特許拒絶査定不服審判
2022-008727
リチウム二次電池用セパレータ及びそれを含むリチウム二次電池
- 審判番号
- 2022-008727
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-078360
- 請求日
- 2022年06月07日
- 審決日
- 2023年10月18日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
- 【請求人代理人】正林 真之
- 【請求人代理人】林 一好
- 【請求人】エスケー アイイー テクノロジー カンパニー リミテッド
- 【請求人代理人】正林 真之
- 【請求人代理人】林 一好
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P18 .121-Z (H01M) / P18 .575-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2017- 78360「リチウム二次電池用セパレータ及びそれを含むリチウム二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月19日出願公開、特開2017-191775〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年4月11日(パリ条約に基づく優先権主張 平成28年4月12日 韓国)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 4月27日付け:拒絶理由通知
令和3年 8月11日 :手続補正書、意見書の提出
令和4年 1月31日付け:拒絶査定(原査定)
令和4年 6月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出
平和4年11月28日 :上申書の提出
第2 令和4年6月7日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和4年6月7日の手続補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
令和4年6月7日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前には、
「【請求項1】
ポリオレフィン系多孔性基材層と、前記ポリオレフィン系多孔性基材層の片面または両面に形成される耐熱層と、を含み、前記耐熱層は無機粒子及び高分子バインダーを含む混合物で形成されており、下記数学式(1)及び(2)を満たし、引張強度が1kgf/cm以上である、リチウム二次電池用セパレータ。
数学式(1) 10μm≦Tt≦40μm
数学式(2) 0.9≦T1/T2
(前記数学式(1)においてTtはセパレータの全体厚さであり、前記数学式(2)において、T1は耐熱層の総厚さ(μm)であり、T2は基材層の厚さ(μm)である。)」
とあったものを、
「【請求項1】
ポリオレフィン系多孔性基材層と、前記ポリオレフィン系多孔性基材層の片面または両面に形成される耐熱層と、を含み、前記耐熱層は無機粒子及び高分子バインダーを含む混合物で形成されており、下記数学式(1)及び(2)を満たし、引張強度が1kgf/cm以上であり、
前記ポリオレフィン系多孔性基材層は、微多孔性延伸フィルムであり、
前記高分子バインダーは、ポリビニリデンフルオリド‐ヘキサフルオロプロピレン(PVdF‐HFP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリイミド(polyimide)、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロースアセテート(cellulose acetate)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びポリブチルアクリレート(Polybutylac rylate)からなる群から選択される1つ以上の高分子バインダーである、リチウム二次電池用セパレータ。
数学式(1) 10μm≦Tt≦40μm
数学式(2) 1.333≦T1/T2
(前記数学式(1)においてTtはセパレータの全体厚さであり、前記数学式(2)において、T1は耐熱層の総厚さ(μm)であり、T2は基材層の厚さ(μm)である。)」
とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。)。
2.補正の適否
上記補正は、
(a)補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ポリオレフィン系多孔性基材層」について、「微多孔性延伸フィルム」であることの限定を付加し、
