2022-001296
網膜色素上皮移植のためのフィブリン支持体を用いた方法及び材料
- 審判番号
- 2022-001296
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-530497外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年01月28日
- 審決日
- 2023年11月07日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成29年11月13日(パリ条約による優先権主張 2016年12月7日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和3年9月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和4年1月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。その後の当審における手続の経緯は、以下のとおりである。
令和5年 3月 9日付け 拒絶理由通知書
令和5年 9月13日 意見書および手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~20に係る発明は、令和5年9月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~20に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】(a) 頂端面及び基底面を有する網膜色素上皮単層と、(b) 該単層の該基底面に付着したフィブリンヒドロゲル層とを含む網膜移植物であって、前記フィブリンヒドロゲルが、1mL当たり20mgのフィブリノーゲンから1mL当たり80mgのフィブリノーゲンの濃度のフィブリノーゲン溶液から形成され、少なくとも100μm厚であり、機械的強度0.016N/mm以上であり、無傷の網膜色素上皮単層を生じるように眼の網膜下腔において移植の短期間内に分解する、移植物。」
第3 当審で通知した拒絶の理由
令和5年3月9日付けで当審が通知した拒絶理由2の概要は、この出願の請求項1、2、5~12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。
刊行物
引用文献1 特開2016-52271号公報
引用文献2 特表平9-501303号公報
第4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定
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1.引用文献の記載事項
(1)引用文献2
当審の拒絶理由で引用した特表平9-501303号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下も同様。)
【特許請求の範囲】
ア「20.RPE細胞の単層と、網膜下領域に移植し、かつ前もって決めた条件に暴露した場合に、正常な眼組織機能を妨げない、非毒性可撓性支持体との積層を含む、宿主の眼に移植するための移植組織。」
「33.前記支持体が、フィブリンを含む、請求の範囲20項記載の移植組織。」
【発明の詳細な説明】
イ「・・・本発明は、更に、宿主の眼の網膜下領域へ移植するための移植片に関する。移植片は、RPE細胞の単層と、網膜下領域へ移植し、所定の条件に暴露した時に、通常の眼組織の機能を妨げない非毒性の可撓性支持体との積層体を含有する。」(9頁25~27行)
ウ「図2および3には、RPE細胞の単層を含む移植組織を、一般に、RPE細胞をドナー組織から採取し、採取した無傷の単層のRPE細胞を無毒で柔軟な組成物に積層させるか、またはそのような組成物を分離したRPE細胞の単層に摂取してそれらを融合層に成育させることにより、準備することが示されている。移植組織の成分は、RPE細胞の単層と、約100~500ミクロンの厚さ、好ましくは150~250ミクロンの厚さの支持組成物との積層体からなる。」(11頁23~28行)
エ「この移植組織は、又、RPE細胞についての支持体(support)を含むので、RPE細胞の単層はほとんど損傷せず、移植操作の間一層容易に操作できる。基体、被覆層又はその両方からなる支持体は、RPE細胞の少し損傷した単層に機械的強度と安定性とを付与するのに選ばれた非毒性で柔軟な組成物の1枚以上のシートを含む。」(13頁15~19行)
