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特許拒絶査定不服審判

2022-008814

炎症性疾患及び障害の治療におけるCD32B×CD79B結合分子

審判番号
2022-008814
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-563792外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年06月08日
審決日
2025年02月17日
公報発行日
2025年08月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-563792「炎症性疾患及び障害の治療におけるCD32B×CD79B結合分子」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月14日国際公開、WO2017/214096、令和 1年 7月25日国内公表、特表2019-521103〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 13項目
理 由

第1 手続の経緯

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本願は、2017年(平成29年)6月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年6月7日、2016年12月9日、いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。

令和2年 4月28日 手続補正書の提出

令和3年 4月23日付け 拒絶理由通知書

同年10月27日 意見書及び手続補正書の提出

令和4年 2月16日付け 拒絶査定

同年 6月 8日 審判請求書及び手続補正書の提出

令和5年10月24日 当審による拒絶理由通知書

令和6年 4月25日 意見書及び手続補正書の提出

同年 6月19日 当審による拒絶理由通知書

同年12月19日 意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、令和6年12月19日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。なお、下線は補正された箇所を示す。

「【請求項1】
炎症性疾患又は状態を治療するため治療を必要とする被験者に使用される医薬組成物であって、CD32Bのエピトープ及びCD79Bのエピトープに免疫特異的に結合できるCD32B×CD79B結合分子を含み、
I.前記CD32B×CD79B結合分子は:
(A)配列番号30のアミノ酸配列を含むVLCD32Bドメイン;
続きを表示(全11行)
(B)配列番号31のアミノ酸配列を含むVHCD32Bドメイン;
(C)配列番号32のアミノ酸配列を含むVLCD79Bドメイン;及び
(D)配列番号33のアミノ酸配列を含むVHCD79Bドメイン
を含み、且つ
II.前記医薬組成物は、
(A)3mg/kgの単位投薬量、及び3週間に1用量(Q3W)の投薬レジメン;又は
(B)10mg/kgの単位投薬量、及び4週間に1用量(Q4W)の投薬レジメン;で投与される、医薬組成物。」

第3 当審拒絶理由

当審が、令和6年6月19日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、令和6年4月25日提出の手続補正書による補正前の請求項1に係る発明(以下「補正前発明1」という。)に対する拒絶理由の概要は、補正前発明1は、以下の引用文献2に記載された発明及び引用文献2~4に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献2:国際公開第2015/021089号
引用文献3:WEI Chen et al, "Development of human B-lymphocyte targeted bi-specific DART molecules for the treatment of autoimmune disorders", 2014,

<http://ir.macrogenics.com/static-files/53c3b25b-c147-4db8-8555-cfdff933440d>

引用文献4:「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」(平成4年6月29日薬新薬第43号各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知)

< https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta7179&dataType=1&pageNo=1 >

第4 引用文献に記載された事項及び引用発明

1 引用文献2の記載事項及び引用文献2に記載された発明

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(1)引用文献2の記載事項

当審拒絶理由において引用された、本願優先日前に発行された引用文献2(国際公開第2015/021089号)には、次の事項が記載されている。なお、引用文献2は英文のため、その記載事項は翻訳文で示す。翻訳文は、特表2016-527314号公報(以下「対応公表公報」という。)を参考にしたので、対応箇所も併記する(下線は当審が付したものである。以下同様。)。

・記載事項2-1(特許請求の範囲)

「請求項8
二重特異性の一価のFcダイアボディであって、前記二重特異性の一価のFcダイアボディが、CD32BのエピトープおよびCD79bのエピトープに対して特異的に結合することができ、かつIgGのFcドメインを保有し、前記二重特異性の一価のFcダイアボディが:
(1)配列番号15のアミノ酸配列を有する第一のポリペプチド鎖と;
(2)配列番号16のアミノ酸配列を有する第二のポリペプチド鎖と;および
続きを表示(全16行)
(3)配列番号17のアミノ酸配列を有する第三のポリペプチド鎖であって、前記第三のポリペプチド鎖のアミノ酸残基1~10が、ペプチド1(配列番号1)であり、前記第三のポリペプチド鎖のアミノ酸残基11~227が、IgG抗体のFc領域のCH2ドメインおよびCH3ドメイン(配列番号10)であり;
前記第一のポリペプチド鎖および前記第二のポリペプチド鎖が第一のジスルフィド結合によって互いに共有結合され、前記第一のポリペプチド鎖および前記第三のポリペプチド鎖が第二のジスルフィド結合によって互いに共有結合される、二重特異性の一価のFcダイアボディ。
請求項9
請求項1~8のいずれか1項に記載の二重特異性の一価のFcダイアボディ、および生理学的に許容され得る担体を含んでいる、薬学的組成物。
請求項10
炎症性の疾患または状態の処置における、請求項9に記載の薬学的組成物の使用。
請求項11
前記炎症性の疾患または状態が自己免疫疾患である、請求項10に記載の使用。
請求項12
前記自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデス(SLE)である、請求項10に記載の使用。
請求項13
前記炎症性の疾患または状態が移植片対宿主病(GvHD)である、請求項10に記載の使用。」

・記載事項2-2([0017]/対応公表公報【0017】)

「炎症性の疾患または状態は、身体自体の細胞および組織に対する免疫系の攻撃(すなわち、「自己免疫」応答)を反映する。異なる経路で身体に影響する多くの異なる自己免疫障害がある。例えば、脳は、多発性硬化症を有する個体で影響され、腸は、クローン病を有する個体において影響され、種々の関節の滑膜、骨および軟骨が、関節リウマチを有する個体において影響される。自己免疫障害は、1種以上の身体組織の破壊を進行させるので、臓器の異常な成長、または臓器機能の変化が生じ得る。自己免疫障害は、1つだけの臓器または組織種に影響する場合もあるし、または多数の臓器および組織に影響する場合もある。自己免疫障害によって一般に影響される臓器および組織としては、赤血球、血管、結合組織、内分泌腺(例えば、甲状腺または膵臓)、筋肉、関節および皮膚が挙げられる。自己免疫障害の例としては、限定するものではないが、橋本甲状腺炎、悪性貧血、アジソン病、1型糖尿病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、紅斑性狼瘡、多発性硬化症、自己免疫内耳疾患、重症筋無力症、ライター症候群、グレーブス病、自己免疫肝炎、家族性腺腫様ポリープ、および潰瘍性大腸炎が挙げられる。」

・記載事項2-3([0049]/対応公表公報【0045】)

「発明の詳細な説明:
本発明は、免疫グロブリンFcドメインを含む二重特異性の一価のFcダイアボディ(「二重特異性の一価のFcダイアボディ」)であって、3つのポリペプチド鎖から構成されており、かつCD32Bのエピトープに特異的な少なくとも1つの結合部位、およびCD79bのエピトープに特異的な1つの結合部位を保有する二重特異性の一価のFcダイアボディ(すなわち、「CD32B×CD79bのFcダイアボディ」)に関する。」

・記載事項2-4([0067]~[0073]/対応公表公報【0063】~【0069】)

