2021-012379
雷脅威情報の提供装置、雷脅威情報の提供方法及びプログラム
- 審判番号
- 2021-012379
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-170844外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年09月15日
- 審決日
- 2022年02月25日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
- 【請求人代理人】特許業務法人南青山国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (G01W)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第1号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 12項目
第1 手続きの経緯
本件出願は平成29年9月6日を出願日とする出願であって、令和3年2月22日付けで拒絶理由通知がなされ、令和3年4月16日に意見書及び手続補正書(以下「審査時補正書」という。)が提出され、同年6月1日付けで拒絶査定がなされ、同年9月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書(以下「本件補正書」という。)の提出がなされたものである。
以下、審査時補正書による補正を「審査時補正」、本件補正書による補正を「本件補正」という。
第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1.本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲は、審査時補正書における下記(1)のとおりの請求項1~15(以下それぞれ「審査時補正請求項1」などという。)から、下記(2)のとおりの請求項1~12(以下、各「本件補正請求項1」などという。)へと補正された。
ここで、下線部は請求人が付した補正箇所を示し、各請求項1の構成単位冒頭の「A」などは当審にて付与した分説番号であり、以下該各構成単位を「構成A」などという。
(1)審査時補正請求項1~15
「 【請求項1】A’ 気象の観測データについての観測パラメータ、気象の予測データについての予測パラメータ及び雷の発生に関連して発生した事例についての事例データを入力する入力部と、B 前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない中間パラメータを算出する中間パラメータ算出部と、C’ 前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、雷の脅威を推定する雷脅威推定部とを具備する続きを表示(全68行)D 雷脅威情報の提供装置。【請求項2】請求項1に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記雷脅威推定部は、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、所定の分解能で雷気象状態を識別する雷気象状態識別部を有する雷脅威情報の提供装置。【請求項3】請求項1又は2に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記雷脅威推定部は、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、被雷に伴うQCD(品質・コスト・期限)に関する損失を含む雷リスクを推定する雷リスク推定部を有する雷脅威情報の提供装置。【請求項4】請求項1から3のうちいずれか1項に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記中間パラメータ及び前記事例データを関連付けて蓄積するデータベースを更に具備し、前記入力部は、リアルタイム又は準リアルタイムに取得した前記観測パラメータ及び前記予測パラメータを入力し、前記中間パラメータ算出部は、前記リアルタイム又は準リアルタイムに取得した観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、前記中間パラメータを算出し、前記雷脅威推定部は、前記データベースに蓄積された観測パラメータ、予測パラメータ、中間パラメータ及び事例データに基づき、前記リアルタイム又は準リアルタイムに取得した観測パラメータ、予測パラメータ及び前記中間パラメータに対応する雷の脅威を推定する雷脅威情報の提供装置。【請求項5】請求項2に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記雷気象状態識別部における状態識別の計算手順及び判断基準は、機械学習によって決定され、且つ、更新される雷脅威情報の提供装置。【請求項6】請求項3に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記雷リスク推定部におけるリスク推定の計算手順及び判断基準は、機械学習によって決定され、且つ、更新される雷脅威情報の提供装置。【請求項7】気象の観測データについての観測パラメータ、気象の予測データについての予測パラメータ及び雷の発生に関連して発生した事例についての事例データを入力し、前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない中間パラメータを算出し、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、雷の脅威を推定し、前記推定した雷の脅威に関する情報を表示する雷脅威情報の提供方法。【請求項8】請求項7に記載の雷脅威情報の提供方法であって、前記雷の脅威を推定するステップは、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、所定の分解能で雷気象状態を識別する雷脅威情報の提供方法。【請求項9】請求項7又は8に記載の雷脅威情報の提供方法であって、前記雷の脅威を推定するステップは、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、被雷に伴うQCD(品質・コスト・期限)に関する損失を含む雷リスクを推定する雷脅威情報の提供方法。【請求項10】気象の観測データについての観測パラメータ、気象の予測データについての予測パラメータ及び雷の発生に関連して発生した事例についての事例データを入力し、前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない中間パラメータを算出し、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、雷の脅威を推定し、前記推定した雷の脅威に関する情報を表示部に表示するステップをコンピュータに実行させるプログラム。【請求項11】請求項10に記載のプログラムであって、前記雷の脅威を推定するステップは、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、所定の分解能で雷気象状態を識別するステップをコンピュータに実行させるプログラム。【請求項12】請求項10又は11に記載のプログラムであって、前記雷の脅威を推定するステップは、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、被雷に伴うQCD(品質・コスト・期限)に関する損失を含む雷リスクを推定するステップをコンピュータに実行させるプログラム。【請求項13】請求項1から6のうちいずれか1項に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記中間パラメータは、三軸風向風速や乱流スペクトル強度又はエコー強度の短期予測結果である雷脅威情報の提供装置。【請求項14】請求項7から9のうちいずれか1項に記載の雷脅威情報の提供方法であって、前記中間パラメータは、三軸風向風速や乱流スペクトル強度又はエコー強度の短期予測結果である雷脅威情報の提供方法。【請求項15】請求項10から12のうちいずれか1項に記載のプログラムであって、前記中間パラメータは、三軸風向風速や乱流スペクトル強度又はエコー強度の短期予測結果であるプログラム。」
(2)本件補正請求項1~12(下線は、補正箇所を示す。)
