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特許異議申立

2020-700664

調味料組成物

審判番号
2020-700664
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-058771
登録番号
6671105
請求日
2020年09月04日
審決日
2021年12月23日
公報発行日
2022年03月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】テーブルマーク株式会社
  • 【権利者代理人】泉谷 玲子
  • 【権利者代理人】武田 健志
  • 【異議申立人】橋立 茂
審判長/審判官
  • 審判長 村上 騎見高
  • 審判官 齊藤 真由美
  • 審判官 大熊 幸治
分類
P1652.113-YAA(A23L) / P1652.121-YAA(A23L) / P1652.536-YAA(A23L) / P1652.537-YAA(A23L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第1項、特許法第120条の5第4項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6671105号発明「調味料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6671105号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~10]について訂正することを認める。 特許第6671105号の請求項[1、2、5、6、8~10]に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6671105号の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成27年3月20日の出願であって、令和2年3月5日に特許権の設定登録がされ、令和2年3月25日にその特許公報が発行され、令和2年9月4日に、その請求項1、2、5、6、8~10に係る発明の特許に対し、橋立 茂(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 その後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和 2年11月30日付け 取消理由通知 3年 3月 4日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者) 同年 3月19日付け 特許法第120条の5第5項の規定に 基づく通知書 同年 7月 2日付け 取消理由通知 同年 9月10日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者) 新型コロナウイルスの影響による期間延長に関する上申書の提出(令和3年1月22日)があり、当審はこれを認容し、取消理由通知書に対応する応答期間を30日間延長することとした。 令和3年3月4日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 令和3年3月19日付けの特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知書に対し、申立人による意見書の提出はなかった。 そして、上記のとおり申立人による意見書の提出の機会を与えたところ、係る意見書の提出はなく、以下の第2 1のとおり、令和3年9月10日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が減縮され、以下の第5のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても、特許を維持すべきとの結論になると合議体は判断したことから、申立人に再度の意見書の提出の機会は与えない。 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和3年9月10日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。その訂正内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求範囲の請求項1の「0.5~1.2重量%のプロリンを含む」を、「0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く、調味料組成物であって、」と訂正する。(決定注:下線は訂正部分を示す。以下同様。) (2)訂正事項2 特許請求範囲の請求項7の「プロリンを含む組成物を調理香又はミートフレーバーが発現する前まで加熱する」を、「プロリンを含む組成物を調理香又はミートフレーバーが発現する前まで加熱する、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く、」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求範囲の請求項8の「最終濃度0.0003-0.006重量%のプロリン、最終濃度0.000336重量%-0.0042重量%の核酸、及び、糖を含む、」を、「最終濃度0.0003-0.006重量%のプロリン、最終濃度0.00084重量%-0.0042重量%の核酸、及び、糖を含む、ただし、前記プロリン及び核酸は醤油を構成するプロリン及び核酸を除く、」と訂正する。 2 訂正の適否 (1)一群の請求項ごとに訂正を請求することについて 訂正前の請求項1~10について、請求項2~10は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1~10に対応する、訂正後の請求項1~10は、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であって、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について ア 訂正事項1について (ア)訂正の目的の適否 本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「プロリン」を、「ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く」と規定することにより、限定するものである。 したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)新規事項の追加の有無 訂正事項1の「0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く調味料組成物であって、」とする事項については、願書に添付した明細書に、本件発明1~10の具体例として、実施例1~9(【0056】~【0125】)には、0.5~1.2重量%のプロリンを含む(醤油を構成するプロリンではない)調味料組成物である、組成物3、組成物4、組成物3-4、組成物3-5、組成物5-2、組成物7-3、組成物7-4、組成物9-2及び組成物9-4が記載され、これらの組成物を添加した食品等をレトルト処理し官能評価したところ、蒸れ臭又は焦げ臭が低減されたことを具体的に確認したことが記載されている。 そうすると、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (ウ)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 前記(ア)及び(イ)で述べたとおり、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 イ 訂正事項2について (ア)訂正の目的の適否 本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項7の「プロリン」を、「ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く」と規定することにより、限定するものである。 したがって、本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)新規事項の追加の有無 訂正事項2の「プロリンを含む組成物を調理香又はミートフレーバーが発現する前まで加熱する、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く、」とする事項が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものであることは、前記ア(イ)で述べたとおりである。 そうすると、本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (ウ)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 前記(ア)及び(イ)で述べたとおり、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ 訂正事項3について (ア)訂正の目的の適否 本件訂正の訂正事項3に係る訂正は、核酸の最終濃度の範囲について、訂正前の請求項8の「0.000336重量%-0.0042重量%」を、「0.00084重量%-0.0042重量%」と減縮すると共に、訂正前の請求項8の「プロリン」を、「ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く」と規定することにより、限定するものである。 したがって、本件訂正の訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (イ)新規事項の追加の有無 a 訂正事項3の「最終濃度0.00084重量%-0.0042重量%の核酸」とする事項については、願書に添付した明細書の実施例9(【0117】~【0125】)の【表20】(【0121】)には、5’-リボヌクレオチド含有酵母エキス[(*2)バーテックスIG20 富士食品工業 5’-リボヌクレオチドの含有量 21.0%]の含量が4.0重量%の調味料組成物(配合9-4)が記載され、当該配合中の核酸濃度は、0.84重量%(=4.0重量%×0.21)であり、実施例10(【0127】~【0130】)の【表23】(【0128】)に、当該配合9-4で得られた組成物を加熱して得られた調味料組成物(組成物PR)を、飲食品に0.10重量%含ませたことが記載されており、当該飲食品中の核酸濃度を算出すると、0.00084重量%(=0.84重量%×0.001)(決定注:下線は当審が付与。以下同様。)である。 また、願書に添付した明細書の実施例7(【0102】~【0109】)の【表15】(【0104】)には、5’-リボヌクレオチド含有酵母エキス[(*2)バーテックスIG20 富士食品工業 5’-リボヌクレオチドの含有量 21.0%]の含量が4.0重量%の調味料組成物(組成物7-3又は組成物7-4)が記載され、当該組成物7-3又は組成物7中の核酸濃度は、各0.84重量%(=4.0重量%×0.21)であり、実施例8(【0110】~【0116】)の【表17】(【0112】)に、当該組成物7-3又は組成物7-4を飲食品に0.5重量%含ませたことが記載されており、当該飲食品中の核酸濃度を算出すると、0.0042重量%(=0.84重量%×0.005)である。 