特許拒絶査定不服審判
2025-006334
耐火ケーブルおよび耐火ケーブルの製造方法
- 審判番号
- 2025-006334
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-042737
- 請求日
- 2025年04月24日
- 審決日
- 2025年08月22日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】冨士電線株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人鷲田国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 小宮 慎司
- 審判官 松永 稔
- 審判官 打出 義尚
- 分類
- P18 .575-Z (H01B) / P18 .121-Z (H01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023- 42737「耐火ケーブルおよび耐火ケーブルの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 6年 9月30日出願公開、特開2024-132082〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和5年3月17日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 9月27日付け:拒絶理由通知書
令和6年11月29日 :意見書、手続補正書の提出
令和7年 1月27日付け:拒絶査定(原査定)
令和7年 4月24日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和7年4月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年4月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、本件補正後の請求項1の記載は、次のとおりである。(下線部は、手続補正書の記載のとおりである。)
「 【請求項1】
導体と、
前記導体の周りに縦添え巻きされた2枚以上の耐火テープと、
前記導体の周りに横巻きされた2枚以上の耐火テープと、
を有し、
前記縦添え巻きの巻き方向と、前記横巻きの巻き方向とが同じ方向であり、
JCS7509に準拠した露出試験および電線管試験の基準を満たすことを特徴とする、耐火ケーブル。」
(2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和6年11月29日に提出された手続補正書の、特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
導体と、
前記導体の周りに縦添え巻きされた耐火テープと、
前記導体の周りに横巻きされた耐火テープと、
を有し、
前記縦添え巻きの巻き方向と、前記横巻きの巻き方向とが同じ方向であることを特徴とする、耐火ケーブル。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「耐火ケーブル」について、「JCS7509に準拠した露出試験および電線管試験の基準を満たす」との限定事項、及び、「前記導体の周りに縦添え巻きされた耐火テープ」、「前記導体の周りに横巻きされた耐火テープ」それぞれについて、「2枚以上」であるとの限定事項を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)の記載のとおりのものである。
(2) 引用発明
ア 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で、引用文献1として引用された実願平5-72624号(実開平07-041876号)のCD-ROMには、次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。)
「 【0007】
【課題を解決するための手段】
本考案は上述の問題を解消し、安価で耐火性にすぐれ、絶縁耐力特性及び絶縁抵抗等の電気的性能にすぐれた耐火ケーブルを提供するもので、耐火層として、導体上に軟質集成マイカ箔を貼着した延伸ポリプロピレンテープからなるプラスチックマイカテープをマイカ面を導体側に向けて縦添えし、その上に軟質集成マイカ箔を貼着したガラステープからなるガラスマイカテープをマイカ面を導体側に向けて巻回しそれぞれが1枚以上用いて形成されていることにある。
・・・(中略)・・・
【0010】
【実施例】
図1は本考案の耐火ケーブルの具体例の説明図で、図1(イ)は横断面図、図1(ロ)は図1(イ)の絶縁線心の横断面図である。又図2(イ)はプラスチックマイカテープの横断面図、図2(ロ)はガラスマイカテープの横断面図である。
【0011】
図面において、1は絶縁線心で、導体11上に、内層の耐火層12として軟質集成マイカ箔12a と延伸ポリプロピレンテープ12b とをシリコン系ワニス接着剤で貼り合せたプラスチックマイカテープ12を、マイカ面を導体11側に向けて縦添えし、その上に外層の耐火層13として軟質集成マイカ箔13a とガスラテープ13b とをシリコン系ワニス接着剤で貼り合せたガラスマイカテープ13を、マイカ面を導体11側に向けて巻回し、その外側にポリエチレン等のプラスチック絶縁体層14を設けて構成されている。
このような絶縁線心1の所要本数を適当な介在物2とともに撚合せ、その上に押え巻きテープ3を施しさらにその外側にポリエチレン等のプラスチックシース4を設けて本考案の耐火ケーブルを構成している。」
