特許異議申立
2021-700741
高塩基性塩化アルミニウム
- 審判番号
- 2021-700741
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-181034
- 登録番号
- 6845195
- 請求日
- 2021年07月27日
- 審決日
- 2022年05月10日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】朝日化学工業株式会社
- 【権利者代理人】西教 圭一郎
- 【異議申立人】黒崎 惇子
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 山田 倍司
- 分類
- P1651.113-YAA(C01F) / P1651.121-YAA(C01F) / P1651.851-YAA(C01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6845195号発明「高塩基性塩化アルミニウム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6845195号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第6845195号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6845195号に係る出願は、平成30年9月26日を出願日とする出願であって、令和3年3月1日にその請求項1~3に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年7月27日に特許異議申立人 黒崎 惇子(以下、「申立人」という。)により甲第1~3号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年9月1日に申立人より特許異議申立書の手続補正書(方式)が提出され、同年11月30日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である令和4年1月31日に特許権者より乙第1号証を添付して意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年2月18日に特許権者より上申書が提出され、同年4月8日に申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、
「組成が、M/Al2O3(モル比)=0.8~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、」
と記載されているのを、
「組成が、M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.06(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、」
に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する。)。
(2)一群の請求項について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~3は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~3は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
そして、本件訂正は、一群の請求項の全てについて行われるものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正のうち、「M/Al2O3(モル比)=0.8~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」を「M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0090】の実施例1及び2の記載に基づいて、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「M/Al2O3(モル比)」の下限値を「1.3」に限定するものであり、「E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)」を「E/Al2O3(モル比)=0~0.06(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)」とする訂正は、前記段落【0090】の実施例1、3及び4の記載に基づいて、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「E/Al2O3(モル比)」の上限値を「0.06」に限定するものであるから、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、この訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)独立特許要件について
本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 小括
以上のとおりであるので、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、訂正後の請求項1~3について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
組成が、M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.06(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.26であり、塩基度が80%~90%であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウム。
【請求項2】
