特許拒絶査定不服審判
2021-013091
反射防止フィルム、偏光板およびディスプレイ装置
- 審判番号
- 2021-013091
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-515958外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年09月29日
- 審決日
- 2022年04月12日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エルジー・ケム・リミテッド
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】渡部 崇
- 分類
- P18 .121-Z (G02B) / P18 .575-Z (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-515958「反射防止フィルム、偏光板およびディスプレイ装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月 1日国際公開、WO2019/146948、令和 2年12月 3日国内公表、特表2020-535462〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特願2020-515958号(以下「本件出願」という。)は、2019年(平成31年)1月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2018年1月24日 韓国)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 3年 2月16日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 5月 7日提出:意見書
令和 3年 5月 7日提出:手続補正書
令和 3年 5月25日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 9月29日提出:審判請求書
令和 3年 9月29日提出:手続補正書
令和 4年 1月20日提出:上申書
第2 令和3年9月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
令和3年9月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「ハードコート層;および
多官能性(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体を含むバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に分散した無機粒子とを含む低屈折層;を含み、
前記多官能性(メタ)アクリレート系モノマーは、2~4官能性(メタ)アクリレート系モノマーと5~6官能性(メタ)アクリレート系モノマーとを9:1~6:4の重量比で含み、
前記バインダー樹脂は、前記多官能性(メタ)アクリレート系モノマー;および光反応性官能基を含むフッ素系化合物の共重合体をさらに含む、反射防止フィルム。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は当合議体が付与したものであり、補正箇所を示す。
「ハードコート層;および
多官能性(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体を含むバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に分散した無機粒子とを含む低屈折層;を含み、
前記多官能性(メタ)アクリレート系モノマーは、2~4官能性(メタ)アクリレート系モノマーと5~6官能性(メタ)アクリレート系モノマーとを9:1~6:4の重量比で含み、
前記バインダー樹脂は、前記多官能性(メタ)アクリレート系モノマー;および光反応性官能基を含むフッ素系化合物の共重合体をさらに含み、
前記無機粒子は、直径が1~50nmのソリッド状無機粒子および直径が10~100nmの中空状無機粒子を含み、
前記多官能性(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体100重量部に対して、前記無機粒子の含有量は230~446重量部である、反射防止フィルム。」
2 補正の適否について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するための必要な事項である「無機粒子」について、本件出願の出願当初の明細書の【0040】等の記載に基づき、「前記無機粒子は、直径が1~50nmのソリッド状無機粒子および直径が10~100nmの中空状無機粒子を含み、」を挿入するとともに、本件出願の出願当初の明細書の【0089】~【0098】等の記載に基づき、「前記多官能性(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体100重量部に対して、前記無機粒子の含有量は230~446重量部である」を挿入することを含むものである。そして、この補正は、補正前の発明特定事項である「無機微粒子」の種類を特定し、その含有量を特定の範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野(【0002】)及び解決しようとする課題(【0006】)が同一である。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしているとともに、同条5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正後発明
本件補正後発明は、上記「1」「(2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものである。
(2)引用文献及び引用発明
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用され、パリ条約による優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2009-86360号公報(以下、同じく「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)、陰極管表示装置(CRT)、又はプラズマディスプレイ(PDP)等のディスプレイ(画像表示装置)の前面に設置される反射防止フィルムに関する。
