審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2023-009953

ウデナフィル組成物を用いてフォンタン患者における心筋性能を改善する方法

審判番号
2023-009953
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2021-034295
請求日
2023年06月15日
審決日
2025年03月21日
公報発行日
2025年09月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】メジオン ファーマ カンパニー リミテッド
  • 【請求人代理人】小林 浩
  • 【請求人代理人】日野 真美
  • 【請求人代理人】大森 規雄
  • 【請求人代理人】吉光 真紀
  • 【請求人】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
  • 【請求人代理人】小林 浩
  • 【請求人代理人】日野 真美
  • 【請求人代理人】大森 規雄
  • 【請求人代理人】吉光 真紀
審判長/審判官
  • 審判長 磯貝 香苗
  • 審判官 岩下 直人
  • 審判官 池上 京子
分類
P18 .537-Z (A61K) / P18 .536-Z (A61K) / P18 .575-Z (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第44条第1項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第2条第3項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2021-34295「ウデナフィル組成物を用いてフォンタン患者における心筋性能を改善する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和3年6月17日出願公開、特開2021-91721〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 1 出願分割の経緯 本願は、2015年6月30日(パリ条約による優先権主張 2014年8月12日、2015年6月29日 いずれも米国(US))を国際出願日とする特願2017-504434号を最先の出願とし、その一部を特許法第44条第1項の規定に基づく新たな特許出願(特願2019-17645号、出願日:平成31年2月4日)とし、さらにその一部を特許法第44条第1項の規定に基づく新たな特許出願(特願2021-34295号、出願日:令和3年3月4日)としたものである。 2 本願手続の経緯 本願手続の経緯の概略は、以下のとおりである。 令和3年 4月 2日 手続補正書の受付 同年 6月23日 手続補正書の受付 令和4年 5月 9日付け 拒絶理由通知 同年11月11日 意見書及び手続補正書の受付 令和5年 2月 8日付け 補正の却下の決定及び拒絶査定 同年 6月15日 手続補正書及び審判請求書の受付 同年 7月26日 手続補正書(方式)の提出 (審判請求書の請求の理由の補充) 同年 8月18日 上申書の受付 第2 令和5年6月15日受付の手続補正書によってされた補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和5年6月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項6は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所である。) 「【請求項6】 ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を含有する、単心室心疾患の治療剤であっ て、前記単心室心疾患の患者は、最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値における運動耐容能、及び心拍出量を改善するためのフォンタン手術を受けた患 者であり、該患者の運動耐容能及び心拍出量はフォンタン手術後の心機能の低下に起因し て悪影響を受けており、前記治療剤は、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投 与量が87.5mgになるように製剤されており、前記患者は、最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値におけるその運動耐容能、及び心拍出量を改善 する必要があり、前記治療剤は1日2回投与される、治療剤。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和3年6月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項6の記載は次のとおりである。 「【請求項6】 ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を含有する、単心室心疾患の治療剤であって、前記単心室心疾患の患者は、運動耐容能及び心拍出量を改善するためのフォンタン手術を受けた患者であり、該患者の運動耐容能及び心拍出量はフォンタン手術後の心機能の低下に起因して悪影響を受けており、前記治療剤は、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投与量が87.5mgになるように製剤されており、前記患者は、その運動耐容能及び心拍出量を改善する必要があり、前記治療剤は1日2回投与される、治療剤。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項である「運動耐容能」について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項6に記載された発明と補正後の請求項6に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項6に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (2)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)について ア 判断の前提 特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないと定めるところ(いわゆる「実施可能要件」)、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作り、使用をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第2号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用をすることができる程度のものでなければならない。 