(b)同じく補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、耐熱層が含む「高分子バインダー」について、「ポリビニリデンフルオリド‐ヘキサフルオロプロピレン(PVdF‐HFP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリイミド(polyimide)、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロースアセテート(cellulose acetate)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びポリブチルアクリレート(Polybutylac rylate)からなる群から選択される1つ以上」のものであることの限定を付加し、
(c)同じく請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、リチウム二次電池用セパレータが満たす「数学式(2)」の範囲について、下限値を「0.9」から「1.333」に補正してより狭い範囲に限定するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
よって、上記補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて以下に検討する。
(1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2013-12351号公報(以下、「引用例」という。)には、「耐熱絶縁層付セパレータ」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
樹脂多孔質基体層と、
前記樹脂多孔質基体層の片面または両面に形成された無機粒子およびバインダを含む耐熱絶縁層と、を備え、
前記樹脂多孔質基体層が、溶融温度が120~200℃である樹脂を含み、
耐熱絶縁層目付/樹脂多孔質基体層目付が0.5以上である、耐熱絶縁層付セパレータ。」
イ.「【0001】
本発明は、耐熱絶縁層付セパレータに関する。より詳しくは、本発明は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタなどの電気デバイスに好適に用いられうる耐熱絶縁層付セパレータに関する。」
ウ.「【0014】
本発明の一実施形態は、樹脂多孔質基体層と、樹脂多孔質基体層の片面または両面に形成された無機粒子およびバインダを含む耐熱絶縁層(セラミック層)と、を備える耐熱絶縁層付セパレータに関する。この際、当該耐熱絶縁層付セパレータは、樹脂多孔質基体層が、溶融温度が120~200℃である樹脂を含み、かつ、耐熱絶縁層目付/樹脂多孔質基体層目付の比の値(以下、単に「目付比」とも称する)が0.5以上であることを特徴とする。」
エ.「【0021】
樹脂多孔質基体層の材料は、上記範囲の溶融温度を有するものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、またはモノマー単位としてエチレンおよびプロピレンを共重合して得られる共重合体(エチレン-プロピレン共重合体)が挙げられる。また、エチレンまたはプロピレンとエチレンおよびプロピレン以外の他のモノマーとを共重合してなる共重合体であってもよい。
・・・・(中 略)・・・・
【0022】
樹脂多孔質基体層の形状としては、特に限定されず、織布、不織布、または微多孔膜からなる群から選択される少なくとも1種でありうる。ここで、樹脂多孔質基体層が、高いイオン伝導性を確保するためには、樹脂多孔質基体層の形状は高多孔構造であることが好ましい。よって、電池性能の向上の観点から、樹脂多孔質基体層の形状は微多孔膜であることが好ましい。また、樹脂多孔質基体層の空隙率は、40~85%であることが好ましい。空隙率が40%以上の場合、十分なイオン伝導性が得られうる。一方、空隙率が85%以下の場合、樹脂多孔質基体層の強度を維持しうる。
【0023】
上述の樹脂多孔質基体層は、公知の方法で製造されうる。例えば、微多孔膜を製造する延伸開孔法および相分離法、並びに不織布を製造する電界紡糸法等が挙げられる。」
オ.「【0024】
[耐熱絶縁層]
耐熱絶縁層は、無機粒子およびバインダを含むセラミック層である。耐熱絶縁層を有することによって、温度上昇の際に増大するセパレータの内部応力が緩和されるため熱収縮抑制効果が得られうる。また、耐熱絶縁層を有することによって、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度が向上し、セパレータの破膜が起こりにくい。さらに、熱収縮抑制効果および機械的強度の高さから、電気デバイスの製造工程でセパレータがカールしにくくなる。
・・・・(中 略)・・・・
【0029】
バインダとしては、特に限定されず、公知のものが用いられうる。例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリロニトリル、セルロース、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、アクリル酸メチルが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いられうる。これらのバインダのうち、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル酸メチル、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。」
