特許拒絶査定不服審判
2022-019418
絶縁電線の製造方法
- 審判番号
- 2022-019418
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-078433外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年12月01日
- 審決日
- 2024年01月22日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社プロテリアル
- 分類
- P18 .121-WZ (H01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2019- 78433「絶縁電線の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月29日出願公開、特開2020-177782〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年4月17日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 4年 6月23日付け:拒絶理由通知
令和 4年 8月25日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 8月31日付け:拒絶査定
令和 4年12月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 5年 8月 4日付け:拒絶理由通知
令和 5年 9月28日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
令和5年9月28日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
導体としての複合撚線と、前記複合撚線を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線の製造方法であって、
撚り合わされた複数本の素線を備える複数本の集合撚線が、前記素線の撚り方向と同一方向に撚り合わされている前記複合撚線を準備する撚線準備工程と、
前記複合撚線の外周面を当該複合撚線の中心に向けて押圧して、当該複合撚線の断面形状を円形または略円形に整える矯正工程と、
前記矯正工程を経た前記複合撚線の周囲に前記絶縁層を形成する被覆工程と、を含み、
前記矯正工程では、前記複合撚線をその長手方向に移動させつつ、当該複合撚線の前記外周面に押圧力を付与し、
前記撚線準備工程において準備する前記複合撚線は、断面の中心に位置する集合撚線と、前記複数本の集合撚線によって形成される第1集合撚線層と、前記第1集合撚線層の周囲の配置された前記複数本の集合撚線によって形成される第2集合撚線層と、前記第2集合撚線層の周囲に配置された前記複数本の集合撚線によって形成される第3集合撚線層と、を含み、
前記集合撚線が備える前記素線が、アルミニウム線であり、
前記断面の中心に位置する集合撚線を構成する前記素線の撚り方向と、前記第1集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向と、前記第2集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向と、前記第3集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向とは、同一方向である、
絶縁電線の製造方法。」
第3 当審における拒絶の理由
令和5年8月4日付けの当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概略は、次のとおりのものである。
本願の請求項1-4に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1、2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2018-129119号公報
引用文献2:特開平7-249323号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1記載事項
当審拒絶理由の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付加した。以下、同じ。)
A 「【0003】