「したがって、第一のポリペプチド鎖に好ましい配列は、N末端からC末端方向へ向かって:ペプチド1、IgGのFc領域のCH2-CH3ドメイン、リンカー1、CD32Bに結合する抗体のVLドメイン(VLCD32B)、リンカー2、CD79bに結合する抗体のVHドメイン(VHCD79b)、リンカー3、E-コイルドメイン、リンカー4およびC末端という構造を有する。このような好ましいポリペプチドのアミノ酸配列は、以下のとおりである(配列番号15)。
DKTHTCPPCP APEAAGGPSV FLFPPKPKDT LMISRTPEVT CVVVDVSHED
PEVKFNWYVD GVEVHNAKTK PREEQYNSTY RVVSVLTVLH QDWLNGKEYK
CKVSNKALPA PIEKTISKAK GQPREPQVYT LPPSREEMTK NQVSLWCLVK
続きを表示(全27行)
GFYPSDIAVE WESNGQPENN YKTTPPVLDS DGSFFLYSKL TVDKSRWQQG
NVFSCSVMHE ALHNHYTQKS LSLSPGKAPS SSPMEDIQMT QSPSSLSASV
GDRVTITCRA SQEISGYLSW LQQKPGKAPR RLIYAASTLD SGVPSRFSGS
ESGTEFTLTI SSLQPEDFAT YYCLQYFSYP LTFGGGTKVE IKGGGSGGGG
QVQLVQSGAE VKKPGASVKV SCKASGYTFT SYWMNWVRQA PGQGLEWIGM
IDPSDSETHY NQKFKDRVTM TTDTSTSTAY MELRSLRSDD TAVYYCARAM
GYWGQGTTVT VSSGGCGGGE VAALEKEVAA LEKEVAALEK EVAALEKGGG
NS
・・・
第二のポリペプチド鎖の好ましい配列は、以下のとおりである(配列番号16)。
DVVMTQSPLS LPVTLGQPAS ISCKSSQSLL DSDGKTYLNW FQQRPGQSPN
RLIYLVSKLD SGVPDRFSGS GSGTDFTLKI SRVEAEDVGV YYCWQGTHFP
LTFGGGTKLE IKGGGSGGGG EVQLVESGGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFS
DAWMDWVRQA PGKGLEWVAE IRNKAKNHAT YYAESVIGRF TISRDDAKNS
LYLQMNSLRA EDTAVYYCGA LGLDYWGQGT LVTVSSGGCG GGKVAALKEK
VAALKEKVAA LKEKVAALKE
・・・
第三のポリペプチド鎖に好ましい配列は、配列番号17である。
DKTHTCPPCP APEAAGGPSV FLFPPKPKDT LMISRTPEVT CVVVDVSHED
PEVKFNWYVD GVEVHNAKTK PREEQYNSTY RVVSVLTVLH QDWLNGKEYK
CKVSNKALPA PIEKTISKAK GQPREPQVYT LPPSREEMTK NQVSLSCAVK
GFYPSDIAVE WESNGQPENN YKTTPPVLDS DGSFFLVSKL TVDKSRWQQG
NVFSCSVMHE ALHNRYTQKS LSLSPGK」

・記載事項2-5([0096]、[0097]/対応公表公報【0092】、【0093】)

「障害に関連する1つ以上の症状を処置、予防または改善するために有効である本発明のCD32B×CD79bのFcダイアボディの量は、標準的な臨床技術により決定することができる。製剤中で用いる正確な用量はまた、投与経路、および病状の重篤度にも左右され、医師の判断および各患者の状況によって決定されねばならない。有効な用量をインビトロまたは動物モデル試験系から誘導した用量-応答曲線から推定してもよい。
本発明により包含されるCD32B×CD79bのFcダイアボディの場合、患者に投与される投薬量は、典型的には、被験体の体重に対して、少なくとも約0.01μg/kg、少なくとも約0.05μg/kg、少なくとも約0.1μg/kg、少なくとも約0.2μg/kg、少なくとも約0.5μg/kg、少なくとも約1μg/kg、少なくとも約2μg/kg、少なくとも約5μg/kg、少なくとも約10μg/kg、少なくとも約20μg/kg、少なくとも約50μg/kg、少なくとも約0.1mg/kg、少なくとも約1mg/kg、少なくとも約5mg/kg、少なくとも約10mg/kg、少なくとも約30mg/kg、少なくとも約50mg/kg、少なくとも約75mg/kg、少なくとも約100mg/kg、少なくとも約125mg/kg、少なくとも約150mg/kg以上である。」

・記載事項2-6([00107]~[00109]/対応公表公報【0103】~【0106】)

「実施例1
CD32B×CD79bの二重特異性の一価のFcダイアボディおよび対照ダイアボディの構築
表1は、発現されて精製された、好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディのポリペプチド鎖の配列のリストを含む。さらに、2つの対照ダイアボディを生成した。1つは、CD32BおよびFITCについて二重特異性の一価のダイアボディであり、2つ目は、CD79bおよびFITCについて二重特異性の一価のダイアボディである。
[図:0001424852000001.jpg]
上記のCD32B×CD79bのFcダイアボディは、CD32BおよびCD79bに同時に結合し得ることが見出された。対照CD32B×FITCダイアボディは、CD32BおよびFITCに同時に結合し得ることが見出された。対照CD79b×FITCダイアボディは、CD79bおよびFITCに同時に結合し得ることが見出された。CD32B×CD79bのFcダイアボディは、3つのポリペプチド鎖(各々の挙げられたアミノ酸配列のうち1つの鎖)から構成されるヘテロ三量体である。二重特異性の一価のダイアボディを形成するための方法は、WO2006/113665、WO2008/157379、WO2010/080538、WO2012/018687、WO2012/162068およびWO2012/162067に示される。
このような好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディの利点をさらに実証するために、2つの非Fc含有CD32B×CD79bダイアボディも調製した。これらのダイアボディは、2つのポリペプチド鎖から各々構成され、ダイアボディのうちの1つ(CD32B×CD79b(ABD)ダイアボディ)がアルブミン結合ドメインを含んでいるが、もう一方(CD32B×CD79bダイアボディ)は含まないという点で異なる。」

・記載事項2-7([00112]~[00119]/対応公表公報【0109】~【0116】)

