特許拒絶査定不服審判
2021-015007
心筋機能を向上させるためのカートリッジおよび方法
- 審判番号
- 2021-015007
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-181842外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年11月05日
- 審決日
- 2022年09月07日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .113-Z (A61M) / P18 .121-Z (A61M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-181842号「心筋機能を向上させるためのカートリッジおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔令和2年5月14日出願公開、特開2020-72825号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)10月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年1月9日 米国(US))を国際出願日とする出願である特願2014-551239号の一部を、2017年8月31日に新たな特許出願とした特願2017-166848号の一部を、2019年10月2日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。
令和 元年10月31日提出 手続補正書
令和 2年 7月27日付け 拒絶理由通知
令和 3年 2月 1日提出 意見書
令和 3年 6月21日付け 拒絶査定
令和 3年11月 5日提出 審判請求書
令和 3年12月 3日提出 審判請求書の手続補正書
第2 本願発明
令和元年10月31日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項27に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「慢性心不全(CHF)または急性非代償性心不全(ADHF)を有する対象の心筋機能を向上させる方法においてカルシウムキレート剤と共に使用するためのカートリッジであって、
(i)内容積(IV)、流体入口ポート、および流体出口ポートを画定している硬質のハウジングであって、該内容積が該流体入口ポートおよび該流体出口ポートと流体流連通している、該ハウジングと、
(ii)該ハウジング内に配置されている固体支持体であって、カートリッジ内の流体の流動方向と実質的に平行であり、該内容積と流体流連通しており、該流体入口ポートを通って該ハウジングに入る体液中に活性化白血球および/または血小板が存在する場合にカルシウムキレート剤で処置されるそれらを一時的に捕捉するように構成された表面積(SA)を有する流体接触面を画定している該固体支持体と
を備える前記カートリッジ。」
第3 原査定(令和3年6月21日付け拒絶査定)の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由は、概略次のとおりである。
本願発明は、その優先権主張の日(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。又は、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記引用文献1に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献一欄:
1.特表2010-538973号公報
第4 引用文献1の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下、同様。)
(1)「【0013】
対象における炎症性症状は、一部は、白血球および血小板のような、炎症と関連する細胞の活性化から生じる。本発明は、白血球または血小板を隔離し、これらの炎症作用を阻害するかまたは失活させることによって、この症状を治療および/または予防するためのシステム、装置、ならびに方法に関する。本発明のシステム、装置、および方法は、体外で、白血球および血小板の一方または両方を隔離し、これらの炎症作用を阻害する。例えば、これらの細胞を失活させることができ、および/またはこれらの細胞が炎症誘発性物質を放出するのを阻害することができる。本発明を実施するための多くの方法があるが、1つのアプローチは、白血球および血小板の一方または両方を、これらの細胞が結合し得る表面を提供し、かつ細胞を失活させるおよび/または炎症誘発性物質の放出を阻害することができる薬剤を提供する装置の内部に隔離することである。1つの限定されない実施形態において、該装置は中空繊維を含み、細胞がこれらの繊維の外側と結合する。細胞を失活させるため、および/または炎症誘発性物質の放出を防ぐためにクエン酸塩が提供される。本発明のこのまたは他の実施形態を使用して行われる実験は、対象の生存を最大限にすることにおいて前例のない、驚くべき成功を提供する。これらの結果は、広範な炎症性疾患および症状に対して、本発明のシステム、装置、および方法の説得力のある有用性を実証する。」