さらにSi化合物をSi/Al2O3(モル比)=0.001~0.1含むことを特徴とする請求項1に記載の高塩基性塩化アルミニウム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高塩基性塩化アルミニウムを水にAl2O3換算で8重量%~12重量%含むことを特徴とする水処理用凝集剤組成物。」
第4 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性)について
(1)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、甲第1~3号証のそれぞれに記載された発明であるか、甲第1~3号証のそれぞれに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に係る発明について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、甲第1~2号証のそれぞれに記載された発明であるか、甲第1~2号証のそれぞれに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 証拠方法
(1)甲各号証
甲第1号証:特開平10-245220号公報
甲第2号証:米国特許出願公開第2007/0092433号公報
甲第3号証:国際公開第2017/168729号
(2)乙号証
乙第1号証:入倉 真紀ら,「高塩基度PACの適用性評価実験」,平成30年度全国会議(水道研究発表会)講演集,平成30年10月5日,公益社団法人日本水道協会,p.310-311
第5 取消理由の概要
1 特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)甲第3号証を主引用例とした場合について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 特許異議申立理由及び取消理由についての当審の判断
事案に鑑み、前記第4の特許異議申立理由及び第5の取消理由(特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性))についてまとめて検討する。
1 甲各号証の記載事項及び甲各号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、以下の(1a)~(1d)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 組成M/Al(モル比)0.04~1.80(但し、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。)、Cl/Al(モル比)0.50~1.95、塩基度65~83%の塩基性塩化アルミニウムに於いて、当該塩基性塩化アルミニウムを蒸留水約500ml(20±2℃)にAl2O3として10ppm添加し、5重量%炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)溶液でpH7.8~8.2に調整し30分間50rpmで攪拌し、30分間静置後、No.5C濾紙で濾過した後に於ける濾過水の残留アルミニウム(Al)量がY≦0.625X-4.625(但し、YはAl量(ppm)、XはpHを示し、7.8≦X≦8.2である。)を満足する量であることを特徴とする新規なる塩基性塩化アルミニウム。」
(1b)「【0020】まず、本発明の塩基性塩化アルミニウムの物理的性質について述べると、本発明のM/Al(モル比)は0.04~1.80の範囲にあり、この範囲以下では凝集能力が顕著に低下する。また、この範囲以上では塩基性塩化アルミニウム溶液が極めて不安定となる。」
(1c)「【0039】以下に実施例を挙げて本発明を更に詳記する。尚、%は特に断らない限り全て重量%を示す。
【0040】
【実施例】
(実施例1)水酸化アルミニウム(Al2O365.4%)をオートクレーブを用いて、加圧下に塩酸溶解することによって得られた塩基性塩化アルミニウム(Al2O313.96%、Cl 15.79%、塩基度45.7%)400gを攪拌装置、冷却管、温度計を備えた1L容四つ口フラスコに入れ、90℃に加熱する。攪拌下に、炭酸カルシウム粉末78gと硫酸アルミニウム溶液(Al2O38.20%、SO423.0%)312gを30分間かけて同時に添加した。引き続き30分間この温度で熟成させた後、生成石膏を濾過分離し、Al2O313.39%、Cl10.59%、SO41.40%、Ca 1.09%なる組成で塩基度65.3%の塩基性塩化アルミニウム溶液497gを得た。この塩基性塩化アルミニウム溶液80gを室温下に保持しながら炭酸ナトリウム5.96gを蒸留水18.7gに溶解させた液を徐々に添加攪拌して溶解し、さらに硫酸アルミニウム溶液4.8gを混合し、107gの本発明の塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。この分析値は、下記の通りである。Al2O3 10.40%、Cl 7.82%、Ca 0.81%、Na 2.67%、SO4 2.05%、塩基度82.6%」
(1d)「【0042】(実施例3)水酸化アルミニウムを塩酸と硫酸の混酸で溶解し、これに炭酸カルシウムを加えて硫酸カルシウムを除去する方法によって得られた塩基性塩化アルミニウム(Al2O312.42%、Cl 9.66%、SO4 3.17%、Ca 0.53%、塩基度57.3%)700gを実施例1と同じ反応器に入れ85℃に加熱した。攪拌下に炭酸カルシウム27.4gと硫酸アルミニウム溶液(Al2O38.20%、SO423.0%)12.7gを17分間かけて同時に添加した。引き続き15分間この温度で熟成させた後、生成石膏を濾過分離し、Al2O313.20%、Cl 10.07%、SO41.62%、Ca1.32%なる組成で塩基度67.6%の塩基性塩化アルミニウム溶液647gを得た。この塩基性塩化アルミニウム溶液647gを40℃以下に保持しながら硫酸アルミニウム溶液20gを混合し、さらに30%炭酸ナトリウム溶液124gを徐々に添加、攪拌して溶解した後に、蒸留水80gを加えて856gの本発明の塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。この分析値は、下記の通りである。Al2O3 10.16%、 Cl 7.74%、Ca 1.01%、Na2.01%、SO4 1.79%、塩基度80.3%」