「実施例2
CD32B×CD79b二重特異性の一価のFcダイアボディは、ヒト初代B細胞増殖を阻害する。
本発明のCD32B×CD79bのFcダイアボディが、免疫系を弱めるか、または阻害する能力をさらに実証するために、上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディを、2つのドナーから得た初代ヒトB細胞の存在下でインキュベートした。増殖は、ヤギ抗ヒトIgM Fc μF(ab)2(5μg/ml)および種々の濃度のCD32B×CD79bのFcダイアボディまたはCD32B×CD79bのABDダイアボディのいずれかの存在下で、48時間後に、3H-TdRの取り込みによってモニターした。その結果を、図3A(ドナー1)および図3B(ドナー2)に示しており、その結果は、CD32B×CD79bのFcダイアボディまたはCD32B×CD79b(ABD)ダイアボディの存在下におけるB細胞増殖の顕著な低下を示している。
実施例3
続きを表示(全18行)
CD32B×CD79b二重特異性の一価のFcダイアボディは、ナイーブB細胞および記憶B細胞におけるシグナル伝達を阻害する。
本発明のCD32B×CD79bのFcダイアボディが、B細胞による免疫系のシグナル伝達を減弱させるまたは阻害する能力をさらに実証するために、精製されたナイーブB細胞または記憶B細胞を、ヤギ抗ヒトIgM Fcμ(抗μ)(30μg/ml)単独の存在下で、または追加して上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディの存在下で、30分間インキュベートした。図4A(ナイーブB細胞)および図4B(記憶B細胞)に示されるとおり、好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディ、CD32B×CD79b(ABD)ダイアボディ、またはCD32B×CD79bダイアボディの存在は、全てがB細胞シグナル伝達を顕著に低下させた。
実施例4
CD32B×CD79b二重特異性の一価のFcダイアボディは、SLE患者のB細胞の増殖を阻害する。
本発明のCD32B×CD79bのFcダイアボディが、B細胞による免疫系のシグナル伝達を減弱させるまたは阻害する能力をさらに実証するために、全身性エリテマトーデス(SLE)に罹患している患者のB細胞を、ヤギ抗ヒトIgM Fcμ(抗μ)単独の存在下で、または追加して上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディの存在下で、インキュベートした。増殖は、3H-TdRの取り込みによってモニターした。
図5Aに示されるとおり、上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディは、CD32BおよびCD79bの両方に結合し得ることが見出された。図5Bでは、ヤギ抗ヒトIgM(GAH抗μ)の供給が、対照と比較して、B細胞の増殖を増大させたこと、および上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディまたはCD32B×CD79b(ABD)ダイアボディの追加の投与がこのような増殖の程度を顕著に阻害することを実証している。
上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディが、またはCD32B×CD79b(ABD)ダイアボディがSLEに罹患している個体のB細胞増殖の程度を低下させる能力は、疾患の状態とは関係がないことが見出された。活性または不活性なSLEを有する患者におけるB細胞増殖の低下の程度は、ヤギ抗ヒトIgM(GAH抗μ)のみの存在下で観察された増殖に対して約40%であり、したがって、疾患状態とは関係がなかった(図5C)。図5Cでは、好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディの方が、CD32B×CD79b(ABD)ダイアボディよりも大きい阻害を提供したことを、さらに実証している。
実施例5
CD32B×CD79b二重特異性の一価のFcダイアボディは、インビボでB細胞の応答を調節する。
本発明のCD32B×CD79bのFcダイアボディが、B細胞による免疫系のシグナル伝達を減弱させるまたは阻害する能力をさらに実証するために、ヒトPBMCを、免疫欠損のNSGマウスに注射した(・・・)。動物には、対照ビヒクル(100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)/動物、q3d×2週)、上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディ(100μl/動物、q3d×2週)、またはCD32B×CD79bダイアボディ(2つのポリペプチド鎖のみから構成されており、かつアルブミン結合ドメインを含んでいる)を投与した。血漿は、その両方とも移植片対宿主病の発現の指標である、ヒトIgM(図6A)またはヒトIgG(図6B)の存在下で7日および14日にELISAによってアッセイした。
対照ビヒクルを投与されたマウスは、高レベルのヒトIgMおよびヒトIgGを呈した。対照的に、このような抗体は、上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディを投与されたマウスでは本質的に検出されなかった(図6Aおよび図6B)。CD32B×CD79bダイアボディを投与されたマウスは、対照ビヒクルを投与されているマウスと比較して低下したレベルのヒトIgMおよびヒトIgGを呈したが、このようなレベルは、CD32B×CD79bのFcダイアボディを投与されたマウスでのレベルよりも実質的に高かった。これらの知見によって、二重特異性の一価のCD32B×CD79bダイアボディは、治療有用性および有効性を有するが、予想外なことに、本発明の上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディは、非Fcダイアボディよりも優れており、より大きい治療有用性および有効性を保有することが実証されたのである(図6Aおよび図6B)。
実施例6
CD32B×CD79b二重特異性の一価のFcダイアボディは、マウスにおいて異種のGvHDを低下させる。
本発明のCD32B×CD79bのFcダイアボディが、B細胞による免疫系のシグナル伝達を減弱させるまたは阻害する能力をさらに実証するために、ヒトPBMC(5×106細胞、静脈内注射)を免疫不全のNOD.scid IL2rγヌル(null)NSGマウスに注射した。動物に、対照ビヒクル(100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)/動物)、上記の好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディ(5mg/kgまたは10mg/kgのいずれか)または抗CD20抗体(リツキシマブ;5mg/kg;1回用量)を投与した。マウスの累積的生存を経時的に測定した。図7に示されるとおり、好ましいCD32B×CD79bのFcダイアボディのいずれかの用量を投与されている動物は、PCS対照またはリツキシマブのいずれかを投与されているマウスに対して生存の顕著な向上を示した。」

(2)引用文献2に記載された発明

記載事項2-1の請求項8~10によれば、引用文献2には、「二重特異性の一価のFcダイアボディであって、前記二重特異性の一価のFcダイアボディが、CD32BのエピトープおよびCD79bのエピトープに対して特異的に結合することができ、かつIgGのFcドメインを保有し、前記二重特異性の一価のFcダイアボディが:

(1)配列番号15のアミノ酸配列を有する第一のポリペプチド鎖と;

(2)配列番号16のアミノ酸配列を有する第二のポリペプチド鎖と;および

(3)配列番号17のアミノ酸配列を有する第三のポリペプチド鎖」である、「Fcダイアボディ」が記載されており、当該「Fcダイアボディ」を含む「薬学的組成物」を「炎症性の疾患または状態の処置」に使用することが記載されている。

そして、記載事項2-3によれば、「CD32Bのエピトープに特異的な少なくとも1つの結合部位、およびCD79bのエピトープに特異的な1つの結合部位を保有する二重特異性の一価のFcダイアボディ」のことを「CD32B×CD79bのFcダイアボディ」と表記することが記載されている。

さらに、引用文献2の実施例には、記載事項2-1の請求項8に記載されたFcダイアボディである「CD32B×CD79bのFcダイアボディ」が「ヒト初代B細胞増殖を阻害」したこと、「ナイーブB細胞および記憶B細胞におけるシグナル伝達を阻害」したこと、「SLE(全身性エリテマトーデス)患者のB細胞の増殖を阻害」したこと、「インビボでB細胞の応答を調節」したこと、及び「マウスにおいて異種のGvHD(移植片対宿主病)を低下」したこと(記載事項2-6、2-7)が薬理試験データの裏付けをもって記載されている。

そうすると、引用文献2には、次の発明が記載されていると認められる。

「炎症性疾患又は状態を治療するための医薬組成物であって、
CD32B×CD79bのFcダイアボディを含み、
前記CD32B×CD79bのFcダイアボディが、CD32BのエピトープおよびCD79bのエピトープに対して特異的に結合することができ、かつIgGのFcドメインを保有し、前記CD32B×CD79bのFcダイアボディが:
(1)配列番号15のアミノ酸配列を有する第一のポリペプチド鎖と;
(2)配列番号16のアミノ酸配列を有する第二のポリペプチド鎖と;および
(3)配列番号17のアミノ酸配列を有する第三のポリペプチド鎖である、CD32B×CD79bのFcダイアボディ、
である医薬組成物。」(以下「引用発明2」という。)

