特許異議申立
2021-700803
発酵ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2021-700803
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-230777
- 登録番号
- 6831442
- 請求日
- 2021年08月16日
- 審決日
- 2022年01月21日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】古橋 伸茂
- 【権利者代理人】石原 俊秀
- 【権利者代理人】鈴木 康仁
- 【異議申立人】新井 誠一
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬良 聡機
- 審判官 小堀 麻子
- 審判官 冨永 みどり
- 分類
- P1651.113-Y (C12C) / P1651.121-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C) / P1651.536-Y (C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第2条第3項第2号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6831442号発明「発酵ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6831442号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6831442号の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和1年12月20日に出願され、令和3年2月1日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年8月16日に特許異議申立人 新井 誠一(以下「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、その後の手続きの経緯の概要は以下のとおりである。
令和3年10月22日付け 取消理由通知
同年12月 8日 意見書の提出(特許権者)
第2 本件特許発明
特許第6831442号の請求項1~7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、
糖質濃度が0.5g/100mL以下であり、
リナロールの含有量が0.1~200質量ppbであり、且つ、
原麦汁エキス濃度が6.0質量%以上であって、
ビールである、発酵ビールテイスト飲料(ただし、総窒素含有量(T-N)が40mg/100mL以上であるビールテイスト飲料を除く)。
【請求項2】
原麦汁エキス濃度が9.5質量%以上である、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項3】
アルコール度数が、4.5(v/v)%以上である、請求項1又は2に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項4】
リナロールの含有量が5.0~80質量ppbである、請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項5】
総ポリフェノールの含有量が60質量ppm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項6】
麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、糖質濃度が0.5g/100mL以下であり、リナロールの含有量が0.1~200質量ppbであり、且つ、原麦汁エキス濃度が6.0質量%以上であって、ビールである、発酵ビールテイスト飲料(ただし、総窒素含有量(T-N)が40mg/100mL以上であるビールテイスト飲料を除く)を製造する方法であって、
下記工程(1)~(2)を有し、リナロールの含有量を調整する操作を含む、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(1):水及び麦芽を含む混合物を糖化処理して発酵原料液を調製する工程。
・工程(2):前記発酵原料液に酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程。
【請求項7】
穀物に由来するスピリッツを添加する工程を有しない、請求項6に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。」
(以下、請求項順に、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、……、「本件特許発明7」ともいう。)
第3 申立理由の概要及び証拠
1 申立理由
異議申立人は、証拠方法として後記2で示す甲第1号証~甲第9号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲9」ともいう。)を提出して、以下の申立理由1~申立理由4-2を申し立てている。
申立理由1:
本件特許発明1、4~7は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。
申立理由2:
本件特許発明1~7は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2~8号証の記載に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。
申立理由3-1:
本件特許発明1~7は、リナロールの含有量が2.3質量ppb未満となる場合、及び75.2質量ppb超過となる場合にどのような結果になるかが本件特許明細書に示されておらず、特に下限値の0.1質量ppbという極めてわずかなリナロールを含有させることで、「一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して「飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができる」という優れた効果が得られるかは全く不明であるから、本件特許発明1~7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件特許発明1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
申立理由3-2:
本件特許発明1~7は、アルコール濃度が4.8(v/v)%未満及び6.5(v/v)%超過のアルコール濃度においても、リナロールの含有量が本件特許明細書の実施例と同様に影響を及ぼし、「飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができる」という課題が解決できることを理解することができないから、本件特許発明1~7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件特許発明1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
申立理由4-1:
本件特許発明1~7は、本件特許明細書の開示に基づいて、本件発明1で規定されている要件さえ満たせば、「一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して「飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができる」という効果が得られるビールを生成できるとはいえず、特に下限値の0.1質量ppbという極めてわずかなリナロールを含有させることで、「一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較した優れた効果を得ることができるか疑わしいから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~7を当業者が実施できるように記載されておらず、本件特許発明1~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
申立理由4-2:
本件特許明細書の記載は、4.8(v/v)%未満及び6.5(v/v)%超過のビールに関しても、過度の試行錯誤を要することなく「一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して「飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができる」という優れた効果を有するビールを提供できる記載となっていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~7を当業者が実施できるように記載されておらず、本件特許発明1~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
2 異議申立人の提出した証拠
甲第1号証:国際公開第2014/196265号
甲第2号証:ミュンヘン工科大学 醸造及び飲料技術のための講座,(抄訳添付)2009年8月27日提出、2009年12月11日受領であるが、公知日は不明である。
甲第3号証:国際公開第2016/163200号
甲第4号証:特開2018-191537号公報
甲第5号証:特開2016-178896号公報
甲第6号証:特開2018-183126号公報
甲第7号証の1:特開2018-29563号公報
甲第7号証の2:特開2017-79695号公報
甲第7号証の3:特開2014-11973号公報
甲第8号証:国際公開第2019/130468号
甲第9号証の1:ニュースリリース2015年, 2015年1月19日, アサヒビール株式会社
甲第9号証の2:Takuya Ohashi/ Asahi Breweries, LTD, Development of a low carbohydrate beer using high alcohol wort, 2017, 2017 Master Brewers Conference(抄訳添付)
3 取消理由通知書に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
当審が令和3年10月22日付けの取消理由通知書により通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
取消理由(サポート要件):
本件特許発明1~3、5~7は、後記第4 2(1)ウの甲3摘記(甲3-2)の[0036]~[0059]実施例1~5の発酵ビール様発泡性飲料のリナロール含有量とその評価、及び(甲3-3)の[0060]~[0062]市販のビール様発泡性飲料のリナロール含有量とその評価から、それらより低いリナロール含有量によっては、「飲みやすさ及び飲んだ後の余韻の心地よさのバランスを兼ね備えた発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法を提供する」という課題を解決できないものを含んでおり、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許発明1~3、5~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当審の判断
取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。
1 取消理由についての判断
(1)本件特許権者の提出した証拠及び主張
本件特許権者は、上記取消理由に対して、令和3年12月8日付けで、意見書、及び下記乙第1号証、及び乙第2号証(以下、それぞれ「乙1」、「乙2」ともいう。)を提出し、意見書において、本件特許発明1~3、5~7は、リナロール含有量「0.1~200質量ppb」の全ての範囲において、本件特許発明1~3、5~7の課題を解決し得るから、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合することを主張する。
記
乙第1号証:酒のしおり, 平成28年3月, 国税庁課税部酒税課, 第21頁
乙第2号証:実験成績証明書, 令和3年12月6日, サントリービール株式会社, 商品開発研究部所属 長谷川 高政
(2)乙号証の記載
ア 乙1の記載
乙1は、酒税率一覧表(平成18年5月1日から)で、「1.酒税法第23条関係」の「その他の発泡性酒類」の項には、「ビール及び発泡酒以外の品目の酒類のうち、アルコール分が10度未満で発泡性を有するもの(※)」と記載されている。
また、乙1には、「(※)ホップ等を原料の一部とした酒類で次に掲げるものは、その他の発泡性酒類に含まれる。
1 糖類、ホップ、水及び一定の物品(注)を原料として発酵させたものでエキス分2度以上のもの(その他の醸造酒)
(注)「一定の物品」とは次のものをいう。
イ たんぱく質物分解物(大豆を原料とするもの)及び酵母エキス又はこれらとカラメル
ロ たんぱく質物分解物(えんどうを原料とするもの)及びカラメル又はこれらと食物繊維
