特許拒絶査定不服審判
2023-019956
通信複合ケーブル
- 審判番号
- 2023-019956
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-042275外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年11月27日
- 審決日
- 2025年01月16日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社プロテリアル
- 分類
- P18 .536-WZ (H01B) / P18 .121-WZ (H01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 42275「通信複合ケーブル」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月24日出願公開、特開2021-144845〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年3月11日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 5年 5月18日付け:拒絶理由通知書
令和 5年 7月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和 5年 9月27日付け:拒絶査定
令和 5年11月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 6年 7月 2日付け:拒絶理由通知書
令和 6年 8月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和 6年 9月26日付け:拒絶理由通知書
令和 6年11月27日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~3に係る発明(以下「本願発明1」~「本願発明3」といい、これらをまとめて「本願発明」という。)は、令和6年11月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
テンションメンバの周囲に撚られた複数本の通信ケーブルを有し、2つの鉄道車両間に跨って配策される通信複合ジャンパケーブルであって、
前記複数本の通信ケーブルのうちの少なくとも2本は、撚られた4本の対撚り線の周囲に内部シースを設けたLANケーブルであり、
前記対撚り線のそれぞれは、撚られた2本の絶縁電線を備え、
前記複数本の通信ケーブル、前記対撚り線及び前記絶縁電線の撚り方向が同一である、通信複合ジャンパケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の通信複合ジャンパケーブルにおいて、
前記テンションメンバの周囲に配置された5本の前記通信ケーブルと、
前記テンションメンバ及び通信ケーブルの周囲に配置された介在と、を有する、通信複合ジャンパケーブル。
【請求項3】
請求項2に記載の通信複合ジャンパケーブルにおいて、
前記複数本の通信ケーブルは、LANケーブルであり、
5本の前記通信ケーブルのうち、3本の通信ケーブルの伝送帯域は600MHzであり、
5本の前記通信ケーブルのうち、2本の通信ケーブルの伝送帯域は100MHzである、通信複合ジャンパケーブル。」
第3 拒絶の理由
令和6年9月26日付けで当審が通知した拒絶理由は、概略以下のとおりのものである。
理由1(委任省令要件)
本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2(実施可能要件)について
本願の発明の詳細な説明は、本願発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3(進歩性)について
本願の請求項1~3に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1~3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2017-188249号公報
引用文献2:特開2015-149183号公報
引用文献3:特開2002-352636号公報
第4 理由1(委任省令要件)及び理由2(実施可能要件)について
1 はじめに
特許法第36条第4項第1号は、「発明の詳細な説明」の記載については、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」(特許法施行規則第24条の2)により「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである」ことを、その要件として定めている。同規定の趣旨は、特許制度は、発明を公開した者に対して、技術を公開した代償として一定の期間の独占権を付与する制度であるが、仮に、特許を受けようとする者が、第三者に対して、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を開示することなく、また、発明を実施するための明確でかつ十分な事項を開示することなく、独占権の付与を受けることになるのであれば、有用な技術的思想の創作である発明を公開した代償として独占権が与えられるという特許制度の目的を失わせることになりかねず、そのような趣旨から、特許明細書の「発明の詳細な説明」に、上記事項を記載するよう求めたものである。(平成21(行ケ)10033。)
以下、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面等において、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が記載されているか否かについて検討する。
2 本願明細書の記載について
(1)本願明細書の記載
本願明細書には以下の記載がある。(下線は当審で付加した。以下、同様。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ケーブルに関するものであり、特に、複数本の通信ケーブルを有する通信複合ケーブルに関するものである。」
イ 「【背景技術】
【0002】
複数本の通信ケーブルを有する通信複合ケーブルが知られている。従来の通信複合ケーブルの一例として、伝送帯域が異なる2本以上のLAN(Local Area Network)ケーブルを含む鉄道車両用のジャンパーケーブルが知られている。」
ウ 「【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-188249号公報」
エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者は、通信複合ケーブルにおけるリターンロスについて、ある周波数で所定の基準値を超える値(ピーク値)が発生するとの知見を得た。かかる知見に基づいて研究を進めたところ、通信複合ケーブルに含まれている個々の通信ケーブル単体ではリターンロスに異常が見られないことが確認された。具体的には、通信複合ケーブル製造前の複数本の通信ケーブルについて個別にリターンロスを測定したところ、ピーク値の発生は確認されなかった。一方、ピーク値の発生が確認されなかった複数本の通信ケーブルが撚られた通信複合ケーブルでは、少なくとも1本以上の通信ケーブルにおいてピーク値の発生が確認された。
【0005】
そこで、本件発明者は、いずれの通信ケーブルにおいても所定の基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブルを実現すべくさらに研究を進め、本件発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明の目的は、いずれの通信ケーブルにおいても基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブルを実現することである。」
オ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の通信複合ケーブルは、撚られた複数本の通信ケーブルを有する。前記複数本の通信ケーブルのうちの少なくとも2本は、撚られた複数本の対撚り線を備え、前記対撚り線のそれぞれは、撚られた複数本の絶縁電線を備える。そして、前記複数本の通信ケーブル,対撚り線及び絶縁電線の撚り方向は同一である。」
