特許拒絶査定不服審判
2021-009762
インクジェットヘッドのメンテナンス方法
- 審判番号
- 2021-009762
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-079502外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年07月21日
- 審決日
- 2022年12月27日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】セイコーエプソン株式会社
- 【請求人代理人】布施 行夫
- 【請求人代理人】大渕 美千栄
- 【請求人代理人】川▲崎▼ 通
- 【請求人代理人】松本 充史
- 分類
- P18 .121-WZ (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2016- 79502「インクジェットヘッドのメンテナンス方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月19日出願公開、特開2017-189889〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年4月12日の出願であって、令和2年1月30日付けで拒絶理由が通知され、同年4月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月4日付けで拒絶理由が通知され、同年11月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、令和3年4月19日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年7月21日付けで拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において、令和4年9月13日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月7日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1乃至16に係る発明は、令和4年11月7日付けで提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
インク組成物の成分を凝集または増粘させる凝集剤を含む反応液を吐出するインクジェットヘッドのノズル面を、メンテナンス液を供給したヘッド保湿キャップで覆い、前記ノズル面と、前記供給されたメンテナンス液との間に、密閉された空間を形成するメンテナンス工程を備え、
前記空間は、空気の空間であり、前記供給されたメンテナンス液によって前記空間を保湿することにより、前記ノズル面を保湿し、
前記凝集剤は、水への溶解度が600g/L以下であり、
前記反応液の凝集剤の濃度が0.03mol/kg以上であり、
前記凝集剤が、多価金属塩および有機酸よりなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記メンテナンス液は、沸点が280℃以下の水溶性有機溶剤と、水と、を含み、
前記沸点が280℃以下の水溶性有機溶剤として、標準沸点が200℃以上230℃以下の少なくとも1種の水溶性有機溶剤を含む、インクジェットヘッドのメンテナンス方法。」
第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由において通知した理由は、次に概略を記した理由を含むものである。
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1~4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[刊行物一覧]
1.特開2015-186879号公報
2.特開2011-218582号公報(周知技術)
3.特開2011-224943号公報(周知技術)
4.特開2014-111381号公報(周知技術)
第4 引用文献に記載された事項及び引用発明について
1 引用文献に記載された事項
当審拒絶理由において引用した本願の出願日前に出願公開された特開2015-186879号公報(以下「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)「【0019】
1.処理液