ハ とうもろこし、たんぱく質物分解物(とうもろこしを原料とするもの)、酵母エキス、アルコール、食物繊維、香味料、くえん酸三カリウム及びカラメル」と記載されている。
イ 乙2の記載
乙2は、サントリービール株式会社武蔵野ビール工場内において、長谷川 高政により実施された実験成績証明書であって、リナロール含有量を0.1~200質量ppbに調整したビールであるビールテイスト飲料は、いずれも「飲みやすさ」、「飲んだ後の余韻の心地よさ」、及び「総合評価」の評価が3.0以上であり、飲みやすさと飲んだ後の余韻の心地よさのバランスが良好であることが示されている。
(3)判断
ア 発明の詳細な説明には、リナロールの含有量は、0.1~200質量ppbであること、リナロールの含有量が0.1質量ppb以上であれば、飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができること、特に、麦芽比率が50%以上であって糖質濃度が0.5g/100mL以下と高麦芽比率及び低糖質の発酵ビールテイスト飲料において、リナロールの含有量を調製することによる飲んだ後の余韻の心地よさの向上効果は大きいこと、リナロールの含有量が200質量ppb以下であれば、風味を良好に保ち、飲みやすさと飲んだ後の余韻の心地よさとのバランスを良好に保持することができること(【0012】)、飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさをより向上させる観点から、リナロールの含有量は0.5~180質量ppbがより好ましいこと(【0013】)、原麦汁エキス(O-Ex)濃度は、飲料に軽快な飲み口を付与し、飲みやすさをより良好とする観点から、好ましくは6.0~20.0質量%であること(【0015】)、アルコール度数としては、爽快な刺激を感じることができる飲料とする観点から、好ましくは4.5(v/v)%以上であり、飲みやすい発酵ビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは20.0(v/v)%以下であること(【0016】)、総ポリフェノールの含有量は、良質な味わいを有し、よりビールらしい発酵ビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは60ppm以上であること(【0018】)が記載されており、リナロール含有量、原麦汁エキス濃度、アルコール含有量、及び総ポリフェノール量の技術的意義及びそれらの量の調整方法について記載されている。
また、実施例には、リナロールの含有量が2.3質量ppb~75.2質量ppbであるビールは、飲みやすさと飲んだ後の余韻の心地よさのバランスが良好であるという高い効果が得られることが記載されている(【0050】~【0054】)。
イ 本件特許発明1~3、5~7は、必ずしも一定の数値以上の官能評価のスコアを達成することにより課題が解決できると認識されるものではなく、ビールテイスト飲料中のリナロールに関して、下限付近で大きな変化を生じるとの技術常識も存在しないことを考慮すると、0.1~200質量ppbの範囲で一定程度課題が解決されていると当業者は認識するといえ、乙2に示された結果は、上記判断と整合するものである。
ウ したがって、本件特許発明1~3、5~7は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明により、また出願時の技術常識に照らして、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
エ 乙1の記載によれば、甲3の実施例1~5の発酵ビール様発泡性飲料は、麦芽比率が「50質量以上100質量%以下」ではない点で、本件特許発明1~3、5~7のビールである、発酵ビールテイスト飲料と異なるものであり、さらに水溶性食物繊維を含有し、原麦汁エキス濃度が2(%w/w)以上であり、アルコール度数が10(%v/v)未満であることから、酒税法上「その他の発泡性酒類」に分類される飲料であり、酒税法上の「ビール」には該当しない。
そうすると、甲3には、麦芽比率が「50質量以上100質量%以下」ではなく、ビールではない、「その他の発泡性酒類」について、リナロールの含有量が1.4質量ppb~2.1質量ppbである場合に、「水っぽい」との官能評価結果が示されたにすぎないから、甲3の記載は、本件特許発明1~3、5~7の、麦芽比率が「50質量以上100質量%以下」であって、酒税法上の「ビール」に分類される飲料についての上記イ、ウの判断を左右しない。
(4)取消理由についての判断のまとめ
以上のとおり、本件特許明細書及び出願時の技術常識から、本件特許発明1~3、5~7は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するといえるから、本件特許発明1~3、5~7に関する取消理由は解消した。
2 取消理由で採用しなかった申立理由についての検討
申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
(1)甲号証の記載
ア 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。
記載事項(甲1-1)
「[請求項1] 麦芽を原料として用い、
仕込工程及び発酵工程の少なくとも一方において、グルコアミラーゼを添加し、発酵工程において、トランスグルコシダーゼを添加することを特徴とする、発酵麦芽飲料の製造方法。
[請求項2] エキス濃度に対して、トランスグルコシダーゼを3U/g以上添加することを特徴とする、請求項1に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。
[請求項3] 前記発酵工程を5~15℃で行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。
[請求項4] 麦芽使用量が発酵原料中の65~100質量%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。
[請求項5] 発酵麦芽飲料中の糖質が0.5g/100mL未満であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料の製造方法。
[請求項6] 麦芽使用量が発酵原料中の65~100質量%であり、糖質が0.5g/100mL未満であることを特徴とする、発酵麦芽飲料。」
記載事項(甲1-2)
「[0001] 本発明は、発酵原料に占める麦芽使用比率を高めた場合であっても、糖質含有量が充分に低減された発酵麦芽飲料を製造する方法、及び当該方法により製造された発酵麦芽飲料に関する。
[0002] 近年、消費者の健康志向や嗜好性の変化から、糖質含有量の低いビールテイスト飲料に対する消費者のニーズが高まっている。なお、ビールテイスト飲料とは、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有する発泡性飲料である。発酵原料を発酵させて得られるビールテイスト飲料の場合、発酵液中の非資化性糖の含有量を低下させることによって、最終製品であるビールテイスト飲料中の糖質含有量を低下させることができる。このため、発酵原料として、非資化性糖の含有量が少ない液糖等の使用比率を高めることによって、糖質含有量を低下させることができるが、穀物原料の使用比率が高い場合には、穀物香気やコク感を高められる一方で、糖質含有量が高くなる傾向がある。
[0003] 糖質含有量の低いビールテイスト飲料を製造する方法としては、例えば、仕込工程又は発酵工程中にグルコアミラーゼやプルラナーゼを添加する方法が知られている。これらの酵素の働きにより、最終製品中に含まれる糖質に寄与する澱粉質の大部分を、酵母が資化可能な糖に分解することができる。しかしながら、イソマルトース等の非資化性の分岐鎖糖は、これらの酵素によっては資化可能な糖に転換されず、最終製品中に残存する。このため、当該方法によっては、糖質を極限まで減少させることはできなかった。
[0004] また、発酵工程において、α-グルコシダーゼ(トランスグルコシダーゼの別称)を作用させることにより、資化性糖としてグルコースを生成して真性発酵度を高めることによって、最終製品中の非資化性糖の含有量を低下させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、単にトランスグルコシダーゼを発酵中に添加したのみでは、最終製品中の非資化性糖の含有量を充分に低下させることはできなかった。
[0005] このように、ビールテイスト飲料の糖質含有量を低下させる方法は幾つか知られているものの、非資化性糖の含有量が比較的高い澱粉質原料の使用比率が高い場合には、いずれの方法も充分に糖質含有量を低下させることはできていなかった。特に、大麦を発芽させる製麦工程によって、分岐鎖糖が増加するため(例えば、非特許文献1参照)、麦芽の使用比率の高いビールテイスト飲料では、現在までに、糖質含有量を0.5g/100mL未満にまで低減させたものは存在していなかった。
[0006] トランスグルコシダーゼは、加水分解反応によりグルコースを生成するが、基質濃度が高い場合には、糖転移反応を行う。そこで、例えば、麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造されるビールテイスト飲料において、仕込工程における熱処理前にトランスグルコシダーゼを添加することにより、製品中にイソマルトース、パノース等のイソマルトオリゴ糖を高濃度に含有させることができ、この結果、コク味が増強される(例えば、特許文献2参照)。」
記載事項(甲1-3)
「[0009] 本発明は、発酵原料に占める麦芽使用比率にかかわらず、糖質含有量が顕著に低い発酵麦芽飲料、及び当該発酵麦芽飲料を製造する方法を提供することを目的とする。
[0010] 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、発酵麦芽飲料の製造において、仕込工程及び発酵工程の少なくとも一方においてグルコアミラーゼを添加し、発酵工程においてトランスグルコシダーゼを添加することにより、発酵原料に占める麦芽使用比率を高めた場合であっても、糖質含有量が顕著に低減された発酵麦芽飲料を製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。
[0011] 本発明は、下記の構成をとる:
(1) 麦芽を原料として用い、仕込工程及び発酵工程の少なくとも一方において、グルコアミラーゼを添加し、発酵工程において、トランスグルコシダーゼを添加することを特徴とする、発酵麦芽飲料の製造方法、
(2) エキス濃度に対して、トランスグルコシダーゼを3U/g以上添加することを特徴とする、前記(1)の発酵麦芽飲料の製造方法、
(3) 前記発酵工程を5~15℃で行うことを特徴とする、前記(1)又は(2)の発酵麦芽飲料の製造方法、
(4) 麦芽使用量が発酵原料中の65~100質量%であることを特徴とする、前記(1)~(3)のいずれかの発酵麦芽飲料の製造方法、
(5) 発酵麦芽飲料中の糖質が0.5g/100mL未満であることを特徴とする、前記(1)~(4)のいずれかの発酵麦芽飲料の製造方法、及び
(6) 麦芽使用量が発酵原料中の65~100質量%であり、糖質が0.5g/100mL未満であることを特徴とする、発酵麦芽飲料。
発明の効果
[0012] 本発明に係る発酵麦芽飲料の製造方法により、発酵原料に占める麦芽使用比率にかかわらず、糖質含有量が顕著に低い発酵麦芽飲料を製造することができる。
発明を実施するための形態
[0013] 本発明及び本願明細書において、発酵麦芽飲料とは、原料として麦芽を使用し、発酵工程を経て製造される飲料である。本発明に係る発酵麦芽飲料の製造方法(以下、「本発明に係る製造方法」ということがある。)により製造される発酵麦芽飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。その他、麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類であってもよい。アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、スピリッツ等の一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。本発明に係る製造方法により製造される発酵麦芽飲料としては、ビールテイスト飲料であることが好ましい。具体的には、ビール、発泡酒、ビール又は発泡酒をアルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類等が挙げられる。
[0014] 本発明に係る製造方法は仕込工程及び発酵工程を含むものであって、麦芽を原料として用い、仕込工程及び発酵工程の少なくとも一方において、グルコアミラーゼを添加し、発酵工程において、トランスグルコシダーゼを添加することを特徴とする。より具体的には、グルコアミラーゼを、原料を糖化するための仕込槽及び/又は発酵タンクに添加し、かつ発酵タンクにトランスグルコシダーゼを添加することにより、原料中の糖質を酵母が資化可能な糖へ分解する反応を促進させて、発酵麦芽飲料を製造する。この結果、原料中の非資化性糖が減少し、糖質含有量が低い発酵麦芽飲料を製造することができる。本発明に係る製造方法によれば、特にイソマルトース、ニゲロース等の非資化性のイソマルトオリゴ糖の最終製品中への残存量を大幅に低下させることができる。イソマルトオリゴ糖は、通常酵母により資化されないため、最終製品中に糖質成分として残存する。これに対して本発明に係る製造方法においては、グルコアミラーゼ及びトランスグルコシダーゼを適切なタイミングで添加することによりグルコースへ分解され、さらに発酵により酵母に資化される結果、最終製品中に残存する糖質が減少する。
