特許異議申立
2021-700621
トラクタ
- 審判番号
- 2021-700621
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-242207
- 登録番号
- 6817181
- 請求日
- 2021年07月02日
- 審決日
- 2022年11月15日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社クボタ
- 【権利者代理人】弁理士法人R&C
- 【異議申立人】伊藤 学
- 審判長/審判官
- 審判長 一ノ瀬 覚
- 審判官 八木 誠
- 審判官 大谷 光司
- 分類
- P1651.121-YAA(B62D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6817181号発明「トラクタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6817181号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第6817181号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6817181号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年12月18日に出願され、令和2年12月28日に特許権の設定登録がされ、令和3年1月20日に特許掲載公報が発行された。
そして、請求項1~8に係る特許についての、特許異議申立人伊藤学(以下、「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 7月 2日 特許異議の申立て
同年10月 7日付け 取消理由通知書
同年12月 9日 特許権者より意見書・訂正請求書
同年12月23日付け 通知書(特許法第120条の5第5項)
令和4年 1月25日 申立人より意見書
同年 3月17日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 5月18日 特許権者より意見書・訂正請求書
同年 6月 3日 特許権者より手続補正書
同年 7月 5日付け 審尋
同年 7月21日 特許権者より回答書
同年 7月27日付け 通知書(特許法第120条の5第5項)
同年 8月29日 申立人より意見書
第2 本件訂正
1 本件訂正の内容
特許権者が求める訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、令和4年5月18日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正事項は以下の(1)~(3)のとおりである(なお、下線部は訂正箇所である。)。そして、本件訂正の請求がされたので、令和3年12月9日の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「操縦者が着座可能な運転座席と、
前記運転座席の前方に設けられたボンネットと、
前記運転座席の前方に設けられたステアリングホイールと、
前記運転座席の後方に設けられ、左右の縦フレーム部の上端に横フレーム部が連結するロプスと、
衛星測位情報を受信するアンテナユニットが備えられ、
前記アンテナユニットが、側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で、且つ、前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように前記ボンネットに備えられているトラクタ。」
と記載されているのを、
「操縦者が着座可能な運転座席と、
前記運転座席の前方に、且つ、側面視で前輪の中心から垂直方向上方に設けられたボンネットと、
前記運転座席の前方に設けられたステアリングホイールと、
前記運転座席の後方に設けられ、左右の縦フレーム部の上端に横フレーム部が連結するロプスと、
衛星測位情報を受信するアンテナユニットが備えられ、
前記アンテナユニットが前記ボンネットから上方に突出し、
前記アンテナユニットが、側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で、且つ、前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように、且つ、前記アンテナユニットの下面における後端部が前記ステアリングホイールの下端を通る水平姿勢の水平ラインよりも上方に位置するように、且つ、前記前輪の中心よりも前方に位置するように、且つ、正面視において、車体左右方向における中央部に位置し、且つ、前記アンテナユニットの幅が前記ステアリングホイールの幅よりも小さくなり且つ前記ステラリングホイールの幅の範囲内に位置するように、前記ボンネットに備えられ、
正面視において、機体に設けられ前記アンテナユニットと重複する障害物が前記アンテナユニットの機体前後方向における前方に存在せず、且つ、側面視において、機体に設けられ前記アンテナユニットと重複する障害物が前記アンテナユニットの機体幅方向における外側に存在しないように、前記アンテナユニットが配置されているトラクタ。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4、7及び8も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に、
「前記アンテナユニットが、前記ボンネットの内部に備えられ、前記ボンネットのうちの前記アンテナユニットに対向する部分の少なくとも一部が樹脂製である請求項1に記載のトラクタ。」
と記載されているのを、
「操縦者が着座可能な運転座席と、
前記運転座席の前方に設けられたボンネットと、
前記運転座席の前方に設けられたステアリングホイールと、