また、医薬に関する技術分野のように、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明の場合に、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。 そして、医薬の用途発明において、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、その有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に、有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されていても、それだけでは、当業者は当該医薬が実際にその用途において利用できるかどうかを予測することは困難であり、医薬の用途発明において実施可能要件を満たすというためには、明細書において、当該物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載して、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、当該用途の医薬として使用できるという、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。 以上のことを前提として、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件補正発明について実施可能要件を満たすか否か、以下検討する。 イ 本願明細書及び図面の記載事項 本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、以下の摘記ア-オの事項が記載されている(なお、下線は当審が付した。以下、同じ。)。 (摘記ア) 「【技術分野】 …(略)… 【0002】 本発明は概して、フォンタン術を受けた患者においてホスホジエステラーゼE5(PDE5)阻害剤を使用する分野に関する。具体的に、PDE5阻害剤はウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩である。 【背景技術】 【0003】 I.フォンタン手術に関する背景 フォンタン手術又はフォンタン/クロイツェル手術は、機能的単心室先天性心疾患をもって生まれてきた子どもたちに対する緩和的外科的処置である。フォンタン術は、右心ポンプ室を必要とすることなく血流を肺循環及び体循環に連続して供給するようにデザインされた。該手術によって、体静脈血が、単心室のインピタスに基づいて、動脈、毛細血管、及び体循環静脈系を通して肺循環に直接流れることができる。この配列は、以前の動脈シャントと比較して、単心室及び肺流出路狭窄をもつ患者の平均余命を改善してきた。 【0004】 該手術は上下大静脈肺動脈吻合を作り、体循環と肺循環を分離して低酸素血症及び心室容量負荷をともに解消する。しかし、フォンタン術の後に、血液を肺動脈に送り出す心室ポンプは存在しない。代わりに、血液は体静脈から受動的流れによって肺に戻る。これによって、高い中心静脈圧、異常な肺血管抵抗、及び慢性的な低い心拍出量を特徴とする循環が生じる。時間とともに、フォンタン生理のこれらの固有の特徴は、思春期後に始まる運動能力の進行性低下を特徴とする心血管効率の予側可能な持続的低下を結果としてもたらす。この運動耐容能の低下は心血管機能障害の症状の増加と相関し、入院、心不全管理の強化、又は移植の必要性が生じうる。 【0005】 フォンタン循環を有するものは「正常な」心臓生理又は機能をもたない。多くの「下流(downstream)」に影響しうる2つの主な合併症は、その位置(静脈又は動脈)に依存して上昇(「高血圧」)及び低下(「低血圧」)する血圧に対する以下の効果である。まず、フォンタン循環があると、「体静脈高血圧症」が存在し、これは体内の静脈の血圧(心臓に戻る血液)が、正常な(フォンタン循環ではない)心臓機能をもつ個人と比べて高いことを意味する。基本的に体内の流体の分布に関連する、体静脈高血圧症によって引き起こされうる多くのマイナスの結果(鬱血性心不全、浮腫又は腫れ、肝臓の機能障害、もしかすると蛋白漏出性腸症)が存在する。第2の合併症は「肺動脈性低血圧症」であり、ここでは肺に向かう又は肺内(すなわち肺)の動脈の血圧が正常な心臓機能をもつ個人と比べて低い。やはり、チアノーゼ(紫色の唇)又は運動耐容能の欠如などの肺動脈性低血圧症に関連したマイナスの結果が多くある。フォンタン手術に続いて(短期間又は長期間に)起こる続発内科疾患及び死は、体血圧及び肺血圧の変化に由来すると考えられている。 …(略)… 【0007】 フォンタン手術の結果を検討する複数の研究は、手術後15年を超える生存の減少を示している。大静脈肺動脈吻合術の術式にかかわらず、継続する自然減ともに進行する高い死亡リスクが存在する。フォンタン手術後の単左心室を形態的に検討する別の研究では、彼又は彼女が20代後半に達するまでに亡くなる可能性は1対4であるという結果が示された。…(略)… 【0008】 フォンタン患者の寿命が延びてきていることを考慮して、研究者たちは、フォンタン手術の副作用に対処する医学療法を探究してきた。特に、単心室生理をもつ小児及び若年成人はフォンタン手術後、運動耐容能が異常である。心拍出量を改善し、且つ中心静脈圧を減少させることを標的にした戦略は、彼らの健康全般を改善し、且つこの有害な生理の影響を和らげることになる。 …(略)… 【0018】 フォンタン手術は一時的に緩和するもので、治癒的ではない。…(略)…。 20/30%の症例では、患者は心臓移植がいずれは必要となることになる。 …(略)… 【0020】 当該技術分野において、フォンタン患者の寿命を延ばし、心臓移植の必要性を回避又は遅延させる目的としてフォンタン手術の合併症又は副作用に関連する改良治療法に対するニーズがある。また、当該技術分野において、心不全の発症を遅らせたり、フォンタン手術を受けた患者のクオリティ・オブ・ライフを上げたりする改良治療法に対するニーズがある。本発明はこのニーズを満たす。 【発明の概要】 【0021】 1つの実施形態では、本発明はフォンタン手術を以前に受けた患者に関連する状態、症状、及び/又は副作用を治療、予防、及び/又は最小限にする方法を対象とする。特に、本発明の方法は、関連する急性症状及び慢性症状発症の寛解のためにフォンタン手術を受けた単心室青年期の患者におけるウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の使用を対象とする。該方法は、治療有効量のPDE5阻害剤を患者に投与することを含み、そのPDE5阻害剤はウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩である。 …(略)… 【0031】 別の実施形態では、本発明の方法は、本発明の方法を用いない場合(例えば、ウデナフィルの投与がない場合)の最大努力時VO2と比較して患者の最大努力時のVO2の改善をもたらす。