2021-700411
糖化ヘモグロビンの測定方法及び糖化ヘモグロビン測定装置
- 審判番号
- 2021-700411
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-095191外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6780290
- 請求日
- 2021年04月28日
- 審決日
- 2022年01月05日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1652.16 -YAA(G01N) / P1652.537-YAA(G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第7項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条の2
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
特許第6780290号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成28年(2016年)5月11日の出願であり、令和2年10月19日にその特許権の設定登録がされ、令和2年11月4日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
という。)による請求項1,2,4及び
6~9に係る特許に対する特許異議の申立て
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求(令和3年9月21日提出の訂正請求書による訂正請求)による訂正の内容は、以下の(1)及び(2)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの糖化ピークの面積を推定する工程を含み、」と記載されているのを、「前記異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの糖化ピークの面積とその異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和を推定する工程を含み、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に「その異常ヘモグロビンのピークの面積を計算し、」と記載されているのを「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピークの面積を計算し、」に訂正する。(請求項6の記載を引用する請求項7~9も同様に訂正する。)
2. 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項、独立特許要件
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正後の請求項1に係る発明では、「(5)」の工程を
「(5)同定された異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピーク面積を用いて、前記異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの糖化ピークの面積を推定する工程」
から
「(5)同定された異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピーク面積を用いて、前記異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの糖化ピークの面積とその異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和を推定する工程」
に限定することで、訂正前の請求項1に係る発明の、補正のために用いられる推定計算結果の計算方法を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 上記「ア」から明らかなように、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の補正のために用いられる推定計算結果の計算方法において、同定された異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピーク面積を用いて、前記異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの糖化ピークの面積を推定する工程を含むものであったものを、同定された異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピーク面積を用いて、その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和を推定する工程をさらに含むものに限定するものであり、訂正前の請求項1の記載について、訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーを変更するものでもなく、かつ、訂正前の請求項1に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならない。したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないため、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ そして、明細書の発明の詳細な説明には、段落【0011】に
「本発明は、ヘモグロビンAに関する糖化ピークsA1cのA0を含むヘモグロビンAに由来するA1a,A1b,LA1cとsA1cの和に対する割合は異常ヘモグロビンの場合も同じであるという仮定に基づいて、A1c%を補正することを特徴とする。具体的には、A0と同時に溶出する異常ヘモグロビンの糖化ピークは、クロマトグラム上で分離できないという課題を解決するため、前記仮定に則り、A1c%=100sA1c/(A0+α)=100X1c/(X0+β+X1c) 式(1)A´=A0+X1c 式(2)を満足する、X1c=[(A´+α-sA1c)-√{(A´+α-sA1c)2-4sA1c(X0+β)}]/2 式(3)でX1c及びA0を推定し、式(1)の100sA1c/(A0+α)から補正されたA1c%を計算することで前記課題を達成することが可能となった。ここで、A´はA0とそれと同時に溶出する異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積の和を指す。A0とそれと同時に溶出する異常ヘモグロビンの糖化ピークは、クロマトグラム上では分離できず、その和として観測される。sA1c、A0はそれぞれヘモグロビンAの糖化、非糖化ピーク面積、X1c及びX0はそれぞれA0と同時に溶出される異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積、A0の後で溶出される異常ヘモグロビンの非糖化ピーク面積を表す。また、α=A1a+A1b+LA1c+sA1c、βはA0から後ろに溶出されるピーク総面積からX0を除いたものである。」
と開示されており、上記「式(1)」において異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積であるX1c及びX0を用いて「(X0+β+X1c)」を求めていることから、「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和を推定する」ことは、願書に添付された明細書に記載した事項であるといえる。よって訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項1の一群の請求項及び独立特許要件について
訂正前の請求項1ないし5について、請求項2ないし5は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
また、本件においては、訂正前の請求項1,2及び4について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1,2及び4に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
さらに、特許異議の申立てがなされていない請求項3及び5については、上記訂正事項1により引用する請求項1が限定的に減縮されたことにより、訂正前の請求項3及び5もより減縮されたものとなることから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件を満たす。
(3)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正後の請求項6に係る発明では、「(5)前記検出手段が検出したクロマトグラムを分析するための分析手段」において、
「上記bにおいて異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピークが同定されたときには、その異常ヘモグロビンのピークの面積を計算し、その計算結果を用いて上記dにおいてsA1cのピーク面積の割合(%)を求め、その求めたsA1cのピーク面積の割合(%)を測定する」もの
から
「上記bにおいて異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピークが同定されたときには、その異常ヘモグロビンに関わる全てのピークの面積の和を計算し、その計算結果を用いて上記dにおいてsA1cのピーク面積の割合(%)を求め、その求めたsA1cのピーク面積の割合(%)を測定する」もの