・・・省略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高屈折率層を独立して設ける場合では、透明基材上にハードコート層等の機能層、高屈折率層、低屈折率層という層構成になり、工程数が増え、製造コストが上昇してしまう。
【0006】
また、低屈折率層に隣接する機能層に高屈折率微粒子を含有させる場合では、当該機能層は、機能を発現するためにある一定以上の膜厚を有するため、斯かる膜厚を有する層の屈折率を高めようとすると、高屈折率微粒子の添加量が多くなり、製造コストが上昇してしまう。さらに、高屈折率微粒子の添加量が多いため、相対的に本来の耐擦傷性等の機能を発現する成分やバインダー成分が減少し、機能層の性質を低下させてしまうという問題があった。
・・・省略・・・
【0008】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、高屈折率層を独立して設けることなく、高屈折率微粒子の量を抑えながら、低屈折率層に隣接する機能層の低屈折率層側界面付近を効率良く高屈折率化し、効果的な反射防止性が得られることに加え、機能層の機能も十分に発揮でき、且つ、製造コストを低減可能な反射防止フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題点について鋭意検討を重ねた結果、低屈折率層の透明基材フィルム側に隣接する機能層の層全体を高屈折率化するのではなく、当該隣接する機能層の中でも、低屈折率層に隣接している極薄い部分を高屈折率化することにより、反射防止フィルムの反射率を効果的に低減でき、且つ、機能層の機能も十分に発揮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、上記問題点を解決する本発明の特徴は、以下の点である。
【0010】
本発明に係る反射防止フィルムは、透明基材フィルムの一面側に、透明基材フィルムに近い側からハードコート層及び当該ハードコート層に隣接して低屈折率層を設けてなる反射防止フィルムであって、
当該ハードコート層は、
平均粒径が10nm以上100nm以下であり、少なくとも表面の一部を有機成分で被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基aを表面に有する反応性高屈折率微粒子A、及び、
前記反応性高屈折率微粒子Aの反応性官能基aとの架橋反応性を有する反応性官能基cを有するバインダー成分Cを含み、系内における硬化反応性も有する硬化性バインダー系、を含有するハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性高屈折率微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有しており、
当該スキン層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性高屈折率微粒子Aの平均粒子数が、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性高屈折率微粒子Aの平均粒子数の2倍以上であることを特徴とする。
・・・省略・・・
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る反射防止フィルムは、高屈折率微粒子の添加量を抑えながら、ハードコート層の低屈折率層に隣接する極薄い部分を効率良く高屈折率化することができ、また、当該ハードコート層等の機能層の機能を十分に発揮できるため、製造コストを低減でき、且つ、反射防止性、及びハードコート性に優れる。」
(イ)
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明に係る反射防止フィルムは、透明基材フィルムの一面側に、透明基材フィルムに近い側からハードコート層及び当該ハードコート層に隣接して低屈折率層を設けてなる反射防止フィルムであって、
当該ハードコート層は、
平均粒径が10nm以上100nm以下であり、少なくとも表面の一部を有機成分で被覆され、当該有機成分により導入された反応性官能基aを表面に有する反応性高屈折率微粒子A、及び、
前記反応性高屈折率微粒子Aの反応性官能基aとの架橋反応性を有する反応性官能基cを有するバインダー成分Cを含み、系内における硬化反応性も有する硬化性バインダー系、を含有するハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
当該ハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面及びその近傍の表層領域に、当該表層領域よりも透明基材フィルム側の領域に比べて、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性高屈折率微粒子Aの平均粒子数が多いスキン層を有しており、
当該スキン層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性高屈折率微粒子Aの平均粒子数が、当該ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当りの前記反応性高屈折率微粒子Aの平均粒子数の2倍以上であることを特徴とする。
・・・省略・・・
【0036】
図1は、本発明に係る反射防止フィルムの層構成を模式的に示した断面図である。図1において、反射防止フィルム1は、透明基材フィルム10の観察者70側に、透明基材フィルムに近い側から、ハードコート層20、及び低屈折率層40を設けたものであって、当該ハードコート層20は、低屈折率層40側の表層領域にスキン層30を有している。
尚、図1以下の図において、説明の容易化のために、厚み方向(図の上下方向)を面方向(図の左右方向)の縮尺よりも大幅に拡大誇張して図示してある。
・・・省略・・・
【0046】
以下、本発明に係る反射防止フィルムを形成する透明基材フィルム、ハードコート層、低屈折率層について順に説明する。
【0047】
<1.透明基材フィルム>
