特許拒絶査定不服審判
2021-007885
曲管を不要とした可撓自在管
- 審判番号
- 2021-007885
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-040640外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年06月16日
- 審決日
- 2022年03月23日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社昭和螺旋管製作所
- 分類
- P18 .121-Z (F16L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 40640「曲管を不要とした可撓自在管」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月24日出願公開、特開2021-143679〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年3月10日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 2年 7月10日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 9月 2日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 2年 9月 4日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 2年11月27日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 1月 6日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 3年 3月18日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 6月16日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出
第2 令和3年6月16日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年6月16日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「軸長でフレキシブルな螺旋管またはベローズ管の鋼管あるいは樹脂管を、曲管を不要としつつ3次元方向に湾曲した管体であって、
上記管体を所望形状に屈曲して湾曲状管体とし、
上記湾曲状管体を仮屈曲して仮固定して仮固定用湾曲状管体とし、
上記仮固定用湾曲状管体の外周表面に、熱可塑性樹脂部材であって速乾性を有するポリウレア樹脂を塗布して固化を図って固定化された樹脂固定化管体とし、
上記樹脂固定化管体の維持が図られることを特徴とする曲管を不要とした可撓自在管。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年1月6日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「軸長でフレキシブルな螺旋管またはベローズ管の鋼管あるいは樹脂管の管体を、曲管を不要としつつ所望形状に仮屈曲して仮固定し、上記管体の外周表面に熱可塑性樹脂部材であって速乾性を有するポリウレア樹脂を塗布して固化を図り、仮屈曲された所望形状の上記管体を固定化し、かつ上記管体の維持を図ることを特徴とする可撓自在管。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「管体」について、「曲管を不要としつつ3次元的に湾曲した」という限定事項を付加するとともに、「曲管を不要としつつ所望形状に仮屈曲して仮固定し」に代えて「所望形状に屈曲して湾曲状管体とし、上記湾曲状管体を仮屈曲して仮固定して仮固定用湾曲状管体とし」という限定事項を付加し、さらに、「塗布して固化を図り、仮屈曲された所望形状の上記管体を固定化し、かつ上記管体の維持を図る」に代えて「塗布して固化を図って固定化された樹脂固定化管体とし、上記樹脂固定化管体の維持が図られる」という限定事項を付加し、また、発明特定事項である「可撓自在管」について、「曲管を不要とした」という限定事項を付加するものであり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、全体として、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用例の記載事項
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2013-42646号公報(平成25年2月28日出願公開。以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある(なお、下線は理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)。
(ア)引用例1の記載
「【0004】
ワイヤハーネスは、真っ直ぐな状態の金属保護パイプに高圧電線を挿通し、これを三本分行った後に、車体床下におけるワイヤハーネスの配索経路に沿って金属保護パイプに曲げを施すことにより製造されている。ワイヤハーネスは、ハーネスメーカーの工場で上記の如く製造された後に、自動車メーカーの組み立て工場へと搬送されて車両の所定位置に組み付けられ、これにより配索が完了するようになっている。」
「【0006】
ところで、上記従来技術にあっては、ワイヤハーネスの搬送の際に、金属保護パイプ同士が接触したり変形したりしてしまわないようにするため、金属保護パイプ毎、及びワイヤハーネス毎に十分なスペースを確保する必要があるという問題点を有している。また、金属保護パイプを三次元的に曲げ加工していることから、立体的なスペースを確保する必要もあるという問題点を有している。
【0007】
上記問題点を解消するためとして、可撓性を有する外装部材(例えば管体)を金属保護パイプの代替部材とすることが考えられる。しかしながら上記外装部材を単に代替部材とするだけでは、次のような幾つかの問題点を解消することは困難である。」
