特許異議申立
2020-700609
充電式バッテリー用のリチウム遷移金属酸化物カソード材料の前駆体
- 審判番号
- 2020-700609
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-532845
- 登録番号
- 特許第6649489号(P6649489)
- 請求日
- 2020年08月18日
- 審決日
- 2021年07月06日
- 公報発行日
- 2021年10月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ユミコア
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】阿部 達彦
- 【権利者】ユミコア・コリア・リミテッド
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】阿部 達彦
- 【異議申立人】竹下 瑞恵
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 大光 太朗
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1652.113-YAA(C01G) / P1652.121-YAA(C01G) / P1652.16 -YAA(C01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6649489号発明「充電式バッテリー用のリチウム遷移金属酸化物カソード材料の前駆体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6649489号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
特許第6649489号の請求項1~8、12、13に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第6649489号の請求項1~13に係る特許についての出願は、2016年(平成28年) 9月23日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2015年 9月30日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和 2年 1月20日にその特許権の設定登録がされ、令和 2年 2月19日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許の請求項1~8、12、13に係る特許について、令和 2年 8月18日に特許異議申立人 竹下 瑞恵(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和 2年11月10日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和 3年 2月12日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和 3年 4月12日に意見書を提出した。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
前記訂正の請求は、願書に添付した特許請求の範囲の訂正であって、一群の請求項を構成する請求項1~13を訂正の単位とするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に従うものであるところ、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)、(2)のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用するためのリチウム遷移金属(M)酸化物粉末を製造するための微粒子前駆体化合物であって、」
と記載されているのを、
「リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用するためのリチウム遷移金属(M)酸化物粉末を製造するための微粒子前駆体化合物であって、前記前駆体化合物の比表面積は12<BET<50m2/gであり、」
と訂正する(請求項1を引用する請求項2~13も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「前記前駆体化合物の比表面積が12<BET<50m2/gである」
と記載されているのを、
「前記前駆体化合物の比表面積が13.5≦BET≦37.0m2/gである」
と訂正する(請求項2を引用する請求項4、6、13も同様に訂正する。)。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「微粒子前駆体化合物」について、「比表面積」を「12<BET<50m2/g」の範囲に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項2の記載に基づいて前駆体化合物の「比表面積」を限定するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2に記載された「比表面積」を「13.5≦BET≦37.0m2/g」の範囲にさらに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、願書に添付した明細書の表6のEX24にはBETが37.0m2/gであるものが、同表7のEX31にはBETが13.5m2/gであるものがそれぞれ記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
3 独立特許要件について
訂正事項1、2は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする請求項1~13に係る訂正であるところ、請求項9~11は特許異議の申立てがされていない請求項であるから、当該請求項9~11に係る訂正については、さらに特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)に適合することが必要である。
そこで、本件訂正後における特許請求の範囲の請求項9~11に記載されている事項により特定される発明(本件訂正後の請求項9~11に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか否かについて検討すると、本件訂正後の請求項9~11に係る発明は、いずれも本件訂正前の請求項9~11に係る発明の発明特定事項を有するものである。そして、本件訂正前の請求項9~11に係る発明は、拒絶理由を有しないものとして特許されたものであり、特許異議申立人からも当該発明が特許を受けることができないものであるとする理由は示されておらず、あらためて検討しても同理由は見当たらないから、本件訂正前の請求項9~11に係る発明の発明特定事項を有する本件訂正後の請求項9~11に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、独立特許要件に適合するものと認められる。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正の請求は適法にされたものであり認容できるから、本件特許の請求項1~13に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認められる(以下、各請求項に係る発明を項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用するためのリチウム遷移金属(M)酸化物粉末を製造するための微粒子前駆体化合物であって、前記前駆体化合物の比表面積は12<BET<50m2/gであり、(M)はNixMnyCozAvであり、Aはドーパントであり、0.33<x≦0.60、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、並びにx+y+z+v=1であり、前記前駆体化合物が、Ni、Mn及びCoをx:y:zのモル比で含み、m2/g単位の比表面積BET及び重量%で表される硫黄含有率Sを有し、
