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特許拒絶査定不服審判

2025-001637

透明導電性フィルム

審判番号
2025-001637
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2024-035730外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2025年02月03日
審決日
2025年07月02日
公報発行日
2025年09月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (H01B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2024- 35730「透明導電性フィルム」拒絶査定不服審判事件〔令和 7年 1月20日出願公開、特開2025- 9782〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和6年3月8日(優先権主張 令和5年6月28日)の出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。 令和 6年 5月29日付け:拒絶理由通知書 同年 8月 1日 :意見書、手続補正書の提出 同年10月30日付け:拒絶査定(以下、「原査定」という。) 令和 7年 2月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出 同年 3月14日付け:拒絶理由通知書(以下、本拒絶理由通知書で通知した拒絶理由を「当審拒絶理由」という。) 同年 5月15日 :意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和7年5月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載した事項により特定される次のとおりのものである。 「 【請求項1】 基材と、該基材の少なくとも片側に配置された導電層とを備える透明導電性フィルムであって、 該導電層が、繊維系導電物およびポリマーマトリックスを含み、 該繊維系導電物が、金属ナノワイヤであり、 該金属ナノワイヤが、融着網目構造を有し、 該透明導電性フィルムの表面抵抗値が45Ω/□以下であり、 該透明導電性フィルムの780nm~2500nmの波長領域における光透過率の最大値が、85%以上であり、 該透明導電性フィルムの波長555nmにおける光透過率(T555)に対する波長905nmにおける光透過率(T905)の比(T905/T555)が、0.95より大きく1.1以下であり、 該透明導電性フィルムの900nm~1600nmの波長領域における光透過率の最大値が、85%以上であり、 該透明導電性フィルムの波長905nmにおける光透過率が、85%以上である、 近赤外領域の光を透過する透明ヒーター用の透明導電性フィルム。」 第3 当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由のうち、引用文献1を主引用例とする拒絶理由は、概略、本願の補正前の請求項1~6に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~7に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものあるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1.特開2021-183558号公報 引用文献2.国際公開第2015/163258号 引用文献3.特開2015-120960号公報 引用文献4.米国特許出願公開第2022/0272795号明細書 引用文献5.中国特許出願公開第110681553号明細書 引用文献6.米国特許出願公開第2018/0352611号明細書 引用文献7.国際公開第2019/163791号 第4 引用文献の記載、引用発明及び周知技術 1 引用文献1について (1) 引用文献1の記載 当審拒絶理由において引用した引用文献1(特開2021-183558号公報)には、以下の記載がある。(なお、下線は当審において付加した。以下同じ。) 「【0054】 実施例4.透明銅ナノワイヤ電極の製作 銅ナノワイヤ電極は、常用エアブラシ(Harder & Steenbeck、Infinity)を使用してスプレーコーティング方法で製作された。銅ナノワイヤは、遠心分離によって収集され、エタノールに再び撒かれた。洗浄されたガラス基板は、300秒間紫外線-オゾンプラズマで処理されて表面汚染物質を除去した。