前記運転座席の後方に設けられ、左右の縦フレーム部の上端に横フレーム部が連結するロプスと、
衛星測位情報を受信するアンテナユニットが備えられ、
前記アンテナユニットが、側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で、且つ、前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように前記ボンネットの内部に備えられ、前記ボンネットのうちの前記アンテナユニットに対向する部分の少なくとも一部が樹脂製であるトラクタ。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6~8も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に、
「前記アンテナユニットが車体左右方向における中央部に備えられている請求項1~7のいずれか1項に記載のトラクタ。」
と記載されているのを、
「前記アンテナユニットが車体左右方向における中央部に備えられている請求項5~7のいずれか1項に記載のトラクタ。」に訂正する。
(4)一群の請求項等について
訂正前の請求項1~8は、請求項2~8が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~8〕について請求されている。
また、訂正後の請求項5に係る訂正について、特許権者は、当該訂正が認められるときに別の訂正単位として扱われることを求めている。
しかしながら、訂正後の請求項7は、訂正後の請求項1または請求項5の記載を引用する関係にあり、訂正後の請求項7を引用する請求項8についても、同様の関係にあるから、当該訂正が認められたとしても、別の訂正単位とすることはできないので、一体として扱う。
2 本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の「前記運転座席の前方に設けられたボンネット」との事項に、「側面視で前輪の中心から垂直方向上方に」との限定を付加し、訂正前の「前記アンテナユニットが、側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で、且つ、前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように前記ボンネットに備えられている」との事項に、「前記アンテナユニットの下面における後端部が前記ステアリングホイールの下端を通る水平姿勢の水平ラインよりも上方に位置するように、且つ、前記前輪の中心よりも前方に位置するように、且つ、正面視において、車体左右方向における中央部に位置し、且つ、前記アンテナユニットの幅が前記ステアリングホイールの幅よりも小さくなり且つ前記ステアリングホイールの幅の範囲内に位置するように」との限定を付加し、「前記アンテナユニットが前記ボンネットから上方に突出し」及び「正面視において、機体に設けられ前記アンテナユニットと重複する障害物が前記アンテナユニットの機体前後方向における前方に存在せず、且つ、側面視において、機体に設けられ前記アンテナユニットと重複する障害物が前記アンテナユニットの機体幅方向における外側に存在しないように、前記アンテナユニットが配置されている」との事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 新規事項の有無
訂正事項1に係る請求項1についての訂正によって付加された事項のうち、「前記アンテナユニットの下面における後端部が前記ステアリングホイールの下端を通る水平姿勢の水平ラインよりも上方に位置するように」との事項以外のものは、明細書の【0072】及び図18、19に開示されているのは明らかである。
そこで、「前記アンテナユニットの下面における後端部が前記ステアリングホイールの下端を通る水平姿勢の水平ラインよりも上方に位置するように」との事項について検討する。
上記アンテナユニットについて、その形状や設置位置は、明細書や図面には明記されていないが、明細書の【0072】の「・・・図18、図19に示すように、・・・アンテナユニット32を有する測位ユニット31を、左右方向での中央位置に支持部材としての取付ブラケット34を介して取り付ける。」との記載では、上記アンテナユニットに対応するアンテナユニット32は、測位ユニット31内にあり、取付ブラケット34上に設けられると解されるから、上記「前記アンテナユニットの下面における後端部」に対応するアンテナユニット32の下面の後端部は、少なくとも、測位ユニット31内であり、かつ、取付ブラケット34の上面より上方の位置にあるものと認められる。
また、上記ステアリングホイールについて、どう構成されるのか、明細書に直接的な記載はないが、例えば、カヤバ工業株式会社、「自動車の操舵系と操安系」、株式会社山海堂、平成8年9月10日第1刷発行、14ページ1~2行に、「ステアリングホイールは図1-3のように、ハブ、スポークおよびリムで一体的に構成されている。」(図は下記参照。)と記載されるように、一般的に、「ステアリングホイール」は、リムだけでなく、スポークやハブも含むことが技術常識であり、図18には、リムだけでなく、スポークやハブも記載されていると認められ、さらに、特許権者は、令和4年7月21日の回答書において本件のステアリングホイールは当該技術常識のとおりであることを主張していることも踏まえると、上記ステアリングホイールは、リムだけでなく、スポークやハブも含むものであると認める。
[図:0001393976000001.jpg]
以上のことを踏まえて、図18を参照すると、図18は、領域ラインEL及び水平ラインHLを示す補助線も引かれ、各構成の相対位置はほぼ正確に記載されていると認められるから、ステアリングホイール24のハブの下端が、測位ユニット31内であり、かつ、取付ブラケット34の上面より上方に位置することが看取できる。
