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特許異議申立

2021-700186

撥水助剤、非フッ素系撥水剤組成物、及び撥水性繊維製品の製造方法

審判番号
2021-700186
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-038069外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6741442
請求日
2021年02月19日
審決日
2022年02月15日
公報発行日
2022年05月27日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1652.121-YAA(C09K) / P1652.161-YAA(C09K) / P1652.537-YAA(C09K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の2第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第29条の2
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6741442号発明「撥水助剤、非フッ素系撥水剤組成物、及び撥水性繊維製品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6741442号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。
特許第6741442号の請求項1、3~5及び7~11に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 12項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6741442号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、平成28年2月29日を出願日とするものであって、令和2年7月29日に特許権の設定登録がされ、令和2年8月19日に特許掲載公報が発行され、その請求項1、3~5及び7~11に係る発明の特許に対し、令和3年2月19日に藤本一男(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

特許異議の申立て以後の手続の経緯は次のとおりである。

令和3年 4月28日付け 取消理由通知

同年 7月 9日 意見書・訂正請求書(特許権者)

同年 7月21日付け 訂正請求があった旨の通知

同年 8月20日 意見書(特許異議申立人)

同年 9月29日付け 取消理由通知書(決定の予告)

同年12月 2日 意見書・訂正請求書(特許権者)

同年12月 8日付け 訂正請求があった旨の通知

令和4年 1月 7日 意見書(特許異議申立人)

なお、令和3年7月21日付けの訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1.訂正の内容

令和3年12月2日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の「請求の趣旨」は『特許第6741442号特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~11について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~4からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。

(1)訂正事項1

訂正前の請求項1の「ポリエステルを100%含む繊維用非フッ素系撥水剤組成物」との記載部分を、

訂正後の請求項1の「ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物」との記載に訂正するとともに、

訂正前の請求項1の「[式(1)中、R20、R21及びR22はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R23は、芳香族環を有する炭素数8~40の炭化水素基、又は炭素数3~22のアルキル基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、aは0以上の整数を表し、bは1以上の整数を表し、(a+b)は20~100であり、aが2以上の場合、複数存在するR20及びR21はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、bが2以上の場合、複数存在するR22及びR23はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]」との記載部分を、

訂正後の請求項1の「[式(1)中、R20、R21及びR22はメチル基を表し、R23は、ドデシル基、ヘキシル基、オクタデシル基、又はメチルスチレン基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はメチル基を表し、aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表し、(a+b)は50である。]」との記載に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~4及び9~11も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2

訂正前の請求項2の「前記非フッ素系ポリマーが、(B1)HLBが7~18である下記一般式(I-1)で表される化合物、(B2)HLBが7~18である下記一般式(II-1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7~18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)に由来する構成単位を更に含有する、請求項1に記載の非フッ素系撥水剤組成物。

【化3】

[図:0001384074000001.jpg]

[式(I-1)中、R3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y1は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]

【化4】

[図:0001384074000002.jpg]

[式(II-1)中、R4は重合性不飽和基を有する炭素数13~17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y2は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]」との記載を

訂正後の請求項2の「撥水助剤と、非フッ素系撥水剤とを含み、

前記撥水助剤が、下記一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーンを含み、

前記非フッ素系撥水剤が、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と、(B1)HLBが7~18である下記一般式(I-1)で表される化合物、(B2)HLBが7~18である下記一般式(II-1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7~18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)に由来する構成単位と、を含有する非フッ素系ポリマーを含み、

前記非フッ素系ポリマーにおける前記一般式(A-1)で表される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の合計構成割合が、前記非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、56質量%~100質量%である、ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物。

【化3】

[図:0001384074000003.jpg]

[式(1)中、R20、R21及びR22はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R23は、芳香族環を有する炭素数8~40の炭化水素基、又は炭素数3~22のアルキル基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、aは0以上の整数を表し、bは1以上の整数を表し、(a+b)は20~100であり、aが2以上の場合、複数存在するR20及びR21はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、bが2以上の場合、複数存在するR22及びR23はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]

【化4】

[図:0001384074000004.jpg]

[式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]

【化5】

[図:0001384074000005.jpg]

[式(I-1)中、R3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y1は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]

【化6】

[図:0001384074000006.jpg]

[式(II-1)中、R4は重合性不飽和基を有する炭素数13~17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y2は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]」との記載に訂正する(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項4及び9~11も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3

訂正前の請求項5の「ポリエステルを100%含む繊維用非フッ素系撥水剤組成物」との記載部分を、

訂正後の請求項5の「ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物」との記載に訂正するとともに、

訂正前の請求項5の「[式(1)中、R20、R21及びR22はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R23は、芳香族環を有する炭素数8~40の炭化水素基、又は炭素数3~22のアルキル基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、aは0以上の整数を表し、bは1以上の整数を表し、(a+b)は20~100であり、aが2以上の場合、複数存在するR20及びR21はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、bが2以上の場合、複数存在するR22及びR23はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]」との記載部分を、

訂正後の請求項5の「[式(1)中、R20、R21及びR22はメチル基を表し、R23は、ドデシル基、ヘキシル基、オクタデシル基、又はメチルスチレン基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はメチル基を表し、aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表し、(a+b)は50である。]」との記載に訂正する(請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項7~11も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4

訂正前の請求項6の「前記乳化物又は前記分散物が、(B1)HLBが7~18である下記一般式(I-1)で表される化合物、(B2)HLBが7~18である下記一般式(II-1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7~18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)を更に含む、請求項5に記載の非フッ素系撥水剤組成物。

【化12】

[図:0001384074000007.jpg]

[式(I-1)中、R3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y1は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]

【化13】

[図:0001384074000008.jpg]

[式(II-1)中、R4は重合性不飽和基を有する炭素数13~17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y2は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]」との記載を

訂正後の請求項6の「撥水助剤と、非フッ素系撥水剤とを含み、

前記撥水助剤が、下記一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーンを含み、

前記非フッ素系撥水剤が、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)と、(B1)HLBが7~18である下記一般式(I-1)で表される化合物、(B2)HLBが7~18である下記一般式(II-1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7~18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)と、を含む乳化物又は分散物を乳化重合又は分散重合させてなる非フッ素系ポリマーを含み、

前記非フッ素系ポリマーにおける前記一般式(A-1)で表される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の合計構成割合が、前記非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、56質量%~100質量%である、ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物。

【化14】

[図:0001384074000009.jpg]

