審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2021-012548

加飾フィルム

審判番号
2021-012548
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-548971外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年09月17日
審決日
2022年09月27日
公報発行日
2023年01月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (B32B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-548971「加飾フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月11日国際公開、WO2018/084068〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 13項目
理 由

第1 手続の経緯

本願は、2017年(平成29年)10月26日(優先権主張 平成28年11月1日 日本国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年4月 1日付け:拒絶理由通知書
令和3年5月11日 :意見書及び手続補正書
令和3年8月16日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和3年9月17日 :審判請求書及び手続補正書

第2 令和3年9月17日提出の手続補正書による手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

令和3年9月17日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

令和3年9月17日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、令和3年5月11日提出の手続補正書により補正された)下記の(1)に示す請求項1を下記の(2)に示す請求項1に補正するものである(下線は、補正箇所を示す。)。

(1)本件補正前の請求項1

「(I)スチレン系共重合体26~80質量%と(II)メタクリル樹脂20~74質量%からなる樹脂組成物層(a)が、ポリカーボネート樹脂層(b)の少なくとも一方の面に積層されており、樹脂組成物とポリカーボネート樹脂のJIS K7206に準拠して求めたビカット軟化温度の差が0~40℃以内であり、樹脂組成物層(a)とポリカーボネート層(b)の層比が3/97~9/91であり、
(I)スチレン系共重合体が、芳香族ビニル単量体単位45~85質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位10~30質量%からなり、
前記(I)スチレン系共重合体の重量平均分子量が12.6万~17.3万である加飾フィルム。」

(2)本件補正後の請求項1

「(I)スチレン系共重合体26~80質量%と(II)メタクリル樹脂20~74質量%からなる樹脂組成物層(a)が、ポリカーボネート樹脂層(b)の少なくとも一方の面に積層されており、樹脂組成物とポリカーボネート樹脂のJIS K7206に準拠して求めたビカット軟化温度の差が0~40℃以内であり、樹脂組成物層(a)とポリカーボネート層(b)の層比が3/97~9/91であり、
(I)スチレン系共重合体が、芳香族ビニル単量体単位45~85質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位10~30質量%からなり、
前記(I)スチレン系共重合体の重量平均分子量が12.6万~16.8万である加飾フィルム。」

2 本件補正の目的について

本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「(I)スチレン系共重合体の重量平均分子量」が「12.6万~17.3万」であったものを「12.6万~16.8万」と重量平均分子量の範囲を狭くするものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明とは産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

そこで、本件補正によって補正された請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下に検討する。

3 独立特許要件の判断

(1)引用文献の記載事項

折りたたみ中(クリックで表示)

原査定の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2016/132743号(以下「引用文献1」という。)には、「樹脂組成物、成形品および積層体」に関して、次の記載がある(下線は理解の一助のために当審にて付与したものである。)。

