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特許拒絶査定不服審判

2022-008038

チャネル病を引き起こす薬物に対するDMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LYSOPG及びLYSOPCの防護効果

審判番号
2022-008038
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-522785外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年05月30日
審決日
2024年12月18日
公報発行日
2025年06月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .113-WZ (A61K) / P18 .121-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-522785「チャネル病を引き起こす薬物に対するDMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LYSOPG及びLYSOPCの防護効果」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月17日国際公開、WO2018/089687、令和 1年11月21日国内公表、特表2019-533692〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 11項目
理 由

第1 手続の経緯

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本願は、2017年(平成29年)11月9日(パリ条約に基づく優先権主張 2016年11月9日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

令和 1年 8月 1日 :手続補正書の提出
令和 2年 6月30日付け:拒絶理由通知
令和 3年 1月 6日 :手続補正書・意見書の提出
令和 3年 6月 8日付け:拒絶理由通知
令和 3年12月13日 :手続補正書・意見書の提出
令和 4年 1月31日付け:拒絶査定
令和 4年 5月30日 :審判請求書・手続補正書の提出
令和 5年 7月19日付け:拒絶理由通知(当審)
令和 5年11月24日 :手続補正書・意見書の提出
令和 6年 4月17日付け:拒絶理由通知・審尋(当審)
令和 6年 8月21日 :手続補正書・意見書・回答書の提出

(以下、令和6年8月21日提出の手続補正書による手続補正を「本件補正」といい、令和5年7月19日付け拒絶理由通知を「先の拒絶理由」、令和5年11月24日提出の意見書を「先の意見書」という。)

第2 本願発明について

本願の請求項1~7に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

なお、この審決において、数字などは全て全角で統一して記載する。

「【請求項1】
心臓パターンにおける不規則性若しくは変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病若しくは状態を予防又は治療するための組成物であって、
対象において、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTcの延長、LQT2、LQTS又はトルサード・ド・ポアンツから選択される前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する活性剤誘導性心臓チャネル病又は状態を誘導する1又は2以上の薬理学的活性剤と、前記活性剤により引き起こされる前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は前記状態を予防又は低減するのに十分な量で供給される1若しくは2以上の脂質(但し、リポソームの形態を除く)と
を含み、前記活性剤、前記脂質又は両方が、薬理学的に許容される媒介物、溶媒若しくは媒体中に溶解、分散又は懸濁しており、前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10であり、前記重量比とすることにより前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続き、かつ
前記脂質が、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルグリセロール(DMPG)、1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(LysoPG)、又は1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(LysoPC)のうちの少なくとも1つから選択され、
脂質として前記脂質のみを含む、前記組成物。」

上記の下線は、補正箇所を示す。

また、以下、請求項1の、「心臓パターンにおける不規則性若しくは変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病若しくは状態」であって、「対象において、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTcの延長、LQT2、LQTS又はトルサード・ド・ポアンツから選択される前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する活性剤誘導性心臓チャネル病又は状態を誘導する1又は2以上の薬理学的活性剤」「により引き起こされる前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は前記状態」を、「所定の心臓チャネル病又は状態」と、

「1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルグリセロール(DMPG)、1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(LysoPG)、又は1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(LysoPC)のうちの少なくとも1つから選択され」る「脂質」を、

「所定の脂質」と、いう場合がある。

また、「心臓チャネル病又は状態」を「予防又は治療するための組成物」であって、「前記活性剤と前記所定の脂質(但し、リポソームの形態を除く)とを含み、前記活性剤、前記所定の脂質又は両方が、薬理学的に許容される媒介物、溶媒若しくは媒体中に溶解、分散又は懸濁しており、前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10」である組成物を、

「所定の組成の組成物」と、いう場合がある。

第3 当審において令和6年4月17日付けで通知した拒絶理由

令和6年4月17日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの請求項1についての理由C及びDの概要は、次のとおりである。

理由C.(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由D.(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものあるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献一覧>

1.国際公開第2015/187883号

2.Cellular & Molecular Biology Letters,Vol.10,(2005)p.711~719(請求人が令和5年11月24日提出の意見書に添付した周知技術を示す参考資料3)

第4 引用文献等の記載事項及び引用発明

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1 引用文献1に記載された事項及び発明

(1)引用文献1に記載された事項について

引用文献1には、次の記載がある。原文は英文なので当審による和訳を示す。下線は当審による。また、原則全角表記とし、読みやすいように内容は変えずに適宜改行、空行等を加える等、体裁を変更し、図面の摘記を本文の関連する箇所に続けて加入記載した。

さらに、引用文献1には、段落番号の記載がないので、参考情報として、摘記の冒頭に括弧書きで、対応日本語ファミリー文献である特表2017-516813号公報の段落番号を「ファミリー」を付して記載するとともに、後述の「オ」以降の具体的な薬理試験結果の記載等を含め、本願明細書に中で同様の内容が記載されているところについては、可能な範囲で本願明細書の段落番号を「本願」を付して記載した(例えば、(ファミリー【0001】、本願【0001】)等)。

ア CLAIMS(特許請求の範囲)

「1. 1又は2以上の活性剤がヒト又は動物対象へ投与される場合に前記1又は2以上の活性剤により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防又は治療するための組成物であって、
前記活性剤により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する前記1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な量のリゾホスファチジル化合物
を含む、前記組成物。
・・・
続きを表示(全28行)
3. 1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、12-ミステロイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(グリセロール)](DMPG)、一般式IIのモノグリセリド(当審注:一般式IIの記載は省略する。)、一般式IIIの遊離脂肪酸(当審注:一般式IIIの記載は省略する。)、又は上述の組合せのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
・・・
7. リゾホスファチジル化合物が、ラウロイル-リゾホスファチジル化合物、ミリストイルリゾホスファチジル化合物、パルミトイル-リゾホスファチジル化合物、ステアロイル-リゾホスファチジル化合物、アラキドイル-リゾホスファチジル化合物、オレオイル-リゾホスファチジル化合物、リノレオイルリゾホスファチジル化合物、リノレノイル-リゾホスファチジル化合物又はエルコイルリゾホスファチジル化合物のうちの少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の組成物。
8. リゾホスファチジル化合物が、10:0 LysoPG、12:0 LysoPG、14:0 LysoPG、14:0 EGPG、16:0 LysoPG、又は18:0 LysoPGのうちの少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の組成物。
・・・
21. LysoPG:ミリストイルモノグリセリド:ミリスチン脂肪酸を含む共融混合物である、請求項3に記載の組成物。
(当審注:原文では、「ミリスチン脂肪酸」は「myristic fatty」と表記されているが、請求項21が引用する請求項3及び引用文献1の7頁17~18行の記載からみて「myristic fatty acid」の誤記であることは明らかであるから、「ミリスチン脂肪酸」と訳した。)
22. リン脂質対活性剤の比が、3:1、1:1、0.3:1、及び0.1:1である、請求項1に記載の組成物。
23. 心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する心臓チャネル病又は状態が、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、又はトルサード・ド・ポアンツである、請求項1に記載の組成物。
24. 心臓、アレルギー又はがん関連疾患の治療に使用される活性剤又は薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長又はQT延長の治療又は予防に使用される、請求項1に記載の組成物。
(当審注:「IKr」は、引用文献1の26頁21行(ファミリー【0111】)に記載されるとおり、「整流性カリウム選択電流」のことである。)
・・・
26. 1又は2以上の活性剤が、アルブテロール(サルブタモール)、・・・ニロチニブ、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、・・・又はジプラシドンから選択される、請求項1に記載の方法
・・・
28. ヒト又は動物対象における疾患を治療するのに使用される1又は2以上の活性剤により引き起こされるヒト又は動物対象における1又は2以上の心臓チャネル病、心臓パターンにおける不規則性若しくは変化、IKrチャネル阻害又はQT延長を予防又は治療する方法であって、
前記ヒト又は動物対象へ、前記1又は2以上の活性剤により引き起こされる心臓チャネル病、心臓パターンにおける不規則性若しくは変化、IKrチャネル阻害、又はQT延長のうちの1つを低減又は予防するのに有効な量の、経口投与用に適合されたリゾホスファチジル化合物、及び
前記疾患を治療するのに十分な有効量の前記1又は2以上の活性剤を投与するステップ
を含み、
経口的に供給されたリゾホスファチジル化合物が、少なくとも1つの心臓チャネル病、心臓パターンにおける不規則性若しくは変化、IKrチャネル阻害又はQT延長を低減又は排除する、前記方法。
・・・
30. 1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、12-ミステロイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(グリセロール)](DMPG)、一般式IIのモノグリセリド(当審注:一般式IIの記載は省略する。)、一般式IIIの遊離脂肪酸(当審注:一般式IIIの記載は省略する。)、又は上述の組合せのうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項28に記載の方法。
・・・
32. 心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する心臓チャネル病又は状態が、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、又はトルサード・ド・ポアンツである、請求項28に記載の方法。
33. 1又は2以上の活性剤が、アルブテロール(サルブタモール)、・・・ニロチニブ、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、・・・又はジプラシドンから選択される、請求項28に記載の方法。・・・」