2 引用文献3の記載事項

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当審拒絶理由において引用された、本願優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3(WEI Chen et al, "Development of human B-lymphocyte targeted bi-specific DART molecules for the treatment of autoimmune disorders", 2014,

<http://ir.macrogenics.com/static-files/53c3b25b-c147-4db8-8555-cfdff933440d>)には、次の事項が記載されている。なお、引用文献3は英文のため、その記載事項は翻訳文で示す。

・記載事項3-1(題名)

「自己免疫疾患治療のためのヒトBリンパ球標的二重特異性DART(R)分子の開発」(当審合議体注:登録商標であることを示す「○囲みのR」を「(R)」で置き換えて表記している。以下、同様。)

・記載事項3-2(左欄「アブストラクト」の項)

「自己免疫疾患に対するB細胞標的免疫療法は、B細胞のホメオスタシスが著しく阻害されることによって引き起こされる全般的な免疫抑制によって、しばしば制限される。これを克服するために、我々は、B細胞上の阻害性Fcγ受容体IIb(CD32B)とB細胞受容体(BCR)構成要素であるCD79Bを共ライゲーションする二重特異的二重親和性再標的(DART(R))分子であるMGD010を開発した。これまでの研究で、CD32BxCD79B DARTsはBCR依存的にCD32Bと結合し、B細胞を枯渇させることなくB細胞の活性化を抑制することが示されている。PK特性を向上させるためにFcドメインを持つCD32BxCD79B DARTであるMGD010は、臨床開発の可能性をサポートするために作製された。MGD010を10mg/kgまで漸増投与した非ヒト霊長類において、良好なPK特性が認められ、サイトカイン放出やB細胞枯渇などの安全性シグナルの欠如は認められなかった。PD解析では、B細胞への標的結合が用量相関的に認められ、ex vivoでのBCR架橋により誘導されるB細胞のカルシウムフラックスが減少した。さらに、MGD010は自己免疫患者のサンプルにおいて生体外でのB細胞機能を阻害した。また、MGD010の反復投与は、慢性GvHDのヒト化マウスモデルにおいて、体液性免疫応答と移植片対宿主病(GvHD)の発症の両方を抑制した。このように、Fcを有するCD32BxCD79B DARTであるMGD010は、免疫系におけるB細胞のホメオスタシスを阻害することなく、自己免疫疾患の治療における有望なB細胞介入戦略であると考えられる。」

・記載事項3-3(左欄「イントロダクション」の項)

「・ 臨床的エビデンスによれば、現在のB細胞枯渇に基づく免疫療法は、感染症のリスク増加、B型肝炎の再活性化、B細胞増殖因子のレベル上昇など、自己免疫疾患患者における安全性の懸念をもたらす。
・ B細胞上のCD32BとBCRの共ライゲーションは、内在性の抑制経路を利用することで、自己免疫疾患に対する有望な治療戦略である。
・ われわれは以前、CD32BとCD79B分子を同時に共ライゲーションするDART分子を作製し、コラーゲン誘発関節リウマチのマウスモデルにおいてB細胞の機能を阻害し、自己免疫を抑制した。
- 臨床応用のためには、CD32BxCD79BのDARTsは、最適な治療投与をサポートするために、長期のPK特性を持つことが望ましい。
- PK特性が向上した新世代のCD32BxCD79B DART分子であるMGD010が開発され、in vitroおよびin vivoの両方で、その生物活性、安全性、薬物動態、薬力学的特性について、非ヒト霊長類を含めて系統的に特性評価が行われた。」

・記載事項3-4(右欄「結果」の項、図6A)

図6A

[図:0001424852000002.jpg]

」

図6Aの題名「交差反応性非ヒト霊長類におけるMGD010の薬物動態学的特性評価」

図6AのパネルBの説明「パネルAで概説した用量漸増スキームに従ったMGD010の血清中循環濃度の時間経過。投与量レベル1~10mg/kgのデータを2コンパートメントモデリングしたところ、平均β半減期は142時間、平均滞留時間は266時間であった。」

図6AのパネルCの説明「MGD010の血清中Cmaxと投与量(0.1~10mg/kg)との間に直線関係が認められた。試験162日目までADAは認められなかった。」

・記載事項3-5(右欄「結果」の項、図6B)

「
[図:0001424852000003.jpg]
」

図6Bの題名「末梢B細胞へのMGD010結合の検出」

図6Bの説明「MGD010(0.1~10mg/kg)注入後の非ヒト霊長類の末梢B細胞へのMGD010結合のFACS解析。試験中の異なる時点で採取した非ヒト霊長類の血液サンプル(50μL)を、ビオチン化抗E/K coilmAbおよびSA-APC、ならびにCD19に対する蛍光mAbとともにインキュベートした。各色の線は、異なる時点におけるゲートされたB細胞上のMGD010の結合シグナルを示す。投与前のサンプルから作成された黒い実線の曲線は、MGD010の結合を評価するためのベースラインとみなされる。赤矢印は、投与63日目からの結合シグナル曲線が、MGD010 10mg/kgの前投与時と類似していることを示している。」

・記載事項3-6(右欄図6C)

「
[図:0001424852000004.jpg]
」

図6Cの題名「交差反応性非ヒト霊長類を用いたMGD010の薬力学的評価」

図6Cの説明「・MGD010 10mg/kg注入後のフローサイトメトリーによる非ヒト霊長類末梢B細胞上のCD32BおよびCD79Bのモニタリング。B細胞上のCD32BとCD79Bを検出するための蛍光マウス抗ヒトCD45およびCD19、アレクサフルオロ488に結合したキメラ8B5(N297Q)mAb、およびマウス抗ヒトCD79B-PEmAb。8B5mAbと抗ヒトCD79BmAbは、B細胞上のMGD010の結合部位に対して競合的である。

・ 非ヒト霊長類B細胞のカルシウム動員をフローサイトメトリーで記録したもの。投与期間中の異なる時点で採取した血液サンプルからPBMCを単離し、Fluo-NW色素を予め添加した。細胞はさらに蛍光性抗CD19mAbで染色した。ヤギ抗ヒトIgM、Fc-μF(ab)2(30μg/mL)によりCa2+フラックスを誘導し、B細胞上のカルシウムフラックスのトレースを示した。」

・記載事項3-7(右欄「結論」の項)