【数1】
である、又は
x=0.33、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、並びにx+y+z+v=1であり、前記前駆体化合物が、Ni、Mn及びCoをx:y:zのモル比で含み、m2/g単位の比表面積BET及び重量%で表される硫黄含有率Sを有し、
【数2】
である、微粒子前駆体化合物。
【請求項2】
前記前駆体化合物の比表面積が13.5≦BET≦37.0m2/gである、請求項1に記載の微粒子前駆体化合物。
【請求項3】
0.33<x≦0.60かつ
【数3】
である、請求項1に記載の微粒子前駆体化合物。
【請求項4】
0.33<x≦0.60かつ
【数4】
である、請求項2に記載の微粒子前駆体化合物。
【請求項5】
x≦0.50かつ
【数5】
である、請求項1に記載の微粒子前駆体化合物。
【請求項6】
x≦0.50かつ
【数6】
である、請求項2に記載の微粒子前駆体化合物。
【請求項7】
前記前駆体化合物がヒドロキシドM-OH又はオキシヒドロキシドM-OOH化合物である、請求項1に記載の微粒子前駆体化合物。
【請求項8】
ハイブリッド電気自動車用リチウムイオンバッテリーの正極活物質のためのリチウム遷移金属(M)酸化物粉末の前記製造における請求項1に記載の前駆体化合物の使用であって、前記前駆体化合物の中央粒径が3μm≦D50≦6μmである、前駆体化合物の使用。
【請求項9】
請求項1に記載の微粒子前駆体化合物を調製する方法であって、
液体媒体の流れを含むループ反応ゾーン、及び前記液体媒体の流れに動力を送達するための手段、を有するループ反応器を準備する工程と、
M-SO4の流れ及びNaOH又はNa2CO3のいずれかの流れを、前記ループ反応ゾーンの別個の部分に供給することにより、前記M-SO4の少なくとも一部分と、前記NaOH又はNa2CO3のいずれかとを反応させることで、前記微粒子前駆体化合物を前記液体媒体の流れ内に形成する工程であって、Mは請求項1に規定された通りである工程と、
前記液体媒体を前記ループ反応ゾーン全体にわたって連続的に循環する工程と、
前記ループ反応ゾーンから、前記形成された前駆体化合物を含む前記液体媒体の一部分を排出する工程と、を含み、
それによって、前記手段によって前記液体媒体の流れに送達される前記動力を1~25W/kgとする、方法。
【請求項10】
前記ループ反応器の平均滞留時間を5~90分とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ループ反応器内の温度を45~200℃とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用するためのリチウム遷移金属(M)酸化物粉末を調製する方法であって、
請求項1に記載の前駆体化合物を準備する工程と、
Li前駆体化合物を準備する工程と、
前記前駆体化合物と前記Li前駆体とを混合する工程と、
前記混合物を600~1100℃の温度で少なくとも1時間焼成する工程と、
を含む、方法。
【請求項13】
リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用するためのリチウム遷移金属(M)酸化物粉末を調製する方法であって、
請求項2に記載の前駆体化合物を準備する工程と、
Li前駆体化合物を準備する工程と、
前記前駆体化合物と前記Li前駆体とを準備する工程と、
前記混合物を600~1100℃の温度で少なくとも1時間焼成する工程と、
を含む、方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和2年11月10日付けで特許権者に通知した取消理由は、本件訂正前の請求項1、7、12に係る特許に対してされた、特許法第29条の2所定の規定違反(拡大先願)に関するものであり、その要旨は、次のとおりである。
すなわち、本件訂正前の請求項1、7、12に係る発明は後記先願5明細書等に記載された発明と同一であるから、本件訂正前の請求項1、7、12に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである、というものである。
2 取消理由(拡大先願)についての当審の判断
(1)先願5明細書等の記載内容及び甲5発明1
ア 先願5明細書等の記載内容
申立人が提出した甲第5号証に係る特願2014-259061号(特開2016-117625号公報参照。以下「先願5」という。)の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲(以下、「先願5明細書等」という。)には、以下(5a)~(5f)の記載がある(当審注:「・・・」は当審による省略を表す。下線は当審による。以下、同様)。
(5a)「【0001】
本発明は、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物、及びニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。このような要求を満たす二次電池としては、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極及び正極と電解液等で構成され、負極及び正極の活物質として、リチウムを脱離及び挿入することが可能な材料が用いられている。」
(5b)「【0016】
本発明の目的は、リチウムとの反応を阻害する原因となり、充放電反応に寄与しない不純物量を低減させることで、リチウムとの反応性を高めて、高容量な非水系電解質二次電池を得ることが可能な正極活物質の前駆体であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物とその製造方法を提供することにある。」
(5c)「【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例は、以下の装置及び方法を用いた測定結果により評価した。
【0085】
実施例1~12、比較例1~4について、晶析工程により得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を洗浄、固液分離、乾燥し粉体として回収後、以下の方法で各種分析を実施した。
【0086】
ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の組成は、試料を硝酸溶解した後、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS-8100)で測定した。
【0087】
硫酸根含有量は、試料を硝酸溶解した後、ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS-8100)により硫黄元素を測定し、この測定された硫黄元素の量をSO4に換算することにより求めた。
・・・
【0090】
比表面積は、比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製、カンタソーブQS-10)を用いて、BET法により測定した。
【0091】
また、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、以下の方法で作製及び評価を行った。ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を、空気(酸素:21容量%)気流中にて温度700℃で6時間の熱処理を行い、複合酸化物粒子を回収した。続いて、Li/Me=1.025となるように水酸化リチウムを秤量し、回収した複合酸化物粒子と混合して混合物を形成した。混合は、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
【0092】
次に、得られたこの混合物を酸素気流中(酸素:100容量%)にて500℃で4時間仮焼した後、730℃で24時間焼成し、冷却した後に解砕してリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。」
(5d)「【0096】
(実施例1)
・・・
【0102】
(実施例2)
実施例2では、硫酸ニッケルと塩化コバルト、硫酸マンガンを水に溶かして2.0mol/Lの混合水溶液を形成する際に、この混合水溶液の各金属元素モル比が、Ni:Co:Mn=6:2:2となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得るとともに評価した。」
(5e)「【0117】
(評価)
実施例1~12及び比較例1~4のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の製造条件を表1に示す。さらに得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の評価結果を表2に、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の評価結果を表3に示す。」
(5f)「【0123】
【表2】
」
イ 先願5明細書等に記載された発明(甲5発明1)
前記ア(5a)~(5b)のとおり、先願5明細書等には、リチウムイオン二次電池の正極活物質の前駆体であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物について記載されている。
また、前記ア(5c)、(5e)のとおり、先願5明細書等には、実施例として、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子、及び、当該複合水酸化物粒子から製造された、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の解砕物が記載されている。
そして、前記ア(5a)~(5f)から、先願5明細書等には、実施例2に基づくニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子の発明として、次の発明(以下、「甲5発明1」という。)が記載されていると認められる。
「リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用するためのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の解砕物を製造するための平均粒径7.0μmの前駆体であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子であって、モル比がNi:Mn:Co=6:2:2であり、BET比表面積が11m2/gであり、硫酸根が0.32質量%である、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子。」
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲5発明1との対比
甲5発明1の「リチウムイオン二次電池」、「リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の解砕物」及び「前駆体であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子」は、それぞれ本件発明1の「リチウムイオンバッテリー」、「リチウム遷移金属(M)酸化物粉末」及び「微粒子前駆体化合物」に相当する。
また、甲5発明1において「ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子」の「モル比がNi:Mn:Co=6:2:2」であることは、本件発明1に当てはめるとx、y、z、vがそれぞれ0.6、0.2、0.2、0となり、本件発明1において「(M)はNixMnyCozAvであり、Aはドーパントであり、0.33<x≦0.60、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、並びにx+y+z+v=1であり、前記前駆体化合物が、Ni、Mn及びCoをx:y:zのモル比で含」むことに相当する。
そして、甲5発明1において「硫酸根が0.32質量%である」ことから、当該硫酸根を硫黄含有率Sに換算すると、硫黄含有率Sが約0.107と算出される。
以上のようにして甲5発明1から導かれるx=0.6、S=0.107、さらには、甲5発明1のBET比表面積の数値(BET=11)を本件発明1の「数1」の左辺に代入すると、その値は約0.984となり、甲5発明1は、当該「数1」の関係式を満足することが分かるから、甲5発明1において「モル比がNi:Mn:Co=6:2:2であり、BET比表面積が11m2/gであり、硫酸根が0.32質量%である」ことは、本件発明1において「(M)はNixMnyCozAvであり、Aはドーパントであり、0.33<x≦0.60、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、並びにx+y+z+v=1であり、前記前駆体化合物が、Ni、Mn及びCoをx:y:zのモル比で含み、m2/g単位の比表面積BET及び重量%で表される硫黄含有率Sを有し、
【数1】
である」ことに相当する。
してみれば、本件発明1と甲5発明1との間には、次の一致点及び相違点が存するものと認められる。
・一致点
「リチウムイオンバッテリー中の正極活物質として使用するためのリチウム遷移金属(M)酸化物粉末を製造するための微粒子前駆体化合物であって、(M)はNixMnyCozAvであり、Aはドーパントであり、0.33<x≦0.60、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、並びにx+y+z+v=1であり、前記前駆体化合物が、Ni、Mn及びCoをx:y:zのモル比で含み、m2/g単位の比表面積BET及び重量%で表される硫黄含有率Sを有し、