例えば、改善は、本発明の方法を用いない場合(例えば、ウデナフィルの投与がない場合)の最大努力時VO2と比較して、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、又は約30%以上であることができる。 【0032】 別の実施形態では、本発明の方法は、本発明の方法を用いない場合(例えば、ウデナフィルの投与がない場合)のVO2と比較して患者の無酸素性代謝閾値におけるVO2の改善をもたらす。例えば、改善は、本発明の方法を用いない場合(例えば、ウデナフィルの投与がない場合)の最大努力時VO2と比較して、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、又は約30%以上であることができる。」 (摘記イ) 「II.フォンタン患者に関連する臨床測定 【0074】 機能的単心室先天性心疾患をもって生まれた子どもたちに対して、フォンタン手術は現在の治療標準である。フォンタン手術は小児被験者の生存を大きく増やしてきたが、治癒的であるよりもむしろ、一時的な緩和であり、該手術はまた、不整脈、心室機能不全、蛋白漏出性腸症(PLE)及び鋳型気管支炎といった稀な臨床症候群などの合併症並びに肝臓合併症及び腎臓合併症を伴う患者の遅発的な自然減につながる可能性のある、一連の副作用及び合併症をもたらす。 【0075】 ある実施形態では、本開示の発明は、フォンタン手術後の患者健康状態を示す臨床的に関連する特有の測定結果の低下を改善又は予防することに関する。そのような測定結果としては、運動負荷試験、血管機能検査、及び心エコーによる心室機能の評価が挙げられるが、これらに限定されない。 運動負荷試験 【0076】 運動負荷試験は最大努力の間又は無酸素性代謝閾値におけるVO2値の評価を含むことができる。VO2max又は最大酸素摂取量は、個人が激しい運動の間に使うことができる酸素の最大量を指す。この測定値は一般に、心臓血管の健康状態及び有酸素持久力の信頼できる指標とみなされている。理論的には、高いレベルの運動の間に人が使うことができる酸素が多ければ多いほど、人はより多くのエネルギーを作り出すことができる。筋肉は長期の(有酸素)運動に酸素を必要とし、血液は酸素を筋肉に運び、有酸素運動の需要量を満たすように心臓は十分量の血液を送り出さなければならないので、この試験は心肺の健康状態に関する最も信頼できる基準である。 【0077】 VO2は多くの場合、被験者にマスクを付けること及び吸気及び呼気の体積及び気体濃度を測ることによって測定される。この測定結果は臨床の現場及び研究の両方で使用されることが多く、最も正確であると考えられている。試験は通常、強度を漸増して疲労困憊するまでトレッドミル上で運動すること又は自転車に乗ることを含み、被験者の最大努力及び/又は被験者の無酸素性代謝閾値における読み取りを与えるようにデザインされている。 【0078】 以前にフォンタン手術を受けた患者は一般的に、時間経過と共にVO2測定値の低下を経験することになる。患者を本発明による方法で治療して、結果として患者のVO2測定値が同レベルに維持され、VO2機能のさらなる低下がないことを示したり、VO2測定値が治療で改善したりすることは、治療が臨床的に有益であり、且つ心血管機能の低下を改善又は予防しうることを示す。 【0079】 1つの実施形態では、本発明は、フォンタン手術を以前に受けた被験者のVO2測定値を改善又は維持する方法を対象とする。該方法は、治療有効量のPDE5阻害剤を患者に投与することを含み、ここで、PDE5阻害剤はウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩である。幾つかの実施形態では、VO2は最大努力時に測定され、一方で他の実施形態では、VO2は被験者の無酸素性代謝閾値において測定される。 【0080】 幾つかの実施形態では、本開示の方法及び組成物はフォンタン患者に投与され、時間経過とともに運動耐容能は減少しないか、又は最小限の減少が生じる。より具体的に、本開示の方法及び組成物は、時間経過とともに約40未満、約35未満、約30未満、約35未満、約20未満、約15未満、約10未満、又は約5%未満の運動耐容能の減少をもたらしうる。運動耐容能の減少を計算するのに用いられる第1の測定と第2の測定の間の時間は、例えば、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、若しくは約12か月; 約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、若しくは約15年、又はそれらいずれの組み合わせ、例えば、1年3か月;4年7か月などであることができる。 【0081】 幾つかの実施形態では、本開示の方法及び組成物はフォンタン患者に投与され、運動耐容能の改善をもたらしうる。より具体的に、本開示の方法及び組成物は、最大努力時VO2の、1、2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50%以上改善しうる。代替的に、本開示の方法及び組成物は、患者の無酸素性代謝閾値におけるVO2の、1、2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50%以上改善しうる。 …(略)… 【0099】 当然のことながら、フォンタン手術の日から時間が経つにつれて、死亡のリスク又は心臓移植の必要性が増加する。これは突然死又は心不全に起因しうるが、心臓機能が徐々に低下することからでもありうる。フォンタン手術後、年が刻々と過ぎるにつれて、心機能が悪くなり、それは有酸素運動を行う能力の低下に反映される。例えば、フォンタンを幼少期に受けた患者に関しては、運動耐容能が正常患者と比較して大きく低下(44%)することがあり、この運動能は毎年直線的に低下する傾向がある(毎年2.6%低下)。フォンタン循環をもつ患者は、30歳で運動耐容能が大きく減少し(正常より55%未満)、健康問題の数及び入院率が劇的に増加する。繰り返すことになるが、1つの心室が2つ分の仕事をしているので、恐らくこれは驚くべきことではない。よって、心機能が時間経過とともに低下するのを解消するか、その低下を著しく減少させることができる本発明による方法は、フォンタン患者にとって非常に望ましい。そのような方法の成功の鍵は、好ましい服薬スケジュールへの患者のコンプライアンスである。 …(略)… 【0103】 さらに別の実施形態では、本発明はフォンタン手術を受けた患者における運動耐容能を改善する方法を対象とし、その方法は治療有効量のPDE5阻害剤ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を患者に投与することを含む。例えば、本発明の方法は、ウデナフィルを投与されてない被験者と比較して、約5%、約8%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、又は約50%の最大VO2によって測定される運動耐容能の増加をもたらすことができる。 …(略)… 【0108】 よって、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を投与することを含む、フォンタン術に関連する症状を治療し、最小限にする方法及び/又は予防する方法を対象とする本発明が、好ましくは1日1回又は2回の投与で、望ましい結果を示すことは驚くべきことであった。「望ましい結果」としては、心拍出量の改善、肺血管抵抗の減少、運動耐容能の改善、心筋性能の改善、有酸素運動能力の低下の予防及び改善、並びに/又は患者のコンプライアンスの向上が挙げられるが、これらに限定されない。 …(略)… VIII.定義 【0142】 …(略)… 【0148】 本明細書で使用される場合、「心拍出量を改善すること」とは、心臓によって送り出される血液の体積の増加を意味する。心拍出量は酸素消費の関数として測定される。 【0149】 本明細書で使用される場合、「運動耐容能」という用語は、患者が持続できる労作の最大値を指す。運動耐容能は、面接又は直接的な測定を含む多くのさまざまな臨床技法によって測定できる。本発明の方法は、限定されないが、自転車エルゴメーターに乗ること又はトレッドミルの上を歩行することを含む運動耐容能を測定するさまざまな方法を包含する。よって、「運動耐容能を改善すること」という用語は、いずれのレベルの労作又は運動を行う患者の能力が上がることを意味する。」 (摘記ウ) 「【0155】 実施例1-第I/II相薬物動態及び薬力学試験 フォンタン緩和を実施した後、単心室生理をもつ青年期の若者におけるウデナフィルの第I/II相投与量漸増治験 【0156】 治験は5か月にわたって行われ、有害事象(AE)についてさらに3か月間の追跡調査期間を伴った。該治験に登録した36名の被験者は表1に記載の6つのコホートから構成された。 【0157】 【表1】 [図:0001426224000001.jpg] 【0158】 本治験の目的は、5日間にわたる複数回投与レベルでのウデナフィルの安全性、フォンタン生理をもつ青年期の若者におけるウデナフィルの薬物動態プロファイル、並びに運動耐容能、心室機能、及び血管機能の薬力学的評価基準に対するウデナフィルの短期効果を評価することであった。 【0159】 ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の複数回投与を、年齢が14~18歳の男性及び女性フォンタン患者に投与した。」 (摘記エ) 【0179】 実施例3-運動負荷試験 この例の目的は、さまざまな運動負荷試験パラメーターを用いて実施例1に記載の治療プロトコールの有効性を評価することであった。 【0180】 本試験の本治療群の主要アウトカムは、運動負荷試験によって決定される最大VO2であった。表14は、治療群ごとの、運動負荷試験の重要なアウトカム-ピークVO2(最大努力を達成した被験者に限定された)の結果をまとめる。治験に登録した36名の被験者のうち、33名が各時点において運動負荷試験で最大努力に達し、31名の被験者が両時点において達した。初めの2本の線はベースライン及び追跡調査測定のデータを示し、一方で3番目の線は2つの測定結果の差を示す(変化スコア、この治療群のアウトカム)。分散分析は変化スコア間に差がないことを示唆する(p=0.85)。 【表14】 [図:0001426224000002.jpg] 【0181】 図2及び3は変化スコアの結果を視覚的に示す(正の変化が改善を示す)。図2はペア測定(丸)をもつ各被験者の個別変化スコアを示し、2本の線は平均値及び中央値である。プロットは変化スコアが投与量に伴って増加することを示唆しない。図3は各被験者及び各コホートの治療前後の最大VO2値を示す。 【0182】 予想された通り、ベースラインと追跡調査測定は強く相関し、相関係数>0.8である。」 「【図2】 [図:0001426224000003.jpg] 」 「【図3】 [図:0001426224000004.jpg] 」 (摘記オ) 「【0183】 さらなるアウトカム、無酸素性代謝閾値におけるVO2も測定した。このアウトカムについて同様の解析を行った。結果を表15並びに図4及び5に示す。全体的な結果は最大VO2ものと同様である。 【表15】 [図:0001426224000005.jpg] 【0184】 注目すべきことに、両運動アウトカム(ピークVO2及び無酸素性代謝閾値におけるVO2)は強く相関し(各来院時の相関係数が0.7を超える)、図2及び4の傾向線の類似性を説明しうる。」 「【図4】 [図:0001426224000006.jpg] 」 「【図5】 [図:0001426224000007.jpg] 」 ウ 実施可能要件についての判断 (ア) 本件補正後の請求項6の記載によれば、本件補正発明は、「ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩」を含有する、「単心室心疾患の治療剤」という「物」の発明であって、「前記単心室心疾患の患者は、最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値における運動耐容能、及び心拍出量を改善するためのフォンタン手術を受けた患者であり、該患者の運動耐容能及び心拍出量はフォンタン手術後の心機能の低下に起因して悪影響を受けており」、「前記患者は、最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値におけるその運動耐容能、及び心拍出量を改善する必要」がある患者であり、「前記治療剤は、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投与量が87.5mgになるように製剤されており」、「前記治療剤は1日2回投与される、治療剤」である医薬用途発明である。 そうすると、上記(2)アで述べたように、医薬用途発明である本件補正発明について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するためには、明細書において、当該物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載して、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、当該用途の医薬として使用できるという、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。 (イ) そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、本件補正発明の「最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値におけるその運動耐容能、及び心拍出量を改善する」との特定事項のうち、「最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値におけるその運動耐容能」に関し、「運動耐容能」については、本願明細書【0149】に「「運動耐容能」という用語は、患者が持続できる労作の最大値を指」し、「「運動耐容能を改善すること」という用語は、いずれのレベルの労作又は運動を行う患者の能力が上がることを意味する」と記載されている。