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特許拒絶査定不服審判

2021-013698

軟骨細胞または軟骨型細胞を再生するための細胞混成物

審判番号
2021-013698
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-536724外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年10月08日
審決日
2024年06月04日
公報発行日
2024年11月29日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K) / P18 .536-WZ (A61K) / P18 .537-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
行政事件訴訟法46条特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条、特許法第29条、特許法第36条第6項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2018-536724「軟骨細胞または軟骨型細胞を再生するための細胞混成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月20日国際公開、WO2017/123951、平成31年 1月24日国内公表、特表2019-501943〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成29年(2017年)1月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年1月14日 米国、2016年10月27日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年9月11日 :翻訳文提出 令和元年8月22日 :手続補正書の提出 令和2年8月12日付け:拒絶理由通知書 令和3年2月15日 :意見書、手続補正書提出の提出 令和3年6月2日付け :拒絶査定 令和3年10月8日 :審判請求、手続補正書の提出 令和5年5月29日付け:拒絶理由通知書 令和5年11月29日 :意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という) 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 同じ個体または同じもしくは異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分を有効量含有し、 該組成物が、Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)を含む第2の組成物と組み合わせて使用されることを特徴とする、 個体の変性した椎間板の治療用組成物。」 なお、上記本願請求項1の「・・・成分を有効量含有し、該組成物が、Tie2+細胞・・・ことを特徴とする、個体の変性した椎間板の治療用組成物。」なる記載について、当該記載の前に「組成物」について記載がないものの、「・・・成分を有効量含有した組成物であって、該組成物が、Tie2+細胞・・・ことを特徴とする、個体の変性した椎間板の治療用組成物。」の誤記であることは明らかであるから、請求項1を次のとおりの記載と解釈して以下、検討する。 「【請求項1】 同じ個体または同じもしくは異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分を有効量含有した組成物であって、 該組成物が、Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)を含む第2の組成物と組み合わせて使用されることを特徴とする、 個体の変性した椎間板の治療用組成物。」 第3 拒絶の理由 令和5年5月29日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由2~4は、概略、次のとおりのものである。 理由2(進歩性) この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献3に記載された発明及び引用文献1~4に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.米国特許出願公開第2012/0045419号明細書 2.国際公開第2015/035395号 3.Nature Communications,2012年,3:1264,DOI: 10.1038/ncomms2226 4.Journal of Cellular Physiology,2006年,Vol.209,pp.744-754,DOI:10.1002/jcp.20765 理由3(実施可能要件) 組成物を治療用組成物として使用するためには、薬理試験等を用いて当該組成物の治療効果を確認し、その有効性を裏付けるか、治療用組成物中の成分の治療有効性が先行技術において確認されている必要がある、というのが医薬の分野における技術常識であるところ、本願の発明の詳細な説明には、本願補正前の請求項に係る発明の治療用組成物を用いた具体的な薬理試験又はこれと同視し得るものは開示されていないから、当該組成物が「個体の変性した椎間板の治療用組成物」として使用できることは合理的に推認できない。 したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由4(サポート要件) 本願発明の課題は「成功裏に脊椎円板を修復および/または再生するための効果的かつ単純な方法ならびに組成物を提供すること」と認められるが、本願の発明の詳細な説明には、具体的な薬理試験又はこれと同視し得るものは開示されておらず、また、本願補正前の請求項に係る発明の組成物が「個体の変性した椎間板の治療」において、「成功裏に脊椎円板を修復および/または再生するための効果的かつ単純な」組成物として使用できることを合理的に推認させる技術常識が本願出願時に存在したともいえないから、本願出願時の技術常識を踏まえても、発明の詳細な説明において、「成功裏に脊椎円板を修復および/または再生するための効果的かつ単純な方法ならびに組成物」を提供するという課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。 したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 当審の判断 1.理由2(特許法第29条2項:進歩性欠如)について (1)引用文献の記載事項 ア 引用文献3の記載事項 当審の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3(Nature Communications,2012年,3:1264,DOI: 10.1038/ncomms2226)には、以下の記載がある(原文が英文のため訳文にて示す。また、下線は当審で付した。以下、他の箇所で引用文献3について記載する場合も同様である。)。 (ア) 第2頁左欄第1-2段落 「椎間板(IVD)の変性は、腰痛の重要な原因であり、経済的にも大きな負担となっている。また、IVDの変性は不安定性を生み出すことで、ほとんどの脊椎疾患の引き金となり、二次的に脊椎の変形や脊柱管狭窄を引き起こす可能性がある。 IVDは、環状線維(AF)に囲まれた内側の髄核(NP)と、IVDと隣接する椎体の間の薄いヒアリン軟骨の終板で構成されている。ゲル状のNPは、高度に水和したプロテオグリカンとコラーゲンとからなる細胞外マトリックス(ECM)を含む無血管組織である。ECMを産生する細胞の消失はIVD変性の原因であるが、IVD変性の病態はほとんど解明されておらず、有効な治療法もない。」 (イ) 第2頁左欄第4段落 「NP幹細胞及び前駆細胞を同定するために、まずメチルセルロース半固形培地を用いたコロニー形成アッセイ(CFA)を行った。この方法は、造血幹/前駆細胞の評価に確立され、様々な臓器の組織特異的幹/前駆細胞の同定に用いられている。我々は、様々な表面マーカーを用いてヒトとマウスのNP細胞を選別し、コロニーを形成する能力を評価した。このプレスクリーニングに続いて、in vitroではクローン形成能を、in vivoでは増殖能と自己再生能を評価した。最後に、チロシンキナーゼ受容体Tie2とジシアロガングリオシド2(GD2)の2つのマーカーを用いて、成体マウス(m)とヒト(h)のNP細胞から精製した集団に前駆細胞を特定した。その結果、Tie2のリガンドであるアンジオポエチン-1が、これらの前駆細胞の維持とNP細胞のアポトーシスからの保護に重要な役割を果たすことが明らかになった。本研究は、hNP組織におけるこれらの前駆細胞の頻度が、IVD変性や老化の臨床的程度と相関しているという仮説を探るために行われたものである。」 (ウ) 第2頁左欄第5段落 「表面マーカーによる前駆細胞の選択。mNPの前駆細胞を特定する手がかりを探るため、8-10週齢のC57BL/6マウスの尾部IVDから採取したNP細胞をメチルセルロース培地中のCFAで評価した。10日後、接着性の線維芽細胞コロニーとスフェロイドコロニーが観察された。この2種類のコロニーをそれぞれmNP colony-forming units-fibroblastic(mNP-CFU-F)およびmNP Colony-forming units-spherical(mNP-CFU-S)と名付けた。mNP-CFU-SはII型コラーゲンとアグリカンに強く陽性であったが、mNP-CFU-Fは主に陰性であった。したがって、mNP-CFU-SはmNP-CFU-FよりもNPに近い表現型になると考えられた(図1a)。」 (エ) 第2頁左欄最終段落-右欄第2行 「次に、幅広い抗体パネルを用いて、どの細胞表面マーカーがmNP-CFU-Sの形成能と相関しているかを同定した(Methods)。GD2が最も関連性の高いマーカーとして同定された。」 (オ) 第2頁右欄第2段落第1行-第8行 「これらのGD2+細胞の前駆細胞を見つけるために、マウスの初代培養を調査し、Tie2+GD2-及びTie2+GD2+のサブ集団からなるTie2を発現する集団を特定した。Tie2+細胞の役割を理解するために、10日間培養したmNP細胞からTie2+GD2-細胞を選別し、継代した。10日後、8.0±2.7%の細胞がTie2+GD2+であった(補足図S2)。したがって、Tie2+GD2-細胞は、Tie2+GD2+細胞の前駆細胞であることが確認された。」 (カ) 第2頁右欄第3段落 「ヒトNP細胞においても、Tie2、GD2、CD24の発現に同様の変化が観察された(補足図S4)。初代hNP細胞から選別されたTie2+GD2-細胞はTie2+GD2+細胞を生成し、14日目のTie2+GD2+細胞頻度は14.5±5.6%であった。一方、選別されたTie2-GD2+細胞は、Tie2+GD2-細胞もTie2+GD2+細胞も生成しなかった(補足図S5)。これらのマーカーの経時変化から、Tie2+GD2-CD24-細胞を起点として、Tie2+GD2+CD24-細胞、Tie2-GD2+CD24-細胞、Tie2-GD2-CD24+細胞の順で階層化することが示唆された。命名法を簡略化するため、以後、hNP細胞集団を以下のように呼ぶことにする:Tie2+GD2-CD24-(Tie2単独陽性細胞)をT/sp細胞、Tie2+GD2+CD24-(Tie2及びGD2の2重陽性細胞)をTG/dp細胞、Tie2-GD2+CD24-(GD2単独陽性細胞)をG/sp細胞、Tie2-GD2-CD24+(CD24単独陽性細胞)を24/sp細胞。」 (キ) 第2頁右欄第4段落第1-15行 「hNP前駆細胞の選別用マーカーを確認するために、以下の実験を行った。まず、TG/dp、G/sp、24/spの各細胞でCFAを行った。予想どおり、TG/dp細胞は、3つの集団(G/sp:120.0±14.3/1000、24/sp:11.4±2.8/1000)の中で最も高いhNP-CFU-Sの形成頻度を示した(202.0±12.1/1000)(図1c)。マウスでの結果と同様に、免疫細胞化学的には、hNP-CFU-SはII型コラーゲンとアグリカンに陽性であり、hNP-CFU-Fとは著しいコントラストを示した(図1d)。ECM産生は、免疫蛍光法およびフローサイトメトリーによって定量的に分析した(補足方法)。コラーゲンおよびアグリカン陽性細胞の割合は、hNP-CFU-F(II型コラーゲン:0.9±0.1%、アグリカン:12.1±4.9%)よりもhNP-CFU-S(II型コラーゲン:34.3±6.9%、アグリカン:82.4±4.9%)において高い(図1e)。」 (ク) 第3頁左欄第2段落-第4頁右欄6行 「TG/dp細胞における単細胞由来の多能性細胞。Tie2を発現している集団の中に前駆細胞が存在すると予測し、その幹細胞としての性質を確認するために以下の実験を行った。ただし、単一のT/sp細胞では十分に増殖しないため、TG/dpをクローン実験に使用した。hNP-CFU-Sが単一細胞由来であることを証明するため、TG/dpの単一細胞を別々にメチルセルロース培地に接種し、hNP-CFU-Sの発生を確認した(図2a)。単一TG/dp細胞または単一24/sp細胞から開始した集団倍加アッセイの結果、TG/dpクローンは27細胞倍加を越えて大きく拡大する高い増殖能を有していたが、24/spクローンは著しく劣っていた(図2b)。 In vitroでの多能性分化能を評価するため、TG/dpクローン培養物を21日間、脂肪、骨、軟骨形成に向けた誘導に供した(図2c)。試験した10個のクローンのうち9個は2重性(つまり、2つの細胞系列に分化できる)、4個は3重性(3つの細胞系列全てに分化できる)であった。したがって、これらのクローンは多能性であった(表1)。生体内での可能性を評価するため、NPへの分化と骨形成が評価された。まず、TG/dpクローンにEGFP遺伝子を導入し、非肥満性糖尿病/重症複合免疫不全(NOD/SCID)マウス(1×105/IVD)の損傷尾部IVDに細胞を注入した。偽コントロールとして、24/spクローンの細胞を同数(1×105/IVD)注入した。バイオルミネッセンスイメージングにより、移植されたクローンの生存と滞留時間を評価した。12週間後、採取したTG/dpクローンを注入したIVDの組織学的解析では、II型コラーゲン共発現により検出されたNP表現型を持つEGFP+細胞の生存が認められたが、偽コントロールでは細胞は1-2週間で消失した(図2d)。」 (ケ) 第10頁左欄から右欄にわたる段落 「細胞の分離と培養hNPとmNPの組織をTrypLE Express(Gibco)、次いでコラゲナーゼ-P(Roche)で消化し、α-minimal essential medium(α-MEM;Gibco)で2回洗浄後、10%牛胎児血清(Cell Culture Bioscience)添加α-MEMで培養を行った。すべての細胞培養は、37℃、5%O2、5%CO2の低酸素条件下で実施した。」 (コ) Supporting Online Materialの第17頁最終段落-第18頁第1段落第5行 「精製ヒトNP細胞の傷害尾部IVDおよび骨欠損マウスへの移植によるin vivoでの多能性分化。手術用顕微鏡および全身麻酔下で、成熟したNOD/SCIDマウス(12週、雌、n=6)の尾椎間板の損傷を、細胞注入の前に、27ゲージ針を用いてNPを一回吸引することにより実施した。EGFP標識・選別したhNP細胞(5.0×105)を、27ゲージ針付きインスリンシリンジ(テルモ)を用いて50μLのPBSに懸濁した。約10μLの細胞懸濁液をマウスの損傷した尾部IVDに注入した。移植から12週間後、マウスをエーテル麻酔で犠牲にし、尾部IVDを切除して免疫組織化学を調べた。」 (サ) Supporting Online Materialの第18頁第2段落 「バイオルミネッセンスイメージング(BLI)。マウスをイソフルラン吸入麻酔し、BLIシステム(XENOGEN社製)に入れ、CCDカメラで画像を取得した。検出範囲は尾椎椎間板とした。GFPを検出するフィルターを使用し、自家蛍光の校正には細胞移植をしていない陰性コントロールマウスを使用した。データ解析はLiving ImageTM Software(Caliper Life Sciences)を用いて行った。画像は12週まで全グループで1週間ごとに解析した。」 イ 引用文献4の記載事項 当審の拒絶の理由で引用され、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4(Journal of Cellular Physiology,2006年,Vol.209,pp.744-754,DOI:10.1002/jcp.20765)には、以下の記載がある。 (ア)第744頁左欄第1段落 「椎間板(IVD)は、脊椎の外在的応力を抑制し、柔軟性を提供する特異的な荷重支持組織である。椎間板は3つの異なる軟骨組織(外側から内側へ):環状線維(AF)、移行帯(TZ)、髄核(NP)から構成されている。これら3つのIVD構造のうち、NP組織はその力学的特性から、IVD生理学にとって最も重要である(Oegema,2002;Hunter et al.,2003)。NP組織の細胞外マトリックス(ECM)に含まれる水、プロテオグリカン、コラーゲンは、構造に流動性と粘弾性を与え、衝撃吸収材として作用し、引張機能を維持し、IVDの圧縮荷重から保護する(Bibby et al.,2001;Sato et al.,2001;Oegema,2002;Melrose et al.,2003)。」 (イ)第744頁左欄第2段落 「椎間板変性による腰痛は、通常、NPの中心部で起こり、椎間板の高さが減少し、隣接する脊柱構造に損傷を与える。椎間板変性は、20歳から50歳の成人集団によく見られる疾患である(Biering-Sorensen,1982;Cole et al.,1985;Miller et al.,1988;Buckwalter,1995)。並行して、ECMの分解も高齢者のNPで増加している(Jahnke and McDevitt,1988;Sztrolovics et al.,1997)。若い椎間板では、プロテオグリカン含量の割合が高く、タイトなコラーゲンネットワークが見られ、流体の流れを提供している(Pearce et al.,1989;Krajickova et al.,1995)。」 (ウ)第749頁右欄第2段落 「PRPによる異なる年齢のヒト髄核の増殖 PRP中の1ng/ml TGF-β1が24hNPの細胞増殖に最適な濃度であることを示した図1の結果に基づき、33歳、47歳、50歳、68歳、76歳の他の年齢のボランティアから採取したhNPの細胞増殖を、このPRP条件下で調べた。図3から、どの年齢においても、hNP細胞の増殖はPRP(1ng/ml TGF-β1)により明らかに増加し、1%FBSまたは無血清培地で培養したものより約7~11倍高かった。細胞増殖の誘導は3日目から明らかで、9日目にピークに達した。」 (エ)第749頁右欄第3段落-第750頁左欄第1段落 「PRPによるhNP細胞の軟骨形成特異的遺伝子の誘導 PRPに対するhNPの軟骨形成特異的遺伝子発現を調べるため、PRP培地で2日間(PRP-d2)および9日間(PRP-d9)培養した異なる年齢のhNP細胞を、1%FBS培地で培養したものと比較した。RT-PCRの結果、軟骨形成遺伝子、II型コラーゲン、およびアグリカンの発現はすべて、PRPで9日間処理した場合に有意に増加した(図4A,B)。II型コラーゲンの転写因子であるSox9も明らかに誘導された(図4C)。各群の1%FBSでの遺伝子発現で正規化した後、3つのマーカー遺伝子の発現をプールすると、ボランティアの年齢と逆関数を示した(図4D)。mRNAレベルの誘導率は、PRP中で9日間培養した細胞で高かった。」 (オ)第750頁左欄第2段落 「PRPは培養細胞におけるプロテオグリカンマトリックスの蓄積を促進する hNP細胞におけるプロテオグリカンの蓄積を明らかにするために、次にアルシアンブルー染色によってGAG沈着に対するPRPの効果を調べた。GAGはhNP細胞から合成される最も豊富なプロテオグリカンマトリックスである。アルシアンブルー陽性染色は5日目に出現したが、1%FBS投与群では9日間の培養中に出現しなかった(図5A)。hNP細胞が長期培養中にプロテオグリカン合成能力を失うかどうかを調べるため、NP細胞に対するPRPの時間依存的効果を検出した。図5Bに示すように、1%FBS培地で培養した細胞では、分泌されるGAGの比率が5日目以降に減少した。PRP中で培養したヒトNP細胞の相対的GAG蓄積量は、1%FBS培地と比較して、7日目に最高値に達し、9日目まで続いた。細胞から合成されるGAGは、9日間のPRP処理で有意に誘導された。」 (カ)第750頁左欄第3段落 「PRPはhNP細胞においてSmad2/3のリン酸化を活性化する Smad2/3は、軟骨形成遺伝子に影響を及ぼすTGF-β1活性化に特異的な重要な制御タンパク質であると推定されている(Furumatsu et al.、2005)。PRPがSmad経路を介してヒトNPの軟骨形成をどのように刺激するかを評価するために、リン酸化Smad2/3(p-Smad2/3)をウェスタンブロット分析により検出した。TGF-β1(陽性対照として10ng/ml)処理のみでは、30分後にSmad2/3のリン酸化が活性化されたが、120分後にはリン酸化が減少したのに対し、PRP(1ng/ml TGF-β1)では、30分後にp-Smad2/3が高度に活性化され、120分まで持続した(図6A)。p-Smad2/3の発現を正規化し、コントロール群と比較した(図6B)。これらの結果は、PRPのTGF-β1がhNPの軟骨形成を促進する主要な役割を担っているという我々の仮説と一致している。」 (キ)第750頁右欄第3段落-第751頁第1段落 「PRPの抗アポトーシス効果 PRPによる抗アポトーシス効果を調べるため、hNP細胞を10ng/mlのIL-1βで24時間処理した後、PRP(TGF-β1 1ng/ml)で24時間処理した。アポトーシス細胞は、フローサイトメトリーを用いて細胞周期を調べ、サブG1期の細胞パーセンテージとして定義した。その結果、アポトーシス細胞数はIL-1β群と比較してPRP群で劇的に減少した(*P<0.05)(図8)。」 (ク)第753頁第2段落 「TGF-β1やIGF-Iのような成長因子はPRPの主成分であり、椎間板生理学に対するそれらの影響は以前に報告されている(Osadaら、1996;Konttinenら、1999;Matsunagaら、2003)。しかしながら、ドナーの健康状態の加齢に関係する膜結合レセプターもまた、細胞応答を妨げる可能性のある懸念すべきもう一つの因子である。細胞膜上の成長因子レセプターの変化が老化に関与している可能性がある。TGF-β1とそのレセプターは若いSAMマウスでは豊富であるが、加齢の過程で枯渇する(Matsunaga et al.,2003)。ウサギNPのIGF-Iレセプターは、加齢の後期にはダウンレギュレートされる(Okuda et al.,2001)。したがって、加齢に伴って減少するレセプターは、我々の研究における高齢者のNP細胞に対するPRPの影響成長因子の限界を解明する上で非常に重要かもしれない。ヒトにおける椎間板変性の発症年齢は約30-50歳であることから(Hunter et al.,2003)、PRPはさらなる椎間板破壊を予防するための大きな可能性を秘めた治療基質である可能性がある。」 (ケ)第753頁第3段落 「結論として、PRPを椎間板再生における軟骨分化に応用したのは、本研究が初めてであると考えられる。その結果、PRP中のTGF-β1によって特異的に活性化されたSmadシグナル伝達経路を介して、PRPがmRNA発現、II型コラーゲン、およびECM合成を促進し(図9)、hNP細胞の増殖速度を促進するという概略モデルが示された。また、PRPに含まれる成長因子が成長因子カクテルの中で協調的に反応し、hNPの分化を維持することも考えられ、これは将来的に椎間板再生の臨床応用に重要である。」 (2)引用文献3に記載された発明 前記(1)ア(カ)から、引用文献3には、ヒトTG/dp(Tie2+GD2+2重陽性)クローン細胞がヒト随核に由来することが記載されており、前記(1)ア(ク)及び(コ)には、ヒトTG/dp(Tie2+GD2+2重陽性)クローン細胞にEGFP遺伝子を導入して、標識することが記載されている。 また、前記(1)ア(コ)より、そのようにして得られた細胞は懸濁物の状態であるが、前記(1)ア(ク)には、当該細胞の懸濁物をNOD/SCIDマウスの尾部椎間板に注入することが記載されている。このNOD/SCIDマウスの尾部椎間板は、前記(1)ア(コ)より、NP部分を吸引除去されたものであるが、前記(1)ア(ク)には、当該EGFP標識ヒトTG/dpクローン細胞が12週間後も生存し、当該細胞が椎間板のNP部分でII型コラーゲンを産生したことが記載されている。 そうすると、引用文献3には、次の発明が記載されているといえる。 「ヒト髄核に由来するヒトTG/dp(Tie2+GD2+2重陽性)クローン細胞をEGFP標識して得た細胞の懸濁物であって、NP部分を吸引除去されたNOD/SCIDマウスの尾部椎間板に注入すると、前記EGFP標識ヒトTG/dpクローン細胞が少なくとも12週間にわたって注入部椎間板で生存し、同細胞が椎間板のNP部分でII型コラーゲンを産生する、細胞の懸濁物。」