本発明の一実施形態に係る処理液は、色材を含有するインクジェット記録用のインクを用いて非吸収性記録媒体に記録を行う記録方法に使用する処理液であって、前記処理液は、水と、凝集剤と、少なくとも2種以上の有機化合物と、を含有し、前記有機化合物は、前記凝集剤、界面活性剤および樹脂を除くものであり、前記有機化合物毎に、logP値と、前記処理液に含まれる含有量(質量%)と、の積を算出した際に、その合計が-10以下であり、前記有機化合物のうち、logP値が0を超える第1有機化合物の含有量が、前記処理液の全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることを特徴とする。
…
【0021】
1.1.処理液の組成
1.1.1.凝集剤
本実施形態に係る処理液は、インクの成分を凝集させる凝集剤を含有する。凝集剤は、インクに含まれる色材、インクに含まれ得る顔料分散体および樹脂などの成分と反応することで、色材を凝集させるという機能を有する。そのため、記録媒体上で処理液および凝集剤を接触させることで、記録媒体に付着させたインクが増粘したり、インクに含まれる色材が不溶化したりする結果、インクにより記録される画像の発色性等を向上することができたり、印刷ムラ等の発生を抑制することができる。
【0022】
凝集剤としては、特に限定されるものではないが、多価金属塩、有機酸、有機酸塩、カチオン性化合物等があげられ、カチオン性化合物としては、カチオン性樹脂、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。これらの凝集剤の中でも、インクに含まれる成分との反応性に優れるという点から、多価金属塩、有機酸および有機酸塩から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。」
(2)「【0034】
処理液に含まれる凝集剤の濃度は、0.05mol/kg以上1.3mol/kg以下であることが好ましく、0.05mol/kg以上1.0mol/kg以下であることがより好ましい。凝集剤の濃度が0.05mol/kg以上であることで、凝集剤がインクに含まれる成分を凝集させる機能が一層向上する。また、凝集剤の濃度が1.3mol/kg以下であることで、処理液中での凝集剤の溶解性が良好となり、処理液の保存安定性を向上できる。なお、本発明において、処理液に含まれる凝集剤の濃度[mol/kg]は、処理液に含まれる凝集剤の物質量[mol]を、処理液の全質量(すなわち、多価金属塩も含む)[kg]で除することで算出される。
【0035】
凝集剤は、処理液を非吸収性記録媒体(後述)に付与する際に、該処理液に含まれる凝集剤の付着量が0.05mmol/m2以上3mmol/m2以下となるように付与されるものであることが好ましく、0.05mmol/m2以上2.5mmol/m2以下となるように付与されるものであることがより好ましい。凝集剤の付着量が0.05mmol/m2以上となるように付与することで、色材の凝集を促進でき、記録される画像品質が良好となる。また、凝集剤の付着量が3.0mmol/m2以下となるように付与することで、記録部からの凝集剤の析出を抑えることができ、また、処理液の塗布量が少なくなることで、処理液を乾燥させる時間を短くできるので、記録の高速化を図ることができる。
【0036】
処理液に含まれる有機化合物の疎水性が高い場合であっても、処理液中における凝集剤の溶解性が良好になるという点から、凝集剤には、25℃の水100gに対する溶解度が、1g以上であるものを使用することが好ましく、3g以上80g以下にあるものを使用することがより好ましい。」
(3)「【0093】
2.記録方法
本発明の一実施形態に係る記録方法は、上記の非吸収性記録媒体に対して、上記の処理液と、上記のインクジェット記録用のインクと、を用いて記録を行うものである。
【0094】
このような記録方法の一態様として、例えば、処理液およびインクジェット記録用のインク組成物を非吸収性記録媒体に付与する付与工程が挙げられ、処理液およびインクを非吸収性記録媒体上で接触させて画像を形成する。付与工程では、記録媒体上にインクからなる画像を記録する画像記録工程後に、該画像に処理液を付着させる処理液付与工程を行ってもよいが、記録される画像の画質を向上させるという観点から、処理液付与工程後に画像記録工程を行うことが好ましい。以下、付与工程として、処理液付与工程後に画像記録工程を行う場合を例に挙げて詳細に説明する。
【0095】
<処理液付与工程>
上述したように、付与工程では、画像記録工程に先立って、非吸収記録媒体に画像を形成する領域に、予め処理液を付与する処理液付与工程を行うことが好ましい。処理液を付与する方法としては、例えば、スピンコート、スプレーコート、グラビアロールコート、リバースロールコート、バーコート、インクジェット法等のいずれの方法も使用できる。これらの中でも、インクジェット法(インクジェット記録方式)を用いることが好ましい。インクジェット法を使用する場合には、インクジェット記録用ヘッドのノズルから処理液の液滴を吐出させて、非吸収性記録媒体に付着させる。上述した処理液は、これに含まれる有機化合物によって、その表面張力をインクジェット記録方式に適した値に設定しやすいため、処理液をノズルから吐出する際の吐出安定性が良好となる傾向にある。」