b 訂正事項3の「ただし、前記プロリン及び核酸は醤油を構成するプロリン及び核酸を除く、」とする事項について、プロリンは醤油を構成するプロリンを除くものであることが、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものであることについては、前記ア(イ)で述べたとおりである。 また、核酸は醤油を構成する核酸を除くものであることについては、前記aで検討したように、実施例8及び10において、飲食品に核酸を含ませるために、5’-リボヌクレオチド含有酵母エキス[(*2)バーテックスIG20 富士食品工業 5’-リボヌクレオチドの含有量 21.0%]を含有させたことが記載されており、この核酸である5’-リボヌクレオチドが醤油由来ではないことは明らかである。 c そうすると、本件訂正の訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でなされたものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (ウ)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否 前記(ア)及び(イ)で述べたとおり、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)独立特許要件について 前記(1)、(2)のとおり、訂正事項1、2に係る訂正は、特許異議申立てがされていない請求項3、4、7に係るものを含むものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、以下第5のとおり、訂正事項1、2に係る訂正後の請求項3、4、7に係る発明が独立して特許を受けることができるものではないと認められる理由を発見しない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1~10]についての訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正により訂正された請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く、調味料組成物であって、 加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための調味料組成物。 【請求項2】 プロリンをプロリン含有酵母エキスとして含む、請求項1に記載の調味料組成物。 【請求項3】 グルタチオンをさらに含む、請求項1又は2に記載の調味料組成物。 【請求項4】 グルタチオンをグルタチオン含有酵母エキスとして含む、請求項3に記載の調味料組成物。 【請求項5】 核酸をさらに含む、請求項1-4のいずれか1項に記載の調味料組成物。 【請求項6】 5’-リボヌクレオチドをさらに含む、請求項1-5のいずれか1項に記載の調味料組成物。 【請求項7】 請求項1-6のいずれか1項に記載の調味料組成物の製造方法であって、 プロリンを含む組成物を調理香又はミートフレーバーが発現する前まで加熱する、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く、工程を含む、前記製造方法。 【請求項8】 請求項5又は6のいずれか1項に記載の調味料組成物を添加された、110℃以上の温度、30分以上の加熱により調理された飲食品であって、最終濃度0.0003-0.006重量%のプロリン、最終濃度0.00084重量%-0.0042重量%の核酸、及び、糖を含む、ただし、前記プロリン及び核酸は醤油を構成するプロリン及び核酸を除く、前記飲食品。 【請求項9】 請求項1-6のいずれか1項に記載の調味料組成物を飲食品に添加し加熱する、ことを含む、飲食品の加熱時の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための方法。 【請求項10】 請求項1-6のいずれか1項に記載の調味料組成物の、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、飲食品の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制するための使用。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由 1 特許異議申立理由の概要 申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証~甲第4号証を提出して、以下の申立理由を主張している。 (証拠方法) 甲第1号証:特開昭61-152249号(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2002-142715号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:日本醸造協会編、「新版・醸造成分一覧」、(昭和52年6月10日)、財団法人 日本醸造協会発行、p.352(以下「甲3」という。) 甲第4号証:栄養学雑誌、Vol.59、No.4、(2001)、p.197-202(以下「甲4」という。) (申立理由の概要) 申立理由1(新規性) 訂正前の本件発明1、5、6、9、10は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1又は甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、訂正前の本件発明1、5、6、9、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 申立理由2(進歩性) 訂正前の本件発明2は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲2に記載された発明、並びに、甲3及び甲4に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、訂正前の本件発明2に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 申立理由3(実施可能要件) 訂正前の本件発明1、2、5、6に係る特許は、以下(1)のとおり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (1)訂正前の本件発明1、2、5、6について、加熱時に調理香やミートフレーバーが発現する調味料組成物には、酵母エキス類と糖類の組み合わせ以外にも、多様な配合が選択し得るところ、酵母エキス類及び糖類にプロリン源を配合する場合のほかに、どのような配合において、所定濃度のプロリン含有による蒸れ臭又は焦げ臭の低減、並びに/あるいは、加熱時の着色の抑制が可能であるのか理解できず、出願時の技術常識からも明らかでないことから、あらゆる調味料組成物の配合の中から、蒸れ臭又は焦げ臭の低減、並びに/あるいは、加熱時の着色の抑制が可能となる組成物を実施することは、当業者に過度の試行錯誤を求めるものであり、発明の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 申立理由4(サポート要件) 訂正前の本件発明1、2、5、6、8は、特許請求の範囲の記載が以下(1)及び(2)の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、訂正前の本件発明1、2、5、6、8に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (1)訂正前の本件発明1、2、5、6の「調味料組成物」について、本件明細書の実施例には、酵母エキス類及び糖類の組み合わせにプロリン源を配合した調味料組成物しかほぼ記載されておらず、酵母エキス類及び糖類の組み合わせ以外の成分配合による調味料組成物に、プロリンを0.5~1.2重量%含むようにプロリン源を配合した場合について記載も示唆もされていない。一方、加熱時に調理香やミートフレーバーが発現する調味料組成物には、酵母エキス類と糖類の組み合わせ以外にも、多様な配合が選択し得るものと認められるところ、酵母エキス類と糖類の組み合わせ以外による配合においても所期の効果が生じることについて、本件明細書には記載も示唆もなく、技術常識から理解することもできない。 したがって、訂正前の本件発明1、2、5、6は、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を当該発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえず、本件明細書に記載された発明ではない。 (2)訂正前の本件発明8の「最終濃度0.0003-0.006重量%のプロリン」「を含む、飲食品」は、本件明細書の実施例には記載されておらず、訂正前の本件発明8が効果を奏するものであると本件明細書の記載から理解することはできないから、訂正前の本件発明8は、本件明細書中に記載も示唆もされておらず、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を当該発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえず、本件明細書に記載された発明ではない。 2 当審が通知した取消理由の概要 (1)訂正前の本件発明1、5、6、9、10に対して、令和2年11月30日付けで当審が特許権者に通知した取消理由(以下「取消理由1(新規性)」という。)の概要は、以下のとおりである。 訂正前の請求項1、5、6、9、10に係る発明は、甲3及び甲4を参照すると、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、訂正前の請求項1、5、6、9、10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 なお、取消理由1(新規性)は、申立理由1(新規性)のうち、甲2に記載された発明を引用発明とする場合に対応するものである。 (2)訂正前の本件発明8に対して、令和3年7月2日付けで当審が特許権者に通知した取消理由(以下「取消理由2(サポート要件)」という。)の概要は、以下のとおりである。 訂正前の本件発明8は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 記 発明の詳細な説明には、訂正前の本件発明8を具体的に実施した実施例の記載はなく、技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明において、実施例等により具体的に記載されたものについての開示内容を、訂正前の本件発明8にまで拡張ないし一般化することもできない。 そうすると、「最終濃度0.0003-0.006重量%のプロリン、最終濃度0.000336重量%-0.0042重量%の核酸、及び、糖を含む」「110℃以上の温度、30分以上の加熱により調理された飲食品」という特定事項を含む訂正前の本件発明8は、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。 