(以下「引用発明3」という。) (3)本願発明1と引用発明3との対比 前記第2に記載したとおり、本願発明1は次のとおりである。 「【請求項1】 同じ個体または同じもしくは異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分を有効量含有した組成物であって、 該組成物が、Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)を含む第2の組成物と組み合わせて使用されることを特徴とする、 個体の変性した椎間板の治療用組成物。」 本願発明1と引用発明3を対比する。 本願明細書の【0013】には、「特定の実施形態において、髄核細胞および/または髄核細胞に分化することができる細胞は、栄養マトリックス(nutrient matrix)または血管有り無しを含めて、NPの1つまたは複数の成分(脊索細胞および/またはTie2+細胞など)に加えて提供される。」との記載があることからすると、Tie2+細胞はNPの成分の一つであるといえるから、引用発明3の「ヒト髄核に由来するヒトTG/dp(Tie2+GD2+2重陽性)クローン細胞」は、本願発明1の「異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つの成分」に相当する。 また、引用発明3の「細胞の懸濁物」は、本願発明1の「組成物」に相当する。 そうすると両者は、 「異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つの成分を含有した組成物。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 組成物が、本願発明1では、「個体の変性した椎間板の治療用」のものであるのに対し、引用発明3では、個体のNP部分を吸引除去された椎間板に投与されると、含有する細胞がNP部分にII型コラーゲンを産生するものである点。 <相違点2> 組成物が、本願発明1は、「Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)を含む第2の組成物と組み合わせて使用される」ものであるのに対し、引用発明3の組成物はそのような特定がない点。 (4)判断 ア 相違点1について 前記(1)ア(ア)には、IVD変性の原因に関して、「ゲル状のNPは、高度に水和したプロテオグリカンとコラーゲンとからなる細胞外マトリックス(ECM)を含む無血管組織であり、ECMを産生する細胞の消失はIVD変性の原因である。」(引用文献3の記載事項(ア)の第2段落)と記載されている。 ここで、引用発明3の「NP部分を吸引除去されたNOD/SCIDマウスの尾部椎間板」とは、上記(1)ア(ア)における「ゲル状のNP」が、「細胞外マトリックス(ECM)を含む無血管組織」を失い、「ECMを産生する細胞を消失」した状態を示すから、変性した椎間板の病態モデルに相当するものである。そして、引用発明3において、注入された懸濁物中の細胞が「注入部椎間板で生存し、同細胞が椎間板のNP部分でII型コラーゲンを産生する」ことは、つまり、「NP部分にII型コラーゲンを産生する細胞が送達される」ことであり、これは、椎間板変性の原因とされている「ECMを産生する細胞の消失」を回復することを意味するものであると認められる。 そうすると、引用発明3について、ECMを産生する細胞の消失を回復し「個体の変性した椎間板」を治療する効果を期待して、「個体の変性した椎間板の治療用」の用途に適用し、上記相違点1の構成に至ることは、当業者にとって容易になし得たことである。 イ 相違点2について 前記(1)イ(ウ)~(オ)、(ケ)から、引用文献4には、多血小板血漿(PRP)がヒト髄核細胞のmRNA発現、II型コラーゲン、およびECM合成を促進し、また、ヒト髄核細胞(hNP)のアポトーシスを抑制し、増殖速度を促進する効果を有していることが記載されており、前記(1)イ(ク)、(ケ)には、PRPのこれらの効果を踏まえつつ、PRPに含まれる成長因子が「hNPの分化を維持」し、将来的に椎間板再生の臨床応用に重要であることや、PRPが「さらなる椎間板破壊を予防するための大きな可能性を秘めた治療基質」であることが示唆されている。 ここで、医薬分野において、医薬の治療効果が高まることを期待して複数の有効成分を組み合わせて適用してみることは広く行われていることであるところ、引用文献3と引用文献4とは、椎間板変性に対する治療効果について記載している点で共通しているから、NP部分でII型コラーゲンを産生する細胞の送達に係る引用発明3において、引用文献4に記載された事項を参考に、PRPによって、送達された細胞の分化・増殖や、II型コラーゲンの合成の促進を介し、椎間板再生及び椎間板破壊予防につき相加ないし相乗的な効果が発揮されることを期待して、「多血小板血漿(PRP)」を含む第2の組成物と組み合わせて使用するようにして、上記相違点2の構成に至ることは、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ 効果について 引用文献3,4に記載された事項に基づき、Tie2+細胞及びPRPにより変性した椎間板に対する回復・再生効果が一定程度期待できることは上記ア、イで記載したとおりである。 一方、本願の発明の詳細な説明には、【0051】に 「実施例1 本開示の方法の一例は、同種異系、異種もしくは自家髄核細胞、および/もしくはそこから生成される馴化培地、および/もしくはSox9もしくは軟骨の産生を助ける他の遺伝子ならびに/または脊索細胞、および/もしくはTie2+細胞、および/もしくは多血小板血漿(PRP)の導入がある。ある特定の実施形態において、そのような送達は、健康な髄核中に多量に見いだせる細胞を送達することによって分化過程に有益になる。Sox9もしくは他の遺伝子、脊索細胞および/またはTie2+の量の減少は、変性椎間板疾患の発病において重要な役割を演ずる。線維芽細胞分化から生じた新たな核へこれらの細胞を加え戻すことにより、新しく分化した細胞にとってより強力で、活気ある環境が得られることになる。軟骨は、血流および栄養分への接近が一般に少ないので、身体において再生することが最も難しい組織であると考えられる。