特許拒絶査定不服審判
2022-016244
プリンタおよびプログラム
- 審判番号
- 2022-016244
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-013285
- 請求日
- 2022年10月12日
- 審決日
- 2024年02月21日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】サトーホールディングス株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人グローバル・アイピー東京
- 審判長/審判官
- 審判長 藤本 義仁
- 審判官 嵯峨根 多美
- 審判官 殿川 雅也
- 分類
- P18 .121-WZ (B41J) / P18 .537-WZ (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019- 13285「プリンタおよびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 8月13日出願公開、特開2020-121436〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年1月29日の出願であって、令和4年4月13日付けの拒絶理由の通知に対し、同年6月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年10月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において、令和5年10月31日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明について
本願の請求項1-5に係る発明は、令和5年12月27日付けで提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「印字媒体に印字データを印字する印字ヘッドと、
外部の雰囲気温度を取得する温度取得部と、
前記温度取得部によって取得された現在の雰囲気温度が極低温である場合に、前記印字媒体に転写されるインクリボンの種類を識別するインクリボン識別情報、及び、被転写体である前記印字媒体の種類を識別する被転写体識別情報を取得し、予め、インクリボンのタイプ別の溶融特性、及び、インクリボン及び前記印字媒体の材料に応じた印字時の定着性及び擦過性の観点から、前記インクリボン識別情報及び前記被転写体識別情報の組合せに対応して、前記極低温の雰囲気温度に対する印字速度の低下度合が段階的に設定されたデータベースを参照し、前記極低温における現在の雰囲気温度に対応する印字速度を決定し、前記印字媒体に前記印字データを印字するときの前記印字媒体が単位面積当たりに受ける熱量が所定範囲内となるように前記印字ヘッドによる印字速度を制御する制御部と、
を備えたプリンタ。」
第3 当審拒絶理由の概要
令和5年10月31日付け当審拒絶理由において通知した理由は、次に概略を記した理由を含むものである。
理由3(進歩性)この出願の令和4年10月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載の発明及び引用文献2に記載の技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2001-199091号公報
引用文献2:特開平5-50640号公報
第4 当審の判断
1 引用文献
(1)引用文献1
ア 引用文献1に記載された事項
本願の出願前である平成13年7月24日に頒布された刊行物である特開2001-199091号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。以下同様。)。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は熱転写プリンタに係わり、特に印刷中の周囲の環境温度に印字品質が影響されることのない熱転写プリンタに関する。」