なお、取消理由2(サポート要件)は、本件発明8に関し、申立理由4(サポート要件)のうち(2)に対応するものである。 第5 当審の判断 申立人は、訂正前の本件発明1、2、5、6、8~10を異議申立ての対象としているが、前記第2 2(3)で述べたとおり、本件発明3、4、7についての独立特許要件についてもここで検討するため、本件発明1~10についてまとめて判断する。 当審は、請求項1~10に係る特許は、当審の通知した取消理由及び申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 理由は以下のとおりである。 1 当審が通知した取消理由についての判断 (1)取消理由1(新規性)について ア 甲1~甲4の記載、並びに、乙第1号証~乙第4号証及びその記載 (ア)甲1~甲4の記載 a 甲1の記載 甲1a「【特許請求の範囲】 (1)醤油或いは醤油含有調味液で調味加工するレトルト食品の製造法において、醤油として濃口生醤油及び/又は淡口生醤油を使用することを特徴とするレトルト食品の製造法。」(特許請求の範囲 請求項1) 甲1b「そこで、本発明者らはこのような現状に鑑み、種々検討を重ねた結果、従来調味料として醤油或いは醤油含有調味液で調味加工するレトルト食品の製造法において、醤油として濃口生醤油又は淡口生醤油を使用するときは、レトルト臭、焦臭及び褐変による悪影響の少いレトルト食品が得られ、また、畜肉類及び貝類を素材とした場合、その組織が従来品よりも軟かいレトルト食品が得られることを知り、この知見に基いて本発明を完成した。即ち、本発明は醤油或いは醤油含有調味液で調味加工するレトルト食品の製造法において、醤油として濃口生醤油及び/又は淡口生醤油を使用することを特徴とするレトルト食品の製造法である。」(1頁右下欄下から3行~2頁左上欄10行) 甲1c「実施例1 レトルト蒲焼きの垂れ調味料の調製 濃ロ生醤油204CC、アミノ酸系調味料「ポリアミー(大洋漁業製)」14g、砂糖53g、水飴26g、グルタミン酸ソーダ8g、水8g、コハク酸ソーダ8g、ソルビット42g、ジンジャ-パウダー0.4g及びグアーガム2gの配合割合からなる蒲焼きの垂れ調味料を調製した。 これを通常のアルミパウチ(100g/袋)に充填、脱気後、シールした後、120℃で20分間レトルト処理をし、レトルト蒲焼きの垂れ調味料(本発明品)を調製した。 一方、対照として、上記「濃口生醤油」の代わりに「濃口火入醤油」を使用する以外は上記と全く同様に処理して、レトルト蒲焼きの垂れ調味料(対照品)を調製した。 次に、上記の本発明品及び対照品について、2点比較法により20名の識別能力を有する訓練されたパネルにより官能検査を行い、また色沢を測定したところ、下記第1表に記載の如き結果が得られた。 尚、色沢は日本電色工業(株)測色色差計「Z-1001DP型」を用い、検体の反射光を測定した。色沢の欄におけるLは明度(値が大きい程明るい)、aは色調(値が大きい程、赤味が強い)そしてbはあざやかさ(値が大きい程、冴えがよい)をそれぞれ示している。 [図:0001382351000001.jpg] 第1表の結果から、濃口生醤油を使用し得られたレトルト蒲焼きの垂れ調味料は、濃口火入醤油を使用する従来品に比べて、レトルト臭、焦臭が少なく、風味が良好であり、また色沢が淡色で赤味が強く、彩えが良好で見た目も良い高品質のものであることが判る。」(2頁右下欄3行~3頁右上欄6行) b 甲2の記載 甲2a「【請求項1】 醤油または醤油様発酵調味料の重量を100として、ヒスチジンを0.3~5.0、乳酸を0.5~10.0、カリウムを0.1~2.0、イノシン酸を0.1~2.0、グルタミン酸を0.005~1.0の重量比率にて配合されてなることを特徴とする呈風味の改善された醤油または醤油様発酵調味料。 【請求項2】 請求項1の醤油及び/または醤油様発酵調味料を含有する食品。 【請求項3】 請求項1の醤油及び/または醤油様発酵調味料を用いて、75~120℃で0.1~300分間加熱することを特徴とする、良好な呈風味を有する食品の製造方法。」 甲2b「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、「あつみ」および「こく味」の付与、増強された醤油または醤油様発酵調味料、および、それらを用いることを特徴とする、加熱調理後に良好な呈風味を有する食品を製造する方法に関する。 ・・・・・ 【0005】また、醤油は、各種料理に独特の風味を付与する目的で用いられているが、煮込み料理など、長時間加熱調理を行った際に「酸化臭」「劣化臭」などの好ましくないにおいが発現するという問題点を有している。さらに、つゆ、たれなどを調製したのちに、長時間保温を行う際においても、上記と同様な「酸化臭」「劣化臭」などが発現するという問題点を有している。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】前項記載の従来技術の背景下に、本発明は、醤油または醤油様発酵調味料に、本来の風味を損なうことなく、「あつみ」および「こく味」を付与するための新規な呈味改善方法を提供すること、および呈味の改善された醤油または醤油様発酵調味料を用いた、加熱調理時に良好な呈風味を有する食品の製造方法を提供することを目的とする。 ・・・・・ 【0012】・・・また、上記に示した、「あつみ」「こく味」の付与された醤油または醤油様発酵調味料は、天然だし、たとえば、かつお節、鶏肉、魚貝、こんぶ、牛肉、シイタケなどの素汁に添加することにより、これらに「あつみ」および「こく味」を付与し、その呈味機能を増強させることも可能である。また、前述のごとく、上記の天然だしおよび鰹節・昆布などの天然素材の加工品および代替品、特にアミノ酸混合物として比較的安価に利用できるHVP、HAP、酵母エキスに添加したり、低品質の安価な畜肉または魚介エキスに添加した場合にも、また基本だし素材または従来の風味調味料に添加しまたはこれと併用した場合にも、味全体をまとめ、「あつみ」および「こく味」を付与しまたはこれを増強するとともに味の増強がみられ、これらを高品質なものに改良することができる。」 甲2c「【0016】 【実施例1】市販濃口醤油100gに対して、ヒスチジン塩酸塩を1.6g、乳酸ナトリウム(50%、食品添加物)を5.3g、塩化カリウムを0.86g、イノシン酸ナトリウム(味の素社製)を0.91gおよびグルタミン酸ナトリウム0.05gを添加することにより、本発明の呈味の改善された醤油を得た。得られた醤油の10.9%溶液(重量%、温水溶液)を調製して、呈味評価に供した。なお、この際に、無添加の醤油の10%(重量%)を調製して、対照として用いた。・・・ ・・・・・ 【0024】 【実施例5】実施例1にて得られた、本発明の濃口醤油490gに対して、砂糖170g、みりん20g、食塩38gおよび無菌充填鰹節だし調味料(「本造り一番だし」鰹、味の素社製)120gおよび水(水道水)162gを混合してめんつゆ(3倍濃縮タイプ)を得た。このようにして得られためんつゆについて、水にて3倍に希釈して呈味評価を行った。なお、この際に、無添加の醤油を用いて上記の配合にしたがって調製しためんつゆをを対照とした。対照のめんつゆの配合は、濃口醤油450g、砂糖170g、みりん20g、食塩38gおよび無菌充填鰹節だし調味料(「本造り一番だし」かつお、味の素社製)120gおよび水(水道水)202gである。この2種類の溶液について、二点比較法で味覚パネル20名による官能評価を実施した。結果を表5に示す。表に示したように、本発明のめんつゆのほうが、対照めんつゆと比較して、有意に「コク味」、「後味」および「複雑感」が強く、また、好ましい呈味を有することが認められた。 【0025】 【表5】 [図:0001382351000002.jpg] 【0026】 【実施例6】実施例5にて得られた、2種類のめんつゆについて、それぞれを水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温を行った。保温後のめんつゆについて、二点比較法で味覚パネル20名による官能評価を実施した。結果を表6に示す。表に示したように、本発明の試料のほうが、対照区と比較して、有意に「香り」、「風味」が好ましく、「コク味」、「後味」および「複雑感」が強く、また、「酸化劣化臭」や「褐変臭」が弱く、総合的に好ましい呈風味を有することが示された 【0027】 【表6】 [図:0001382351000003.jpg] 」 イ 甲3 甲3a「第8表 しょう油のアミノ酸分析値(mg/ml) アミノ酸名 加水分解前 加水分解後 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ プロリン 6.97 6.87 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(352頁右欄下第8表) ウ 甲4 甲4a「表1 液状食品100ml成分表(可食部100ml当たり) 重量・・・・・ 食品番号 食品名 g・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17007 しょうゆ類 こいくちしょうゆ 118.0・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」(34頁) (イ)乙第1号証~乙第4号証及びその記載 特許権者は、令和3年3月4日付け意見書に添付した証拠方法として、以下の乙第1号証~乙第4号証(以下「乙1」~「乙4」という。)を提出している。 (証拠方法) 乙1:しょうゆ情報センターの公式ホームページ、「しょうゆを知る おいしさ」[online]、開示日不明、インターネットURL:https://www.soysauce.or.jp/knowledge/taste 乙2:栄養学雑誌、Vol.44、No.6、(1986)、p.349-352 乙3:醸協、Vol.97、No.1、(2002)、p.17-26 乙4:資源調査分科会報告「日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表2010」の「第2章 アミノ酸成分表(本表) 第1表 食品可食部100g当たりのアミノ酸成分表」の「17.調味料及び香辛料類」 (乙1~乙4の記載) 乙1a「料理をひきたてる3つの要素 (写真:略) しょうゆは色・味・香り、3つの要素から成り立つ調味料です。主原料である大豆のたんぱく質と小麦のでんぷんが発酵・熟成し、さまざまな味の成分、色や香りの成分に生まれ変わります。非常に多くの成分が含まれながら、味や香りのバランスが崩れないのは、これらが単に混ざり合っているだけではなく、長い熟成期間中、互いに作用し合って、絶妙な調和がとれているためです。無数の要因が絡み合って自然に生まれる、しょうゆの色・味・香り。繊細で複雑なその魅力が、さまざまな料理のおいしさをひきたてます。」(写真下) 乙2a「2.食品のアミノ酸分析法 改定に際し用いた分析法と初版において用いられた方法との比較を表2に示した。 初版の方法は,微生物定量法および比色法が中心であり,カラムクロマトグラフィーによる分析は一部のアミノ酸のみに用いられていた。今回採用した方法は,トリプトファンを除く17の全てのアミノ酸はカラムクロマトグラフィー法で,トリプトファンについては高速液体クロマトグラフィー法によった。