「[0001] 本発明は、メタクリル樹脂、ビニル系共重合体および滑剤を含む樹脂組成物に関する。また、前記樹脂組成物を含む成形品および積層体に関する。」

「[0015] [樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、メタクリル樹脂(A)と、下記一般式(1)で示される芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位および下記一般式(2)で示される環状酸無水物(b2)に由来する構造単位を含むビニル系共重合体(B)(以下、「SMA樹脂(B)」と称する)とを含有する樹脂混合物(M)100質量部と、特定の滑剤とを含有してなるものである。
[図:0001392655000001.jpg]
(式中のR1およびR2は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
[図:0001392655000002.jpg]
(式中のR3およびR4は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
[0016] [樹脂混合物(M)]
本発明に係る樹脂混合物(M)は、メタクリル樹脂(A)と、SMA樹脂(B)とを含有してなるものである。
樹脂混合物(M)中のメタクリル樹脂(A)の含有量は5~90質量%の範囲である。・・・本発明の樹脂組成物からなる層は、樹脂混合物(M)中のメタクリル樹脂(A)の含有量が5質量%以上であることで耐擦傷性に優れるものとなり、90質量%以下であることで、他の層と積層した際に高温高湿下における反りの発生を抑制できる。」
「[0022] 樹脂混合物(M)中のSMA樹脂(B)の含有量は10~95質量%の範囲である。・・・樹脂混合物(M)中のSMA樹脂(B)の含有量が10質量%以上であることで他の層と積層した際に、高温高湿下における反りの発生が抑制でき、95質量%以下であることで耐擦傷性に優れる。
[0023] SMA樹脂(B)は、少なくとも芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(b1)と環状酸無水物に由来する構造単位(b2)とよりなるビニル系共重合体(B)である。
・・・
[0026] SMA樹脂(B)中の芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位の含有量は50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。また、SMA樹脂(B)中の芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位の含有量は84質量%以下であることが好ましく、82質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。かかる含有量が50~84質量%の範囲であると、樹脂混合物(M)は耐湿性と透明性に優れるものとなる。・・・
[0027] 芳香族ビニル化合物(b1)としては、例えばスチレン;2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン等の各アルキル置換スチレン;α-メチルスチレン、4-メチル-α-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン;が挙げられ、入手性の観点からスチレンが好ましい。これら芳香族ビニル化合物(b1)は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
[0028] SMA樹脂(B)中の環状酸無水物(b2)に由来する構造単位の含有量は15質量%以上であることが好ましく、18質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、SMA樹脂(B)中の環状酸無水物(b2)に由来する構造単位の含有量は49質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。かかる含有量が15~49質量%の範囲にあることで、樹脂混合物(M)は耐熱性と透明性に優れるものとなる。但し、SMA樹脂(B)が、芳香族ビニル化合物(b1)と環状酸無水物(b2)の2つの単量体から成る場合には、SMA樹脂(B)中の環状酸無水物(b2)に由来する構造単位の含有量は15~50質量%の範囲とすることが好ましい。
[0029] 環状酸無水物(b2)としては、例えば無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられ、入手性の観点から、無水マレイン酸が好ましい。環状酸無水物(b2)は1種を単独で用いても、複数種を併用してもよい。
[0030] SMA樹脂(B)は、芳香族ビニル化合物(b1)および環状酸無水物(b2)に加え、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を含有していることが好ましい。SMA樹脂(B)中のメタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、SMA樹脂(B)中のメタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位の含有量は35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、26質量%以下であることがさらに好ましい。かかる含有量が1~35質量%の範囲にあることで、さらに、透明性、熱安定性に優れるものとなる。」

「[0034] SMA樹脂(B)のMwは40,000~300,000の範囲が好ましい。かかるMwが40,000以上であることで、本発明の積層体は耐擦傷性、耐衝撃性に優れるものとなり、300,000以下であることで、樹脂混合物(M)は成形加工性に優れ、本発明の樹脂組成物からなる成形品の生産性を高められる。」

「[0070] ・・・具体的に、樹脂組成物[C2]のガラス転移温度と樹脂組成物[C1]のガラス転移温度との差ΔTgは、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下である。両樹脂のガラス転移温度が30℃以下であると、積層体の高温高湿下での反りの発生を抑制する効果がより高くなる。」

「[0077] 本発明に係る積層体における樹脂組成物[C1]からなる層の厚さは0.02~0.5mmの範囲であることが好ましい。・・・。かかる厚さが0.01mm未満であると耐擦傷性及び耐候性が不足する場合がある。また0.5mmを超えると耐衝撃性が不足する場合がある。」

「[0087] <実施例1a>
メタクリル樹脂(A)90質量部、ビニル系共重合体(B)(電気化学工業株式会社製、レジスファイR-200、ガラス転移温度134℃、飽和吸水率0.7質量%)10質量部および滑剤(Y)としてセタノール(花王株式会社製、カルコール6098)0.15質量部、滑剤(x1)としてステアリン酸モノグリセリド(花王株式会社製、エキセルT95)0.03質量部を2軸混練機にてシリンダ温度230℃で溶融混練した。その後、溶融樹脂を押し出して、ペレット状の樹脂組成物[1]を得た。樹脂組成物[1]の組成および物性(樹脂組成物のTgおよび飽和吸水率)を表1に示す。」
「[0107] [積層体]
・・・
押出機[I]および押出機[II]から同時にポリカーボネートと樹脂組成物とを押出して、それぞれ予め樹脂を充填させたフィルター孔サイズ15μmのプリーツ型円筒フィルター(富士フィルター工業株式会社製)を通過後に、ジャンクションブロックに導入し、次いで樹脂吐出口幅1600mm、リップ間隔2.0mmのマルチマニホールドダイ(ノードソン株式会社)で温度230~245℃にてポリカーボネートと樹脂組成物とを共押出成形した。」
「[0113] <実施例1b>
・・・
押出機[I]および押出機[II]から同時にポリカーボネートと樹脂組成物[1]とを押出して、それぞれ予め樹脂を充填させたフィルター孔サイズ15μmのプリーツ型円筒フィルター(富士フィルター工業株式会社製)を通過後に、ジャンクションブロックに導入し、次いで樹脂吐出口幅1600mm、リップ間隔2.0mmのマルチマニホールドダイ(ノードソン株式会社)で温度245℃にてポリカーボネートと樹脂組成物[1]とを共押出成形してシート状にした。このシートを、横4本ロールの1,2番ロール間にてバンク成形し、4本ロールにて鏡面を転写しながら冷却し、厚さ80μmの樹脂組成物[1]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た。」

