特許異議申立
2021-701246
積層成形プレス装置、積層成形システム、および積層成形方法
- 審判番号
- 2021-701246
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-157144
- 登録番号
- 6900138
- 請求日
- 2021年12月27日
- 審決日
- 2023年09月15日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社日本製鋼所
- 【権利者代理人】家入 健
- 【異議申立人】齊藤 整
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 清水 康司
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.537-YAA(B30B) / P1651.121-YAA(B30B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6900138号発明「積層成形プレス装置、積層成形システム、および積層成形方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6900138号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔3ないし6〕について訂正することを認める。
特許第6900138号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6900138号(以下,「本件特許」という。)に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,令和2年9月18日に出願され,令和3年6月18日にその特許権の設定登録がされ,同年7月7日に特許掲載公報が発行された。その後,その請求項1ないし8に係る特許について,令和3年12月27日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
当審において,令和4年5月12日付けで取消理由が通知され,同年7月13日に特許権者より訂正請求書及び意見書が提出され,同年8月1日に特許権者より訂正請求書に対する手続補正書が提出され,令和5年2月2日に申立人より意見書が提出され,同年5月29日付けで訂正拒絶理由が通知され,同年6月30日に特許権者より訂正請求書に対する手続補正書及び意見書が提出された。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求書の要旨の変更の有無について
令和5年6月30日に提出された手続補正書(以下,「本件手続補正書」といい,本件補正書による補正を「本件補正」という。)は,令和4年7月13日に提出された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」といい,本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。)における請求の理由及び訂正特許請求の範囲を補正するものであるところ,特許法120条の5第9項において準用する同法131条の2第1項の規定により,訂正請求書の補正は,その要旨を変更するものであってはならない。
そこで,本件補正が,本件訂正請求書の要旨を変更するものであるのか否かについて,検討すると,次のとおりである。
本件補正前の本件訂正請求書における請求の内容に記載され,本件補正前の訂正特許請求の範囲に示された訂正の内容は,次の3つの訂正事項からなる。(下線部は訂正箇所を示す。)
訂正事項1’:請求項1に「前記樹脂フィルムの荷重たわみ温度は,200℃以上である」とあるのを,「前記樹脂フィルムの樹脂の荷重たわみ温度は,200℃以上である」に訂正する。請求項1の記載を引用する形式で記載された請求項2ないし6も同様に訂正する。
訂正事項2’:請求項3に「前記樹脂フィルムの樹脂は,ポリイミド,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルサルホン,ポリエチレンナフタレート,アラミドの少なくとも一つである」とあるのを,「前記樹脂フィルムの樹脂は,ポリイミド,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルサルホン,アラミドの少なくとも一つである」に訂正する。請求項3の記載を引用する形式で記載された請求項4ないし6も同様に訂正する。
訂正事項3’:請求項7に「荷重たわみ温度が200℃以上となる」とあるのを,「樹脂の荷重たわみ温度が200℃以上となる」に訂正する。請求項7の記載を引用する形式で記載された請求項8も同様に訂正する。
これに対して,本件補正後の本件訂正請求書における請求の内容に記載され,本件補正後の訂正特許請求の範囲に示された訂正の内容は,次の1つの訂正事項のみからなる。
訂正事項1:請求項3に「前記樹脂フィルムの樹脂は,ポリイミド,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルサルホン,ポリエチレンナフタレート,アラミドの少なくとも一つである」とあるのを,「前記樹脂フィルムの樹脂は,ポリイミド,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルサルホン,アラミドの少なくとも一つである」に訂正する。請求項3の記載を引用する形式で記載された請求項4ないし6も同様に訂正する。
そうすると,本件補正は,本件補正前の本件訂正請求書に記載された訂正事項1’ないし3’のうち,訂正事項1’及び3’を削除して,訂正事項2’のみとする補正であるから,本件訂正請求書の要旨を変更するものではない。
したがって,本件補正は,特許法120条の5第9項において準用する同法131条の2第1項の規定に適合するから,本件補正を認める。
2 訂正要件について
前記1で述べたとおり,本件補正は認められたから,本件訂正の内容は,前記1において「訂正事項1」として示したとおりのものである。
そこで,前記訂正事項1の訂正要件について判断する。
訂正事項1は,請求項3ないし6において,樹脂フィルムの樹脂の材料の選択肢の中から,「ポリエチレンナフタレート」を削除する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮に該当する。
また,訂正事項1に係る請求項3ないし6の訂正は,本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことも明らかである。
3 小括
以上によれば,本件訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するから,本件特許の特許請求の範囲を,本件補正後の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔3ないし6〕について訂正することを認める。
第3 本件特許の請求項1ないし8に係る発明
前記第2 3のとおり,本件訂正は認められたから,本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下,「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」といい,本件特許発明1ないし8を総称して「本件特許発明」ということがある。)は,令和5年6月30日に提出された手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8は,次のとおりである。
「【請求項1】
上盤と下盤の間で凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムとを加圧成形する積層成形プレス装置において,