「【図1】(ロ)
[図:0001428958000001.jpg]
」
イ 引用発明
上記アの記載によると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「耐火層として、導体上にプラスチックマイカテープをマイカ面を導体側に向けて縦添えし、その上にガラスマイカテープをマイカ面を導体側に向けて巻回しそれぞれが1枚以上用いて形成されている耐火ケーブル。」
(3) 対比
本件補正発明と、引用発明とを対比する。
ア 本件補正発明と引用発明とは、いずれも「耐火ケーブル」に係る発明である点で共通する。
イ 引用発明は、「導体」を有するといえるから、引用発明は、「導体」を有する点で、本件補正発明と一致する。
ウ 引用発明の「プラスチックマイカテープ」は、耐火層として、導体上に縦添えされるから、「導体の周りに縦添え巻きされた耐火テープ」といえる。
そうすると、引用発明は、「導体の周りに縦添え巻きされた耐火テープ」を有する点で、本件補正発明と一致する。
エ 引用発明の「ガラスマイカテープ」は、耐火層として、導体上にプラスチックマイカテープをマイカ面を導体側に向けて縦添えし、その上に巻回されるものであるから、「導体の周りに横巻きされた耐火テープ」といえる。
そうすると、引用発明は、「導体の周りに横巻きされた耐火テープ」を有する点で、本件補正発明と一致する。
オ 一致点・相違点
以上のことから、本件補正発明と引用発明は、次の点で一致し、相違する。
(ア) 一致点
「導体と、
前記導体の周りに縦添え巻きされた耐火テープと、
前記導体の周りに横巻きされた耐火テープと、
を有する、耐火ケーブル。」
(イ) 相違点1
「前記導体の周りに縦添え巻きされた耐火テープ」及び「前記導体の周りに横巻きされた耐火テープ」について、本件補正発明がそれぞれ、「2枚以上の」と特定しているのに対し、引用発明は、「プラスチックマイカテープ」及び「ガラスマイカテープ」について、「それぞれが1枚以上用いて」と特定されている点。
(ウ) 相違点2
「前記導体の周りに縦添え巻きされた耐火テープ」及び「前記導体の周りに横巻きされた耐火テープ」について、本件補正発明が、「前記縦添え巻きの巻き方向と、前記横巻きの巻き方向とが同じ方向」であることを特定しているのに対し、引用発明は、「プラスチックマイカテープ」を「縦添え」する方向と、「ガラスマイカテープ」を「巻回」する方向についての特定がない点。
(エ) 相違点3
本件補正発明が「JCS7509に準拠した露出試験および電線管試験の基準を満たすこと」を特定しているのに対し、引用発明がこのようなことを特定していない点。
(4) 相違点の判断
まず、日本電線工業会規格(JCS: Japanese Cable Makers' Association Standard)は、日本で電線を製造している事業者を会員とする団体である一般社団法人日本電線工業会により制定された規格であるところ、電線に係る「耐火ケーブル」に係る引用発明を、JCSの所定の規格の基準を満たすようにすることは、当業者が当然行うべき事項である。
そして、引用発明において、「それぞれが1枚以上用いて」と特定された「プラスチックマイカテープ」及び「ガラスマイカテープ」について、それぞれ「2枚以上の」とすることは、当業者が、達成すべき耐火性能に応じて適宜選択し得る事項といえる。
また、「プラスチックマイカテープ」を「縦添え」する方向と、「ガラスマイカテープ」を「巻回」する方向は、同じ方向か逆方向のいずれかでしかないところ、引用文献1には、「縦添え」する方向と、「巻回」する方向を特定する記載はなく、引用発明は、「プラスチックマイカテープ」を「縦添え」する方向と、「ガラスマイカテープ」を「巻回」する方向が、同じ方向のものを概念的に含んでいるから、引用発明において、「プラスチックマイカテープ」を「縦添え」する方向と、「ガラスマイカテープ」を「巻回」する方向を、同じ方向とすることは、当業者が適宜選択し得る事項といえる。
そうすると、引用発明について、相違点3に係る本件補正発明の基準を満たすように、「プラスチックマイカテープ」及び「ガラスマイカテープ」の枚数を相違点1に係る本件補正発明の構成とし、また、「プラスチックマイカテープ」を「縦添え」する方向と、「ガラスマイカテープ」を「巻回」する方向を相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮といえるから、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(5) 請求人の主張
ア 請求人は、審判請求書5ページ21行~7ページ19行において、「本願発明が成された背景として以下の様な消防庁より告示された「耐火電線の基準」の改正があります。
すなわち、従来のケーブルは、1971年に消防庁より告示された「耐火電線の基準」に則り、30分/840℃の加熱条件下で通電可能な特性を求められていました。しかし、同告示の制定から半世紀近くが経過し、建造物の大規模化、高層化に伴う消火活動の実態も変化していることを受け、2013年の(一社)電気設備学会による調査・研究の結果、既存の耐火ケーブルを超える60分/925℃の火災環境に耐えうるケーブルの必要性が提唱され、これを受け、本発明は、通電可能時間を30分から60分へ倍増させた1時間耐火ケーブルの新規開発に取り組んだ結果、完成されたものです。
具体的には、本願発明は、新たに制定された消防法告示に合わせたケーブルであり、実施例にも示されているとおり、1時間耐火試験を行っています。
