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特許拒絶査定不服審判

2022-007356

光学積層体および該光学積層体を用いた有機エレクトロルミネセンス表示装置

審判番号
2022-007356
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-187988外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年05月17日
審決日
2023年06月19日
公報発行日
2023年09月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (G02B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第50条の2
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-187988「光学積層体および該光学積層体を用いた有機エレクトロルミネセンス表示装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 2月12日出願公開、特開2021- 15307〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 9項目
理 由

第1 手続の経緯

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本願は、平成28年11月15日(優先権主張 平成27年11月20日)の出願である特願2016-222251号の一部を令和2年11月11日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 3年10月14日付け:拒絶理由通知書(特許法第50条の2の通知を伴うもの)
令和 3年12月17日 :意見書・手続補正書
令和 4年 2月16日付け:令和3年12月17日に提出された手続補正書によりされた手続補正の却下の決定・拒絶査定
令和 4年 5月17日 :審判請求書・手続補正書
令和 5年 2月 9日付け:拒絶理由通知書
令和 5年 4月12日 :意見書・手続補正書(以下、この手続補正書によりされた補正を「本件補正」という。)

第2 当審における拒絶の理由

当審における令和5年2月9日付け拒絶理由通知書(以下「当審拒絶理由通知書」という。)の拒絶の理由は、本件補正前の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である後記引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献等一覧

1 特開2014-170221号公報

2 特開2015-106053号公報(周知例)

3 特開2015-106150号公報(周知例)

第3 当審の判断

1 本願発明の認定

本願の請求項1に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「有機エレクトロルミネセンス表示装置に用いられる光学積層体であって、
表面保護層と偏光子と光学補償層とをこの順に備え、
該表面保護層が可撓性であり、有機エレクトロルミネセンス表示装置のカバーガラスを代替する機能を有し、かつ、偏光子の保護層として機能し、
該表面保護層が表面側から順にハードコート層と樹脂フィルムとを含み、該ハードコート層が多官能アクリレートと多官能ウレタンアクリレートオリゴマーとを含む紫外線硬化型樹脂組成物の硬化層であり、該樹脂フィルムがポリイミド系樹脂で構成されており、
該表面保護層の視認側表面の鉛筆硬度が5H以上であり、
該偏光子の厚みが1μm~10μmである、
光学積層体。」

2 引用発明の認定

(1)当審拒絶理由通知書が引用した特開2014-170221号公報(引用文献1)には、次の記載がある(下線は当審が付した。)。

ア 「【特許請求の範囲】」、

「屈曲可能な表示装置に用いられる円偏光板であって、
偏光子と、該偏光子の一方の側に配置された位相差フィルムとを備え、
該位相差フィルムの面内位相差が、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たし、
該位相差フィルムの遅相軸方向が該表示装置の屈曲方向に対して20°~70°の角度を規定するように調整されている
円偏光板。」(【請求項1】)

イ 「【技術分野】」、

「本発明は、主に反射防止を目的として使用される円偏光板およびそのような円偏光板が用いられる屈曲可能な表示装置に関する。」(【0001】)

ウ 「A.円偏光板の全体構成
図1(a)は、本発明の1つの実施形態による円偏光板の概略断面図である。本実施形態の円偏光板100は、偏光子10と、偏光子10の片側に配置された位相差フィルム20とを備える。円偏光板100は、必要に応じて、偏光子10のもう一方の側に保護フィルム40(以下、外側保護フィルムと称する場合がある)を備えていてもよい。さらに、必要に応じて、偏光子10と位相差フィルム20との間に、別の保護フィルム(以下、内側保護フィルムと称する場合がある:図示せず)を配置してもよい。」(【0011】)、