[0015] 本発明において用いられるグルコアミラーゼとしては、澱粉質の非還元性末端を切断しグルコースを生成する触媒活性を有する酵素であれば、特に限定されるものではなく、各種生物由来のグルコアミラーゼを使用することができる。例えば、市販されているグルコアミラーゼのうち、いずれの酵素を用いてもよく、またこれらを組み合わせて用いることもできる。
[0016] グルコアミラーゼは、仕込工程と発酵工程のどちらにおいても、澱粉質を分解する作用が働く。このため、本発明に係る製造方法においては、グルコアミラーゼは、仕込工程及び発酵工程の少なくとも一方において添加すればよく、両工程において添加してもよい。
[0017] 仕込工程において添加する場合、グルコアミラーゼの添加時期は、仕込工程終了時点までに添加したグルコアミラーゼによる酵素反応が充分に行われる時点であれば特に限定されるものではない。例えばグルコアミラーゼは、マイシェの調製時点において、麦芽等の発酵原料とともに添加されてもよく、糖化反応の途中に添加してもよい。本発明においては、グルコアミラーゼによる酵素反応を充分に進行させられるため、マイシェの調製時点又は仕込工程の早い段階でグルコアミラーゼを添加することが好ましく、マイシェの調製時点に添加することがより好ましい。同様に、発酵工程において添加する場合、グルコアミラーゼの添加時期は、発酵工程終了時点までに添加したグルコアミラーゼによる酵素反応が充分に行われる時点であれば特に限定されるものではないが、発酵開始時点までには添加していることが好ましく、発酵開始時点又は発酵開始前の冷麦汁に添加することがより好ましい。
[0018] 本発明において用いられるトランスグルコシダーゼとしては、加水分解反応により糖質を分解する触媒活性を有する酵素であれば、特に限定されるものではなく、各種生物由来のトランスグルコシダーゼを使用することができる。例えば、市販されているトランスグルコシダーゼのうち、いずれの酵素を用いてもよく、またこれらを組み合わせて用いることもできる。
[0019] 前述のように、トランスグルコシダーゼが糖転移反応と加水分解反応のどちらを触媒するかは、基質濃度に依存する。仕込工程では基質濃度が高いため、糖転移反応へと平衡が傾く。このため、イソマルトオリゴ糖等の非資化性糖を分解するためには、トランスグルコシダーゼは発酵工程で添加する必要がある。トランスグルコシダーゼの添加時期は、発酵工程終了時点までに添加したトランスグルコシダーゼによる酵素反応が充分に行われる時点であれば特に限定されるものではなく、発酵開始時点までに添加していてもよく、発酵工程の途中で発酵液に添加してもよい。また、一度に使用するトランスグルコシダーゼを全量添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。
[0020] 基質濃度が高い発酵初期にトランスグルコシダーゼを添加した場合、糖転移反応によりイソマルトオリゴ糖が生成されるため、発酵遅延が生じやすくなり、発酵で消費されない糖質成分の残存量が多くなる結果、最終製品中に残存する糖質含有量を充分に減少させることは難しい。これに対して本発明に係る製造方法においては、グルコアミラーゼを併用しているため、トランスグルコシダーゼを単独で使用した場合よりも発酵遅延が生じにくく、糖質成分の残存量を従来になく大幅に低減させることができる。」
記載事項(甲1-4)
「実施例
[0036] 次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
[0037] <各糖類の含有量の測定>
麦汁又は発酵麦芽飲料中の糖類の含有量(mg/L)は、高速液体クロマトグラフィーにより二糖類、三糖類、及び四糖類に分離したものを質量分析計で検出し、得られたピーク面積に基づいて算出した。装置として、ポンプL-2100、オートサンプラL-2200、カラムオーブンL-2300(日立ハイテクノロジーズ社製)、質量分析計API3000(AB SCIEX社製)を用いた。
[0038] 二糖類を測定する場合には、高速液体クロマトグラフ質量分析は下記の条件で実施した。
検出:Electorospray Ionization(ESI)positive、Multiple Reaction Monitoring(MRM) m/z360.0→163.1、カラム:Hypercarb(2.1mm×150mm、3μm、ThermoScientific社製)、カラム温度:60℃、流速:0.2mL/min、移動相A:10mmol/L 酢酸アンモニウム水(0.1容量% 酢酸)、移動相B:メタノール、グラジエント条件:0~10分(移動相B濃度:0容量%)→10~25分(移動相B濃度:3容量%)→25~40分(移動相B濃度:13容量%)→40~50分(移動相B濃度:18容量%)→50~60分(移動相B濃度:40容量%)→60~70分(移動相B濃度:80容量%)→70~85分(移動相B濃度:0容量%)。
[0039] 三糖類を測定する場合には、分析条件を、検出:ESI positive、MRM m/z522.5→325.1とした。
四糖類を測定する場合には、分析条件を、検出:ESI positive、MRM m/z684.5→325.1とした。
[0040] <麦汁の発酵度の測定>
麦汁の発酵度の測定は、改訂BCOJ(Brewery Convention of Japan)分析法((財)日本醸造協会発行)に記載の方法(7.3及び8.11最終発酵度)に準じて行った。すなわち、麦汁に酵母を加えて発酵可能なエキスを全て発酵させた後にエキス濃度を測定し、得られた測定値と予め測定した元の麦汁(発酵前の麦汁)のエキス濃度より算出した。
最終発酵度(%)=([元の麦汁のエキス濃度]-[発酵後のエキス濃度])/[元の麦汁のエキス濃度]×100
[0041] [実施例1]
200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールテイスト飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、試験サンプルには、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム社製、製品名:トランスグルコシダーゼL)を冷麦汁に対して80U/mL添加したが、対照サンプルには何も添加しなかった。両サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させてビールテイスト飲料(アルコール含有量:3.8容量%)を得た。
[0042] 得られたビールテイスト飲料について、イソマルトース、コウジビオース、及びニゲロースの含有量を測定した。測定結果を表1に示す。発酵工程においてトランスグルコシダーゼを添加した試験サンプルでは、いずれの糖類も含有量が5mg/L未満であり、トランスグルコシダーゼを添加しなかった対照サンプルよりも糖質含有量が顕著に低減していた。また、試験サンプルの糖質含有量は、0.4g/100mLであった。当該結果から、本発明に係る製造方法により、麦芽使用比率を100%とした場合であっても、糖質含有量が低く、低カロリーのビールテイスト飲料が製造できることが明らかである。
[0043]
[図:0001384173000001.jpg]
」
イ 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。訳文にて示す。
(甲2-1)「 ミュンヘン工科大学
醸造及び飲料技術のための講座
下面発酵ビールの香味安定性及び調和に対するホップ添加技術の影響についての調査
シュテファン・ハンケ
工学博士
の学位を獲得するためにミュンヘン工科大学の食糧、土地利用及び環境のためのヴァイエンシュテファン学術センター学部により許可された学術論文の完全な掲載。
座長:大学教授H.-Chr.ランゴフスキー博士
学術論文の審査官
1.大学教授 W.バック博士(退職している)
2.名誉教授 H.M.エスリンガー博士
フライベルク鉱山工科大学
3.大学教授 K.ゾンマー博士
本学術論文は、2009年8月27日にミュンヘン工科大学に提出され、2009年12月11日に栄養、土地利用及び環境のためのヴァイエンシュテファン学術センター学部により受領された。
4.6.5.3 リナロール
熟成受容のためのリナロール香料の重要性に基づいて、ホップの香りに対するリナロールの知覚上の関連性(第4.3節を参照)のためにも、本節ではこの香料に対する影響パラメータが取り上げられることになっている。図97及び図98は、異なるビール醸造所製のシリーズA~Cのビールの及び使用された全ての品種のリナロール含有量を示す。シリーズBでは、2つのビール醸造所においてサファイア品種が明らかに際立っている。従って、このサファイア品種の投入でグリコシド含有量が比較的高かったと推測される。但しサファイア品種はシリーズCではこの挙動を示していない。ここでテットナンガー品種は、リナロール含有量が他の3品種の場合よりも明らかに低いので対象外である。テットナンガー品種は、シュパルター品種(第4.5節を参照)と同様にザーツァー品種の1つであり、そのテットナンガー品種は、転移試験では同様に明らかに低い香料産出量によって際立っていた。」
(甲2-2)
「
[図:0001384173000002.jpg]
」
(甲2-3)
「
[図:0001384173000003.jpg]
」
ウ 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
(甲3-1)
「請求の範囲
[請求項1] 原麦汁エキスが7.0~9.0質量%であり、水溶性食物繊維を含有し、リナロール濃度が20~40ppbである、発酵ビール様発泡性飲料。」
(甲3-2)
「[0036] [製造例1]
麦芽6.5kgと砂糖19.5kgと酵母エキスを原料として常法に従って仕込を行って麦汁を製造した。得られた麦汁を濾過し、苦味付けホップを添加した後に煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。次いで、80~99℃程度の麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、冷却した。当該冷麦汁にビール酵母を接種して発酵させた後、貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液に加水を行って濃度調整を行った後に、フィルター濾過(平均孔径:0.65μm)し、ベース液とする発酵ビール様発泡性飲料を得た。当該発酵ビール様発泡性飲料は、原麦汁エキスが7.34質量%、アルコール濃度が4.27容量%、リナロール濃度が1.9ppb、炭酸ガスが2.8gas vol.であった。
[0037] [実施例1]
製造例1で調製した発酵ビール様発泡性飲料に、水溶性食物繊維(難消化性デキストリン;松谷化学工業株式会社製)を食物繊維として0、1.5、3.0g/100mL、リナロールを1.9(無添加)、10、20、40、60ppbとなるように添加し、発酵ビール様発泡性飲料を得た。
[0038] 得られた発酵ビール様発泡性飲料の香味のバランスについて官能評価を行った。官能評価は、6名の専門パネリストが、各発泡酒をそれぞれブラインドで官能試飲を行い、下記に示す5段階で評価した。
[0039] 5:バランスが良い(水っぽくなく、重すぎない)。
4:ややバランスが良い。
3:どちらともいえない。
2:ややバランスが良い。
1:バランスが悪い(水っぽい、あるいは重い)。
[0040] [表1]
[図:0001384173000004.jpg]
[0041] [表2]
[図:0001384173000005.jpg]
[0042] 各発酵ビール様発泡性飲料の6名の専門パネリストの評点の平均値を、食物繊維濃度とリナロール濃度と共に表1に示す。また、食物繊維含量1.5g/100mLの発酵ビール様発泡性飲料に対して、専門パネリストから得られた主な官能コメントを表2に示す。表2中、括弧内はコメントを述べた専門パネリストの人数を示す。この結果、食物繊維を1.5g/100mL含有し、原麦汁エキスが8.70質量%であり、かつリナロール濃度が20~40ppbの発酵ビール様発泡性飲料では、水っぽさが解消されており、重すぎず、コクがあり香味バランスが良好であった。
[0043] [実施例2]
製造例1で調製した発酵ビール様発泡性飲料を脱気水で希釈し、炭酸ガス量を2.8gas vol.に調製した。得られた発酵ビール様発泡性飲料は、原麦汁エキスが5.37質量%、アルコール濃度が3.09容量%、リナロール濃度が1.4ppbであった。
[0044] 得られた発酵ビール様発泡性飲料に、水溶性食物繊維(難消化性デキストリン;松谷化学工業株式会社製)を食物繊維として0、1.5、3.0g/100mL、リナロールを1.4(無添加)、10、20、40、60ppbとなるように添加し、発酵ビール様発泡性飲料を得た。得られた発酵ビール様発泡性飲料の香味のバランスについて、実施例1と同様にして官能評価を行った。