【数1】
である、又は x=0.33、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、並びにx+y+z+v=1であり、前記前駆体化合物が、Ni、Mn及びCoをx:y:zのモル比で含み、m2/g単位の比表面積BET及び重量%で表される硫黄含有率Sを有し、
【数2】
である、微粒子前駆体化合物」である点。
・相違点1
本件発明1の「前駆体化合物の比表面積」は「12<BET<50m2/gであ」るのに対し、甲5発明1の「ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子」の「BET比表面積」は「11m2/g」である点。
(イ)相違点1についての検討(拡大先願についての判断)
甲5発明1の「ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子」の「BET比表面積」が、本件発明1の「前駆体化合物の比表面積」の数値範囲に含まれないことは明らかであって、前記(ア)の相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1が先願5明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。
イ 本件発明7、12について
本件発明7、12は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、前記アに示した理由と同様の理由により、先願5明細書等に記載された発明と同一であるとはいえないことは明らかである。
(3)小括
以上のとおりであるから、前記取消理由に理由はない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、前記第4の取消理由において採用しなかったものは、概略、以下のとおりである。
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1~8、12、13に係る発明は、甲第1号証~甲第4号証のいずれかに記載された発明であるから、本件訂正前の請求項1~8、12、13に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~8、12、13に係る発明は、甲第1号証~甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~8、12、13に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(拡大先願)
本件訂正前の請求項2、8、13に係る発明は、甲第5号証に係る上述の先願5明細書等に記載された発明と同一であるから、本件訂正前の請求項2、8、13に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2003-59490号公報
甲第2号証:特開2008-195608号公報
甲第3号証:特開2014-222583号公報
甲第4号証:国際公開2014/098238号公報
甲第5号証:特願2014-259061号(特開2016-117625号公報)(先願5)
甲第6号証:特開2012-252964号公報
なお、甲第6号証は、本件訂正前の請求項1に記載された化合物のドーパントAなどについて補足するための証拠にすぎない。
2 申立理由1、2(新規性・進歩性欠如)についての当審の判断
(1)甲第1号証を主引用例とする場合について
ア 甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、以下(1a)~(1c)の記載がある。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、優れた特性を有する、リチウムイオン二次電池用正極活物質として有用なリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物およびその製造方法、さらにはそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
・・・
【0003】
【課題を解決するための手段】本発明者はかかる要望を満たすLiCoO2に代わる物質を探求すべく鋭意研究し、以下に説明する製造方法を用いることにより、4V級正極活物質としてニッケル、コバルトおよびマンガンの原子比が実質的に1:1:1であるLi[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2なる組成を有するものが、リチウムイオン二次電池に応用するに望まれる種々の優れた特性を有することを見出した。さらには、この本発明にかかるリチウムマンガンニッケル複合酸化物を用いた優れた特性を有するリチウムイオン二次電池を得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0004】
・・・
また、本発明にかかる非水電解質二次電池用正極活物質は、ニッケル元素、コバルト元素、及びマンガン元素の比率の誤差が10原子%以内であることを特徴とする。
・・・
【0006】また、本発明は、前記説明した特性を示すリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物の製造方法を提供するものである。すなわち、本発明にかかる非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、pH9~13の水溶液中で錯化剤の存在下、ニッケルと、コバルトと、マンガンとの原子比が実質的に1:1:1であるニッケル塩とコバルト塩とマンガン塩との混合水溶液を不活性ガス雰囲気下でアルカリ溶液と反応、共沈殿させてニッケルと、コバルトと、マンガンとの原子比が実質的に1:1:1であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物および/またはニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得る工程1と、ニッケルとコバルトとマンガンとの合計の原子比とリチウムの原子比が実質的に1:1となるように、前記水酸化物および/または酸化物とリチウム化合物との混合物を700℃以上で焼成する工程2とからなることを特徴とする。」
(1b)「【0008】
【発明の実施の形態】製造方法
・・・
【0009】ここで使用可能なニッケル塩は、水溶液中で生成するニッケルイオンが錯化剤と錯体を形成可能なものであればよく特に制限はない。具体的には硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケルが挙げられる。同様に使用可能なコバルト塩は、水溶液中で生成するコバルトイオンが錯化剤と錯体を形成可能なものであればよく特に制限はない。具体的には硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルトが挙げられる。使用可能なマンガン塩は特に制限はなく水溶液中で生成するマンガンイオンが錯化剤と錯体を形成可能なものであればよい。具体的には硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガンが挙げられる。本発明においてニッケル、コバルト、マンガンの原子比が実質的に1:1:1とは、それぞれプラスマイナス10%程度の範囲であれば含まれる。またこの値は種々の金属分析方法(例えばICP法)により正確に測定することができる。」
