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特許拒絶査定不服審判

2022-005945

高効率ゲノム編集のためのアデノ随伴ウイルスベクターバリアント及びその方法

審判番号
2022-005945
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-056137
請求日
2022年04月20日
審決日
2024年08月20日
公報発行日
2025年02月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】シティ・オブ・ホープ
  • 【請求人代理人】村山 靖彦
  • 【請求人代理人】実広 信哉
  • 【請求人代理人】阿部 達彦
審判長/審判官
  • 審判長 福井 悟
  • 審判官 長井 啓子
  • 審判官 小金井 悟
分類
P18 .121-WZ (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2020- 56137「高効率ゲノム編集のためのアデノ随伴ウイルスベクターバリアント及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 7月 2日出願公開、特開2020- 99357〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成27年9月23日(パリ条約による優先権主張 2014年9月24日 米国、2014年10月14日 米国、2015年8月25日 米国)を国際出願日とする特願2017-516515号の一部を新たな特許出願として令和2年3月26日に出願されたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年 5月18日付け 拒絶理由通知書 同年11月24日 意見書、手続補正書の提出 同年12月15日付け 拒絶査定 令和4年 4月20日 審判請求書、手続補正書の提出 令和5年11月22日付け 拒絶理由通知書 令和6年 5月27日 意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、令和6年5月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)であって、 (a)AAV Clade Fキャプシドタンパク質を含むAAVキャプシドであって、 (i)前記キャプシドタンパク質が、配列番号2、6、8、10、11、12、13、16若しくは17のいずれか1つのアミノ酸203~736と100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み; (ii)前記キャプシドタンパク質が、配列番号2、6、8、10、11、12、13、16若しくは17のいずれか1つのアミノ酸138~736と100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;又は (iii)前記キャプシドタンパク質が、配列番号2、6、8、10、11、12、13、16若しくは17のいずれか1つのアミノ酸1~736と100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、 AAVキャプシド、並びに (b)補正ゲノムであって、 (i)細胞における染色体の標的座位への組み込みのためのヌクレオチド間結合又はヌクレオチド配列を含む編集エレメント、 (ii)前記標的座位に対する前記染色体の5’領域と相同性を有する、前記編集エレメントの5’側にある5’相同アームヌクレオチド配列、及び (iii)前記標的座位に対する前記染色体の3’領域と相同性を有する、前記編集エレメントの3’側にある3’相同アームヌクレオチド配列 を含む、補正ゲノム を含む、複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)。」(以下、「本願発明」という。) 第3 当審における拒絶の理由の概要 令和5年11月22日付けで当審が通知した拒絶理由は、次の理由を含むものである。 本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に本願優先日当時の周知技術を組み合わせることにより、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1.