「 【請求項1】A 気象の観測データについての観測パラメータ、気象の予測データについての予測パラメータ及び少なくとも航空機被雷についての事例を含む雷の発生に関連して発生した事例についての事例データを入力する入力部と、B 前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない中間パラメータを算出する中間パラメータ算出部と、C 前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、航空機への雷の脅威を推定する雷脅威推定部とを具備する続きを表示(全56行)D 雷脅威情報の提供装置。【請求項2】請求項1に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記雷脅威推定部は、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、所定の分解能で雷気象状態を識別する雷気象状態識別部を有する雷脅威情報の提供装置。【請求項3】請求項1又は2に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記雷脅威推定部は、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、被雷に伴うQCD(品質・コスト・期限)に関する損失を含む雷リスクを推定する雷リスク推定部を有する雷脅威情報の提供装置。【請求項4】請求項1から3のうちいずれか1項に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記中間パラメータ及び前記事例データを関連付けて蓄積するデータベースを更に具備し、前記入力部は、リアルタイム又は準リアルタイムに取得した前記観測パラメータ及び前記予測パラメータを入力し、前記中間パラメータ算出部は、前記リアルタイム又は準リアルタイムに取得した観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、前記中間パラメータを算出し、前記雷脅威推定部は、前記データベースに蓄積された観測パラメータ、予測パラメータ、中間パラメータ及び事例データに基づき、前記リアルタイム又は準リアルタイムに取得した観測パラメータ、予測パラメータ及び前記中間パラメータに対応する雷の脅威を推定する雷脅威情報の提供装置。【請求項5】請求項2に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記雷気象状態識別部における状態識別の計算手順及び判断基準は、機械学習によって決定され、且つ、更新される雷脅威情報の提供装置。【請求項6】請求項3に記載の雷脅威情報の提供装置であって、前記雷リスク推定部におけるリスク推定の計算手順及び判断基準は、機械学習によって決定され、且つ、更新される雷脅威情報の提供装置。【請求項7】気象の観測データについての観測パラメータ、気象の予測データについての予測パラメータ及び少なくとも航空機被雷についての事例を含む雷の発生に関連して発生した事例についての事例データを入力し、前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない中間パラメータを算出し、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、航空機への雷の脅威を推定し、前記推定した雷の脅威に関する情報を表示する雷脅威情報の提供方法。【請求項8】請求項7に記載の雷脅威情報の提供方法であって、前記雷の脅威を推定するステップは、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、所定の分解能で雷気象状態を識別する雷脅威情報の提供方法。【請求項9】請求項7又は8に記載の雷脅威情報の提供方法であって、前記雷の脅威を推定するステップは、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、被雷に伴うQCD(品質・コスト・期限)に関する損失を含む雷リスクを推定する雷脅威情報の提供方法。【請求項10】気象の観測データについての観測パラメータ、気象の予測データについての予測パラメータ及び少なくとも航空機被雷についての事例を含む雷の発生に関連して発生した事例についての事例データを入力し、前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない中間パラメータを算出し、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、航空機への雷の脅威を推定し、前記推定した雷の脅威に関する情報を表示部に表示するステップをコンピュータに実行させるプログラム。【請求項11】請求項10に記載のプログラムであって、前記雷の脅威を推定するステップは、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、所定の分解能で雷気象状態を識別するステップをコンピュータに実行させるプログラム。【請求項12】請求項10又は11に記載のプログラムであって、前記雷の脅威を推定するステップは、前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、被雷に伴うQCD(品質・コスト・期限)に関する損失を含む雷リスクを推定するステップをコンピュータに実行させるプログラム。」
2.補正の適否
(1)本件補正
本件補正は、特許請求の範囲について、以下に挙げる補正事項ア~エを含むものである。
ア 請求項13~15を削除する補正。
イ 請求項1について、審査時補正請求項1の構成A’における「雷の発生に関連して発生した事例」を、本件補正請求項1の構成Aにおける「少なくとも航空機被雷についての事例を含む雷の発生に関連して発生した事例」とする補正。
ウ 請求項1について、審査時補正請求項1の構成C’における「雷の脅威」を本件補正請求項1の構成Cにおける「航空機への雷の脅威」とする補正。
エ 請求項7、10についての上記イ、ウと同様の補正。
(2)新規事項の有無についての検討
ア 補正事項ア
補正事項アは請求項を削除するものであるから新規事項加入を伴うものではない。
イ 補正事項イ・ウ
(ア)補正事項イ・ウに関し願書に最初に添付された明細書には次の記載がある(下線は当審にて付与)。
「【0022】[雷脅威情報の提供装置の構成]図1は、本発明の一実施形態に係る雷脅威情報の提供装置の構成を示すブロック図である。雷脅威情報の提供装置1は、入力部10と、演算制御部20と、データベース30と、表示部40と、外部出力部50とを有する。続きを表示(全36行)【0023】入力部10は、複数種類の観測パラメータ11、予測パラメータ12及び事例データ13が入力される。観測パラメータ11は、航空機や様々な地点から取得される。予測パラメータ12は、例えば気象庁など公的機関やコマーシャルベースの機関から提供される気象予測データに応じたパラメータである。事例データ13は、例えば空港を離着陸した、典型的には着陸した航空機について各空港やデータセンタ140などから取得される。【0024】観測パラメータ11は、気象の観測データについてのパラメータであり、気象センサ群110から得られたパラメータである。観測パラメータ11は、典型的には、空港気象レーダから取得したエコー強度やドップラー速度の時空間分布、フライトデータレコーダやラジオゾンデから取得した航空機位置や気温の高度分布などである。・・・【0026】事例データ13は、雷の発生に関連して発生した実際の事例についてのデータである。典型的には、事例データ13としては、被雷有無を問わずレーダエコーに接近して着陸した航空機を選定し、その航空機についての被雷の有無、被雷した場合は被雷時刻、機体の損傷程度、被雷による運航への影響である。・・・【0037】データベース30は、観測パラメータ11、予測パラメータ12、中間パラメータ27及び事例データ13を関連付けて蓄積する。データベース30に格納されるデータは、例えば、以下の項目を各列に格納する時系列データである。・観測パラメータ11時間航空機位置航空機計測気温レーダエコー関連パラメータ・中間パラメータ27風向風速関連パラメータ・予測パラメータ12水蒸気量関連パラメータ・事例データ13被雷有無被雷損傷程度運航への影響度・・・【0047】この実施形態に係る雷脅威情報の提供装置1 では、雷気象状態の識別情報に基づいて回避行動を取ることで、離着陸フェーズにおける被雷件数を削減することが期待できる。・・・【0050】事例データ13は、被雷有無を問わずレーダエコーに接近して着陸した航空機を選定し、その航空機についての被雷の有無、被雷した場合は被雷時刻、機体の損傷程度、被雷による運航への影響などである。事例データ13には、被雷に伴う経済的な損失が含まれる。【0051】雷リスクは、例えば、現在着陸しようとしている航空機が仮に着陸した場合に、被雷する確率や、被雷した場合の運航遅延時間や機体損傷程度、復旧に必要なコスト等の運航に対する影響度とから推定される指標である。例えば、雷リスクは、そのリスクの程度に応じて、「低」、「中」、「高」のようにリスクの程度が段階的に示される。」
(イ)補正事項イに係る、「雷の発生に関連して発生した事例」について特に「航空機被雷についての事例」を対象とすることについては、例えば上記【0026】、【0037】、【0050】に開示が認められる。
(ウ)補正事項ウに係る、雷の脅威について、特に「航空機への雷の脅威」を推定対象とすることについては、例えば上記【0047】、【0051】に開示が認められる。
(エ)上記(ア)~(ウ)のとおりであるから、補正事項イ・ウに係る補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものである。
ウ 補正事項エについて
上記イから、補正事項エに係る補正についても同様に願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであるといえる。
エ 小括
以上ア~ウのとおりであるから、本件補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の範囲内においてされたものである。