希釈された銅ナノワイヤ懸濁液を熱いプレートで120℃で加熱されたガラス基板上に噴射コーティングした。その結果、発生した銅ナノワイヤフィルムは、接点を改善し、形成された銅酸化物を除去するために、60秒間0.5M NaBH4で処理され、DI水で洗浄した後、エタノールと共に窒素ガスで乾燥された。 ・・・ 【0076】 実験例16.銅ナノワイヤ電極の電気的及び光学的特性の評価 4点プローブ測定システム及び紫外-可視線分光光度計を用いて、それぞれ銅ナノワイヤ電極の電気的、光学的特性を評価し、その結果を図20に図示した。 図20は、超薄型銅ナノワイヤ電極の電気的、光学的特性を示す図面である。 図20を参照すれば、銅ナノワイヤ電極は、紫外線、可視光線から近赤外線範囲(350~1200nm)まで透明度が高く(a)、これは、ディスプレイだけではなく、近赤外線領域で光の透過が必要な熱装置及び光電池にも適するように使われるということを意味する。また、銅ナノワイヤフィルムのシート抵抗は、72%の透過率で1.1ohm/sq、透過率が75.5 %である時、シート抵抗は3.6ohm/sqであり、透過率が増加するにつれて次第に増加した(b)。本発明によって合成された銅ナノワイヤの場合、シート抵抗は28.5ohm/sqであり、透過率は91.9%であった。これを通じて本発明によって合成された銅ナノワイヤ電極は、優れた性能を示し、従来のナノワイヤ電極に比べて、透過率とシート抵抗との間のトレードオフ関係をよりよく充足させるということが分かった。 ・・・ 【0083】 図23を参照すれば、実施例4による銅ナノワイヤを利用した電極(図23のThis work)は、シート抵抗28.5ohm/sqで91.9%の高い透過率を示す一方、従来の電極は、60ohm/sq以上の高いシート抵抗で90%以下の透過率を示した。」 「【図20】 [図:0001426747000001.jpg] 」 (2) 引用文献1に記載された発明 ア 上記(1)の【0076】に「図20を参照すれば、銅ナノワイヤ電極は、紫外線、可視光線から近赤外線範囲(350~1200nm)まで透明度が高く・・・本発明によって合成された銅ナノワイヤの場合、シート抵抗は28.5ohm/sqであり、透過率は91.9%であった。」と記載されており、上記(1)の【図20】の(a)に5つのサンプルについてのデータが示されているところ、【図20】の(a)において、透過率が90%超となっているデータは、一番上にプロットされたデータのみである。そして、【図20】の(a)に示された5つのデータのうち、一番上にプロットされたデータが、同【図20】の(b)にプロットされた5点のうち最も右上にプロットされた点に対応すると解するのが自然である。 したがって、上記(1)【図20】の(a)の一番上にプロットされている、波長に対する透過率についてのデータが、「本発明によって合成された」「シート抵抗は28.5ohm/sqであり、透過率は91.9%」である銅ナノワイヤ電極を、紫外-可視線分光光度計を用いて評価した結果であるといえる。 イ 上記(1)の【図20】の(a)の一番上にプロットされている、波長に対する透過率についてのデータから、紫外-可視線分光光度計を用いて評価した結果である、555nmの波長における透過率が約92%であり、905nmの波長における透過率が約92%であることが見て取れる。 ウ 上記(1)の【0083】の、「実施例4による銅ナノワイヤを利用した電極(図23のThis work)は、シート抵抗28.5ohm/sqで91.9%の高い透過率を示す」との記載と、【0076】の「本発明によって合成された銅ナノワイヤの場合、シート抵抗は28.5ohm/sqであり、透過率は91.9%であった。」との記載は、シート抵抗の値及び透過率の値が同じであるから、【0076】及び【図20】に示されている、「シート抵抗は28.5ohm/sqであり、透過率は91.9%であった」、「本発明によって合成された銅ナノワイヤ」を利用した電極についての、4点プローブ測定システム及び紫外-可視線分光光度計を用いて、それぞれ銅ナノワイヤ電極の電気的、光学的特性を評価した結果が、上記(1)の【0054】に実施例4として記載されている、透明銅ナノワイヤ電極の製作により製作された超薄型銅ナノワイヤ電極についての特性であるといえる。 エ 上記(1)及び上記ア~ウによれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている(なお、括弧内は、引用文献1の記載箇所、または、上記検討箇所を示す。) 