審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2022-002131

高湿度雰囲気中で用いるための固体電解キャパシタ

審判番号
2022-002131
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-524939外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2022年02月14日
審決日
2022年12月21日
公報発行日
2023年06月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (H01G) / P18 .575-Z (H01G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-524939「高湿度雰囲気中で用いるための固体電解キャパシタ」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月24日国際公開、WO2018/093742、令和 2年 1月 9日国内公表、特表2020-500427〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 11項目
理 由

第1 手続の経緯

本願は、2017年11月14日(パリ条約による優先権主張 2016年11月15日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和3年2月19日付けで拒絶理由通知が通知され、令和3年5月14日に手続補正がなされたが、令和3年10月7日付けで拒絶査定がなされ。これに対し、令和4年2月14日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされ、令和4年2月17日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 令和4年2月14日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和4年2月14日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正について(補正の内容)

(1)本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「【請求項1】
固体電解キャパシタであって、
焼結多孔質陽極体;
前記陽極体の上に配されている誘電体;
前記誘電体の上に配されている、複数の導電性ポリマー粒子を含む固体電解質、ここで前記導電性ポリマー粒子がチオフェンポリマーを含む;及び
前記固体電解質の上に配されている金属粒子層を含む陰極被覆、ここで、前記金属粒子層は樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含み、前記導電性金属粒子は前記層の約50重量%~約99重量%を構成し、前記樹脂状ポリマーマトリクスは前記層の約1重量%~約50重量%を構成し、前記樹脂状ポリマーマトリクスはビニルアセタールポリマーを含む;
を含む上記固体電解キャパシタ。」

(2)本件補正前の、令和3年5月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
固体電解キャパシタであって、
焼結多孔質陽極体;
前記陽極体の上に配されている誘電体;
前記誘電体の上に配されている、複数の導電性ポリマー粒子を含む固体電解質;及び
前記固体電解質の上に配されている金属粒子層を含む陰極被覆、ここで、前記金属粒子層は樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含み、前記導電性金属粒子は前記層の約50重量%~約99重量%を構成し、前記樹脂状ポリマーマトリクスは前記層の約1重量%~約50重量%を構成し、前記樹脂状ポリマーマトリクスはビニルアセタールポリマーを含む;
を含む上記固体電解キャパシタ。」

2 補正の適否

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「導電性ポリマー粒子」の内容について、「ここで前記導電性ポリマー粒子がチオフェンポリマーを含む」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明

本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項

折りたたみ中(クリックで表示)

ア 引用文献1について

(ア)引用文献1に記載された事項について

原査定の拒絶の理由で引用された国際公開第2013/111438号(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。

「【発明の詳細な説明】
[0001] 本発明は固体電解コンデンサ素子、その製造方法及び導電ペーストに関し、特には、熱衝撃によるESR(等価直列抵抗)の劣化が抑制され、且つ、製品毎のESR変化のばらつきが小さく、歩留まりの良い固体電解コンデンサ素子に関する。
[0002] 図1に固体電解コンデンサ素子の一例を示す。図1の固体電解コンデンサ素子1は、タンタル、ニオブ、チタン、アルミニウム等の弁作用金属を焼結させた焼結体11の表面に酸化被膜12が形成され、その上に、固体電解質層13、カーボン層14、導電体層15を含む構造を備えている。ここで焼結体11は陽極体として、酸化被膜12は誘電体層として用いられ、また固体電解質層13上のカーボン層14及び導電体層15は陰極体として用いられる。
酸化被膜12は、焼結体自体が酸化されたものが好ましく用いられるが、他の酸化物であっても良い。
また固体電解質層13としては、二酸化マンガンや導電性高分子等が広く用いられている。
通常、カーボン層14は、樹脂(バインダ樹脂とも言う)と溶剤を含むビヒクル中にカーボン粉末を分散させたカーボンペーストを塗布、乾燥させることによって形成される。このカーボン層14は、固体電解質層13と導電体層15との間の接触抵抗を下げ、ESRを低下させることができると考えられている。
また、通常、導電体層15は、ビヒクル中に銀等の金属粉末を分散させた導電ペーストを塗布、乾燥及び/又は硬化させることによって形成される。」