(3)補正の目的要件違反についての検討
ア 補正事項ア
補正事項アは特許法17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とする補正に該当することが明らかである。
イ 補正事項イ~エ
補正事項イ~エは、本件補正前の審査時補正請求項1、7、10で特定された事例データの内容に関する「雷の発生に関連して発生した事例」及び推定対象としての「雷の脅威」をそれぞれ上記(1)イ、ウのとおり限定するものであり、当該限定する補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が共通することも明らかであるから、特許法17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当することが明らかである。
ウ 小括
上記ア、イのとおりであるから、補正事項ア~エは特許法17条の2第5項各号に掲げる補正の目的要件を充足する。
3.本件補正発明の独立特許要件についての検討
上記2.の(1)イ・ウ及び(3)イで説示したとおり、本件補正は、請求項1について、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する補正を含むものである。
そこで、本件補正により補正された請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。
(1)本件補正発明について
本件補正発明は、上記1.(2)に【請求項1】として示したとおりのものである。
(2)引用文献1に記載された発明
原査定の拒絶理由において提示された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-192312号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
ア 引用文献1の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
「【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】本発明は、機械学習を用いて気象データを元に発雷を直前に予測する方法、特に発雷予測のための機械学習の訓練データを作成して用いる発雷予測装置およびその方法、プログラムに関する。」
「【課題を解決するための手段】【0019】課題を解決するために、請求項1に記載の本発明は、メッシュ状に区切られた複数の領域ごとに発雷を直前に予測するための発雷予測装置において、前記領域のそれぞれごとに過去の時系列に沿って気象状況を記録した気象データに基づいて生成されたエントリと、前記エントリの総数において発雷の有無の割合が所定の割合となるように発雷の無かったエントリを間引いて生成した訓練データと、前記訓練データを用いてコンピュータにより機械学習を実行して得た学習結果に基づいて構成され、現在の気象データに対して発雷を予測するための分類器と、を備える。」
「【発明を実施するための最良の形態】【0036】<第1の実施の形態>本発明の実施の形態では、気象業務支援センタが提供している過去の一般的な気象データ(降水データおよび数値予報データなど)および、雷情報提供会社などが提供する過去の雷情報(発雷の位置、時刻、特性などが収録されている)を用いて、正解ラベル付き訓練データを作成し、「教師あり機械学習(Supervised learning)」の手法を適用して発雷を予測するための分類器を作成する。続きを表示(全38行)【0037】この分類器にしたがって、気象業務支援センタなどよりリアルタイムで配信される気象データ、および、その気象データをパターン変化予測にかけた結果を入力として用い、発雷予測を行う。・・・【0039】最初に図1に示すのは、本発明の実施の形態を説明するための全体の処理フローである。【0040】図1のように、まず学習を行い、その後、予測を繰り返す、といった順になる。必要に応じて学習をし直したりすることもできる。発雷の予測のための機械学習が開始されると(S1)、図2を参照して後述する学習フローが実行される(S2)。この学習結果に基づいて図3を参照して後述する発雷の予測フローを実行する(S3)。予測フローが終了するまで繰り返され、終了後は機械学習も終了する(S4、S5)。【0041】次の図2は、図1中に示したS2の学習フローを説明するためのフローチャートを示している。【0042】この図2に示す「教師あり機械学習」の学習フローでは、教師すなわち正解ラベルのついた訓練データが必要となる。本実施の形態においては、ある領域のある時刻の、周辺および前後のメッシュの気象データ群と、その領域でその時刻に発雷があったかどうかのペアが訓練データの1エントリとなる。【0043】まず学習フローが開始されると(S10)、データの入力がされる(S11)。この際に入力されるデータは気象データ群である。次にS11にて入力された気象データ群に対におけるメッシュで区切られた領域ごとの発雷の有無と時刻のデータである。【0044】次に、間引き処理が行われる(S13)。この間引き処理は正解ラベルが付与された訓練データの中から、後述するように、エコー頂高度が低い場合を多めに間引き、エコー頂高度が高い場合を少なめに間引く処理を行う。次にSVM(サポートベクターマシン:Support vector machine)学習を行う(S14)。そして学習結果が出力され(S15)、学習フローが終了する(S16)。【0045】また、図3は、図1中に示した予測フローを説明するためのフローチャートを示している。【0046】この図3において予測フローが開始されると(S20)、データの入力がされる(S21)。ここで入力されるデータは発雷の予測対象であり観測された気象データ群である。次にパターン変化予測が入力された気象データ群に対して実行される(S22)。パターン変化予測の方法としては、たとえば単位時間前のデータと現在のデータの変化を認識し、その変化量を現在のデータに適用する、といった技術である。【0047】次に、後述の分類器にて発雷予測を行う(S23)。発雷の予測結果が出力され(S24)、予測フローが終了する(S25)。【0048】次の図4は、本実施の形態の処理フローにおける、各データと各処理との関連を説明するための説明図を示している。この図4には、説明のための構成として、過去気象データDB1と、過去の雷データ2と、過去の気象データ3と、正解ラベル付き訓練データ4と、機械学習のステップS30と、学習結果5と、気象データ6と、分類器7と、予測結果8と、が示されている。【0049】この構成において、雷データ2には、一般に時刻と位置(緯度経度)および雷の電流データなどが羅列してある。従って、この雷データを参照しながら対象のメッシュ(地理的な領域)において発雷があったかどうかを判定すれば良い。【0050】また、図4に示す学習結果5は、コンピュータ上のファイルデータとして得られる。これを分類器(ソフトウェア)7に読み込ませ、分類処理を行うこととなる。【0051】本実施の形態では、気象データ3として図5に示す「エコー強度(気象レーダーで観測される換算降水強度)」と「エコー頂高度(気象レーダーで観測される降水エコーの高さ)」の2つを採用する。3つ以上になっても考え方は同様である。これらは両者とも安価にリアルタイムに入手することができる。【0052】入力する気象データ3としては、対象となるメッシュXのエコー強度、エコー頂高度、メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値、エコー頂高度の平均値、それぞれの値の10分前からの差分、を用いることとする。なお、上で「時刻」と書いているが、実際は瞬間ではなくある単位時間(たとえば10分間)を意味する。以下簡単のため「時刻」と表現するが同様である。【0053】次に、過去の気象データ3より、ある領域、ある時刻の周辺メッシュの各値を抽出し整列させる。その領域でその時刻に発雷があれば正例(+1)、なければ負例(-1)のラベルを貼り付ける。同様の処理を繰り返すことで、正解ラベル付きの訓練データ4の候補となる。」
【0054】
また、発雷はデータ全体から見ればまれな事象なので、一般には負例(-1)が圧倒的に多くなる。訓練データに含まれる正例(+1)と負例(-1)の比率は同程度の方が良いとされており、このままでは効果的な学習に障害をきたすので、訓練データの間引き処理を行う。
・・・
【0056】
そこで、訓練データから負例のエントリを間引く際に、エコー頂高度が低い場合を多めに間引き、エコー頂高度が高い場合を少なめに間引く。たとえば、訓練データ候補において、正例エントリが1,200件、負例エントリが1,000,800件あったとする。
・・・
【0058】
次に、y1:y2:y3:y4=4:3:2:1かつ、y1+y2+y3+y4=1,000,000といった連立方程式を解く。このy1~y4がそれぞれz1~z4から間引くべき数となる。あとはランダムにそれぞれのエントリから指定された件数だけ間引けば良い。この結果が図6に示す訓練データとなる。以上が間引き処理(S13)である。
【0059】
