特許拒絶査定不服審判
2021-002823
インクジェットプリントヘッドおよびその製造方法
- 審判番号
- 2021-002823
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-154903
- 請求日
- 2021年03月03日
- 審決日
- 2022年04月05日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ローム株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人あい特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 吉村 尚
- 審判官 藤本 義仁
- 審判官 佐々木 創太郎
- 分類
- P18 .121-Z (B41J) / P18 .55 -Z (B41J) / P18 .56 -Z (B41J) / P18 .575-Z (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2016-154903「インクジェットプリントヘッドおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 8日出願公開、特開2018- 20538〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は,平成28年8月5日に出願したものであって,令和2年6月2日付けで拒絶理由が通知され,同年7月22日に意見書が提出され,同年12月2日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,令和3年3月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和3年3月3日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年3月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲について,下記(1)に示す本件補正前の(すなわち,平成28年8月5日の特許出願時の)特許請求の範囲の請求項1乃至14を,下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至7へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
圧力室を含むインク流路を有するアクチュエータ基板と,
前記圧力室上に配置されかつ前記圧力室の天面部を区画する可動膜を含む可動膜形成層と,
前記可動膜上に形成された圧電素子と,
前記アクチュエータ基板の前記可動膜側の表面である第1表面とは反対側の第2表面に接着剤によって接合され,前記圧力室の底面部を区画し,前記圧力室に連通するノズル孔を有するノズル基板とを含み,
前記アクチュエータ基板の側面と前記ノズル基板の側面とが,前記可動膜の法線方向から見た平面視において全方位で面一である,インクジェットプリントヘッド。
【請求項2】
前記ノズル孔は,前記圧力室に臨む凹部と,前記凹部の底面に形成され,前記凹部の底壁を貫通するインク吐出通路とを有する,請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項3】
前記凹部は,前記圧力室側から前記インク吐出通路に向かって横断面が徐々に小さくなる順テーパ状凹部である,請求項2に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項4】
前記凹部は,前記圧力室側から前記インク吐出通路に向かって横断面が徐々に大きくなる逆テーパ状凹部である,請求項2に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項5】
前記ノズル孔は,横断面積が長さ方向にわたってほぼ一定であるストレート孔から構成されている,請求項2に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項6】
前記ノズル基板は,Si基板からなる主基板と,前記主基板上に形成されたSiO2膜と,前記SiO2膜上に形成された撥水膜とからなり,前記主基板における前記SiO2膜とは反対側の表面が,前記アクチュエータ基板の前記第2表面に接合されている,請求項1~5のいずれか一項に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項7】
前記圧電素子を覆うように前記アクチュエータ基板に接着剤によって接合される保護基板をさらに含み,
前記保護基板は,前記アクチュエータ基板側に向かって開口しかつ前記圧電素子を収容する収容凹所と,平面視において前記収容凹所の一端の外方に形成され,前記インク流路の一端部に連通するインク供給路とを有している,請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項8】
前記アクチュエータ基板の側面と前記保護基板の側面とが,前記平面視において全方位で面一である,請求項7に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項9】