[式(1)中、R20、R21及びR22はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R23は、芳香族環を有する炭素数8~40の炭化水素基、又は炭素数3~22のアルキル基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、aは0以上の整数を表し、bは1以上の整数を表し、(a+b)は20~100であり、aが2以上の場合、複数存在するR20及びR21はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、bが2以上の場合、複数存在するR22及びR23はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]

【化15】

[図:0001384074000010.jpg]

[式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]

【化16】

[図:0001384074000011.jpg]

[式(I-1)中、R3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y1は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]

【化17】

[図:0001384074000012.jpg]

[式(II-1)中、R4は重合性不飽和基を有する炭素数13~17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y2は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]」との記載に訂正する(請求項6の記載を直接又は間接的に引用する請求項7~11も同様に訂正する。)。

2.本件訂正による訂正の適否

(1)一群の請求項について

訂正事項1~4に係る訂正前の請求項1~11について、その請求項2~4はいずれも直接又は間接的に請求項1を引用するものであり、その請求項6~8はいずれも直接又は間接的に請求項5を引用するものであり、その請求項9~11はいずれも直接又は間接的に請求項1、5を引用するものであるから、訂正前の請求項1~11に対応する訂正後の請求項1~11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

したがって、訂正事項1~11による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に適合するものである。

(2)訂正事項1について

ア.訂正の目的

訂正事項1は、訂正事項1の1として、訂正前の請求項1の「ポリエステルを100%含む繊維用非フッ素系撥水剤組成物」を「ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物」に改めることを含むものであって、当該「非フッ素系撥水剤組成物」が「ポリエステル100%」の「繊維」に用いるためのものであることを明確にするものであるから、訂正事項1の1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

また、訂正事項1は、訂正事項1の2として、請求項1の「式(1)」の範囲について、訂正前の「R20、R21及びR22はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し」との記載における選択肢を「メチル基」のみに限定し、訂正前の「R23は、芳香族環を有する炭素数8~40の炭化水素基、又は炭素数3~22のアルキル基を表し」との記載における置換基の種類を「ドデシル基、ヘキシル基、オクタデシル基、又はメチルスチレン基」に限定し、訂正前の「aは0以上の整数を表し、bは1以上の整数を表し」との記載にある「a」及び「b」を訂正前の所定の条件を満たす形で「aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表し、(a+b)は50である。」に限定することを含むものであるから、訂正事項1の2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否

訂正事項1の1の「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正は、訂正前の請求項1の「ポリエステルを100%含む繊維用非フッ素系撥水剤組成物」の本来の意味する範囲が「ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物」であることから、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正事項1の2は「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するものではない。

したがって、訂正事項1の1及び1の2からなる訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無

訂正事項1の1について、本件特許明細書の段落0176には「風合は、染色を行ったポリエステル100%布を、実施例及び比較例の撥水剤組成物を…用いて評価した。」との記載があるから、訂正事項1の1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。

また、訂正事項1の2について、本件特許明細書の段落0155~0160には「(合成例1)…メチルハイドロジェンシリコーンのSiH基由来の吸収スペクトルが消失し…上記一般式(1)におけるaが0、bが50、R22がメチル基、R23がドデシル基、R30、R31、R32、R33、R34及びR35がメチル基であるオルガノ変性シリコーンが得られた。…(合成例2)…R23がヘキシル基、…(合成例3)…R23がオクタデシル基、…(合成例4)…R23がドデシル基又はメチルスチレン基、…(合成例5)…R23がドデシル基又はオクタデシル基、…(合成例6)…上記一般式(1)におけるaが25、bが25、R22がメチル基、R23がドデシル基、R30、R31、R32、R33、R34及びR35がメチル基であるオルガノ変性シリコーンが得られた。」との記載があるから、訂正事項1の2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。

したがって、訂正事項1の1及び1の2からなる訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項2について

ア.訂正の目的

訂正事項2は、訂正事項2の1として、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的として、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を当該請求項1の記載を引用しないものに改めるとともに、

訂正事項2の2として、同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的として、訂正前の請求項1の「ポリエステルを100%含む繊維用非フッ素系撥水剤組成物」との記載に対応する記載部分を「ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物」に改めて、当該「非フッ素系撥水剤組成物」が「ポリエステル100%」の「繊維」に用いるためのものであることを明確にするものである。

したがって、訂正事項2の1及び2の2からなる訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書の規定に適合する。

イ.特許請求の範囲の拡張又は変更の存否

訂正事項2の1は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を当該請求項1の記載を引用しないものに改めるものであることから、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正事項2の2は、上記(2)イ.の訂正事項1の1に示した理由と同様の理由により、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するものではない。

したがって、訂正事項2の1及び2の2からなる訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ.新規事項の有無

訂正事項2の1は、訂正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を当該請求項1の記載を引用しないものに改めるものであることから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。

また、訂正事項2の2は、上記(2)ウ.の訂正事項1の1に示した理由と同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。

したがって、訂正事項2の1及び2の2からなる訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

エ.独立特許要件について

訂正事項2は、特許異議の申立てがされていない請求項2について訂正するものであるが、特許法第120条の5第2項ただし書第3号及び第4号に掲げる事項のみを目的とするものである。

したがって、訂正事項2の1及び2の2からなる訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(4)訂正事項3について

訂正事項3は、上記(2)ア.に示した理由と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」及び同1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

そして、訂正事項3は、上記(2)イ.に示した理由と同様の理由により、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正事項3は、上記(2)ウ.に示した理由と同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。

したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項4について

訂正事項4は、上記(3)ア.に示した理由と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」及び同4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものに該当する。

そして、訂正事項4は、上記(3)イ.に示した理由と同様の理由により、実質上特許請求の範囲が拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正事項4は、上記(3)ウ.に示した理由と同様の理由により、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものである。

したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

さらに、訂正事項4は、上記(3)エ.に示した理由と同様の理由により、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3.まとめ

以上総括するに、訂正事項1~4による本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、なおかつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するとともに、特許異議の申立てがされていない請求項の訂正について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されないので、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正を認める。