イ 1頁3行~2頁15行(ファミリー【0001】~【0006】、本願【0001】~【0006】)

「 技術分野
(ファミリー【0001】、本願【0001】)
本発明は、概して、薬物治療の分野に、より詳細には、活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因するチャネル病又は状態を低減又は排除するための新規組成物及び方法に関する。
背景技術
続きを表示(全14行)
(ファミリー【0002】、本願【0002】では一部のみを記載)
本発明の範囲を限定することなく、対象における心室QTの再分極の持続期間を制御するための組成物及び方法に関連して、その背景について記載する。
(ファミリー【0003】、本願【0003】)
心臓の拍動は、心筋の興奮及び収縮の正確に制御された規則的な間隔の波に起因する。イオンベースの脱分極及び再分極中の電流は、電波を測定する特定の位置での身体上に配置された導線により測定することができる(心電図)。P波は、心房における脱分極の波を表す。心房全体が脱分極されるようになると、波はゼロに戻る。0.1秒後、心室は完全に脱分極されて、QRS複合体を生じる。3つのピークは、電流が心室に広がる様式に起因する。T波又は心室の再分極がこれに続く。QRS複合体の始まりから標準的なECG上のT波の終わりまで測定されるQT間隔は、心筋細胞の再分極期(又は心室の脱分極及び再分極)の完了までの持続期間を表す。この間隔の持続期間は、遺伝的変異、心疾患、電解質バランス、毒物注入、及び薬物治療に起因して様々であり得る。QT間隔の延長は、心室性不整脈及び突然死をもたらし得る。
(ファミリー【0004】、本願【0004】)
薬物誘導性の長いQTcシンドローム(LQTS)、即ち活動電位の持続期間の延長は、政府の権限による休薬の一般的な原因である。QTc延長は、トルサード・ド・ポアンツ(Torsades de Pointes,TdP)、心室細動を招く多形性心室性頻拍に関する予測不可能なリスク因子である。薬物誘導性LQTSは、処方全ての約3%を構成し、それは、TdPが続くと、致死的な有害反応を引き起こし得る。1又は1よりも多いQTc延長性の薬物を併用して摂取する患者は、TdPのリスクが高まる。TdPの全体的な発生は、統計学的に珍しい一方で、それは、罹患個体にとって臨床的に意義がある。この薬物効果に関する実験は、薬物を臨床試験に進ませるのに先立つ必須要件である。
(ファミリー【0005】、本願【0005】)
一般的な構造的に異なる薬物は、ヒトether-a-go-go関連遺伝子(KCNH2又はhERG)コードK+チャネル及び心臓遅延整流性カリウム電流IK(KV11.1)を遮断して、後天性LQTSをもたらす。LQTSの薬物関連のリスクの増加は、薬物開発の主要な障害であり、多くの薬物が、前臨床開発中に中止されたか、認可後に黒枠警告(当審注:原文は「black box warnings」)を割り当てられたか、又は市場から取り下げられている。カリウムチャネルをコードする10個の異なる遺伝子における500個の考えられ得る変異に基づく常染色体劣性又は優性LQTSは、1:3000の発生率を有する。QT間隔の延長、又はLQTSのリスクは、無症候性US集団の2.5%に見られる。このシンドロームは、発現されると、未処置患者において重篤な心不整脈及び突然死を招き得る。LQTS誘導性薬物を投薬される無症候性先天性LQTSを有する患者における心臓死の確率は増加する。
(ファミリー【0006】、本願【0006】)
後天性LTQS薬物中止の大部分は、ヒトether-a-go-go関連遺伝子(hERG)によりコードされるカリウムイオンチャネルの閉塞に起因する。高濃度のhERG遮断薬は概して、QTc間隔の延長を誘導して、TdPの確率を高める。薬物誘導性TdPの事例の最大10%が、13個の主要な遺伝的変異、471個の異なる変異、及び124個の多型に起因し得る(Chig,C 2006)。」

ウ 21頁13行~22頁5行(ファミリー【0078】~【0087】)(本願明細書に対応記載なし)

「(ファミリー【0078】)
ある特定の実施形態では、組成物は、下記略記、化学名及び構造を有する:
クルクミン(368.38)(MW)
(ファミリー【0079】)
続きを表示(全24行)
[図:0001422774000001.jpg]
(ファミリー【0080】)
DMPC:1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(677.94)(MW)
一般用語-ホスファチジルコリン
(ファミリー【0081】)
[図:0001422774000002.jpg]
(ファミリー【0082】)
DMPG:1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-[ホスホリック-(1-グリセロール)](ナトリウム塩)(688.86)(MW)
一般用語-ホスファチジルグリセロール
(ファミリー【0083】)
[図:0001422774000003.jpg]
(ファミリー【0084】)
14:0 LysoPG、14:0 LPG、14:0 リゾホスファチジルグリセロール、ミリストイルリゾホスファチジルグリセロール:1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](ナトリウム塩)(478)(MW)
(ファミリー【0085】)
[図:0001422774000004.jpg]
(ファミリー【0086】)
14:0 モノグリセリドミリストイルモノグリセリド(302)(MW)
(ファミリー【0087】)
[図:0001422774000005.jpg]
(当審注:上記の最後の2つの化学式は、原文では枠囲いがあるが、当審で枠囲いを削除して表記した。)」

エ 26頁19~31行(ファミリー【0111】、本願【0073】)、26頁32行~27頁3行(ファミリー【0112】)、29頁30行~30頁28行(ファミリー【0120】~【0122】、本願【0075】~【0077】)