「【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、可撓性を有する外装部材を単に備えるだけでなく、外装部材を所望の形状に保持することが可能であり、また、プロテクタを不要にすることも可能な、ワイヤハーネスを提供することを課題とする。」
「【0034】
コルゲートチューブ16は、可撓性を有する外装部材(管体)であって、外周面に凹凸を有する樹脂製又は金属製のチューブ(蛇腹管)等が挙げられる。また、本実施例のコルゲートチューブ16は、断面円形状で樹脂製のものが用いられるが、断面円形状に限らず、断面楕円形状や、断面四角形状などの形状のものであってもよい。
【0035】
ワイヤハーネス9を構成するコルゲートチューブ16は、上述したように曲げ可能な可撓性を有する外装部材であり、山部と谷部(凸部と凹部)が電線18の長手方向に沿って連続して形成されている。ここで、山部は特許請求の範囲の凸部に対応し、谷部は凹部に対応するものである。
【0036】
電線18を被覆する電磁シールド部材19を挿通した状態において、図2の矢印の方向にコルゲートチューブ16に曲げが施されると、屈曲部20が形成される。図1の例では、符号20A、20B、20Cの位置に屈曲部20が形成される。
屈曲部20は、ワイヤハーネス9の屈曲部分(曲げ部分)であるとともに、コルゲートチューブ16の屈曲部分(曲げ部分)でもあるものとする。
【0037】
屈曲部20における符号21は、曲げRが大きい側となる外側曲率形成部分を示している。また、符号22は、曲げRが小さい側となる内側曲率形成部分を示している。
【0038】
屈曲部20が形成された後、図3に示すように屈曲部20の谷部32,34にホットメルト接着剤23(図3の黒塗り部分)が充填され、その後硬化される。
【0039】
以下に、屈曲部20の曲げ形状を保持する原理について図5を参照して説明する。
コルゲートチューブ16に曲げを施す前の状態(図5(a)参照)においては、コルゲートチューブ16に何も力が加わっていないので、山部33とこれに隣接する山部33との間隔(ピッチA1)と、山部31とこれに隣接する山部31との間隔(ピッチA1)は等しい。
【0040】
コルゲートチューブ16に曲げを施すと、コルゲートチューブ16の外側曲率形成部分21における山部33とこれに隣接する山部33との間隔(ピッチA2)はピッチA1よりも大きくなる。一方、コルゲートチューブ16の内側曲率形成部分22における山部31とこれに隣接する山部31との間隔(ピッチA3)はピッチA1よりも小さくなる。
【0041】
ここで、例えば、人の手でコルゲートチューブ16に曲げを施した後に手を放すと、コルゲートチューブ16には曲げを施す前の状態に戻ろうとする力が働き、コルゲートチューブ16は図5(a)に示した元の状態に戻ってしまう。すなわち、ワイヤハーネス9が直線形状に戻ってしまい、曲げ形状が保持されない。
【0042】
そこで、本発明では、コルゲートチューブ16に曲げを施して屈曲部20が形成された後に、屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23(図5(b)の黒塗り部分)が充填される。ホットメルト接着剤23の充填後、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23が硬化するまで静置する。
【0043】
ここで、ホットメルト接着剤23は硬化性接着剤であり、例えば、常温では固体であるが加熱溶融によって液状化したものを被着体に接着させ、常温で固体に戻すタイプのものや、加熱して硬化させるタイプのものがある。ホットメルト接着剤23は短時間で被着体に接合されるので作業効率を向上させることができる。
【0044】
なお、本発明は、ホットメルト接着剤に限定されるものではなく、例えば、高剛性発泡充填剤や、2液反応型接着剤(エポキシ樹脂系接着剤等)や、ポリウレタン樹脂系接着剤、ポリエーテル系接着剤でもよい。高剛性発泡充填剤、2液反応型接着剤、ポリウレタン樹脂系接着剤、ポリエーテル系接着剤については公知なのでここでは説明を省略する。
【0045】
ホットメルト接着剤23が硬化すると、コルゲートチューブ16の外側曲率形成部分21における山部33とこれに隣接する山部33との間隔(ピッチA2)が保持される。一方、コルゲートチューブ16の内側曲率形成部分22における山部31とこれに隣接する山部31との間隔(ピッチA3)も保持される。
外側曲率形成部分21における幅A2は幅A1に戻ることはなく、また、内側曲率形成部分22における幅A3も幅A1に戻ることはない。
【0046】
このため、外側曲率形成部分21において互いに隣接配置された山部33、33の間隔と内側曲率形成部分22において互いに隣接配置された山部31、31の間隔を一定に保持することができる。したがって、コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態の保持(経路保持)を行うことができる。」
「【0053】
以上に説明したように、本発明では、導電路の外装部材として可撓性を有するコルゲートチューブ16を単に備えるだけでなく、コルゲートチューブ16を所望の形状に保持することが可能であり、また、プロテクタを不要にすることも可能な、低コスト、かつ、汎用性のあるワイヤハーネス9を提供することができる。
【0054】
尚、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
例えば、図6(a)、(b)に示すように、硬化性接着剤47(黒塗り部分)を屈曲部20の外側曲率形成部分21における谷部34と内側曲率形成部分22における谷部32にホットメルト接着剤47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤47を塗布するようにしてもよい。
上記構成によれば、谷部32,34にホットメルト接着剤47が充填されているだけでなく谷部32,34の周囲にもホットメルト接着剤47が塗布されているので、谷部32,34に充填されたホットメルト接着剤47が脱落するのを防止する効果が得られる。また、接着剤の充填、塗布の作業だけでよいので接着作業が簡単であり、作業時間の短縮を図ることができる。」
「【図5】
[図:0001384937000001.jpg]
」
「【図6】
[図:0001384937000002.jpg]
」
(イ)上記記載から、引用例1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 図5(a)においてコルゲートチューブ16がその軸方向に延在している様子から、「コルゲートチューブ16は、軸方向に長尺である」ことがわかる。