カ 「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、いずれの通信ケーブルにおいても基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブルが実現される。」
キ 「【0012】
以下、本発明の通信複合ケーブルの実施形態の一例について説明する。本実施形態に係る通信複合ケーブルは、2つの鉄道車両間に跨って配策されるジャンパーケーブルである。
・・・中略・・・
【0017】
図1に示されている5本の通信ケーブル20a,20b,20c,20d,20eは、テンションメンバ10の周囲において、所定の撚りピッチで同方向に撚られている。この結果、ジャンパーケーブル1の横断面内(図1に示されている断面内)では、テンションメンバ10の周囲に当該テンションメンバ10の周方向に沿って通信ケーブル20a,20b,20c,20d,20eが等間隔又は略等間隔で配置されている。
【0018】
図2に示されるように、ジャンパーケーブル1が有する通信ケーブル20a,20b,20c,20d,20eの撚り方向は右方向である。言い換えれば、通信ケーブル20a,20b,20c,20d,20eは、全て右撚り(S撚り)されている。以下の説明では、ジャンパーケーブル1が有する通信ケーブル20の撚り方向を「第1撚り方向」と呼ぶ場合がある。尚、図2では、図1に付されているハッチング等は省略されている。
【0019】
再び図1を参照する。図示されている5本の通信ケーブル20のうち、通信ケーブル20a,20b,20d,20eは、同一の基本構造を有している。具体的には、通信ケーブル20a,20b,20d,20eは、4本の対撚り線21と、それら対撚り線21の周囲に設けられた内部シース22及び遮蔽層23と、を備えている。但し、通信ケーブル20aでは、4本の対撚り線21の外側に内部シース22が設けられ、内部シース22の外側に遮蔽層23が設けられている。一方、通信ケーブル20b,20d,20eでは、4本の対撚り線21の外側に遮蔽層23が設けられ、遮蔽層23の外側に内部シース22が設けられている。また、通信ケーブル20b,20d,20eが備える各対撚り線21の周囲には遮蔽テープ27が巻かれているが、通信ケーブル20aが備える各対撚り線21の周囲には遮蔽テープが巻かれていない。
【0020】
通信ケーブル20a,20b,20d,20eが備える4本の対撚り線21は所定ピッチで撚られており、それぞれの対撚り線21を構成している2本の絶縁電線24も所定ピッチで撚られている。また、それぞれの対撚り線21を構成している絶縁電線24は、導体25と、導体25の周囲に設けられた絶縁層26と、を備えている。
【0021】
図1に示されている通信ケーブル20cは、所定ピッチで撚られた4本の絶縁電線24を備えている。それぞれの絶縁電線24は、導体25と、導体25の周囲に設けられた絶縁層26と、を備えている。4本の絶縁電線24の周囲には遮蔽層23が設けられ、遮蔽層23の周囲には内部シース22が設けられている。
【0022】
図3に示されるように、通信ケーブル20aが備える4本の対撚り線21は、右撚り(S撚り)されている。図示は省略するが、図1に示されている通信ケーブル20b,20d,20eが備える4本の対撚り線21も、全て右撚り(S撚り)されている。以下の説明では、通信ケーブル20a,20b,20d,20eのそれぞれが備える4本の対撚り線21の撚り方向を「第2撚り方向」と呼ぶ場合がある。
【0023】
図3に示されるように、通信ケーブル20aが備える各対撚り線21を構成している2本の絶縁電線24は、全て右撚り(S撚り)されている。図示は省略するが、図1に示されている通信ケーブル20b,20d,20eが備える各対撚り線21を構成している2本の絶縁電線24も、全て右撚り(S撚り)されている。以下の説明では、対撚り線21を構成している2本の絶縁電線24の撚り方向を「第3撚り方向」と呼ぶ場合がある。尚、図3では、図1に付されているハッチング等は省略されている。
・・・中略・・・
【0027】
上記のとおり、ジャンパーケーブル1が有する5本の通信ケーブル20a,20b,20c,20d,20eは、右撚り(S撚り)されている。また、通信ケーブル20a,20b,20d,20eのそれぞれが備える4本の対撚り線21も、右撚り(S撚り)されている。さらに、各対撚り線21を構成している2本の絶縁電線24も、右撚り(S撚り)されている。尚、通信ケーブル20cは対撚り線21を備えていない。よって、通信ケーブル20cについては、対撚り線21の撚り方向(第2撚り方向)は観念されない。
【0028】
以上のように、本実施形態に係るジャンパーケーブル1は、複数本の通信ケーブル20を有している。そして、本実施形態に係るジャンパーケーブル1では、第1撚り方向,第2撚り方向及び第3撚り方向の3つの撚り方向が全て同一の方向(右方向)に統一されている。
【0029】
上記のような技術的特徴を有する本実施形態のジャンパーケーブル1が有する通信ケーブル20のリターンロスを測定した結果、所定の基準値を超えるピーク値は検出されなかった。具体的には、ジャンパーケーブル1に含まれているそれぞれの通信ケーブル20を用いて所定周波数の電気信号を伝送したときのリターンロスを測定したところ、いずれの通信ケーブル20においても、基準値を超えるリターンロスは検出されなかった。
【0030】
比較のために、第1撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる通信複合ケーブルを用意し、同様の測定を行った。用意した通信複合ケーブルは、第2撚り方向及び第3撚り方向が「右」であるのに対し、第1撚り方向は「左」である。この結果、基準値を超えるリターンロスが検出された。
【0031】
尚、上記基準値(dB)は、伝送する電気信号の周波数をf(MHz)としたとき、下記(式1)によって算出される値である。
25-8.6log(f/20)(但、20≦f<600)・・・(式1)
上記測定結果より、第1撚り方向(通信ケーブル20の撚り方向),第2撚り方向(対撚り線21の撚り方向)及び第3撚り方向(対撚り線21を構成している絶縁電線24の撚り方向)の3つの撚り方向が同一である本実施形態のジャンパーケーブル1では、基準値を超えるリターンロスが発生しないことが確認された。また、上記測定結果より、第1撚り方向,第2撚り方向及び第3撚り方向の3つの撚り方向が同一である本実施形態のジャンパーケーブル1では、通信ケーブル20,対撚り線21及び絶縁電線24の三者の撚りのいずれもが開くことがなく、よって、リターンロスに異常が発生しなかったものと推認される。」
(2)本願発明の課題及び課題解決手段
上記(1)ア~キの記載によれば、本願発明の課題は、「いずれの通信ケーブルにおいても基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブルを実現すること」(【0006】)であり、その解決手段は、「撚られた複数本の通信ケーブルを有し、前記複数本の通信ケーブルのうちの少なくとも2本は、撚られた複数本の対撚り線を備え、前記対撚り線のそれぞれは、撚られた複数本の絶縁電線を備える通信複合ケーブルにおいて、前記複数本の通信ケーブル、対撚り線及び絶縁電線の撚り方向を同一方向にすること」(【0007】)であり、このことは、「比較のために、第1撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる通信複合ケーブルを用意し、同様の測定を行った結果、基準値を超えるリターンロスが検出された」(【0030】)ことから、そのような結論を導いたものと認められる。
3 本願と同日に出願された特願2020-42276号(以下、「同日出願」という。)の記載について
(1)これに対して、本願と同一出願人により本願と同日に出願された上記同日出願には以下のとおり記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ケーブルに関するものであり、特に、複数本の通信ケーブルを有する通信複合ケーブルに関するものである。」
イ 「【背景技術】
【0002】
伝送帯域が異なる複数本の通信ケーブルを有する通信複合ケーブルが知られている。かかる通信複合ケーブルの一例として、伝送数帯域が異なる2本以上のLAN(Local Area Network)ケーブルを含む鉄道車両用のジャンパーケーブルが知られている。」