米国特許出願公開第2013/0096182号明細書 引用文献2.Nature Protoc., vol.6(4), pp.482-501 (2011)(周知技術を示す文献) 引用文献3.Current Opinion in Molecular Therapeutics, vol.6(4), pp.360-366 (2004)(周知技術を示す文献) 引用文献4.Nature Reviews Microbiology, vol.3, pp.837-847 (2005)(周知技術を示す文献) 第4 当審の判断 1 引用文献の記載事項 (1)引用文献1 引用文献1は、「標的治療のための組換えアデノ随伴ウイルス」と題する発明を開示する特許文献であって、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付したものである。 特許請求の範囲 「10.被験体の疾患または障害を治療する方法であって、以下から選択される1つ以上の治療用ヌクレオチド配列を含むベクターを投与することを含む方法: a)筋肉疾患または障害、および筋肉を介して被験体に投与される抗体遺伝子または他のワクチン治療のために、AAVHSC7、AAVHSC13、AAVHSC15、およびAAVHSC17の群から選択されるベクター; b)心臓および肺の疾患または障害に対しては、AAVHSC13、AAVHSC15、およびAAVHSC17の群から選択されるベクター;c)肝臓または神経の疾患または障害に対しては、ベクターAAVHSC15;d)幹細胞の移植によって治療される状態に対しては、ベクターAAVHSC17; e) B細胞前駆細胞を導入することにより治療される疾患の場合、ベクターAAVHSC5;f) 骨髄系および赤血球系前駆細胞を導入することにより治療される疾患の場合、ベクターAAVHSC12; g)リンパ節、腎臓、脾臓、軟骨および骨の疾患または障害のために、AAVHSC7、AAVHSC13、AAVHSC15およびAAVHSC17の群から選択されるベクター;ここで、ベクターは標的細胞または組織を形質導入し、治療ヌクレオチド配列は疾患または障害を治療する。」 要約 「[0010] 第一の態様において、ヒトCD34+造血幹細胞(HSC)からの新規で高効率のアデノ随伴ウイルス(AAV)単離株のセットが提供される。・・・一実施形態では、新規AAV単離配列は、アミノ酸配列として配列番号2-17で表され、ヌクレオチド配列として配列番号20-35で表される。」 図面の簡単な説明 「[0022] 図1は、新規AAVキャプシドとAAV2およびAAV9 hu.14とのアラインメントを示す。」 「[0023] 図2は、AAV9と比較した新規キャプシドアミノ酸配列のアラインメントを示す。」 「[0029] 図8は、パッケージングプラスミド:Rep2/Capxを示す。濃い灰色部分はAAV2配列を表し、薄い灰色部分は幹細胞AAV配列を示す。」 図面 図1には、HSC1(配列番号20)、HSC2(配列番号21)、HSC3(配列番号22)、HSC4(配列番号23)、HSC6(配列番号24)、HSC5(配列番号25)、HSC11(配列番号26)、HSC7(配列番号27)、HSC8(配列番号28)、HSC9(配列番号29)、HSC12(配列番号30)、HSC13(配列番号31)、HSC14(配列番号32)、HSC15(配列番号33)、HSC16(配列番号34)、HSC17(配列番号35)、AAV9(配列番号18)、及びAAV2(配列番号19)のキャプシドのヌクレオチド配列がアラインメントされている。なお、配列は長大であるから、摘記は省略する。 図2には、HSC1(配列番号2)、HSC2(配列番号3)、HSC11(配列番号4)、HSC3(配列番号5)、HSC4(配列番号6)、HSC6(配列番号7)、HSC7(配列番号8)、HSC8(配列番号9)、HSC9(配列番号10)、HSC5(配列番号11)、HSC12(配列番号12)、HSC17(配列番号13)、HSC13(配列番号14)、HSC14(配列番号15)、HSC15(配列番号16)、HSC16(配列番号17)、及びAAV9(配列番号1)のキャプシドのアミノ酸配列がアラインメントされている。なお、配列は長大であるから、摘記は省略する。 「図8 [図:0001418395000001.jpg] 」 詳細な説明 「[0088] 新規AAVキャプシドは、配列番号20-35(図1)のヌクレオチド配列、および配列番号2-17(図2-4)のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列として表すことができる。」 材料と方法 「rAAV生産、精製及び滴定 [0116] 自己相補性増強緑色蛍光タンパク質(scEGFP)または一本鎖ホタルルシフェラーゼ(ssLuc)をキャプシドクローンにパッケージングした。20ngのキャプシドクローンパッケージングプラスミドと、レポーター遺伝子とAAV2 ITRを含む20ngのベクタープラスミドを、OZ Bioscience CaPO4 Transfection Kitsを用いて、70%コンフルエントのHSV感染293細胞にトランスフェクトした。