審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2020-700125

充電式リチウムイオン電池のためのNi系カソード材料

審判番号
2020-700125
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-128950
登録番号
特許第6568268号(P6568268)
請求日
2020年02月28日
審決日
2020年11月20日
公報発行日
2021年04月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ユミコア
  • 【権利者代理人】村山 靖彦
  • 【権利者代理人】実広 信哉
  • 【権利者代理人】阿部 達彦
  • 【権利者】ユミコア・コリア・リミテッド
  • 【権利者代理人】村山 靖彦
  • 【権利者代理人】実広 信哉
  • 【権利者代理人】阿部 達彦
  • 【異議申立人】金澤 毅
審判長/審判官
  • 審判長 平塚 政宏
  • 審判官 中澤 登
  • 審判官 市川 篤
分類
P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第4項、特許法第126条第7項、特許法第126条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6568268号発明「充電式リチウムイオン電池のためのNi系カソード材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6568268号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。 特許第6568268号の請求項1、3~7、9~10に係る特許を維持する。 特許第6568268号の請求項2、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6568268号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成30年7月6日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2017年(平成29年)7月14日 欧州特許庁(EP))を出願日とする外国語書面出願であって、平成30年7月10日付けで外国語書面の翻訳文が提出され、令和1年8月9日にその特許権の設定登録がされ、令和1年8月28日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。 令和2年 2月28日(提出日) 特許異議申立書(全請求項に対して) 特許異議申立人 金澤毅 (以下、「申立人」という。) 甲第1~3号証を添付 同年 5月28日(発送日)   取消理由通知書 (起案日)令和2年5月25日 同年 8月13日(提出日)   訂正請求書及び意見書(特許権者) 同年10月 8日(提出日)   意見書(申立人) 第2 訂正請求について 令和2年8月13日(提出日)の訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の適否について検討する。 1.訂正請求の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、特許第6568268号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-10について訂正することを求める、というものである。 2.訂正事項 以下の記載で、下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 明細書の段落[0017]に「-粉末は、リチウム遷移金属系酸化物、並びにリチウム及び遷移金属を含む表面層を含むコアからなり」と記載されているのを、「-粉末は、リチウム遷移金属系酸化物を含むコアと、リチウム及び遷移金属を含む表面層とからなり」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「リチウム遷移金属系酸化物粉末」と記載されているのを、「リチウム遷移金属系の粉末」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に 「Aが微量の添加不純物であり、-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1及びk≦0.01である、正極材料」 と記載されているのを、 「Aが微量の添加不純物であり、-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1及びk≦0.01であり、 前記リチウム遷移金属系酸化物の粉末が≦1000ppmの炭素含有量を有し、 前記微量の添加不純物Aが、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg及びZrのうちいずれか1つ以上である、正極材料」 に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項3に「前記リチウム遷移金属系酸化物粉末」と記載されているのを、「前記リチウム遷移金属系酸化物の粉末」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項4に「前記リチウム遷移金属系酸化物粉末」と記載されているのを、「前記リチウム遷移金属系酸化物の粉末」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項に記載の正極材料」と記載されているのを、「請求項1又は3に記載の正極材料」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか一項に記載の正極材料」と記載されているのを、「請求項1、3、及び4のいずれか一項に記載の正極材料」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項9に「前記粉末が、前記リチウム遷移金属系酸化物、並びにリチウム及び遷移金属を含む表面層を含むコアからなり、」と記載されているのを、「前記粉末が、前記リチウム遷移金属系酸化物を含むコアと、リチウム及び遷移金属を含む表面層とからなり、」に訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項9に「Aが少なくとも1つの微量の添加不純物でありかつAlを含み」と記載されているのを、「前記AがAlを含み」に訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項9に「請求項8に記載の正極材料」と記載されているのを、「請求項1に記載の正極材料」に訂正する。 3.訂正事項の検討 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、外国語書面における外国語明細書第6頁11~12行目における、「-the powder consists of a core comprising the lithium transition metal-based oxide and a surface layer comprising lithium and transition metals,」との記載に対する誤った翻訳内容を適切な翻訳内容にしようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものである。 また、訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項1における「リチウム遷移金属系酸化物粉末」なる記載のうちの「リチウム遷移金属系酸化物」と、請求項6、9記載の「前記リチウム遷移金属系酸化物」とが対応していることを明瞭にしたものといえるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。 また、訂正事項2が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項1を、訂正前の請求項1を引用する請求項4をさらに引用する請求項8の内容に限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項3が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求範囲の減縮を目的としたものである。 また、訂正事項4が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (5)訂正事項5について 訂正事項5による訂正は、訂正前の請求項3における「リチウム遷移金属系酸化物粉末」なる記載のうちの「リチウム遷移金属系酸化物」と、請求項6、9記載の「前記リチウム遷移金属系酸化物」とが対応していることを明瞭にしたものといえるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。 