特許拒絶査定不服審判
2022-003520
ペリクル
- 審判番号
- 2022-003520
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-102605外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年03月08日
- 審決日
- 2023年07月18日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (G03F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-102605号「ペリクル」拒絶査定不服審判事件〔令和2年10月1日出願公開、特開2020-160466号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、平成27年11月11日に出願した特願2015-221593号の一部を令和2年6月12日に新たな特許出願としたものであって、その手続の概要は、以下のとおりである。
令和3年 3月 3日 :上申書、手続補正書の提出
令和3年 7月 1日付け:拒絶理由の通知
令和3年 9月 3日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年12月 3日付け:拒絶査定
令和4年 3月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和5年 3月 3日付け:拒絶理由の通知(以下、この通知による拒絶
理由を「当審拒絶理由」という。)
令和5年 5月 1日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書
による手続補正を「本件補正」という。)の
提出
2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ペリクル枠と、
前記ペリクル枠の一端面に張設されたペリクル膜と、
前記ペリクル枠の他端面に付着した、架橋型の粘着剤層と、を備え、
前記粘着剤層に含まれる粘着剤は、
炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化剤との反応性を有する官能基を有するヒドロキシル基含有モノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、
イソシアネート系化合物である硬化剤との反応生成物を含み、
前記粘着剤におけるカルボン酸含有モノマーユニットの含有量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量%に対して0質量%であり、
加重5kgf及び45secでマスク(6025石英)にペリクルを貼り付けた場合のマスクの変形量が25nm以下であり、
前記粘着剤層を20%伸長後に24時間緩和させた時の残留応力値が、1.0mN/mm2以上10.0mN/mm2以下である、ペリクル。」
3 拒絶の理由
当審拒絶理由は、本件補正前の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献1に記載された発明、引用文献1及び引用文献2に記載された技術的事項並びに技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという内容を含むものである。
引用文献1 特開2012-93518号公報
引用文献2 特開2015-114502号公報
4 引用文献の記載及び引用発明の認定について
(1)引用文献1について
ア 当審拒絶理由通知書が引用した引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
「【請求項1】
ペリクル枠体と、前記ペリクル枠体の表面に展張支持されたペリクル膜と、前記表面の反対側の裏面に設けられた粘着剤とを備えるペリクルであって、
前記粘着剤は、アクリル系樹脂粘着剤であり、
前記ペリクル枠体は、Cu:0.5~3.0%、Mg:1.5~4.5%、Zn:4.0~7.0%を含むアルミニウム材にて形成されているペリクル。
【請求項2】
前記粘着剤は、
炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、
前記硬化材との反応生成物と、
を含む請求項1に記載のペリクル。
【請求項3】
前記硬化材は、多官能性エポキシ化合物及びイソシアネート化合物の少なくとも1つの硬化材である請求項2に記載のペリクル。」
「【0001】
本発明は、例えばIC(Integrated Circuit:集積回路)、LSI(LargeScale Integration:大規模集積回路)、TFT型LCD(Thin Film Transistor,Liquid Crystal Display:薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ)等の半導体装置や液晶表示装置を製造する際のリソグラフィー工程で使用されるフォトマクスやレティクルに異物が付着することを防止するために用いるペリクルに関する。」