前記上盤または下盤の少なくとも一方の盤に取付けられた加圧ブロックには,エンジリアリングプラスチックまたは熱硬化性樹脂の樹脂フィルムを介して加圧面を構成する金属薄板が備えられ,
前記樹脂フィルムの荷重たわみ温度は,200℃以上であることを特徴とする積層成形プレス装置。
【請求項2】
前記樹脂フィルムは,ロックウェルRスケールが60以上,140以下の硬度を有する請求項1に記載の積層成形プレス装置。
【請求項3】
前記樹脂フィルムの樹脂は,ポリイミド,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルサルホン,アラミドの少なくとも一つである請求項1又は2に記載の積層成形プレス装置。
【請求項4】
前記樹脂フィルムの厚みは,0.02mmないし2.00mmである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の積層成形プレス装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の積層成形プレス装置は真空積層装置の後工程に設けられ,キャリアフィルムにより前記真空積層装置から搬送された凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムが前記積層成形プレス装置により加圧成形されることを特徴とする積層成形システム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の積層成形プレス装置は真空積層装置の後工程に2台が直列方向に設けられ,キャリアフィルムにより前記真空積層装置から搬送された凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムが前記2台の積層成形プレス装置により順次加圧成形されることを特徴とする積層成形システム。
【請求項7】
上盤と下盤の間で凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムとを積層成形プレス装置で加圧成形する積層成形方法において,
前記上盤または下盤の少なくとも一方の盤に取付けられた加圧ブロックには,荷重たわみ温度が200℃以上となるエンジリアリングプラスチックまたは熱硬化性樹脂の樹脂フィルムを介して加圧面を構成する金属薄板が備えられ,
無機材料の含有率が20体積%以上の積層フィルムと,前記積層成形プレス装置により凹凸部を備えた被積層材と,が互いに貼り合わせられる状態で加圧成形されることを特徴とする積層成形方法。
【請求項8】
前記積層成形プレス装置は真空積層装置の後工程に設けられ,前記積層成形プレス装置により1次成形された凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムが前記積層成形プレス装置で2次成形されることを特徴とする請求項7に記載の積層成形方法。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審において通知された取消理由は,
「本件特許の請求項1ないし8に係る特許は,下記の点で,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。」
というものであって,その具体的理由は,概略,次のとおりである。
JIS K 7192-2:2015には,「荷重たわみ温度」の求め方について,A法ないしC法という3つの方法が規定されており,いずれの方法で測定されるのかによって,得られる「荷重たわみ温度」の値が異なるものと認められるにも関わらず,請求項1及び7に記載された「荷重たわみ温度」が,A法ないしC法のいずれの方法で測定された値であるのか,本件明細書等の記載からは不明であることから,本件特許発明1ないし8は,明確でない。
2 当合議体の判断
(1) 本件特許明細書の【0024】には,「本発明に使用する樹脂フィルムは荷重たわみ温度(ISO 75-2)が200℃以上のものがより望ましい。」と記載されているところ,ISOとは,国際標準化機構の略称又は国際標準化機構が定めたISO規格を指し,ISO 75-2:2013に対応する日本の規格が,JIS K 7192-2:2015であることは,乙1(JIS K 7192-2:2015)の「序文」に「この規格は,2013年に第3版として発行されたISO 75-2:2013を基に,技術的内容及び構成を変更することなく作成した日本工業規格である。なお,この規格で点線の下線を施してある参考事項は,対応国際規格にはない事項である。」(1ページ7ないし9行)との記載からみて明らかである。
また,乙1の「1 適用範囲」には,「この規格は,プラスチック(充填系プラスチック及び加工前の繊維長が7.5mmまでの繊維で強化した繊維強化プラスチックを含む。)及びエボナイトの荷重たわみ温度の求め方について,異なる曲げ応力を用いる次の三つの方法について規定する。
- A法 試験片に加える曲げ応力 1.80MPa
- B法 試験片に加える曲げ応力 0.45MPa
- C法 試験片に加える曲げ応力 8.00MPa」(1ページ11ないし16行)と記載され,「8 手順」の「8.1 荷重の計算」には,「JIS K 7191-1の8.1(荷重の計算)による。ただし曲げ応力は,次の条件のいずれかとする。
- A法 :1.80MPa(推奨値)
- B法 :0.45MPa
- C法 :8.00MPa」(3ページ下から10行ないし下から7行)と記載されている。
本件特許明細書及び乙1の前記記載内容は,いずれも,本件出願当時の当業者が熟知する技術常識と認められる。
以上によれば,たとえ,本件特許明細書等に,本件特許発明の「荷重たわみ温度」が,A法ないしC法のいずれの求め方で得られる値であるのか記載されていないとしても,前記技術常識を熟知した当業者は,本件特許発明の「荷重たわみ温度」をA法で求めた値と理解するのであって,荷重たわみ温度の求め方が一義的に定まる以上,本件特許の請求項1ないし8の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
したがって,本件特許発明1ないし8は,明確である。
(2) 申立人は,令和5年2月2日に提出した意見書において,A法と異なる方法が記載された乙2ないし乙5を根拠として,本件特許発明は不明確である旨主張する(10ページ2行ないし11ページ7行。)。
しかしながら,本件特許発明の「荷重たわみ温度」を当業者がどのように理解するかは,前記(1)に示したとおりであって,乙2ないし乙5にA法と異なる方法が記載されているという事実は,前記(1)の判断を左右しない。
したがって,申立人の前記主張は理由がない。
3 小括
以上のとおりであるから,取消理由通知書に記載した取消理由によって,本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人が,特許異議申立書(以下「申立書」という。)において主張する特許異議申立理由は,概略次のとおりである。
申立理由1:本件特許発明1ないし8は,甲1に記載された発明に基づいて又は甲1に記載された発明,甲2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて,本件出願の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1ないし8に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。
申立理由2:本件特許発明1ないし8は,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから,請求項1ないし8に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきものである。
申立人が,申立理由1において引用している証拠は,次のとおりである。
甲1:特開2020-28980号公報(主引用例)
甲2:特開平5-147053号公報
甲3:特許第4920423号公報(周知例)