・26頁19~31行

「(ファミリー【0111】、本願【0073】)
リポソーム及び断片によるヒトether-a-go-go関連遺伝子(hERG)カリウムチャネル抗遮断。
カリウムチャネルは、遅延整流性カリウム電流IKrの迅速な構成成分を伝導し、それは、心臓活動電位の再分極に不可欠である。遺伝的欠陥又は有害な薬物の影響のいずれかに起因したhERG電流の低減は、活動電位延長、表面ECG上でのQT間隔の長期化、並びにトルサード・ド・ポアンツ不整脈及び突然死に対するリスクの増加を特徴とする遺伝性又は後天性QT延期症候群を招き得る。非抗不整脈化合物のこの望ましくない副作用が、薬物の市場からの取り下げを促してきた。hERGチャネル阻害のメカニズムに関する研究は、hERG電流阻止の状態、電圧及び使用依存度を決定する分子要因への有意な洞察を提供する。hERGにおける高親和性薬物結合部位及び薬物分子とのその相互作用の特性を変更させる変異は、生命に関わる不整脈に関して高いリスクで、電流増加及び遺伝性短期QT症候群を引き起こす(Thomas D1,2006)。」

・26頁32行~27頁3行

「(ファミリー【0112】、本願明細書に対応する記載なし)
K+チャネルの解剖学的特徴
内向き整流性カリウム(IKr)チャネルのタイプ及び分布は、心筋細胞の電気生理学的特性の主な決定因子の1つである。内向き整流性カリウム(IKr)チャネルは、細胞膜を通るK+イオンの細胞興奮性及び輸送を調節する。」

・29頁30行~30頁28行

「(ファミリー【0120】、本願【0075】では一部のみを記載)
チャネル病
ヒトether-a-go-go遺伝子関連心臓四量体カリウムチャネルは、変異されると、患者を、163個を上回る薬物に対して感受性にさせることができ、それは、イオン伝導を阻害して、活動電位をダウンレギュレートし得る。(・・・)カリウムチャネルの影響の結果として、活動電位の延長が起きる。イオンチャネル活性薬物は、QTc間隔を直接増加させて、トルサード・ド・ポアンツ及び突然心臓死のリスクを増加させ得る。(表1)・・・
(ファミリー【0121】、本願【0076】では一部の記載なし)
これらの理由で、心筋細胞カリウムチャネル機能に対する薬物の影響の評価は、薬物開発中の極めて重要なステップであり、重症であると、規制当局の承認への障害となり得る。ホールセルパッチ-クランプ実験では、クルクミンは、用量依存的様式で、IC50値5.55μMで、hERGチャネルを安定に発現するHEK293細胞においてhERG K+電流を阻害した。hERGチャネルの失活、不活性化及び不活性化からの回復時間は、10μMクルクミンの急性処置により著しく変化した。20μMクルクミンの24時間のインキュベーションは、HEK293細胞生存率を低減させた。ウサギにおけるクルクミン20mgの静脈内注射は、QTc値に現れる心臓再分極に影響を及ぼさなかった。(Hu CW 2012)。しかしながら、QTc延長薬を拮抗する特定分子が、本明細書で実証される(Helson L,2002 Ranjan A,2014,Shopp G,2014)。これらの分子は、最初に親油性薬物へ結合させて、生理学的条件下で静脈内溶解性を可能にさせて、有害事象を低減させた特定リポソーム、又はリポソームの構成成分である。作用の位置は、カリウムイオンの動作を制御するチャネル内イオン選択性又はゲーティング部位(複数可)であり、下流で筋細胞収縮を招く活動電位の調節の重要な機能的成分に存在するようである。
(ファミリー【0122】、本願【0077】)
ヒトether-a-go-go関連遺伝子チャネル遮断のメカニズムは、DMPC/DMPGリポソーム又はその代謝産物の抗遮断効果の作用メカニズムを間接的に示唆し得る外部から加えられた第四級アンモニウム誘導体の効果に類似し得る。チャネル阻害に関する阻害定数及び相対結合エネルギーにより、より疎水性の第四級アンモニウムが、より高い親和性遮断を有する一方で、陽イオン-π相互作用又はサイズ効果は、第四級アンモニウムによるチャネル阻害において決定的な要因ではないことが示される。また、テトラエチルアンモニウムよりも長い尾部基又はより大きな頭部基のいずれかを有する水性第四級アンモニウムは、細胞膜を透過して、遺伝子チャネルにおける高親和性内部結合部位に容易に近づき、より強力な遮断を発揮する。」

オ 30頁29行~35頁24行及びFIGURE1~5(ファミリー【0123】~【0158】、本願【0078】~【0111】、図1~5)