(イ)「【0005】そして、サーマルヘッド24をヘッドダウンさせて、インクリボンを記録用紙21に圧接する。そして、サーマルヘッド24の複数の発熱素子(図示せず)を発熱させると共に、紙送りローラを図示時計回り方向に回転させることにより、記録用紙21にインクリボン(図示せず)のインクが熱転写されて所望の画像が印刷される。そして、印刷後の記録用紙21は、矢印Cの方向に排紙される。このような従来の熱転写プリンタは、印刷時の周囲の環境温度が略20℃前後に保たれていれば、インクリボンのインクを適正に記録用紙21に転写することができ、記録用紙21の印刷面を擦っても、記録用紙21に転写されたインクが剥離するようなことがない。また、高印刷品質の画像を得ることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の熱転写プリンタは、印刷時の周囲の環境温度が、例えば15℃未満に低くなると、インクリボンのインクを記録用紙21に適正に転写することができなくなり、記録用紙21とインクとの密着強度が低下し、記録用紙21の印刷面を擦ったときにインクが剥離することがあった。そのために、従来の熱転写プリンタは、周囲の環境温度が低下した場合には、サーマルヘッド24の発熱素子に印加する発熱エネルギーを大きくし、発熱素子の発熱温度を高くして印刷していた。けれども、このように印刷中の発熱素子の発熱温度を高くすると、インクリボンは高温のによる熱ダメージが加わり、インクリボンが溶融して切断する危険性があった。
【0007】特に、最近のインクリボンは、フィルム基材の厚さが数μmと非常に薄くなっており、サーマルヘッド24の発熱温度を高くすると、インクリボンが切断する危険性が更に高くなる。その対策として、周囲の環境温度が所定温度より低い場合でも、サーマルヘッドに印加する発熱エネルギーを変えないで、印刷画像の品質を若干犠牲にしてインクリボンの切断防止を優先させていた。そのために、従来の熱転写プリンタは、印刷中にインクリボンが切断するというようなことはないが、周囲の環境温度が所定温度以下に下がると、印刷画像の品質が低下する問題があった。
【0008】本発明は、前述したような問題点に鑑みてなされたもので、印刷時に周囲の環境温度が所定温度より低くても、インクリボンのインクを適正に記録用紙に熱転写して、高品質の印刷画像を得ることができると共に、インクリボンが切断することのない熱転写プリンタを提供することを目的とする。」
(ウ)「【0011】また、前記課題を解決するための第3の解決手段として、インクリボンと、このインクリボンのインクを記録用紙に熱転写可能なサーマルヘッドと、周囲の環境温度を検出可能な温度検出手段とを備え、前記温度検出手段で検出した前記環境温度が所定温度より高い場合は、前記サーマルヘッドの走行速度を所定の速度にして前記記録用紙に印刷し、前記温度検出手段が検出した前記環境温度が前記所定温度より低い場合は、前記サーマルヘッドの前記走行速度を前記所定の速度より遅くして前記記録用紙に印刷するような構成とした。
【0012】また、前記課題を解決するための第4の解決手段として、前記記録用紙は、面粗さの異なる複数の種類を有し、この複数の種類を選択可能な用紙設定手段を設け、この用紙設定手段に設定された前記記録用紙の前記種類に対応して、前記サーマルヘッドの前記走行速度を変えるような構成とした。」
(エ)「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の熱転写プリンタは、図1に示す下方側に、給紙部(図示せず)が配設され、この給紙部には、例えばA4サイズ等の複数枚の記録用紙1が収納可能になっている。前記記録用紙1は、例えばA4サイズ等のカット紙からなり、上質紙、あるいは再生紙等の、面粗さの異なる複数の種類を有し、本発明の熱転写プリンタにおいて印刷可能な記録用紙の種類は、上質紙だけでなく再生紙のような面粗さの粗い記録用紙1も印刷できるようになっている。」
(オ)「【0017】・・・前記サーマルヘッド9は複数のドット状に形成された発熱素子(図示せず)を有し、この発熱素子は、制御部(図示せず)からの印刷情報に基づいて、発熱エネルギー、例えば電流が選択的に印加されて発熱可能になっている。
・・・
【0019】また、キャリッジ6のカセット装着面6aには、リボンカセット10が装着可能になっており、このリボンカセット10は、キャリッジ6の一対のボビン6b、6bが係合可能な一対の孔状のリール10a、10aを有し、この一対のリール10a、10aには、フィルム基材(図示せず)に所定の色の熱溶融性のインクを塗布したインクリボン11が巻回されている。・・・」
(カ)「【0020】また、本発明の熱転写プリンタには、前記フレーム側に温度センサからなる温度検出手段(図示せず)が取り付けられて、周囲の環境温度を検出可能になっている。」