「図1(b)は、本発明の別の実施形態による円偏光板の概略断面図である。本実施形態の円偏光板100’は、偏光子10と、偏光子10の片側に配置された位相差フィルム20と、偏光子10のもう一方の側に配置された位相差フィルム30とを有する。図示例は、外側保護フィルム40が備えられる形態を示している。外側保護フィルム40が備えられる場合、位相差フィルム30は、外側保護フィルム40のさらに外側(視認側)に配置され得る。外側保護フィルム40は省略されてもよい。この場合、位相差フィルム30が外側保護フィルムとして機能し得る。なお、本明細書において便宜上、位相差フィルム20を第1の位相差フィルムと称し、位相差フィルム30を第2の位相差フィルムと称する場合がある。」(【0012】)、

「本発明の円偏光板は、屈曲可能な表示装置に用いられる。屈曲可能な表示装置の具体例としては、有機EL表示装置、円偏光を利用した液晶表示装置(代表的には、VAモードの液晶表示装置)、MEMSディスプレイ等が挙げられる。本発明の円偏光板が特に好適に用いられる屈曲可能な表示装置は、有機EL表示装置である。後述のように非常に小さな曲率半径での屈曲が可能であり、および、本発明の円偏光板を用いることにより非常に優れた反射色相が得られ得るからである。表示装置の少なくとも一部は、曲率半径が好ましくは10mm以下で、より好ましくは8mm以下で屈曲される。このような非常に小さい曲率半径で屈曲した状態の表示装置において、上記のような優れた反射色相を維持しつつ、屈曲による色変化を抑制したことが、本発明の成果のうちの1つである。より詳細には、表示装置は、任意の適切な部分で屈曲される。例えば、表示装置は、折り畳み式の表示装置のように中央部で屈曲されていてもよく(例えば、図2(a)および(b))、デザイン性と表示画面を最大限に確保するという観点から端部で屈曲されていてもよい(例えば、図2(c)および(d))。さらに、図2(a)~図2(d)に示すように、表示装置は、その長手方向に沿って屈曲されていてもよく、その短手方向に沿って屈曲されていてもよい。用途に応じて表示装置の特定部分が(例えば、四隅の一部または全部が斜め方向に)屈曲されていればよいことは言うまでもない。」(【0013】)

エ 「A-1.偏光子
偏光子10としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。具体例としては、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理および延伸処理が施されたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。好ましくは、光学特性に優れることから、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子が用いられる。」(【0017】)、

「偏光子の厚みは、代表的には、1μm~80μm程度である。」(【0019】)、

オ 「A-4.保護フィルム
保護フィルム40は、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。」(【0044】)、

「保護フィルム40の偏光子と反対側の表面には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。保護フィルムの厚みは、代表的には5mm以下であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは1μm~500μm、さらに好ましくは5μm~150μmである。」(【0054】)

カ 「B.表示装置
本発明の表示装置は上記円偏光板を備える。1つの実施形態においては、本発明の表示装置は有機EL表示装置である。図3は、本発明の1つの実施形態による有機EL表示装置の概略断面図である。有機EL表示装置300は、有機EL素子200と、有機EL素子200の視認側に円偏光板100を備える。円偏光板は、上記A項に記載した本発明の円偏光板である。円偏光板は、第1の位相差フィルム20が有機EL素子側となるように(偏光子10が視認側となるように)積層されている。なお、円偏光板は図3に示した形態に限られず、図1(b)に示すような円偏光板100’であってもよく、図示していない本発明のさらに別の実施形態による円偏光板であってもよい。」(【0060】)

キ 図3は、本発明の1つの実施形態による有機EL表示装置300の概略断面図である(【0060】)ところ、当該図においては、保護フィルム40(「外側保護フィルム」のことである。【0011】参照。)が有機EL表示装置の視認側最表面に存在することが見て取れる。そして、【0054】には、「保護フィルム40の偏光子と反対側の表面には、必要に応じて、ハードコート処理・・・等の表面処理が施されていてもよい」と記載されている。そうすると、当業者であれば、当該「ハードコート処理」に係る構造が、有機EL表示装置の視認側最表面に存在する構造を把握することができるといえる。

(2)上記(1)によれば、引用文献1には、図1(a)に係る円偏光板であって、図3に係る有機EL表示装置に用いられるものに関して、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付してある。