圧力室を有するアクチュエータ基板,前記圧力室の天面部を区画する可動膜および前記可動膜上に形成された圧電素子を有する基板アセンブリと,前記アクチュエータ基板に接合され,前記圧力室の底面部を区画し,前記圧力室に連通するノズル孔を有するノズル基板とを含むインクジェットプリントヘッドの製造方法であって,
前記アクチュエータ基板の元基板であるアクチュエータウエハを含み,複数の前記基板アセンブリを含む基板アセンブリ集合体を形成する工程と,
前記ノズル基板の元基板であるノズルウエハを含み,複数の前記ノズル基板を含むノズル基板集合体を形成する工程と,
前記基板アセンブリ集合体に前記ノズル基板集合体を接合することにより,インクジェットプリントヘッド集合体を形成する工程と,
前記インクジェットプリントヘッド集合体をダイシングによって個片化することにより,複数のインクジェットプリントヘッドを製造する工程とを含む,インクジェットプリントヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記ノズル基板集合体を形成する工程は,
前記ノズルウエハの一方の表面側に撥水膜を形成する撥水膜形成工程と,
前記ノズルウエハを前記撥水膜側とは反対側から研磨して,前記ノズルウエハを所定厚まで薄膜化する薄膜化工程と,
フォトリソグラフィおよびエッチングにより,薄膜化工程後の前記撥水膜付きノズルウエハに,当該撥水膜付きノズルウエハを厚さ方向に貫通するノズル孔を形成するノズル孔形成工程とを含む,請求項9に記載のインクジェットプリントヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記ノズル基板集合体を形成する工程は,
前記ノズルウエハの両面に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と,
前記ノズルウエハの一方の表面側の酸化膜上に撥水膜を形成する撥水膜形成工程と,
前記ノズルウエハを前記撥水膜が形成されていない方の酸化膜側から研磨して,前記ノズルウエハを所定厚まで薄膜化する薄膜化工程と,
フォトリソグラフィおよびエッチングにより,薄膜化工程後の前記撥水膜付きノズルウエハに,当該撥水膜付きノズルウエハを厚さ方向に貫通するノズル孔を形成するノズル孔形成工程とを含む,請求項9に記載のインクジェットプリントヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記ノズル孔形成工程では,横断面積が長さ方向にわたってほぼ一定のストレート孔からなるノズル孔が形成される,請求項10または11に記載のインクジェットプリントヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記ノズル孔形成工程は,前記撥水膜付きノズルウエハにおける前記撥水膜側とは反対側の表面に,前記撥水膜に向かって横断面積が徐々に小さくなる順テーパ状凹部を形成する工程と,
前記順テーパ状凹部の底面に,前記順テーパ状凹部の底壁を貫通するインク吐出通路を形成する工程とを含む,請求項10または11に記載のインクジェットプリントヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記ノズル孔形成工程は,前記撥水膜付きノズルウエハにおける前記撥水膜側とは反対側の表面に,前記撥水膜に向かって横断面積が徐々に大きくなる逆テーパ状凹部を形成する工程と,
前記逆テーパ状凹部の底面に,前記順テーパ状凹部の底壁を貫通するインク吐出通路を形成する工程とを含む,請求項10または11に記載のインクジェットプリントヘッド用のノズル基板の製造方法。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
圧力室を含むインク流路を有するアクチュエータ基板と,
前記圧力室上に配置されかつ前記圧力室の天面部を区画する可動膜を含む可動膜形成層と,
前記可動膜上に形成された圧電素子と,
前記アクチュエータ基板の前記可動膜側の表面である第1表面とは反対側の第2表面に接着剤によって接合され,前記圧力室の底面部を区画し,前記圧力室に連通するノズル孔を有するノズル基板とを含み,
前記アクチュエータ基板の側面と前記ノズル基板の側面とが,前記可動膜の法線方向から見た平面視において全方位で面一であり,
前記ノズル基板が,前記アクチュエータ基板における前記可動膜形成層とは反対側の表面に張り合わされたシリコン基板と,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板とは反対側の表面に形成された酸化シリコン膜と,前記酸化シリコン膜における前記シリコン基板とは反対側の表面に形成された撥水膜とからなり,
前記ノズル孔は,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板側の表面から前記シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,前記圧力室に連通する円錐台状の凹部と,前記撥水膜における前記酸化シリコン膜とは反対側の表面から前記凹部の底部に連通するストレート状のインク吐出通路とを含む,インクジェットプリントヘッド。
【請求項2】
前記凹部は,前記圧力室側から前記インク吐出通路に向かって横断面が徐々に小さくなる順テーパ状凹部である,請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項3】