次に、このように間引きを行った訓練データをSVM学習により処理する。SVM学習により、正例と負例を二分する超平面すなわち分類器7が学習され構築される。図7に示すのは、この分類器7を構成する超平面の概念図である(「超」平面のため、正確な図は描けない)。なお、SVM学習にはソフトマージンという考え方があり、必ずしも超平面が正例と負例を完全には二分せず、そこに多少の妥協を入れることができる。本実施の形態においては、これについてはどちらを選択してもよい。以上が学習フェーズ(S2、S30)である。
【0060】
次に、予測対象となる領域に対し、その周辺や前後も含めたメッシュ領域にそれぞれ気象データ6を入力する。たとえば10分後を予測する場合、これらデータの10分後の値をパターン変化予測を用いて求める。その際、現在と過去のデータを入力とする。たとえば10分前と現在のデータから、10分後のデータを予測する、などができる。図8はこの概念図であって、四角い升目の一つが領域を指している。また、ハッチングされた領域が発雷の予測される領域である。なお、パターン予測のために入力する気象データ6にはエコー強度とエコー頂高度を含んでおり、その両方か、あるいはいずれか一方を用いてもよい。
【0061】
ここで実行するパターン変化予測は、一般に、単位時間前のデータと現在のデータの変化を認識し、その変化量を現在のデータに適用するものが多い。高度なものだと、流体力学の方程式により変化を予測するものもある。たとえば、Dynamics Texture法(文献:境野英朋ほか、“流体モデルによる時系列レーダパターン変化の予測方法”、電子情報通信学会論文、vol.J82-A,no.4,pp.550-562,1999)などが適用できる。なお、ここで実行するパターン予測は、「パターン予測した結果の変化量を得る」場合と「変化量をパターン予測する」場合のどちらをも含んでいる。
【0062】
次に、この10分後を予測したデータ組に対し、分類を行う。この分類には事前に学習しておいた分類器7を適用する。分類器7では、そのデータ組が正例と判断されるか負例と判断されるかに応じて、その領域で雷が発生するかどうかを判断する。以上で、雷予測のフローの説明を終える(S3、S23)。」
「【0063】<第2の実施の形態>第1の実施の形態にて説明した分類器7で構成された予測エンジンたる発雷予測部11が中心となっている。しかし実際のサービス運用においては、図9に示すように気象データ受信部10、発雷予測部11、予測結果解釈部12、予測結果変換部13、予測結果配信部14なども合わせて運用されることを想定している。【0064】続きを表示(全23行)まず、気象データ受信部10は、気象業務支援センタなどから気象データの配信を受け、必要に応じてデータ形式の変換などを行う。【0065】次に、予測結果解釈部12は、分類器7が予測した結果を元に発雷による災害発生の可能性や規模を計算し、警報などを出す必要性を判断する。【0066】予測結果変換部13は、予測結果や前記の予測結果解釈部13の解釈結果を必要に応じて画像や文章に変換する。【0067】予測結果配信部14は、前記の予測結果変換部13の変換結果をウェブサーバや警報メール送信サーバなどを通じて配信する。【0068】また、予測結果配信部14からの配信を受けて、ユーザ側での処理として、雷サージに敏感なコンピュータシステムを停止したり、電源系統をバッテリーや自家発電に切り替えるなどの処理およびその自動化も想定している。【0069】また、本実施の形態は発雷の予測としているが、雷のように全体からの頻度が小さい現象、たとえば雹や地震などにも適用可能である。その場合、積乱雲の発達の度合いと相関のある値に対応するものがあればそれを利用すればよい。【0070】また、本実施の形態では、概して「発雷」予測と称したが、訓練データへの正解ラベル付与において、「発雷」を雲放電(いわゆる雲間雷)や、対地放電(いわゆる対地雷/落雷)、または、正極雷、負極雷などに限定することで、それらに限定した予測も可能となる。【0071】訓練データおよび予測時の入力データでは気象データをその要素としたが、実際はそのデータを観測した地域の特徴や、その時刻、日時または季節なども要素となりうる。【0072】同様に、その時刻、その領域、および時間軸での前後、その周辺地域のデータに加えて、それらデータ間でのなんらかの演算結果(たとえば差分など)も要素となりうる。【0073】このように本発明の実施の形態においては、運用を安価に抑えるために、安価に入手可能なデータのみを用いて予測を行っている。また、発雷の始まりを予測するために、雷現況情報に頼らずに気象データのみから予測を行っている。」
・【図4】
「[図:0001383962000001.jpg]」
イ 引用発明
上記アに摘記した記載事項から、引用文献1には次の発明(以下「
引用発明」という。)が記載されているといえる。分説番号については1.冒頭に記載したとおり。また、各構成単位末尾の括弧内に根拠となる引用箇所を記載した。
「a1 気象業務支援センタが提供している過去の一般的な気象データ(降水データおよび数値予報データなど)および、雷情報提供会社などが提供する過去の雷情報(発雷の位置、時刻、特性などが収録されている)を用いて、正解ラベル付き訓練データを作成し、「教師あり機械学習」の手法を適用して、メッシュ状に区切られた複数の領域ごとに発雷を直前に予測するための分類器を備える発雷予測装置であって、(【0019】、【0036】)前記分類器で構成された予測エンジンたる発雷予測部、前記気象データの配信を受ける気象データ受信部、予測結果解釈部を備え、(【0063】)例えば《エコー強度(気象レーダーで観測される換算降水強度)》と《エコー頂高度(気象レーダーで観測される降水エコーの高さ)》の2つ、またはそれ以上の気象データが気象データとして採用され、(【0043】、【0051】)a2 学習フローが開始されると、続きを表示(全16行)《対象となるメッシュXのエコー強度》、《エコー頂高度》、《メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値》、《エコー頂高度の平均値》、《それぞれの値の10分前からの差分》が過去の気象データとして入力され、(【0051】)a3 前記入力された過去の気象データに対におけるメッシュで区切られた領域ごとの発雷の有無と時刻のデータが入力され、(【0042】、【0043】)過去の気象データより、ある領域、ある時刻の周辺メッシュの各値を抽出し整列させ、その領域でその時刻に発雷があれば正例(+1)、なければ負例(-1)のラベルを貼り付ける処理がなされ、同様の処理を繰り返すことで、正解ラベル付きの訓練データ候補とし、(【0053】a4 予測フローが開始されると、現在の気象データと例えば10分前などの単位時間前の気象データとを入力し、該各気象データにはエコー強度とエコー頂高度の両方またはいずれか一方を含み、(【0060】)a5 単位時間前の気象データと現在の気象データの変化を認識し、たとえば10分後を予測する場合、これらデータの10分後の値を、その変化量を現在の気象データに適用するか、または流体力学の方程式により変化を予測する方法で、パターン変化予測を用いて求めるものであり、(【0060】、【0061】)a6 訓練データへの正解ラベル付与において、「発雷」を雲放電(いわゆる雲間雷)や、対地放電(いわゆる対地雷/落雷)、または、正極雷、負極雷などに限定することで、それらに限定した予測も可能となるものであり、(【0070】)c1 前記訓練データ候補に対し間引き処理を行った訓練データを機械学習により処理し、正例と負例とを二分する分類器が構築され、(【0054】、【0056】、【0058】、【0059】)c2 前記例えば10分後を予測したデータ組に対し、前記事前に学習しておいた分類器を適用し、そのデータ組が正例と判断されるか負例と判断されるかに応じて、その領域で雷が発生するかどうかを判断し、(【0062】)c3 予測結果解釈部において、分類器が予測した結果を元に発雷による災害発生の可能性や規模を計算し、警報などを出す必要性を判断する、d 発雷予測装置。」
(3)引用文献2~3,参考文献4~5の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶理由において提示された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-73670号公報(以下「引用文献2」という。)には次の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、気温、気圧、路面温度などの気象状態の変化と関連の深い要因から、場所毎に癖を持った気象状態を正確に判別することのできる気象判別方法とその装置に関する。」
「【0012】前記判別を行うには、予め、ニューラルネットワークに入力教師信号と出力教師信号を与えて学習させ、各階層のニューロンを結ぶシナプスの結合係数を最適な値に設定しておく必要がある。この学習により、入出力間の関係がネットワーク内に構築され、気象の判別が可能となる。このとき、気象状態の判別を行いたい場所についての教師データを用いて学習を行えば、場所毎に異なる気象状態の癖を組み込んだネットワークが構築されるので、局所的な気象状態の判別が可能となる。【0013】前記学習方法としては、例えば、バックプロパゲーション法などの学習アルゴリズムを利用し、実際の気温、気圧、路面温度、過去の推移傾向などで構成された入力教師信号24と、この入力教師信号に対する実際の気象状態を与える出力教師信号25のデータの組を教師信号として用意し、その判別誤差26が最小となるように各層のニューロンを結ぶシナプスの結合係数を決定すればよい。【0014】上記のように教師データによって学習したニューラルネットワークの入力層21に、気象センサ部1Aにおいて実際に検出した現在の気温、気圧、路面温度および過去の推移傾向出力部1Bからの信号を入力してやることにより、出力層23から判別された気象状態が出力される。この判別される気象状態としては、「晴天」、「曇天」、「降雨」、「降雪」、「霧」などがある。表示部3では、気象判別部2から送られてくる判別結果を所望の表示形式でモニタ画面やプリンタなどに出力して表示する。」
