審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2021-014125

電力ケーブルおよび電力ケーブルの製造方法

審判番号
2021-014125
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-094570外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年10月18日
審決日
2023年01月18日
公報発行日
2023年04月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (H01B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2017- 94570「電力ケーブルおよび電力ケーブルの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月29日出願公開、特開2018-190675〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 13項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は平成29年5月11日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

令和3年 1月20日付け 拒絶理由通知書

令和3年 3月 4日 意見書、手続補正書の提出

令和3年 8月25日付け 拒絶査定

令和3年10月18日 審判請求書の提出

令和4年 6月29日付け 拒絶理由通知書(以下、この拒絶理由通

知書による拒絶理由を「当審拒絶理由」

という。)

令和4年 8月30日 意見書、手続補正書の提出(以下、この

意見書を「意見書」といい、この手続補

正書による手続補正を「本件補正」とい

う。)

第2 本願発明

本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「導体と、前記導体の外周を覆う絶縁層と、を備える電力ケーブルであって、
前記導体の中心には前記導体の軸方向に延びる中空部が設けられ、
前記導体の前記中空部内には、前記導体を構成する材料よりもヤング率が大きく線膨張係数が小さい材料から構成される線材が前記導体の軸方向に沿って挿入され、
前記電力ケーブルの軸方向に直交する任意の断面における、前記中空部の断面積に対する前記線材の断面積の比率である前記線材の充填率は、20%以上90%以下であり、
前記電力ケーブルが通電されたときに、前記線材に対して前記導体のみが蛇行するように撓む
電力ケーブル。」

第3 当審拒絶理由

令和4年6月29日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由1は、次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1ないし11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2016-54116号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載