細胞は適切な細胞障害効果(CPE)レベルで回収した。細胞溶解液を処理し、CsCl2勾配を用いてベクターを精製した。ベクターをCsCl2グラジエントから精製するには、Millipore Amicon Ultra-4 Centrifugal Filter Unitsとプロトコルを使用した。遠心ユニットの膜を洗浄し、500ulのPBSで2回回収した。25ulのベクターをDNase、SDS、プロテイナーゼKで一晩処理した。ベクターDNAをフェノールとクロロホルムで抽出し、定量的リアルタイムPCR法でDNAをタイターした。」 結果 「[0126] 次に、AAV陽性幹細胞サンプルから全長天然AAVキャプシド遺伝子を増幅し、塩基配列を決定した(図5)。16個の完全長AAVキャプシドクローンが2人のドナーから増幅された。幹細胞から得られたAAV配列の相同性解析とともに、重複配列戦略を用いた両方向の各タイプの複数のクローンの配列解析により、両ドナーからの単離株はAAV Clade Fにマッピングされることが明らかになった。」 「[0131] 新規の幹細胞由来rAAVベクターがヒト造血幹細胞に対するトロピズムを高めているかどうかを調べるために、臍帯血由来CD34+細胞をrAAV-EGFPで形質導入し、フローサイトメトリーで分析した。図9Aおよび9Bは、代表的な2つの実験におけるプールされたCB CD34+細胞におけるEGFP発現を示す。図9Aにおいて、キャプシドHSC1およびHSC5は、CD34+細胞のそれぞれ78.3%および48.6%を形質導入した。これらは、どのAAV血清型についても以前に観察されたよりも有意に高いレベルでCD34+細胞を形質導入する新規キャプシドの一群を表している。HSC17、HSC15、HSC4はCD34+細胞の22.6-24.3%を形質導入し、標準的な血清型で観察されたのと同程度のレベルで形質導入する新規キャプシドの2番目のグループである。図9Bでは、rAAV HSC1とHSC5はそれぞれ59.11%と64.19%のCD34+細胞を形質導入した。AAV単離株HSC4、HSC8、HSC13、HSC15、HSC16およびHSC17は、in vitroでヒト造血幹細胞を中間レベルで形質導入する新規キャプシドの第二のグループを示す。プールした臍帯血CD34+造血幹細胞を用いた4つの別々の実験から得られたGFP発現を図10Aに、5つの実験から得られたGFPを図10Bに示す。幹細胞キャプシドHSC1およびHSC5では、一貫して高レベルの導入が観察された。HSC1、HSC5およびHSC12は、幹細胞上で最も高い遺伝子in vitro導入効率を示し、異なるドナーからのCD34+細胞の少なくとも40~60%を再現性よく導入した。特定のCB CD34+サンプルでは、HSC1は最高80%という非常に高いin vitro遺伝子導入効率を示した。HSC4、HSC15、HSC16およびHSC1では、中間のin vitro遺伝子導入効率が観察され、CD34+細胞の平均約20%が導入され、特定のCBサンプルでは30%を超える細胞の導入が観察された。これらは、最も優れた標準的なrAAV血清型を用いた場合よりも、はるかに効率的なCD34+細胞のin vitro導入である。」 「[0136] これらの新規AAVキャプシドは、in vitroではヒト造血幹細胞を最も効率的にトランスダクションし、in vivoでも長期的に高レベルのトランスダクションを持続する。造血幹細胞由来rAAVの予備的なin vivoトランスダクションレベルは、標準的なAAV血清型で観察されたレベルを上回ることが示唆された。したがって、これらの新規AAVベクターは、in vivoでの造血幹細胞の長期的な形質導入に使用することが可能である。」 「[0147] 肝臓を標的にしたことに加え、全身投与後に膝関節、股関節、剣状突起の組織にも導入されたことが証明された。偽型AAV-ルシフェラーゼの静脈内注射を受けたマウスから解剖した臓器をルシフェラーゼ発現のために画像化した。図18は、肝臓、剣状突起および関節におけるルシフェラーゼ発現を示し、肝臓に加えて軟骨にも導入されたことを示唆している。図19と図20は、長期間のin vivoでの導入遺伝子の発現を示している。」 「[0152] rAAVHSC15は全身静脈注射後、脳へ移行する。図26-34などで示されたin vivoデータは、HSC15ベクターが非侵襲的な方法による脳への遺伝子導入に使用できることを示している。非侵襲的な方法による脳での遺伝子発現は、以前は大きな障害であった血液脳関門を目的の遺伝子が通過することを可能にするので、当該技術分野における顕著な進歩である。図26-34は、静脈内および筋肉内注射後の脳におけるベクターコード化ルシフェラーゼ発現を示す。また、全身注射後の脳におけるベクターゲノムコピーの頻度も示す。図54は、4種類の細胞における1000細胞あたりのrAAVゲノムの頻度の概要を示す。」 