イ 前記ア(1a)によれば、甲第1号証には「塩基性塩化アルミニウム」が記載されている。
すなわち、前記ア(1c)によれば、前記「塩基性塩化アルミニウム」は、水酸化アルミニウム(Al2O3 65.4%)をオートクレーブを用いて、加圧下に塩酸溶解することによって得られた塩基性塩化アルミニウム(Al2O3 13.96%、Cl 15.79%、塩基度45.7%)400gを攪拌装置、冷却管、温度計を備えた1L容四つ口フラスコに入れ、90℃に加熱し、攪拌下に、炭酸カルシウム粉末78gと硫酸アルミニウム溶液(Al2O3 8.20%、SO4 23.0%)312gを30分間かけて同時に添加し、引き続き30分間この温度で熟成させた後、生成石膏を濾過分離し、Al2O3 13.39%、Cl 10.59%、SO4 1.40%、Ca 1.09%なる組成で塩基度65.3%の塩基性塩化アルミニウム溶液497gを得て、この塩基性塩化アルミニウム溶液80gを室温下に保持しながら炭酸ナトリウム5.96gを蒸留水18.7gに溶解させた液を徐々に添加攪拌して溶解し、さらに硫酸アルミニウム溶液4.8gを混合し、107gの前記「塩基性塩化アルミニウム」溶液として得たものであり、この分析値は、Al2O3 10.40%、Cl 7.82%、Ca 0.81%、Na 2.67%、SO4 2.05%、塩基度82.6%であり、ここで、%は特に断らない限り全て重量%を示すものである。
すると、甲第1号証には、
「塩基性塩化アルミニウムであって、
水酸化アルミニウム(Al2O3 65.4%)をオートクレーブを用いて、加圧下に塩酸溶解することによって得られた塩基性塩化アルミニウム(Al2O3 13.96%、Cl 15.79%、塩基度45.7%)400gを攪拌装置、冷却管、温度計を備えた1L容四つ口フラスコに入れ、90℃に加熱し、攪拌下に、炭酸カルシウム粉末78gと硫酸アルミニウム溶液(Al2O3 8.20%、SO4 23.0%)312gを30分間かけて同時に添加し、引き続き30分間この温度で熟成させた後、生成石膏を濾過分離し、Al2O3 13.39%、Cl 10.59%、SO4 1.40%、Ca 1.09%なる組成で塩基度65.3%の塩基性塩化アルミニウム溶液497gを得て、この塩基性塩化アルミニウム溶液80gを室温下に保持しながら炭酸ナトリウム5.96gを蒸留水18.7gに溶解させた液を徐々に添加攪拌して溶解し、さらに硫酸アルミニウム溶液4.8gを混合し、107gの前記塩基性塩化アルミニウム溶液として得たものであり、
この分析値は、Al2O3 10.40%、Cl 7.82%、Ca 0.81%、Na 2.67%、SO4 2.05%、塩基度82.6%であり、
ここで、%は特に断らない限り全て重量%を示すものである、塩基性塩化アルミニウム。」の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されているといえる。
ウ 同様に、前記ア(1d)によれば、甲第1号証には、
「塩基性塩化アルミニウムであって、
水酸化アルミニウムを塩酸と硫酸の混酸で溶解し、これに炭酸カルシウムを加えて硫酸カルシウムを除去する方法によって得られた塩基性塩化アルミニウム(Al2O3 12.42%、Cl 9.66%、SO4 3.17%、Ca 0.53%、塩基度57.3%)700gを反応器に入れ85℃に加熱し、攪拌下に炭酸カルシウム27.4gと硫酸アルミニウム溶液(Al2O3 8.20%、SO4 23.0%)12.7gを17分間かけて同時に添加し、引き続き15分間この温度で熟成させた後、生成石膏を濾過分離し、Al2O3 13.20%、Cl 10.07%、SO4 1.62%、Ca 1.32%なる組成で塩基度67.6%の塩基性塩化アルミニウム溶液647gを得て、この塩基性塩化アルミニウム溶液647gを40℃以下に保持しながら硫酸アルミニウム溶液20gを混合し、さらに30%炭酸ナトリウム溶液124gを徐々に添加、攪拌して溶解した後に、蒸留水80gを加えて856gの塩基性塩化アルミニウム溶液として得たものであり、
この分析値は、Al2O3 10.16%、 Cl 7.74%、Ca 1.01%、Na 2.01%、SO4 1.79%、塩基度80.3%であり、
ここで、%は特に断らない限り全て重量%を示すものである、塩基性塩化アルミニウム。」の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されているといえる。
(2)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
ア 甲第2号証には、以下の(2a)~(2b)の記載がある。
(2a)「[0007] The invention involves the production of polyaluminum hydroxychlorosulfates (PACS) suitable for effective use as flocculants and coagulants in water treatment. The resulting product is a fluid, clear solution that is stable with respect to precipitation and gelling for extended periods of time.…」
(当審訳:本発明は、水処理における凝集剤及び凝固剤として有効に使用するのに適したポリアルミニウムヒドロキシクロロサルフェート(PACS)の製造を含むものである。得られる製品は、沈殿及びゲル化に対して長期間安定な、流動性のある透明な溶液である。…)
(2b)「EXAMPLE 3