また、「最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)」については、本願明細書【0076】に「運動負荷試験は最大努力の間(当審注:最大酸素摂取量(VO2))又は無酸素性代謝閾値におけるVO2値(当審注:無酸素性代謝閾値(VAT))の評価を含むことができる。VO2max又は最大酸素摂取量は、個人が激しい運動の間に使うことができる酸素の最大量を指す」と記載され、これら「最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)」は、本願明細書【0078】~【0081】によれば、「以前にフォンタン手術を受けた患者は一般的に、時間経過と共にVO2測定値の低下を経験することになる」が「患者を本発明による方法で治療して、結果として患者のVO2測定値が同レベルに維持され、VO2機能のさらなる低下がないことを示したり、VO2測定値が治療で改善」したり、「1つの実施形態では、本発明は、フォンタン手術を以前に受けた被験者のVO2測定値を改善又は維持する」か、あるいは、「幾つかの実施形態では、本開示の方法及び組成物はフォンタン患者に投与され、運動耐容能の改善をもたらし」「より具体的に、本開示の方法及び組成物は、最大努力時VO2の、1、2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50%以上改善しうる。代替的に、本開示の方法及び組成物は、患者の無酸素性代謝閾値におけるVO2の、1、2、5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50%以上改善しうる」こと、及び、本願明細書【0031】~【0032】によれば、「本発明の方法は、本発明の方法を用いない場合(例えば、ウデナフィルの投与がない場合)の最大努力時VO2と比較して患者の最大努力時のVO2の改善をもたらす。例えば、改善は、本発明の方法を用いない場合(例えば、ウデナフィルの投与がない場合)の最大努力時VO2と比較して、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、又は約30%以上であることができる。」、「本発明の方法は、本発明の方法を用いない場合(例えば、ウデナフィルの投与がない場合)のVO2と比較して患者の無酸素性代謝閾値におけるVO2の改善をもたらす。例えば、改善は、本発明の方法を用いない場合(例えば、ウデナフィルの投与がない場合)の最大努力時VO2と比較して、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、又は約30%以上であることができる。」ことが記載されている。また、本願明細書【0181】には、最大努力時VO2について「正の変化が改善を示す」と記載されている。さらに、本件補正発明の心拍出量について、本願明細書【0148】には、「「心拍出量を改善すること」とは、心臓によって送り出される血液の体積の増加を意味する。心拍出量は酸素消費の関数として測定される。」と記載されている。これらの記載から、本件補正発明の医薬としての有用性とは、フォンタン手術を受け、運動耐容能及び心拍出量を改善する必要がある患者における、最大努力時VO2(当審注:最大酸素摂取量(VO2))及び無酸素性代謝閾値におけるVO2(当審注:無酸素性代謝閾値(VAT))により測定される運動耐容能、及び酸素消費の関数として測定される心拍出量が、最低でも約5%以上の改善が期待されるか、少なくとも維持はされることを意味するものと認められる。 (ウ) ここで、まず、心拍出量の改善については、これに対応する具体的な試験結果が、本願明細書において示されておらず、心拍出量の改善についての具体的な試験結果を認識できない。 他方、最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)で測定される運動耐容能の改善については、本願明細書【0179】~【0184】において、実施例3として、運動負荷試験による最大努力時VO2及び無酸素性代謝閾値におけるVO2の測定が行われ、その結果が【表14】、【表15】及び図2~5に記載されている。 最大努力時VO2(当審注:最大酸素摂取量(VO2))について詳細に検討すると、【表14】の「87.5mg1日2回」欄の測定結果を参照しても、ベースライン(治療前1日目)測定と追跡調査測定で有意差があるものとは認められず、また、図2の「87.5mg1日2回」欄を参照しても、平均値及び中央値共に、最大努力時VO2が有意差をもって正に変化しているものとは認められない。図3の「87.5mg1日2回」欄には、被験者ごとのベースライン(治療前1日目)及び治療後5日目の結果が示されているが、当該記載も最大努力時VO2が有意差をもって正に変化しているものとは認められない。そして、図2及び図3において、被験者5名のうち、2名の最大努力時VO2は正に変化し、3名の最大努力時VO2は負に変化しているところ、「正の変化が改善を示す」との記載(本願明細書【0181】)によれば、5名のうち2名については、最大努力時VO2が改善し、3名については、最大努力時VO2が悪化したことになるが、同じくフォンタン手術を受けた患者の中で、正の変化をした者2名と、負の変化をした者3名という正反対の結果がもたらされた理由については、本願明細書には何ら記載がない。したがって、最大努力時VO2が改善したものであるとまで理解することはできない。 次いで、無酸素性代謝閾値におけるVO2(当審注:無酸素性代謝閾値(VAT))についても詳細に検討するに、【表15】の「87.5mg1日2回」欄の測定結果を参照しても、ベースライン(治療前1日目)測定と追跡調査測定の差では、むしろVO2が低下しており、また、図4の「87.5mg1日2回」欄を参照しても、平均値及び中央値共に、最大努力時VO2が有意差をもって正に変化しているものとは認められない。図5の「87.5mg1日2回」欄には、被験者ごとのベースライン(治療前1日目)及び治療後5日目の結果が示されているが、当該記載も最大努力時VO2が有意差をもって正に変化しているものとは認められない。そして、図4及び図5において、被験者6名のうち、2名の無酸素性代謝閾値におけるVO2はわずかに正に変化しているものの、4名の無酸素性代謝閾値におけるVO2は負に変化しているところ、6名のうち2名については、無酸素性代謝閾値におけるVO2がほとんど変化せず、4名については、無酸素性代謝閾値におけるVO2が悪化したということになるが、同じくフォンタン手術を受けた患者の中で、ほとんど変化しなかった者2名と、負の変化をした者4名という結果がもたらされた理由については、本願明細書には何ら記載がない。したがって、無酸素性代謝閾値におけるVO2が改善したものであるとは理解することはできない。 