[図:0001397709000001.jpg]

「[0006] 以上のような背景から本発明者等は各層に関する改良を検討すると共に、各層の組合せ、特にカーボン層と導電体層の組合せについて数多くの実験並びに検討を繰り返し行った結果、本発明を完成させるに到った。
すなわち、本発明は上述した問題点を解決するために成されたものであり、ESRの初期特性が良好なだけでなく、熱衝撃によるESR劣化が小さく、ESR変化のばらつきも抑制された固体電解コンデンサ素子を提供することを目的とする。」
「[0007] 上記問題を解決する本発明は、以下を特徴とする。
(1) 陽極体表面に、少なくとも誘電体層と、固体電解質層と、第1の樹脂成分を含むカーボン層と、第2の樹脂成分を含む導電体層とを備える固体電解コンデンサ素子において、
第1の樹脂成分及び前記第2の樹脂成分が共に水酸基を有し、
前記カーボン層表面の水素結合性成分値γh1〔mN/m〕と前記導電体層表面の水素結合性成分値γh2〔mN/m〕との差Δγh(=γh2-γh1)が、-3≦Δγh≦3〔mN/m〕の範囲内にあることを特徴とする固体電解コンデンサ素子。」
「[0010] 本発明は、カーボン層及び導電体層を有する固体電解コンデンサ素子に適用することができ、以下、図1に示した固体電解コンデンサ素子に対して適用した例で説明する。
なお、本明細書中では、未乾燥/未硬化の状態のペースト中にある樹脂を「バインダ樹脂」と称し、当該ペーストを乾燥及び/又は硬化して形成された層中に含まれる「樹脂成分」と区別するものとし、以下では「第1のバインダ樹脂」を含むペーストを乾燥及び/又は硬化させた層中に含まれる樹脂を「第1の樹脂成分」、「第2のバインダ樹脂」を含むペーストを乾燥及び/又は硬化させた層中に含まれる樹脂を「第2の樹脂成分」と言う。
[0011] カーボン層14には、カーボン粉末と第1の樹脂成分が含まれている。本発明において使用できるカーボン粉末に限定はないが、固体電解コンデンサ素子において一般的に用いられていることからグラファイト粉末が好ましい。
当該カーボン粉末は、第1のバインダ樹脂と溶剤とを含むビヒクル中に均一に分散され、カーボンペーストとされる。このカーボンペーストを固体電解質層13の上に塗布後、乾燥及び/又は硬化することによりカーボン層が得られる。
[0012] 導電体層15には、金属粉末と第2の樹脂成分が含まれている。当該金属粉末は、第2のバインダ樹脂と溶剤とを含むビヒクル中に均一に分散され、導電ペーストとされる。この導電ペーストをカーボン層14(または乾燥及び/又は硬化される前のカーボンペースト層)の上に塗布後、乾燥及び/又は硬化することにより導電体層が得られる。
本発明において使用できる金属粉末に限定はないが、導電性やコスト上の観点から、銀粉末や、銅、ニッケル、アルミニウム等の銀以外の他の金属の何れか1種又は2種以上の粒子の表面に銀を被覆した複合粉末、或いは銀と前記他の金属の何れか1種又は2種以上との合金粉末(以下、併せて「銀系粉末」と称する)を用いることが好ましい。」
「[0014] 本発明においては、カーボン層に含まれる第1の樹脂成分と、導電体層に含まれる第2の樹脂成分は共に水酸基を有する。どちらか一方或いは両方の樹脂成分が水酸基を有していない場合には、ヒートサイクル試験後に接触抵抗値が上昇し、ESRが劣化する。
[0015] 第1、第2の樹脂成分が共に水酸基を有するために、カーボンペースト及び導電ペーストに用いる第1、第2のバインダ樹脂としては、水酸基を有するバインダ樹脂の1種又は2種以上を使用する。このようなバインダ樹脂の一例としては、積水化学工業製BH-S,KS-5等のブチラール樹脂 …(中略)・・・等が挙げられる。
ESRの劣化や製品毎の経時的なESR変化のばらつきの改善のためには、特に第1及び第2の樹脂成分に含まれる水酸基の重量は、共に、当該樹脂成分の総量に対して2~10重量%であることが好ましい。このような樹脂成分を用いることにより、塗膜の耐湿性が損なわれて漏れ電流が増大する等の問題が生ずることなく、優れた改善効果が得られる。」
「[0022] 以上の要件を満足するカーボンペースト及び導電ペーストを組合わせて準備する以外は、本発明の固体電解コンデンサ素子は、従来例と同様に焼結体11、酸化被膜12、固体電解質層13、カーボン層14、導電体層15を形成することによって製造することができる。
[0023] <導電ペーストの準備>
導電ペーストとして、銀粉末を含む以下の10種類の銀ペーストを準備した。
〔試料A-1〕
銀粉末53.0重量%、ブチラール樹脂(積水化学工業製BH-Sと積水化学工業製KS-5を1:1で混合したもの)を樹脂固形量15重量%としてベンジルアルコールに溶解したワニス30.0重量%及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート17.0重量%を、三本ロールミルを用いて混練攪拌することにより銀ペーストA-1
を調製した。」