[0022] 160 g of aluminum chloride is mixed with 49 g of water and 8.2 g of sulfuric acid (98%) at ambient temperature. The reaction mixture is heated to 50-60 ℃. and 13 g of aluminum powder is added over a period of 1 hour. The reaction is continued for an additional 12 hours and then cooled to 30 ℃. 15 g of water is added, followed by 171 g of sodium carbonate solution (22.0% w/w) over a 2.5 hour period. The mixture is stirred and filtered after dissolution of suspended material, resulting in a clear solution containing 10.0% Al2O3, 8.81% Cl, 1.92% SO4, and a 80.0% basicity.」
(当審訳:160gの塩化アルミニウムを49gの水及び8.2gの硫酸(98%)と周囲温度で混合する。反応混合物を50~60℃に加熱し、13gのアルミニウム粉末を1時間かけて添加する。反応を更に12時間継続し、次に30℃に冷却する。15gの水を添加し、続けて171gの炭酸ナトリウム溶液(22.0%w/w)を2.5時間かけて添加する。混合物を攪拌し、懸濁物の溶解後にろ過して、10.0%Al2O3、8.81%Cl、1.92%SO4、及び80.0%の塩基度を有する透明な液体が得られる。)
イ 前記ア(2a)~(2b)によれば、甲第2号証には、
「160gの塩化アルミニウムを49gの水及び8.2gの硫酸(98%)と周囲温度で混合し、反応混合物を50~60℃に加熱し、13gのアルミニウム粉末を1時間かけて添加し、反応を更に12時間継続し、次に30℃に冷却し、
15gの水を添加し、続けて171gの炭酸ナトリウム溶液(22.0%w/w)を2.5時間かけて添加し、混合物を攪拌し、懸濁物の溶解後にろ過して得られる、
10.0%Al2O3、8.81%Cl、1.92%SO4、及び80.0%の塩基度を有する透明な液体である、ポリアルミニウムヒドロキシクロロサルフェート(PACS)。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(3)甲第3号証の記載事項及び甲第3号証に記載された発明
ア 甲第3号証には、以下の(3a)~(3b)の記載がある。
(3a)「請求の範囲
[請求項1] 組成が、Si/Al2O3(モル比)=0.001~0.1、M/Al2O3(モル比)=0.1~1.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.08であることを特徴とする高塩基性塩化アルミニウム。
…
[請求項5] 前記高塩基性塩化アルミニウムの塩基度が、50~80%であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の高塩基性塩化アルミニウム。」
(3b)「[0027] またこの高塩基性塩化アルミニウム中には、Na、Kなどアルカリ金属がAl2O31モルに対し0.1~1.2モル、特に好ましくは0.3~0.8モル含まれる。…前記アルカリ金属は、高塩基性塩化アルミニウムにおいて、NaClまたはKClの形態で含まれるが、このアルカリ金属が、Al2O31モルに対し0.1モル未満だと所望の量のゲルを得ることができず塩基度が上がらないので好ましくなく、1.2モルを超えると、安定性が悪くなるので好ましくない。1.2モルを超える場合には、ゲル生成段階で脱塩処理をし、範囲内とすることが好ましい。」
イ 前記ア(3a)によれば、甲第3号証には、
「組成が、Si/Al2O3(モル比)=0.001~0.1、M/Al2O3(モル比)=0.1~1.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.08である高塩基性塩化アルミニウムであって、
前記高塩基性塩化アルミニウムの塩基度が、50~80%である、高塩基性塩化アルミニウム。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
2 甲第1号証を主引用例とした場合について
(1)本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明において「塩基度82.6%である」ことは、本件発明1において「塩基度が80%~90%である」ことに合致し、当該塩基度からみれば、甲1-1発明に係る「塩基性塩化アルミニウム」は、本件発明1に係る「高塩基性塩化アルミニウム」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、「塩基度が80%~90%である、高塩基性塩化アルミニウム。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「組成が、M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.06(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.26であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1-1発明は、前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。
(2)まず、前記(1)の相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲1-1発明に係る「高塩基性塩化アルミニウム」の分析値が、Al2O3 10.40%、Ca 0.81%、Na 2.67%であること、%が重量%を示すこと、及び、Al2O3の分子量が101.96、Caの原子量が40.08、Naの原子量が22.99であることから、甲1-1発明における「M/Al2O3(モル比)」「(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」(以下、「M/Al2O3(モル比)」という。)及び「E/Al2O3(モル比)」「(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)」(以下、「E/Al2O3(モル比)」という。)を算出すると、「M/Al2O3(モル比)」=(2.67/22.99)/(10.40/101.96)=1.14であり、これは、本件発明1の「M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」の発明特定事項に合致しないし、「E/Al2O3(モル比)」=(0.81/40.08)/(10.40/101.96)=0.20であり、これは、本件発明1の「E/Al2O3(モル比)=0~0.06(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)」の発明特定事項に合致しない。
