1(Bq/g)×k」 オ 「【0039】 [図:0001408486000001.jpg] 」 カ 「 [図:0001408486000002.jpg] [図:0001408486000003.jpg] 」 キ 「【0040】 実施例5 トリチウムを0.4kBq/g含むグルコース水溶液10mL(濃度0.18g/mL)(試料S5A)、トリチウムを0.3kBq/mL含むグルコース水溶液10mL(濃度0.09g/mL)に吸水ポリマー0.1gを加えたもの(試料S5B)、トリチウムを0.4kBq/mL含むグルコース水溶液10mL(濃度0.18g/mL)に吸水ポリマー0.1gを加えたもの(試料S5C)、トリチウムを0.3kBq/mL含むグルコース水溶液10mL(濃度0.27g/mL)に吸水ポリマー0.1gを加えたもの(試料S5D)、トリチウムを0.3kBq/mL含むグルコース水溶液10mL(濃度0.36g/mL)に吸水ポリマー0.1gを加えたもの(試料S5E)を用いた。 これらの試料を、実施例4と同様に各8本の20mLガラスバイヤル瓶に入れ、ドラフト中に放置して常温で自然蒸発、乾燥させた。1~5 日ごとに、実施例4と同様にして重量測定、 及び液体シンチレーションカウンタによる測定を行った。 【0041】 結果を表2、及び図4~6に示す。 グルコースと吸水ポリマーを加えた試料S5B、S5C、S5D、S5Eは、多少の例外はあるが、28日後の乾燥残留物中のトリチウム濃度の減少が認められる(図4)。また、乾燥残留物中のトリチウム濃度が乾燥時の選択濃縮作用により一旦上昇し、その後低下する(図5)。また、試料S5C、S5Dは、乾燥残留物中のトリチウム濃度が大幅に減少している。また、いずれもトリチウム量は大きく減少している(図6)。」 ク 「【0042】 [図:0001408486000004.jpg] 」 ケ 「 [図:0001408486000005.jpg] [図:0001408486000006.jpg] 」 コ 「【0043】 実施例6 試料S6として、蓋付きガラス密閉容器中で、トリチウム濃度が0.6kBq/mLになるように調整したトリチウム水100mLを98℃に加熱し、グルコース103gを加えてグルコースの飽和溶液を作成した。これをドラフト内で、密閉した状態で約1ヶ月間、室温(10~20℃)で放置した。 ガラス密閉容器中で十分な量のグルコースの結晶が生成したことが確認された。その中の溶液部分 0.5mL(0.955g)および結晶部分1.45gを分取した。溶液部分はそのまま液体シンチレータ10mLを加え、また、結晶部分は5mLのトリチウムを含有しない純水に溶解させた後、液体シンチレータ10mLを加え、液体シンチレーションカウンタで測定した。 トリチウムを含むグルコース飽和溶液のトリチウム濃度(Bq/g)は、溶液部分が131Bq/g、結晶部分が249Bq/gで、トリチウム濃度の比(結晶/溶液)は、1.90となった。グルコース結晶中のトリチウム濃度が溶液中よりも1.9倍高いのは、グルコース結晶中の水素原子とHTO中のトリチウム原子が優先的に同位体交換を起こしたためであると考えられる。 3 当審の判断の詳細な説明 (1) 「トリチウム濃度」の定義について ア 本願発明の「トリチウム濃度」は、本願明細書等の【0038】におけるトリチウム濃度の式で定義されるものであると認められるところ、当該式におけるトリチウム濃度(以下「本件トリチウム濃度」という。)は、「初期試料重量基準に換算した値」であるとされているが、初期試料重量基準に換算した値であるとされている本件トリチウム濃度が何を表しているのか、以下に示す理由により理解できない。 すなわち、本願明細書等の【0038】には、本件トリチウム濃度について、次のとおり記載されている。 「トリチウム濃度(Bq/g)=トリチウム量(Bq)/試料重量(g)×初期試料重量(g)/試料重量(g) ここで、トリチウム量(Bq)/試料重量(g)をT1(Bq/g)とし、初期試料重量(g)/試料重量(g)をkとすれば、上記式は、下記式で表される。 トリチウム濃度(Bq/g)=T1(Bq/g)×k」 しかしながら、試料における単位質量あたりのトリチウム濃度(以下「通常のトリチウム濃度」という。)