(イ)引用文献1に記載された技術事項について

上記記載から、引用文献1には、次の技術事項が記載されているものと認められる。

a 段落[0001]より、引用文献1は「固体電解コンデンサ素子」に関するものであることがわかる。

b 段落[0022]に「本発明の固体電解コンデンサ素子は、従来例と同様に焼結体11、酸化被膜12、固体電解質層13、カーボン層14、導電体層15を形成することによって製造することができる。」と記載されていることから、該従来例に関する段落[0002]を参酌することにより、「弁作用金属を焼結させた焼結体11の表面に酸化被膜12が形成され、その上に、固体電解質層13、カーボン層14、導電体層15を含む構造を備え」、「ここで焼結体11は陽極体として、酸化被膜12は誘電体層として用いられ、また固体電解質層13上のカーボン層14及び導電体層15は陰極体として用いられ」、「固体電解質層13としては、」「導電性高分子等が広く用いられ」、「カーボン層14は、固体電解質層13と導電体層15との間の接触抵抗を下げ、ESRを低下させることができ」るとの技術事項を読み取ることができる。

c 段落[0011] 、[0012] より、「カーボン層14には、カーボン粉末と第1の樹脂成分が含まれ」、「導電体層15には、金属粉末と第2の樹脂成分が含まれ」、「金属粉末」として「銀粉末」「を用い」、「当該金属粉末は、第2のバインダ樹脂と溶剤とを含むビヒクル中に均一に分散され、導電ペーストとされ」、「この導電ペーストをカーボン層14」「の上に塗布後、乾燥及び/又は硬化することにより導電体層が得られ」るとの技術事項を読み取ることができる。

d 段落[0014]より、「カーボン層に含まれる第1の樹脂成分と、導電体層に含まれる第2の樹脂成分は共に水酸基を有する。」との技術事項を読み取ることができる。

e 段落[0015]より、 「水酸基を有するバインダ樹脂」「の一例としては、積水化学工業製BH-S,KS-5等のブチラール樹脂」「等が挙げられる。」との技術事項を読み取ることができる。

f 段落[0023]より、次の技術事項を読み取ることができる。

「導電ペーストとして、銀粉末を含む以下」「の銀ペーストを準備する、
〔試料A-1〕
銀粉末53.0重量%、ブチラール樹脂(積水化学工業製BH-Sと積水化学工業製KS-5を1:1で混合したもの)を樹脂固形量15重量%としてベンジルアルコールに溶解したワニス30.0重量%及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート17.0重量%」