(キ)「【0026】また、本発明のその他の実施の形態は、前述した本発明の実施の形態と、構成、及び印刷動作は同じであり、異なるところは、温度検出手段が検出した環境温度に対応して、サーマルヘッド9の走行速度を変えるようにしたことにある。即ち、温度検出手段が検出した環境温度が、所定温度より高い場合は、サーマルヘッド9の走行速度を所定の速度にして、インクリボン11のインクを記録用紙1に熱転写する。また、温度検出手段が検出した環境温度が、所定温度未満の場合は、サーマルヘッド9の走行速度を前記所定の速度より遅くして、インクリボン11のインクを記録用紙1に熱転写して印刷するようになっている。この時、サーマルヘッド9の発熱素子に印加する発熱エネルギーは、環境温度が変化しても、常に同じ値で印刷するようになっている。
【0027】即ち、本発明のその他の実施の形態は、発熱素子に印加する発熱エネルギーを常に一定にし、温度検出手段が検出した環境温度に対応して、サーマルヘッド9の走行速度を変えることにより、高品質の画像を印刷することができると共に、インクリボン11に加わる熱ダメージを少なくして、インクリボンの切断を防ぐことができる。」
(ク)「【0028】また、本発明のその他の実施の形態においては、前記用紙設定手段に入力された、面粗さの異なる複数の種類の記録用紙1に対応して、サーマルヘッド9の走行速度を変えることができるようになっている。そのために、面粗さの粗い再生紙等に印刷するときは、サーマルヘッド9の走行速度を、上質紙からなる記録用紙1に印刷するときよりも遅くして印刷することにより、面粗さの粗い再生紙等にも、高品質の画像を印刷することができると共に、インクリボンの切断を防ぐことができる。
【0029】このような、本発明のその他の実施の形態の、環境温度と、用紙の種類及びサーマルヘッドの走行速度との関係を、例えば図2のグラフで表す。まず、サーマルヘッド9の走行速度を、単位がcps(chracterspersecond)で表示される印刷速度に置き換え、環境温度を15℃未満、15~25℃、25℃以上の3ランクに区分し、記録用紙1の種類は上質紙と再生紙の2種類に区分している。
【0030】そして、記録用紙1が上質紙の場合に、環境温度が15℃未満の時は、印刷速度を110cpsで印刷し、環境温度が15~25℃の時は、印刷速度を130cpsで印刷し、環境温度が25℃以上の時は、印刷速度を150cpsで印刷するようにしている。また、再生紙の場合は、図2に示すとおりである。このように、環境温度が低温に変わった場合に、サーマルヘッド9の走行速度を遅くすることにより、高品質の画像を印刷することができると共に、インクリボン11に加わる熱ダメージを少なくして、インクリボンの切断を防ぐことができる。」
(ケ)「【0033】また、印刷時に、温度検出手段が検出した環境温度が所定温度より低い場合は、サーマルヘッドの前記走行速度を所定の速度より遅くして記録用紙に印刷するようにしたので、周囲の環境温度が低温であっても、高品質の画像を印刷することができる。
【0034】また、前記記録用紙は、面粗さの異なる複数の種類を有し、この複数の種類を選択可能な用紙設定手段を設け、この用紙設定手段に設定された前記記録用紙の前記種類に対応して、前記サーマルヘッドの前記走行速度を変えるようにしたので、記録用紙の面粗さが異なっても、高品質の画像を印刷することができる。」
(コ)【図2】
「
[図:0001409674000001.jpg]
」
イ 引用文献1の記載から把握できる事項
(ア)熱転写プリンタは、上記ア(ク)及び(コ)から、記録用紙が上質紙の場合、環境温度が15℃未満の時は、印刷速度を110cpsで印刷し、環境温度が15~25℃の時は、印刷速度を130cpsで印刷し、環境温度が25℃以上の時は、印刷速度を150cpsで印刷しており、上記ア(コ)から、記録用紙が再生紙の場合は、環境温度が15℃未満の時は、印刷速度を90cpsで印刷し、環境温度が15~25℃の時は、印刷速度を110cpsで印刷し、環境温度が25℃以上の時は、印刷速度を130cpsで印刷するようにしている、と認められる。
(イ)そして、上記ア(オ)より、発熱素子は制御部からの印刷情報に基づいて発熱することからすると、上記ア(キ)の発熱エネルギーの制御、及び上記(ア)の印刷速度の制御はいずれも制御部が制御しているものと認められる。
(ウ)上記ア(オ)より、サーマルヘッドは印刷情報を印刷するものであるから、上記ア(ウ)と総合すると、サーマルヘッドは、印刷情報をインクリボンのインクを記録用紙に熱転写することにより印刷するものと認められる。