に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 上記「ア」から明らかなように、訂正事項6は、上記bにおいて異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピークが同定されたときには、その異常ヘモグロビンのピークの面積を計算することを、上記bにおいて異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピークが同定されたときには、その異常ヘモグロビンに関わる全てのピークの面積の和を計算することに限定するものであり、訂正前の請求項6の記載について、訂正前の請求項6に記載された発明のカテゴリーを変更するものでもなく、かつ、訂正前の請求項6に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならない。したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではないため、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ そして、明細書の発明の詳細な説明には、段落【0011】に
「本発明は、ヘモグロビンAに関する糖化ピークsA1cのA0を含むヘモグロビンAに由来するA1a,A1b,LA1cとsA1cの和に対する割合は異常ヘモグロビンの場合も同じであるという仮定に基づいて、A1c%を補正することを特徴とする。具体的には、A0と同時に溶出する異常ヘモグロビンの糖化ピークは、クロマトグラム上で分離できないという課題を解決するため、前記仮定に則り、A1c%=100sA1c/(A0+α)=100X1c/(X0+β+X1c) 式(1)A´=A0+X1c 式(2)を満足する、X1c=[(A´+α-sA1c)-√{(A´+α-sA1c)2-4sA1c(X0+β)}]/2 式(3)でX1c及びA0を推定し、式(1)の100sA1c/(A0+α)から補正されたA1c%を計算することで前記課題を達成することが可能となった。ここで、A´はA0とそれと同時に溶出する異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積の和を指す。A0とそれと同時に溶出する異常ヘモグロビンの糖化ピークは、クロマトグラム上では分離できず、その和として観測される。sA1c、A0はそれぞれヘモグロビンAの糖化、非糖化ピーク面積、X1c及びX0はそれぞれA0と同時に溶出される異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積、A0の後で溶出される異常ヘモグロビンの非糖化ピーク面積を表す。また、α=A1a+A1b+LA1c+sA1c、βはA0から後ろに溶出されるピーク総面積からX0を除いたものである。」
と開示されており、上記「式(1)」において異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積であるX1c及びX0を用いて「(X0+β+X1c)」を求めていることから、「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和を推定する」ことは、願書に添付された明細書に記載した事項であるといえる。よって訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項2の一群の請求項及び独立特許要件について
訂正前の請求項6ないし9について、請求項7ないし9は請求項6を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項6ないし9に対応する訂正後の請求項6ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
また、本件においては、訂正前の請求項6ないし9について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項6ないし9に係る訂正事項2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項1ないし9について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1ないし9」は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】安定型糖化ヘモグロビンsA1cの測定方法であって、(1)血液試料を溶血後、陽イオン交換クロマトグラフィーに供してsA1cを他のヘモグロビンから分離して溶出し、各ヘモグロビン分画の溶出を示すクロマトグラムを取得する工程、(2)取得したクロマトグラムからsA1cのピークを同定し、そのピーク面積を計算する工程、(3)取得したクロマトグラムから、sA1c以外のヘモグロビンのピークを同定し、それらのピーク面積を計算する工程、及び、(4)ヘモグロビンAの非糖化ピークの後ろに出現するピークから異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピークを同定する工程、(5)同定された異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピーク面積を用いて、前記異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの糖化ピークの面積とその異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和を推定する工程を含み、その推定計算結果を用いて補正されたsA1cのピーク面積の割合(%)を求める方法。【請求項2】前記工程4において、異常ヘモグロビンD又は異常ヘモグロビンSの非糖化ピークが同定されたときに、その異常ヘモグロビンD又は異常ヘモグロビンSの糖化ピークはヘモグロビンAの非糖化ピークA0と重なって溶出され、かつsA1cピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積の和に対する割合と、その異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積のその異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和に対する割合が等しいという前提の元に、sA1cピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積に対する割合(%)を補正する、請求項1に記載の方法。続きを表示(全35行)【請求項3】前記工程4において、異常ヘモグロビンCの非糖化ピークが同定されたときに、その異常ヘモグロビンCの糖化ピークはヘモグロビンAの非糖化ピークA0の後ろに溶出されるという前提の元に、sA1cのピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積に対する割合(%)を補正する、請求項1に記載の方法。【請求項4】前記工程4において、異常ヘモグロビンD又は異常ヘモグロビンSの非糖化ピークが同定されたときに、その異常ヘモグロビンD又は異常ヘモグロビンSの糖化ピークはヘモグロビンAの非糖化ピークA0と重なって溶出され、かつsA1cピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積の和に対する割合と、その異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積のその異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和に対する割合が等しいという前提の元に、sA1cピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積に対する割合(%)を以下の式に従って補正する、請求項1又は2に記載の方法。【数1】[図:0001384115000001.jpg]ここで、A´はA0とそれと同時に溶出する異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積の和で、クロマトグラム上はA0として観測されるピーク面積。sA1c、A0はそれぞれヘモグロビンAの糖化、非糖化ピーク面積、X1c及びX0はそれぞれA0と同時に溶出される異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積、A0の後で溶出される異常ヘモグロビンの非糖化ピーク面積を表し、又、α=A1a+A1b+LA1c+sA1c、βはA0から後ろに溶出されるピーク総面積からX0を除いたものである。【請求項5】前記工程4において、異常ヘモグロビンCの非糖化ピークが同定されたときに、その異常ヘモグロビンCの糖化ピークはヘモグロビンAの非糖化ピークA0の後ろに溶出されるという前提の元に、sA1cのピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積に対する割合(%)を以下の式に従って補正する、請求項1又は3に記載の方法。【数2】[図:0001384115000002.jpg]ここで、A´はクロマトグラム上A0として観測されるピーク面積。sA1c、A0はそれぞれヘモグロビンAの糖化、非糖化ピーク面積、又、α=A1a+A1b+LA1c+sA1cである。【請求項6】安定型糖化ヘモグロビンsA1cの測定装置であって、(1)溶血した血液試料を導入するための試料導入手段、(2)陽イオン交換能を有する樹脂からなる分離手段、(3)液体を移送するための送液手段、(4)前記分離手段から溶出するヘモグロビンを検出しクロマトグラムを得るための検出手段、(5)前記検出手段が検出したクロマトグラムを分析するための分析手段、の各手段を備え、前記分析手段は、a)クロマトグラムに出現したピーク面積を計算するためのベースラインの設定、b)クロマトグラムに出現したピークがいずれのヘモグロビンに由来するものであるかの同定、c)クロマトグラムに出現したピーク面積の計算、d)sA1cピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積に対する割合(%)の計算、を実施するものであり、上記bにおいて異常ヘモグロビンD、異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピークが同定されたときには、その異常ヘモグロビンに関わる全てのピークの面積の和を計算し、その計算結果を用いて上記dにおいてsA1cのピーク面積の割合(%)を求め、その求めたsA1cのピーク面積の割合(%)を測定することを特徴とする、前記装置。