ウ 「【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-188249号公報」
エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者は、通信複合ケーブルにおけるリターンロスについて、ある周波数で所定の基準値を超える値(ピーク値)が発生するとの知見を得た。かかる知見に基づいて研究を進めたところ、通信複合ケーブルに含まれている個々の通信ケーブル単体ではリターンロスに異常が見られないことが確認された。具体的には、通信複合ケーブル製造前の複数本の通信ケーブルについて個別にリターンロスを測定したところ、ピーク値の発生は確認されなかった。一方、ピーク値の発生が確認されなかった複数本の通信ケーブルが撚られた通信複合ケーブルでは、少なくとも1本以上の通信ケーブルにおいてピーク値の発生が確認された。
【0005】
そこで、本件発明者は、いずれの通信ケーブルにおいても所定の基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブルを実現すべくさらに研究を進め、本件発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明の目的は、いずれの通信ケーブルにおいても基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブルを実現することである。」
オ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の通信複合ケーブルは、所定の撚りピッチで撚られた伝送帯域の異なる複数本の通信ケーブルを有する。そして、複数本の前記通信ケーブルの前記所定の撚りピッチをPとし、複数本の前記通信ケーブルのうち、伝送帯域が最も広い通信ケーブルの伝送帯域をf、当該通信ケーブルが備える絶縁電線の絶縁層の誘電率をεとし、真空中における光速をcとしたとき、P≦c/(√ε×f)×1/2の関係が成立する。
【0008】
本発明の一態様では、少なくとも伝送帯域が最も広い前記通信ケーブルは、当該通信ケーブルを含む複数本の前記通信ケーブルの撚り方向と逆方向に撚られた複数本の対撚り線を備えており、それぞれの前記対撚り線は、撚られた複数本の前記絶縁電線によって構成されている。
【0009】
本発明の他の一態様では、通信複合ケーブルは、5本の前記通信ケーブルを有する。そして、5本の前記通信ケーブルの前記所定の撚りピッチは160mm以下であり、5本の前記通信ケーブルのうち、3本の通信ケーブルの伝送帯域は600MHzであり、5本の前記通信ケーブルのうち、2本の通信ケーブルの伝送帯域は100MHzであり、伝送帯域が600MHzである3本の前記通信ケーブルが備える前記絶縁電線の絶縁層の誘電率は2.3である。」
カ 「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、いずれの通信ケーブルにおいても基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブルが実現される。」
キ 「【0013】
以下、本発明の通信複合ケーブルの実施形態の一例について説明する。本実施形態に係る通信複合ケーブルは、2つの鉄道車両間に跨って配策されるジャンパーケーブルである。
・・・中略・・・
【0018】
図1に示されている5本の通信ケーブル20a,20b,20c,20d,20eは、テンションメンバ10の周囲において、所定の撚りピッチ(本実施形態では160mm)で同方向に撚られている。ここで、通信ケーブル20の撚りピッチとは、ジャンパーケーブル1の縦断面内(図1に示されている断面と直交する断面内)における、通信ケーブル20の山(谷)と山(谷)との間の直線距離である。かかる通信ケーブル20の撚りピッチを図2に模式的に示す。5本の通信ケーブル20a,20b,20c,20d,20eがテンションメンバ10の周囲において所定ピッチで撚られている結果、ジャンパーケーブル1の横断面内(図1に示されている断面内)では、テンションメンバ10の周囲に当該テンションメンバ10の周方向に沿って通信ケーブル20a,20b,20c,20d,20eが等間隔又は略等間隔で配置されている。以下の説明では、ジャンパーケーブル1が有する通信ケーブル20の撚り方向を「第1撚り方向」と呼ぶ場合がある。
・・・中略・・・
【0027】
以上のように、本実施形態に係るジャンパーケーブル1は、伝送帯域の異なる複数本の通信ケーブル20を有しており、それら通信ケーブル20の撚りピッチは160mmである。また、本実施形態に係るジャンパーケーブル1が有する複数本の通信ケーブル20のうち、伝送帯域が最も広い通信ケーブル20b,20d,20eの伝送帯域は600MHzである。さらに、通信ケーブル20b,20d,20eが備える絶縁電線24の絶縁層26の誘電率は2.3である。
【0028】
すると、本実施形態に係るジャンパーケーブル1では、複数本の通信ケーブル20の撚りピッチをP、伝送帯域が最も広い通信ケーブル20b,20d,20eの伝送帯域をf、これら通信ケーブル20b,20d,20eが備える絶縁電線24の絶縁層26の誘電率をε、真空中の光速をcとしたとき、下記(式1)で示される関係が成立している。
P≦c/(√ε×f)×1/2・・・(式1)
具体的には、光速cを299792458m/s、√εを1.5166、伝送帯域fを600×106Hzとしたとき、c/(√ε×f)×1/2は0.1648m(=164.8mm)である。尚、小数点以下の桁数が5桁以上の数値については、小数第五位を四捨五入した。よって、複数本の通信ケーブル20の撚りピッチが160mmである本実施形態に係るジャンパーケーブル1では、上記(式1)で示される関係が成立している。
【0029】
本実施形態のジャンパーケーブル1が有する通信ケーブル20のリターンロスを測定した結果、600MHzよりも高い帯域で所定の基準値を超えるピーク値が検出された一方、600MHzよりも低い帯域では所定の基準値を超えるピーク値は検出されなかった。具体的には、ジャンパーケーブル1に含まれているそれぞれの通信ケーブル20を用いて所定周波数の電気信号を伝送したときのリターンロスを測定したところ、いずれの通信ケーブル20においても、600MHzよりも低い帯域で基準値を超えるリターンロスは検出されなかった。
【0030】
比較のために、通信ケーブルの撚りピッチのみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる通信複合ケーブルを用意し、同様の測定を行った。用意した通信複合ケーブルにおける通信ケーブルの撚りピッチは、230mmである。この結果、伝送帯域が600MHzの通信ケーブルにおいて、基準値を超えるリターンロスが430MHz付近で検出された。
【0031】
尚、上記基準値(dB)は、伝送する電気信号の周波数をf(MHz)としたとき、下記(式2)によって算出される値である。
25-8.6log(f/20)(但、20≦f<600)・・・(式2)
上記測定結果より、複数本の通信ケーブル20の撚りピッチが比較例よりも短い本実施形態のジャンパーケーブル1では、基準値を超えるリターンロスが発生する周波数がより高い周波数にシフトしていることが確認された。また、通信ケーブル20の撚りピッチを160mm以下にすることにより、基準値を超えるリターンロスが発生する周波数を600MHzよりも高い周波数にシフトさせることが可能であることも確認された。
【0032】
さらに、上記測定結果より、複数本の通信ケーブルを有する通信複合ケーブルの伝送帯域が600MHzよりも広帯域である場合、通信ケーブルの撚りピッチを160mmよりも短くすることにより、所定の基準値を超えるリターンロスが発生する周波数を当該通信複合ケーブルの伝送帯域外にシフトさせることができると推認される。例えば、通信複合ケーブル中で最も伝送帯域が広い通信ケーブルの伝送帯域が800MHzであった場合、当該通信ケーブルを含む複数本の通信ケーブルの撚りピッチが123.5mm以下であれば、上記(式1)で示される関係が成立する。そして、この場合、所定の基準値を超えるリターンロスが発生する周波数は、800MHzよりも高い周波数にシフトされると推認される。」
(2)同日出願の課題及び課題解決手段