(エ)上記ア(ク)の段落【0029】の記載から、サーマルヘッド9の走行速度を遅くすると、印刷速度が遅くなると認められる。
ウ 引用文献1に記載された発明
上記ア、イから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「インクリボンと、
印刷情報をインクリボンのインクを記録用紙に熱転写することにより印刷するサーマルヘッドと、
周囲の環境温度を検出可能な温度検出手段と、
用紙設定手段に設定された記録用紙の種類に対応して、前記記録用紙が上質紙の場合は、前記温度検出手段で検出した現在の前記環境温度が15℃未満の時は、印刷速度を110cpsで印刷し、環境温度が15~25℃の時は、印刷速度を130cpsで印刷し、環境温度が25℃以上の時は、印刷速度を150cpsで印刷するようにし、
前記記録用紙が再生紙の場合は、環境温度が15℃未満の時は、印刷速度を90cpsで印刷し、環境温度が15~25℃の時は、印刷速度を110cpsで印刷し、環境温度が25℃以上の時は、印刷速度を130cpsで印刷する制御部と、を備え、
前記環境温度が低温に変わった場合に、サーマルヘッドの印刷速度を遅くすることにより、サーマルヘッドの発熱素子に印加する発熱エネルギーは、環境温度が変化しても、常に同じ値で印刷するようにし、
以て、印刷時の周囲の環境温度が低くなると、記録用紙とインクとの密着強度が低下し、記録用紙の印刷面を擦ったときにインクが剥離することがあったという問題点を解決して、印刷時に周囲の環境温度が所定温度より低くても高品質の印刷画像を得ることができる、
熱転写プリンタ。」
(2)引用文献2
ア 引用文献2に記載された事項
本願の出願前である平成5年3月2日に頒布された刊行物である特開平5-50640号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0006】(A)熱転写プリンタの速度向上に伴い、短い通電時間で溶融できるインクリボン(以下、高速リボンと呼ぶ)を開発する必要がある。しかし、市場には従来の溶融できるまで長い通電時間を要するインクリボン(以下、低速リボンと呼ぶ)があり、その低速リボンは短い通電時間では満足のいく印字濃度が得られない。
【0007】(B)使用可能なインクリボンとして、黒以外に各種のカラーリボンを用意するのが一般的であるが、熱転写プリンタの速度向上と同期して、高速リボン全色を開発することは難しい。従って、一部のインクリボンについては従来の低速リボンを使う必要がある。
【0008】これらの問題を解決するために、従来は印字データの通電時間が短く高速で印刷できるモードと、印字データの通電時間を長くできるがその分印刷速度が遅くなるモードの2つを用意し、かつ各モード毎に上記(1)(2)の通電補正を加えていた。しかし、そのモード選択は、印刷時に日本語ワードプロセッサのような文書編集装置の画面に条件を表示し、ユーザに任せていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで、高速対応リボンと低速リボン双方を使用できるようにするため、基本的にインクリボンカセットの外形は同一にしなければならない。その結果、ユーザにとっては、インクリボンカセットの表面に記載された名称以外に区別手段がなく、どちらのインクリボンなのか判断しにくい欠点がある。そして、そのインクリボン毎にどちらのインクリボンなのか判断して、印刷速度を設定し直さなければならないという煩わしさがあった。
【0010】また、ユーザが印刷速度を設定し直さないか、または知らないで印刷を行うと、所望の印字品質が得られなくなってしまう。その結果、再度印字し直すため、時間もコスト的にも損をするという不具合があった。
【0011】本発明の課題は、熱転写プリンタ装置において、使用するインクリボンのタイプを自動的に検出し、最適な印刷速度で印刷を行い、良好な印字品質を提供することにある。」
(イ)「【0022】日本語ワードプロセッサ等の文書編集装置から印刷指令が来ると、まずCPU1がIO制御回路13を介して光センサ5の出力を読み取る。そしてそのデータから熱転写プリンタ15のキャリッジ3に搭載されたインクリボン1の種類を判断する。次に、インクリボン1が高速リボンの場合は、テーブルスイッチ10を高速対応熱テーブル8側に切替えて熱テーブルを呼出し、熱制御回路11に転送する。逆にインクリボン1が低速リボンの場合は、テーブルスイッチ10を低速対応熱テーブル9側に切替えて熱テーブルを呼出し、熱制御回路11に転送する。その後、日本語ワードプロセッサ等の文書編集装置から印字データを受信し、バッファメモリに一時格納する。