これらの方法は現時点において最も信頼のおける方法であり,その精度も確認されているものである。」(59頁右欄表1下 1~末行) 乙3a「9.今後の課題 ○1アミノ酸組成表と脂肪酸組成表:五訂成分表は,現時点における日本の食品成分表の集大成であるが,アミノ酸および個々の脂肪酸のデータはない。」(21頁左欄下から7行~下から4行)(決定注:「○1」は、○の中に1を表す。) 乙4a「 [図:0001382351000004.jpg] 」 イ 甲2に記載された発明 甲2は、「呈風味の改善された醤油または醤油様発酵調味料」(甲2a)に関し記載するものであって、その具体例の一つとして、実施例1(甲2c)には具体的な「醤油」として、「市販濃口醤油100gに対して、ヒスチジン塩酸塩を1.6g、乳酸ナトリウム(50%、食品添加物)を5.3g、塩化カリウムを0.86g、イノシン酸ナトリウム(味の素社製)を0.91gおよびグルタミン酸ナトリウム0.05gを添加することにより、本発明の呈味の改善された醤油」を得たことが記載されている。 さらに、甲2の実施例5で、前記実施例1で得られた「醤油」を用いて「めんつゆ(3倍濃縮タイプ)」(甲2c)を得、実施例6で、該「めんつゆ(3倍濃縮タイプ)」「を水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温を行った」という方法が記載され、さらに、「保温後のめんつゆについて、二点比較法で味覚パネル20名による官能評価を実施し」(甲2c)、該評価結果が【表6】に示され、その説明として、「本発明の試料のほうが、対照区と比較して、有意に・・「酸化劣化臭」や「褐変臭」が弱く」なったと記載されている(甲2c)。これは、前記実施例6に記載の方法が、「酸化劣化臭」及び「褐変臭」を抑制する方法であることを示しているといえる。 そうすると、甲2には実施例1として、 「市販濃口醤油100gに対して、ヒスチジン塩酸塩を1.6g、乳酸ナトリウム(50%、食品添加物)を5.3g、塩化カリウムを0.86g、イノシン酸ナトリウム(味の素社製)を0.91gおよびグルタミン酸ナトリウム0.05gを添加することにより得られた、呈味の改善された醤油」 の発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されているといえる。 また、甲2には実施例6として、 「市販濃口醤油100gに対して、ヒスチジン塩酸塩を1.6g、乳酸ナトリウム(50%、食品添加物)を5.3g、塩化カリウムを0.86g、イノシン酸ナトリウム(味の素社製)を0.91gおよびグルタミン酸ナトリウム0.05gを添加することにより、本発明の呈味の改善された醤油を得、該醤油490gに対して、砂糖170g、みりん20g、食塩38gおよび無菌充填鰹節だし調味料(「本造り一番だし」鰹、味の素社製)120gおよび水(水道水)162gを混合してめんつゆ(3倍濃縮タイプ)を得、該めんつゆ(3倍濃縮タイプ)を水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温を行う、めんつゆの酸化劣化臭及び褐変臭を抑制する方法」 の発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されているといえる。 ウ 本件発明1について (ア)甲2発明1との対比 a 甲2発明1の「呈味の改善された醤油」は、調味料である市販濃口醤油に、ヒスチジン塩酸塩、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、イノシン酸ナトリウム及びグルタミン酸ナトリウムを添加したものであり、組成物といえるから、本件発明1の「調味料組成物」に相当する。 b 甲2発明1の「市販濃口醤油」について、一般に、醤油には、成分としてプロリンが含まれている(甲3a)ことから、甲2発明1の「市販濃口醤油」には、プロリンが含まれているといえる。 そうすると、甲2発明1の「呈味の改善された醤油」は、「市販濃口醤油」を含むものであるから、甲2発明1の「呈味の改善された醤油」と、本件発明1の「0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く」とは、「プロリンを含む」ものである点で共通する。 c 本件発明1の「蒸れ臭」及び「焦げ臭」について、本件明細書には「【0028】・・・本発明における蒸れ臭とは、例えば、一般に殺菌目的で強加熱された、レトルト食品や缶詰・ビン詰め食品等で感じるレトルト臭と同様のものである。また、コンビニエンスストアー等のおでんのだしや、駅構内のそば、うどん店等のだしのように、高温で長時間加熱され、醤油の蒸れたような劣化臭にも近いものも含む。一方、焦げ臭とは食品が過加熱された焦げた時に感じるような過度に香ばしい風味を言う」(当審注:下線は当審が付与。以下同様。)と記載されている。 ところで、甲2の実施例5で、甲2発明1を用いて「めんつゆ(3倍濃縮タイプ)」(甲2d)を得、実施例6で、該「めんつゆ(3倍濃縮タイプ)」「を水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温を行」い、さらに、「保温後のめんつゆについて・・官能評価を実施し」たところ、【表6】に示される評価結果の説明として、「本発明の試料のほうが、対照区と比較して、有意に・・「酸化劣化臭」や「褐変臭」が弱く」なったことが記載されている(甲2c)。 これは、甲2発明1を用いて得られた「めんつゆ(3倍濃縮タイプ)」を、「水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温」という長時間加熱を行い、「保温後のめんつゆについて・・官能評価を実施し」た結果、「酸化劣化臭」及び「褐変臭」が弱くなったといえる。 ここで、当該「酸化劣化臭」は、そば、うどんのつゆ(だしといえる)として用いられるめんつゆを、3時間という長時間保温加熱した結果の、醤油の蒸れたような劣化臭に近いものと理解され、本件発明1の「加熱により調理香が発現する際の、蒸れ臭」に該当するといえる。 また、当該「褐変臭」は、該めんつゆを、3時間という長時間保温加熱した結果の、焦げた時に感じる過度に香ばしい臭いと理解され、本件発明1の「加熱により調理香が発現する際の」「焦げ臭」に該当するといえる。 そうすると、甲2発明1の「呈味の改善された醤油」は、それを用いて調製されためんつゆの、加熱により調理香が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を弱くさせる、すなわち、低減させる作用をもつものといえ、めんゆつに対して、加熱により調理香が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させるためのものといえるから、本件発明1の「加熱により調理香」「が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる」「ための」ものに相当する。 d したがって、本件発明1と甲2発明1とは、 「プロリンを含む、加熱により調理香が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、ための調味料組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-1(甲2発明1):プロリンが、本件発明1では、醤油を構成するプロリンを除くものであるのに対し、甲2発明1では、醤油を構成するプロリンである点 相違点1-2(甲2発明1):プロリン含有量が、本件発明1では、0.5~1.2重量%であるのに対し、甲2発明1では、プロリン含有量は明らかでない点 (イ)判断 a 相違点1-1(甲2発明1)について 甲2発明1のプロリンは、「市販濃口醤油」に含まれているプロリンであるから、醤油を構成するプロリンといえる。 そうすると、本件発明1のプロリンは、醤油を構成するプロリンを除くものであり、甲2発明1のプロリンは、本件発明1のプロリンにおいて除くものに該当するから、相違点1-1(甲2発明1)は実質的な相違点と認められる。 b 申立人の主張について 相違点1-2(甲2発明1)について、申立人は、特許異議申立書の12頁11行~下から2行において、甲3及び甲4の記載より、甲2発明1に含まれる醤油には、プロリンが約0.53~0.54重量%含まれるものと認められるから、実質的な相違点ではない旨、主張している。 しかしながら、本件訂正により、本件発明1のプロリンは、醤油を構成するプロリンを除くものとなり、これに基づく相違点1-1(甲2の1発明)については、前記aで述べたとおり、実質的な相違点と認められ、相違点1-2(甲2発明1)を検討するまでもないから、申立人の前記主張は採用できない。 (ウ)小括 したがって、相違点1-2(甲2発明1)を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。 エ 本件発明5、6を含む、本件発明3~7について 本件発明3~6は、本件発明1を技術的に更に限定した発明であり、また、本件発明7は、本件発明1を発明特定事項として含む発明であるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明3~7は、甲2に記載された発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。 オ 本件発明9について (ア)本件発明9は、請求項1~6を引用して特定されている発明であり、請求項1の記載を用いて書き下すと、本件発明9は、以下のとおりである。 「 0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く、調味料組成物であって、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための調味料組成物を飲食品に添加し加熱する、ことを含む、飲食品の加熱時の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための方法。」 (イ)甲2発明2との対比 a 甲2発明2の「呈味の改善された醤油」は、前記ウ(ア)aで述べたことより、本件発明9の「調味料組成物」に相当する。 b 前記ウ(ア)bで述べたことより、甲2発明2の「呈味の改善された醤油」と、本件発明9の「0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く」とは、「プロリンを含む」ものである点で共通する。 c 甲2発明2の「呈味の改善された醤油」は、前記ウ(ア)cで述べたことより、本件発明9の「加熱により調理香」「が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる」「ための」ものに相当する。 d 甲2発明2の「該醤油490gに対して、砂糖170g、みりん20g、食塩38gおよび無菌充填鰹節だし調味料(「本造り一番だし」鰹、味の素社製)120gおよび水(水道水)162gを混合してめんつゆ(3倍濃縮タイプ)を得、該めんつゆ(3倍濃縮タイプ)を水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温を行う」について 甲2発明2の「めんつゆ(3倍濃縮タイプ)を水にて3倍に希釈した」めんつゆは、飲食品といえる。 