オ「上記のように、コラーゲンの層を補うためか、又は、コラーゲン・アンカーを含むことが必要ではない場合に、例えば、十分量の熱、選択された酵素、又は体液に暴露させることにより、放散する(dissipate)支持体組成物を選択することができる。ゼラチンは、可撓性で、神経組織に対して毒性がなく、体温で溶解する能力を有する、好ましい支持体材料の一例である。支持体組成物は、活性化した低ゲル化温度アガロース(タイプVII、#A4018 シグマ化学会社(Sigma Chemical Co.,St.Louis))又はフィブリンのような材料を含有することもできる。」(15頁1~7行)
カ「図3に、本発明による移植片の他の態様を図示する。上記図2との関係で上に記載したように、基質9を塗布したカルチャー容器上でRPE細胞の単層5を成長させる。但し、本態様においては、基質9は移植の間ラミネートされたままであって移植片1aの一部を含む。移植に使用する基質9はアガロースを含んでいてよく、これは生物的に不活性であって、前記のようにアガロースを選択的に攻撃する酵素であるアガラーゼに曝すことにより分解してよい。本態様においては、活性化したアガロースに強固に結合する、厚さ約2~4ミクロンのコラーゲンの薄層7に、活性化したアガロースを塗布する。次いでRPE細胞の単層5をコラーゲン7に並べ、簡単に取り付けて、移植用の移植片1aとして使用するRPE細胞と支持組成物(コラーゲン7及び基質9)のラミネートを形成する。図2に関して記載したようにゼラチン上層を追加する代わりに、剃刀を用いて基質9を含む材料のシートを厚さ約150~250mmにスライスし、移植の間のRPE細胞の単層5及びコラーゲン7の固定用支持体として使用する。」(18頁最終行~19頁13行)
キ「図2に関連して論じたフィブリンは、図3に描かれた実施態様において、基質9として使用することができる。フィブリンは、血液クロットの構造部材を形成する繊維状の不溶性タンパクである。フィブリンは、プレスして引張強さを高めることができ、また、RPE細胞が付着し、単層として成長するであろう柔軟な無毒性支持体を提供する材料である。フィブリンを製造するためには、基質使用に適したフィブリンクロットを、トロンビンの添加によりフィブリンへのフィブリノーゲンの重合を触媒することにより製造する。移植後、フィブリンは、血液クロットを溶解する天然生産酵素への暴露により散逸(dissipate)するであろう。」(20頁1~9行)
ク「【図3】
[図:0001408241000001.jpg]
」(29頁)
(2)引用文献1
当審の拒絶理由で引用した特開2016-52271号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
【特許請求の範囲】
「【請求項1】シート状細胞培養物の上面にフィブリノゲンを含む液体を滴下するステップと、前記面にトロンビンを含む液体を噴霧するステップと、前記面にフィブリノゲンとトロンビンとの反応によりフィブリンゲルの層を形成するステップとを含む、フィブリンゲルとシート状細胞培養物との積層体を製造する方法。」
【発明の詳細な説明】
「【技術分野】【0001】本発明は、シート状細胞培養物とフィブリンゲルとの積層体の製造方法、当該製造方法で製造された積層体、当該積層体を含む医薬組成物、当該積層体を用いた疾患の処置方法などに関する。」
「【0022】フィブリノゲンを含む液体(以下、フィブリノゲン液と称することもある)としては、トロンビンと反応してフィブリンゲルを形成し得るものであれば特に限定されず、フィブリノゲンを、例えば、1mg/mL~500mg/mL、5mg/mL~400mg/mL、10mg/mL~250mg/mL、20mg/mL~150mg/mL、40mg/mL~100mg/mL、50mg/mL~90mg/mLなどの濃度で含む液体が挙げられる。フィブリノゲン液の溶媒は、典型的には水である。」
「【0055】例1 フィブリンゲルとシート状細胞培養物との積層体の製造・・・【0056】培養皿中の培養液を除去し、必要に応じてシート状細胞培養物を整形した後(図1)、シート状細胞培養物上にフィブリノゲン液(ボルヒール(R)組織接着用(帝人ファーマ社製)のバイアル1の内容物(フィブリノゲン凍結乾燥粉末)をバイアル2の内容物(フィブリノゲン溶解液)で溶解したもの、フィブリノゲン濃度80mg/mL、以下同じ)を500μL、ボルヒール(R)組織接着用に付属する調製器セットの2液混合セット(長さ約6cm、内径約1mmのアプライノズル付、ニプロ社製)を用いて滴下した(図2)。次いで、トロンビン液(ボルヒール(R)組織接着用(帝人ファーマ社製)のバイアル3の内容物(トロンビン凍結乾燥粉末)をバイアル4の内容物(トロンビン溶解液)で溶解したもの、トロンビン濃度250単位/mL、以下同じ)を800μL、ボルヒール(R)スプレーセット(秋田住友ベーク社製)を用い、噴霧ノズルを細胞シートから約7cm離して0.03MPaの圧力で噴霧した(図3)。・・・【0057】フィブリノゲン液とトロンビン液との反応により、フィブリンゲルが形成される。・・・」