【請求項7】ヘモグロビンAの非糖化ピークの後に出現する最も顕著なピークを異常ヘモグロビンD,異常ヘモグロビンS又は異常ヘモグロビンCの非糖化ピークとして同定し、分析手段において上記分析を実施することを特徴とする請求項6に記載の測定装置。【請求項8】前記bにおいて、異常ヘモグロビンD又は異常ヘモグロビンSの非糖化ピークが同定されたときに、前記dにおいてその異常ヘモグロビンD又は異常ヘモグロビンSの糖化ピークはヘモグロビンAの非糖化ピークA0と重なって溶出され、かつsA1cピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積の和に対する割合と、その異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積のその異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和に対する割合が等しいという前提の元に、sA1cのピーク面積の割合(%)を測定する、請求項6又は7に記載の測定装置。【請求項9】前記bにおいて、異常ヘモグロビンCの非糖化ピークが同定されたときに、前記dにおいてその異常ヘモグロビンCの糖化ピークはヘモグロビンAの非糖化ピークA0の後ろに溶出されるという前提の元に、sA1cのピーク面積の割合(%)を測定する、請求項6又は7に記載の測定装置。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし9に係る特許に対して、当審が令和3年7月19日(起案日)に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
●取消理由1(拡大先願)
請求項1,請求項6,及び請求項6を引用する請求項7に係る発明は、本件特許出願後に甲第1号証(特開2017-194349号公報)として出願公開された特願2016-84714号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
甲第1号証 特願2016-84714号(特開2017-194349号公報)
2.甲号証の記載
(1)甲第1号証に開示された先願
本件特許の出願前である平成28年(2016年)4月20日に出願され、本件特許出願の出願後である平成29年(2017年)10月26日に甲第1号証として公開された、特願2016-84714号(以下「先願甲1」という。)には、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初明細書等」という。)に、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。)
ア 「【0006】本発明は、液体クロマトグラフィ法やキャピラリ電気泳動法、キャピラリ電気クロマトグラフィ法などの分離分析法を用いたヘモグロビンの分離分析において、変異ヘモグロビンがヘモグロビンA0と十分に分離されておらず干渉する場合であっても、sA1cの面積比率を精度良く測定することができる糖化ヘモグロビン測定方法、糖化ヘモグロビン測定装置、及び糖化ヘモグロビン測定プログラムの提供を目的とする。」
イ 「【0013】また、本発明の一態様は、前記変異ヘモグロビンが、ヘモグロビンDである。」
ウ 「【0025】以下、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態では、分離分析法の一例として液体クロマトグラフィ法を用いる例を示すが、本発明は、この方法に限定されず、分離分析により糖化ヘモグロビンに関するクロマトグラムを生成可能なあらゆる方法、例えば、キャピラリ電気泳動法やキャピラリ電気クロマトグラフィ法についても、同様に当てはまる。」
エ 「【0027】図1には、高速液体クロマトグラフィ(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)を利用したHPLC装置Xの概略構成図を示した。【0028】HPLC装置Xは、採血管11をセットして、全血中のグリコヘモグロビン(HbA1c)の濃度を自動で測定するように構成されたものである。このHPLC装置Xは、複数の溶離液ボトル12A、12B、12C、12D、12E(図1では5個)等を含む装置本体2を備えている。続きを表示(全30行)【0029】各溶離液ボトル12A~12Eは、後述する分析カラム60に供給すべき溶離液A~Eを各々保持したものである。各溶離液は、用途に応じて例えば組成、成分比、pH、浸透圧等が異なる。【0030】装置本体2は、試料調製ユニット5、分析ユニット6、及び測光ユニット7を有している。【0031】採血管11は、後述する試料調製ユニット5におけるノズル51により採取可能な位置に移動するように構成されている。【0032】試料調製ユニット5は、採血管11から採取した血液から、分析カラム60に導入する試料を調製するためのものである。この試料調製ユニット5は、ノズル51、及び希釈槽53を有している。【0033】ノズル51は、採血管11の血液試料13をはじめとする各種の液体を採取するためのものであり、液体の吸引・吐出が可能であるとともに、上下方向及び水平方向に移動可能とされている。このノズル51の動作は、後述する制御部100によって制御される。【0034】分析ユニット6は、分析カラム60の充填剤に対する生体成分の吸着・脱着をコントロールし、各種の生体成分を測光ユニット7に供するためのものである。分析ユニット6における設定温度は、例えば40℃程度とされる。分析カラム60は、試料中のヘモグロビンを選択的に吸着させるための充填剤を保持させたものである。充填剤としては、例えばメタクリル酸-メタクリル酸エステル共重合体が使用される。【0035】分析ユニット6は、分析カラム60の他に、マニホールド61、送液ポンプ62、及びインジェクションバルブ63を有している。【0036】マニホールド61は、複数の溶離液ボトル12A~12Eのうちの特定の溶離液ボトルから、分析カラム60に選択的に溶離液を供給させるためのものである。このマニホールド61は、配管80A~80Eを介して溶離液ボトル12A、12B、12C、12D、12Eに各々接続され、配管84を介してインジェクションバルブ63に接続されている。【0037】送液ポンプ62は、溶離液をインジェクションバルブ63に移動させるための動力を付与するためのものであり、配管84の途中に設けられている。【0038】インジェクションバルブ63は、一定量の導入用試料を採取するとともに、その導入用試料を分析カラム60に導入可能とするものであり、複数の導入ポート及び排出ポート(図示省略)を備えている。このインジェクションバルブ63には、インジェクションループ64が接続されている。このインジェクションループ64は、一定量(例えば数μL)の液体を保持可能なものであり、インジェクションバルブ63を適宜切り替えることにより、インジェクションループ64が希釈槽53と連通して希釈槽53からインジェクションループ64に導入用試料が供給される状態、インジェクションループ64がプレフィルターPF及び配管85を介して分析カラム60と連通してインジェクションループ64から導入用試料が分析カラム60に導入される状態を選択することができる。このようなインジェクションバルブ63としては、例えば六方バルブを使用することができる。なお、プレフィルターPFは、試料や溶離液を濾過するためのフィルターである。【0039】測光ユニット7は、分析カラム60からの脱着液に含まれるヘモグロビンを光学的に検出するためのものであり、配管87を介して、分析カラム60からの脱着液を排出するための廃液槽88に接続されている。【0040】図2には、HPLC装置Xの制御系のブロック図を示した。図2に示すように、HPLC装置Xは、制御部100を備えている。制御部100は、CPU(Central Processing Unit)100A、ROM(Read Only Memory)100B、RAM(Random Access Memory)100C、不揮発性メモリ100D、及び入出力インターフェース(I/O)100Eがバス100Fを介して各々接続された構成となっている。【0041】I/O100Eには、試料調製ユニット5、分析ユニット6、及び測光ユニット7が接続されている。」
オ 「【0044】図3には、制御部100のCPU100Aで実行される糖化ヘモグロビン測定処理のフローチャートを示した。【0045】まずオペレータは、血液試料13が入った採血管11をラック10に保持させた状態で、ラック10をテーブル20の所定の部位にセットする。採血管11の血液試料13は、予め血漿層と血球層に分離させてもよい。血漿層と血球層の分離は、遠心分離機を用いて、あるいは血球成分を自然沈降させることにより行なうことができる。」
カ 「【0047】オペレータが操作パネル30を操作して測定開始を指示すると、CPU100Aは、不揮発性メモリ100Dに記憶された糖化ヘモグロビン測定プログラムを読み込んで実行する。【0048】ステップS10では、血液試料13を導入する。具体的には、まずラック10にセットされた採血管11から、血液試料13を採取する。すなわち、ノズル51を動作させることによって採血管11から血液試料13を採取する。ノズル51によって採取された血液試料13は、ノズル51を動作させることによって希釈槽53に供給される。希釈槽53にはさらに、調製液タンク52から希釈液が供給され、ノズル51を利用したピペッティング操作によって希釈槽53内の液体を混合することによって導入用試料が調製される。なお、溶血剤を含まない希釈液と溶血剤とを併用する場合には、希釈槽53に対して希釈液及び溶血液を同時的に供給して血液試料13の希釈及び血液試料13の血球の溶血を同時的に行なってもよいし、それらを、時間をおいて個別に供給し、血液試料13の希釈及び血液試料13の血球の溶血を別工程として行なってもよい。【0049】希釈槽53において調製された導入用試料は、希釈槽53において大気と一定時間接触させた後、インジェクションループ64に供給され、インジェクションループ64において保持される。」
キ 「【0053】そして、インジェクションバルブ63を切り替えてインジェクションループ64に保持された試料を分析カラム60に導入させる。分析カラム60に試料が導入されると、充填剤にsA1c、HbA0、及び変異Hb等が吸着される。」