引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同じ。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルに関し、特に高圧電力の地中送電線として用いられる電力ケーブルに関する。」
「【0022】
<本発明の一実施形態>
(1)電力ケーブルの構造
本発明の一実施形態に係る電力ケーブルについて、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る電力ケーブル1の軸方向と直交する断面図である。
続きを表示(全23行)
【0023】
図1に示されているように、本実施形態に係る電力ケーブル1は、導電部10と、導電部10の外周を覆う絶縁層20と、絶縁層20の外周を覆う被覆層30と、を備える。導電部10内には、導電部10を構成する材料よりヤング率が大きく線膨張係数が小さい材料から構成される線材40が設けられている。
【0024】
このとき、例えば導電部10をアルミニウム導体または銅導体等の金属導体とし、絶縁層20を架橋ポリエチレン製とし、被覆層30を塩化ビニル製とし、線材40をインバ線として、電力ケーブル1を、架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル(Crosslinked polyethylene insulated PVC sheathed cable:CVケーブル)にインバ線が複合された電力ケーブルとして構成することができる。
【0025】
すなわち、導電部10は、例えば、(純)アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、(純)銅(Cu)または銅合金等の金属からなり台形状や扇形状等の断面形状を持つ複数のセグメント10sを組み合わせてなる、アルミニウム導体または銅導体等の導電性の金属導体である。このとき、各セグメント10sは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金等の金属からなる素線を複数本撚り合わせて構成されていてもよい。また、各セグメント10sは、内層、外層の2層になるよう組み合わされていてもよく、或いは、それ以上の複数層になるよう組み合わされていてもよい。組み合わされた(最内層の)セグメント10sの中央、すなわち、導電部10の中心部には、導電部10の軸方向に延びる中空部10wが設けられている。
【0026】
線材40は、係る中空部10w内に挿入され、導電部10の軸方向に沿って挿通された状態となっている。このとき、線材40は、中空10w内に隙間を開けて挿入されていても良く、または、中空部10w内に隙間なく挿入され、線材40の外表面の少なくとも一部が、中空部10w内壁を構成する導電部10と接していてもよい。またこのとき、線材40は1本のみから構成されていてもよく、或いは、複数本の素線を撚り合わせたり圧縮したりして束ねた状態に構成されていてもよい。また、線材40は、例えば鉄(Fe)に所定量のニッケル(Ni)を加えたステンレス鋼からなるインバ線やカーボンファイバによるカーボンコンポジット線等により構成されている。係る材料は、例えば導電部10を構成するアルミニウム導体や銅導体等の金属導体よりもヤング率が大きく、また、線膨張係数が小さい。
【0027】
このように構成される電力ケーブル1は、例えば地中に設けられた管路内に布設される。管路の所定位置に設けられた人孔内には、例えば電力ケーブル1同士を接続するケーブル接続部が設置される。電力ケーブル1同士は、電力ケーブル1内に設けられた線材40同士を圧縮して接続される。
【0028】
(2)電力ケーブルの作用
本実施形態に係る電力ケーブル1は、以下の作用を有する。
【0029】
すなわち、導電部10に通電されると、温度上昇により導電部10が伸び出す。一方、中空部10wに挿入した線材40は、導電部10よりも伸び出し量が少ない。このため、導電部10は、軸方向に対し所定周期で、或いは不定期の周期で蛇行するように撓むことで、自身の伸び出し量を吸収する。このとき、導電部10の周囲に設けられた絶縁層20や被覆材30等が導電部10に追従するようにスネーク形状をとってもよく、ひいては、電力ケーブル1全体がスネーク形状をとってもよい。
【0030】
あるいは、電力ケーブル1が、軸方向に対して伸び出し量が少ない導電部10と、軸方向に対して伸び出し量が多い線材40とで均衡がとれるような形をとることにより、電力ケーブル1の伸び出し量が吸収されていてもよい。このように、電力ケーブル1が伸び出し量を吸収するよう均衡した形をとるとき、電力ケーブル1はスネーク形状をとっていなくともよい。
【0031】
また、上述のように、導電部10の構成材よりも線膨張係数の小さい線材40を用い、さらに例えば、上述したように、線材40と導電部10とを接触させた状態とすれば、伸び出し量をさらに低減させることができ、より好ましい。係る構成において伸び出し量が低減されるのは、主に線材40と導電部10との摩擦によると考えられる。また、係る場合、電力ケーブル1の端末における伸び出し力を抑制する効果もあると考えられる。」
「【0042】
(3)電力ケーブルの製造方法
本実施形態に係る電力ケーブル1は、以下の製造方法により製造することができる。
【0043】
すなわち、まずは、インバ線等の素線を準備し、これを線材40とする。或いは、係る素線を複数本撚り合わせた撚り線を線材40として用いる。係る線材40の周囲へ、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金等の金属からなるセグメント10sを1層以上撚り合わせることで、中空部10w内に線材40が挿入された導電部10となる。各セグメント10sは、上述のように、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金等の金属からなる素線を複数本撚り合わせ、台形状や扇形状等の断面形状となるよう成形しておくことができる。
【0044】
その後、押出成形等により、導電部10の外周に、例えば架橋ポリエチレン製の絶縁層20および塩化ビニル製の被覆層30を形成する。以上により、本実施形態に係る電力ケーブル1が製造される。」
「【0050】
また、図2(b)に示されているように、他の変形例に係るケーブル1bにおいては、導電部12は複数のセグメント12sを組み合わせてなり、各セグメント12sの外縁部近傍には複数の線材42がそれぞれ配置されている。上述の電力ケーブル1aの各セグメント11s同様、電力ケーブル1bの各セグメント12sもまた、例えばインバ線等の素線と、アルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金等の金属からなる素線と、を撚り合わせて構成されるところ、図2(b)に示されている断面における各線材42の配置は、あくまでも一例である。すなわち、各線材42は、セグメント12s内でうねりながら位置を変えている。よって、電力ケーブル1bのどの断面を切り出すかによって、セグメント12s内の、絶縁層20に接する外縁部側、隣接する一方のセグメント12sに接する外縁部側、隣接する他方のセグメント12sに接する外縁部側、と、各線材42の位置が移動してみえる。
【0051】
このように、各線材42が各セグメント11sの外縁部にその位置を変えながら配置されることで、導電部12が蛇行し易くなる。よって、例えば曲がりくねった管路内において、導電部12あるいは電力ケーブル1bが、管路内の曲がりに沿う形のスネーク形状をとるよう、各線材42の配置により調整することができる。」