透明基材フィルムの材質は、特に限定されないが、反射防止フィルムに用いられる一般的な材料を用いることができ、例えば、セルロースアシレート、シクロオレフィンポリマー、アクリレート系ポリマー、又はポリエステルを主体とするものが好ましい。ここで、「主体とする」とは、基材構成成分の中で最も含有割合が高い成分を示すものである。
・・・省略・・・
【0050】
<2.ハードコート層>
本発明に係るハードコート層は、必須成分として、反応性高屈折率微粒子A、及びバインダー成分Cを含むハードコート層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなる。当該ハードコート層用硬化性樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、耐擦傷性を向上する等の目的に応じて、適宜、反応性無機微粒子、重合開始剤、溶剤、レベリング剤等のその他の成分を含有しても良い。
・・・省略・・・
【0054】
<2-1.反応性高屈折率微粒子A>
反応性高屈折率微粒子Aとは、コアとなる高屈折率微粒子の少なくとも表面の一部に有機成分が被覆し、当該有機成分により導入された反応性官能基aを表面に有する無機微粒子のことである。当該反応性高屈折率微粒子Aは、ハードコート層の低屈折率層側界面付近の表層領域において、スキン層を形成し、当該表層領域を高屈折率化し、ハードコート層に隣接する低屈折率層との屈折率差を大きくする機能を有する。
・・・省略・・・
【0100】
<2-2.硬化性バインダー系>
本明細書において、ハードコート層の硬化性バインダー系の構成成分とは、バインダー成分Cの他に、必要に応じて当該バインダー成分C以外の硬化性バインダー成分、ポリマー成分、反応性無機微粒子B、重合開始剤等の硬化後にハードコート層のマトリクス成分となるものを表す。
【0101】
<2-2-1.バインダー成分C>
ハードコート層を形成するバインダー成分Cは、前記反応性高屈折率微粒子Aの反応性官能基a、及び後述する反応性無機微粒子Bの反応性官能基bと架橋反応性を有する反応性官能基cを有し、当該反応性官能基間で架橋結合し、架橋構造が形成される。また、当該バインダー成分Cは、十分な架橋性を得るために、当該反応性官能基cを3つ以上有することが好ましい。当該反応性官能基cとしては、重合性不飽和基が好適に用いられ、好ましくは光硬化性不飽和基であり、特に好ましくは電離放射線硬化性不飽和基である。その具体例としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性二重結合及びエポキシ基等が挙げられる。
・・・省略・・・
【0141】
<3.低屈折率層>
低屈折率層は、外部からの光(例えば蛍光灯、自然光等)が反射防止フィルムの表面にて反射する際、多層膜での光の干渉効果によってその反射率を低くするという役割を果たす層である。本発明の好ましい態様によれば、低屈折率層表面に低屈折率層を形成したものが好ましい。低屈折率層は、当該低屈折率層の屈折率が当該層の下の層の屈折率より低いものである。
本発明に係る低屈折率層は、低屈折率層用硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、当該樹脂組成物は、必須成分であるバインダー成分の他、低屈折率層の屈折率を下げる等の目的で、適宜必要に応じて、中空粒子、中実粒子、重合開始剤、溶剤、レベリング剤等の成分を含んでも良い。
本発明に係る低屈折率層の屈折率は、1.45以下が好ましく、1.42以下がより好ましい。
・・・省略・・・
【0143】
<3-1.低屈折率層のバインダー成分>
低屈折率層のバインダー成分は、屈折率が1.45以下であることが好ましい。斯かるバインダー成分として、好ましくは(1)シリカ又はフッ化マグネシウムを含有する樹脂、(2)低屈折率樹脂であるフッ素系樹脂、(3)シリカ又はフッ化マグネシウムを含有するフッ素系樹脂、(4)シリカ又はフッ化マグネシウムの薄膜等のいずれかで構成される。フッ素樹脂以外の樹脂については、ハードコート層を構成する樹脂と同様の樹脂を用いることができる。(当合議体注:「フッ素樹脂」は「フッ素系樹脂」の誤記である。)
前記フッ素系樹脂としては、少なくとも分子中にフッ素原子を含む重合性化合物又はその重合体を用いることができる。重合性化合物は、特に限定されないが、例えば、電離放射線で硬化する官能基、熱硬化する極性基等の硬化反応性の基を有するものが好ましい。また、これらの反応性の基を同時に併せ持つ化合物でもよい。この重合性化合物に対し、重合体とは、上記のような反応性基などを一切もたないものである。
【0144】
電離放射線硬化性基を有する重合性化合物としては、エチレン性不飽和結合を有するフッ素含有モノマーを広く用いることができる。より具体的には、フルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロブタジエン、パーフルオロ‐2,2‐ジメチル‐1,3‐ジオキソール等)を例示することができる。(メタ)アクリロイルオキシ基を有するものとして、2,2,2‐トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3‐ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2‐(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2‐(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2‐(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2‐(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、α‐トリフルオロメタクリル酸メチル、α‐トリフルオロメタクリル酸エチルのような、分子中にフッ素原子を有する(メタ)アクリレート化合物;分子中に、フッ素原子を少なくとも3個持つ炭素数1~14のフルオロアルキル基、フルオロシクロアルキル基又はフルオロアルキレン基と、少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基とを有する含フッ素多官能(メタ)アクリル酸エステル化合物等もある。
【0145】