(2)「【0024】
詳細な説明
炎症と関連する細胞、例えば白血球(leukocyteまたはwhite blood cell)および血小板は、通常、感染や傷害に対して身体を守る。しかしながら、多くの病態および医療処置はこれらの細胞を活性化および/またはプライミングし得、それによって今度は、致死的になり得る望まない免疫反応および炎症反応が生じ得る。本発明は、対象内の炎症性症状を治療および/または予防するように構成されたシステムおよび装置、ならびに関連方法に関する。本発明のシステム、装置、および方法は、白血球および血小板の一方または両方を体外で隔離し、かつそれらの炎症作用を阻害する。特に、本発明は、白血球、例えば活性化および/またはプライミングされた白血球を隔離し、それらを対象に戻す前に、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させるためのシステム、装置、および方法を含む。本発明は、炎症と関連する他の種類の細胞、例えば、血小板(例えば、活性化血小板)を隔離し、それらを対象に戻す前に、これらの細胞からの炎症誘発性物質の放出を阻害するためのシステム、装置、および方法も含む。」
(3)「【0027】
1つの例示的な実施形態の概略図を図1に示す。示されているように、血液は第1の装置にかけられる。その後、白血球は活性化(および/またはプライミング)されるようになる。その後、活性化(および/またはプライミング)された白血球は、一般的に選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)と称される装置に入り、その中で、活性化された白血球は隔離される。第1の装置によって活性化させられるというよりむしろ、白血球は、対象の一次症状の結果としてまたは他の種類の医学的介入に続発した結果として活性化(および/またはプライミング)され得るということが理解される。
【0028】
言いかえれば、SCIDの中で、血液由来の活性化(および/またはプライミング)された白血球は、例えば、SCID内部の1つまたは複数の表面に一時的に接着することによって隔離される。白血球の隔離は様々なアプローチ、例えば、白血球、例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球と結合する分子とSCID内の通路または通路領域内で会合させることによって、または白血球に低いせん断応力を提供し、SCID内の1つまたは複数の表面にそれらが結合できるように装置内で血液の流れを設定することによって達成され得る。その後、これらの隔離された白血球は、白血球を失活させるまたはそれらの炎症誘発性物質の放出を阻害する薬剤、例えば、クエン酸塩にさらされる。これらのシステムおよび装置は、他の細胞型、例えば、血小板にも適用することができる。
【0029】
理論に拘束されるわけではないが、カルシウムキレート剤、例えば、クエン酸塩は、装置内に低Cai環境をもたらし、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させると考えられている。炎症誘発性物質は、白血球由来の破壊酵素および/またはサイトカインを含み得る。この阻害および/または失活は、白血球の炎症状態の改善をもたらす。このように、図1に示される例示的な実施形態(および本発明の他の実施形態)において、SCIDは白血球、例えば、好中球および単球を隔離し、ならびに、例えば、クエン酸塩および/または低いCai環境を用いて、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させる。血小板の隔離ならびに阻害および/または失活は、類似の方法で達成され得る。
【0030】
クエン酸のようなカルシウムキレート剤の、白血球を隔離する中空繊維を含むハウジング(housing)を含む本発明の装置への添加は、対象の先天性の免疫システムを改善するという予期せぬ結果を有することが実証された。従って、本発明のシステム、装置、および方法は、白血球(例えば、活性化および/もしくはプライミングされた白血球)または血小板(例えば、活性化血小板)を含む対象の血液を直接処置することによって、様々な炎症性症状(一次病態としてまたは医学的介入の結果としてのいずれか)を治療または予防することができる。処置後、血液は対象に戻される。」