そうすると、「前記アンテナユニットの下面における後端部が前記ステアリングホイールの下端を通る水平姿勢の水平ラインよりも上方に位置するように」との事項は、【0072】~【0074】及び図18に開示されていると認められる。
以上によれば、訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、新規事項を追加するものではない。
図18
[図:0001393976000002.jpg]
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項5についての訂正は、訂正前の請求項5の記載が請求項1の記載を引用するものであったものを、独立形式の請求項の記載へ改めるためのものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項8についての訂正は、請求項8が、直接又は間接的に引用する請求項の数を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)小括
以上により、訂正事項1~3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項におけて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が認められたことにより、本件訂正後の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」~「本件発明8」という。また、これらを総称して「本件発明」ともいう。)は、令和4年5月18日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
操縦者が着座可能な運転座席と、
前記運転座席の前方に、且つ、側面視で前輪の中心から垂直方向上方に設けられたボンネットと、
前記運転座席の前方に設けられたステアリングホイールと、
前記運転座席の後方に設けられ、左右の縦フレーム部の上端に横フレーム部が連結するロプスと、
衛星測位情報を受信するアンテナユニットが備えられ、
前記アンテナユニットが前記ボンネットから上方に突出し、
前記アンテナユニットが、側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で、且つ、前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように、且つ、前記アンテナユニットの下面における後端部が前記ステアリングホイールの下端を通る水平姿勢の水平ラインよりも上方に位置するように、且つ、前記前輪の中心よりも前方に位置するように、且つ、正面視において、車体左右方向における中央部に位置し、且つ、前記アンテナユニットの幅が前記ステアリングホイールの幅よりも小さくなり且つ前記ステラリングホイールの幅の範囲内に位置するように、前記ボンネットに備えられ、
正面視において、機体に設けられ前記アンテナユニットと重複する障害物が前記アンテナユニットの機体前後方向における前方に存在せず、且つ、側面視において、機体に設けられ前記アンテナユニットと重複する障害物が前記アンテナユニットの機体幅方向における外側に存在しないように、前記アンテナユニットが配置されているトラクタ。
【請求項2】
前記ボンネットが上面部と側面部とを有し、
前記アンテナユニットが前記上面部に備えられている請求項1に記載のトラクタ。
【請求項3】
前記アンテナユニットが、前記上面部における車体前後方向中央部よりも前方に備えられている請求項2に記載のトラクタ。
【請求項4】
前記アンテナユニットが、障害物を避けるべく、前記ボンネットにおける前方部分に備えられている請求項1~3のいずれか1項に記載のトラクタ。
【請求項5】
操縦者が着座可能な運転座席と、
前記運転座席の前方に設けられたボンネットと、
前記運転座席の前方に設けられたステアリングホイールと、
前記運転座席の後方に設けられ、左右の縦フレーム部の上端に横フレーム部が連結するロプスと、
衛星測位情報を受信するアンテナユニットが備えられ、
前記アンテナユニットが、側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で、且つ、前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように前記ボンネットの内部に備えられ、前記ボンネットのうちの前記アンテナユニットに対向する部分の少なくとも一部が樹脂製であるトラクタ。
【請求項6】
前記ボンネットが上面部と側面部とを有し、
前記アンテナユニットが、前記ボンネットの内部に前記上面部に対向して備えられ、前記上面部のうちの前記アンテナユニットに対向する部分の少なくとも一部が樹脂製である請求項5に記載のトラクタ。
【請求項7】
前記運転座席の前方にステアリングホイールが設けられ、
前記アンテナユニットの上端が、前記ステアリングホイールの上端よりも下方に位置する請求項1~6のいずれか1項に記載のトラクタ。
【請求項8】
前記アンテナユニットが車体左右方向における中央部に備えられている請求項5~7のいずれか1項に記載のトラクタ。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許の下記請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、この出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、当該発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
以下、「甲第1号証」~「甲第5号証」は、それぞれ、「甲1」~「甲5」ともいう。
2 証拠一覧
甲1:特開2016-71426号公報
甲2:実願平5-54580号(実開平7-25609号)のCD-ROM
甲3:特開2014-98279号公報
甲4:特開2006-256509号公報