「屈曲可能な表示装置に用いられる円偏光板であって、
偏光子と、該偏光子の一方の側に配置された位相差フィルムとを備え、
該位相差フィルムの面内位相差が、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たし、
該位相差フィルムの遅相軸方向が該表示装置の屈曲方向に対して20°~70°の角度を規定するように調整されている
続きを表示(全12行)
円偏光板であって、(【請求項1】)
屈曲可能な表示装置は、有機EL表示装置であり、(【0013】)
偏光子の厚みは、代表的には、1μm~80μm程度であり、(【0019】)
円偏光板は、偏光子のもう一方の側に外側保護フィルムを備えており、(【0011】)
外側保護フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられ、(【0044】)
外側保護フィルムの偏光子と反対側の表面には、ハードコート処理が施されており、(【0054】)
当該ハードコート処理に係る構造が、有機EL表示装置の視認側最表面に存在する、(上記(1)キ)
円偏光板。」

(3)対比

ア 本願発明の「有機エレクトロルミネセンス表示装置に用いられる光学積層体であって、」との特定事項について

引用発明の「円偏光板」は、「偏光子のもう一方の側に外側保護フィルムを備え」ているとともに、「外側保護フィルムの偏光子と反対側の表面には、ハードコート処理が施されて」いることから、当該「円偏光板」は、表面側から順に、「ハードコート処理に係る構造」、「外側保護フィルム」、「偏光子」及び「位相差フィルム」が積層された構造であるといえる。よって、当該「円偏光板」は、本願発明の「光学積層体」に相当する。

引用発明の「有機EL表示装置」は、本願発明の「有機エレクトロルミネセンス表示装置」に相当する。そして、引用発明の「円偏光板」は、「屈曲可能な表示装置に用いられる」ものであるから、本願発明でいう「有機エレクトロルミネセンス表示装置に用いられる」ものといえる。

よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を満たしている。

イ 本願発明の「表面保護層と偏光子と光学補償層とをこの順に備え、」との特定事項について

上記アで説示したとおり、引用発明の「円偏光板」は、表面側から順に、「ハードコート処理に係る構造」、「外側保護フィルム」、「偏光子」及び「位相差フィルム」が積層された構造であるところ、「当該ハードコート処理に係る構造が、有機EL表示装置の視認側最表面に存在する」ことに照らせば、当該「ハードコート処理に係る構造」及び「外側保護フィルム」を併せた構造は、本願発明の「表面保護層」に相当するといえる。

引用発明の「偏光子」及び「位相差フィルム」は、それぞれ、本願発明の「偏光子」及び「光学補償層」に相当する。

引用発明の「円偏光板」は、上記の順に積層された構造を備えているから、本願発明でいう「表面保護層と偏光子と光学補償層とをこの順に備え」ているといえる。

よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を満たしている。

ウ 本願発明の「該表面保護層が可撓性であり、有機エレクトロルミネセンス表示装置のカバーガラスを代替する機能を有し、かつ、偏光子の保護層として機能し、」との特定事項について

引用発明の「円偏光板」は「屈曲可能な表示装置に用いられる」ものであるから、それに含まれる「ハードコート処理に係る構造」及び「外側保護フィルム」を併せた構造(本願発明の「表面保護層」に相当。)は、本願発明でいう「可撓性」であるといえる。

引用発明の「ハードコート処理に係る構造」及び「外側保護フィルム」を併せた構造は、当該「外側保護フィルム」と「偏光子」との関係が「円偏光板は、偏光子のもう一方の側に外側保護フィルムを備えて」いるということにあるから、本願発明でいう「偏光子の保護層として機能」するものといえる。

よって、本願発明と引用発明とは、「該表面保護層が可撓性であり、」「かつ、偏光子の保護層として機能」する点で一致するが、「表面保護層」が、本願発明は、「有機エレクトロルミネセンス表示装置のカバーガラスを代替する機能を有」するのに対し、引用発明は、「ハードコート処理に係る構造」及び「外側保護フィルム」を併せた構造であって、当該「ハードコート処理に係る構造」が「有機EL表示装置の視認側最表面に存在」するものである。