[0045] [表3]
[図:0001384173000006.jpg]
[0046] [表4]
[図:0001384173000007.jpg]
[0047] 各発酵ビール様発泡性飲料の6名の専門パネリストの評点の平均値を、食物繊維濃度とリナロール濃度と共に表3に示す。また、食物繊維含量3.0g/100mLの発酵ビール様発泡性飲料に対して、専門パネリストから得られた主な官能コメントを表4に示す。表4中、括弧内はコメントを述べた専門パネリストの人数を示す。この結果、食物繊維を3.0g/100mL含有し、原麦汁エキスが8.17質量%であり、かつリナロール濃度が20~40ppbの発酵ビール様発泡性飲料では、水っぽさが解消されており、重すぎず、コクがあり香味バランスが良好であった。
[0048] [実施例3]
製造例1で調製した発酵ビール様発泡性飲料を脱気水で希釈し、炭酸ガス量を2.8gas vol.に調製した。得られた発酵ビール様発泡性飲料は、原麦汁エキスが6.44質量%、アルコール濃度が3.73容量%、リナロール濃度が1.7ppbであった。
[0049] 得られた発酵ビール様発泡性飲料に、水溶性食物繊維(難消化性デキストリン;松谷化学工業株式会社製)を食物繊維として0、0.75、1.5、2.25、3.0g/100mL、リナロールを1.7(無添加)、10、20、40、60ppbとなるように添加し、発酵ビール様発泡性飲料を得た。得られた発酵ビール様発泡性飲料の香味のバランスについて、実施例1と同様にして官能評価を行った。
[0050] [表5]
[図:0001384173000008.jpg]
[0051] [表6]
[図:0001384173000009.jpg]
[0052] 各発酵ビール様発泡性飲料の6名の専門パネリストの評点の平均値を、食物繊維濃度とリナロール濃度と共に表5に示す。また、食物繊維含量1.5g/100mLの発酵ビール様発泡性飲料に対して、専門パネリストから得られた主な官能コメントを表6に示す。表6中、括弧内はコメントを述べた専門パネリストの人数を示す。この結果、食物繊維を0.75~2.25g/100mL含有し、原麦汁エキスが7.13~8.50質量%であり、かつリナロール濃度が20~40ppbの発酵ビール様発泡性飲料では、水っぽさが解消されており、重すぎず、コクがあり香味バランスが良好であった。
[0053] [実施例4]
実施例3で調製した原麦汁エキスが6.44質量%、アルコール濃度が3.73容量%、リナロール濃度が1.7ppb、炭酸ガスが2.8gas vol.の発酵ビール様発泡性飲料に、ポリデキストロース(ダニスコ社製)を食物繊維として1.5g/100mL、リナロールを1.7(無添加)、10、20、40、60ppbとなるように添加し、発酵ビール様発泡性飲料を得た。得られた発酵ビール様発泡性飲料の香味のバランスについて、実施例1と同様にして官能評価を行った。
[0054] [表7]
[図:0001384173000010.jpg]
[0055] [表8]
[図:0001384173000011.jpg]
[0056] 各発酵ビール様発泡性飲料の6名の専門パネリストの評点の平均値を、食物繊維濃度とリナロール濃度と共に表7に示す。また、食物繊維含量1.5g/100mLの発酵ビール様発泡性飲料に対して、専門パネリストから得られた主な官能コメントを表8に示す。表6中、括弧内はコメントを述べた専門パネリストの人数を示す。この結果、難消化性デキストリンを添加した実施例3と同様に、リナロール濃度が20~40ppbの発酵ビール様発泡性飲料では、水っぽさが解消されており、重すぎず、コクがあり香味バランスが良好であったが、難消化性デキストリンを含有させたものと比較すると、香味バランスの評価は低かった。
[0057] [実施例5]
麦芽6.5kgと砂糖14.0kgと難消化性デキストリン(松谷化学工業株式会社製)5.5kgと酵母エキスを原料として常法に従って仕込を行って麦汁を製造した。得られた麦汁を濾過し、苦味付けホップを添加した後に煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。麦汁煮沸終了後の麦汁に香り付けホップを添加した後、沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、冷却した。当該冷麦汁にビール酵母を接種して発酵させた後、貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液に加水を行って濃度調整を行った後に、フィルター濾過(平均孔径:0.65μm)し、発酵ビール様発泡性飲料を得た。麦汁煮沸終了後に添加する香り付けホップの量をふることにより、リナロール濃度の異なる5種類の発酵ビール様発泡性飲料を得た。得られた5種類の発酵ビール様発泡性飲料は、原麦汁エキスが7.70~7.85質量%、アルコール濃度が3.53~3.61容量%、食物繊維濃度が1.8g/100mL、リナロール濃度が2.1~38ppb、炭酸ガスが2.8gas vol.であった。
[0058] [表9]
[図:0001384173000012.jpg]
[0059] 各発酵ビール様発泡性飲料の香味のバランスについて、実施例1と同様にして官能評価を行った。各発酵ビール様発泡性飲料の6名の専門パネリストの評点の平均値及び専門パネリストから得られた主な官能コメントを、リナロール濃度と共に表9に示す。表9中、括弧内はコメントを述べた専門パネリストの人数を示す。この結果、実施例1~4と同様に、リナロール濃度が25~38ppbの発酵ビール様発泡性飲料では、水っぽさが解消されており、重すぎず、コクがあり香味バランスが良好であった。また、香味バランスの評価は、麦汁煮沸終了後に香り付けホップを使用せず、リナロールを製品に添加することにより調製した実施例1~4の場合よりも高かった。」
(甲3-3)
「[0060] [参考例1]
市販のビール様発泡性飲料について、原麦汁エキス値、アルコール濃度、及びリナロール濃度を測定し、さらに原材料表示より水溶性食物繊維を含有しているか否かを調べた。結果を表10及び11に示す。表の「水溶性食物繊維」の欄中、○は水溶性食物繊維が原料として含まれていることを、×は水溶性食物繊維が原料として含まれていないことを、それぞれ意味する。この結果、市販のビール様発泡性飲料には、原麦汁エキスが7.0~9.0質量%であり、水溶性食物繊維を含有し、リナロール濃度が20~40ppbであるものはなかった。
[0061] [表10]
[図:0001384173000013.jpg]
[0062]
[表11]
[図:0001384173000014.jpg]
」
エ 甲4の記載
甲4には、以下の記載がある。
(甲4-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料中の麦芽の比率が45質量%以上であり、
ビールテイスト飲料の酢酸イソアミル濃度が2mg/l以上であり、重合度が4以上である糖の含有量が1.0g/100ml以下である、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
ビールテイスト飲料のリナロール濃度が1~40μg/lである、請求項1に記載のビールテイスト飲料。」
(甲4-2)
「【0029】
ビールテイスト飲料のリナロール濃度は、公知の方法で調整することができる。リナロールはホップに含まれる成分であり、例えば、ホップの種類、使用量、添加タイミング等を調整することによって、ビールテイスト飲料のリナロール濃度を調整することができる。ホップとは別にリナロールを添加してリナロール濃度を調整してもよい。」
(甲4-3)
「【0060】
[試験例1]
表1に示す比率の麦芽(粉砕した大麦麦芽)、水、及び必要に応じてグルコアミラーゼ等の多糖分解酵素を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。実施例1及び比較例2では、ホップの添加時に糖類(グラニュー糖)を添加した。得られた発酵前液(冷麦汁)にビール酵母を添加し、所定期間発酵させた。製造工程において、ホップの配合量、発酵条件等を適宜変更し、実施例1、比較例1~3のビールテイスト飲料を得た。得られたビールテイスト飲料のアルコール度数は5~6%の範囲であった。得られたビールテイスト飲料について、重合度4以上の糖の含有量、酢酸イソアミル濃度及びリナロール濃度を測定した。また、リナロール濃度に対する酢酸イソアミル濃度の比を算出した。
【0061】
比較例1で得られたビールテイスト飲料に、組成が表1に示す値となるように適宜成分を添加して、実施例2及び3のビールテイスト飲料を得た。
【0062】
得られたビールテイスト飲料について、訓練された3名のパネルにより官能評価を行った。官能評価は、雑味の残存感、味のすっきり感及び香りのすっきり感について、それぞれ1~7の7段階で行い、その平均値を評価スコアとした。
【0063】
雑味の残存感とは、飲用後に舌の上に雑味が一定時間持続する感覚である。雑味の残存感の評価項目では、数値が高いほど残存感が少なく好ましく感じられることを示す。味のすっきり感とは、飲用した際の味の最大強度が低く、かつ飲用後の雑味が残りにくい感覚である。味のすっきり感の評価項目では、数値が高いほど、飲用した際の味の最大強度がより低く感じられる、及び/又は、飲用後の雑味がより残りにくく感じられることを示す。香りのすっきり感とは、飲用した際の香りの最大強度が低く、かつ飲用後の香りの雑みが残りにくい感覚である。香りのすっきり感の評価項目では、数値が高いほど、飲用した際の香りの最大強度がより低く感じられる、及び/又は、飲用後の香りの雑みがより残りにくく感じられることを示す。
【0064】
【表1】
[図:0001384173000015.jpg]
」
オ 甲5の記載
甲5には、以下の記載がある。
(甲5-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量10,000未満の大豆ペプチドを原料とし、リナロール含有量が5~10ppbであることを特徴とする、ビール様発酵アルコール飲料。」
(甲5-2)
「【0012】
本発明に係るビール様発酵アルコール飲料においては、原料として用いるホップの品種や量等を調節することによって、飲料中のリナロール含有量を所望の範囲内に調整することができる。飲料中のリナロール含有量は、原料としてリナロール香料を外添することによっても調整可能であるが、ホップ原料を用い、ホップ原料に由来するリナロールによって飲料中のリナロール含有量を5~10ppbの範囲にまで調整することが好ましい。ホップにはリナロール以外にも様々な香気成分が含まれており、それらが飲料に含まれることによって、よりビールらしい香味を達成できる。」
(甲5-3)
「【0027】
糖化終了後、得られた濾過前の糖化液を濾過槽により濾過し、清澄な糖化液を調製する。次いで、この清澄な糖化液を煮沸釜に移し、ホップを加えて煮沸することにより、リナロールを含有する発酵原料液を調製する。煮沸した発酵原料液は、ワールプールに入れて、生じたタンパク質等の粕を除去する。
【0028】
清澄な糖化液へのホップの添加は、煮沸開始前に行ってもよく、煮沸中に行ってもよい。ホップ添加後の煮沸時間が長すぎる場合には、リナロールをはじめとする香気成分が損なわれやすい。そこで、アロマホップは、煮沸開始後に添加することが好ましく、煮沸終了の直前に添加することがより好ましい。
【0029】
ビールらしい苦味を達成するために、本発明に係るビール様発酵アルコール飲料においては、アロマホップに加えて、α酸含量の高いビターホップも原料として用いることが好ましい。ビターホップを原料とする場合には、イソα酸等の苦味成分を発酵原料液に充分量抽出させるため、ビターホップは煮沸処理前の発酵原料液に添加することが好ましい。」
(甲5-4)
「【0039】
[実施例1]
まず、主原料である麦芽として麦芽330gを仕込槽に入れ、温水6Lを加えた。次に、これを50℃に保温し、徐々に昇温しマイシェを造った。80℃になった時点で昇温を停止し、糖化液とした。このとき、澱粉質を効率よく分解するため、乳酸を添加してpHを、5.6に調整した。次に、糖化の終了後、得られた濾過前の麦汁を、麦汁濾過槽で濾過して、麦芽粕と麦汁に分離し、濾過液として透明な麦汁を得た。得られた透明な麦汁を煮沸釜に移し、ビターホップ5gを加えるとともに、カラメル色素10g、大豆ペプチド20g、糖類2000g、大豆食物繊維20g、酵母エキス20g、難消化性デキストリン500g、及び甘味料1gを添加し、煮沸した。また、煮沸終了直前にヘルスブルッカー種ホップ5gを添加した。
【0040】
次いで、煮沸した麦汁をワールプールに入れて、生じたタンパク質等の粕を除去し、清澄な麦汁を得た。プレートクーラーにより、当該麦汁を8℃に冷却して発酵タンクに移し、一部を濁度測定用サンプルとしてサンプリングした後、酵母を接種して発酵及び貯酒を約1ヶ月間行った。最後に、酵母を濾過した後、必要に応じて炭酸ガスを注入することにより、目的のビール様発酵アルコール飲料を得た。
【0041】
濁度測定用サンプル(酵母を接種させる前の清澄な麦汁)の濁度を、透過散乱光方式濁度計2100AN(HACH社製)の透過光・前方散乱光・後方散乱光・90°散乱光の複合モードを用いて測定したところ、110.2NTUであった。
【0042】