(3)周知技術を示すための引用文献3
周知技術を示すために、追加して引用する特表2009-502364号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
【特許請求の範囲】
「【請求項1】バイオポリマーを含む製造品であって、脱水されている製造品。【請求項2】前記バイオポリマーがタンパク質、フィブリン、フィブリノゲン、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、細胞外マトリクス構成要素、ポリサッカライド、ヒアルロン酸、およびそれらの組合せから成る群より選択される、請求項1に記載の製造品。」
【発明の詳細な説明】
「【0006】簡単な概要本明細書で開示する構築物は、宿主組織のタンパク質分解プロセスに応答して分解されうる生体適合性材料を構成する。・・・」
「【0167】・・・他の実施形態において、バイオポリマーマトリクスはその最も単純な形でフィブリノゲンおよびトロンビンより成る。これらの2つの成分は、未変性血栓形成および市販のフィブリン接着剤の両方のベースを形成する。・・・【0168】・・・ある実施形態において、フィブリノゲンは、4~75mg/mlの範囲の濃度で調製されうる。4mg/mlは未変性フィブリン血餅の濃度であり、最大130mg/mlが市販のフィブリン接着剤調合物、たとえばTISSEEL(商標)が使用される。」
「【0185】実施例1フィブリン処理1mLバッチ用のフィブリン調合物は、40mg/mL AventisまたはdiaPharmaフィブリノゲン250μL(それぞれZBL Behring,King of Prussia,PA;またはdiaPharma,West Chester,OHより市販)、滅菌水230μL、・・・を含む溶液を混合することによって調製した。フィブリノゲン調合物を続いて37℃にて30分間インキュベートして、成長因子を溶液中のフィブリノゲンと結合させた。【0186】1mLバッチ用のトロンビン調合物は、100U/mLトロンビン100μLおよび500mM CaCl210μL(Sigma)を含む別の溶液を混合することによって調製した。【0187】フィブリンゲルは、トロンビン溶液15μLを1.5mL微量遠心管に添加し、フィブリノゲン溶液350μLを微量遠心管に添加し、混合溶液をゲル型にすぐに移すことによって調製した。次にゲル溶液をゲル型内で20~30分間固化させて、完全にゲル化させた。ゲル溶液が完全に固化した20~30分後に、型を分解して、生じたフィブリンフィルムを取り外した。」
2.引用発明の認定
引用文献2には、RPE細胞の単層と、フィブリンを含む非毒性可撓性支持体との積層を含む、宿主の眼の網膜下領域に移植するための移植組織が記載され(上記1(1)ア、イ)、前記移植組織の実施態様として、図3において、RPE細胞の単層5、厚さ約2~4ミクロンのコラーゲンの薄層7、活性化したアガロースを含む「厚さ約150~250mm」にスライスされた基質9の積層である移植片1a(上記1(1)カ、ク)、及び、前記活性化したアガロースを含む基質9に代えて、フィブリノーゲンにトロンビンを添加して製造されるフィブリンを含む基質9を有する実施態様(上記1(1)キ)が記載されている。
ここで、上記1(1)ウの「150~250ミクロンの厚さの支持組成物」の記載、及び、眼の網膜下領域に移植するための移植組織についての本願優先日前の技術常識からみて、上記1(1)カの「厚さ約150~250mm」は、「厚さ約150~250ミクロンの誤記であることが明らかである。
よって、引用文献2には、以下の発明が記載されている。
「RPE細胞の単層5と、厚さ約2~4ミクロンのコラーゲン薄層7と、フィブリノーゲンにトロンビンを添加して製造されるフィブリンを含む厚さ約150~250ミクロンの基質9の積層である、宿主の眼の網膜下領域に移植するための移植片。」(以下「引用発明」という。)
第5 容易想到性の判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
後者の「RPE」は「網膜色素上皮」の略語であるから、後者の「RPE細胞の単層5」は、前者の「(a) 頂端面及び基底面を有する網膜色素上皮単層」に相当し、後者の「フィブリノーゲンにトロンビンを添加して製造されるフィブリンを含む厚さ約150~250ミクロンの基質9」は、前者の「フィブリノーゲン溶液から形成され」「少なくとも100μm厚であ」る「フィブリンヒドロゲル層」に相当し、後者の「宿主の眼の網膜下領域に移植するための移植片」は、前者の「網膜移植物であ」る「移植物」に相当する。
