2020-700692
熱伝導性シート
- 審判番号
- 2020-700692
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-154588外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年09月14日
- 審決日
- 2021年05月07日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水ポリマテック株式会社
- 【権利者代理人】大竹 正悟
- 【異議申立人】中水 麻衣
- 分類
- P1651.537-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 24項目
第1 手続の経緯
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特許第6671702号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)4月7日(優先権主張 平成28年4月28日)を国際出願日とする特願2018-514235号の一部を令和1年8月27日に新たな出願としたものであって、令和2年3月6日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月11日付け(受付日:同年同月14日)で特許異議申立人 中水 麻衣(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、同年11月24日付けで取消理由が通知され、令和3年1月29日付けで令和2年11月24日付けの取消理由通知書において指定した期間について、当該取消理由通知書の発送の日から90日以内とする通知がされ、令和3年2月19日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年3月19日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年4月9日付け(受付日:同年同月12日)で特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和3年2月19日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に「架橋構造を有するゴムまたはゲル状のマトリクスと」とあるのを「架橋構造を有するゴムまたはゲル状で付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクスと」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5についても同様に訂正する。
イ 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に「とを含む熱伝導性シートであって」とあるのを「とを含み、前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体とが混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した熱伝導性シートであって」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5についても同様に訂正する。
ウ 訂正事項1-3
特許請求の範囲の請求項1に「前記マトリクスが付加反応型シリコーンの硬化体であり、イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に」とあるのを「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5についても同様に訂正する。
エ 訂正事項1-4
特許請求の範囲の請求項1に「0.1~1%の重量増加率を示し」とあるのを「0.2~1%の重量増加率を示し」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
ア 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項3に「架橋構造を有するゴムまたはゲル状のマトリクスと」とあるのを「架橋構造を有するゴムまたはゲル状で付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクスと」に訂正する。
併せて、請求項3を直接引用する請求項4及び5についても同様に訂正する。
イ 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項3に「とを含む熱伝導性シートであって」とあるのを「とを含み、前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体とが混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した熱伝導性シートであって」に訂正する。
併せて、請求項3を直接引用する請求項4及び5についても同様に訂正する。
ウ 訂正事項2-3
特許請求の範囲の請求項3に「前記マトリクスが付加反応型シリコーンの硬化体であり、イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に」とあるのを「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に」に訂正する。
併せて、請求項3を直接引用する請求項4及び5についても同様に訂正する。
エ 訂正事項2-4
特許請求の範囲の請求項3に「0.1~1%の重量増加率を示し」とあるのを「0.2~1%の重量増加率を示し」に訂正する。
併せて、請求項3を直接引用する請求項4及び5についても同様に訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の【0013】、【0014】及び【0080】のそれぞれに記載された「0.1~1%」を「0.2~1%」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1-1ないし1-4による請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1における「マトリクス」及び「熱伝導性シート」を、それぞれ、「付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクス」及び「前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体とが混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した熱伝導性シート」に限定し、訂正前の請求項1における「前記マトリクスが付加反応型シリコーンの硬化体であり」という記載が訂正後の請求項1における「付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクス」という記載と重複することになるから削除し、さらに、訂正前の請求項1における「重量増加率」を「0.1~1%」から「0.2~1%」とより狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項1-1ないし1-4による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1-1ないし1-4による請求項1についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3についての訂正について
訂正事項2-1ないし2-4による請求項3についての訂正は、訂正前の請求項3における「マトリクス」及び「熱伝導性シート」を、それぞれ、「付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクス」及び「前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体とが混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した熱伝導性シート」に限定し、訂正前の請求項3における「前記マトリクスが付加反応型シリコーンの硬化体であり」という記載が訂正後の請求項3における「付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクス」という記載と重複することになるから削除し、さらに、訂正前の請求項3における「重量増加率」を「0.1~1%」から「0.2~1%」とより狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2-1ないし2-4による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項2-1ないし2-4による請求項3についての訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項4及び5についての訂正について
訂正事項1-1ないし1-4による請求項4及び5についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項2-1ないし2-4による請求項4及び5についての訂正は、請求項3についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項1-1ないし1-4による請求項4及び5についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないし、訂正事項2-1ないし2-4による請求項4及び5についての訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)明細書の訂正について