エ 本願発明の「該表面保護層が表面側から順にハードコート層と樹脂フィルムとを含み、該ハードコート層が多官能アクリレートと多官能ウレタンアクリレートオリゴマーとを含む紫外線硬化型樹脂組成物の硬化層であり、該樹脂フィルムがポリイミド系樹脂で構成されており、」との特定事項について

引用発明の「ハードコート処理に係る構造」及び「外側保護フィルム」を併せた構造(本願発明の「表面保護層」に相当。)は、表面側から順に「ハードコート処理に係る構造」と「外側保護フィルム」とを含んでいる。そして、引用発明の「外側保護フィルム」は、そ「の主成分となる材料の具体例としては、」「透明樹脂等が挙げられ」ることから、本願発明の「樹脂フィルム」に相当する。また、引用発明の「ハードコート処理に係る構造」は、本願発明の「ハードコート層」に相当するといえる。そうすると、引用発明は、本願発明でいう「該表面保護層が表面側から順にハードコート層と樹脂フィルムとを含」むものといえる。

引用発明の「ポリイミド系」の「透明樹脂」は、本願発明の「ポリイミド系樹脂」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、「該表面保護層が表面側から順にハードコート層と樹脂フィルムとを含」む点で一致するが、「ハードコート層」が、本願発明は「多官能アクリレートと多官能ウレタンアクリレートオリゴマーとを含む紫外線硬化型樹脂組成物の硬化層」であるのに対し、引用発明はそうであるのか不明であり、また、「樹脂フィルム」が、本願発明は「ポリイミド系樹脂」で構成されているが、引用発明は「ポリイミド系樹脂」であってもよいが、その余のものであってもよい。

オ 本願発明の「該表面保護層の視認側表面の鉛筆硬度が5H以上であり、」との特定事項について

引用発明の「ハードコート処理に係る構造」及び「外側保護フィルム」を併せた構造(本願発明の「表面保護層」に相当。)が、上記特定事項を満たしているのかは不明である。

カ 本願発明の「該偏光子の厚みが1μm~10μmである、」との特定事項について

引用発明は、「偏光子の厚みは、代表的には、1μm~80μm程度であ」る。

(4)一致点及び相違点の認定

上記(3)によれば、本願発明と引用発明とは、

「有機エレクトロルミネセンス表示装置に用いられる光学積層体であって、
表面保護層と偏光子と光学補償層とをこの順に備え、
該表面保護層が可撓性であり、かつ、偏光子の保護層として機能し、
該表面保護層が表面側から順にハードコート層と樹脂フィルムとを含む、
光学積層体。」である点で一致し、次の点で一応相違する又は相違する。

[相違点1]

「表面側から順にハードコート層と樹脂フィルムとを含」む「表面保護層」が、本願発明は、「有機エレクトロルミネセンス表示装置のカバーガラスを代替する機能を有し」ており、「該ハードコート層が多官能アクリレートと多官能ウレタンアクリレートオリゴマーとを含む紫外線硬化型樹脂組成物の硬化層であり」、「該表面保護層の視認側表面の鉛筆硬度が5H以上であ」るのに対し、引用発明は、「ハードコート処理に係る構造」と「外側保護フィルム」を併せた構造であって、当該「ハードコート処理に係る構造」が「有機EL表示装置の視認側最表面に存在」するものである点。

[相違点2]

「樹脂フィルム」が、本願発明は、「ポリイミド系樹脂で構成されて」いるのに対し、引用発明は、「外側保護フィルム」であって、その主成分となる材料の具体例としては、「トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられ」る点。

[相違点3]