甲4:特開2019-188802号公報(周知例)
甲5:帝人株式会社「テオネックス」(製品パンフレット)
2 申立理由1について
(1)主引用例の記載及び主引用例に記載された発明
ア 甲1の記載
甲1は,本件出願の出願前である令和2年2月27日に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,甲1には,次の記載がある。(下線部は,後述する「甲1装置発明」及び「甲1方法発明」の認定,判断等に関連する箇所を示すために,当合議体が付したものである。)。
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,基材と樹脂フィルムとを精密に積層することのできる積層装置に関するものであり,詳細には,基材(例えば,プリント回路基板やウエハ)の上に積層される樹脂フィルム表面を,より厳密なレベルで平坦にすることができる積層装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来,電子機器の小型化,高性能化に伴い,これらに搭載される電子回路基板には,多層化した高密度タイプのプリント回路基板(いわゆる「ビルドアップ基板」)が多用されるようになっている。このビルドアップ基板は,表面に配線等による凹凸を有する基材と,絶縁層としての樹脂フィルムとを交互に多段に積層(ラミネート)した積層体として製造されるものであり,その製造には積層装置が用いられる。
・・・(中略)・・・
【0004】
近年,さらに電子機器の小型化,高性能化が進み,これらに搭載される電子回路基板は,より一層の小型化が求められるようになってきている。それに伴い,積層体(ビルドアップ基板等)表面の平滑性がより求められており,積層装置による積層技術のさらなる向上が望まれている。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,このような事情に鑑みなされたもので,より高いレベルで表面が平滑化された積層体を製造することができる積層装置の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため,本発明は,以下の[1]~[5]を要旨とする。
[1]凹凸を有する基材の凹凸面にフィルムを積層する装置であって,減圧下で上記基材にフィルムを密着追従させて仮積層体Aを形成する真空積層手段と,上記仮積層体Aを押圧して凹凸面が平坦化された仮積層体Bを形成する第1の平面プレス手段と,上記仮積層体Bを第1の平面プレス手段と異なる条件で押圧してさらに凹凸面が平坦化された積層体を形成する第2の平面プレス手段とを備えた積層装置。
[2]上記第1の平面プレス手段が,対向する一対のプレートを有し,上記一対のプレートの少なくとも一方が他方に対し進退可能に設定され,上記一対のプレートの少なくとも一方が熱盤と,板状体と,これらの間に配置される緩衝材とを有しており,
上記第2の平面プレス手段が,対向する一対のプレートを有し,上記一対のプレートの少なくとも一方が他方に対し進退可能に設定され,上記一対のプレートの少なくとも一方が熱盤と板状体とを有し,これらの間に,緩衝材を有していないか,上記第1の平面プレス手段の緩衝材より緩衝効果の小さい緩衝材を有する,[1]に記載の積層装置。
・・・(中略)・・・
【0008】
すなわち,本発明の発明者らは,前記課題を解決するために工夫を重ねた。その結果,減圧下で基材にフィルムを密着追従させた仮積層体に対し,条件を変えて少なくとも二回の平面プレスを行う積層装置によれば,従来では達成できなかったレベルにまで表面を平坦化することが可能であることを見い出し,本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層装置によれば,凹凸を有する基材の凹凸面にフィルムを積層するに際し,より高いレベルで表面が平滑化された積層体を製造することができる。
(イ) 「【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係る積層装置の概略を説明する構成図である。
・・・(中略)・・・
【図3】上記積層装置の第1の平面プレス手段の説明図である。
【図4】上記積層装置の第2の平面プレス手段の説明図である。」
(ウ) 「【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに,本発明を実施するための形態について詳しく説明する。ただし,本発明は,この実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は,本発明の1つの実施の形態に係る積層装置を示している。この積層装置は,配線等による凹凸が設けられたビルドアップ基板用の基材104に,ラミネート用のフィルム106を積層するための装置であり,搬送用フィルム5,5’を一方側から繰り出し,他方側でこれを巻き取ることによりワーク100を順次搬送する搬送手段4,4’を備えている。そして,この搬送用フィルム5,5’の矢印の流れ方向の上流(真空積層手段1)から下流(第2の平面プレス手段3)に向かって,真空積層手段1と,第1の平面プレス手段2と,第2の平面プレス手段3とが,この順に配設されている。
上記真空積層手段1は,基材104の表面が,銅パターン105の配置により凹凸面に形成され,その凹凸面にフィルム106が載置されたワーク100を,減圧下で基材104の凹凸に沿ってフィルム106を密着追従させた仮積層体(A)101を形成する。また,上記第1の平面プレス手段2は,上記真空積層手段1で形成された仮積層体(A)101を押圧して凹凸面が平坦化された仮積層体(B)102を形成する。さらに,第2の平面プレス手段3は,上記仮積層体(B)102を上記第1の平面プレス手段2と異なる条件で押圧して,さらに凹凸面が平坦化された積層体103を形成する。
なお,上記搬送手段4および4’により,ワーク100,仮積層体(A)101,仮積層体(B)102,積層体103は,搬送用フィルム5および5’の間に挟まれて,搬送されるようになっている。そして,搬送用手段4は,ワーク100を工程に搬入するための搬入用コンベア7を有している。また,搬送手段4’は,第2の平面プレス手段3により平坦化された積層体103を冷却するためのファン6,6’を有している。そして,搬送手段4’において,巻き取られる搬送用フィルム5,5’の間から,完成した積層体103が搬送ラインから取り出されるようになっている。」
(エ) 「【0017】
[第1の平面プレス手段]
上記第1の平面プレス手段2(図1に戻る)は,上記真空積層手段1から搬送用フィルム5,5’により搬送されてきた仮積層体(A)101を上下両プレスブロック27,28(図3参照)間に位置決めし,これら上下両プレスブロック27,28で加熱加圧して仮積層体(A)101の表面を平滑化するものである。この実施の形態では,図3に示すように,プレス台29に立設された複数本(図3では,2本しか図示せず)の支柱30と,これら各支柱30にボルト,ナット等の固定器具31で固定される上プレスブロック27と,上記各支柱30に上下移動可能に取り付けられる下プレスブロック28等を備えている。この下プレスブロック28は,ジョイント32を介して油圧シリンダ33に連結されており,この油圧シリンダ33の作動により(ピストンロッド33aの上昇および下降に伴って)上下移動されるようになっている。なお,この実施の形態では,下プレスブロック28に油圧シリンダ33が連結されているが,油圧シリンダ33に代えてエアーシリンダ等の別の昇降機構を用いてもよい。しかし,油圧シリンダ33を用いると,コンパクトでありながら高圧が得られる点で好ましい。
【0018】
上記上下両プレスブロック27,28のうち,上プレスブロック27は,上部ベース層34に,平板状の上側断熱材35,上側熱盤36,平板状の上側緩衝材37および上側フレキシブル金属板(板状体)38が上からこの順に固定された構成になっており,下プレスブロック28は,下部ベース層39に,平板状の下側断熱材40,下側熱盤41,平板状の下側緩衝材42および下側フレキシブル金属板(板状体)43が下からこの順に固定された構成になっている。