は、トリチウム濃度(Bq/g)=トリチウム量(Bq)/試料重量(g)であり、この通常のトリチウム濃度に初期試料重量(g)/試料重量(g)をかけた本件トリチウム濃度は、もはやトリチウム濃度を表す値になっておらず、通常の意味におけるトリチウム濃度とはいえない。このことは、例えば試料重量(g)が初期試料重量(g)の半分になると、通常のトリチウム濃度が不変であっても、本件トリチウム濃度は2倍になることからも明らかである。 イ 審判請求人の主張について (ア) 審判請求人の主張内容 審判請求人は以下の旨主張している。 a トリチウム濃度の定義については、単位質量(又は容積)当たりのベクレル量で表されることは当業者に周知であり、本明細書においても、全体としてトリチウム濃度はそのような意味で使用している(例えば、実施例6、実施例7、例1~3及び本願明細書等の【0020】)。 しかし、実施例4及び5については、測定用の試料に超純水を加えて、希釈をしてから測定しているためその補正係数を乗じたものであるため、特別に本願明細書等の【0038】に計算式を示してその計算式で算出される値としたものであり、実施例4及び5の表1及び2にだけに適用される。そして、実施例4及び5に関する表1及び2においては、トリチウム濃度(Bq/g)を明細書に記載の計算式のとおり、初期試料重量に換算した数値としており、この数値は、試料の乾燥による重量変化分を加味したトリチウム濃度(Bq/g)を示していると理解される。 したがって、本願明細書中では、実施例4及び5の表1及び2以外の記載でのトリチウム濃度については、上記一般的な意味で使用している。 b 通常のトリチウム濃度のトリチウム量(Bq)/試料重量(g)をT1(Bq/g)とし、初期試料重量(g)/試料重量(g)をkとすれば、本件トリチウム濃度T(Bq/g)=通常のトリチウム濃度T1(Bq/g)×kで表される。kは希釈率(又は濃縮率の逆数)に関係する係数と言える。 表1及び2に記載のT量(Bq)と試料重量(g)から計算される通常のトリチウム濃度T1(Bq/g)を、そのまま試料のトリチウム濃度(Bq/g)量と解すると説明困難な結果となることは、以下に示すとおり、トリチウム濃度T1(Bq/g)を併記した下記の表1の数字からも理解できる。 【表1】 [図:0001408486000007.jpg] 試料S4Aは、トリチウム水を水で希釈しただけの試料であるので、ポリマーやグルコースを含まないから、蒸発に関しては単純なトリチウム水液と同様な挙動を示すはずである。そして、単純なトリチウム水液であれば、沸点の高いトリチウム水が濃縮されるので、蒸発が進むにつれ、又は日数の経過とともに通常のトリチウム濃度T1(Bq/g)は増えるはずであり、減ることは技術常識として考えにくいことと言える。 表1の試料S4AのT量については、減少が認められるが、その程度については、T量を試料重量で除した数値である通常のトリチウム濃度T1(Bq/g)を参照することが有効であると言える。試料S4Aの通常のトリチウム濃度T1(Bq/g)を参照すると、多少のバラツキがあるが全体的に減少していることが分かる。これは、残存トリチウム水液中のトリチウム量が減少したことを示しており、一般的なトリチウム水液の挙動とは異なり、説明困難な数値と言える。 そして、T1に上記係数kを乗じたT濃度(Bq/g)は一般的なトリチウム水液の挙動と同じように、多少のバラツキがあるが全体的に増加しており、その数値も蒸気圧比(H2O/HTO)から予測される数値(理論値)に近く、技術常識的にも納得できる数値であることが分かる。 c T1は、トリチウム量/試料重量で表され、試料中のトリチウム濃度であるから、本発明の効果を示す指標としても有効である。TとT1は、T=T1×kという比例関係にあるので、Tの数値からも本発明の効果を評価することができる。すなわち、T又はT1値が小さいほど効果が優れる(トリチウム濃度の減少が大きい)と言える。 そして、表1及び2中にはトリチウム量と試料重量が記載されているので、通常のトリチウム濃度T1は自動的に算出できると言え、表1及び2中には、通常のトリチウム濃度T1が実質的に記載されていると言える。