特許異議申立
2021-700743
超低収縮コンクリート
- 審判番号
- 2021-700743
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-084532
- 登録番号
- 6827439
- 請求日
- 2021年07月28日
- 審決日
- 2022年04月20日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】清水建設株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】川渕 健一
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【異議申立人】岡林 茂
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 審判官 関根 崇
- 分類
- P1651.536-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6827439号発明「超低収縮コンクリート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6827439号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6827439号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、平成25年9月6日(優先権主張 平成24年9月7日)を出願日とする特願2013-185548号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成30年4月25日に特願2018-84532号として新たな特許出願としたものであって、令和3年1月21日にその特許権の設定登録がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年7月28日に、特許異議申立人 岡林 茂(以下、「申立人」という。)により甲第1号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年10月26日付けで当審より取消理由が通知され、同年12月27日に特許権者より乙第1号証~乙第2号証を添付して意見書が提出され、令和4年2月1日付けで当審より申立人に対して審尋がされ、同年2月21日に申立人より甲第2号証~甲第4号証を添付して回答書(以下、「回答書」という。)が提出されたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明2」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
セメントと粗骨材と細骨材と水を主材として調製され、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10-4以下となる超低収縮コンクリートであって、
前記粗骨材および前記細骨材の原料としていずれも石灰岩を用いるとともに、混和材料を配合して、コンクリート塑性粘度を10~200Pa・sとし、結合材水比を1.54~3.33とし、
前記混和材料として収縮低減剤を用いて、前記収縮低減剤の単位量を固形分で10~30kg/m3とすることを特徴とする超低収縮コンクリート。
【請求項2】
前記混和材料として収縮低減剤に加えて増粘剤を用いることを特徴とする請求項1に記載の超低収縮コンクリート。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
コンクリートの塑性粘度は、鋼球引上げ粘度計、二重円筒型回転粘度計、平行板プラストメータ-、回転翼型粘度計、せん断ボックス試験機など種々ある試験装置から一つを選定しかつ試験条件を決定することによって試験方法が確定されて初めて特定が可能になる、試験方法に依存的な物性値であるのに、本件特許明細書にはコンクリートの塑性粘度の試験方法について記載がないから、当業者は、本件発明におけるコンクリートの塑性粘度を特定できないので、本件発明は明確でない。
2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)「混和材料を配合して、コンクリート塑性粘度を10~200Pa・sとし、結合材水比を1.54~3.33とし」について
本件特許明細書の【0035】には、「結合材水比」1.54~3.33(水結合材比65~30%)の範囲において、フレッシュコンクリートの「塑性粘度」が「10~200(Pa・S)」となることが確認されたことが記載されているが、【図7】及び【図8】における例は、「結合材水比1.74~2.86(水結合材比57.5~35%)」の範囲内にあり、前記【0035】の記載は、【図7】及び【図8】における「結合材水比1.74~2.86(水結合材比57.5~35%)」を「1.54~3.33(水結合材比65~30%)」に拡張している。
しかし、「水結合材比30~65%」はコンクリートの一般的な調合であり、前記の拡張はあらゆるコンクリートを包含することを企図したものであって、【図7】及び【図8】に示された実験結果とは関連のないものである。
また、【図7】において、横軸1.54を起点にして上向し左向して縦軸10の位置に達する矢印及び横軸3.33を起点にして上向し左向して縦軸200の位置に達する矢印が、なぜこれらの位置で左向させたのかが不明であり、このような根拠のない操作によって、【図7】より、「結合材水比1.54~3.33(水結合材比65~30%)」の範囲において、フレッシュコンクリートの「塑性粘度」が「10~200(Pa・S)」となることが確認されたことをいうのは非論理的であるから、【図7】及び【図8】に基づいて、「【0035】・・・これにより、第2実施形態においても、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10-4以下の超低収縮コンクリートを実現するという所期の目的を十分に達成し得ることが確認できた。」と結論づけることは全く非合理であるので、コンクリートの「塑性粘度」を「10~200(Pa・S)」とし、「結合材水比」を「1.54~3.33」とする数値範囲には裏付けがない。
(2)「前記粗骨材および前記細骨材の原料としていずれも石灰岩を用いるとともに」について
本件発明は、粗骨材及び細骨材の原料を石灰岩のみに限定するものではなく、粗骨材及び細骨材の原料全体に占める石灰岩の割合を特定するものでもないので、石灰岩由来でない骨材を石灰岩由来の骨材よりも多量に用いるコンクリートを含む。
ところが、本件特許明細書には、骨材として石灰岩の記載しかなく、また、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」であることが確認できたとされるコンクリートの全てが、粗骨材及び細骨材の原料として石灰岩のみを用いたコンクリートであり、石灰岩由来の骨材とともに石灰岩由来でない骨材を用いるコンクリートについて、従来を超える超低収縮を実現できることの裏付けがないから、本件発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。
3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、石灰岩由来の骨材とともに石灰岩由来でない骨材を用いるコンクリートについて、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」であるコンクリートが実験的に示されていないし、石灰岩由来の骨材とともに石灰岩由来でない骨材を用いるコンクリートであって、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」であるコンクリートを実現する理論的な裏付けがないから、発明の詳細な記載の説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
4 証拠方法
(1)申立人が提出した甲各号証
甲第1号証:社団法人 セメント協会,「流動性研究委員会報告書」,2003年9月30日,社団法人セメント協会研究所,序,流動性研究員会員構成,WG委員構成,目次,p.28-109
甲第2号証:谷川 恭雄監修,「フレッシュコンクリートの流動特性とその予測」,初版,2004年9月17日,株式会社セメントジャーナル社,p.3,5-6,17-21,31-33
甲第3号証:李 柱国ら,「論文 フレッシュコンクリートの応力制御型レオロジー試験法の開発」,コンクリート工学年次論文集,2011年,Vol.33 No.1,p.1211-1216
