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特許拒絶査定不服審判

2023-020931

進行した転移性がんの治療

審判番号
2023-020931
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-000144
請求日
2023年12月08日
審決日
2025年08月06日
公報発行日
2026年01月30日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】キャン-ファイト バイオファーマ リミテッド
  • 【請求人代理人】弁理士法人北青山インターナショナル
審判長/審判官
  • 審判長 藤原 浩子
  • 審判官 渕野 留香
  • 審判官 井上 千弥子
分類
P18 .113-Z (A61K) / P18 .121-Z (A61K) / P18 .575-Z (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022-144「進行した転移性がんの治療」拒絶査定不服審判事件〔令和5年7月14日出願公開、特開2023-99919〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和4年1月4日を出願日とする特許出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。 令和 5年 3月13日付け 拒絶理由通知書 同年 6月22日 意見書及び手続補正書の提出 同年 8月 7日付け 拒絶査定 同年12月 8日 審判請求書及び手続補正書の提出 第2 令和5年12月8日提出の手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和5年12月8日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は補正箇所を示す。) 「【請求項1】 2-クロロ-N6-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロナミド(Cl-IB-MECA)、及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物が、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア7(CPB7)、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア8(CPB8)、又はChild-Pugh B(CPB)肝硬変スコア9(CPB9)の進行した肝細胞がんを有する哺乳動物対象の全生存率を増加させるためのものであり、全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定され、かつ、前記進行した肝細胞がんの長期の完全な寛解を達成するためのものである、医薬組成物。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、令和5年6月22日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 2-クロロ-N6-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロナミド(Cl-IB-MECA)、及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物が、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア7(CPB7)、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア8(CPB8)、又はChild-Pugh B(CPB)肝硬変スコア9(CPB9)の進行した肝細胞がんを有する哺乳動物対象の全生存率を増加させるためのものであり、全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定される、医薬組成物。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「医薬組成物」を「前記進行した肝細胞がんの長期の完全な寛解を達成するためのものである」と限定する補正であって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の、請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)引用文献の記載事項 ア 引用文献1の記載事項 令和5年8月7日付け拒絶査定(以下「原査定」という。)における拒絶の理由において「引用文献1」として引用され、本願の出願前に公開された「特表2015-504088号公報」(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、原文にない下線は、当審が付した。 (摘記1a) 「【請求項1】 ヒト対象の肝細胞がん(HCC)の治療に使用する、少なくとも約10mg/日の容量の2-Chloro-N6-(3-iodobenzyl)-adenosine-5’-N-methyluronamide(Cl-IB-MECA)。