S4A、S4B及びS4CのT1の変化をみると、減少率は、S4Cは、S4A及びS4Bよりも、顕著に優れることが分かる。 したがって、上記計算式で得られたT濃度を参照しなくとも、本発明の効果は表1及び表2に記載の数値から明らかである。 (イ) 審判請求人の主張についての検討 a (ア)aについて 審判請求人の主張は要するに、本願発明の「トリチウム濃度」は、本件トリチウム濃度ではなく、通常のトリチウム濃度であるというものと解されるが、以下に示すとおり失当である。 すなわち、本願明細書等で本願発明の効果を裏付ける実施例は実施例4及び5であるところ、これらの実施例の結果としてトリチウム濃度を示す図1、4及び5は、表1及び2で示されるT濃度、すなわち、本件トリチウム濃度に基づくものである。そして、本願発明の効果について説明する【0038】及び【0041】の記載も、本件トリチウム濃度を示す図1、4及び5から読み取ったものである。 このように、本願明細書等には、本願発明の効果が本件トリチウム濃度に基づいて記載されているのであるから、本願発明の「トリチウム濃度」が本件トリチウム濃度を意味せず、通常のトリチウム濃度を意味すると解することは到底できない。 なお、「試料の乾燥による重量変化分を加味したトリチウム濃度(Bq/g)」についてもトリチウム濃度を表す値となっていないことは、上記アで本件トリチウム濃度について検討したのと同様である。 b (ア)bについて 審判請求人の主張は、本願発明の「トリチウム濃度」が本件トリチウム濃度と通常のトリチウム濃度のどちらを意味することを主張しているのか判然としないが、通常のトリチウム濃度と解しては表1、2の説明が困難であり、本件トリチウム濃度と解すれば技術常識的にも納得できるから、本願発明の「トリチウム濃度」は本件トリチウム濃度である、との主張であるとすると、以下のとおり失当である。 まず、審判請求人の本願発明の「トリチウム濃度」が本件トリチウム濃度であるとの主張は、上記(ア)aの主張と矛盾しており、主張内容が判然としない。 次に、技術常識に整合するとされる通常のトリチウム濃度に係数kを乗じた本件トリチウム濃度が通常の意味における濃度を表す値となっていないことは、上記アで説示したとおりである。 よって、いずれにしても審判請求人の主張は採用できない。 c (ア)cについて 審判請求人の主張は要するに、本願発明の「トリチウム濃度」を、発明の詳細な説明に記載されている本件トリチウム濃度ではなく、通常の意味のトリチウム濃度と解しても、本願発明の効果は発明の詳細な説明の記載から明らかというものであるが、以下に示すとおり失当である。 上記aで説示したように、本願発明の効果は本件トリチウム濃度に基づいて記載されているところ、本件トリチウム濃度Tが減少することと、通常のトリチウム濃度T1が減少することは必ずしも対応しない。すなわち、審判請求人は、T=T1×kという比例関係にあるからT又はT1が小さいことは等価であるかのように説明するが、kは蒸発の進行に応じて変化する値であって定数ではないし、この結果、すでに説示したとおり、例えば試料重量(g)が初期試料重量(g)の半分になると、通常のトリチウム濃度が不変であっても、本件トリチウム濃度は2倍になる。したがって、本件トリチウム濃度に基づく発明の詳細な説明が、通常のトリチウム濃度についても妥当するとは到底いえない。 d 以上のとおり、審判請求人の上記(ア)a~cの主張は、上記アの判断を左右するものではない。 (2) トリチウム濃度の減少について 次のアで示す本願出願時の技術常識を考慮すると、本願の発明の詳細な説明は、どのようにして本件トリチウム濃度減少を実施できるのか、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない ア 本願出願時の技術常識について 軽水(H2O)はトリチウム水(HTO)より蒸気圧が高いことは、本願の発明の詳細な説明の【0024】にも記載されているとおり技術常識である。そうすると、トリチウム水含有汚染水を吸水性ポリマーに吸水させた含水吸水性ポリマーの水分を蒸発させると、軽水(H2O)がトリチウム水(HTO)より多く蒸発することにより、含水吸水性ポリマー中にトリチウム水が濃縮され、含水吸水性ポリマーの水分中のトリチウム水濃度が高まると考えられる。