2021-005265
保冷具および冷却療法に用いる治療用具
- 審判番号
- 2021-005265
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-514160外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年04月23日
- 審決日
- 2022年10月18日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (A61F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
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本願は、2017年(平成29年) 2月28日(優先権主張 2016年(平成28年) 4月28日、2016年(平成28年)11月22日 日本国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
第2 令和4年5月10日にされた手続補正書についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年5月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「人体を保冷する保冷具であって、人体の保冷に適切な温度範囲に含まれる特定の温度で相変化する凍結材と、前記凍結材を収容する包装材のみからなる第1の収容部と、を備え、前記凍結材および前記第1の収容部で蓄冷層を構成し、前記人体の保冷に適切な温度範囲に含まれる特定の温度が17℃よりも低い12℃の温度帯であり、前記第1の収容部を人体の皮膚に直接当接をさせた際、前記保冷具の使用期間である前記凍結材の相変化状態において、前記第1の収容部と前記人体の皮膚との当接箇所における前記人体の皮膚温度を17℃より高く25℃より低い温度に一定時間維持することができる、前記蓄冷層のみからなる保冷具。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和4年1月25日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「人体を保冷する保冷具であって、人体の保冷に適切な温度範囲に含まれる特定の温度で相変化する凍結材と、前記凍結材を収容する第1の収容部と、を備え、前記凍結材および前記第1の収容部で蓄冷層を構成し、前記人体の保冷に適切な温度範囲に含まれる特定の温度が17℃よりも低い12℃の温度帯であり、前記第1の収容部を人体の皮膚に直接当接をさせた際、前記保冷具の使用期間である前記凍結材の相変化状態において、前記第1の収容部と前記人体の皮膚との当接箇所における前記人体の皮膚温度を17℃より高く25℃より低い温度に一定時間維持することができる、前記蓄冷層のみからなる保冷具。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1の収容部」について、「包装材のみからなる」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、本件補正は、同条第3項及び第4項の規定に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項及び引用発明
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ア 引用文献1
(ア)当審の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2015-510807号公報(平成27年4月13日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。
「【0002】本発明は、身体から熱を吸収するためのデバイスを対象とする。より詳しくは、本発明は、長時間にわたって身体から熱を吸収する液体および固体を含むゲル材料を利用する、改良されたデバイスに関する。本発明はまた、使用者に冷却療法処置を施す方法を含む。」