前記凹部は,前記圧力室側から前記インク吐出通路に向かって横断面が徐々に大きくなる逆テーパ状凹部である,請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項4】
前記圧電素子を覆うように前記アクチュエータ基板に接着剤によって接合される保護基板をさらに含み,
前記保護基板は,前記アクチュエータ基板側に向かって開口しかつ前記圧電素子を収容する収容凹所と,平面視において前記収容凹所の一端の外方に形成され,前記インク流路の一端部に連通するインク供給路とを有している,請求項1~3のいずれか一項に記載のP.2インクジェットプリントヘッド。
【請求項5】
前記アクチュエータ基板の側面と前記保護基板の側面とが,前記平面視において全方位で面一である,請求項4に記載のインクジェットプリントヘッド。
【請求項6】
圧力室を有するアクチュエータ基板,前記圧力室の天面部を区画する可動膜および前記可動膜上に形成された圧電素子を有する基板アセンブリと,前記アクチュエータ基板に接合され,前記圧力室の底面部を区画し,前記圧力室に連通するノズル孔を有するノズル基板とを含むインクジェットプリントヘッドの製造方法であって,
前記アクチュエータ基板の元基板であるアクチュエータウエハを含み,複数の前記基板アセンブリを含む基板アセンブリ集合体を形成する工程と,
前記ノズル基板の元基板であるノズルウエハを含み,複数の前記ノズル基板を含むノズル基板集合体を形成する工程と,
前記基板アセンブリ集合体に前記ノズル基板集合体を接合することにより,インクジェットプリントヘッド集合体を形成する工程と,
前記インクジェットプリントヘッド集合体をダイシングによって個片化することにより,複数のインクジェットプリントヘッドを製造する工程とを含み,
前記ノズル基板が,前記アクチュエータ基板における前記可動膜形成層とは反対側の表面に張り合わされたシリコン基板と,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板とは反対側の表面に形成された酸化シリコン膜と,前記酸化シリコン膜における前記シリコン基板とは反対側の表面に形成された撥水膜とからなり,
前記ノズル孔は,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板側の表面から前記シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,前記圧力室に連通する円錐台状の凹部と,前記撥水膜における前記酸化シリコン膜とは反対側の表面から前記凹部の底部に連通するストレート状のインク吐出通路とを含む,インクジェットプリントヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記ノズル基板集合体を形成する工程は,
前記ノズルウエハの両面に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と,
前記ノズルウエハの一方の表面側の酸化膜上に撥水膜を形成する撥水膜形成工程と,
前記ノズルウエハを前記撥水膜が形成されていない方の酸化膜側から研磨して,前記ノズルウエハを所定厚まで薄膜化する薄膜化工程と,
フォトリソグラフィおよびエッチングにより,薄膜化工程後の前記撥水膜付きノズルウエハに,前記凹部と前記インク吐出通路とからなり,当該撥水膜付きノズルウエハを厚さ方向に貫通するノズル孔を形成するノズル孔形成工程とを含む,請求項6に記載のインクジェットプリントヘッドの製造方法。」
2 補正の適否(新規事項の追加の有無について)について
本件補正により,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項1を引用する請求項2乃至5の「ノズル孔」は,「前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板側の表面から前記シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,前記圧力室に連通する円錐台状の凹部」との事項が特定された。
そうすると,本件補正後の特許請求の範囲の請求項3の「凹部」は,「『シリコン基板における前記アクチュエータ基板側の表面から前記シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,前記圧力室に連通する円錐台状』であるとともに,『前記圧力室側から前記インク吐出通路に向かって横断面が徐々に大きくなる逆テーパ状凹部』」(以下「補正事項」という。)であるものとなった。
これに対し,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には,以下の記載がある。
「【0022】
ノズル基板3には,ノズル孔20が形成されている。ノズル孔20は,圧力室7に臨む凹部20aと,凹部20aの底面に形成されたインク吐出通路20bとからなる。インク吐出通路20bは,凹部20aの底壁を貫通しており,圧力室7とは反対側にインク吐出口20cを有している。したがって,圧力室7の容積変化が生じると,圧力室7に溜められたインクは,インク吐出通路20bを通り,吐出口83から吐出される。
【0023】