このことは、本願の発明の詳細な説明における第一の態様として開示されているとおりである(【0009】、【0015】、【0019】、【0025】、【0027】、【0029】及び【0034】~【0036】)。 イ 実施例4及び実施例5についての検討 (ア) 本件トリチウム濃度減少に対応する実施例は、実施例4のS4C、実施例5のS5B~S5Cであると解されるから、実施例4及び実施例5について検討する。 まず、上記(1)で説示したように、本願発明における「トリチウム濃度」は本件トリチウム濃度を意味すると解するほかないが、上記アで示した技術常識との関係を検討するために、実施例4及び5の通常のトリチウム濃度(トリチウム量(Bq)/試料重量(g))について検討する。 ここで、本件トリチウム濃度と通常のトリチウム濃度の関係は、本件トリチウム濃度をT、通常のトリチウム濃度をT1とすると、T=T1×初期試料重量/試料重量である(【0038】)。そして、本願発明の蒸発処理においては、初期試料重量/試料重量は常に1より大きいから、本件トリチウム濃度減少を実施するためには、通常のトリチウム濃度を減少させる必要がある。 (イ) 実施例4に記載のS4Aはトリチウムを含む純水であり、S4Bは、トリチウムを含む純水に吸水ポリマーを加えたものであり、S4Cは、トリチウムを含むグルコースに吸水ポリマーを加えたものである。 ここで、実施例4に対応する表1に記載の試料重量とT量をもとにT1を計算すると、S4Aは、0日目623.7(Bq/g)が、26日目408.5(Bq/g)、S4Bは、0日目617.5(Bq/g)は、26日目360.1(Bq/g)、S4Cは、0日目432.4(Bq/g)は、26日目115.6(Bq/g)となり、いずれも試料中のT1は減少している。 また、実施例5に対応する表2についても同様にT1を計算すると、試料中のT1はいずれも減少している。 参考までに、意見書に記載された、T1が追加された【表1】を摘記する。 [図:0001408486000008.jpg] (ウ) 上記(イ)のとおり、S4Aは、トリチウムを含む純水であるところ、通常のトリチウム濃度T1は蒸発と共に減少している。このことは、上記アで示した技術常識に反している。 (エ) 一方、トリチウムを含む純水に吸水ポリマーを加えたS4B、本願発明に対応するトリチウムを含む純水に吸水ポリマー及びグルコースを加えたS4Cについても、通常のトリチウム濃度T1は蒸発と共に減少している。そして、発明の詳細な説明によると、吸水性ポリマーやグルコースを加えた場合にトリチウム濃度が減少するのは、トリチウム水含有汚染水のトリチウムと空気中の水蒸気中の水素、又はトリチウム水含有汚染水のトリチウムとグルコースの水素との同位体交換のためとされている(【0016】、【0030】~【0033】及び【0043】)。 しかしながら、上記(ウ)で見たように吸水性ポリマー及びグルコースを含まないS4Aにおいても通常のトリチウム濃度T1が減少していることから見て、S4B及びS4Cにおいても、吸水性ポリマー及びグルコースによらないメカニズムによるトリチウム濃度T1の減少が大きく寄与していることは明らかである。そして、このことは上記(ウ)と同様に上記アで示した技術常識に反している。 (オ) 実施例4及び5で技術常識に反して通常のトリチウム濃度T1が減少していることを説明しようとすれば、蒸発の条件が通常のトリチウム濃度T1が増加する通常の条件とは異なる条件(例えば、蒸気圧差による通常のトリチウム濃度T1の増加を同位体交換による通常のトリチウム濃度T1の減少が上回るような条件)であることが考えられる。 しかしながら、この点について発明の詳細な説明の記載を検討すると、本願発明に対応する第二の態様において、乾燥処理はトリチウムが濃縮される第一の態様と同様である旨が記載されている(【0030】)。 また、第一の態様を説明する例3では、吸水性ポリマーにトリチウムを含有する汚染水を吸水させた試料を室内のドラフト内に15日間放置して、室温約25℃で乾燥させると、試料中のトリチウムは濃縮されている(【0036】)、すなわち通常のトリチウム濃度T1が増加しているのに対し、同じくトリチウムを含む純水に吸水ポリマーを加えたS4Bでは、試料を入れたバイヤル瓶をドラフト中に放置して常温で自然蒸発、乾燥させると、通常のトリチウム濃度T1が減少している(【0037】、上記(イ)の【表1】)。 