第3 本件発明

本件訂正により訂正された請求項1~11に係る発明(以下「本1発明」~「本11発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
撥水助剤と、非フッ素系撥水剤とを含み、
前記撥水助剤が、下記一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーンを含み、
前記非フッ素系撥水剤が、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーを含み、
続きを表示(全100行)
前記非フッ素系ポリマーにおける前記一般式(A-1)で表される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の合計構成割合が、前記非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、56質量%~100質量%である、ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物。
【化1】
[図:0001384074000013.jpg]
[式(1)中、R20、R21及びR22はメチル基を表し、R23は、ドデシル基、ヘキシル基、オクタデシル基、又はメチルスチレン基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はメチル基を表し、aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表し、(a+b)は50である。]
【化2】
[図:0001384074000014.jpg]
[式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]
【請求項2】
撥水助剤と、非フッ素系撥水剤とを含み、
前記撥水助剤が、下記一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーンを含み、
前記非フッ素系撥水剤が、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と、(B1)HLBが7~18である下記一般式(I-1)で表される化合物、(B2)HLBが7~18である下記一般式(II-1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7~18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)に由来する構成単位と、を含有する非フッ素系ポリマーを含み、
前記非フッ素系ポリマーにおける前記一般式(A-1)で表される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の合計構成割合が、前記非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、56質量%~100質量%である、ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物。
【化3】
[図:0001384074000015.jpg]
[式(1)中、R20、R21及びR22はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R23は、芳香族環を有する炭素数8~40の炭化水素基、又は炭素数3~22のアルキル基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、aは0以上の整数を表し、bは1以上の整数を表し、(a+b)は20~100であり、aが2以上の場合、複数存在するR20及びR21はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、bが2以上の場合、複数存在するR22及びR23はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【化4】
[図:0001384074000016.jpg]
[式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]
【化5】
[図:0001384074000017.jpg]
[式(I-1)中、R3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y1は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【化6】
[図:0001384074000018.jpg]
[式(II-1)中、R4は重合性不飽和基を有する炭素数13~17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y2は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【請求項3】
前記非フッ素系ポリマーが、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(E)に由来する構成単位を更に含有する、請求項1又は2に記載の非フッ素系撥水剤組成物。
【請求項4】
(C1)下記一般式(C-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体、(C2)下記一般式(C-2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体、(C3)下記一般式(C-3)で表されるメタクリル酸エステル単量体、(C4)下記一般式(C-4)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体、及び(C5)下記一般式(C-5)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の第2の(メタ)アクリル酸エステル単量体(C)に由来する構成単位を更に含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の非フッ素系撥水剤組成物。
【化7】
[図:0001384074000019.jpg]
[式(C-1)中、R5は水素又はメチル基を表し、R6はヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数1~11の1価の鎖状炭化水素基を表す。ただし、分子内における(メタ)アクリロイルオキシ基の数は2以下である。ただし、前記(C5)下記一般式(C-5)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体を含まない。]
【化8】
[図:0001384074000020.jpg]
[式(C-2)中、R7は水素又はメチル基を表し、R8は置換基を有していてもよい炭素数1~11の1価の環状炭化水素基を表す。]
【化9】
[図:0001384074000021.jpg]
[式(C-3)中、R9は無置換の炭素数1~4の1価の鎖状炭化水素基を表す。]
【化10】
[図:0001384074000022.jpg]
[式(C-4)中、R10は水素又はメチル基を表し、pは2以上の整数を表し、Sは(p+1)価の有機基を表し、Tは重合性不飽和基を有する1価の有機基を表す。]
【化11】
[図:0001384074000023.jpg]
[式(C-5)中、R11は水素又はメチル基を表し、R12はクロロ基及びブロモ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基とヒドロキシル基とを有する炭素数3~6の1価の鎖状飽和炭化水素基を表す。]
【請求項5】
撥水助剤と、非フッ素系撥水剤とを含み、
前記撥水助剤が、下記一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーンを含み、
前記非フッ素系撥水剤が、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)を含む乳化物又は分散物を乳化重合又は分散重合させてなる非フッ素系ポリマーを含み、
前記非フッ素系ポリマーにおける前記一般式(A-1)で表される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の合計構成割合が、前記非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、56質量%~100質量%である、ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物。
【化12】
[図:0001384074000024.jpg]
[式(1)中、R20、R21及びR22はメチル基を表し、R23は、ドデシル基、ヘキシル基、オクタデシル基、又はメチルスチレン基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はメチル基を表し、aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表し、(a+b)は50である。]
【化13】
[図:0001384074000025.jpg]
[式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]
【請求項6】
撥水助剤と、非フッ素系撥水剤とを含み、
前記撥水助剤が、下記一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーンを含み、
前記非フッ素系撥水剤が、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)と、(B1)HLBが7~18である下記一般式(I-1)で表される化合物、(B2)HLBが7~18である下記一般式(II-1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7~18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)と、を含む乳化物又は分散物を乳化重合又は分散重合させてなる非フッ素系ポリマーを含み、
前記非フッ素系ポリマーにおける前記一般式(A-1)で表される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の合計構成割合が、前記非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、56質量%~100質量%である、ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物。
【化14】
[図:0001384074000026.jpg]
[式(1)中、R20、R21及びR22はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、R23は、芳香族環を有する炭素数8~40の炭化水素基、又は炭素数3~22のアルキル基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、aは0以上の整数を表し、bは1以上の整数を表し、(a+b)は20~100であり、aが2以上の場合、複数存在するR20及びR21はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、bが2以上の場合、複数存在するR22及びR23はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。]
【化15】
[図:0001384074000027.jpg]
[式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]
【化16】
[図:0001384074000028.jpg]
[式(I-1)中、R3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y1は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【化17】
[図:0001384074000029.jpg]
[式(II-1)中、R4は重合性不飽和基を有する炭素数13~17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y2は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【請求項7】
前記乳化物又は前記分散物が、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(E)を更に含む、請求項5又は6に記載の非フッ素系撥水剤組成物。
【請求項8】
前記乳化物又は前記分散物が、(C1)下記一般式(C-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体、(C2)下記一般式(C-2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体、(C3)下記一般式(C-3)で表されるメタクリル酸エステル単量体、(C4)下記一般式(C-4)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体、及び(C5)下記一般式(C-5)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種の第2の(メタ)アクリル酸エステル単量体(C)を更に含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の非フッ素系撥水剤組成物。
【化18】
[図:0001384074000030.jpg]
[式(C-1)中、R5は水素又はメチル基を表し、R6はヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数1~11の1価の鎖状炭化水素基を表す。ただし、分子内における(メタ)アクリロイルオキシ基の数は2以下である。ただし、前記(C5)下記一般式(C-5)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体を含まない。]
【化19】
[図:0001384074000031.jpg]
[式(C-2)中、R7は水素又はメチル基を表し、R8は置換基を有していてもよい炭素数1~11の1価の環状炭化水素基を表す。]
【化20】
[図:0001384074000032.jpg]
[式(C-3)中、R9は無置換の炭素数1~4の1価の鎖状炭化水素基を表す。]
【化21】
[図:0001384074000033.jpg]
[式(C-4)中、R10は水素又はメチル基を表し、pは2以上の整数を表し、Sは(p+1)価の有機基を表し、Tは重合性不飽和基を有する1価の有機基を表す。]
【化22】
[図:0001384074000034.jpg]
[式(C-5)中、R11は水素又はメチル基を表し、R12はクロロ基及びブロモ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基とヒドロキシル基とを有する炭素数3~6の1価の鎖状飽和炭化水素基を表す。]
【請求項9】
前記一般式(A-1)で表される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)が、R1が水素であるアクリル酸エステル単量体(a1)及びR1がメチル基であるメタアクリル酸エステル単量体(a2)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の非フッ素系撥水剤組成物。
【請求項10】
前記オルガノ変性シリコーンの含有量が、前記非フッ素系ポリマー100質量部に対して1~50質量部である、請求項1~9のいずれか一項に記載の非フッ素系撥水剤組成物。
【請求項11】
繊維製品を、請求項1~10のいずれか一項に記載の非フッ素系撥水剤組成物が含まれる処理液で処理する工程、を備える、撥水性繊維製品の製造方法。」