ここで、耐火試験中には、導電性炭化物(例、カーボンブラック等)は外被や絶縁体に使用されている材料(例、ポリエチレン等)が、電線管内といった酸素が不足した環境下で不完全燃焼する事で発生することがあります。そして、導電性炭化物は、耐火試験、特に電線管試験において耐火層の隙間から、時間の経過と共に徐々に導体方向へと侵入し、絶縁抵抗を低下させます。
すなわち、1時間耐火試験のように、試験時間が長くなる程、導電性炭化物の侵入量が多くなり、絶縁抵抗の低下も大きくなります。
そのため、本発明では縦添え巻きと横巻きの巻き方向を同じにすることで導電性炭化物を導体に接触させないようにしております。
一方、引用文献1に開示されているケーブルは、実施例に示されているとおり、30分耐火試験しか行っておらず、30分耐火試験では導電性炭化物の侵入量が1時間耐火試験よりも少なくなります。そのため、巻き方向に着目せずとも耐火試験に合格する可能性が高いと考えられます。したがって、縦添え巻きと横巻きの巻き方向を同じにするという構成に想到する契機はありません。 また、引用文献2は中国にしか出願されておらず、日本の基準に適合させるようにする契機がありません。
したがって、引用文献1および2には、縦添え巻きと横巻きの巻き方向を同じにするという構成に想到する契機がありません。
この意見に対して上述のように拒絶査定においては、「縦添えの方向と巻回の方向との関係は同じ方向とするか異なる方向とするかのいずれかである」とされていますが、いずれかとすることしか想定できない引用文献1および2の知見に基づいて作製されたケーブルでは、縦添え巻きの巻き方向と、横巻きの巻き方向とが異なるケーブルが作製される可能性があり、これでは導電性炭化物の影響を受ける可能性があることになります。そして、これは、火災下で火災警報装置に確実に電力を供給して、確実に火災警報装置を作動させるというような、確実性が求められる耐火ケーブルの技術分野においてあってはならないことです。
したがって、縦添え巻きの巻き方向と、横巻きの巻き方向とが同じ方向であるということは、耐火ケーブルの技術分野において、拒絶査定で示されているような「全体の作業工程に応じて、当業者が適宜選択し得る程度の事項」という程度の技術的意義しかないのではなく、新たな基準に適合させるために創意工夫した結果、想到し得たものであり、高い安全性をより確実に実現するための重要な技術的意義を有するものです。
したがって、本願発明は引用文献1および2の存在にも拘わらず進歩性を有し、特許すべきものであることは明らかです。
また、出願人は、当該拒絶査定不服審判の請求と同時に上述のように、補正後の請求項1および3において、耐火ケーブルは、「JCS7509に準拠した露出試験および電線管試験の基準を満たす」ことを明確にしました。また、この基準を満たすための構成として、補正後の請求項1および3において耐火テープが「2枚以上」であることを規定しました。これらの補正により、補正後の独立請求項1および3に係る発明は、引用文献1および2のそれぞれに開示されている発明との差異がより明確となっております。
したがって、補正後の本願の請求項1および3に係る発明は引用文献1および2の存在にも拘わらず進歩性を有し、特許すべきものです。また、本願の請求項2および4に係る発明は、補正後の本願の請求項1および3にそれぞれ従属しますので、同様に進歩性を有し、特許すべきものです。」と主張する。
イ しかしながら、上記(4)のとおり、引用発明は、「プラスチックマイカテープ」を「縦添え」する方向と、「ガラスマイカテープ」を「巻回」する方向とが、同じ方向のものを概念的に含むから、縦添え巻きと横巻きの巻き方向を同じにするという構成に想到する契機がないとはいえない。
また、本願明細書の段落0018(段落0032)に記載された、「内側に巻かれた横巻きの耐火テープ2に対して、外側に縦添え巻きした耐火テープ2が、締めつけるように作用し、耐火テープ2の隙間がより生じにくくなる。」との、「横巻きの巻き方向と縦添え巻きの巻き方向とが同じ方向であること」の作用効果は、引用発明においても、当業者が想定し得るものといえる。
ウ また、上記(4)のとおり、電線に係る「耐火ケーブル」に係る引用発明を、JCSの所定の規格の基準を満たすようにすることは、当業者が当然行うべき事項であって、引用発明の「前記導体の周りに縦添え巻きされた耐火テープ」及び「前記導体の周りに横巻きされた耐火テープ」を、「2枚以上の」と特定することも、当業者の通常の創作能力の発揮といえる。
したがって、請求人の主張は採用できない。
(6) 小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和7年4月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~4に係る発明は、令和6年11月29日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、上記第2[理由]2(2)アに記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「耐火ケーブル」についての「JCS7509に準拠した露出試験および電線管試験の基準を満たす」との限定事項、及び、「前記導体の周りに縦添え巻きされた耐火テープ」、「前記導体の周りに横巻きされた耐火テープ」それぞれについての、「2枚以上」であるとの限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2[理由]2に記載したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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