上記(1)ア~キの記載によれば、同日出願の課題は、「いずれの通信ケーブルにおいても基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブルを実現すること」(【0006】)であり、その解決手段は、「所定の撚りピッチで撚られた伝送帯域の異なる複数本の通信ケーブルを有する通信複合ケーブルにおいて、複数本の前記通信ケーブルの前記所定の撚りピッチをPとし、複数本の前記通信ケーブルのうち、伝送帯域が最も広い通信ケーブルの伝送帯域をf、当該通信ケーブルが備える絶縁電線の絶縁層の誘電率をεとし、真空中における光速をcとしたとき、P≦c/(√ε×f)×1/2の関係が成立するように構成すること」(【0007】)であり、また、発明の一態様では、「少なくとも伝送帯域が最も広い前記通信ケーブルは、当該通信ケーブルを含む複数本の前記通信ケーブルの撚り方向と逆方向に撚られた複数本の対撚り線を備えており、それぞれの前記対撚り線は、撚られた複数本の前記絶縁電線によって構成されている」(【0008】)ものである。
4 当審の判断
(1)上記「2」によれば、本願明細書では、「前記複数本の通信ケーブル,対撚り線及び絶縁電線の撚り方向を同一方向に」した通信複合ケーブルに対して、「比較のために、第1撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる通信複合ケーブルを用意し、同様の測定を行った結果、基準値を超えるリターンロスが検出された」ことのみをもって、第1~第3の撚り方向を「同一方向」にすれば、課題を解決できると結論付けており、第1~第3の撚り方向のその他の2つの組み合わせ、すなわち、第2撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる場合と第3撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる場合についての検討がなされておらず、本願の発明の詳細な説明は、第1撚り方向、第2撚り方向及び第3撚り方向を「同一方向」にすると、どのような理由で、本願の課題を解決できるのかについて十分に説明されているとはいえない。
また、本願において、単に、第1~第3の撚り方向を「同一方向」にすることのみによってリターンロスが減少するのだとすると、公知文献である下記の引用文献2(特開2015-149183号公報)の【表1】の比較例9、10にある本願と同一撚り方向のRL特性とは異なる特性を本願において新たに見いだしたというべきであって、発明の詳細な説明にそのことが記載されていないことが、まさに「発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が欠けていることを示している。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、法に定める、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が記載されているとはいえない。
この点について、請求人は、令和6年11月27日提出の意見書において、
「本願明細書[0004][0031][0030]の記載内容に基づいて、通信複合ジャンパーケーブルの開発に従事する当業者であれば、第1撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる通信複合ケーブルにおいて、基準値を超えるリターンロスが検出されたのは、通信ケーブル20の撚り(第1の撚り)工程の撚合時に前工程の撚りが開くためであると理解することは明らかです。
とすると、通信複合ジャンパーケーブルの開発に従事する当業者であれば、(a)第2撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる場合、又は(b)第3撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる場合においても、後工程の撚合時に前工程の撚りが開くことを容易に想起しうるものと思料致します。
尚、上述の通り、第1撚り方向,第2撚り方向及び第3撚り方向の3つの撚り方向が同一である(つまり、複数本の通信ケーブル、対撚り線、絶縁電線の撚り方向が同一である)本実施形態のジャンパーケーブルでは、通信ケーブル20,対撚り線21及び絶縁電線24の三者の撚りのいずれもが開くことがなく、よって、リターンロスに異常が発生しなかったものと推認されることが本願明細書の段落[0031]に記載されている以上、「発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が欠けているとまではいえないものと思料致します。」
と主張している。
しかしながら、本願明細書には、
「【0030】
比較のために、第1撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる通信複合ケーブルを用意し、同様の測定を行った。用意した通信複合ケーブルは、第2撚り方向及び第3撚り方向が「右」であるのに対し、第1撚り方向は「左」である。この結果、基準値を超えるリターンロスが検出された。
【0031】
尚、上記基準値(dB)は、伝送する電気信号の周波数をf(MHz)としたとき、下記(式1)によって算出される値である。
25-8.6log(f/20)(但、20≦f<600)・・・(式1)
上記測定結果より、第1撚り方向(通信ケーブル20の撚り方向),第2撚り方向(対撚り線21の撚り方向)及び第3撚り方向(対撚り線21を構成している絶縁電線24の撚り方向)の3つの撚り方向が同一である本実施形態のジャンパーケーブル1では、基準値を超えるリターンロスが発生しないことが確認された。また、上記測定結果より、第1撚り方向,第2撚り方向及び第3撚り方向の3つの撚り方向が同一である本実施形態のジャンパーケーブル1では、通信ケーブル20,対撚り線21及び絶縁電線24の三者の撚りのいずれもが開くことがなく、よって、リターンロスに異常が発生しなかったものと推認される。」と説明されているだけで、「基準値を超えるリターンロスが検出されたのは、通信ケーブル20の撚り(第1の撚り)工程の撚合時に前工程の撚りが開くためである」ことについての説明はなく、「通信ケーブル20の撚り(第1の撚り)工程の撚合時に前工程の撚りが開く」とはどのようなことを説明しているのか不明である。
また、「(a)第2撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる場合」や、「(b)第3撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる場合」の撚りが開く態様が、「第1撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる場合」の撚りが開く態様と異なることは明らかであって、その結果、それぞれの態様で撚りが開くことによるリターンロス特性への影響も異なるものと認められるところ、そのような場合についてのリターンロス特性への影響についての検討もなく、「第1撚り方向(通信ケーブル20の撚り方向),第2撚り方向(対撚り線21の撚り方向)及び第3撚り方向(対撚り線21を構成している絶縁電線24の撚り方向)の3つの撚り方向が同一である本実施形態のジャンパーケーブル1では、基準値を超えるリターンロスが発生しないことが確認され」、「第1撚り方向のみが本実施形態のジャンパーケーブル1と異なる通信複合ケーブルを用意し、同様の測定を行った」結果、「基準値を超えるリターンロスが検出された」ことのみをもって、「第1撚り方向,第2撚り方向及び第3撚り方向の3つの撚り方向が同一である本実施形態のジャンパーケーブル1では、通信ケーブル20,対撚り線21及び絶縁電線24の三者の撚りのいずれもが開くことがなく、よって、リターンロスに異常が発生しなかったものと推認される」という説明で十分な説明がなされているとは認められない。