【0023】次に熱転写プリンタ15に印刷する場合は、印字ヘッド2を一方向に移動させる必要があるので、必要に応じてCPU6はモータドライバー14を介してのモータ16を回転させる。ここで、インクリボン1の種類に応じてモータ16を駆動する速度を変えることが必要であるが、この切替に係るプログラムは、プログラムメモリ7に格納している。そしてCPU6は、熱転写プリンタ15に印刷する1ドット列の印字データをバッファメモリ17から熱制御回路11に転送する。熱制御回路11は、送られてきた熱テーブルの内容と印字データからプリンタ15の印字ヘッド2に流す電流のパルス幅を決定し、ヘッドドライバ12を介して、熱転写プリンタ15に通電する。この一連の動作を印刷終了まで繰り返す。本発明によれば、インクリボンカセットの形状を変えることなく、自動的に検出し、最適な印刷速度で印刷を行い、良好な印字品質を得ることができる。
【0024】
【発明の効果】本発明によれば、キャリッジにインクリボンを搭載するのみで、高速で印字できるインクリボンなのか、低速でしか印字できないインクリボンなのかを自動的に判断して印刷できるので、ユーザが気に留めなくとも良好な印字品質を得ることができる。
【0025】また、従来のようにユーザが印刷速度を設定する場合には、気付かずに印刷を行ってしまうと、所望の印字品質が得られずに再度印字し直す必要があったが、本発明によればその必要性がないので、時間や費用の節約ができる。」
(ウ)「【請求項3】少なくても、溶融時間の異なる複数種類のインクリボンを使用可能であり、印字ヘッドと前記インクリボンを搭載したキャリッジをプラテンに沿って往復運動させ、前記プラテンと印字ヘッド間に支えられた用紙に印字する熱転写プリンタ装置において、前記キャリッジ上にインクリボンの種類を検出する手段と、ある種類のインクリボン上のみ被検出手段を設け、かつ前記インクリボンの種類を検出する手段の信号により印字速度を変える手段と、前記印字ヘッドに加える熱エネルギーを変更する手段を設けたことを特徴とする熱転写プリンタ装置。」
イ 技術常識
熱転写プリンタ装置の技術常識からすると、インクリボンは用紙に転写されるものである。
ウ 引用文献2に記載された技術的事項
上記ア及びイから、引用文献2には、次の技術的事項(以下、「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「用紙に転写されるインクリボンの種類を検出する手段の信号により、前記インクリボンの種類別の溶融特性に応じて、印字速度を変える手段を有し、
溶融時間の異なる複数種類のインクリボンを使用可能であり、最適な印刷速度で印刷を行い、良好な印字品質を提供する熱転写プリンタ装置。」
2 対比・判断
(1)本願発明と引用発明1との対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「記録用紙」、「印刷情報」、「サーマルヘッド」、「周囲の環境温度を検出可能な温度検出手段」、「インクリボン」及び「用紙設定手段に設定された記録用紙の種類」は、本願発明の「印字媒体」、「印字データ」、「印字ヘッド」、「外部の雰囲気温度を取得する温度取得部」、「インクリボン」及び「被転写体である前記印字媒体の種類」に相当する。
引用発明1の「サーマルヘッド」は、印刷情報を印刷するものであるから、本願発明の「印字ヘッド」と引用発明1の「サーマルヘッド」とは、「印字データを印字する」ものとの概念で一致する。
引用発明1の「インクリボン」は、記録用紙に熱転写されるものであるから、本願発明の「インクリボン」と引用発明1の「インクリボン」とは、「印字媒体に転写される」ものとの概念で一致する。
イ 引用発明1の「制御部」は、「環境温度が15℃未満の時」、「環境温度が15~25℃の時」、「環境温度が25℃以上の時」のそれぞれの環境温度の時に、「記録用紙が上質紙の場合」と「記録用紙が再生紙の場合」とで、異なる「印刷速度」で印刷するものであるから、引用発明1の「制御部」が、用紙設定手段に設定された記録用紙の種類を識別する記録用紙識別情報を取得していることは明らかである。してみると、引用発明1の「制御部」は、「被転写体である印字媒体の種類を識別する被転写体識別情報を取得」しているといえる。