「(ファミリー【0123】、本願【0078】)
説明として、また本発明の限定ではなく、これらのデータは、リポソーム又はその構成成分の改善効果に関する基礎が、QTc延長薬、イオン輸送調節のその構成的な欠如と比較してDMPC及びDMPGにより結合部位に関してより高い競合親和性である、即ち、リポソーム又はその断片は、K+イオン輸送を妨害しないことを示す。
(ファミリー【0124】、本願【0079】)
説明として、またこれらの特許請求の範囲の限定ではなく、これらのデータは、リポソーム又はその構成成分の改善効果に関する基礎が、QTc延長薬、イオン輸送調節のその構成的な欠如と比較してDMPC及びDMPGにより結合部位に関してより高い競合親和性である、即ち、リポソーム又はその断片は、K+イオン輸送を妨害しないことを示唆し、DMPC又はDMPG防護のメカニズムの部位は、チャネルの選択性セグメントに、又はイオンを取り巻く水和に存在し得ることを示す。
続きを表示(全46行)
(ファミリー【0125】、本願【0080】前半)
さらに、これらのhERGチャネルデータに基づいて、これらのリポソーム構成成分の構造は、薬物誘導性心不整脈を予防するために他の分子を設計又は選択するのに有益となり得る。
(ファミリー【0126】、本願【0080】後半)
この研究は、心筋細胞カリウムチャネルで誘導される薬物によるQTc調節効果、並びにリポソーム及びリポソーム構成成分による緩和に関してさらなる情報を提供する。後者の分子は、薬物誘導性のチャネル病の薬理学的緩和に対する標的としてK+チャネルを探る機会を提示する。
(ファミリー【0127】、本願【0081】前半)
ニロチニブによるhERG阻害に対するDMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LysoPG及びLysoPCの防護効果の評価。
(ファミリー【0128】、本願【0081】後半)
研究の目的:この研究の目的は、安定にトランスフェクトしたヒト胎児由来腎臓細胞(HEK293細胞)において正常酸素圧条件下で発生させた迅速に活性化する遅延整流性カリウム選択電流(IKr)に対するDMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LysoPG及びLysoPCの防護効果をin vitroで評価することである(非GLP遵守)。
(ファミリー【0129】、本願【0082】)
被検試料(当審注:本願明細書においては、「被験物質」と記載されている。以下、同様。):
1-DMPC
2-DMPG
3-DMPC/DMPG 90:9
4-14:0 LysoPC
5-14:0 LysoPG
6-DMPC+ニロチニブ(0.1μM)
7-DMPG+ニロチニブ(0.1μM)
8-DMPC/DMPG 90:9+ニロチニブ(0.1μM)
9-14:0 LysoPC+ニロチニブ(0.1μM)
10-14:0 LysoPG+ニロチニブ(0.1μM)
(ファミリー【0130】、本願【0083】)
試験系:hERG発現HEK293トランスフェクト細胞株。実施した試験:ホールセルパッチ-クランプ電流獲得及び分析。実験温度:35±2℃。
(ファミリー【0131】、本願【0084】)
被検試料の適用:閉鎖循環式灌流(2mL/分)の存在下での各濃度への曝露5分。閉鎖循環式灌流(2mL/分)に加えて、フロースルー灌流(2mL/分)の存在下での洗い流し期間5分。正の対照(ニロチニブ、0.05μg/mL)を、閉鎖循環式灌流(2mL/分)の存在下で5分間、同じ細胞株及び同じ継代数から得られる未感作細胞に添加した。
(ファミリー【0132】、本願【0085】)
細胞は、実験全体にわたってパルスプロトコールの連続的な刺激下にあり、細胞電流を、各条件への曝露5分後に記録した。
・・・
(ファミリー【0134】、本願【0087】)
化合物又は媒体/溶媒同等物を実験する際の獲得に関する設計
・・・
(ファミリー【0136】、本願【0089】)
統計分析:統計学的比較は、対応のあるスチューデントt検定を使用して行われた。2日目、3日目及び4日目に得られる記録した電流を、1日目に記録した電流と統計学的に比較した。
(ファミリー【0137】、本願【0090】)
正の対照(ニロチニブ単独)曝露後に記録される電流を、ベースライン条件で記録された電流と比較した。
(ファミリー【0138】、本願【0091】)
差は、p≦0.05である場合に有意であるとみなした。
・・・
(ファミリー【0143】、本願【0096】)
【表1】
[図:0001422774000006.jpg]
(ファミリー【0144】、本願【0097】)
図1は、トランスフェクトしたHEK293細胞由来のhERG電流密度に対するDMPC、DMPC+ニロチニブ及びニロチニブの効果を示すグラフである。」
「
[図:0001422774000007.jpg]
」
「(ファミリー【0145】、本願【0098】)
[図:0001422774000008.jpg]
(ファミリー【0146】、本願【0099】)
図2は、トランスフェクトしたHEK293細胞由来のhERG電流密度に対するDMPG、DMPG+ニロチニブ及びニロチニブの効果を示すグラフである。」
「
[図:0001422774000009.jpg]
」
「(ファミリー【0147】、本願【0100】)
[図:0001422774000010.jpg]
(ファミリー【0148】、本願【0101】)
図3は、トランスフェクトしたHEK293細胞由来のhERG電流密度に対するDMPC/DMPG、DMPC/DMPG+ニロチニブ及びニロチニブの効果を示すグラフである。」
「
[図:0001422774000011.jpg]
」
「(ファミリー【0149】、本願【0102】)
[図:0001422774000012.jpg]
(ファミリー【0150】、本願【0103】)
図4は、トランスフェクトしたHEK293細胞由来のhERG電流密度に対するLysoPC、LysoPC+ニロチニブ及びニロチニブの効果を示すグラフである。」
「
[図:0001422774000013.jpg]
」
「(ファミリー【0151】、本願【0104】)
[図:0001422774000014.jpg]
(ファミリー【0152】、本願【0105】)
図5は、トランスフェクトしたHEK293細胞由来のhERG電流密度に対するLysoPG、LysoPG+ニロチニブ及びニロチニブの効果を示すグラフである。」
「
[図:0001422774000015.jpg]
」
「(ファミリー【0153】、本願【0106】)
この研究は、ニロチニブにより引き起こされる安定にトランスフェクトしたヒト胎児由来腎臓(HEK)293細胞において正常酸素圧条件下で発生させた迅速に活性化する遅延整流性カリウム選択電流(IKr)の阻害に対するDMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LysoPG及びLysoPCの防護効果を定量化することを目的とした。
(ファミリー【0154】、本願【0107】)
この研究で提示されるデータ点は全て、溶媒効果及び時間依存的電流ランダウンに関して補正してある。これらの2つのパラメーターは、被検試料を用いて行われるのと同じ実験計画を、媒体に正確に適用させることにより評価した。電流は、被検試料の存在下で行われるのと同じ時間的経過で測定した。溶媒効果及び時間依存的ランダウンの両方を表す得られた値を使用して、存在するのであれば、被検試料の効果を補正した。このことは、時間又は溶媒に帰される変化が、誤って被検試料に帰されないことを保証する。
続きを表示(全12行)
(ファミリー【0155】、本願【0108】)
DMPC、DMPG、DMPC/DMPG及びLysoPG単独は、hERGテール電流密度のいかなる阻害も引き起こさなかった(n=3)。LysoPC単独は、hERGテール電流密度の16%の阻害を引き起こした(n=4)。
(ファミリー【0156】、本願【0109】)
0.1μMでDMSO中に配合したニロチニブ単独は、hERGテール電流の54.1%の阻害を引き起こした(n=3)。観察された阻害は、同一条件で作成されたこれまでのデータと合致して、この化合物に関する報告された阻害値に一致する。
(ファミリー【0157】、本願【0110】)
ニロチニブは、DMPC、DMPG、DMPC/DMPC、LysoPG又はLysoPCを含有する水溶液中で配合されると(比1:9)、hERGテール電流のいかなる阻害も引き起こさなかった。
(ファミリー【0158】、本願【0111】)
これらのデータは、ニロチニブをDMPC、DMPG、DMPC/DMPC、LysoPG及びLysoPCと同時配合することが、ニロチニブにより引き起こされるhERG阻害を防護することを示唆する。」

カ 35頁25行~37頁末行及びFIGURE6~7(ファミリー【0159】~【0168】、本願【0112】~【0121】、図6~7)

「(ファミリー【0159】、本願【0112】)
この研究では、DMPC+ニロチニブ、DMPG+ニロチニブ、DMPC/DMPC+ニロチニブ、LysoPG+ニロチニブ又はLysoPC+ニロチニブは全て、同じ方法を使用して配合した。適切な量のニロチニブ粉末を、DMPC、DMPG、DMPC/DMPC、LysoPG又はLysoPCのいずれかを含有する水溶液中に溶解した(比9:1)。溶液を10分間ボルテックスした後、パッチクランプアッセイで使用した。
(ファミリー【0160】、本願【0113】)
対比して、ニロチニブ単独に曝露させる細胞に使用するニロチニブを、DMSO中に溶解した。さらなる研究を行って、DMSO配合したニロチニブと、脂質と同時配合したニロチニブとの間のhERG阻害の差が、種々の配合物(水性又はDMSOベース)に起因するかどうかを決定した。
続きを表示(全17行)
(ファミリー【0161】、本願【0114】)
[図:0001422774000016.jpg]
[図:0001422774000017.jpg]
(ファミリー【0162】、本願【0115】)
DMPC/DMPG又はLyso変異体が、配合時にニロチニブをクエンチしたという可能性は、hERG電流の防護を説明するとみなされるメカニズムの中の1つであり、ニロチニブが、その受容体部位でチャネルに入り込むのを本質的に防止した。別の可能性は、ニロチニブが、水溶液中にあまり溶解性でないこと、したがって0.1μMで不完全に溶解されることであった。
(ファミリー【0163】、本願【0116】)
両方の仮説を試験するために、ニロチニブをDMSO中に配合して、DMPC又はDMPGの添加後に、実験チャンバーへ添加した。これは、1-DMPC/DMPG単独を、続いてDMSO配合したニロチニブを添加することにより、リソソームによるニロチニブの初期クエンチングの可能性が排除されるという原理、及び2-DMSOが、ニロチニブの溶解度を維持する(hERGの「ニロチニブのみ」阻害は、DMSO配合したニロチニブを細胞へ添加した場合に観察された)という原理に基づいた。
(ファミリー【0164】、本願【0117】)
[図:0001422774000018.jpg]
(ファミリー【0165】、本願【0118】)
[図:0001422774000019.jpg]
(ファミリー【0166】、本願【0119】)
図6は、トランスフェクトしたHEK293細胞由来のhERG電流密度に対するDMPC、DMPC+ニロチニブ、DMPC+ニロチニブ(DMSO中)及びニロチニブの効果を示すグラフである。」
「
[図:0001422774000020.jpg]
」
「(ファミリー【0167】、本願【0120】)
[図:0001422774000021.jpg]
(ファミリー【0168】、本願【0121】)
図7は、トランスフェクトしたHEK293細胞由来のhERG電流密度に対するDMPG、DMPG+ニロチニブ、DMPG+ニロチニブ(DMSO中)及びニロチニブの効果を示すグラフである。」
「
[図:0001422774000022.jpg]
」