また、第1撚り方向(通信ケーブル20の撚り方向),第2撚り方向(対撚り線21の撚り方向)及び第3撚り方向(対撚り線21を構成している絶縁電線24の撚り方向)の3つの撚り方向が同一であると、なぜ、通信ケーブル20,対撚り線21及び絶縁電線24の三者の撚りのいずれもが開くことがないのかについても、その理由が具体的に説明されておらず、3つの撚り方向が同一であると、通信ケーブル20,対撚り線21及び絶縁電線24の三者の撚りのいずれもが開くことがないことが、本願出願時の技術常識であるともいえない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(2)上記「3」の同日出願に、「複数本の通信ケーブル(本願発明の「通信ケーブル」に相当する。)の撚りピッチP」、「複数本の前記通信ケーブルのうち、伝送帯域が最も広い通信ケーブルの伝送帯域f」、及び「当該通信ケーブルが備える絶縁電線の絶縁層の誘電率ε」との関係が所定の関係となるように構成することで、いずれの通信ケーブルにおいても基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブル(本願発明の「通信複合ケーブル」に相当する。)を実現することが記載され、下記の引用文献2に、良好なRL(リターンロス)特性を有し、その良好なRL特性が曲げによって劣化することがなく、かつ撚り合わせ時の生産性が低下することもないLAN用ツイストペア多対ケーブル(段落0007)として、「対撚線4対を撚り合わせた4対心線ユニット(本願発明の「通信ケーブル」に相当する。)を、中心介在の外周に、複数撚り合わせてなるLAN用ツイストペアケーブルであって、前記対撚線4対の撚り方向と、前記4対心線ユニットの撚り方向が互いに異なり、かつ前記4対心線ユニット(通信ケーブル)の撚り合わせピッチPが、前記4対心線ユニットの撚り合わせ外径Dの13倍~17倍であることを特徴とするLAN用ツイストペア多対ケーブル」(段落0008)が記載されていることからすると、通信複合ケーブルにおいて、通信ケーブルの撚りピッチがリターンロス特性に影響を及ぼすことは技術常識である。
また、下記の引用文献3には、「導体を絶縁体で被覆した絶縁心線2本を対撚りした対撚線を複数本集合して撚り合わせてユニットとし、該ユニット複数本を更に集合して撚り合わせた多対ケーブルにおいて」、「ユニットを撚り合わせたピッチY」を、「対撚線を集合して撚り合わせたピッチTの非整数倍」(請求項1)とすることで、「反射減衰量が悪化せず、全二重伝送へと移行が進みつつあるデータ伝送に対応しうる優れたLAN用多対ケーブルを提供しうる」(段落0014)ことが記載されており、この記載からすると、LAN用多対ケーブル(本願発明の「通信複合ケーブル」に相当。)における「ユニット」(本願発明の「通信ケーブル」に相当。)の撚りピッチと「対撚線」(本願発明の「対撚り線」に相当。)の撚りピッチとの関係もリターンロス特性に影響を及ぼすものと認められる。
そうすると、「通信ケーブルの撚りピッチ」や「通信ケーブルの撚りピッチと対撚り線の撚りピッチとの関係」について何ら示すことなく、単に、第1~第3の撚り方向を「同一方向」にすることのみが課題解決手段であるとし、これのみによってリターンロスが減少するとの説明は、リターンロス特性に影響する他の条件についての説明が不足していることは明らかであって、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、「発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が記載されているとはいえない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、法に定める、「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」が記載されているとはいえない。
(3)本願明細書の発明の詳細な説明には、「通信ケーブルの撚りピッチ」や「通信ケーブルの撚りピッチと対撚り線の撚りピッチとの関係」といったリターンロス特性に影響する他の条件について、何も記載されていないから、当業者が請求項1~3に係る発明を実施するにあたり、所望のリターンロス特性が得られるような「通信ケーブルの撚りピッチ」や「通信ケーブルの撚りピッチと対撚り線の撚りピッチとの関係」とするために、過度の試行錯誤を要するものといえる。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、請求項1~3に係る発明を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載したものとはいえない。
この点について、請求人は、令和6年11月27日提出の意見書において、
「 このように、通信複合ジャンパーケーブルの開発に従事する当業者において、ジャンパ線の撚りピッチの値を所定のピッチとすることは広く知られています(例えば、特開2017-33737号段落[0023]、特開2017-33738号段落[0023]、特開2017-33739号段落[0023]参照)。
そして、ジャンパ線の撚りピッチの値を所定のピッチとすることは周知技術でありますので、係る周知技術を用いれば、通信複合ジャンパーケーブルの開発に従事する当業者は、過度の試行錯誤を要することなく、通信複合ケーブルの撚りピッチを設定することができるものと思料致します。」
と主張している。
しかしながら、上記の文献の「ジャンパ線」の構造は、本願発明が対象とする「通信複合ジャンパケーブル」の構造とは異なるものであるから、これらの文献に「撚りピッチの値」の記載があるからといって、本願発明の「通信複合ジャンパケーブル」において「通信ケーブルの撚りピッチ」や「通信ケーブルの撚りピッチと対撚り線の撚りピッチとの関係」を設定することが周知技術であったとはいえない。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
(4)まとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1~3に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものとはいえず、また、当業者が請求項1~3に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものともいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第5 理由3(進歩性)について
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1(特開2017-188249号公報)の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付加したものである。以下、同様。)
ア 「【0013】
図1を参照して、本発明の一実施形態による鉄道車両用ジャンパーケーブル100について説明する。鉄道車両用ジャンパーケーブル100を、単に、ジャンパーケーブル100と呼ぶこともある。図1は、実施形態によるジャンパーケーブル100の構造の一例を示す概略断面図である。
【0014】
ジャンパーケーブル100は、テンションメンバ10と、通信ケーブル20と、介在30と、押えテープ層40と、シース50とを有する。
【0015】
テンションメンバ10は、ジャンパーケーブル100の中心部に配置されており、高張力線11と、高張力線11の外周に配置された弾性介在層12とを有する。高張力線11としては、特に制限なく種々のものを用いることができるが、例えば、ピアノ線等の鋼線を複数本撚り合せたものが用いられる。
【0016】
弾性介在層12は、エラストマー、例えばポリオレフィン系エラストマーで形成されている。ポリオレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレンプロピレンゴムのようなポリオレフィン系のゴムに、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂を混合したものを用いることができる。弾性介在層12は、例えば、ポリオレフィン系エラストマーを高張力線11の外周に押出成形することで形成されている。
【0017】
ジャンパーケーブル100は、複数本の通信ケーブル(ユニット)20を有し、通信ケーブル20は、テンションメンバ10の外周に沿って配置されている。通信ケーブル20は、テンションメンバ10の周囲に均等な間隔で(等しい中心角ごとに)並んでいることが好ましい。各通信ケーブル20は、絶縁電線21を撚り合せた撚線を含んで構成されており、特性安定化のために、絶縁電線21の撚線の外周に遮蔽層22を有していることが好ましい。各通信ケーブル20の遮蔽層22の外周に、シース23が配置されている。なお、シース23の外周に押えテープ層等が配置されていてもよい。