b 段落【0034】の「コルゲートチューブ16は、可撓性を有する外装部材(管体)であって、外周面に凹凸を有する樹脂製又は金属製のチューブ(蛇腹管)等が挙げられる」という記載から、「コルゲートチューブ16は、可撓性を有し、金属製又は樹脂製の蛇腹管である」ことがわかる。
c 段落【0004】の「ワイヤハーネスは・・・金属保護パイプに高圧電線を挿通し・・・ことにより製造されている」(「・・・」は省略を意味する。以下同様。)という記載、段落【0006】の「金属保護パイプを三次元的に曲げ加工している」という記載、段落【0007】の「可撓性を有する外装部材(例えば管体)を金属保護パイプの代替部材とする」という記載及び段落【0035】の「ワイヤハーネス9を構成するコルゲートチューブ16は、上述したように曲げ可能な可撓性を有する外装部材であり」という記載を総合すると、「コルゲートチューブ16は、三次元的に曲げ加工されたものである」ことがわかる。
d 段落【0042】の記載全体、段落【0045】~【0046】の「ホットメルト接着剤23が硬化すると、・・・コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態の保持(経路保持)を行うことができる。」という記載、段落【0053】の「コルゲートチューブ16を所望の形状に保持することが可能であり」という記載、及び段落【0054】の「図6(a)、(b)に示すように、硬化性接着剤47(黒塗り部分)を屈曲部20の外側曲率形成部分21における谷部34と内側曲率形成部分22における谷部32にホットメルト接着剤47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤47を塗布するようにしてもよい」という記載を総合すると、「コルゲートチューブ16に所望の形状に曲げを施して屈曲部20が形成された後に、屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23、47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布し、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23、47が硬化するまで静置し、ホットメルト接着剤23、47が硬化すると、コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態が保持される」ことがわかる。
(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。
「軸方向に長尺であり、可撓性を有し、金属製又は樹脂製の蛇腹管を、三次元的に曲げ加工したコルゲートチューブ16であって、
コルゲートチューブ16に所望の形状に曲げを施して屈曲部20が形成された後に、屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23、47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布し、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23、47が硬化するまで静置し、ホットメルト接着剤23、47が硬化すると、コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態が保持される、コルゲートチューブ16。」(以下「引用発明A」という。)
「軸方向に長尺であり、可撓性を有し、金属製又は樹脂製の蛇腹管のコルゲートチューブ16に、所望の形状に曲げを施して屈曲部20が形成された後に、コルゲートチューブ16の屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23、47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布し、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23、47が硬化するまで静置し、ホットメルト接着剤23、47が硬化すると、コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態が保持される、コルゲートチューブ16。」(以下「引用発明B」という。)
イ 引用例2
同じく原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、韓国公開特許第10-2005-0095129号公報(2005年9月29日出願公開。以下「引用例2」という。)には、次の記載がある(なお、日本語訳は当審が翻訳した。)。
(ア)引用例2の記載
「
[図:0001384937000003.jpg]
」(第5ページ第4~6行)
(当審訳:このように、骨材(3)の剥離を防止するための超高速硬化型接着剤(2)であるポリウレア(Polyurea)は、アミン(Amin)とイソシネート(Isocinate)の2液型エラストマー(Elastomer)として、無溶剤、無触媒が最大の特徴で、空気中の水分と反応して超高速(2分以内)で硬化するので、四季いつでも施工が可能である。)
(イ)上記記載から、引用例2には、次の事項(以下「引2事項」という。)が記載されていると認められる。
「ポリウレアは超高速硬化型接着剤であるということ。」
ウ 引用例3
同じく原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2017-206680号公報(平成29年11月24日出願公開。以下「引用例3」という。)には、次の記載がある。
(ア)引用例3の記載
「【0098】
本発明のポリウレア形成組成物は、ポリウレア塗膜形成組成物として有用であり、特に、防水用及び/又は防食用のポリウレア塗膜形成組成物として特に有用である。ここでの「塗膜」には、より広義に、接着剤が硬化した「接着材硬化物」も含まれる。
すなわち、本発明のポリウレア形成組成物は、ポリウレア塗膜形成組成物としても、シーリング材としても、接着剤としても有用である。これらの用途は何れも、ポリウレアの前記した優れた物性を有しつつ、可使時間が長いことが特長となり得るからである。
