特許異議申立
2021-700264
発泡成形用の射出成形機のスクリュおよび射出成形機
- 審判番号
- 2021-700264
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-158759
- 登録番号
- 6762679
- 請求日
- 2021年03月11日
- 審決日
- 2021年11月18日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社日本製鋼所
- 【権利者代理人】杉谷 裕通
- 【異議申立人】青木 ゆい
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 岩本 昌大
- 審判官 加藤 友也
- 分類
- P1652.121-Y (B29C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6762679号発明「発泡成形用の射出成形機のスクリュおよび射出成形機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6762679号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6762679号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成30年8月27日を出願日とする出願であって、令和2年9月11日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年9月30日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和3年3月11日に特許異議申立人、青木 ゆい(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1)がされ、同年7月2日付けで取消理由が通知され、同年8月24日に特許権者 株式会社日本製鋼所(以下、「特許権者」という。)より意見書が提出され、同年10月1日付けで特許異議申立人に審尋を行ったところ、同年同月14日に特許異議申立人より回答書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
スクリュの形状によって、その後方から前方にかけて加熱シリンダ内に、樹脂が圧縮されるようになっている第1の圧縮区間と、樹脂の圧力が低下するようになっている飢餓区間と、樹脂が圧縮されるようになっている第2の圧縮区間とが形成され、前記飢餓区間にガスが注入されるようになっている射出成形機のスクリュであって、
前記スクリュの前記第1の圧縮区間に対応する部分には、メインフライトと該メインフライトよりリード角が大きいサブフライトの組合わせからなるバリアフライトが形成されていると共に、該バリアフライトの前方に前記バリアフライトと連続して、あるいは前記バリアフライトに対して所定の間隔を空けて、所定幅のリング状を呈するダムフライトが形成されていることを特徴とする発泡成形用の射出成形機のスクリュ。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年3月11日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2(甲第3号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
甲第1号証(再公表WO2017/159166号公報)
甲第2号証(特開2004-98335号公報)
甲第3号証(特開2003-117973号公報)
以下、順に「甲1」のようにいう。
2 取消理由の概要
請求項1に係る特許に対して、当審が令和3年7月2日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
なお、甲1の発行日は本件特許の出願日後の平成30年9月13日であるから、甲1はそもそも特許法第29条第1項第3号の刊行物に該当しない。よって、甲1に基づいて進歩性欠如を主張する申立理由1には、そもそも理由がない。職権で調査したところによれば、甲1と同内容のものが国際公開2017/159166号として本件特許の出願日前の2017年(平成29年)9月21日に国際公開されていることが認められることから、取消理由1は、甲1に代えて当該国際公開2017/159166号を主引用文献として通知したものである。以下、国際公開2017/159166号を「甲1-1」という。