すると、本件発明1と甲1-1発明とは、組成が、少なくとも、「M/Al2O3(モル比)」及び「E/Al2O3(モル比)」において合致しないから、そのほかの成分組成にかかわらず、前記相違点1は実質的な相違点であるので、本件発明1が甲1-1発明であるとはいえない。
(3)次に、前記相違点1の容易想到性について検討すると、前記1(1)ア(1a)~(1b)によれば、甲1-1発明は、「組成M/Al(モル比)(但し、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。)」を0.04~1.80とするものであって、「組成M/Al(モル比)(但し、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。)」がこの範囲以下では凝集能力が顕著に低下し、この範囲以上では塩基性塩化アルミニウム溶液が極めて不安定となるものである。
すると、甲1-1発明は、組成について、「M/Al(モル比)(但し、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示す。)」に着目したもの、すなわち、アルカリ金属、アルカリ土類金属を区別することなくAlに対するモル比に着目したものであって、本件発明1のように、「M/Al2O3(モル比)」及び「E/Al2O3(モル比)」に着目したものではない、すなわち、アルカリ金属、アルカリ土類金属それぞれに着目し、それぞれについて適切なAlに対するモル比を設定しようとするものではないから、甲1-1発明において、組成を、「M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」とし、かつ、「E/Al2O3(モル比)=0~0.06(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)」とする動機付けは存在しない。
したがって、そのほかの成分組成にかかわらず、甲1-1発明において、「高塩基性塩化アルミニウム」を、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、当業者が容易になし得るものではないので、本件発明1は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)前記(2)、(3)によれば、本件発明1は、甲1-1発明であるとはいえないし、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないのであり、甲1-2発明について検討しても事情は同じであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
更に、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3について検討しても事情は同じである。
(5)したがって、本件発明1及び3は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないので、前記第5の1(1)の取消理由は理由がない。
3 甲第2号証を主引用例とした場合について
(1)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明において「80.0%の塩基度を有する」ことは、本件発明1において「塩基度が80%~90%である」ことに合致し、当該塩基度からみれば、甲2発明に係る「ポリアルミニウムヒドロキシクロロサルフェート(PACS)」は、本件発明1に係る「高塩基性塩化アルミニウム」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、「塩基度が80%~90%である、高塩基性塩化アルミニウム。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点2:本件発明1は、「組成が、M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)、E/Al2O3(モル比)=0~0.06(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.26であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。
(2)まず、前記(1)の相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲2発明に係る「高塩基性塩化アルミニウム」は、組成が、「10.0%Al2O3、8.81%Cl、1.92%SO4」なのであって、Naの含有量が明らかでないから、甲2発明における「M/Al2O3(モル比)」が「1.3~2.2」であるとはいえない。
すると、甲2発明の組成は、少なくとも、本件発明1の「M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」の発明特定事項に合致しないから、そのほかの成分組成にかかわらず、前記相違点2は実質的な相違点である。
なお、申立人は、特許異議申立書(11頁2行~9行)及び申立人意見書(6頁下から3行~7頁5行)において、甲2発明の調製において、Naを含有する炭酸ナトリウム溶液(22.0%w/w)が171g添加されており、当該炭酸ナトリウム溶液(22.0%w/w)の添加量と、そのほかの原料の添加量等に基づいて計算すると、甲2発明の溶液に含まれるNaは3.92%であり、Na/Al2O3(モル比)=1.74となる旨を主張する。