「【0017】前述したように、ニューラルネットワークに入力する気象状態の変化と関連のある要因としては、前記気温、気圧、路面温度に加え、これらの過去の推移傾向も重要な情報であると考えられる。この推移傾向に関しては、図3中の実測データ31を見れば、気温と路面温度はほぼ同様な推移傾向を示しているため、路面温度についての過去の推移傾向は不要とし、気温と気圧について図5のサンプリングの手法によって30分毎の平均値を過去6時間まで遡って各々12の入力情報を同時に与えるようにした。すなわち、本実施例の場合、気温、気圧、路面温度の実測データと、気温および気圧の過去の推移傾向により、“降雪あり”と“降雪なし”を判別するようにした。」
「【0022】なお、前記した実施の形態による他、前後のデータを微分処理によってデータの増減の変化を求め、過去所定時間の変化を変化量の推移傾向として気象判別部2に入力してもよい。」
イ 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶理由において提示された、本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-270357号公報(以下「引用文献3」という。)には次の事項が記載されている。
「【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】この発明は、注目地点の視程の良否を推定する視程推定装置に対して、判別関数を表現するパラメータを提供する視程学習装置に関するものである。」
「【0004】ここで、エコー強度と霧水量(空気中に浮いている水の量)の間と、霧水量と視程の間には、下記 に示すような相関があることが分かっている。」
「【0023】次に動作について説明する。視程推定装置2が注目地点の視程の良否を判別するに際して、予め、視程学習装置1が少なくとも1以上の地点に関する視程判別用パラメータを学習して視程推定装置2に提供する。以下、視程学習装置1の動作を具体的に説明する。【0024】まず、視程学習装置1のレーダ21は、電磁波をパルス的に空気中の特定方向に放射して、空気中の水滴などの目標に反射して戻ってきた電磁波を受信する。そして、レーダ21は、その電磁波の受信電力を処理することにより、目標の方向及び距離を測定するとともに、気象レーダ方程式を利用して、その電磁波の受信電力から目標の特性であるエコー強度を算出する。続きを表示(全13行)・・・【0028】視程学習装置1のデータ抽出部22は、上記のようにしてレーダ21が観測対象地域のエコー強度分布を出力すると、観測対象地域のエコー強度分布のうち、ユーザが指定する注目地点を含む周辺領域のエコー強度分布を抽出して出力する。なお、データ量を減らして後の処理の負荷を軽くするため、その抽出したエコー強度分布に空間的な平均化処理を適用した上で出力するようにしてもよい。【0029】一方、視程学習装置1の視程測定部23は、ユーザが指定する注目地点の視程を測定する。そして、視程二値化部24は、視程測定部23により測定された視程を二値化し、その二値化結果を視程フラグとして出力する。具体的には、視程測定部23により測定された視程と所定の閾値を比較して、その視程を二値化するが、例えば、所定の閾値が“500m”と設定され、視程測定部23により測定された視程が“300m”であれば、悪視程を示す視程フラグを出力し、その視程が“1000m”であれば、良視程を示す視程フラグを出力する。【0030】視程学習装置1の学習用データ生成部25は、データ抽出部22が注目地点を含む周辺領域のエコー強度分布を出力し、視程二値化部24が視程フラグを出力すると、観測時刻が同一時刻のエコー強度分布と視程フラグを対にして出力する。以下、当該対データを学習用データと称する。【0031】視程学習装置1の判別関数生成部26は、学習用データ生成部25から学習用データを受けると、例えば、SVM(Support Vector Machine)を利用して、その学習用データから視程判別用の判別関数を生成し、その判別関数を表現する視程判別用パラメータを視程推定装置2に出力する。」
ウ 参考文献4の記載事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である「高田吉治、”技術連載 その16 雷”、風力エネルギー、2009年33巻1号、p71-78」には、次の記載がある。
(ア)「4.1航空機の被雷航空機が被雷するということは、航空機が雷雲中または雷雲の近くを飛行中に雷撃を受け、航空機が放電路の一部を構成することを意味している。この場合、雷撃の形態は、次のように大別される。(1)雲中雷撃(雷雲中及び雷雲間の雷學)(2)対地雷撃(雷雲と大地間の雷撃)雲中雷撃による航空機の被害は、高度が約1Kから存在し、高度と共に被害は増加し、4~5Kmでピークを持つ傾向にある。高度が10Kmで飛来した事例も報告されているが、一般に高度の上限は、6~7Kmである。これに対して、対地雷撃による被害は、約3Km以下が殆どであり、それ以上の高度では急激に減少している。ここでは、落雷現象と高度の関連を参考にした。」(76頁左欄)
(イ)「4.2航空機の被雷統計航空機が被雷する頻度は、主に航空機が航行する飛行高度とそのときの気象条件に依存している。航空機に対する被害統計によれば、1万飛行時間に対する被雷率は、プロペラ機が約4回であるのに対し、ジェット機は約1~2回である。両者の差異は、主の航空機の運航高度の違いによるものである。すなわち、プロペラ機の運航高度が雷雲の最も活発な3Km付近であるのに対し、ジェット機はg季の雷雲頂の位置に相当する上空、10Km付近である。図4,1は、日本における昭和57年~59年の3力年間に航空機が被雷した全件数467に対する飛行高度と被雷率の関係を示している。7Km以上は2%であることが分る。また、飛行高度lKmと5Kmに、それぞれ被雷率のピークが認められる。このように、航空機に対する被雷件数の中で、幸いにも事故に繋がった例は少なく、被害事故として認定されている事例は、過去10年間で2件である。[図:0001383962000002.jpg]」(76頁左欄~右欄)
(ウ)「図4.2は、航空機が飛来したときの外気温度と被雷率の関係を表わしたものである。これは、図4.1で採用した航空機の全被雷件数のうち、被雷時の外気温が測定されたデータを示したものである。図4.2を参照すると、全被雷件数の63%が-5°Cから+5°Cの範囲内に、また99%が-10°Cから+10°Cの範囲内にあることが分る。この結果は、被雷率が最大となる外気温度が飛行高度に関係なく0°C付近にあることに特徴がある。[図:0001383962000003.jpg]」(76頁右欄)
(エ)「ところで日本における雷撃現象は、雷雲の規模や、その発生場所が、夏季と冬期で全く異なっている。夏季には、太平洋に面した地域で多く被雷している。冬期には、日本海に面した地域で多く被雷している。したがって、航空機の被雷率も夏季と冬期では多少異なっている。図4.3は、図4.1に示した航空機被雷の結果を月別に示したものである。図から、航空機が最も被雷し易い飛行高度は、夏季の6月~8月には、4~6Kmであるのに対し、冬期の12月~2月には2Km以下である。そこで、各季節別に被雷する高度変化が、日本各地の上空で、外気温度0°Cになる高度と一致しているかどうかを検討した。その結果を、図4.3に示した。」(76頁右欄)
(オ)「 ここでは、航空機の運航頻度が高く、しかも北国に位置する都市である札幌と、南国に位置する福岡を取り上げた。両都市の上空で、外気温が0°C になる高度を図4.3に実線で示した。また、外気温度が-5°Cになる高度を点線で示した。図中の、外気温度が0°C となる温度は、気象庁で行なっている高層気象観測データ(レーウインソンデ観測)の5力年平均値である。航空機の被雷高度が、札幌の上空0°Cおよび福岡の上空-5°Cの範囲内に対応していることが分る。ここで測定された外気温度0°C前後の高度と、被雷率が最も高い飛行高度とが雷雲の有無に関係なく、ほぼ一致していることは注目に値する。[図:0001383962000004.jpg]」(77頁冒頭~中段)