(1)取消理由1(甲1-1を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)取消理由2(甲3を主引用文献とする進歩性)(上記申立理由2と同旨である。)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第4 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(甲1-1を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲1-1に記載された事項及び甲1-1に記載された発明
ア 甲1-1に記載された事項
甲1-1には、「発泡成形体を製造する射出成形装置のスクリュ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は、合議体による。以下他の証拠についても同じ。
・「[0024](1)発泡成形体の製造装置
まず、本実施形態で用いる発泡成形体を製造する製造装置について説明する。本実施形態では、図2に示す製造装置(射出成形装置)1000を用いて発泡成形体を製造する。製造装置1000は、主に、スクリュ(可塑化スクリュ)20が回転自在に内設された可塑化シリンダ210と、物理発泡剤を可塑化シリンダ210に供給する物理発泡剤供給機構であるボンベ100と、金型251が設けられた型締めユニット250と、可塑化シリンダ210及び型締めユニット250を動作制御するための制御装置(不図示)を備える。可塑化シリンダ210内において可塑化溶融された溶融樹脂は、図2における右手から左手に向かって流動する。したがって本実施形態の可塑化シリンダ210内部においては図2における右手を「上流」または「後方」、左手を「下流」または「前方」と定義する。
[0025] 可塑化シリンダは、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化溶融して溶融樹脂とする可塑化ゾーン21、溶融樹脂を圧縮する圧縮ゾーン22、溶融樹脂の流動速度を調整する流動速度調整ゾーン25及び溶融樹脂を飢餓状態とする飢餓ゾーン23とを有する。
[0026] 「飢餓状態」とは、溶融樹脂が飢餓ゾーン23内に充満せずに未充満となる状態である。したがって、飢餓ゾーン23内には、溶融樹脂の占有部分以外の空間が存在する。また、飢餓ゾーン23に物理発泡剤を導入するための導入口202が形成されており、導入口202には、導入速度調整容器300が接続している。ボンベ100は、導入速度調整容器300を介して可塑化シリンダ210に物理発泡剤を供給する。」
・「[0031] 本実施形態では、図2に示すスクリュ20が内設された可塑化シリンダ210内で熱可塑性樹脂を可塑化溶融する。可塑化シリンダ210の外壁面にはバンドヒータ(図示せず)が配設されており、これにより可塑化シリンダ210が加熱され、更にスクリュ20の回転による剪断発熱も加わり、熱可塑性樹脂が可塑化溶融される。」
・「[0042] 圧縮ゾーン22には、上流側に位置する可塑化ゾーン21よりもスクリュ20の軸の直径(スクリュ径)を大きく(太く)し、スクリュフライトを段階的に浅くした大径部分20Aを設け、更に、大径部分20Aの下流側の端部にリング26を設ける。リング26は半割り構造であり、それら2分割してスクリュ20に被せて設置する。スクリュの軸の直径を大きくすると、可塑化シリンダ210の内壁とスクリュ20のクリアランスが縮小し、下流に送る樹脂供給量を低減できるため、溶融樹脂の流動抵抗を高められる。また、スクリュ20にリング26を設けることによっても同様に溶融樹脂の流動抵抗を高められる。したがって、本実施形態において、大径部分20A及びリング26は、溶融樹脂の流動抵抗を高める機構である。また、リング26は、上流側への物理発泡剤の逆流も抑制できる。このため、リング26は、圧縮ゾーン22とその下流の流動速度調整ゾーン25との間に設けることが好ましい。
[0043] 圧縮ゾーン22に設けられる溶融樹脂の流動抵抗を高める機構は、圧縮ゾーン22から飢餓ゾーン23へ供給される樹脂流量を制限するために一時的に溶融樹脂が通過する流路面積を縮小させる機構であれば、特に制限されない。本実施形態では、スクリュの大径部分20A及びリング26の両方を用いたが、片方のみ用いてもよい。また、流動抵抗を高める機構として、例えば、飢餓ゾーン23と比較して、スクリュフライトのピッチを狭めた部分、フライトの数を増やした部分、フライトの巻方向を逆にした部分をスクリュ20に設けてもよい。」
・「[0069][実施例1]
本実施例では、熱可塑性樹脂としてミネラル強化ポリアミド6(PA6)を用い、物理発泡剤として窒素を利用して発泡成形体を製造した。
[0070](1)製造装置