この実施形態では,凹部20aは,シリコン基板30の表面から酸化シリコン膜31側に向かって横断面が徐々に小さくなる円錐台状に形成されている。インク吐出通路20bは,横断面が円形のストレート孔から構成されている。この実施形態では,凹部20aは,シリコン基板30の厚さ途中まで形成されており,インク吐出通路20bは,シリコン基板30に形成されている部分と,酸化シリコン膜31および撥水膜32に形成された部分とからなる。」
「【図5】
[図:0001384773000001.jpg]
」
当初明細書等に記載された「ノズル孔」の「凹部」は,シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,圧力室に連通しインク吐出通路に向かって横断面が徐々に小さくなる円錐台状の凹部は記載されているものの,シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,圧力室に連通しインク吐出通路に向かって横断面が徐々に大きくなる逆テーパ状凹部は,記載も示唆もされていない。
そうすると,補正事項は,当初明細書等に記載されているとはいえないし,技術常識を勘案しても,その点が当初明細書等の記載から導き出せる根拠も見出せない。
以上のことから,補正事項である「『シリコン基板における前記アクチュエータ基板側の表面から前記シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,前記圧力室に連通する円錐台状』であるとともに,『前記圧力室側から前記インク吐出通路に向かって横断面が徐々に大きくなる逆テーパ状凹部』」との事項は,当初明細書等には記載がなく,当初明細書等の記載から自明なものともいえないから,本件補正は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
以上のとおり,本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
3 独立特許要件について
以上のように,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるが,仮に本件補正に含まれる上記補正事項が当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとして補正されたとした場合には,請求項1に係る補正は,同条第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので,本件補正後の請求項1に係る発明(令和3年3月3日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される,上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】乃至【請求項7】(以下,それぞれ「本願補正発明1」乃至「本願補正発明7」という。)における本願補正発明1が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について,以下に検討する。
(1)本願補正発明1
本願補正発明1は,上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】に記載したとおりのものと認める。
(2)引用例
原査定の拒絶の理由において引用され。本願の出願日前に公報が発行された特開2007-66951号公報(以下「引用例」という。)には,次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,積層体の加工方法,積層体,デバイスの製造方法,デバイス,インクジェット記録装置に関する。」
イ 「【0048】
(第1実施形態)
本実施形態では,液滴吐出法によって配置された充填部材を有する積層体について説明する。
【0049】
図3は,本実施形態における積層体Pを示す概略図である。
【0050】
図3において,積層体Pは,基板P1,基板P2,基板P3とで構成されている。基板P1は,空隙部11aを有しており,この空隙部11aに充填部材11が充填されている。基板P2の下側には,配線12が形成されている。貼り合せ基板Qは,基板P1と基板P2とで構成されている。なお,これら基板P1,P2,P3の貼り付けには接着剤が使用されている。
【0051】
レーザ光5は集光素子としてのレンズ6で集光され,レンズ6で集光されたレーザ光5は,積層体Pの下面側に照射される。照射されたレーザ光5は,積層体Pの深さ方向全域で焦点位置が合うように配置されている。レーザ光5が照射された基板P1,基板P2,基板P3の箇所には,多光子吸収という現象を利用することにより,材料変質部7を形成している。なお,外部から応力を加えると,材料変質部7の部分は改質されているから,材料変質部7に沿って積層体Pを切断・分割することができる。」
ウ 「【0060】
次に,本実施形態における積層体の切断・分割方法について以下に示す。
【0061】
図6(a)~(h)は,積層体の分割工程を示す図であり,図7は,積層体の分割工程の手順を示す概略フローチャートである。
【0062】
図6,図7を参照して,本発明の積層体Pの切断・分割方法について説明する。なお,本実施形態の積層体Pの切断・分割方法は,貼り合せ工程1,機能液配置工程,乾燥工程,固化処理工程,貼り合せ工程2,改質層形成工程,分割工程から概略構成される。以下,各工程について詳細に説明する。なお,積層体Pを切断・分割して形成される分割後の小片は,インクジェットヘッド50である。