「・PK特性が向上したMGD010は、B細胞受容体(CD79B)とFcRIIb(CD32B)の二重の一価相互作用を通じて優先的なシス係合を保持する
・ MGD010は自己免疫におけるB細胞応答を調節する:
- ヒト化マウスモデルで観察
- SLE患者サンプルで観察
続きを表示(全13行)
- 迅速な作用発現を示す
- 広範なB細胞の枯渇を伴わず、自己反応性B細胞の活性化を減少させる
・ MGD010は、交差反応性非ヒト霊長類において、良好な安全性、薬物動態および薬力学的活性を示す
- 10mg/kgまで良好な忍容性
- 半減期が長く(平均MRT=266時間)、用量範囲にわたって直線的なPKを示す
- 標的B細胞との結合が持続
- B細胞の枯渇およびサイトカイン放出の欠如
- B細胞機能の調節
・ MGD010は自己免疫疾患の臨床開発に適した治療薬候補である可能性がある」

3 引用文献4の記載事項

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当審拒絶理由において引用された、本願優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4(「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」(平成4年6月29日薬新薬第43号各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知)

< https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta7179&dataType=1&pageNo=1 >)には、以下の事項が記載されている。

・記載事項4-1(1頁本文1行~2行)

「○新医薬品の臨床評価に関する一般指針について
(平成四年六月二九日)
(薬新薬第四三号)
(各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知)
標記について、医療用医薬品たる新医薬品の承認申請の目的で実施される臨床試験の臨床評価に関し、その一般指針を別添のとおり取りまとめたので参考までに通知する。」

・記載事項4-2(〔別添〕第二章第八1の1~2行)

「第八 臨床試験の管理と留意点

1 試験法の選択

ごく初期の臨床試験の目的は、薬効または副作用の面から投与量を徐々に上げながら決定していくことである。これは一般には非盲検法で行うのが良い。

・記載事項4-3(〔別添〕第五章第二23))

「第五章 臨床試験の進め方
・・・
第二 第I相試験
2 実施要領
3) 用法・用量
非臨床試験での全成績を詳細に検討、整理記録し、同効薬、類似構造薬に関する従来の知識、経験をも加味し、ヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して、初回投与量とする。次に段階的に用量を増し、推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与し、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べ、可能ならば有効性の初期徴候を集める。これらの成績に基づいて反復投与量、投与期間を決定する。反復投与試験は、血中濃度が測定可能な治療治験薬については、血中濃度が定常状態に達するまで行う。血中濃度が測定し得ない治験薬については、臨床における将来の使用状況を推定し、薬効や副作用の出現に注意しながら適切な期間行われるべきである。いわゆる有害反応発現までの用量の範囲を求めることは行い難い状況にあることが少なくないが、その場合には、それまでに得られている非臨床試験成績との関連において、ヒトでの忍容性についての十分な根拠を綿密に検討しておくべきである。」

4 参考文献5の記載事項

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当審において周知技術を示すために引用する、本願優先日前に発行された「臨床試験ハンドブック-デザインと統計解析-、株式会社朝倉書店、2006年3月30日、p.27~29」(以下「参考文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。

・参考文献5-1(28頁21行~29頁4行)

「3.1.2 第I相単回投与試験
第I相試験では,単回投与試験により被験薬がはじめてヒトに投与される.低用量から投与を開始し,安全性を確認しながら順次増量して,単回投与における安全性と薬物動態が評価される.通常,食事の影響を避け,薬物動態のバラツキが小さく,嘔吐などの安全性上のリスクが少ない,空腹時投与が選択される.
a. 用量の設定
第I相単回投与試験の初回(最低)用量は,被験者の安全性を確保するために,できるだけ少量から開始すればよいが,初回用量が低すぎる場合には,被験者の浪費というデメリットも考えられる.よって,非臨床試験で得られた情報をもとに,適切な初回用量を設定する必要がある.初回用量を算定するための目安として,(1)単回投与毒性試験で最も感受性が高かった動物の50%致死量(LD50)の1/600以下、(2)反復投与毒性試験などで最も感受性の高かった動物の無毒性用量の1/60以下,(3)最も感受性の高い動物の50%有効量(ED50)の1/60以下,(4)推定臨床用量の1/10~1/20などのクライテリアが知られている4).また,米国食品医薬品局(FDA,Food and Drug Administration)のガイダンスでは,非臨床試験で使用した動物種における最大安全量をもとに,体表面積などを考慮した計算式によりヒト相当量に変換した上で,初回用量を設計するという考えが紹介されている5).このような基準を参考にして,非臨床試験の成績を十分に吟味した上で初回用量が設定され,順次増量して(非臨床試験や類薬の情報から推定された)臨床効果が十分期待される用量までの増量が計画される.」

5 参考文献6の記載事項

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当審において周知技術を示すために引用する、本願優先日前に発行された「Guidance for Industry -Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers-、アメリカ食品医薬品局、2005年7月」(以下「参考文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、参考文献6は英文のため、その記載事項は翻訳文で示す。

・参考文献6-1(1頁10~19行)

「I. はじめに
本ガイダンスは,成人健康ボランティアを対象とした新規分子化合物のヒト初回臨床試験における最大推奨開始用量(MRSD)を導き出すためのプロセス(アルゴリズム)と用語を概説し,MRSDを選択するための標準化されたプロセスを推奨するものである。このプロセスの目的は,ヒトボランティアの安全性を確保することである。
本ガイダンスの目的は以下のとおりである:(1)開始用量を検討するための一貫した用語を確立すること,(2)ヒト等価用量(HED)を算出するための共通の換算係数を提供すること,(3)予測される臨床用途にかかわらず,成人健康ボランティアのMRSDを選択するための手順を明確にすること。このプロセスは,動物データからMRSDを算出するために使用される判断と計算を示すフローチャートに示されている(Appendix E参照)。」

・参考文献6-2(4頁17~25行)

「次に,安全係数(safety factor)をHEDに適用して,ヒトの初回用量が副作用を起こさないことの保証を高める必要がある。安全係数の使用は,ヒトが動物モデルから予測されるよりも治療薬の毒性作用に対してより敏感である可能性,バイオアベイラビリティが種によって異なる可能性,及び,試験したモデルがヒトに起こり得る全ての毒性を評価していない可能性に基づくべきである。例えば,ヒトにおける眼の障害や痛み(例えば,重度の頭痛)は,動物実験では検出されない重大な用量制限毒性になる可能性がある。
一般に,少なくとも10の安全係数の使用を検討すべきである。MRSDは,HEDを安全係数で除算して算出すべきである。」

・参考文献6-3(5頁3~12行)

「IV. ステップ1:無毒性量(NOAEL)の決定
MRSDを決定する最初のステップは,各試験でNOAELを決定できるよう,入手可能な動物データを検討・評価することである。NOAELにはいくつかの定義があるが,開始用量の選択には,対照群と比較して有害事象が有意に増加しない最高用量レベルを用いる。この観点から,生物学的に有意な有害事象(たとえ統計学的に有意でなくても)は,NOAELの決定において考慮されるべきである。NOAELは,適切な動物実験から得られた場合,一般に受け入れられている安全性の基準であり,健康な(又は無症状の)ヒトボランティアにおける新しい治療法の合理的に安全な開始用量を決定する出発点として役立つ。」

・参考文献6-4(6頁4行~7頁4行、表1)