本願の請求項1を引用する同請求項5に「前記フィブリンヒドロゲル層がコーティングを含む」との特定があり、かつ、本願明細書段落【0012】に「フィブリンヒドロゲル層はコーティングを含んでもよい。」と記載されているから、前者の「(b)該単層の該基底面に付着したフィブリンヒドロゲル層」は、フィブリンヒドロゲル層がコーティングを介してRPE細胞の単層の基底面に付着した態様を含む。よって、後者の「厚さ約2~4ミクロンのコラーゲン薄層7」を介して「RPE細胞の単層5」に積層されている「フィブリンを含む」「基質9」は、前者の「(b) 該単層の該基底面に付着したフィブリンヒドロゲル層」に相当する。
以上から、両者は、
「(a) 頂端面及び基底面を有する網膜色素上皮単層と、(b) 該単層の該基底面に付着したフィブリンヒドロゲル層とを含む網膜移植物であって、前記フィブリンヒドロゲルが、フィブリノーゲン溶液から形成され、少なくとも100μm厚である、移植物。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
前者は、フィブリノーゲン溶液が「1mL当たり20mgのフィブリノーゲンから1mL当たり80mgのフィブリノーゲンの濃度」であり、フィブリンヒドロゲルが「機械的強度0.016N/mm以上」であるのに対して、後者の「フィブリノーゲン」、「フィブリンを含む」「基質9」にはそのような特定がない点。
(相違点2)
前者の「フィブリンヒドロゲル」は「無傷の網膜色素上皮単層を生じるように眼の網膜下腔において移植の短期間内に分解する」のに対して、後者の「フィブリンを含む」「基質9」にはそのような特定がない点。
2.相違点についての検討
(1)相違点1について
ア まず、相違点1のフィブリノーゲン溶液のフィブリノーゲン濃度について検討する。
例えば、引用文献1に記載される1mg/mL~500mg/mL、50~90mg/mL、及び、例1における80mg/mL(上記第4の1(2))、または、引用文献3に記載される4~75mg/ml、及び、実施例1における40mg/mL(上記第4の1(3))にみられるように、フィブリノーゲンにトロンビンを添加して移植等に使用されるフィブリンヒドロゲルを製造する際に、20mg/mLから80mg/mLの範囲を含むフィブリノーゲン濃度のフィブリノーゲン溶液を用い、これにトロンビンを添加してフィブリンヒドロゲルを製造することは、本願優先日当時の技術常識といえる。
そうすると、上記の本願優先日当時の技術常識を考慮すれば、引用発明のフィブリノーゲン溶液として20mg/mLから80mg/mLという本願発明の相違点1に係るフィブリノーゲン濃度の溶液を用いることは、当業者が容易になし得る。
イ 次に、フィブリンヒドロゲルの機械的強度について検討する。
引用文献2には、基質について、機械的強度を付与するものであること(上記第4の1(1)エ)が記載されており、当該記載に接した当業者は、引用発明の基質に機械的強度を付与する必要があることを動機付けられるところ、引用文献2には、フィブリンを含む基質の機械的強度の具体的な値は記載されていない。
ここで、本願明細書の記載を参照すると、40~60mg/mlのフィブリノーゲン濃度のフィブリノーゲン溶液を使用してフィブリンヒドロゲルに適切な剛性を達成し得、そのフィブリンヒドロゲルの厚さは約50μm~約300μm(例えば、約100μm~約200μm、又は約50μm~約200μm)であり得ること(段落【0063】)、フィブリノーゲン濃度40mg/mL以上のフィブリノーゲン溶液を用いて製造された厚さ200μm程度のフィブリンヒドロゲルは柔軟で耐久性があり、様々な外科用器具を用いて操作可能であるように見え、その剛性は、フィブリノーゲン濃度80mg/mLのフィブリノーゲン溶液を用いて製造された場合と比べて観察可能な差がなく(段落【0091】)、フィブリノーゲン濃度60mg/mLのフィブリノーゲン溶液を用いて製造された厚さ200μm程度のフィブリンヒドロゲルの機械的強度は0.020N/mmであること(段落【0093】)が記載されているから、フィブリノーゲン濃度40~60mg/mLのフィブリノーゲン溶液にトロンビンを添加して厚さ200μm程度のフィブリンヒドロゲルを製造すれば、おのずと機械的強度0.020N/mmのフィブリンヒドロゲルが得られ、また、その厚さを250μm程度まで増せば、おのずと機械的強度がさらに大きいフィブリンヒドロゲルが得られると認められる。