該ポリウレア塗膜形成組成物が硬化してなるポリウレア塗膜は、防水用や防食用として特に優れており、該シーリング材が硬化してなるポリウレアは、隙間等の防水性等に特に優れており、該接着剤が硬化してなるポリウレアは、防水シートと基体との間の接着に特に優れている。」
(イ)上記記載から、引用例3には、次の事項(以下「引3事項」という。)が記載されていると認められる。
「ポリウレアが接着剤として有用であるということ。」
エ 引用例4
本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2004-74042号公報(平成16年3月11日出願公開。以下「引用例4」という。)には、次の記載がある。
(ア)引用例4の記載
「【0014】
接着剤は、遮水シートの隣接する部分同士の接着ができ、固化後に一定の厚さを保てるものであれば具体的な種類は不問である。接着剤としては、樹脂を用いることができる。より具体的には、ポリウレア樹脂を用いることができる。ポリウレア樹脂は、硬化させるために触媒を用いる必要がなく、また硬化させる際の温度、湿度についての条件が緩いので扱い易い。」
(イ)上記記載から、引用例4には、次の事項(以下「引4事項」という。)が記載されていると認められる。
「接着剤としてポリウレア樹脂を用いることができるということ。」
(3)引用発明Aとの対比
ア 本件補正発明と引用発明Aとを対比する。
(ア)引用発明Aは、「可撓性を有する外装部材を単に備えるだけでなく、外装部材を所望の形状に保持することが可能であ」る「ワイヤハーネスを提供すること」を課題として(段落【0010】)、コルゲートチューブ16に曲げを施して形成した屈曲部20の屈曲状態を保持する技術であり、本件補正発明と、技術分野及び課題が共通する。
(イ)引用発明Aにおける「軸方向に長尺であり、可撓性を有し」は、本件補正発明における「軸長でフレキシブルな」に相当し、同様に、「三次元的に曲げ加工した」は「3次元方向に湾曲した」に相当する。
また、引用発明Aにおける「金属製又は樹脂製の蛇腹管」は、形状が蛇腹、つまりベローズである点と材質が金属又は樹脂である点が特定された管であるから、本件補正発明における「螺旋管またはベローズ管の鋼管あるいは樹脂管」のうちの「ベローズ管の鋼管あるいは樹脂管」と、「『ベローズ管の』金属管『あるいは樹脂管』」という限りにおいて一致する。
そして、引用発明Aにおける「可撓性を有」する「管を、三次元的に曲げ加工したコルゲートチューブ16」は、本件補正発明における最終生産物としての、「3次元方向に湾曲した管体」及び「可撓自在管」に相当する。
(ウ)引用発明Aでは、「コルゲートチューブ16」に対する作業工程が順次特定されており、コルゲートチューブ16の状態は、「所望の形状に曲げを施して屈曲部20が形成され」る前の状態(以下「状態1」という。)から、「所望の形状に曲げを施して屈曲部20が形成された後」の状態(以下「状態2」という)、「屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23、47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布し、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23、47が硬化するまで静置し、ホットメルト接着剤23、47が硬化」した後の状態(以下「状態3」という。)、へと順に変遷していく。
ここで、引用発明Aにおける「状態1」の「コルゲートチューブ16」は、本件補正発明における出発物としての、「所望形状に屈曲して湾曲状管体」とする前の「管体」に相当する。
(エ)引用例1の段落【0041】における「人の手でコルゲートチューブ16に曲げを施した後に手を放すと、コルゲートチューブ16には曲げを施す前の状態に戻ろうとする力が働き、コルゲートチューブ16は図5(a)に示した元の状態に戻ってしまう。すなわち、ワイヤハーネス9が直線形状に戻ってしまい、曲げ形状が保持されない」という記載に鑑みると、引用発明Aにおける「状態2」の「コルゲートチューブ16」は、その後の「屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23、47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布し、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23、47が硬化するまで静置」する工程(以下「工程1」という。)を実施している最中に屈曲部20の曲げ形状を保持し続けることができるように、形成した屈曲部20が既に仮固定されたものであるか、又は、「工程1」を実施するまでに屈曲部20を仮固定する予定のものであると解するのが妥当である。
そうすると、引用発明Aにおける「状態2」の「コルゲートチューブ16」又は「工程1」を実施する直前の「コルゲートチューブ16」は、「状態1」の「コルゲートチューブ16」に、「曲げを施して屈曲部20を形成」して仮固定したものといえるから、本件補正発明における「上記管体を所望形状に屈曲して湾曲状管体とし、上記湾曲状管体を仮屈曲して仮固定し」た「仮固定用湾曲状管体」と、「管体を」「『屈曲』ないし『仮屈曲』」「して仮固定し」た「仮固定用湾曲状管体」という限りにおいて一致する。
(オ)引用発明Aにおいて「屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23、47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布」する際における、ホットメルト接着剤23、47が充填ないし塗布される屈曲部20の表面は、図6を参照すると、コルゲートチューブ16の外周表面であるといえる。
また、引用発明Aにおいて「ホットメルト接着剤23、47が硬化すると、コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態が保持される」ことは、ホットメルト接着剤23、47を硬化、つまり固化させることにより、コルゲートチューブ16の屈曲部20を屈曲状態で固定化することであるといえる。
そして、引用発明Aにおける「ホットメルト接着剤23、47」は、本件補正発明における「ポリウレア樹脂」と、「固化性物質」という限りにおいて一致する。