甲2発明2の「該醤油」は、「実施例1で得られた、本発明の濃口醤油」(甲2c)で、甲2発明1である「呈味の改善された醤油」のことであり、「該醤油490gに対して、砂糖170g、みりん20g、食塩38gおよび無菌充填鰹節だし調味料(「本造り一番だし」鰹、味の素社製)120gおよび水(水道水)162gを混合してめんつゆ(3倍濃縮タイプ)を得」ていることから、該「呈味の改善された醤油」は、前記飲食品であるめんつゆに添加されているといえる。 甲2発明2の「該めんつゆ(3倍濃縮タイプ)を水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温を行う」ことは、前記飲食品であるめんつゆを加熱することを含んでいるといえる。 そうすると、甲2発明2の「該濃口醤油490gに対して、砂糖170g、みりん20g、食塩38gおよび無菌充填鰹節だし調味料(「本造り一番だし」鰹、味の素社製)120gおよび水(水道水)162gを混合してめんつゆ(3倍濃縮タイプ)を得、該めんつゆ(3倍濃縮タイプ)を水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温を行う」ことは、本件発明9の「調味料組成物を飲食品に添加し加熱する」に相当する。 e 甲2発明2の「めんつゆの酸化劣化臭及び褐変臭を抑制する方法」は、前記ウ(ア)cで述べたことより、本件発明9の「飲食品の加熱時の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、」「ための方法」に相当する。 f したがって、本件発明9と甲2発明2とは、 「プロリンを含む、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、ための調味料組成物を飲食品に添加し加熱する、ことを含む、飲食品の加熱時の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、ための方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点9-1(甲2発明2):プロリンが、本件発明9では、醤油を構成するプロリンを除くものであるのに対し、甲2発明2では、醤油を構成するプロリンである点 相違点9-2(甲2発明2):プロリン含有量が、本件発明9では、0.5~1.2重量%であるのに対し、甲2発明2では、プロリン含有量は明らかでない点 (ウ)判断 相違点9-1(甲2発明2)及び相違点9-2(甲2発明2)は、前記ウ(ア)dに記載した相違点1-1(甲2発明1)及び相違点1-2(甲2発明1)と同様であるから、前記ウ(イ)で述べたとおりである。 したがって、本件発明9は、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。 カ 本件発明10について (ア)本件発明10は、請求項1~6を引用して特定されている発明であり、請求項1の記載を用いて書き下すと、本件発明10は、以下のとおりである。 「 0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く、調味料組成物であって、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための調味料組成物の、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、飲食品の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制するための使用。」 (イ)甲2発明2との対比 a 甲2発明2の「呈味の改善された醤油」は、前記ウ(ア)aで述べたことより、本件発明10の「調味料組成物」に相当する。 b 前記ウ(ア)bで述べたことより、甲2発明2の「呈味の改善された醤油」と、本件発明10の「0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く」とは、「プロリンを含む」ものである点で共通する。 c 甲2発明2の「呈味の改善された醤油」は、前記ウ(ア)cで述べたことより、本件発明10の「加熱により調理香」「が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる」「ための」ものに相当する。 d 甲2発明2の「該醤油490gに対して、砂糖170g、みりん20g、食塩38gおよび無菌充填鰹節だし調味料(「本造り一番だし」鰹、味の素社製)120gおよび水(水道水)162gを混合してめんつゆ(3倍濃縮タイプ)を得、該めんつゆ(3倍濃縮タイプ)を水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温を行う、めんつゆの酸化劣化臭及び褐変臭を抑制する方法」について 甲2発明2の「めんつゆ(3倍濃縮タイプ)を水にて3倍に希釈した」めんつゆは、飲食品といえる。 甲2発明2の「該醤油」は、「実施例1で得られた、本発明の濃口醤油」(甲2c)で、甲2発明1である「呈味の改善された醤油」のことである。 前記ウ(ア)cで述べたことを踏まえると、該「呈味の改善された醤油」は、それを用いて調製されためんつゆの、加熱により調理香が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を弱くさせる、すなわち、低減させるために使用されているといえる。 そうすると、甲2発明2の「該醤油490gに対して、砂糖170g、みりん20g、食塩38gおよび無菌充填鰹節だし調味料(「本造り一番だし」鰹、味の素社製)120gおよび水(水道水)162gを混合してめんつゆ(3倍濃縮タイプ)を得、該めんつゆ(3倍濃縮タイプ)を水にて3倍に希釈した後に、85℃で3時間保温を行う、めんつゆの酸化劣化臭及び褐変臭を抑制する方法」は、本件発明10の「加熱により調理香が発現する際の、飲食品の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させるための使用」に相当する。 e したがって、本件発明10と甲2発明2とは、 「プロリンを含む、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための調味料組成物の、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、飲食品の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制するための使用」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点10-1(甲2発明2):プロリンが、本件発明10では、醤油を構成するプロリンを除くものであるのに対し、甲2発明2では、醤油を構成するプロリンである点 相違点10-2(甲2発明2):プロリン含有量が、本件発明10では、0.5~1.2重量%であるのに対し、甲2発明2では、プロリン含有量は明らかでない点 (ウ)判断 相違点10-1(甲2発明2)及び相違点10-2(甲2発明2)は、前記ウ(ア)dに記載した相違点1-1(甲2発明1)及び相違点1-2(甲2発明1)と同様であるから、前記ウ(イ)で述べたとおりである。 したがって、本件発明10は、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。 キ まとめ 以上より、本件発明1、3~7、9、10に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 (2)取消理由2(サポート要件)について ア 特許法第36条第6項第1号の判断の前提について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。 以下、この観点に立って、判断する。 イ 特許請求の範囲の記載 前記第3に記載したとおりである。 ウ 発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明には、背景技術(【0002】~【0010】)、発明が解決しようとする課題(【0011】)及び実施例(【0055】~【0139】)が記載されている。 エ 判断 (ア)本件発明8の課題について 発明の詳細な説明の、背景技術の記載(【0002】~【0010】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0011】)、及び、実施例の記載(【0055】~【0139】)からみて、本件発明8の解決しようとする課題は、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭の低減された、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制された、加熱調理された飲食品を提供することであると認める。 (イ)a 本件発明8の実施例として、実施例8の表17(【0112】)には、配合8-3又は配合8-4として、実施例7の表15(【0104】)の組成物7-3又は組成物7-4の調味料組成物[プロリン含有酵母エキスを10.00重量%又は20.0重量%、5’-リボヌクレオチド含有酵母エキスを各4.0重量%、果糖ぶどう糖液糖を含有]を各0.5重量%、醤油(ヤマサ醤油社製)を各5.0重量%、グルコース(和光社製 特級)を各0.5重量%及び水を各94.0重量%配合した食品を作成し、120℃40分間加熱して、官能評価に供しており、その評価結果として、表18(【0114】)には、配合8-3及び配合8-4の食品は、蒸れ臭、焦げ臭が低減されたことが記載されている。ここで用いられたプロリン及び核酸が、醤油を構成するプロリン及び核酸ではないことは、明らかである。 b 蒸れ臭、焦げ臭抑制効果が確認された配合のうち配合8-3又は配合8-4における、プロリンの最終濃度を検討すると、配合8-3又は配合8-4には、プロリンを含有する配合材料として、組成物7-3又は組成物7-4の調味料組成物の他に、「醤油(ヤマサ醤油社製)」が配合されているものの、本件発明8は「プロリン・・は醤油を構成するプロリン・・を除く」と規定されていることから、プロリンの最終濃度としては、組成物7-3又は組成物7-4の調味料組成物由来のプロリン濃度を計算すれば良いといえ、計算すると以下のとおり、プロリンの最終濃度は、0.0003-0.006重量%といえる。 配合8-3は、組成物7-3の調味料組成物[プロリン含有酵母エキス(プロリン含有量6%)10.00重量%]を0.5重量%配合したものであるから、当該調味料組成物由来のプロリン濃度は、0.003重量%(=0.5重量%×10.00重量%×0.06/100.0重量%)である。 配合8-4は、組成物7-4の調味料組成物[プロリン含有酵母エキス(プロリン含有量6%)20.00重量%]を0.5重量%配合したものであるから、当該調味料組成物由来のプロリン濃度は、0.006重量%(=0.5重量%×20.00重量%×0.06/100.0重量%)である。 c また、蒸れ臭、焦げ臭抑制効果が確認された配合のうち配合8-3又は配合8-4に含まれる核酸の最終濃度を計算すると、以下のとおり、核酸の最終濃度は、0.00084重量%-0.0042重量%といえる。 