熱硬化性極性基として好ましいのは、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基等の水素結合形成基である。これらは、塗膜との密着性だけでなく、シリカなどの無機超微粒子との親和性にも優れている。熱硬化性極性基を持つ重合性化合物としては、例えば、4‐フルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体;フルオロエチレン‐炭化水素系ビニルエーテル共重合体;エポキシ、ポリウレタン、セルロース、フェノール、ポリイミド等の各樹脂のフッ素変性品などを挙げることができる。
電離放射線硬化性基と熱硬化性極性基とを併せ持つ重合性化合物としては、アクリル酸又はメタクリル酸の部分又は完全フッ素化アルキル、アルケニル、アリールエステル類、完全又は部分フッ素化ビニルエーテル類、完全又は部分フッ素化ビニルエステル類、完全又は部分フッ素化ビニルケトン類等を例示することができる。
【0146】
また、フッ素原子を持つ重合性化合物や重合体とともに、ハードコート層用硬化性樹脂組成物で述べたような各樹脂成分を混合して使用することもできる。
【0147】
<3-2.中空粒子>
中空粒子とは、外殻層を有し、外殻層に囲まれた内部が多孔質組織、又は空洞である粒子をいう。当該多孔質組織、及び当該空洞には空気(屈折率:1)が含有されており、当該中空粒子を低屈折率層に含有させることで、当該層の屈折率を低減することができる。本発明に係る低屈折率層は、当該層の屈折率を低下させる等の目的で、前記電離放射線硬化性樹脂の他、中空粒子を含有しても良い。
・・・省略・・・
【0152】
本発明に係る低屈折率層において、中空粒子を金属酸化物で形成する場合、材料の屈折率や生産性を考慮し、シリカ(二酸化珪素:SiO2)からなる中空粒子を用いることが特に好ましい。中空シリカ粒子は、微細な空隙を内部に有しており、屈折率1の空気が当該粒子内部に含まれている。そのため、当該粒子自体の屈折率が前記電離放射線硬化性樹脂及び後述する中実粒子に比べて低く、当該中空粒子を含有する低屈折率層の屈折率を低下させることができる。すなわち、空隙を有する中空シリカ粒子は、内部に気体を有しないシリカ粒子(屈折率n=1.46程度)に比べると、屈折率が1.20~1.45と低く、低屈折率層の屈折率を1.45以下にすることができる。
【0153】
<3-3.中実粒子>
本発明に係る低屈折率層の中実粒子は、当該中実粒子内部が、多孔質でもなく空洞でもない粒子をいう。空隙を有しないため前記中空粒子に比べ、外部から粒子にかかる圧力(外圧)で潰れにくく、耐圧性に優れる。そのため、当該中実粒子を含有する低屈折率層の耐擦傷性を向上させやすくなる。本発明に係る低屈折率層は、当該層の耐擦傷性を向上させる等の目的で、前記電離放射線硬化性樹脂の他、中実粒子を含有しても良い。
【0154】
本発明に係る低屈折率層の中実粒子の材料は、無機系、有機系のものを使用することができる。
【0155】
中実粒子を無機材料で形成する場合、当該中実粒子の材料は、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、及び金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。中実粒子を上記材料とすれば、高強度な粒子が安定して得られる。より好ましいのは、中実粒子の材料を、金属酸化物又は金属ハロゲン化物とすることであり、さらに好ましいのは、金属酸化物又は金属フッ化物とすることである。これら材料を用いると、さらに、屈折率が低く、低屈折率層としての性能が良好となりやすい。
【0156】
前記金属酸化物等に用いる金属元素としては、Na、K、Mg、Ca、Ba、Al、Si、Bが好ましく、Mg、Ca、Al及びSiがさらに好ましい。斯かる金属元素を用いることにより、強度を高くし、屈折率を低くすることができる。前記金属元素は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0157】
本発明に係る低屈折率層においては、当該低屈折率層の屈折率をより低減するために、中実粒子の屈折率は、電離放射線硬化性樹脂の屈折率よりも小さいことが好ましい。シリカ(SiO2)の屈折率は1.42~1.46であり、電離放射線硬化性樹脂として好ましく用いられるアクリル系樹脂の屈折率1.49~1.55よりも低い。このため、中実粒子の材料は、シリカ(SiO2)を用いることが特に好ましい。
【0158】
本発明に係る低屈折率層において、前記中空粒子、及び前記中実粒子は、前記ハードコート層の反応性高屈折率微粒子A、又は反応性無機微粒子Bの様に、低屈折率層のバインダー成分の反応性官能基と架橋結合を形成できる反応性官能基を有することが、低屈折率層の膜強度を向上できる点から好ましい。前記中空粒子、及び前記中実粒子への反応性官能基の導入は、前記ハードコート層の反応性高屈折率微粒子A、又は反応性無機微粒子Bと同様の方法を用いることができる。」
(ウ)「【実施例】
【0171】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。尚、実施例中、部は別途記載がない場合は、重量部を意味する。また、低屈折率層の厚さ(低屈折率層のハードコート層側界面(ハードコート層の低屈折率層側界面が凹凸を有する場合は、当該凹部表面)から低屈折率層のハードコート層とは反対側の界面(ハードコート層の低屈折率層側界面が凹凸を有する場合は、低屈折率層のハードコート層とは反対側の凹部表面)までの厚さ)は、反射防止フィルム断面のTEM写真において、5箇所を測定し、その平均値とした。同様に、ハードコート層の厚さ(ハードコート層の透明基材フィルム側界面からハードコート層の透明基材フィルムとは反対側の界面(ハードコート層の低屈折率層側界面が凹凸を有する場合は、当該凹部表面)までの厚さ)も、反射防止フィルム断面のTEM写真において、5箇所を測定し、その平均値とした。
【0172】
<製造例1:反応性高屈折微粒子A(1)の調製>
(1)表面吸着イオン除去
粒径50nmの水分散微粒子酸化チタン(商品名:微粒子酸化チタン(テイカ(株)社製、MT-600B、平均粒径50nm)を陽イオン交換樹脂(商品名:ダイヤイオンSK1B、三菱化学(株)製)400gを用いて3時間イオン交換を行い、次いで、陰イオン交換樹脂(諸品名:ダイヤイオンSA20A、三菱化学(株)製)200gを用いて3時間イオン交換を行った後、洗浄し固形分濃度20重量%のチタン微粒子の水分散体を得た。