甲第4号証:特開2005-163478号公報
(2)特許権者が提出した乙各号証
乙第1号証:河井 徹,「高流動コンクリートの配合設計方法に関する実験的研究」,東京工業大学博士論文,1996年8月,p.44-49
乙第2号証:河井 徹ら,「高流動コンクリートのレオロジー特性に関する基礎的研究」,コンクリート工学年次論文報告集,1994年,Vol.16 No.1,p.125-130
第4 取消理由の概要
1 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件発明1~2は、「コンクリート塑性粘度を10~200Pa・sと」する、との発明特定事項を有するものである。
一方、甲第1号証の記載(76頁1行~80頁17行、図3.5-1~図3.5-4)によれば、フレッシュコンクリートの「塑性粘度」の測定方法は複数種類あるのであって、求められる「塑性粘度」は、複数種類ある測定方法や各測定方法における測定条件に依存して変化するものと認められるから、「コンクリート塑性粘度」を「10~200Pa・s」と特定する場合には、その前提として、「コンクリート塑性粘度」の測定方法や測定条件を特定しなければならないものである。
ところが、特許請求の範囲及び本件特許明細書には、本件発明1~2における「コンクリート塑性粘度」の測定方法や測定条件が特定されていないから、当業者は、本件発明1~2における「コンクリート塑性粘度」を特定できないので、本件発明1~2は明確でない。
2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び第4項第1号(実施可能要件)について
(1)「結合材水比」について
本件発明1~2は、「結合材水比を1.54~3.33と」する、との発明特定事項を有するものである。
一方、本件特許明細書の【0027】~【0035】、【図6】及び【図8】~【図10】によれば、実施例において「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となることが確認できるのは、「結合材水比」が「1.74~2.86」の範囲に過ぎないし、本件特許明細書に、「結合材水比」が「1.74~2.86」の範囲を超える「1.54~3.33」の範囲で「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となる機序が記載されるものでもない。
また、本件特許明細書の【0035】においては、【図7】より、「結合材水比」が「1.54~3.33」の範囲においてフレッシュコンクリートの「塑性粘度」が「10~200(Pa・s)」となることが確認できたとされているが、このことから直ちに、「結合材水比」が「1.54~3.33」の範囲で「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となるといえるものでもない。
そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「結合材水比」が「1.74~2.86」の範囲を超える「1.54~3.33」の範囲で「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となることを認識できないから、「結合材水比を1.54~3.33と」する、との発明特定事項を有する本件発明1~2により、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」として課題を解決できることを理解できないので、本件発明1~2は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
(2)「粗骨材および細骨材の原料」について
本件発明1~2は、「前記粗骨材および前記細骨材の原料としていずれも石灰岩を用いる」、との発明特定事項を有するものであり、「粗骨材および細骨材の原料」を「石灰岩のみ」に特定するものではないから、「粗骨材及び細骨材の原料」として、石灰岩とともに石灰岩以外のものを用いるものも包含するものである。
一方、本件特許明細書の【0027】~【0035】、【図3】、【図6】及び【図8】~【図10】によれば、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となることが確認できる実施例は、いずれも、「粗骨材および細骨材の原料」として「石灰岩のみ」を用いたものであって、本件特許明細書には、「粗骨材および細骨材の原料」として石灰岩とともに石灰岩以外のものを用いた場合に「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となる実施例も機序も記載されていないから、当業者は、「粗骨材および細骨材の原料」として石灰岩とともに石灰岩以外のものを用いた場合においても、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となることを理解できない。
このため、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩とともに石灰岩以外のものを用いるものも包含する本件発明1~2により、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」として課題を解決できることを認識できないので、本件発明1~2は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
また、当業者は、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩とともに石灰岩以外のものを用いた場合に「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」とできることを理解できないので、発明の詳細な説明の記載は、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩とともに石灰岩以外のものを用いるものも包含する本件発明1~2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
第5 取消理由及び特許異議申立理由についての判断
事案に鑑み、前記第4の1~2の取消理由及び前記第3の1~3の特許異議申立理由についてまとめて検討する。
1 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
(1)「コンクリート塑性粘度」の測定方法及び測定条件に係る技術常識について
ア まず、本件特許出願の原出願の優先日当時の「コンクリート塑性粘度」の測定方法及び測定条件に係る技術常識についてみると、甲第1号証及び甲第2号証には、それぞれ、以下の(1A)~(1B)及び(2A)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1A)「3.5 コンクリート
3.5.1 はじめに
コンクリートの施工において合理化・省力化を図るには、作業性の予測や施工設計の確立が重要である。セメントペーストやモルタルと同様にしてコンクリートのレオロジーを直接測定した試みも知られているが、測定条件によって値が異なり、評価が難しいのが現状である。そこでコンクリートの変形・流動特性を予測する目的で流動解析が多く行われている。・・・塑性粘度、降伏値などのレオロジー定数を用いてコンクリートの流動性を評価でき、これにより作業性を予測することができる。
本節ではまず、3.5.2でコンクリートにおけるレオロジーの測定方法を紹介する。・・・
3.5.2 コンクリートのレオロジー測定方法
現在提案されているフレッシュコンクリートの流動モデルの多くは、コンクリートをビンガムモデルとして単純化したモデルを基本に構成されており、ビンガム定数である塑性粘度および降伏値を直接測定する為の多くの研究がなされてきた。・・・
ビンガムモデルに立脚したこれら2つの定数を求める試験には、鋼球引上げ粘度計、回転粘度計、平行板プラストメータ、管内流動試験などの試験方法が主として利用されてきたが、近年ではせん断ボックス試験を用いた測定方法などが多く研究されている。」(76頁1行~23行)
(1B)「(6)まとめ
以上のように、コンクリートをビンガム体と仮定して行う試験全般にいえることであるが、測定器との界面において層流を仮定しているため、粗骨材の影響やすべりなどは無視できない。また、練混ぜ効果を伴う場合が多いため、チクソトロピー性による変化を避けるために試験ごとに試料を練り返すなど工夫が必要なことが多い。