(1c)「【0014】ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物本発明の製造方法工程1により得られる原料であるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の走査式電子顕微鏡(以下SEMという。)写真を図1に示す。写真の倍率は5000倍である。写真から原料粒子は実質的に球状であることがわかる。また、1次粒子が密に充填されていることがわかる。複合酸化物の元素分析値およびその他の物性値の一例を表1に示す。
【0015】
・・・
【0020】次に得られたマンガンニッケル複合水酸化物の(Ni+Co+Mn)に対し原子比がLi/(Ni+Co+Mn)=1.0となるように、水酸化リチウム一水和物を秤量し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物と十分に混合し、1000℃にて大気雰囲気中で15時間焼成後、粉砕しリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た。」
イ 甲第1号証に記載された発明
前記ア(1a)、(1b)によれば、甲第1号証には、リチウムイオン二次電池用正極活物質として有用なリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物およびその製造方法に関する発明が記載されており、当該正極活性物質として、ニッケル、コバルトおよびマンガンの原子比が実質的に1:1:1であるLi[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2なる組成を有するものが記載されている。
前記ア(1c)には、複合化合物の組成及び物性値として、Ni(mol%):33.4、Co(mol%):33.2、Mn(mol%):33.4、比表面積(m2/g):13.5、SO4(%):0.03であるものが記載されている。
したがって、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「リチウムイオン二次電池用正極活物質として有用なリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物として、ニッケル、コバルトおよびマンガンの原子比が33.4:33.2:33.4であるLi[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2であり、比表面積(m2/g)13.5、SO4(%)0.03であるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物。」
ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点2:本件発明1は、「リチウム遷移金属(M)酸化物粉末」の(M)が「NixMnyCozAv」で表され、x、y、z、vがそれぞれ0.33<x≦0.60、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、並びにx+y+z+v=1であるか、又はx=0.33、0.20≦y≦0.33、及び0.20≦z≦0.33、v≦0.05、並びにx+y+z+v=1であるのに対し、甲1発明の「リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物」は、ニッケル、コバルト、マンガンのmol%比が33.4:33.2:33.4であるLi[Ni1/3Co1/3Mn1/3]O2なる組成を有しており、本件発明1の「リチウム遷移金属(M)酸化物粉末」の組成とは異なる点。
(イ)相違点2についての検討
以下、前記(ア)の相違点2について検討する。
前記ア(1a)~(1c)によれば、甲第1号証には、リチウムイオン二次電池に応用するに望まれる種々の特性を向上させるため、ニッケル、コバルトおよびマンガンの原子比を実質的に1:1:1とすることが記載されており、当該比に調整した組成とすることで、リチウムイオン二次電池に応用する際に優れた作用・効果を発揮する「リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物」を提供するものである。
そうしてみると、甲1発明において、「リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物」のニッケル、コバルトおよびマンガンの原子比を別の原子比に変更する動機付けはないし、甲第1号証には、ニッケル、コバルト、マンガンの原子比を本件発明1の数値範囲とすることは記載も示唆もされていないから、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。
エ 本件発明2~8、12、13について
本件発明2~8、12、13は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項をさらに減縮したものであるから、前記ウ(イ)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明などに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)甲第2号証を主引用例とする場合について
ア 甲第2号証の記載内容
甲第2号証には、以下(2a)~(2c)の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケル酸化物の製造原料として使用される高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケルであって、
前記高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケルを(Ni(1-x-y)CoxMny)(OH)2と表した場合に、1/10≦x≦1/3、1/20≦y≦1/3であり、かつ、タッピング密度が1.5g/cc以上であることを特徴とする、高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケル。
【請求項2】
平均粒径が5~20μm、比表面積が8~30m2/gの球状である請求項1記載の高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケル。」
(2b)「【0001】
本発明は、充放電サイクル特性、高温安定性に優れたリチウムイオン二次電池用の正極活物質原料たる高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケル及びその製造法に関するものである。
・・・