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】) (摘記1b)「【0009】 本開示は、肝細胞がん(HCC)に罹患しているヒト対象における研究結果に基づいている。本開示によれば、(i)アデノシンA3受容体アゴニスト(A3AR)、2-Chloro-N6-(3-iodobenzyl)-adenosine-5’-N-methyluronamide(Cl-IB-MECA)で治療したヒト対象が、対象の肝機能を表すいくつかの生理学的パラメータで実質的に安定レベルを維持していること、及び(ii)HCC対象の予想を超えた生存率の延長によって証明されるように、Cl-IB-MECAの所定の投与量が、HCCの治療に有効であること、が示されている。」(【0009】) (摘記1c)「【0057】 治療態様に関して言えば、Cl-IB-MECAが、ソラフェニブで治療している対象といった、肝機能障害をもつことによるおよそ不良転帰のチャイルドビューB対象の治療に有効であることを発見したことは驚くべきことである。従って、この結果、Cl-IB-MECAは、予期しないことにこの亜母集団の治療に適しているということである。」(【0057】) (摘記1d)「【0062】 治療態様のコンテキストにおいて、用語「治療」は、腫瘍又は腫瘍に関連する症状についての毎日の治療投与におけるCl-IB-MECAの投与から生じる何らかの効果であると解するべきであり、これには、限定するものではないが、治療を受けている対象の生存率、腫瘍の部分的又は全体的な縮小、腫瘍の除去、普通の健康な対象を含む腫瘍の縮小又は除去を表す症状の改善、及び、肝機能障害を表す一またはそれ以上の生理学的パラメータの改善が含まれる。 ・・・ 【0064】 Cl-IB-MECAは、単回投与として、あるいは長期治療において対象に与えることができる。」(【0062】~【0064】) (摘記1e)「【0066】 Cl-IB-MECAは、薬学的に許容可能なキャリア、すなわち、不活性で、Cl-IB-MECAと反応せず、製剤に希釈剤又はキャリアとして加えることができる、あるいは、製剤を形作る又は粘度を与える、無毒な材料と共に使用できる。・・・」(【0066】) (摘記1f)「【0073】 非限定的実施例の説明 実施例1:進行した肝細胞がんに罹患している対象の肝機能の長期維持 【0074】 試験群: すべての対象は18歳以上であり、不治の進行した、難治性又は転移性の肝細胞がん(HCC)であり、肝硬変を伴わない対象には、細胞学及び/又は組織学によって、あるいは、肝硬変を伴っている対象には米国肝臓病学会の診療指針アルゴリズムに従って、記録した。 【0075】 すべての対象は、固形がんの治療効果判定のためのガイドライン(RECIST)によって測定可能な疾病を持ち;ベースライン時の米国東海岸がん臨床試験グループ(ECOG)のがんの状態を表す指標が0、1、又は2;チャイルド・ビューによる肝硬変の状態がA又はB;十分な腎機能及び血液機能があり;出産可能な女性については妊娠テストが負であり;及び平均余命が≧12週であった。 ・・・ 【0079】 [図:0001430481000001.jpg] 【0080】 対象: 進行した肝細胞がん(HCC)対象における経口投与したCl-IB-MECA(CF102)の、安全性、耐性、薬物動態、及び薬物力学を評価するために、1-2相の、非盲検の、容量漸増試験を行った。 ・・・ 【0083】 材料: Albany Molecular Research Inc,Albany,NY,USA によって、Can-Fite BioPharma社用に合成したA3ARアゴニストである、2-Chloro-N6-(3-iodobenzyl)-adenosine-5’-N-methyluronamide(C1-OB-MECA、略してCF102)。 【0084】 方法: この試験は、従来の「three plus three」デザインを使用した。対象に、連続した28日サイクルでCF102を経口投与して治療した。CF102の初回投与量は1日2回(BID)1mgであり、毒性による制限がない限り、順次5mgと25mgBIDに増やしていった。第1サイクルは1週間ごとに、第2及び第3サイクルは2週間ごとに、また、CF102治療の最大6サイクルまで、各順次のサイクルの最後に、対象を評価した。第1ステージでは、9人の対象を投与量漸増段階用に登録し、追加の9人を投与量確認段階用に登録した。更に、9人の対象が、プロトコルごとに対象内投与量漸増を行った。試験薬の最後の投与が終了した後、28日間外来通院した。治験責任医師の裁量と、スポンサーの同意によって、この薬剤に耐えて、HCCが進行しなかった対象は、CF102の投与を続けることが許された(例えば、延長プロトコル)。 ・・・ 【0088】 結果 1.安全性データ ・・・ 【0089】 2.薬物動態-CF102は良好な経口バイオアベイラビリティを有する ・・・ 【0090】 3.有効性、全生存率(OS)データ 18人の対象のデータの中央値OSは、7.82月(3.5-27.3月の範囲)であり、一人の対象は41か月間CF102を受けており、薬剤を続けている。この研究の更なる重要な発見は、ソラファニブが欠失しており、維持治療としてCF102で治療した12人の対象の中央値OSが7か月(3.5-13.2か月の範囲)であることである。更に、5人のチャイルド・ビューB対象の中央値OSは、8.1か月であった(7.0-13.2か月の範囲)(表2)。 【0091】 [図:0001430481000002.jpg] 【0092】 投与によるCF102治療期間の分析は、CF102治療の最長期間が25mg当量(61.2か月)であることを示している。