2 引用発明

上記記載によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「導電部10と、導電部10の外周を覆う絶縁層20と、絶縁層20の外周を覆う被覆層30と、を備える電力ケーブル1であって、
導電部10は、(純)アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、(純)銅(Cu)または銅合金等の金属からなる台形状や扇形状等の断面形状を持つ複数のセグメント10sを組み合わせてなる、アルミニウム導体または銅導体等の導電性の金属導体であり、各セグメント10sは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金等の金属からなる素線を複数本撚り合わせて構成されており、
組み合わされた(最内層の)セグメント10sの中央、すなわち、導電部10の中心部に、導電部10の軸方向に延びる中空部10wが設けられており、
導電部10を構成する材料よりヤング率が大きく、線膨張係数が小さい材料から構成される線材40は、係る中空部10w内に挿入され、導電部10の軸方向に沿って挿通された状態となっており、また、線材40は、中空部10w内に隙間を開けて挿入されており、
導電部10に通電されると、温度上昇により導電部10が伸び出し、また、中空部10wに挿入した線材40は、導電部10よりも伸び出し量が少ないため、導電部10は、軸方向に対し所定周期で、或いは不定期の周期で蛇行するように撓むことで、自身の伸び出し量を吸収する、
電力ケーブル1。」

第5 対比

本願発明と引用発明と対比すると、以下のとおりとなる。

1 引用発明の「導電部10」及び「導電部10の外周を覆う絶縁層20」は、それぞれ本願発明の「導体」及び「前記導体の外周を覆う絶縁層」に相当する。

そうすると、引用発明の「導電部10と、導電部10の外周を覆う絶縁層20と、絶縁層20の外周を覆う被覆層30と、を備える電力ケーブル1」は、本願発明の「導体と、前記導体の外周を覆う絶縁層と、を備える電力ケーブル」に相当する。

2 引用発明の「導電部10の中心部に、導電部10の軸方向に延びる中空部10wが設けられて」いる構成は、本願発明の「前記導体の中心には前記導体の軸方向に延びる中空部」が設けられている構成に相当する。

3 引用発明の「導電部10を構成する材料よりヤング率が大きく、線膨張係数が小さい材料から構成される線材40」は、本願発明の「前記導体を構成する材料よりもヤング率が大きく線膨張係数が小さい材料から構成される線材」に相当する。

そして、引用発明の「線材40は、係る中空部10w内に挿入され、導電部10の軸方向に沿って挿通された状態となって」いる構成は、本願発明の「線材が前記導体の軸方向に沿って挿入」されている構成に相当する。

4 引用発明の「導電部10に通電されると、温度上昇により導電部10が伸び出し、また、中空部10wに挿入した線材40は、導電部10よりも伸び出し量が少ないため、導電部10は、軸方向に対し所定周期で、或いは不定期の周期で蛇行するように撓むこと」は、本願発明の「前記電力ケーブルが通電されたときに、前記線材に対して前記導体のみが蛇行するように撓む」ことに相当する。

5 引用発明の「電力ケーブル1」は、本願発明の「電力ケーブル」に対応する。

6 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)

「導体と、前記導体の外周を覆う絶縁層と、を備える電力ケーブルであって、
前記導体の中心には前記導体の軸方向に延びる中空部が設けられ、
前記導体の前記中空部内には、前記導体を構成する材料よりもヤング率が大きく線膨張係数が小さい材料から構成される線材が前記導体の軸方向に沿って挿入され、
前記電力ケーブルが通電されたときに、前記線材に対して前記導体のみが蛇行するように撓む
電力ケーブル。」

(相違点)

本願発明は、「電力ケーブルの軸方向に直交する任意の断面における、前記中空部の断面積に対する前記線材の断面積の比率である前記線材の充填率は、20%以上90%以下」であるのに対して、引用発明は、線材40の充填率について、特定されていない点。

第6 判断

1 相違点についての当審判断

上記相違点に係る本願発明の構成である「電力ケーブルの軸方向に直交する任意の断面における、前記中空部の断面積に対する前記線材の断面積の比率である前記線材の充填率は、20%以上90%以下」であることによる作用効果について、本願明細書には、