キ 38頁1行~39頁14行及びFIGURE8(ファミリー【0169】~【0175】、図8)(本願明細書に対応記載なし)

「(ファミリー【0169】)
リポソーム分解産物の経口製剤は、in vivoで静脈内モキシフロキサシン誘導性QTc延長を緩和する。
(ファミリー【0170】)
構造的に多様な抗がん薬は、ether-a-go-go遺伝子(hERG)によりコードされる心臓遅延整流性K+チャネル(IKr)を遮断して、後天性QT延長症候群(LQTS)をもたらす。重篤な心不整脈及び突然死の蓋然性は、LQTS誘導性抗がん薬を投薬した患者において増加する。このリスクは、薬物開発の障害であり、薬物は、市場から取り下げられたか、又は黒枠警告を割り当てられた。抗がん薬としてのクルクミンの開発中に、クルクミンが、IC50 4.9μMで、濃度依存的様式でhERGチャネルを遮断したことを、本発明者らは確認した。この効果は、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)及び1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-[ホスホリック-1-グリセロール)]-ナトリウム塩(DMPG)から構成される可溶化リポソーム製剤により抑止された。本明細書中で上記に示したように、この効果は、クリゾチニブ、ニロチニブ及びメタンスルホンアミド抗不整脈誘導剤E4031などの他のLQTS誘導薬を用いた場合に見られた。個々のリポソーム構成成分DMPC及びDMPG並びにそれらの分解産物は、ウサギ及びラットに静脈内投与されると、in vitroでhERGチャネルに対するニロチニブの効果を抑止した。本研究では、本発明者らは、モキシフロキサシンにより誘導されるLQTSに対する分解産物のうちの1つの経口製剤の効果を試験した。モキシフロキサシンは、気管支炎、肺炎、及び静脈洞、皮膚、又は胃の感染を含むある特定の細菌感染を治療するのに使用される抗生物質である。モキシフロキサシンは、錠剤及び静脈内注射フロキサシン静脈内注射として利用可能であり、病院向けのみである。
続きを表示(全14行)
(ファミリー【0171】)
方法。本発明者らは、経口LQTS誘導薬で治療されているがん患者における薬物送達を促進するために、経口用途として複合体混合物中に生成物を配合した。経口用途の前臨床評価は、機器を装着したスプラーグドーリー雄(250-300g)ラットで行った。皮膚ECGリードを使用して、T波検出を最大にした。3匹のラットのグループの動物を、少量のイソフルランで一時的に麻酔して、前処置ECGを獲得して、明確なT波を確立して、既存の不整脈素因を除外した。前処置ECGプロフィールは正常であった。
(ファミリー【0172】)
9:1のモキシフロキサシンの比での単回用量の経口複合体を連続して5分間ボルテックスして、エマルジョンを得て、経管栄養により即座に投与した。立証されたLQTS活性を有する広域抗生物質であるモキシフロキサシンをDMSO中に配合して、2時間後、開始用量2.8mg/kgで20分かけて、静脈内に(大腿カニューレ)注入した。注入の5分前から注入の20分の間、ECGを記録した。次に、動物に20分かけて、6.1mg/kgで、続いて20分かけて20mg/kgで投薬した。正の対照群では、モキシフロキサシンを単独で注入した。ラットの第2の群では、モキシフロキサシンの最初の用量の2時間前に、複合体を経口投与した。ラットの第3の群では、モキシフロキサシンの各用量レベルの5分前に、複合体を静脈内に投与した。
(ファミリー【0173】)
6.1mg/kg及び20mg/kgでのモキシフロキサシンは、それぞれ、30及び48msのQtc延長を引き起こした。FDAでの認容性に関する閾値は30msであり、その時点で、薬物は、黒枠QT延長ラベル(当審注:原文は「black box QT prolongation label」)を獲得する。20mg/kgのモキシフロキサシンは、55msの生命に関わるQT延長を引き起こす。経口複合体による前処置により、QT延長を、20mg/kgのモキシフロキサシン用量に関しては11ms未満へと著しく下げた。
(ファミリー【0174】)
これらの見解により、経口複合体をLQTS誘導薬と組み合わせることは、がん患者で使用されるモキシフロキサシン及び他のLQTS延長薬の臨床的脅威及び黒枠ラベル(当審注:原文はblack box label)を除去し得ることがさらに実証される。
(ファミリー【0175】)
図8は、55msの生死に関わるQT延長を引き起こす最高用量のモキシフロキサシン(20mg/kg)で(FDAでの認容性に関する閾値は30msであり、その時点で、薬物は、黒QTラベル(当審注:原文は「black QT label」)を依然として獲得している)、本発明は、Qtc延長を排除したことを示すグラフである。」
「
【図8】
[図:0001422774000023.jpg]
」

(2)引用文献1に記載された発明

引用文献1の請求項1の「1又は2以上の活性剤がヒト又は動物対象へ投与される場合に前記1又は2以上の活性剤により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態」と記載され、請求項1を引用する請求項26に、「1又は2以上の活性剤が・・・ニロチニブ・・・から選択される」と記載されるとおり、「ニロチニブ」は、チャネル病を引き起こす活性剤(薬物)である。

そして、引用文献1の30頁29行~35頁24行及びFIGURE1~5(上記(1)オ)には、ニロチニブが脂質に対して比1:9で配合された被検試料であって、脂質として、DMPC(被検試料6)、DMPG(被検試料7)、DMPC/DMPG(90:9)(被検試料8)、14:0 LysoPC(被検試料9)、及び14:0 LysoPG(被検試料10)を含む組成物(31頁21~31行(ファミリー【0129】)及び35頁21~22行(ファミリー【0157】)を使用して、hERG発現ヒト胎児由来腎臓細胞(HEK293細胞)においてニロチニブにより発生させた遅延整流性カリウム選択電流(IKr)に対する防護効果をin vitroで確認した試験結果が記載されているところ、当該試験についての引用文献1の26頁19~31行及び29頁30行~30頁28行(上記(1)エ(ファミリー【0111】及び【0120】~【0122】))並びに30頁29行~31頁13行(同オ(ファミリー【0123】~【0126】))の記載、特に、31頁の10~13行(同オ(ファミリー【0126】))の「この研究は、心筋細胞カリウムチャネルで誘導される薬物によるQTc調節効果、並びにリポソーム及びリポソーム構成成分による緩和に関してさらなる情報を提供する。後者の分子は、薬物誘導性のチャネル病の薬理学的緩和に対する標的としてK+チャネルを探る機会を提示する。」なる記載によれば、当該試験で使用される被検試料は、薬物誘導性のチャネル病の薬理学的緩和を目的とする組成物であるといえるから、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。

「DMPCと、ニロチニブ0.1μMを含み、ニロチニブは、DMPCと1:9で配合される、ニロチニブにより誘導されるチャネル病の薬理学的緩和のための組成物。」(以下「引用発明A」という。)

「DMPGと、ニロチニブ0.1μMを含み、ニロチニブは、DMPGと比1:9で配合される、ニロチニブにより誘導されるチャネル病の薬理学的緩和のための組成物。」(以下「引用発明B」いう。)