甲5:特開2017-112942号公報
追加文献1:特開2000-92917号公報
追加文献2:特開2004-182131号公報
3 上記取消理由における請求項と証拠との関係
・請求項 1~4、7
・証拠 甲1~4、追加文献1、2
・請求項 8
・証拠 甲1~5、追加文献1、2
第5 証拠の記載事項等
1 甲1について
(1)甲1の記載事項
甲1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審が付与。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の走行作業車における操縦補助装置に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トラクタは、畦で囲まれた圃場を周回或いは往復移動しながら耕耘や畝立等の作業を行うが、操縦を油断していると畦を乗り越えて畦の外側に在る溝や急斜面に転落する等の危険性がある。
【0005】
本発明は、走行作業車で圃場内の作業を行う際に、油断して圃場外に踏み出して転倒等の事故を起こさないように、操縦者の操縦を補助することを課題とする。」
「【0017】
このトラクタの機体1は操舵用の左右前輪2,2と推進車輪としての左右後輪3,3を有し、ボンネット4内に搭載したエンジン5の回転動力をミッションケース6内の変速装置によって適宜減速し、その回転動力を後輪3,3或いは前輪2,2と後輪3,3に伝達するように構成している。」
「【0022】
また、ステアリングハンドル24を支えるハンドルポスト25の左側上部には前記前後進切換装置9を操作する前後進切換レバー27が設けられ、この前後進切換レバー27を中立位置から前側に倒すと機体は前進し、反対に後側に引くと機体は後進するようになっている。
【0023】
ハンドルポスト25の前側にはコントローラ100を内装したフロントケース49が設けられ、このフロントケース49の上面にGPS受信機50を取り付け、ステアリングハンドル24の前下方側にスピードメータ等の情報を表示するモニタ51を設けている。」
「【0026】
サイドコンビスイッチ23は、サイドビューライト54と後部作業灯55の照度を調整する。
後部作業灯55はロブスタ57の側部と後部に設けて、機体1の後側部とロータリ耕耘装置18を照射する。この後部作業灯55もサイドビューライト54と同様にオン・オフを自動制御する。」
図1
[図:0001393976000003.jpg]
(2)甲1の記載から認められること
ア トラクタにおいて、操縦者は運転席に座って運転等の操作を行うことは、例示するまでもなく技術常識であり、【0022】、【0026】及び図1の記載も参照すると、ステアリングハンドル24とロブスタ57の間に運転席があること、及び、運転席は操縦者が着座可能であることが認められる。
イ 【0017】、【0022】、【0023】、【0026】及び図1の記載、並びに、上記アによれば、トラクタは、運転席と、ボンネット4と、ステアリングハンドル24と、ロブスタ57と、GPS受信機50を有することが認められる。
ウ 図1の記載及び上記アによれば、ボンネット4は運転席の前方に、且つ、側面視で左右前輪2、2の中心から垂直方向上方に設けられること、ステアリングハンドル24は運転席の前方に設けられること、及び、ロブスタ57は運転席の後方に設けられることが認められる。
エ 【0023】及び図1の記載によれば、GPS受信機50が、側面視において、ステアリングハンドル24の上端を通る水平ラインよりも下方に位置するように、フロントケース49の上面に取り付けられること、及び、フロントケース49は、ステアリングハンドル24より前方でボンネット4より後方に設けられることが認められる。
(3)甲1発明
上記(2)ア~エを総合すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「操縦者が着座可能な運転席と、
運転席の前方に、且つ、側面視で左右前輪2、2の中心から垂直方向上方に設けられるボンネット4と、
運転席の前方に設けられるステアリングハンドル24と、
運転席の後方に設けられるロブスタ57と、
GPS受信機50を有し、
GPS受信機50が、側面視において、ステアリングハンドル24の上端を通る水平ラインよりも下方に位置するように、ステアリングハンドル24より前方でボンネット4より後方に設けられるフロントケース49の上面に取り付けられるトラクタ。」
2 甲4について
甲4には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図2において、1は左右一対の前輪2と左右一対の後輪3とを有する2軸4輪型のトラクタであり、その車体4の後部で且つ運転席5の後方側にはロプス6が、やや後傾状に立設されて設けられている。
このロプス6は、図1~図4に示すように、左右一対の支柱部7と、この左右の支柱部7の上端側を連結する連結部8とから背面視門型状に形成されている。」
図2
[図:0001393976000004.jpg]
3 追加文献1について
当審が追加した、追加文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、トラクタ等の走行車両のロプス装置とこの装置に適したピンユニットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】例えば、農用トラクタにおいては、転倒時の安全性を確保するためにロプス装置を設けることがあるが、その農用トラクタを屋根の低い車庫に格納したり、枝の張り出した果樹園に乗り入れたりする場合には、当該ロプス装置が却って邪魔になることがある。」
「【0015】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1~図9は本発明の第一の実施形態を示している。図1及び図2において、農用トラクタ1は、その車体2の後部(車体2を構成するミッションケースの後部)に立設されたロプス装置3を備えている。