さらにビンガムモデル自体の適用性にもかかわる問題として、圧力依存性や寸法効果、粗骨材のインターロックなどの影響は未だに充分検討がなされているとはいえず、そもそもチクソトロピーックなりダイラタンティックな挙動を示すフレッシュコンクリートの流動曲線をシンプルなビンガムモデルで表現する場合、近似方法によってはその降伏値・塑性粘度が大きく異なる事が指摘されており、統一的なコンセンサスも得られているとは言いがたい。このことを踏まえると、実用の上では、数値流動解析による試験機の解析技術を向上することで、ビンガム定数の予測手法を確立することは非常に意義深い事であるといえる。」(79頁下から9行~80頁3行)
(2A)「1.3 フレッシュコンクリートのレオロジー試験
フレッシュコンクリートに限らず、レオロジーの分野において、レオロジー性質のモデル化とともに、レオロジー定数の測定方法の選定は非常に重要な問題である。材料の性質が異なれば、適した測定方法も異なる。また、ほとんどすべての試験方法が、何らかの仮定条件を満たすときに限って正確なレオロジー定数を算出できる点に注意が必要である。
・・・
本節では、フレッシュコンクリート、フレッシュモルタルおよびフレッシュセメントペーストに対して用いられている主要なレオロジー試験装置について概説する。
・・・
1.3.1 回転粘度計
フレッシュコンクリートのレオロジー定数の測定に対しては、図-1.3.1に示すような、2重円筒式の回転粘度計が多く用いられている。
・・・
類似の試験方法として、回転翼型粘度計がある。これは、回転粘度計の内円筒を試料撹拌のためのブレードに置き換えたものである。試料を確実に変形させられる点では、相対的な変形抵抗性の比較には有効であると考えられる。ただし、試料の変形状態はさらに複雑となり、また理論的なレオロジー定数の算定式もなく、レオロジー定数を直接測定することはできない。
1.3.2 球引上げ粘度計
図-1.3.2に示すような球引上げ粘度計も、コンクリートの分野で比較的多く用いられている。
・・・
1.3.3 平行板プラストメータ
硬練りのコンクリートに対しては、図-1.3.3に示すような平行板プラストメータなども用いられる。
・・・
1.3.4 1面せん断試験
試料の降伏応力のみを求める場合には、図-1.3.4に示すような1面せん断試験が適用される。
・・・
1.3.5 せん断ボックス試験
せん断ボックス試験の装置を図-1.3.5に示す。余分な仮定条件を含まず、直接せん断応力とせん断ひずみ速度の関係を測定しようとする試験方法であり、試料の硬さなどに影響されない測定が可能となるなどの利点も多い。
・・・
1.3.6 フレッシュコンクリートのレオロジー試験の現状
これまでに紹介したようなレオロジー試験装置を用いて、フレッシュコンクリートのレオロジー定数を定量化しようとする試みは数多く行われてきた。最も多く用いられているのは各種の回転粘度計であり、また、ほとんどの研究において、レオロジーモデルとしてはビンガムモデルが仮定されている。
各種レオロジー試験装置によるフレッシュコンクリートのビンガム定数の実測値を比較した結果によれば、類似のコンクリートでも、実測されるビンガム定数には相当の開きがあり、試験方法や測定者によって測定結果が大きく異なる[1.20]。また、回転粘度計を用いたセメントペーストの測定結果からは、変形速度や変形を与える履歴によっても、コンシステンシー曲線が変化するとする報告もなされており[1.14-1.17]、現段階ではビンガム定数が特定されるには至っていない。」(17頁左欄下から4行~20頁右欄9行)
イ 前記ア(1A)、(1B)によれば、コンクリートの施工において合理化・省力化を図るには、作業性の予測や施工設計の確立が重要であり、セメントペーストやモルタルと同様にしてコンクリートのレオロジーを直接測定した試みも知られているが、測定条件によって値が異なり、評価が難しいのが現状であり、現在提案されているフレッシュコンクリートの流動モデルの多くは、コンクリートをビンガムモデルとして単純化したモデルを基本に構成されており、ビンガムモデルに立脚した塑性粘度及び降伏値を求める試験には、鋼球引上げ粘度計、回転粘度計、平行板プラストメータ、管内流動試験などの試験方法が主として利用されるものであるが、これらの試験は、測定器との界面において層流を仮定しているため、粗骨材の影響や滑りなどは無視できず、また、練混ぜ効果を伴う場合が多いため、チクソトロピー性による変化を避けるために試験ごとに試料を練り返すなど工夫が必要なことが多く、更にビンガムモデル自体の適用性にも関わる問題として、圧力依存性や寸法効果、粗骨材のインターロックなどの影響は未だに充分検討がなされているとはいえないものであり、また、そもそもチクソトロピーックなりダイラタンティックな挙動を示すフレッシュコンクリートの流動曲線をシンプルなビンガムモデルで表現する場合、近似方法によってはその降伏値・塑性粘度が大きく異なることが指摘されており、統一的なコンセンサスも得られているとは言いがたいものである。
また、前記ア(2A)によれば、回転粘度計、球引上げ粘度計のような、従来から使用されるレオロジー試験装置を用いて、フレッシュコンクリートのレオロジー定数を定量化しようとする試みは数多く行われてきたものであり、最も多く用いられているのは各種の回転粘度計であり、また、ほとんどの研究において、レオロジーモデルとしてはビンガムモデルが仮定されているのであるが、各種レオロジー試験装置によるフレッシュコンクリートのビンガム定数の実測値を比較した結果によれば、類似のコンクリートでも、実測されるビンガム定数には相当の開きがあり、試験方法や測定者によって測定結果が大きく異なるものである。
ウ 前記イによれば、本件特許出願の原出願の優先日当時、コンクリートのレオロジー評価には統一的なコンセンサスがなく、従来主として利用されてきた、鋼球引上げ粘度計、回転粘度計、平行板プラストメータ、管内流動試験及びせん断ボックス試験のような測定方法は、レオロジー試験の方法や測定者によって測定結果が大きく異なり、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法ではないことが技術常識であったと認められる。
(2)特許法第36条第6項第2号(明確性)についての当審の判断
ア 特許請求の範囲及び本件特許明細書には、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」の測定方法や測定条件が記載されていないのであるが、仮に、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」が、甲第1号証や甲第2号証に記載された、鋼球引上げ粘度計、回転粘度計、平行板プラストメータ、管内流動試験及びせん断ボックス試験のような従来主として利用されてきた測定方法により特定されるものである場合、前記(1)ウの技術常識に照らせば、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができないことは、当業者にとって明らかである。
すると、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」は、前記鋼球引上げ粘度計、回転粘度計、平行板プラストメータ、管内流動試験及びせん断ボックス試験のような、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができない測定方法により特定されるものではなく、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法により特定されるものと解するのが妥当である。
イ そこで、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法が、本件特許出願の原出願の優先日当時、当業者に知られていたか否かについて検討すると、乙第1号証及び乙第2号証には、それぞれ、以下の(1a)及び(2a)~(2c)の記載がある。
(1a)『3.3 コンクリートのレオロジー特性
3.3.1 回転翼型粘度計(Two-Point試験)によるコンクリートのレオロジー定数の測定
(1)測定方法(Calibration)
前節において、高流動コンクリートのモルタルのレオロジー定数は所要の仕様を有する二重円筒型回転粘度計で測定可能であることが判明した。本節では、高流動コンクリートのレオロジー定数の測定方法について記述する。
二重円筒型回転粘度計を用いて高流動コンクリートのレオロジー定数を測定した場合は3.2.1で考察したように、粗骨材の存在が層流分布を乱したり、試験装置の寸法等さまざまな問題点が生じると考えられる。・・・そのため、二重円筒型回転粘度計で高流動コンクリートのレオロジー定数を測定した場合に得られた値の信頼度は低いと判断された。