(カ)「4.3航空機の被雷箇所航空機が強い電界強度を持つ雷雲内に進入すると、被雷する頻度が増大するが、実際には弱電界であっても被雷することがある。それは航空機が雷雲中に進入すると、航空機の突端部からストリーマが発生し、雷撃を誘発するからである。一般に突端部を有する長楕円体の金属片を平等電界中に挿入すると、金属の突端部の電界は加えられた電界よりも大きくなる。例えば、楕円体の長径と短径の比を2にすると、長径突端部の電界は、平等電界の6倍になり、また、その比を10にすると50倍になる。航空機が被雷する時には、その雷撃点が航空機の機種先端、翼端あるいは尾部などの突端部に集中していることからも明らかである。日本における昭和33年~昭和50年(1958~1975)の17年間に被雷した航空機の被雷箇所分析によると、機首および翼端の被雷占有率はそれぞれ全体の20%前後であり、胴体の被雷占有率は12%と低くなっている。航空機を雷雲の中に強制的に進入させて航空機を被雷させた諸外国の実験結果によると、機首先端の被雷占有率は、ほぼ30%である。また、機首および翼端の被雷占有率が80%以上にも達しているという日本における機長報告もある。さらに、ジェット戦闘機のようにピトー管が機首先端にある場合には、この部分の被雷占有率が、約33%であり、民間航空機のそれよりも高くなるという報告もある。このように、航空機の被雷箇所分布は、機種によっても変化する。」(77頁中段~末尾)
エ 参考文献5の記載事項
本件出願の出願前にインターネット上で公開された(電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった)「”配信資料に関する技術情報(気象編)第398号”、[online]、平成26年5月30日、気象庁予報部、令和4年1月19日検索、インターネット<URL:http://www.data.jma.go.jp/suishin/jyouhou/pdf/398.pdf>」には、次の記載がある。
「 気象庁では、平成16年6月より「降水ナウキャスト(10分間降水量)」を、平成23年3月より「降水ナウキャスト(5分)」を、それぞれ1km格子の降水ナウキャストとして提供しているところですが、高解像度化した気象庁の気象レーダーや国土交通省のXバンドMPレーダネットワーク(XRAIN)の観測データ等を利用し、今後、250m格子の高解像度降水ナウキャストの提供を開始します。これにより、降水域の移動や発達・衰弱のより正確な把握が可能となり、急激に状況が変化する急な強い雨の監視等へのさらに有効な活用が見込まれます。1.高解像度降水ナウキャストの概要高解像度降水ナウキャストは、高解像度化した気象庁の気象レーダーやXRAINの観測データ等を利用して作成する250m格子の降水ナウキャストです。降水の予測(移動予測及び盛衰予測)手法についても、現行の降水ナウキャストから高度化し、特に、急な強い雨について予測精度の改善を図ります。続きを表示(全18行)高解像度降水ナウキャストには、瞬間的な降水強度である「高解像度降水ナウキャスト」と、5分間積算降水量である「高解像度降水ナウキャスト(5分間降水量)」の2種類のプロダクトがあります。前者は、レーダーエコー強度の実況解析値との連続的な利用に、後者は雨量値としての利用に、それぞれ適しています。また、それぞれのプロダクトには、予測値の誤差に関する情報が含まれます。「高解像度降水ナウキャスト」では、実況解析値における誤差要因(クラッター、ブライトバンド、上空エコー及び雹)の情報が、「高解像度降水ナウキャスト(5分間降水量)」では、誤差幅推定値の情報が含まれます。高解像度降水ナウキャストによる予測の例や利用上の留意点については、別紙1を参照願います。2.提供開始時期平成26年7月下旬以降を予定しています。提供開始日が確定しましたら改めてお知らせします。3.予測対象時間及び対象領域高解像度降水ナウキャストは、実況解析及び5分間隔の予測のデータを5分ごとに提供します。予測対象時間は、250m格子による高解像の予測において精度を確保できる30分先までです。また、現行の降水ナウキャストと同様に1時間先までの利用を想定して、35分先から60分先までの1km格子の予測もプロダクトに含めて提供します。30分先までの予測と35分先から60分先までの予測には、同じ予測手法を用います。高解像度降水ナウキャストでは、速報性を確保し、また、高解像度化によりデータ量が大きくなることを可能な限り抑えるため、陸上と沿岸の海上では250m格子により、その他の海上では1km格子によりプロダクトを作成します。高解像度降水ナウキャストの対象領域は、別図をご参照ください。4.データ形式国際気象通報式FM92GRIB二進形式格子点資料気象通報式(第2版)(以下「GRIB2」という。)でエンコードしたファイルをgzip圧縮して提供します。GRIB2の詳細については国際気象通報式・別冊に詳しく記述されていますので、当該資料を参照願います。高解像度降水ナウキャストのフォーマットの詳細は、別紙2の「『高解像度降水ナウキャスト』GPV要素の詳細」および別紙3の「『高解像度降水ナウキャスト(5分間降水量)』GPV要素の詳細」に記載しています。」(第1葉冒頭~第2葉中段)
(4)本件補正発明と引用発明との対比
ア 構成a1の「気象業務支援センタが提供している過去の一般的な気象データ(降水データおよび数値予報データなど)」及び構成a2ほかの「過去の気象データ」、構成a5などの「単位時間前の気象データ」及び「現在の気象データ」は、構成a1によれば該各気象データとして「《エコー強度(気象レーダーで観測される換算降水強度)》と《エコー頂高度(気象レーダーで観測される降水エコーの高さ)》の2つ、またはそれ以上」が採用されるものであるから、いずれも構成Aの「気象の観測データについての観測パラメータ」に相当する。
イ 構成a5の「単位時間前の気象データと現在の気象データの変化を認識し」、「その変化量を現在の気象データに適用するか、または流体力学の方程式により変化を予測する方法で、パターン変化予測を用いて求め」た「これらデータの10分後の値」及び、構成a1の「気象業務支援センタが提供している過去の一般的な気象データ」に含まれる「数値予報データ」は、構成Aの「気象の予測データについての予測パラメータ」に相当する。
また、構成c2の「前記例えば10分後を予測したデータ組」は、前記構成a5の「単位時間前の気象データと現在の気象データの変化を認識し」、「その変化量を現在の気象データに適用するか、または流体力学の方程式により変化を予測する方法で、パターン変化予測を用いて求め」た「これらデータの10分後の値」を指すことが明らかであるから、同じく、構成Aの「気象の予測データについての予測パラメータ」に相当するといえる。
ウ(ア)構成a3の「前記入力された過去の気象データに対におけるメッシュで区切られた領域ごとの発雷の有無と時刻のデータ」は、構成Aの「雷の発生に関連して発生した事例についての事例データ」に相当する。
(イ)構成a2・a3の「学習フロー」、構成a4の「予測フロー」で入力される「過去の気象データ」、「現在の気象データ」、及び「単位時間前の気象データ」は「分類器」の構築に用いられるか、またはその適用対象となるものであるから、引用発明は「分類器」自体又はその前段部に当該「入力」を受け入れる手段を備えることが明らかであり、該手段は、少なくとも構成Aの「観測パラメータ」及び「事例データ」を入力する「入力部」に相当する。
エ(ア)構成a2の「過去の気象データ」のうち「《メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値》」、「《エコー頂高度の平均値》」、及び「《それぞれの値の10分前からの差分》」なる各データ種は、構成a1で特定される「《エコー強度(気象レーダーで観測される換算降水強度)》と《エコー頂高度(気象レーダーで観測される降水エコーの高さ)》」なる、気象レーダーで観測されるデータそのものではなく、それらから平均処理や差分処理などの演算を経て得られるデータであるから、構成Bにいう「前記観測データ又は前記予測データから直接得られない」パラメータにあたるということができる。
(イ)また、前記各データ種は何れもエコー強度、エコー頂高度、またはそれらの時間微分という、有次元の物理量であり、それらに基づいて構成a3及びc1で「訓練データ」が作成され、それに基づいて分類器が構築され、該分類器を適用することで構成c2で「雷が発生するかどうかを判断」されるのであるから、構成Bの「雷の発生に関連する物理量についてのパラメータ」にあたるといえる。
(ウ)また、引用発明では、構成a2において、学習フローにおいて「《対象となるメッシュXのエコー強度》、《エコー頂高度》、《メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値》、《エコー頂高度の平均値》、《それぞれの値の10分前からの差分》」が入力され、それらを含め構成a3において分類器の訓練データが生成されているのであるから、予測フローにおいても上記各データ種を含む「《対象となるメッシュXのエコー強度》、《エコー頂高度》、《メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値》、《エコー頂高度の平均値》、《それぞれの値の10分前からの差分》」が分類器に入力されるべきことは機械学習における技術常識に照らし自明である。
よって、構成Bの「前記入力された観測パラメータ『及び』予測パラメータに基づき・・・中間パラメータを算出」が、仮に「前記観測データ『又は』前記予測データから直接得られない中間パラメータ」なる観測データおよび予測データの択一的記載に反し、「観測パラメータ」と「予測パラメータ」を共に中間パラメータ算出に用いることのみ意味すると解釈されるべきであるとしても、引用発明の上記各データ種は構成Bの「中間パラメータ」の当該解釈と相違しない。