以上のとおり、本願明細書をみても、「ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投与」により「最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値における運動耐容能」が改善したものであるとまで理解することができない。 (エ) さらに、本願出願時において、ウデナフィルが、「フォンタン手術を受けた患者」における、「最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値におけるその運動耐容能、及び心拍出量」を改善する作用機序は明らかでなく、そのような技術常識が存在するものとも認められない。 (オ) したがって、上記(ウ)~(エ)によれば、当業者は、心拍出量の改善についての具体的な試験結果を認識できず、また、当業者は、フォンタン手術を受けた患者において、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を、1回あたり87.5mgを1日2回投与しても、最大努力時VO2及び無酸素性代謝閾値(VAT)におけるVO2により測定される運動耐容能を改善できることを理解できるとはいえないというべきである。 (カ) 以上のとおり、本願明細書及び出願時の技術常識を参酌しても、本件補正発明において、「ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投与量が87.5mgになるように製剤されており」、「前記治療剤は1日2回投与される、治療剤」を用いることで、「最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値における運動耐容能、及び心拍出量を改善するためのフォンタン手術を受けた患者であり、該患者の運動耐容能及び心拍出量はフォンタン手術後の心機能の低下に起因して悪影響を受け」た患者における、最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値におけるその運動耐容能、及び心拍出量が、改善されるか、少なくとも維持はされるという医薬としての有用性を、当業者が理解できるように記載されているものとは認められない。 よって、本願明細書の発明の詳細な説明には、その記載及び本願の出願当時の技術常識に基づいて、本件補正発明の医薬組成物の使用をすることができることを、当業者が理解することができる程度に記載されていないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (3) 特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)について ア 判断の前提 特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲の記載が適合するものでなければならない要件として、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」(いわゆる「サポート要件」)を規定している。 そして、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識等に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、本件補正発明が、出願時の技術常識等に照らして発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。 イ サポート要件についての判断 (ア) 本件補正後の請求項6、本願明細書【0003】-【0005】、【0021】、【0074】、【0075】、【0108】によれば、本件補正発明の課題は、「フォンタン手術を以前に受けた患者において、運動耐容能及び心拍出量を改善する」ことと解するのが相当である。 (イ) 上記(2)ウ(イ)~(オ)で述べた事情を考慮すると、本願明細書の記載や出願時の技術常識を参酌しても、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投与量が87.5mgになるように製剤されており、1日2回投与される治療剤を用いることで、上記課題を解決できることを、当業者が理解するとはいえないから、本願明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明の上記課題が解決できると当業者が認識できる程度の記載ないし示唆があると解すことはできない。 よって、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らしその課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。 (4) 審判請求書の請求の理由を補充する手続補正書(方式)、及び令和5年8月22日受付の上申書における請求人の主張について ア 請求人の主張の概要 請求人は、上記手続補正書(方式)において、以下の(ア)、(イ)の主張をしている。 (ア)(主張1)「令和4年5月9日起案の拒絶理由通知においては、本願の実施例3が言及されているが、本件補正発明の有用性を最も的確に示すものは、本願明細書の第0222段落以降に記載されている実施例7である。実施例7は治験の第III相のプロトコールであり、実験方法が極めて詳細に記載されており、本願の独立請求項1及び6も、実施例7に支持されるように、十分限定されている。」 (イ)(主張2)「実施例7の結果は、参考文献1として提出するGoldberg et al., Circulation. 2020;141:641-651, February 25, 2020に具体的に記載されている。参考文献1には、実施例7に記載されているプロトコールに沿った治験の結果、単心室心疾患(single ventricle heart disease, SVHD)患者において、ウデナフィルを87.5mgずつ1日2回、すなわち、1日175mgずつ投与した結果、SVHD患者の最大酸素摂取量VO2(p=0.071)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値における運動耐容能(p=0.012)が改善したことを報告している(参考文献1の要約欄)。」 請求人は令和5年8月22日受付の上申書において以下の(ウ)~(オ)の主張をしている。 (ウ)(主張3)「実施例3の被験者5名での本願治療剤投与後の最大VO2の変化を被験者ごとに示した図2及び図3では、治療剤投与による最大VO2の変化のばらつきが症例間で大きいが、投与群の被験者2名では、最大VO2が、陰性対照群の最良の結果を示す症例よりも明らかに大きく、本願治療剤の薬効が示されていると解することができる一方、投与群の残りの3名では本願治療剤の薬効が示されていないと解することもできるかもしれない。そうすると、有意差がないという審査官の見解自体は正しいとも考えられるが、…(略)…単に有意差がないという理由で医薬として実施可能要件及びサポート要件を充足していないと判断するのは妥当ではない。」 (エ)(主張4)「実際、統計処理ができないほど例数が少なくて有意差がある結果を示すことができないにもかかわらず記載要件充足が認められ、特許になっている例が少なからずある。…(略)…また、上記で例示した特許3件のように、わずか1、2例での良好な結果によって記載要件が充足されると判断する一方、本願のように有効な例を含む複数の患者から構成される群で有意差がなければ記載要件が充足されないというのも矛盾している。」 (オ)(主張5)「[II-4]例数が少なければ記載要件が充足されるのか?…(略)…もし本願において実施例3の運動負荷試験を1例のみで行い、最大VO2が増大した場合(例えば、図2の右から2番目の87.5mgを1日2回投与したところ、最大VO2が大きく増大した例)の薬理データを実施例に記載した場合、記載要件を充足していないと認定される可能性は低いと思われる。そうすると、例数を揃えることによってかえって記載要件が充足していないと判断される可能性が大きくなるのは妥当ではなく、有意差の有無だけで判断すべきではない。」 イ 請求人の主張についての判断 (ア)請求人の(主張1)について、本願明細書の実施例7には、現在形の時制による試験プロトコールと「ウデナフィル(87.5mg、1日2回)は安全で、運動耐容能及び心血管の健康状態の他の評価項目の改善、並びにクオリティ・オブ・ライフの向上に有効であろうことが予想される。」(【0222】)などの、期待される結果が記載されるのみであり、当該試験の具体的な結果については開示されていないし、その他の明細書の記載をもってしても、開示されているに等しいとすることもできない。そうすると請求人の(主張1)は採用出来ない。 (イ) 請求人の(主張2)について、参考文献1は、本願出願後に公表されたものであるから、参考文献1に記載された結果は、本願の実施可能要件とサポート要件を判断するにあたり、直ちに参酌できるものではない。念のため、予備的に参考文献1の内容についても検討しても、参考文献1には、ウデナフィル87.5mgを1日2回投与すると、プラセボ群に比べ、無酸素性代謝閾値(VAT)におけるVO2は増加すること(図3)は記載されているが、ピーク運動時の酸素消費量(当審注:最大努力時VO2)については、ウデナフィル群とプラセボ群との間で、統計的に意味のあるものにならなかった(図2)ことが記載されていること(第646頁左欄11行~右欄第5行)、心拍出量の変化については記載されていないことからも、本件補正発明における「最大酸素摂取量(VO2)及び無酸素性代謝閾値(VAT)の両者の最大値におけるその運動耐容能、及び心拍出量を改善する」することが記載されているとはいえない。 (ウ) 請求人の(主張3)について、上記(2)ウ(ウ)で説示した本願明細書に開示される実施例3を詳細に検討すると、ウデナフィルを1回当たり87.5mgで1日2回投与した標本数は5にとどまり、ベースライン測定平均値が28mL/kg/minであって、追跡調査測定平均値が28.2mL/kg/minである。 そして、個別の変化スコアを図2及び3に基づいて具体的にみると5名中2名が正の変化スコアを示し(当審注:「改善」を示す。)、5名中3名が負の変化スコアを示している。そして、正の変化スコアを示す2名のうち1名は、約8mL/kg/minとの比較的大きい数値を示すものの、もう1名は4mL/kg/minを示すにとどまり、3名の負の変化スコアは、それぞれ、おおよそ-6mL/kg/min、-3ml/kg/min、-2mL/kg/minを示している。 そうすると当業者が上記結果をみた際に、運動負荷試験により測定された最大努力時VO2が正に変化していること(改善していること)を信頼性をもって示されていると理解するとは認められない。 また、上記(2)ウ(ウ)のとおり図2及び図3において、被験者5名について、同じくフォンタン手術を受けた患者の中で、正の変化をした者2名と、負の変化をした者3名という正反対の結果がもたらされた理由については、本願明細書には何ら記載がない。 したがって、最大努力時VO2が改善したものであるとまで理解することはできない。 このことは、本願の原出願(特願2019-17645号)の原出願(特願2017-504434号)の知財高裁判決(令和2年(行ケ)第10122号)からも類推される。 また、請求人の主張では触れられていないが、無酸素性代謝閾値におけるVO2についても上記(2)ウ(ウ)で説示した本願明細書に開示される実施例3を詳細に検討すると、ウデナフィルを1回当たり87.5mgで1日2回投与した標本数は6にとどまり、ベースライン測定平均値が18.3mL/kg/minであって、追跡調査測定平均値が16.5mL/kg/minであり、その値は改善することなく低下している。 そして、個別の変化スコアを図4及び5に基づいて具体的にみると6名中2名がわずかに正の変化スコアを示し、6名中4名が負の変化スコアを示している。そして、正の変化スコアを示す2名は、おおよそ0mL/kg/minであり、4名の負の変化スコアは、それぞれ、おおよぼ-5mL/kg/min、-3ml/kg/min、-2mL/kg/min、-1mL/kg/minを示している。 そうすると当業者が上記結果をみた際に、無酸素性代謝閾値におけるVO2が正に変化していること(改善していること)を信頼性をもって示されていると理解するとは認められない。 また、上記(2)ウ(ウ)のとおり図4及び図5において、被験者6名について、同じくフォンタン手術を受けた患者の中で、ほとんど変化をしなかった者2名と、負の変化をした者3名という結果がもたらされた理由については、本願明細書には何ら記載がない。 したがって、無酸素性代謝閾値におけるVO2が改善したものであるとまで理解することはできない。 以上のとおり、最大努力時VO2、無酸素性代謝閾値VO2いずれにおいても改善したとはいえないから、請求人の主張3は採用することができない。 (エ) 請求人の(主張4)について、請求人が例示する特許になっている案件は、本件とは事案が異なるため、それらの案件についての判断結果を直ちには参酌することはできない。本件についての判断は、上記(2)ウあるいは、上記(3)イに示したとおりである。そうすると、請求人の(主張4)は採用できない。 (オ) 請求人の(主張5)について、本願明細書には、実施例3における試験結果全体が記載されているのであり、その記載内容を全体としてみれば、ウデナフィルにより患者の症状が改善するとは考え難いことは、上記(2)ウあるいは上記(3)イに示したとおりである。そうすると請求人の(主張5)は採用できない。 よって、上記アの主張を検討しても、上記(2)~(3)の判断に誤りは無い。 3 本件補正についてのむすび よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年6月23日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~26に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項6に記載された事項により特定される前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 令和5年2月8日付け拒絶査定(以下「原査定」という。)