【0016】このロプス装置3は、左右一対の下部支柱4,4と、この各下部支柱4,4の上端部に屈曲自在に連結された上部フレーム5と、を備えている。上部フレーム5は、各下部支柱4,4の上端部に屈曲自在に連結された左右一対の上部支柱6,6と、この上部支柱6,6の上端間同士を互いに一体に連結する横枠材7と、を備えている。この上部フレーム5は、それら左右の上部支柱6,6と横枠材7とによって背面視ほぼ門型状に一体形成されている。」
図1
[図:0001393976000005.jpg]
4 追加文献2について
当審が追加した、追加文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【従来の技術】
特許文献1に開示されたトラクタのロプス装置は、その支柱をロプス下体の有する下部支柱とロプス上体の有する上部支柱とに上下2分割すると共に、上部支柱を下部支柱の上端部に横軸まわり回動自在に支持している。これにより、ロプス上体をロプス下体に対して下方屈曲姿勢とし、車庫格納時におけるロプス上体と天井等との衝突を防ぐようにしている。
・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
・・・本発明は、このような実情に鑑み、ロプス上体が上下方向に昇降自在であり且つロプス上体を少なくとも上昇させた位置で保持可能とすることで、高さ変更が容易である走行車両のロプス装置を提供することを目的とする。」
「【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1,2において、走行車両として農用トラクタ44を例示している。・・・
【0010】
・・・前記ロプス装置1は、ロプス上体5とそれを支えるロプス下体4とから構成されており、ロプス下体4は左右一対の下部支柱2から構成されている。」
図1
[図:0001393976000006.jpg]
5 参考文献2について
令和4年1月25日の申立人による意見書に添付された特開2013-121330号公報(以下、「参考文献2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
この発明は、薬液タンクに収容された薬剤を圃場に散布する薬剤散布作業車に関する。」
「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいてこの発明の実施態様について説明する。
図1に薬剤散布装置を前部に取り付けた薬剤散布作業車の側面図を示し、図2には図1の薬剤散布作業車の平面図を示す。なお、本明細書では薬剤散布作業車の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右という。
【0019】
薬剤散布作業車の車体(車体フレーム)1は、前輪12及び後輪13を軸装するアクスルハウジングをローリング自在に支持する。また、ハンドルポスト59により支持されたステアリングハンドル14の回転操作により前輪12を操向すると共にボンネット15下のエンジン(図示せず)によって伝動走行される。この車体1には操縦席17の後部から左右両側にわたって囲うように形成された薬液タンク18を車体1に対し着脱自在に搭載し、この薬液タンク18内の薬液を前側に設けられる散布ブーム19へ圧送する防除ポンプ65が車体1の操縦席17の下方に設けられている。」
「【0040】
図5には、図1の薬剤散布作業車の本機コントローラと防除機コントローラの構成図を示す。
図5に示すように、薬剤散布作業車(本機)のコントローラ100と薬液タンク18と薬剤散布用ブーム43,44と薬液ホース61,66などとその流量制御弁73などから構成される防除機B(図6)のコントローラ101から本実施例のコントローラは構成され、本機のコントローラ100にはGPS受信機81が接続される。該GPS受信機81は複数のGPS衛星からの信号を受信し、本機の現在位置データとして記憶すると共に、時計回路で計測する所定時間毎に現在位置データを更新しながら移動距離を算出し、該時計回路による所定時間おきに速度、すなわち車速を本機コントローラ100にある車速算出手段5により算出する構成としている。また、本機コントローラ100には車軸の回転数から車速を検出する車速センサ6からも入力がある。
【0041】
本実施例の薬剤散布作業車では、該作業車に搭載して車速に連動して薬液を散布する防除機Bにおいて、薬液濃度と車速等により薬剤散布量を決めて防除ポンプ65の薬液吐出量を決める。なお、前記GPS受信機81はGPSからの車両速度情報と位置情報を得ることができる。」
図2
[図:0001393976000007.jpg]
6 参考文献3について
令和4年1月25日の申立人による意見書に添付された特開2014-42484号公報(以下、「参考文献3」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
この発明は、薬液タンクに収容された薬液を圃場に散布する薬剤散布作業車両に関する。」
「【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいてこの発明の実施態様について説明する。
図1に薬液散布装置を前部に取り付けた薬液散布作業車の側面図を示し、図2には薬液散布作業装置部分の平面図を示す。なお、本明細書では薬液散布作業車の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右という。
【0019】
薬液散布作業車の車体1は、前輪12及び後輪13を軸装するアクスルハウジングをローリング自在に支持する。また、ハンドルポスト59により支持されたステアリングハンドル14の回転操作により前輪12を操向すると共にボンネット15下のエンジン(図示せず)によって伝動走行される。この車体1には操縦席17の後部から左右両側にわたって囲うように形成された薬液タンク18を車体に対し着脱自在に搭載し、この薬液タンク18内の薬液を前側に設けられる散布ブーム19へ圧送する防除ポンプ65が車体1の操縦席17の下方に設けられている。」