・・・(中略)・・・
【0020】
上記緩衝材37,42としては,表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が60度以上であるものが好ましく,65~75度であることがより好ましい。表面ショアA硬度が上記範囲内であると,押圧後のフィルム106の膜厚がより均一になるためである。なお,本発明において,ショアA硬度は,JIS K6253に準拠し,タイプAデュロメータを用いて測定されたものである。ショアA硬度は,緩衝材を構成するゴムや合成樹脂等からなる試験片を作製し,各試験片に対して測定されたものでもよい。
【0021】
また,上記緩衝材37,42の厚みは,通常0.2~20mmであり,好ましくは0.2~10mm,より好ましくは0.5~3mmである。緩衝材37,42の厚みが上記範囲内であると,緩衝効果を充分に発揮することができ,仮積層体(A)101表面の凹凸により追従させた状態で押圧することができる。このため,仮積層体(A)101表面の凹凸の段差を全体的になだらかにすることができる。なお,上記緩衝材37,42は,互いに厚みが異なっていてもよいし,同じであってもよい。
【0022】
上記緩衝材37,42の材質は,通常,紙,ゴム,合成樹脂,繊維等を用いることができる。なかでもゴムが好ましく,特にフッ素系ゴムが好ましい。フッ素系ゴムとしては,例えば,フッ化ビニリデン系ゴム,含フッ素シリコーンゴム,テトラフルオロエチレン系ゴム,含フッ素ビニルエーテル系ゴム,含フッ素フォスフォニトリル系ゴム,含フッ素アクリレート系ゴム,含フッ素ニトロソメタン系ゴム,含フッ素ポリエステルゴム,含フッ素トリアジンゴム等があげられる。なお,上記緩衝材37,42は,耐熱性樹脂,ガラス繊維シートや金属箔シート等を内部に含むものであってもよいし,例えば,ゴムと繊維のように異なる材質のものが組み合わせられたものであってもよい。また,上記緩衝材37,42は,互いに材質が異なっていてもよいし,同じであってもよい。
【0023】
上記フレキシブル金属板(板状体)38,43の厚みは,通常,0.1~10mmであり,好ましくは1~2mmである。フレキシブル金属板(板状体)38,43の厚みが上記範囲内であると,機械強度を担保しながらフレキシブル性を発揮することができ,上記緩衝材37,42が仮積層体(A)101に追従する際の,上記緩衝材37,42の変形に充分に追従することができる。」
(オ) 「【0025】
[第2の平面プレス手段]
上記第2の平面プレス手段3(図1に戻る)は,第1の平面プレス手段2から搬送用フィルム5,5’により搬送されてきた仮積層体(B)102を上下両プレスブロック46,47(図4参照)間に位置決めし,これら上下両プレスブロック46,47で加熱加圧して仮積層体(B)102の表面をさらに平滑化するものである。この実施の形態では,図4に示すように,基本的な構成は,第1の平面プレス手段2(図3参照)と同様であり,プレス台44に立設された複数本の支柱45(図4では四隅4本のうち2本しか図示せず)と,これら各支柱45にボルト,ナット等の固定器具で固定された上側のプレスブロック46と,上記各支柱45に昇降自在に取り付けられた下側のプレスブロック47とを備える。
【0026】
上下のプレスブロック46,47の内側(プレス側)には,断熱材を介してヒーターを内蔵する熱盤48,49が取り付けられており,さらにその内側(プレス側)に,金属板(板状体)50,51が配設されている。そして,第1の平面プレス手段2を経由して形成された仮積層体(B)102を,これら金属板(板状体)50,51の間で押圧することにより,仮積層体(B)102の厚みが均一化され,かつ,表面が鏡面性の平坦面に形成された積層体103とすることができる。
【0027】
上記プレスブロック46,47の熱盤48,49の内側(プレス側)には,緩衝材が配置されていない。したがって,熱盤48,49の内側(プレス側)の平坦性をより確実に,積層体(B)102に伝えることができ,表面がより鏡面性のある平坦面に形成された積層体103を得ることができる。ただし,基材104およびフィルム106等の種類によっては,熱盤48,49と金属板(板状体)50,51との間に緩衝材を設けてもよく,その場合,緩衝効果の小さい緩衝材であることが好ましい。緩衝効果の大小は,通常,緩衝材の材質および厚みによって決定されるが,本発明においては,それ以外に,追従性を緩衝効果の指標のひとつとして用いる。すなわち,追従性の高い緩衝材を,緩衝効果が大きいとすることができる。
【0028】
なお,上記第2の平面プレス手段3に緩衝材を設ける場合,その緩衝材は,表面のショアA硬度が60度以上であることが好ましく,65~75度であることがより好ましい。緩衝材の表面ショアA硬度が上記範囲内であると,押圧後のフィルム(ラミネート)の膜厚がより均一になるためである。
【0029】
また,上記緩衝材を設ける場合,その厚みは,通常0.2~20mmであり,好ましくは0.2~3mm,より好ましくは0.2~1mmである。そして,上記緩衝材が,上記第1の平面プレス手段2の緩衝材37,42より緩衝効果の小さいものであると,熱盤48,49の内側(プレス側)の平坦性をより確実に伝えることができ,表面がより平坦面に形成された積層体103を得ることができる。そして,緩衝材の材質は,第1の平面プレス手段2と同様のものを用いることができるが,合成樹脂,および合成樹脂と組み合わせられたものが好ましい。
【0030】
上記プレスブロック46,47の内側(プレス側)に取り付けられる金属板(板状体)50,51の厚みは,通常,0.1~10mmであり,好ましくは0.5~7mm,より好ましくは1~5mm,さらに好ましくは2~5mmである。金属板50,51の厚みが上記範囲内であると,機械強度に優れるため,仮積層体(B)102の厚みをより均一化することができ,表面がより平坦面に形成された積層体103とすることができる。また,金属板(板状体)50,51の表面をバフ研磨等により鏡面研磨すると,積層体103の表面を均一な鏡面にできるのでより好ましい。
【0031】
上記金属板(板状体)50,51の材質としては,通常,ステンレス,鉄,アルミニウム,アルミニウム合金等が用いられ,耐錆性に優れる点からステンレスが好ましい。また,上記金属板(板状体)50,51は,フレキシブル性を有していてもよいし,有していなくてもよい。ただし,緩衝材を用いる場合には,その緩衝効果が発揮され過ぎないようにフレキシブル性が少ないものが好ましい。」
(カ) 「【0049】
[実施例1]
図1に示す積層装置を用いた。エポキシ樹脂系のフィルム106を,表面に凹凸(銅パターン105)を有する基材104(凸部の厚み18μm,α部の銅パターン残銅率80%,β部の銅パターン残銅率30%,γ部の銅パターン残銅率0%)に載置したワーク100を作製した。
真空積層手段1の上側熱盤16,下側熱盤20により空間部26を予め110℃に調整し,吸引開始30秒後の空間部26の圧力を100Pa以下とし,厚み2mmの上側弾性プレス板17,下側弾性プレス板21でワーク100を1MPaの圧力で20秒間加圧し,仮積層体(A)101を作製した。
第1の平面プレス手段2において,上側フレキシブル金属板(板状体)38,下側フレキシブル金属板(板状体)43として,ステンレス板状体(SUS630H,2mm)を用い,上側緩衝材37,下側緩衝材42として,厚み2.5mmのフッ素ビニリデン系ゴムを用いた。そして,上側熱盤36,下側熱盤41を120℃に調整し,油圧シリンダ33によって下プレスブロック28を上昇させ,上側フレキシブル金属板(板状体)38,下側フレキシブル金属板(板状体)43で仮積層体(A)101を0.8MPaの圧力で30秒間加熱プレスし,仮積層体(B)102を作製した。