2 引用発明
上記1 (1)及至(3)から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「色材を含有するインクジェット記録用のインクを用いて非吸収性記録媒体に記録を行うインクジェット記録方式の記録方法であって、
画像記録工程に先立って、非吸収記録媒体に画像を形成する領域に、予め処理液を付与する処理液付与工程を行い、
処理液付与工程は、インクジェット記録方式を用い、インクジェット記録用ヘッドのノズルから処理液の液滴を吐出させて、非吸収性記録媒体に付着させるもので、
当該記録方法に使用する処理液は、インクの成分を凝集させる凝集剤を含有し、
凝集剤としては、多価金属塩、有機酸および有機酸塩から選択される少なくとも1種を用い、
処理液に含まれる凝集剤の濃度は、0.05mol/kg以上1.3mol/kg以下であり、
凝集剤には、25℃の水100gに対する溶解度が、3g以上80g以下にある、
インクジェット記録方式の記録方法。」
第5 当審の判断
1 本願発明と引用発明との対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 後者の「インクの成分を凝集させる凝集剤」及び「『インクの成分を凝集させる凝集剤』を含有する『処理液』」は、それぞれ、前者の「インク組成物の成分を凝集させる凝集剤」及び「凝集剤を含む反応液」に相当する。
イ 後者の「記録方法」における「処理液付与工程」は、「インクジェット法(インクジェット記録方式)を用い」、「色材を含有するインクジェット記録用のインクを用いて非吸収性記録媒体に記録を行う」ものであるから、凝集剤を含有する処理液はインクジェットヘッドのノズル面から吐出されることは明らかである。
ウ 後者の「凝集剤」は、「25℃の水100gに対する溶解度が、3g以上80g以下」であるから、前者の「凝集剤」と後者の「凝集剤」とは、水への溶解度が30g/L以上600g/L以下である点で共通する。
エ 後者の「処理液に含まれる凝集剤の濃度」は、「0.05mol/kg以上1.3mol/kg以下」であるから、前者の「反応液の凝集剤の濃度」と後者の「処理液に含まれる凝集剤の濃度」とは、0.05mol/kg以上1.3mol/kg以下である点で一致する。
オ 後者の「凝集剤」は、「多価金属塩、有機酸および有機酸塩から選択される少なくとも1種」を用いるものであるから、前者の「凝集剤」と後者の「凝集剤」とは、多価金属塩および有機酸よりなる群から選択される少なくとも1種である点で一致する。
カ 前者の「インクジェットヘッドのメンテナンス方法」は、インクジェット記録方法の技術常識からすれば、記録方法のうちの一つの工程もしくは記録方法のうちの画像形成工程に連続する必須の工程であるから、前者の「インクジェットヘッドのメンテナンス方法」と後者の「インクジェット記録方式の記録方法」とは、インクジェットヘッドに係る方法との概念で共通する。
(2)したがって、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下
の相違点で相違する。
<一致点>
「インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含む反応液をノズル面から吐出するインクジェットヘッドに係る方法であって、
前記凝集剤は、水への溶解度が30g/L以上600g/L以下であり、
前記反応液の凝集剤の濃度が0.03mol/kg以上であり、
前記凝集剤が、多価金属塩および有機酸よりなる群から選択される少なくとも1種である、
インクジェットヘッドに係る方法。」
<相違点>
本願発明は、「インクジェットヘッドのメンテナンス方法」であって、「ノズル面を、メンテナンス液を供給したヘッド保湿キャップで覆い、前記ノズル面と、前記供給されたメンテナンス液との間に、密閉された空間を形成するメンテナンス工程を備え、前記空間は、空気の空間であり、前記供給されたメンテナンス液によって前記空間を保湿することにより、前記ノズル面を保湿し、前記メンテナンス液は、沸点が280℃以下の水溶性有機溶剤と、水と、を含み、前記沸点が280℃以下の水溶性有機溶剤として、標準沸点が200℃以上230℃以下の少なくとも1種の水溶性有機溶剤を含む」ものであるのに対し、引用発明は、インクジェット記録方式の記録方法であって、メンテナンス工程を備えることの明記がない点。
2 相違点についての判断
上記刊行物2(特開2011-218582号公報(【請求項1】、【0076】、【0078】、【0081】参照。))、刊行物3(特開2011-224943号公報(【請求項1】~【請求項4】、【0135】、【0138】、【0142】参照。))、刊行物4(特開2014-111381号公報(【請求項1】、【0076】、【0078】、【0081】参照。))、に記載されているように、