「[0153] HSC15、HSC13、HSC17のような特定のAAVHSCベクターは、全身注射後に肝臓、心臓、腎臓、肺に効率よく遺伝子を導入し、現在知られているAAV8やAAV9よりも効果的に標的臓器に導入する。これらの新規ベクター、特に成績トップのHSC15は、心臓、肝臓、腎臓、肺などの心疾患、血友病、アテローム性動脈硬化症、肝炎、先天性疾患や後天性疾患の治療に使用できる可能性がある。」 (2)引用文献2 引用文献2は、「ヒト細胞のためのAAV媒介遺伝子標的方法」と題する学術論文であって、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付したものである。 「 [図:0001418395000002.jpg] 図1.ベクターデザイン戦略。ベクターデザインと標的遺伝子座のマップを示す。(a)ノックアウトベクターでは、エクソンはプロモーター(P)または選択マーカー(SM)を駆動するIRESで破壊され、loxP部位(L)で挟まれている。・・・ベクターの両端にある逆末端反復(ITR)をハッチングボックスで示す。(b)ATGトラップベクターは、標的遺伝子の翻訳開始コドン(ATG)に置かれた選択可能なマーカーリーディングフレームを含み、開始コドンが最初のエクソン内にない場合に最も効果的である。(c)ノックインの場合、組み込まれる変異(*)はターゲティングベクターの相同性アームに含めることができ、一方SMカセットはloxP部位で挟まれた隣接するイントロン領域に置かれる。・・・ (d)連続する相同性アームに変異(*)を導入することにより、SMカセットを含めずに微妙な変異を導入することができる。」(第35頁図1及びその説明文) (3)引用文献3 引用文献3は、「遺伝子修正のためのAAVベクター」と題する総説であって、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付したものである。 「図1.rAAV遺伝子発現及び遺伝子標的化ベクター [図:0001418395000003.jpg] 野生型(wt)AAV(A)とrAAVベクター(B~F)の模式図。図はITR、それぞれの遺伝子(広いボックス)、プロモーター(矢印)、ポリアデニル化部位(pA)の位置を示している。PGKはホスホグリセリン酸キナーゼプロモーターを示すが、任意の異種プロモーターを表し、NeoRは任意の選択マーカーを表し、IRESは内部リボソーム進入部位を示す。左アームと右アームは標的配列と相同な配列を示し、(D)の黒枠は遺伝子変異を修正するためにセットした非相同配列を示す。」(第362頁図1及びその説明文) (4)引用文献4 引用文献4は、「正確なヒット:遺伝子標的化におけるアデノ随伴ウイルス」と題する総説であって、次の事項が記載されている。なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付したものである。 ア 「遺伝子送達ベクターとしての組換えAAV 野生型AAVの欠損複製と非病原性という性質が、AAV2由来のrAAVの急速な開発の引き金となった。これらのベクターでは、repおよびcap ORFは目的の遺伝子発現カセットで置換されており、一方、ベクター生産のために、repおよびcap遺伝子産物ならびにヘルパーウイルスエレメントはトランスで供給される(図1b)。」(第838頁右欄第22~29行) イ 「 [図:0001418395000004.jpg] 図1|野生型および組み換え型アデノ随伴ウイルスの生物学。・・・b.AAVに基づく一般的な遺伝子導入ベクターが描かれている。ウイルスゲノムは、通常プロモーター、導入遺伝子、ポリA(pA)テールからなる発現カセットで置換される。組換えウイルス(rAAV)を生産するためには、RepおよびCapタンパク質、ならびにAdまたはHSVエレメント(Ad E1、E2およびE4orf6)をトランスで供給する必要がある。rAAVによる形質導入後の導入遺伝子発現を担うデリバリーベクターの細胞内形態(二本鎖の環状エピソームとランダムに組み込まれたベクターゲノム)の例を赤で示した。」(第840頁図1及びその説明文) ウ 「 [図:0001418395000005.jpg] 図2|rAAVベクターによる遺伝子ターゲティング。レポーター遺伝子の非機能変異体(図ではW)が導入されるか、細胞内に存在する(a)。組換えターゲティングベクター(b)では、ウイルス遺伝子は修飾の対象となる染色体遺伝子座に相同な配列で置換される。通常、修飾は5′および3′相同性アームと呼ばれる相同性のストレッチの間に導入される。・・・」(第841頁図2及びその説明文) 2 判断 (1)引用発明の認定 引用文献1は、ヒトCD34+造血幹細胞からClade Fに属する16種類の新規アデノ随伴ウイルス(AAV)単離株(AAVHSC1、AAVHSC2等。