第2の平面プレス手段3において,熱盤48,49を100℃に調整し,サーボモータ53によって下側のプレスブロック47を上昇させ,厚み2mmの金属板(板状体)50と厚み2mmの金属板(板状体)51間の距離が,仮積層体(B)102の厚みより20μm少なくなるように設定し,仮積層体(B)102を60秒間プレスして,積層体103を作製した。
【0050】
[実施例2]
図1に示す積層装置において,第2の平面プレス手段3に代えて,第2の平面プレス手段57(図6を参照)を用いた積層装置を使用し,第2の平面プレス手段57以外は,実施例1と同様に積層体103を作製した。
第2の平面プレス手段57は,上側フレキシブル金属板(板状体)38’,下側フレキシブル金属板(板状体)43’として,プレス面の平面度が3μm以内のステンレス板状体(SUS630H,3mm)を用い,上側緩衝材37’,下側緩衝材42’として,厚み0.5mmのフッ素ビニリデン系ゴムを用いた。そして,上側熱盤36,下側熱盤41を100℃に調整し,油圧シリンダ33によって下プレスブロック28を上昇させ,上側フレキシブル金属板(板状体)38’,下側フレキシブル金属板(板状体)43’で仮積層体(B)102を0.8MPaの圧力で60秒間加熱プレスし,積層体103を作製した。」
(キ) 「【図1】
[図:0001404726000001.jpg]
・・・(中略)・・・
【図3】
[図:0001404726000002.jpg]
【図4】
[図:0001404726000003.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
前記ア(ア)ないし(カ)によれば,甲1の【0007】,【0012】,【0017】~【0018】,【0020】~【0022】及び【図3】の記載(「第1の平面プレス手段2」に関する記載)から,次の「第1の平面プレス手段2」の発明(以下「甲1装置発明」という。)が,また,甲1の【0007】,【0017】及び【0025】の記載から,次の「積層方法」の発明(以下「甲1方法発明」という。)が,それぞれ記載されていると認められる。
なお,甲1には,「平坦化」と「平滑化」が混在して用いられているが,各発明では,「平坦化」に統一して認定した。
「減圧下で凹凸を有する基材104の凹凸面にフィルム106を密着追従させて仮積層体(A)101を形成する真空積層手段1と,前記仮積層体(A)101を押圧して凹凸面が平坦化された仮積層体(B)102を形成する第1の平面プレス手段2と,前記仮積層体(B)102を前記第1の平面プレス手段2と異なる条件で押圧してさらに凹凸面が平坦化された積層体103を形成する第2の平面プレス手段3とを備えた積層装置に用いられる前記第1の平面プレス手段2であって,(【0007】,【0012】)
固定された上プレスブロック27と,上下移動可能に取り付けられた下プレスブロック28を備え,前記仮積層体(A)101を前記上プレスブロック27及び前記下プレスブロック28で加熱加圧して仮積層体(A)101の表面を平坦化するものであり,(【0017】)
前記上プレスブロック27は,上部ベース層34に,平板状の上側断熱材35,上側熱盤36,平板状の上側緩衝材37及び上側フレキシブル金属板38が上からこの順に固定された構成になっており,前記下プレスブロック28は,下部ベース層39に,平板状の下側断熱材40,下側熱盤41,平板状の下側緩衝材42及び下側フレキシブル金属板43が下からこの順に固定された構成になっており,(【0018】)
前記上側緩衝材37及び前記下側緩衝材42としては,表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が65~75度で,厚みが0.5~3mmの,フッ素系ゴムを用いる,(【0020】ないし【0022】)
第1の平面プレス手段2。」(以下「甲1装置発明」という。)
「甲1装置発明の第1の平面プレス手段2で,凹凸を有する基材104の凹凸面にフィルム106が積層された仮積層体を押圧して,凹凸面を平坦化する積層方法。(【0007】,【0017】,【0025】)」(以下「甲1方法発明」という。)
(2)本件特許発明1について
ア 甲1装置発明を主引用発明とする場合について
(ア)対比
a 甲1装置発明の「上部ベース層34」,「下部ベース層39」,「凹凸を有する基材104」,「フィルム106」,「第1の平面プレス手段2」,「上側熱盤36,下側熱盤41」,「上側緩衝材37,下側緩衝材42」及び「上側フレキシブル金属板38,下側フレキシブル金属板43」が,本件特許発明1の「上盤」,「下盤」,「凹凸部を備えた被積層材」,「積層フィルム」,「積層成形プレス装置」,「加圧ブロック」,「樹脂フィルム」及び「金属薄板」に,それぞれ相当する。
b 甲1装置発明は,「凹凸を有する基材104」(本件特許発明1の「凹凸部を備えた被積層材」に相当する。以下,本「(ア)対比」欄において,カギ括弧で囲まれた甲1装置発明の構成に続く丸括弧中の文言は,当該甲1装置発明の構成に対応する本件特許発明1の発明特定事項を表す。)の凹凸面に「フィルム106」(積層フィルム)を密着追従させて形成した仮積層体(A)101を上プレスブロック27及び下プレスブロック28で加熱加圧して,凹凸面が平坦化された仮積層体(B)102を形成する「第1の平面プレス手段2」(積層成形プレス装置)であるところ,前記上プレスブロック27は,「上部ベース層34」(上盤)に,平板状の上側断熱材35,上側熱盤36,平板状の上側緩衝材37及び上側フレキシブル金属板38が上からこの順に固定された構成になっており,前記下プレスブロック28は,「下部ベース層39」(下盤)に,平板状の下側断熱材40,下側熱盤41,平板状の下側緩衝材42及び下側フレキシブル金属板43が下からこの順に固定された構成になっているから,甲1装置発明は,「上部ベース層34」(上盤)と「下部ベース層39」(下盤)の間で「凹凸を有する基材104」(凹凸部を備えた被積層材)と「フィルム106」(積層フィルム)とを加圧成形する「第1の平面プレス手段2」(積層成形プレス装置)であるといえる。
したがって,本件特許発明1と甲1装置発明は,「上盤と下盤の間で凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムとを加圧成形する積層成形プレス装置」である点で一致する。
c 甲1装置発明の「上部ベース層34」(上盤)には,平板状の上側断熱材35,「上側熱盤36」(加圧ブロック),平板状の「上側緩衝材37」(樹脂フィルム)及び「上側フレキシブル金属板38」(金属薄板)が上からこの順に固定された構成になっており,甲1装置発明の「下部ベース層39」(下盤)には,平板状の下側断熱材40,「下側熱盤41」(加圧ブロック),平板状の「下側緩衝材42」(樹脂フィルム)及び「下側フレキシブル金属板43」(金属薄板)が下からこの順に固定された構成になっているところ,甲1装置発明の上側フレキシブル金属板38及び下側フレキシブル金属板43が加圧面を構成していることは明らかであり,本件特許発明1の「樹脂フィルム」と,甲1装置発明の「上側緩衝材37」及び「下側緩衝材42」は,「加圧ブロック」と「金属薄板」の間に設けられる部材(以下,「中間部材」という。)である点で一致するから,本件特許発明1と甲1装置発明は,「上盤または下盤の少なくとも一方の盤に取付けられた加圧ブロックには,中間部材を介して加圧面を構成する金属薄板が備えられ」た点で一致する。
d 前記aないしcに照らせば,本件特許発明1と甲1装置発明は,次の点で相違する。
相違点1:
本件特許発明1の中間部材は,エンジリアリングプラスチックまたは熱硬化性樹脂の樹脂フィルムであって,当該樹脂フィルムの荷重たわみ温度が,200℃以上であるのに対して,
甲1装置発明の中間部材は,表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が65~75度で,厚みが0.5~3mmの,フッ素系ゴムからなる緩衝材である点。
(イ)当合議体の判断