「【0006】
マスクの平坦性を変化させる要因の1つとしては、ペリクルの影響があると言われている。そこで、マスク粘着材にて平坦性を変化させない方法やペリクル枠体の平坦性を規定したものが開示されている(例えば、特許文献2~5参照)。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年の高エネルギー化に伴うパターンの微細化により、ペリクルを貼り付けた後のマスクの歪みを低減するペリクルが求められている。上記特許文献2~5に記載されているように、マスクの歪みはペリクルの影響が1つの要因とされており、ペリクル枠体の平坦度を規定したり、粘着剤の平坦度を規定したり、粘着剤の厚さを規定したりして様々な対策がとられている。
【0011】
ペリクル枠体は、その平坦度を維持した方がよく、製造工程中のハンドリング時や粘着剤等の成型等で歪んだり、変形しないことが望ましい。また、粘着剤は、マスクの平坦性を考慮して比較的柔らかい粘着剤を使用した方がよい。これは、粘着剤が、フレームの表面の平坦性を吸収し、マスクに与える平坦性の影響が緩和されると考えられるからである。しかしながら、粘着剤が柔らかすぎると、製造工程中でのハンドリングが悪化する傾向や、マスクからペリクルを剥離するときに起こる糊残りが発生するといった問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、マスクの平坦性に影響を与えにくく、且つヘイズの低減を図ることができるペリクルを提供することを目的とする。」
「【0030】
続いて、粘着剤10について詳細に説明する。粘着剤10は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化材との反応生成物とを含む組成物からなる粘着剤であれば、架橋密度を調整でき、ペリクル枠体2の平坦性を向上できるが、この(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下「A成分」という。)と、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマー(以下「B成分」という。)との少なくとも2つのモノマー成分を共重合させることによって得られる共重合体である粘着剤であること好ましい。この場合、マスクとの接着力が十分で、且つ、剥離後の糊残りが少ない。
【0031】
アルキルエステル共重合体は、A成分が99~80重量%、B成分が1~20重量%である単量体混合物の共重合体であることがマスクへの適度な接着力を発現することができ、より好ましい。」
「【0034】
B成分のモノマーは、上記A成分のモノマーと共重合可能なモノマーであって、エポキシ基との反応性を有するモノマーである。例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸などのカルボキシル基含有モノマーや、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等のヒドロキシル基含有モノマーである。これらは単独でも2種以上併せて用いてもよい。なかでも、共重合性、汎用性等の点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられる。特に糊残りの点から(メタ)アクリル酸が好ましく、(メタ)アクリル酸は(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマーに対し0.1~5重量%、更に好ましくは0.5~4重量%、更に好ましくは0.8~3重量%含有することがよい。
【0035】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体において、上記のA1成分のアクリレート系モノマーは、モノマー混合物中、40~90重量%、好ましくは45~80重量%の割合で用いられる。また、A2成分は9~59重量%、好ましくは15~50重量%、B成分は1~20重量%、好ましくは2~10重量%となるようにするのがよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量が70万以上、250万以下であると、粘着剤層の凝集力、接着力が適度な大きさになり、糊残りしにくく、且つ、十分な接着力、耐荷重性を持つ粘着剤となり、好ましい。重量平均分子量は、好ましくは90万以上230万以下、更に好ましくは100万以上200万以下が好ましい。重量平均分子量の制御方法について、公知の方法で制御できる。具体的には、一般に重合反応するときのモノマー濃度が高いほど重量平均分子量は大きくなる傾向にあり、重合開始剤量の量が少ないほど、又、重合温度が低いほど重量平均分子量は大きくなる傾向にある。」
「【0039】