ク 「【0062】上記制御シーケンスに従って、まず溶離液Aを分析カラム60に予め定めた時間供給すると、充填剤に吸着されたsA1cが脱着される。すなわち、分析カラム60からsA1cが溶出される。【0063】次に溶離液Cを分析カラム60に予め定めた時間供給すると、充填剤に吸着されたHbA0及びHbDが脱着される。すなわち、分析カラム60からHbA0及びHbDが溶出される。」
ケ 「【0068】分析カラム60から排出される各種ヘモグロビンを含む脱着液は、配管86を介して測光ユニット7の測光セル70に供給される。測光セル70に対しては、導入流路70Aを介して脱着液が導入され、この脱着液は測光流路70B及び排出流路70Cを通過した後に、配管87を介して廃液槽88に導かれる。【0069】測光ユニット7においては、脱着液が測光流路70Bを通過する際に、光源71によって脱着液に対して連続的に光が照射される。その一方で、測光流路70Bを透過した光は、ビームスプリッタ72において分割された後、測定用受光系73及び参照用受光系74において受光される。測定用受光系73では、干渉フィルタ73Aを透過した420nmの光が受光素子73Bにおいて選択的に受光される。一方、参照用受光系74では、干渉フィルタ74Aを透過した参照波長である500nmの光が受光素子74Bにおいて選択的に受光される。受光素子73B,74Bでの受光結果(吸光度)は、制御部100に出力され、制御部100においてクロマトグラムが演算・取得される。【0070】クロマトグラムは、図4に示したように、測定を開始してからの経過時間と受光素子73B,74Bでの受光結果としての吸光度との関係を表すグラフである。このクロマトグラムのピークがどの位置に現れるかによって、どのヘモグロビンが検出されたかを知ることができると共に、吸光度の大きさによってヘモグロビンの濃度を知ることができる。【0071】本実施形態では、例えば、測定試料にsA1c、HbA0、及びHbDが含まれている場合において、上記制御シーケンスによって溶離液を切り替えて分析カラム60に順次送液した場合に、図4に示すように、測定開始時点をt0として、ta、tb、tcの各時点にsA1c、HbA0、及びHbDのピークが現れることが予め想定されているとする。この場合、演算されたクロマトグラムから、ta付近でピークが現れているか否かを判断することにより、sA1cが検出されたか否かを判断することができる。同様に、tb付近でピークが現れているか否かを判断することによりHbA0が検出されたか否かを判断することができ、tc付近でピークが現れているか否かを判断することによりHbDが検出されたか否かを判断することができる。」
コ 「【0072】本実施形態で取得すべき測定結果は、下記(1)式で示すように、ヘモグロビンA(HbA)の面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率Rである。ここで、HbAは、sA1c及びHbA0を含む。【0073】R=A1/A ・・・(1)続きを表示(全20行)【0074】上記(1)式の分母であるHbAの面積Aは、HbA0の面積は含まれるが、HbDの面積は含まれない。HbDを含む血液試料では、図4に示すように、HbA0のピークとHbDのピークが近すぎ、HbA0とHbDとが十分に分離されておらず干渉する場合がある。この場合、干渉するHbDの影響を除去してHbA0の面積を求める必要がある。しかしながら、分析カラム60の状態や溶離液の状態等によって干渉の度合いが変化し、同じ試料を測定してもHbA0の面積が一定とならず、上記(1)式の面積比率Rが大きく変動してしまう場合がある。【0075】そこで、本実施形態では、以下のような処理を実行することにより、HbAの面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率Rを求める。【0076】まず、ステップS14で、sA1cの面積A1を算出する。具体的には、sA1cが溶出し始める時点t1から、sA1cの溶出が終了する時点t2までの吸光度を積算した値をsA1cの面積A1とする。なお、時点t1は、例えば時点taよりも少し前の時点で吸光度が予め定めた閾値以上になった時点とすることができるが、時点t1の特定の方法はこれに限られるものではない。同様に、時点t2は、例えば時点taよりも少し後の時点で吸光度が予め定めた閾値以下になった時点とすることができるが、時点t2の特定の方法はこれに限られるものではない。【0077】ステップS16では、HbAの面積A1を算出する。具体的には、吸光度の測定を開始した時点t0から、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3までの吸光度を積算した値をHbAの面積Aとする。【0078】ステップS18では、HbDの面積を算出する。具体的には、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3から、HbDの溶出が終了する時点t4までの吸光度を積算した値をHbDの面積Dとする。なお、時点t4は、例えば時点tcよりも少し後の時点で吸光度が予め定めた閾値以下になった時点とすることができるが、時点t4の特定の方法はこれに限られるものではない。【0079】ステップS20では、ステップS14で算出したsA1cの面積A1、ステップS16で算出したHbAの面積A、及びステップS18で算出したHbDの面積Dに基づいて、HbAの面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率R1を次式により算出する。なお、算出された面積比率R1は不揮発性メモリ100Dに記憶されたり、表示パネル31に表示されたりする。【0080】R1=(A1/(A+D))×a+b ・・・(2)【0081】ここで、a、bは予め定めた補正係数である。上記(2)式に示すように、面積比率R1は、HbAの面積AにHbDの面積を加算した面積に対するsA1cの面積比率を補正係数a、bで補正したものである。」
サ 「【0095】次に、本発明の第2実施形態について説明する。【0096】第2実施形態では、HbDが糖化した糖化HbD(D1c)の面積を考慮して、HbAの面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率を算出する場合について説明する。なお、装置構成は第1実施形態と同一であるので、説明は省略する。続きを表示(全18行)【0097】図5に示したように、HbA0が糖化したものの代表であるsA1cは、クロマトグラム上では、HbA0に先行して出現するが、HbDについても同様に、HbDが糖化したD1cが出現していることが考えられ、HbA0の中に含まれていると考えられる。【0098】また、HbDの糖化度はHbA0の糖化度と同様と考えられるため、HbDの面積Dに対するD1cの面積D1の面積比率は、HbA0の面積A0に対するsA1cの面積A1の面積比率と同様であると考えられ、A1/A0=D1/Dが凡そ成り立つと考えられる。【0099】そこで、本実施形態では、次式によりHbAの面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率R3を算出する。【0100】R3=[(A1+D1)/(A+D)]×a+b ・・・(4)【0101】ここで、D1は次式により算出される。【0102】D1=D×(A1/A)×α ・・・(5)【0103】ここで、αは係数であり、装置毎に適宜設定される。」
シ 「【図1】[図:0001384115000003.jpg]」
ス 「【図3】[図:0001384115000004.jpg]」
セ 「【図4】[図:0001384115000005.jpg]」
ソ 「【図5】[図:0001384115000006.jpg]」
上記甲第1号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、先願甲1には、次の発明(以下「先願甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「液体クロマトグラフィ法において、変異ヘモグロビンがヘモグロビンA0と十分に分離されておらず干渉する場合であっても、sA1cの面積比率を精度良く測定することができる糖化ヘモグロビン測定方法及び糖化ヘモグロビン測定装置であって、前記変異ヘモグロビンが、ヘモグロビンDであり、糖化ヘモグロビン測定処理の制御シーケンスは、まずラック10にセットされた採血管11から、ノズル51を動作させることによって血液試料13を採取し、続きを表示(全25行)ノズル51によって採取された血液試料13は、ノズル51を動作させることによって希釈槽53に供給され、希釈槽53にはさらに、調製液タンク52から希釈液が供給され、ノズル51を利用したピペッティング操作によって希釈槽53内の液体を混合することによって、血液試料13の希釈及び血液試料13の血球の溶血を行い、導入用試料が調製され、希釈槽53において調製された導入用試料は、希釈槽53において大気と一定時間接触させた後、インジェクションループ64に供給され、インジェクションループ64において保持され、インジェクションバルブ63を切り替えてインジェクションループ64に保持された試料を分析カラム60に導入させ、分析カラム60に試料が導入されると、充填剤にsA1c、HbA0、及び変異Hb等が吸着され、溶離液Aを分析カラム60に予め定めた時間供給して、充填剤に吸着されたsA1cを脱着して分析カラム60からsA1cが溶出され、次に溶離液Cを分析カラム60に予め定めた時間供給して、充填剤に吸着されたHbA0及びHbDが脱着して、分析カラム60からHbA0及びHbDが溶出され、分析カラム60から排出される各種ヘモグロビンを含む脱着液は、配管86を介して測光ユニット7の測光セル70に供給され、測光ユニット7においては、脱着液が測光流路70Bを通過する際に、光源71によって脱着液に対して連続的に光が照射され、その一方で、測光流路70Bを透過した光は、ビームスプリッタ72において分割された後、測定用受光系73及び参照用受光系74において受光され、測定用受光系73では、干渉フィルタ73Aを透過した420nmの光が受光素子73Bにおいて選択的に受光される一方、参照用受光系74では、干渉フィルタ74