「【0009】現在市販されているコールドパックは、特定のデバイスおよび経時的な皮膚温度プロファイルを提供するよう設計されておらず、身体への適用が困難であるかまたは不快なことが多い。温度プロファイルの制御は、冷たすぎない、安全で快適な皮膚温度を与える必要性に応え、効果的な治療温度を所望の持続時間にわたって提供する。したがって、身体への適用中、規定された治療温度を長時間にわたって維持しかつ身体への適用が容易である、改良されたコールドパックを提供することが非常に望ましい。これは、適正温度についての使用者の混乱を低減し、身体を冷やす不快感を低減または排除し、デバイスの適用をより容易にかつより簡便にするので、非常に望ましい。」
「【0017】さらなる一実施形態において、本発明は、ゲル組成物が、-5℃~5℃の温度において凍結して固体の形態になる、本明細書中に記載したマルチユースコールドパックデバイスを含む。」
「【0021】さらなる一実施形態において、本発明は、ゲル組成物が、使用者の皮膚と接触して置かれた場合に、前記皮膚温度を少なくとも10℃低下させる、本明細書中に記載したマルチユースコールドパックデバイスを含む。【0022】別の実施形態において、本発明は、ゲル組成物が、使用者の皮膚と接触して置かれた場合に、前記使用者の皮膚の低下した温度を約15分~約60分間にわたって維持する、本明細書中に記載したマルチユースコールドパックデバイスを含む。【0023】別の実施形態において、本発明は、ゲル組成物が、使用者の皮膚と接触して置かれた場合に、前記使用者の皮膚の低下した温度を少なくとも約15分間にわたって維持する、本明細書中に記載したマルチユースコールドパックデバイスを含む。」
「【0037】「取付けラップ」とは、デバイスを身体または無生物に取付けるために使用される、冷却療法用デバイスの、ゲルおよびゲルパック以外の全ての成分を指す。取付けラップを、ストレッチ材料の2つのセグメントの間に位置するマルチセルゲルパックと組み合わせて、本発明の一実施形態を得ることができる。取付けラップは、本発明の1つまたは複数の代表的実施形態においては、場合により「ベルト状ラップ」または「ラップ」と称する。【0038】「身体側」とは、装着中に使用者の皮膚または身体に向くまたは接触するよう意図される、ゲルパック、ラップまたはデバイスの面を指す。続きを表示(全14行)【0039】「衣服側」とは、装着中に使用者の皮膚または身体の外側に向くよう意図される、ゲルパック、ラップまたはデバイスの面を指す。用語「衣服側断熱層」は、位置が、使用者の皮膚と接触しない側であることを指す。【0040】「コールドパックデバイス」は、1つまたは複数のコールドパックと、標的部位、例えば、使用者の身体にデバイスを適用するための取付けラップとを含むユニットを指す。「コールドパックデバイス」は、本発明の1つまたは複数の実施形態においては「冷却療法用デバイス」または「冷却治療デバイス」と称することもある。【0041】「適合範囲」は、取付けラップが適合する身体部分の外周を表す。適合範囲という用語は、ヒトおよび非ヒト動物の外周測定値を含む。【0042】「ゲル」は、ゲルパックの内容物を表すのに広範に使用し、本発明による冷却療法用デバイス中の、冷却される、部分凍結されるまたは凍結される熱吸収材料である。本明細書中で使用するゲル組成物としては、液体、増粘またはゲル化液体、懸濁液、分散液、半固体、固形分散体および固体が挙げられるが、これらに限定するものではない。【0043】「ゲルパック」は、冷却療法用デバイス中のゲルを収容する、セル、コンパートメント、封じ込め構造、パウチまたはパウチ様構造の集合を表すのに広範に使用し、ゲルパックは、冷却療法用デバイスの装着中に身体に冷却効果を与える。「ゲルパック」は、本発明の1つまたは複数の実施形態においては、「コールドパック」とも称することもある。」
「【0064】一実施形態において、本発明は、ゲルパックの両側に断熱層を有する、フレキシブルで、セグメント化された装着可能な低温ラップを含む。衣服側の断熱材は、周囲からの熱の吸収を低減し、したがって、身体から吸収し得る熱の量を最大にし、安全で効果的な温度性能の持続時間を増加させる。身体側断熱層は、安全で効果的かつ快適な組織温度を使用者が感じるように、身体とコールドパックとの間の熱伝導を調節する。身体側層の断熱値は、凍結ゲルの融点を所与として、適正な組織温度を与えるように特に選択する。」