「[0133] 本発明に係る成形品、成形品および積層体の用途としては、例えば、・・・、自動車内装用表面材、・・・などのフィルム部材、・・・などを挙げることができる。」

「[請求項1] メタクリル樹脂(A)5~90質量%と、下記一般式(1)で示される芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位および下記一般式(2)で示される環状酸無水物(b2)に由来する構造単位とより少なくともなるビニル系共重合体(B)10~95質量%とを含有する樹脂混合物(M)と、
滑剤とを含有し、
前記滑剤が以下の(i)および(ii)の条件を満たす樹脂組成物。
(i)炭素原子数10~24の飽和脂肪酸のモノグリセライドからなる滑剤(x1)が、含まれないか若しくは樹脂混合物(M)100質量部に対し0.1質量部以下である。
続きを表示(全17行)
(ii)高級アルコール、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪族アミド、および脂肪酸エステル(但し、滑剤(x1)および当該滑剤(x1)以外の1分子中に水酸基を2以上有する脂肪酸エステルからなる滑剤(x2)を除く)からなる群より選ばれる少なくとも一つの滑剤(Y)が樹脂混合物(M)100質量部に対し0.001~2質量部、含まれる。
[図:0001392655000003.jpg]
(式中のR1およびR2は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
[図:0001392655000004.jpg]
(式中のR3およびR4は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
・・・
[請求項3] 樹脂混合物(M)が、メタクリル樹脂(A)30~60質量%と、ビニル系共重合体(B)40~70質量%とを含有する請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
[請求項4] ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位を50~84質量%含有し、環状酸無水物(b2)に由来する構造単位を15~49質量%含有し、メタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位を1~35質量%含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
・・・
[請求項11] 請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる層と、
ガラス転移温度が130~160℃の範囲にある熱可塑性樹脂組成物(T)からなる層とを具備する積層体。
[請求項12] 熱可塑性樹脂組成物(T)が、ポリカーボネートを含有する樹脂組成物である請求項11に記載の積層体。
[請求項13] 熱可塑性樹脂組成物(T)と前記樹脂組成物とのガラス転移温度の差が30℃以下である請求項11又は12に記載の積層体。」

(2)上記(1)の記載から、以下の事項がわかる。

上記[0107]の記載からみて、押出機[I]および押出機[II]から同時にポリカーボネートと樹脂組成物とを押出し、ポリカーボネートと樹脂組成物とは共押出成形されているから、ポリカーボネートからなる層の一方の面に樹脂組成物からなる層が積層されているといえる。

(3)引用文献1に記載された発明

上記(1)及び(2)の事項を総合し、請求項13の積層体に着目すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「ビニル系共重合体(B)40~70質量%と、メタクリル樹脂(A)30~60質量%と滑剤とを含有する樹脂組成物からなる層が、ポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂組成物(T)からなる層の一方の面に積層されており、
樹脂組成物とポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂組成物(T)とのガラス転移温度の差が30℃以下であり、
ビニル系共重合体(B)は、下記一般式(1)で示される芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位を50~84質量%含有し、メタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位を1~35質量%含有し、下記一般式(2)で示される環状酸無水物(b2)に由来する構造単位を15~49質量%含有する、積層体。
[図:0001392655000005.jpg]
(式中のR1およびR2は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)
[図:0001392655000006.jpg]
(式中のR3およびR4は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表す。)」

(4)対比・判断

本件補正発明と引用発明とを、その機能、構造及び技術的意義を考慮して対比する。

引用発明における「下記一般式(1)で示される芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位」は、本件補正発明の「芳香族ビニル単量体単位」に相当する。以下同様に、「メタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位」は「(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」に、「下記一般式(2)で示される環状酸無水物(b2)に由来する構造単位」は「不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位」に、それぞれ相当する。