そうすると、引用発明Aにおける「状態3」の「コルゲートチューブ16」は、「状態2」の「コルゲートチューブ16」又は「工程1」を実施する直前の「コルゲートチューブ16」の外周表面に、ホットメルト接着剤23、47を充填ないし塗布して固化させることにより、コルゲートチューブ16の屈曲部20を屈曲状態で固定化したものであるから、本件補正発明における「樹脂固定化管体」と、「仮固定用湾曲状管体の外周表面に、」固化性物質を「塗布して固化を図って固定化された固定化管体」という限りにおいて一致する。
(カ)また、引用発明Aにおいて「コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態が保持される」ことは、単に固定化されたコルゲートチューブ16を一時的に得ることのみを意図しているのではなく、固定化されたコルゲートチューブ16の屈曲状態を保持、すなわち維持することまで意図しているから、本件補正発明において「固定化管体の維持が図られる」ことに相当する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「軸長でフレキシブルなベローズ管の金属管あるいは樹脂管を、3次元方向に湾曲した管体であって、
管体を屈曲ないし仮屈曲して仮固定した仮固定用湾曲状管体とし、
仮固定用湾曲状管体の外周表面に、固化性物質を塗布して固化を図って固定化された固定化管体とし、
固定化管体の維持が図られる可撓自在管。」
<相違点1>
「ベローズ管の金属管あるいは樹脂管」における「金属」が、本件補正発明では「鋼」であるのに対し、引用発明Aでは「鋼」であるか明らかでない点。
<相違点2>
「3次元方向に湾曲」することを、本件補正発明では「曲管を不要としつつ」行うのに対し、引用発明Aでは「曲管を不要としつつ」行うか否か明らかでなく、また、最終生産物としての「可撓自在管」が、本件補正発明では「曲管を不要とした」ものであるのに対し、引用発明Aでは「曲管を不要とした」ものであるか否か明らかでない点。
<相違点3>
「管体を屈曲ないし仮屈曲して仮固定した仮固定用湾曲状管体」とするにあたり、本件補正発明においては、「上記管体を所望形状に屈曲して湾曲状管体とし、上記湾曲状管体を仮屈曲して仮固定して仮固定用湾曲状管体と」するのに対し、引用発明Aにおいては、「所望の形状に曲げを施して屈曲部20が形成された」「コルゲートチューブ16」が、所望形状に屈曲し、さらに、仮屈曲して仮固定することにより得たものか不明である点。
<相違点4>
本件補正発明では、「固化性物質」が「熱可塑性樹脂部材であって速乾性を有するポリウレア樹脂」であり、「固定化管体」が「樹脂固定化管体」であるのに対し、引用発明Aでは、「固化性物質」が「ホットメルト接着剤23、47」であり、「コルゲートチューブ16」が「樹脂固定化管体」であるか明らかでない点。
(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明Aにおいて、「金属製」「の蛇腹管」の材質として具体的にどの金属を用いるかは、「コルゲートチューブ16」に要求される強度や「蛇腹」形状の製造容易性などを考慮しつつ、当業者が適宜選択し得るものである。そして、金属製の蛇腹管の材質として例を挙げるまでもなく周知である鋼を採用することに格別の困難性もない。
よって、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項は、引用発明Aから当業者が容易に想到し得たものである。
イ 相違点2について
引用発明Aは、「コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態」を「保持」するものであるから、最終生産物の少なくとも当該屈曲部20においては、他の曲管を用いる必要はないといえる。また、引用例1の段落【0036】には「図1の例では、符号20A、20B、20Cの位置に屈曲部20が形成される」と記載されており、屈曲部20を複数箇所に形成することが示唆されているから、最終生産物として曲管が必要となり得るすべての箇所に屈曲部20を形成し、最終生産物において曲管を不要とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内である。
また、引用発明Aにおける「コルゲートチューブ16」に対する作業工程はいずれも、特段他の曲管を用いなければ実施できないような作業を含んでいないから、他の曲管を要することなく「三次元的に曲げ加工」することは、適宜当業者がなし得たことである。
よって、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項は、引用発明Aから当業者が容易に想到し得たものである。
ウ 相違点3について
(ア)管体の曲げ加工技術において、まずある程度の所望の屈曲を行い、その後さらに屈曲を行い最終目標の屈曲とするという二段階の屈曲作業を採用することは通常行われているので、「管体を」最終的な屈曲である「仮固定用湾曲状管体と」するにあたり、屈曲作業を一度で済ますか二段階で行うかということは、屈曲作業の具体化において、最終的にどの程度の角度の屈曲状態にまで屈曲させるかなどを考慮しつつ当業者が適宜選択し得ることといえる。
そうすると、引用発明Aにおいて、一度の屈曲作業で最終的な屈曲状態を所望の形状とするものを、屈曲作業を二段階で行い、相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項の如く構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)また、相違点3は以下のようにも判断される。
本件補正発明では、「管体を」「屈曲」する箇所と「湾曲状管体を仮屈曲」する箇所とが、同じ箇所であるのか別の箇所であるのかまでは特定されていないため、本件補正発明は、これらの箇所が別の箇所であるものを含んでいる。
これに対し、上記「イ」で述べたとおり、引用例1には屈曲部20を複数箇所に形成することが示唆されている。そして、複数箇所の屈曲部20を同時に形成するか時系列的に順番に形成していくかは、屈曲作業の容易性、効率、精度などを考慮して当業者が適宜選択し得ることといえる。
そうすると、引用発明Aにおいて複数箇所に時系列的に順番に屈曲部20を形成するようになし、相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項の如く構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)さらに、相違点3は以下のようにも判断される。