Aを透過した参照波長である500nmの光が受光素子74Bにおいて選択的に受光され、受光素子73B,74Bでの受光結果(吸光度)は、制御部100に出力され、制御部100においてクロマトグラムが演算・取得され、測定試料にsA1c、HbA0、及びHbDが含まれている場合において、上記制御シーケンスによって溶離液を切り替えて分析カラム60に順次送液した場合に、測定開始時点をt0として、ta、tb、tcの各時点にsA1c、HbA0、及びHbDのピークが現れることが予め想定されており、演算されたクロマトグラムから、ta付近でピークが現れているか否かを判断することにより、sA1cが検出されたか否かを判断することができ、同様に、tb付近でピークが現れているか否かを判断することによりHbA0が検出されたか否かを判断することができ、tc付近でピークが現れているか否かを判断することによりHbDが検出されたか否かを判断することができ、ヘモグロビンA(HbA)は、sA1c及びHbA0を含み、sA1cが溶出し始める時点t1から、sA1cの溶出が終了する時点t2までの吸光度を積算した値をsA1cの面積A1とし、吸光度の測定を開始した時点t0から、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3までの吸光度を積算した値をHbAの面積Aとし、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3から、HbDの溶出が終了する時点t4までの吸光度を積算した値をHbDの面積Dとし、HbDが糖化した糖化HbD(D1c)の面積を考慮して、HbAの面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率を算出する場合には、HbA0が糖化したものの代表であるsA1cは、クロマトグラム上では、HbA0に先行して出現するが、HbDについても同様に、HbDが糖化したD1cが出現していることが考えられ、HbA0の中に含まれていると考えられ、また、HbDの糖化度はHbA0の糖化度と同様と考えられるため、HbDの面積Dに対するD1cの面積D1の面積比率は、HbA0の面積A0に対するsA1cの面積A1の面積比率と同様であると考えられ、A1/A0=D1/Dが凡そ成り立つと考えられることから、以下の(4)式及び(5)式によりHbAの面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率R3を算出する、方法及び装置。R3=[(A1+D1)/(A+D)]×a+b ・・・(4)ここで、a、bは予め定めた補正係数であり、D1は次式により算出される。D1=D×(A1/A)×α ・・・(5)ここで、αは係数であり、装置毎に適宜設定される。」
(2) 甲第2及び3号証に開示された周知技術
ア 本件特許の出願前である平成23年(2011年)8月3日に発行された、特許第4740036号公報(甲第2号証)には、図面と共に以下の技術事項が記載されている。
「【0001】本発明は、陽イオン交換液体クロマトグラフィーを用いたヘモグロビン類の測定方法に関し、特に安定型ヘモグロビンA1cを高精度で測定することが可能なヘモグロビン類の測定方法に関する。」
イ 本件特許の出願前である平成24年(2012年)8月29日に発行された、特許第5013560号公報(甲第3号証)には、図面と共に以下の技術事項が記載されている。
「【0001】本発明は、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーにおいて、保持力の強いヘモグロビンS、ヘモグロビンA2、及び、ヘモグロビンA0であっても対称性の高いシャープなピークで分離することができるヘモグロビンSの分析方法、ヘモグロビンA2の分析方法、及び、ヘモグロビンA0の分析方法に関する。」
ウ 以上の記載より、甲第2及び3号証には
「ヘモグロビンの測定方法及び測定装置において、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーを用いる」
という技術が、本願出願前の周知技術として開示されている。
(3) 甲第4ないし6号証に開示された周知技術
ア 本件特許の出願前である平成24年(2012年)11月8日に頒布された刊行物である特開2012-215470号公報(甲第4号証)には、図面と共に以下の技術事項が記載されている。
「【0020】本発明に係る測定装置を図5に基づいて更に具体的に説明する。試料導入手段11に導入された溶血した血液試料は、分離手段13に送られ、さらに送液手段12により溶離液が分離手段13に送られることにより、ヘモグロビン類が分画されて溶出する。溶出されたヘモグロビンは、検出手段14により検出されて、クロマトグラムを与え、得られたクロマトグラムが分析手段15により分析される。分析手段15は、ベースライン設定モジュール16、ピーク同定モジュール17、ピーク面積計算モジュール18、及びsA1c割合計算モジュールを含み、まずベースライン設定モジュール16が、クロマトグラムに出現したピーク面積を計算するためのベースラインの設定を行う。続いて、ピーク同定モジュール17が、クロマトグラムに出現したピークがいずれのヘモグロビンに由来するものであるかを同定する。ここでピーク同定モジュール17は、例えば、記憶手段に予め記憶された異常ヘモグロビンEを含有しない血液試料のクロマトグラムと、検出手段14により与えられたクロマトグラムとを比較することにより、異常ヘモグロビンEに由来するピーク(P00)の有無を判定する様にすることができる。・・・」
イ 本件特許の出願前である平成9年(1997年)10月7日に頒布された刊行物である特開平9-264889号公報(甲第5号証)には、図面と共に以下の技術事項が記載されている。
(ア)「【0006】各ピークのピーク面積を求めるため、従来は、図3に示したようにまず面積計算を行うためのベースラインを設定する。クロマトデータ各点の微分値、即ち接線の傾きを計算し、微分値があらかじめ定めたしきい値(正の値)より大きくなった点をベースラインスタート点とし、同様に微分値があらかじめ定めたしきい値(負の値)より小さくなった点をベースラインエンド点とする。このベーラインスタート点とベースラインエンド点を結ぶ直線をピークのベースラインとし、クロマトデータ曲線とベースラインに囲まれた領域の面積をこのピークのピーク面積値とするのである。」
(イ)「【0034】図1は糖化ヘモグロビン測定装置の構成を示す図である。本発明は、図1中のCPU6(データ処理部)でのデータ処理方法に関するものであり、装置は従来のものを使用することが可能である。図1に示したように、サンプリング部1で収集された血液試料2中の糖化ヘモグロビン成分は、陽イオン交換樹脂を充填したカラムからなる液体クロマトグラフィーの分離系3にいったん吸着し、夾雑物と分離された後、溶離液により分離系外に溶出する。溶出した成分については検出器4により吸光度変化として検出される。そして、得られたクロマトグラムデータはA/D変換器5によりデジタル信号に変換された後、CPU6によりデータ処理される。」
ウ 本件特許の出願前である平成5年(1993年)1月14日に頒布された刊行物である特開平5-5730号公報(甲第6号証)には、図面と共に以下の技術事項が記載されている。
(ア)「【0118】前記評価パラメータとしては、保持時間,キャパシティーファクタ,選択係数,各成分に対応するピークのピーク幅又は半値幅,このピークの標準偏差σまたはバリアンスσ2 、このピーク幅とピーク高さの比、このピークの非対称性値(アシメトリファクタ),理論段数,ベースラインの直線性の少なくとも1つ以上の値を用いれば良い。しかも前記評価パラメータは、前記検体の予め定められた特定成分に対応して設定されることが好ましい。」
(イ)「【0134】なお、評価パラメータとしては上述のほかに、キャパシティーファクタ、各成分に対応するピークのピーク幅又は半値幅、このピークの標準偏差σ又はバリアンスσ2 、このピーク幅とピーク高さとの比、このピークの非対称性(アシメトリファクタ),ベースラインの直線性などを用いても良い。また、溶離条件としては、上記の他に、溶離液の混合比,溶離液の種類,溶離液の流速,通流する溶離液の種類の切り換え時間などを含めることができる。」
(ウ)「【0149】まず装置は、図1の三方バルブ15,22がなく1つのカラムで構成したものを用いた。ここでの説明では、分離カラムは18のものを用いたとして説明する。本実験における前提の分析条件について説明する。検体としては、抗凝固剤としてエチレンジアミン四酢酸ナトリュウム塩を添加して採血した新鮮血を用いた。この血液を市販の溶血材で200倍に希釈し、これを図1のオートサンプラ14のサンプルテーブル7にセットした。分離カラム18は粒径4.1μm のメタクリレート系ゲルにカルボキシメチル基を導入した弱酸性陽イオン交換樹脂をステンレス製カラム18(内径4.6mm,長さ35mm)に充填したものを用いた。分離カラム18の前段にプレフィルタ16を設けている。これは、血液中の固定物(膜など)や溶離液中の不純物が分離カラム18に入り、カラムの圧力損失が増大したり、充填剤が劣化するのを防ぐために設けられたものである。」
エ 以上の記載より、甲第4ないし6号証には
「ヘモグロビンの測定方法及び測定装置において、陽イオン交換樹脂を充填した分離カラムを用いた陽イオン交換液体クロマトグラフィーを用い、クロマトグラムの分析においてベースライン設定を行う」
という技術が、本願出願前の周知技術として開示されている。
3.当審の判断
取消理由1(拡大先願)について検討する。
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と先願甲1発明とを比較する。
(ア)先願甲1発明の「sA1cの面積比率を精度良く測定することができる糖化ヘモグロビン測定方法」は、本件発明1における「安定型糖化ヘモグロビンsA1cの測定方法」に相当する。
(イ)先願甲1発明の「液体クロマトグラフィ法」は、本件発明1の「陽イオン交換クロマトグラフィー」と、「クロマトグラフィー」の点で共通する。
(ウ)先願甲1発明の「sA1c」は、「HbA0」のピークが現れる時点tbよりも前の時点taで現れるピークに対応するものであるから、本件発明1における「安定型糖化ヘモグロビンsA1c」に相当する。