そこで、下撚りと本撚りとを全て同方向とした複合撚線導体が提案されている(例えば特許文献1参照)。この複合撚線導体では、下撚りと本撚りとを全て同方向としているため、耐屈曲性を向上させることができる。すなわち、隣り合う層間においても集合撚線の素線同士が面接触することとなり、素線が断線し難くなって耐屈曲性が向上することとなる。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の複合撚線導体では、耐屈曲性を向上できる反面、撚り方向が同一方向で統一されている関係上、外側の層の集合撚線を構成する素線が、内側の層の集合撚線を構成する素線間に入り易くなり、複合撚線導体の形状が崩れてしまい易くなる。そして、形状が崩れてしまった場合には被覆厚のバラツキを招くこととなり、皮ムキ加工性の低下を招いてしまう。」
B 「【0019】
図2は、図1に示したアルミ複合撚線電線1を示す断面図であり、(a)は詳細断面図を示し、(b)は一部構成を簡略化して図示した断面を示している。
【0020】
図2(a)及び図2(b)に示すように、アルミ複合撚線電線1は、アルミ複合撚線導体10と、これを被覆する絶縁性の被覆部20とから構成されている。
【0021】
アルミ複合撚線導体10は、複数本(例えば19本)の集合撚線11により構成されたものである。集合撚線11は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ素線12を複数本撚る下撚りによって形成されている。アルミ複合撚線導体10は、このような集合撚線11を複数本撚る本撚りによって構成されており、集合撚線11が3層に積層された構造となっている。
【0022】
具体的には、積層された複数本の集合撚線11のうち、最も断面中心側に位置する集合撚線11を中心側撚線11aと称し、中心側撚線11a上に重なって設けられる集合撚線11を第1層撚線11bと称し、第1層撚線11b上に重なって設けられる集合撚線11を第2層撚線11cと称する。なお、本実施形態において中心側撚線11aは1本であり、第1層撚線11bは6本であり、第2層撚線11cは12本であるが、特に本数はこれに限られるものではない。
【0023】
ここで、本実施形態に係るアルミ複合撚線導体10は、図2(b)に示すように以下の4つの特徴構成を同時に備えることで、形状の崩れを抑えつつも耐屈曲性の低下を抑制する構成となっている。
【0024】
第1にアルミ複合撚線導体10は、複数本の第1層撚線11bと複数本の第2層撚線11cとの本撚り方向X1,X2が同方向となっている(第1構成)。第2にアルミ複合撚線導体10は、第1層撚線11bと第2層撚線11cとの下撚り方向Y1,Y2が本撚り方向X1,X2と同じとなっている(第2構成)。これにより、第1層撚線11bと第2層撚線11cとのアルミ素線12同士の接触面積が拡大することとなり、摩耗によるアルミ素線12の断線の可能性を抑えることができる。
【0025】
第3にアルミ複合撚線導体10は、中心側撚線11aの下撚り方向Y3と第1層撚線11bの本撚り方向X1が反対方向となっている(第3構成)。これにより、第1層撚線11bのアルミ素線12が中心側撚線11aのアルミ素線12の間に入り難くなり、形状の崩れを抑えることができる。
【0026】
第4に、アルミ複合撚線導体10は、第1層撚線11bと第2層撚線11cとの本撚り角度が略同じ(すなわち設計上の同一であって具体的に製品上では±1.5°以内の差が発生し得る)となっている(第4構成)。これにより、第1層撚線11bと第2層撚線11cとのアルミ素線12同士の接触面積を増大できるからである。」
C 「【図2】
[図:0001408564000001.jpg]
」
D 「【0031】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。表1は、実施例及び比較例を示す表である。
【表1】
[図:0001408564000002.jpg]
・・・中略・・・
【0036】
比較例2においては、中心側撚線の下撚り方向、第1層撚線の下撚り及び本撚り方向、並びに第2層撚線の下撚り及び本撚り方向が全てS方向となっている。すなわち、上記第1及び第2構成を備えているが、第3構成を備えていない。また、比較例2では、中心側撚線の下撚りピッチ、第1層撚線の下撚りピッチ、第1層撚線の本撚りピッチ、第2層撚線の下撚りピッチ、及び第2層撚線の本撚りピッチが、31mm、31mm、50mm、31mm、83mmとなっている。さらに、比較例2では、中心側撚線の下撚り角度、第1層撚線の下撚り角度、第1層撚線の本撚り角度、第2層撚線の下撚り角度、及び第2層撚線の本撚り角度が、4.5°、4.5°、8.0°、4.5°及び8.0°となっており、第4構成を備えている。しかし、上記角度を計算すると、比較例2は|A-(B+C)|が8.0°となっており、第5構成を備えていない。なお、比較例2は、前述した特許文献1に記載の複合撚線導体に相当する。」
E 「【0040】
図6は、実施例2及び比較例2のアルミ複合撚線導体を有するアルミ複合撚線電線の断面を示す構成図であり、(a)は実施例2の断面を示し、(b)は比較例2の断面を示している。
【0041】