かかる硬化材としては、金属塩、金属アルコキシド、アルデヒド系化合物、非アミノ樹脂系アミノ化合物、尿素系化合物、イソシアネート系化合物、金属キレート系化合物、メラミン系化合物、アジリジン系化合物など、通常の粘着剤に使用される硬化材をあげることができるが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が有する官能基成分との反応性の点から、イソシアネート系化合物及び多官能性エポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも1つの硬化材が好ましく、多官能性エポキシ化合物がより好ましい。」
「【0041】
硬化材の含有量は、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100重量部に対して、0.05~3重量部であるとペリクルに好ましく、0.05~2重量部、更には、0.05~1重量部であることがより好ましい。この範囲であると、架橋密度が適度な密度となり、糊残りしにくく、且つ、十分な接着力、耐荷重性を有する粘着剤となる。
【0042】
なかでも、硬化材の含有量が0.05重量部~0.20重量部であれば、ペリクル用の粘着剤としてより好ましく、ヘイズ(くもり)の発生を抑止し、糊残りが発生しにくくなる。更に、適度な架橋密度となるため、フォトマスクの平坦性に特に影響を与えにくい(フォトマスクの変形を特に抑止できる)マスク粘着剤となる。これは、硬化材の含有量が0.20重量部以下であれば、架橋密度が大きくなりすぎないため、マスクに掛かる応力を粘着剤10が吸収し、フォトマスクに与える平坦性の影響が緩和されると考えられる。一方で、0.05重量部以上であれば、架橋密度が小さくなり過ぎないため、製造工程中でのハンドリング性を維持し、マスクからペリクルを剥離するときに起こる糊残りの問題が発生しないと考えられる。」
「【0080】
(フォトマスクの変形の評価)
フォトマスクの変形の評価は、Tropel社製のFlatMaster200を用いて測定した。フォトマスク(6025石英)について、ペリクルを貼りつける前の平坦度を測定し、その後にペリクルを貼り付け、ペリクル貼り付け後の平坦度を測定した(測定範囲:135mm×110mm)。貼り付け前後の平坦度の差し引きを行い、ペリクルを貼り付けたことでどれだけ6025石英が変形したかを算出した。ペリクルの石英への貼り付けは簡易型マウンターで行った(加重:30Kgf、60sec)。
◎:ペリクルを貼り付けたことによるフォトマスクの変形量が100nm以下
○:ペリクルを貼り付けたことによるフォトマスクの変形量が200nm以下
×:ペリクルを貼り付けたことによるフォトマスクの変形量が200nm以上」
イ 上記アによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ペリクル枠体と、前記ペリクル枠体の表面に展張支持されたペリクル膜と、前記表面の反対側の裏面に設けられた粘着剤とを備えるペリクルであって、
前記粘着剤は、アクリル系樹脂粘着剤であり、
前記ペリクル枠体は、Cu:0.5~3.0%、Mg:1.5~4.5%、Zn:4.0~7.0%を含むアルミニウム材にて形成され、(【請求項1】)
前記粘着剤は、
炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、
前記硬化材との反応生成物と、
を含み、(【請求項2】)
前記硬化材は、多官能性エポキシ化合物及びイソシアネート化合物の少なくとも1つの硬化材である、(【請求項3】)、
ペリクル。」
(2)引用文献2について
当審拒絶理由通知書が引用した引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、超LSIなどの半導体素子あるいは液晶表示板などの半導体装置を製造する際に、マスク(フォトマスク)に異物が付着することを防止するために使用されるフォトリソグラフィー用ペリクルに関する。」
イ 「【0014】
(官能基について) 水酸基、カルボキシル基、エポキシ基を、合計で上記濃度(0.008mmol/g)を超えて含む粘着剤は、露光中に迷光が粘着剤にあたった時にマスクの表面と反応しやすくなり、これが糊残りの原因の一つになる。例えば、マスクが石英ガラスからなる場合は、その表面に水酸基が存在する。その水酸基と官能基との間で水素結合やイオン結合などの結合がおこり、経時と共に当該結合が強固になると考えられる。そのため、マスクからペリクルを剥離する際に、マスクに糊残りが生じる。水酸基、カルボキシル基、エポキシ基は、マスクの表面に存在する水酸基やシリカ、金属イオンなどと水素結合やイオン結合などの結合をおこしやすいためマスクの糊残りが特に問題となる。粘着剤中の水酸基、カルボキシル基については、一般的な方法としてJIS K0070に準じて、各濃度を測定することができる。また、粘着剤中のエポキシ価については、一般的な方法としてASTM D-1652に準じて濃度を測定することができる。」
5 対比・判断
(1)対比並びに一致点及び相違点の認定
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「ペリクル枠体」は、本願発明の「ペリクル枠」に相当する。
(イ)引用発明の「前記ペリクル枠体の表面に展張支持されたペリクル膜」は、本願発明の「前記ペリクル枠の一端面に張設されたペリクル膜」に相当する。