【0018】
ジャンパーケーブル100は、複数種類の通信ケーブル20を有する。つまり、ジャンパーケーブル100は、異なる線種の通信ケーブル20を有する複合ジャンパーケーブルとして構成されている。図1に例示するジャンパーケーブル100は、1本の0.5mm2×4PCAT5ユニット20a、3本のAWG24×4P CAT7ユニット20b、および1本の0.5mm2×4C CAT5ユニット20cの、3種類、5本の通信ケーブル(ローカルエリアネットワーク(LAN)ケーブル)20を有するイーサネット(登録商標)系複合ケーブルとして構成されている。
【0019】
異なる線種の通信ケーブル20は、シース23の厚さの調整により互いに同等な外径(直径)を有するように構成されている。ここで、同等な外径とは、複数本の通信ケーブル20の平均的な外径に対する、各通信ケーブル20の外径の差が、±0.5mmの範囲内に収まるような外径であることをいう。
【0020】
通信ケーブル20のシース23は、樹脂、例えばポリオレフィン系樹脂で形成されている。シース23は、例えば、ポリオレフィン系樹脂を通信ケーブル20の外周部に押出成形することで形成されている。
【0021】
テンションメンバ10の外周部は、つまり弾性介在層12は、弾性介在層12の外周に沿って配置された通信ケーブル20と接するように構成されている。
【0022】
介在30は、テンションメンバ10と通信ケーブル20と介在30とで構成される束の断面形状が円形に近づくように、テンションメンバ10と通信ケーブル20との隙間に配置されるとともに、通信ケーブル20の外側の隙間に配置されている。テンションメンバ10と通信ケーブル20と介在30とで構成される束が、テンションメンバ10を(高張力線11を)中心として同心に撚り合されて、コア60が構成されている。介在30としては、例えば、プラスチックやジュート等で形成された繊維状や糸状のものが用いられる。
【0023】
コア60の外周に、押えテープ層40が配置されている。押えテープ層40は、例えば、樹脂テープが巻かれることで形成されている。押えテープ層40の外周に、シース50が配置されている。シース50は、例えば、ポリオレフィン系エラストマーを押えテープ層40の外周に押出成形することで形成されている。
・・・(中略)・・・
【0026】
さらに図2を参照して、説明を続ける。図2は、ジャンパーケーブル100が鉄道車両の車間渡り配線として、鉄道車両200a、200b間に取り付けられている状態を示す概略図である。鉄道車両200a、200bを、単に、車両200a、200bと呼ぶことがある。車両200a、200bの走行に伴い、車両200a、200b同士の相対位置が変動する。
【0027】
ジャンパーケーブル100は、一端部で、車両200aのコネクタ部201aに取り付けられ、他端部で、車両200aに隣接する車両200bのコネクタ部201bに取り付けられる。ジャンパーケーブル100の各通信ケーブル20が、一端部でコネクタ部201aに接続され、他端部でコネクタ部201bに接続されることで、各通信ケーブル20を介した車両200a、200b間での電気信号の伝送が可能となる。」
イ 「図1
[図:0001422015000001.jpg]
」
ウ 「図2
[図:0001422015000002.jpg]
」
(2)引用発明
上記(1)アの段落0017の「ジャンパーケーブル100は、複数本の通信ケーブル(ユニット)20を有し、・・・各通信ケーブル20は、絶縁電線21を撚り合せた撚線を含んで構成されており」との記載と、上記(1)イの図1から、“ジャンパーケーブル100は、5本の通信ケーブル(ユニット)20を有し、そのうちの4本は、絶縁電線21を撚り合せた撚線を4本含んで構成されて”いることが読み取れる。
また、上記(1)アの段落0017の「絶縁電線21の撚線の外周に遮蔽層22を有している・・・各通信ケーブル20の遮蔽層22の外周に、シース23が配置されている」との記載と、上記(1)イの図1から、“4本の各通信ケーブル20は、4本の撚線の外周に遮蔽層22を有し、さらに遮蔽層22の外周に、シース23が配置されて”いることが読み取れる。
また、上記(1)アの段落0017の「各通信ケーブル20は、絶縁電線21を撚り合せた撚線を含んで構成されており」との記載と、上記(1)イの図1から、「撚線」は、“2本の絶縁電線21を撚り合せた”ものであることが読み取れる。
そうすると、上記(1)の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
ジャンパーケーブル100であって、(【0013】、図1)
テンションメンバ10と、通信ケーブル20と、介在30と、押えテープ層40と、シース50とを有し、(【0014】、図1)
テンションメンバ10は、ジャンパーケーブル100の中心部に配置されており、(【0015】)
ジャンパーケーブル100は、5本の通信ケーブル(ユニット)20を有し、そのうちの4本は、2本の絶縁電線21を撚り合せた撚線を4本含んで構成されており、4本の各通信ケーブル20は、4本の撚線の外周に遮蔽層22を有し、さらに遮蔽層22の外周に、シース23が配置されており、(【0017】、図1)
ジャンパーケーブル100は、異なる線種の通信ケーブル20を有する複合ジャンパーケーブルとして構成され、ジャンパーケーブル100は、1本の0.5mm2×4P CAT5ユニット20a、3本のAWG24×4P CAT7ユニット20b、および1本の0.5mm2×4C CAT5ユニット20cの、3種類、5本の通信ケーブル(ローカルエリアネットワーク(LAN)ケーブル)20を有するイーサネット(登録商標)系複合ケーブルとして構成されており、(【0018】、図1)
テンションメンバ10と通信ケーブル20と介在30とで構成される束が、テンションメンバ10を(高張力線11を)中心として同心に撚り合されて、コア60が構成されており、(【0022】、図1)
コア60の外周に、押えテープ層40が配置され、押えテープ層40の外周に、シース50が配置されており、(【0023】、図1)
鉄道車両の車間渡り配線として、鉄道車両200a、200b間に取り付けられている(【0026】、図2)
ジャンパーケーブル100。
(3)引用文献2(特開2015-149183号公報)の記載
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0007】
本発明は上記従来技術の課題に対処してなされたもので、良好なRL特性を有し、その良好なRL特性が曲げによって劣化することはなく、かつ撚り合わせ時の生産性が低下することもないLAN用ツイストペア多対ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は下記[1]~[8]の実施形態を有する。
[1]対撚線4対を撚り合わせた4対心線ユニットを、中心介在の外周に、複数撚り合わせてなるLAN用ツイストペアケーブルであって、前記対撚線4対の撚り方向と、前記4対心線ユニットの撚り方向が互いに異なり、かつ前記4対心線ユニットの撚り合わせピッチPが、前記4対心線ユニットの撚り合わせ外径Dの13倍~17倍であることを特徴とするLAN用ツイストペア多対ケーブルである。
イ 「【0018】
図1は、本発明のLAN用ツイストペア多対ケーブル10の一実施形態を示す断面図、図2は、そのLAN用ツイストペア多対ケーブル10を構成している4対心線ユニット20の拡大断面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のLAN用ツイストペア多対ケーブル10は、4対心線ユニット20を複数本(図面の例では、6本)、例えばポリプロピレン紐からなる介在11を中心に撚り合わせ、その外側に押え巻12を介して、外側被覆(外被)13を被覆した構造を有する。押え巻12は、例えばポリエステルテープによる重ね巻きで構成され、外被13は、例えばポリ塩化ビニルの押出被覆で構成される。なお、本実施形態では、介在11は、4対心線ユニット20の外側にも配置されている。
【0020】