訂正事項3による明細書についての訂正は、特許請求の範囲の請求項1及び3を訂正したことに伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3による明細書についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項3による明細書についての訂正に係る一群の請求項の全てについて訂正請求は行われている。
3 むすび
以上のとおり、請求項1ないし5についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
また、明細書についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4ないし6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし5は一群の請求項に該当するものである。そして、請求項1ないし5についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】架橋構造を有するゴムまたはゲル状で付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクスと、炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムの少なくともいずれかを含む熱伝導性充填材とを含み、前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体とが混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した熱伝導性シートであって、イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.2~1%の重量増加率を示し、続きを表示(全18行)前記熱伝導性充填材に、繊維軸方向がシートの厚み方向に配向した前記炭素繊維を含む熱伝導性シート。【請求項2】前記熱伝導性シートの表面がスライス面である請求項1記載の熱伝導性シート。【請求項3】架橋構造を有するゴムまたはゲル状で付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクスと、炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムの少なくともいずれかを含む熱伝導性充填材とを含み、前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体とが混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した熱伝導性シートであって、イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.2~1%の重量増加率を示し、前記前記熱伝導性シートの表面がスライス面である熱伝導性シート。【請求項4】さらに200℃を超える沸点を有する不揮発性液体を含む請求項1~請求項3何れか1項記載の熱伝導性シート。【請求項5】前記熱伝導性シートの表面が前記スライス面を研磨して形成された面である請求項2または請求項3記載の熱伝導性シート。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由の概要
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1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
特許異議申立書に記載された申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記のア及びイの点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明3並びに請求項3を直接引用する本件特許発明4及び5は、「前記熱伝導性充填材に、繊維軸方向がシートの厚み方向に配向した前記炭素繊維を含む」を発明特定事項としていないので、発明の課題を解決できるものではなく、サポート要件に違反する。
イ 発明の課題に対する解決手段は特定の製造方法であることであるが、特定の製造方法であることと本件特許の請求項1ないし5の発明特定事項である「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.1~1%の重量増加率を示」すこととの関係が明らかではないので、本件特許発明1ないし5は、発明の課題を解決できるものではなく、サポート要件に違反する。
(2)申立理由2(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明1ないし5は、「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.1~1%の重量増加率を示」すことを発明特定事項とするものであるが、これを充足するものは「0.22%」である試料1及び「0.2%」である試料4の僅かに2つだけである。そうすると「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.1~1%の重量増加率を示」すものを製造するには、何をどのようにすればよいのか不明であり、過度の試行錯誤を要するものといえる。
したがって、本件特許発明1ないし5に関する発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に違反する。
(3)申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記のア及びイの点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明1ないし5は、「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.1~1%の重量増加率を示」すことを発明特定事項とするものであるが、「重量増加率」をどのように測定するのかわからず、その結果、上記発明特定事項は、第三者に不利益を及ぼし得る不明確なものであるといえる。
イ 本件特許発明3の「前記熱伝導性シートの表面がスライス面である」という発明特定事項における「スライス面」の語は、スライスされて製造された面との意味であると理解され、製造方法的な概念であるのみならず、如何なる状態であればスライスされた面であるといえるのかの定義、判別方法等の説明が本件特許明細書にないことから、本件特許発明3の「前記熱伝導性シートの表面がスライス面である」という発明特定事項は不明確であるといえる。
(4)申立理由4(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(5)証拠方法
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
2 取消理由の概要
令和2年11月24日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・当業者は、架橋によりゴムまたはゲル状のマトリクスとなる反応性液状樹脂、この反応性液状樹脂の硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体及び炭素繊維等の熱伝導性充填剤とを混合して得た熱伝導性組成物を架橋、硬化させて成形体を形成し、その後、揮発性液体を揮発するといった工程を経て得られた熱伝導性シートは「熱伝導性の高い熱伝導性シートを提供すること」という本件特許発明1ないし5の発明の課題を解決できると認識する。
しかし、本件特許発明1ないし5は、熱伝導性シートが上記工程を経て得られたものであることを特定するものではない。
したがって、本件特許発明1ないし5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。
第5 取消理由についての当審の判断
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
2 本件特許に係る発明の詳細な説明の記載
本件特許に係る発明の詳細な説明には、おおむね次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体と放熱体の間に配置して用いられる熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータや自動車部品等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためヒートシンクなどの放熱体が用いられており、この放熱体への熱の伝達効率を高める目的で発熱体と放熱体の間に熱伝導性シートを配置することがある。こうした熱伝導性シートとして、例えば、熱伝導材として炭素繊維を充填して配向させた熱伝導性シートが特開2005-146057号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-146057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、電子機器はますます小型化、高性能化が進み、発熱量は増加の一途をたどっている。そのため、熱伝導性シートについても、より熱伝導率の高いものが望まれている。