「DMPC/DMPG(90:9)と、ニロチニブ0.1μMを含み、ニロチニブは、DMPC/DMPG(90:9)と比1:9で配合される、ニロチニブにより誘導されるチャネル病の薬理学的緩和のための組成物。」(以下「引用発明C」という。)

「14:0 LysoPCと、ニロチニブ0.1μMを含み、ニロチニブは、14:0 LysoPCと比1:9で配合される、ニロチニブにより誘導されるチャネル病の薬理学的緩和のための組成物。」(以下「引用発明D」という。)

「14:0 LysoPGと、ニロチニブ0.1μMを含み、ニロチニブは、14:0 LysoPGと比1:9で配合される、ニロチニブにより誘導されるチャネル病の薬理学的緩和のための組成物。」(以下「引用発明E」という。)

2 引用文献2に記載された事項について

(1)引用文献2には、次の記載がある。

原文は英文なので、当審による和訳で記載する。

ア タイトル

「リポソーム: 製造技術の概要」

イ 713頁4~9行

「リポソーム形成の基本的な原理は、調製方法にかかわらず、脂質-脂質及び脂質-水分子間の親水性/疎水性相互作用である。(超音波処理、ホモジナイズ、振とう、加熱などの形で)エネルギーを与えると、脂質分子が二重層小胞の形で配列し、水相での熱力学的平衡が達成される。」

(2)上記(1)の記載によれば、リポソーム形成には、超音波処理、均質化処理、振とう、加熱などのようなエネルギーの導入が必要であることが、本願優先日当時における技術常識であったといえる。

なお、引用文献2は、請求人が先の拒絶理由に対して提出した先の意見書に添付された、周知技術を示す参考資料3であり、先の意見書において請求人は、リポソームの形成にはエネルギーの導入が必要であると説明している。

第5 当審の判断

1 理由C(引用文献1に基づく新規性欠如)についての判断

(1)対比

本願発明と引用発明A~Eとを対比する。

ア 引用発明A~Eに「ニロチニブにより誘導されるチャネル病」と記載されるとおり、「ニロチニブ」は、心臓チャネル病を誘導するものである。そして、引用文献1の請求項28及びこれを引用する請求項33の記載、並びに、引用文献1の29頁30行~30頁5行(上記第4の1(1)エ(ファミリー【0120】))の「チャネル病」についての「イオンチャネル活性薬物は、QTc間隔を直接増加させて、トルサード・ド・ポアンツ及び突然心臓死のリスクを増加させ得る。」なる記載からみて、引用発明A~Eの「心臓チャネル病を誘導するニロチニブ」は、本願発明の「対象において、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTcの延長、LQT2、LQTS又はトルサード・ド・ポアンツから選択される前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する活性剤誘導性心臓チャネル病又は状態を誘導する1又は2以上の薬理学的活性剤」に相当し、引用発明A~Eの「ニロチニブにより誘導されるチャネル病の薬理学的緩和のため」は、本願発明の「心臓パターンにおける不規則性若しくは変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病若しくは状態を予防又は治療するため」に相当する。

イ 引用発明Aの(i)「DMPC」、引用発明Bの(ii)「DMPG」、引用発明Cの(iii)「DMPC/DMPG(90:9)」、引用発明Dの(iv)「14:0 LysoPC」、及び引用発明Eの(v)「14:0 LysoPG」は、いずれも、本願発明の「脂質」であって、それぞれ、本願発明の(i)「1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)」、(ii)「1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルグリセロール(DMPG)」、(iii)「1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)及び1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルグリセロール(DMPG)」、(iv)「1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(LysoPC)」、(v)「1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(LysoPG)」に相当する。

ウ 引用発明A~Eにおいて、「ニロチニブ」と「DMPC」等の「脂質」は、「比1:9で配合される」ものであり、また、「被検試料の適用:閉鎖循環式灌流(2mL/分)の存在下での各濃度への暴露5分」(32頁1~2行(上記第4の1(1)オ(ファミリー【0131】)))、「化合物又は媒体/溶媒同等物」(32頁9行(同オ(ファミリー【0134】)))なる記載によれば、引用発明A~Eの組成物も「薬理学的に許容される媒介物、溶媒若しくは媒体」中に「溶解、分散又は懸濁」の状態のいずれかでは存在しているといえるから、引用発明A~Eの組成物は、本願発明の「前記活性剤、前記脂質又は両方が、薬理学的に許容される媒介物、溶媒若しくは媒体中に溶解、分散又は懸濁しており、前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10」の範囲内にあるといえる。

エ 引用発明A~Eの組成物に含まれる脂質は、いずれも、本願発明で特定される所定の脂質のみである。

そうすると、本願発明と引用発明A~E(以下、まとめて「引用発明」ともいう。)は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>

「心臓パターンにおける不規則性若しくは変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病若しくは状態を予防又は治療するための組成物であって、
対象において、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTcの延長、LQT2、LQTS又はトルサード・ド・ポアンツから選択される前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する活性剤誘導性心臓チャネル病又は状態を誘導する1又は2以上の薬理学的活性剤と、1若しくは2以上の脂質と
を含み、前記活性剤、前記脂質又は両方が、薬理学的に許容される媒介物、溶媒若しくは媒体中に溶解、分散又は懸濁しており、前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10であり、かつ
前記脂質が、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルグリセロール(DMPG)、1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(LysoPG)、又は1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(LysoPC)のうちの少なくとも1つから選択され、
脂質として前記脂質のみを含む、前記組成物。」

<相違点1>

「脂質」について、本願発明では、「脂質(但し、リポソームの形態を除く)」ものであり、「前記活性剤により引き起こされる前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は前記状態を予防又は低減するのに十分な量で供給される」ものであることが特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がされていない点。

<相違点2>

所定の心臓チャネル病又は状態を誘導する薬理学的活性剤であるニロチニブと所定の脂質の重量比が、10:1~1:10である組成物について、本願発明では、「前記重量比とすることにより」「前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続」くものであることが特定されているのに対し、引用発明では、そのような特性を有することの特定はされていない点。

(2)相違点1について

「脂質(但し、リポソームの形態を除く)」に関し、引用文献1には、引用発明の前提となる実施例における試験について、「この研究は・・・リポソーム及びリポソーム構成成分による緩和に関してさらなる情報を提供する」と記載され、リポソームの形態ではない「リポソーム構成成分による緩和」が明記されているし、実施例の試験は「DMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LysoPG及びLysoPCの防護効果の評価」のためのものであることが記載されている(31頁10~11行及び14~15行(上記第4の1(1)オ(ファミリー【0126】及び【0127】)))。

また、リポソームの形成には、通常超音波処理等のエネルギーを与えるような処理が必要であることは本願優先日当時の技術常識であるところ(上記第4の2(2)参照)、引用文献1には、試験サンプルの調製に際し、超音波処理等の何らかの特別な処理を施したことをうかがわせる記載はないし、後述のとおり、審尋の審尋事項4で、引用例の実施例と本願の実施例が完全に同じ内容であることから、合議体は引用文献1の実施例においても「リポソームの形態ではない」と考えていることを指摘し、両実験の組成物の違いについて釈明を求めたが、請求人は両実験の組成物が「違うものである」ことを主張していない。

そうすると、引用文献1の実施例における被検試料は、リポソームの形態ではないと解され、引用発明も、「脂質(但し、リポソームの形態を除く)」との本願発明の構成を充足すると解される。

さらに、引用発明の組成物は、「ニロチニブにより誘導されるチャネル病の薬理学的緩和のため」に使用されるものであるから、組成物中に「活性剤により引き起こされる前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は前記状態を予防又は低減するのに十分な量で供給される」ものであると解される。