4対心線ユニット20は、図2に示すように、中心から放射状に延びる隔壁21aが4本周方向にほぼ等間隔に形成された、断面形状が略十字状の、例えば高密度ポリエチレンからなる介在(以下、十字介在と称する)21と、この十字介在21の各隔壁21a間に配設された4対の対撚線22と、これらの十字介在21と対撚線22の外周に、押え巻23を介して順に被覆された遮蔽層24および内側被覆(内被)25とを具備する。押え巻23と遮蔽層24の間には、さらに接地のためのドレインワイヤ26が縦添えされている。
【0021】
4対の対撚線22は、それぞれ導体31外周に、高密度ポリエチレンなどの絶縁樹脂からなる絶縁被覆32を設けた絶縁心線33を2本撚り合わせて構成されている。各対撚線22の撚り合わせピッチは、同じであっても異なっていてもよいが、近端漏話減衰量特性を向上させる観点からは、4対全てで、撚り合わせピッチが異なっていることが好ましい。
【0022】
本実施形態では、十字介在21もまた、所定のピッチ、例えば90~100mmピッチで捻回されており、したがって、4対の対撚線22もまた所定のピッチ、例えば90~100mmピッチで撚り合わされた状態で、ユニット20内に収容されている。」
ウ 「【0035】
(実施例2~6、比較例1~10)
絶縁心線、対撚線および4対心線ユニットの撚り方向と、4Pユニットの撚合わせピッチPを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてLAN用ツイストペア多対ケーブルを製造した。
【0036】
上記実施例1~6および比較例1~10で得られた各LAN用ツイストペア多対ケーブルのRL特性を評価した。評価方法は下記に示す通りである。
【0037】
[反射減衰量特性]
ドラム(巻胴径500mm)に巻き取ったLAN用ツイストペア多対ケーブルの反射減衰量を、Agilent Technologies社製のネットワークアナライザ E5061Bを用い、0.772~500MHz間を各対801ポイント測定し、下記規格値との最小マージンを求め、下記の基準で評価した。
規格値:ANSI/TIA-568-C.2
6.TRANSMISSION REQUIREMENTS
6.4 Horizontal Cable Transmission
Performance
6.4.6 Return loss(Category 6A)
評価基準
◎:最小マージン2.0dB以上
○:最小マージン1.0dB以上2.0dB未満
△:最小マージン0dB以上1.0dB未満
×:最小マージン0dB未満
【0038】
評価結果を表1に併せ示す。また、実施例1および比較例5について測定した反射減衰量をそれぞれ図3および図4に示す。図3および図4において、横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸は対撚線のRL(dB)を示している。また、図3および図4中のRL規格として示した線は周波数全帯域でのRL(dB)の目標とする規格値を示している。
【0039】
【表1】
[図:0001422015000003.jpg]
【0040】
これらの結果から明らかなように、対撚線4対の撚り方向と4対心線ユニットの撚り方向を異ならせ、かつ4対心線ユニットの撚り合わせピッチPを4対心線ユニットの撚り合わせ外径Dの所定倍数とした実施例のLAN用ツイストペアケーブルは、いずれも良好なRL特性を有していた。」
エ 「図1
[図:0001422015000004.jpg]
」
オ 「図2
[図:0001422015000005.jpg]
」
(4)引用文献3(特開2002-352636号公報)の記載
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 導体を絶縁体で被覆した絶縁心線2本を対撚りした対撚線を複数本集合して撚り合わせてユニットとし、該ユニット複数本を更に集合して撚り合わせた多対ケーブルにおいて、ユニットを撚り合わせたピッチYが、対撚線を集合して撚り合わせたピッチTの非整数倍であることを特徴とする多対ケーブル。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はLAN(LocalArea Network)用多対ケーブルに関するもので、特に、多対ケーブルの反射減衰量を改善した多対ケーブルに関するものである。」
ウ 「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の多対ケーブルを図示した実施形態に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態を示すもので、1は絶縁心線で、該絶縁心線1は銅線からなる伝送導体11、ポリエチレン等の絶縁樹脂からなる絶縁体12とで構成されている。2は対撚線で、該対撚線2は絶縁心線1を2本撚り合わされて構成されている。3はユニットで、該ユニット3は対撚線2を4本集合して撚り合わされて構成されている。31はユニット3の外周に設けたシースで、例えばポリ塩化ビニールで形成されている。4は多対ケーブルで、該多対ケーブル4はユニット3を複数本、本実施形態では6本をポリプロピレンからなる介在41を中心にして撚り合わせ、その外側に押さえ巻42、ポリ塩化ビニールからなる外部シース43を設けて構成されている。本発明の上記多対ケーブルは、ユニット3を撚り合わせたピッチYが、対撚線2を撚り合わせたピッチTの非整数倍としてある。」
エ 「【0012】図2、表1から明らかなように、TとYの比が非整数倍では反射減衰量は+領域であり、TとYの比が整数倍では反射減衰量は-領域となり、TとYとの比によって明らかに反射減衰量が相違している。特に、Y/Tが1.5、2.5、3.5とY=T×(n+0.5)(ただしnは1、2、3)近辺での反射減衰量のマージンは高く、この近辺のピッチを採用することが特に好ましい。なお、多対ケーブル4のユニットを撚り合わせる撚り方向と、対撚線を集合して撚り合わせる撚り方向については、反射減衰量に影響を与えなかった。」
オ 「【0014】
【発明の効果】本発明は導体を絶縁体で被覆した絶縁心線2本を対撚りした対撚線を複数本集合して撚り合わせてユニットとし、該ユニット複数本を更に集合して撚り合わせた多対ケーブルにおいて、ユニットを撚り合わせたピッチYが、対撚線を集合して撚り合わせたピッチTの非整数倍としたことにより、反射減衰量が悪化せず、全二重伝送へと移行が進みつつあるデータ伝送に対応しうる優れたLAN用多対ケーブルを提供しうる優れた効果を有するものである。」
カ 「図1
[図:0001422015000006.jpg]
」
2 対比
本願の請求項1に係る発明(本願発明1)と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「テンションメンバ10」、「通信ケーブル20」は、それぞれ、本願発明1の「テンションメンバ」、「通信ケーブル」に相当する。
引用発明の「ジャンパーケーブル100」は、「異なる線種の通信ケーブル20を有する複合ジャンパーケーブルとして構成され」ているから、本願発明1の「通信複合ジャンパケーブル」に対応する。
引用発明の「ジャンパーケーブル100」は、「5本の通信ケーブル(ユニット)20を有」するものであり、「テンションメンバ10と通信ケーブル20と介在30とで構成される束が、テンションメンバ10を(高張力線11を)中心として同心に撚り合されて、コア60が構成されて」いるものである。
引用発明の「ジャンパーケーブル100」は、鉄道車両の車間渡り配線として、鉄道車両200a、200b間に取り付けられているものであるから、“2つの鉄道車両間に跨って配策され”ているといえる。
以上のことから、引用発明の「ジャンパーケーブル100」は、本願発明1の「テンションメンバの周囲に撚られた複数本の通信ケーブルを有し、2つの鉄道車両間に跨って配策される通信複合ジャンパケーブル」に相当するといえる。
イ 引用発明の「絶縁電線21を撚り合せた撚線」は、本願発明1の「対撚り線」に相当する。
そして、引用発明の「通信ケーブル20」は、5本のうちの4本が、“絶縁電線21を撚り合せた撚線を4本含んで構成されており”、“4本の各通信ケーブル20は、4本の撚線の外周に遮蔽層22を有し、さらに遮蔽層22の外周に、シース23が配置され”るものであり、「1本の0.5mm2×4P CAT5ユニット20a、3本のAWG24×4P CAT7ユニット20b、および1本の0.5mm2×4C CAT5ユニット20cの、3種類、5本の通信ケーブル(ローカルエリアネットワーク(LAN)ケーブル)20」であるから、引用発明と本願発明1とは、後記する点(相違点1)で相違するものの、“前記複数本の通信ケーブルのうちの少なくとも2本は、4本の対撚り線の周囲に内部シースを設けたLANケーブルであ”る点で共通する。