(エ)よって、構成a2の「過去の気象データ」のうち「《メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値》」、「《エコー頂高度の平均値》」、及び「《それぞれの値の10分前からの差分》」なる各データ種の群は、構成Bの「中間パラメータ」に相当するといえる。
(オ)上記(ア)~(エ)のとおりであるから、構成Bと引用発明とは、「前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない中間パラメータ」を用いる点では共通するといえる。
オ(ア)構成c2の「その領域で雷が発生するかどうかを判断」すること、及び/又は構成c3の「予測結果解釈部において、分類器7が予測した結果を元に発雷による災害発生の可能性や規模を計算し、警報などを出す必要性を判断する」機能は、構成Cの「雷の脅威を推定する」機能に相当する。よって、前記各機能を担う構成c1・c2の「分類器」及び/又は「予測結果解釈部」は構成Cの「雷の脅威を推定する雷脅威推定部」に相当するといえる。
(イ)構成c1の「訓練データ」は、構成a3で特定され、上記ア・ウ・エで説示したとおり、
a)「《エコー強度(気象レーダーで観測される換算降水強度)》と《エコー頂高度(気象レーダーで観測される降水エコーの高さ)》」なる、構成Cの「観測パラメータ」に相当するデータ及び気象レーダーで観測されるデータ、
b)「《メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値》」、「《エコー頂高度の平均値》」、及び「《それぞれの値の10分前からの差分》」なる、構成Cの「中間パラメータ」に相当する各データ種、
c)構成Cの「事例データ」に相当する「前記入力された過去の気象データに対におけるメッシュで区切られた領域ごとの発雷の有無と時刻のデータ」、
について、a)・b)からなる「過去の気象データ」「より、ある領域、ある時刻の周辺メッシュの各値を抽出し整列させ、」c)に対応する「その領域でその時刻に発雷があれば正例(+1)、なければ負例(-1)のラベル」「を貼り付ける処理がなされ」たものであり、
構成c1で、該「訓練データを機械学習により処理し」「構築され」た「分類器」が、構成c2において、構成Cの「予測パラメータ」に相当する「前記例えば10分後を予測したデータ組」に「適用」されることで「その領域で雷が発生するかどうかを判断」するのであるから、構成c2の「分類器」及び/又は構成c3の「予測結果解釈部」の機能は、構成Cの「前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、」「雷の脅威を推定する」機能に相当するといえる。
カ 構成dの「発雷予測装置」は構成Dの「雷脅威情報の提供装置」に相当する。
(5)本件補正発明と引用発明との一致点・相違点
上記(4)のとおりであるから、両発明は下記アの点で一致し、イの各点で相違する。
ア 一致点
「A1 気象の観測データについての観測パラメータ、気象の予測データについての予測パラメータ及び雷の発生に関連して発生した事例についての事例データを入力する入力部と、B1 前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない中間パラメータを用い、C1 前記観測パラメータ、前記予測パラメータ、前記事例データ及び前記中間パラメータに基づき、雷の脅威を推定する雷脅威推定部とを具備するD 雷脅威情報の提供装置。」
イ 相違点
(ア)相違点1(構成A・C)
本件補正発明では、雷の発生に関連して発生した事例についての事例データが「少なくとも航空機被雷についての事例を含む」ものであり、雷脅威推定部が推定する雷の脅威が「航空機への雷」であるのに対し、引用発明では、事例データに相当する「過去の雷情報」が「発雷の位置、時刻、特性」についてのものであり、推定対象は「その領域で雷が発生するかどうか」、「発雷による災害発生の可能性や規模」、発雷による「警報などを出す必要性」であり、「発雷」の限定対象としても構成a6に「雲放電(いわゆる雲間雷)や、対地放電(いわゆる対地雷/落雷)、または、正極雷、負極雷など」が列挙されるにとどまる点。
(イ)相違点2(構成A)
「予測パラメータ」が、本件補正発明では、「入力部」に「入力」されるものであるのに対し、引用発明では、入力前に算出したものが外部から入力されるものか、入力後に入力値から算出されるものか、不明である点。
(ウ)相違点3(構成B)
「中間パラメータ」が、本件補正発明、では「中間パラメータ算出部」で算出されるのに対し、引用発明では、「中間パラメータ」に相当する「《メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値》、《エコー頂高度の平均値》、《それぞれの値の10分前からの差分》」なる各パラメータが「入力」対象とされ、該各パラメータの生成が装置の一手段が算出することでなされるのか外部手段またはデータ提供元にてなされるのか不明である点。
(6)判断
ア 相違点1について
発雷の種別やその被害に、航空機を対象とするもの(航空機被雷)が含まれることは、上記参考文献4にも示されるとおり、周知である。
また、航空機の被雷と被雷発生時の気象条件や発生場所(位置・高度)との関係について統計的に解析した事例も、同じく上記参考文献4(特に下線部の記載)に例示されるとおり、本件出願時以前に多くが知られている。
引用発明は構成a6で特定されるとおり、《「発雷」を雲放電(いわゆる雲間雷)や、対地放電(いわゆる対地雷/落雷)、または、正極雷、負極雷などに限定することで、それらに限定した予測》を行うこと、すなわち細分化された発雷種別について予測を行うことについての示唆を含むものであるから、引用発明において、発雷種別として周知の航空機被雷を特に対象とし、事例データとして航空機被雷についての事例を収集・入力し、該事例に関連付けられた気象条件に関する気象データを収集・入力するようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
(ア)構成c2によれば、「分類器」は、上記(4)イで説示したとおり構成Aの「予測パラメータ」に相当する「前記例えば10分後を予測したデータ組」に対し適用されるものであるから、引用発明において、入力対象を分類器とみた場合、予測パラメータは、それが引用発明の装置で計算されたものであるか否かに関わらず、分類器に対し入力されるパラメータであることが明らかである。
よって、相違点2は実質的な相違点であるとはいえない。
(イ)また、仮に本件補正発明の「気象の予測データ」及び「予測パラメータ」が、気象庁や気象データ提供機関など外部機関で作成されたもののみ意味し、その「入力」が当該外部機関による外部データの入力のみ意味する限定解釈されるとすれば、引用発明では、構成a5において「単位時間前の気象データと現在の気象データの変化を認識し、たとえば10分後を予測する」ことが特定されていることからみて、外部機関による予測データを入力対象とすることは明示的には含まれない点で両発明は相違するといえる。
しかし、気象庁やその他の気象データ提供機関が、地球上の各メッシュ(格子点)の各種物理量について、流体力学に基づいて予想した数値予報計算値(GPV)のデータを随時外部提供していることは周知であるし、気象レーダーデータに限っても、例えば上記参考文献5の摘記事項にも示されるとおり、気象庁により、気象レーダーの観測データ(レーダーエコー強度の実況解析値に関係する瞬間的な降水強度の実況解析値)と併せて、例えば5分間隔60分先までの格子点(メッシュ)での予測データが適時に外部提供されていることは、周知である。
さらに、構成a5には、「単位時間前の気象データと現在の気象データの変化を認識し、たとえば10分後を予測する場合」の予測形態として、「流体力学の方程式により変化を予測する方法」も含まれている。
これらのことから、引用発明の構成a5における、例えば気象レーダーのエコー強度データについての「データの10分後の値」の予測データを、引用発明の装置によって計算されたものから、気象庁など外部機関から提供されたデータに置き換える程度のことは、当業者であれば容易に想到し得たことであって、引用発明の「分類器」に入力されるデータとして、該気象庁など外部機関から提供されたデータ適用し、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたことであるといえる。
ウ 相違点3について
(ア)気象庁等の外部機関による気象レーダーのデータ配信は、例えば参考文献5の「3.」において「高解像度降水ナウキャストでは、速報性を確保し、また、高解像度化によりデータ量が大きくなることを可能な限り抑えるため、陸上と沿岸の海上では250m格子により、その他の海上では1km格子によりプロダクトを作成します。」と説明され、「4.」において「『高解像度降水ナウキャスト』GPV」(当審註:「GPV」とは格子点データを意味する略語)と記載されるとおり、メッシュ(格子点)ごとのデータについて行われることが一般的であるという技術常識に照らしても、また、ユーザー側で算出可能な、各メッシュ周辺の値の平均値やメッシュごとの時間差分まで配信データに含めることが配信データ量の膨大化を招き前記参考文献5「3.」の「高解像度化によりデータ量が大きくなることを可能な限り抑えるため」という課題に反することに照らしても、引用発明における「《メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値》、《エコー頂高度の平均値》、《それぞれの値の10分前からの差分》」なる中間パラメータが前記外部機関から配信されたものと解釈することは困難であり、引用発明の装置において、「《対象となるメッシュXのエコー強度》、《エコー頂高度》」なる観測データに基づいて算出されたものと解釈することが自然かつ妥当である。