ウ 引用発明1の「制御部」は、環境温度が15℃未満の時、15~25℃の時、25℃以上の時のそれぞれに対し、特定の印刷速度で印刷しているから、「制御部」は、前述する各環境温度の区分に対して、特定の印刷速度が設定されている情報を参照して、現在の環境温度に対応する印刷速度を決定しているといえる。そして、引用発明1の「制御部」が制御する印刷速度は、環境温度の区分が低くなるに従って、遅くなっていることから、前述する情報に設定されている印刷速度は、低下度合が段階的に設定されているといえる。
エ したがって、本願発明の「制御部」と引用発明1の「制御部」とは、「被転写体である印字媒体の種類を識別する被転写体識別情報を取得し、被転写体識別情報に対応して、雰囲気温度に対する印字速度の低下度合が段階的に設定された情報を参照し、現在の雰囲気温度に対応する印字速度を決定し、前記印字ヘッドによる印字速度を制御する」ものとの概念で一致する。
オ 引用発明1の「熱転写プリンタ」は、「制御部」により印刷速度を制御することで、「印刷時の周囲の環境温度が低くなると、記録用紙とインクとの密着強度が低下し、記録用紙の印刷面を擦ったときにインクが剥離することがあったという問題点を解決して、印刷時に周囲の環境温度が所定温度より低くても高品質の印刷画像を得ることができる」ものであるから、本願発明の「制御部」と引用発明1の「制御部」とは、「インクリボン及び印字媒体の材料に応じた印字時の定着性及び擦過性の観点から、被転写体識別情報に対応して現在の雰囲気温度に対応する印刷速度を決定する」ものとの概念で一致する。
カ 引用発明1の「制御部」は、「環境温度が低温に変わった場合に、サーマルヘッドの印刷速度を遅くすることにより、高品質の画像を印刷することができ、サーマルヘッドの発熱素子に印加する発熱エネルギーは、環境温度が変化しても、常に同じ値で印刷するようにし」ているので、当然、記録用紙に画像を印字するときの前記記録用紙が単位面積当たりに受ける熱量は、高品質の画像を印刷できる所定範囲内となっていると認められる。
キ 前記イからカを踏まえると、引用発明1の「制御部」は、本願発明の「制御部」に相当する。
ク 引用発明1の「熱転写プリンタ」は、本願発明の「プリンタ」に対応する。
したがって、本願発明と引用発明1を対比すると、両者は、
<一致点>
「印字媒体に印字データを印字する印字ヘッドと、
外部の雰囲気温度を取得する温度取得部と、
被転写体である前記印字媒体の種類を識別する被転写体識別情報を取得し、予め、インクリボン及び前記印字媒体の材料に応じた印字時の定着性及び擦過性の観点から、前記被転写体識別情報に対応して、雰囲気温度に対する印字速度の低下度合が段階的に設定された情報を参照し、現在の雰囲気温度に対応する印字速度を決定し、前記印字媒体に前記印字データを印字するときの前記印字媒体が単位面積当たりに受ける熱量が所定範囲内となるように前記印字ヘッドによる印字速度を制御する制御部と、
を備えたプリンタ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明は、予めデータベースに「極低温」の雰囲気温度に対する印字速度の低下度合が段階的に設定されており、温度取得部によって取得された現在の雰囲気温度が「極低温である場合に、」「前記極低温における現在の雰囲気温度」に対応する印字速度を決定するのに対し、引用発明1は、予め25℃未満の環境温度に対する印刷速度の低下度合が段階的に設定されている情報を参照して、温度検出手段で検出した現在の環境温度が25℃未満の時に、印刷速度を遅くするが、15℃未満の環境温度における印刷速度は一定値とされていて、「極低温」における印刷速度の低下度合は段階的に設定されていない点。
<相違点2>
本願発明は、「印字媒体に転写されるインクリボンの種類を識別するインクリボン識別情報」を取得し、「予め、インクリボンのタイプ別の溶融特性」の観点も踏まえて、「前記インクリボン識別情報及び前記被転写体識別情報の組合せに対応して、」前記極低温の雰囲気温度に対する印字速度の低下度合が段階的に設定されたデータベースを参照し、現在の雰囲気温度に対応する印字速度を決定するのに対して、引用発明1は、用紙設定手段に設定された記録用紙の種類と現在の環境温度に対応した印刷速度で印刷しているが、当該印刷速度を決定するのに「インクリボン識別情報」は用いておらず、印刷速度を決定する際に参照する情報は、「インクリボンのタイプ別の溶融特性」の観点から、「インクリボン識別情報及び」前記被転写体識別情報「の組合せ」に対応したものではない点。
<相違点3>