本願発明は、「該偏光子の厚みが1μm~10μmである」のに対し、引用発明は、「偏光子の厚みは、代表的には、1μm~80μm程度であ」る点。

(5)相違点の判断

ア 相違点1及び2について

引用発明から出発した当業者が相違点1及び2に係る本願発明の構成に至るためには、(i)「外側保護フィルム」を「ポリイミド系」の透明樹脂から構成すること、(ii)「ハードコート処理に係る構造」を「多官能アクリレートと多官能ウレタンアクリレートオリゴマーとを含む紫外線硬化型樹脂組成物の硬化層」から構成すること、(iii)上記(i)及び(ii)に至りつつ、「ハードコート処理に係る構造」及び「外側保護フィルム」を併せた構造が、「有機エレクトロルミネセンス表示装置のカバーガラスを代替する機能を有」するとともに、「該表面保護層の視認側表面の鉛筆硬度が5H以上」となるように構成すれば足りる。

そこで、上記当業者が上記のような構成に至るかについて検討すると、まず、(i)について、引用発明の「外側保護フィルム」として挙げられた材料には、「ポリイミド系」の樹脂が含まれるから、上記(i)のように構成することは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

次に、(ii)について、引用発明の「ハードコート処理に係る構造」を実施する際には、当業者はどのような層とするかを当然に設計するところ、表示装置に用いられるハードコート層として、ポリイミド系透明樹脂などからなる偏光板保護フィルム等の基材に設けられた多官能アクリレートと多官能ウレタンアクリレートオリゴマーとを含む紫外線硬化型樹脂組成物の硬化層を用いることは、周知技術(例えば、特開2010-156893号公報の【0027】・【0035】・【0036】・【0040】・【0041】・【0086】・図2等、特開2013-95108号公報の請求項1・【0002】・【0029】・【0033】を参照。)であると認められる。そうすると、上記(ii)のように構成することは、上記周知技術を踏まえて、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

さらに、(iii)について、引用発明の「ハードコート処理に係る構造」は、「有機EL表示装置の視認側最表面」に存在することから、その硬度を高くするよう構成することは通常の方向性にすぎないし、鉛筆硬度が5H以上という数値自体も適宜設計し得る程度のものである。そして、そのように構成した結果、引用発明の「ハードコート処理に係る構造」及び「外側保護フィルム」を併せた構造は、「有機エレクトロルミネセンス表示装置のカバーガラスを代替する機能」を当然に有することになるといえる。

よって、当業者であれば、引用発明及び周知技術に基づいて相違点1及び2に係る本願発明の構成に容易に至るといえる。

イ 相違点3について

引用発明における「偏光子」の厚みは、代表的には、1μm~80μm程度であるところ、薄型化等の観点は通常の方向性にすぎないし、実際に、当該厚みが1μm~10μm程度のものも通常に存在すると認められる(例えば、特開2015-106053号公報の【0025】、特開2015-106150号公報の【0035】を参照。)。

そうすると、引用発明において、その偏光子の厚みを相違点3に係る本願発明の構成程度のものとすることは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

ウ 本願発明の効果について

本願発明の効果は、引用発明及び周知技術に基づいて、本願発明の構成が奏するものとして当業者が予測し得たものである。

エ 請求人の主張について

(ア)a 請求人は、引用発明に係る円偏光板は視認側最表面にさらに前面板(カバーガラス)を設けることが想定されている旨主張し、その根拠として、(i)引用文献1に記載された円偏光板は、図1(b)及び【0012】(以下、これに係る形態を「B形態」という。)から明らかなとおり、保護フィルム40のさらに外側に第2の位相差フィルム30を貼り合わせることが想定されたものであることから、視認側最表面に前面板(カバーガラス)が存在するのが当業者にとって自明であり、そうである以上、引用発明に係る図1(a)及び図3の形態(以下、これに係る形態を「A形態」という。)においても、前面板(カバーガラス)が存在するのが前提であること、(ii)図3は、概略断面図にすぎず、すべての構成が描かれているものではないこと、を挙げる。