したがって、相違点1は、実質的には、相違点ではない。

(3)相違点2について

本件補正後の本願発明に「前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10であり、前記重量比とすることにより前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続き」と特定されるとおり、「活性剤と脂質の重量比を10:1~1:10とすることにより、前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続く」ことは、所定の組成の組成物であることで自ずから奏される作用・効果に過ぎない。

そして、このことは、令和6年4月17日付け拒絶理由の理由A(明確性要件違反)の(3)において、「前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続」くとの特定に関し、

(a)当該特定は、本願発明の組成物に、「所定の脂質(但し、リポソームの形態を除く)」が、「前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10」で含まれることにより当然に奏される作用、効果を単に記載しているに過ぎないのか、

(b)当該特定により、本願発明の組成物中の何らかの成分や、組成等がさらに限定されることになるのか、いずれであるのかが明らかではない、

旨、指摘した点に関し、

請求人は、令和6年8月21日提出の意見書(以下「本意見書」という。)の3~4頁の2-2(3)において、「請求項1にかかる発明の組成物は、活性剤と脂質の重量比を10:1~1:10とすることにより、前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続くことが明確になりました。」と主張していることとも符合する。

以上のとおり、本件補正後の「前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続き」との特定は、「前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10」で含まれることにより当然に奏される作用、効果を単に記載しているに過ぎないところ、引用発明は、本願発明の「活性剤」に相当する「ニロチニブ」と本願発明の「脂質」に相当する「DMPC」等が、「比1:9で配合される」ものであり、「前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10」で含まれる組成物に相当するものであるから、同じ組成物である以上、引用発明の組成物も、当然に、「前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続く」との作用、効果が発揮されるものである。

したがって、相違点2は、実質的には相違点ではない。

(4)請求人の反論について

ア 意見書の主張

請求人は、本意見書の6頁の「2-4」の「理由C(新規性)、理由D(進歩性)」の項目において、「請求項1にかかる発明の組成物は、脂質としては「リポソームの形態」ではない「所定の脂質」のみを含みます。したがって、ここでの理由は解消したものと思料します。」と述べるのみで、引用発明の組成物が「リポソームの形態ではない」点については具体的な反論をしていない。そして、引用発明の組成物が「リポソームの形態ではない」点については、上記(2)で検討したとおりであるし、引用発明は、上記(1)エで記載したとおり、「所定の脂質のみ」を含むものであるから、これらの点は、引用発明との相違点ではない。

イ 審尋の回答について

当審は、審尋にて、先の拒絶理由における引用文献1に基づく新規性及び進歩性の欠如の拒絶理由に対する先の意見書における主張内容、及び、本願明細書に記載される2つの試験(【0078】~【0111】及び図1~5、並びに【0112】~【0121】及び図6~7)と引用文献1に記載の2つの試験(上記第4の1(1)オ及び(1)カに記載の試験)との関係等について、それぞれ、以下の審尋事項3、4についての回答を求めたところ、請求人より以下の回答があった。

(ア)審尋事項3及びその回答

・審尋事項3

「引用文献1に記載の組成物(引用発明A~E)は、本願発明で特定される比率の範囲内の活性剤と脂質の比率(1:9)のものなので、意見書の2-3(iii)によれば、引用発明A~Eの組成物は、心臓チャネル病の低減が8~24時間続くものと解されますが、それにもかかわらず、意見書の2-4で、「“心臓パターンにおける不規則性若しくは変化に起因する心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続く”ことは引用文献1に記載されておりません」として、新規性欠如及び進歩性欠如の拒絶理由が解消した旨を主張していることは矛盾する主張であると合議体は考えます。これら2つの主張の関係について説明してください。」

・回答

「請求項1に記載の組成物は、・・・リポソームの形態を除く脂質のみを含むことに限定されました。
組成物としてリポソームの形態を除く脂質のみを含む場合において“心臓パターンにおける不規則性若しくは変化に起因する心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続く”という内容が直接引用文献1に記載されておりません。・・・」

(イ)審尋事項4-1~4-3及びその回答

・審尋事項4-1

「本願明細書に記載の上記2つの試験と引用文献1の上記箇所に記載の2つの試験は同じ試験であるとの合議体の考えに同意するか同意されないか、いずれか回答してください。もし、同意されない場合、どこが違うのか説明してください。」

・審尋事項4-2

「本願明細書に記載の2つの試験及び引用文献1の上記箇所に記載の2つの試験について、当該試験サンプル(被検試料)の組成物が「リポソームの形態である」のか、「リポソームの形態ではない」のか、いずれであるのかを説明してください。また、そのように判断する根拠を具体的に説明してください。」

・審尋事項4-3

「本願明細書に記載の2つの試験について、それぞれ、使用した具体的な組成物の形態(溶媒の種類、脂質の形態、活性薬剤と脂質の重量比、データの取得時期)を含む詳細な条件について説明すると共に、請求項1に記載の発明特定事項それぞれとの関係(請求項1の発明特定事項を全て満足するのか否か、満足しない場合、どこが異なるのか)について説明してください。」

・回答

「請求項1に記載の組成物は、本回答書と同日付で提出した手続補正書によりリポソームの形態を除く脂質のみを含むことに限定されました。そのため、引用文献1にかかる発明と本願請求項1にかかる発明とは組成物が異なります。
リポソームの形態ではない、及び/又は活性剤を封入しない脂質のナノ粒子を形成することは可能です。また、脂質が存在するだけで、リポソームが形成されるという結論には至りません。一般的にリポソームは、脂質の混合物を激しく振盪(例えば、超音波処理)すると形成されます。」

(ウ)検討

以上のとおり、当審の審尋事項4-1~4-3に関し、請求人は、「リポソームの形態を除く脂質のみを含むことに限定され」たことから、「引用文献1にかかる発明と本願請求項1にかかる発明とは組成物が異なります」と回答するのみで、本願明細書に記載の試験と引用文献1に記載の試験との違いや調製された組成物の違いについては何ら具体的な説明をしていない。

そして、上記(2)で記載したとおり、引用文献1には、前者の試験における被検試料である引用発明の組成物の調製に際し、超音波処理等の何らかの特別な処理を施したことをうかがわせる記載はないことから、引用発明の組成物は、リポソームの形態ではないと解され、本願発明の「脂質として前記脂質のみを含む」、つまり、所定の脂質(但し、リポソームの形態を除く)のみを含む組成物に相当すると解される。

また、審尋事項3への回答に関しては、上記(3)で記載し、請求人も主張するとおり、本願発明の「前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続く」との特定は、「前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10」で含まれることにより当然に奏される作用、効果を単に記載しているに過ぎないものであり、引用文献1に「心臓パターンにおける不規則性若しくは変化に起因する心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続く」という内容が直接記載されていなくとも、同じ組成からなる組成物である以上、当然に同じ作用、効果が発揮されるものであるし、また、当該記載の有無により、本願発明の組成物と引用発明の組成物が組成物自体として区別されるものでもない。

したがって、審尋の回答を検討しても、上記(2)及び(3)の判断を左右するものではない。

(5)小括

よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。

2 理由D(引用文献1に基づく進歩性欠如)について

以下、引用発明(引用発明A~E)の組成物において、「リポソームの形態」である所定の脂質が含まれており、相違点1及び2が実質的な相違点であり、本願発明が引用文献1に記載された発明であるとまではいえない場合について検討する。