(ウ)引用発明の「粘着剤」は、本願発明の「粘着剤」に相当する。そして、引用発明の「粘着剤」は、反応生成物の内容のほか、引用文献1の「粘着剤10は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、硬化材との反応生成物とを含む組成物からなる粘着剤であれば、架橋密度を調整でき」るからみて、「架橋型」のものといえる。また、引用発明の「粘着剤」が粘着剤の「層」を構成していることは明らかである。そして、引用発明の「粘着剤」は、「ペリクル枠体の表面」「の反対側の裏面に設けられ」ているから、本願発明でいう「ペリクル枠の他端面に付着した」ものといえる。
よって、引用発明は、本願発明の「前記ペリクル枠の他端面に付着した、架橋型の粘着剤層」を備えているといえる。
(エ)引用発明の「炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル」は、本願発明の「炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル」に相当する。
引用発明の「硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマー」は、本願発明の「硬化剤との反応性を有する官能基を有するヒドロキシル基含有モノマー」とは、硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーである点で一致する。
引用発明の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体」は、本願発明の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体」に相当する。
引用発明の「多官能性エポキシ化合物及びイソシアネート化合物の少なくとも1つの硬化材」は、本願発明の「イソシアネート系化合物である硬化剤」とは、「硬化剤」である点で一致する。
よって、本願発明と引用発明とは、「前記粘着剤層に含まれる粘着剤は、炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化剤との反応性を有する官能基を有する」「モノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、」「硬化剤との反応生成物を含」む点で一致するが、硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーが、本願発明は「硬化剤との反応性を有するヒドロキシル基含有モノマー」であるのに対し、引用発明は「硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマー」であり、また、硬化剤が、本願発明は「イソシアネート系化合物」であるのに対し、引用発明は「多官能性エポキシ化合物及びイソシアネート化合物の少なくとも1つ」である。
(オ)引用発明の「ペリクル」は、本願発明の「ペリクル」に相当する。
イ 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「ペリクル枠と、
前記ペリクル枠の一端面に張設されたペリクル膜と、
前記ペリクル枠の他端面に付着した、架橋型の粘着剤層と、を備え、
前記粘着剤層に含まれる粘着剤は、
炭素数4~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマーとの共重合体である(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、
硬化剤との反応生成物を含む、
ペリクル。」
【相違点】
(相違点1)
「硬化剤との反応性を有する官能基を有するモノマー」及び「硬化剤」が、本願発明は、それぞれ「硬化剤との反応性を有するヒドロキシル基含有モノマー」及び「イソシアネート系化合物」であるのに対して、引用発明は、それぞれ「硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマー」及び「多官能性エポキシ化合物及びイソシアネート化合物の少なくとも1つ」である点。
(相違点2)
本願発明は、「前記粘着剤におけるカルボン酸含有モノマーユニットの含有量が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量%に対して0質量%であ」るのに対して、引用発明は、そのようにいえるかが明らかでない点。
(相違点3)
本願発明は、「加重5kgf及び45secでマスク(6025石英)にペリクルを貼り付けた場合のマスクの変形量が25nm以下であり、前記粘着剤層を20%伸長後に24時間緩和させた時の残留応力値が、1.0mN/mm2以上10.0mN/mm2以下である」のに対して、引用発明は、そのようにいえるかが明らかでない点。
(2)判断
ア 相違点1及び2について