本実施例では、上述した実施形態で用いた図2に示す製造装置1000を用いた。製造装置1000の詳細について説明する。上述のように、製造装置1000は射出成形装置であり、可塑化シリンダ210と、物理発泡剤を可塑化シリンダ210に供給する物理発泡剤供給機構であるボンベ100と、金型251が設けられた型締めユニット250と、可塑化シリンダ210及び型締めユニット250を動作制御するための制御装置(不図示)を備える。
・・・(省略)・・・
[0072] スクリュ20は、熱可塑性樹脂の可塑化溶融を促進し、溶融樹脂の計量及び射出を行うため、可塑化シリンダ210内において回転及び進退自在に配設されている。スクリュ20は、図4に示すように、上流側から大径部分20Aと、減圧部20Cと、圧縮部20Dと、小径部分20Bとを有する。また、可塑化シリンダ210内には、上流側から順に、熱可塑性樹脂が可塑化溶融される可塑化ゾーン21、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる圧縮ゾーン22、溶融樹脂の流動速度を調整する流動速度調整ゾーン25、溶融樹脂が未充満となる飢餓ゾーン23、飢餓ゾーンにおいて減圧された溶融樹脂が再度圧縮される再圧縮ゾーン24が形成される。」
・「[図2]
[図:0001380942000001.jpg]
」
・「[図4]
[図:0001380942000002.jpg]
」
イ 甲1-1に記載された発明
甲1-1に記載された事項を、実施例1を中心に整理すると、甲1-1には次の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1-1発明>
外壁面にバンドヒータが配設されており、これにより加熱される可塑化シリンダ210内に、上流側から順に、熱可塑性樹脂が可塑化溶融される可塑化ゾーン21、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる圧縮ゾーン22、溶融樹脂の流動速度を調整する流動速度調整ゾーン25、溶融樹脂が未充満となる飢餓ゾーン23、飢餓ゾーンにおいて減圧された溶融樹脂が再度圧縮される再圧縮ゾーン24が形成され、上記飢餓ゾーン23に物理発泡剤として窒素を導入するための導入口202が形成されている射出成形装置のスクリュであって、
上記圧縮ゾーン22の下流側の端部にリング26が設けられている、発泡成形体を製造する射出成形装置のスクリュ。
(2)甲2に記載された事項
甲2には、「発泡体を成形するスクリュ式射出成形機のスクリュ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、可塑化溶融した樹脂材料に高圧ガスを溶解させて金型に射出し発泡体を成形するスクリュ式射出成形機のスクリュに関するものである。」
・「【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来の問題点を解決した発泡体射出成形用のスクリュを提供することを目的とする。より具体的には、発泡体を成形する射出成形機の構成要素であるスクリュであって、樹脂材料を充分に可塑化する能力が確保され優れた生産性を有し、高圧ガスを溶融樹脂に均一に浸透させ混合させることが出来るとともに、高圧ガスが材料供給部側へ逆流しないように充分なシール性が確保され、尚且つ、全長が抑えられたスクリュを提供することを目的としている。」
・「【0015】遷移ゾーンに設けたダブルフライトによる可塑化ゾーン(第1ゾーン)とガス溶解ゾーン(第2ゾーン)とを振り分ける構造によって、上記従来例にあるような溶融樹脂の通路が狭いという問題は生じず、換言すれば、充分な可塑化能力が確保される。又、メインフライトの間にサブフライトを設けることにより、材料供給側と繋がる溝に存在する可塑化された溶融樹脂はサブフライトの外径とバレル内径との間の隙間(クリアランス)を通過しなければ、ガス供給側と繋がっている溝に流入することが出来ない。このサブフライトの外径とバレル内径とのクリアランスを調整することにより、高圧ガスを遮断し、材料供給部側への逆流を防止する。加えて、遷移ゾーンにおいてはメインフライト間に存在しているサブフライトを挟んでガス供給側と繋がっている溝は深く、溶融樹脂はかなりのスターブ(飢餓)状態になっており、溶融樹脂と高圧ガスが共存するので、溶融樹脂と高圧ガスとの接触面積及び接触時間を、より長く確保出来る。従って、溶融樹脂表面への高圧ガスの浸透に関し、同じ効果を得る条件では、よりスクリュ全長を短くすることが可能である。」
