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特許異議申立

2020-700935

スフェロイド細胞培養ウェル製品およびその方法

審判番号
2020-700935
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-511776
登録番号
特許第6703476号(P6703476)
請求日
2020年12月02日
審決日
2021年02月25日
公報発行日
2021年04月30日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】コーニング インコーポレイテッド
  • 【権利者代理人】柳田 征史
  • 【異議申立人】金澤 毅
審判長/審判官
  • 審判長 田村 聖子
  • 審判官 山本 晋也
  • 審判官 森井 隆信
分類
P1652.121-Y (C12M) / P1652.537-Y (C12M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6703476号発明「スフェロイド細胞培養ウェル製品およびその方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6703476号の請求項1、4に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6703476号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成26年 4月28日(パリ条約による優先権主張 2013年11月22日 (US)アメリカ合衆国、2013年 4月30日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和 2年 5月12日にその特許権の設定登録がされ、令和 2年 6月 3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許の請求項1及び4に対し、令和 2年12月 2日に特許異議申立人金澤毅は、特許異議の申立てを行った。 第2 特許請求の範囲の記載 特許第6703476号の請求項1及び4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1及び4に記載された事項により特定される次のとおりのものであり、請求項1及び4に係る特許発明をそれぞれ、「本件特許発明1」及び「本件特許発明4」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。 「【請求項1】 細胞培養製品において、 チャンバを有するフレームであって、前記チャンバが、 不透明な側壁表面と、 上部開口と、 前記不透明な側壁表面に隣接している、気体透過性で液体不浸透性の透明な底部表面と、 を有している、フレーム、 を備え、前記底部表面の少なくとも一部分が、少なくとも1つの凹状弓形表面を含んでおり、 前記少なくとも1つの凹状弓形表面に、低接着コーティングまたは非接着コーティングをさらに備えていることを特徴とする製品。」 「【請求項4】 前記少なくとも1つの凹状弓形表面が、同じ前記チャンバ内の複数の隣接する凹状弓形表面を含むことを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の製品。」 第3 特許異議申立人が申し立てた申立理由の概要と証拠 1 特許異議申立人が申し立てた申立理由の概要 取消理由1(進歩性欠如) 本件特許の請求項1及び4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 取消理由2(明確性要件違反) 本件特許の請求項1及び4に係る発明は発明が明確でないから、本件特許発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 特許異議申立人が示した証拠 甲第1号証:国際公開第2013/042360号 甲第2号証:特開平09-173049号公報 甲第3号証:特開2001-106749号公報 甲第4号証:特開2006-121991号公報 甲第5号証:特開2012-249547号公報 甲第6号証:Polymer Handbook, 4th Ed. VI/544-VI/547, VI/568-VI/569 甲第7号証:特開平09-234811号公報 甲第8号証:「新訂 最新ポリイミド-基礎と応用」日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編、(初版第一刷)p.369, 表2 甲第9号証:特許第6703476号の平成30年 2月15日付け(起案日)拒絶理由通知書 甲第10号証:米国特許出願公開第2011/0129923号明細書 甲第11号証:独国特許出願公開第102009005526号明細書 甲第12号証:欧州特許出願公開第0307048号明細書 甲第13号証:特許第6703476号の令和 1年 7月 5日付け手続補正書 以下、「甲第1号証」~「甲第13号証」を、それぞれ「甲1」~「甲13」という。 