そうすると、上記アにて検討したとおり、フィブリノーゲン溶液として20mg/mLから80mg/mLという一般的なフィブリノーゲン濃度の溶液を用い、引用文献2に記載された好ましい厚さ200~250μmを採用すれば、おのずと機械的強度0.020N/mm以上のフィブリンヒドロゲルが得られるといえるので、相違点1として挙げた本願発明の発明特定事項を満たす移植物を得ることは、当業者にとって容易である。
(2)相違点2について
本願発明の相違点2に係る「短期間」は、本願明細書の「本明細書において提供されるRPE/フィブリンヒドロゲル移植物のフィブリンヒドロゲルは、RPE単層に送達するための短期間(例えば72時間未満、又は1週間未満)機械的支持体であり得る。」(段落【0029】)の記載を参照すると、72時間未満又は1週間未満程度の期間を意味するものと認められる。
一方、引用文献2には、熱、酵素又は体液に暴露させることにより放散する支持体組成物を選択し得ること(上記第4の1(1)オ)、及び、移植後、フィブリンを含む基質9は天然生産酵素への暴露により散逸するであろうこと(上記第4の1(1)キ)が記載されているところ、引用文献2には、フィブリンを含む基質9が放散するまでの期間の具体的な値は記載されていない。
ここで、本願明細書の記載を参照すると、フィブリノーゲン溶液(最終:40mg/mL)を用いて製造された200μm厚のゲルは、ウサギ眼の網膜下腔への移植後48時間までに分解し(段落【0111】)、フィブリノーゲン濃度40mg/mLのフィブリノーゲン溶液で製造されたゲル上で培養したRPE細胞は48時間以内に基質を分解し(段落【0098】)、製造時に用いられたフィブリノーゲン溶液のフィブリノーゲン濃度は明らかではないものの、196±90μmの平均厚のゲルはRPE単層により120時間後に完全に分解したこと(段落【0041】、同【0060】)が記載されているから、フィブリノーゲン濃度40mg/mLのフィブリノーゲン溶液にトロンビンを添加して厚さ200μm程度のフィブリンヒドロゲルを製造すれば、おのずと眼の網膜下腔への移植後48時間までに分解するフィブリンヒドロゲルが得られ、また、前記したフィブリノーゲン濃度とフィブリンヒドロゲル厚を多少変更しても、眼の網膜下腔への移植後72時間未満又は1週間未満の期間で分解するフィブリンヒドロゲルが得られると認められる。
そうすると、上記(1)にて検討したとおり当業者において容易に得られる、相違点1に係るフィブリノーゲン濃度のフィブリノーゲン溶液を用いて製造した、厚さ200~250μm程度で、機械的強度0.020N/mm以上のフィブリンヒドロゲルを含む移植物は、相違点2として挙げた本願発明の発明特定事項を満たすと認められる。
また、本願明細書を参照しても、本願発明が、引用文献2に記載された発明、引用文献2の記載事項及び引用文献1及び3に記載された事項を含む本願優先日当時の技術常識から当業者が予測し得ない、格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
(3)審判請求人の主張
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審判請求人は、本願明細書の段落【0019】、同【0029】、及び、実施例6の記載に基づき、本願発明に係る網膜移植物は、幹細胞からのPREの分化のための長寿命の基質として使用し得、強度を有し、網膜下腔への送達後は制御された環境下で迅速に分解し得るフィブリンヒドロゲルを含むものであるという、優れた効果を奏するものであり、そのようなフィブリンヒドロゲルを生成する際のフィブリノーゲン濃度、フィブリンヒドロゲル厚、及び、機械的強度の条件が本願発明に反映されている旨主張する。
しかしながら、引用文献2には、移植片に含まれる基質が、単層に機械的強度を付与しながら、体液又は天然酸性酵素への暴露等により散逸するものであることが記載されるので(上記第4の1(1)エ、オ、キ)、審判請求人が主張する効果は、引用発明、引用文献2の記載事項、及び、引用文献1及び3に記載された事項を含む技術常識から、当業者が予測し得たものといえるし、相違点1及び2として挙げた本願発明の発明特定事項、すなわち、フィブリンヒドロゲル製造時のフィブリノーゲン濃度、フィブリンヒドロゲル厚、機械的強度及び分解時間、のすべてを同時に満たすフィブリンヒドロゲルを含む移植物を得ることが当業者に容易であることは、上記(1)及び(2)にて述べたとおりである。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
(4)小括
本願発明は、引用文献2に記載された引用発明、引用文献2の記載事項及び引用文献1及び3に記載された事項を含む本願優先日当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-001296