【0007】
高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケル 本発明にかかるコバルトマンガン共沈水酸化ニッケルは、高密度であることが特徴であり、具体的には1.5g/cc以上である。さらに本発明にかかるコバルトマンガン共沈水酸化ニッケルの比表面積は8~20m2/gの範囲であり、また図1に示されるように平均粒径は5~20μmの範囲である球状である。他の成分としてのコバルト及びマンガンの含有量には特に制限はないが、(Ni(1-x-y)CoxMny)(OH)2と表した場合において、1/10≦x≦1/3、1/20≦y≦1/3であることが好ましい。」
(2c)「【0021】
実施例3
70φパドルタイプの攪拌羽根1枚を備えた攪拌機とオーバーフローパイプを備えた15Lの円筒形反応槽に水を13L入れた後、pHが10.9になるまで30%水酸化ナトリウム溶液を加え50℃に保持し1000rpmの速度にて攪拌を行った。また、反応槽に窒素ガスを0.5L/分の流量にて連続的に供給し、反応槽内の雰囲気を窒素雰囲気とした。次に1.7mol/L硫酸ニッケル液と1.5mol/L硫酸コバルト液と1.1mol/L硫酸マンガン水溶液をNi:Co:Mn=1:1:1(モル比)となるように混合した混合液を12cc/分、6mol/L硫酸アンモニウム溶液を1.2cc/分の流量にて同時に反応槽に連続的に添加した。さらに反応槽内の溶液がpH10.9になるように30%水酸化ナトリウムを断続的に加えコバルトマンガン共沈水酸化ニッケル粒子を形成させた。反応槽内が定常状態になった120時間後にオーバーフローパイプよりコバルトマンガン共沈水酸化ニッケル粒子を連続的に24時間採取し水洗後、濾過し100℃にて15時間乾燥し、Ni:Co:Mn=1:1:1であるコバルトマンガン共沈水酸化ニッケル乾燥粉末を得た。タッピング密度は1.82g/ccであった。」
イ 甲第2号証に記載された発明
前記ア(2a)、(2b)によれば、甲第2号証は、リチウムイオン二次電池用の正極活物質原料である、リチウムニッケル酸化物の製造原料として使用される高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケルに関するものであり、比表面積が8~30m2/gの球状であるものが記載されている。
前記ア(2c)の実施例3には、具体的なコバルトマンガン共沈水酸化ニッケル粒子が記載されている。
したがって、これらの記載を実施例3のNi、Co、Mnの組成に注目して整理すると、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「リチウムイオン二次電池用の正極活物質原料である、リチウムニッケル酸化物の製造原料として使用される高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケルとして、Ni:Co:Mn=1:1:1のモル比であり、比表面積が8~30m2/gである、高密度コバルトマンガン共沈水酸化ニッケル。」
ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点3:本件発明1は、「リチウム遷移金属(M)酸化物粉末」の物性値が、重量%で表される硫黄含有率Sをパラメータとして含む数式から導き出される値の範囲により特定されるのに対し、甲2発明は、硫黄含有率Sにより物性値を特定したものではない点。
(イ)相違点3についての検討
以下、前記(ア)の相違点3について検討する。
甲第2号証には、硫黄含有率について記載も示唆もなく、硫黄含有率をパラメータとして含む数式から導き出される値を特定の範囲に調整する動機付けは存在しない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。
エ 本件発明2~8、12、13について
本件発明2~8、12、13は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項をさらに減縮したものであるから、前記ウ(イ)に示した理由と同様の理由により、甲第2号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第2号証に記載された発明などに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲第3号証を主引用例とする場合について
ア 甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、以下(3a)~(3c)の記載がある。
(3a)「【請求項1】
リチウムを含まず、コバルト、ニッケルおよびマンガンからなる群より選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素を含む前駆体とリチウム化合物との混合物を焼成し、層状構造のリチウム含有複合酸化物を得る焼成工程と、該焼成工程で得られたリチウム含有複合酸化物をオゾン処理するオゾン処理工程とを有する正極活物質の製造方法であり、 得られた正極活物質のX線回折測定チャートにおける2θ=68~70°の(113)面に帰属されるピーク位置と、オゾン処理を行うことなく製造される正極活物質の前記ピーク位置との差が、0.01~0.1°であることを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項2】
リチウムを含まず、コバルト、ニッケルおよびマンガンからなる群より選ばれる少なくとも一種の遷移金属元素を含む前駆体をオゾン処理するオゾン処理工程と、オゾン処理された前駆体とリチウム化合物との混合物を焼成し、層状構造のリチウム含有複合酸化物を得る焼成工程とを有する正極活物質の製造方法であり、 得られた正極活物質のX線回折測定チャートにおける2θ=68~70°の(113)面に帰属されるピーク位置と、オゾン処理を行うことなく製造される正極活物質の前記ピーク位置との差が、0.01~0.1°であることを特徴とする正極活物質の製造方法。
・・・
【請求項5】
前記前駆体の比表面積が10~300m2/gである、請求項1~4のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。」
(3b)「【0019】
前駆体としては、コバルト・ニッケル系化合物、コバルト・マンガン系化合物、コバルト・ニッケル・マンガン系化合物、コバルト・バナジウム系化合物、コバルト・鉄系化合物等が挙げられる。これらの前駆体は、上記以外に他の元素が含まれた複合酸化物であってもよい。他の元素としては、マグネシウム、カルシウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、ロジウム、イリジウム、亜鉛、アルミニウム、スズ、ホウ素、リン、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
前駆体としては、後述する層状構造のリチウム含有複合酸化物のエネルギー密度が高くなることから、コバルト、ニッケルおよびマンガンを含む化合物が好ましい。
【0020】
・・・
コバルト化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、および他の元素を含む化合物としては、各元素の硝酸塩、酢酸塩、塩化物塩、硫酸塩が挙げられ、材料コストが比較的安価で優れた電池特性が得られることから、特に各元素の硫酸塩が好ましい。