図6(a)に示すように、実施例2に係るアルミ複合撚線電線ではアルミ複合撚線導体の真円度がある程度高いものとなった。このため、被覆部の肉厚は均一化された。これに対して、図6(b)に示すように、比較例2に係るアルミ複合撚線電線ではアルミ複合撚線導体の真円度が低いものとなった。このため、被覆部の肉厚は一部(符号P参照)で大きくなった。なお、他の実施例1,3についても実施例2と同様であり、比較例1についても比較例2と同様となった。」
F 「【図6】
[図:0001408564000003.jpg]
」
G 上記Dには、比較例2として、中心側撚線の下撚り方向、第1層撚線の下撚り及び本撚り方向、並びに第2層撚線の下撚り及び本撚り方向を全てS方向に撚ったアルミ複合撚線導体が記載され、また、上記Eの段落【0040】には、比較例2のアルミ複合撚線導体を有するアルミ複合撚線電線が記載されている。
してみると、引用文献1には、比較例2のアルミ複合撚線導体を有するアルミ複合撚線電線に関して、中心側撚線の下撚り方向、第1層撚線の下撚り及び本撚り方向、並びに第2層撚線の下撚り及び本撚り方向を全てS方向に撚る、アルミ複合撚線電線の製造方法が記載されているといえる。
また、引用文献1においては、実施例と比較例のアルミ複合撚線導体で、中心側撚線、第1層撚線、第2層撚線の撚り方向、ピッチ、角度は異ならせたものであるが、他のアルミ複合撚線導体及びアルミ複合撚線電線としての構造は同じものと認められる。
(2)引用発明
上記(1)のAないしFの記載内容(特に、下線部を参照)及びGから、特に比較例2に着目すると、上記引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「アルミ複合撚線導体10と、これを被覆する絶縁性の被覆部20とから構成されるアルミ複合撚線電線1の製造方法であって、
アルミ複合撚線導体10は、複数本の集合撚線11により構成されたものであって、集合撚線11は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミ素線12を複数本撚る下撚りによって形成し、そして、アルミ複合撚線導体10は、このような集合撚線11を複数本撚る本撚りすることによって構成するものであって、集合撚線11が3層に積層された構造となっており、
積層された複数本の集合撚線11のうち、最も断面中心側に位置する集合撚線11が中心側撚線11aであって、中心側撚線11a上に重なって設けられる集合撚線11が第1層撚線11bであって、第1層撚線11b上に重なって設けられる集合撚線11が第2層撚線11cであり、
中心側撚線11aの下撚り方向、第1層撚線11bの下撚り及び本撚り方向、並びに第2層撚線の下撚り及び本撚り方向を全てS方向に撚る、
真円度が低く、被覆部の肉厚は一部で大きくなっている、
アルミ複合撚線電線1の製造方法。」
2 引用文献2について
(1)引用文献2記載事項
当審拒絶理由の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
A 「【0002】
【従来の技術】従来、電力ケーブルなどの製造にて、例えばケーブル芯に外被を被覆したり、押さえ巻きテープを縦添えするときに、ケーブル芯が丸く成形されていない場合には、融着不足や、押さえ巻きテープのラップ不足を来すことがあった。そのために、押出機やテープ縦添え装置の前にケーブル矯正装置を配置し、ケーブル芯を丸くすることが行なわれている。」
B 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来のケーブル矯正装置では、ケーブル芯Cの偏平を矯正するべく、各矯正ロール対にて対向した矯正ロール4を互の方へと近付け所定の距離に設定したとき、ケーブル芯Cの外径がより太くなっているところでは、矯正ロール4が回転しなくなったり、或いは矯正ロール4がケーブル芯Cに噛い込んだりすることがあり、対をなす両矯正ロール4、4の距離を近づけるには限度があり、結果として、矯正ロール4、4を所望範囲にまで近づけることができず、ケーブル芯Cを好適に丸くすることができない場合があった。
【0006】従って、本発明の目的は、供給されるケーブル芯の外径変動があっても、矯正ロールを所望範囲にまで近づけてケーブル芯の矯正を行ない、好適にケーブル芯を丸く且つ所望外径とすることのできるケーブル矯正装置を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的は本発明に係るケーブル矯正装置にて達成される。要約すれば、本発明は、ケーブル芯の進行方向に沿って配置された少なくとも一組のクロスガイドローラ装置と、更にその下流側に配置された複数組の矯正ロール対とを有することを特徴とするケーブル矯正装置である。」
C 「【0019】