そうすると、引用発明の「下記一般式(1)で示される芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位を」「含有し、メタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位を」「含有し、下記一般式(2)で示される環状酸無水物(b2)に由来する構造単位を」「含有する」「ビニル系共重合体(B)」は、本件補正発明の「芳香族ビニル単量体単位」「、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」「、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位」「からな」る「(I)スチレン系共重合体」に相当する。

したがって、引用発明の「下記一般式(1)で示される芳香族ビニル化合物(b1)に由来する構造単位を50~84質量%含有し、メタクリル酸エステル(b3)に由来する構造単位を1~35質量%含有し、下記一般式(2)で示される環状酸無水物(b2)に由来する構造単位を15~49質量%含有する」「ビニル系共重合体(B)」と、本件補正発明の「芳香族ビニル単量体単位45~85質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位10~30質量%からな」る「(I)スチレン系共重合体」とは、「芳香族ビニル単量体単位50~84質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~35質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位15~30質量%からな」る「(I)スチレン系共重合体」である点で重複する。

引用発明における「メタクリル樹脂(A)」は、本件補正発明の「(II)メタクリル樹脂」に相当し、同様に、「ポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂組成物(T)からなる層」は「ポリカーボネート樹脂層(b)」に相当する。

本願明細書の「樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で安定剤や可塑剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤などを配合してもよい。」(【0040】)との記載を参酌すると、本件補正発明において、「樹脂組成物層(a)」は「(I)スチレン系共重合体」及び「(II)メタクリル樹脂」以外のものが本件補正発明の効果を阻害しない範囲で含まれる場合も包含されると解釈できる。そして、引用発明における「ビニル系共重合体(B)」「とメタクリル樹脂(A)」「と滑剤とを含有する樹脂組成物からなる層」は、「滑剤」の機能や添加量の質量%表示がないほど微量であることを考慮すると、本件補正発明の「(I)スチレン系共重合体」「と(II)メタクリル樹脂」「からなる樹脂組成物層(a)」に相当する 。

そうすると、引用発明の「ビニル系共重合体(B)40~70質量%とメタクリル樹脂(A)30~60質量%と滑剤とを含有する樹脂組成物からなる層が、ポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂組成物(T)からなる層の一方の面に積層されて」いる「積層体」と、本件補正発明の「(I)スチレン系共重合体26~80質量%と(II)メタクリル樹脂20~74質量%からなる樹脂組成物層(a)が、ポリカーボネート樹脂層(b)の少なくとも一方の面に積層されて」いる「加飾フィルム」とは、「(I)スチレン系共重合体40~70質量%と(II)メタクリル樹脂30~60質量%からなる樹脂組成物層(a)が、ポリカーボネート樹脂層(b)の少なくとも一方の面に積層されて」いる「積層体」である点で重複する。

以上をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>

「(I)スチレン系共重合体26~80質量%と(II)メタクリル樹脂20~74質量%からなる樹脂組成物層(a)が、ポリカーボネート樹脂層(b)の少なくとも一方の面に積層されており、
(I)スチレン系共重合体が、芳香族ビニル単量体単位45~85質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位5~45質量%、不飽和ジカルボン酸無水物単量体単位10~30質量%からなる、積層体。」

<相違点1>

樹脂組成物とポリカーボネート樹脂に関して、本件補正発明では、「JIS K7206に準拠して求めたビカット軟化温度の差が0~40℃以内であ」るのに対し、引用発明では、「ガラス転移温度の差が30℃以下であ」る点。

<相違点2>

樹脂組成物層(a)とポリカーボネート層(b)の層比が、本件補正発明では、「3/97~9/91」であるのに対し、引用発明では、特定されていない点。

<相違点3>

(I)スチレン系共重合体の重量平均分子量が、本件補正発明では、「12.6万~16.8万」であるのに対し、引用発明では、特定されていない点。

<相違点4>

積層体が、本件補正発明では、「加飾フィルム」であるのに対し、引用発明では、用途が特定されていない点。

相違点1について検討する。

ガラス転移温度は高分子化合物の弾性率が急低下して軟化する温度であること(例えば、「コンパクト高分子化学」,三共出版株式会社,2000年1月15日,p24-26)及び、ビカット軟化温度がJIS K 7206として規格化されている高分子化合物が急激に軟化し始める温度の目安であることは、いずれも当該技術分野における技術常識であり、また、積層体を構成する各層の軟化する温度が大きく異なると反りの原因となることは、構造的に明らかである(引用文献1[0070])。