(ウ)引用文献1に記載された発明について

上記(イ)aないしfより、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「固体電解コンデンサ素子であって、
弁作用金属を焼結させた焼結体11の表面に酸化被膜12が形成され、その上に、固体電解質層13、カーボン層14、導電体層15を含む構造を備え、ここで焼結体11は陽極体として、酸化被膜12は誘電体層として用いられ、また固体電解質層13上のカーボン層14及び導電体層15は陰極体として用いられ、
固体電解質層13としては、導電性高分子等が広く用いられ、カーボン層14は、固体電解質層13と導電体層15との間の接触抵抗を下げ、ESRを低下させることができ、
カーボン層14には、カーボン粉末と第1の樹脂成分が含まれ、
導電体層15には、金属粉末と第2の樹脂成分が含まれ、金属粉末として銀粉末を用い、当該金属粉末は、第2のバインダ樹脂と溶剤とを含むビヒクル中に均一に分散され、導電ペーストとされ、この導電ペーストをカーボン層14の上に塗布後、乾燥及び/又は硬化することにより導電体層15が得られ、
カーボン層に含まれる第1の樹脂成分と、導電体層に含まれる第2の樹脂成分は共に水酸基を有し、水酸基を有するバインダ樹脂の一例としては、積水化学工業製BH-S,KS-5等のブチラール樹脂等が挙げられ、
導電ペーストとして、銀粉末を含む以下の銀ペーストを準備する、
〔試料A-1〕
銀粉末53.0重量%、ブチラール樹脂(積水化学工業製BH-Sと積水化学工業製KS-5を1:1で混合したもの)を樹脂固形量15重量%としてベンジルアルコールに溶解したワニス30.0重量%及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート17.0重量%、
固体電解コンデンサ素子。」

イ 引用文献2について

原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された特表2015-532525号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。

「【0006】
上記のその場重合に加えて、コンデンサにおける固体電解質を製造するためのプロセスであって、既に重合したチオフェンおよび対イオンとしてポリアニオンを含む分散液、例えば従来技術から知られているPEDOT/PSS分散液が、酸化物層に付与され、次いで分散剤がエバポレーションによって除去される、プロセスもまた、従来技術から知られている。」

ウ 引用文献4

原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された特開2015-037192号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)

「【0020】
B.固体電解質
上述したように、誘電体の上には、一般的にコンデンサーにおけるカソードとして機能する固体電解質が重なる。例えば、硝酸第一マンガン(Mn(NO3)2)の熱分解により、二酸化マンガン固体電解質を形成することができる。そのような技術は、例えば、Sturmer他に付与された米国特許第4,945,452号明細書に記載されている。
【0021】
これに代えて、固体電解質は、1つ又はそれよりも多くの導電性ポリマー層から形成することができる。そのような層内に使用される導電性ポリマーは、一般的にπ共役のものであり、酸化又は還元の後の導電率、例えば、酸化後の少なくとも約1μScm-1の導電率を有する。そのようなπ共役の導電性ポリマーの例は、例えば、ポリ複素環(例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン等)、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン、及びポリフェノラートなどを含む。
・・・(省略)・・・
【0022】
特に適切なチオフェンポリマーは、「D」が、任意的に置換されたC2からC3までのアルキレンラジカルであるものである。例えば、ポリマーは、以下の一般構造を有する任意的に置換されたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とすることができる。
[図:0001397709000002.jpg]
」
「【0026】
原位置付加に加えて、導電性ポリマー固体電解質は、導電性ポリマー粒子の分散液の形態で付加することができる。分散液を使用する1つの利点は、それによってイオン移動に起因する高電界の下で誘電体の破壊をもたらす可能性がある原位置重合中に生成されるイオン化学種(例えば、Fe2+又はFe3+)の存在を最小にすることができる点である。従って、導電性ポリマーを原位置重合によってではなく分散液として付加することにより、得られるコンデンサーは、比較的高い「破壊電圧」を示すことができる。」