カ.「【0031】
耐熱絶縁層付セパレータは、正負極間の電子の伝導を絶縁する役割を有している。電池性能の向上の観点から、セパレータの総膜厚は薄いことが好ましい。具体的には、セパレータの総膜厚は10~50μmであることが好ましく、15~30μmであることがさらに好ましい。総膜厚が10μm以上の場合、セパレータの強度が確保されうる。一方、総膜厚が50μm以下の場合、コンパクトな電池が形成されうる。」
キ.「【0046】
図2において、耐熱絶縁層付セパレータは、電解液とともに電解質層13を構成する。図2に示される積層型のリチウムイオン二次電池は、耐熱絶縁層付セパレータを用いることにより、シャットダウン機能を確保しつつも熱収縮を抑制する、安全性の高いリチウムイオン二次電池でありうる。耐熱絶縁層付セパレータが、好適な剥離強度を有する場合には、耐振動性を備えたリチウムイオン二次電池でありうる。」
ク.「【0047】
(実施例1)
ポリエチレン(PE)微多孔膜(膜厚:10μm、空隙率:65%)の両面に、アルミナ(Al2O3)粒子95質量%およびカルボキシメチルセルロース(CMC)5質量%を水に均一に分散させた水溶液を、グラビアコーターを用いて塗工した。次に、60℃で水を除去することにより、PE微多孔膜の両面にそれぞれ膜厚7.0μmの耐熱絶縁層が形成された、総膜厚24μmの耐熱性絶縁層付セパレータを作製した。」
上記「ア.」ないし「ク.」から以下のことがいえる。
・上記引用例に記載の「耐熱絶縁層付セパレータ」は、上記「ア.」、「ウ.」の記載によれば、樹脂多孔質基体層と、樹脂多孔質基体層の片面または両面に形成された無機粒子およびバインダを含む耐熱絶縁層(セラミック層)と、を備えるものである。そして、上記「ク.」の記載によれば、実施例1では、耐熱絶縁層は樹脂多孔質基体層の両面にそれぞれ形成されてなるものである。
・上記「エ.」の記載によれば、樹脂多孔質基体層は、その材料としては例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、またはエチレン-プロピレン共重合体が挙げられ、またその形状としては微多孔膜であることが好ましいものであり、上記「ク.」によれば、 実施例1では、樹脂多孔質基体層はポリエチレン(PE)微多孔膜である。
・上記「オ.」の記載によれば、耐熱絶縁層におけるバインダとしては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましく、上記「ク.」によれば、実施例1でもカルボキシメチルセルロース(CMC)が用いられてなるものである。なお、実施例1では耐熱絶縁層における無機粒子はアルミナ(Al2O3)である。
・上記「カ.」の記載によれば、耐熱絶縁層付セパレータの総膜厚は15~30μmであることがより好ましく、上記「ク.」の記載によれば、実施例1ではポリエチレン(PE)微多孔膜からなる樹脂多孔質基体層の膜厚が10μm、樹脂多孔質基体層の両面にそれぞれ形成された耐熱絶縁層の膜厚が7μm(合計14μm)であり、総膜厚は24μmである。
・そして、上記「イ.」、「キ.」の記載によれば、耐熱絶縁層付セパレータは、リチウムイオン二次電池に用いられ得るものである。
以上のことから、実施例1に係る耐熱絶縁層付セパレータであって、リチウムイオン二次電池に用いられる場合のものに着目し、上記記載を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「ポリエチレン(PE)微多孔膜からなる樹脂多孔質基体層と、
前記樹脂多孔質基体層の両面にそれぞれ形成された無機粒子およびバインダを含む耐熱絶縁層(セラミック層)と、を備え、
前記耐熱絶縁層(セラミック層)におけるバインダはカルボキシメチルセルロース(CMC)であり、
前記ポリエチレン(PE)微多孔膜総膜からなる樹脂多孔質基体層の膜厚が10μm、前記ポリエチレン(PE)微多孔膜総膜からなる樹脂多孔質基体層の両面にそれぞれ形成された前記耐熱絶縁層(セラミック層)の膜厚が7μm(合計14μm)であり、総膜厚は24μmである、リチウムイオン二次電池に用いられる耐熱絶縁層付セパレータ。」
(2)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア.リチウム二次電池用セパレータについて
引用発明における「樹脂多孔質基体層」はポリエチレン(PE)微多孔膜からなるものであり、本願補正発明でいう「ポリオレフィン系多孔性基材層」に相当する。
また、引用発明における樹脂多孔質基体層の両面にそれぞれ形成された「耐熱絶縁層(セラミック層)」は、本願補正発明でいう「耐熱層」に相当する。
そして、引用発明における「リチウムイオン二次電池に用いられる耐熱絶縁層付セパレータ」は、ポリエチレン(PE)微多孔膜からなる樹脂多孔質基体層と、その両面にそれぞれ形成された耐熱絶縁層(セラミック層)とを備えものであり、本願補正発明でいう「リチウム二次電池用セパレータ」に相当するものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「ポリオレフィン系多孔性基材層と、前記ポリオレフィン系多孔性基材層の片面または両面に形成される耐熱層と」を含む「リチウム二次電池用セパレータ」である点で一致する。