なお、本2及び本6発明は、特許異議の申立てがされていないので、審理の対象とすることはできないが、参考のため上記のとおり摘記した。

第4 取消理由通知の概要

令和3年9月29日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知された取消理由は、次の理由1及び2の取消理由からなるものである。

〔理由1〕本件特許の請求項1、3~5及び7~11に係る発明は、本件出願日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、本件出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:国際公開第2016/000830号
甲第2号証:欧州特許第2152957号

よって、本件特許の請求項1、3~5及び7~11に係る発明に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものである。

〔理由2〕本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

本件特許の請求項1及び5に記載の「一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーン」の広範な範囲について、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された「試験結果」及び「作用機序」の記載によっては、本件特許の出願時の「技術常識」を参酌しても、R20、R21及びR22がメチル基であり、R23が、ドデシル基、ヘキシル基、オクタデシル基、又はメチルスチレン基であり、R30、R31、R32、R33、R34及びR35がメチル基であるもの以外の「一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーン」の全てが、本件特許明細書の段落0011の記載から把握される『非フッ素系撥水剤の耐久撥水性を向上させることができる非フッ素系撥水剤組成物の提供』という課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。

よって、本件特許の請求項1、3~5及び7~11に係る発明に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に該当し取り消されるべきものである。

第5 当審の判断

1.理由1(進歩性)について

(1)引用刊行物の記載事項

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ア.甲第1号証(国際公開第2016/000830号)には、和訳にして、次の記載がある。

摘記1a:請求項1
「1.以下の成分(A)及び(B)を少なくとも含み、場合により、以下の成分(C)~(E)の少なくとも1つを含む組成物:
(A)以下のモノマーの重合で得られるポリアクリレート
(M1)CH2=CR3COO-R1
(M2)CH2=CR3COO-R2、及び場合により、
続きを表示(全15行)
(M3)CH2=CR3-X-R4;
(B)ワックス;
(C)ブロック化イソシアネート;
(D)有機ポリシロキサン;
(E)メラミン樹脂;
[ここで、
R1は、1~8個の炭素原子を含む、モノマー(M1)におけるアルコール部位であり;
R2は、9~40個の炭素原子を含む、モノマー(M2)におけるアルコール部位であり;
R3は、H、CH3、又はC2H5であり;
Xは、COO又はCONHであり;
R4はグリシジル又はCH2(CH2)n-OR5であり、ここでnは1~10の整数であり、そしてR5はH又は1~6個の炭素原子を含む残基である]であって、水及び/又は有機溶媒に基づき、そしてフッ素非含有である、組成物。」
摘記1b:段落0099及び00102~00104
「[0099]成分(D)(任意)…
[00102]基材に撥水性を付与するために、当技術分野で周知の如何なるポリシロキサン樹脂を用いてもよい。これに適した製品は、例えばドイツ特許10,2013,209,170号及び欧州特許2,152,957号に参照される。
[00103]成分(D)は組成物全量(100重量%)に対して、0~40重量%で存在してもよい。
[00104]そのようなポリシロキサン処方は、Ceraperm SFC (Archroma), Powersoft FE 55 或いは Wacker Finish WR 210(共にヴァッカー化学、ドイツ)など、市販されている。」
摘記1c:段落00130及び00140
「[00130] ワックス(成分B)及びモノマー(M1)及び(M2)、及び任意のモノマー(M3)を、(成分(F)のような)分散剤の存在下で溶解する。…
[00140]本発明による組成物は、特に撥水性を基材に付与するのに有用である。」
摘記1d:段落00155及び00158~00160
「[00155]実施例#1~#9:本発明による組成物の調製…
[00158]表1
[図:0001384074000035.jpg]
[00159]実施例#10:本実施例は、実施例#1~#9で調製された分散液によるテキスタイル布地の処理について述べる。
[00160]100%ポリエステル布地(100g/m2)の織布及び100%綿布地(200g/m2)の織布を処理した。」
摘記1e:段落00165及び00169~00171
「[00165]Cassurit FFのような架橋剤を更に添加すると、ポリエステルに対する撥水性効果の耐久性、特に綿布地に対する撥水性効果の耐久性を更に改善することができる。…
[00169]実施例#1~#9の処方で処理された布地が既に手に対する良好な感触をもたらしているという事実にもかかわらず、時として手に対する特別な追加の柔軟な感触を処理布地に付与することが望ましいことがある。これはCeraperm SFCのような有機ポリシロキサンに基づく柔軟剤処方を更に適用浴に添加することにより達成することができる。
[00170]表6
[図:0001384074000036.jpg]
[00171]極めて柔軟で心地よい手に対する感触性の他に、大変良好で耐久性ある撥水性が達成される。」