【発明の効果】以上説明したように、本発明のケーブル矯正装置は、ケーブル芯の進行方向に沿って少なくとも一組のクロスガイドローラ装置を配置し、更にその下流側に複数組の矯正ロール対を配置する構成とされるために、供給されるケーブル芯の外径変動があっても、クロスガイドローラ装置にてケーブル芯の偏平が矯正されるので、矯正ロールを所望範囲にまで近づけてケーブル芯の矯正作用を行なうことができ、ケーブル芯を好適に丸く且つ所望外径とすることができる。」
(2)引用文献2に記載の技術事項
上記(1)より、引用文献2には以下の技術事項が記載されている。
「ケーブル芯に外皮を被覆して電力ケーブル(電線)を製造する際に、ケーブル芯が丸く形成されていないと融着不足などが生じることを防ぐために、ケーブル芯に外皮を被覆する前の工程として、ケーブル芯を移動させつつ複数のローラ(ロール)でケーブル芯の外周面を押圧して丸く矯正する。」
3 周知技術
(1)周知文献A
当審で新たに引用する、特開2003-303515号公報(以下、「周知文献A」という。)には、次の事項が記載されている。
A 「【0016】
【発明の実施の形態】(実施形態の1)以下に本発明の実施形態の1について説明する。複合撚線は、導体素線を複数本撚り合わせて子撚とし、その子撚を複数本撚り合わせた複合撚線であって、中心となる子撚と、前記中心となる子撚りの周囲に子撚り方向と親撚り方向とが同一方向となるように撚り合わされた第1層の複合撚線と、前記第1の複合撚線の周囲に、前記第1の複合撚線の反対方向となるように、子撚り方向と親撚り方向とが同一方向に撚り合わされた第2層の複合撚線と、さらに、必要に応じて前記第2層の複合撚線の周囲に、撚り方向を前記第2層の反対方向とし、かつ、子撚り方向と親撚り方向とを同一方向とした複合撚線が複数層設けられているものである。」
(2)周知文献B
当審で新たに引用する、特開2005-259583号公報(以下、「周知文献B」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
A 「【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の素線導体を撚り合わせた子撚導体を複数層に親撚りして形成された複合撚線の撚線導体、その製造方法及び電線に関する。」
B 「【0031】
図4に示したような、親撚りが3層である撚線導体を製造し、その柔軟性を評価するために上記実施例と同様の折り曲げ試験を行った。本発明に係る撚線導体の実施例としては、隣り合う親撚り方向が3層全てで同一方向である撚線導体(実施例C)と、隣り合う親撚り方向が第2層と第3層で同一方向の右撚りである撚線導体(実施例D)と、隣り合う親撚り方向が第1層と第2層で同一方向の左撚りである撚線導体(実施例E)と、隣り合う親撚り方向が第1層と第2層で同一方向の右撚りである撚線導体(実施例F)とを用意し、試験した。また、隣り合う親撚り方向が全て逆である従来の撚線導体(比較例C)についても同様に折り曲げ試験を行い、実施例C~Fの撚線導体と比較した。」
C 「【図4】
[図:0001408564000004.jpg]
」
(3)周知技術
上記(1)、(2)には、「複合撚線導体を、3層以上の積層された構造とすること」という技術事項が記載されており、当該技術事項は周知技術といえる。
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
1 引用発明の「アルミ複合撚線導体10」、「被覆部20」は、各々、本願発明の「導体としての複合撚線」、「前記複合撚線を被覆する絶縁層」に相当し、また、引用発明の「アルミ複合撚線電線1」は、「アルミ複合撚線導体10と、これを被覆する絶縁性の被覆部20とから構成される」ものであるから、本願発明の「導体としての複合撚線と、前記複合撚線を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線」に相当する。
そして、引用発明の「アルミ複合撚線電線1の製造方法」は、後記の点では相違するものの、本願発明の「絶縁電線の製造方法」に対応する。
2 引用発明の「アルミ素線12」は、本願発明の「素線」に相当し、また、引用発明の「集合撚線11」は、「アルミ素線12を複数本撚る下撚りによって形成」するものであるから、本願発明の「撚り合わされた複数本の素線を備える」「集合撚線」に相当する。
そして、引用発明の「アルミ複合撚線導体10」は、「集合撚線11を複数本撚る本撚りによって構成するものであって、集合撚線11が3層に積層された構造となっており」、「積層された複数本の集合撚線11のうち、最も断面中心側に位置する集合撚線11が中心側撚線11aであって、中心側撚線11a上に重なって設けられる集合撚線11が第1層撚線11bであって、第1層撚線11b上に重なって設けられる集合撚線11が第2層撚線11cであり、中心側撚線11aの下撚り方向、第1層撚線11bの下撚り及び本撚り方向、並びに第2層撚線11cの下撚り及び本撚り方向を全てS方向に撚っ」たものである。