そうすると、引用発明において、積層体の反りの発生を抑制するために、樹脂組成物とポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂組成物(T)との軟化温度を近づけるための指標として、引用発明の「ガラス転移温度」と、本件補正発明の「ビカット軟化温度」の何れを用いるかは適宜選択し得たことである。

そして、引用発明において「ビカット軟化温度」を用いた場合に、樹脂組成物とポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂組成物(T)のビカット軟化温度の差をどの程度に収めるかは適宜設計し得ることであり、引用発明において弾性率が急低下する温度を示すガラス転移温度の差が30℃以下と、その差が少なくなる範囲を特定していることから、ビカット軟化温度の差についても同様にその差が少なくなる範囲を特定し、特に上記相違点1に係る「0~40℃以内」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、ビカット軟化温度とガラス転移温度とが相関関係を有することは技術常識であるから、樹脂組成物とポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂組成物(T)のガラス転移温度の差が30℃以下である引用発明に係る積層体においては、ビカット軟化温度の差も30℃以下といい得ることである。

相違点2について検討する。

引用文献1には、「樹脂組成物[C1]からなる層の厚さは0.02~0.5mmの範囲であることが好ましい。・・・。かかる厚さが0.01mm未満であると耐擦傷性及び耐候性が不足する場合がある。また0.5mmを超えると耐衝撃性が不足する場合がある。」([0077])と記載され、実施例1bに関して、「厚さ80μmの樹脂組成物[1]からなる層と厚さ920μmのポリカーボネートからなる層とからなる総厚さ1000μmの積層体を得た」([0113])ことが記載されている。

そうすると、引用発明において、樹脂組成物からなる層の厚さを80μmとし、ポリカーボネートを含有する熱可塑性樹脂組成物(T)からなる層の厚さを920μm(層比は8/92)とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

加えて述べるに、上記[0077]の記載に基いて、樹脂組成物からなる層の厚さを適宜変更することは具体化の際の設計事項であって、相違点2に係る数値範囲とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

相違点3について検討する。

引用文献1には、「ビニル系共重合体(B)(以下、「SMA樹脂(B)」と称する)」([0015])とした上で、「SMA樹脂(B)のMwは40,000~300,000の範囲が好ましい。かかるMwが40,000以上であることで、本発明の積層体は耐擦傷性、耐衝撃性に優れるものとなり、300,000以下であることで、樹脂混合物(M)は成形加工性に優れ、本発明の樹脂組成物からなる成形品の生産性を高められる。」([0034])とあるから、積層体の耐擦傷性、耐衝撃性及び成形加工性を所望の範囲に収めるために、引用発明において、ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量Mwを40,000~300,000の範囲内で適宜調整することは、当業者が通常有する創作能力の範囲内のことである。

そして、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の全体を参酌しても、スチレン系共重合体の重量平均分子量については、「10万~30万であることが好ましく、さらに好ましくは14万~25万である。重量平均分子量(Mw)が10万より小さいと強度が低くなり、30万を超えると成形加工性が悪くなる。」(【0023】)との記載があるのみであり、特に「12.6万~16.8万」の範囲で何らかの作用効果を奏するとの記載は確認できない。

なお、審判請求人は審判請求書(「4.本願が特許されるべき理由」参照。)において、「本発明の表1,2から分かるように、本発明では、重量平均分子量が12.6万~17.3万のスチレン系共重合体(A-1~A-6)を使用することにより、全光線透過率が高く(88%以上)、ヘーズが低い(3.0%以下)樹脂組成物が得られます。」と主張(以下「主張1」という。)するとともに、「特に、重量平均分子量16.8万のスチレン系共重合体A-1を使用する実施例1では、非常に低いヘーズ(0.4)が得られるのに対し、A-1よりも重量平均分子量(16.9万)が僅か0.1万高いA-4を使用する実施例8では、ヘーズが1.3になります。」と、重量平均分子量が16.8万に臨界的意義がある旨を主張(以下「主張2」という。)している。

まず主張1について検討すると、当初明細書等には、スチレン系共重合体の重量平均分子量が12.6万~17.3万の範囲外の実験結果は開示されておらず、当該数値範囲外のものと比較して技術的な評価をすることができないから、当該主張1は採用できない。

次に主張2について検討すると、審判請求人が臨界的意義を主張する根拠となっている実施例1に用いられているスチレン系共重合体A-1と実施例8に用いられているスチレン系共重合体A-4は、【表1】に示されているように、重量平均分子量のみならず、含有される各単量体単位の含有割合が大きく異なるものである。そして、引用文献1の[0026]、[0028]及び[0030]に樹脂組成物中の各構造単位の含有割合と樹脂組成物の透明度を関連付ける記載があるように、樹脂組成物中の各単量体単位の含有割合が異なれば樹脂組成物の光学的特性も異なることは技術常識であるから、含有される各単量体単位に着目することなく、ヘーズ値の差が重量平均分子量の差に起因するとする主張2は採用できない。