の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。 「1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」 「2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」 そして、該拒絶理由通知書では、上記「理由1」及び「理由2」について、概略、次の指摘をしている。 「理由1」について ・請求項 1~26 本願明細書及び出願時の技術常識を参酌しても、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の1日の総投与量が約125mgから約175mgになるように製剤した、又は、投与量が87.5mgになるように製剤されており1日2回投与される治療剤を用いることで、フォンタン手術を受け、運動耐容能及び心拍出量を改善する必要がある患者において、その運動耐容能及び心拍出量を改善するという有用性を、当業者が理解できるように記載されているものとは認められない。 「理由2」について ・請求項 1~26 本願明細書の記載や出願時の技術常識を参酌しても、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の1日の総投与量が約125mgから約175mgになるように製剤した、又は、投与量が87.5mgになるように製剤されており1日2回投与される治療剤により、フォンタン手術を受けた患者における、その運動耐容能、及び心拍出量を改善できることを、当業者が理解するとはいえないから、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1~26の上記課題が解決できると当業者が認識できる程度の記載ないし示唆があると解すことはできない。 3 当審における合議体の判断 (1)理由1(実施可能要件)について 本願発明は、上記第2[理由]2で述べたとおり、本件補正発明における「運動耐容能」に係る限定事項を削除したものであるから、本件補正発明を包含するものである。 そして、上記第2[理由]2(2)で述べたとおり、発明の詳細な説明は、本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、これと同じ理由により、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2)理由2(サポート要件)について 本願発明は、上記第2[理由]2で述べたとおり、本件補正発明における「運動耐容能」に係る限定事項を削除したものであるから、本件補正発明を包含するものである。 そして、上記第2[理由]2(3)で述べたとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本件補正発明の課題が解決できると当業者が認識できる程度の記載ないし示唆があると解すことはできないから、これと同じ理由により、発明の詳細な説明は、本願発明の課題が解決できると当業者が認識できる程度の記載ないし示唆があると解すことはできない。 したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明が、本願発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-009953

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決15件(ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア、メジオン ファーマ カンパニー リミテッド)
  • 2024-002318拒絶査定不服審判 / 2026-07-14 / 原査定取消(特許/登録すべき)CNS障害を治療するための方法及びベクター
    同じ当事者: ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
  • 2023-020970拒絶査定不服審判 / 2025-12-02 / 請求不成立ファソラセタム結晶形
    同じ当事者: ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
  • 2023-020501拒絶査定不服審判 / 2025-11-25 / 請求不成立AAVベクター、及び抗AAV(アデノ関連ウイルス)中和抗体についてのアッセイ
    同じ当事者: ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
  • 2022-016887拒絶査定不服審判 / 2024-12-10 / 請求不成立神経変性疾患を処置するための遺伝子移入用組成物、遺伝子導入法、及び遺伝子導入の使…
    同じ当事者: ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
  • 2022-015468拒絶査定不服審判 / 2024-12-02 / 原査定取消(特許/登録すべき)CNS障害を治療するための方法及びベクター
    同じ当事者: ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
同じ論点・分野の審決(審決分類)3,826件(536・A61K、537・A61K、575・A61K)
  • 2022-017391拒絶査定不服審判 / 2025-10-06 / 請求不成立哺乳動物種における胚-胎仔移行を検出およびモジュレートするための改良された方法
    共通の審決分類: 536・A61K、537・A61K、575・A61K
  • 2023-003246拒絶査定不服審判 / 2025-08-18 / 原査定取消(特許/登録すべき)脳中の転移乳癌および他の癌を処置するための方法および組成物
    共通の審決分類: 536・A61K、537・A61K、575・A61K
  • 2020-000076拒絶査定不服審判 / 2021-03-08 / 原査定取消(特許/登録すべき)外用クリーム及びその製造方法
    共通の審決分類: 536・A61K、537・A61K、575・A61K
  • 2018-016422拒絶査定不服審判 / 2020-07-06 / 請求不成立標的治療薬を作製する方法
    共通の審決分類: 536・A61K、537・A61K、575・A61K
  • 2018-003010拒絶査定不服審判 / 2019-09-26 / 請求不成立制御された薬物送達のためのテザー基を有するポリマー-薬物コンジュゲート
    共通の審決分類: 536・A61K、537・A61K、575・A61K

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存