仮に例外事例が存在するとしても、少なくとも、前記技術常識に照らし、引用発明には、前記解釈に沿った態様が含まれるといえる。
そうすると、相違点3は実質的な相違点であるとはいえない。
(イ)上記(ア)を前提とすると、相違点3は、仮に実質的なものであるとしても、引用発明の装置において、前記中間パラメータの算出が、前記観測データの入力後に該入力された観測データを用いて行われるのか、前記入力前に、入力予定の観測データを用いて行われるかの相違、つまり、算出を入力前後いずれの段階とするかの相違に過ぎないといえる。
そうすると、相違点3はデータの入力と相互演算の前後に関する手順の相違に過ぎないといえ、何れの順を選択しても結果や効果に格別の差異がないか、あったとしても予測可能な程度のものに過ぎない。
また、機械学習を用いた推論を行う際に、入力値をその入力後において相互演算し中間的なパラメータを算出した上で学習・推論段に供することは、気象データを対象とする事例に限っても、引用文献2・3の上記(3)ア、イの特に下線を施した摘記箇所によっても裏付けられるとおり、当業者にとって周知の事項に過ぎないから、中間パラメータを入力後の算出とすることに阻害要因や当業者にとっての困難性も認められない。
そうすると、引用発明において、他の入力パラメータからの中間パラメータの算出とその入力との前後を何れの順とするかは当業者にとって設計上の都合に応じ適宜選択すべき事項に過ぎず、引用発明において相違点3の構成とすることは当業者が容易になし得たことといえる。
(7)請求人の主張について
請求人は審判請求書において本件補正発明の進歩性に関し概略次のアに示すとおり主張している。
ア 請求人の主張
折りたたみ中(クリックで表示)
(ア)本件補正発明における「中間パラメータ」は、「入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない」ものであるのに対し、引用文献1―3に記載の「機械学習」における「入力値からは直接得られない中間パラメータ」は、中間層における「物理を無視した数値演算の出力」に過ぎず、「雷の発生に関連する物理量についてのパラメータ」でないことは明らかであるから、引用文献1には本件補正発明の「中間パラメータ」について開示も示唆もない。
そして、本件補正発明は、「観測パラメータ、予測パラメータ及び事例データに加えて、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって観測データ又は予測データから直接得られない中間パラメータを用いて雷の脅威を推定しているので、雷の脅威に関する精度の良い情報をユーザに提供することができる。」(【0008】)という、引用文献1に記載の発明では得られない本願特有の効果を奏する。
(イ)本件補正発明の「事例データ」が「航空機被雷についての事例を含む」もので、そして「航空機への雷の脅威を推定する」という構成は、引用文献1に開示も示唆もない。
そして、該構成は「国内の航空機運航では、年間数百件の被雷が発生している。航空機被雷が直接重大事故につながる可能性は極めて低いものの、機体外板等に発生する損傷を修理するために年間数億円規模の費用が発生していると推算されている。これは小修理のみの費用であるため、恒久修理を含めるとより大きな費用が発生していることになる。また、被雷を受けた機体の検査や応急処置には少なからず時間を要するため、小規模な損傷でもしばしば次便の遅延につながることはもちろん、大規模な損傷の場合は欠航に至り、運航スケジュールに大きな影響を及ぼす。更に我が国では、冬季日本海側において、冬季雷と呼ばれる高エネルギーの雷が発生し、長年運航各社にとっての懸念材料となっている。」(【0055】)という課題を解決するものである。
イ 請求人の主張についての検討
折りたたみ中(クリックで表示)
(ア)上記ア(ア)の主張について
本件出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)において「中間パラメータ」については、構成Bでの「前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき、雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって前記観測データ又は前記予測データから直接得られない中間パラメータを算出する」との定義のほか、「雷の発生に関連する物理量についてのパラメータであって観測データ又は予測データから直接得られない中間パラメータ」(【0008】)なる抽象的な定義が記載されるのみで、具体的にいかなる物理量を意味し、また含まれるのかについて何らの説明もなされていない。
そうすると、本件補正発明における「中間パラメータ」は、構成Bにおける上記定義から文言上理解される、
条件a)「雷の発生に関連する物理量についてのパラメータ」であること、
条件b)「観測データ又は予測データから直接得られない」パラメータであること、
条件c)「前記入力された観測パラメータ及び予測パラメータに基づき・・・算出される」パラメータあること、
なる各条件を満たすパラメータであれば足るというほかない。
そして、条件a~cについてはそれぞれ、上記(4)エの(イ)・(ア)・(ウ)で説示したとおり、引用発明の「《メッシュXの周辺メッシュのエコー強度の平均値》」、「《エコー頂高度の平均値》」、及び「《それぞれの値の10分前からの差分》」なる各データ種の群が充たしているといえる。
また、仮に引用発明の前記各データ種が本件補正発明の中間パラメータに相当しないとしても、引用発明において中間パラメータを算出・利用することが容易想到であることは上記(6)ウ(イ)で説示したとおりである。
さらに、本件補正発明において「中間パラメータ」の定義が抽象的なものに留まることから、その作用効果について格別かつ特有のものを認めることができない。よって、請求人の、本件補正発明が「中間パラメータ」についての「雷の脅威に関する精度の良い情報をユーザに提供することができる。」との効果についての主張はあたらない。
(イ)上記ア(イ)の主張について
本件補正発明における、「事例データ」が「航空機被雷についての事例を含む」もので、そして「航空機への雷の脅威を推定する」点の容易想到性については、上記(6)アで説示したとおりである。
(8)小括
したがって、上記(6)・(7)において検討したように、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2~3、参考文献4~5の記載事項により裏付けられる周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
4.むすび
上記3.において検討したことからみて、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~15に係る発明は、上記審査時補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は,上記「第2の1.(1)において請求項1として記載したとおりのものである。
2.原査定における拒理の理由
原査定の拒絶の理由は、概略次のとおりである。
(1)拒絶の理由
理由1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の請求項1~12についての記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の請求項1~12について記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由4.(進歩性)この出願の請求項1~12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(引用文献1~3)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)引用文献等一覧
引用文献1.特開2009-192312号公報
引用文献2.特開平10-73670号公報
引用文献3.特開2003-270357号公報
3.引用文献等の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項は、上記第2の3.(2)に記載したとおりである。
4.対比・判断
本願発明は、本件補正発明の発明特定事項から、上記相違点1に係る、上記第2の1.(2)の請求項1の下線部の構成を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記相違点2・3で相違する。
しかし、上記第2の3.(6)イ・ウで検討したとおり、引用発明において相違点2・3の構成とすることは引用文献2・3に裏付けられる周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、本願発明は、引用発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-012379