「【0044】
図5には、図1の薬剤散布作業車の本機コントローラと防除機コントローラの構成図を示す。
図5に示すように、薬剤散布作業車(本機)のコントローラ100と薬液タンク18と薬剤散布用ブーム43,44と薬液ホース61,66などとその流量制御弁73などから構成される防除機B(図6)のコントローラ101から本実施例のコントローラは構成され、本機のコントローラ100にはGPS受信機81が接続される。該GPS受信機81は複数のGPS衛星からの信号を受信し、本機の現在位置データとして記憶すると共に、時計回路で計測する所定時間毎に現在位置データを更新しながら移動距離を算出し、該時計回路による所定時間おきに速度、すなわち車速を本機コントローラ100にある車速算出手段5により算出する構成としている。また、本機コントローラ100には車軸の回転数から車速を検出する車速センサ6からも入力がある。
【0045】
本実施例の薬剤散布作業車では、該作業車に搭載して車速に連動して薬液を散布する防除機Bにおいて、薬液濃度と車速等により薬剤散布量を決めて防除ポンプ65の薬液吐出量を決める。なお、前記GPS受信機81はGPSからの車両速度情報と位置情報を得ることができる。」
図2
[図:0001393976000008.jpg]
第6 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「操縦者」は前者の「操縦者」に相当し、以下同様に、「運転席」は「運転座席」に、「左右前輪2、2」は「前輪」に、「ボンネット4」は「ボンネット」に、「ステアリングハンドル24」は「ステアリングホイール」に、「ロブスタ57」は「ロプス」に、「GPS受信機50」は「衛星測位情報を受信するアンテナ」に、「~を有」することは「~が備」えられることに、「トラクタ」は「トラクタ」に、それぞれ相当する。
また、後者の「操縦者が着座可能な運転席」は前者の「操縦者が着座可能な運転座席」に、後者の「運転席の前方に、且つ、側面視で左右前輪2、2の中心から垂直方向上方に設けられるボンネット4」は前者の「前記運転座席の前方に、且つ側面視で前輪の中心から垂直方向上方に設けられたボンネット」に、後者の「運転席の前方に設けられるステアリングハンドル24」は前者の「前記運転座席の前方に設けられたステアリングホイール」に、後者の「運転席の後方に設けられるロブスタ57」は前者の「前記運転座席の後方に設けられ」る「ロプス」に、それぞれ相当する。
そして、後者の「GPS受信機50が、側面視において、ステアリングハンドル24の上端を通る水平ラインよりも下方に位置するように、ハンドルステアリング24より前方でボンネット4より後方に設けられるフロントケース49の上面に取り付けられる」ことは、前者の「前記アンテナユニットが、側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で、且つ、前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように前記ボンネットに備えられている」ことと、「前記アンテナユニットが、側面視において、」「前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように」「備えられている」点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりとなる。
<一致点>
「操縦者が着座可能な運転座席と、
前記運転座席の前方に、且つ、側面視で前輪の中心から垂直方向上方に設けられたボンネットと、
前記運転座席の前方に設けられたステアリングホイールと、
前記運転座席の後方に設けられるロプスと、
衛星測位情報を受信するアンテナユニットが備えられ、
前記アンテナユニットが、側面視において、前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように備えられているトラクタ。」
<相違点1>
ロプスが、本件発明1では、左右の縦フレーム部の上端に横フレーム部が連結するのに対し、甲1発明では、具体的構成が不明である点。
<相違点2>
アンテナユニットが、本件発明1では、「前記ボンネットから上方に突出し、」「側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で、且つ、前記アンテナユニットの下面における後端部が前記ステアリングホイールの下端を通る水平姿勢の水平ラインよりも上方に位置するように、且つ、前記前輪の中心よりも前方に位置するように、且つ、正面視において、車体左右方向における中央部に位置し、且つ、前記アンテナユニットの幅が前記ステアリングホイールの幅よりも小さくなり且つ前記ステラリングホイールの幅の範囲内に位置するように、前記ボンネットに」備えられ、かつ、「正面視において、機体に設けられ前記アンテナユニットと重複する障害物が前記アンテナユニットの機体前後方向における前方に存在せず、且つ、側面視において、機体に設けられ前記アンテナユニットと重複する障害物が前記アンテナユニットの機体幅方向における外側に存在しないように」配置されているのに対し、甲1発明では、「フロントケース49の上面に」取り付けられる点。
(2)相違点についての判断
まず、相違点1について検討する。
トラクタにおいて、ロプスを、左右の縦フレーム部の上端に横フレーム部が連結することは、本願出願前の周知技術(例えば、甲4の【0009】、図2、追加文献1の【0016】、追加文献2の【0010】、図1等参照。以下、「周知技術A」という。)であるから、甲1発明において、周知技術Aを適用して、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
次に、相違点2について検討する。