この時、チタン微粒子の水分散体のNa2O含有量は、チタン微粒子当たり各7ppmであった。
(2)表面処理(単官能モノマーの導入)
上記(1)の処理を行ったチタン微粒子の水分散液10gに150mLのイソプロパノール、4.0gの3,6,9-トリオキサデカン酸、及び4.0gのメタクリル酸を加え、30分間撹拌し混合した。
得られた混合液を、60℃で5時間加熱しながら撹拌する事で、チタン微粒子表面にメタクリロイル基が導入されたチタン微粒子分散液を得た。得られたチタン微粒子分散液を、ロータリーエバポレーターを用いて蒸留水、及びイソプロパノールを留去させ、乾固させないようにメチルエチルケトンを加えながら、最終的に残留する水やイソプロパノールを0.1重量%とし、固形分50重量%のチタン分散メチルエチルケトン溶液を得た。
このようにして得られたチタン微粒子(反応性高屈折微粒子A(1))は、日機装(株)社製、Nanotrac粒度分析計により測定した結果、d50=55nmの平均粒径を有していた。また、チタン微粒子表面を被覆する有機成分量は、熱重量分析法により測定した結果3.12×10-3g/m2であった。また、得られた反応性高屈折微粒子A(1)の比重は、1.72だった。
・・・省略・・・
【0178】
<製造例7.ハードコート層用硬化性樹脂組成物(1)の調製>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA):65重量部
・イソシアヌル酸変性ジアクリレート(M-215)(東亞合成(株)製):35重量部
・イルガキュア184(光重合開始剤):6重量部
・シリコーン(レベリング剤):0.045重量部
・反応性高屈折微粒子A(1)(平均粒径55nm):6.8重量部
・反応性無機微粒子B(1)(平均粒径60nm):20重量部
・トルエン:64重量部
上記材料を十分混合し、組成物として調製した。この組成物を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して固形分30質量%のハードコート層用硬化性樹脂組成物(1)を調製した。
・・・省略・・・
【0198】
<製造例27.低屈折率層用硬化性樹脂組成物(1)の調製>
・表面修飾中空シリカA(中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン):15.0重量部
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA):1.2重量部
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA):0.4重量部
・イルガキュア127(商品名、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製):0.1重量部
・X-22-164E(商品名、信越化学工業(株)製):0.15重量部
・メチルイソブチルケトン:83.5重量部
上記の各成分を混合し、低屈折率層用硬化性樹脂組成物を調製した。
【0199】
<実施例1.反射防止フィルムの作製>
厚さ80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(透明基材フィルム)の一方の側に、上記製造例7で調製したハードコート層用硬化性樹脂組成物(1)をミヤバーコートで20g/m2塗工し、溶剤を蒸発乾燥後、酸素濃度を0.1%以下に保って、80W/cmの紫外線照射装置で10m/minの速度で2度照射することにより、ハードコート層を形成し、次いで、上記製造例27で調製した低屈折率層用硬化性樹脂組成物(1)をミヤバーコートで2g/m2塗工し、溶剤を蒸発乾燥後、酸素濃度を0.1%以下に保って、80W/cmの紫外線照射装置で10m/minの速度で2度照射することにより、低屈折率層を形成し、低屈折率層の厚さが0.1μm、ハードコート層の厚さが10μmの反射防止フィルムを得た。
また、ハードコート層のスキン層の厚み方向断面における単位面積当たりの反応性高屈折微粒子Aの平均粒子数が、ハードコート層の厚み方向断面における単位面積当たりの反応性高屈折微粒子Aの平均粒子数の倍(300%>100%)だった。」
(エ)図1
[図:0001389039000001.jpg]
イ 上記アの記載に基づけば、引用文献1には、実施例1として記載された反射防止フィルムについて、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 トリアセチルセルロースフィルムの一方の側に、ハードコート層用硬化性樹脂組成物を塗工し、溶剤を蒸発乾燥後、紫外線照射装置で照射することにより、ハードコート層を形成し、次いで、調製した低屈折率層用硬化性樹脂組成物を塗工し、溶剤を蒸発乾燥後、紫外線照射装置で照射することにより、低屈折率層を形成し、得た、反射防止フィルムであって、
低屈折率層用硬化性樹脂組成物は、
表面修飾中空シリカ(中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン): 15.0 重量部
ペンタエリスリトールトリアクリレート: 1.2 重量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:0.4 重量部
イルガキュア127: 0.1 重量部
X-22-164E: 0.15重量部
メチルイソブチルケトン: 83.5 重量部
上記の各成分を混合し、調整した。」
(3)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア ハードコート層について
引用発明は、「トリアセチルセルロースフィルムの一方の側に、ハードコート層用硬化性樹脂組成物を塗工し、溶剤を蒸発乾燥後、紫外線照射装置で照射することにより、ハードコート層を形成し、次いで、調製した低屈折率層用硬化性樹脂組成物を塗工し、溶剤を蒸発乾燥後、紫外線照射装置で照射することにより、低屈折率層を形成し、得た」ものである。
上記製法からみて、引用発明の「ハードコート層」は、その文言どおり、本件補正後発明の「ハードコート層」に相当する。
イ 多官能性(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体、バインダー樹脂について