(4)「【0036】
2.A.単一装置システム
述べたように、システムは、選択的細胞吸着除去、および任意でシステム内の追加の処置装置なしに、他の血液処置を遂行するためのSCIDを含み得る(図2A~2B)。そのようなSCIDの一実施形態を、概略的に図5に示す。図5において、SCID555は、複数の多孔質膜(中空繊維552)を含む(明確にするため1つだけがラベルされている)。これらの繊維内の管腔空間は、毛細管内の空間(「ICS」)540と呼ばれる。この実施形態において、ICS入口およびICS出口は、蓋544がされている。中空繊維552を囲み、SCID555のハウジング554の内部にある空間542は、毛細管外の空間(「ECS」)と呼ばれる。白血球を含む血液はECS入口548に入り、繊維552を囲むECS542に移る(すなわち、通路に移る)。白血球は装置内、例えば、中空繊維552の外部表面で隔離され、白血球からの炎症誘発性物質の放出を阻害するおよび/または白血球を失活させることができる薬剤、例えば、クエン酸塩にさらされる。該薬剤は、ECS入口548の上流のラインに注入され得る、またはポートを通ってSCIDそれ自体に注入されてもよい。あるいは、またはさらに、該SCIDは、SCIDを使用する前に、薬剤と共に準備され得る。ECS542内の流速は、白血球を結合させる繊維552の表面で(本明細書に記載される範囲の)低いせん断力が発生するように、本明細書に記載される範囲で選択される。このようにして、白血球の阻害および/または失活は、達成または開始される。その後、ECS内の血液は、ECS出口550を通ってSCIDを出て、流出ラインに入る。
【0037】
図2Aは、本発明による回路の図5の例示的なSCID555を示す。対象由来の血液は、血液ラインに入り、ポンプ204を通ってそのラインを移動する。同じ血液ライン上に、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)が、ポート206で、任意でポンプを使用して、注入され得る。その後、血液ライン内の血液はECS入口548に入り、ECS出口550でSCID555を出る。ECS入口548および出口550で血液ラインは、それぞれ、血液ラインコネクタを使用して、ロッキング機構256に取り付けられる。白血球は、中空繊維552の外部表面でECS542 内に隔離される。ECS出口550からの血液流出ラインは、血液を対象に戻す。別の薬剤、例えば、カルシウム(例えば、塩化カルシウムまたはグルコン酸カルシウム)は、対象に再入する血液を準備するために、この血液流出ライン上のポート258で注入され得る。特定の実施形態において、ICSは、さらに血液処置を助けるために各繊維のICS540の内層で単層培養された異種移植細胞または同種移植細胞、例えば、尿細管細胞を含み得る。しかしながら、別の実施形態において、ICSは細胞を含まない。図2Aの回路内において、SCID555の内腔540は、生理食塩水で満たされる。」
(5)「【0044】
理論に縛られることを望まないが、SCIDシステムのこれらの実施形態(ならびに図1、2A~2B、3、および4A~4Fに示される実施形態)における流れの形状は、白血球がSCIDのECS内の低せん断力環境で存在できるように、従って、例えば、中空繊維のようなSCID内の1つまたは複数の内部表面と結合できるようにすると考えられる。反対に、血液濾過カートリッジ(例えば、図2Cおよび2Dの回路内の第1の装置210)の典型的な使用において、中空繊維の小口径内腔を通過する血流は、白血球と中空繊維との結合および装置内の白血球の隔離を阻害する(SCID内のせん断力よりも)高いせん断力を生み出す。従って、逆の動作(すなわち、血液が中空繊維の内側ではなく中空繊維の外側を流れること)を支持する標準的な流れ回路を有する血液濾過装置は、損傷を与える可能性がありかつ循環している活性化白血球を隔離するためのSCIDとして作用し得る。これらの隔離された白血球は、白血球阻害剤(例えば、クエン酸塩)を使用して処置され得る。
【0045】
さらに、隔離された白血球の炎症反応は、隔離の前、隔離の間、および/または隔離の後に、(例えば、クエン酸塩によって引き起こされる)低いCaiが存在する中で、阻害されるおよび/もしくは失活させられると考えられる。低いCai環境は、白血球の炎症性活性を阻害し得る、または白血球を失活させ得る。」
(6)「【0097】