「【0080】
ここで、本実施形態では、上述のように、線材120の充填率を20%以上90%以下することにより、電力ケーブル10の導体110が通電されたときに、導体110と線材120との間に所定の摩擦力を生じさせつつ、導体110と線材120とを互いに相対的に変形させることができる。
【0081】
これにより、図2に示すように、電力ケーブル10の導体110が通電されたときに、線材120に対して導体110のみを蛇行するように撓ませることができる。例えば、線材120に対して導体110のみを螺旋状に蛇行させることができる。なお、このとき、導体110の外周に設けられた絶縁層150等も、導体110の形状に追従するように蛇行してもよく、電力ケーブル10全体が蛇行してもよい。」、
「【0117】
(a)導体110の中心に設けられた中空部110w内に、導体110を構成する材料よもヤング率が大きく線膨張係数が小さい材料から構成される線材120が挿入されている。電力ケーブル10の軸方向に直交する任意の断面において、中空部110wの断面積に対する線材120の断面積の比率である線材120の充填率は、20%以上90%以下である。・・・中略・・・
【0118】
(b)線材120の充填率を上記範囲内とすることで、導体110と線材120との間に所定の摩擦力を生じさせつつ、導体110と線材120とを互いに相対的に変形させることができる。これにより、電力ケーブル10の導体110が通電されたときに、線材120に対して導体110のみを蛇行するように撓ませることができる。線材120に対して導体110のみを蛇行するように撓ませることで、導体110の伸び出し量のうち、電力ケーブル10の布設方向に直交する方向の成分を増加させ、一方で、電力ケーブル10の布設方向の成分を減少させることができる。その結果、電力ケーブル10全体としての布設方向の伸び出し量を小さくすることができる。」

と記載されており、本願発明は、線材120の充填率を20%以上90%以下とすることで、電力ケーブル10の導体110が通電されたときに、線材120に対して導体110のみを蛇行するように撓ませることができるという効果を奏するものであると認められる。

それに対して、引用発明は、「導電部10に通電されると、」「導電部10は、軸方向に対し所定周期で、或いは不定期の周期で蛇行するように撓む」という本願発明と同様の作用効果を有するものであり、かつ、充填率を20%以上90%以下とすることにより、引用発明にない、格別の効果が奏されるものとも認められないから、引用発明における線材40の充填率を、本願発明における線材の充填率と同様な充填率とすることは、当業者が容易に想到できることである。

したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易になし得ることである。

第7 請求人の主張について

1 請求人の主張

折りたたみ中(クリックで表示)

請求人は、意見書において、

(1)引用文献1の段落【0026】及び【0031】の記載を根拠として、引用発明のように、「導電部10と線材40とが密接していると、導電部10と線材40とが一体として挙動し、本願発明の効果が得られません。」と主張している。

(2)「引用文献1において、線材40と導電部10とが密接していたほうがより好ましいと記載されていることから、段落0026において、「線材40は、中空10w内に隙間を開けて挿入されていても良」いとする記載は、線材40と導電部10との間に、密接に限りなく近いほどの微細な隙間が空いていてもよいということを示唆しています。このような線材40と導電部10との間の微細な隙間では、導電部10と線材40とが一体として挙動し、本願発明の効果が得られません。」と主張している。

(3)上記(1)、(2)から、引用文献1の段落【0029】の「導電部10は・・・蛇行するように撓む」との記載は、導電部10と線材40とが密接または近接し、これらが一体として若干蛇行する場合、すなわち、本願発明の効果を奏しない場合を意味している旨主張し、「引用文献1の段落0029の記載を広く解釈したとしても、当該記載は、本願発明の効果を奏しない構成も含め、様々な挙動を区別することなく開示しているに過ぎず、本願発明の構成および効果を開示も示唆もしておりません。」と主張している。

(4)引用文献1の実施例における伸び出し量が145mmであることを根拠として、「引用文献1の実施例には、導電部の蛇行が考慮されておらず、導電部と線材と線材とが密接した状態に基づいて算出されていたことが明確に示されています。」と主張している。

(5)引用文献1は、全体として、導電部と線材とが密接した構成、すなわち、本願発明の効果を奏しない構成をより好ましいものとして記載していることから、拒絶理由通知の「引用発明の効果は本願発明1と同じであるから、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得る」とされた論理は成り立たない旨主張している。