(1)対比

本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、上記1(1)で記載したとおりである。

(2)相違点1及び2について

ア 相違点1の「リポソームを除く」について

引用発明が、本願優先日当時の技術常識(上記第4の2(2)参照)を踏まえても、「脂質(但し、リポソームの形態を除く)」との本願発明の構成を充足するとはいえないとしても、引用文献1には、リポソームの構成成分自体(これは、リポソームの形態ではない)を薬物誘導性のチャネル病の薬理学的緩和のために使用することが示唆されている。

すなわち、引用文献1の30頁29行~31頁13行、特に、31頁7行~13行(上記第4の1(1)オ(ファミリー【0123】~【0126】、特に【0125】及び【0126】))には、「これらのhERGチャネルデータに基づいて、これらのリポソーム構成成分の構造は、薬物誘導性心不整脈を予防するために他の分子を設計又は選択するのに有益となり得る。この研究は、心筋細胞カリウムチャネルで誘導される薬物によるQTc調節効果、並びにリポソーム及びリポソーム構成成分による緩和に関してさらなる情報を提供する。後者の分子は、薬物誘導性のチャネル病の薬理学的緩和に対する標的としてK+チャネルを探る機会を提示する」と、薬物誘導性のチャネル病の薬理学的緩和に「リポソーム構成成分」を使用することが記載され、当該記載に続いて、31頁14行以降(上記第4の1(1)オ(ファミリー【0127】以降))に、引用発明の裏付けとなった、DMPC等の所定の脂質を用いた試験について記載されている。

また、引用文献1の38頁1行~39頁14行及びFIGURE8(上記第4の1(1)キ(ファミリー【0169】~【0175】))には、「リポソーム分解産物の経口製剤は、in vivoで静脈内モキシフロキサシン誘導性QTc延長を緩和する」(同キ(ファミリー【0169】)参照)と記載され、「個々のリポソーム構成成分DMPC及びDMPG並びにそれらの分解産物が、ウサギ及びラットに静脈内投与されると、in vitroでhERGチャネルに対するニロチニブの効果を抑止した」(38頁13~15行(同キ(ファミリー【0170】)))との結果に基づいて、モキシフロキサシン(静注)により誘導される後天性QT延長症候群(LQTS)に対するリポソームの分解生成物のうちの1つの経口製剤の効果を試験したところ、LQTS誘導薬であるモキシフロキサシンと経口LysoPGを比率1:9で組み合わせた場合に、モキシフロキサシンにより誘導されたQTc延長が低減されたことが示されている。

そうすると、引用発明において、引用文献1の上記記載に基づいて、脂質をリポソームの形態ではない「リポソームの構成成分」の形態として、「脂質(但し、リポソームの形態を除く)」との本願発明の相違点1に係る構成を充足するものとすることは当業者が適宜なし得ることである。

イ 相違点1の、脂質が、心臓チャネル病等を予防又は低減するのに「十分な量」で供給される点について

引用発明の組成物は、「ニロチニブにより誘導されるチャネル病の薬理学的緩和のため」に使用されるものであるから、組成物中に「活性剤により引き起こされる前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は前記状態を予防又は低減するのに十分な量で供給される」ものであると解されるが、仮にそうとはいえない場合であっても、引用発明の組成物における脂質の量を「ニロチニブにより誘導されるチャネル病の薬理学的緩和」に十分な量とすること、つまり、本願発明の「活性剤(ニロチニブ)により引き起こされる前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は前記状態を予防又は低減するのに十分な量」に相当する量とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

ウ 相違点2について

上記1(3)で記載したとおり、引用発明は、本願発明の「前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10」で含まれる組成物に相当するものであるから、「前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続く」との作用、効果が発揮されるものであるといえるから、相違点2に係る本願発明の構成を充足するものである。

エ したがって、相違点1及び2が実質的な相違点である場合であったとしても、引用発明を、相違点1及び2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、引用文献1に記載の示唆に基づいて当業者が容易になし得ることにすぎない。

(3)効果について

ア 本願発明の効果に関し、本願明細書には、【0013】及び【0125】に、本願発明の組成物の投与により薬物誘導心臓チャネル病の防護が「1~24時間続く」、「8~24時間さえ続いた」と形式的な記載がされているのみで、それを実証する薬理試験結果の記載はなされていない。

そして、上記(2)のとおり、引用発明は、本願発明の「前記活性剤と前記脂質の重量比が、10:1~1:10」で含まれる組成物に相当するものであるから、「前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態の低減が8~24時間続く」との作用、効果が発揮されるものであるといえるから、この点において、効果上の差異があるとは認められない。

イ また、上述のとおり、そもそも本願明細書には【0013】及び【0125】に、薬物誘導心臓チャネル病の防護が「1~24時間続く」、「8~24時間さえ続いた」と形式的に記載されていたのみで、具体的な薬理試験として記載されていたものは、引用文献1に記載されている薬理試験と同じであり、その結果も同じである。しかも、引用文献1には43頁以降に、in vivoの試験例として、14:0 LysoPG/ミリストイルモノグリセリド/ミリスチン脂肪酸鎖で構成されたブレンド共融物である(したがって、リポソームの形態ではない)脂質を併用投与した結果も記載されるなど、より多くの薬理試験結果が記載されている。

さらに、引用文献1では、細胞に脂質及び薬剤(ニロチニブ)を含む水溶液(被検試料)に5分間暴露後洗い流す試験において、1日目に記録した電流と2日目、3日目及び4日目に得られる記録した電流を比較(32頁1~3行及び16~17行(上記第4の1(1)のオ(ファミリー【0131】及び【0136】)))した結果、有意に薬剤によるhERG電流密度低下を抑制したことが示されているのであるから、結果がどの時点のデータかは不明であるものの、少なくとも1日が経過した後(24時間後)でも効果が継続していることからすると、脂質を含有することによって薬剤誘導性のチャネル病又は状態の低減が8~24時間続くことは、当業者が引用文献1から全く想定できないような効果であるとも解されない。

ウ 請求人の主張について

請求人は、回答書の「2-5」において、モキシフロキサシン及び脂質であるDMPC等の投与を併用した場合等についてのin vivoの追加データを示すとともに、回答書の「2-3」のなお書きにおいて、参考資料1(Molecular Therapy,2013,vol. 21,No.8,p.1570-1578;doi:10.1038/mt.2013.124)の1573頁右欄12~13行に、静脈注射後の脂質レベルに関し、「推定血漿半減期は30分未満」と記載されていることから、当業者は、本願請求項1にかかる発明の脂質の半減期は30分未満であると考えるはずであるところ、リポソームの形態を含まないにもかかわらず、実際8時間から24時間も心臓パターンにおける不規則性若しくは変化に起因する心臓チャネル病又は状態の低減効果を延長することは驚くべきことである旨主張している。

しかしながら、回答書で示された追加データは、まず脂質を経口投与し、30分後に薬理学的活性剤を静脈注射するものであるし、脂質と薬理学的活性剤を別の経路・タイミングで併用投与する場合の試験結果のデータであって、薬理学的活性剤と脂質を含む「組成物」を投与した試験結果についてのデータではない。

仮に、当該試験結果から「組成物」の効果を推認し得る場合であっても、追加されたデータは、薬理学的活性剤単独と、前記活性剤と脂質との併用投与を比較した効果を示すものであって、前記活性剤と併用投与する脂質の形態が、リポソームの形態である場合とリポソームの形態ではない場合とを比較した効果を示すものではないから、脂質がリポソームの形態ではないことによる優れた効果を示すものではない。

(4)小括

以上のとおりであるから、本願発明が引用文献1に記載された発明であるとまではいえない場合であっても、少なくとも、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるし、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、本願の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-008038

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