「V. ステップ2:ヒト等価用量計算
A. 体表面積に基づく換算
関連する動物試験でNOAELが決定された後,それをHEDに換算する。動物用量をヒト等価用量に外挿するための最も適切な方法について決定する必要がある。MTD(最大耐用量)のような動物に全身投与された治療薬の毒性エンドポイントは,通常,投与量を体表面積(すなわち,mg/ m2)で正規化した場合,種間でうまく調整されると仮定されている(EPA 1992; Lowe and Davis 1998)。この仮定の根拠は,主にFreireichら(1966)とScheinら(1970)の研究にある。この研究者らは,抗悪性腫瘍薬について,投与量を同じ投与スケジュールで正規化し,mg/m2で表した場合,げっ歯類の10%に致死する用量(LD10)と非げっ歯類におけるMTDが,ともにヒトのMTDと相関することを報告した。その後,この一連の薬剤のMTDは,投与量をW0.67(体表面積正規化特有のもの)ではなくW0.75に正規化した場合に,動物種間で最も良好にスケールすることが解析で示されたにもかかわらず(Travis and White 1988; Watanabe et al. 1992),体表面積正規化は,動物の投与量に基づいてHEDを推定するための広範な慣行として残っている。
動物用量をHEDに換算する際のアロメトリック指数が及ぼす影響の分析が行われた(Appendix A参照)。この分析に基づき,また,体表面積を補正することで,より慎重な開始用量推定値が得られ,臨床試験の安全性が高まるという事実に基づき,健康成人ボランティアを対象とした初期試験の開始用量を選択する際には,体表面積補正係数(すなわち,W0.67)に基づいてNOAEL用量をHEDに換算するアプローチを維持すべきであるとの結論に達した。しかし,状況によっては,ヒトの投与量をmg/kg単位でNOAELと直接同等とするなど,別の用量正規化方法を用いることが適切な場合もある。動物用量をHEDに換算する場合,体表面積法からの逸脱はその妥当性を示すべきである。mg/kgの直接換算を妥当とする根拠と,他の正規化方法が適切な例については,以下の小節で述べる。
体表面積による正規化は,生物種間の線量を外挿するための適切な方法であるが,mg/kgからmg/m2へ線量を換算するための統一された係数は必ずしも使用されていない。体表面積による正規化がHEDを推定するための合理的な方法であることを考えると,各生物種の用量を換算するための係数は標準化されるべきである。体表面積はW0.67によって変化するため,換算係数は試験動物の体重に依存する。しかし,体重が実際のBSA-CFに及ぼす影に対処するために行われた分析では,標準的な係数を用いれば,ヒトと動物の体重の広い範囲にわたってHEDの妥当な推定値が得られることが示された(Appendix B参照)。従って,表1に示す換算係数と除数を,NOAELの種間用量換算に用いる標準的な係数として推奨する。(これらの係数は,比較のための他のデータ(すなわち,AUC)が入手できないか,比較に不適切な場合に,他の毒性エンドポイント(例えば,生殖毒性や発がん性)の安全域を比較する場合にも適用できる)。
[図:0001424852000005.jpg]
a 体重60kgの人間を想定。リストにない種または標準範囲外の体重の場合,HEDは以下の式から算出できる:
HED=動物用量(mg/kg)×(動物体重(kg)/ヒト体重(kg))0.33。
b 健康な小児が第1相試験のボランティアになることはまれであるため,このkm値は参考としてのみ提供する。
c 例えば,カニクイザル,アカゲザル,ベニガオザル。」

・参考文献6-5(9頁6~12行)

「VI. ステップ3:最適な生物種の選択
ヒトでの臨床試験に関連するすべての毒性試験のNOAELからHEDを決定した後,次のステップではMRSDを導くためのHEDを1つ選択する。このHEDは最も適切な生物種から選ぶべきである。生物種の関連性に関するデータがない場合,基本的な考え方として,成人健常人を対象とした試験のMRSDを導出するために最も適切な生物種は,最も感受性の高い生物種(すなわち,最も低いHEDを同定できる生物種)である。」

・参考文献6-6(9頁下から4行目~10頁18行)

「VII. ステップ4:安全係数の適用
最も適切な生物種におけるNOAELのHEDが決定されたら,最初の臨床用量を受けるヒト被験者を保護するための安全域を提供するために,安全係数を適用すべきである。この安全係数は,動物毒性試験からヒトにおける試験への外挿において,(1)動物に比べてヒトの薬理活性に対する感度が高いことによる不確実性,(2)動物における特定の毒性(例えば,頭痛,筋肉痛,精神障害)の検出が困難であること,(3)受容体密度または親和性の違い,(4)予期しない毒性,(5)治療薬のADMEにおける種間の違い,から生じる変動を許容するものである。これらの差異は,選択された生物種のNOAELのHEDからヒトの開始用量を下げることで対応できる。
実際には,臨床試験のMRSDは動物NOAELから得られたHEDを安全係数で割って決定されるべきである。通常使用されるべきデフォルトの安全係数は10である。これは歴史的に認められている値であるが,以下に述べるように,入手可能な情報に基づいて評価すべきである。
安全係数10は,すべての場合に適切とは限らない。安全係数は,懸念が増大する理由がある場合には上げるべきであり,利用可能なデータによって安全性がさらに保証され,懸念が減少した場合には下げるべきである。これは,健康なボランティアへの危害の懸念を緩和する知見と,より大きな懸念が正当化されることを示唆する知見とのバランスをとる,スライディングスケールとして可視化することができる。どの程度増減するかは,入手可能な情報を用いて判断することが大部分である。安全係数が既定値の10と異なる場合,特に10未満の場合は,適用した安全係数の根拠を明確に説明することが評価者の責務である。」

・参考文献6-7(12頁22~30行)

「IX. まとめ
成人健康ボランティアを対象とした新規治療薬の臨床試験において,最大推奨開始用量を決定するための戦略が提案されている。要約すると,通常,関連する動物実験から得られたNOAELは,表1に示された標準的な係数を用いてHEDに変換されるべきである。健全な科学的判断に基づき,最も適切な動物種のHEDに安全係数を適用してMRSDを算出する。このプロセスは,推奨される開始用量の上限を定義するものであり,一般的には,より低い開始用量が適切な場合もある。本ガイダンスに記載されているプロセスは,治験依頼者と審査担当者間の一貫性を促進するものである。」

・参考文献6-8(15頁7行~下から2行)

「ヒト等価用量(HED):動物において所定用量で観察される効果と同程 度の効果を与えることが予測されるヒト用量。本ガイダンスでは、企業(sponsors)からの多くのコミュニケーションと同様、用語HEDを、通常、NOAELのヒト等価用量を指すために使用する。NOAEL以外の用量のヒト等価量(PADなど)に言及する場合、企業は、その使用法を明確かつ目立つように記載する必要がある。
…(略)…
最大推奨開始用量(MRSD):臨床試験で初回用量として推奨される最高用量。成人健康ボランティアの臨床試験において、MRSDは副作用を引き起こさないと予測される。用量の単位(例:mg/kg又はmg/m2)は、調査対象領域で採用されているプラクティスに応じて異なる場合がある。
…(略)…
無有害作用量(NOAEL):対照群と比較して有害作用の有意な増加を生じない、動物種で試験された最高用量。統計的に有意でなくても、生物学的に有意な有害作用は、NOAELを決定する際に考慮する必要がある。
…(略)…
安全係数(SF) :HEDと最大推奨開始用量との間に安全域を導入するために、HEDを除算する数値。」