対象は、5mg当量で49.9か月、1mg当量で24.2か月それぞれ治療を行った。 【0093】 これらのデータは、Worns et al.(Worns et al.Onclolgy 2010:79:85-92)によって提示されている比較可能な対象群を用いた以前の実験のコンテキストと併用すると、特に、顕著である。この文献の表2には、スニチニブで治療したチャイルド・ビューBの対象の中央値OSが、本願のCF102研究における8.1か月に対して、3.5か月であったことが示されている。チャイルド・ビューB対象が、対象の肝臓の状態のため、ソラフェニブでの治療に適さないことを考慮すると、CF102は、この対象の亜母集団に好ましい薬剤である。」(【0073】~【0093】) イ Child-Pugh分類について 「疾肝啓発~よくわかる肝臓の病気~」の「肝硬変|肝硬変の分類」、あすか製薬株式会社、2019年(令和元年)12月23日保存、令和7年7月9日検索、(https://web.archive.org/web/20191223023303/https://www.aska-pharma.co.jp/kansikkan/disease/13.html)には、Child-Pugh分類について以下の事項が記載されている。 「 [図:0001430481000003.jpg] 」 上記記載によれば、Child-Pugh分類とは、肝硬変の重症度を示す分類であって、所定の検査結果の合計点数により3段階(グレード)に分類され、5~6点はGradeA(軽度)、7~9点はGradeB(中等度)、10~15点はGradeC(高度)であることが理解できる。 (3)引用文献1に記載された発明 引用文献1には、ヒト対象の肝細胞がん(HCC)の治療に使用する、2-Chloro-N6-(3-iodobenzyl)-adenosine-5’-N-methyluronamide(Cl-IB-MECA)が記載され(摘記1a)、Cl-IB-MECAが、チャイルドビューB対象の治療に有効であることを発見したと記載されている(摘記1c)。 具体的には、実施例1として、進行した肝細胞がん(HCC)の対象に、「2-Chloro-N6-(3-iodobenzyl)-adenosine-5’-N-methyluronamide(C1-OB-MECA、略してCF102)」を投与して治療した結果(摘記1f【0074】、【0080】、【0083】、【0084】。なお、「C1-OB-MECA」の「OB」は、「iodobenzyl」の略称であり、摘記1aなど引用文献1の他の箇所では「IB」と記載されていることから、「IB」の自明な誤記と認める。)、チャイルド・ビューB対象の全生存率(OS)が中央値で8.1か月であったことが記載されている(摘記1f【0090】、【0091】の表2)。そして、チャイルド・ビューB対象をスニチニブで治療した全生存率(OS)の中央値が3.5か月であったのに対し、Cl-IB-MECA(CF102)で治療した全生存率(OS)の中央値が8.1か月であったことから(摘記1f【0093】)、Cl-IB-MECA(CF102)は、チャイルド・ビューB対象の全生存率(OS)を増加するものである。また、上記全生存率(OS)の結果から、Cl-IB-MECA(CF102)はチャイルド・ビューB対象に好ましい薬剤であると結論付けられている(摘記1f【0093】)。 以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 <引用発明> 「チャイルド・ビューBである進行した肝細胞がん(HCC)のヒトを対象とする肝細胞がんの治療に使用する、2-Chloro-N6-(3-iodobenzyl)-adenosine-5’-N-methyluronamide(Cl-IB-MECA)を含むチャイルド・ビューB対象の全生存率(OS)を増加する薬剤。」 (4)対比 ア 引用発明の「2-Chloro-N6-(3-iodobenzyl)-adenosine-5’-N-methyluronamide(Cl-IB-MECA)を含む」「薬剤」は、本件補正発明の「2-クロロ-N6-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロナミド(Cl-IB-MECA)」「を含む医薬組成物」に相当する。 イ 引用発明の「チャイルド・ビュー」とは、肝硬変の状態を表す用語(摘記1f【0075】)であることからみて、肝硬変の分類である「Child-Pugh(チャイルド・ピュー)」と同義であって、引用発明の「チャイルド・ビューB」のヒトとは、「Child-Pughスコアが7~9」のヒトである(上記(2)イ参照。)。 そして、引用発明の「ヒト」は「哺乳動物」であるから、引用発明の「チャイルド・ビューBである進行した肝細胞がん(HCC)のヒト」は、本件補正発明の「Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア7(CPB7)、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア8(CPB8)、又はChild-Pugh B(CPB)肝硬変スコア9(CPB9)の進行した肝細胞がんを有する哺乳動物」に相当する。 