イ.甲第2号証(欧州特許第2152957B1号)には、和訳にして、次の記載がある。

摘記2a:段落0035~0037
「[0035]好適な不活性有機溶媒(LM)としては、好ましくは、無水エステル、例えば、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸i-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル又は酢酸アミルが使用される。
[0036]成分(2)は、先行技術においてまだ記載されていない新規C8C18アルキル基を含有するオルガノポリシロキサンである。したがって、本発明に関連する新規な態様は、最初に提供された化合物である。この成分の製造は、当業者に公知の方法を介して行われる。この場合、様々な合成経路が可能である。第一のルートでは、EP0159568B1(実施例1)に記載されているように、鎖長m=10~1000の側鎖SiH基を有する式(VI)のポリメチル水素シロキサンから出発して、直鎖状または分岐状α-オレフィンおよび不飽和グリシジルエーテルを用いるヒドロシリル化によりエポキシおよびアルキル変性オルガノポリシロキサンが得られる。
・・・
[0037]本発明のオルガノポリシロキサン中の請求項に記載の式(IIIb)の構造単位の数(b)は、ポリメチル水素シロキサン中のSiH基の数(b’)により、既にこの合成段階で決定される。従って、アルキル基、エポキシ基およびアミノ基の含有量も間接的に定義される。使用されるポリメチル水素シロキサンは、US5578692(実施例1)と同様に、トリフルオロメタンスルホン酸を触媒とする平衡反応によって製造することができる。ヒドロシリル化は、Pt触媒作用下で120~190℃の温度で実施し、その際、この反応は、一般に、不飽和化合物を最初に装入し、かつポリメチル水素シロキサンを滴加して、式(VII)の化合物を得るように実施される。
続きを表示(全12行)
[図:0001384074000037.jpg]
鎖長 m = a’+b’
m = 10~1000
R5=直鎖又は分枝鎖C8~C28アルキル基、
[図:0001384074000038.jpg]
及び/又は
[図:0001384074000039.jpg]
」
摘記2b:段落0088~0089
「[0088]表1Bに記載のエマルジョン(E)10-12は、成分(2)の代わりにパラフィンワックス(本発明によらない)を含有し、比較のために調製した。
成分(2)の製造例
オルガノポリシロキサン1
[0089]n-オクタデセン71.99g(0.28mol)およびアリルグリシジルエーテル2.5g(0.02mol)を、メチルプロピルケトン中の2%ヘキサクロロ白金酸溶液0.2gと混合し、窒素雰囲気下で120℃に加熱する。次いで、この温度で、US5578692(実施例1)と同様に製造した、m=50の鎖長および30個のSi-H基(b’=30)を有するメチル水素ポリシロキサン205g(0.30モルSiH)をゆっくりと滴加する。120℃で2時間攪拌した後、混合物を140℃に加熱し、1.5g(0.008mol)のビス[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アミンを添加する。140℃で1時間撹拌し、冷却後、窒素含量0.30%を有する淡灰色のワックス94.7gを得た。エポキシ当量は7958g/eqである。オルガノポリシロキサン中のC8~C28アルキル基の含有量は65重量%である。ワックスを、表1Aのエマルジョン(E)1、2および3を調製するために使用した。」

(2)甲第1号証の刊行物に記載の発明

摘記1aの「以下の成分(A)…~(E)の少なくとも1つを含む組成物:(A)以下のモノマーの重合で得られるポリアクリレート…(M2)CH2=CR3COO-R2、…(B)ワックス;(C)ブロック化イソシアネート;(D)有機ポリシロキサン;…[ここで、…R2は、9~40個の炭素原子を含む、モノマー(M2)におけるアルコール部位であり;R3は、H、CH3、又はC2H5であ…る]であって、…フッ素非含有である、組成物。」の具体的な態様について、

摘記1dの「実施例#1…表1…#1…t-BuMA…2.5…SA…7.5…パラフィンワックス…20…t-BuMA=tert.ブチルメタクリレート;…SA==ステアリルアクリレート;…実施例#1…で調製された分散液によるテキスタイル布地の処理について述べる。…100%ポリエステル布地(100g/m2)の織布…を処理した。」との記載、及び

摘記1eの「Cassurit FFのような架橋剤を更に添加すると、ポリエステルに対する撥水性効果の耐久性、特に綿布地に対する撥水性効果の耐久性を更に改善することができる。…実施例#1~#9の処方で処理された布地が既に手に対する良好な感触をもたらしているという事実にもかかわらず、時として手に対する特別な追加の柔軟な感触を処理布地に付与することが望ましいことがある。これはCeraperm SFCのような有機ポリシロキサンに基づく柔軟剤処方を更に適用浴に添加することにより達成することができる。…表6 ポリエステル…#1…適用量40g/l+5g/l Cassurit FF+15g/l Ceraperm SFG…初期…100…10×選択サイクル…90…極めて柔軟で心地よい手に対する感触性の他に、大変良好で耐久性ある撥水性が達成される。」との記載からみて、甲第1号証の刊行物には、表6の#1の具体例として、

『(A)tert-ブチルメタクリレート2.5部とステアリルアクリレート7.5部の重合で得られるポリアクリレート、及び(B)ワックス20部を含む実施例#1で調製された分散液40g/L、(C)ブロック化イソシアネート架橋剤(Cassurit FF)5g/L、並びに(D)有機ポリシロキサン(更に適用浴に添加することにより大変良好で耐久性ある撥水性が達成されるCeraperm SFC)15g/Lを含む100%ポリエステル布地の織布を処理する組成物。』についての発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比

本1発明と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「ステアリルアクリレート」は、本1発明の「下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位」において「式(A-1)中、R1は水素を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12以上(炭素数18)の1価の炭化水素基を表す。」に相当する。

甲1発明の「(A)tert-ブチルメタクリレート2.5部とステアリルアクリレート7.5部の重合で得られるポリアクリレート」は、甲第1号証の段落0140の「撥水性を基材に付与」する「組成物」の有効成分であって、その組成に「フッ素」が含まれないものであるから、本1発明の「非フッ素系撥水剤」に相当するものであって、なおかつ、本1発明の「下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマー」における「前記一般式(A-1)で表される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の合計構成割合が、前記非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、56質量%~100質量%(75質量%=7.5/(7.5+2.5)*100)である」に相当する。

甲1発明の「(D)有機ポリシロキサン(更に適用浴に添加することにより大変良好で耐久性ある撥水性が達成されるCeraperm SFC)」は、撥水性を耐久性のあるものにするための有機ポリシロキサン系の有効成分であるから、本1発明の「撥水助剤」及び「オルガノ変性シリコーン」に相当する。