本願発明は、前記極低温の雰囲気温度に対する印字速度の低下度合が段階的に設定された「データベース」を参照し、印字速度を決定するのに対して、引用発明1は、15℃未満、15~25℃、25℃以上の環境温度の区分に対して印刷速度の低下度合が段階的に設定された「情報」を参照して印刷速度を制御するが、当該「情報」は「データベース」といえるものであるか否か不明な点。
(2)判断
ア 相違点1について
引用発明1は、環境温度が15℃未満の低温に変わった場合に、印刷速度を遅くすることにより「印刷時に周囲の環境温度が所定温度より低くても高品質の印刷画像を得ることができる」ものであるところ、寒冷地で高品質の印刷画像が得られるように、印刷速度を遅くする所定温度を、極低温まで設定して相違点1の構成とすることは、技術の具体的適用に伴う設計的事項である。
イ 相違点2について
(ア)引用文献2記載の技術的事項における熱転写プリンタ装置が「用紙に転写されるインクリボンの種類を検出する」ことは、本願発明におけるプリンタが「印字媒体に転写されるインクリボンの種類を識別するインクリボン識別情報」「を取得」することに相当する。そして、引用文献2記載の技術的事項において、熱転写プリンタ装置はインクリボンの種類を検出する手段の信号により、前記インクリボンの種類別の溶融特性に応じて、印字速度を変えるので、引用文献2記載の技術的事項と本願発明とは、プリンタが「インクリボンのタイプ別の溶融特性の観点」から印刷速度を決定するという概念で一致する。
(イ)引用発明1と引用文献2記載の技術的事項は、ともにインクリボンを用いる熱転写プリンタにおいて、印刷速度を変えて高品質(良好な印字品質)の印刷を行う技術に関するものである。引用発明1において、印刷速度を決定するためのパラメータは記録用紙の種類と環境温度であるが、記録用紙にインクリボンを転写して印刷するプリンタにおいて、インクリボンの特性、及びインクリボンと記録用紙の組合せによる特性が印刷品質に影響することは技術常識であることからすると、引用発明1において、高品質な印刷を行うために、引用文献2記載の技術的事項を採用する動機付けがあるといえる。
(ウ)用紙設定手段に設定された記録用紙の種類を識別する記録用紙識別情報を取得して、予めインクリボン及び記録用紙(上質紙、再生紙)の材料に応じた印字時の定着性及び擦過性の観点から、25℃未満の環境温度に対する印刷速度の低下度合が段階的に設定されている情報を参照して、現在の環境温度に対応する印刷速度を決定している引用発明1の熱転写プリンタに、高品質な印刷を行うために、引用文献2記載の技術的事項を組み合わせて、用紙に転写されるインクリボンの種類も検出して、インクリボンの種類別の溶融特性からも印刷速度を決定できるよう、前記情報をインクリボンの種類と記録用紙の種類の組合せにも対応して予め設定して、相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
ウ 相違点3について
引用発明1の「制御部」は、「用紙設定手段に設定された記録用紙の種類に対応して、前記記録用紙が上質紙の場合は、前記温度検出手段で検出した現在の前記環境温度が15℃未満の時は、印刷速度を110cpsで印刷し、環境温度が15~25℃の時は、印刷速度を130cpsで印刷し、環境温度が25℃以上の時は、印刷速度を150cpsで印刷するようにし、前記記録用紙が再生紙の場合は、環境温度が15℃未満の時は、印刷速度を90cpsで印刷し、環境温度が15~25℃の時は、印刷速度を110cpsで印刷し、環境温度が25℃以上の時は、印刷速度を130cpsで印刷する」のであるから、予め記録用紙の種類毎に環境温度に対する印刷速度の低下度合が段階的に設定された情報を有する必要がある。そのような段階的な数値情報をデータベースから取得することは通常行われていることから、引用発明1において必要となる記録用紙の種類毎に環境温度に対する印刷速度の低下度合が段階的に設定された情報を、予めデータベース形式で備えて相違点3の構成とすることは、当業者にとって技術の具体的適用に伴う設計的事項の範囲内でなし得る事項である。
エ したがって、本願発明は、引用発明1と引用文献2記載の技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
上記第4のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、上記の結論のとおり審決する。
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2022-016244