この理由のため、Sox9もしくは他の遺伝子、脊索細胞、Tie2+細胞および/またはPRPなど他のエレメントを、線維芽細胞混合物に添加することができる。本研究は、これらの細胞型の減少が実際に、変性椎間板疾患のきっかけまたは起源であり得ることを示唆している。」 と記載されているものの、本願発明1の「同じ個体または同じもしくは異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分を有効量含有した組成物」を「Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)を含む第2の組成物と組み合わせて使用」したときに、個体の変性した椎間板の治療用組成物としていかなる効果が奏功されるのか、具体的に確認した記載はなされていないから、本願発明1が、引用文献3,4から当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏功するとは認められない。 エ 審判請求人の主張について 審判請求人は、令和5年11月29日受付の意見書において、以下のとおり主張している。 「拒絶理由通知書において、本願明細書には、上記請求項の発明の具体的な薬理試験又はこれと同視し得る事項が開示されていない点をご指摘頂いております。 このご指摘を受けまして、上記(4)にて示しましたように、本願明細書の実施例等にて記載の効果を確認的に試験したデータを提出させて頂きます。 上記(4)での説明と重複致しますが、当該試験では、線維芽細胞の軟骨細胞への分化が、髄核(NP)コンディショニング培地とTie-2陽性細胞との併用により増強されることが示されています。 上記や本願明細書、ないし、本件審査段階にて提出した参考資料をご参考頂くことにより、Tie2+細胞および/またはPRPでは、椎間板における軟骨細胞への分化を促進し、変性した椎間板の治療用組成物として使用することができ、これらの成分による個体の変性した椎間板の治療作用は、引用文献1~4や他の先行文献には記載も示唆もされていないものと思料致します。」 ここで、請求人の指摘する(4)の試験データとは、同意見書によると次のとおりである。 「(4)理由4.(実施可能要件)、及び、理由5.(サポート要件)について ・・・ [試験方法] ヒト包皮から単離された新生児ヒト皮膚線維芽細胞は、Thermofisher社(米国カリフォルニア州カールスバッド)から購入した。 該線維芽細胞を、a)コントロール培地(Advanced DMEM/F-12)、b)髄核(NP)コンディショニング培地、c)Tie-2陽性細胞(1mlあたり100万個)、およびd)髄核(NP)コンディショニング培地を用いたTie-2陽性細胞に作用させた。 髄核(NP)細胞を得て、数を数え、常法に従って1.2%アルギン酸ナトリウムビーズに加え、8%ウシ胎児血清(FBS)および100単位のペニシリン/ストレプトマイシンを補充したAdvanced DMEM/F-12(ADMEM/F12)を用いた低酸素組織培養下(3.5%O2、37℃、5%CO2)に2日間置いた。2日後、脊索細胞を含むアルギン酸ビーズをPBS交換で15分ごとに2時間かけて十分に洗浄し、培地を100ユニットのペニシリン/ストレプトマイシンを含むFBS欠乏ADMEM/F-12に交換し、3日間低酸素培養に戻した。3日間の低酸素培養の結果、髄核(NP)コンディショニング培地(NP CM)が得られた。 線維芽細胞は7、14、21日間、1mlあたり100万細胞で培養した。 軟骨分化の評価は、1,9-ジメチルメチレンブルー(DMMB)色素結合アッセイを用いて行い、硫酸化グリコソミド(GAG)を測定した(PMID:28925497)。 [試験結果] 試験結果を下記図に示している。髄核(NP)コンディショニング培地やTie-2陽性細胞単独では、線維芽細胞の軟骨分化が十分ではないところ、両者を併用することにより、線維芽細胞の軟骨分化が顕著に増大しています。これらの試験結果は、本願明細書の実施例等にて記載の効果を確認的に試験したものであり、審理において参酌して頂けるものと思料致します。 [図:0001415607000001.jpg] 」 上記意見書を踏まえると、請求人の主張は、「NPコンディショニング培地」又は「Tie2+細胞」を単独で使用した場合には効果が十分ではない一方で、本願発明1に係る「NPコンディショニング培地」及び「Tie2+細胞」という特定の組み合わせで併用した場合には、従来技術から予測し得ない顕著な効果が得られるというものであるが、当該「NPコンディショニング培地」にいかなる成分が含まれているのか何ら確認されておらず、「NPコンディショニング培地」が本願発明1の「髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分を有効量含有」した組成物に該当するとは直ちにはいえないことから、請求人が主張する効果は本願発明1の構成に基づかない効果であって採用の限りではない。 なお、念のため、(4)の試験データについて検討すると、本願明細書【0051】には、導入される成分として「同種異系、異種もしくは自家髄核細胞」、「そこから生成される馴化培地」、「Sox9もしくは軟骨の産生を助ける他の遺伝子」、「脊索細胞」、「Tie2+細胞」、「多血小板血漿(PRP)」が並列に記載され、それらの送達により「健康な髄核中に多量に見いだせる細胞を送達することによって分化過程に有益になる」と記載されているのみであって、特定の成分の組み合わせによる線維芽細胞への併用効果については何ら記載されていない。これは、本願の発明の詳細の他の記載を踏まえても同様であるから、請求人による特定の成分の組み合わせにより顕著な効果が得られるという主張は、本願の発明の詳細な説明に基づかない主張である。さらに、請求人の主張する(4)の試験データは、引用文献3及び引用文献4に開示されているTie2+細胞及びPRPに係るものではないし、(4)の試験で確認された新生児ヒト皮膚線維芽細胞における硫酸化GAGの発現増強が、どの程度「個体の変性した椎間板の治療」効果につながるものか合理的な説明もなされていないから、当該試験データに基づき、本願発明1が、当業者が予測し得ない格別の効果を奏功するとはいえない。 (5)小括 よって、本願発明1は、引用文献3に記載された発明及び引用文献4に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.