イ.ポリオレフィン系多孔性基材層について
引用発明における「樹脂多孔質基体層」はポリエチレン(PE)微多孔膜からなるものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記ポリオレフィン系多孔性基材層は、微多孔性フィルム」である点で共通するといえる。
ただし、本願補正発明では微多孔性「延伸」フィルムであることを特定するのに対し、引用発明では延伸して形成したものであることの特定を有していない点で相違する。
ウ.耐熱層について
引用発明における「耐熱絶縁層(セラミック層)」は無機粒子およびカルボキシメチルセルロース(CMC)であるバインダを含むものである。すなわち、無機粒子及びバインダを含む混合物で形成されてなるものであるところ、かかる「無機粒子」、カルボキシメチルセルロース(CMC)である「バインダ」は、それぞれ本願補正発明でいう「無機粒子」、「高分子バインダー」に相当する。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記耐熱層は無機粒子及び高分子バインダーを含む混合物で形成されており」、「前記高分子バインダーは、カルボキシメチルセルロース(CMC)からなる高分子バインダー」である点で一致する。
エ.数学式(1)及び(2)について
引用発明における「樹脂多孔質基体層」の膜厚は10μm、当該樹脂多孔質基体層の両面にそれぞれ形成された「耐熱絶縁層」の膜厚は7μm(合計14μm)であり、総膜厚は24μmである。
してみると、本願補正発明でいうセパレータの全体厚さである「Tt」は24μmであり、本願補正発明で特定する「数学式(1) 10μm≦Tt≦40μm」を満たす。
また、本願補正発明でいう耐熱層の総厚さである「T1」は14μm(7μm+7μm)、基材層の厚さである「T2」は10μmであり、T1/T2=14/10=1.4であるから、本願補正発明で特定する「数学式(2) 1.333≦T1/T2」を満たす。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「下記数学式(1)及び(2)を満た」すものである点で一致する。
「数学式(1) 10μm≦Tt≦40μm
数学式(2) 1.333≦T1/T2
(前記数学式(1)においてTtはセパレータの全体厚さであり、前記数学式(2)において、T1は耐熱層の総厚さ(μm)であり、T2は基材層の厚さ(μm)である。)」
オ.引張強度について
リチウム二次電池用セパレータについて、本願補正発明では「引張強度が1kgf/cm以上」であることを特定するのに対し、引用発明では引張強度に関する特定を有していない点で相違する。
よって上記「ア.」ないし「オ.」によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「ポリオレフィン系多孔性基材層と、前記ポリオレフィン系多孔性基材層の片面または両面に形成される耐熱層と、を含み、前記耐熱層は無機粒子及び高分子バインダーを含む混合物で形成されており、下記数学式(1)及び(2)を満たし、
前記ポリオレフィン系微多孔性基材層は、微多孔性フィルムであり、
前記高分子バインダーは、カルボキシメチルセルロース(CMC)からなる高分子バインダーである、リチウム二次電池用セパレータ。
数学式(1) 10μm≦Tt≦40μm
数学式(2) 1.333≦T1/T2
(前記数学式(1)においてTtはセパレータの全体厚さであり、前記数学式(2)において、T1は耐熱層の総厚さ(μm)であり、T2は基材層の厚さ(μm)である。)」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
ポリオレフィン系多孔性基材層について、本願補正発明では微多孔性「延伸」フィルムであることを特定するのに対し、引用発明では延伸して形成したものであることの特定を有していない点。
[相違点2]
リチウム二次電池用セパレータについて、本願補正発明では「引張強度が1kgf/cm以上」であることを特定するのに対し、引用発明では引張強度に関する特定を有していない点。
(3)判断
上記相違点1及び相違点2について検討する。
引用例の段落【0023】には、微多孔膜からなる樹脂多孔質基体層の製造に公知の延伸開孔法が挙げられることが記載されているように、引用発明において、ポリエチレン(PE)微多孔膜からなる樹脂多孔質基体層の製造に公知の延伸開孔法を採用し、微多孔性「延伸」フィルムとすることは当業者が適宜なし得たことである。