ウ 引用発明の「絶縁電線21」は本願発明1の「絶縁電線」に相当し、引用発明の「撚線」は、「2本の絶縁電線21」を撚り合せたものである。
そうすると、上記イを踏まえれば、引用発明と本願発明1とは、「前記対撚り線のそれぞれは、撚られた2本の絶縁電線を備え」る点で一致する。
エ 上記ア~ウの検討から、本願発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
テンションメンバの周囲に撚られた複数本の通信ケーブルを有し、2つの鉄道車両間に跨って配策される通信複合ジャンパケーブルであって、
前記複数本の通信ケーブルのうちの少なくとも2本は、4本の対撚り線の周囲に内部シースを設けたLANケーブルであり、
前記対撚り線のそれぞれは、撚られた2本の絶縁電線を備える、
通信複合ジャンパケーブル。
<相違点1>
本願発明1の通信ケーブルを構成する「4本の対撚り線」は、当該「4本の対撚り線」がさらに「撚られた」ものであるのに対して、引用発明の通信ケーブル20を構成する「4本の撚線」は、当該「4本の撚線」がさらに撚られたものであることは明記されていない点。
<相違点2>
本願発明1は、「前記複数本の通信ケーブル、前記対撚り線及び前記絶縁電線の撚り方向が同一である」のに対して、引用発明は、そのような特定はなされていない点。
3 判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
例えば、引用文献2(上記1(3)の記載参照)に、「LAN用ツイストペア多対ケーブル10は、4対心線ユニット20を6本、介在11を中心に撚り合わせたものであり、4対心線ユニット20は、断面形状が略十字状の十字介在21の各隔壁21a間に配設された4対の対撚線22を具備し、4対の対撚線22は撚り合わされた状態でユニット20内に収容され、4対の対撚線22は、それぞれ絶縁心線33を2本撚り合わせて構成されている」ことが記載され、また、引用文献3(上記1(4)の記載参照)に、「対撚線2は絶縁心線1を2本撚り合わされて構成され、ユニット3は対撚線2を4本集合して撚り合わされて構成され、LAN用多対ケーブルは複数本のユニット3を介在41を中心にして撚り合わせたものであること」が記載されていることからすると、「2本の絶縁心線(本願の「絶縁電線」に相当。)を撚り合わせて対撚線(本願の「対撚り線」に相当。)とし、4本の対撚線を撚り合わせてユニット(本願の「通信ケーブル」に相当。)とし、複数のユニットを撚り合わせてLAN用多対ケーブル(本願の「通信複合ジャンパケーブル」に相当。)を構成すること」は、本願出願前に既に周知技術であったと認められる。
そうすると、引用発明において、上記周知技術を採用して、「4本の撚線」をさらに「撚られた」ものとすることは当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
引用文献2(上記1(3)の記載参照)の【表1】には、絶縁心線、対撚線および4対心線ユニットの撚り方向と、4Pユニットの撚合わせピッチPを変更した以外は、実施例1と同様にしてLAN用ツイストペア多対ケーブルを製造したときの、各LAN用ツイストペア多対ケーブルのRL特性を評価した結果が記載されており(段落0035、0036)、LAN用ツイストペア多対ケーブル(通信複合ケーブル)において、3つの撚り方向、すなわち、絶縁心線の対撚りの方向(本願発明1の「第3の撚り方向」に相当。)、対撚線の4対撚りの方向(本願発明1の「第2の撚り方向」に相当。)、及び、4Pユニットのユニット撚りの方向(本願発明1の「第1の撚り方向」に相当。)の組み合わせを変更してRL特性を評価することは公知技術であると認められる。
そして、上記「第4」において指摘したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、第1~第3の撚り方向を同一とした通信複合ケーブルにおいて基準値を超えるリターンロスが発生することのない仕組みの開示が無い以上、第1~第3の撚り方向は、単なる設計変更の範疇に過ぎないというほかなく、とりわけ、引用文献2の上記記載に接した当業者であれば、第1~第3の撚り方向について、種々試行錯誤することを妨げる事情は何も無いといえるから、例えば、第1~第3の撚り方向を同一とした組み合わせにおいて、「いずれの通信ケーブルにおいても基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ケーブルを実現する」ことができている場合に、その組み合わせを選択する程度のことは当業者が適宜なし得たことである。
ウ そして、上記相違点を総合的に勘案しても、本願発明1の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2、3に記載の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
エ 上記ア~ウで検討したとおりであるから、本願発明1は、引用発明及び引用文献2、3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
4 請求人の主張について
請求人は、令和6年11月27日提出の意見書において、
「引用文献2の比較例のうち、RL特性の評価が「×」である比較例9及び比較例10は、それぞれ、絶縁心線の対撚り方向:「左」、対撚線の4対撚り方向:「左」、4Pユニットのユニット撚り方向:「左」、絶縁心線の対撚り方向:「右」、対撚線の4対撚り方向:「右」、4Pユニットのユニット撚り方向:「右」であり、「複数本の通信ケーブル、対撚り線及び絶縁電線の撚り方向が同一である」という撚り方向の点において本願発明に相当するものです。
換言しますと、引用文献2に記載の発明は、良好なRL特性を有するという発明の目的を達成するため、対撚線4対の撚り方向と、4対心線ユニットの撚り方向が同じとなる構成、ひいては、絶縁心線の対撚り方向と、対撚線4対の撚り方向と、4対心線のユニットの撚り方向とが同じとなる構成を意図的に排除するものです。
むしろ、引用文献2に記載の発明は、絶縁心線の対撚り方向と、対撚線4対の撚り方向と、4対心線ユニットの撚り方向とが同じとなる構成を意図的に排除し、対撚線4対の撚り方向と、4対心線ユニットの撚り方向とが互いに異なる構成とすることにより、良好なRL特性を有する技術思想を有するものであり、かかる技術思想は、複数本の通信ケーブル、対撚り線及び絶縁電線の撚り方向を同一とすることにより、基準値を超えるリターンロスが発生することのない通信複合ジャンパケーブルを提供するという本願発明の技術思想とは逆行するものであると思料致します。」
と主張している。
しかしながら、本願発明では、3つの撚り方向を同じにするとリターンロス特性が良くなるのに対して、引用文献2では、3つの撚り方向を同じにするとむしろリターンロス特性が悪くなるということは、リターンロス特性を変化させる条件が、撚り方向の組み合わせ以外にも存在することの証左である。
このことは、例えば、引用文献3の段落0012に、「なお、多対ケーブル4のユニットを撚り合わせる撚り方向と、対撚線を集合して撚り合わせる撚り方向については、反射減衰量に影響を与えなかった。」との記載からも裏付けられる。
そうすると、引用文献2のLAN用ツイストペア多対ケーブルとは異なるケーブルであり、異なる条件を有するといえる引用発明のジャンパーケーブル100のリターンロス特性を、3つの撚り方向の組み合わせを変えて測定したときに、3つの撚り方向を同じにすると測定結果が良好となる場合も想定されるから、引用発明において、引用文献2の撚り方向の組み合わせを変えてリターンロスを測定する技術を採用し、特性の良好な撚り方向の組み合わせを選択した結果、3つの撚り方向が同じものが選択されることをもって、3つの撚り方向が同じであるジャンパケーブルの発明とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、請求人の主張は採用することができない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
また、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-019956