(エ)先願甲1発明の「ヘモグロビンA0」及び「HbA0」は、本件発明1における「ヘモグロビンAの非糖化」の成分に相当する。
(オ)先願甲1発明の「変異ヘモグロビン」である「ヘモグロビンD」は、本件発明1における「異常ヘモグロビンD」に相当する。
(カ)先願甲1発明の「HbD」は、「HbA0」のピークが現れる時点tbよりも後の時点tcで現れるピークに対応するものであるから、本件発明1における「ヘモグロビンAの非糖化ピークの後ろに出現する」「異常ヘモグロビンDの非糖化」の成分に相当する。
(キ)先願甲1発明の「HbDが糖化した糖化HbD(D1c)」は、本件発明1における「異常ヘモグロビンD」「の糖化」の成分に相当する。
(ク)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「sA1c」は、本件発明1における「ヘモグロビンAの糖化ピーク」に相当する。
(ケ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「HbA0」は、本件発明1における「ヘモグロビンAの非糖化ピーク」に相当する。
(コ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「HbD」は、本件発明1における「異常ヘモグロビンDの非糖化ピーク」に相当する。
(サ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「D1c」は、本件発明1における「異常ヘモグロビンDの糖化ピーク」に相当する。
(シ)先願甲1発明の「HbA0、及びHbD」は、「sA1c」とは別のヘモグロビンであることから、本件発明1における「他のヘモグロビン」及び「sA1c以外のヘモグロビン」に相当する。
(ス)先願甲1発明の「まずラック10にセットされた採血管11から、ノズル51を動作させることによって血液試料13を採取し、ノズル51によって採取された血液試料13は、ノズル51を動作させることによって希釈槽53に供給され、希釈槽53にはさらに、調製液タンク52から希釈液が供給され、ノズル51を利用したピペッティング操作によって希釈槽53内の液体を混合することによって、血液試料13の希釈及び血液試料13の血球の溶血を行い、導入用試料が調製され」ることは、本件発明1における「血液試料を溶血」することに相当する。
(セ)先願甲1発明の「希釈槽53において調製された導入用試料は、希釈槽53において大気と一定時間接触させた後、インジェクションループ64に供給され、インジェクションループ64において保持され、インジェクションバルブ63を切り替えてインジェクションループ64に保持された試料を分析カラム60に導入させ、分析カラム60に試料が導入されると、充填剤にsA1c、HbA0、及び変異Hb等が吸着され、溶離液Aを分析カラム60に予め定めた時間供給して、充填剤に吸着されたsA1cを脱着して分析カラム60からsA1cが溶出され、次に溶離液Cを分析カラム60に予め定めた時間供給して、充填剤に吸着されたHbA0及びHbDが脱着して、分析カラム60からHbA0及びHbDが溶出され」ることは、本件発明1における「血液試料を溶血後、」「クロマトグラフィーに供してsA1cを他のヘモグロビンから分離して溶出」することに相当する。
(ソ)先願甲1発明の「分析カラム60から排出される各種ヘモグロビンを含む脱着液は、配管86を介して測光ユニット7の測光セル70に供給され、測光ユニット7においては、脱着液が測光流路70Bを通過する際に、光源71によって脱着液に対して連続的に光が照射され、その一方で、測光流路70Bを透過した光は、ビームスプリッタ72において分割された後、測定用受光系73及び参照用受光系74において受光され、測定用受光系73では、干渉フィルタ73Aを透過した420nmの光が受光素子73Bにおいて選択的に受光される一方、参照用受光系74では、干渉フィルタ74Aを透過した参照波長である500nmの光が受光素子74Bにおいて選択的に受光され、受光素子73B,74Bでの受光結果(吸光度)は、制御部100に出力され、制御部100においてクロマトグラムが演算・取得され」ることは、本件発明1における「各ヘモグロビン分画の溶出を示すクロマトグラムを取得する」ことに相当する。
(タ)先願甲1発明の「測定試料にsA1c、HbA0、及びHbDが含まれている場合において、上記制御シーケンスによって溶離液を切り替えて分析カラム60に順次送液した場合に、測定開始時点をt0として、ta、tb、tcの各時点にsA1c、HbA0、及びHbDのピークが現れることが予め想定されており、演算されたクロマトグラムから、ta付近でピークが現れているか否かを判断することにより、sA1cが検出されたか否かを判断することができ、同様に、tb付近でピークが現れているか否かを判断することによりHbA0が検出されたか否かを判断することができ、tc付近でピークが現れているか否かを判断することによりHbDが検出されたか否かを判断することができ」ることは、本件発明1の「取得したクロマトグラムからsA1cのピークを同定し、」「取得したクロマトグラムから、sA1c以外のヘモグロビンのピークを同定し、」「ヘモグロビンAの非糖化ピークの後ろに出現するピークから異常ヘモグロビンD」「の非糖化ピークを同定する」ことに相当する。
(チ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「D1cの面積D1」は、本件発明1の「異常ヘモグロビンD」「の糖化ピーク面積」に相当する。
(ツ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「HbDの面積D」は、本件発明1の「異常ヘモグロビンD」「の非糖化ピーク面積」に相当する。
(テ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「sA1cの面積A1」は、本件発明1の「安定型糖化ヘモグロビンsA1c」「のピーク面積」に相当する。
(ト)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「HbAの面積A」は、「ヘモグロビンA(HbA)は、sA1c及びHbA0を含」み、「吸光度の測定を開始した時点t0から、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3までの吸光度を積算した値をHbAの面積Aと」することから、本件発明1の「sA1cのピーク面積の割合」を求める際のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積に相当する。
(ナ)先願甲1発明では、「sA1cの面積A1」「HbDの面積D」を用いて「HbAの面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率R3を算出する」ことから、先願甲1発明と本件発明1とは、「sA1c」の「ピーク面積を計算」する点、及び「異常ヘモグロビンD」の「非糖化ピーク面積」を求める点で共通している。
(ニ)先願甲1発明の「D1=D×(A1/A)×α ・・・(5) ここで、αは係数であり、装置毎に適宜設定される。」という式で、「HbDが糖化したD1c」「の面積D1」を「HbDの面積D」から求めていることは、本件発明1の「同定された異常ヘモグロビンD」「の非糖化ピーク面積を用いて、前記異常ヘモグロビンD」「の糖化ピークの面積」「を推定する工程」に相当する。
(ヌ)先願甲1発明の「R3=[(A1+D1)/(A+D)]×a+b ・・・(4)
ここで、a、bは予め定めた補正係数であり、D1は次式により算出される。
D1=D×(A1/A)×α ・・・(5)
ここで、αは係数であり、装置毎に適宜設定される。」という式を用いて「HbAの面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率R3を算出する」ことは、本件発明1の「その推定計算結果を用いて補正されたsA1cのピーク面積の割合」「を求める」ことに相当する。
すると、本件発明1と、先願甲1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「安定型糖化ヘモグロビンsA1cの測定方法であって、(1)血液試料を溶血後、クロマトグラフィーに供してsA1cを他のヘモグロビンから分離して溶出し、各ヘモグロビン分画の溶出を示すクロマトグラムを取得する工程、(2)取得したクロマトグラムからsA1cのピークを同定し、そのピーク面積を計算する工程、(3)取得したクロマトグラムから、sA1c以外のヘモグロビンのピークを同定し、それらのピーク面積を計算する工程、及び、(4)ヘモグロビンAの非糖化ピークの後ろに出現するピークから異常ヘモグロビンDの非糖化ピークを同定する工程、(5)同定された異常ヘモグロビンDの非糖化ピーク面積を用いて、前記異常ヘモグロビンDの糖化ピークの面積を推定する工程を含み、その推定計算結果を用いて補正されたsA1cのピーク面積の割合を求める方法。」
一方、本件発明1と、先願甲1発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
クロマトグラフィーが、本件発明1は「陽イオン交換クロマトグラフィー」であるのに対し、先願甲1発明は「液体クロマトグラフィ」である点。
<相違点1-2>
求めるsA1cのピーク面積の割合が、本件発明1は「(%)」単位であるのに対し、先願甲1発明は、%単位でない点。
<相違点1-3>
「(5)同定された異常ヘモグロビンDの非糖化ピーク面積を用いて、前記異常ヘモグロビンDの糖化ピークの面積を推定する工程」において、本件発明1は「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」も推定しているのに対し、先願甲1発明は上記構成を備えていない点。
イ 判断
上記各相違点について、事案に鑑み相違点1-3について検討する。
先願甲1発明では、変異ヘモグロビンであるHbDのピークの面積Dを、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3から、HbDの溶出が終了する時点t4までの吸光度を積算した値として求めており、HbDが糖化したD1cのピーク面積D1を式(5)より求めている。またヘモグロビンA(HbA)のピーク面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率R3を式(4)より求めている。