ウ また、引用発明の「チャイルド・ビューBである進行した肝細胞がん(HCC)のヒトを対象とする」「チャイルド・ビューB対象の全生存率(OS)を増加する薬剤」は、本件補正発明の「Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア7(CPB7)、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア8(CPB8)、又はChild-Pugh B(CPB)肝硬変スコア9(CPB9)の進行した肝細胞がんを有する哺乳動物対象の全生存率を増加させるためのもの」に相当する。 エ 以上によれば、本件補正発明と引用発明の一致点及び一応の相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「2-クロロ-N6-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロナミド(Cl-IB-MECA)を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物が、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア7(CPB7)、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア8(CPB8)、又はChild-Pugh B(CPB)肝硬変スコア9(CPB9)の進行した肝細胞がんを有する哺乳動物対象の全生存率を増加させるためのものである、医薬組成物。」 <一応の相違点1> 本件補正発明は、「薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む」のに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点 <一応の相違点2> 本件補正発明は、「全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定され、かつ、前記進行した肝細胞がんの長期の完全な寛解を達成するためのもの」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点 (5)判断 ア 一応の相違点1について 薬剤は、通常、有効成分のみならず、「薬学的に許容される担体又は希釈剤」を含んでおり、引用文献1にも、Cl-IB-MECAは、薬学的に許容可能なキャリア又は希釈剤と共に使用できると記載され(摘記1e)、当該「キャリア」は「担体」と同義であるから、引用発明の薬剤も「薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む」ものと認められる。 したがって、一応の相違点1は、実質的な相違点ではない。 イ 一応の相違点2について (ア)引用文献1には、実施例1として、Cl-IB-MECA(CF102)を投与し(摘記1f【0084】)、その結果、チャイルド・ビューB対象の全生存率(OS)の中央値は8.1か月(7.0-13.2か月の範囲)であったと記載されているから(摘記1f【0090】)、引用文献1には、治療開始からの生存期間が13.2か月のチャイルド・ビューB対象が存在したことが記載されているといえる(摘記1f【0091】、表2の患者番号317)。そして、治療開始からの生存期間が13.2か月の対象が存在したということは、実施例1においては、12か月以上の治療期間の後に全生存率の増加が測定されていると認められる。 そうすると、引用発明の薬剤は、「全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定され」るものである。 (イ)また、引用文献1には、Cl-IB-MECAは、長期治療において対象に与えることができると記載され(摘記1d)、実施例1では、連続した28日という一定のサイクルで投与し、薬剤に耐えて、HCCが進行しなければ投与を続けること(摘記1f【0084】)、18人の対象のうち、一人の対象は41か月間、薬剤を続けていることが記載されているから(摘記1f【0090】)、Cl-IB-MECAを含む薬剤は、一定のサイクルで長期間治療を続けることが予定されているといえる。 さらに、引用文献1には、「治療」として腫瘍の縮小、除去が記載されているところ(摘記1d)、腫瘍の縮小、除去が進行すると完全な寛解に達するから、引用発明の薬剤は、一定のサイクルで長期間治療を続けることで、腫瘍が縮小、除去され、長期の完全な寛解を達成するための薬剤であるといえる。 そうすると、引用発明の「進行した肝細胞がん(HCC)のチャイルド・ビューBのヒトを対象とする肝細胞がんの治療に使用する」薬剤は、「進行した肝細胞がん」の「長期の完全な寛解を達成するためのもの」である。 (ウ)上記(ア)、(イ)によれば、引用発明は、「全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定され」、かつ、「進行した肝細胞がんの長期の完全な寛解を達成するためのもの」であるから、一応の相違点2は、実質的な相違点ではない。 ウ したがって、一応の相違点1及び2は、いずれも実質的な相違点ではなく、本件補正発明と引用発明の間に差異はないから、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明である。 (6)また、仮に、一応の相違点1及び2が実質的な相違点であったとしても、以下のとおり、引用文献1の記載に接した当業者は、引用発明において、「薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む」ものとすること、「全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定され、かつ、前記進行した肝細胞がんの長期の完全な寛解を達成するためのもの」とすることを容易に想到し得るといえる。 