【0005】
以上のような背景のもとになされたのが本発明である。即ち本発明は、熱伝導性の高い熱伝導性組成物や熱伝導性シート、および熱伝導性シートの製造方法を提供することを目的とする。」
・「【0006】
上記目的を達成する本発明は次のとおり構成される。
【0007】
即ち本発明の参考態様は、架橋によりゴムまたはゲル状のマトリクスとなる反応性液状樹脂と、この反応性液状樹脂の硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体と、熱伝導性充填材とを混合して熱伝導性組成物を得る工程と、前記反応性液状樹脂を前記揮発性液体の沸点よりも10℃以上低い温度で架橋、硬化させて成形体を形成する工程と、この成形体を加熱して、当該揮発性液体を揮発させる工程と、を順に実行する熱伝導性シートの製造方法である。
【0008】
こうした製造方法としたため、炭素繊維や炭素繊維以外の熱伝導性充填材を同量含ませて別の方法で製造した熱伝導性シートに比べて高い熱伝導性を示す。その理由として、揮発性液体の揮発による収縮で、含有される炭素繊維等の熱伝導性充填材どうしの接触が促進されることが考えられる。また、熱伝導性組成物の粘度が低くなり炭素繊維等の熱伝導性充填材を分散させる工程で、炭素繊維の折れを抑制することができるためと考えられる。
【0009】
前記熱伝導性充填材に炭素繊維を含み、前記成形体を形成する工程の前にこの炭素繊維を所定の方向に配向させる配向工程を実行することができる。
前記熱伝導性充填材に炭素繊維を含み、前記成形体を形成する工程の前にこの炭素繊維を所定の方向に配向させる配向工程を実行したため、炭素繊維の配向方向の熱伝導率を高めることができる。
【0010】
前記成形体を形成する工程において、所望のシート厚みよりも厚肉となる塊状成形体を形成し、この塊状成形体をスライスして所望のシート厚みの成形体を得るスライス工程を実行し、このスライス工程の後に、前記揮発性液体を揮発させる工程を実行することができる。
前記成形体を形成する工程において、所望のシート厚みよりも厚肉となる塊状成形体を形成し、この塊状成形体をスライスして所望のシート厚みの成形体を得るスライス工程を実行し、このスライス工程の後に、前記揮発性液体を揮発させる工程を実行したため、揮発性液体の揮発を速やかに、十分に行うことができる。即ち、スライスした表面は炭素繊維等の熱伝導性充填材の露出により表面積が大きくなっているため、揮発性液体の揮発が促進される。そのため、シートの表面に炭素繊維等が露出せず、表面の樹脂があたかも保護膜のように作用して揮発性液体の揮発を妨げる場合と異なり、閉じ込められた揮発性液体がシート内で発泡することを抑制することができる。また、揮発性液体による発泡が起こり難いため、やや高い温度で揮発性液体を揮発させることが可能である。
【0011】
前記スライス工程については、塊状成形体を炭素繊維の配向方向と略垂直な平面でスライスして、炭素繊維が厚み方向に配向した所望のシート厚みの成形体を得るように実行することができる。
塊状成形体を形成し炭素繊維の配向方向と略垂直な平面でスライスしたため、炭素繊維に沿ってシート表面へ移行した揮発性液体が露出した炭素繊維の端部から揮発し易くなる。したがって、揮発性液体を速やかに、そして充分に揮発させることができる。
【0012】
以上の製造方法によれば、
1.揮発性液体の揮発前にマトリクスに硬化させることで、揮発性液体の発泡を抑制しつつ、揮発性液体を短時間に揮発させることができる。
2.揮発性液体の揮発前にマトリクスに硬化させることで、揮発性液体が揮発するときの収縮で、含有される炭素繊維等の熱伝導性充填材どうしの接触を促進し、熱伝導性を高めることができる。
3.塊状成形体の状態で硬化することで反応性液状樹脂の硬化時における揮発性液体の揮発を抑制することができる。
4.炭素繊維等を配向させた後、その配向方向に交差する面から揮発性液体を揮発させることで、炭素繊維の配向に沿ってシート内の揮発性液体がシート表面へ移行するのを促進し、揮発性液体を短時間に揮発させることができる。
5.シートの表面をスライス面とすることで、シート表面の表面積を大きくして、揮発速度を速めることができる。」
・「【0013】
また本発明は、架橋構造を有するゴムまたはゲル状のマトリクスと、熱伝導性充填材とを含む熱伝導性シートであって、イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.2~1%の重量増加率を示す熱伝導性シートとすることができる。
【0014】
架橋構造を有するゴムまたはゲル状のマトリクスと、熱伝導性充填材とを含む熱伝導性シートについて、イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.2~1%の重量増加を示すものであるため、熱伝導率の高い熱伝導性シートとすることができる。
この現象は、マトリクスに揮発性液体の存在した空間があったことから、この空間にイソプロピルアルコールが速やかに浸入することにより得られた結果であると推測され、こうした空間が無い従来技術による熱伝導性シートによる重量増加率が0.1%未満となるのに比べて明らかに相違する。
【0015】
前記熱伝導性充填材に、繊維軸方向がシートの厚み方向に配向した炭素繊維を含む熱伝導性シートとすることができる。
前記熱伝導性充填材に、繊維軸方向がシートの厚み方向に配向した炭素繊維を含むため、炭素繊維を配向させていない熱伝導性シートよりも配向方向への熱伝導率を高めることができる。
【0016】
マトリクスが付加反応型シリコーンの硬化体でなる熱伝導性シートとすることができる。マトリクスが付加反応型シリコーンの硬化体でなる熱伝導性シートとしたため、熱伝導性充填材を高充填することができ、熱伝導性が高い熱伝導性シートである。
【0017】
前記マトリクスが架橋によりゴムまたはゲル状のマトリクスとなる反応性液状樹脂の硬化体でなり、200℃を超える沸点を有する不揮発性液体を含む熱伝導性シートとすることができる。
前記マトリクスが架橋によりゴムまたはゲル状のマトリクスとなる反応性液状樹脂の硬化体でなり、200℃を超える沸点を有する不揮発性液体を含むため、揮発性液体を揮発した後に熱伝導性シートが硬くなりすぎることを防ぐことができる。特に揮発性液体を多めに配合して熱伝導性充填材を高充填したとき、熱伝導性シートが硬くなる傾向があるが、揮発性液体の一部を不揮発性液体に置き換えることで、熱伝導性シートの硬さを調整することができる。」
・「【発明の効果】
【0021】
本発明の参考態様の熱伝導性組成物および本発明の熱伝導性シートによれば、熱伝導性を高くすることができる。
本発明の参考態様の熱伝導性シートの製造方法によれば、熱伝導性が高い熱伝導性シートを製造することができる。」
・「【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の参考態様の熱伝導性組成物と本発明の熱伝導性シートについて実施形態に即してさらに詳しく説明する。
【0024】
熱伝導性組成物は、架橋してゴムまたはゲル状のマトリクスとなる反応性液状樹脂と揮発性液体に炭素繊維等の熱伝導性充填材が混合、分散した液状組成物であり、熱伝導性シートは、この反応性液状樹脂が架橋して硬化したマトリクス中に炭素繊維等の熱伝導性充填材を有する固形のシート状物である。先ず、こうした熱伝導性組成物や熱伝導性シートに含まれる材料について説明する。
【0025】
反応性液状樹脂およびマトリクス:
反応性液状樹脂は、反応前は液状であり所定の条件で硬化して架橋構造を形成するものである。マトリクスはこの反応性液状樹脂が硬化して架橋構造を形成したゴムやゲルである。ここで架橋構造とはポリマーの少なくとも一部が3次元的に架橋し、加熱によって溶融しない硬化体を形成しているものをいう。
【0026】
こうした反応性液状樹脂としては、熱硬化性のゴムやゲルを挙げることができ、より具体的には、付加反応型シリコーン、ポリオールとイソシアネートの反応を利用するウレタンゴム、アクリレートのラジカル反応やカチオン反応を利用するアクリルゴム、柔軟な骨格を有するエポキシ樹脂等を例示することができるが、付加反応型シリコーンを用いることが好ましい。付加反応型シリコーンは、炭素繊維等の熱伝導性充填材を高充填しやすく、触媒等により所定の温度で硬化するように調整できるからである。より具体的には、アルケニル基含有ポリオルガノシロキサンおよびハイドロジェンオルガノポリシロキサンの組合せが低粘度で熱伝導性充填材を高充填できるため好適である。また、光硬化性のゴムやゲルを用いることもできる。
【0027】
反応性液状樹脂は、後述する揮発性液体の沸点(T1)よりも10℃以上低い温度(T2)で硬化する樹脂を用いる。また、揮発性液体の沸点よりも20℃以上低い温度で硬化する樹脂であることが好ましい。
【0028】
硬化可能な温度と、沸点T1との差が10℃未満の場合には、硬化反応の進行と同時に揮発性液体が揮発してしまうとともに、その揮発により硬化物内に気泡が発生するおそれがある。こうした気泡は、炭素繊維の配向を乱すだけでなく、断熱作用によって熱伝導性シートの熱伝導性を著しく低下させる原因になる。硬化可能な温度における硬化時間は限定しないが固体になる程度まで硬化を進行させたときに、揮発性液体の揮発量が10%以下であることが好ましい。また、生産性を考慮すると硬化時間は120分以下であることが好ましい。
【0029】
反応性液状樹脂はまた、熱伝導性充填材として炭素繊維を含む場合は、これを配向した状態で含有させるために、硬化前の状態で低粘度であることが好ましく、配向後には所定の条件で硬化可能な性質を備えるものが好ましい。」