「【0077】ゲルパック設計/組成物ゲルパックは、パウチまたはパウチ様の封じ込め構造(複数可)に収容される凍結可能な組成物を含む。凍結可能な組成物としては、液体、増粘もしくはゲル化液体、懸濁液、または固体もしくは固体懸濁体(solid suspension)、またはこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定するものではない。これらの凍結可能な組成物は、本開示において総称的に「ゲル」と称する。【0078】ゲルパック封じ込め構造は、強い、耐久性がある、硬質の、半硬質の、フレキシブルな、柔軟な、ぴったり密着するおよび/またはプラスチック様の材料から構成できる。ゲルパックは、複数の封じ込めコンパートメントからなる。さらにまた、ゲルパックおよびゲルパックのコンパートメントは、任意の形状、例えば、長円形、円形、正方形、長方形、マルチセルおよび他の形状で設計することができる。コンパートメントおよび形状は、1つまたは複数のコンパートメントの外周をシールすることによって作る。シールされた接合部を有する、このセグメント化されたマルチコンパートメント設計により、ゲルパックは曲がって、身体の処置部位にぴったり密着することができる。さらに、セグメント化されたマルチコンパートメント設計は、接触および快適さを低減する(固体の氷塊に関して当技術分野において既知の問題である)固体の氷塊の形成を回避する。マルチセル設計もまた、ゲルパックの個々のセルにより皮膚表面領域との接触を最大にするのに役立つ。【0079】ゲルパックは、ラップ中に永続的に封入してもよいし、永続的には封入しなくてもよい。永続的には封入されないゲルパックの場合には、ラップは、ゲルパックの配置および除去を可能にする接近具(access apparatus)、例えば、ジッパー、フック、ボタン、ストラップおよび/またはスナップなどを含むことができる。このように、ゲルパックは、必要に応じて交換し得る。」
「【0084】インビトロ実験室試験の試料図5は、インビトロ実験室試験のセットアップで使用するゲルパック試料を示す。いくつかのゲルパックについて、インパルスシーラーを使用してGolden Eagle HB 3.5 LLPDEの2つの断片を一緒にシールして、封じ込め構造を作った。パックの衣服側には断熱層8B(即ち、衣服側断熱層)が、パックの身体側には断熱層6B(即ち、身体側断熱層)が存在する。凍結ゲルパックを、加熱したLexanプレート表面上に位置する一連の熱電対の上に載せた。以下のゲル組成物のそれぞれを含むゲルパックを作った。」
「【0088】図5に示した試料は、調製した各試料に関して温度対時間のデータを収集するのに用いたゲルパック組成物7Bの構造を示している。ゲルパックの衣服側は、周囲空気からの熱吸収を低減する衣服側の断熱材8Bを有する。身体側の断熱材6Bは、接触温度をゲルパック温度より大きい値まで変更するのに十分なものである。」
「【0090】ヒトインビボ試験の試料図1および図3に示した冷却療法用デバイスの実施形態を用いて、ヒト対象に対するインビボ試験中のデータを作成した。試験したゲル組成物のプロピレングリコール含有率は0%とした。この0%の含有率は、凍結水の量を最大にしかつゲルパックの融解または凍結温度を、0℃の純水の融解または凍結温度に近い温度に保持するものである。【0091】ヒトインビボ試験温度対時間のデータを、冷却療法用デバイスを装着しているヒト対象から収集した。試料ラップを対象の身体上に置き、それと共に、皮膚温度を捕捉するためにコールドパックの身体側と対象の皮膚との間におよび製品温度を捕捉するためにゲルパック面の衣服側に熱電対を置いた。皮膚温度および製品温度は、1時間の装着の間に連続的に記録した。赤外線(IR)カメラ測定値を10分間隔で取り、皮膚温度および製品温度の両方を検証した。赤外線画像の例は、図8に示してある。【0092】この試験セットアップを用いて、図9(皮膚のIR)および図10(製品の熱電対)に示す時間-温度プロファイルを作成した。これらの時間-温度プロファイルは、冷却療法用デバイスが、20℃未満の比較的一定の皮膚温度をほぼ1時間にわたって維持できること、および0℃~5℃の比較的一定の製品温度をほぼ1時間にわたって維持できることを立証している。これらの温度は、安全かつ有効な性能を示している。」
「【0097】図10.インビボでのIR皮膚温度ヒト対象が実施例の実施形態のデバイスを装着する場合、得られる皮膚温度は、実験室データによく似ており、10℃超の好ましい皮膚温度低下を概ね達成する。」
「[図:0001392521000001.jpg]」
「[図:0001392521000002.jpg]」