(3)引用発明1との対比・判断

ア 対比

(ア)本件補正発明と引用発明1とを対比する。

a 引用発明1における「固体電解コンデンサ素子であって」が、本願補正発明における「固体電解キャパシタであって」に相当する。

b 引用発明1における「陽極体として」「用いられる」「弁作用金属を焼結させた焼結体11」が、本願補正発明における「焼結多孔質陽極体」に相当する。

c 引用発明1における「焼結体11の表面に」「形成され」、「誘電体層として用いられ」る「酸化被膜12」が、本願補正発明における「前記陽極体の上に配されている誘電体」に相当する。

d 引用発明1における「固体電解質層13」は、「誘電体層として用いられ」る「酸化被膜12」「の上に」「備え」られ、「導電性高分子等が広く用いられ」るから、本願補正発明とは、「前記誘電体の上に配されている、導電性ポリマーを含む固体電解質」の点で共通する。

しかしながら、本願補正発明では、固体電解質に含まれる「導電性ポリマー」が「複数の導電性ポリマー粒子を含」み、「ここで前記導電性ポリマー粒子がチオフェンポリマーを含む」のに対し、引用発明1では、「導電性高分子等」の組成や形態が具体的に特定されていない点で相違する。

e 本願明細書の段落【0053】には「F.他の成分:所望の場合には、当該技術において公知の他の層をキャパシタに含ませることもできる。例えば、幾つかの態様においては、炭素層(例えばグラファイト)を固体電解質と銀層との間に配置して、これによって銀層と固体電解質との接触を更に制限することを助けることができる。」と記載されている。

すると、引用発明1における「カーボン層14」は「固体電解質層13と導電体層15との間の接触抵抗を下げ、ESRを低下させることができ」る層であるから、本願明細書の上記段落【0053】に記載された「キャパシタに含ませることもできる」「公知の他の層」に相当する。そして、本願補正発明では、そのような「公知の他の層をキャパシタに含ませること」を特段、排除していない。

上記の点を踏まえて本願補正発明と引用発明1とを対比すると、

(a)引用発明1における「導電体層15」は「金属粉末」を「含」んでいるから、本願補正発明における「金属粒子層」に相当する。

すると、

(b)引用発明1における「カーボン層14及び導電体層15」は、「固体電解質層13」の「上」に配されており、「陰極体として用いられ」ているから、本願補正発明における「前記固体電解質の上に配されている金属粒子層を含む陰極被覆」に相当する。

f 本願補正発明では、「前記金属粒子層は樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含み、前記導電性金属粒子は前記層の約50重量%~約99重量%を構成し、前記樹脂状ポリマーマトリクスは前記層の約1重量%~約50重量%を構成し」、「前記樹脂状ポリマーマトリクスはビニルアセタールポリマーを含む」のに対し、引用発明1では、「導電ペースト」の組成について「銀粉末53.0重量%、ブチラール樹脂(積水化学工業製BH-Sと積水化学工業製KS-5を1:1で混合したもの)を樹脂固形量15重量%としてベンジルアルコールに溶解したワニス30.0重量%及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテート17.0重量%」とされているものの、上記「導電ペーストを」「塗布後、乾燥及び/又は硬化することにより」「得られ」た「導電体層15」の組成や性状が具体的に特定されていない点で相違する。

g 引用発明1における「固体電解コンデンサ素子」は、上記「b」ないし「e」の構成を備えている点で、本願補正発明における「固体電解キャパシタ」に相当する。

(イ)上記(ア)aないしgより、本願補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】

「固体電解キャパシタであって、
焼結多孔質陽極体;
前記陽極体の上に配されている誘電体;
前記誘電体の上に配されている、導電性ポリマーを含む固体電解質;及び
前記固体電解質の上に配されている金属粒子層を含む陰極被覆;
を含む上記固体電解キャパシタ。」

【相違点1】

本願補正発明では、固体電解質に含まれる「導電性ポリマー」が「複数の導電性ポリマー粒子を含」み、「ここで前記導電性ポリマー粒子がチオフェンポリマーを含む」のに対し、引用発明1では、「導電性高分子等」の組成や形態が具体的に特定されていない点。

【相違点2】

金属粒子層について、本願補正発明では「前記金属粒子層は樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含み、前記導電性金属粒子は前記層の約50重量%~約99重量%を構成し、前記樹脂状ポリマーマトリクスは前記層の約1重量%~約50重量%を構成し」、「前記樹脂状ポリマーマトリクスはビニルアセタールポリマーを含む」のに対し、引用発明1では組成や性状が具体的に特定されていない点。