本件補正発明は「可撓自在管」という「物」の発明であるところ、相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項は、「物の製造方法」を特定していると認められる。
しかしながら、屈曲作業を一度で済ましたか二段階で行ったかということ及び複数箇所の屈曲部を同時に形成したか時系列的に順番に形成したかということは、「製造方法」としてみた場合において相違する点であって、最終生産物、すなわち「物」としての、本件補正発明における「仮固定用湾曲状管体」と引用発明Aにおける「所望の形状に曲げを施して屈曲部20が形成された」「コルゲートチューブ16」とが構造又は特性において格別相違するとは認められない。
よって、相違点3は、実質的な相違点ではない。
エ 相違点4について
引用例1の段落【0043】~【0044】の記載全体から、引用例1には、引用発明Aの「ホットメルト接着剤23、47」に代えて他の接着剤を用いることが示唆されているといえる。他の接着剤として具体的にどのような接着剤を用いるかは、引用発明Aの「外装部材を所望の形状に保持することが可能であ」る「ワイヤハーネスを提供する」という課題を解決し得る範囲内において、適宜当業者が優れたものを選定ないし最適化し得るものである。
そして、接着剤として、ポリウレア樹脂を用いた接着剤は周知であり(例えば引2事項、引3事項、引4事項等を参照。)(以下「周知技術1」という。)、ポリウレア樹脂が速乾性を有することは技術常識である(もし必要であれば引2事項を参照。)。また、ポリウレア樹脂は防水性、防食性、耐薬品性、耐摩耗性、耐衝撃性、環境安全性の高い物質としても知られているため、ポリウレア樹脂を用いた接着剤は硬化した状態を長期にわたり保持することを期待できるものである。そうすると、ポリウレア樹脂を用いた接着剤を引用発明Aに用いても、引用発明Aの上記課題を解決し得るといえる。
また、具体的なポリウレア樹脂として、熱可塑性を有するポリウレア樹脂は例を挙げるまでもなく周知である(以下「周知技術2」という。)ところ、ホットメルト接着剤としては通常、熱可塑性樹脂接着剤が利用されるという技術常識にも鑑みると、引用発明Aにおいてホットメルト接着剤23、47の代わりに用いる接着剤として、熱可塑性を有するポリウレア樹脂を用いた接着剤を選択することに格別な困難性はない。そして、このとき、「固定化管体」はポリウレア樹脂を用いた接着剤が塗布されたものとなるから、「樹脂固定化管体」であるといえる。
よって、相違点4に係る本件補正発明の発明特定事項は、引用発明A及び周知技術1~2から当業者が容易に想到し得たものである。
オ そして、これらの相違点1~4を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明A及び周知技術1~2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
カ したがって、本件補正発明は、引用発明A及び周知技術1~2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
キ 請求人は審判請求書において、
「3. しかしながら、理由1における引用文献1のご認定には、引用発明の主要な構成(請求項1、請求項2)が、すなわち「対象物を保護するための外装部材を備え、その経路保持の機能を有するワイヤハーネス」において、ホットメルト接着剤が硬化した後に、ホットメルト接着剤を覆うようにその脱落防止を図るテープなどの脱落防止用補強材を巻きつける必要があるなどの点が記載されております。
係る事項については、引用文献1の認定の判断に大きな要素であると思われます」(審判請求書第2ページ下から3行目~第3ページ第4行)、
「したがって、可撓自在管である本願発明とは、相手方部材である外装部材の経路保持機能を有するワイヤハーネスの違いと共に、用いられる接着剤の種類と接着剤の脱落防止と補強の違いを考慮に入れた観点から考慮する必要がある」(審判請求書第3ページ第6~8行)、
「すなわち、この審査において、接着剤の強度に関する課題がきわめて重要な課題として提起されています。なお、この強度の点は、後述しますが外装部材を備え経路保持の機能を有するコルゲートチューブとして重要です。」(審判請求書第5ページ第4~6行)、
「すなわち、ホットメルト接着剤の補強は、ホットメルト接着剤が谷部から脱落することを防止する機能を有するものです。
このため、このワイヤハーネスが「外装部材を曲げて形成される屈曲部の曲げ形状を保持した状態」において、少なくとも屈曲部における凹部に硬化性接着剤又は接着剤入り樹脂が充填されたときに、充分に硬化されていることが必要でありますが、接着剤力が弱いかその他何らかの原因で、必要な接着剤力が得られない場合には、引用発明1においてはのその補強が必要となります。
本願発明にあっては、代替え用の補強材は不要であり、速乾性を有するポリウレア樹脂部材を塗布するだけで、従来用いられていたエルボなどの曲管を不要とし、所望形状の管体を任意の所望形状に強固に固定化できます。
本願発明にあっては、引用発明のように接着剤入り樹脂の脱落を防止する脱落防止用補強などを考慮する必要は全くありません。」(審判請求書第7ページ下から2行目~第8ページ第10行)と主張している。
確かに、引用例1の段落【0047】~【0052】及び請求項2には、「ホットメルト接着剤が硬化した後に、ホットメルト接着剤を覆うようにその脱落防止を図るテープなどの脱落防止用補強材を巻きつける」旨の記載があると認められる。
しかしながら、当該事項は、引用例1において「変形例」(段落【0047】)として示されているにすぎず、「脱落防止を図るテープなどの脱落防止用補強材を巻きつける」ことは、引用発明Aにおいて、必要がある事項ないし必須の技術的事項であるとまではいえない。
また、引用発明Aにおいて「脱落防止」の対策が必要であるとしても、引用例1の段落【0054】における「屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤47を塗布する」構成により「脱落するのを防止する効果が得られる」旨の記載によると、「屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布し」たものである引用発明Aには、「脱落防止を図るテープなどの脱落防止用補強材を巻きつけ」ていなくとも、脱落を防止する効果があるといえる。つまり、引用発明Aにおいて「脱落防止」の対策が必要であるとしても、引用発明Aにおいて「脱落防止を図るテープなどの脱落防止用補強材を巻きつけ」ることが必要であるとまではいえない。