しかしながら、先願甲1発明では、変異ヘモグロビンHbDに関わる全てのピーク面積の和は推定しておらず、さらに面積比率R3を算出する式(4)にも変異ヘモグロビンHbDに関わる全てのピーク面積の和に対応する項は見当たらないことから、変異ヘモグロビンHbDに関わる全てのピーク面積の和を用いることも示してはいない。
そして、「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」を推定することは、周知慣用手段であるともいえない。
以上のことから、上記相違点1-3において、本件発明1と先願甲1発明とは少なくとも相違する。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、先願甲1発明であるとはいえない。
(2)本件発明6について
ア 対比
本件発明6と先願甲1発明とを比較する。
(ア)先願甲1発明の「sA1cの面積比率を精度良く測定することができる糖化ヘモグロビン測定」「装置」は、本件発明6における「安定型糖化ヘモグロビンsA1cの測定装置」に相当する。
(イ)先願甲1発明の「sA1c」は、「HbA0」のピークが現れる時点tbよりも前の時点taで現れるピークに対応するものであるから、本件発明6における「安定型糖化ヘモグロビンsA1c」に相当する。
(ウ)先願甲1発明の「ヘモグロビンA0」及び「HbA0」は、本件発明6における「ヘモグロビンA」の非糖化の成分に相当する。
(エ)先願甲1発明の「変異ヘモグロビン」である「ヘモグロビンD」は、本件発明6における「異常ヘモグロビンD」に相当する。
(オ)先願甲1発明の「HbD」は、「HbA0」のピークが現れる時点tbよりも後の時点tcで現れるピークに対応するものであるから、本件発明6におけるヘモグロビンAの非糖化ピークの後に出現する「異常ヘモグロビンDの非糖化」の成分に相当する。
(カ)先願甲1発明の「HbDが糖化した糖化HbD(D1c)」は、本件発明6における「異常ヘモグロビンD」の糖化の成分に相当する。
(キ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「sA1c」は、本件発明6における「ヘモグロビンA」の糖化ピークに相当する。
(ク)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「HbA0」は、本件発明6における「ヘモグロビンA」の非糖化ピークに相当する。
(ケ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「HbD」は、本件発明6における「異常ヘモグロビンDの非糖化ピーク」に相当する。
(コ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「D1c」は、本件発明6における「異常ヘモグロビンD」の糖化ピークに相当する。
(サ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「D1cの面積D1」は、本件発明6における「異常ヘモグロビンD」の糖化ピーク面積に相当する。
(シ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「HbDの面積D」は、本件発明6における「異常ヘモグロビンD」「の非糖化ピーク」「の面積」に相当する。
(ス)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「sA1cの面積A1」は、本件発明6における「安定型糖化ヘモグロビンsA1c」「のピーク面積」に相当する。
(セ)先願甲1発明の「クロマトグラム」における「HbAの面積A」は、「ヘモグロビンA(HbA)は、sA1c及びHbA0を含」み、「吸光度の測定を開始した時点t0から、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3までの吸光度を積算した値をHbAの面積Aと」することから、本件発明6の「sA1cのピーク面積の割合」を求める際のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積に相当する。
(ソ)先願甲1発明では「まずラック10にセットされた採血管11から、ノズル51を動作させることによって血液試料13を採取し、ノズル51によって採取された血液試料13は、ノズル51を動作させることによって希釈槽53に供給され、希釈槽53にはさらに、調製液タンク52から希釈液が供給され、ノズル51を利用したピペッティング操作によって希釈槽53内の液体を混合することによって、血液試料13の希釈及び血液試料13の血球の溶血を行い、導入用試料が調製され」ることから、先願甲1発明の「導入用試料」は、本件発明6における「溶血した血液試料」に相当する。
(タ)先願甲1発明では「希釈槽53において調製された導入用試料は、希釈槽53において大気と一定時間接触させた後、インジェクションループ64に供給され、インジェクションループ64において保持され、インジェクションバルブ63を切り替えてインジェクションループ64に保持された試料を分析カラム60に導入させ、分析カラム60に試料が導入される」ことから、先願甲1発明における「希釈槽53」と「インジェクションループ64」と「インジェクションバルブ63」は、本件発明6における「(1)溶血した血液試料を導入するための試料導入手段」に相当する。
(チ)先願甲1発明では「分析カラム60に試料が導入されると、充填剤にsA1c、HbA0、及び変異Hb等が吸着され、溶離液Aを分析カラム60に予め定めた時間供給して、充填剤に吸着されたsA1cを脱着して分析カラム60からsA1cが溶出され、次に溶離液Cを分析カラム60に予め定めた時間供給して、充填剤に吸着されたHbA0及びHbDが脱着して、分析カラム60からHbA0及びHbDが溶出され」ることから、先願甲1発明における「分析カラム60」は、本件発明6における「分離手段」に相当する。
(ツ)先願甲1発明では「分析カラム60から排出される各種ヘモグロビンを含む脱着液は、配管86を介して測光ユニット7の測光セル70に供給され」ることから、先願甲1発明における「配管86」は、本件発明6における「(3)液体を移送するための送液手段」に相当する。
(テ)先願甲1発明では「分析カラム60から排出される各種ヘモグロビンを含む脱着液は、配管86を介して測光ユニット7の測光セル70に供給され、測光ユニット7においては、脱着液が測光流路70Bを通過する際に、光源71によって脱着液に対して連続的に光が照射され、その一方で、測光流路70Bを透過した光は、ビームスプリッタ72において分割された後、測定用受光系73及び参照用受光系74において受光され、測定用受光系73では、干渉フィルタ73Aを透過した420nmの光が受光素子73Bにおいて選択的に受光される一方、参照用受光系74では、干渉フィルタ74Aを透過した参照波長である500nmの光が受光素子74Bにおいて選択的に受光され、受光素子73B,74Bでの受光結果(吸光度)は、制御部100に出力され、制御部100においてクロマトグラムが演算・取得され」ることから、先願甲1発明における「測光ユニット7」は、本件発明6における「(4)前記分離手段から溶出するヘモグロビンを検出しクロマトグラムを得るための検出手段」に相当する。
(ト)先願甲1発明では「制御部100においてクロマトグラムが演算・取得され、測定試料にsA1c、HbA0、及びHbDが含まれている場合において、上記制御シーケンスによって溶離液を切り替えて分析カラム60に順次送液した場合に、測定開始時点をt0として、ta、tb、tcの各時点にsA1c、HbA0、及びHbDのピークが現れることが予め想定されており、演算されたクロマトグラムから、ta付近でピークが現れているか否かを判断することにより、sA1cが検出されたか否かを判断することができ、同様に、tb付近でピークが現れているか否かを判断することによりHbA0が検出されたか否かを判断することができ、tc付近でピークが現れているか否かを判断することによりHbDが検出されたか否かを判断することができ」ることから、先願甲1発明における「制御部100」は、本件発明6における「b)クロマトグラムに出現したピークがいずれのヘモグロビンに由来するものであるかの同定」及び「異常ヘモグロビンDの非糖化ピーク」の「同定」「を実施する」「(5)前記検出手段が検出したクロマトグラムを分析するための分析手段」に相当する。
(ナ)先願甲1発明では、「制御部100において」「sA1cが溶出し始める時点t1から、sA1cの溶出が終了する時点t2までの吸光度を積算した値をsA1cの面積A1とし、吸光度の測定を開始した時点t0から、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3までの吸光度を積算した値をHbAの面積Aとし、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3から、HbDの溶出が終了する時点t4までの吸光度を積算した値をHbDの面積Dとし」ていることから、先願甲1発明における「制御部100」は、本件発明6における「分析手段」と「c)クロマトグラムに出現したピーク面積の計算」と「異常ヘモグロビンDの非糖化ピーク」「の面積」の「計算」とを実施する点で共通する。
(ニ)先願甲1発明では、「制御部100において」「以下の(4)式及び(5)式によりHbAの面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率R3を算出する。
R3=[(A1+D1)/(A+D)]×a+b ・・・(4)
ここで、a、bは予め定めた補正係数であり、D1は次式により算出される。
D1=D×(A1/A)×α ・・・(5)
ここで、αは係数であり、装置毎に適宜設定される。」
ことから、先願甲1発明における「制御部100」は、本件発明6における「分析手段」と「異常ヘモグロビンD」「の非糖化」「ピーク面積」「の計算結果を用いて」「d)sA1cピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積に対する割合の計算」を実施する点で共通する。