理由4(特許法第36条第6項1号:サポート要件違反)について 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、この観点に立って、本願発明1がサポート要件を満たすかについて検討する。 (1)本願発明1の課題について 本願の発明の詳細な説明の【0010】には「本開示は、例えば成功裏に脊椎円板を修復および/または再生するための効果的かつ単純な方法ならびに組成物に関する。」と記載されていることから、本願発明1の解決しようとする課題は、「成功裏に脊椎円板を修復および/または再生するための効果的かつ単純な方法ならびに組成物を提供すること」にあると認められる。 (2)本願発明1について 本願発明1は前記第2にて記載したとおりである。 (3)発明の詳細な説明について 本願の発明の詳細な説明には、次の内容が記載されている。 ア 【0003】 「一般に、軟骨は、一度損傷を受けたら自然に再生されない組織である。近年では、研究室において損傷組織の一部を再生することによって損傷を受けた生物組織を再建する試みがなされている。「組織工学」と定義されるこの手法は、大きな注目を集めている。」 イ 【0009】 「損傷を受けたまたは疾患のある脊椎円板において完全な組織機能を復元することは、難題である。人工椎間板交換または核置換のような従来の方法があるとはいえ、これらの治療法に関連する多くの弱点がまだ存在する。例えば人工椎間板交換は、カスケード効果として公知の、患部の上下にある他の椎骨へ機械的応力が移動および転移する傾向があり得る。」 ウ 【0013】 「特定の実施形態において、髄核細胞および/または髄核細胞に分化することができる細胞は、栄養マトリックス(nutrient matrix)または血管有り無しを含めて、NPの1つまたは複数の成分(脊索細胞および/またはTie2+細胞など)に加えて提供される。」 エ 【0015】 「健康な椎間板由来の細胞混成物の有効量を提供することによって、個体において老化した椎間板の状態を改善するための方法を包含する。・・・本開示の方法は、変性過程を発病していない人間の椎間板中に見いだせる細胞混成物の有効量を、老化した椎間板を有する個体に提供することによって、個体において老化した椎間板の状態を改善する方法を含む。変性過程を発病していない1人または複数人の人間の1つまたは複数の椎間板中に見いだせる細胞混成物は、髄核細胞、軟骨細胞、線維芽細胞(骨、軟骨および/または筋肉を含めた身体の結合組織由来の少なくとも皮膚線維芽細胞もしくは線維芽細胞を含める)、幹細胞および/または脂肪細胞の有効量を含むことができる。細胞混成物は、例えば、コラーゲン原線維、プロテオグリカンおよび/またはアグリカンなどの非細胞成分を含むこともできる。」 オ 【0022】 「本開示の実施形態は、同じ個体または同じもしくは異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来成分の有効量を個体の変性した椎間板に提供する工程を含む、個体のために軟骨細胞または軟骨細胞様細胞を生成する方法を含む。特定の実施形態において、NP由来成分は、脊索細胞、小さい軟骨細胞様細胞、コラーゲン原線維、プロテオグリカンおよび/またはアグリカンを含む。」 カ 【0031】 「一部の事例において、髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分の有効量が、NP由来の1つまたは複数の成分を受ける必要がある個体に提供され;特定の事例において、例えば、NP由来の1つまたは複数の成分は、脊索細胞、脊索細胞馴化培地、小さい軟骨細胞様細胞、コラーゲン原線維、プロテオグリカンおよび/またはアグリカンを含む。」 キ 【0051】 「実施例1 本開示の方法の一例は、同種異系、異種もしくは自家髄核細胞、および/もしくはそこから生成される馴化培地、および/もしくはSox9もしくは軟骨の産生を助ける他の遺伝子ならびに/または脊索細胞、および/もしくはTie2+細胞、および/もしくは多血小板血漿(PRP)の導入がある。ある特定の実施形態において、そのような送達は、健康な髄核中に多量に見いだせる細胞を送達することによって分化過程に有益になる。Sox9もしくは他の遺伝子、脊索細胞および/またはTie2+の量の減少は、変性椎間板疾患の発病において重要な役割を演ずる。線維芽細胞分化から生じた新たな核へこれらの細胞を加え戻すことにより、新しく分化した細胞にとってより強力で、活気ある環境が得られることになる。軟骨は、血流および栄養分への接近が一般に少ないので、身体において再生することが最も難しい組織であると考えられる。この理由のため、Sox9もしくは他の遺伝子、脊索細胞、Tie2+細胞および/またはPRPなど他のエレメントを、線維芽細胞混合物に添加することができる。本研究は、これらの細胞型の減少が実際に、変性椎間板疾患のきっかけまたは起源であり得ることを示唆している。」 (4)判断 上記(3)ウ~カからすると、本願発明1の「髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分」には、脊索細胞、Tie2+細胞、脊索細胞馴化培地、小さい軟骨細胞様細胞、コラーゲン原線維、プロテオグリカン、および/またはアグリカンといった、それぞれ形態や生理活性が異なる多様な成分が包含されうるが、上記(3)キを踏まえても、本願明細書ではそれらが「Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)を含む第2の組成物と組み合わせ」られた場合に、どのように「個体の変性した椎間板の治療」効果を奏するのかについて具体的な薬理試験データ又はこれと同視しうる程度の説明は何らなされていない。 一方、上記(3)ア、イから、軟骨は一度損傷すると自然には回復しないものであり、損傷を受けたまたは疾患のある脊椎円板において完全な組織機能を復元することは難題であるというのが本願出願当時における技術常識であったと認められる。また、医薬分野において、細胞や細胞から放出される生理活性分子は、培養条件や製剤中の他の成分によりその性質が変化するため、それらを含む製剤の生理活性は確認してみるまではわからないということも技術常識であったところ、前記1.(1)ア(ク)には、Tie2+GD+細胞は高い増殖能を有し、hNP-CFU-Sを発生させることができるが、Tie2+細胞であってもGD2-である細胞(すなわちT/sp細胞)では十分な増殖性が得られないことが記載され、Tie2+細胞でありさえすれば、同一の生理活性が期待できるともいえないことは明らかである。 