(6)引用文献1には、「導体と線材とが密接している場合に、これらが一体として挙動する」という現象が新規課題として認識されておらず、当該新規課題を解決することができる本願発明の構成、すなわち、導体内の線材の充填率についても、開示も示唆もされていない以上、当業者が、引用文献1に基づいて当該課題について認識することはできず、解決しようとする新規課題の認識なくしては、導体と線材との配置に応じて様々な挙動を示す構成のなかから、導体のみを蛇行させるよう、引用文献1に記載の導体内の線材の充填率を最適化することに、何ら動機がない旨主張している。

(7)引用文献1の段落【0031】には、導電部と線材とが密接していたほうがより好ましいと明記されていることから、引用文献1は、導体と線材との間に、これらが相対的に挙動するような隙間を設ける構成から遠ざかるように教示しており、引用文献1には、本願発明の構成に対して阻害要因があるとも言える旨主張している。

2 請求人の主張に対する当審の判断

折りたたみ中(クリックで表示)

(1)上記1(1)について

引用文献1には以下の記載がある。(再掲)

「【0025】
すなわち、導電部10は、例えば、(純)アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、(純)銅(Cu)または銅合金等の金属からなり台形状や扇形状等の断面形状を持つ複数のセグメント10sを組み合わせてなる、アルミニウム導体または銅導体等の導電性の金属導体である。このとき、各セグメント10sは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金等の金属からなる素線を複数本撚り合わせて構成されていてもよい。また、各セグメント10sは、内層、外層の2層になるよう組み合わされていてもよく、或いは、それ以上の複数層になるよう組み合わされていてもよい。組み合わされた(最内層の)セグメント10sの中央、すなわち、導電部10の中心部には、導電部10の軸方向に延びる中空部10wが設けられている。
【0026】
線材40は、係る中空部10w内に挿入され、導電部10の軸方向に沿って挿通された状態となっている。このとき、線材40は、中空10w内に隙間を開けて挿入されていても良く、または、中空部10w内に隙間なく挿入され、線材40の外表面の少なくとも一部が、中空部10w内壁を構成する導電部10と接していてもよい。またこのとき、線材40は1本のみから構成されていてもよく、或いは、複数本の素線を撚り合わせたり圧縮したりして束ねた状態に構成されていてもよい。また、線材40は、例えば鉄(Fe)に所定量のニッケル(Ni)を加えたステンレス鋼からなるインバ線やカーボンファイバによるカーボンコンポジット線等により構成されている。係る材料は、例えば導電部10を構成するアルミニウム導体や銅導体等の金属導体よりもヤング率が大きく、また、線膨張係数が小さい。」

上記記載によると、引用文献1には、(i)「線材40」が「中空10w」内に隙間を開けて挿入される構成と、(ii)「線材40」が「中空10w」内に隙間なく挿入されている構成が示されており、「線材40」が「中空10w」内に隙間なく挿入されている(ii)の構成に基づく請求人の上記主張は、(i)の構成を考慮していないものである。

加えて、引用文献1の

「【0031】
また、上述のように、導電部10の構成材よりも線膨張係数の小さい線材40を用い、さらに例えば、上述したように、線材40と導電部10とを接触させた状態とすれば、伸び出し量をさらに低減させることができ、より好ましい。係る構成において伸び出し量が低減されるのは、主に線材40と導電部10との摩擦によると考えられる。また、係る場合、電力ケーブル1の端末における伸び出し力を抑制する効果もあると考えられる。」

の記載(再掲)は、「線材40」と「導電部10」とを「接触させた状態」とすることは記載されているものの、「線材40」と「導電部10」が密接するとの記載はない。

そして、上記記載は、「線材40」と「導電部10」を「接触させた状態」とした方が、「伸び出し量をさらに低減させることができ、より好ましい」ことを記載しただけであり、上記記載を根拠として、「導電部10と線材40とが密接している」ということはできない。