・「【0030】
揮発性液体:
揮発性液体は、反応性液状樹脂と均一に混ざり、反応性液状樹脂を硬化させた後に揮発させる成分である。この揮発性液体には前記反応性樹脂の硬化する温度に対応して決定する所定の沸点(T1)を備えたものである。即ち、反応性液状樹脂が硬化する温度(T2)よりも10℃以上高い温度を沸点(T1)として有する揮発性液体であり、温度(T2)よりも20℃以上高い沸点を有することが好ましい。
【0031】
温度T2との関係で上記温度T1が決定されるものであるが、その温度は60~200℃の範囲とすることが好ましく、100~130℃の範囲とすることがより好ましい。沸点T1が60℃未満の場合には、相対的に反応性液状樹脂の硬化温度も低くなり、室温でも硬化反応が進むおそれがあり、ポットライフが極めて短くなるおそれがある。一方、沸点T1が200℃を超えると、揮発性液体を揮発させる温度で、反応性液状樹脂の硬化体が劣化するおそれがある。また、沸点が100℃以上あれば、反応性液状樹脂の硬化温度を80℃程度に設定することができるため、常温でのポットライフを充分に長くすることができる。また、沸点が130℃以下であれば、揮発性液体を揮発させるときに150℃程度までの加熱で短時間に揮発させることができるため、マトリクスとなる付加反応型シリコーンの劣化を確実に抑制することができる。
【0032】
揮発性液体の添加量は、前記反応性液状樹脂100質量部に対して、10~60質量部とすることが好ましい。10質量部未満では、熱伝導性を高める効果が小さく、60質量部を超えると、揮発量が多くなりすぎることから、熱伝導性シートが発泡しやすく、また硬化後に揮発性液体の一部が残留して熱伝導性シートの硬さが必要以上に柔らかくなってしまうおそれがある。こうした揮発性液体としては、トルエン等の芳香族化合物や、反応性液状樹脂と相溶するその他の化合物を用いることができる。
【0033】
炭素繊維等の熱伝導性充填材の添加量は、熱伝導性組成物中において炭素繊維の配向を行わせようとすると、その配向が可能な粘度になるまでしか熱伝導性充填材を添加できない。ところが、揮発性液体を液状成分として含めば、炭素繊維の配向後にその揮発性液体を蒸発させることができ、これにより、全成分中の炭素繊維等の熱伝導性充填材の配合割合を増加させることができる。したがって、揮発性液体を用いずに炭素繊維を配向させる場合に比べて、揮発性液体を用いた場合は炭素繊維を高充填させることができ、熱伝導性を高めることができる。」
・「【0037】
熱伝導性充填材:
マトリクスの中に含有される熱伝導性充填材としては、まず炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末を挙げることができる。炭素繊維は、繊維状、棒状、針状等の何れの形状であっても良く、炭素繊維はその繊維軸方向に極めて高い熱伝導率を備える。そのため、その繊維軸方向を所定の方向に揃えることで、特定方向の熱伝導率を高めることができる。また、鱗片状黒鉛粉末は、グラファイトの結晶面が面方向に広がっており、その面内において等方的に極めて高い熱伝導率を備える。そのため、その鱗片面の面方向をシートの厚み方向に揃えることで、シートの厚み方向の熱伝導率を高めることができる。」
・「【0056】
熱伝導性組成物や熱伝導性シートに含ませる熱伝導性充填材には、炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末(以下「炭素繊維等」ともいう)以外に例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物などの球状や不定形の粉末、球状黒鉛などを挙げることができる。金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、石英など、金属窒化物としては、窒化ホウ素、および窒化アルミニウムなどを例示することができる。また、金属炭化物としては、炭化ケイ素が挙げられ、金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。これらの熱伝導性粉末の中でも、酸化アルミニウムやアルミニウムは、熱伝導率が高く、球状のものが入手しやすい点で好ましく、水酸化アルミニウムは入手し易く熱伝導性シートの難燃性を高めることができる点で好ましい。」
・「【0063】
製造方法:
上記原料を用いた熱伝導性組成物および熱伝導性シートの製造について説明する。
反応性液状樹脂と、揮発性液体、および熱伝導性充填材、必要により不揮発性液体や添加剤を混合、攪拌し、反応性液状樹脂中に熱伝導性充填材を分散させた熱伝導性組成物を得る。反応性液状樹脂が主剤と硬化剤との混合により硬化させるような液状樹脂の場合は、主剤と硬化剤の何れか一方、または両方に熱伝導性充填材等を分散させることができ、主剤と硬化剤とを混合して熱伝導性組成物を得る。
【0064】
次に所定の型内に熱伝導性組成物を注入する。一の実施態様として、最終的に得られる熱伝導性シートとは異なる形状の型で成形する方法についてまず説明する。ここで用いる型は、最終的な熱伝導性シートの形状とする前の段階の塊状成形体を得るためのものである。熱伝導性組成物から略直方体の外形をした塊状成形体を形成しておき、これを後工程で切断または切削(以下これらをまとめて「スライス」ともいう)し、薄く形成することで、所望の厚みからなる熱伝導性シートを得る方法である。
【0065】
型内の熱伝導性組成物に対しては、磁場を印加し炭素繊維や鱗片状黒鉛粉末をシートの厚み方向に配向させる。磁場配向によって炭素繊維等を配向させるためには、熱伝導性組成物の粘度は、10~500Pa・sであることが好ましい。10Pa・s未満では炭素繊維等や炭素繊維以外の熱伝導性充填材が沈降するおそれがあり、500Pa・sを超えると流動性が低すぎて磁場で炭素繊維等が配向しないか、配向に時間がかかりすぎるためである。しかしながら、沈降し難い熱伝導性充填材を用いたり、沈降防止剤等の添加剤を組合せたりすることによって10Pa・s未満にできる場合もある。
【0066】
磁力線を印加するための磁力線発生源としては、超電導磁石、永久磁石、電磁石、コイル等が挙げられるが、高い磁束密度の磁場を発生することができる点で超電導磁石が好ましい。これらの磁力線発生源から発生する磁場の磁束密度は、好ましくは1~30テスラである。この磁束密度が1テスラ未満であると、炭素繊維等を配向させることが難しくなる。一方、30テスラを超える磁束密度は実用上得られにくい。
【0067】
炭素繊維等の配向は、磁場の印加に変えて押出成形によって行うことができる。押出成形では、流動配向の性質を利用して押出成形中の熱伝導性組成物の流動方向に炭素繊維等を配向させることができるからである。また、スリットコーター等で薄く伸ばすように塗布することで、コーティング方向に炭素繊維等を配向させることができる。こうして得られた薄膜配向シートは複数枚積層して一体とすることで塊状成形体とすることができる。
【0068】
なお、本発明において炭素繊維が配向している状態とは、50%を超える炭素繊維の繊維軸方向が、所定の方向から15°以内の範囲を向いている状態を意味するものとする。また、鱗片状黒鉛粉末が配向している状態とは、50%を超える鱗片状黒鉛粉末の鱗片面の面方向が、所定の方向から15°以内の範囲を向いている状態を意味するものとする。
【0069】
次に、炭素繊維等の配向状態を維持したまま、揮発性液体の沸点(T1)よりも10℃以上低い温度に加熱して、反応性液状樹脂を硬化して塊状成形体を形成する。
【0070】
炭素繊維等の配向工程および反応性液状樹脂の硬化工程では、加熱温度を揮発性液体の沸点(T1)よりも10℃以上低くすることで、揮発性液体の揮発を抑制するとともに、揮発性液体が沸騰することによる気泡の発生を抑制することができる。また、塊状成形体を形成することで、その内部に揮発性液体を保持したまま、反応性液状樹脂を硬化することができる。
【0071】
反応性液状樹脂を硬化した後に、得られた塊状成形体を炭素繊維等の配向方向と略垂直な平面でスライスして、炭素繊維等が厚み方向に配向した配向シートを作製するスライス工程を実行する。切断手段としては、刃物、線材、レーザなど種々の手段を利用することができ、刃物としてはせん断刃、押し切り刃、カンナなどを用いることができる。得られた塊状成形体をカンナにより切削する場合には、カンナ平面からの刃角を45°、突出する刃先を0.5mmとし、塊状成形体に0.2~0.3MPa程度の圧力でカンナを押し付けて切削することができる。
【0072】
こうしたスライス工程を行うことにより、得られた熱伝導性シートの表面はスライス面となっている。
【0073】
このスライス面には、必要に応じて研磨工程を実行することができる。研磨工程では、研磨紙や布やヤスリなどを用いて、シートの表面から露出した炭素繊維の端面を研磨する。これにより、露出した炭素繊維等の端面が平坦に潰される。こうした端面は、発熱体や放熱体との密着性を高めて、最終的に得られる熱伝導性シートの熱抵抗を低減する効果を奏する。
【0074】
なお、これまで説明した方法では、まず塊状成形体を成形していたが、始めから所望の大きさのシート状の成形体を成形してもよい。この場合は、炭素繊維等を配向させた後、反応性液状樹脂を硬化させる工程までを、上記塊状成形体の形成の代わりに行う。その後の工程は、塊状成形体をスライスして生じた熱伝導性シートの取扱いと同じである。
【0075】