(貼り合せ工程1)
【0063】
図7のステップS1では,図6(a)に示すように,空隙部11aを有する基板P1の下側に,配線12が形成されている基板P2を貼り合せて,貼り合せ基板Qを形成する。基板P1と基板P2との貼り合せ方法は,例えば接着剤などを使用して貼り合せることができる。なお,基板P1,P2の材料は,シリコンである。基板P1,P2の厚さは,各々100μmである。」
エ 「【0089】
図11は,本発明の実施形態1および実施形態2の形成方法に係るインクジェットヘッドを示す説明図である。
【0090】
図11に示すように,インクジェットヘッド50は外形が,下側からノズルプレート51,アクチュエータ基板52,駆動膜53,封止板54,コンプライアンス基板55から構成されており,これらは互いに接着剤66等で接合されている。駆動膜53の一部である駆動部53aには電圧を印加するための配線56が接続されている。また,アクチュエータ基板52,駆動膜53,封止板54には貫通穴が形成されており,この貫通穴の底部がノズルプレート51によって塞がれることによりリザーバ57が形成されている。また,コンプライアンス基板55のリザーバ57に対応する部分には,外部からリザーバ57にインク等の液体を供給するための液体供給穴58が形成されている。
【0091】
アクチュエータ基板52の上面の駆動膜53に接する部分には,弾性膜59が形成されており,この弾性膜59は酸化シリコン層59aと酸化ジルコニウム層59bで構成されている。なお,弾性膜59は必ずしも酸化シリコン層59aと酸化ジルコニウム層59bで構成する必要はない。アクチュエータ基板52のノズルプレート51側には複数の圧力室60となる凹部が形成されており,またノズルプレート51には,各圧力室60に対応して液滴を吐出するためのノズル孔61が形成されている。さらに,封止板54の駆動膜53側には,駆動部53a及び配線56を保護するための封止部62となる凹部が形成されている。
【0092】
アクチュエータ基板52には,リザーバ57と各圧力室60とを連結するオリフィス63が形成されており,駆動膜53の一部である駆動部53aは各圧力室60の上部に個別に設けられている。
【0093】
また,インクジェットヘッド50では,弾性膜59におけるリザーバ57に面する位置に押さえ部64が形成されている。この押さえ部64は,単結晶シリコンからなるアクチュエータ基板52にボロンを高濃度にドープして形成されており,アクチュエータ基板52の一部として形成されている。押さえ部64は,弾性膜59のオリフィス63の部分に凸状に形成されているが,少なくとも弾性膜59におけるリザーバ57に面する位置に形成してあれば,リザーバ57側や圧力室60側にはみ出る形で形成してもよい。
【0094】
ここで,インクジェットヘッド50の動作について説明する。なお,インクジェットヘッド50は,駆動部53aが圧電方式で駆動するものである。
【0095】
駆動膜53は,下面側(アクチュエータ基板52側)から,チタン,イリジウム,白金等を積層した下電極,チタン酸ジルコン酸鉛等からなる圧電素子(PZT,Piezoelectric Tranceducer Material),及びイリジウム等からなる上電極から構成されている。駆動部53aの上電極及び下電極に配線56を介して電圧を印加すると,圧電素子が例えば上側(封止板54側)にたわみ変形を起こす。圧電素子がたわみ変形するのに伴って,圧電素子と接合されている下電極及び弾性膜59もたわむようになっている。このとき,インク等の液体が外部から液体供給穴58からリザーバ57に供給されており,この液体は圧電素子がたわむとオリフィス63を通って圧力室60に流れ込む。そして,上電極及び下電極に印加された電圧を除去すると,圧電素子が元の状態に戻り圧力室の圧力が高まる。これにより,液体がノズル孔61から液滴として吐出される。なお,圧電素子は下側にたわむものであっても,同様にインク等の液体を液滴として吐出させることができる。」
そうすると,上記ア乃至エの記載事項から,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「積層体を切断・分割して形成される分割後の小片である,インクジェットヘッド50であって,
インクジェットヘッド50は,下側からノズルプレート51,アクチュエータ基板52,駆動膜53,封止板54,コンプライアンス基板55が互いに接着剤66等で接合されており,
アクチュエータ基板52の上面の駆動膜53に接する部分には,弾性膜59が形成されており,この弾性膜59は酸化シリコン層59aと酸化ジルコニウム層59bで構成され,
アクチュエータ基板52のノズルプレート51側には複数の圧力室60となる凹部が形成されており,またノズルプレート51には,各圧力室60に対応して液滴を吐出するためのノズル孔61が形成され,
アクチュエータ基板52には,リザーバ57と各圧力室60とを連結するオリフィス63が形成されており,駆動膜53の一部である駆動部53aは各圧力室60の上部に個別に設けられ,
駆動膜53は,下面側から,下電極,圧電素子,及び上電極から構成された,
インクジェットヘッド50。」
(3)対比
そこで,本願補正発明1と引用発明とを対比すると,