まず、トラクタ等の作業車において、GPS受信機を、前輪の中心よりも前方に位置するように、且つ、正面視において、車体左右方向における中央部に位置し、且つ、GPS受信機の幅がステアリングホイールの幅よりも小さくなるように、ボンネットの上面に設けることは、本願出願前の周知技術(例えば、参考文献2の【0019】、【0040】、図2、参考文献3の【0019】、【0044】、図2等参照。以下、「周知技術B」という。)である。
したがって、甲1発明において、周知技術Bを適用して、GPS受信機50を、左右前輪2,2の中心よりも前方に位置するように、且つ、正面視において、車体左右方向における中央部に位置し、且つ、GPS受信機50の幅がステアリングホイールの幅よりも小さくなるように、ボンネット4の上面に設けることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎない。
次に、トラクタにおいて、ロプスはトラクタが転倒した場合でも操縦者の安全を守るものであるから、ある程度以上の高さが必要であるのは明らかであり、その高さは車庫への格納時に支障が出得るものであり(例えば、追加文献1の【0002】、追加文献2の【0002】等参照。)、甲1発明において、ロブスタ57(ロプス)の高さを高くすればするほど、ロブスタ57(ロプス)の上端とステアリングハンドル24(ステアリングホイール)の上端を結ぶラインの、ステアリングハンドル24から前方に延びた部分は、下方に行くものであるから、甲1発明において、周知技術Bを適用して、ボンネット4の上面の前方にGPS受信機50を設けると、結果として多くの場合、GPS受信機50は、ロブスタ57(ロプス)の上端とステアリングハンドル24(ステアリングホイール)の上端を結ぶラインの上側に位置することとなる。
そうすると、甲1発明において、GPS受信機を前輪の中心よりも前方に位置するようにボンネット正面に設けるとともに、ロプスをより高く設けることで、上記相違点2のうち、アンテナユニットを「前記ボンネットから上方に突出し、」「側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で、」「且つ、前記前輪の中心よりも前方に位置する」構成(以下「前提構成」という)とする程度のことは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。
しかしながら、甲1の図1等を参照すると、ボンネット4の上面は前方に行くほど下方に下がっているので、甲1発明において、ボンネット4の上面の前方にGPS受信機50を設けると、GPS受信機50の下面における後端部は、ステアリングハンドル24の下端を通る水平ラインよりも下方に位置する蓋然性が高い。
そうすると、甲1発明において、上記前提構成を維持しつつ、GPS受信機50の下面における後端部が、ステアリングハンドル24の下端を通る水平ラインよりも上方に位置すること、すなわち、上記相違点2の「アンテナユニットの下面における後端部がステアリングホイールの下端を通る水平姿勢の水平ラインよりも上方に位置するように」構成することは難しいと認められるところ、GPS受信機50の位置やロブスタ57(ロプス)の高さを調節すること等によって、これら両方を同時に成り立たせようとすることは、甲1だけでなく他の証拠にも記載も示唆もないことから、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び周知技術A、Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 本件発明2~4、7、8について
本件発明2~4及び請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明7、8は、本件発明1の構成を全て含み、かつ、さらに限定を加えたものであるから、上記1(2)で説示したのと同じ理由により、甲1発明及び周知技術A、Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の内容
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項5、6に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正前発明5」、「本件訂正前発明6」という。)について、以下の(1)を主張する。
なお、以下のとおり、申立人が提出した「甲第6号証」は、「甲6」という。
[証拠一覧]
甲6:特開2017-182715号公報
(1)特許異議申立理由
本件訂正前発明5、6は、甲1に記載された発明、甲6に記載された事項及び甲2~4で把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものある。
2 証拠の記載事項
(1)甲6について
甲6には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、GPSモジュール(位置算出手段と送信手段)の盗難抑止効果を向上させることができ、GPSモジュールを安定的に設置することが可能な作業機を提供する。」
「【0037】
図4及び図5に示すように、GPSモジュール60は、ボンネット50内(エンジンルーム)に配置される。GPSモジュール60は、ボンネット50内において、上側部に配置される。・・・」
「【0040】
ボンネット50は、位置算出手段61(詳細には、アンテナ部61a)による情報の受信、及び、送信手段62による情報の送信を許容する材料で構成される。すなわち、ボンネット50は、位置算出手段61と送信手段62を覆っているが、位置算出手段61(アンテナ部61a)、及び、送信手段62による電波授受が、ボンネット50により妨げられないように構成されている。本実施形態のボンネット50は樹脂製である。」
図3
[図:0001393976000009.jpg]
図5