次に、スライスした熱伝導性シートを加熱して、揮発性液体を揮発させる揮発工程を実行する。このとき、加熱する温度は、揮発性液体の沸点T1以上とすることが好ましい。沸点以上の温度にすることで、速やかに揮発性液体を揮発することができるためである。この揮発工程を行うには、それ以前に反応性液状樹脂を硬化させる硬化工程を行っておく必要がある。この操作を逆にし、揮発性液体を揮発させてから反応性液状樹脂を硬化させた場合には、所定の揮発性液体を含ませずに熱伝導性充填材を充填した場合と同じであり、熱伝導率を高めることはできない。反応性液状樹脂を硬化させた後、揮発性液体を揮発させることで熱伝導率が高くなる理由は定かではないが、硬化したマトリクスに固定された状態の熱伝導性充填材どうしが、揮発性液体の揮発に伴う収縮で、強く接触することに起因するのではないかと推測できる。反対に、マトリクスが硬化する前に揮発性液体が揮発したのでは、熱伝導性充填材が固定されず、収縮の応力は緩和されてしまうため、接触状態は改善されないものと思われる。
【0076】
マトリクスとして硬化させた後に揮発性液体を揮発させると、揮発性液体の沸点T1を超える温度に加熱しても、すでにマトリクスが硬化しているため発泡し難いという効果もある。したがって、発泡を生じさせる不都合を抑制しつつ、短時間で揮発性液体を揮発させることができるというメリットもある。
【0077】
そして、マトリクスが硬化している塊状成形体を作製した後、その塊状成形体をスライスし薄厚のシート状に形成しているため、塊状成形体とせずに最初から薄厚のシート状にマトリクスを硬化、形成するよりも、内部に揮発性液体が止まり易く蒸発し難い。即ち、塊状成形体を形成すれば、全体的に表面積が小さくなるだけでなく、塊状成形体の表面にマトリクス密度の濃いスキン層が形成されこの樹脂層があたかも保護膜のように作用し、揮発性液体の揮発を妨げるからである。これに対し、スライスした後であれば、その表面積が増大するだけでなく、配向した炭素繊維等の端部がシート表面に露出しスキン層が無くなるため、炭素繊維等に沿ってシート表面へ移行した揮発性液体は、露出した炭素繊維等の端部から揮発し易くなるものと思われる。したがって、塊状成形体を形成した方が、マトリクスへの硬化、揮発性液体の揮発という二段階の工程を行い易く、マトリクスの硬化時に揮発性液体の揮発も進んでしまうという不都合を避けやすい。
【0078】
そして、反応性液状樹脂を硬化させた後に揮発性液体を揮発させる、という工程を経て製造された熱伝導性シートは、揮発性液体が抜けた空間が、あたかもスポンジのようになった架橋構造を有しているものと推定される。換言すれば、揮発性液体を含包して3次元的に架橋されたマトリクスの状態から揮発性液体を揮発させて除去しても、マトリクスの架橋状態は変化しないままで収縮する。この状態は分析することは困難であるが、揮発性液体の存在した空間があったことから、浸透性のあるイソプロピルアルコールに浸漬させると、この揮発性液体が存在していた空間にイソプロピルアルコールが速やかに浸入するものと思われる。」
・「【0080】
熱伝導性シートの性質:
上記熱伝導性シートでは熱伝導率を高めることができる。この熱伝導性シートは、見た目や、組成分析、構造分析によっても従来の熱伝導性シートと区別することが難しい。しかしながら、従来の熱伝導性シートにおいては、イソプロピルアルコールに3分間浸漬させたときの重量増加率が概ね0.05%以下であるのに対し、この熱伝導性シートでは、0.2~1%の重量増加が見られる点で異なる。
【0081】
なお、ここでイソプロピルアルコールを含浸させる溶剤として選択した理由は、マトリクスを溶解せずに、マトリクスに対して適度な親和性を有するからである。例えば、水を選択すると、マトリクスとの親和性が低くどの熱伝導性シートを浸漬させてもほとんど重量増加を起こさず、変化が無い。一方、トルエンを選択すると、マトリクスとの親和性が高すぎ、マトリクスの架橋状態に寄らず大きく膨潤してしまうため、どの熱伝導性充填材を浸漬させても重量増加が大きくなって変化がわかり難い。」
・「【実施例】
【0082】
熱伝導性組成物の調製:
試料1:
付加反応型シリコーンの主剤100質量部に対し、揮発性液体としてトルエン(沸点110.6℃)を60質量部と、炭素繊維(平均繊維長150μm)230質量部と、炭素繊維以外の熱伝導性充填材として酸化アルミニウムA(球状、平均粒径10μm)120質量部および水酸化アルミニウム(不定形、平均粒径8μm)600質量部と、不揮発性液体としてジメチルシリコーンオイル(粘度1000cps)100質量部と、を混合して熱伝導性組成物(主剤)を得た。また、付加反応型シリコーンの硬化剤についても主剤と同じように、付加反応型シリコーンの硬化剤100質量部に対し、揮発性液体としてトルエン(沸点110.6℃)を60質量部と、炭素繊維(平均繊維長150μm)230質量部と、炭素繊維以外の熱伝導性充填材として酸化アルミニウムA(球状、平均粒径10μm)120質量部および水酸化アルミニウム(不定形、平均粒径8μm)600質量部と、不揮発性液体としてジメチルシリコーンオイル(粘度1000cps)100質量部と、を混合して熱伝導性組成物(硬化剤)を得た。そして、熱伝導性組成物(主剤)と熱伝導性組成物(硬化剤)を混合することで、試料1の熱伝導性組成物(主剤と硬化剤の混合物)を得た。この配合を表1に示す。
【0083】
試料2~試料7:
表1に示す原材料と配合(質量部)に変更した以外は試料1と同様にして試料2~試料7の熱伝導性組成物を得た。ここで、炭素繊維以外の熱伝導性充填材として酸化アルミニウムBは、球状で平均粒径3μmであり、酸化アルミニウムCは、球状で平均粒径20μmである。
【0084】
また、試料1と同様に、同量の主剤と硬化剤を準備して混合することは他の試料でも同じであり、主剤と硬化剤は、含まれる付加反応型シリコーンが主剤か硬化剤かが異なるだけで、それ以外の配合物の材質、混合量は同じである。
【0085】
上記原材料について、炭素繊維の平均繊維長は電子顕微鏡により測定した。具体的には、電子顕微鏡で100本の炭素繊維の長さを測定し、その平均値を平均繊維長とした。炭素繊維以外の熱伝導性充填材の平均粒径は、レーザ回折散乱法(JIS R1629)により測定した粒度分布の体積平均粒径である。
【0086】
【表1】
」
・「【0087】
熱伝導性シートの作製:
上記試料1の熱伝導性組成物に対して以下に示す製造例1の工程を経て試料1の熱伝導性シートを作製した。また、試料2の熱伝導性組成物に対しては以下に示す製造例2の工程を経て試料2の熱伝導性シートを作製した。以下同様にして、試料3~試料7の熱伝導性組成物に対して、以下に示す製造例3~製造例7の工程を経て試料3~試料7の熱伝導性シートを作製した。
【0088】
製造例1:
試料1の熱伝導性組成物をブロック形状の型に流し込み、型内の成形材料に振動を与えながら、炭素繊維が型の上下方向に配向するように10テスラの磁場を印加した。続いて、90℃で60分間加熱して付加反応型シリコーンを硬化させた後、型から成形体を取り出した。得られた成形体は、炭素繊維の配向方向を厚み方向として、その厚みが0.5mmとなるようにスライスし、さらに26mm×26mm四方のシート形状となるように切断してシート材を得た。次にこのシート材を110℃60分間加熱し、さらにその後に150℃60分加熱して揮発性液体を揮発させて、試料1の熱伝導性シートを得た。
試料1の熱伝導性組成物中の揮発性液体の含有量は5.0質量%であり、揮発前後の重量減少から上記加熱により揮発性液体の90%以上が揮発していることがわかった。
【0089】
製造例2:
製造例2は、製造例1と同様の工程を実施した。但し、試料2では揮発性液体を含まず、変わりに不揮発性液体を同量だけ増やしたことに伴い、150℃60分の加熱は行ったものの揮発工程とはしなかった。
【0090】
製造例3:
試料3の熱伝導性組成物は、揮発性液体としてトルエンの代わりに、メチルエチルケトンを用い、製造例1と同じ工程を実行した。メチルエチルケトンを用いることで、90℃60分の加熱を行って付加反応型シリコーンの硬化が完了するよりも早く揮発性液体であるメチルエチルケトンの揮発が完了するようにした。メチルエチルケトンの沸点は79.6℃であり、付加反応型シリコーンの硬化温度である90℃より低いため、製造例1と同様の工程であっても付加反応型シリコーンの硬化工程の前に揮発性液体であるメチルエチルケトンの揮発工程を実行できた。なお、メチルエチルケトンの揮発は、完全には密閉していない型を用いることで、型外に逃げることができるようにして行った。
【0091】
製造例4:
製造例1では、塊状成形体を硬化してからスライスして、揮発性液体を揮発させたが、製造例4では、シート状に成形体を硬化してから、揮発性液体を揮発させた。具体的には、試料4の熱伝導性組成物をシート形状の型に流し込み、型内の成形材料に振動を与えながら、炭素繊維が型の上下方向(シートの厚み方向)に配向するように10テスラの磁場を印加した。続いて、90℃で60分間加熱して付加反応型シリコーンを硬化させた後、型から成形体を取り出し、その厚みが0.5mmであり、26mm×26mm四方のシート材を得た。その後の工程は製造例1と同じである。
【0092】
製造例5:
製造例5は、製造例4と同様の工程を実施した。但し、試料5では揮発性液体を含まないため、150℃60分の加熱工程は行ったものの揮発工程とはしなかった。
【0093】
製造例6:
製造例6は、製造例4において、炭素繊維を配向させるための配向工程を実施しなかった点が異なり、それ以外は製造例4と同様の工程を行った。
【0094】
製造例7:
製造例7は、製造例5において、炭素繊維を配向させるための配向工程を実施しなかった点が異なり、それ以外は製造例5と同様の工程を行った。
上記製造例1~製造例7については簡単に比較できるように、以下の表2に工程の概要について示す。