・「【0021】本発明においては、遷移ゾーンにおけるサブフライト数は、2~4であることが好ましい。ここで、サブフライト数について説明する。サブフライト数とは、サブフライトを有する領域(長さ)をサブフライト部のピッチで除した数値である。又、一般的にサブフライト部のピッチはメインフライト部のピッチより大きな値となるため、サブフライト形成部分の長さをメインフライトのピッチで除した数値より小さくなる。本発明では、サブフライト部のフライト部長さ(フライト頂部の展開長さ)を長く出来るので、同じガスシール能力を確保した条件では溶融樹脂がのり越えるための隙間(サブフライト外径とバレル内径とのクリアランス)を大きく出来る。このようにして、ガスシール性を確保しつつ、可塑化能力を確保出来ることになる。遷移ゾーンにおけるサブフライトの山数が2未満であると、ガスシール能力が低下するので好ましくない。又、遷移ゾーンにおけるサブフライトの山数が4より多くても、ガスシール性、溶融樹脂表面への高圧ガスの浸透性に関し大きな向上は見られなく、又、スクリュ全長が長くなるのでコスト面で不利である。」
・「【0024】そして、第1ゾーンと第2ゾーンとの間には、メインフライト19とサブフライト29とからなるダブルフライトを有する遷移ゾーン16を備えている。尚、スクリュ10においてサブフライト29の山数は例えば3である。又、メインフライト19は、遷移ゾーン16以外では通常のフライトとして備わるものである(以下、メインフライトを単にフライトともいう)。」
・「【0037】このとき、注入した高圧の二酸化炭素ガスは、スクリュ10中を逆流しようとするが、第1ゾーンの可塑化部13で、既に完全に溶融されている樹脂材料3のシール作用により、遷移ゾーン16のダブルフライト部分において押さえられ、材料供給部11の方へ逆流することはない。」
・「【図1】
[図:0001380942000003.jpg]
」
・「【図2】
[図:0001380942000004.jpg]
」
(3)甲3に記載された事項
甲3には、「射出成形装置の樹脂を溶融させる樹脂可塑化スクリュ」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 シリンダ内に設けられ、スクリュの回転軸の周囲に軸方向に延びる螺旋状のフライトを形成し、樹脂を加熱して溶融しながらスクリュの回転推進力によりスクリュの基端側から先端側に搬送し、スクリュの回転軸方向の中間部に対応させてガス又は液状ガス又は臨界状態ガスを溶融樹脂に溶解させるためのガス注入口が設けられた樹脂可塑化スクリュにおいて、
上記スクリュの回転軸の先端部周囲に、軸方向に延びる溶融樹脂の通路を形成したミキシング部を設けるとともに上記通路に分散室を設け、該分散室内に位置させて上記回転軸の径方向外側に突出する突起を該回転軸に形成してなることを特徴とする熱可塑化スクリュ。」
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガスまたは液状ガスを高圧状態で溶融樹脂に溶解させ、溶融樹脂を金型のキャビティ内に送り出してガス発泡させるために用いられる樹脂可塑化スクリュに関する。」
・「【0009】スクリュ7は、樹脂5をスクリュ7の基端側から先端側へ送り出すネジ山状のフライト24を形成するとともに、基端部が駆動モータ9に連結されている。スクリュ7は、駆動モータ9により回転駆動されて、ホッパ6から供給された樹脂5を溶融しながら、その先端側へ移送することができる。シリンダ4の中間部には、CO2やN2などの超臨界状態の不活性ガスをシリンダ4内の減圧室26へ供給するガス供給源10がバルブ11を介して接続されている。また、シリンダ4の周囲には樹脂を加熱するヒータ17が配設されている。」
・「【0015】次に、本発明における第2の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態のスクリュの第1ステージにバリヤスクリュを採用し、第1の実施の形態のミキシングと組み合わせた例である。図7は、射出成形装置の樹脂を溶融させる樹脂可塑化スクリュとしての射出成形機1と、この射出成形機1により溶融した樹脂が射出される成形金型2を示す。図8に実施例2の射出成形機1のスクリュ7を示す。回転軸18は、基端側から先端側に向かって、樹脂5の供給部19、第1ステージ20、減圧部21、第2ステージ22及びミキシング部23から構成されている。供給部19は樹脂5を供給するスペースを得るように溝底径を小径としてフライト溝が深くなるように形成し、第1ステージ20の先端側に向かうに連れて徐々に拡径し、第1ステージ20の先端側で均一径の大径部が形成されている。図8に示すように、第1ステージ20では、スクリュ7の螺旋を形成するフライト24のピッチp間にフライト24の高さよりも低い突状のバリヤフライト25が形成されている。バリヤフライト25は、フライト24の基端側でフライト24の先端側の壁面からフライト24の基端側の壁面にわたって、かつフライト24の複数ピッチp間にわたって線条に形成されている。図9は、スクリュ7のピッチp間を平面に展開した図であり、この展開した状態ではバリヤフライト25が複数ピッチp間を一直線上に延在しているのが分かる。なお、この第1ステージ20以外の領域では、従来例と同様にバリヤフライト25は形成していない。