したがって、引用発明の「アルミ複合撚線導体10」は、本願発明の「撚り合わされた複数本の素線を備える複数本の集合撚線が、前記素線の撚り方向と同一方向に撚り合わされている前記複合撚線」に相当する。
さらに、通常のアルミ複合撚線電線の製造方法では、アルミ複合撚線導体を準備する工程、及び、このアルミ複合撚線導体の周囲に絶縁層を形成する工程を含むものである。
してみると、引用発明の「アルミ複合撚線電線1の製造方法」においても「アルミ複合撚線導体10」を準備する工程、及び、「アルミ複合撚線導体10」の周囲に「被覆部20」形成する工程を含むものと認められる。
そうすると、引用発明が、「アルミ複合撚線導体10」を準備する工程、及び、「アルミ複合撚線導体10」の周囲に「被覆部20」形成する工程を含むことと、本願発明が、「撚り合わされた複数本の素線を備える複数本の集合撚線が、前記素線の撚り方向と同一方向に撚り合わされている前記複合撚線を準備する撚線準備工程と、前記複合撚線の外周面を当該複合撚線の中心に向けて押圧して、当該複合撚線の断面形状を円形または略円形に整える矯正工程と、前記矯正工程を経た前記複合撚線の周囲に前記絶縁層を形成する被覆工程と、を含」むこととは、後記の点で相違するものの、「撚り合わされた複数本の素線を備える複数本の集合撚線が、前記素線の撚り方向と同一方向に撚り合わされている前記複合撚線を準備する撚線準備工程と、前記複合撚線の周囲に前記絶縁層を形成する被覆工程と、を含」むことの点では共通する。
3 また、引用発明の「アルミ複合撚線導体10」は、「集合撚線11が3層に積層された構造となっており」、「積層された複数本の集合撚線11のうち、最も断面中心側に位置する集合撚線11が中心側撚線11aであって、中心側撚線11a上に重なって設けられる集合撚線11が第1層撚線11bであって、第1層撚線11b上に重なって設けられる集合撚線11が第2層撚線11cであ」る。
してみると、引用発明の「最も断面中心側に位置する集合撚線11」である「中心側撚線11a」は、本願発明の「断面の中心に位置する集合撚線」に相当し、引用発明の「中心側撚線11a上に重なって設けられる集合撚線11」である「第1層撚線11b」は、本願発明の「前記複数本の集合撚線によって形成される第1集合撚線層」に相当し、引用発明の「第1層撚線11b上に重なって設けられる第2層撚線11c」は、本願発明の「前記第1集合撚線層の周囲の配置された前記複数本の集合撚線によって形成される第2集合撚線層」に相当する。
そして、上記2の点も踏まえると、引用発明の「アルミ複合撚線導体10」と、本願発明の「前記撚線準備工程において準備する前記複合撚線は、断面の中心に位置する集合撚線と、前記複数本の集合撚線によって形成される第1集合撚線層と、前記第1集合撚線層の周囲の配置された前記複数本の集合撚線によって形成される第2集合撚線層と、前記第2集合撚線層の周囲に配置された前記複数本の集合撚線によって形成される第3集合撚線層と、を含」むこととは、後記の点で相違するものの、「前記撚線準備工程において準備する前記複合撚線は、断面の中心に位置する集合撚線と、前記複数本の集合撚線によって形成される第1集合撚線層と、前記第1集合撚線層の周囲の配置された前記複数本の集合撚線によって形成される第2集合撚線層と、を含」ことの点では共通する。
4 引用発明の「アルミ素線12」は、「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる」ものであるから、上記2の点も踏まえると、引用発明の「アルミ素線12」は、本願発明の「前記集合撚線が備える前記素線が、アルミニウム線である」ことに相当する。
5 また、上記3の点を踏まえると、引用発明の「中心側撚線11aの下撚り方向、第1層撚線11bの下撚り及び本撚り方向、並びに第2層撚線11cの下撚り及び本撚り方向を全てS方向に撚る」ことと、本願発明の「前記断面の中心に位置する集合撚線を構成する前記素線の撚り方向と、前記第1集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向と、前記第2集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向と、前記第3集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向とは、同一方向である」ことは、後記の点で相違するものの、「前記断面の中心に位置する集合撚線を構成する前記素線の撚り方向と、前記第1集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向と、前記第2集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向とは、同一方向である」ことの点では共通する。