【0095】
【表2】
」
・「【0097】
熱伝導率:
各試料の熱伝導性シートの熱伝導率は、図1の概略図で示した熱伝導率測定機を用い、ASTM D5470-06に準拠した方法で測定した。より具体的には、試験片Sとしての各試料の熱伝導性シートを、測定面が25.4mm×25.4mmで側面が断熱材11で覆われた銅製ブロック12の上に貼付し、上方の銅製ブロック13で挟み、圧縮率が10%になるようにロードセル16によって荷重をかけた。ここで、下方の銅製ブロック12はヒーター14と接している。また、上方の銅製ブロック13はファン付きのヒートシンク15に接続している。次いで、下方の銅製ブロック12の表面が80℃になるようにヒーター14を発熱させ、温度が略定常状態となる15分後に、上方の銅製ブロック13の温度(θj0)とヒーターの発熱量(Q)を測定し、以下の式(1)から各試料の熱抵抗を、さらに以下の式(2)から熱伝導率を求めた。また、このときの各試験片Sの厚みTも測定した。
【0098】
熱抵抗=(θj1-θj0)/Q ・・・・(1)式
【0099】
式(1)において、θj1は下方の銅製ブロック12の温度(80℃)、θj0は上方の銅製ブロック13の温度、Qは発熱量である。
【0100】
熱伝導率=T/熱抵抗 ・・・・(2)式
【0101】
式(2)において、Tは各試験片の厚みである。
各試料の熱伝導性シートの熱伝導率を表1に示す。」
・「【0102】
重量増加率:
熱伝導性組成物や熱伝導性シートが揮発性液体を含んだものであれば、その揮発性液体を揮発させると、揮発分だけ体積の減少が生じる。このうち、反応性液状樹脂を硬化させた後、揮発性液体を揮発させたものは、マトリクス内に揮発性液体を含んでいた空間があったことから溶剤を含みやすい性質があるのに対し、揮発性液体を揮発させた後に反応性液状樹脂を硬化させたものは、マトリクス内にもともとそうした空間がないことから溶剤を含みやすいとはいえないと考えられる。こうした考察に基づき以下の実験を行った。
【0103】
各試料の熱伝導性シートをイソプロピルアルコールに3分間浸漬した後、その試料を取り出して表面の溶剤を拭き取り、乾いた状態にしてその試料の重量を測定した。その重量を浸漬前の重量と比較して重量増加率(%)を算出した。この重量増加率の算出式を以下の(3)式で示す。また、この結果を表1に示す。
【0104】
重量増加率(%)=[(浸漬後の重量-浸漬前の重量)/浸漬前の重量]×100 ・・・・(3)式」
・「【0105】
考察:
揮発性液体を含む試料1の熱伝導性組成物から製造した熱伝導性シートは、揮発性液体を含まない試料2の熱伝導性組成物から製造した熱伝導性シートに比べて、その熱伝導率は50%高くなった。したがって、揮発性液体を添加して硬化させた後に、揮発させることは、熱伝導率の向上に極めて高い効果があることがわかる。また、試料1に対して揮発性液体を変更して、反応性液状樹脂の硬化前これを揮発させた試料3の熱伝導性シートでは、多くの気泡が発生しており、その熱伝導率も極めて低いものとなった。その理由は、気泡が熱伝導を阻害することに加え、断面を観察すると炭素繊維の配向が乱れており、発泡によって配向が乱されたためと思われた。このことから、硬化前に塊状成形体から揮発性液体を揮発させることは、発泡の原因となり、好ましくないことがわかる(試料1~試料3)。
【0106】
塊状成形体を形成せずに最初からシート状に成形した試料4の熱伝導性シートも、高い熱伝導性が得られた。また、揮発性液体を含まない試料5では熱伝導率が低く、この試料5の熱伝導性シートに比べて、試料4の熱伝導性シートは、3W/m・K熱伝導率が向上して、割合では38%の向上であった(試料4、試料5)。
【0107】
試料4の熱伝導性シートは、試料1の熱伝導性シートよりも熱伝導率は低下しているが、揮発工程を実効しなかった試料2の熱伝導性シートよりも熱伝導率が高いことから、揮発工程は、その配合量から予測される熱伝導率よりも、熱伝導率をより高める効果があることがわかる。また、炭素繊維を配向しなかった試料6の熱伝導性シートは、熱伝導率が大きく低下しており、炭素繊維の配向は熱伝導率を飛躍的に高まることがわかる(試料1、試料4、試料6:)。
【0108】
揮発性液体を含む試料6の熱伝導性組成物から製造した熱伝導性シートは、揮発性液体を含まない試料7の熱伝導性組成物から製造した熱伝導性シートに比べて、その熱伝導率は20%強高くなった。即ち、炭素繊維を配向しない場合であっても、揮発工程による熱伝導率向上の効果があることがわかる(試料6、試料7:)。
【0109】
炭素繊維が配向した塊状成形体をスライスした試料2、試料1の対比による熱伝導率向上は50%であり、シート状で炭素繊維を配向した試料5、試料4の対比による熱伝導率向上は38%、シート状で且つ炭素繊維を配向しなかった試料7、試料6の対比による熱伝導率向上は22%であった。これらのことから、揮発工程によって熱伝導率を高める効果は、炭素繊維を配向した場合に大きくなり、さらに塊状成形体をスライスする方法で極めて大きくなることがわかる。」
・「【0110】
イソプロピルアルコールに浸漬した実験から、反応性液状樹脂を硬化させた後、揮発性液体を揮発させる工程を実行して得た熱伝導性シートは、いずれも0.1%以上の重量増加率を示す一方で、揮発性液体を揮発させる工程を行わないなど、これと異なる工程を実行した熱伝導性シートは、いずれも0.04%以下であった。この結果より、反応性液状樹脂を硬化させた後、揮発性液体を揮発させる工程を実行して得た熱伝導性シートか否かの違いをイソプロピルアルコールに対する浸漬後の重量増加率で判断することが可能であると推測した。」
3 判断
(1)発明の課題
本件特許に係る発明の詳細な説明の【0001】ないし【0005】によると、本件特許発明1ないし5の発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「熱伝導性の高い熱伝導性シートを提供すること」にあると解される。
(2)本件特許発明1について
本件特許に係る発明の詳細な説明の【0007】、【0008】、【0012】、【0028】、【0075】、【0076】、【0082】ないし【0095】及び【0105】ないし【0109】には、架橋によりゴムまたはゲル状のマトリクスとなる反応性液状樹脂、この反応性液状樹脂の硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体及び炭素繊維等の熱伝導性充填剤とを混合して得た熱伝導性組成物を架橋、硬化させて成形体を形成し、その後、揮発性液体を揮発するといった工程を経て得られた熱伝導性シートは、そのような工程を経ないで得られた熱伝導性シートよりも熱伝導性が高くなることが説明され、また、実施例として確認されている。
そうすると、当業者は、上記工程を経て得られた熱伝導性シートは発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件特許発明1は、熱伝導性シートが上記工程を経て得られたものであることを特定している。
したがって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(3)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5も、熱伝導性シートが上記工程を経て得られたものであることを特定している。
したがって、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし5に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(4)特許異議申立人の主張について
令和3年4月9日付け(受付日:同年同月12日)で提出された意見書において、特許異議申立人は、本件特許明細書には、イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.2~1%の重量増加を示すものとすることで「熱伝導率の高い熱伝導性シートとすることができる」のかの理由が全く示されておらず、当業者であっても理解できないから、本件特許発明1ないし5は、依然としてサポート要件に違反する旨主張する。
しかし、本件特許発明1ないし5がサポート要件を満たすものといえるのは、上記(2)及び(3)で検討のとおりであって、上記理由が示されているかどうかとは無関係である。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(5)まとめ
したがって、本件特許発明1ないし5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
4 むすび
よって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、取消理由によっては取り消すことはできない。
第6 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
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取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(サポート要件)のうちアの点によるもの、申立理由2(実施可能要件)、申立理由3(明確性要件)及び申立理由4(甲1を主引用文献とする進歩性)である。
そこで、これらの申立理由について検討する。
1 申立理由1(サポート要件)のうちアの点によるものについて
(1)判断
上記第5 3(1)のとおり、本件特許発明3ないし5の発明の課題は、「熱伝導性の高い熱伝導性シートを提供すること」にあると解される。