このように、両者はともに吸水性ポリマーにトリチウムを含有する汚染水を吸水させた試料を、ドラフト中で、常温で自然蒸発、乾燥させるという同様の蒸発条件であるにもかかわらず、通常のトリチウム濃度T1の増加又は減少について相反する結果になっている。そして、例3は上記アで示した技術常識に沿うものであるところ、なぜS4Bでは例3と異なり技術常識に反する結果となるのか、どのような条件の違いによりこのような結果の違いが生じるのか、発明の詳細な説明の他の記載をみても当業者は理解できない(仮に、通常のトリチウム濃度T1の減少が吸水性ポリマーの存在による同位体交換によるものであれば、例3でもトリチウム濃度は減少するはずである。)。 (カ) 仮に、例3とS4Bの通常のトリチウム濃度T1の増加又は減少の相違が他の何らかの条件の違いに起因するものであるとすると、どのような条件の違いにより例3とS4Bの結果の違いが生じているのかを当業者が理解できるような記載は本願明細書等には見当たらず、また、当該条件が当業者にとって自明であると判断する根拠もないから、本願の発明の詳細な説明の記載は、本件トリチウム濃度減少を実施するための条件の開示を欠いているものと認められる。 (キ) よって、当業者は技術的思想である本願発明を理解することができず、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 ウ 審判請求人の主張について (ア) 審判請求人の主張内容 審判請求人は以下の旨主張している。 発明の詳細な説明【0031】には、吸水性ポリマーが存在するため、表面積が増大し、常温付近においても蒸発が促進され、空気中の水分との同位体交換反応が増加し、最終的に得られる濃縮含水吸水性ポリマー中の水分のトリチウム濃度を減少させることができると記載されている。 【0031】に記載した理由の他、グルコースの添加による効果がある。グルコースを加えたトリチウム含有水にポリマーを添加してゲル状に固化すると水分の蒸発によって体積が収縮してゲルに亀裂が発生し、ポリマーが無添加の場合に比べて水分蒸発に関わる表面積が増加してトリチウム含有水の蒸発量が増加する。また、蒸発、乾燥時にポリマー中に吸収された水分(汚染水)中のトリチウム水の気相中への移行を促進し、残留固形分中に、トリチウム水を残さない効果は、固体表面上で、水蒸気と接触して同位体交換が生じるためであると推測される。グルコースは化学構造中にHを有するので、水相では容易に同位体交換反応を生じて、Tを有する化合物になると推測され、それが固体として析出すれば、固体はTを濃縮したことになるが、それが蒸発してくる水蒸気と接触した場合、そのTを水蒸気中のHと交換することにより、蒸発残渣中のTの濃度が低下することは十分に考えられる。同位体交換反応には平衡点があると考えられるが、グルコースの場合は、その平衡点がやや水蒸気側に片寄っていることとかが効果を更に高めるなどの理由も考えられる。また、同位体交換反応は、液相系での反応と、気相-固体間の反応でも、反応速度や平衡が変化する可能性があることも考えられる。 (イ) 審判請求人の主張についての検討 上記主張について検討する。 審判請求人は同位体交換反応について縷々主張するが、同位体交換反応を考慮しても、実施例4及び5の通常のトリチウム濃度の減少は技術常識に反しているか、本件トリチウム濃度減少を実施するための条件の開示を欠いていると認められることは、上記イで説示したとおりである。 よって、審判請求人の主張は採用できない。 4 小括 上記3(1)及び(2)で詳細に検討したとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 第5 むすび 以上の検討のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-016191

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