【0016】減圧部21には減圧室26が形成され、減圧室26は第1ステージ20と第2ステージ22の間に対応させてシリンダ4とスクリュ7の間に設けられている。この減圧室26に連通してガス供給源10が接続され、減圧室26のスペースを得るためスクリュ7のその部分では溝底径が小径に形成される一方、フライト溝の深さは大きくなっている。減圧室26の先端側にある第2ステージ22では、徐々に溝底径が拡径されその先端側で均一径の大径部が形成されており、さらにその先端側には、ガス状物質を分散するミキシング部23が設けられている。ミキシング部の構成は上記第1の実施の形態とほぼ同じであるので説明を略すが、図11のDに示すように、リテナシート31にステップランド32が設けてあり、ミキシングチェックリング127とリテナシートの潤滑性を向上させている。」
・「【図7】
[図:0001380942000005.jpg]
」
・「【図8】
[図:0001380942000006.jpg]
」
・「【図9】
[図:0001380942000007.jpg]
」
(4)本件特許発明1と甲1-1発明との対比
甲1-1発明における「発泡成形体を製造する射出成形装置のスクリュ」は、本件特許発明1における「発泡成形用の射出成形機のスクリュ」に相当する。
また、甲1-1発明における「可塑化シリンダ210」は、「外壁面にバンドヒータが配設されており、これにより可塑化シリンダ210が加熱され」るものであるから、本件特許発明1における「加熱シリンダ」に相当する。
さらに、甲1-1の段落[0072]及び図2の記載から、可塑化シリンダ210内の「圧縮ゾーン22」、「飢餓ゾーン23」、「再圧縮ゾーン24」は、それぞれスクリュ7の大径部分20A、小径部分20B、小径部分20Bの下流の大径部分によって形成された領域であるといえる。すなわち、甲1-1発明における「圧縮ゾーン22」、「飢餓ゾーン23」、「再圧縮ゾーン24」は、「スクリュの形状によって」「形成され」たものであるといえる。そうすると、甲1-1発明における「圧縮ゾーン22」、「飢餓ゾーン23」、「再圧縮ゾーン24」は、それぞれ本件特許発明1における「第1の圧縮区間」、「飢餓区間」、「第2の圧縮区間」に相当する。
そして、甲1-1発明における「圧縮ゾーン22の下流側の端部に」設けられた「リング26」は、本件特許発明1における「第1の圧縮区間に対応する部分」に形成された「所定幅のリング状を呈するダムフライト」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
スクリュの形状によって、その後方から前方にかけて加熱シリンダ内に、樹脂が圧縮されるようになっている第1の圧縮区間と、樹脂の圧力が低下するようになっている飢餓区間と、樹脂が圧縮されるようになっている第2の圧縮区間とが形成され、前記飢餓区間にガスが注入されるようになっている射出成形機のスクリュであって、
前記スクリュの前記第1の圧縮区間に対応する部分には、所定幅のリング状を呈するダムフライトが形成されている発泡成形用の射出成形機のスクリュ。
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「前記スクリュの前記第1の圧縮区間に対応する部分には、メインフライトと該メインフライトよりリード角が大きいサブフライトの組合わせからなるバリアフライトが形成されている」ことが特定されているのに対し、甲1-1発明においては、そのように特定されていない点。
<相違点2>
ダムフライトの位置関係について、本件特許発明1においては、「該バリアフライトの前方に前記バリアフライトと連続して、あるいは前記バリアフライトに対して所定の間隔を空けて」と特定されているのに対し、甲1-1発明においては、そのような位置関係が特定されていない点。
(5)相違点についての判断
<相違点1>から検討する。
甲1-1の段落[0043]には、圧縮ゾーン22に設けられる溶融樹脂の流動抵抗を高める機構として、スクリュフライトのピッチを狭めた部分、フライトの数を増やした部分等をスクリュ20に設けてもよいことが示唆されている。
そして、射出成形機のスクリュに関して、甲2の段落[0015]及び図2(b)、並びに、甲3の段落[0015]、[図8]、及び[図9]に記載されるような、「メインフライトと、該メインフライトよりリード角が大きく、かつ、メインフライトよりも外形寸法が小さい(メインフライトよりもフライト高さが低い)サブフライトの組合せからなるダブルフライト」(本件特許発明1の「メインフライトと該メインフライトよりリード角が大きいサブフライトの組合わせからなるバリアフライト」に相当する。)が周知のものではある。