「樹脂成分、沸点が250℃以下の水溶性有機溶媒、界面活性剤、および水を含む水性インク組成物を吐出する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドを覆って保湿するための第1キャップ装置と、前記第1キャップ装置に、沸点が250℃以下のアルカンジオール(1,2-ペンタンジオール(沸点;206℃))の水溶性有機溶媒をメンテナンス液の全質量に対する上記水溶性有機溶媒の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、および水95質量%以上を含むメンテナンス液を供給する第1メンテナンス液供給装置と、を用いたメンテナンス方法。」は周知の技術手段(以下「周知技術」という。)といえる。
ここで、引用発明は、インクジェット記録方式の記録方法であるところ、当該記録方法に使用する処理液として、非吸収性記録媒体に記録を行うために凝集性の高い処理液を用いていることからすれば、記録処理後に、放置しておくと、ノズルが目詰まりしてしまうことは明らかである。してみると、記録処理後に、ノズル面をメンテナンス液を供給したキャップで覆うことで密閉された空間を形成し、保湿するという慣用されたメンテナンス方法(以下「慣用技術」という。)を採用していることは必須といえる。
そうすると、使用する処理液として、非吸収性記録媒体に記録を行うために凝集性の高い処理液を用いている記録処理後に、ノズル面をメンテナンス液を供給したキャップで覆うことで密閉された空間を形成し、保湿することが例を示すまでもなく慣用技術であることからすれば、引用発明の「インクジェット記録方式の記録方法」において、「ノズル面を、メンテナンス液を供給したヘッド保湿キャップで覆い、前記ノズル面と、前記供給されたメンテナンス液との間に、密閉された空間を形成するメンテナンス工程」を備えるようにすることは、当業者が適宜なし得るものである。
そして、上述のとおり、上記相違点に係るメンテナンス液が周知の技術手段であることからすれば、引用発明1のインクジェット記録方式の記録方法に、上記周知技術を適用し、本願発明とすることは、当業者が容易になし得るものである。
そして、本願発明の効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者であれば容易に予測し得る程度のものである。
審判請求人は、令和4年11月7日に提出した意見書において、“引用文献1には、特定範囲内の標準沸点を有する水溶性有機溶剤を含むメンテナンス液を用いることが記載も示唆もされていません。”(以下「主張1」という。)及び“「引用文献2~4には、…標準沸点を200℃以上230℃以下の特定範囲内に限定したものが好ましいことは記載されていません。」、「引用文献2~4に記載されるメンテナンス方法においては、…吸引クリーニング後の評価(クリーニング回復性)には何ら差がありません。」、「このように、引用文献2~4には、特定の水溶性有機溶剤を含むメンテナンス液により、固化した凝集剤を除去する能力が高くなることは記載されていません。したがって、上記有利な効果は、いくら当業者であっても予測し得ないものであると思料します。」”(以下「主張2」という。)旨、主張する。
(主張1に対して)
しかし、上述のとおり、引用発明において、記録処理後に、ノズル面をメンテナンス液を供給したキャップで覆うことで密閉された空間を形成し、保湿するという慣用されたメンテナンス方法を採用していることは必須といえるのであるから、メンテナンス液を用いることは、当業者であれば、適宜なし得る程度のことである。
(主張2に対して)
刊行物2乃至4において、アルカンジオール(1,2-ペンタンジオール(沸点;206℃))を水溶性有機溶媒として用いたメンテナンス液は回復処理の評価がいずれも高い評価を示しているのであるから、上記周知技術を採用することによる有利な効果は当業者が予測し得るところであるし、上記周知技術を引用発明に適用する阻害要因となるものではない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。
3 小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第6 むすび
上記第5のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、上記の結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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