ア 一応の相違点1について 上記(5)アのとおり、薬剤は、通常、有効成分のみならず、「薬学的に許容される担体又は希釈剤」を含んでおり、引用文献1にも、Cl-IB-MECAは、薬学的に許容可能なキャリア又は希釈剤と共に使用できると記載され(摘記1e)、当該「キャリア」は「担体」と同義であるから、引用発明の薬剤において、「薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む」ものとすることは、当業者が容易に行うことである。 イ 一応の相違点2について (ア)上記(5)イ(ア)のとおり、引用文献1には、治療開始からの生存期間が13.2か月のチャイルド・ビューB対象が存在したことが記載されており、治療開始からの生存期間が13.2か月である対象が存在したということは、12か月以上の治療期間の後に全生存率の増加が測定されていると認められる。 加えて、上記(5)イ(イ)のとおり、Cl-IB-MECAを含む薬剤は、一定のサイクルで長期間治療を続けることが予定されているのであるから、引用発明の薬剤において、12か月以上の長期間治療を続けることで、「全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定され」るものとすることは、当業者が容易に行うことである。 (イ)また、上記(5)イ(イ)のとおり、Cl-IB-MECAを含む薬剤は、一定のサイクルで長期間治療を続けることが予定され、腫瘍の縮小、除去が進行すると完全な寛解に達するから、引用発明の「進行した肝細胞がん(HCC)に罹患しているチャイルド・ビューBのヒトを対象とする肝細胞がん治療に使用する」薬剤において、長期間治療を続けて腫瘍の縮小、除去が進行することで、「進行した肝細胞がん」の「長期の完全な寛解を達成するためのもの」とすることは、当業者が容易に行うことである。 (ウ)上記(ア)、(イ)によれば、引用発明において、「全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定され」、かつ、「進行した肝細胞がんの長期の完全な寛解を達成するためのもの」とすることは、当業者が容易に行うことである。 ウ 本件補正発明の効果について (ア)本件補正発明の効果に関連して、本願明細書には以下の記載がある。 (摘記a)「【0031】 本発明は、ナモデノソン(Cl-IB-MECA)で治療されたCPBを伴う進行したHCCを有するある患者が5年の治療後に前例のない結果及びがんの完全な寛解を示したという驚くべき発見に基づく。この患者は、進行したHCC CPB患者におけるナモデノソンとプラセボの有効性/安全性を評価する、無作為化プラセボ対照第II相試験に含まれていた。さらに、この第II相試験では、治療を受けた患者の12か月の全生存率の増加におけるナモデノソンの驚くべき有効性が示された。」(【0031】)(なお、「CPB」は「Child-Pugh B」であり(【0003】)、「HCC」は「肝細胞がん」である(【0002】)。) (摘記b)「【実施例】 【0136】 試験参加者 試験対象集団は、ソラフェニブに忍容性のなかった、又は以前にソラフェニブ治療で疾患が進行した、進行期/治療抵抗性のHCC及びCPB肝硬変の18歳以上の患者で構成された。・・・ ・・・ 【0137】 試験デザイン及び治療法 本試験は、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照臨床試験(ClinicalTrials.gov ID:NCT02128958)であった。本試験は、イスラエル、欧州、米国の15施設で実施された。 【0138】 対象は参加施設によって登録され、独立した生物統計学者によって作成された中央無作為化スケジュールを用いて、無作為化前の層別化は行わず、2対1の割合で無作為に割り付けられた。患者はナモデノソン(Cl-IB-MECA)25mg又は適合するプラセボに無作為に割り付けられ、非忍容性、同意撤回、又は死亡による中止まで12時間ごとに経口投与された。治療は継続的に行われたが、データ記録のために治療期間を4週間サイクルに分けた。当初、クロスオーバーは認められなかったが、プロトコール修正により、盲検下での治療を継続する患者には、治療割り付けを解除した上で、ナモデノソン(25mg1日2回)が提供された。試験実施施設のスタッフは、試験期間中、患者の治療について盲検化されていた。 ・・・ 【0140】 評価項目 本試験の主要評価項目は全生存期間(OS)であった。副次評価項目は、無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、安全性とした。進行したHCCと同様に、PFSはOSと中程度の相関があることが判明しており、本疾患においてPFSは妥当な副次評価項目である[Llovet J.M.,et al.,J.Hepatol.2019,70:1262-1277]。疾患反応性評価は、RECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)バージョン1.1[Eisenhauer E.A.,et al.Eur.J.Cancer.2009;45:228-247]を用いて独立盲検放射線医2人が局所的に評価しました。