得られたビール様発酵アルコール飲料のリナロール含有量を下記の条件でGC-MS法により測定したところ、6.5ppbであった。
ガスクロマトグラフ質量分析装置:GCMS-QP2010(島津製作所製)
オートサンプラー:AOC5000(島津製作所製)
GCキャピラリーカラム:Agilent J&W DB-WAX(Agilent Technologies社製)」
カ 甲6の記載
甲6には、以下の記載がある。
(甲6-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラネオール含有量が350ppb以上であり、リナロール含有量が10ppb以上であり、かつβ-ミルセン含有量に対するリナロール含有量の比率([リナロール含有量]/[β-ミルセン含有量])が10以上であることを特徴とする、発酵麦芽飲料。」
(甲6-2)
「【0056】
[実施例1]
発酵麦芽飲料に、フラネオール、リナロール、及びβ-ミルセンを添加し、飲み応えに対する影響を調べた。
【0057】
まず、20kgの麦芽に原料水を混合した混合物を常法に従って加温して糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過し、得られた濾液に20kgの液糖(果糖を含む。固形分75質量%)とホップを添加した後、煮沸して麦汁(穀物煮汁)を得た。ホップは、煮沸開始時と煮沸終了時の2回に分けて添加した。得られた麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、原麦汁エキスが12質量%となるように加水調整したものを発酵原料液とした。得られた発酵原料液を約7℃に冷却した後、当該冷麦汁にビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させた。熟成後の発酵液をフィルター濾過(平均孔径:0.65μm)し、発酵麦芽飲料Aを得た。この発酵麦芽飲料Aは、アルコール度数5容量%、炭酸ガス圧0.23MPa、フラネオール含有量243ppb、リナロール含有量7.2ppb、β-ミルセン含有量0.9ppb、4VG含有量90ppbであった。
【0058】
この発酵麦芽飲料Aに、フラネオール、リナロール、及びβ-ミルセンを、飲料中の濃度が表1~2に記載の濃度となるようにそれぞれ添加して発酵麦芽飲料B~Jを得た。
【0059】
7名の専門パネルにより、発酵麦芽飲料B~Jの飲み応えについて、発酵麦芽飲料Aを対照とした官能評価を行った。具体的には、各発酵麦芽飲料の飲み応えを、対照サンプル(発酵麦芽飲料A)を3点とし、1点が対照サンプルに比べて非常に弱く感じる、2点が対照サンプルに比べて弱く感じる、3点が対照サンプルと同等に感じる、4点が対照サンプルに比べて強く感じる、5点が対照サンプルに比べて非常に強く感じる、とする5段階で、ブラインドで評価した。7名のパネルの評点の平均値が3.5以上の場合に、飲み応えの改善効果があったと評価した。評価結果を表1~2に示す。表中の官能評価の欄の「○」は飲み応え改善効果があったとの評価を、「×」は飲み応え改善効果がなかったとの評価をそれぞれ示す。
【0060】
【表1】
[図:0001384173000016.jpg]
【0061】
【表2】
[図:0001384173000017.jpg]
」
キ 甲7の記載
甲7-1には、以下の記載がある。
(甲7-1-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質濃度が1.1g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が10~100である、ビールテイスト発酵アルコール飲料。」
(甲7-1-2)
「【0015】
本発明のビールテイスト発酵アルコール飲料では、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)の上限値は適宜設定することができるが、例えば、20とすることができ、好ましくは14、より好ましくは10である。OE濃度の下限値は飲み応え付与の観点から、2以上とすることができ、好ましくは4以上である。本発明において、OE濃度の範囲は、2~20とすることができ、好ましくは4~14、より好ましくは4~10である。本発明において「オリジナルエキス濃度」はビールのコクや味の濃淡に影響し、ビール濃度の指標となるものであり、市販の機器(例えば、アルコライザー(アントンパール社製))を用いて測定することができる。なお、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料では「オリジナルエキス濃度」を「原麦汁エキス濃度」と言い換えることができる。」
(甲7-1-3)
「【0046】
実施例3:麦芽使用比率67%以上の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の調製およびプロリン比率が味の厚みに与える影響の分析
(1)麦芽使用比率67%以上のビールテイスト発酵アルコール飲料の調製
64℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽17質量部、酵素製剤を投入して120分保持後、78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。得られた麦汁にホップおよび資化性糖を主体とした液糖を7質量部投入して100℃で90分間煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。得られた発酵前液へグルコアミラーゼを主体とする酵素製剤を添加した。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加し、常法に従って主発酵および後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で維持することにより貯蔵を行い、濾過して、4種の清澄な麦芽使用比率67%以上のビールテイスト発酵アルコール飲料(サンプル番号51~54)を得た。
【0047】
(2)サンプル飲料の分析
上記(1)に従って得られた飲料(サンプル番号51~54)について、糖質濃度が1.1g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であることを確認した。各サンプル飲料のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)とプロリン濃度(mg/L)を測定し、プロリン比率を算出した。得られたサンプル飲料の各種分析値は表3に示される通りであった。
【0048】
(3)官能評価
実施例1(3)に記載された手順と基準に従って官能評価を行った。
【0049】
(4)評価結果
官能評価の結果を表3に示す。
【表3】
[図:0001384173000018.jpg]
【0050】
表3の結果から、糖質濃度が1.1g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であっても、プロリン比率を10~100に調整することで、味の調和を図りつつ味の厚みが実現されたビールテイスト発酵アルコール飲料を提供できることが確認された。」
ク 甲7-2の記載
甲7-2には、以下の記載がある。
(甲7-2-1)
「【請求の範囲】
【請求項1】
麦芽の使用比率50%以上、アルコール度数4%以上、苦味価10以上、総ポリフェノール量140ppm以下であるビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記麦芽が大麦麦芽である請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
前記大麦麦芽がLOXレス麦芽を含む請求項2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
全窒素量40mg/100mL以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
原麦汁エキス濃度10%以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のビールテイスト飲料。」
(甲7-2-2)
「【実施例】
【0056】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明に係るビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料の呈味改善方法について説明する。
【0057】
(市販のビールの分析)
本発明の内容について説明する前に、市販されているビール(市販品A、B)のアルコール度数、苦味価、総ポリフェノール量、全窒素量、原麦汁エキス濃度、ガス圧を測定した。これらは以下に従って測定した。
アルコール度数は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.3アルコールに記載されている方法で測定した。
苦味価は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.15苦味価に記載されている方法で測定した。
総ポリフェノール量は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.19総ポリフェノールに記載されている方法で測定した。
全窒素量は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.9全窒素に記載されている方法で測定した。
原麦汁エキス濃度は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.3.4SCABA法に記載されている方法で測定した。
ガス圧は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.21ガス圧に記載されている方法で測定した。
これらの測定結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
[図:0001384173000019.jpg]
【0059】
(サンプル調製用発酵液の製造)
評価用サンプルを調製するため、サンプル調製用発酵液A、Bを以下のようにして製造した。
まず、サンプル調製用の麦芽は全て(100%)大麦麦芽とした(サンプル調製用発酵液Aの原料(水及び苦味料を除く)における麦芽の使用比率は表2に示すとおり70%である)。なお、大麦麦芽は全て(100%)LOXレス麦芽とした。苦味料としてホップエキス100%使用した。これらの原料を用い、ビールを製造する際に通常適用する温度条件等で発酵前液を製造した。次いで、ビールを製造する際に通常適用する温度条件等で発酵前液をアルコール発酵させて発酵液を製造した(熟成期間20日以上)。そして、発酵液をPVPPで処理(ろ過)して、表2に示す内容のサンプル調製用発酵液Aを製造した。
【0060】
サンプル調製用発酵液Bは、苦味料としてホップエキス10%及びホップペレット90%使用し、PVPP処理無しとし、他の条件はサンプル調製用発酵液Aと同じ条件で製造した。
製造したサンプル調製用発酵液A、Bのアルコール度数、苦味価、総ポリフェノール量、全窒素量、原麦汁エキス濃度、ガス圧を前記市販のビールの分析で述べたのと同様にして測定した。
表2にサンプル調製用発酵液A、Bの内容を示す。
なお、表1及び表2に示すように、サンプル調製用発酵液Bの総ポリフェノール量は市販のビール(市販品A、B)と同等であることが確認された。
【0061】
【表2】
[図:0001384173000020.jpg]
」
ケ 甲7-3の記載
甲7-3には、以下の記載がある。
(甲7-3-1)
「【0026】
(試験4及び5)
パイロットプラントにて、表11に示す原料・条件で試験を行った。まず、煮沸釜に湯(100L)を投入した後、前差し湯に対しホップを150ppm又は750ppm添加し、試験区では炭酸ナトリウムでpHを調整した。ホップのみを100℃で30分煮沸した後、残りの原料を煮沸した液を混合し、麦汁を9.5℃に冷却して酵母を添加し、発酵をさせた。このときのpHは3.75~4.00である。麦汁、発酵後の液(下ろし)、およびエキス調整した後ろ過を行った製品の分析値を表12に示す。
【0027】
【表11】
[図:0001384173000021.jpg]
【0028】
【表12】
[図:0001384173000022.jpg]
」
コ 甲8の記載
甲8には、以下の記載がある。
(甲8-1)
「【請求の範囲】
[請求項1] 糖質の含有量が0.9g/100ml以下であって、総窒素含有量(T-N)が40mg/100ml以上である、ビールテイスト飲料。
[請求項2] 前記T-Nが110mg/100ml以下である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
[請求項3] リナロールを含む、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
[請求項4] ポリフェノールをさらに含み、総ポリフェノール(TPP)含有量に対するリナロール含有量の比(リナロール/TPP)が0.3~0.9である、請求項3に記載のビールテイスト飲料。