・・・
【0022】
前駆体の比表面積は、10~300m2/gが好ましく、20~150m2/gが特に好ましい。前記比表面積は、例えば、窒素ガスを用いたBET法により測定できる。
【0023】
前駆体の粒子径(D50)は、0.05~20μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましく、0.3~5μmが特に好ましい。
・・・
【0029】
層状構造のリチウム含有複合酸化物としては、ニッケル、コバルト、およびマンガンを含むことが好ましく、より高い放電容量が得られることから、下記式(1)で表わされる化合物(1)がより好ましい。
Li1+aNibCocMndM´eO2+f …………(1)
式中M´は、Mg、Ca、Sr、BaおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素である。また、a~eはそれぞれ、0≦a≦0.6、0.01≦b≦0.5、0≦c≦0.3、0.2≦d≦0.9、0.90≦b+c+d≦1.05、0≦e≦0.05を満足させる数であり、fは、このリチウム含有複合酸化物が電気的に中性になるように、Li、Ni、Co、MnおよびM´の価数によって決定される数である。
ここで、化合物(1)のaは、初期放電容量および初期放電電圧が高い正極活物質となることから、0.1≦a≦0.25がより好ましい。
・・・」
(3c)「【0071】
実施例1
[前駆体の合成]
硫酸ニッケル(II)六水和物(NiSO4・6H2O)と、硫酸コバルト(II)七水和物(CoSO4・7H2O)と、硫酸マンガン(II)五水和物(MnSO4・5H2O)を、Ni、CoおよびMnのモル比が、Ni:Co:Mn=33.0:4.0:63.0になり、かつ硫酸塩の合計量が1.5mol/kgになるように調合し、蒸留水に溶解させて、硫酸塩水溶液2kgを調製した。また、炭酸ナトリウム(Na2CO3)を蒸留水に溶解させ、炭酸ナトリウムの濃度が1.5mol%の炭酸塩水溶液(pH調整液)を調製した。
【0072】
次いで、2Lのバッフル付きガラス製反応槽に蒸留水を入れ、マントルヒータで50℃に加熱し、パドル型の撹拌翼で撹拌しながら、前記硫酸塩水溶液を5.0g/分の速度で6時間添加し、Ni、CoおよびMnを含む共沈化合物を析出させた。なお、前記硫酸塩水溶液の添加中は、pH調整液を添加・混合して、反応槽内のpHを8.0に保つようにした。また、析出反応中は、反応槽内の液量が2Lを超えないように、ろ布を用いて連続的に液の抜き出しを行った。
【0073】
こうして得られた共沈化合物から遊離アルカリ等の不純物イオンを取り除くために、遠心分離と蒸留水への分散を繰り返し、共沈化合物の洗浄を行った。上澄液の電気伝導度が20mS/mとなった時点で洗浄を終了し、120℃で15時間乾燥させて前駆体を得た。得られた前駆体におけるNi、CoおよびMnの各含有量をICP(高周波誘導結合プラズマ)測定により求めたところ、Ni:Co:Mn=33.1:4.0:63.0のモル比であった。また、前駆体の比表面積は150m2/gであった。なお、比表面積は、比表面積測定装置(マウンテック社製、装置名:HM model-1208)を用いて、BET法により測定した。以下、同様である。」
イ 甲第3号証に記載された発明
前記ア(3a)~(3c)の記載を、実施例1に注目して整理すると、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「Ni:Co:Mn=33.1:4.0:63.0のモル比であり、BET法で測定した比表面積は150m2/gである正極活物質の前駆体。」
ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点4:本件発明1は、「リチウム遷移金属(M)酸化物粉末」の物性値が、重量%で表される硫黄含有率Sをパラメータとして含む数式から導き出される値の範囲により特定されるのに対し、甲3発明は、硫黄含有率Sにより物性値を特定したものではない点。
(イ)相違点4についての検討
以下、前記(ア)の相違点4について検討する。
甲第3号証には、硫黄含有率について記載も示唆もなく、硫黄含有率をパラメータとして含む数式から導き出される値を特定の範囲に調整する動機付けは存在しない。
したがって、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第3号証に記載された発明などに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。
エ 本件発明2~8、12、13について
本件発明2~8、12、13は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項をさらに減縮したものであるから、前記ウ(イ)に示した理由と同様の理由により、甲第3号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第3号証に記載された発明などに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)甲第4号証を主引用例とする場合について
ア 甲第4号証の記載内容
甲第4号証には、以下(4a)~(4b)の記載がある。
(4a)「背景技術
[0002]
・・・
[0003] 例えば、リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン系複合酸化物の前駆体として、還元雰囲気下の共沈法により得られたコバルトマンガン共沈水酸化ニッケル粉末が開示されている(特許文献1)。
[0004] また、アンモニア水溶液の存在下でニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を共沈させ、その後、これを水酸化ナトリウムと過硫酸ナトリウム水溶液に分散させることで得られたニッケルコバルトマンガン複合オキシ水酸化物粉末が開示されている(特許文献2)。」
(4b)「[0083] 比較例1
過硫酸ナトリウム水溶液の代わりに、空気を1L/分の速度で反応溶液中に吹き込んだこと以外は実施例1と同様な方法によりスラリーを得た。当該スラリーの酸化還元電位は0.12Vであった。
得られたスラリーをろ過、洗浄したのち、乾燥することで本比較例のニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物を得た。
[0084] 得られたニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物のXRDパターンを図11に示す。本比較例で得られたニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物は、そのXRDパターンにおいて、2θ=12±1°に半値幅が1.2°のXRDピークを有しており、結晶性の高いオキシ水酸化物を主結晶相とするニッケル-コバルト-マンガン系複合オキシ水酸化物であることが分かった。
当該ニッケル-コバルト-マンガン系複合オキシ水酸化物の評価結果を表3に示す。
[0085][表3]
[0086] 比較例2