イ 判断

以下、相違点について検討する。

(ア)【相違点1】について

例えば引用文献2、引用文献4より、「コンデンサにおいて、固体電解質を製造するためのプロセスとして、既に重合したチオフェンの導電性ポリマー粒子を含む分散液を、酸化物層に付与するプロセス」は周知技術であると認められる。

よって、引用発明1における「固体電解質層」の「導電性高分子等」として、従来技術から知られているPEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))等のポリチオフェンを採用するとともに、上記周知技術を用いて「既に重合したチオフェンの導電性ポリマー粒子を含む分散液を、酸化物層に付与するプロセス」により得るようにして、上記【相違点1】に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)【相違点2】について

引用発明1において「導電ペーストとして、銀粉末を含む以下の銀ペーストを準備」し、「導電ペーストを」「塗布後、乾燥及び/又は硬化することにより」「得られ」た「導電体層15」について以下検討する。

a (組成およびビニルアセタールポリマーについて)

「銀粉末」と、「ブチラール樹脂(積水化学工業製BH-Sと積水化学工業製KS-5を1:1で混合したもの)」の「樹脂固形量」との質量比は、53.0:4.5(=53.0:30×0.15)であるから、「導電体層15」における「銀粉末」(金属粉末)と該「樹脂固形量」(第2の樹脂成分)の質量割合が上記【相違点2】に係る本願補正発明の要件を満たしていることは明らかである。

また、本願明細書の段落【0050】に「本発明者らは、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール等のようなビニルアセタールポリマー」と記載され、さらに同段落【0050】の末尾に「かかるポリマーの1つの商業的に入手できる例は、Sekisui Chemical Co.,Ltd.から「BH-S」(ポリビニルブチラール)の名称で入手できる」と記載されているとおり、引用発明1における「ブチラール樹脂」は、「ビニルアセタールポリマー」である。

さらに、積水化学工業製KS-5についても、請求人が令和4年2月17日の手続補正書(方式)に添付した「参考資料2 積水化学工業ホームページ 「エスレックB,KX,KW 粘度と水酸基」(URL: https://www.sekisui.co.jp/cs/products/slec/datasheet/1307457_30973.html)」によれば、その(注)に、「KS-5」のシンボルが「ポリビニルアセタール(高Tgグレード)樹脂」であると記載されている。

[図:0001397709000003.jpg]

(当審注:提出された図表が明瞭でないため、当審において上記URLより複写した。)

よって、引用発明1における「ブチラール樹脂(積水化学工業製BH-Sと積水化学工業製KS-5を1:1で混合したもの)」は「ビニルアセタールポリマーを含む」ものであって、上記【相違点2】に係る本願補正発明の要件を満たしている。

b (性状について)

一般に「導電ペースト」における「バインダ樹脂」は、「金属粉末」を固着するためのマトリクス樹脂として用いられるものであるから、引用発明1の「導電体層15」において、「銀粉末」(金属粉末)が、「積水化学工業製BH-S,KS-5等のブチラール樹脂」の「バインダ樹脂」を含むペーストを乾燥及び/又は硬化させた「第2の樹脂成分」(引用文献1の段落[0010]参照)のポリマーマトリクス内に分散されていることはいうまでもないことである。

c (まとめ)

以上のとおり、【相違点2】は実質的な相違点ではない。

(ウ)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願補正発明の奏する作用効果は、引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2、4)の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

ウ まとめ

したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2、4)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび

したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

令和4年2月14日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし25に係る発明は、令和3年5月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし25に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用文献等一覧>

1.国際公開第2013/111438号

2.特表2015-532525号公報(周知技術を示す文献)

3.特開2012-129531号公報(周知技術を示す文献)

4.特開2015-037192号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献

原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2、4及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断