[請求項5] アルコール度数が2~10%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。」
(甲8-2)
「 技術分野
[0001] 本発明は、ビールテイスト飲料に関する。
背景技術
[0002] 健康志向が高まる中で、低カロリーや低糖質のビールテイスト飲料の需要が高まっている。しかし、ビールテイスト飲料のカロリーを低減させるためには、飲料中に含まれる糖質やタンパク質等の量を調整する必要があり、これにより味のバランスや、ボディ感・キレ・後味等のバランスが崩れる可能性がある。カロリーや糖質を低減する場合の問題点については、例えば、低カロリービールテイスト飲料に係る特開平8-9953号公報(特許文献1)において言及されている。
[0003] そのような中、糖質をゼロ(糖質量が0.5g/100ml未満)にするかまたは糖質を低減した飲料がいくつか検討されている。例えば、特許文献2(国際公開公報2017/026226)では飲料中の糖質含有量に対するリナロール含有量の比率を所定の範囲内に調整することで低糖質のビール用発泡性飲料のコクを増強することが試みられている。
先行技術文献
特許文献
[0004]特許文献1:特開平8-9953号公報
特許文献2:国際公開公報2017/026226号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005] しかしながら、糖質ゼロまたは低糖質のビールテイスト飲料の味のバランスには未だ改善の余地があった。したがって、本発明の課題は、糖質ゼロまたは低糖質でありながら味わいとスッキリさが両立したビールテイスト飲料を提供することである。
[0006] 本発明の発明者らは、鋭意検討した結果、糖質ゼロまたは低糖質のビールテイスト飲料において、総窒素含有量(T-N)が所定の範囲内にある場合に、味わいとスッキリさが両立できることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。」
(甲8-3)
「 発明の効果
[0008] 本発明の一態様によれば、味わいとスッキリさが両立された糖質ゼロまたは低糖質のビールテイスト飲料を提供できる。
[0009]1 ビールテイスト飲料
本発明のビールテイスト飲料は、糖質の含有量が0.9g/100ml以下であって、総窒素含有量(T-N)が40mg/100ml以上であるビールテイスト飲料である。一般に、糖質をゼロにしたり低減したりすると味わいが薄くなる傾向にあるが、総窒素含有量(T-N)を所定の範囲内に設定することによって、味わいとスッキリさを両立することが可能である。」
(甲8-4)
「[0011] また、本明細書において、「総窒素含有量(T-N)」とは、飲料全体に含まれる窒素の総量を意味し、「改訂 BCOJビール分析法 8.9.2 燃焼法(改良デュマ法)、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編 2013年増補改訂、財団法人 日本醸造協会」に記載の方法によって測定することができる。
[0012] 本発明のビールテイスト飲料は、総窒素含有量(T-N)が40mg/100ml以上である。総窒素含有量(T-N)の上限は、好ましくは110mg/100ml以下である。総窒素含有量(T-N)は、好ましくは43mg/100ml以上、100mg/100ml以下であり、より好ましくは50mg/100ml以上、90mg/100ml以下である。総窒素含有量(T-N)が40mg/100ml以上であれば糖質ゼロまたは低糖質のビールテイスト飲料の味わいとスッキリさを両立することができる。また、総窒素含有量が高くなり過ぎると味わいがもったりする傾向があるが、総窒素含有量(T-N)が110mg/100ml以下であれば、味わいがもったりし過ぎるのを防止することができる。」
(甲8-5)
「[0014] 本発明のビールテイスト飲料は、さらにリナロールを含んでいてもよい。リナロールはモノテルペンアルコールの一種であり、一般的に香料として使用されている。低糖質または糖質ゼロであって、総窒素含有量(T-N)が所定の範囲であるビールテイスト飲料にリナロールをさらに加えることで、味わいを損なうことなくさらにスッキリさを向上させることができる。リナロールの含有量は、好ましくは5質量ppb~100質量ppb、より好ましくは9質量ppb~80質量ppb、さらに好ましくは20質量ppb~70質量ppbである。リナロールの含有量は、J. Agric. Food Chem., 2013, 61 (47), pp 11303-1131(Characterization of the Key Aroma Compounds in Two Bavarian Wheat Beers by Means of the Sensomics Approach)に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)を用いて求めることができる。」
(甲8-6)
「[0042] [総窒素含有量を所定の範囲とすることの効果]
実施例1~4、比較例1
市販品のビールテイスト飲料(アルコール度数3v/v%)のアルコール度数を7.00v/v%に調整したものをベース(比較例1)とし、後述の表1に記載の組成となるように原料を添加した。アルコール度数を調整する際には市販の醸造アルコール(アルコール含有量:50~80%)を添加し、総窒素含有量(T-N)を調整する際には市販の大豆タンパク分解物を熱水で高濃度に溶解した液を添加し、リナロールの含有量を調整する際にはリナロールとしてRS体を添加した。総窒素含有量(T-N)は、「改訂 BCOJビール分析法 8.9.2 燃焼法(改良デュマ法)、ビール酒造組合国際技術委員会(分析委員会)編 2013年増補改訂、財団法人 日本醸造協会」に記載の方法によって測定した。リナロール濃度は、J. Agric. Food Chem., 2013, 61 (47), pp 11303-1131(Characterization of the Key Aroma Compounds in Two Bavarian Wheat Beers by Means of the Sensomics Approach)に記載のガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)を用いて測定した。また、総ポリフェノール(TPP)は「BCOJビール分析法(2004.11.1 改訂版) 7.11 総ポリフェノール」に従って測定した。
[0043] 得られた実施例1~4と比較例1のビールテイスト飲料を、「良質な飲み応え」、「すっきりさ」および「ビールテイスト飲料としての総合評価」の観点から評価した。甘味料の官能に関して訓練を受けた者(6名)がパネラーとなって評価を行い、下記の基準に基づいて数値で評価した。いずれの評価も点数が高いほど良い評価である。得られた評点の平均値を表1に示す。
(良質な飲み応え)(0.5刻み)
0:全く感じない
1:少し感じる
2:感じる
3:とても感じる
(すっきりさ)(0.5刻み)
0:全く感じない
1:少し感じる
2:感じる
3: とても感じる
(ビールテイスト飲料としての総合評価)(0.5刻み)
0:不可
1:可
2:良
3:優
[0044] また、得られた平均点に基づき、下記の基準でランク付けを行った。Aが最も評価が高く、Dが最も評価が低い。C以上を合格点とした。結果を表1に示す。
(良質な飲み応え)
A:2.0以上
B:1.4以上、2.0未満
C:0.7以上、1.4未満
D:0.7未満
(すっきりさ)
A:2.0以上
B:1.4以上、2.0未満
C:0.7以上、1.4未満
D:0.7未満
(ビールテイスト飲料としての総合評価)
A:2.0以上
B:1.4以上、2.0未満
C:0.7以上、1.4未満
D:0.7未満
[0045]
[表1]
[図:0001384173000023.jpg]
上記結果から、糖質を低減したビールテイスト飲料において、総窒素含有量(T-N)を所定の値の範囲内に調整すると飲み応えとスッキリさを両立することができることがわかった。また、これにより、ビールテイスト飲料としての総合評価も向上することが分かった。具体的には、実施例1~4は総窒素含有量(T-N)が所定の範囲内であり、それよりもT-Nの低い比較例1よりも飲み応えとスッキリさが向上し、ビールテイスト飲料としての総合評価も高い。実施例1~3と実施例4とを比較すると、実施例4で若干べたつき(もったりする感じ)が認められたが、許容範囲内であった。
[0046] [総窒素含有量とリナロール/TPPを所定の範囲することの効果]
実施例5~9、比較例2
実施例1~4および比較例1と同様に、同じ市販品のビールテイスト飲料をベースとし、後述の表2に記載の組成となるように原料を添加した。その後実施例1~4と比較例1のビールテイスト飲料と同様に評価した。得られた評点の平均値を表2に示す。
[0047]
[表2]
[図:0001384173000024.jpg]
上記結果から、糖質を低減したビールテイスト飲料において、総窒素含有量(T-N)を所定の値の範囲内に調整し、さらにリナロール/TPPの含有量を所定の範囲内とすることで、スッキリさがさらに向上することが分かった。
[0048] [アルコール含有量による違いの効果]
実施例10、11、比較例3、4
実施例1~4および比較例1と同様に、同じ市販品のビールテイスト飲料をベースとし、後述の表3に記載の組成となるように原料を添加した。その後実施例1~4と比較例1のビールテイスト飲料と同様に評価した。得られた評点の平均値を表3に示す。
[0049]
[表3]
[図:0001384173000025.jpg]
上記結果から、糖質を低減したビールテイスト飲料において、総窒素含有量(T-N)を所定の値の範囲内に調整し、さらにリナロール/TPPの含有量を所定の範囲内とすることで、種々のアルコール濃度のビールテイスト飲料においても同様の効果が奏されることが確認できた。
[0050] 本発明は、味わいとスッキリさが両立された糖質ゼロまたは低糖質のビールテイスト飲料を提供できる。」
(2)甲1に記載された発明
記載(甲1-4)から、甲1には、実施例1に係る発明として、
「麦芽の粉砕物、仕込水、及びグルコアミラーゼから製造された糖化液を濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸し、冷却した冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、トランスグルコシダーゼを添加し、ビール酵母を接種し、発酵させた後、熟成させて得られた、糖質含有量0.4g/100mLのビールテイスト飲料(アルコール含有量:3.8容量%)。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)本件特許発明についての検討
ア 申立理由1(新規性)について
(ア)本件特許発明1と、甲1発明との対比
a 記載(甲1-4)には、甲1発明の「ビール酵母を接種し、発酵させた後、熟成させて得られた」「ビールテイスト飲料」は麦芽使用比率が100%であることが記載されているから、本件特許発明の「麦芽比率が50質量%以上100質量%以下」である「発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1発明の「糖質含有量0.4g/mL」は、本件特許発明1の「糖質濃度が0.5g/100mL以下」に相当する。
そして、(甲1-4)には、冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後に、ビール酵母を接種し、発酵させたことが記載されているから、冷麦汁エキスとは、発酵開始前の麦汁エキス、すなわち原麦汁エキスであるといえる。
そうすると、甲1発明の「冷麦汁をエキス9.4質量%」は、本件特許発明1の「原麦汁エキス濃度が6.0質量%以上」に相当する。
b したがって、本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、
「麦芽比率が50質量%以上100質量%以下であり、
糖質濃度が0.5g/100mLであり、且つ、
原麦汁エキス濃度が6.0質量%である、
発酵ビールテイスト飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:
リナロールの含有量が、本件特許発明1では、「0.1~200質量ppb」であるのに対し、甲1発明では、不明である点。
相違点2:
発酵ビールテイスト飲料が、本件特許発明1では、「ビールである」のに対し、甲1発明では、ビールであるか不明である点。
相違点3:
発酵ビールテイスト飲料が、本件特許発明1では、「ただし、総窒素含有量(T-N)が40mg/100mL以上であるビールテイスト飲料を除く」との特定があるのに対し、甲1発明では、総窒素含有量(T-N)に関する特定がなく不明である点。
(イ)判断
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本明細書において、「ビール」とは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいい、具体的には、平成30年4月1日が施工日(当審注:「施行日」の誤記と認められる)の酒税法および酒類行政関係法令等解釈通達で定義されたものを意味する。」と記載されており(【0017】)、記載(甲1-4)から、甲1発明の発酵ビールテイスト飲料は、麦芽の粉砕物、仕込水、及びホップを原料として、ビール酵母を接種して発酵させて得られた飲料、すなわちビールであると認められる。
そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。
次に、相違点3について検討する。
甲1には、ビールテイスト飲料の総窒素含有量(以下、「T-N」という。)に関して記載がなく、甲1には、甲1発明のT-Nが40mg/100mL以上であるとする根拠もないので、記載されているに等しいともいえない。
また、そのようなことが本願出願時の技術常識であるともいえない。
そうすると、相違点3は実質的な相違点である。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1に係る発明は、甲1発明ではなく、甲1に記載された発明でない。
(ウ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(エ)本件特許発明4~7について
本件特許発明4~7は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定するものである。
したがって、本件特許発明1が、甲1に記載された発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない以上、本件特許発明4~7も、甲1に記載された発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。
(オ)異議申立人の主張
異議申立人は異議申立書において、申立理由1に関して、本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、上記相違点1で一応相違するが、発酵ビールテイスト飲料等に関する甲2~6から、ホップを添加した場合には、「0.1~200質量ppb」という範囲でリナロールが含まれることを確認できるから、甲1発明は、「0.1~200質量ppb」という範囲でリナロールが含まれている蓋然性が極めて高く、本件発明1は甲1発明と比較して実質的な相違点は存在しておらず、本件発明1は甲1に対して新規性を有していない旨主張している。
異議申立人の主張について検討する。異議申立人の主張は、相違点3を看過するものであり、上記(イ)のとおり、相違点3は実質的な相違点であるから、異議申立人の相違点1についての主張を検討するまでもなく、本件特許発明1、4~7は、甲1に記載された発明でない。
したがって、異議申立人の主張は採用することができない。
イ 小括
よって、本件特許発明1、4~7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。
ウ 申立理由2(進歩性)について
(ア)判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1には、ビールテイスト飲料の総窒素含有量(以下、「T-N」という。)に関して記載がなく、T-Nを調整すること、T-Nが40mg/100mL以上のビールテイスト飲料を除くことについても、記載も示唆もされていない。
(甲8-3)、(甲8-6)には、糖質を低減したビールテイスト飲料において、T-Nを40mg/100mL以上に調整すると飲み応えとスッキリさを両立できること、それによりビールテイスト飲料としての総合評価が向上すること、実施例1~4は総窒素含有量(T-N)が40mg/100mL以上であり、それよりもT-Nの低い比較例1よりも飲み応えとスッキリさが向上し、ビールテイスト飲料としての総合評価が高いことが記載されている。
そうすると、甲8の記載に接した当業者が、(甲1-3)に記載されるとおり、糖質含有量が顕著に低減された甲1発明のビールテイスト飲料において、飲み応えとスッキリさを両立できる、T-Nが40mg/100mL以上であるビールテイスト飲料を除くことを動機づけられるとはいえない。
また、甲2~甲6には、ホップを添加した発酵ビールテイスト飲料は、リナロールを含むことが記載されるにとどまり(甲2については科学的事実として検討している。)、甲7の1~甲7の3は、発酵ビールテイスト飲料における原麦汁エキス濃度、アルコール度数、総ポリフェノールの含有量に関する文献にすぎないから、他の甲号証にT-NまたはT-Nを調整することは記載されていない。
そうすると、他の甲号証を考慮しても、T-Nが40mg/100mL以上であるビールテイスト飲料を除くことを当業者が容易に想到し得るともいえない。
そして、本件特許発明1は、その構成全体から、飲みやすさ及び飲んだ後の余韻の心地よさのバランスを良く感じることができるとの効果を奏しており(【0006】)、甲1発明及び他の甲号証の記載から当業者が予測できない顕著な効果であるといえる。
そうすると、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2~8記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1発明及び他の甲2~8記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
(ウ)本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定するものである。
したがって、本件特許発明1が、甲1発明及び他の甲号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2~7も、甲1発明及び他の甲号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(エ)異議申立人の主張について
異議申立人は、申立理由2に関して、甲1発明において、リナロールの含有量を「0.1~200質量ppb」とすることは当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎないから、本件特許発明1は甲1~甲8に対して進歩性を有しない旨主張している。
異議申立人の主張について検討する。異議申立人の主張は、相違点3を看過するものであり、上記ア(イ)のとおり、相違点3は実質的な相違点であり、上記(ア)のとおり、相違点3は当業者が容易に想到し得るものでないから、異議申立人の相違点1についての主張を検討するまでもなく、本件特許発明1~7は、甲1発明及び他の甲2~8記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
したがって、異議申立人の主張は採用することができない。
エ 小括
よって、本件特許発明1~7に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。
申立理由3-1及び3-2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるとされる。
(2)本件特許発明1~7のサポート要件
ア 本件特許発明1~7の解決しようとする課題
本件特許発明1~7の解決しようとする課題は、本件特許の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載(特に、【0004】)から、飲みやすさ及び飲んだ後の余韻の心地よさのバランスを兼ね備えた発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法を提供することであると認められる。
イ 検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料は、麦芽比率を下げて、麦芽由来の糖質を少なくして糖質濃度を下げているため、麦芽由来の味わいが感じにくく、ビールらしさが損なわれ、飲みにくい飲料となり易いこと、低糖質のビールテイスト飲料において、麦芽比率を上げると、飲みやすい飲料とはなり得るが、飲んだ後の余韻の心地よさの低下が新たな問題として生じること、本発明の発酵ビールテイスト飲料は、糖質濃度が0.5g/100mL以下と低糖質でありつつも、麦芽比率を50%以上100質量%以下とし、さらにリナロールの含有量を0.1~200質量ppbの範囲となるように調製することで、飲みやすさ及び飲んだ後の余韻の心地よさのバランスを向上させ得る飲料とすること(【0009】)、「発酵ビールテイスト飲料」とは、酵母を用いた発酵工程を経て得られた、ビール様の風味をもつアルコール含有又はノンアルコールの炭酸飲料をいうこと(【0008】)、「ビール」とは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいい、具体的には平成30年4月1日が施工日(当審注:「施行日」の誤記と認められる)の酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達で定義されたものを意味すること(【0017】)、本発明の発酵ビールテイスト飲料の麦芽比率は、50質量%以上100質量%以下であること(【0010】)、糖質濃度は、0.5g/100mL以下であること(【0011】)、リナロールの含有量は、0.1~200質量ppbであること、リナロールの含有量が0.1質量ppb以上であれば、飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができること、特に、麦芽比率が50%以上であって糖質濃度が0.5g/100mL以下と高麦芽比率及び低糖質の発酵ビールテイスト飲料において、リナロールの含有量を調製することによる飲んだ後の余韻の心地よさの向上効果は大きいこと、リナロールの含有量が200質量ppb以下であれば、風味を良好に保ち、飲みやすさと飲んだ後の余韻の心地よさとのバランスを良好に保持することができること(【0012】)、原麦汁エキス(O-Ex)濃度は、飲料に軽快な飲み口を付与し、飲みやすさをより良好とする観点から、好ましくは6.0~20.0質量%であること(【0015】)、アルコール度数としては、爽快な刺激を感じることができる飲料とする観点から、好ましくは4.5(v/v)%以上であり、飲みやすい発酵ビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは20.0(v/v)%以下であること(【0016】)、総ポリフェノールの含有量は、良質な味わいを有し、よりビールらしい発酵ビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは60ppm以上であること(【0018】)、発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、工程(1):水及び麦芽を含む混合物を糖化処理して発酵原料液を調製する工程、及び工程(2):前記発酵原料液に酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を含み、リナロールの含有量を調整する操作を含む方法であること(【0038】)、良質な味わいを有し、ビールらしい飲料を製造する観点から、穀物に由来するスピリッツを添加する工程を有しないことが好ましく(【0039】)、アルコール度数は酵母を用いた発酵工程により調整すること(【0017】)、リナロールの含有量を調整する方法としては、所望の含有量になるようにリナロールを添加して調整する方法、リナロールを多く含む原材料(例えばホップ等)の品種や使用量、添加のタイミングを適宜設定する方法があること(【0040】)、糖質濃度、アルコール度数、リナロールの含有量を調整した、ビールである試験用飲料を調製したこと、実施例1~7の試験用飲料のビールは、飲みやすさと飲んだ後の余韻の心地よさのバランスが良好であったが、リナロール含有量が0.0質量%の比較例1の試験用飲料は、飲んだ後の余韻の心地よさが、実施例の飲料に比べて劣る結果となったこと(【0050】~【0054】)が記載されている。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1~7の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があるから、本件特許発明1~7はいずれも、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件特許発明1~7の課題「飲みやすさ及び飲んだ後の余韻の心地よさのバランスを兼ね備えた発酵ビールテイスト飲料、およびその飲料の製造方法を提供すること」を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
ウ 異議申立人の主張について
(ア)異議申立人は、申立理由3-1に関して、本件特許明細書には、リナロールの含有量が2.3質量ppb未満となる場合及び75.2質量ppb超過となる場合にどのような結果になるのかは全く示されておらず、特に、0.1質量ppbというような極めてわずかなリナロールを含有させることで、「一般に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して優れた効果を得られるかは全くもって不明であることから、本件特許発明1~3、5~7は、発明の課題を解決できると認識し得る範囲を超える部分を含んでいる旨主張している。