引用発明の「硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマー」は、引用発明を開示する引用文献1において「B成分」と称されている(【0030】)ところ、同文献には「B成分」について、「なかでも、共重合性、汎用性等の点から、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられる。」(【0034】)と記載されている。そうすると、当業者であれば、当該「モノマー」として、上記のうち、「カルボキシル基含有モノマー」を選択せずに、「炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート」を選択することは適宜なし得たことである。そして、この場合の硬化材は、ヒドロキシル基含有モノマーを多官能性イソシアネート化合物によって架橋重合させることが技術常識であることに照らせば、「多官能性エポキシ化合物及びイソシアネート化合物の少なくとも1つ」のうち「イソシアネート化合物」を選択することも、通常なされることである。
このようにして引用発明から出発した当業者は、相違点1に係る本願発明の構成に至る。そして、「硬化材との反応性を有する官能基を有するモノマー」としてカルボキシル基含有モノマーが選択されておらず、その余の粘着剤の反応前成分にも同モノマーが含まれていないといえることから、上記当業者は、相違点2に係る本願発明の構成にも至ったことになる。
よって、相違点1及び2に係る本願発明の構成は、引用発明並びに引用文献1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が適宜なし得たものにすぎない。
イ 相違点3について
(ア)引用発明から出発した当業者がどのような変更をすれば相違点3に係る本願発明の構成(以下「本件構成」という。)に至るかについてみると、以下のとおり、硬化材の含有量をしかるべく調整することができれば、本件構成に至ることができると解される。
a 本件構成は、引用発明の認定によれば、「加重5kgf及び45secでマスク(6025石英)にペリクルを貼り付けた場合のマスクの変形量が25nm以下」という範囲(以下「マスク変形量範囲」という。)を満たすこと、及び、「前記粘着剤層を20%伸長後に24時間緩和させた時の残留応力値が、1.0mN/mm2以上10.0mN/mm2以下」という範囲(以下「残留応力値範囲」という。)を満たすことであるところ、これは機能ないし特性による特定であることから、まずは、このような特定の技術的意味について検討する。
(a)本願の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本願明細書等」という。)の【0075】の記載によれば、(i)残留応力値を残留応力値範囲を満たすようにすることにより、マスク歪を低減させ、マスク保管時にマスクとペリクルとがずれることが無くなること、(ii)残留応力値が大きいほどマスクを変形させる力が強いため、マスク歪が大きくなり、残留応力が小さいほどマスクを変形させる力は小さいこと、(iii)残留応力値範囲の上限値の意味は、マスク歪を小さくすることにあること、(iv)残留応力値範囲の下限値の意味は、マスク保管時のマスクとペリクルとのずれの防止にあること、(v)残留応力値が、残留応力値範囲のうち、5.5mN/mm2以上であれば、糊残りを低減できること、が認められる。そして、マスク変形量範囲を満たすかどうかについては、(ii)によれば、残留応力値の値を小さくしていけばいずれ満たすことになるといえる。
このように、本件構成は、マスク変形量範囲及び残留応力値範囲を満たすことからなるものであるが、マスク変形量範囲を満たすか否かは残留応力値に依存することから、結局、本件構成を満たすか否かも、残留応力値に依存することに帰する。そして、本件構成の技術的意義は、このような残留応力値を残留応力値範囲内に調整することにより、マスク歪を小さくするとともにマスク保管時のマスクとペリクルとのずれを防止することにあり、また、残留応力値を残留応力値範囲に属する所定の大きさ以上にすれば、糊残りの低減もできることにあるといえる。
(b)そこで、本件構成及びその技術的意義で言及される「残留応力値」の技術的意味を明らかにするべく本願明細書等の記載をみると、残留応力値は、粘着剤組成物の組成比や硬化剤量によって調整できる(【0075】)とされている。そして、「凝集力が大きいほど、残留応力値αと最大応力値αmaxとの値は大きくなる傾向がある。」(【0038】)及び「残留応力値αがこの範囲内であれば、凝集力も適度になる・・・」(【0075】)の記載によれば、残留応力値は凝集力の大きさに正の相関があるということができる。加えて、「低マスク歪の要求が大きいことでマスク粘着剤が柔軟になり、凝集力が下がることで・・・」(【0012】)の記載によれば、粘着剤が柔軟になれば、その凝集力が下がるといえる。
このように、残留応力値は、粘着剤組成物の組成比や硬化剤量に依存するとともに、粘着剤が柔軟であるほど小さくなるといえるところ、粘着剤の柔軟性は、架橋密度といった架橋の程度に依存する(架橋の程度が小さいほど柔軟になる。)のが明らかであることから、残留応力値は、硬化剤の量を少なくしたり、硬化剤との反応性を有する官能基を有するヒドロキシル基含有モノマーの組成比を小さくしたりすれば、小さくなると解される。