第4 当審の判断 当審は、請求項1及び4に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 理由は以下のとおりである。 1 取消理由1(進歩性欠如)について (1)甲号証の記載 ア 甲1の記載 甲1には以下の記載がある(下線は当審による。以下同様。)。 (ア)「[0006]  このように、従来の培養方法では、市販されているウェルプレートやフラスコ形状の容器に適用するには限界がある、もしくは、適用できるとしても、スフェロイドの直径を制御することが困難であった。そのため、各種培養容器の形状に適用可能で、かつ、スフェロイドの大きさを制御することによって、均一な直径を有する接着性細胞のスフェロイドを培養できる新たな方法が求められていた。」 (イ)「[0013]  図1に、本発明の実施形態に係る培養容器の構成例を示す。図2に図1のII-II線に沿った断面図を示す。 培養容器10は、培養空間11と、壁12と、底部13とを有する。 培養空間11は、壁12と底部13とで仕切られた領域であり、細胞を培養する三次元の空間領域(培養領域)となる。培養空間11は、単に「空間」または「マイクロ空間」とも称する。 壁12は、培養空間11を仕切る隔壁であり、培養容器10に凹凸パターンを形成する凸部ともいえる。 底部13は、培養容器10の基板として機能するとともに、培養空間11が配置される側の表面は、培養領域(培養表面)の一部となる。 [0014]  図1,2では、培養容器10における培養空間11に関して、相当直径D、高さH、壁12の幅W(厚さ)、及び、底部13の厚さTを示す。図1,2では、底部13は、壁12と一体として作製された場合を示している。…」 (ウ)「[0016]  図3は、培養プレートのウェル内に本実施形態の培養容器を形成した構成例を説明する概略図である。培養プレート1は、複数のウェル21が形成され、隣り合うウェル21同士は仕切り部22によって隔てられる。各ウェル21は、培養容器10に対応し、複数の培養空間11と壁12とを含む。 各ウェル21内、言い換えると、培養容器10内において、複数の培養空間11は、図1に示すようにアレイ状に配置される。各ウェル21に含まれる培養空間11の数は、培養プレートに作製されるウェル21の数(ウェル21の大きさ)と培養空間11及び壁12の大きさに依存するものである。図3では、構成を説明するための、培養空間11の数を少なくして表した概略図であり、各ウェル21に含まれる培養空間11の数は実際とは異なる。加えて、図1、2では、9個の培養空間11を示している。これは説明のために示したものであり、実際の培養容器10(ウェル21)に含まれる培養空間11の数に対応するものではない。」 (エ)「[0018]  例えば、接着性細胞であるがん細胞を培養する場合を検討する。非特許文献1(Juergen Friedrichら著、"Spheroid-based drug screed: considerations and pracitical approach"、Nature Protocols vol.4 No.3 2009、 pp309-324)によれば、接着性細胞を薬物のスクリーニングに用いる場合、増殖したがん細胞は、小さいものでは200μm、最大のスフェロイドサイズでは、由来する臓器によってさまざまで、1000μm以上に増殖するものもある。加えて、生体内における腫瘍に特徴的な腫瘍中心で起こる二次的な細胞死と類似した現象は、500μm~600μmのスフェロイドで見られる。これらから、培養空間11の相当直径は、200μm~4000μmの範囲が好ましく、500μm~3000μmの範囲がより好ましい。」 (オ)「[0021]  図4に、培養空間11でスフェロイドを培養する状態を表す概略図を示す。図4では、図2に示す断面図を用い、スフェロイド9を、○印で示す。スフェロイド9は、複数の培養空間11それぞれにおいて培養される。 図3に示す培養プレート1で培養する場合、ウェル21毎に培養条件の設定、培地の交換等を実施することになる。