(1)対比

本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本願補正発明から、「導電性ポリマー粒子」に係る「ここで前記導電性ポリマー粒子がチオフェンポリマーを含む」との限定を解除したものである。そうすると、本願発明と引用発明1とは、前記第2の[理由]2(3)アを踏まえると、次の【相違点1’】及び【相違点2’】の点で相違し、その他の点では一致する。

【相違点1’】

本願発明では、固体電解質に含まれる「導電性ポリマー」が「複数の導電性ポリマー粒子を含む」のに対し、引用発明1では、「導電性高分子等」の組成や形態が具体的に特定されていない点。

【相違点2’】

金属粒子層について、本願発明では「前記金属粒子層は樹脂状ポリマーマトリクス内に分散されている複数の導電性金属粒子を含み、前記導電性金属粒子は前記層の約50重量%~約99重量%を構成し、前記樹脂状ポリマーマトリクスは前記層の約1重量%~約50重量%を構成し」、「前記樹脂状ポリマーマトリクスはビニルアセタールポリマーを含む」のに対し、引用発明1では組成や性状が具体的に特定されていない点。

(2)判断

そこで、上記相違点について検討すると、

ア 【相違点1’】について

前記【相違点1】に係る本願補正発明の構成が、当業者にとって容易になし得たことであることは、前記第2の[理由]2(3)イ(ア)に記載したとおりである。

すると、前記【相違点1】から「ここで前記導電性ポリマー粒子がチオフェンポリマーを含む」との限定を解除したものに相当する上記【相違点1’】も、前記第2の[理由]2(3)イ(ア)に記載したのと同様の理由により、当業者が容易になし得たことである。

イ 上記【相違点2’】は前記【相違点2】と同じであるから、前記第2の[理由]2(3)イ(イ)に記載したのと同じ理由により、【相違点2’】は実質的な相違点でない。

(3)まとめ

よって、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び周知技術(引用文献2、4)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2022-002131

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決37件(キョーセラ・エイブイエックス・コンポーネンツ・コーポレーション)
  • 2025-011191拒絶査定不服審判 / 2026-05-13 / 原査定取消(特許/登録すべき)高電圧同調可能積層コンデンサ
    同じ当事者: キョーセラ・エイブイエックス・コンポーネンツ・コーポレーション
  • 2024-019286拒絶査定不服審判 / 2026-03-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)整合したバリスタを含むバリスタ・アレイ
    同じ当事者: キョーセラ・エイブイエックス・コンポーネンツ・コーポレーション
  • 2025-005530拒絶査定不服審判 / 2026-03-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)ウルトラキャパシタ用の電極アセンブリ
    同じ当事者: キョーセラ・エイブイエックス・コンポーネンツ・コーポレーション
  • 2024-015046拒絶査定不服審判 / 2026-03-23 / 請求不成立低ノイズコンデンサ
    同じ当事者: キョーセラ・エイブイエックス・コンポーネンツ・コーポレーション
  • 2025-010785拒絶査定不服審判 / 2026-03-09 / 原査定取消(特許/登録すべき)低アスペクト比バリスタ
    同じ当事者: キョーセラ・エイブイエックス・コンポーネンツ・コーポレーション
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)467件(121・H01G、575・H01G)
  • 2024-011405拒絶査定不服審判 / 2025-02-19 / 請求不成立コンデンサおよびディスクリートバリスタを含む統合構成要素
    共通の審決分類: 121・H01G、575・H01G
  • 2023-019222拒絶査定不服審判 / 2025-02-03 / 請求不成立積層セラミックコンデンサ
    共通の審決分類: 121・H01G、575・H01G
  • 2023-021761拒絶査定不服審判 / 2024-12-04 / 請求不成立固体電解キャパシタアセンブリ
    共通の審決分類: 121・H01G、575・H01G
  • 2023-010108拒絶査定不服審判 / 2024-10-23 / 請求不成立蓄電デバイスの製造方法、及び蓄電デバイス用負極の製造方法
    共通の審決分類: 121・H01G、575・H01G
  • 2023-022033拒絶査定不服審判 / 2024-10-21 / 請求不成立積層セラミックコンデンサ
    共通の審決分類: 121・H01G、575・H01G

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存