単にHSC1、HSC2等とも表記される。)を得て、それに基づく組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)(Cap遺伝子の塩基配列は図1、キャプシド全長のアミノ酸配列は図2)がヒトの各種細胞に高効率形質導入できる優れた遺伝子送達用ベクターとして使用できることを示した文献である(上記1(1)特許請求の範囲、[0010])。 具体的には、Rep2遺伝子と幹細胞AAV由来Capx遺伝子を含むキャプシドクローンパッケージングプラスミド(上記1(1)図8)と、レポーター遺伝子とAAV2 ITRを含むベクタープラスミドをHSV感染293細胞にトランスフェクトして、ベクターであるrAAVを生産及び精製したこと(上記1(1)材料と方法)、当該rAAVが造血幹細胞、肝臓細胞、関節細胞、軟骨細胞、脳細胞、心臓細胞、腎臓細胞及び肺細胞に、標準的なrAAVベクターを上回る高い効率で形質導入したことが実験結果により具体的に示されている(上記1(1)結果)。ここで、キャプシドクローンパッケージングプラスミドに含まれる幹細胞AAV由来Capx遺伝子とは、ヒトCD34+造血幹細胞から単離された、Clade Fに属する16種類の新規アデノ随伴ウイルス(AAV)単離株(HSC1、HSC2等)それぞれに由来するCap遺伝子(塩基配列は図1に配列番号20~35として示されている。)であり、それぞれがコードするキャプシドタンパク質のアミノ酸配列は、図2に配列番号2~17として示されたものである(上記1(1)[0029]、図8)。 したがって、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。 「Rep2遺伝子と配列番号20~35のいずれか1つの塩基配列のCap遺伝子を含むキャプシドクローンパッケージングプラスミドと、レポーター遺伝子とAAV2 ITRを含むベクタープラスミドを、HSV感染293細胞にトランスフェクトして生産された組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)であって、当該Cap遺伝子がコードするキャプシドタンパク質が配列番号2~17のいずれか1つのアミノ酸配列のClade Fキャプシドタンパク質である、rAAV。」(以下、「引用発明」という。) (2)対比 AAVはもともと複製能を欠損しており、rAAVを生産するためには、野生型AAVのITRの間に発現を期待する遺伝子を組み込んで作成されたAAVベクタープラスミドと、キャプシドタンパク質をコードするCap遺伝子及びRep遺伝子を有するヘルパープラスミド、ならびにHSVエレメントを供給した細胞を利用すること、そのようにして生産されたrAAVは、2つのITRの間に発現を期待する遺伝子を有するrAAVゲノムがキャプシドタンパク質からなるキャプシドにパッケージングされた構造を有すること、及び、rAAVが細胞に感染するとrAAVゲノムが当該細胞の染色体に組み込まれることは、本願優先日当時の技術常識である(例えば、Drug Delivery System, vol.14(1), pp.5-11 (1999))。 そして、引用発明の「レポーター遺伝子」は上記発現を期待する遺伝子であり、引用発明の「レポーター遺伝子とAAV2 ITRを含むベクタープラスミド」は上記AAVベクタープラスミドであり、引用発明の「キャプシドクローンパッケージングプラスミド」は上記ヘルパープラスミドであり、引用発明の「HSV感染293細胞」はHSVエレメントを供給した細胞であるから、上記技術常識に照らせば、引用発明の「rAAV」は、2つのAAV2 ITRの間にレポーター遺伝子を有するrAAVゲノムがキャプシドタンパク質からなるキャプシドにパッケージングされた構造を有し、当該rAAVゲノムは本願発明の「補正ゲノム」に相当する。したがって、引用発明の「Rep2遺伝子」と「Cap遺伝子を含むキャプシドクローンパッケージングプラスミドと、レポーター遺伝子とAAV2 ITRを含むベクタープラスミドをHSV感染293細胞にトランスフェクトして生産された組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)」は、本願発明の「複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)であって」、「AAVキャプシド、並びに」「補正ゲノムを含む、複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)」に相当する。 また、引用発明は、「当該Cap遺伝子がコードするキャプシドタンパク質が配列番号2~17のいずれか1つのアミノ酸配列のClade Fキャプシドタンパク質である」ところ、これらのアミノ酸配列を示した引用文献1の図2は、本願の図1-1~1-7と完全に一致するものであり、引用発明の「配列番号2~17」(いずれも736アミノ酸からなる。)