そしてその際には、延伸を行って製造した多孔フィルムは大きな引張強度のものが得られることが当業者にとって周知の事項であること(例えば、原査定時に提示した特開平10-330521号公報の段落【0030】、【0065】を参照)や、引用発明における樹脂多孔質基体層は10μmもの膜厚があること、さらに樹脂多孔質基体層の両面にはそれぞれ7μmもの膜厚の耐熱絶縁層(セラミック層)が形成されており、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度が向上し、破膜が起こりにくいものとなっていること(引用例の段落【0024】(上記「(1)オ.」)を参照)を踏まえると、引用発明における耐熱絶縁層付セパレータにあってもその引張強度は、本願補正発明で特定する「1kgf/cm以上」の条件は満たすのが普通であるといえる。仮に「1kgf/cm以上」の条件を満たすとまではいえないとしても、セパレータの引張強度はより大きい方が望ましいことは自明なことであり例えば上記特開平10-330521号公報には、延伸を行って製造したポリオレフィン多孔フィルムの引張強度が「10kg/5cm以上」であるものが記載(特に【請求項1】、段落【0085】、【0099】(表1)を参照)されているように、引用発明におけるポリエチレン(PE)微多孔膜からなる樹脂多孔質基体層を延伸を行って製造する際の延伸倍率等の延伸条件を調節するなどして「1kgf/cm以上」の条件を満たすものとすることも当業者であれば適宜なし得ることである。
よって、引用発明において、相違点1及び相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
なお、審判請求人は令和4年11月28日に提出した上申書において、「引用文献1の実施例1~27及び比較例1~5では、いずれも数学式(2)(耐熱層の総厚さ(T1)/基材層の厚さ(T2))が1.0未満である場合のみが開示されています(引用文献1の段落0085参照)。」などと主張している。
しかしながら、引用文献1、すなわち上記(1)に記載した引用例(特開2013-12351号公報)の実施例1は、上記(2)の「エ.数学式(1)及び(2)について」に記載したように、本願補正発明でいう耐熱層に相当する「耐熱絶縁層」は樹脂多孔質基体層の「両面」にそれぞれ形成されており、その総厚さである「T1」は14μm(7μm+7μm)である。そして、基材層の厚さである「T2」は10μmであるから、T1/T2=14/10=1.4であって、本願補正発明で特定する「数学式(2) 1.333≦T1/T2」を満たすものであることは明らかであり、請求人の上記主張は採用できない。
3.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和4年6月7日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和3年8月11日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリオレフィン系多孔性基材層と、前記ポリオレフィン系多孔性基材層の片面または両面に形成される耐熱層と、を含み、前記耐熱層は無機粒子及び高分子バインダーを含む混合物で形成されており、下記数学式(1)及び(2)を満たし、引張強度が1kgf/cm以上である、リチウム二次電池用セパレータ。
数学式(1) 10μm≦Tt≦40μm
数学式(2) 0.9≦T1/T2
(前記数学式(1)においてTtはセパレータの全体厚さであり、前記数学式(2)において、T1は耐熱層の総厚さ(μm)であり、T2は基材層の厚さ(μm)である。)」
2.原査定の概要
本願の請求項1に対する原査定(令和4年1月31日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:特開2013-12351号公報
3.引用例、引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例(引用文献)、及び引用発明は、前記「第2 [理由2]2.(1)」に記載したとおりである。
4.対比・判断
本願発明は、前記「第2 [理由]2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「ポリオレフィン系多孔性基材層」について、「微多孔性延伸フィルム」であることの限定を省き、同じく発明特定事項である耐熱層が含む「高分子バインダー」について、「ポリビニリデンフルオリド‐ヘキサフルオロプロピレン(PVdF‐HFP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリイミド(polyimide)、ポリエチレンオキシド(PEO)、セルロースアセテート(cellulose acetate)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びポリブチルアクリレート(Polybutylac rylate)からなる群から選択される1つ以上」のものであることの限定を省き、さらに同じく発明特定事項であるリチウム二次電池用セパレータが満たす「数学式(2)」の範囲について、下限値を「0.9」から「1.333」に補正してより狭い範囲とする限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 [理由]2.(3)」に記載したとおり引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-008727