従って、本発明のシステム、装置、および方法は、対象内で生じる一次炎症性疾患および/または医療処置(例えば、透析もしくは心肺バイパス)への反応として生じる二次性の炎症性疾患を含む任意の炎症性症状を、治療および/または予防し得る。炎症性疾患および/または障害を含む、適用できる炎症性症状の例として、全身性炎症反応症候群(SIRS)、心肺バイパス症候群、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、全身性エリテマトーデス、炎症性腸疾患、膵炎、腎炎、多発性硬化症、乾癬、同種移植片拒絶、喘息、慢性腎不全、心腎症候群、肝腎症候群、および心筋、中枢神経系、肝臓、腎臓、または膵臓への虚血再灌流傷害による急性臓器不全が挙げられるが、それらに限定されない。」
(7)「【0124】
炎症パラメータの観察
ブタSIRSモデルを用いて、様々な治療的介入の効果を調べるため、気管支肺胞洗浄(BAL)液を死亡時に入手し、微小血管損傷のパラメータとしてのタンパク質含有量、様々な炎症性サイトカインおよび多形核細胞(PMN)の絶対数について評価した。表3にまとめたように、予備データは、RAD処置とSCID処置の両方が、SIRSにおける肺障害の初期段階で、血管損傷およびタンパク質漏出をより少なくし、炎症性サイトカイン放出を減少させることを示した。IL-6、IL-8および腫瘍壊死因子(TNF)-αの量は、模擬対照と比べて、治療的介入においてより低かった。IL-1およびIL-10の量に違いはなかった。各群、n=1または2であったが、模擬対照における好中球の絶対数は1000細胞/mLを越え、RAD群およびSCID群ではより低い傾向であった。
・・・・・・
【0126】
白血球隔離の観察
血液透析の文献は、単一カートリッジの中空繊維を通る血液循環が、一過的な1時間の好中球減少反応をもたらすと示唆する(例えば、Kaplow et al. (1968) JAMA 203:1135参照)。第2のカートリッジの体外空間を通る血流が、循環白血球のより高い接着率をもたらすかどうかを試験するために、敗血症動物における全白血球(WBC)数および差異を測定した。結果を図13に示す。
【0127】
図13に示されるように、各群は、2時間で発症し、7時間で回復する底を有する、体外回路に対する白血球減少反応を有した。これらの動物(各群n=1~2、合計=5)におけるベースライン~3時間の平均白血球分画を表4にまとめた。白血球の全小集団は減少し、一番顕著なのは好中球であった。
【0128】
(表4)
[図:0001393659000001.jpg]
注釈:数値は、5匹の動物(模擬対照動物1匹、RADにより処置された動物2匹およびSCDにより処置された動物2匹)の平均である。
・・・・・・・・・
【0130】
これらのデータは、模擬/ヘパリン対照と比較して、RADが、心拍出量、腎臓の血流(データ示さず)、および生存期間を改善することを確証する。さらに、第2の低せん断力の中空繊維カートリッジ(すなわちSCID)と組み合わせたクエン酸塩の使用は、それがICS内に細胞を含まなくても、大きな抗炎症効果を有するということを見出したのは予想外であった。」
(8)「
[図:0001393659000002.jpg]
」
(9)「
[図:0001393659000003.jpg]
」
(10)「
[図:0001393659000004.jpg]
」
2 引用発明
(1)上記1の(1)~(4)、(6)の特に下線部の記載からすれば、引用文献1記載の選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)は、「白血球および血小板の一方または両方の炎症作用による炎症性疾患を治療および/または予防する選択的細胞吸着除去においてクエン酸塩のようなカルシウムキレート剤と共に使用する」ものである。
(2)上記1の(3)~(5)の特に下線部の記載及び(8)~(9)の図面の記載からすれば、引用文献1記載の選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)は、「ハウジング554の内部に空間(ECS)542を有し、血液がECS入口548に入り、ECS542に移動し、ECS出口550で出るハウジング554と、ECS542で囲まれた中空繊維552であって、ECS入口548の上流のラインでクエン酸塩が注入された血液が、白血球を結合させる繊維552の外部表面で低いせん断力が発生し、一時的に接着することによって隔離されることで、白血球を阻害および/または失活させる中空繊維552を備え」るものである。