すると、本件発明6と、先願甲1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「安定型糖化ヘモグロビンsA1cの測定装置であって、(1)溶血した血液試料を導入するための試料導入手段、(2)分離手段、(3)液体を移送するための送液手段、続きを表示(全12行)(4)前記分離手段から溶出するヘモグロビンを検出しクロマトグラムを得るための検出手段、(5)前記検出手段が検出したクロマトグラムを分析するための分析手段、の各手段を備え、前記分析手段は、b)クロマトグラムに出現したピークがいずれのヘモグロビンに由来するものであるかの同定、c)クロマトグラムに出現したピーク面積の計算、d)sA1cピーク面積のヘモグロビンAに関わる全ピーク面積に対する割合の計算、を実施するものであり、上記bにおいて異常ヘモグロビンDの非糖化ピークが同定されたときには、その異常ヘモグロビンのピークの面積を計算し、その計算結果を用いて上記dにおいてsA1cのピーク面積の割合を求め、その求めたsA1cのピーク面積の割合を測定する、前記装置。」
一方、本件発明6と、先願甲1発明とは、以下の点で相違する。
<相違点6-1>
分離手段が、本件発明6は「陽イオン交換能を有する樹脂からなる」分離手段であるのに対し、先願甲1発明は分析カラム60の充填剤が陽イオン交換能を有する樹脂からなるのか不明な点。
<相違点6-2>
分析手段が、本件発明6は「a)クロマトグラムに出現したピーク面積を計算するためのベースラインの設定」を行うのに対し、先願甲1発明は、制御部100において、クロマトグラムに出現したピーク面積を計算するためのベースラインの設定を行うのか不明な点。
<相違点6-3>
求めるsA1cのピーク面積の割合が、本件発明6は「(%)」単位であるのに対し、先願甲1発明は、%単位でない点。
<相違点6-4>
分析手段が、本件発明6は「異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」を計算し、その計算結果を用いてsA1cのピーク面積の割合を求めるのに対し、先願甲1発明は異常ヘモグロビンDの非糖化ピーク面積の計算結果を用いてsA1cピーク面積の割合を求める点。
イ 判断
上記各相違点について、事案に鑑み相違点6-4について検討する。
先願甲1発明では、変異ヘモグロビンであるHbDのピークの面積Dを、HbA0のピークが出現する時点tbとHbDのピークが出現する時点tcの間で吸光度が最も小さくなる時点t3から、HbDの溶出が終了する時点t4までの吸光度を積算した値として求めており、HbDが糖化したD1cのピーク面積D1を式(5)より求めている。またヘモグロビンA(HbA)のピーク面積Aに対するsA1cの面積A1の面積比率R3を式(4)より求めている。
しかしながら、先願甲1発明では、変異ヘモグロビンHbDに関わる全てのピーク面積の和は推定しておらず、さらに面積比率R3を算出する式(4)にも変異ヘモグロビンHbDに関わる全てのピーク面積の和に対応する項は見当たらないことから、変異ヘモグロビンHbDに関わる全てのピーク面積の和を用いることも示してはいない。
そして、「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」を推定することは、周知慣用手段であるともいえない。
以上のことから、上記相違点6-4において、本件発明6と先願甲1発明とは少なくとも相違する。
ウ 小括
したがって、本件発明6は、先願甲1発明であるとはいえない。
(3)本件発明7について
本件発明7は、上記「(2)」で検討した本件発明6を引用して減縮した発明であるから、本件発明7と先願甲1発明とを対比すると、本件発明7と先願甲1発明との間には上記相違点6-4がある。そうすると本件発明7は上記「(2)」と同様の理由により先願甲1発明であるとはいえない。
(4)令和3年11月25日付け意見書における申立人の意見について
申立人は、令和3年11月25日付け意見書において、令和3年4月28日付け特許異議申立書の「(4-2-4-2)構成2Bについて」及び「(4-2-7-2)構成8Bについて」の項にて主張したのと同様の主張により、「異常ヘモグロビンに関わる全てのピークの和」は先願甲1発明の「D」に相当するから、本件発明1,2,6ないし8は、先願甲1発明である旨主張している。
しかしながら、上記「(1)イ(ウ)」及び「(2)イ(エ)」での検討のとおり、相違点1-3及び相違点6-4に係る技術は、先願甲1の出願当初明細書等には開示も示唆も無く、「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」も推定(又は計算)することは、単なる周知慣用手段の適用でもないことから、相違点1-3の発明特定事項を含む本件発明1、及び相違点6-4の発明特定事項を含む本件発明6は先願甲1の出願当初明細書等に記載された発明であるとはいえない。
ゆえに、申立人の上記主張を採用することはできない。
(5)小括
以上のことから、本件発明1,6及び7に係る発明は、先願甲1の出願当初明細書等に記載された発明であるとはいえない。ゆえに、取消理由1は解消された。
4.小括
以上のことから、当審が令和3年7月19日付けで特許権者に通知した取消理由1は解消されており、本件特許1,6及び7を取り消す理由とはならない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は特許異議申立書(以下「異議申立」という。)において以下のとおり主張している。
(1)異議申立の取消理由1
本件訂正前の請求項2及び8に係る発明は、先願甲1発明と同一である。
(2)異議申立の取消理由2
本件訂正前の請求項2,4及び6~9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(3)異議申立の取消理由3
本件訂正前の請求項4に係る発明は、特許請求の範囲の記載が明確でない。
2.当審の判断
(1)異議申立の取消理由1について
本件発明2は本件発明1を引用する発明であり、本件発明8は本件発明6または7を引用する発明であるから、上記「第4」で検討したのと同様の理由により、先願甲1発明であるとはいえない。
以上のことから、異議申立の取消理由1は本件発明2及び8を取り消す理由とはならない。
(2)異議申立の取消理由2について
申立人は、本件発明2,4及び6~9における「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」は、本件特許明細書【0011】の記載における式(1)の右辺の分母「X0+β+X1c」と相違しているから、本件発明2,4及び6~9は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張しており、令和3年11月25日付け意見書においても異議申立書第47~53頁での主張と同様に主張している。
しかしながら、本件特許明細書【0011】の記載における式(1)の右辺の分母「X0+β+X1c」において、同【0011】には
X0は、A0の後で溶出される異常ヘモグロビンの非糖化ピーク面積
βは、A0から後ろに溶出されるピーク総面積からX0を除いたもの
X1cは、A0と同時に溶出される異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積
A0は、非糖化のヘモグロビンAのピーク
であることが開示されている。
また、同【0011】には「非糖化のヘモグロビンAのピーク(A0)の後ろに各異常ヘモグロビンに対応した顕著なピーク(H-V0、H-V1及びH-V2)が出現する。」ことが開示されている。
以上の開示から、
X0+βは、A0から後ろに溶出されるピーク総面積すなわち、異常ヘモグロビンに対応した顕著なピークの面積
X0+β+X1cは、異常ヘモグロビンに対応した顕著なピークの面積とA0と同時に溶出される異常ヘモグロビンの糖化ピーク面積との和
であることが理解できる。
すなわち、X0+β+X1cは、本件発明2,4及び6~9における「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」に相当するものである。したがって、本件発明2,4及び6~9における「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」は、発明の詳細に記載されており、ゆえに、本件発明2,4及び6~9は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
以上のことから、異議申立の取消理由2は本件発明2,4及び6~9を取り消す理由とはならない。
(3)異議申立の取消理由3について
申立人は、本件発明4における「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」は、本件特許明細書【0011】の記載における式(1)の右辺の分母「X0+β+X1c」と相違しているから、本件発明4は、明確ではない旨主張している。
しかしながら、上記「(2)」で検討したとおり、X0+β+X1cは、本件発明4における「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」に相当するものである。したがって、本件発明4における「その異常ヘモグロビンに関わる全てのピーク面積の和」は、明確であり、ゆえに、本件発明4は、明確でないとはいえない。
以上のことから、異議申立の取消理由3は本件発明4を取り消す理由とはならない。
3.小括
以上のことから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由である異議申立の取消理由1ないし3については、本件発明2,4及び6~9に対しいずれも理由はない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4、6ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4、6ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-700411