そこで、図-3.16および写真-3.4に示すような回転翼型粘度計を用いて高流動コンクリートのレオロジー定数を測定する(以下、「Two-Point試験方法」と称する。)こととした。
Two-Point試験装置は、G.H.Tattersallによって考案されたものであり、一種のミキサタイプのレオメータである3.18),3.19)。この装置を用いると、回転翼の形状が適正であれば、試料がビンガム体で表現できるフレッシュコンクリートの場合は、式(3.30)に示すように回転翼の回転数と回転翼に作用するトルクとが直線関係を示すという特徴がある3.20)。
T=g+Nh-------(3.30)
ここで、T:トルク g:見掛けの降伏値
N:回転数 h:見掛けの塑性粘度
この場合、異なる2点の回転数とトルク(応力とひずみ速度)の組み合わせを測定すれば式(3.30)に示す直線が定まることから、この試験方法はTwo-Point試験と称されている理由である。しかし、この回転数とトルクとの関係については、理論的あるいは定量的な算出根拠がないために、Two-Point試験において真のレオロジー定数を算出することは不可能である。すなわち、Two-Point試験で求められるレオロジー定数は「見掛けのレオロジー定数」を求めているのである。そのため、見掛けの塑性粘度と見掛けの降伏値のディメンションは一般の塑性粘度や降伏値と相違している。言い換えれば、その「見掛けのレオロジー定数」に所定の一定の定数を乗じれば真のレオロジー定数が求まることになる。その一定の定数はTwo-Point試験装置の特有の定数であるため、「装置定数」と呼ぶことにする。
以上のことを考慮して、高流動コンクリートの真のレオロジー定数を測定することを目的として、Two-Point試験の装置定数を定めることによりコンクリートの真のレオロジー定数を測定する方法(キャリブレーション法)を考案した。本節では、この方法にて求めたコンクリートのレオロジー定数について記述する。
・・・
以上のキャリブレーションにより、Two-Point試験でコンクリートの真のレオロジー定数を定めることが可能になったのである。』(44頁1行~45頁下から4行)
(2a)「1.はじめに
高流動コンクリートのフレッシュコンクリートの諸性状をレオロジーの面から解析する研究が進められており、数多くの成果が出されているたとえば[1]。しかし、高流動コンクリートのモルタルのレオロジー定数を実測した報告はあるものの[2][3][4]、高流動コンクリートそのもののレオロジー定数を実測し検討を行った研究成果は、ほとんど報告されていない。
そこで、筆者らは、各種の高流動コンクリートのレオロジー定数の測定を行い、レオロジー定数と試験方法、鉄筋間通過性能および材料分離との関係等に関して種々の実験的な検討を行った。本論文は、それらの実験概要と得られた成果に関して記述するものである。」(125頁4行~11行)
(2b)「2.3 試験項目と試験方法
コンクリートの試験項目は、スランプフロー試験、Vロート流下試験[6]、レオロジー定数を求めるTwo-Point試験、鉄筋間通過試験および粗骨材の移動に起因する材料分離の試験[5][7]とした。・・・
スランプフローの測定は土木学会規準に準じた。・・・Two-Point試験方法の概略を図-2に示す。Two-Point試験では、回転数の上昇・下降時のトルクを測定し、両者がほぼ直線関係を示す下降時(50~10rpm)の値を式(1)により回帰し、見掛けのレオロジー定数であるgとhを求めた。
T=g+hN-------(1)
ここで、T:トルク、N:回転数
実際の降伏値τfと塑性粘度ηplは、それらに装置定数K/Gと1/Gをそれぞれ乗じて求めた。Two-Point試験の装置定数であるK/Gと1/Gは、レオロジー定数の異なる6配合のモルタルを用いて、二重円筒式回転粘度計(外筒径390mm、内筒径260mm)により求めたレオロジー定数とTwo-Point試験により求めた見掛けのレオロジー定数の両者の直線関係を確認したうえでその勾配から求めた(図-3)。このようにした理由は、レオロジー定数の測定においては、粘着力が大きい軟練りモルタルには回転粘度計が、コンクリートにはTwo-Point試験が適していることからである[8]。」(126頁1行~下から6行)
(2c)「
[図:0001384156000001.jpg]
」(126頁)
ウ 前記イ(1a)によれば、乙第1号証には、二重円筒型回転粘度計で高流動コンクリートのレオロジー定数を測定した場合に得られた値の信頼度は低いと判断されるが、従来から知られているTwo-Point試験装置により「見掛けのレオロジー定数」を求め、その後、「見掛けのレオロジー定数」に、Two-Point試験装置の特有の定数である「装置定数」を乗じれば、「真のレオロジー定数」が求まることとなり、このようなキャリブレーションにより、Two-Point試験でコンクリートの「真のレオロジー定数」を定めることが可能になったことが記載されており、前記イ(2a)~(2c)によれば、乙第2号証には、高流動コンクリートの「見掛けのレオロジー定数」はTwo-Point試験により求められるものであり、「実際の降伏値τfと塑性粘度ηpl」は、それらに装置定数K/Gと1/Gをそれぞれ乗じて求められるものであり、装置定数K/Gと1/Gは、レオロジー定数の異なる6配合のモルタルを用いて、二重円筒式回転粘度計(外筒径390mm、内筒径260mm)により求めたレオロジー定数とTwo-Point試験により求めた「見掛けのレオロジー定数」の両者の直線関係を確認したうえでその勾配から定められることが記載されている。
エ 前記ウによれば、本件特許出願の原出願の優先日当時、高流動コンクリートの「降伏値τf」、「塑性粘度ηpl」といったレオロジー定数について、Two-Point試験装置により「見掛けのレオロジー定数」を求め、その後、前記「見掛けのレオロジー定数」に、Two-Point試験装置の特有の定数である「装置定数」を乗じる方法(以下、「Two-Point試験方法」という。)により、「真のレオロジー定数」、すなわち「実際の降伏値τfと塑性粘度ηpl」が求められることが知られていたのであり、そのようにして求められた「実際の」「塑性粘度ηpl」は、一義的な測定値として特定された「コンクリート塑性粘度」にほかならない。
すると、本件特許出願の原出願の優先日当時、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法として、前記「Two-Point試験方法」が当業者に知られていたのであり、このことを前記アに照らせば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」は、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる前記「Two-Point試験方法」により特定されるものと理解する。
オ 前記エによれば、仮に、特許請求の範囲及び本件特許明細書に、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」の測定方法や測定条件が記載されていないとしても、当業者は、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」は前記「Two-Point試験方法」により特定されるものと理解するから、本件発明1は明確であるというべきであり、更に、本件発明1を引用する本件発明2について検討しても事情は同じであるので、本件発明1~2は明確であるというべきである。
(3)回答書における申立人の主張について
ア 回答書における申立人の主張の概要
(ア)乙第1号証、乙第2号証は、いずれも筆頭著者が「河井 徹」氏であり、これらは同一人物による2論文と認められ、当該2論文のみをもってある技術が「当業者においてよく知られている技術事項である」といえるものではないから、「当業者においてよく知られている技術事項である」ことを証明するほかの資料等が必要である。
また、乙第2号証が特許権者の技術研究所によって発表された事実と、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」の数値が乙第2号証に記載された方法で定まる値であるか否かに結びつきはないし、これらの関連を当業者は知る由もない。
(イ)乙第1号証、乙第2号証より後に発行された甲第1号証、甲第2号証による技術常識からみれば、多種類の試験装置ないし試験方法の中から回転翼型粘度計を優先して選ぶ理由はないから、特許権者による『本件発明1の「コンクリート塑性粘度」の数値は、乙第2号証に記載された方法で定まる値であることは、当業者において明らかである。』との主張は理由がなく失当である。