甲1発明の「100%ポリエステル布地の織布を処理する組成物」は、甲第1号証の段落00140の「本発明による組成物は、特に撥水性を基材に付与するのに有用である。」との記載にあるように、基材(100%ポリエステル布地の織布)に撥水性を付与する組成物であるから、本1発明の「ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物」に相当する。

してみると、本1発明と甲1発明は『撥水助剤と、非フッ素系撥水剤とを含み、 前記撥水助剤が、オルガノ変性シリコーンを含み、前記非フッ素系撥水剤が、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーを含み、前記非フッ素系ポリマーにおける前記一般式(A-1)で表される前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の合計構成割合が、前記非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、56質量%~100質量%である、ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物。

[図:0001384074000040.jpg]

[式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]』という点において一致し、次の(α)の点で相違する。

(α)オルガノ変性シリコーンが、本1発明は「下記一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーン

[図:0001384074000041.jpg]

[式(1)中、R20、R21及びR22はメチル基を表し、R23は、ドデシル基、ヘキシル基、オクタデシル基、又はメチルスチレン基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はメチル基を表し、aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表し、(a+b)は50である。]」であるのに対して、甲1発明は「Ceraperm SFC」という商品名の「有機ポリシロキサン」であって、その具体的な化学構造が不明な点

(4)判断

ア.相違点(α)について

甲第1号証の段落0099及び00102~00104(摘記1b)には、甲1発明の成分(D)の有機ポリシロキサンとして、段落00104の「Ceraperm SFC」以外に「欧州特許2,152,957号」を参照できることが記載されている。

そして、当該「欧州特許2,152,957号」に該当する甲第2号証の段落0037(摘記2a)及び0089(摘記2b)には、本1発明の一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーンに合致する基本骨格を有し、本1発明の一般式(1)のR23が炭素数18のアルキル基(オクタデシル基)で、a=20、b=30の有機ポリシロキサンが記載されている。

してみると、甲第2号証には、本1発明の一般式(1)において「aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表」す場合のオルガノ変性シリコーンについて、具体的な記載があるとはいえないので、甲1発明に、甲第2号証に記載の発明を組み合わせても、相違点(α)に係る構成を導き出し得ない。

また、本件特許明細書の段落0189~0192には、本1発明の一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーンに該当する合成例1~6の撥水助剤を用いた実施例1~37のものが、本1発明の要件を満たさない比較例1~9のものに比して、耐久撥水性(ポリエステル又はナイロン)の評価が高まることが記載されている。

してみると、本1発明は、撥水助剤として、一般式(1)の特定のオルガノ変性シリコーンを用いることで、格別の効果を得るに至ったものと解されるので、相違点(α)に係る構成を具備することが、技術的に無意味な構成要件の付加に相当するものとは認められない。

なお、甲第2号証の段落0037(摘記2a)には「鎖長 m=a’+b’ m=10~1000」との記載があり、本1発明の「aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表」す場合を包含しているが、甲第2号証の当該記載に基づいて、本1発明の「aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表」す「一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーン」という特定の構成を採用することを当業者に動機付けるといえる合理的な理由や根拠は見当たらず、当該特定の化学構造を有するオルガノ変性シリコーンを用いることで、上記「耐久撥水性(ポリエステル又はナイロン)の評価が高まる」という格別の効果を得られることを当業者が予見できるといえる合理的な理由や根拠も見当たらないので、甲第2号証の当該記載を参酌しても、本1発明が容易想到であると認めるに至らない。

したがって、本1発明は、甲第1~2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項により特許を受けることができないとはいえない。

(5)本3~本5及び本7~本11発明について

本5発明は、本1発明の非フッ素系ポリマーが「乳化物又は分散物を乳化重合又は分散重合させてなる」場合のものであるから、上記(4)に示した理由と同様な理由により、甲第1~2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項により特許を受けることができないとはいえない。

また、本3~本4及び本7~本11発明のうち、本1又は本5発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものについては、本1及び本5発明の進歩性が甲第1~2号証によって否定できない以上、本3~本4及び本7~本11発明が、特許法第29条第2項により特許を受けることができないとはいえない。

なお、本3~本4及び本7~本11発明のうち、本2又は本6発明を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものについては、本2及び本6発明に対して特許異議の申立てがされていないので、審理の対象とすることはできない。

(6)特許異議申立人の主張について

令和4年1月7日付けの意見書の第1~3頁において、特許異議申立人は「3.1 理由1(進歩性)について (1)訂正後の請求項2及び6について…申し立てられていない請求項についても、公益に及ぼす影響等を考慮して、職権探知主義に基づいて、職権審理されるべき内容です」と主張する。

しかしながら、特許法第120条の2第2項は「特許異議の申立てについての審理においては、特許異議の申立てがされていない請求項については、審理することができない。」と定めているから、特許異議申立人の主張は、法律上権限のない行為を当審に求めるものであり、主張自体失当である。

2.理由2(サポート要件)について

(1)はじめに

一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)又は特許権者(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

そして、本件特許の「特許請求の範囲の記載」には、上記「第3」に示したとおりの本1~本11発明が記載されている。

また、本件特許の「発明の詳細な説明の記載」の段落0155~0162には、本1及び本5発明の一般式(1)の要件を満たす合成例1~6のオルガノ変性シリコーンを含むシリコーン乳化物と、当該要件を満たさない合成例7~8のシリコーン乳化物(市販のハイドロジェンシリコーン又はジメチル変性シリコーンに、分岐高級アルコールのエチレンオキサイドを付加したもの)が記載され、

同段落0173には、合成例1~8で得られた撥水助剤(シリコーン乳化物)と合成例9~36で得られたポリマー分散液とを表11~15に記載の質量比で混合し、撥水剤組成物とした実施例1~37及び比較例1~9の具体例が記載され、

同段落0189~0200の表11~表22、及び段落0201~0203には、本1発明の要件を満たす実施例1~37のものが、一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーン以外のシリコーンを用いた比較例1~6のもの、及びその他の要件を満たさない比較例7~9のものに比して、特に「耐久撥水性」の点で優れた性能を有することが、具体的な試験結果により裏付けられている。

ここで、同段落0011を含む「発明の詳細な説明の記載」の全ての記載からみて、本1及び本5発明並びにその従属項に係る発明の解決しようとする課題は『非フッ素系撥水剤の耐久撥水性を向上させることができる非フッ素系撥水剤組成物の提供』にあるものと認められる。