「銅ナノワイヤ懸濁液をガラス基板上に噴射コーティングして発生した銅ナノワイヤフィルムを乾燥して製作した超薄型透明銅ナノワイヤ電極であって(【0054】及び上記ウ)、 シート抵抗が28.5ohm/sqであり(上記ア)、 紫外-可視線分光光度計を用いて評価した結果である、555nmの波長における透過率が約92%であり、905nmの波長における透過率が約92%である(上記イ)、 紫外線、可視光線から近赤外線範囲(350~1200nm)まで透明度が高く、近赤外線領域で光の透過が必要な熱装置にも適する(【0076】)、 超薄型透明銅ナノワイヤ電極。」 2 周知技術について (1) 引用文献2の記載 当審拒絶理由において引用した引用文献2(国際公開第2015/163258号)には、以下の記載がある。 「[0077] 本発明のナノワイヤー分散液は、分散安定性に優れており、湿式塗布に適した分散液である。また、分散液から得られるナノワイヤー膜は、導電性に優れており、80%以上の高い光線透過率を有した状態でも導電性を発揮できる。そのため、導電膜、導電塗料のみならず、タッチパネル用電極、ディスプレイ用電極、太陽電池用電極、透明電磁波シールド、透明ヒーターなどに活用できる。また、本発明のナノワイヤー分散液は、強磁性金属ナノワイヤーが有する異方性、配向性、磁場応答性を活用することにより、ナノ磁性材料、異方性材料、磁性膜などに好適に用いることができる。」 (2) 引用文献3の記載 当審拒絶理由において引用した引用文献3(特開2015-120960号公報)には、以下の記載がある。 「【0028】 <透明導電膜> 本発明のZnOターゲット材を用いて公知の方法でスパッタリングを行うことで、透明導電膜を成膜することができる。本発明のZnOターゲット材を用いて成膜された透明導電膜は、燃料電池や液晶表示装置、タッチパネル、透明ヒーター等の透明電極などに好適に使用することができる。」 (3) 引用文献5の記載 当審拒絶理由において引用した引用文献5(中国特許出願公開第110681553号明細書)には、以下の記載がある。 「 [図:0001426747000002.jpg] 」 (当審訳)「[0020] 図1はPET基板上のAgNWs可撓性透明ヒーターに基づく構造概略図である;ここで:1-PVA層;2-PEDOT:PSS層;3-AgNWs層;4-基板;」 「 [図:0001426747000003.jpg] 」 (当審訳)「[0021] 図2は、PET基板上のAgNWs可撓性透明ヒーター試料に基づくシート抵抗14Ω/sqでの光透過特性(UV-Visスペクトル)のグラフである。」 (4) 引用文献6の記載 当審拒絶理由において引用した引用文献6(米国特許出願公開第2018/0352611号明細書)には、以下の記載がある。 「[0003] Transparent heaters have transparency and have heating characteristics based on joule heating, and thus are variously used for car window defrosters, heating fiber, flexible transparent heaters, etc. Currently, due to development of technologies, next-generation heating elements of heaters require all of high transmittance, high heating characteristics, and high flexibility. Easy applicability to wearable devices having free forms and shapes is also required. A general indium tin oxide (ITO) heating element broadly used as a transparent heater is not easily usable as a heater for highly-flexible devices due to restrictions in flexibility based on characteristics of oxide, and requires high-priced deposition equipment due to a deposition process in a high-vacuum chamber, e.g., sputtering. On the contrary, metal nanowires have a high transmittance and flexibility and thus currently attract much attention of people as a next-generation heating element material. In addition, the metal nanowires are providable in a liquid phase and thus are easily producible in a large quantity based on a roll-to-roll process.」 (当審訳)「[0003] 透明ヒーターは、透明性を有し、ジュール加熱に基づく加熱特性を有し、したがって、自動車窓の除霜装置、加熱ファイバ、可撓性透明ヒーターなどに様々に使用される。現在、技術の発展により、ヒーターの次世代加熱素子は、高い透過率、高い加熱特性、及び高い柔軟性の全てを必要としている。自由な形態および形状を有するウェアラブルデバイスへの容易な適用性もまた必要とされる。透明ヒーターとして広く使用されている一般的なITO(Indium Tin Oxide)発熱体は、酸化物の特性上、柔軟性に限界があるため、高柔軟性素子用ヒーターとして使用することが容易ではなく、スパッタリングのような高真空チャンバ内での蒸着工程のため、高価の蒸着装置を必要とする。これに対して、金属ナノワイヤは、高い透過率及び柔軟性を有するため、現在、次世代の発熱体材料として多くの注目を集めている。また、前記金属ナノワイヤーは、液相で提供可能であるため、ロールツーロール(roll-to-roll)方式で容易に大量生産することができる。」 「[0038] An overcoating layer having a high heat resistance, durability, and transmittance may be generated to protect the metal nanowire heating element, and may use coating materials such as polymethylmethacrylate (PMMA), polyurethane, polymethylmethacrylate (PMMA), polyacrylonitrile (PAN), polyacrylic acid (PAA), polydimethylsiloxane (PDMS), PPS, PES, COP, modified PPO, PPS, PAR, PEEK, PEI, PI, an organic-inorganic hybrid silicon coating material, silicone, and a liquid silica coating material.」 (当審訳)「[0038]高い耐熱性、耐久性、及び透過率を有するオーバーコーティング層は、金属ナノワイヤ発熱体を保護するために生成されてもよく、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、PPS、PES、COP、変性PPO、PPS、PAR、PEEK、PEI、PI、有機-無機ハイブリッドシリコンコーティング材料、シリコーン、及び液体シリカコーティング材料などのコーティング材料を使用してもよい。」 (5) 引用文献7の記載 当審拒絶理由において引用した引用文献7(国際公開第2019/163791号)には、以下の記載がある。 「[0059] 〈オーバーコート〉 繊維状の導電性材料を用いる場合、繊維状の導電性材料が外部からの光を反射・散乱させることによる乳濁感・白濁感を抑制するために、繊維状の導電性材料を屈折率が異なる他の材料で被覆して反射率を低下させることができる。このような被覆のための材料は、繊維状の導電性材料の導電性を損なわないように選択することができる。 ・・・ [0061] 透明導電層の材料として繊維状の導電性材料を使用する場合、繊維状の導電性材料の層を形成した後で、この層にオーバーコートを提供することができる。このオーバーコートは、繊維状の導電性材料の層に含浸して硬化し、それによって繊維状の導電性材料の一部が表面から露出するようにするように提供することによって、透明導電層の表面抵抗を小さく維持しつつ、透明導電層の強度をより高くすることができる。 [0062] 本発明におけるオーバーコートとしては、硬化樹脂層として後述するものを用いることができる。」 (6) 引用文献8の記載 当審において新たに引用する特表2015-530693号公報(以下、「引用文献8」という)には、以下の記載がある。 「【0039】 導電性フィルムの構造および性質 本明細書に記載の導電性フィルムは、概して、基板と、基板上に堆積された融着金属ナノワイヤ網目構造とを含む。場合によりポリマーコーティングを金属ナノワイヤ網目構造上に配置して、融着ナノワイヤ網目構造を保護し安定化させることができる。融着網目構造に望ましい性質を実現するために、金属ナノワイヤのパラメータを調節することができる。たとえば、ナノワイヤの使用量がより多いと、より低い電気抵抗を得ることができるが、ナノワイヤの使用量がより多いと透明度が低下しうる。