(ウ)甲第3号証には、二重円筒型回転粘度計及び回転翼型粘度計の問題点が指摘されており、本件特許出願の原出願の優先日当時の技術常識では、コンクリートのレオロジー試験の試験装置として、二重円筒型回転粘度計及び回転翼型粘度計をほかの試験装置に優先して選択する理由はないので、特許権者による『本件発明1の「コンクリート塑性粘度」の数値は、乙第2号証に記載された方法で定まる値であることは、当業者において明らかである。』との主張は理由がなく失当である。
(エ)本件特許出願の原出願の優先日当時、コンクリートのレオロジー試験に使用していた試験装置ないし試験方法の具体例を示す文献として、特許情報プラットフォームによる検索により発見された甲第4号証は、コンクリートのレオロジー試験に「回転翼型(Two-Point装置)」を使用しておらず、検索によって発見されたそのほかの特許文献の中にも「回転翼型装置」又は類する用語の記載はないから、本件特許出願の原出願の優先日当時、「回転翼型(Two-Point装置)」はコンクリートのレオロジー試験の試験装置ないし試験方法として選択肢の上位にあったとは認められないので、特許権者による『本件発明1の「コンクリート塑性粘度」の数値は、乙第2号証に記載された方法で定まる値であることは、当業者において明らかである。』との主張は理由がなく失当である。
また、前記検索において、コンクリートの塑性粘度の測定例を記載した公開特許公報が1件しか見つからなかったのは、コンクリートのレオロジー評価に統一的なコンセンサスがない、レオロジー試験の方法や測定者によって測定結果が大きく異なる、方法の異なる試験の結果を比較できない等の問題がある故、コンクリートのレオロジー試験を実業に展開することが難しく、そして、実業に展開することが難しい特性によって発明を特定することも評価することも実効性に乏しいからだと思われ、この事情に鑑みても、特許権者による『本件発明1の「コンクリート塑性粘度」の数値は、乙第2号証に記載された方法で定まる値であることは、当業者において明らかである。』との主張は理由がなく失当である。
イ 当審の判断
(ア)始めに、前記ア(ア)の主張について検討すると、乙第1号証は、1996年8月に、乙第2号証は、1994年に、それぞれ発表された論文と認められ、これは、本件特許出願の原出願の優先日である平成24年(2012年)9月7日の概略16年~18年前に当たるから、乙第1号証、乙第2号証に記載された「Two-Point試験方法」は、本件特許出願の原出願の優先日当時、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法として当業者に知られていた技術といえ、仮に、乙第1号証、乙第2号証がいずれも同一人物による2論文であるとしても、前記「Two-Point試験方法」が本件特許出願の原出願の優先日当時、当業者に知られていた技術といえることに変わりはないので、このことを証明するほかの資料等が必要であるとは認められない。
更に、仮に、乙第2号証が特許権者の技術研究所によって発表された事実と、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」の数値が乙第2号証に記載された方法で定まる値であるか否かに結びつきはなく、これらの関連を当業者は知る由もないとしても、前記「Two-Point試験方法」が、本件特許出願の原出願の優先日当時、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法として当業者に知られていた技術といえ、当業者は、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」は前記「Two-Point試験方法」により特定されるものと理解することに変わりはないので、申立人の前記ア(ア)の主張はいずれも採用できない。
(イ)次に、前記ア(イ)、(ウ)の主張について検討すると、前記(2)ウによれば、前記「Two-Point試験方法」は、二重円筒型回転粘度計で高流動コンクリートのレオロジー定数を測定した場合に得られた値の信頼度は低いと判断されることを踏まえた上で、「真のレオロジー定数」、すなわち「実際の降伏値τfと塑性粘度ηpl」を求めることで、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定できるものである。
すると、仮に、甲第1号証~甲第3号証による技術常識からみて、本件発明において、多種類の試験装置ないし試験方法の中から回転翼型粘度計を優先して選ぶ理由はなく、また、二重円筒型回転粘度計及び回転翼型粘度計は問題点を有しており、本件特許出願の原出願の優先日当時の技術常識では、コンクリートのレオロジー試験の試験装置として、二重円筒型回転粘度計及び回転翼型粘度計をほかの試験装置に優先して選択する理由はないとしても、本件特許出願の原出願の優先日当時、甲第1号証~甲第3号証に記載されたような二重円筒型回転粘度計の信頼度が低い、という問題点を踏まえた上で、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法として、前記「Two-Point試験方法」が当業者に知られていたのであるから、当業者は、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」は前記「Two-Point試験方法」により特定されるものと理解することに変わりはない。
してみれば、『本件発明1の「コンクリート塑性粘度」の数値は、乙第2号証に記載された方法で定まる値であることは、当業者において明らかである。』といえるので、申立人の前記ア(イ)、(ウ)の主張も採用できない。
(ウ)最後に、前記ア(エ)の主張について検討すると、仮に、甲第4号証が、コンクリートのレオロジー試験に「回転翼型(Two-Point装置)」を使用しておらず、特許情報プラットフォームによる検索によって発見されたそのほかの特許文献の中にも「回転翼型装置」又は類する用語の記載はなく、本件特許出願の原出願の優先日当時、「回転翼型(Two-Point装置)」はコンクリートのレオロジー試験の試験装置ないし試験方法として選択肢の上位にあったとは認められないとしても、これらは、申立人による特定の検索条件に基づく結果に過ぎず、本件特許出願の原出願の優先日当時、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法として、前記「Two-Point試験方法」が当業者に知られており、当業者は、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」は前記「Two-Point試験方法」により特定されるものと理解することに変わりはない。
また、前記(1)ウの技術常識によれば、本件特許出願の原出願の優先日当時、コンクリートのレオロジー評価に統一的なコンセンサスがない、レオロジー試験の方法や測定者によって測定結果が大きく異なる、方法の異なる試験の結果を比較できない等の問題がある故、コンクリートのレオロジー試験を実業に展開することが難しく、実業に展開することが難しい特性によって発明を特定することも評価することも実効性に乏しいことがうかがえるのであるが、そうであれば、なおさら、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」は、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法により特定されるものと解するのが妥当である。
そして、本件特許出願の原出願の優先日当時、「コンクリート塑性粘度」を一義的な測定値として特定することができる測定方法として、前記「Two-Point試験方法」が当業者に知られていたのであるから、当業者は、本件発明1における「コンクリート塑性粘度」は、前記「Two-Point試験方法」により特定されるものと理解するのであり、『本件発明1の「コンクリート塑性粘度」の数値は、乙第2号証に記載された方法で定まる値であることは、当業者において明らかである。』といえるから、申立人の前記ア(エ)の主張も採用できない。
(4)小括
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するので、第4の1の取消理由及び前記第3の1の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるので、以下、この観点に基づいて検討する。
(2)本件発明の課題