引用発明の「低屈折率層用硬化性樹脂組成物」は、「表面修飾中空シリカ(中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン):15.0重量部」、「ペンタエリスリトールトリアクリレート:1.2重量部」、「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:0.4重量部」、「イルガキュア127:0.1重量部」、「X-22-164E:0.15重量部」、「メチルイソブチルケトン:83.5重量部」の「各成分を混合し、調整した」ものである。ここで、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」及び「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」が、多官能性(メタ)アクリレート系モノマーに該当することは技術常識である。
また、上記アの製法及び上記組成からみて、引用発明の「低屈折率層」において、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」及び「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」の共重合体が形成されていること及び、引用発明の「低屈折率層」において、中空シリカ微粒子を除いた共重合体を含む成分(以下「樹脂A」という。)が、バインダー樹脂として機能することは明らかである。
そうしてみると、引用発明の「樹脂A」は、本件補正後発明の「バインダー樹脂」に相当する。さらに、引用発明の「樹脂A」は、本件補正後発明の「バインダー樹脂」の「多官能性(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体を含む」との要件を満たす。
ウ 2~4官能(メタ)アクリレート系モノマー、5~6官能(メタ)アクリレート系モノマーについて
引用発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート」及び「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は、化学構造からみて、それぞれ本件補正後発明の「2~4官能性(メタ)アクリレート系モノマー」及び「5~6官能性(メタ)アクリレート系モノマー」に相当する。また、上記ア及びイより、引用発明の「低屈折率層用硬化樹脂組成物」における「ペンタエリスリトールトリアクリレート」と「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」との重量比は、3:1(1.2重量部:0.4重量部)である。
そうしてみると、引用発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート」及び「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」は、本件補正後発明の「多官能性(メタ)アクリレート系モノマー」の「2~4官能性(メタ)アクリレート系モノマーと5~6官能性(メタ)アクリレート系モノマーとを9:1~6:4の重量比で含み」との要件を満たす。
エ 無機粒子
上記アの製法及び上記イの組成からみて、引用発明の「中空シリカ微粒子」は、樹脂Aに分散しているといえる。
そうしてみると、引用発明の「中空シリカ微粒子」は、本件補正後発明の「無機粒子」に相当する。また、引用発明の「中空シリカ微粒子」は、本件補正後発明の「無機粒子」の「前記バインダー樹脂に分散した」との要件を満たす。
オ 低屈折層について
上記ア~エより、引用発明の「低屈折率層」は、本件補正後発明の「低屈折層」に相当する。また、引用発明の「低屈折率層」は、本件補正後発明の「低屈折層」の「バインダー樹脂と」、「無機粒子とを含む」との要件を満たす。
カ 反射防止フィルムについて
上記アの製法より、引用発明の「反射防止フィルム」は、ハードコート層及び低屈折率層を含む。
上記ア~オ及び上記の点を総合すると、引用発明の「反射防止フィルム」は、その文言どおり、本件補正後発明の「反射防止フィルム」に相当する。また、引用発明の「反射防止フィルム」は、本件補正後発明の「反射防止フィルム」の「ハードコート層;および」「低屈折層;を含む」との要件を満たす。
(4)一致点及び相違点
ア 一致点
以上の対比結果を踏まえると、本件補正後発明と引用発明は、以下の点で一致する。
「ハードコート層;および
多官能性(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体を含むバインダー樹脂と、前記バインダー樹脂に分散した無機粒子とを含む低屈折層;を含み、
前記多官能性(メタ)アクリレート系モノマーは、2~4官能性(メタ)アクリレート系モノマーと5~6官能性(メタ)アクリレート系モノマーとを9:1~6:4の重量比で含む、反射防止フィルム。」
イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
「バインダー樹脂」が、本件補正後発明は、「前記多官能性(メタ)アクリレート系モノマー;および光反応性官能基を含むフッ素系化合物の共重合体をさらに含」むのに対して、引用発明の「樹脂A」は、光反応性官能基を含むフッ素系化合物を含まず、このように特定されていない点。
(相違点2)
「無機粒子」が、本件補正後発明は、「直径が1~50nmのソリッド状無機粒子および直径が10~100nmの中空状無機粒子を含み、前記多官能性(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体100重量部に対して、前記無機粒子の含有量は230~446重量部である」のに対して、引用発明は、「表面修飾中空シリカ(中空シリカ微粒子20重量%のメチルイソブチルケトン):15.0重量部」であることにとどまる点。
(5)判断
技術的な関連性に鑑み、相違点1及び2をまとめて検討する。
ア 引用文献1に記載された事項及び周知の技術的事項
(ア) 光反応性官能基を含むフッ素系化合物について