これらのパラメータのバランスをとることによって、所望のレベルの導電率および光学的透明度を実現することができる。改善された網目構造中のナノワイヤは、走査電子顕微鏡写真で観察されるように、融着している。ナノワイヤの融着によって、改善された導電率が得られるとともに、高レベルの光学的透明度が維持されると考えられる。融着ナノワイヤを有する網目構造を有することで、対応する製品の妥当な寿命にわたって安定な導電性構造が得られるであろう。」 (7) 引用文献9の記載 当審において新たに引用する特開2023-066744号公報(以下、「引用文献9」という)には、以下の記載がある。 「【0014】 B.透明導電層 上記のとおり、透明導電層は、金属ナノワイヤおよびポリマーマトリックス含む。金属ナノワイヤを含む透明導電層を形成すれば、屈曲性に優れ、かつ、光透過率に優れる透明導電性フィルムを得ることができる。金属ナノワイヤは、ポリマーマトリックスにより保護される。その結果、金属ナノワイヤの腐食が防止され、耐久性により優れる透明導電性フィルムを得ることができる。ポリマーマトリックスは、チオール系化合物を含む。 ・・・ 【0032】 1つの実施形態においては、上記透明導電層中の金属ナノワイヤは、融着網目構造を有する。融着網目構造を有する金属ナノワイヤは、金属ナノワイヤ同士が接点で融着された状態にある。融着網目構造を有する金属ナノワイヤを含む透明導電層を形成すれば、透明性を阻害することなく、より導電性の高い透明導電性フィルムを得ることができる。 ・・・ 【0037】 上記ポリマーマトリックスは、上記のとおり、透明基材上に金属ナノワイヤからなる層を形成した後、該層上に、ポリマー溶液を塗布し、その後、塗布層を乾燥または硬化させて、形成され得る。この操作により、ポリマーマトリックス中に金属ナノワイヤが存在した透明導電層が形成される。」 (8) 周知技術1 ア 上記(4)の[0038]の、高い耐熱性、耐久性、及び透過率を有する、金属ナノワイヤ発熱体を保護するためのポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、PPS、PES、COP、変性PPO、PPS、PAR、PEEK、PEI、PIなどの材料を使用して生成されるオーバーコーティング層は、本願発明の「ポリマーマトリックス」に相当する。 また、上記のとおり、オーバーコーティング層は高い透過率を有するものであるから、オーバーコーティング層が形成された金属ナノワイヤ発熱体も、高い透過率を有するといえる。 イ 上記(5)の[0059]、[0061]、[0062]の、繊維状の導電性材料の層を形成した後に、硬化樹脂層を用いて提供される、繊維状の導電性材料の層に含浸して硬化することによって透明導電層の表面抵抗を小さく維持しつつ、透明導電層の強度をより高くする、反射率を低下させることができるオーバーコートは、本願発明の「ポリマーマトリックス」に相当する。 また、上記のとおり、オーバーコートは反射率を低下させることができるものであるから、オーバーコーティング層は、透明導電層の透過率を維持できるといえる。 ウ 上記(6)の【0039】の、金属ナノワイヤ網目構造上に配置して、融着ナノワイヤ網目構造を保護し安定化させるポリマーコーティングは、本願発明の「ポリマーマトリックス」に相当する。 また、上記(6)の【0039】の「高レベルの光学的透明度が維持される」との記載から、ポリマーコーティングを金属ナノワイヤ網目構造上に配置した後においても、高レベルの光学的透明度(透過率)が維持されるといえる。 エ 上記(7)の【0014】の、透明導電層が含む、金属ナノワイヤを保護するポリマーマトリックスは、ポリマーマトリックス中に金属ナノワイヤが存在した透明導電層が形成される(【0037】)ものであるから、本願発明の「ポリマーマトリックス」に相当する。 また、上記(7)の【0014】の「光透過率に優れる透明導電性フィルムを得る」との記載から、金属ナノワイヤおよびポリマーマトリックス含む透明導電層は、光透過率に優れるものであるといえる。 オ 上記ア~エによれば、金属ナノワイヤを保護するために、ポリマーマトリックスを、透過率が維持されるように設けることは、本願の優先日における周知技術である。 (9) 周知技術2 上記(6)の【0039】、上記(7)の【0032】によれば、金属ナノワイヤを、融着網目構造を有するものとし、導電性を高くすることは、本願の優先日における周知技術である。 (10) 周知技術3 上記(1)の[0077]、上記(2)の【0028】、上記(3)の[0020]、[0021]、上記(4)の[0003]によれば、透明導電膜を透明ヒーターとして用いることは、本願の優先日における周知技術である。 