(2)請求項1及び5に記載の一般式(1)の範囲について

上記第4〔理由2〕の指摘に関して、本件特許の請求項1の「一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーン」についての記載を含む「特許請求の範囲の記載」と、本件特許明細書の段落0154~0203の実施例1~37及び比較例1~9の具体例の記載を含む「発明の詳細な説明の記載」とを「対比」する。

当該「発明の詳細な説明の記載」の段落0155~0160に記載された合成例1~6のオルガノ変性シリコーンを含む撥水助剤は、当該段落の「(合成例1)…メチルハイドロジェンシリコーンのSiH基由来の吸収スペクトルが消失し…上記一般式(1)におけるaが0、bが50、R22がメチル基、R23がドデシル基、R30、R31、R32、R33、R34及びR35がメチル基であるオルガノ変性シリコーンが得られた。…(合成例2)…R23がヘキシル基、…(合成例3)…R23がオクタデシル基、…(合成例4)…R23がドデシル基又はメチルスチレン基、…(合成例5)…R23がドデシル基又はオクタデシル基、…(合成例6)…上記一般式(1)におけるaが25、bが25、R22がメチル基、R23がドデシル基、R30、R31、R32、R33、R34及びR35がメチル基であるオルガノ変性シリコーンが得られた。」との記載にあるように、

当該「特許請求の範囲の記載」にある請求項1に係る発明(本1発明)の「[式(1)中、R20、R21及びR22はメチル基を表し、R23は、ドデシル基、ヘキシル基、オクタデシル基、又はメチルスチレン基を表し、R30、R31、R32、R33、R34及びR35はメチル基を表し、aは0又は25の整数を表し、bは50又は25の整数を表し、(a+b)は50である。]」という発明特定事項を満たすものである。

そして、同段落0189~0200の表11~表22の試験結果の記載、及び同段落0201~0203の当該試験結果を総括した記載からみて、本1発明の発明特定事項を満たす合成例1~6の撥水助剤を用いた実施例1~37の撥水剤組成物は、上記(1)に示したように、特に「耐久撥水性」の点で優れた性能を有することが、具体的な試験結果により裏付けられている。

してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本1発明の一般式(1)の発明特定事項の範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているといえるので、本件特許の請求項1の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

また、本5発明は、本1発明の非フッ素系ポリマーが「乳化物又は分散物を乳化重合又は分散重合させてなる」場合のものであるから、同様な理由により、本件特許の請求項5の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

したがって、本件特許の請求項1及び5並びにその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえるので、特許法第36条第6項第1号に適合する。

(3)特許異議申立人の主張について

令和4年1月7日付けの意見書の第16頁において、特許異議申立人は「3.2 理由2(サポート要件)について (1)訂正後の請求項2及び6について…申し立てられていない請求項についても、公益に及ぼす影響等を考慮して、職権探知主義に基づいて、職権審理されるべき内容です」と主張する。

しかしながら、特許法第120条の2第2項は「特許異議の申立てについての審理においては、特許異議の申立てがされていない請求項については、審理することができない。」と定めているから、特許異議申立人の主張は、法律上権限のない行為を当審に求めるものであり、主張自体失当である。

3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

(1)申立理由1(進歩性)について

特許異議申立人が主張する申立理由1(進歩性)の要旨は、本件特許発明1、3~5及び7~11は、甲第1号証記載の発明、甲第2号証記載事項又は周知技術(甲3~甲5)、及び周知技術(甲8~甲10)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)に違反するというものであって(申立書の第115~116頁)、甲第1~5及び8~10号証として、次のものを提示している。

甲第1号証:国際公開第2016/000830号、

及び訳文(特表2017-521518号公報)

甲第2号証:欧州特許第2152957号、及び抄訳文
甲第3号証:国際公開第2015/191326号、

及び訳文(特表2017-523266号公報)

甲第4号証:特開平8-048942号公報
甲第5号証:特開2000-080353号公報
甲第8号証:特開2015-120895号公報
甲第9号証:特開2015-120894号公報
甲第10号証:特表2012-522062号公報

そして、甲第1号証を主引用例とし、甲第2号証を副引用例とした検討は、上記第4〔理由1〕において採用されているところ、上記1.(4)で検討した相違点(α)に関して、甲第1~2号証の記載に加え、甲第3~5及び8~10号証の記載を精査しても、撥水助剤として本1発明の一般式(1)で表される特定のオルガノ変性シリコーンを用いることで、非フッ素系撥水剤の耐久撥水性を向上させることができるという格別の効果が得られることについては、示唆を含めて記載がない。

したがって、取消理由通知の〔理由1〕において検討した甲第1~2号証に加え、甲第3~5及び8~10号証に記載の周知技術を参酌しても、上記相違点(α)に係る構成及び効果を当業者が容易に想到し得るとはいえないから、甲第1~5及び8~10号証に基づく申立理由1(進歩性)に理由があるとはいえない。

(2)申立理由2(拡大先願)について

特許異議申立人が主張する申立理由2(拡大先願)の要旨は、本件特許発明1、3~5及び7~11は、当該特許出願日前に出願され、当該特許出願後に出願公開された甲第6号証に記載された甲6発明と同一であるから、特許法第29条の2(同法第113条第2号)に違反するというものであって(申立書の第116頁)、甲第6~7号証として、次のものを提示している。

甲第6号証:国際公開第2016/049107号、

及び訳文(特表2017-536439号公報)

甲第7号証:SILTECH CORPORATION,“TECHNICAL DATA SHEET”,

[online],2008年10月発行,[令和3年1月86検索],

インターネット<URL:https://www.siltech.com/wp-content/uploads/2017/11/TP5040.pdf>

しかしながら、甲第6号証に、SHILWAX(登録商標) E1316を含むワックス2を調製し、ウレタン分散体からなるコア1を調製し、ワックス2及びコア1を組み合わせたコア3を調製したことが記載され(第35頁第20行~第36頁第25行)、甲第7号証に、SILWAX(登録商標) E1316が、セチルジメチコンであることが記載されているとしても、セチルジメチコンは、本1及び本5発明の一般式(1)において、R23が炭素数16の「セチル基」を表すオルガノ変性シリコーンであることから、本1発明の「R23は、ドデシル基、ヘキシル基、オクタデシル基、又はメチルスチレン基を表し」という発明特定事項を満たさない。

したがって、本1及び本5発明が、当該特許出願日前に出願され、当該特許出願後に出願公開された甲第6号証に記載された発明と同一であるとはいえないから、甲第6号証に基づく申立理由2(拡大先願)に理由があるとはいえない。