そのため、各ウェル21に複数の培養空間11を形成することが可能であるため、同条件で複数のスフェロイドを培養することが可能になる。加えて、ウェルプレートを用いてスフェロイドを培養することができるため、従来の細胞培養で用いる装置等を利用することが可能になる。 スフェロイド9の直径DSPを値dsp(dspは正の数値)とすると、培養空間11の相当直径Dは、値dspから値dspの5倍の範囲(dsp≦D≦5dsp)となる。また、培養空間11の高さHは、値dspの0.3倍から値dspの25倍(5×5)の範囲(0.3dsp≦H≦25dsp)となる。 [0022]  培養空間11の形状(正面の形状)、あるいは、底部13と平行な面の形状は、図1に示す形状に限定されるものではなく、例えば、図5A~5Bに示すような形状であっても、その他の形状(楕円や菱形など)であってもよい。より高密度で均一な直径を有するスフェロイドを形成させるためには、左右対称構造であることが好ましい。 培養空間11の側面の形状は、図2に示す円柱状に限定されるものではなく、例えば、図6A~6Cに示すような形状であってもよい。 [0023]  培養容器10を構成する材料としては、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、及びシリコン樹脂のうちの1つまたはこれらの組み合わせから選択される。 [0024]  培養容器10の底部13の厚さTは、観察性の観点から、1mm以下が好ましい。ただし、顕微鏡での観察に支障をきたさない限り、1mm以上であってもよく、底部13の厚さTを限定するものではない。培養容器の底部13の観察性を確保することにより、培養プレートをそのまま用いて、培養したスフェロイドを観察することが可能になる。」 (カ)「[0027]  加えて、スフェロイドの形成率を向上させるために、細胞接着性を抑制した方がよい。細胞接着性を抑制するためには、水接触角が45度以下、好ましくは40度以下、より好ましくは20度以下になるような表面を用いることで可能になる。細胞接着性を抑制することと、水接触角との関係については、例えば、非特許文献1(Y Ikada著、"Surface modification of polymers for medical applications"、 Biomaterials 1994, vol.15 No.10, pp725-736)に記載されている。 水接触角を45度以下にする方法としては、ガラスを培養底面に蒸着する方法、プラズマ処理法を用いて、表面に官能基を形成させる方法が挙げられる。プラズマ処理などにより、表面に官能基を形成させる、または、光や温度により親水・疎水性が制御可能なポリマーをコートする方法を用いることができる。さらに、リン脂質・高分子複合体をコートしてもよい。上述した表面処理を行った後、ポリエチレングリコールやリン脂質-高分子複合体などの親水性ポリマーを固定化しても良い。」 (キ)「[0029] [実施例1、2、比較例1] 1.培養容器の作製 実施例1,2及び比較例1について、図1,2に示す培養空間11が規則的に配列している培養容器10であって、以下の相当直径D、幅W、及び高さHのパターンをフォトリソグラフィにより作製し、Ni電解メッキを行い、対応する凹凸形状を有する金型を得た。 ・実施例1:D=100μm、W=20μm、H=50μm(H/D=0.5) ・実施例2:D=200μm、W=20μm、H=100μm(H/D=0.5) ・比較例1:D=200μm、W=20μm、H=50μm(H/D=0.25) 実施例1,2,比較例1は、その金型を用い、ホットエンボス成形によりポリスチレン上に凹凸パターン形状の転写を行い、上記寸法の樹脂基材を作製した。その樹脂基材表面へ真空蒸着により二酸化ケイ素膜を100nm形成させたフィルムを作製し、ポリスチレン製の底面のない24穴プレートに、レーザ溶着法でフィルムを貼り付けた後、γ線滅菌を行った。このようにして、各ウェルに複数の培養空間11を有する培養容器10を形成した24ウェルの培養プレートを作製した。…」 (ク)「[0036] [実施例3] 1.培養容器の作製 図1,2に示す培養空間11が規則的に配列している培養容器10であって、以下の相当直径D、幅W、及び高さHのパターンをフォトリソグラフィにより作製し、Ni電解メッキを行い、対応する凹凸形状を有する金型を得た。 D=200μm、W=200μm、H=100μm(H/D=0.5) 実施例3では、この金型と96穴プレートとを用いたことを除いて、実施例1,2と同様の方法で培養プレートを作製し、96ウェルの培養プレートを得た。 [0037] 2.