実施例7の【表15】(【0104】)には、5’-リボヌクレオチド含有酵母エキス[(*2)バーテックスIG20 富士食品工業 5’-リボヌクレオチドの含有量 21.0%]の含量が4.0重量%の調味料組成物(組成物7-3又は組成物7-4)が記載され、当該組成物7-3又は組成物7中の核酸濃度は、各0.84重量%(=4.0重量%×0.21)であり、実施例8の【表17】(【0112】)に、当該組成物7-3又は組成物7-4を飲食品に0.5重量%含ませたことが記載されており、当該飲食品中の核酸濃度を算出すると、0.0042重量%(=0.84重量%×0.005)である。 実施例9の【表20】(【0121】)には、5’-リボヌクレオチド含有酵母エキス[(*2)バーテックスIG20 富士食品工業 5’-リボヌクレオチドの含有量 21.0%]の含量が4.0重量%の調味料組成物(配合9-4)が記載され、当該配合中の核酸濃度は、0.84重量%(=4.0重量%×0.21)であり、実施例10の【表23】(【0128】)に、当該配合9-4で得られた組成物を加熱して得られた調味料組成物(組成物PR)を、飲食品に0.10重量%含ませたことが記載されており、当該飲食品中の核酸濃度を算出すると、0.00084重量%(=0.84重量%×0.001)である。 d そうすると、発明の詳細な説明の実施例の記載に基づいて、本件発明8をその範囲内で実施すれば、しょうゆ等の食材に基づくレトルト臭といった加熱劣化臭が低減された容器詰調味用組成物を得ることができると、当業者は理解でき、本件発明8の前記課題を解決し得ると認識できるといえる。 (ウ)申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書の16頁20行~18頁6行において、 a 訂正前の本件発明8に記載のプロリン最終濃度範囲における飲食品は、実施例に記載されておらず、訂正前の本件発明8が効果を奏するものと、本件明細書の記載から理解することはできない旨、 b 醤油はプロリンを元来含むも飲食品に相当するから、本件明細書の段落【0051】の記載より、実施例記載の飲食品は「本発明の飲食品」として不適となり、訂正前の本件発明8が効果を奏するものと、本件明細書の記載から理解することはできない旨、 を主張している。 しかしながら、aの主張について、本件発明8の範囲において当業者が前記課題を解決し得ると認識できることは、前記(イ)で述べたとおりである。 また、bの主張について、本件明細書の段落【0051】の記載は、本件発明8の飲食品が、元来プロリンを素材として含まず、調理の際に、蒸れ臭又は焦げ臭のように、高温で長時間加熱され、「醤油」の蒸れたような劣化臭に近いものを生じる飲食品であることを意味し、本件発明の調味料組成物の添加により、蒸れ臭又は焦げ臭の低減効果や、加熱時の飲食品の着色抑制効果が達成されるものであれば、当該飲食品として含まれるものであり、実施例の飲食品において醤油が使用されている場合であっても、上記効果が得られており、本件発明8の飲食品の範囲に含まれるといえる。 したがって、申立人の前記主張は採用できない。 オ まとめ したがって、本件発明8は発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。 よって、本件発明8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由についての判断 (1)申立理由1(新規性)(甲1に記載された発明を引用発明とする場合)について ア 甲1に記載された発明 甲1は、「醤油或いは醤油含有調味液で調味加工するレトルト食品の製造法において、醤油として濃口生醤油及び/又は淡口生醤油を使用することを特徴とするレトルト食品の製造法」(甲1a)に関し記載するものであって、その「レトルト食品の製造法」の具体例として、実施例1には、「濃ロ生醤油204CC、アミノ酸系調味料「ポリアミー(大洋漁業製)」14g、砂糖53g、水飴26g、グルタミン酸ソーダ8g、水8g、コハク酸ソーダ8g、ソルビット42g、ジンジャ-パウダー0.4g及びグアーガム2gの配合割合からなる蒲焼きの垂れ調味料を調製した。これを通常のアルミパウチ(100g/袋)に充填、脱気後、シールした後、120℃で20分間レトルト処理をし、レトルト蒲焼きの垂れ調味料(本発明品)を調製した。」(甲1c)ことが記載されている。この「レトルト蒲焼きの垂れ調味料」は、「レトルト食品の製造法」の具体例として実施例1で製造された食品であるから、「レトルト食品」といえ、レトルト処理する前の調味料として、「蒲焼きの垂れ調味料」が記載されているといえる。 そして、この「蒲焼きの垂れ調味料」をレトルト処理した「レトルト蒲焼きの垂れ調味料(本発明品)」、及び、対照品[本発明品の「濃口生醤油」の代わりに「濃口火入醤油」を使用する以外は本発明品と全く同様に処理して調製されたレトルト蒲焼きの垂れ調味料(対照品)]について、「2点比較法により20名の識別能力を有する訓練されたパネルにより官能検査を行い」(甲1c)、該評価結果が第1表に示され、「第1表の結果から、濃口生醤油を使用し得られたレトルト蒲焼きの垂れ調味料は、濃口火入醤油を使用する従来品に比べて、レトルト臭、焦臭が少なく、風味が良好であり・・が判る。」(甲1c)と記載されている。これは、最終的に製造されたレトルト食品である「レトルト蒲焼きの垂れ調味料(本発明品)」の調製方法が、「レトルト臭」及び「焦臭」を抑制する方法であることを示しているといえる。 そうすると、甲1には実施例1の「蒲焼きの垂れ調味料」として、 「濃ロ生醤油204CC、アミノ酸系調味料「ポリアミー(大洋漁業製)」14g、砂糖53g、水飴26g、グルタミン酸ソーダ8g、水8g、コハク酸ソーダ8g、ソルビット42g、ジンジャ-パウダー0.4g及びグアーガム2gの配合割合で調製された蒲焼きの垂れ調味料」 の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。 また、甲1には、実施例1の第1表における「本発明品」の評価結果より、甲1発明1である「蒲焼きの垂れ調味料」をレトルト処理した「レトルト蒲焼きの垂れ調味料(本発明品)」を調製する方法が、「レトルト臭」及び「焦臭」を抑制する方法といえることから、 「濃ロ生醤油204CC、アミノ酸系調味料「ポリアミー(大洋漁業製)」14g、砂糖53g、水飴26g、グルタミン酸ソーダ8g、水8g、コハク酸ソーダ8g、ソルビット42g、ジンジャ-パウダー0.4g及びグアーガム2gの配合割合からなる蒲焼きの垂れ調味料を調製し、これを通常のアルミパウチ(100g/袋)に充填、脱気後、シールした後、120℃で20分間レトルト処理をする、レトルト蒲焼きの垂れ調味料のレトルト臭及び焦臭を抑制する方法」 の発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)甲1発明1との対比 a 甲1発明1の「蒲焼きの垂れ調味料」は、濃口生醤油に、アミノ酸系調味料、砂糖、水飴、グルタミン酸ソーダ、水、コハク酸ソーダ、ソルビット、ジンジャ-パウダー及びグアーガムが配合されたものであり、組成物といえるから、本件発明1の「調味料組成物」に相当する。 b 甲1発明1の「濃口生醤油」について、一般に、醤油には、成分としてプロリンが含まれている(甲3a)ことから、甲1発明1の「濃口生醤油」には、プロリンが含まれているといえる。 そうすると、甲1発明1の「蒲焼きの垂れ調味料」は、「濃口生醤油」を含むものであるから、甲1発明1の「蒲焼きの垂れ調味料」と、本件発明1の「0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く」とは、「プロリンを含む」ものである点で共通する。 c 本件発明1の「蒸れ臭」及び「焦げ臭」について、本件明細書には「【0028】・・・本発明における蒸れ臭とは、例えば、一般に殺菌目的で強加熱された、レトルト食品や缶詰・ビン詰め食品等で感じるレトルト臭と同様のものである。また、コンビニエンスストアー等のおでんのだしや、駅構内のそば、うどん店等のだしのように、高温で長時間加熱され、醤油の蒸れたような劣化臭にも近いものも含む。一方、焦げ臭とは食品が過加熱された焦げた時に感じるような過度に香ばしい風味を言う」と記載されている。 ところで、甲1の実施例1で、甲1発明1の「蒲焼きの垂れ調味料」をレトルト処理した「レトルト蒲焼きの垂れ調味料(本発明品)」について官能検査を行ったところ、濃口火入醤油を使用する従来品に比べて、「レトルト臭」及び「焦臭」が少なくなったことが記載されており(甲1c)、当該「レトルト臭」は、本件発明1の「加熱により調理香が発現する際の、蒸れ臭」に該当し、また、当該「焦臭」は、本件発明1の「加熱により調理香が発現する際の」「焦げ臭」に該当するといえる。 そうすると、甲1発明1の「蒲焼きの垂れ調味料」は、加熱により調理香が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させるためのものといえるから、本件発明1の「加熱により調理香」「が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる」「ための」ものに相当する。 d したがって、本件発明1と甲1発明1とは、 「プロリンを含む、加熱により調理香が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、ための調味料組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1-1(甲1発明1):プロリンが、本件発明1では、醤油を構成するプロリンを除くものであるのに対し、甲1発明1では、醤油を構成するプロリンである点 相違点1-2(甲1発明1):プロリン含有量が、本件発明1では、0.5~1.2重量%であるのに対し、甲1発明1では、プロリン含有量は明らかでない点 (イ)判断 a 相違点1-1(甲1発明1)について 甲1発明1のプロリンは、「濃口生醤油」に含まれているプロリンであるから、醤油を構成するプロリンといえる。 そうすると、本件発明1のプロリンは、醤油を構成するプロリンを除くものであり、甲1発明1のプロリンは、本件発明1のプロリンにおいて除くものに該当するから、相違点1-1(甲1発明1)は実質的な相違点と認められる。 b 申立人の主張について 相違点1-2(甲1発明1)について、申立人は、特許異議申立書の6頁11行~7頁19行において、甲4の記載より、甲1の1発明には、フェネチルアセテートが5.6ppb含まれている(甲4b)から、実質的な相違点ではない旨、主張している。 しかしながら、本件訂正により、本件発明1のプロリンは、醤油を構成するプロリンを除くものとなり、これに基づく相違点1-1(甲1の1発明)については、前記aで述べたとおり、実質的な相違点と認められ、相違点1-2(甲1発明1)を検討するまでもないから、申立人の前記主張は採用できない。 (ウ)小括 したがって、相違点1-2(甲1発明1)を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。 ウ 本件発明5、6を含む、本件発明3~7について 本件発明3~6は、本件発明1を技術的に更に限定した発明であり、また、本件発明7は、本件発明1を発明特定事項として含む発明であるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明3~7は、甲1に記載された発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。 