a 甲1の【0020】に,甲1装置発明の上側緩衝材37及び下側緩衝材42に関して,「上記緩衝材37,42としては,表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が60度以上であるものが好ましく,65~75度であることがより好ましい。表面ショアA硬度が上記範囲内であると,押圧後のフィルム106の膜厚がより均一になるためである。なお,本発明において,ショアA硬度は,JIS K6253に準拠し,タイプAデュロメータを用いて測定されたものである。」と記載されていることから理解されるように,甲1装置発明において,上側緩衝材37及び下側緩衝材42として,表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が65~75度の材質を用いるのは,加圧する際に,上側緩衝材37及び下側緩衝材42の緩衝効果により,フィルム106全体に均一な圧力を加えることによって,押圧後のフィルム106の膜厚を均一なものとすることを目的としているものと認められる。
そうすると,前記甲1の記載中の「上記緩衝材37,42としては,表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が60度以上であるものが好ましく,」という記載に基づいて,当業者が,甲1装置発明の上側緩衝材37及び下側緩衝材42として,表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が65~75度の範囲外の材質を選択する余地があるとしても,前述した押圧後のフィルム106の膜厚の均一化という目的を達成するために,ショアA硬度(デュロメータ硬さ)が65~75度という範囲から大きく外れる材質を選択することはない。
ここで,ショアA硬度が準拠する「JIS K6253」は,「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム硬さの求め方」であって,ゴムの硬さの測定方法を規格化したものである。そして,ショアA硬度で,65度というと,タイヤの硬さ程度を示し,90度というと,ゴルフボールの硬さ程度を示しているところ(URL:https://www.kyowakg.com/quality/kodo/を参照。),本件特許発明1の樹脂フィルムの材料であるエンジニアリングプラスチックや熱硬化性樹脂の硬さは,これらのゴムよりもはるかに硬度が高いことは,当業者における技術常識であるから,甲1の記載(特に【0020】)に接した当業者は,甲1装置発明において,上側緩衝材37及び下側緩衝材42の材質として,表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が65~75度のフッ素系ゴムに代えて,エンジニアリングプラスチック又は熱硬化性樹脂を採用しようとすることはないというべきである。
したがって,甲1装置第1発明において,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を採用することは,当業者といえども,容易に想到し得たことではない。
b 申立人は,申立書において,甲1の【0022】に,「緩衝材37,42の材質は,通常,紙,ゴム,合成樹脂,繊維等を用いることができる。・・・(中略)・・・上記緩衝材37,42は,耐熱性樹脂,ガラス繊維シートや金属箔シート等を内部に含むものであってもよい」と記載されているとおり,緩衝材として耐熱性樹脂を用い,耐熱性を向上させることが記載されているのであるから,甲1に記載の発明において,熱盤の設定温度条件等に応じて,熱劣化等を抑制するために,公知材料の中から,耐熱性を示す公知の指標である荷重たわみ温度を参照にして,特定の材料を選択することは当業者が適宜なし得る設計事項であるなどと主張する(24ページ4行ないし16行)。
しかしながら,前記aで述べたとおり,甲1の記載(特に【0020】)に接した当業者は,甲1装置第1発明において,上側緩衝材37及び下側緩衝材42の材質として,押圧後のフィルム106の膜厚の均一化という目的を達成するための表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が65~75度のフッ素系ゴムに代えて,これよりもはるかに硬度が高いエンジニアリングプラスチック又は熱硬化性樹脂を採用しようとすることはないというべきである。
また,そもそも,申立人が指摘する【0022】の前記記載は,緩衝材37,42の材質として,ゴムのほかに,合成樹脂等を列挙した上で,なかでもゴムが好ましく,特にフッ素系ゴムが好ましいことを説明した上で,耐熱性樹脂等を内部に含むものであってもよいと説明していることから,緩衝材37,42を,ゴム等の内部に耐熱性樹脂を含有させた材質で形成することが記載されていると認められるのであって,申立人がいうような緩衝材37,42をもっぱら耐熱性樹脂で形成することなど記載されてはいない。
したがって,当該申立人の主張は採用できない。
また,申立人は,申立書において,甲1に記載の発明において,甲2及び周知技術を参酌すれば,熱盤の温度条件等において,熱劣化等を抑制するために,ポリイミドないしこれに類する耐熱性樹脂を緩衝材の材料として用いる程度のことは当業者が適宜なし得る設計事項であるなどとも主張する(24ページ17行ないし26ページ4行)。
しかしながら,たとえ,甲2に,フッ素樹脂積層板をプレス成形する際に,金型プレートと熱盤との間に用いるクッション材として,ポリイミドを用いる技術が記載され,ポリイミドの荷重たわみ温度が,200℃以上であることが本件出願前に周知であったとしても,前記aで述べたとおり,甲1の記載(特に【0020】)に接した当業者は,甲1装置発明において,上側緩衝材37及び下側緩衝材42の材質として,押圧後のフィルム106の膜厚の均一化という目的を達成するための表面のショアA硬度(デュロメータ硬さ)が65~75度のフッ素系ゴムに代えて,これよりもはるかに硬度が高いポリイミドを採用しようとすることはないというべきである。
したがって,当該申立人の主張も採用できない。
(ウ)小括
前記(イ)で述べたとおりであるから,本件特許発明1は,甲1装置発明に基づいて,又は甲1装置発明,甲2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。
イ 甲1に記載されたその他の装置発明を主引用発明とした場合について
甲1には,甲1装置発明のほか,「第1の平面プレス手段2の緩衝材より緩衝効果の小さい緩衝材」を「熱盤48,49と金属板(板状体)50,51との間に緩衝材を設け」た「第2の平面プレス手段3」に係る発明も記載(【0007】,【0012】、【0025】,【0027】~【0029】)されている。
しかしながら,この発明を主引用発明とした場合においても,結局,本件特許発明1との相違点は,前記ア(ア)dの相違点1と同様であって,その判断も前記ア(イ)と同様となる。すなわち,甲1には,前記「緩衝効果の小さい緩衝材」について,「上記第2の平面プレス手段3に緩衝材を設ける場合,その緩衝材は,表面のショアA硬度が60度以上であることが好ましく,65~75度であることがより好ましい。緩衝材の表面ショアA硬度が上記範囲内であると,押圧後のフィルム(ラミネート)の膜厚がより均一になるためである。」(【0028】)及び「緩衝効果の大小は,通常,緩衝材の材質および厚みによって決定されるが・・・中略・・・上記緩衝材を設ける場合,その厚みは,通常0.2~20mmであり,好ましくは0.2~3mm,より好ましくは0.2~1mmである。」(【0027】~【0029】)と記載されるにとどまることから,この発明において,当業者が「緩衝効果の小さい緩衝材」の材質として,ショアA硬度(デュロメータ硬さ)が65~75度という前記範囲から大きく外れる材質を選択する理由がないという事情は,甲1装置発明を主引用発明とした場合と変わらない。
また,申立人が,申立書(22ページ)において甲1に記載された発明として,主張する「積層装置」の発明を主引用発明とした場合においても,本件特許発明1と当該発明との相違点は,結局,前記ア(ア)dの相違点1に帰着することになるから,その判断も前記ア(イ)と同様となる。