ア 前記(1)より、本件発明の課題についてみると、本件特許明細書には、以下(A)の記載がある。
(A)「【0002】
周知のようにコンクリートは硬化後に徐々に乾燥していく過程で乾燥収縮が生じることが不可避であり、その乾燥収縮率は一般的なコンクリートでは材齢6ヶ月において6×10-4~10×10-4(旧来の乾燥収縮ひずみとしての表記では600×10-6~1000×10-6、あるいは600μ~1000μ)程度である。
【0003】
そのような乾燥収縮が生じる結果として硬化後のコンクリートにはひび割れが生じることがあるが、近年においてはコンクリート構造物に対して高度の耐久性やさらなる品質向上が厳しく要求されていることから、従前に比べて微細なひび割れについてもその発生を可及的に防止する必要があるとされ、そのためには乾燥収縮に起因するひび割れの発生を十分に抑制することが必要不可欠である。
【0004】
そのため、たとえば非特許文献1に示されるように乾燥収縮を十分に低減させ得る超低収縮コンクリートの開発も進められている。
図2は非特許文献1に示される超低収縮コンクリートの概要を示すもので、(a)に示す材料を(b)に示すような配合で混練することにより、(c)に示すように材齢6ヶ月における乾燥収縮ひずみを200×10-6~500×10-6程度とできることが開示されている。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の非特許文献1に示される超低収縮コンクリートは、石灰岩を粗骨材として用いるとともに、混和材料として収縮低減剤と高性能AE減水剤および二水石膏を用いることが特徴的であり、一般的なコンクリートに比べて乾燥収縮性能に優れるものではあるが、いずれにしても乾燥収縮ひずみは200μクラス(200×10-6程度。現在の乾燥収縮率としての表記では2×10-4程度)が限界であるのでひび割れ抑制効果にも自ずと限界がある。
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は非特許文献1に示される超低収縮コンクリートに比べてさらに優れた乾燥収縮性能を有して、ひび割れ抑制効果をさらに向上させ得る有効適切な超低収縮コンクリートを提供することを目的とする。
・・・
【0015】
本発明によれば、乾燥収縮率が1.5×10-4以下という従来にない優れた乾燥収縮性能を有する超低収縮コンクリートを実現することができる。」
イ 前記ア(A)の本件特許明細書の記載によれば、本件発明は、従来の「超低収縮コンクリート」は、石灰岩を粗骨材として用いるとともに、混和材料として収縮低減剤と高性能AE減水剤および二水石膏を用いることが特徴的であり、一般的なコンクリートに比べて乾燥収縮性能に優れるものではあるが、いずれにしても乾燥収縮ひずみは200μクラス(200×10-6程度。現在の乾燥収縮率としての表記では2×10-4程度)が限界であるのでひび割れ抑制効果にも自ずと限界がある、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであって、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」という従来にない優れた乾燥収縮性能を有する「超低収縮コンクリート」とすることで、本件課題を解決するものである。
(3)「結合材水比」について
ア 本件特許明細書には、更に以下(B)~(I)の記載がある。
(B)「【0018】
粗骨材としての石灰岩はそれ自体が収縮し難い原料であることから、非特許文献1にも示されているように粗骨材として石灰岩を用いること自体は周知である。
また、石灰岩を粗骨材のみならず細骨材として用いることも従来より検討されていたのであるが、細骨材として単に石灰岩を用いることではフレッシュコンクリートとしての分離性が著しく低下してコンクリート本来の特性が損なわれてしまうことから現実的ではなく、そのため非特許文献1に示されているように粗骨材として石灰岩を使用する場合においても細骨材としては通常の山砂を用いることが従来一般的であった。
【0019】
第1実施形態においては、非特許文献1に示される超低収縮コンクリートよりもさらに乾燥収縮率を低減させるために粗骨材のみならず細骨材としても石灰岩を用いることとし、かつその場合における分離性の低下を防止するべく上記のような特殊な混和材料を配合したものである。
すなわち第1実施形態による超低収縮コンクリートは、細骨材として石灰岩を用いることで乾燥収縮率を向上させる場合における分離性の低下を回避するべく、その細骨材としての石灰岩と、粘度10~200mPa・s(20℃)の混和材料とを有機的に組み合わせて用いたものであり、それによりフレッシュコンクリートの粘性を適度に向上させて分離性を維持するようにしたものである。
・・・
【0027】
次に、図3乃至図10に本発明の第2実施形態である超低収縮コンクリートの使用材料と調合およびその乾燥収縮特性を示す。
第2実施形態による超低収縮コンクリートは、第1実施形態の超低収縮コンクリートと同様に、セメントと粗骨材と細骨材と水を主材として調製され、乾燥収縮率を1.5×10-4以下とするべく、粗骨材および細骨材の原料としていずれも石灰岩を用いている。
そして、第1実施形態では、20℃における粘度が10~200mPa・sである混和材料を配合しているが、第2実施形態では、フレッシュコンクリートの塑性粘度が10~200Pa・sとなるように混和材料を配合している。
なお、第2実施形態では、混和材料以外の材料については第1実施形態と同様のものとし、混和材料以外の材料についての説明は省略する。 ・・・
【0034】
図5および図6は、第2実施形態による超低収縮コンクリートに対する乾燥収縮試験の試験水準を示すものである。図5には、水準Aとしてフレッシュコンクリートの塑性粘度を試験するための収縮低減剤の種類、水結合材比、および各種材料の単位量を示している。図6(a)には、水準Bとして乾燥収縮率(水結合材比および単位水量)、図6(b)には、水準Cとして乾燥収縮率(膨張材種類および量)、図6(c)には、水準Dとして乾燥収縮率(収縮低減剤種類および量)を試験するための水結合材比、および各種材料の単位量を示している。
・・・
【0035】
図7より、結合材水比1.54~3.33(水結合材比65~30%)の範囲において、フレッシュコンクリートの塑性粘度が10~200(Pa・s)となることが確認できた。特に、結合材水比1.54~2.86(水結合材比65~35%)の範囲において、フレッシュコンクリートの塑性粘度が10~200(Pa・s)となることが確認できた。
そして、図8乃至10より、水結合材比が65~30%の試験体は、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が、1.5×10-4以下となることが確認できた。特に、水結合材比が65~35%(結合材水比1.54~2.86)の試験体は、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が、1.5×10-4以下となることが確認できた。
これにより、第2実施形態においても、材齢6ヶ月における乾燥収縮率が、1.5×10-4以下の超低収縮コンクリートを実現するという所期の目的を十分に達成し得ることが確認できた。 」
(C)「【図3】
[図:0001384156000002.jpg]
」
(D)「【図5】
[図:0001384156000003.jpg]
」
(E)「【図6】
[図:0001384156000004.jpg]
」
(F)「【図7】
[図:0001384156000005.jpg]
」
(G)「【図8】
[図:0001384156000006.jpg]
」
(H)「【図9】
[図:0001384156000007.jpg]
」
(I)「【図10】
[図:0001384156000008.jpg]
」
イ 前記ア(B)(【0018】、【0019】、【0027】)によれば、本件発明1に係る「超低収縮コンクリート」は、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」とするべく、粗骨材および細骨材の原料としていずれも石灰岩を用いるとともに、かつその場合における分離性の低下を防止するべく、フレッシュコンクリートの「塑性粘度」が「10~200Pa・s」となるように混和材料を配合したものである。