そして、上記第5 3(2)のとおり、架橋によりゴムまたはゲル状のマトリクスとなる反応性液状樹脂、この反応性液状樹脂の硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体及び炭素繊維等の熱伝導性充填剤とを混合して得た熱伝導性組成物を架橋、硬化させて成形体を形成し、その後、揮発性液体を揮発するといった工程を経て得られた熱伝導性シートは、発明の課題を解決する。
すなわち、「前記熱伝導性充填材に、繊維軸方向がシートの厚み方向に配向した前記炭素繊維を含む」を発明特定事項としているかどうかは、発明の課題とは関係がない。
したがって、上記第5 3(3)のとおり、本件特許発明3ないし5に関して、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明3ないし5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(2)申立理由1のうちアの点によるものについてのむすび
したがって、本件特許の請求項3ないし5に係る特許は申立理由1のうちアの点によるものによっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)について
(1)判断基準
本件特許発明1ないし5は「熱伝導性シート」という物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)判断
本件特許に係る発明の詳細な説明の記載は、上記第5 2のとおりであり、本件特許発明1ないし5の各発明特定事項及び製造方法について具体的に記載され、試料1、4及び6の組成物を使用した実施例の記載もある。
したがって、当業者であれば、試料1、4及び6の組成物を使用した実施例以外のものも、これらの発明の詳細な説明の記載を参考に、熱伝導性充填材等の配合量を適宜調整することによって、実施することができるといえる。
よって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえ、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(明確性要件)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)判断
ア アの点について
本件特許発明1ないし5は、「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.2~1%の重量増加率を示」すことを発明特定事項とするものであるところ、発明の課題との関係で、その技術的意義が不明であるとしても、それ自体の意味は明確である。また、本件特許発明1ないし5の上記発明特定事項における「重量増加率」の測定は、常温・常圧で行うものであること、イソプロピルアルコールの量は浸漬するのに必要な量にすること、拭き取り方法は拭き取れればどのような方法でもよいこと、乾いた状態とは表面からイソプロピルアルコールが拭き取られた状態であると当業者は理解するから、測定方法が不明であるともいえない。
イ イの点について
本件特許発明3の「前記熱伝導性シートの表面がスライス面である」という発明特定事項における「スライス面」は、単にスライスされた状態を示すことにより構造を特定しているにすぎないものであるから、物の発明である本件特許発明3に係る請求項3にその物の製造方法が記載されている場合に該当するものではなく、また、如何なる状態をスライスされた面、すなわちスライス面というのかは当業者であれば理解できるから、本件特許発明3の上記発明特定事項が不明確であるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1ないし5に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4(甲1主引用文献とする進歩性)について
(1)甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「熱伝導性シート及びその製造方法。」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
・「【0008】
本発明の目的は、シートの厚み方向における熱伝導性が高く、ESD対策やグラウンド接続に要求されるレベルの導電性を有し、かつ柔軟性に富む熱伝導性シート及びその製造方法を提供することにある。」
・「【実施例】
【0046】
次に、実施例、比較例を挙げて本発明の熱伝導性シートについて更に具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1では、以下の工程に従って、熱伝導性シートを作製した。具体的には、まず、高分子マトリックスとして付加型の液状シリコーンゴム(比重1.0、硬化前の25℃での粘度400mPa・s)100重量部に対して、硬化触媒0.3重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長100μm、比重2.225)60重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長200μm、比重2.225)60重量部、球状カーボン(群栄化学工業株式会社「マリリンGC-010」平均粒径6μm、比重1.4)100重量部をそれぞれ配合した。そして、振動攪拌装置を用いて混合することにより、成形材料を調整した。次に、炭素繊維を一方向に配向させるため、成形材料を型に流し込み、型内の成形材料に振動を与えながら、10テスラの磁場を印加した。次に、成形材料を硬化した後、型から成形体を取り出した。続いて、成形体をスライスして、厚さ0.5mmのシート材を得た。そして、シート材の表面を研磨紙で研磨し、炭素繊維の端面を平坦に潰すことにより、図3に示す熱伝導性シートを得た。図4は、実施例1の熱伝導性シートの断面を400倍に拡大した電子顕微鏡写真であり、図5は、同熱伝導性シートの断面を200倍に拡大した電子顕微鏡写真である。図4及び図5から、球状カーボンが炭素繊維間に配置されていることを確認できた。
(実施例2~6)
実施例2~6では、高分子マトリックスとして付加型の液状シリコーンゴム(比重1.0、硬化前の25℃での粘度400mPa・s)100重量部に対して、硬化触媒0.3重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長100μm、比重2.225)A重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長200μm、比重2.225)B重量部、球状カーボン(群栄化学工業株式会社「マリリンGC-010」平均粒径6μm、比重1.4)C重量部を配合した。表1に、A,B,Cの値をそれぞれ示す。実施例2~6の熱伝導性シートは、材料の配合量を除き、実施例1の熱伝導性シートと同じである。
(比較例1)
比較例1では、高分子マトリックスとして付加型の液状シリコーンゴム(比重1.0、硬化前の25℃での粘度400mPa・s)100重量部に対して、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長100μm、比重2.225)120重量部、球状アルミナ(株式会社マイクロン「AH3-2」平均粒径3.5μm、比重3.95)475重量部を配合した。比較例1の熱伝導性シートは、材料の種類及び配合量を除き、実施例1の熱伝導性シートと同じである。」
イ 甲1発明
甲1に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「高分子マトリックスとして付加型の液状シリコーンゴム(比重1.0、硬化前の25℃での粘度400mPa・s)100重量部に対して、硬化触媒0.3重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長100μm、比重2.225)60重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長200μm、比重2.225)60重量部、球状カーボン(群栄化学工業株式会社「マリリンGC-010」平均粒径6μm、比重1.4)100重量部をそれぞれ配合し、そして、振動攪拌装置を用いて混合することにより、成形材料を調整し、次に、炭素繊維を一方向に配向させるため、成形材料を型に流し込み、型内の成形材料に振動を与えながら、10テスラの磁場を印加し、次に、成形材料を硬化した後、型から成形体を取り出し、続いて、成形体をスライスして、厚さ0.5mmのシート材を得、そして、シート材の表面を研磨紙で研磨し、炭素繊維の端面を平坦に潰すことにより、得た熱伝導性シート。