以上を総合すると、引用発明において、樹脂組成物の重量平均分子量を上記相違点3に係る数値範囲とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

相違点4について検討する。

引用文献1には、「本発明に係る成形品、成形品および積層体の用途としては、例えば、・・・、自動車内装用表面材、・・・などのフィルム部材、・・・などを挙げることができる。」([0133])とあるから、引用発明にかかる積層体の用途として、相違点4に係る用途とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

本件補正発明の効果も、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項から予測できる範囲内のものであって、格別顕著なものとはいえない。

(5)まとめ

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび

以上のとおり、本件補正は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和3年5月11日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は上記第2[理由]1(1)に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の概要は次のとおりである。

(理由)本願の請求項1ないし3に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて、本願の請求項4に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された技術的事項及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2016/132743号
引用文献2:特開2008-188970号公報

3 引用文献

原査定の理由に引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記第2[理由]3(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断

本願発明は、上記第2[理由]1(2)において示した本件補正発明において、上記第2[理由]3(3)の<相違点3>に対応する発明を特定するために必要な事項である「(I)スチレン系共重合体の重量平均分子量」の範囲を「12.6万~16.8万」から「12.6万~17.3万」に重量平均分子量の範囲を広くするものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由]3(4)で示したとおり、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 まとめ

以上のとおり、本願発明は、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

前記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2021-012548

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決223件(デンカ株式会社)
  • 2025-002577拒絶査定不服審判 / 2026-08-26 / 原査定取消(特許/登録すべき)雨水取水装置
    同じ当事者: デンカ株式会社
  • 2025-013506拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)水硬性セメント組成物及びセメントコンクリート組成物
    同じ当事者: デンカ株式会社
  • 2024-018770拒絶査定不服審判 / 2026-08-14 / 原査定取消(特許/登録すべき)電磁波シールド性能を有する軟磁性粉末含有樹脂組成物ならびに成形品
    同じ当事者: デンカ株式会社
  • 2025-008310拒絶査定不服審判 / 2026-07-24 / 原査定取消(特許/登録すべき)多層シート及びそれを用いた容器
    同じ当事者: デンカ株式会社
  • 2025-011238拒絶査定不服審判 / 2026-07-08 / 原査定取消(特許/登録すべき)有機酸カルシウム、添加材組成物、及びセメント組成物
    同じ当事者: デンカ株式会社
検索でもっと見る →
同じ根拠条文の審決7,656件(特許法29条2項)
  • 2024-017993拒絶査定不服審判 / 2026-07-17 / 請求不成立ガスバリア性積層体、包装材料用積層体および包装材料
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-014527拒絶査定不服審判 / 2026-06-30 / 請求不成立包装材料用ポリエチレン積層体及び該積層体からなる包装材料
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-019399拒絶査定不服審判 / 2026-06-25 / 請求不成立包装材料及び包装製品
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2023-015798拒絶査定不服審判 / 2026-06-16 / 請求不成立包装材料用積層体および包装材料
    共通の条文: 特許法29条2項
  • 2024-015415拒絶査定不服審判 / 2026-05-12 / 請求不成立積層体および包装体
    共通の条文: 特許法29条2項
検索でもっと見る →
同じ論点・分野の審決(審決分類)823件(121・B32B)
  • 2023-015794拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)積層基材、包装材料用積層体および包装材料
    共通の審決分類: 121・B32B
  • 2025-004448拒絶査定不服審判 / 2026-08-25 / 原査定取消(特許/登録すべき)積層ポリエステルフィルムの機能層除去方法
    共通の審決分類: 121・B32B
  • 2024-020598拒絶査定不服審判 / 2026-08-20 / 原査定取消(特許/登録すべき)熱融着性積層フィルム
    共通の審決分類: 121・B32B
  • 2024-019022拒絶査定不服審判 / 2026-08-18 / 原査定取消(特許/登録すべき)包装材料及び包装製品
    共通の審決分類: 121・B32B
  • 2025-002662拒絶査定不服審判 / 2026-07-30 / 原査定取消(特許/登録すべき)積層中わた
    共通の審決分類: 121・B32B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存