第5 対比・判断 1 対比 (1) 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「ガラス基板」は、本願発明の「基材」に相当する。 イ 引用発明の、「乾燥」した後の「銅ナノワイヤ懸濁液をガラス基板上に噴射コーティングして発生した銅ナノワイヤフィルム」は、本願発明の「該基材の少なくとも片側に配置された導電層」に相当する。 ウ 引用発明の「超薄型透明銅ナノワイヤ電極」は、本願発明の「透明導電性フィルム」に相当する。 エ 引用発明の「銅ナノワイヤ」は、本願発明の「繊維系導電物」及び「金属ナノワイヤ」に相当する。 オ 引用発明の「超薄型透明銅ナノワイヤ電極」の「シート抵抗」は、本願発明の「該透明導電性フィルムの表面抵抗値」に相当し、その値である、引用発明の「28.5ohm/sq」は、本願発明の「45Ω/□以下」に相当する。 カ 引用発明の「超薄型透明銅ナノワイヤ電極」は、「紫外-可視線分光光度計を用いて評価した結果である、555nmの波長における透過率が約92%であり、905nmの波長における透過率が約92%である」から、本願発明の「780nm~2500nmの波長領域における光透過率の最大値が、85%以上」であり、「波長555nmにおける光透過率(T555)に対する波長905nmにおける光透過率(T905)の比(T905/T555)が、0.95より大きく1.1以下」であり、「900nm~1600nmの波長領域における光透過率の最大値が、85%以上」であり、「波長905nmにおける光透過率が、85%以上」である「透明導電性フィルム」に相当する。 キ 本願発明が「近赤外領域の光を透過する透明ヒーター用」であることと、引用発明が「紫外線、可視光線から近赤外線範囲(350~1200nm)まで透明度が高く、近赤外線領域で光の透過が必要な熱装置にも適する」ことは、「近赤外領域の光を透過する」点で共通する。 (2) 上記(1)によれば、本願発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。 [一致点] 「 基材と、該基材の少なくとも片側に配置された導電層とを備える透明導電性フィルムであって、 該導電層が、繊維系導電物を含み、 該繊維系導電物が、金属ナノワイヤであり、 該透明導電性フィルムの表面抵抗値が45Ω/□以下であり、 該透明導電性フィルムの780nm~2500nmの波長領域における光透過率の最大値が、85%以上であり、 該透明導電性フィルムの波長555nmにおける光透過率(T555)に対する波長905nmにおける光透過率(T905)の比(T905/T555)が、0.95より大きく1.1以下であり、 該透明導電性フィルムの900nm~1600nmの波長領域における光透過率の最大値が、85%以上であり、 該透明導電性フィルムの波長905nmにおける光透過率が、85%以上である、 近赤外領域の光を透過する透明導電性フィルム。」 [相違点] [相違点1] 本願発明は、「導電層が」「ポリマーマトリックスを含」むのに対して、引用発明は、そのような構成を含んでいない点。 [相違点2] 本願発明は、「金属ナノワイヤが、融着網目構造を有し」ているのに対して、引用発明は、そのような構成を有しているか明らかでない点。 [相違点3] 本願発明は、「透明導電性フィルム」が「透明ヒーター用」であるのに対して、引用発明は、「熱装置にも適する」ものである点。 2 判断 (1) 相違点1について 上記第4の2(8)オのとおり、金属ナノワイヤを保護するために、ポリマーマトリックスを、透過率が維持されるように設けることは、本願の優先日における周知技術であるから、「紫外線、可視光線から近赤外線範囲(350~1200nm)まで透明度が高く、近赤外線領域で光の透過が必要な熱装置にも適する」ものである引用発明において、「銅ナノワイヤ懸濁液をガラス基板上に噴射コーティングして発生した銅ナノワイヤフィルムを乾燥して製作した超薄型透明銅ナノワイヤ電極」の、「銅ナノワイヤ」を保護するために、ポリマーマトリックスを、近赤外線領域を含んだ波長域での透明度が高く維持されるように設け、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (2) 相違点2について 上記第4の2(9)のとおり、金属ナノワイヤを、融着網目構造を有するものとし、導電性を高くすることは、本願の優先日における周知技術である。 したがって、引用発明において、銅ナノワイヤフィルムの導電性を高くするために、銅ナノワイヤを融着網目構造を有するものとし、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 (3) 相違点3について 上記第4の1(2)のとおり、引用発明は、「紫外線、可視光線から近赤外線範囲(350~1200nm)まで透明度が高く、近赤外線領域で光の透過が必要な熱装置にも適する」ものである。 