しかしながら、当該ダブルフライトが溶融樹脂の流動抵抗を高める作用を備えることについては、いずれの証拠にも記載されていないし、また、本件特許出願時の技術常識を考慮しても、上記サブフライトは、メインフライトよりも外形寸法が小さい(メインフライトよりもフライト高さが低い)ため、甲1-1に例示されている溶融樹脂の流動抵抗を高める機構であるフライトの数を増やす場合と比較して、上記ダブルフライトが溶融樹脂の流動抵抗を高める作用は低くなると解するのが通常である。
してみると、甲1-1発明の圧縮ゾーン22に設けられる溶融樹脂の流動抵抗を高める機構として、上記ダブルフライトを採用する動機付けがあるとはいえない。
そして、本件特許発明1は、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有することにより、「10分間程度であればスクリュの回転を停止してもガスの逆流が実質的に完全に防止される。」(本件特許明細書の【0009】、【0018】、【0021】など)という効果を奏する。実際、本件特許明細書の【0021】には、不活性ガスの供給をしながらスクリュの回転を10分間停止した状態にして逆流が確実に防止されるか否かの試験に関して、PA66樹脂を使用し、PA66樹脂に対して圧力が6MPaとなるように窒素ガスを供給した場合、ダムフライトのみを備える比較例2では、スクリュを数分間停止するだけで不活性ガスの逆流が見られ、また、バリアフライトのみを備える比較例3では、10分間スクリュの回転を停止したところ、不活性ガスの逆流が発生するのに対し、ダムフライトとバリアフライトの両方を備える実施例1、2では、10分間スクリュの回転を停止しても不活性ガス及び樹脂の逆流は発生しなかったことが記載されている。
これに対し、いずれの証拠にも、スクリュを停止した場合、特に10分間程度スクリュを停止した場合において、ガスの逆流を防止できるという作用効果については記載されていない。たとえ、甲1-1に記載のリング及び/又は甲2に記載のダブルフライトが、スクリュ停止時においてもガスの逆流を防止する作用効果を備えるとしても、該作用効果がどの程度の時間持続可能かは、当業者は予測し得ない。
したがって、本件特許発明1の「10分間程度であればスクリュの回転を停止してもガスの逆流が実質的に完全に防止される。」という効果は、甲1-1発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
してみれば、上記<相違点2>については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1-1発明、すなわち、甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)取消理由1のまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲3を主引用文献とする進歩性)について
(1)甲3に記載された発明
上記1(3)の甲3に記載された事項を、第2の実施の形態を中心に整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
ガスまたは液状ガスを高圧状態で溶融樹脂に溶解させ、溶融樹脂を金型のキャビティ内に送り出してガス発泡させるために用いられる射出成形機の樹脂可塑化スクリュであって、
上記樹脂可塑化スクリュはシリンダ4内に設けられ、シリンダ4の周囲には樹脂を加熱するヒータ17が配設されており、
上記樹脂可塑化スクリュの回転軸18は、基端側から先端側に向かって、樹脂5の供給部19、第1ステージ20、減圧部21、第2ステージ22及びミキシング部23から構成され、
上記減圧部21には減圧室26が形成され、この減圧室26へ不活性ガスを供給するガス供給源10が接続されるようになっており、
第1ステージ20では、上記樹脂可塑化スクリュの螺旋を形成するフライト24のピッチp間にフライト24の高さよりも低い突状のバリヤフライト25が形成されている射出成形機の樹脂可塑化スクリュ。
(2)本件特許発明1と甲3発明との対比
甲3発明における「射出成形機の樹脂可塑化スクリュ」は、「ガスまたは液状ガスを高圧状態で溶融樹脂に溶解させ、溶融樹脂を金型のキャビティ内に送り出してガス発泡させる」ものであるから、本件特許発明1における「発泡成形用の射出成形機のスクリュ」に相当する。
また、甲3発明における「シリンダ4」は、「シリンダ4の周囲には樹脂を加熱するヒータ17が配設されている」から、本件特許発明1における「加熱シリンダ」に相当する。