なお、本件補正発明では、塗布したポリウレア樹脂の「脱落防止を図るテープなどの脱落防止用補強材を巻きつけ」ているか否かについて、及び、「代替え用の補強材」が不要であるか否かについて、何ら特定されていないから、本件補正発明は、「代替え用の補強材」として「脱落防止を図るテープなどの脱落防止用補強材を巻きつけ」てあるものを含んでいる。つまり、「代替え用の補強材」として「脱落防止を図るテープなどの脱落防止用補強材を巻きつけ」ているか否かということは、そもそも、本件補正発明と引用発明Aとの相違点になるようなことではなく、また、上記相違点1~4の判断に影響を与えるものでもない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
ク また、請求人は審判請求書において、
「この第2回目の拒絶理由においては経路保持機能を必要とするワイヤハーネスと本願発明の可撓自在管や第1回目の引用発明のる屈曲自在な可撓管とは、それぞれ異なる事情が明白にあります。
すなわち、経路保持の機能を有するワイヤハーネスは、可撓自在菅あるいは曲がり可撓菅との違いは当然として、これに加え経路保持の機能を有するための成形処理や接着剤の強度における範囲について違いがあります。
つまり、この接着剤を用いる場合には、接着剤の種類だけでなくその適応強度を考慮しなければならず、脱落補強などの課題には対応できません。」(審判請求書第6ページ下から2行目~第7ページ第6行)、
「なお、引用文献1においては、ホットメルト接着剤に限定されないものの、ホットメルト接着剤の代替え用接着剤の適用は無制限に適応されるものではなく、当然実施例であるホットメルト接着剤の適用範囲で適用されるものと考えます。」(審判請求書第9ページ第15~17行)とも主張している。
まず、本件補正発明の「管体」ないし「可撓自在管」は、管の内部に何があるのか又は何もないのかについて特定されておらず、その用途も特定されていないから、引用例1に、コルゲートチューブ16の内側に電線18及び電磁シールド部材19があり、これらがワイヤハーネス9を構成する旨が記載されている(段落【0029】)からといって、当該事項は本件補正発明と引用発明Aとの相違点にはならない。また、当該事項が上記相違点1~4の判断に影響を与えるわけでもない。
次に、引用発明Aにおいて「ホットメルト接着剤23、47」に代えて用いる接着剤についてであるが、この接着剤は、上記「エ」で検討したとおり、引用発明Aの上記課題を解決し得る範囲内において適宜当業者が優れたものを選定ないし最適化し得るものであり、熱可塑性を有するポリウレア樹脂を用いた接着剤を選択することに格別な困難性はない。
また、熱可塑性を有するポリウレア樹脂を用いた接着剤がホットメルト接着剤と比較して、特別脱落しやすいといった事情も、特別強度が低いといった事情も存在しない。当然ながら、熱可塑性を有するポリウレア樹脂を用いた接着剤に、引用発明Aにおける、「屈曲部20の谷部32、34に」「充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うように」「塗布」するという態様での充填及び塗布が不可能であるという事情も存在しない。
よって、請求人の上記主張も採用できない。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年1月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明及び引用例2~3、5~6に示された周知事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用例1:特開2013-42646号公報
引用例2:韓国公開特許第10-2005-0095129号公報
引用例3:特開2017-206680号公報
引用例5:韓国公開特許第10-2011-0038410号公報
引用例6:特開2010-248303号公報
3 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1~3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比
(1)本願発明と引用発明Bとを対比する。
ア 引用発明Bは、「可撓性を有する外装部材を単に備えるだけでなく、外装部材を所望の形状に保持することが可能であ」る「ワイヤハーネスを提供すること」を課題として(段落【0010】)、コルゲートチューブ16に曲げを施して形成した屈曲部20の屈曲状態を保持する技術であり、本願発明と、技術分野及び課題が共通する。
イ 引用発明Bにおける「軸方向に長尺であり、可撓性を有し」は、本願発明における「軸長でフレキシブルな」に相当する。
また、引用発明Bにおける「金属製又は樹脂製の蛇腹管」は、形状が蛇腹、つまりベローズである点と材質が金属又は樹脂である点が特定された管であるから、本願発明における「螺旋管またはベローズ管の鋼管あるいは樹脂管」のうちの「ベローズ管の鋼管あるいは樹脂管』」と、「『ベローズ管の』金属管『あるいは樹脂管』」という限りにおいて一致する。
そして、引用発明Bにおける「金属製又は樹脂製の蛇腹管のコルゲートチューブ16」は、本願発明における出発物としての「ベローズ管の鋼管あるいは樹脂管の管体」と、「『ベローズ管の』金属管『あるいは樹脂管の管体』」という限りにおいて一致する。
ウ 引用発明Bでは、「樹脂製の蛇腹管のコルゲートチューブ16」に対する作業工程が順次特定されており、コルゲートチューブ16の状態は、「所望の形状に曲げを施して屈曲部20が形成され」る前の状態(以下「状態4」という。)から、「所望の形状に曲げを施して屈曲部20が形成された後」の状態(以下「状態5」という)、「屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23、47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布し、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23、47が硬化するまで静置し、ホットメルト接着剤23、47が硬化」した後の状態(以下「状態6」という。)、へと順に変遷していく。