そして、フレッシュコンクリートの「塑性粘度」が「10~200Pa・s」となるように混和材料を配合した点について、前記ア(B)~(D)及び(F)の記載をみると、【図7】は、【図3】の条件で調合され、【図5】に示される試験水準Aの(1)~(3)に挙げられるフレッシュコンクリートの「結合材水比(B/W)」と、各フレッシュコンクリートで測定された「塑性粘度(Pa・s)」の関係をプロットし、更に、前記プロットに基づいた回帰直線を開示したものと認められ、前記回帰直線によれば、「結合材水比(B/W)」が「1.54~3.33」の範囲において、前記フレッシュコンクリートの「塑性粘度(Pa・s)」は、「10~200Pa・s」の範囲内に収まることが看取されるものである。
そして、【図3】の条件で調合されたコンクリートは、粗骨材及び細骨材を石灰岩としたものであるから、本件特許明細書には、粗骨材及び細骨材を石灰岩としたフレッシュコンクリートは、「結合材水比(B/W)」が「1.54~3.33」の範囲において、「塑性粘度(Pa・s)」が「10~200Pa・s」の範囲となって、分離性の低下が防止されることが開示されるものである。
ウ 申立人は、「水結合材比30~65%」はコンクリートの一般的な調合であり、【図7】及び【図8】における「結合材水比1.74~2.86(水結合材比57.5~35%)」を「1.54~3.33(水結合材比65~30%)」に拡張することは、あらゆるコンクリートを包含することを企図したものであって、【図7】及び【図8】に示された実験結果とは関連がない旨、【図7】において、横軸1.54及び3.33を起点にして上向し左向する矢印を描くのは根拠のない操作であり、このような根拠のない操作によって「図7より、結合材水比1.54~3.33(水結合材比65~30%)の範囲において、フレッシュコンクリートの塑性粘度が10~200(Pa・s)となることが確認できた。」というのは非論理的である旨を主張する。
ところが、【図7】は、【図3】の条件で調合され、【図5】に示される試験水準Aの(1)~(3)に挙げられるフレッシュコンクリートの「結合材水比(B/W)」と、各フレッシュコンクリートで測定された「塑性粘度(Pa・s)」の関係をプロットし、更に、前記プロットに基づいた回帰直線を記載したものと認められることは、前記イのとおりであって、当業者は、横軸1.54及び3.33をそれぞれ起点にして上向し左向する矢印により、「結合材水比(B/W)」が「1.54~3.33」の範囲において、前記回帰直線の「塑性粘度(Pa・s)」が「10~200(Pa・s)」の範囲内に含まれること、すなわち、「結合材水比(B/W)」が「1.54~3.33」の範囲において、フレッシュコンクリートの「塑性粘度(Pa・s)」が「10~200Pa・s」の範囲内に収まることを理解できる。
すると、「結合材水比1.74~2.86(水結合材比57.5~35%)」を「1.54~3.33(水結合材比65~30%)」に拡張することは、【図7】の回帰直線に基づいて導出されるものであって、実験結果に基づくものといえ、あらゆるコンクリートを包含することを企図したものとはいえないし、横軸1.54及び3.33をそれぞれ起点にして上向し左向する矢印に基づいて、「結合材水比1.54~3.33(水結合材比65~30%)の範囲において、フレッシュコンクリートの塑性粘度が10~200(Pa・s)となることが確認できた。」とすることが非論理的であるともいえないので、申立人の前記主張はいずれも採用できない。
エ 一方、前記ア(B)、(E)及び(G)~(I)の記載によれば、【図8】~【図10】は、【図3】の条件で調合され、【図6】に示される試験水準B~Dのコンクリートの「乾燥期間(日)」と、各フレッシュコンクリートで測定された「乾燥収縮率(×10-4)」の関係をプロットしたものと認められ、【図8】~【図10】によれば、【図3】の条件で調合され、【図6】に示される試験水準B~Dのコンクリートの材齢6ヶ月における「乾燥収縮率(×10-4)」は、「1.5×10-4以下」であることが看取される。
ここで、試験水準B~Dのコンクリートの「水結合材比」は、57.5%(【図6】(a)のB-57.5-Ex15((1))-Sr15((3)))と35%(【図6】(a)のB-35-Ex15((1))-Sr15((3)))の範囲であるが、前記B-57.5-Ex15((1))-Sr15((3))の「結合材水比(B/W)」は1/0.575=1.74であり、B-35-Ex15((1))-Sr15((3))の「結合材水比(B/W)」は1/0.35=2.86であることから、試験水準B~Dのコンクリートの「結合材水比(B/W)」は1.74~2.86の範囲にとどまるものである。
すると、本件特許明細書の実施例には、粗骨材及び細骨材を石灰岩としたコンクリートは、「結合材水比(B/W)」が1.74~2.86の範囲において、コンクリートの材齢6ヶ月における「乾燥収縮率(×10-4)」が「1.5×10-4以下」となることが開示されるにとどまるのであるが、そもそも、本件発明1は、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」とするべく、粗骨材および細骨材の原料としていずれも石灰岩を用いるとともに、かつその場合における分離性の低下を防止するべく、フレッシュコンクリートの「塑性粘度」が「10~200Pa・s」となるように混和材料を配合したものであることは、前記イのとおりであるから、当業者は、骨材および細骨材の原料としていずれも石灰岩を用いている本件発明1が、「結合材水比(B/W)」が1.74~2.86の範囲を超えて「1.54~3.33」の範囲であっても、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となることを理解する。
オ 前記イ、エによれば、本件特許明細書及び図面の記載に接した当業者は、粗骨材及び細骨材を石灰岩としたコンクリートは、「結合材水比」が「1.54~3.33」の範囲において、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となるとともに、フレッシュコンクリートの「塑性粘度」が「10~200Pa・s」の範囲となることを理解する。
そして、粗骨材及び細骨材を石灰岩としたコンクリートが、「結合材水比」が「1.54~3.33」の範囲において、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」となるとともに、フレッシュコンクリートの「塑性粘度」が「10~200Pa・s」の範囲となることは、本件発明1の「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10-4以下となる超低収縮コンクリートであって、前記粗骨材および前記細骨材の原料としていずれも石灰岩を用いるとともに、混和材料を配合して、コンクリート塑性粘度を10~200Pa・sとし、結合材水比を1.54~3.33と」する、との発明特定事項にほかならない。
そして、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」という従来にない優れた乾燥収縮性能を有する「超低収縮コンクリート」により、本件課題を解決できることは前記(2)イのとおりであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、その発明特定事項に基づいて本件課題を解決できるものであり、更に、本件発明1を引用する本件発明2について検討しても事情は同じである。
(4)「粗骨材および細骨材の原料」について
ア 本件発明1に係る「超低収縮コンクリート」は、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」とするべく、粗骨材および細骨材の原料としていずれも石灰岩を用いるとともに、かつその場合における分離性の低下を防止するべく、フレッシュコンクリートの塑性粘度が10~200Pa・sとなるように混和材料を配合したものであることは、前記(3)イのとおりであって、「粗骨材及び細骨材の原料」として、石灰岩のみを用いるものではないが、前記(3)ア(B)~(I)の記載によれば、本件特許明細書の実施例には、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩のみを用いた「超低収縮コンクリート」しか記載されていない。