ここで、特許異議申立書及び申立人意見書に記載された計算式によれば、前記主張は、原料として添加された物質の全量がそのまま甲2発明に係る「ポリアルミニウムヒドロキシクロロサルフェート(PACS)」に含まれることを前提としたものと認められる。
ところが、甲2発明は、171gの炭酸ナトリウム溶液(22.0%w/w)を2.5時間かけて添加し、混合物を攪拌し、懸濁物の溶解後にろ過して得られるものであって、その製造工程にろ過を含むものであり、製造工程にろ過を含む甲2発明に係る「ポリアルミニウムヒドロキシクロロサルフェート(PACS)」に、原料として添加した物質の全量がそのまま含まれるものと直ちにいうことはできない。
してみれば、前記主張は前提において誤っており、仮に、甲2発明の製造において、原料として171gの炭酸ナトリウム溶液(22.0%w/w)が添加されているとしても、製造工程にろ過を含む甲2発明に係る「ポリアルミニウムヒドロキシクロロサルフェート(PACS)」に含まれるNaが3.92%であり、Na/Al2O3=1.74となるとはいえないので、申立人の前記主張は採用できない。
したがって、本件発明1が甲2発明であるとはいえない。
(3)次に、前記相違点2の容易想到性について検討すると、前記1(2)ア(2a)によれば、甲2発明は、沈殿及びゲル化に対して長期間安定な、流動性のある透明な溶液である「高塩基性塩化アルミニウム」の製造に関するものであって、製造後に得られた「M/Al2O3(モル比)」に注目するものではないから、甲2発明において、「M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」とする動機付けは存在しないので、そのほかの成分組成にかかわらず、甲2発明において、「高塩基性塩化アルミニウム」を、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、当業者が容易になし得るものではない。
よって、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)前記(2)、(3)によれば、本件発明1は甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
更に、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明3について検討しても事情は同じである。
(5)したがって、本件発明1及び3は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
4 甲第3号証を主引用例とした場合について
(1)本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明において、「組成が」、「E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.08である」ことは、本件発明1において、「組成が」、「E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.26であ」ることと合致する。
また、甲3発明において「塩基度が、50~80%である」ことは、本件発明1において「塩基度が80%~90%である」ことに合致し、当該塩基度からみれば、甲3発明に係る「高塩基性塩化アルミニウム」は、本件発明1に係る「高塩基性塩化アルミニウム」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、「組成が、E/Al2O3(モル比)=0~0.3(Eはアルカリ土類金属のモル数を示す)、Cl/Al2O3(モル比)=1.0~3.0、SO4/Al2O3(モル比)=0~0.26であり、塩基度が80%~90%である、高塩基性塩化アルミニウム。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3:本件発明1は、「組成が、M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」「であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲3発明は、「組成が」、「M/Al2O3(モル比)=0.1~1.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」「である」点。
(2)そして、前記(1)の相違点3は実質的な相違点であるから、本件発明1が甲3発明であるとはいえない。
更に、前記相違点3の容易想到性について検討すると、前記1(3)ア(3b)によれば、甲3発明においては、アルカリ金属がAl2O31モルに対し1.2モルを超えると安定性が悪くなるので好ましくないものである。
すると、甲3発明において、「M/Al2O3(モル比)=1.3~2.2(Mはアルカリ金属のモル数を示す)」として、アルカリ金属を、Al2O31モルに対し1.2モルを超えるものとすることは、「高塩基性塩化アルミニウム」の安定性を悪くし、発明の特長を損なうものであるから、甲3発明において、「高塩基性塩化アルミニウム」を、前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、当業者が容易になし得るものではない。
よって、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
更に、本件発明1を引用する本件発明2について検討しても事情は同じである。
(3)したがって、本件発明1及び2は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、前記第5の1(2)の取消理由は理由がない。
5 小括
前記2(5)及び4(3)によれば、前記第5の1の取消理由はいずれも理由がない。
また、前記2(5)、3(5)及び4(3)によれば、前記第4の1の特許異議申立理由も、いずれも理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1~3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1~3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700741