・・・」(【0136】~【0140】) (摘記c)「【0143】 実施例1 第II相盲検無作為化プラセボ対照試験において、ナモデノソンの評価対象用量は経口25mg BID(1日2回)、対象は二次治療としてナモデノソンの投与を受けた進行した肝細胞がん(HCC)及びCPB肝硬変患者78人であった。患者はナモデノソン25mg BID(n=50)又はプラセボ(n=28)に2対1で無作為に割り付けられた。 ・・・ 【0145】 初期結果の分析 抗腫瘍効果に関しては、主要評価項目であるOSのプラセボに対する優越性は満たされなかった。OSの中央値はナモデノソンで4.1カ月、プラセボで4.3カ月だった(ハザード比[HR]、0.82;95%信頼区間[CI]0.49-1.38;p=0.46)。同様に、無増悪生存期間(PFS)に関しても優越性は認められなかった。・・・ ・・・治療群別のOSと、性別、アルファフェトプロテイン値、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)パフォーマンスステータス(PS)、HPB、HPCの状態、局所療法、肝外拡散の状態、門脈血栓症の状態による層別化を比較した探索的解析では、いずれのサブグループにおいても試験群間で統計的に有意な差は見られず、これは一部の群ではサンプルサイズが比較的小さいことが起因している可能性がある。 【0146】 長期治療の分析 しかし、初期結果とは対照的に、12か月のOS率の差は統計的に有意であった(ナモデノソン群とプラセボ群でそれぞれ44%と18%、p=0.028)(図1)。 【0147】 ベースライン後の評価が1回以上可能であった全患者(55名、ナモデノソン投与34名、プラセボ投与21名)の反応を解析した結果、ナモデノソン投与群ではCRが1名、PRはナモデノソン投与群3名(9%)に対してプラセボ群では皆無であった(表1参照)。PRを達成した3名の患者の奏効期間は、2ヶ月、6ヶ月、26ヶ月であった。 【0148】 [図:0001430481000004.jpg] 【0149】 上記表1に示すように、1名の患者が完全奏効を示した。この患者は、肝細胞がん(HCC)を対象としたナモデノゾンの第II相試験の非盲検延長プログラムで5年間の治療を受け、ナモデノゾンでがん病巣がすべて消失したことを意味する完全奏効(CR)を経験した。 【0150】 基礎疾患にChild Pugh B7(CPB7)肝硬変を有する進行した転移HCC患者は、ナモデノソン(25mg、1日2回経口投与)治療により、現在5年間生存している。患者の胸部、腹部、骨盤のスキャンにより、腹水が消失し、肝機能が正常になり、腹膜がん腫症が消失し、がん病巣が完全に消失するなどの臨床的治療効果が得られていることが示されている。」(【0143】~【0150】) (摘記d)「【図1】 [図:0001430481000005.jpg] 」(【図1】) (イ)上記(ア)のとおり、本願明細書には、ナモデノソン(Cl-IB-MECA)で治療されたCPB(Child-Pugh B)を伴う進行したHCC(肝細胞がん)を有するある患者が、5年の治療後に前例のない結果及びがんの完全な寛解を示し、さらに、12か月の全生存率が増加したと記載されている(摘記a)。 具体的には、実施例において、進行した肝細胞がん(HCC)を有するCPB(Child-Pugh B)の患者を対象に、ナモデノソン(Cl-IB-MECA)を経口投与して治療を行った結果、12か月のOS率(全生存率)が44%であり、34名中1名がCR(完全奏功)し、治療後5年間生存していることが記載されている(摘記b~d)。 (ウ)しかしながら、上記(3)のとおり、引用文献1にもCl-IB-MECAがチャイルド・ビューB対象の全生存率を増加することが記載されているから、本願明細書に記載された全生存率が増加するとの効果は、引用文献1にも記載されている効果である。 そして、12か月での生存率が44%という具体的な治療結果について検討しても、引用文献1に記載されているCl-IB-MECAがチャイルド・ビューB対象の全生存率を増加するとの効果を、治療後12か月時点で確認したにすぎないと認められる。 また、上記(5)イ(イ)のとおり、引用文献1には、「治療」として腫瘍の縮小、除去が記載され、腫瘍の縮小、除去が進行することで完全奏功になるといえるから、本願明細書における、34名中1名が完全奏功し、治療後5年間生存していることは、引用発明の薬剤が治療効果を発揮して腫瘍が縮小、除去された結果を、治療後5年経過後に確認したにすぎないと認められる。 そうすると、本願明細書に記載された本件補正発明の効果は、引用発明の薬剤が奏する効果を、治療後12か月又は5年経過後に確認しただけであって、引用文献1の記載から予測し得ないような優れた効果ということはできない。 エ 以上によれば、上記一応の相違点が実質的な相違点であったとしても、当業者は、引用発明において、「薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む」ものとすること、「全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定され、かつ、前記進行した肝細胞がんの長期の完全な寛解を達成するためのもの」とすることを容易に想到し得るから、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (7)請求人の主張について ア 請求人は、令和5年12月8日提出の審判請求書において、概略、以下の(ア)、(イ)の理由を挙げて、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明ではなく、当業者が引用文献1の内容に基づいて容易に想到し得たものでもないと主張している。 (ア)本願明細書には、臨床試験において以下の結果が得られたことが記載されている。 (i)Child-Pugh肝硬変スコア(CPスコア)がBである進行した肝細胞癌(HCC)患者の全生存率の有意な増加。 (ii)具体的に詳述された治療効果:プラセボ投与患者では部分奏効(PR)が得られなかったのに対し、Cl-IB-MECA投与患者では3例(8.8%)で部分奏効(PR)が得られた(本願明細書の表1を参照)。さらに、1人の患者は、Cl-IB-MECAによる治療開始から5年後に腫瘍の完全寛解(CR)を示した(同表1を参照)。 これに対して、引用文献1には、Cl-IB-MECAによる治療が進行した肝細胞がんの寛解に関して驚くべき長期的効果を発揮し得ることは、何ら開示されておらず、示唆もされていない。 (イ)現在のところ、中等度の肝機能障害(Child-Pugh B肝硬変;CPB)を伴う進行した肝細胞癌(HCC)患者に対する確立された治療法は存在しない。よって、これらの患者集団は、明らかに医学的要求が満たされていない。このことから、Cl-IB-MECAによる治療が腫瘍寛解に及ぼす卓越した効果は、引用文献1の開示に照らして決して自明なものではない。 イ そこで、上記請求人の主張について検討する。 請求人は、本願明細書には、臨床試験で得られた治療効果が具体的に詳述されているのに対し、引用文献1には当該効果が記載も示唆もされておらず、現在のところ、Child-Pugh Bを伴う進行した肝細胞癌(HCC)患者に対する確立された治療法は存在しないから、腫瘍寛解に及ぼす卓越した効果は決して自明ではないと主張するが、効果が確認されたか否かにかかわらず、上記(5)ウのとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明である以上、本件補正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である。 そして、仮に、本件補正発明の効果について検討したとしても、上記(6)ウ(ウ)のとおり、請求人が主張する上記アの効果は、引用発明の薬剤が奏する効果を、治療後12か月又は5年経過後に確認しただけであって、引用文献1の記載から予測し得ないような優れた効果ということはできない。 ウ したがって、請求人の主張は、採用することができない。 (8)小括 よって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明であり、また、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、また、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1~16に係る発明は、令和5年6月22日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 2-クロロ-N6-(3-ヨードベンジル)-アデノシン-5’-N-メチルウロナミド(Cl-IB-MECA)、及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物が、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア7(CPB7)、Child-Pugh B(CPB)肝硬変スコア8(CPB8)、又はChild-Pugh B(CPB)肝硬変スコア9(CPB9)の進行した肝細胞がんを有する哺乳動物対象の全生存率を増加させるためのものであり、全生存率の増加が、12ヶ月以上の治療期間の後に測定される、医薬組成物。」 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対応する請求項1に係る発明についての拒絶の理由は、次のとおりである。 1.(新規性)本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.(進歩性)本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特表2015-504088号公報 3 当審の判断 (1)引用文献1の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記第2の2(2)のとおりである。 (2)本願発明と引用文献1に記載された発明の対比、判断 上記第2の2で検討したとおり、本願発明の「医薬組成物」を「前記進行した肝細胞がんの長期の完全な寛解を達成するためのものである」に限定したものが本件補正発明であるから、本願発明は、本件補正発明を包含するものである。 そして、本件補正発明は、上記第2の2のとおり、引用文献1に記載された発明であり、また、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明を包含する本願発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明であり、また、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-020931

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