引用文献1の【0143】、【0144】及び【0145】には、それぞれ、「低屈折率層のバインダー成分は、屈折率が1.45以下であることが好ましい。斯かるバインダー成分として、好ましくは・・・(2)低屈折率樹脂であるフッ素系樹脂、(3)シリカ又はフッ化マグネシウムを含有するフッ素系樹脂・・・等のいずれかで構成される。・・・前記フッ素系樹脂としては、少なくとも分子中にフッ素原子を含む重合性化合物又はその重合体を用いることができる。重合性化合物は、特に限定されないが、例えば、電離放射線で硬化する官能基、熱硬化する極性基等の硬化反応性の基を有するものが好ましい。」、「電離放射線硬化性基を有する重合性化合物としては、エチレン性不飽和結合を有するフッ素含有モノマーを広く用いることができる。」及び「電離放射線硬化性基と熱硬化性極性基とを併せ持つ重合性化合物としては、アクリル酸又はメタクリル酸の部分又は完全フッ素化アルキル、アルケニル、アリールエステル類、完全又は部分フッ素化ビニルエーテル類、完全又は部分フッ素化ビニルエステル類、完全又は部分フッ素化ビニルケトン類等を例示することができる。」と記載されている。
ここで、引用文献1には、電離放射線硬化性基を有するフッ素原子を含む重合性化合物の機能について明示的な記載はないが、国際公開第2017/095206号の11頁20行~25行及び国際公開第2017/043948号の13頁6行~11行の記載によれば、その機能は反射率を低くし防汚性を高めることであることは、本件優先日において周知であると認められる。
(イ) ソリッド状無機粒子及び中空状無機粒子について
引用文献1には、中実粒子(本件補正後発明の「ソリッド状無機粒子」に相当。)及び中空粒子について、それぞれ「本発明に係る低屈折率層の中実粒子は、当該中実粒子内部が、多孔質でもなく空洞でもない粒子をいう。空隙を有しないため前記中空粒子に比べ、外部から粒子にかかる圧力(外圧)で潰れにくく、耐圧性に優れる。そのため、当該中実粒子を含有する低屈折率層の耐擦傷性を向上させやすくなる。」(【0153】)及び「中空粒子とは、外殻層を有し、外殻層に囲まれた内部が多孔質組織、又は空洞である粒子をいう。当該多孔質組織、及び当該空洞には空気(屈折率:1)が含有されており、当該中空粒子を低屈折率層に含有させることで、当該層の屈折率を低減することができる。」(【0147】)と記載されている。
上記記載から、引用文献1には、中実粒子及び中空粒子が、引用発明の「反射防止フィルム」において、それぞれ耐擦傷性の向上及び屈折率の低減という機能を担っているとの技術的事項が記載されていると認められる。
(ウ) 無機粒子の直径及び含有量について
低屈折層製造用光硬化性コーティング組成物について、国際公開第2017/155335号の28頁22行~29頁3行、第29頁10行~18行の実施例1~5として、ペンタエリスリトールトリアククリレート100重量部、中空状シリカナノ粒子の直径50~60nm、281重量部、ソリッド状シリカナノ粒子の直径12nm、63重量部、トリメチロールプロパントリアククリレート100重量部、中空状シリカナノ粒子の直径50~60nm、268重量部、ソリッド状シリカナノ粒子の直径12nm、55重量部、国際公開第2017/155338号の28頁1行~9行、16行~24行の実施例1~5として、ペンタエリスリトールトリアククリレート100重量部、中空状シリカナノ粒子の直径50~60nm、281重量部、ソリッド状シリカナノ粒子の直径12nm、63重量部、トリメチロールプロパントリアククリレート100重量部、中空状シリカナノ粒子の直径50~60nm、268重量部、ソリッド状シリカナノ粒子の直径12nm、55重量部、国際公開第2017/078428号の25頁10行~18行、25頁25行~26頁4行、26頁11行~19行の実施例1~6として、ペンタエリスリトールトリアククリレート100重量部、中空状シリカナノ粒子の直径50~60nm、281重量部、ソリッド状シリカナノ粒子の直径12nm、63重量部、トリメチロールプロパントリアククリレート100重量部、中空状シリカナノ粒子の直径50~60nm、268重量部、ソリッド状シリカナノ粒子の直径12nm、55重量部、トリメチロールプロパントリアククリレート100重量部、中空状シリカナノ粒子の直径50~60nm、268重量部、ソリッド状二酸化チタンナノ粒子の直径15nm、70重量部と記載されている。
上記記載によれば、反射防止フィルムの技術分野において、直径が12~15nmのソリッド状粒子及び直径が50~60nmの中空状粒子を含み、かつ、多官能(メタ)アクリレート系モノマー100重量部に対して、ソリッド状粒子と中空状粒子との合計の含有量が323~344重量部程度である低屈折層製造用光硬化性コーティング組成物は、本件優先日において周知であると認められる。
イ 本件補正後発明における無機粒子の含有量の技術的意義について
本件補正後発明の多官能(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体100重量部に対する無機粒子の含有量の臨界的意義について検討する。本件明細書の実施例1~6(【0087】~【0097】)における、多官能(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体100重量部に対する無機粒子の含有量の重量部は、それぞれ、100、289、299、251、446、230である。これに対して、本件明細書の比較例1~5(【0099】~【0103】)における、多官能(メタ)アクリレート系モノマーの重合体又は共重合体100重量部に対する無機粒子の含有量の重量部は、それぞれ、100、289、299、251、446である。ここで、表1(【0108】)の各種評価結果を参酌するに、実施例1~6と比較例1~5とで差異が認められるのは耐スクラッチ性(実施例1及び比較例1が300gであるのに対して、実施例2~6及び比較例2~5が500gであること)にとどまり、当該差異は無機粒子の有無であって、無機粒子の含有量に起因するものではないことは明らかである。
そうしてみると、本件補正後発明における、多官能(メタ)アクリレート系モノマーの共重合体100重量部に対する無機粒子の含有量の数値範囲(230~446重量部)に臨界的意義は認められない。
ウ 判断