上記の検討から、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「導体としての複合撚線と、前記複合撚線を被覆する絶縁層と、を有する絶縁電線の製造方法であって、
撚り合わされた複数本の素線を備える複数本の集合撚線が、前記素線の撚り方向と同一方向に撚り合わされている前記複合撚線を準備する撚線準備工程と、
前記複合撚線の周囲に前記絶縁層を形成する被覆工程と、を含み、
前記撚線準備工程において準備する前記複合撚線は、断面の中心に位置する集合撚線と、前記複数本の集合撚線によって形成される第1集合撚線層と、前記第1集合撚線層の周囲の配置された前記複数本の集合撚線によって形成される第2集合撚線層と、を含み、
前記集合撚線が備える前記素線が、アルミニウム線であり、
前記断面の中心に位置する集合撚線を構成する前記素線の撚り方向と、前記第1集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向と、前記第2集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向とは、同一方向である、絶縁電線の製造方法。」
<相違点1>
本願発明では、「前記複合撚線の外周面を当該複合撚線の中心に向けて押圧して、当該複合撚線の断面形状を円形または略円形に整える矯正工程」を含み、「前記矯正工程では、前記複合撚線をその長手方向に移動させつつ、当該複合撚線の前記外周面に押圧力を付与」するものであり、また、「被覆工程」では、「前記矯正工程を経た前記複合撚線の周囲に前記絶縁層を形成する」ものであるのに対して、引用発明では、そのような「矯正工程」を有しておらず、そのため、「被覆工程」では、矯正工程を経ていない「アルミ複合撚線導体10」の周囲に「被覆部20」を形成するものである点。
<相違点2>
本願発明では、「複合撚線」が「前記第2集合撚線層の周囲に配置された複数本の前記集合撚線によって形成される第3集合撚線層」を含み、また、「前記断面の中心に位置する集合撚線を構成する前記素線の撚り方向と」、「前記第3集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向とは、同一方向である」のに対して、引用発明では、「アルミ複合撚線導体10」がそのような「第3集合撚線層」を備えていない点。
第6 判断
1 上記相違点について検討する。
<相違点1>について
上記第4の2(2)のとおり、引用文献2には、ケーブル芯に外皮を被覆して電力ケーブルを製造する際に、ケーブル芯が丸く形成されていないと融着不足などが生じることを防ぐために、ケーブル芯に外皮を被覆する前の工程として、ケーブル芯を移動させつつ複数のローラ(ロール)でケーブル芯の外周面を押圧して丸く矯正する、という技術事項が記載されている。
そして、「真円度が低く、被覆部の肉厚は一部で大きくなっている」引用発明においては、「アルミ複合撚線導体10」の真円度を高めた方が望ましいことは明らかである。
してみると、引用発明の「アルミ複合撚線電線1の製造方法」において、「アルミ複合撚線導体10」の真円度を高めるために、上記引用文献2に記載の技術事項を適用して、上記相違点1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
<相違点2>について
上記第4の3(3)のとおり「複合撚線導体を、3層以上の積層された構造とすること」は周知技術であって、また、何層で構成するかは、絶縁電線の使用条件等に鑑みて設計時に適宜変更し得た事項に過ぎない。
そして、引用文献1の段落【0003】に記載のように、引用発明は、下撚りと本撚りとを全て同方向としているため、耐屈曲性を向上させることができる、「中心側撚線11aの下撚り方向、第1層撚線11bの下撚り及び本撚り方向、並びに第2層撚線の下撚り及び本撚り方向を全てS方向に撚る」ものであるから、さらに、第3層以降が設けられた際には、第3層以降の下撚り及び本撚り方向も「中心側撚線11aの下撚り方向、第1層撚線11bの下撚り及び本撚り方向、並びに第2層撚線の下撚り及び本撚り方向」と同じS方向とするものと認められる。
してみると、引用発明において、「アルミ複合撚線電線1」の使用条件等を考慮して、第3層目を設けて、上記相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、本願発明の効果も、引用発明、引用文献2に記載の技術事項、周知技術に基づいて、当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載の技術事項、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
2 請求人の主張について
請求人は、令和5年9月28日提出の意見書において、
「(3)拒絶理由(1)に対する検討