ここで、前記(3)ア(B)(【0018】、【0019】)の記載によれば、石灰岩はそれ自体収縮し難い原料であり、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩に加えてそれ以外の原料を用いた場合、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」は大きくなることが推認されるのであるが、本件発明1は、そもそも、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10-4以下となる超低収縮コンクリート」である、との発明特定事項を有するのであるから、「粗骨材及び細骨材の原料」として、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10-4以下」を満足しなくなる程に、石灰岩以外の原料を含むものが排除されることは明らかであるので、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、その発明特定事項に基づいて本件課題を解決できるものである。
イ なお、本件発明1に係る「超低収縮コンクリート」が、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩以外の原料を含むとき、その含有量の多少に関わらず、直ちに「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10-4以下」を満足しなくなるのであれば、本件課題を解決できなくなるので、以下、これについて検討すると、前記2(3)ア(I)によれば、【図10】には、【図6】(c)の「水準D」の「超低収縮コンクリート」の乾燥収縮試験の結果が記載されていると認められ、このうち例えば「D-46-Ex15((1))-Sr25((3))」のデータ(「◯」のプロット)をみると、材齢6ヶ月における「乾燥収縮率」が概略「1.0×10-4」となっており、本件発明1の発明特定事項である「1.5×10-4」との間には概略「0.5×10-4」の差があることが看取される。
すると、前記「D-46-Ex15((1))-Sr25((3))」において、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩に加えてそれ以外の原料を用いることで、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が大きくなったとしても、石灰岩以外の原料の種類や添加量を適宜選択することで、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」とし得ることが推認できるから、本件発明1に係る「超低収縮コンクリート」が、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩以外の原料を含むとき、その含有量の多少に関わらず、直ちに「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10-4以下」を満足しなくなり、本件課題を解決できなくなるものとはいえない。
してみれば、本件発明1が、「粗骨材及び細骨材の原料」として、石灰岩のみを用いるものではないとしても、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」を満足して、本件課題を解決できるものと認められる。
ウ 申立人は、本件発明が、石灰岩由来でない骨材を石灰岩由来の骨材よりも多量に用いるコンクリートを含み、石灰岩由来の骨材とともに石灰岩由来でない骨材を用いるコンクリートについて、従来を超える超低収縮を実現できることの裏付けがない旨を主張するが、本件発明1において、「粗骨材及び細骨材の原料」として、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率が1.5×10-4以下」を満足しなくなる程に、石灰岩以外の原料を含むものが排除されることは前記アのとおりであり、本件発明1が、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩のみを用いるものではないとしても、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」を満足して、本件課題を解決できるものと認められることは前記イのとおりであるので、申立人の前記主張は採用できない。
エ してみれば、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、その発明特定事項に基づいて本件課題を解決できるものであり、更に、本件発明1を引用する本件発明2について検討しても事情は同じである。
(5)小括
前記(3)オ及び(4)エによれば、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載された発明で、その発明特定事項に基づいて本件課題を解決できるものである。
そして、このことを前記(1)の判断手法に照らせば、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するので、前記第4の2(1)及び(2)のうちサポート要件についての取消理由及び第3の2(1)、(2)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
3 特許法第36条4項第1号(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきものである。
(2)「粗骨材および細骨材の原料」について
ア 「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩に加えてそれ以外の原料を用いた場合、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」は大きくなることが推認されることは、前記2(4)アのとおりであるので、以下、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩に加えてそれ以外の原料を用いた場合についても、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かについて検討すると、本件特許明細書に記載される「D-46-Ex15((1))-Sr25((3))」のデータ(「◯」のプロット)からみれば、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩に加えてそれ以外の原料を用いた場合であっても、それ以外の原料の種類や添加量を適宜選択することで、材齢6ヶ月における「乾燥収縮率」を「1.5×10-4以下」とし得ることが推認できることは、前記2(4)イのとおりである。
そして、その場合の石灰岩以外の原料の種類や量を特定する際に、当業者に通常要求される以上の過度の試行錯誤を要するとはいえないから、仮に、本件特許明細書に、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩のみを使用したものしか記載されておらず、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩に加えてそれ以外の原料を用いた場合、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が大きくなることが推認されるとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「粗骨材及び細骨材の原料」として石灰岩に加えてそれ以外の原料を用いた場合についても、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているというべきである。
イ 申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、石灰岩由来の骨材とともに石灰岩由来でない骨材を用いるコンクリートについて、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」であるコンクリートが実験的に示されていないし、石灰岩由来の骨材とともに石灰岩由来でない骨材を用いるコンクリートであって、「材齢6ヶ月における乾燥収縮率」が「1.5×10-4以下」であるコンクリートを実現する理論的な裏付けがないから、発明の詳細な記載の説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨を主張するが、前記アのとおりであるから、申立人の前記主張は採用できない。
ウ そして、前記アの事項を前記(1)の判断手法に照らせば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するので、第4の2(2)のうち実施可能要件についての取消理由及び前記第3の3の特許異議申立理由はいずれも理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700743