(a)しかしながら、引用発明を開示する引用文献1は、そもそも前面板(カバーガラス)について何ら記載するものではない。そして、引用文献1は、保護フィルム40の偏光子と反対側の表面にハードコート処理が施されていてもよいことを開示する(【0054】)ところ、ハードコート処理は、耐擦傷性や防汚性の観点から施されるのが通常であることからみても、ハードコート処理に係る構造は視認側最表面に存在するのが一般的であるといえる。さらに、引用文献1は、屈曲可能な表示装置に関するものである(【0001】)ところ、このような屈曲可能な表示装置ではガラスを用いにくいといえるのであり、このことは、フレキシブルディスプレイにおいてカバーガラス等のガラスをプラスチックに置き換えることが技術常識(例えば、国際公開第2015/008643号の[0002]、特開2012-224755号公報の【0002】、特開2015-189940号公報の【0002】を参照。)であることや、例えば、原査定が引用した特開2004-361774号公報に記載された技術的事項のように、フレキシブルディスプレイの前面板では、視認側最表面に存在するものが、直線偏光板(1a)やフィルム基板(2)(図1及び3を参照。)であって、カバーガラスではないことからも、首肯できる。以上の事情に照らせば、引用文献1の図1(a)及び図3等の記載に接した当業者は、前面板(カバーガラス)が存在せず、かつ、外側保護フィルム40(ないしそれに形成されたハードコート処理に係る構造)が視認側最表面に存在する形態を、把握できるというのが相当である。

(b)この点、請求人は、引用文献1に記載された円偏光板には前面板が存在するのが前提である旨主張し、その根拠として、上記のとおりB形態の第2の位相差フィルム30に着目するが、引用文献1には、B形態について、引用発明として認定されたA形態に係る円偏光板とは別であることが明記されている(B形態に係る【0012】の冒頭に、「図1(b)は、本発明の別の実施形態による円偏光板の概略断面図である。」と記載されている。)から、B形態に係る記載をもって、上記の説示が左右されることはない。

また、いずれにせよ、当業者は、B形態においても、前面板(カバーガラス)が存在しない形態を把握するといえる。すなわち、B形態に係る図1(b)には、第2の位相差フィルム30が視認側最表面にあるものとして描かれているし、B形態に係る【0012】には、「位相差フィルム30が外側保護フィルムとして機能し得る」と記載されていることから、結局のところ、当業者は、当該第2の位相差フィルム30が、A形態に係る外側保護フィルム40と位置づけが変わるものではないことを理解できるのであり、そうである以上、上記と同様の理由で、当業者は、B形態においても、前面板(カバーガラス)が存在しない形態を把握するといえる。

b 請求人は、引用発明のハードコート処理に係る構造及び外側保護フィルムを併せた構造は、カバーガラスを代替することを想定していないから、当業者は、過酷な折り曲げ試験に100万回以上耐え得る耐屈曲性とカバーガラスを代替し得る高硬度及び優れた耐擦傷性とを両立するハードコート層とポリイミド系樹脂フィルムとの組合せには想到しない旨主張する。

しかしながら、上記aで説示したとおり、引用発明に係る円偏光板は視認側最表面に前面板(カバーガラス)を設けるものではないから、当該円偏光板がこれを設けるものであることを前提とした請求人の主張は、その前提が失当である。そして、請求人が主張する耐屈曲性の程度は、本願発明には単に「可撓性」と特定されているにすぎないことからみても、本願発明の特定事項に基づく主張ではないし、いずれにせよ、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて相違点1及び2に係る本願発明の構成に至ることは、上記アで説示したとおりである。

(イ)請求人は、引用文献1には、ハードコート層の具体的な構成が開示されておらず、また、当該文献に開示されるハードコート層は、通常の偏光子保護フィルムに表面処理層として形成され得るハードコート層である旨主張する。

しかしながら、上記(ア)aで説示したとおり、引用文献1の図1(a)及び図3等に接した当業者は、前面板(カバーガラス)が存在しない形態、つまり、ハードコート処理に係る構造が有機EL表示装置の視認側最表面に存在する形態を把握するといえるから、上記当業者は、ハードコート処理に係る構造を具体化する際に、偏光子保護フィルムに形成されるハードコート層に限らず、ハードコート層としての一般的な知見を活用するといえる。また、それは措くとしても、上記アで示した周知例は、偏光子保護フィルムに形成されるハードコート層に係るものである。

よって、請求人の主張は、上記アの説示を左右するものではない。

(6)小括

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2022-007356

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