過硫酸ナトリウム水溶液の代わりに、空気を1L/分の速度で反応溶液中に吹き込んだこと、及び、pHが10となるように2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を断続的に添加したこと以外は実施例1と同様な方法によりスラリーを得た。当該スラリーの酸化還元電位は0.13Vであった。
得られたスラリーをろ過、洗浄したのち、乾燥することで本比較例のニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物を得た。
得られたニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物のXRDパターンを図12に示す。本比較例で得られたニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物は、そのXRDパターンにおいて、2θ=12±1°に半値幅が1.0°のXRDピークを有しており、結晶性の高いオキシ水酸化物を主結晶相とするニッケル-コバルト-マンガン系複合オキシ水酸化物であることが分かった。
当該ニッケル-コバルト-マンガン系複合オキシ水酸化物の評価結果を表3に示す。
[0087] 比較例3
過硫酸ナトリウム水溶液の代わりに12.5重量%の過酸化水素水を使用したこと以外は実施例1と同様な方法によりスラリーを得た。当該スラリーの酸化還元電位は0.23Vであった。
得られたスラリーをろ過、洗浄したのち、乾燥することで本比較例のニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物を得た。
得られたニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物のXRDパターンを図13に示す。本比較例で得られたニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物は、そのXRDパターンにおいて、2θ=12±1°に半値幅が1.6°のXRDピークを有しており、結晶性の高いオキシ水酸化物を主結晶相とするニッケル-コバルト-マンガン系複合オキシ水酸化物であることが分かった。
当該ニッケル-コバルト-マンガン系複合オキシ水酸化物の評価結果を表3に示す。
[0088] 比較例4
内容積2リットルの反応槽において、予め純水1リットルに窒素バブリングし、次に塩化ニッケル、塩化マンガン、塩化コバルト及び塩化アンモニウムを各々0.5mol/kgとした水溶液と3mol/kgの水酸化ナトリウム水溶液を反応槽内のpHを9に保ちつつ連続的に添加し、反応槽下部より連続的に共沈化合物スラリーを得た。反応温度は60℃、平均滞在時間は5hであった。得られた共沈化合物スラリーをろ過した後、純水で洗浄し、乾燥した。
乾燥した共沈化合物の化学組成はNi:Co:Mnモル比=5:2:3であった。また、XRD測定の結果、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(層状構造)であった。平均粒子径は13μmであった。また、タップ密度は2.0g/ccであった。」
イ 甲第4号証に記載された発明
前記ア(4a)、(4b)の記載を、表3の比較例1に注目して整理すると、甲第4号証には、以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
「ニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物において、組成Ni(1-x-y)CoxMnyが(1-x-y):x:y=0.5:0.2:0.3であり、BET比表面積が15m2/gであるニッケル-コバルト-マンガン系複合化合物。」
ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点5:本件発明1は、「リチウム遷移金属(M)酸化物粉末」の物性値が、重量%で表される硫黄含有率Sをパラメータとして含む数式から導き出される値の範囲により特定されるのに対し、甲4発明は、硫黄含有率Sにより物性値を特定したものではない点。
(イ)相違点5についての検討
以下、前記(ア)の相違点5について検討する。
甲第4号証には、硫黄含有率について記載も示唆もなく、硫黄含有率をパラメータとして含む数式から導き出される値を特定の範囲に調整する動機付けは存在しない。
したがって、本件発明1は、甲第4号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明などに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。さらに、このような進歩性についての判断は、他の証拠をみても変わりはない。
エ 本件発明2~8、12、13について
本件発明2~8、12、13は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項をさらに減縮したものであるから、前記ウ(イ)に示した理由と同様の理由により、甲第4号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第4号証に記載された発明などに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 申立理由3(拡大先願)についての当審の判断
本件発明2、8、13は、本件発明1の発明特定事項をさらに減縮したものであるから、前記第4の2(2)アに示した理由と同様の理由により、先願5明細書等に記載された発明と同一であるとはいえないことは明らかである。
第6 令和 3年 4月12日付けの意見書における申立人の主張について
申立人は、令和 3年 4月12日付けの意見書にて、新たな証拠として甲第7号証を提出した上で、「甲第1号証に記載の発明および甲第7号証に記載の発明との組み合わせに基づいて、本件特許発明が対象とする、甲第1号証よりもNi比が高い系においても、電池特性を向上させる観点から、甲第7号証が示す前駆体のBET比表面積および含有硫酸根を本件特許発明のレベルにまで規制することは、当業者が容易に想到することができたといわざるを得ないと思料いたします。」と主張する。
しかしながら、前記第5の2(1)ウ(イ)で述べた通り、甲1発明において、「リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物」の原子比を変更する動機付けはない。また、甲第7号証に記載されている事項は、コバルトを含有しないマンガンニッケル複合水酸化物粒子であり、甲1発明とは異なる組成のものであるから、甲第7号証で開示される物性値を、そのまま甲1発明の「リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物」の物性値として適用する動機付けは存在しない。
よって、申立人の追加的主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~8、12、13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~8、12、13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700609