以下、「甲1装置発明」及び前記イで検討した甲1に記載された発明を総称し、「甲1装置発明等」ということがある。
(3)本件特許発明2ないし6について
本件特許の請求項2ないし6は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件特許発明2ないし6は,本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当する。そして,前記(2)で述べたとおり,本件特許発明1が,甲1装置発明等に基づいて,又は甲1装置発明等及び甲2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件特許発明2ないし6も,同様の理由で,甲1装置発明等に基づいて,又は甲1装置発明等及び甲2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(4)本件特許発明7について
本件特許発明7と甲1方法発明とを対比すると,両者は,少なくとも前記(2)ア(ア)dの相違点1と同様の点で相違し,当業者が当該相違点に係る本件特許発明7の発明特定事項に対応する構成に容易に想到し得たといえないことは,前記(2)ア(イ)に示した理由と同様である。
(5)本件特許発明8について
本件特許の請求項8は,請求項7の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件特許発明8は,本件特許発明7の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに相当する。そして,前記(4)で述べたとおり,本件特許発明7が,甲1方法発明に基づいて,又は甲1方法発明,甲2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件特許発明8も,同様の理由で,甲1方法発明に基づいて,又は甲1方法発明,甲2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(6)申立理由1のまとめ
本件特許発明1ないし8は,いずれも,甲1に記載された発明に基づいて,又は甲1に記載された発明,甲2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでないから,申立人が主張する申立理由1によって,請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2について
(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には,次の記載がある。
(当合議体注:下線部は判断において活用した箇所である。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,上盤と下盤の間で凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムとを加圧成形する積層成形プレス装置,該積層成形プレス装置を備えた積層成形システム,前記積層成形プレス装置を用いた積層成形方法,および前記積層成形方法により積層成形される積層成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上盤と下盤の間で凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムとを加圧成形する積層成形プレス装置としては特許文献1ないし特許文献4に記載されたものが知られている。特許文献1は,真空積層装置の後工程に積層成形プレス装置である平坦化プレス機が備えられている。そして平坦化プレスは,加圧ブロックである研磨板の表面に例えば1.5mm程度の厚さを有するゴムなどからなる緩衝材が貼着され,緩衝材の表面には2mm程度の厚さのステンレスなどからなる弾性変形可能な鏡面板が貼着されている。そして成形時には成形面を構成する鏡面板は,当初製品の表面の凹凸に応じて弾性変形し,その後徐々に緩衝材の弾性変形と鏡面板の弾性変形により,もとの平面に戻るように作用することが記載されている。
【0003】
また特許文献2は,特許文献1と同様に真空積層装置の後工程に積層成形プレス装置である平面プレス装置について記載したものであって,平面プレスにおけるプレスブロックの表面に緩衝材とフレキシブル金属板が順次配置されることも共通している。また特許文献2は緩衝材の材質についてフッ素系ゴムが特に好ましいことが記載されているが,紙,プラスチックを用いてもよいことが記載されている。
【0004】
更に特許文献3は,1次成形を行う真空積層装置と2次成形を行う平面プレス装置の双方に,それぞれ熱盤のフィルム状樹脂材側の各面に緩衝材を介して金属板状体を設け,この板状体にフィルム状樹脂材の表面に当接してこれを加圧する弾性プレス板を接着固定することが記載されている。そして明細書の(0031)には,ゴム弾性等を有する緩衝材を設けることが好ましいことが記載されている。
【0005】
更にまた特許文献4では,第一真空プレス装置と第二真空プレス装置からなる真空プレス設備が記載され,第一真空プレス装置は加圧面が十分な弾性を有していること,第二プレス装置の加圧面は金属部材によっても形成できるが,弾性部材であっても硬質ゴムなどを用いて成形することもできることが記載されている。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで近年では積層成形に使用される積層フィルムは,フィルム表面の低祖度化による被積層物との密着性の向上,熱膨張率の低下させることによる基板との剥離の防止,絶縁性の向上(誘電損失の低減)含水率の低下などの目的からSiO2等の無機材料の含有率を増加させたタイプが増加しつつある。しかしその結果,積層フィルムはヤング率が大きいものが増加しており,積層フィルムを加熱・加圧する際の溶融材料の流動性についても従来のタイプの積層フィルムよりも低下するという問題がある。
【0008】
またこの問題に対して従来のプレス装置を使用し加圧時の加圧力を単に増加させると,図5に示されるように緩衝材の弾性作用が大きいため被積層との端部に対応する加圧面の部分に応力が集中して前記端部付近の積層フィルムの樹脂材料が外部に流れて成形不良となるなどの問題もあった。
【0009】
そこで本発明では,精度の高い積層成形品を積層成形することを可能とするか,または無機材料の含有率が多い積層フィルムを用いた積層成形品を良好に積層成形することを可能とした積層成形プレス装置および積層成形システムならびに積層成形方法を提供することを目的とする。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載の積層成形プレス装置は,上盤と下盤の間で凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムとを加圧成形する積層成形プレス装置において,前記上盤または下盤の少なくとも一方の盤に取付けられた加圧ブロックには,エンジリアリングプラスチックまたは熱硬化性樹脂の樹脂フィルムを介して加圧面を構成する金属薄板が備えられ,前記樹脂フィルムの樹脂は,ポリイミド,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルサルホン,ポリエチレンナフタレート,フッ素樹脂,アラミドの少なくとも一つであることを特徴とする。従って精度の高い積層成形品を積層成形することが可能となるか,または無機材料の含有率が多い積層フィルムを用いた積層成形品の積層成形においても良好に積層成形することが可能となる。」