細胞培養及び観察 全ての培養プレートのウェルに、培養表面をマイクロ波プラズマ処理の後、燐酸緩衝液で洗浄した後、0.01vol%MPC溶液でコートした。クリーンベンチ内で室温下にて24時間放置しMPC溶液を乾燥させた。 細胞は、HepG2を用いた。 培地は10vol%ウシ胎児血清を含むDMEM培養液を用いた。培養方法は、実施例1,2と同様である。 [0038]  図11に実施例3の結果を示す。図11の写真に示すように、HepG2を培養した場合にも培養容器10内にスフェロイドが形成されていることが観察される。」 (ケ)「 」(図2) (コ)「 」(図3) (サ)「 」(図6A) イ 甲2の記載 甲2には、以下の記載がある。 (ア)「【0004】 しかし、光学的に透明性が高い材質からなる従来のマルチプレートを用いて組織培養、細胞培養を行った場合、容器内で培養された組織、細胞を顕微鏡を用いて観察を行うと同時に、組織、細胞もしくは培養液中に含まれている極微量物質の含有量を測定するため、前述の発光現象を利用した定量分析方法を行うと、隣接する容器より放出される光は容器を通過して測定を行う容器に侵入し散乱して該容器の発光量の測定に影響する。そのため、測定に必要な容器の内容物を発光量の測定に支障のない他のマルチプレートの容器に移し変えて発光量の測定を行う必要があった。」 (イ)「【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、組織や細胞の培養で発光現象を利用した観察や測定分析におけるこのような問題点を解決しようとしたもので、その目的とするところは、複数個の容器が一体となったもしくは組み合わされた容器の集合体を用いて、顕微鏡で培養されている組織、細胞の観察を行うとともに、隣接した他の容器が放出する光の影響を受けずに組織、細胞もしくは培養液中に含まれている極微量物質の含有量を発光現象を利用した定量分析方法が行える培養用容器を提供することにある。 【0007】 【課題を解決するための手段】即ち本発明は、発光現象を用いた標識物質の測定と、顕微鏡観察を可能にするために、容器の側壁を構成する部材、あるいは容器の側壁の外側または内側を被覆する部材が不透明であり、かつ該容器の底部を構成する部材が透明であることを特徴とする培養用容器である。」 ウ 甲4の記載 甲4には以下の記載がある。 (ア)「【0043】 また、例えば、合成された細胞非接着性物質としては、ポリエチレングリコール等の極めて高い親水性を示す高分子や、MPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、poly―HEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)、SPC(セグメント化ポリウレタン)等を用いることができ、これらの誘導体としては、当該細胞非接着性物質に任意の官能基や高分子等を結合させたものを用いることができる。 【0044】 これら生体から取得され若しくは合成された細胞非接着性物質又はこれらの誘導体は、例えば、当該細胞非接着性物質等の水溶液を底面20上で乾燥させることにより、又は当該細胞非接着性物質等の水溶液中において、当該細胞非接着性物質等が有する官能基と底面20上の官能基との間で化学反応を起こさせて共有結合を形成させること等により、当該底面20上に固定化することができる。」 エ 甲5の記載 甲5には以下の記載がある。 (ア)「【0059】 本発明の細胞培養用基材においては、表面処理によって、細胞接着性を調節することも出来る。 一般的に、足場依存性の細胞は親水性表面に接着しやすく、疎水性表面には接着しにくい性質を有する。 従って、細胞接着性を調節する方法としては、例えば、紫外線、電子線、ガンマ線、プラズマなどの照射など各種公知の表面改質技術を適宜用いて培養基材表面に-O-や-OH基といった官能基を設け、極性を調節することによって行うことが出来る。 また、細胞培養用基材の表面に細胞接着性を上げる物質や下げる物質を塗布することによって細胞接着性を調節することが出来る。 細胞接着性を高める物質としては、各種コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン等の細胞外マトリックスを構成するプロテオグリカン類、二酸化ケイ素、或いはポリリジンなどを用いることが出来、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を含有する(共)重合体、寒天等を用いることにより細胞接着性を下げることができる。」 オ 甲6の記載 甲6には以下の記載がある(翻訳は当審による。以下同様。)。 (ア)「この本において与えられている透過係数の好ましいSI単位は であり、ここで、(273.15K;1.013×105Pa)は標準の温度と圧力を意味する。したがって、この論文において与えられている透過係数はほとんどのポリマー及び浸透物において、10-11-10-16cm3×cm/cm2×s×Paである。」(第VI/544頁右側欄第17行-第27行) (イ)「表1 ポリマーの透過係数、拡散係数及び溶解係数 表における単位は以下のとおり;P…はcm3(273.15K;1.013×105Pa)×cm/cm2×s×Pa);…;(273.15K;1.013×105Pa)は標準温度及び標準圧力(STP)を意味する。 … ポリマー   …  P(×1013)… … 1.2 ポリ(スチレン) ポリ(スチレン) … 1.9 …」(第VI/545頁表1の表題及び注釈、第VI/547頁下から第28行-第27行) カ 甲7の記載 甲7には以下の記載がある。 (ア)「【0033】ここで、典型的な非極性高分子であるポリプロピレンと酸素透過性の比較的高いポリメチルペンテンを用いて無孔質の酸素透過性層Cを構成したケースについて試算してみる。 1)ポリプロピレン:酸素透過係数P= 1.7×10-13 [cm3・cm/cm2 ・sec ・Pa](30℃)(PolymerHandbook, 2nd Ed. III-235. J.Brandrup and E.H.Immergut, John Willy & Sons(1975) 、単位は変換)厚さX>10μm においては、P/X<1.7 ×10-17 [cm3 /cm2 ・sec ・Pa]の範囲であれば適用可能である。典型的な対象として、Va /A=1cm3/cm2 、t=1day の場合には、同様の計算より、厚さX=3μm の薄さが必要となる。この厚さの無孔質層は、強度面からはほぼ限界にあるが、所要脱酸素時間を考慮すれば、層厚を厚くできるので、ポリプロピレンが使用できることが判る。」 キ 甲8の記載 甲8には以下の記載がある。 (ア)「表2 代表的な高分子均質材料の酸素(P(O2))、二酸化炭素(P(CO2))および水蒸気(P(H2O))の透過係数* … 高分子名 … P(O2)… … ポリスチレン … 2.6 … … *透過係数の単位:×10-10cm3(STP)cm/cm2・s・cmHg)」(第369頁右側欄、表2) ク 甲10の記載 甲10には以下の記載がある。 (ア)「[0012] 気体交換の唯一の場としての気体/液体界面を排除する細胞培養装置が提案されており、市場に投入された。このアプローチは、培地の底で気体交換を行うために、より低い気体透過性膜の使用に頼っている。気体/液体界面のみに依存するのとは対照的に、より多くの気体移動を可能にする。…」 (イ)「[0101] 図8はマルチウェルフォーマットで構成された気体透過性細胞培養デバイスの実施形態であり、従来のマルチウェル組織培養デバイスと比較して、容積当たりの培地を増やすことができ、それによって、1ウェル当たりの細胞数を増加させ、培地の供給頻度を低減することによってより効率的な研究規模を可能とし、良好なクローン選択可能性を可能にする。」 (ウ)「[0137] 図8は、各ウェルの底部がガス透過性である、気体透過性の複数ウェルプレート15の実施形態を示している。下方の気体透過性材料30Aの特性は、図4Aの実施形態に記載されたものと同じである。6ウェルプレートが示されているが、6,24,48および96ウェルの従来のフォーマットを含む、任意の数の個々のウェル45が存在することができる。壁40Eは、培地が存在する下方の気体透過性材料30Aより上の高さが従来の複数ウェルプレートの壁よりも高くできるように構成され、それにより、従来の複数ウェルプレートと比較してフットプリントを低減しながら、各ウェルに存在できる細胞の数を増やす。例えば、マウスハイブリドーマ細胞は、典型的には、培地1mlあたり1×106細胞の密度で存在することができる。ウェルの直径が8.6mm、培地の高さが2mmの場合、0.12mlの培地が存在し、ウェルあたり約0.12×106の細胞が存在する。しかし、壁を高くすることによって1mlの培地をウェル内に入れることができれば、ウェルあたり約5倍の細胞(すなわち、1×106細胞/ml)をサポートするのに十分な培地が存在し得る。多くの細胞が、表面積が0.58cm2(つまり、直径8.6mm)の気体透過性材料上に存在し得る。実施例1は、1×106を超えるマウスハイブリドーマ細胞が、培地の体積に応じて、このサイズの表面積に存在し得ることを実証している。より多くの培地がより多くの細胞をサポートできるだけでなく、供給頻度を減らし、蒸発が培地組成を変える速度を減らすことができる。」 (エ)「 」(図8) (2)甲1発明に基づく進歩性欠如について ア 甲1発明の認定 (ア) 甲1には、(1)ア(ア)、(イ)及び(ケ)から、培養プレートには培養空間である複数のウェルが形成され、隣り合うウェル同士が仕切り部によって隔てられること、が記載されているといえる。 (イ) 甲1には、(1)ア(ウ)及び(コ)から、上記の各ウェルは複数の培養空間と壁とを含むこと、が記載されているといえる。 (ウ) 甲1には、(1)ア(ケ)から、上記の各ウェルが上部に開口を有すること、及び、上記の各ウェルは仕切り部の表面に隣接して底部を有し、当該底部に複数の培養空間と壁とを有すること、が記載されているといえる。 (エ) 甲1には、(1)ア(オ)及び(サ)から、上記の各培養空間の底の形状が平面でも凹状弓型表面でも良いことが記載されているといえる。 (オ) 甲1には、(1)ア(ク)から、上記の培養プレートのウェル表面を0.01vol%MPC溶液でコートしたことが記載されているといえる。 (カ) したがって、甲1には以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。 「複数のウェルを有する培養プレートであって、 前記ウェルは 仕切り部と、 上部開口と、 仕切り部の表面に隣接している底部と、 を有しており、 前記底部が、底の形状が凹状弓型である培養空間を含んでおり、 ウェル表面がMPCによるコーティングをさらに備えていることを特徴とする、培養プレート。」 イ 本件特許発明1についての判断 (ア)本件特許発明1と甲1発明との対比 甲1発明における「培養プレート」、「ウェル」、「仕切り部」は、それぞれ、本件特許発明における「フレーム」、「チャンバ」、「側壁」に相当する。 甲1発明における「底部が、底の形状が凹状弓型である培養空間を含んで」いることは、本件特許発明における「底部表面の少なくとも一部分が、少なくとも1つの凹状弓形表面を含んで」いることに相当する。 甲1発明における「ウェル表面がMPCによるコーティングをさらに備えていること」は、ウェル表面にコーティングされているのであればウェルの一部を構成する凹状弓形表面もコーティングされていると認められること、及び、MPCは(1)ウ及びエの甲4及び甲5の記載から細胞の接着性を下げる物質であるといえることから、本件特許発明における「少なくとも1つの凹状弓形表面に、低接着コーティングまたは非接着コーティングをさらに備えている」に相当する。 (1)ア(オ)の[0024]に記載されているとおり、甲1発明では顕微鏡による観察を底部から行うとされていることから培養プレートの底部は透明であると認められ、また、(1)ア(キ)に記載されているとおり、甲1発明はポリスチレン樹脂機材にホットエンボス成形をしてポリスチレン上に凹凸パターン形状の転写を行ってウェルを形成して培養プレートが製造されているから、底部と仕切り部は一体成形されており、甲1発明の培養プレートは仕切り部も含めて全体が透明であると認められる。 (1)ア(ク)から、甲1発明の培養プレートにDMEM培養液と細胞を入れて培養を行っているから、甲1発明は「細胞培養製品」であり、また、甲1発明の底部は、培養液が保持されているものであるから、液体不浸透性であると認められる。 以上から、本件特許発明1と甲1発明とは、 「細胞培養製品において、 チャンバを有するフレームであって、前記チャンバが、 側壁表面と、 上部開口と、 前記側壁表面に隣接している、液体不浸透性の透明な底部表面と、 を有している、フレーム、 を備え、前記底部表面の少なくとも一部分が、少なくとも1つの凹状弓形表面を含んでおり、 前記少なくとも1つの凹状弓形表面に、低接着コーティングまたは非接着コーティングをさらに備えていることを特徴とする製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1)側壁表面が、本件特許発明1は不透明であるのに対し、甲1発明は透明である点。 (相違点2)底部表面が、本件特許発明1は気体透過性であるのに対し、甲1発明は気体透過性であるか否か不明である点。 (イ)本件特許発明1についての判断 まず、相違点1について検討する。 (1)イ(ア)及び(イ)にあるとおり、「光学的に透明性が高い材質からなる従来のマルチプレートを用いて組織培養、細胞培養を行った場合、容器内で培養された組織、細胞を顕微鏡を用いて観察を行うと同時に、組織、細胞もしくは培養液中に含まれている極微量物質の含有量を測定するため、前述の発光現象を利用した定量分析方法を行うと、隣接する容器より放出される光は容器を通過して測定を行う容器に侵入し散乱して該容器の発光量の測定に影響」するために、側壁を不透明とすることが、甲2には記載されている。 