ア 後者の「圧力室60」,「アクチュエータ基板52」,「弾性膜59」,「圧電素子」,「『各圧力室60に対応して液滴を吐出するためのノズル孔61が形成され』た『ノズルプレート51』」は,前者の「圧力室」,「アクチュエータ基板」,「可動膜を含む可動膜形成層」,「圧電素子」,「圧力室に連通するノズル孔を有するノズル基板」に相当する。
イ 後者の「アクチュエータ基板52」には,複数の圧力室60となる凹部が形成されており,かつ,リザーバ57と各圧力室60とを連結するオリフィス63が形成されていることから,後者の「『複数の圧力室60』及び『オリフィス63』」は,前者の「インク流路」に相当する。
ウ 後者の「弾性膜59」は,アクチュエータ基板52の上面の駆動膜53に接する部分に形成されており,駆動膜53の一部である駆動部53aは各圧力室60の上部に個別に設けられるものであるから,前者の「可動膜を含む可動膜形成層」と後者の「弾性膜59」とは,「圧力室上に配置されかつ前記圧力室の天面部を区画する」ものとの概念で一致する。
エ 後者の「インクジェットヘッド50」のアクチュエータ基板52の上面の圧電素子から構成される駆動膜53に接する部分には,弾性膜59が形成されているから,前者の「圧電素子」と後者の「圧電素子」とは,「可動膜上に形成された」ものとの概念で一致する。
したがって,両者は,以下の一致点で一致し,以下の相違点で相違する。
[一致点]
「圧力室を含むインク流路を有するアクチュエータ基板と,
前記圧力室上に配置されかつ前記圧力室の天面部を区画する可動膜を含む可動膜形成層と,
前記可動膜上に形成された圧電素子と,
前記アクチュエータ基板の前記可動膜側の表面である第1表面とは反対側の第2表面に接着剤によって接合され,前記圧力室の底面部を区画し,前記圧力室に連通するノズル孔を有するノズル基板とを含み,
前記アクチュエータ基板の側面と前記ノズル基板の側面とが,前記可動膜の法線方向から見た平面視において全方位で面一である,インクジェットプリントヘッド。」
[相違点1]
本願補正発明1の「インクジェットプリントヘッド」は,「アクチュエータ基板の側面と前記ノズル基板の側面とが,前記可動膜の法線方向から見た平面視において全方位で面一」であるのに対し,引用発明の「インクジェットヘッド50」は,積層体を切断・分割して形成される分割後の小片であり,アクチュエータ基板52の側面とノズルプレート51の側面とが,駆動膜53の法線方向から見た平面視において全方位で面一であるのか否か定かでない点。
[相違点2]
本願補正発明1は,「前記ノズル基板が,前記アクチュエータ基板における前記可動膜形成層とは反対側の表面に張り合わされたシリコン基板と,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板とは反対側の表面に形成された酸化シリコン膜と,前記酸化シリコン膜における前記シリコン基板とは反対側の表面に形成された撥水膜とからなり,前記ノズル孔は,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板側の表面から前記シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,前記圧力室に連通する円錐台状の凹部と,前記撥水膜における前記酸化シリコン膜とは反対側の表面から前記凹部の底部に連通するストレート状のインク吐出通路とを含む」ものであるのに対し,引用発明の「ノズルプレート51」及び「ノズル孔61」が,材料及び形状が定かでない点。
(4)判断
上記各相違点について,以下,検討する。
ア [相違点1]について
引用発明の「インクジェットヘッド50」は,積層体を切断・分割して形成される分割後の小片であるから,アクチュエータ基板52の側面とノズルプレート51の側面とが,駆動膜53の法線方向から見た平面視において全方位で面一となることは,明らかといえるか,少なくとも,アクチュエータ基板52の側面とノズルプレート51の側面とが,駆動膜53の法線方向から見た平面視において全方位で面一とすることは,当業者にとって何ら困難性のないことである。
してみると,上記相違点1に係る本願補正発明1の発明特定事項は,引用発明から,当業者が容易に想到し得るものである。
イ [相違点2]について
インクジェットプリントヘッドにおいて,ノズル基板が,アクチュエータ基板における可動膜形成層とは反対側の表面に張り合わされたシリコン基板と,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板とは反対側の表面に形成された酸化シリコン膜と,前記酸化シリコン膜における前記シリコン基板とは反対側の表面に形成された撥水膜とからなり,ノズル孔は,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板側の表面から前記シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,前記圧力室に連通する円錐台状の凹部と,前記撥水膜における前記酸化シリコン膜とは反対側の表面から前記凹部の底部に連通するストレート状のインク吐出通路とを含むものは,本願の出願日時点で周知の技術手段であり(例えば,特開2014-124880号公報(特に,【0017】及び【図1】参照。),以下「周知技術」という。),上記相違点2に係る本願補正発明1の発明特定事項は,周知技術といえるものである。