エ 「【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1は,上盤と下盤の間で凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムとを加圧成形する積層成形プレス装置において,前記上盤または下盤の少なくとも一方の盤に取付けられた加圧ブロックには,エンジリアリングプラスチックまたは熱硬化性樹脂の樹脂フィルムを介して加圧面を構成する金属薄板が備えられ,前記樹脂フィルムの樹脂は,ポリイミド,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルサルホン,ポリエチレンナフタレート,フッ素樹脂,アラミドの少なくとも一つであるので,精度の高い積層成形品を積層成形することが可能となるか,または無機材料の含有率が多い積層フィルムを用いた積層成形品の成形においても良好に積層成形することが可能となる。」
オ 「【0040】
また第1の実施形態では弾性可能な金属板であるステンレス製の薄板322,325と加圧ブロック317.318の間の緩衝材をポリイミドフィルム324,321等の樹脂フィルムとすることにより,従来の緩衝材をゴムとしたものと比較して緩衝材の硬度を高くして弾性金属板であるステンレス製の薄板322,325の弾性変形を所望の範囲にまで抑制または実質的に殆ど変形しない程度にまですることができる。また加圧ブロックが金属ブロックのみの場合は,基板A1の凸部A1bの前面に対応する中間積層材A4の表面部分のみに力が加わり過ぎて,基板A1を破壊したり基板A1の凹部A1cの部分が十分に押圧できない可能性がある。
【0041】
この点について従来の緩衝材をゴムとした積層成形プレス装置10では,図5に示されるように,プレス成形時に緩衝材101,102の中央部101a,102aは,中間積層材A4を加圧した反力により付勢されて圧縮され,直接中間積層材A4と当接するステンレス製の薄板103,104の中央部103a,104aも加圧ブロック105,106側に向けて撓む。それと比較して直接中間積層材A4を加圧していない緩衝材101,102の外側部101b,102bは殆ど圧縮されない。その結果,加圧ブロック105,106とステンレス製の薄板の外側部103b,104bとの間の距離が,加圧ブロック105,106とステンレス製の薄板の中央部103a,104aとの間の距離よりも相対的に大きくなる現象が発生する。前記現象が発生すると,中間積層材A4の外側に対応するステンレス製の薄板の外側部103b,104bは,中心側が加圧ブロック105,106に向けて後退し外側が加圧ブロック105,106から突出する状態の傾斜面103c,104cを形成する。よって前記ステンレス製の薄板の外側部103b,104bの傾斜面103c,104cと中間積層材A4の外側部分の表面の間には所定の角度αができる。その結果,中間積層材A4の積層フィルムA2層の端部A2aに対しては,加圧時の応力が集中する。更にその結果,前記中間積層材A4の積層フィルムA2の端部A2a付近の溶融状態の樹脂が外側に向けて流出樹脂A2bのようにはみ出すという問題が発生していた。
【0042】
それに対して第1の実施形態では,緩衝材にポリイミドフィルム321.325等のエンジリアリングプラスチックまたは熱硬化性樹脂の樹脂フィルムを用いているので,中間積層材A4を加圧時に中央部の緩衝材の樹脂フィルムのみが部分的に大きく圧縮される程度が小さく,弾性金属板であるステンレス製の薄板322,325の弾性変形も小さな程度で収まる。そのため中間積層材A4の表面の積層フィルムA2の端部A4cに応力の集中する程度が小さくなり,前記中間積層材A4の積層フィルムA2層の端部A4c付近の溶融状態の樹脂が外側に向けて流動することも殆どなくなる。」
(2)当合議体の判断
ア サポート要件の充足性について
前記(1)ア及びイで摘記した本件特許明細書の記載から,本件特許発明が解決しようとする課題は,上盤と下盤の間で凹凸部を備えた被積層材と積層フィルムとを加圧成形する積層成形プレス装置の技術分野において,近年増加しつつあるSiO2等の無機材料の含有率を増加させたタイプの積層フィルムで,ヤング率が大きいものは,加熱・加圧する際の溶融材料の流動性が従来よりも低く,これに対応するために,加圧時の加圧力を単に増加させると,緩衝材の弾性作用が大きいために,応力集中により被積層材の端部付近の積層フィルムの樹脂材料が外部に流れて成形不良となるという点にあると理解される。
そして,前記(1)ウないしオで摘記した本件特許明細書の記載から,本件特許発明は,金属薄板と加圧ブロックの間の緩衝材として,エンジニアリングプラスチック又は熱硬化性樹脂の樹脂フィルムという構成を採用することによって,緩衝材の硬度を高くして金属薄板の弾性変形を所望の範囲にまで抑制又は実質的にほとんど変形しない程度にして,被積層材の端部付近での応力集中の程度を小さくし,溶融状態の樹脂材料が外側に向けて流動することを防止して,前記発明の課題を解決したものと理解される。また,エンジニアリングプラスチックや熱硬化性樹脂の高温環境下における硬度が,従来緩衝材の材質として用いられてきたゴムなどとは比較にならないほど高いことは,本件特許出願の出願時の技術常識である。
これに対して,本件特許発明1ないし6は,請求項1に記載された「加圧ブロックには,エンジリアリングプラスチックまたは熱硬化性樹脂の樹脂フィルムを介して加圧面を構成する金属薄板が備えられ」という発明特定事項を具備し,本件特許発明7及び8は,請求項7に記載された「加圧ブロックには,・・・(中略)・・・エンジリアリングプラスチックまたは熱硬化性樹脂の樹脂フィルムを介して加圧面を構成する金属薄板が備えられ」という発明特定事項を具備している。
そうすると,本件特許発明1ないし8は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものというほかない。
したがって,本件特許発明1ないし8は,発明の詳細な説明に記載したものである。
イ 申立人の主張について
申立人は,申立書において,発明の詳細な説明の【0008】には,緩衝材の緩衝作用が大きいため被積層材の端部に対応する加圧面の部分に応力が集中して前記端部付近の積層フィルムの樹脂材料が外部に流れて成形不良になるなどの問題があった旨記載される一方,【0024】に,加重たわみ温度が200℃以下の樹脂フィルムでは,加圧ブロックの設定温度が100℃程度の場合であっても,成形回数が所定回数以上となると樹脂フィルムの劣化や厚みの減少に繋がりやすい等と記載されているのみであって,本件特許発明の課題と,本件特許発明において特定された解決手段(加重たわみ温度が200℃以上)が対応していないから,本件特許発明は,当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないとして,サポート要件に適合しないなどと主張する(35ページ9行ないし36ページ末行)。
しかしながら,前記アで述べたように,発明の詳細な説明の記載から理解される発明の課題を解決するための手段は,金属薄板と加圧ブロックの間の緩衝材として,エンジニアリングプラスチック又は熱硬化性樹脂の樹脂フィルムという構成を採用することと認められるのであって,当該構成は,本件特許発明において,発明特定事項として,特定されているのであるから,本件特許発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって,当該申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由2のまとめ
以上のとおり,本件特許発明1ないし8は,発明の詳細な説明に記載したものであるから,申立理由2によって,請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
したがって,請求項1ないし8に係る特許は,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては,取り消すことができない。
また,他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2021-701246