本願発明は、「断面の中心に位置する集合撚線を構成する素線の撚り方向と、第1集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向と、第2集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向と、第3集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向とは、同一方向である」のに対して、引用文献1には、このような構成については記載も示唆もなされていない点、本願発明と引用文献1に記載の発明とは発明構成上相違します。
換言致しますと、引用文献1に記載の発明は、中心側撚線11aの下撚り方向と第1層撚線11bの本撚り方向が反対方向であり、同文献に記載の発明は、本願発明の独自の構成であります「断面の中心に位置する集合撚線を構成する素線の撚り方向と、第1集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向とが、同一方向である」構成を備えておりません。
引用文献1に記載の発明の目的は、形状の崩れを抑えつつも耐屈曲性の低下を抑制することが可能なアルミ複合撚線導体、アルミ複合撚線電線及びワイヤハーネスを提供することにあるとされています(同文献段落[0006]参照。)。
そして、同文献の段落[0007]には、「…(中略)…本件発明者は、中心側撚線の下撚り方向を第1層撚線の本撚り方向と反対方向にしても屈曲性に関して大きな低下が無いことを見出した。このため、中心側撚線の撚り方向については第1層撚線の本撚り方向(及び下撚り方向)と反対方向にすることで、第1層撚線を構成するアルミ素線が中心側撚線のアルミ素線間に入り難く、屈曲性の低下を抑えつつ形状の崩れを防止できることとなる。…」と記載されております(下線部は出願人追記)。
そして、同文献に記載の発明は、「中心側撚線11aの下撚り方向と第1層撚線11bの本撚り方向が反対方向である」構成を「第3構成」と称し(同文献段落[0025]参照)、同文献の段落[0036]には、「比較例2においては、中心側撚線の下撚り方向、第1層撚線の下撚り及び本撚り方向、並びに第2層撚線の下撚り及び本撚り方向が全てS方向となっている。すなわち、上記第1及び第2構成を備えているが、第3構成を備えていない。」と記載されております。
そして、比較例2は、真円度の点において低いものであり、全ての実施例1~3においてアルミ複合撚線導体の真円度は比較例1,2よりも高く、形状の崩れが抑制されているという結果であり(同文献段落[0041][0045]参照)、比較例2は明らかに実施例に比して真円度の点において劣っていることが理解できます。
これらのことから、引用文献1に記載の発明において、「中心側撚線11aの下撚り方向と第1層撚線11bの本撚り方向が反対方向である」構成とすることは、同文献に記載の発明の目的(特に、形状の崩れの抑制)を達成するために重要な構成要素であると理解することができます。
とすると、引用文献1に記載の発明において、「断面の中心に位置する集合撚線を構成する素線の撚り方向と、第1集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向とが、同一方向である」構成を採用することは、引用文献1に記載の発明の「形状の崩れを抑えつつも耐屈曲性の低下を抑制することが可能なアルミ複合撚線導体、アルミ複合撚線電線及びワイヤハーネスを提供する」という本来の目的に反する結果を生み出すことになるものと思料致します。
このように引用文献1に記載の発明において上記本願発明の構成を採用することは、引用文献1に記載の本来の目的に反する結果を生み出すことになる以上、当業者が引用文献1に記載の発明に基づいて、本願発明の独自の構成に容易に想到し得るものではないものと思料致します。
この点は、矯正装置に関連して引用された引用文献2に記載の発明を考慮しても同様です。
よって、本願発明は、引用文献1及び引用文献2の有無に関わらず、進歩性を有するものと思料致します。」
と主張する。
しかしながら、引用文献1には、請求人のいう「中心側撚線11aの下撚り方向と第1層撚線11bの本撚り方向が反対方向である」構成が記載されているとしても、これとは別に比較例2も記載されている。そして、上記第4の1(2)で引用発明として認定した発明は比較例2のものであるから、引用発明においては、「断面の中心に位置する集合撚線を構成する素線の撚り方向と、第1集合撚線層を構成する集合撚線の撚り方向とが、同一方向である」ものである。
したがって、上記主張を採用することはできない。
第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載の技術事項、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-019418