[図:0001393976000010.jpg]
(2)甲2について
甲2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0014】
図2に示すように、D-GPS用の移動局側GPS用アンテナ11は、上記芝刈作業車10の、例えばボンネット部にボルトナットなどで固定されている。」
図2
[図:0001393976000011.jpg]
(3)甲3について
甲2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、GNSS受信機を建設機械等の振動の多い車両に取り付けるための取付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械にGNSS(Global Navigation Satellite Systems)受信機を取り付けることは、例えば特許文献1~特許文献3に記載されているように、従来から知られている。なお、GNSSとは、人工衛星を利用して現在位置を測定する衛星測位システムの総称であり、例えばGPS、GOLONASS、GALILEO、COMPASSなどが含まれる。・・・」
「【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2に、本実施形態にかかるGNSS受信機取付装置を用いて、GNSS受信機を建設機材の一例としてのロードローラに取り付けたところを示している。
GNSS受信機取付装置30は、GNSS受信機20を搭載し、ロードローラ10のボンネット上面に配置されている。」
図1
[図:0001393976000012.jpg]
3 対比・判断
(1)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1発明とを対比する。
上記「第6 1(1)」で説示した内容を踏まえると、本件発明5と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「操縦者が着座可能な運転座席と、
前記運転座席の前方に設けられたボンネットと、
前記運転座席の前方に設けられたステアリングホイールと、
前記運転座席の後方に設けられ、左右の縦フレーム部の上端に横フレーム部が連結するロプスと、
衛星測位情報を受信するアンテナユニットが備えられ、
前記アンテナユニットが、側面視において、前記ステアリングホイールの上端を通る水平姿勢の水平ラインよりも下方に位置するように備えられているトラクタ。」
<相違点3>
ロプスが、本件発明5では、左右の縦フレーム部の上端に横フレーム部が連結するのに対し、甲1発明では、具体的構成が不明である点。
<相違点4>
本件発明5では、アンテナユニットが「側面視において、前記ロプスの前記横フレーム部の上端と前記ステアリングホイールの上端とを結ぶ領域ラインより上側で位置するように前記ボンネットの内部に」備えられ、前記ボンネットのうちの前記アンテナユニットに対向する部分の少なくとも一部が「樹脂製」であるのに対し、甲1発明では、GPS受信機50は「フロントケース49の上面に」取り付けられる点。
イ 相違点についての判断
まず、相違点3について検討すると、相違点3は実質的に相違点1と同様であるから、上記「第6 1(2)」で説示したのと同様の理由により、甲1発明において、周知技術Aを適用して、相違点3に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
次に、相違点4から検討する。
甲6には、作業機において、ボンネット50内にGPSモジュール60が配置され、ボンネット50は樹脂製であること(【0001】、【0037】、【0040】、図3、5等参照。以下、「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。
一方、上記「第6 1(2)」で説示したように、トラクタにおいて、ロプスはトラクタが転倒した場合でも操縦者の安全を守るものであるから、ある程度以上の高さが必要であるのは明らかであり、甲1発明において、ロブスタ57(ロプス)の高さを高くすればするほど、ロブスタ57(ロプス)の上端とステアリングハンドル24(ステアリングホイール)の上端を結ぶラインの、ステアリングハンドル24から前方に延びた部分は、下方に行くものである。
しかしながら、甲1発明において、相違点4に係る本件発明5の構成とするためには、少なくとも甲6技術事項を適用することが必要であると認められるところ、甲6技術事項を適用すると、GPS受信機50(アンテナユニット)は、ボンネット4内に設けられることとなり、ロブスタ57(ロプス)の高さをある程度高くしたからといって、必ずしも、ロブスタ57(ロプス)の上端とステアリングハンドル24(ステアリングホイール)の上端を結ぶラインの上側になるとはいえないし、いずれの証拠にもボンネット内にあるGPS受信機を上記ラインの上側に配置するという技術思想は開示されていない。
そして、上記2(2)、(3)に示すように、甲2、3には、ボンネット上にGPS受信機が設けられていることが記載されているが、相違点4に係る事項は記載されていない。
したがって、甲1発明において、相違点4に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そうすると、本件発明5は、甲1発明、甲6に記載された事項及び甲2~4で把握される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明6~8について
本件発明6及び請求項5を直接的又は間接的に引用する本件発明7、8は、本件発明5の全ての構成を含み、かつ、さらに限定を加えたものであるから、上記(1)イで説示したのと同じ理由により、甲1発明、甲6に記載された事項及び甲2~4で把握される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700621