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「高分子マトリックスとして付加型の液状シリコーンゴム(比重1.0、硬化前の25℃での粘度400mPa・s)100重量部」は本件特許発明1における「架橋構造を有するゴムまたはゲル状で付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクス」に相当し、以下同様に、「炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長100μm、比重2.225)60重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長200μm、比重2.225)60重量部、球状カーボン(群栄化学工業株式会社「マリリンGC-010」平均粒径6μm、比重1.4)100重量部」は「炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムの少なくともいずれかを含む熱伝導性充填材」に、「炭素繊維を一方向に配向させるため、成形材料を型に流し込み、型内の成形材料に振動を与えながら、10テスラの磁場を印加し、次に、成形材料を硬化した後、型から成形体を取り出し、続いて、成形体をスライスして、厚さ0.5mmのシート材を得、そして、シート材の表面を研磨紙で研磨し、炭素繊維の端面を平坦に潰すことにより、得た熱伝導性シート」は「前記熱伝導性充填材に、繊維軸方向がシートの厚み方向に配向した前記炭素繊維を含む熱伝導性シート」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「架橋構造を有するゴムまたはゲル状で付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクスと、炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムの少なくともいずれかを含む熱伝導性充填材とを含む熱伝導性シートであって、前記熱伝導性充填材に、繊維軸方向がシートの厚み方向に配向した前記炭素繊維を含む熱伝導性シート。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては「前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体とが混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1においては「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.2~1%の重量増加率を示し」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1-2から検討する。
甲1には、甲1発明において、「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.2~1%の重量増加率」を示すようにすることの動機付けとなる記載はない。
また、甲2及び3にも、そのようにする動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明において、甲2及び3に記載された事項を考慮しても、相違点1-2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ まとめ
したがって、相違点1-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明並びに甲2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を直接引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲1発明を対比する。
甲1発明における「高分子マトリックスとして付加型の液状シリコーンゴム(比重1.0、硬化前の25℃での粘度400mPa・s)100重量部」は本件特許発明3における「架橋構造を有するゴムまたはゲル状で付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクス」に相当し、以下同様に、「炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長100μm、比重2.225)60重量部、炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社「XN-100-03Z」粉砕品 平均繊維長200μm、比重2.225)60重量部、球状カーボン(群栄化学工業株式会社「マリリンGC-010」平均粒径6μm、比重1.4)100重量部」は「炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムの少なくともいずれかを含む熱伝導性充填材」に、「炭素繊維を一方向に配向させるため、成形材料を型に流し込み、型内の成形材料に振動を与えながら、10テスラの磁場を印加し、次に、成形材料を硬化した後、型から成形体を取り出し、続いて、成形体をスライスして、厚さ0.5mmのシート材を得、そして、シート材の表面を研磨紙で研磨し、炭素繊維の端面を平坦に潰すことにより、得た熱伝導性シート」は「前記前記熱伝導性シートの表面がスライス面である熱伝導性シート」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「架橋構造を有するゴムまたはゲル状で付加反応型シリコーンの硬化体であるマトリクスと、炭素繊維、鱗片状黒鉛粉末、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムの少なくともいずれかを含む熱伝導性充填材とを含む熱伝導性シートであって、前記前記熱伝導性シートの表面がスライス面である熱伝導性シート。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明3においては「前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体が混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのようには特定されていない点。
<相違点3-2>
本件特許発明3においては「イソプロピルアルコールへの3分間浸漬時に0.2~1%の重量増加率を示し」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3-2から検討するに、相違点3-2は相違点1-2と同じであるから、その判断も同じである。
ウ まとめ
したがって、相違点3-1について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲1発明並びに甲2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明4及び5について
本件特許発明4及び5は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は3と同様に、甲1発明並びに甲2及び3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は申立理由4によっては取り消すことはできない。
第7 特許異議申立人の主張する新たな取消理由について
1 特許異議申立人の主張する新たな取消理由の概要
そこで、検討する。
2 判断基準
本件特許発明1ないし5は、「熱伝導性シート」という物の発明であるが、請求項1及び3の「前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体とが混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発し」という記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された記載がある場合に相当するため、当該請求項1及び3並びに請求項1又は3を直接又は間接的に引用する請求項2、4及び5にはその物の製造方法が記載されているといえる。
ここで、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。
3 判断
上記2のとおり、本件特許発明1ないし5は、「前記付加反応型シリコーンと、前記熱伝導性充填材と、前記付加反応型シリコーンの硬化温度よりも10℃以上高い沸点を有する揮発性液体とが混合された熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した熱伝導性シート」という発明特定事項を有するものであるが、熱伝導性組成物が架橋、硬化した後に前記揮発性液体が揮発した構造は、本件特許に係る発明の詳細な説明の【0080】に「見た目や、組成分析、構造分析によって従来の熱伝導性シートと区別することが難しい。しかしながら、従来の熱伝導性シートにおいては、イソプロピルアルコールに3分間浸漬させたときの重量増加率が概ね0.05%以下であるのに対し、この熱伝導性シートでは、0.2~1%の重量増加が見られる点で異なる。」と記載されているように、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能である構造であるといえる。
すなわち、本件特許発明1ないし5には、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することについて、不可能・非実際的事情が存在するといえる。
したがって、本件特許発明1ないし5に関して、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえる。
4 特許異議申立人の主張する新たな取消理由についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は特許異議申立人の主張する新たな取消理由では取り消すことはできない。
第8 結語
上記第5ないし7のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、取消理由、特許異議申立書に記載した申立ての理由及び特許異議申立人の主張する新たな取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700692