(c)以上のとおり、本件構成であるマスク変形量範囲及び残留応力値範囲を満たすか否かは、残留応力値に依存するのであり、残留応力値は、硬化剤の量を少なくしたり、硬化剤との反応性を有する官能基を有するヒドロキシル基含有モノマーの組成比を小さくしたりすることにより、架橋密度といった架橋の程度を低下させ、粘着剤を柔軟にするほど小さくなる。そして、本件構成の技術的意義は、上記(a)で説示したとおりである。
b 次に、引用発明を開示する引用文献1をみると、同文献には、硬化材の含有量が0.20重量部以下であれば、架橋密度が大きくなりすぎないため、フォトマスクに与える平坦性の影響が緩和される、つまり、フォトマスクの変形が抑止される一方、当該含有量が0.05重量部以上であれば、架橋密度が小さくなり過ぎないため、製造工程中でのハンドリング性を維持し、マスクからペリクルを剥離するときに起こる糊残りの問題が発生しないと考えられる旨記載されている(【0042】)。そして、ここでいう「フォトマスクの変形」は、本願明細書等でいう「マスク歪」に相当する概念であるといえるのであり、このことは、上記「フォトマスクの変形」の評価の手法が、ペリクルを貼り付けたことでどれだけフォトマスクが変形したかを算出してなされており(【0080】)、このような評価の手法が、本件構成及びそれに対応する本願明細書等の【0091】に記載されたマスクの歪評価の手法と比べて、加重の大きさ(本件構成では5kf、引用文献1では30kgf)及び加重時間(本件構成では45sec、引用文献1では60sec)という条件こそ異なるものの、同様といえることからも首肯できる。
このように、引用文献1には、硬化材の含有量を調整して、架橋密度を大きくしすぎないことによりフォトマスクの変形(マスク歪)を緩和するとともに、同密度を小さくしすぎないことによりハンドリング性を維持しつつ糊残りの問題を発生させないことが記載されている。そして、上記a(b)で説示したとおり、架橋密度の大小は残留応力値の大小に対応する。そうすると、引用文献1に記載された技術的事項の技術的意義は、同文献に残留応力値の明記こそないものの、硬化材の含有量の調整によって、残留応力値が結果的に調整されることを通じて、フォトマスクの変形(マスク歪)を小さくし、かつ、ハンドリング性を維持しつつ糊残りの低減をすることにあるといえる。
c 上記a及びbのとおり、本件構成の技術的意義は、残留応力値を残留応力値範囲内に調整することにより、マスク歪を小さくするとともにマスク保管時のマスクとペリクルとのずれを防止することにあるとともに、残留応力値を残留応力値範囲に属する所定の大きさ以上にすれば、糊残りの低減もできることにあり、他方で、引用文献1に記載された技術的事項の技術的意義は、硬化剤の含有量の調整によって、残留応力値が結果的に調整されることを通じて、フォトマスクの変形(マスク歪)を小さくし、かつ、ハンドリング性を維持しつつ糊残りの低減をすることにある。しかるに、本件構成及び引用文献1に記載された技術的事項は、その程度はさておくとしても、マスク歪の減少と糊残りの低減という意味で共通することに照らせば、引用文献1に記載された技術的事項の技術的意義は、本件構成の技術的意義に包含される関係にあるといえることに、ハンドリング性の維持が本件構成においても当然に求められていると解されることを併せると、引用発明において、ハンドリング性を維持することを満たしつつ硬化材の含有量を低下させると、いずれは残留応力値範囲の下限値に至ると解される。
よって、引用発明から出発した当業者は、硬化材の含有量をしかるべく調整することができれば、本件構成に至ることができると解される。
(イ)そこで、引用発明から出発した当業者が、硬化材の含有量をどのように調整するのかについてみると、上記(ア)bで説示したとおり、引用文献1には、硬化材の含有量を調整して、架橋密度を大きくしすぎないことによりフォトマスクの変形(マスク歪)を緩和するとともに、同密度を小さくしすぎないことによりハンドリング性を維持しつつ糊残りの問題を発生させないことが記載されている。しかるに、フォトマスクの変形(マスク歪)の緩和をどの程度要求するのかは、ハンドリング性を維持しつつ糊残りの問題が発生しない範囲で、当業者が適宜設定すべき事項であるところ、これは、硬化材の含有量を調整することにより実現できる。そして、糊残りの問題が発生しないかどうかについては、上記(ア)bの説示によれば、フォトマスクの変形と糊残りの問題とがトレードオフの関係にあることが明らかであり、よって、両者をどのように調整するかは程度問題にすぎないといえることから、当業者であれば、仮に糊残りが多少生じ得る余地があるとしても、フォトマスクの変形の少なさをより優先することも適宜選択できるといえる。
そうすると、当業者であれば、フォトマスクの変形(マスク歪)をできるだけ緩和させるべく、ハンドリング性を維持することを満たしつつ、硬化材の含有量を少なくすることは、適宜なし得たことであり、そのようにすることにより、結果的に本件構成に至ることができるといえる。