インクジェットヘッドの分野において,正確なインク滴の吐出と,メンテナンスの面倒を解消することは,内在する自明の課題といえるものであるところからすると,引用発明のノズルプレート51に,前記周知技術を適用することは,当業者が容易になし得るものであるところ,引用発明に,前記周知技術を適用し,上記相違点2に係る本願補正発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得るものである。
そして,本願補正発明1の発明特定事項によって奏される効果も,引用発明から,当業者が予測しうる範囲内のものである。
よって,本願補正発明1は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際,独立して特許を受けることが出来ない。
(5)むすび
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定にお
いて読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成28年8月5日の特許出願時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「圧力室を含むインク流路を有するアクチュエータ基板と,
前記圧力室上に配置されかつ前記圧力室の天面部を区画する可動膜を含む可動膜形成層と,
前記可動膜上に形成された圧電素子と,
前記アクチュエータ基板の前記可動膜側の表面である第1表面とは反対側の第2表面に接着剤によって接合され,前記圧力室の底面部を区画し,前記圧力室に連通するノズル孔を有するノズル基板とを含み,
前記アクチュエータ基板の側面と前記ノズル基板の側面とが,前記可動膜の法線方向から見た平面視において全方位で面一である,インクジェットプリントヘッド。」(以下「本願発明」という。)
2 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,概略次の理由を含んでいる。
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又 は外国において、頒布された特開2007-66951号公報に記載された発明又は電気通信回線を 通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技 術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたもので あるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用例
令和2年6月2日付けの拒絶理由通知に引用された引用例,及び,その記載内容は上記「第2 3 (2)引用例」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は,実質的に,本願補正発明1の「前記ノズル基板が,前記アクチュエータ基板における前記可動膜形成層とは反対側の表面に張り合わされたシリコン基板と,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板とは反対側の表面に形成された酸化シリコン膜と,前記酸化シリコン膜における前記シリコン基板とは反対側の表面に形成された撥水膜とからなり,前記ノズル孔は,前記シリコン基板における前記アクチュエータ基板側の表面から前記シリコン基板の厚さ途中までの領域に形成され,前記圧力室に連通する円錐台状の凹部と,前記撥水膜における前記酸化シリコン膜とは反対側の表面から前記凹部の底部に連通するストレート状のインク吐出通路とを含む,」との限定を省くものである。
そうすると,本願発明と引用発明とを対比すると,上記「第2 3 (3)対比」での検討を勘案すると,両者は,以下の一致点で一致し,以下の相違点で相違する。
[一致点]
「圧力室を含むインク流路を有するアクチュエータ基板と,
前記圧力室上に配置されかつ前記圧力室の天面部を区画する可動膜を含む可動膜形成層と,
前記可動膜上に形成された圧電素子と,
前記アクチュエータ基板の前記可動膜側の表面である第1表面とは反対側の第2表面に接着剤によって接合され,前記圧力室の底面部を区画し,前記圧力室に連通するノズル孔を有するノズル基板とを含み,
前記アクチュエータ基板の側面と前記ノズル基板の側面とが,前記可動膜の法線方向から見た平面視において全方位で面一である,インクジェットプリントヘッド。」
[相違点1]
本願発明の「インクジェットプリントヘッド」は,「アクチュエータ基板の側面と前記ノズル基板の側面とが,前記可動膜の法線方向から見た平面視において全方位で面一」であるのに対し,引用発明の「インクジェットヘッド50」は,積層体を切断・分割して形成される分割後の小片であり,アクチュエータ基板52の側面とノズルプレート51の側面とが,駆動膜53の法線方向から見た平面視において全方位で面一であるのか否か定かでない点。
そして,上記「第2 3(4)」における検討を踏まえれば,本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,引用例に示された発明(引用発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。
したがって,その余の請求項については検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2021-002823