(3)申立理由3(サポート要件違反)について

特許異議申立人が主張する申立理由3(サポート要件違反)の要旨は、本件特許請求の範囲の記載には不備があり、本件特許発明1、3~5及び7~11は、特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものであって(申立書の第116頁)、その不備として、次の点を主張している(申立書の第82~85頁)。

ア.反応性乳化剤について、合成例9~35には、「反応性乳化剤(B)又はその他の乳化剤(合計4g)、及び乳化補助剤(3g)」を必ず含む非フッ素系ポリマーしか記載されておらず、「その他の乳化剤」又は「反応性乳化剤(B)」を構成要件として含まない本件特許発明1及び5は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

イ.架橋剤について、耐久撥水性を評価する際に用いられる処理液には,本件特許発明の撥水剤組成物とともに架橋剤が添加されており、「架橋剤」を構成要件として含まない本件特許発明1、3~5、及び7~11は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

しかしながら、上記2.(2)で、本件特許の「特許請求の範囲の記載」と「発明の詳細な説明の記載」とを「対比」して検討したように、本件特許の発明の詳細な説明には、本1及び本5発明の発明特定事項を満たす実施例1~37の撥水剤組成物の具体例が記載され、その実施例1~37と比較例1~9の試験結果の記載によって、本1及び本5発明の一般式(1)で表される特定のオルガノ変性シリコーンを含む撥水助剤を用いた撥水剤組成物が、特に「耐久撥水性」の点で優れた性能を示すことが具体的に裏付けられている。

してみると、本件特許の請求項1及び5並びにその従属項に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載(特に実施例1~37と比較例1~9の試験結果の記載)により、当業者が当該発明の『非フッ素系撥水剤の耐久撥水性を向上させることができる非フッ素系撥水剤組成物の提供』という課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

換言すると、本件特許明細書の段落0010~0012の記載にあるように、本1及び本5発明並びにその従属項に係る発明は、一般式(1)で表される特定のオルガノ変性シリコーンを含む撥水助剤を含まない「従来の撥水剤」において「耐久撥水性が十分に得られない場合があった」という事情に鑑みて、上記した『非フッ素系撥水剤の耐久撥水性を向上させることができる非フッ素系撥水剤組成物の提供』を「発明が解決しようとする課題」に位置づけ、この「課題を解決するための手段」として、本1及び本5発明の「一般式(1)で表されるオルガノ変性シリコーンを含む撥水助剤」を「課題を解決するための手段」に位置づけたという技術思想に立脚した発明であるから、特許異議申立人の主張する、ア.の「反応性乳化剤」の点や、イ.の「架橋剤」の点は、本1及び本5発明が想定する課題解決の可否を左右する事項たり得ず、特許異議申立人が主張する点によっては、本件特許の請求項1及び5並びにその従属項の記載に不備があるとはいえない。

したがって、本件特許の請求項1、3~5及び7~11の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえず、申立理由3(サポート要件違反)に理由があるとはいえない。

(4)申立理由4(明確性要件違反)について

特許異議申立人が主張する申立理由4(明確性要件違反)の要旨は、本件特許請求の範囲の記載には不備があり、本件特許発明1、3~5及び7~11は、特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるというものであって(申立書の第116頁)、その不備として、次の点を主張している(申立書の第85頁)。

請求項1には、「ポリエステルを100%含む繊維用非フッ素系撥水剤組成物。」との記載があるが、例えば、綿100%で構成された繊維とポリエステル100%で構成された繊維とを1:1の比率で混ぜて紡績を行った場合、部分的にはポリエステル100%の繊維と解釈することもできるので、本件請求項1の「ポリエステルを100%含む繊維」がどのような繊維まで包括するのか不明確である。

しかしながら、訂正前の請求項1の「ポリエステルを100%含む繊維用非フッ素系撥水剤組成物」との記載部分は、訂正後の請求項1で「ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物」との記載に訂正され、令和3年7月9日付けの意見書の第4頁において、特許権者は『訂正後の記載では、「ポリエステル100%」が「非フッ素系撥水剤組成物」でなく「繊維」を修飾するものであり、且つ「繊維」が100%のポリエステルから構成され、何らかの成分を更に含まないものであることは明確である。』と釈明しているので、訂正後の記載が、「ポリエステル100%」の「繊維用」の「非フッ素系撥水剤組成物」を意味することは明らかである。

したがって、訂正後の請求項1の記載に不明確な点があるとはいえないから、本件特許の請求項1、3~5及び7~11の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合しないとはいえず、申立理由4(明確性要件違反)に理由があるとはいえない。

この点に関して、令和4年1月7日付けの意見書の第20~21頁において、特許異議申立人は「3.3 明確性要件について…当該「繊維」は「混紡繊維」などを含み得るのか、及び、ポリエチレンテレフタレート(PET)以外の『ポリエステル繊維でも発明の効果が得られるのかどうかの説明が全くなく、この内容について不明であるため、本件発明は依然として明確性要件を満たしていません。」と主張する。

しかしながら、本件特許の請求項1の「ポリエステル100%繊維用非フッ素系撥水剤組成物」との記載における「繊維」は「ポリエステル100%」の「繊維」であるから、種類の違う繊維を混ぜ合わせた「混紡繊維」などを含み得ないことが明らかであり、PET以外のポリエステル繊維でも効果が得られるか否かは、特許を受けようとする発明が明確であるか否かと関係がないので、上記主張は採用できない。

第6 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、訂正後の請求項1、3~5及び7~11に係る発明の特許を取り消すことができない。

また、他に訂正後の請求項1、3~5及び7~11に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2021-700186

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  • 2018-700204異議申立 / 2018-12-12 / 訂正認容防食材、端子付き電線及びワイヤーハーネス
    共通の審決分類: 121・C09K、161・C09K、537・C09K
  • 2020-015781拒絶査定不服審判 / 2022-03-15 / 原査定取消(特許/登録すべき)蛍光体、およびその製造方法、ならびにその蛍光体を用いた発光装置
    共通の審決分類: 121・C09K、161・C09K、537・C09K
  • 2018-017152拒絶査定不服審判 / 2021-03-10 / 原査定取消(特許/登録すべき)液晶媒体
    共通の審決分類: 121・C09K、161・C09K、537・C09K
  • 2018-011961拒絶査定不服審判 / 2020-01-27 / 請求不成立液晶媒体
    共通の審決分類: 121・C09K、161・C09K、537・C09K

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