・参考文献6-9(27頁)

「
[図:0001424852000006.jpg]
」

第5 当審の判断

1 本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明2とを対比する。

引用発明2における「炎症性疾患又は状態を治療するための医薬組成物」は、炎症性疾患又は状態を治療するため治療を必要とする被験者に使用されるものであるから、本願発明1の「炎症性疾患又は状態を治療するため治療を必要とする被験者に使用される医薬組成物」に相当する。

また、引用発明2における「CD32BのエピトープおよびCD79bのエピトープに対して特異的に結合することができ」る「CD32B×CD79bのFcダイアボディ」は、本願発明1における「CD32Bのエピトープ及びCD79Bのエピトープに免疫特異的に結合でき」る「CD32B×CD79B結合分子」(以下「本願発明の結合分子」ともいう。)に相当する。

そして、引用発明2の「配列番号15」のアミノ酸配列は、本願発明1の「配列番号30」及び「配列番号33」のアミノ酸配列を含むものであり、引用発明2の「配列番号16」のアミノ酸配列は、本願発明1の「配列番号31」及び「配列番号32」のアミノ酸配列を含むものであるから(記載事項2-4参照)、引用発明2の

「(1)配列番号15のアミノ酸配列を有する第一のポリペプチド鎖と;.
(2)配列番号16のアミノ酸配列を有する第二のポリペプチド鎖と;および
(3)配列番号17のアミノ酸配列を有する第三のポリペプチド鎖である」

は、本願発明1の

「(A)配列番号30のアミノ酸配列を含むVLCD32Bドメイン;
(B)配列番号31のアミノ酸配列を含むVHCD32Bドメイン;
(C)配列番号32のアミノ酸配列を含むVLCD79Bドメイン;及び
(D)配列番号33のアミノ酸配列を含むVHCD79Bドメイン
を含み」

に相当する。

そうすると両者は、

「炎症性疾患又は状態を治療するため治療を必要とする被験者に使用される医薬組成物であって、CD32Bのエピトープ及びCD79Bのエピトープに免疫特異的に結合できるCD32B×CD79B結合分子を含み、
I.前記CD32B×CD79B結合分子は:
(A)配列番号30のアミノ酸配列を含むVLCD32Bドメイン;
(B)配列番号31のアミノ酸配列を含むVHCD32Bドメイン;
(C)配列番号32のアミノ酸配列を含むVLCD79Bドメイン;及び
(D)配列番号33のアミノ酸配列を含むVHCD79Bドメイン
を含む、医薬組成物。」

である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>

医薬組成物が、本願発明1では、

「(A)3mg/kgの単位投薬量、及び3週間に1用量(Q3W)の投薬レジメン;又は
(B)10mg/kgの単位投薬量、及び4週間に1用量(Q4W)の投薬レジメン;で投与される」

ものであるのに対し、引用発明2にはそのような特定はない点。

(2)判断

ア 相違点について

(ア)本願優先日当時における技術常識

一般に、医薬発明を実施するためには、安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可等を得る必要があり、当該許可等を得るために、薬理活性が確認された成分に関して、薬物動態や副作用等を考慮して「用法、用量」等を特定していくことは、通常の医薬品開発工程において必ず行われるものである。

そして、非臨床試験からヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量とした後に、段階的に用量を増して推定臨床単回投与量を上回るまで単回投与し、用量増加に関連した薬理作用、薬物動態、副作用を調べること、及び、これらの成績に基づいて、血中濃度が測定可能な治療薬については、血中濃度が定常状態に達するまで反復投与試験を行い、反復投与量や投与期間を決定することは、本件優先日当時の技術常識である(記載事項2-5、記載事項4-1~4-3)。

(イ)非臨床試験について

CD32B及びCD79Bに同時に結合できる二重特異性2価DART(登録商標)ダイアボディであるMgD010について、引用文献3の記載事項3-4には、CD32B×CD79B二重特異的二重親和性再標的分子であるMGD010について、非ヒト霊長類における薬物動態学的特性評価が記載されており、図6AのパネルAには、用量を0.1mg~10mgの範囲にし、投与間隔を約15日程度で段階的に用量を漸増させた、用量漸増研究デザインが記載されている。

さらに、記載事項3-4の図6AのパネルBには、パネルAの用量漸増スキームに従ったMGD010の血清中循環濃度の時間経過が示されており、投与量レベル1~10mg/kgのデータを2コンパートメントモデリングしたところ、平均β半減期は142時間、平均滞留時間は266時間であったことが記載されている。

そして、記載事項3-4の図6AのパネルCには、MGD010の血清中Cmaxと投与量(0.1~10mg/kg)との間に直線関係が認められたことが記載されている。

(ウ)検討

上記(ア)で示した技術常識を踏まえると、引用発明2の医薬組成物をヒトに投与するための用法用量を決定する過程において、引用文献3に記載される、非ヒト霊長類を用いた非臨床試験におけるCD32B×CD79B二重特異的二重親和性再標的分子に関する薬物動態学的評価の結果も参考にして、初期投与量を設定し、徐々に用量を増やし、血中濃度が定常状態に達するまで試験を行い、副作用等を考慮しながら、ヒトにおける、単位投薬量及び投与間隔を定めることは、当業者が容易に想到し得ることであり、具体的に、

「(A)3mg/kgの単位投薬量、及び3週間に1用量(Q3W)の投薬レジメン;又は
(B)10mg/kgの単位投薬量、及び4週間に1用量(Q4W)の投薬レジメン」

と設定することに格別の困難性はない。

イ 効果について

(ア)引用発明2及び引用文献3の記載からも明らかなように、本願発明1は、炎症性疾患の治療のために用いられることが従来公知のCD32B×CD79B結合分子を含む医薬組成物について、特定の投薬レジメンで投与すること、すなわち、特定の用法・用量で特定の疾患に適用したことに技術的特徴を有する医薬用途発明であるところ、本願明細書には、本願発明1において特定する投薬レジメンによりもたらされた薬理効果を示す実験結果等の具体的な記載はなされていない。

すなわち、本願明細書の実施例2には、健常なヒト被験者に対し、本願発明の結合分子を0.01mg/kg~10.0mg/kgの各用量を単回投与して得た薬物動態データが示されている。そして、実施例3には、ヒト被験者から得られた薬物動態データをモデル化し、最良のモデルパラメータ推定値を用いて予測した結果として、図16C及び図16Dには、3mg/kg及び10mg/kgの用量を、2週間に1回、3週間に1回及び4週間に1回の頻度で投与する投薬レジメンにおける、本願発明の結合分子の生体内の平均濃度をシミュレーションした結果が示され、また、図17C、図17Dは、図16C、図16Dのモデル化されたプロファイルにおける、本願発明の結合分子の平均濃度の予想変動性が示されている(【0205】)。