しかしながら、(1)ア(ア)に摘記したように、甲1発明は、「各種培養容器の形状に適用可能で、かつ、スフェロイドの大きさを制御することによって、均一な直径を有する接着性細胞のスフェロイドを培養できる」方法を提供することを課題とするものであって、甲1の記載からは、甲1発明が底部を介した顕微鏡による観察と同時に、甲1には何らの記載もされていない発光評価・蛍光評価を行う際の課題を当業者が解決すべきものとして認識していたとまでいえないから、ホットエンボス加工により透明素材で一体成形されている甲1発明を、わざわざその側壁表面を不透明とする動機付けは見出せない。 したがって、上記甲2の記載を踏まえても、甲1発明においてその側壁表面を不透明とすることは当業者が容易に想到し得たことではない。 したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件特許発明4についての判断 本件特許発明4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、それをさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明4と甲1発明との間には、上記イ(ア)で検討した相違点1と同じ相違点があり、当該相違点は、上記イ(イ)で検討したとおりであるから、本件特許発明4は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)小括 以上のとおり、本件特許発明1及び4が甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、取消理由1は理由がない。 2 取消理由2(明確性要件違反)について (1)特許異議申立人の主張の概要 請求項1の「気体透過性」はどの程度の気体透過性であれば、気体透過性を有する底部表面といえるのか、発明の外延が不明確であるから、請求項1及び4に係る発明は不明確であり、本件特許発明1及び4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)当審の判断 本件特許明細書には以下の記載がある。 ア 「【0029】 不透明な側壁と透明な窓を有する気体透過性丸底ウェルとを含むウェルプレートが提供し得る著しい利点としては、…所与の壁厚で気体透過特性を有するポリマーから作製されたウェル底部で、スフェロイドが優れた酸素供給を受けることができることが挙げられる。スフェロイド培養物内の細胞の、酸素の利用可能性が増加すると、肝細胞など酸素需要が高い細胞にとって特に有用である。」 イ 「【0068】 …パーフルオロポリマーまたはポリ4-メチルペンテンなどのポリマーは、成形プロセスで通常用いられる厚さで気体透過性も提供し、この気体透過性は代謝的に活性な細胞型にとって有益になり得る。気体透過性ポリマーの代表的な厚さおよび範囲は、中間の値および範囲を含め例えば約0.001インチ(25.4μm)から約0.025インチ(635μm)、0.0015インチ(38.1μm)から約0.03インチ(762μm)とすることができる(ここで1インチ=25,400μm、すなわち0.000039インチ=1μm)。さらにまたは代わりに、ポリジメチルシロキサンポリマーなどの高気体透過性を有する他の材料が、例えば約1インチ(2.54cm)までの厚さで十分な気体拡散を提供し得る。」 上記の記載から、本件特許発明において底部表面を気体透過性とする目的が、代謝的に活性な細胞が底部から酸素供給を受けるためであることは、明らかである。 とすれば、本件特許発明における「気体透過性」とは、培養を行う代謝的に活性な細胞が代謝を行うために十分な酸素が底部から供給できる程度の気体透過性を意味することは明らかであり、その程度も当業者であれば自ずと理解可能である。 したがって、本件特許発明1において、「気体透過性」の底部表面を有する細胞培養製品が不明確であるということはできない。本件特許発明1の特定と同じ特定を有する本件特許発明4についても同様である。 (3)小括 以上のとおり、本件特許発明1及び4が不明確であるということはできないから、取消理由2は理由がない。 第5 むすび したがって、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1及び4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700935

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