は、それぞれ、本願の配列番号2~17に完全に一致するから、引用発明の「当該Cap遺伝子がコードするキャプシドタンパク質が配列番号2~17のいずれか1つのアミノ酸配列のClade Fキャプシドタンパク質である」は、本願発明の「(iii)前記キャプシドタンパク質が、配列番号2、6、8、10、11、12、13、16若しくは17のいずれか1つのアミノ酸1~736と100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む」に相当する。 さらに、上記技術常識に照らすと、引用発明の「rAAV」が細胞に感染すると、「レポーター遺伝子」を含むrAAVゲノムが当該細胞の染色体に組み込まれるのだから、引用発明の「レポーター遺伝子」は、本願発明の「補正ゲノム」に含まれる「(i)細胞における染色体」「への組み込みのためのヌクレオチド間結合又はヌクレオチド配列を含む編集エレメント」に相当する。 以上によれば、本願発明と引用発明とは、 「複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)であって、 AAV Clade Fキャプシドタンパク質を含むAAVキャプシドであって、 前記キャプシドタンパク質が、配列番号2、6、8、10、11、12、13、16若しくは17のいずれか1つのアミノ酸1~736と100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、AAVキャプシド、並びに 補正ゲノムであって、 細胞における染色体への組み込みのためのヌクレオチド間結合又はヌクレオチド配列を含む編集エレメント、を含む、補正ゲノム を含む、複製欠損アデノ随伴ウイルス(AAV)。」 である点で一致し、次の点で相違する。 相違点: 本願発明は、「編集エレメント」が、「染色体の標的座位への組み込みのためのもの」であり、「(ii)前記標的座位に対する前記染色体の5’領域と相同性を有する、前記編集エレメントの5’側にある5’相同アームヌクレオチド配列、及び(iii)前記標的座位に対する前記染色体の3’領域と相同性を有する、前記編集エレメントの3’側にある3’相同アームヌクレオチド配列」を伴っているのに対して、引用発明は、「編集エレメント」に相当する「レポーター遺伝子」が、「5’相同アームヌクレオチド配列」及び「3’相同アームヌクレオチド配列」を伴っておらず、染色体に単に組み込まれるものである点。 (3)判断 本願優先日当時、rAAVは治療、研究及び調査等のために広く使用されるベクターであり、治療、研究及び調査等のために発現を期待する遺伝子(本願発明の「編集エレメント」、引用発明の「レポーター遺伝子」に相当する。)の5’側及び3’側に、それぞれ、標的座位に対する染色体の5’領域と相同性を有する5’相同アームヌクレオチド配列及び3’領域と相同性を有する3’相同アームヌクレオチド配列を付加することで、当該遺伝子を送達先の細胞の染色体中の標的座位に挿入できることは、周知技術であった(上記1(2)、(3)、(4)ウ)。 一方、引用文献1は、治療、研究及び調査等の目的で使用するAAVベクターを開示する文献であり(上記1(1)要約)、引用発明の認定の基礎となった実施例(上記1(1)材料と方法、結果)は、当該目的のために使用することを予定したモデル実験であって、発現を期待する遺伝子として、治療、研究及び調査等の目的で使用する遺伝子に代えてレポーター遺伝子を採用したものであると解される。そうすると、引用発明において「レポーター遺伝子」を送達先の細胞の染色体中の標的部位に挿入するために、上記周知技術を組み合わせて本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る程度のことであるといえる。また、本願発明の構成により、引用発明及び上記周知技術から予測される範囲を超えた顕著な効果が奏されるとも認められない。 したがって、本願発明に進歩性を認めることはできない。 (4)請求人の主張について 請求人は、令和6年5月27日提出の意見書で、本願明細書に記載された各実施例及び出願後のデータ(PNAS; 115(31):7379-7388)が実証するとおり、本願発明のClade Fキャプシドタンパク質を含むAAVは、分裂細胞及び非分裂細胞の両方において、外因性ヌクレアーゼを必要とすることなく、他の血清型のAAVと比較してはるかに高い効率で、遺伝子編集を媒介するという技術的利点を挙げて、本願発明の進歩性を主張する。 しかし、引用文献1には、引用発明のrAAVが、分裂細胞である造血幹細胞や、非分裂細胞である肝臓細胞、関節細胞、軟骨細胞、脳細胞、心臓細胞、腎臓細胞及び肺細胞に標準的なAAVを上回る高い効率で形質導入できたことが、実験結果により具体的に示されている(上記1(1)結果)。形質導入効率が高まれば、導入される遺伝子構築物による遺伝子編集効率も高まると認められるから、請求人が主張する上記技術的利点は、引用発明に、上記(3)で挙げた本願優先日当時の遺伝子編集のための周知技術(上記1(2)、(3)、(4)ウのとおり、通常、外因性ヌクレアーゼ無しで用いられるものである。)を組み合わせることにより、当業者が予測しうる範囲内のものといえる。 したがって、請求人の上記主張は採用の限りでない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2022-005945