(3)上記(1)及び(2)の認定からすれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「白血球および血小板の一方または両方の炎症作用による炎症性疾患を治療および/または予防する選択的細胞吸着除去においてクエン酸塩のようなカルシウムキレート剤と共に使用する選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)であって、ハウジング554の内部に空間(ECS)542を有し、血液がECS入口548に入り、ECS542に移動し、ECS出口550で出るハウジング554と、ECS542で囲まれた中空繊維552であって、ECS入口548の上流のラインでクエン酸塩が注入された血液が、白血球を結合させる繊維552の外部表面で低いせん断力が発生し、一時的に接着することによって隔離されることで、白血球を阻害および/または失活させる中空繊維552を備えるSCID。」
第5 対比
1 引用発明の「選択的細胞吸着除去抑制装置(SCID)」は、機能及び構造上、本願発明の「カートリッジ」に相当する。
2 引用発明の「ハウジング554」、「ECS入口548」及び「ECS出口550」は、機能及び構造上、本願発明の「ハウジング」、「流体入口ポート」及び「流体出口ポート」に相当し、引用発明の「空間(ECS)542」は、ハウジング554の内容積として構成されているから、本願発明の「内容積」に相当する。
そして、引用発明のハウジング554は、ECS入口548及びECS出口550を有し、中空繊維552を囲むECS542を画定するものであるから、「硬質」であるものと認められ、また、血液は、ECS入口548から入り、ECS542に移動し、ECS出口550から出るのであるから、ECS542は、ECS入口548およびECS出口550と流体流連通しているものと認められる。
したがって、引用発明の「内部に空間(ECS)542を有し、血液がECS入口548に入り、ECS542に移動し、ECS出口550で出るハウジング554」は、本願発明の「内容積(IV)、流体入口ポート、および流体出口ポートを画定している硬質のハウジングであって、該内容積が該流体入口ポートおよび該流体出口ポートと流体流連通している、該ハウジング」に相当する。
3 引用発明の「中空繊維552」は、ハウジング554のECS542で囲まれているのであるから、ハウジング554内に配置されているものであり、機能及び構造上、本願発明の「固体支持体」に相当する。
また、上記第4の1(4)の特に下線部の記載及び(9)の図面の記載からすれば、「中空繊維552」は、ECS入口548から入った血液が移動しECS出口550から出るハウジング554のECS542内に血液の流動方向と実質的に平行に配置され、ECS542と流体流連通しており、白血球を結合させる中空繊維552の表面に低いせん断力を発生させ一時的に接着することによって隔離するものである。ここで、上記白血球は、中空繊維552の低いせん断力が発生する表面で阻害および/または失活されるものであるから、「活性化白血球」にあたり、当該白血球はせん断力により中空繊維552の表面の流体接触面で一時的に捕捉されるものと認められる。
してみれば、中空繊維552は、ハウジング554内に配置されており、SCID内の血液の流動方向と実質的に平行であり、当該中空繊維552は、ECS542と流体流連通しており、ECS入口548を通ってハウジング554に入る血液中に活性化白血球が存在する場合にカルシウムキレート剤で処置されるそれらを一時的に捕捉するように構成された表面積を有する流体接触面を画定しているものと認められる。
さらに、引用発明の「血液」は、白血球及び血小板を包含する液体であり、本願発明の「体液」に相当する。
したがって、引用発明の「ECS542で囲まれた中空繊維552であって、ECS入口548の上流のラインでクエン酸塩が注入された血液が、白血球を結合させる繊維552の外部表面で低いせん断力が発生し、一時的に接着することによって隔離されることで、白血球を阻害および/または失活させる中空繊維552」は、本願発明の「ハウジング内に配置されている固体支持体であって、カートリッジ内の流体の流動方向と実質的に平行であり、該内容積と流体流連通しており、該流体入口ポートを通って該ハウジングに入る体液中に活性化白血球および/または血小板が存在する場合にカルシウムキレート剤で処置されるそれらを一時的に捕捉するように構成された表面積(SA)を有する流体接触面を画定している該固体支持体」に相当する。
上記1~3の認定からすると、本願発明と引用発明は、以下の一致点および一応の相違点を有する。
【一致点】
カルシウムキレート剤と共に使用するためのカートリッジであって、
(i)内容積(IV)、流体入口ポート、および流体出口ポートを画定している硬質のハウジングであって、該内容積が該流体入口ポートおよび該流体出口ポートと流体流連通している、該ハウジングと、