ここで、引用発明Bにおける「状態6」の「コルゲートチューブ16」は、本願発明における最終生産物としての、「可撓自在管」に相当する。
エ 引用例1の段落【0041】における「人の手でコルゲートチューブ16に曲げを施した後に手を放すと、コルゲートチューブ16には曲げを施す前の状態に戻ろうとする力が働き、コルゲートチューブ16は図5(a)に示した元の状態に戻ってしまう。すなわち、ワイヤハーネス9が直線形状に戻ってしまい、曲げ形状が保持されない」という記載に鑑みると、引用発明Bにおける「状態5」の「コルゲートチューブ16」は、その後の「屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23、47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布し、屈曲部20の曲げ形状を保持したままの状態でホットメルト接着剤23、47が硬化するまで静置」する工程(以下「工程2」という。)を実施している最中に屈曲部20の曲げ形状を保持し続けることができるように、形成した屈曲部20が既に仮固定されたものであるか、又は、「工程2」を実施するまでに屈曲部20を仮固定する予定のものであると解するのが妥当である。
そうすると、引用発明Bにおける「状態4」の「コルゲートチューブ16」に、「所望の形状に曲げを施して屈曲部20を形成」して仮固定し、「状態5」の「コルゲートチューブ16」又は「工程2」を実施する直前の「コルゲートチューブ16」とすることは、本願発明における「管体を」「所望形状に仮屈曲して仮固定」することに相当する。
オ 引用発明Bにおいて「屈曲部20の谷部32、34にホットメルト接着剤23、47を充填するとともに、屈曲部20の全体を覆うようにホットメルト接着剤23、47を塗布」する際における、ホットメルト接着剤23、47が充填ないし塗布される屈曲部20の表面は、引用例1における図6を参照すると、コルゲートチューブ16の外周表面であるといえる。
また、引用発明Bにおいて「ホットメルト接着剤23、47が硬化すると、コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態が保持される」ことは、ホットメルト接着剤23、47を硬化、つまり固化させることにより、所望の形状に曲げを施されたコルゲートチューブ16の屈曲部20を屈曲状態で固定化することであるといえる。
そして、引用発明Bにおける「ホットメルト接着剤23、47」は、本願発明における「ポリウレア樹脂」と、「固化性物質」という限りにおいて一致する。
そうすると、引用発明Bにおいて、「状態5」の「コルゲートチューブ16」又は「工程2」を実施する直前の「コルゲートチューブ16」の外周表面に、ホットメルト接着剤23、47を充填ないし塗布して固化させることにより、所望の形状に曲げを施されたコルゲートチューブ16の屈曲部20を屈曲状態で固定化して「状態6」の「コルゲートチューブ16」とすることは、本願発明における、「上記管体の外周表面に熱可塑性樹脂部材であって速乾性を有するポリウレア樹脂を塗布して固化を図り、仮屈曲された所望形状の上記管体を固定化」することと、「上記管体の外周表面に」固化性物質を「塗布して固化を図り、仮屈曲された所望形状の上記管体を固定化」するという限りにおいて一致する。
カ また、引用発明Bにおいて「コルゲートチューブ16の屈曲部20の屈曲状態が保持される」ことは、単に固定化されたコルゲートチューブ16を一時的に得ることのみを意図しているのではなく、固定化されたコルゲートチューブ16の屈曲状態を保持、すなわち維持することまで意図しているから、本願発明において「管体の維持を図る」ことに相当する。
(2)以上のことから、本願発明と引用発明Bとの一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「軸長でフレキシブルなベローズ管の金属管あるいは樹脂管の管体を、所望形状に仮屈曲して仮固定し、管体の外周表面に固化性物質を塗布して固化を図り、仮屈曲された所望形状の管体を固定化し、かつ管体の維持を図る可撓自在管。」
<相違点5>
「ベローズ管の金属管あるいは樹脂管の管体」における「金属」が、本願発明では「鋼」であるのに対し、引用発明Bでは「鋼」であるか明らかでない点。
<相違点6>
「管体を」「所望形状に仮屈曲して仮固定」することを、本願発明では、「曲管を不要としつつ」行うのに対し、引用発明Bでは、「曲管を不要としつつ」行うか否か明らかでない点。
<相違点7>
「固化性物質」が、本願発明では「熱可塑性樹脂部材であって速乾性を有するポリウレア樹脂」であるのに対し、引用発明Bでは「ホットメルト接着剤23、47」である点。
5 判断
以下、相違点について検討する。
(1)相違点5について
相違点5は上記相違点1と同様のものであり、上記「第2 2(4)ア」での検討内容と同様に判断される。
よって、相違点5に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明Bから当業者が容易に想到し得たものである。
(2)相違点6について
相違点6は上記相違点2と同様のものであり、上記「第2 2(4)イ」での検討内容と同様に判断される。
よって、相違点6に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明Bから当業者が容易に想到し得たものである。
(3)相違点7について
相違点7は上記相違点4と同様のものであり、上記「第2 2(4)エ」での検討内容と同様に判断される。
よって、相違点7に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明B及び周知技術1~2から当業者が容易に想到し得たものである。
(3)そして、これらの相違点5~7を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明B及び周知技術1~2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(4)したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明である引用発明B及び周知技術1~2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-007885