この点に関し、本願明細書には、線材の充填率を20%以上90%以下とした実施形態に関し、

「【0047】
また、線材120は、例えば、インバからなり断面円形の線材素線を複数撚り合わせて構成されている。線材120の撚り方向は、例えば、各セグメント110s内での導体素線の撚り方向および複数のセグメント110sの撚り方向のうちの少なくともいずれかと同じである。これにより、導体110と線材120との接触面積を大きくすることができ、導体110との線材120との間に所定の摩擦力を生じさせ易くすることができる。一方で、線材120の撚り方向は、例えば、各セグメント110s内での導体素線の撚り方向または複数のセグメント110sの撚り方向と反対であってもよい。これにより、導体110と線材120とを接触させつつ、それらの接触面積を小さくすることができる(点接触とすることができる)。前者の構成は、導体110と線材120との間の摩擦力を大きくしたい場合に有効であり、一方で、後者の構成は、導体110と線材120との間の摩擦力の増大を抑制したい場合に有効である。なお、線材120は、複数の線材素線により構成されている場合に限られず、1本の線材素線により構成されていてもよい。」、
「【0049】
また、電力ケーブル10の軸方向に直交する複数の断面のうちの少なくとも一部の断面において、線材120は、複数のセグメント110sのうちの少なくともいずれか1つに接している。言い換えれば、線材120の外周面の少なくとも一部は、複数のセグメント110sのうちの少なくともいずれか1つの内面114sの一部に接している。」

と記載されているように、線材が中空部に隙間を生じるように挿入されていることと、線材と導電部(導体)とが接触していることとは、矛盾しない。

さらに、引用文献1の

「【0029】
すなわち、導電部10に通電されると、温度上昇により導電部10が伸び出す。一方、中空部10wに挿入した線材40は、導電部10よりも伸び出し量が少ない。このため、導電部10は、軸方向に対し所定周期で、或いは不定期の周期で蛇行するように撓むことで、自身の伸び出し量を吸収する。このとき、導電部10の周囲に設けられた絶縁層20や被覆材30等が導電部10に追従するようにスネーク形状をとってもよく、ひいては、電力ケーブル1全体がスネーク形状をとってもよい。」

の記載(再掲)は、「線材40」が、「導電部10」よりも温度上昇による伸び出し量が少ないことにより、「導電部10」が蛇行することが示されており、「導電部10」が、伸び出し量の違いにより蛇行するためには、「線材40」は「導電部10」に追従して蛇行することはできない。

このことからも、引用発明は、「導電部10と線材40とが密接している」ということはできない。

してみると、請求人の上記主張は、引用文献1の誤った理解による主張である。

(2)上記1(2)について

上記(1)で検討したように、引用文献1には、「導電部10と線材40とが密接している」との記載がないことから、請求人の「「線材40は、中空10w内に隙間を開けて挿入されていても良」いとする記載は、線材40と導電部10との間に、密接に限りなく近いほどの微細な隙間が空いていてもよいということを示唆してい」るとの主張は、引用文献1の誤った理解による主張である。

(3)上記1(3)について

上記(1)で検討したように、引用文献1の段落【0029】の「蛇行」は、「線材40」が、「導電部10」よりも温度上昇による伸び出し量が少ないことによるものであるから、請求人の「導電部10と線材40とが密接または近接し、これらが一体として若干蛇行する」との主張は、引用文献1の誤った理解による主張である。

また、本願明細書には、本願発明の効果として

「【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電力ケーブルの布設方向の伸び出し量を小さくすることができる。」

ことが記載されており、引用文献1の

「【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡便な構造により伸び出し量を低減することができる電力ケーブルが提供される。」(再掲)

における効果と相違しないから、「本願発明の」「効果を開示も示唆もしておりません。」との主張も、引用文献1の誤った理解による主張である。

加えて、構成についても、上記第5及び第6で検討したとおりである。

(4)上記1(4)について

引用文献1の実施例における伸び出し量(145mm)は、実施例の電力ケーブル2の伸び出し量であり、引用文献1の段落【0029】に記載されているように、「導電部10」が蛇行するように撓むことにより伸び出し量が吸収された量も含むものであるから、「引用文献1の実施例には、導電部の蛇行が考慮されておらず、導電部と線材と線材とが密接した状態に基づいて算出されていたことが明確に示されています。」との主張は、引用文献1の誤った理解による主張である。