また、上記第4の2(10)のとおり、透明導電膜を透明ヒーターとして用いることは、本願の優先日における周知技術である。 したがって、引用発明において、「熱装置」として、透明ヒーターを採用し、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 3 審判請求人の主張 (1) 審判請求人は、令和7年5月15日提出の意見書において、「(2)引用文献について」として、以下の主張をする。 [主張1] 「 いずれの引用文献においても、「透明導電性フィルムの波長555nmにおける光透過率(T555)に対する波長905nmにおける光透過率(T905)の比(T905/T555)が、0.95より大きく1.1以下」であること、「透明導電性フィルムの900nm~1600nmの波長領域における光透過率の最大値が、85%以上」であること、「透明導電性フィルムの波長905nmにおける光透過率が、85%以上」であることは、具体的に記載されていません。 引用文献1は図20で光学的特性を概要的に示すにすぎず、本願発明のように、各波長における光透過率、光透過率比、光透過率の最大値を具体的に特定することを記載していません。」 [主張2] 「 本願発明は、波長における光透過率、光透過率比、光透過率の最大値を上記のとおり特定することを特徴としています。本願発明によれば、当該特徴を一因として、近赤外域のレーザー光を透過させる用途に好適な、例えば、センシングに必要なレーザー光(近赤外域)を効率良く透過させることのできる部材に好適な透明導電性フィルムを提供することができます。」 [主張3] 「 また、いずれの引用文献においても、融着網目構造を有する金属ナノワイヤを含む導電層を備える透明導電性フィルムは開示も示唆もされていません。 引用文献1は、銅ナノワイヤフィルムを用いることを記載するにすぎず、当該銅ナノワイヤフィルムとして、融着網目構造を有する金属ナノワイヤを用いることは開示も示唆もされていません。同様に、引用文献2~7においても、金属ナノワイヤの使用を記載する一方で、当該金属ナノワイヤが融着網目構造を有することは記載されていません。 一方、本願発明によれば、融着網目構造を有する金属ナノワイヤを含む導電層を形成し、透明性を阻害することなく、より導電性の高い透明導電性フィルムを提供することができます(出願当初の明細書の0031段)。このような本願発明は、引用文献1および3~5に記載された発明とな異なる発明であり、引用文献1~7に基づいて容易にできた発明でもありません。」 (2) 上記主張について検討する。 ア 主張1について 上記第4の1(2)のとおり、引用文献1の図20(a)に示されている、各波長に対する透過率のデータは、紫外-可視線分光光度計を用いて評価した具体的な結果であり、当該データが示すとおり、引用文献1には、555nmにおける透過率が約92%であり、905nmの波長における透過率が約92%である、引用発明に係る「超薄型透明銅ナノワイヤ電極」(本願の「透明導電性フィルム」に相当。)が具体的に記載されているといえる。そして、当該「超薄型透明銅ナノワイヤ電極」が、審判請求人が主張する「透明導電性フィルムの波長555nmにおける光透過率(T555)に対する波長905nmにおける光透過率(T905)の比(T905/T555)が、0.95より大きく1.1以下」であること、「透明導電性フィルムの900nm~1600nmの波長領域における光透過率の最大値が、85%以上」であること、「透明導電性フィルムの波長905nmにおける光透過率が、85%以上」であること、との構成要件を充足することは明らかであり、この点について本願発明と引用発明が構成上の差異を有さないことは上記1(1)カで検討のとおりである。 したがって、主張1は採用できない。 イ 主張2について 上記第4の1(2)のとおり、引用発明は、「紫外線、可視光線から近赤外線範囲(350~1200nm)まで透明度が高く、近赤外線領域で光の透過が必要な熱装置にも適する」ものであるから、「近赤外域のレーザー光を透過させる用途」に好適であるといえる。 したがって、主張2は採用できない。 ウ 主張3について 上記2(2)で判断したとおり、金属ナノワイヤを、融着網目構造を有するものとし、導電性を高くする技術は、引用文献8及び9に記載された周知技術であり、当該周知技術を引用発明に適用することは、当業者が容易になし得たことである。 したがって、主張3は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2025-001637

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