さらに、甲3発明におけるスクリュ7の「第1ステージ20」、「減圧部21」、「第2ステージ22」によって形成されたシリンダ4内の各領域は、それぞれ本件特許発明1における「第1の圧縮区間」、「飢餓区間」、「第2の圧縮区間」に相当する。
そして、甲3発明における「不活性ガス」は、本件特許発明1における「ガス」に相当する。
加えて、甲3の段落【0015】の記載から、バリヤフライト25の高さはフライト24よりも低く、かつ、甲3の【図9】の記載から、バリヤフライト25はフライト24よりリード角が大きいと認められる。そうすると、甲3発明における「フライト24」、「バリヤフライト25」は、それぞれ本件特許発明1における「メインフライト」、「サブフライト」に相当する。また、甲3発明における「フライト24」及び「バリヤフライト25」の組み合わせからなる区間は、本件特許発明1における「バリアフライト」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
スクリュの形状によって、その後方から前方にかけて加熱シリンダ内に、樹脂が圧縮されるようになっている第1の圧縮区間と、樹脂の圧力が低下するようになっている飢餓区間と、樹脂が圧縮されるようになっている第2の圧縮区間とが形成され、前記飢餓区間にガスが注入されるようになっている射出成形機のスクリュであって、
前記スクリュの前記第1の圧縮区間に対応する部分には、メインフライトと該メインフライトよりリード角が大きいサブフライトの組合わせからなるバリアフライトが形成されている発泡成形用の射出成形機のスクリュ。
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明1においては、「該バリアフライトの前方に前記バリアフライトと連続して、あるいは前記バリアフライトに対して所定の間隔を空けて、所定幅のリング状を呈するダムフライトが形成されている」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのように特定されていない点。
(3)<相違点3>についての判断
上記1(5)と同様に、本件特許発明1の「10分間程度であればスクリュの回転を停止してもガスの逆流が実質的に完全に防止される。」という効果は、甲3発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
してみれば、仮に、発泡成形用の射出成形機のスクリュにおいて、ガスの逆流を抑制するために、圧縮ゾーンの下流側の端部にリングを設けることが、周知技術(以下、「周知技術2」という。甲1-1の段落[0042]参照。)であって、かかる周知技術2を甲3発明のスクリュに適用することが動機付けられるとしても、本件特許発明1は、甲3発明、すなわち、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)取消理由2のまとめ
以上のとおりであるから、取消理由2によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
第5 特許異議申立人の令和3年10月14日提出の回答書(以下、「回答書」という。)における主張について
特許異議申立人は回答書において「甲1-1のスクリュの上流にガスの逆流防止効果の増大を目的として、甲1-1のリング26と同様のシール作用を備えた甲2または甲3のバリアフライトを適用しシールを冗長化することは、当業者であれば容易に類推できることから、対象特許のスクリュは進歩性を有し」ないこと、「甲2の段落【0015】には「このサブフライトの外径とバレル内径とのクリアランスを調整することにより、高圧ガスを遮断し、材料供給部側への逆流を防止する。」との記載から、甲2のバリアフライト(サブフライト)部は、スクリュ回転有無に関係なくシール作用を有するクリアランスシールであることが自明」であること、「理由1について述べたのと同様に、本件特許発明は甲3のバリアフライトの前方にガスの逆流防止を目的として甲1-1などのリングを適用することによって容易になし得るものであって、進歩性を有」してないことを主張している。
しかし、上記第4 1(5)及び2(3)で判断したとおりであるから、上記主張は採用することができない。
第6 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立理由は申立理由1(甲1を主引用文献とする進歩性)であるが、上記第3 2に示したとおり、甲1は特許法第29条第1項第3号の刊行物に該当しないから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結論
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700264