(イ)ここで、【0092】の「図9(皮膚のIR)および図10(製品の熱電対)」との記載は、図9のグラフタイトルが「インビボでの平均用具温度」、図10のグラフタイトルが「インビボでの平均赤外線皮膚温度」と記載されていることや【0096】の「図9.インビボでのデバイス温度」との記載、【0097】の「図10.インビボでのIR皮膚温度」との記載から、「図9(製品の熱電対)および図10(皮膚のIR)」の誤記と認められる。
また、図10のグラフから、皮膚温度が17℃より高く25℃より低い温度に一定時間維持されている点が看取できる。
したがって、上記(ア)から、【0090】~【0092】の実施例に着目すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「身体から熱を吸収するためのデバイスであって、融解または凍結温度を、0℃の純水の融解または凍結温度に近い温度に保持し、ゲルパックは、封じ込め構造に収容される凍結可能なゲル組成物を含み、ゲルパックの両側に断熱層を有し、ゲル組成物が、対象の身体上に置いた場合に、皮膚温度が17℃より高く25℃より低い温度に一定時間維持できる、デバイス。」
イ 引用文献2
(ア)同じく当審の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開2016/002596号(2016年(平成28年)1月7日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「[0001]本発明は蓄熱材に関し、特に、保冷用の蓄熱材に関する。」
「[0013]上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、身体を冷却するアイシングパックであって、上記に記載の蓄熱材を有するアイシングパックであってもよい。」
「[0026]本実施の形態による蓄熱材は、無機化合物を含む溶液が固相から液相に相変化する0℃未満の相変化温度と、包接水和物が水と炭化水素化合物に分解されて液相から固相に相変化する0℃以上の相変化温度と有している。このため、本実施の形態による蓄熱材は、異なる二つの相変化温度での潜熱を利用した冷却をすることができる。本実施の形態による蓄熱材は、0℃未満の相変化温度での潜熱を利用して被保冷物を所望時間以内に所望温度に急冷し、0℃以上の相変化温度での潜熱を利用して所望時間以上で被保冷物を所望温度に保冷することができる。[0027]また、本実施の形態による蓄熱材は、ゲル化剤を有していてもよい。本実施の形態による蓄熱材では、水がゲル化されていてもよい。ゲルとは一般に、分子が部分的に架橋されることで三次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒を吸収し膨潤したものをいう。ゲルの組成はほぼ液相状態であるが、力学的には固相状態となる。ゲル状の蓄熱材は、固相と液相との間で可逆的に相変化しても全体として固体状態を維持し、流動性を有しない。このため、ゲル状の蓄熱材は、相変化の前後で全体として固体状態を維持できるので取扱いが容易である。ゲル化剤としては、アクリルアミドモノマー等の合成系、アガロース、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム等の増粘多糖類が挙げられる。これらは、ゲル化剤の一例として挙げられるが、本実施形態においてゲル化剤はこれらに限定されない。」
「[0032](実施例1)図2および図3を用いて、本実施の形態の実施例1による蓄熱材について説明する。実施例1では、炭化水素化合物としてTBABが用いられ、無機化合物として塩化カリウムが用いられている。本実施例による蓄熱材において、TBABの濃度を40wt%とし、塩化カリウムの濃度を20wt%とする。これにより、本実施例による蓄熱材は、異なる二つの相変化温度を備える。」
「[0039]このように、本実施例による蓄熱材は、TBAB包接水和物の分解時の相変化温度と、塩化カリウムを含む溶液の相変化温度との異なる二つの相変化温度を有している。共晶濃度の塩化カリウムを含む溶液の相変化温度は約-11℃であるが、本実施例による蓄熱材は約-9℃に相変化温度を備える。これは、塩化カリウムを含む溶液の相変化温度が混合されたTBAB等の影響を受けて変動したためであると考えられる。しかしながら、本実施例による蓄熱材は、共晶濃度の塩化カリウムを含む溶液と2℃程度高い相変化温度(約-9℃)と、TBAB包接水和物の分解時の相変化温度(約11℃)を備えることができる。これにより、本実施例による蓄熱材は、異なる二つの温度帯で冷却をすることができる。特に、本実施例による蓄熱材は、0℃以上と0度未満との異なる二つの相変化温度で潜熱を利用した冷却をすることができる。このため、本実施例による蓄熱材は、0℃未満の相変化温度での潜熱を利用して被保冷物を所望時間以内に所望温度に急冷し、0℃以上の相変化温度での潜熱を利用して所望時間以上で被保冷物を所望温度に保冷することができる。」