しかしながら、これらの結果は、本願発明の結合分子を上記投薬レジメンで用いた際の、健常なヒト被験者における薬物動態を予測するに留まり、本願発明の結合分子を上記投薬レジメンで「炎症性疾患の治療」に適用した際の効果を示すものではないから、本願発明1において特定する投薬レジメンによりもたらされた薬理効果を示す実験結果ではない。

したがって、相違点に係る投薬レジメンを採用したことにより、当業者が予測し得ない顕著な効果が奏されたとはいえない。

(イ)念のため、実施例2及び3に開示されたデータについても検討する。

まず、実施例2で示された結果については、本願明細書の図6には、ヒトにおける本願発明の結合分子の薬物動態が示されているが、引用文献3における「半減期が長く(平均MRT=266時間)、用量範囲にわたって直線的なPKを示す(記載事項3-7)」との記載から予測されるとおりのものといえる。

また、本願明細書の図7に示される継続的なB細胞占有率という効果(【0190】)については、引用文献3の図6B、図6Cには、MGD010は、標的B細胞との結合が持続することが示されており、また、引用文献3には、MGD010は半減期が長く(記載事項3-7)、薬物動態(PK)特性が向上した新世代のCD32B×CD79B結合分子であることが記載されているから(記載事項3-3)、これらの引用文献3の記載から、当業者が予測し得る効果である。

さらに、本願明細書の図10、図11により示される、B細胞上においてBCR発現を下方制御するという効果(【0194】、【0195】)については、引用文献3には、MGD010は、B細胞の活性化を阻害する作用を有することが記載されているから(記載事項3-2)、B細胞の活性化を引き起こすことが周知であるBCR(要すれば、「生化学辞典(第4版)、2007年、株式会社東京化学同人、1056頁左欄「B細胞受容体」の項参照)の発現が下方制御されるという効果は、引用文献3の記載から予測し得る効果である。

次に、実施例3で示された結果について検討すると、図16、図17により示された薬物動態の予測データについては、これらの図から、本願発明1の投薬レジメンにより、本願発明の結合分子の平均濃度が定常状態となることは読み取れる。

しかしながら、上記ア(ウ)で説示したように、本願優先日当時における技術常識を踏まえると、引用発明2の医薬組成物をヒトに投与するための用法用量を決定する過程において、引用文献3の非臨床試験の薬物動態も参考にして、本願発明の結合分子の初期投与量を設定し、徐々に用量を増やし、血中濃度が定常状態に達するまで試験を行い、副作用等を考慮しながら、ヒトにおける単位投薬量及び投与間隔を定めることは、当業者であれば通常行うことであって、図16、図17が示す平均濃度が定常状態となることは、上記技術常識にしたがって設定した投薬レジメンにおいて、当然に奏される効果にすぎない。

したがって、実施例3の図16、図17の開示を考慮しても引用発明2において、相違点に係る投薬レジメンを採用したことにより、本願発明1の進歩性を推認し得る効果を示すものとはいえない。

(3)請求人の主張について

ア 請求人の主張

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請求人は、令和6年12月19日提出の意見書において、次の(ア)~(ウ)の点を述べ、本願発明1の進歩性を主張している。

(ア)引用文献3の投与量漸増研究は、1匹の雄チンパンジーに対して実施されたものであり、本願発明1の投薬レジメンとは異なり、本願発明1で特定した単位投薬量及び投薬レジメンには到達することはできないし、本願明細書の図6、図7、図10、図11で開示したヒト被験者における効果を予測することはできない。

(イ)本願明細書の図16及び図17に示されているシミュレートされた実験及び予測される変動データは、実施例2に記載されているように、ヒト化マウスモデルを使用したインビボ実験から得られたデータ、並びにヒト被験者へのCD32B×CD79B結合分子のインビボ投与からの薬物動態プロファイルといった、出願人の実験によって作成された実際のデータを根拠としたものに基づいて作成されたものであるのに対し、引用文献2~4は、そのようなデータを開示しておらず、また、モデリング実験の根拠も開示していないから、本願明細書におけるモデリング実験結果は予想外のものである。

(ウ)本願発明1においては、28日間で2回しか投与されず、3mg/kgの単位投薬量の場合で6mg/kgであり、10mg/kgの単位投薬量の場合でも20mg/kgであるのに対し、引用発明2では、実施例6及び図7によれば、最小で35mg/kgであり(5mg/kg×7回)、このような引用発明2の実施例における例示は、当時の当業者が設定する一般的な投薬レジメンを示唆しているところ、引用文献2~4には、本願発明のように総投与量をより少なくする理由及び動機付けについて何ら開示していない。

イ 請求人の主張に対する当審合議体の判断

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(ア)主張(ア)について

請求人は、引用文献3の開示から、本願発明1で特定する投薬レジメンには到達することはできない旨主張するが、上記(2)ア(ア)で説示した本件優先日当時の技術常識を踏まえつつ、引用文献3に記載された非臨床試験データも参考にして、本願発明1で特定する投薬レジメンに到達することは、当業者であれば容易に想到し得ることであることは、上記(2)ア(ウ)で説示したとおりである。

また、本願明細書の図6、図7、図10、及び図11で開示した実験結果は、本願発明の結合分子を健康なヒト被験者に単回投与した結果を示したにすぎず、本願発明1で特定する投薬レジメンを炎症性疾患の治療に適用したことによる効果を示すものではないから、本願発明1の進歩性の判断に影響を与えるものではない。

(イ)主張(イ)について

本願明細書の図16、図17の結果は、前記(2)イ(イ)で説示したように、当業者が、技術常識を踏まえて用法・用量を設定すれば容易に取得することができるデータであって、本願発明1の進歩性を推認し得る効果を示すものとはいえない。

(ウ)主張(ウ)について

引用文献2の実施例6及び図7には、マウスに対する実験において、総投与量は最小で35mg/kgとなる投薬レジメン(5mg/kg×7回)が記載されているが、これはあくまで引用発明2の医薬組成物を非臨床試験であるマウスに投与する場合の例示にすぎない。

他方、非臨床試験からヒトに対して十分に安全と見込まれる用量を推定して初回投与量を設定し、ヒトにおける用法・用量の検討を行うことは技術常識であり(引用文献4-3、参考文献5-1、参考文献6-1~6-9)、ヒトに対する初回投与量の設定は、ヒトに対する安全性を考慮して、動物実験によって決定された量よりも相当程度減量すること(50%致死量(LD50)の1/600以下、50%有効量(ED50)の1/60以下、推定臨床用量の1/10~1/20、無毒性量(NOAEL)のヒト等価用量(HED)の1/10など)もまた技術常識であった(参考文献5-2、参考文献6-1~6-9)。

このような技術常識を考慮すると、ヒトを対象とした医薬組成物の総投与量が非臨床試験での総投与量より少なく設定することは一般的に行われることであって、引用発明2において、ヒトに対する総投与量を引用文献2に例示されたマウスに対する投与量より少なくする動機付けがないとはいえない。

(オ) したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。

4.小括

以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明2、並びに引用文献2~4に記載された事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献2に記載された発明、並びに引用文献2~4に記載された事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-008814

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