(ウ)よって、引用発明から出発した当業者は、引用文献1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて、本件構成に容易に至る。
ウ 本願発明の効果について
本願発明の奏する効果は、マスクに歪みを与えないとともに、マスクへの糊残りを低減させることにある(【0018】)。
しかるところ、マスクに歪みを与えないことについては、上記イ(ア)bのとおり、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて当業者が予測できることである。また、マスクへの糊残りの低減については、上記イ(ア)bの説示に加えて、引用文献2の【0014】に、カルボキシル基を含む粘着剤は、石英マスク表面の水酸基と当該カルボキシル基との間で結合がおこり、経時と共に結合が強固になって、糊残りが問題となる旨記載されていることから、引用発明において上記ア及びイのように構成すれば、カルボキシル基が存在しないことによる効果も含めて、糊残りが低減することを当業者は予測できる。
よって、上記各相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明、引用文献1及び2に記載された技術的事項並びに技術常識に基づいて予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、引用発明において単に硬化材の量を減らしただけでは相違点3に係る本願発明の構成(本件構成)に至らない旨主張し、その根拠として、(i)硬化材の量を減らして単に粘着剤を柔軟にするだけでは、マスクに歪を与えないこと以外に、糊残りをも低減するという本願発明の課題を解決することができないこと、(ii)本願明細書等に記載された比較例1(硬化剤量が0.4質量部、残留応力値が10.5mN/mm2、マスクの歪評価が◎)は、実施例2(硬化剤量が0.6質量部、残留応力値が7.5mN/mm2、マスクの歪評価が○)と比べて、硬化剤量が少ないにもかかわらず、残留応力値が大きくなるとともに歪評価も悪くなっていること、(iii)本願発明は、マスク歪を低減させるために、例えば、残留応力値を適宜調整する方法を採用しており、さらに、粘着剤層に特定の反応生成物を含む粘着剤を含有させるとともに、当該粘着剤におけるカルボン酸含有モノマーユニットの含有量を(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量%に対して0質量%とすることにより、低マスク歪と糊残りの低減との両方の課題を達成しているものであること、を挙げる。
しかしながら、上記(i)については、引用文献1にも、上記イ(ア)bで説示したとおり、硬化材の含有量を調整して、架橋密度を小さくしすぎないことによりハンドリング性を維持しつつ糊残りの問題を発生させないことが記載されている。上記(ii)については、請求人が挙げる実施例2と比較例1とは、硬化剤量以外のモノマー成分が異なり、このようなモノマー成分の内容も残留応力値に依存すると解されることから、これらの2例を比較することによって、請求人の主張を帰結することはできない。上記(iii)については、上記ア及びイで説示したとおり、引用発明から出発した当業者は、相違点1~3に係る本願発明の構成に至るといえるし、そのようにした効果も、上記ウで説示したとおり、当業者にとって予測可能であることから、このことをもって、後記オのとおり、本願発明は進歩性を欠如するといえるのであり、よって、請求人の主張は、結論に影響するものではない。
(イ)請求人は、本願発明の効果が格別である旨主張し、その根拠として、本願発明は、残留応力値を残留応力値範囲とすることによりマスク歪を更に低減することができるものである一方、そのような残留応力値が引用文献1及び2のいずれにも記載も示唆もないことを挙げる。
しかしながら、上記イ(ア)cで説示したとおり、引用文献1に記載された技術的事項の技術的意義は、同文献に残留応力値の明記こそないものの、硬化材の含有量の調整によって、残留応力値が結果的に調整されることを通じて、フォトマスクの変形(マスク歪)を小さくし、かつ、ハンドリング性を維持しつつ糊残りの低減をすることにあり、本件構成及び引用文献1に記載された技術的事項は、その程度はさておくとしても、マスク歪の減少と糊残りの低減という意味で共通することに照らせば、引用文献1に記載された技術的事項の技術的意義は、本件構成の技術的意義に包含される関係にある。そうすると、残留応力値が引用文献1及び2のいずれにも記載も示唆もないからといって、そのことをもって、効果の格別顕著性を認めることはできない。
(ウ)よって、請求人の主張はいずれも採用できない。
オ 小括
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1及び2に記載された事項並びに技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 むすび
以上によれば、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-003520