エ 本件発明9について (ア)本件発明9は、請求項1~6を引用して特定されている発明であり、請求項1の記載を用いて書き下すと、本件発明9は、以下のとおりである。 「 0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く、調味料組成物であって、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための調味料組成物を飲食品に添加し加熱する、ことを含む、飲食品の加熱時の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための方法。」 (イ)甲1発明2との対比 a 甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料」は、前記イ(ア)aで述べたことより、本件発明9の「調味料組成物」に相当する。 b 前記イ(ア)bで述べたことより、甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料」と、本件発明9の「0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く」とは、「プロリンを含む」ものである点で共通する。 c 甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料」は、前記イ(ア)cで述べたことより、本件発明9の「加熱により調理香」「が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる」「ための」ものに相当する。 d 甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料を調製し、これを通常のアルミパウチ(100g/袋)に充填、脱気後、シールした後、120℃で20分間レトルト処理をする」について、調製した「蒲焼きの垂れ調味料」自体をレトルト処理して、「レトルト蒲焼きの垂れ調味料」を得ている。 そうすると、甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料を調製し、これを通常のアルミパウチ(100g/袋)に充填、脱気後、シールした後、120℃で20分間レトルト処理をする」ことと、本件発明9の「調味料組成物を飲食品に添加し加熱する」こととは、調味料組成物を加熱する点で共通する。 e 甲1発明2の「レトルト蒲焼きの垂れ調味料のレトルト臭及び焦臭を抑制する方法」について、「レトルト蒲焼きの垂れ調味料」は、「レトルト食品の製造法」の具体例として実施例1で製造された食品であるから、飲食品といえる。 そうすると、前記イ(ア)cで述べたことも踏まえると、甲1発明2の「レトルト蒲焼きの垂れ調味料のレトルト臭及び焦臭を抑制する方法」は、本件発明9の「飲食品の加熱時の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、」「ための方法」に相当する。 f したがって、本件発明9と甲1発明2とは、 「プロリンを含む、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、ための調味料組成物を加熱する、ことを含む、飲食品の加熱時の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、ための方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点9-1(甲1発明2):プロリンが、本件発明9では、醤油を構成するプロリンを除くものであるのに対し、甲1発明2では、醤油を構成するプロリンである点 相違点9-2(甲1発明2):プロリン含有量が、本件発明9では、0.5~1.2重量%であるのに対し、甲1発明2では、プロリン含有量は明らかでない点 相違点9-3(甲1発明2):調味料組成物を加熱することについて、本件発明9は、調味料組成物を飲食品に添加し加熱するのに対し、甲1発明2は、調味料組成物自体を加熱する点 (ウ)判断 相違点9-1(甲1発明2)及び相違点9-2(甲1発明2)は、前記イ(ア)dに記載した相違点1-1(甲1発明1)及び相違点1-2(甲1発明1)と同様であるから、前記ウ(イ)で述べたとおりである。 したがって、相違点9-3(甲1発明2)を検討するまでもなく、本件発明9は、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。 オ 本件発明10について (ア)本件発明10は、請求項1~6を引用して特定されている発明であり、請求項1の記載を用いて書き下すと、本件発明10は、以下のとおりである。 「 0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く、調味料組成物であって、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための調味料組成物の、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、飲食品の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制するための使用。」 (イ)甲1発明2との対比 a 甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料」は、前記イ(ア)aで述べたことより、本件発明10の「調味料組成物」に相当する。 b 前記イ(ア)bで述べたことより、甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料」と、本件発明10の「0.5~1.2重量%のプロリンを含む、ただし、前記プロリンは醤油を構成するプロリンを除く」とは、「プロリンを含む」ものである点で共通する。 c 甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料」は、前記イ(ア)cで述べたことより、本件発明10の「加熱により調理香」「が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる」「ための」ものに相当する。 d 甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料を調製し、これを通常のアルミパウチ(100g/袋)に充填、脱気後、シールした後、120℃で20分間レトルト処理をする」について、調製した「蒲焼きの垂れ調味料」自体をレトルト処理して、「レトルト蒲焼きの垂れ調味料」を得ている。 そうすると、甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料を調製し、これを通常のアルミパウチ(100g/袋)に充填、脱気後、シールした後、120℃で20分間レトルト処理をする」ことと、本件発明9の「調味料組成物を飲食品に添加し加熱する」こととは、調味料組成物を加熱する点で共通する。 e 甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料・・を・・レトルト処理する、レトルト蒲焼きの垂れ調味料のレトルト臭及び焦臭を抑制する方法」について、「レトルト蒲焼きの垂れ調味料」は、「レトルト食品の製造法」の具体例として実施例1で製造された食品であるから、飲食品といえ、前記イ(ア)cで述べたことも踏まえると、甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料」は、加熱により調理香が発現する際の、飲食品である「レトルト蒲焼きの垂れ調味料」の蒸れ臭又は焦げ臭を弱くさせる、すなわち、低減させるために使用されているといえる。 そうすると、甲1発明2の「蒲焼きの垂れ調味料・・を・・レトルト処理をする、レトルト蒲焼きの垂れ調味料のレトルト臭及び焦臭を抑制する方法」は、本件発明10の「加熱により調理香が発現する際の、飲食品の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させるための使用」に相当する。 e したがって、本件発明10と甲1発明2とは、 「プロリンを含む、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、ための調味料組成物の、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、飲食品の蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制するための使用」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点10-1(甲1発明2):プロリンが、本件発明10では、醤油を構成するプロリンを除くものであるのに対し、甲1発明2では、醤油を構成するプロリンである点 相違点10-2(甲1発明2):プロリン含有量が、本件発明10では、0.5~1.2重量%であるのに対し、甲1発明2では、プロリン含有量は明らかでない点 (ウ)判断 相違点10-1(甲1発明2)及び相違点10-2(甲1発明2)は、前記イ(ア)dに記載した相違点1-1(甲1発明1)及び相違点1-2(甲1発明1)と同様であるから、前記イ(イ)で述べたとおりである。 したがって、本件発明10は、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明であるとはいえないので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。 キ まとめ 以上より、本件発明1、3~7、9、10に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 (2)申立理由2(進歩性)について ア 本件発明2について (ア)本件発明2と甲2発明1との対比 本件発明2は、本件発明1において、「プロリンを含む」を「プロリン含有酵母エキスとして含む」と更に限定した発明である。 そうすると、前記1(1)ウ(ア)で述べたことを踏まえると、本件発明2と甲2発明1とは、 「プロリンを含む、加熱により調理香が発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、ための調味料組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点2-1(甲2発明1):プロリンが、本件発明2では、醤油を構成するプロリンを除くものであるのに対し、甲2発明1では、醤油を構成するプロリンである点 相違点2-2(甲2発明1):プロリン含有量が、本件発明2では、0.5~1.2重量%であるのに対し、甲2発明1では、プロリン含有量は明らかでない点 相違点2-3(甲2発明1):プロリンが、本件発明2では、プロリン含有酵母エキスとして含むものであるのに対し、甲2発明1では、プロリン含有酵母エキスとして含むものではない点 (イ)判断 a 相違点について (a)相違点2-1(甲2発明1)について検討する。 相違点2-1(甲2発明1)は、前記1(1)ウ(ア)に記載した相違点1-1(甲2発明1)と同様であるから、前記1(1)ウ(イ)で述べたとおり、相違点2-1(甲2発明1)は実質的な相違点と認められる。 (b)i 甲2発明1は、「醤油または醤油様発酵調味料に、本来の風味を損なうことなく、「あつみ」および「こく味」を付与するための新規な呈味改善方法を提供すること、および呈味の改善された醤油または醤油様発酵調味料を用いた、加熱調理時に良好な呈風味を有する食品の製造方法を提供する」(甲2b)という課題の下、「醤油または醤油様発酵調味料の重量を100として、ヒスチジンを0.3~5.0、乳酸を0.5~10.0、カリウムを0.1~2.0、イノシン酸を0.1~2.0、グルタミン酸を0.005~1.0の重量比率にて配合」することにより「呈風味の改善された醤油または醤油様発酵調味料」(甲2a)として、当該課題を解決したものであって、その具体例である甲2発明1の「呈味の改善された醤油」において、「醤油」は必須の技術的特徴である。 それ故、甲2発明1のプロリンは、その必須の技術的特徴の「醤油」である「市販濃口醤油」に含まれているプロリンであり、醤油を構成するプロリンであるから、甲2発明1のプロリンとして、醤油を構成するプロリンを除くものとしようという動機付けがあるとは認められない。 ii また、甲3及び甲4を含め、甲1、甲3及び甲4には、甲2発明1のプロリンとして、醤油を構成するプロリンを除くものとしようとすることを当業者が動機付ける記載や示唆を認めることはできない。 iii そうすると、甲2発明1のプロリンとして、醤油を構成するプロリンを除くものとしようとすることについては、甲1~甲4のいずれにも記載も示唆もなく、本件出願時の技術常識であったとも認められず、他に動機付けられるものもない以上、甲2発明1のプロリンとして、醤油を構成するプロリンを除くものとしようとすることは、当業者といえども、甲1~甲4の記載から容易に想到し得たこととはいえない。 b 本件発明2の効果について 本件発明2の効果は、本件明細書の発明が解決しようとする課題の記載(【0011】)及び実施例の記載(【0055】~【0139】)から理解されるように、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭の低減された、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制された、加熱調理された飲食品を提供することが可能となるというものであり、そのような効果は、甲1~甲4の記載から当業者が予測し得ない顕著なものである。 c 申立人の主張について 相違点2-2(甲2発明1)及び相違点2-3(甲2発明1)について、申立人は、特許異議申立書の13頁7行~下から4行において、「煮込み料理など、長時間加熱調理を行った際に「酸化臭」「劣化臭」などの好ましくないにおいが発現する」という課題が公知(甲第2号証、段落[0005])であったところ、当該課題を解決すべく醤油と酵母エキスの最適な配合比率を調製することは、当業者であれば当然なし得たことであり、このような一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化は当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない」旨、主張している。 しかしながら、長時間加熱調理を行った際に「酸化臭」「劣化臭」などの好ましくない臭いを抑制しようという課題の下、「当該課題を解決すべく醤油と酵母エキスの最適な配合比率を調製することは、当業者であれば当然なし得たこと」といえる証拠は示されておらず、論理的説明もなされておらず、そのようにいえる技術常識があったものとも認められない。 また、相違点2-1(甲2発明1)については、前記aで述べたとおりであり、この点につき申立人に意見を求めたが、応答はなされなかった。 したがって、申立人の前記主張は採用することができない。 (ウ)小括 したがって、相違点2-2(甲2発明1)及び相違点2-3(甲2発明1)を検討するまでもなく、本件発明2は、甲2に記載された発明及び甲1~甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 イ 本件発明3、4、7について 本件発明3、4は、本件発明2を技術的に更に限定した発明を含むものであり、また、本件発明7は、本件発明2を発明特定事項として含む発明であるから、本件発明2と同様の理由により、本件発明3、4、7も、甲2に記載された発明及び甲1~甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。 ウ まとめ 以上より、本件発明2~4、7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。 (3)申立理由4(サポート要件)の(1)について 申立人は、「エ 記載不備の理由」(特許異議申立書13頁下から3行~16頁19行)において、申立理由3(実施可能要件)及び申立理由4(サポート要件)の(1)の具体的理由として、同様の主張内容に基づいて、両方の理由を主張していることから、当決定では、事案に鑑み、申立理由4(サポート要件)の(1)から検討する。 ア 本件発明1、2、5、6を含む、本件発明1~7の課題について 発明の詳細な説明の、背景技術の記載(【0002】~【0010】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0011】)、及び、実施例の記載(【0055】~【0139】)からみて、本件発明1~6の解決しようとする課題は、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、調味料組成物を提供すること、及び、本件発明7の解決しようとする課題は、その調味料組成物の製造方法を提供することであると認める。 イ 発明の詳細な説明の実施例1~9(【0056】~【0125】)には、本件発明1~7の実施例として、0.5~1.2重量%のプロリンを含む(プロリン含有酵母エキスとして含み、醤油を構成するプロリンではない)調味料組成物、さらに核酸である5’-リボヌクレオチドを含む調味料組成物、及び、さらにグルタチオン酵母エキスを含む調味料組成物である、組成物3、組成物4、組成物3-4、組成物3-5、組成物5-2、組成物7-3、組成物7-4、組成物9-2及び組成物9-4が記載され、これらの組成物を添加した食品等をレトルト処理し官能評価したところ、蒸れ臭又は焦げ臭が低減されたことを客観的に確認したことが記載されている。 ウ 本件発明の調味料組成物が「蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する」作用機序に関連する事項として、発明の詳細な説明には、以下のことが記載されている。 背景技術として、「【0002】 加熱調理における調理香に関する技術 ・・・食品を加熱すると生の状態とはまったく異なった香気が生成する。これは加熱によって食品中の成分が低分子化合物に分解されて反応が連鎖し香気が生成することによるが、主には、糖とアミノ酸の加熱反応で起こるアミノカルボニル反応であり、食品加熱による香りの生成に重要な役割を果たしている。・・」と記載されている。 また、一般的な実施の態様の記載として、「【0026】 本発明はメイラード反応などを例とする糖分とアミノ酸存在下での加熱反応を利用するものである。本発明における「加熱により調理香又はミートフレーバーは発現する際の」の「加熱」とは、・・広くアミノカルボニル反応を生じる処理を意味する。」、 「【0031】・・本発明の調味料組成物は、加熱時の飲食品の着色を抑制する効果を有する。「着色」とは、アミノ酸と糖を加熱した、カラメル様の黒褐色の色調をいう。一般にメイラード反応型の調味料組成物は、調理や加工工程等でさらに加熱されると、メイラード反応の最終段階であるメラノイジンの生成まで反応が進み、飲食品の着色の原因となる。・・」、及び、 「【0033】・・本発明の該メイラード反応型調味料組成物は、食品に添加され、加熱工程を経ても、蒸れ臭、焦げ臭の発生、および着色を低減する。・・理論に縛られるわけではないが、香気成分発現以降の蒸れ臭、焦げ臭等を発生させている臭気物質、着色物質であるメラノイジンなどの生成までの反応経路に何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆される。」と記載されている。 これらの記載より、本件発明の調味料組成物は、糖とアミノ酸の加熱反応で起こるアミノカルボニル反応(メイラード反応を例とする反応)を利用するものであり、蒸れ臭、焦げ臭、着色物質等を発生させているメラノイジンなどの生成の反応経路に何らかの影響を及ぼすことにより、当該調味料組成物が食品に添加され加熱工程を経ても、蒸れ臭又は焦げ臭の発生を低減させる、及び、加熱時の着色を抑制することが理解される。 これは、糖とアミノ酸の加熱反応によりアミノカルボニル反応が起こる調味料組成物であれば、所定濃度のプロリン含有による蒸れ臭又は焦げ臭の低減、並びに/あるいは、加熱時の着色の抑制が可能であると理解され、酵母エキス類及び糖類にプロリン源を配合した調味料組成物に限るものではないといえる。 エ そうすると、本件発明1~7で特定される「調味料組成物」であれば、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、調味料組成物、及び、その調味料組成物の製造方法を提供できると当業者は理解でき、本件発明1~7の課題を解決し得ると認識できるといえ、本件発明1~7は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。 オ まとめ したがって、本件発明1~7は発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。 よって、本件発明1~7に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。 (4)申立理由3(実施可能要件)について 前記(3)で述べたように、発明の詳細な説明の実施例の記載に基づいて、本件発明1~7で特定される「調味料組成物」であれば、加熱により調理香又はミートフレーバーが発現する際の、蒸れ臭又は焦げ臭を低減させる、並びに/あるいは、加熱時の着色を抑制する、調味料組成物を製造することができることを考慮すると、当業者は本件発明1~7を、当業者に通常期待し得る程度を超える過度の試行錯誤なく実施できるといえる。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~7を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 よって、本件発明1~7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1、2、5、6、8~10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由並びに証拠によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件発明1、2、5、6、8~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700664

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