(ii)該ハウジング内に配置されている固体支持体であって、カートリッジ内の流体の流動方向と実質的に平行であり、該内容積と流体流連通しており、該流体入口ポートを通って該ハウジングに入る体液中に活性化白血球および/または血小板が存在する場合にカルシウムキレート剤で処置されるそれらを一時的に捕捉するように構成された表面積(SA)を有する流体接触面を画定している該固体支持体と
を備える前記カートリッジ。
【一応の相違点】
カルシウムキレート剤と共に使用するためのカートリッジが、本願発明では、慢性心不全(CHF)または急性非代償性心不全(ADHF)を有する対象の心筋機能を向上させる方法において使用するものであるのに対し、引用発明では、そのような方法において使用するとの用途が限定されていない点。
第6 判断
以下、上記一応の相違点について検討する。
上記一応の相違点に係る構成は、本願発明に係る「カートリッジ」について用途を限定するものであるところ、当該「カートリッジ」は物の発明であるから、用途限定が物を特定するための意味を有するためには、用途限定により用途に特に適した構造等を特定したと認められる必要がある。
本願発明に係るカートリッジは、ハウジング内に配置された固体支持体により活性化白血球および/または血小板を一時的に捕捉することにより活性化白血球および/または血小板による炎症作用を阻害するか失活させることで、慢性心不全(CHF)または急性非代償性心不全(ADHF)を有する対象の心筋機能を向上させる方法に用いるものである。一方、引用発明のSCIDも一時的に捕捉することにより炎症作用を阻害する対象は活性化白血球であるから、「カートリッジ」として相違はない。
よって、上記一応の相違点に係る用途限定が、用途に特に適した構造等を意味するということはできない。
他方、用途限定が、用途に特に適した構造等を意味するものではないとしても、未知の属性を発見し、この属性によりその物が新たな用途への使用に適することを見いだした場合には、用途限定に物を特定するための意味を見いだすことができる。
しかし、本願発明は「カートリッジ」という物の発明であるから、その属性は構成上明らかであり、使用態様も用途限定の有無によって異ならず、引用発明と同じく白血球を一時的に捕捉することにより活性化白血球および/または血小板による炎症作用を阻害するか失活させるものであるから、新たな用途への使用に適することを見い出したということはできない。
よって、この点でも用途限定に物を特定するための意味を見いだすことはできない。
他方、出願人は、慢性心不全(CHF)または急性非代償性心不全(ADHF)に関連する炎症は白血球の単球により引き起こされることを主張している(令和3年12月3日提出の審判請求書の手続補正書の14頁下から9行~15頁12行参照。)。
そこで、上記一応の相違点に係る用途限定により、固体支持体で一時的に捕捉される対象が活性化白血球の単球に特定されるかについて検討する。
本願発明において、固体支持体で一時的に捕捉する対象は「活性化白血球および/または血小板」であるから、活性化白血球のうち単球のみを取り除くための具体的構成を限定するものではない。
したがって、カートリッジで一時的に捕捉する対象を活性化白血球のうち単球に特定しているとはいえない。
また、仮に上記用途限定により、一時的に捕捉される対象が活性化白血球のうち単球に特定されるとしても、引用文献1の段落【0029】(上記第4の1(3)参照。)に記載されているように、引用発明は単球の隔離も意図しており、また、表4(上記第4の1(7)参照。)の実験結果に示されるように単球を減少させるものであるから、上記用途限定により、固体支持体で一時的に捕捉される対象が単球に特定されるとしても、単球の除去は引用発明も行えるものであり、当該特定を引用発明との実質的な相違とすることはできない。
さらに、当該特定に実質的意味があるとしても、本願明細書の段落【0228】に記載されているように、単球が慢性心不全に関連することは本願の優先日前から認識されている公知の技術であり、引用文献1の段落【0097】や【0171】に記載されているように、引用発明は慢性の炎症性疾患や心不全への適用も予定しているのであるから、引用発明が適用される炎症性疾患を、具体的に「慢性心不全(CHF)または急性非代償性心不全(ADHF)」とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は引用発明であり、また仮に両者に相違があるとしても、当該相違は引用文献1の記載事項及び公知の技術に基づき、当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-015007