そうすると、本願出願当時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明において、「同じ個体または同じもしくは異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分を有効量含有し」た組成物と、「Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)を含む第2の組成物と組み合わせ」が、「成功裏に脊椎円板を修復および/または再生するための効果的かつ単純な方法ならびに組成物」を提供するという課題を解決できると当業者は認識できるとはいえない。 (5)審判請求人の主張について 審判請求人は、令和5年11月29日受付の意見書において、前記1.(4)エで記載した試験データを踏まえつつ、以下のとおり主張している。 「(4)理由4.(実施可能要件)、及び、理由5.(サポート要件)について 本願発明1に関し、本願明細書の段落0051では、「同種異系、異種もしくは自家髄核細胞、・・・線維芽細胞混合物に添加することができる。」との記載がございます。 「髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分」と、「Tie2+細胞」とが併用された場合の本願発明の効果は、上記や他の本願明細書にて詳述されておりますが、ご参考のため下記の試験データを提出させて頂きます。」 「本願明細書の記載、及び、上記試験結果等をご参照頂くことにより、特許法第36条第4項第1号、及び、特許法第36条第6項第1号に係る拒絶理由は解消したものと思料致します。」 しかしながら、本願明細書に本願発明1の奏する効果について何ら具体的に記載されていないことは上記2.(4)のとおりであって、上記試験データは、本願明細書に記載されたものではなく、本願出願時の技術常識を示すものでもないから、サポート要件の判断において考慮することはできない。 よって、請求人の主張は採用できない。 (6)小括 以上のとおりであるから、本願発明1について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.理由3(特許法第36条4項1号:実施可能要件違反)について (1)判断 本願発明1は「個体の変性した椎間板の治療用組成物。」という医薬用途に関する物の発明であるが、物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることが必要である。 特に、医薬用途発明においては、一般に、物質名や化学構造などが示されることのみによっては、その有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に、医薬の有効量や投与方法などが記載されていても、それだけでは、当業者において当該医薬がその用途において使用できるかを予測することは困難であるから、当業者が過度の試行錯誤を要することなく当該発明に係る物を使用することができる程度の記載があるというためには、明細書において、当該物質が当該用途に使用できることにつき薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載し、出願時の技術常識に照らして、当該物質が当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるようにする必要がある。 この点、前記2.(4)で説示したのと同様、本願発明1の「同じ個体または同じもしくは異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分を有効量含有し」た組成物と、「Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)を含む第2の組成物と組み合わせ」が、「個体の変性した椎間板の治療」においてどのような効果を奏するのかについて、本願明細書に具体的な薬理データ又はこれと同視しうる事項は開示されておらず、また、本願明細書の記載及び技術常識に照らしても、「同じ個体または同じもしくは異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分を有効量含有し」た組成物と、「Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)を含む第2の組成物と組み合わせ」さえすれば「個体の変性した椎間板の治療」に使用できると当業者が合理的に推認することができるとはいえない。 そうすると、本願発明1を実施するためには、「同じ個体または同じもしくは異なる種由来の別の個体の髄核(NP)由来の1つまたは複数の成分」と「Tie2+細胞及び/又は多血小板血漿(PRP)」の任意の組み合わせについて、「個体の変性した椎間板の治療」に使用できる組み合わせを試験・選択するという当業者に期待し得る程度を越えた試行錯誤を要するものである。 (2) 審判請求人の主張について 審判請求人の主張が採用できないことは、前記2.(5)に記載したとおりである。 (3)小括 以上のとおりであるから、この出願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条6項1号に規定する要件も満たしていないから、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

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2021-013698

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    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K
  • 2023-001003拒絶査定不服審判 / 2026-08-19 / 原査定取消(特許/登録すべき)テストステロン組成物の針に補助されるジェット注射投与
    共通の審決分類: 121・A61K、536・A61K、537・A61K

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