上記ア~イによれば、反射率を低くし防汚性を高めること、耐擦傷性を向上させること及び(低屈折層の)屈折率を低減することは、引用発明の「反射防止フィルム」が有する課題といえるから、上記アに示した引用文献1に記載された技術的事項及び上記周知の技術的事項を心得た当業者には、引用発明において、上記課題を両立させるために「低屈折率層用硬化性樹脂組成物」の成分として、電離放射線硬化性基を有するフッ素原子を含む重合性化合物を採用し、さらに無機粒子成分として、中空シリカ微粒子に加えて、中実粒子を採用する動機は十分にあるといえる。そうすると、上記ア(ウ)の周知技術を熟知した当業者が、無機粒子成分の選択にあたり、当該周知技術を参考にして、中実粒子及び中空シリカ微粒子の含有量並びに中実粒子及び中空シリカ微粒子の直径を調整し、これらの微粒子を相違点2に係る本件補正後発明の要件を満たすものとすることは適宜なし得たことである。ここで、無機粒子の含有量を相違点2に係る数値範囲(230~446重量部)に臨界的意義が認められないことは上記イで述べたとおりである。また、「フッ素原子を含む重合性化合物」を採用した場合、引用発明の「樹脂A」には、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」と「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」と「電離放射線硬化性基を有するフッ素原子を含む重合性化合物」との共重合体が形成される(相違点1)こととなる。
。
エ 相違点1及び2について
したがって、引用発明及び上記周知技術1~2に基づいて、上記相違点1及び2に係る本件補正後発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(6)効果について
本件補正後発明の効果について、本件明細書の【0081】には、「本発明によれば、高い耐摩耗性および耐スクラッチ性などの機械的物性と優れた光学特性を有しながらも、外部の擦りや摩擦などによって損傷した部分の反射率の上昇を効果的に抑制する反射防止フィルムと、前記反射防止フィルムを含む偏光板と、前記反射防止フィルムを含むディスプレイ装置を提供することができる。」と記載されている。また、本件明細書の【0108】には、平均反射率の上昇量、耐スクラッチ性及び防汚性のいずれかについて、実施例1及び比較例よりも実施例2~6が優れていることが示されている。
しかしながら、このような効果は、上記(5)ア~イに照らせば、本件補正後発明の構成から当業者が十分予測できる範囲内のものであって格別顕著なものともいえない。
(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和3年5月7日提出の意見書において、「引用文献1には、「光反応性官能基を含むフッ素系化合物が含まれることによって、より低い反射率および向上した透光率を有することができ、同時に、外部の擦りや摩擦などによって損傷した部分の反射率の上昇を効果的に抑制することができる」(当初明細書の段落[0031])ことについては記載も示唆もされていません。このような効果については優先日における当業者が予測できたものではなく、本願発明において初めて見出した有利な効果であると思料いたします。すなわち、引用文献1に記載された発明に基づいて、補正後の本願発明を容易に想到することはできませんでした。」と主張している。また、令和3年9月29日提出の審判請求書において、「したがって、特定の直径及び含有量でソリッド状無機粒子及び中空状無機粒子を含む本願発明の反射防止フィルムが引用文献1から6に記載されているとは認められず、また、これらの引用文献に基づいたとしても、本願発明の外部摩擦による平均反射率の上昇を抑制するという効果も予測することはできませんでした。したがって、引用文献1から6に基づいたとしても、補正後の本願発明を容易に想到することはできません。」と主張している。
しかしながら、上記(5)及び(6)で示したとおり、審判請求人の主張はいずれも採用することができない。
(8)上申書について
審判請求人は、令和4年1月20日提出の上申書において、請求項1の「2~4官能性(メタ)アクリレート系モノマー」と「5~6官能性(メタ)アクリレート系モノマー」との重量比を「9:1~6:4」から「9:1~8:2」と限定する補正案を示している。
しかしながら、本件明細書の実施例1~6(【0087】~【0097】)における、「2~4官能性(メタ)アクリレート系モノマー」と「5~6官能性(メタ)アクリレート系モノマー」との重量比は、それぞれ、7:3、8:2、7:3、6:4、7:3、9:1である。そして、表1(【0108】)の評価結果からは、実施例2(8:2)及び実施例6(9:1)が、他の実施例(7:3、6:4)よりも、平均反射率上昇量及び耐スクラッチ性及び防汚性が優れていると理解することはできない。そうすると、上記補正案の「2~4官能性(メタ)アクリレート系モノマー」と「5~6官能性(メタ)アクリレート系モノマー」との重量比の数値範囲について、臨界的意義は認められない。
そうしてみると、引用発明において、「ペンタエリスリトールトリアクリレート」と「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」との重量比を「9:1~8:2」とすることは、当業者にとって適宜選択可能な設計変更にすぎない。
したがって、補正案を採用したとしても上記(5)の結論は変わらない。
(9)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条7項に規定に違反するので、同法第159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記「第2 令和3年9月29日にされた手続補正についての補正の却下の決定」[結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、本願発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。
4 対比及び判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正後発明から、上記第2[理由]1の補正事項に係る事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定した本件補正後発明も、上記第2[理由]2に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び周知技術に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項に規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-013091