(5)上記1(5)について

上記(1)で検討したように、引用文献1には、「導電部10と線材40とが密接している」ことは記載されていないから、請求人の「導電部と線材とが密接した構成、すなわち、本願発明の効果を奏しない構成をより好ましいものとして記載している」との主張は、引用文献1の誤った理解による主張である。

(6)上記1(6)について

上記(3)で検討したように、引用文献1の段落【0020】には、発明の効果として、「本発明によれば、簡便な構造により伸び出し量を低減することができる電力ケーブルが提供される。」ことが記載されており、この効果を奏するために、引用発明として特定された構成を備えるものであり、「導体と線材とが密接している場合に、これらが一体として挙動する」という現象が新規課題として認識されていないからといって、本願発明が、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということは否定できない。

(7)上記1(7)について

上記(1)で検討したように、引用文献1の段落【0031】には、「導電部10と線材40とが密接し」ていることは明記されていない。

また、段落【0026】に「線材40は、中空10w内に隙間を開けて挿入されていても良く」と記載されているように、引用発明は、「線材40」が「導電部10」の中心部に設けられた「中空10w」内に隙間を開けて挿入されているから、請求人の「導体と線材との間に、これらが相対的に挙動するような隙間を設ける構成から遠ざかるように教示しており、引用文献1には、本願発明の構成に対して阻害要因がある」との主張は、引用文献1の誤った理解による主張である。

第8 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり、審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2021-014125

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決181件(住友電気工業株式会社)
  • 2025-015814拒絶査定不服審判 / 2026-08-12 / 原査定取消(特許/登録すべき)被覆導線および多芯ケーブル
    同じ当事者: 住友電気工業株式会社
  • 2025-009749拒絶査定不服審判 / 2026-05-29 / 原査定取消(特許/登録すべき)回転工具用の超硬合金素材および回転工具
    同じ当事者: 住友電気工業株式会社
  • 2025-004497拒絶査定不服審判 / 2026-05-26 / 原査定取消(特許/登録すべき)光ファイバの製造方法
    同じ当事者: 住友電気工業株式会社
  • 2025-009750拒絶査定不服審判 / 2026-04-07 / 原査定取消(特許/登録すべき)切削工具用の超硬合金素材および切削工具
    同じ当事者: 住友電気工業株式会社
  • 2024-005034拒絶査定不服審判 / 2025-12-25 / 請求不成立光コネクタおよび光接続構造
    同じ当事者: 住友電気工業株式会社
検索でもっと見る →
同じ根拠条文の審決7,656件(特許法29条2項)
  • 2025-004792拒絶査定不服審判 / 2026-06-15 / 請求不成立透明導電性フィルム
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2025-006334拒絶査定不服審判 / 2025-08-22 / 請求不成立耐火ケーブルおよび耐火ケーブルの製造方法
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2025-001637拒絶査定不服審判 / 2025-07-02 / 請求不成立透明導電性フィルム
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2023-019956拒絶査定不服審判 / 2025-01-16 / 請求不成立通信複合ケーブル
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2022-019418拒絶査定不服審判 / 2024-01-22 / 請求不成立絶縁電線の製造方法
    共通の条文: 特許法29条2項
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)477件(121・H01B)
  • 2025-013192拒絶査定不服審判 / 2026-06-19 / 原査定取消(特許/登録すべき)超電導線材および超電導コイル
    共通の審決分類: 121・H01B
  • 2025-004792拒絶査定不服審判 / 2026-06-15 / 請求不成立透明導電性フィルム
    共通の審決分類: 121・H01B
  • 2025-008594拒絶査定不服審判 / 2026-05-27 / 原査定取消(特許/登録すべき)透明導電性フィルム
    共通の審決分類: 121・H01B
  • 2025-005652拒絶査定不服審判 / 2026-02-13 / 原査定取消(特許/登録すべき)通信用電線及びワイヤハーネス
    共通の審決分類: 121・H01B
  • 2025-003234拒絶査定不服審判 / 2025-12-10 / 原査定取消(特許/登録すべき)固体ハイブリッド電解質、その作製方法、およびその使用
    共通の審決分類: 121・H01B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存