「[0073]このように、本実施例による蓄熱材は、TBAB包接水和物の分解時の相変化温度と、塩化ナトリウムを含む溶液の相変化温度との異なる二つの相変化温度を有している。共晶濃度の塩化ナトリウムを含む溶液の相変化温度は約-21℃であるが、本実施例による蓄熱材は約-25℃に相変化温度を備える。これは、塩化ナトリウムを含む溶液の相変化温度が混合されたTBAB等の影響を受けて変動したためであると考えられる。また、本実施例による蓄熱材は、約7℃~12℃の温度域に相変化温度を有している。TBABの濃度が40wt%であり、TBABと水のみを含む蓄熱材であれば、約12℃の相変化温度を有するが、本実施例では塩化ナトリウムを加えているため、TBAB包接水和物の相変化温度が一定にならなかったと考えられる。」
(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術が記載されていると認められる。
「身体を冷却するアイシングパックであって、保冷用の蓄熱材を有し、蓄熱材は、0℃以上の相変化温度での潜熱を利用して所望時間以上で被保冷物を所望温度に保冷することができ、約7℃~12℃の温度域に相変化温度を有している、アイシングパック。」
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「身体から熱を吸収するためのデバイス」は、その構造及び作用から、本件補正発明における「人体を保冷する保冷具」に相当する。
また、引用文献1の段落【0042】、【0064】の記載等を参照すると、引用発明の「融解または凍結温度を、0℃の純水の融解または凍結温度に近い温度に保持」することは、ゲル組成物が所定の温度で相変化することであり、その相変化する温度は、人体の保冷に適切な温度であるといえるから、引用発明における「融解または凍結温度を、0℃の純水の融解または凍結温度に近い温度に保持」する「ゲル組成物」は、本件補正発明における「人体の保冷に適切な温度範囲に含まれる特定の温度で相変化する凍結材」に相当する。
また、引用発明の「封じ込め構造」とその「両側に断熱層を有する」態様は、引用文献1の段落【0043】、【0077】、【0078】の記載を参照すると、「封じ込め構造」の内部に「凍結可能なゲル組成物を含」むものであるから、本件補正発明の「凍結材を収容する」「第1の収容部」に、相当する。また、引用発明の「凍結可能なゲル組成物を含」む「ゲルパック」と「断熱層」からなる層は、身体を冷却するものであるから、本件補正発明の「蓄冷層」に相当する。そして、引用発明の「デバイス」は、「凍結可能なゲル組成物を含」む「ゲルパック」と「断熱層」のみからなるから、本件補正発明の「蓄冷層のみからなる保冷具」に相当する。
また、引用発明の「ゲル組成物」は、融解または凍結温度が0℃の純水の融解または凍結温度に近い温度に保持するものである。また、引用文献1の図9には、ゲル組成物を対象の身体上に置いた場合のデバイスの温度が0℃程度に維持される点が示されており、図10には、その際の皮膚温度が17℃より高く25℃より低い温度に一定時間維持される点が示されている。
したがって、引用発明において、皮膚温度が17℃より高く25℃より低い温度に一定時間維持する際に、ゲル組成物が相変化していることは明らかである。
そうすると、引用発明の「ゲル組成物が、対象の身体上に置いた場合に、皮膚温度が17℃より高く25℃より低い温度に一定時間維持できる」は、本件補正発明の「前記第1の収容部を人体の皮膚に直接当接をさせた際、前記保冷具の使用期間である前記凍結材の相変化状態において、前記第1の収容部と前記人体の皮膚との当接箇所における前記人体の皮膚温度を17℃より高く25℃より低い温度に一定時間維持することができる」に相当する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「人体を保冷する保冷具であって、人体の保冷に適切な温度範囲に含まれる特定の温度で相変化する凍結材と、前記凍結材を収容する第1の収容部と、を備え、前記凍結材および前記第1の収容部で蓄冷層を構成し、前記第1の収容部を人体の皮膚に直接当接をさせた際、前記保冷具の使用期間である前記凍結材の相変化状態において、前記第1の収容部と前記人体の皮膚との当接箇所における前記人体の皮膚温度を17℃より高く25℃より低い温度に一定時間維持することができる、前記蓄冷層のみからなる保冷具。」