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同じ当事者の審決9件(シティ・オブ・ホープ)
  • 2023-020799拒絶査定不服審判 / 2026-06-30 / 原査定取消(特許/登録すべき)メディトープ対応T細胞
    同じ当事者: シティ・オブ・ホープ
  • 2023-007534拒絶査定不服審判 / 2025-08-12 / 請求不成立多価メディトープ、メディトープ結合性抗体およびそれらの使用
    同じ当事者: シティ・オブ・ホープ
  • 2021-008071拒絶査定不服審判 / 2024-05-21 / 原査定取消(特許/登録すべき)キメラ抗原受容体組成物
    同じ当事者: シティ・オブ・ホープ
  • 2022-001819拒絶査定不服審判 / 2023-03-22 / 原査定取消(特許/登録すべき)BAFF-R抗体及びその使用
    同じ当事者: シティ・オブ・ホープ
  • 2021-006690拒絶査定不服審判 / 2023-02-28 / 原査定取消(特許/登録すべき)細胞透過性抗体
    同じ当事者: シティ・オブ・ホープ
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同じ根拠条文の審決7,656件(特許法29条2項)
  • 2023-020429拒絶査定不服審判 / 2026-03-30 / 請求不成立TGF-β受容体及び使用方法
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2023-020329拒絶査定不服審判 / 2026-03-25 / 請求不成立標的化核酸編集のための系、方法、及び組成物
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-001907拒絶査定不服審判 / 2026-03-17 / 請求不成立ミトコンドリアタンパク質における発現および送達を最適化する方法
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2023-020501拒絶査定不服審判 / 2025-11-25 / 請求不成立AAVベクター、及び抗AAV(アデノ関連ウイルス)中和抗体についてのアッセイ
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2023-015926拒絶査定不服審判 / 2025-07-23 / 請求不成立細胞型特異的エキソソームおよびそれらの使用
    共通の条文: 特許法29条2項
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同じ論点・分野の審決(審決分類)1,440件(121・C12N)
  • 2024-010419拒絶査定不服審判 / 2026-09-02 / 原査定取消(特許/登録すべき)ルシフェリン生合成の酵素及びその使用
    共通の審決分類: 121・C12N
  • 2024-011824拒絶査定不服審判 / 2026-08-27 / 原査定取消(特許/登録すべき)細胞ミクロコンパートメントおよびその調製方法
    共通の審決分類: 121・C12N
  • 2023-014751拒絶査定不服審判 / 2026-08-20 / 原査定取消(特許/登録すべき)改良された相同組換えおよびその組成物のための方法
    共通の審決分類: 121・C12N
  • 2023-020843拒絶査定不服審判 / 2026-08-20 / 原査定取消(特許/登録すべき)EGFR、HER2及びHER3に結合する結合部分の組み合わせ
    共通の審決分類: 121・C12N
  • 2024-011039拒絶査定不服審判 / 2026-08-20 / 原査定取消(特許/登録すべき)心臓オルガノイド培養及び移植のための脱細胞心臓組織由来支持体及びその製造方法
    共通の審決分類: 121・C12N

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