しかし、申立理由3-1については、上記1(3)のとおり理由がない。
(イ)異議申立人は、申立理由3-2に関して、実施例のアルコール濃度は4.8(v/v)%であるが、甲7の2(【0018】)、甲9の1(第7行~第11行)、及び甲9の2(「INTRODUCTION」)に記載されるように、アルコールの含有量は、発酵ビールテイスト飲料の飲みやすさや飲んだ後の余韻の心地よさに影響するから、4.8(v/v)%未満のアルコール濃度においても、リナロールの含有量が本件特許明細書の実施例と同様に影響を及ぼし、「飲みやすさを保持しつつ、飲んだあとの余韻の心地よさを向上させることができる」という効果を得られることを本件特許明細書に基づいて到底理解できないし、上限に関しても、アルコール濃度が6.5(v/v)%以下のものしか提示されていないから、6.5(v/v)%超過のアルコール濃度(例えば50(v/v)%のアルコール濃度)においても、「飲みやすさを保持しつつ、飲んだあとの余韻の心地よさを向上させることができる」という効果を得られることを本件特許明細書に基づいて到底理解できないから、本件発明は、アルコール濃度に関して、発明の課題を解決できると認識できる範囲を超える部分を含んだ権利範囲となっている旨主張している。
異議申立人の主張について検討する。本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「ビール」とは、具体的には平成30年4月1日が施行日の酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達で定義されたものを意味することが記載されており(【0017】)、酒税法第3条十二には、「ビール 次に掲げる酒類でアルコール分が二十度未満のものをいう。」と記載されているから、本件特許発明1~7の「ビールである、発酵ビールテイスト飲料」はアルコール度数が20(v/v)%未満のものをいうと認められる。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、アルコール度数は、爽快な刺激を感じることができる飲料とする観点から、好ましくは4.5(v/v)%以上であり、飲みやすい発酵ビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは20.0(v/v)%以下であることが記載されており(【0016】)、実施例1~7には、アルコール度数が4.8(v/v)、5.9(v/v)、6.5(v/v)であるビールのリナロール含有量を調整することにより、飲みやすさと飲んだ後の余韻の心地よさのバランスが良好になることが示されている。
そして、実施例1~7から、4.8(v/v)から6.5(v/v)の範囲でアルコール度数を変化させても、リナロール含有量を調整することにより、飲みやすさと飲んだあとの余韻のバランスを良好に保つことができると理解されるから、一般的なビールのアルコール度数である20.0(v/v)%未満の範囲においても、当業者であれば飲みやすさと飲んだあとの余韻のバランスを一定程度良好に保つことができると認識できるといえる。
したがって、異議申立人の主張は、採用することができない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1~7について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
よって、本件特許発明1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。
申立理由4-1及び4-2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断手法
方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件特許発明1~7の実施可能要件
ア 検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料は、麦芽比率を下げて、麦芽由来の糖質を少なくして糖質濃度を下げているため、麦芽由来の味わいが感じにくく、ビールらしさが損なわれ、飲みにくい飲料となり易いこと、低糖質のビールテイスト飲料において、麦芽比率を上げると、飲みやすい飲料とはなり得るが、飲んだ後の余韻の心地よさの低下が新たな問題として生じること、本発明の発酵ビールテイスト飲料は、糖質濃度が0.5g/100mL以下と低糖質でありつつも、麦芽比率を50%以上100質量%以下とし、さらにリナロールの含有量を0.1~200質量ppbの範囲となるように調製することで、飲みやすさ及び飲んだ後の余韻の心地よさのバランスを向上させ得る飲料とすること(【0009】)、「発酵ビールテイスト飲料」とは、酵母を用いた発酵工程を経て得られた、ビール様の風味をもつアルコール含有又はノンアルコールの炭酸飲料をいうこと(【0008】)、「ビール」とは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいい、具体的には平成30年4月1日が施工日(当審注:「施行日」の誤記と認められる)の酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達で定義されたものを意味すること(【0017】)、本発明の発酵ビールテイスト飲料の麦芽比率は、50質量%以上100質量%以下であること(【0010】)、糖質濃度は、0.5g/100mL以下であること(【0011】)、リナロールの含有量は、0.1~200質量ppbであること、リナロールの含有量が0.1質量ppb以上であれば、飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができること、特に、麦芽比率が50%以上であって糖質濃度が0.5g/100mL以下と高麦芽比率及び低糖質の発酵ビールテイスト飲料において、リナロールの含有量を調製することによる飲んだ後の余韻の心地よさの向上効果は大きいこと、リナロールの含有量が200質量ppb以下であれば、風味を良好に保ち、飲みやすさと飲んだ後の余韻の心地よさとのバランスを良好に保持することができること(【0012】)、原麦汁エキス(O-Ex)濃度は、飲料に軽快な飲み口を付与し、飲みやすさをより良好とする観点から、好ましくは6.0~20.0質量%であること(【0015】)、アルコール度数としては、爽快な刺激を感じることができる飲料とする観点から、好ましくは4.5(v/v)%以上であり、飲みやすい発酵ビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは20.0(v/v)%以下であること(【0016】)、総ポリフェノールの含有量は、良質な味わいを有し、よりビールらしい発酵ビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは60ppm以上であること(【0018】)、発酵ビールテイスト飲料の製造方法は、工程(1):水及び麦芽を含む混合物を糖化処理して発酵原料液を調製する工程、及び工程(2):前記発酵原料液に酵母を添加して、アルコール発酵を行う工程を含み、リナロールの含有量を調整する操作を含む方法であること(【0038】)、良質な味わいを有し、ビールらしい飲料を製造する観点から、穀物に由来するスピリッツを添加する工程を有しないことが好ましく(【0039】)、アルコール度数は酵母を用いた発酵工程により調整すること(【0017】)、リナロールの含有量を調整する方法としては、所望の含有量になるようにリナロールを添加して調整する方法、リナロールを多く含む原材料(例えばホップ等)の品種や使用量、添加のタイミングを適宜設定する方法があること(【0040】)、糖質濃度、アルコール度数、リナロールの含有量を調整した、ビールである試験用飲料を調製したこと、実施例1~7の試験用飲料のビールは、飲みやすさと飲んだ後の余韻の心地よさのバランスが良好であったが、リナロール含有量が0.0質量%の比較例1の試験用飲料は、飲んだ後の余韻の心地よさが、実施例の飲料に比べて劣る結果となったこと(【0050】~【0054】)が記載されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1~7の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があるから、本件特許発明1~7を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
イ 異議申立人の主張について
(ア)異議申立人は、申立理由4-1に関して、本件特許明細書の開示に基づいて、本件特許発明1で規定されている要件さえ満たせば、「一般に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して「飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができる」という効果が得られるビールを生成できるとは認識できず、特に下限値に着目すると、0.1質量ppbという極めてわずかなリナロールを含有させることで、本件特許権者が述べているような「一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して優れた効果を得ることができるかは甚だ疑わしいから、本件特許明細書の記載は、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1の要件を満たすだけで、「一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して優れた効果を有するビールを提供できる記載とはなっていない旨主張している。
異議申立人の主張について検討する。上記(1)のとおり、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができ、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
上記アのとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、リナロールの含有量を0.1~200質量ppbに調整することにより、本件特許発明1~7を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
そして、「一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して優れた効果を有するビールを提供できる記載となっていなければ、実施可能要件を満たさないとする異議申立人の主張は、根拠を欠くものであり採用できない。
(イ)異議申立人は、申立理由4-2に関して、本件特許明細書には、4.8(v/v)%以上、6.5(v/v)%以下のアルコール濃度からなる飲料の結果しか提示されていないから、アルコール濃度が低い飲料(例えば0.1(v/v)%の飲料)や、アルコール濃度が高い飲料(例えば50(v/v)%の飲料)において、本件発明1で規定された要件さえ満たせば、「飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができる」という効果を得られることを認識することはできず、本件特許明細書の開示に基づいて、本件発明1で規定されている要件さえ満たせば、あらゆるアルコール濃度において「一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して「飲みやすさを保持しつつ、飲んだ後の余韻の心地よさを向上させることができる」という効果を得られるビールを生成できるとは認識できない旨主張している。
異議申立人の主張について検討する。上記申立理由3-2(2)ウ(イ)のとおり、本件特許発明1~7の「ビールである、発酵ビールテイスト飲料」はアルコール度数が20(v/v)%未満のものをいうと認められ、上記アのとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、アルコール度数は酵母を用いた発酵工程により調整することが記載されているから(【0017】)、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、アルコール度数が4.5(v/v)%以上であり、20.0(v/v)%未満である本件特許発明1~7を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
そして、上記(ア)と同様に、「一般的に流通している低糖質のビールテイスト飲料」と比較して優れた効果を有するビールを提供できる記載となっていなければ、実施可能要件を満たさないとする異議申立人の主張は、根拠を欠くものであり採用できない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1~7について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
よって、本件特許発明1~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。
第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700803