[相違点1]
本件補正発明は、「凍結材を収容する包装材のみからなる第1の収容部」であるのに対し、引用発明は、封じ込め構造とその両側に断熱層を有する点。
[相違点2]
本件補正発明は、「前記人体の保冷に適切な温度範囲に含まれる特定の温度が17℃よりも低い12℃の温度帯であ」るのに対し、引用発明は、融解または凍結温度を、0℃の純水の融解または凍結温度に近い温度に保持するものである点。
(4)判断
以下、検討する。
本件補正発明において、蓄冷層を構成する第1の収容部の包装材は、包装材料の技術常識を踏まえれば、少なからず断熱性を有することは明らかである。
引用文献1の図5を参酌すると、引用発明は封じ込め構造と断熱層で、ゲル組成物の周囲を覆うものであるから、「包装材」としての機能を有するものである。
よって、引用発明は、ゲル組成物を収容するものが、封じ込め構造と断熱層のみからなり、包装材のみからなると表現できるから上記相違点1は、実質的な相違点でない。
また、請求人は、「引用文献1においては、例えば、氷枕で冷やす際にタオルを巻くなどしたうえで人体に接触させ、温度を調整するのと同様の思想に基づき、ゲルパック内に断熱材を配置することでゲル組成物の温度を緩和した上で人体に接触させるという思想に基づいて構成されたゲルパックが開示されているにすぎません。」と主張している。
しかしながら、本件補正発明の「包装材」、「第1の収容部」の具体的な構造、材料が特定されておらず、それらが少なからず断熱性を有することは明らかであるから、上記のとおり、引用発明1が断熱層を有していたとしても、相違点とはいえない。
さらに、仮に上記相違点1が実質的な相違点であるとしても封じ込め構造と断熱層を1つの構造とすることで上記相違点1に係る本件補正発明の事項とする程度のことは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、引用発明において、身体との当接箇所の皮膚温度は、ゲル組成物の相変化温度だけでなく、封じ込め構造や断熱層の構造及び材料等の影響を受けることは当業者に自明であるところ、身体の皮膚温度を所望の温度とするために、どのような相変化温度を有する凍結材を選択するかは、冷却療法用デバイスを構成する封じ込め構造や断熱層の構造及び材料等も考慮して定める設計的事項である。そして、相変化する温度が12℃の温度帯である蓄熱材(凍結材)は、引用文献2(段落[0013]、[0026]、[0032]、[0039]、[0073]、図2)に記載されている。
そうしてみると、引用発明において、所望の皮膚温度が得られるように、引用文献2記載の蓄熱材を採用し、その際に引用発明における断熱層の断熱値を調整することで上記相違点1及び2に係る本件補正発明の事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
そして、本件補正発明の効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術から当業者が容易に想到し得る範囲のものであって、格別なものでない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の各請求項に係る発明は、令和4年1月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 当審の拒絶の理由
当審が令和4年3月23日付けで通知した拒絶の理由は、この出願の請求項1及び4に係る発明は、上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
3 引用文献
上記拒絶の理由で引用された引用文献1ないし2及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「第1の収容部」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-005265