また、訂正事項5が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (6)訂正事項6について 訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項4における「リチウム遷移金属系酸化物粉末」なる記載のうちの「リチウム遷移金属系酸化物」と、請求項6、9記載の「前記リチウム遷移金属系酸化物」とが対応していることを明瞭にしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。 また、訂正事項6が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (7)訂正事項7について 訂正事項7は、訂正事項4により訂正前の請求項2が削除されたことに伴い、訂正前の請求項4においてなされている請求項2の引用をしないようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項7が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (8)訂正事項8について 訂正事項8は、訂正事項4により訂正前の請求項2が削除されたことに伴い、訂正前の請求項5においてなされている請求項2の引用をしないようにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項8が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (9)訂正事項9について 訂正事項9による訂正は、訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求範囲の減縮を目的としたものである。 また、訂正事項9が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (10)訂正事項10について 訂正事項10は、外国語書面における外国語特許請求の範囲第9項における、「wherein the powder consists of a core comprising the lithium transition metal-based oxide and a surface layer comprising lithium and transition metals,」との記載に対する誤った翻訳内容を適切な翻訳内容にしようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に掲げる誤訳の訂正を目的とするものである。 また、訂正事項10が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (11)訂正事項11について 訂正事項11による訂正は、訂正前の請求項9における「Aが少なくとも1つの微量の添加不純物でありかつAlを含み」との記載を、訂正後の請求項9における「前記AがAlを含み」との記載とすることで明瞭にしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。 また、訂正事項11が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (12)訂正事項12について 訂正事項12は、訂正事項3により、訂正前の請求項4に記載された発明特定事項と請求項8に記載された発明特定事項とが、訂正後の請求項1の発明特定事項として組み入れられ、かつ、訂正事項9により訂正前の請求項8が削除されたことに伴い、訂正後の請求項9を直接請求項1を引用するものとしたことで、実質、訂正前の請求項4を引用する請求項8をさらに引用する場合の請求項9のみの内容に限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項12が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。 (13)一群の請求項について 訂正前の請求項1~10について、請求項2~10はそれぞれ直接又は間接的に請求項1を引用しているものであり、訂正事項2及び3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~10は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 そして、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~10〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。 また、本件訂正請求は、訂正事項1と関係する請求項を含む一群の請求項の全てを請求の対象とするから、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。 (14)独立特許要件について 本件特許異議申立においては、全ての請求項について特許異議申立の対象とされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 4.結言 したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1~3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する特許法第126条第4~6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正を認める。 第3 本件発明について 以上のとおり、本件訂正請求が認められるので、本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のものである。 【請求項1】 一般式Li1+a((NiZ(Ni0.5Mn0.5)yCox)1-kAk)1-aO2を有するリチウム遷移金属系酸化物の粉末を含む、リチウムイオン電池のための正極材料であって、 Aが微量の添加不純物であり、-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1及びk≦0.01であり、 前記リチウム遷移金属系酸化物の粉末が≦1000ppmの炭素含有量を有し、 前記微量の添加不純物Aが、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg及びZrのうちいずれか1つ以上である、正極材料。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記リチウム遷移金属系酸化物の粉末が≦400ppmの炭素含有量を有する、請求項1に記載の正極材料。 【請求項4】 前記リチウム遷移金属系酸化物の粉末が0.05~1.0重量%のイオウ含有量を有する、請求項1又は3に記載の正極材料。 【請求項5】 前記粉末が0.15~5重量%のLiNaSO4の二次位相を更に含む、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の正極材料。 【請求項6】 前記粉末が、前記リチウム遷移金属系酸化物、及びLiNaSO4の二次位相を含むコーティングを含むコアからなる、請求項5に記載の正極材料。 【請求項7】 前記二次位相が、1重量%以下のAl2O3、LiAlO2、LiF、Li3PO4、MgO及びLi2TiO3のうちいずれか1つ以上を更に含む、請求項5又は6に記載の正極材料。 【請求項8】(削除) 【請求項9】 前記粉末が、前記リチウム遷移金属系酸化物を含むコアと、リチウム及び遷移金属を含む表面層とからなり、前記表面層が外側及び内側の界面により範囲を定められ、前記内側界面が前記コアに接触しており、前記AがAlを含み、前記コアが0.3~3モル%のAl含有量を有し、また前記表面層が、前記内側界面における前記コアの前記Al含有量から前記外側界面における少なくとも10モル%へと増大するAl含有量を有し、前記Al含有量がXPSにより決定される、請求項1に記載の正極材料。 【請求項10】 前記表面層が、Ni、Co及びМn、並びにAl2O3、並びにLiF、CaO、TiO2、MgO、WO3、ZrO2、Cr2O3及びV2O5からなる群からの1つ以上の化合物のいずれかの前記コアの前記遷移金属の均質混合物からなる、請求項9に記載のリチウム金属酸化物粉末。 第4 異議申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、次の甲第1号証~甲第3号証(以下、「甲1」等という。)及び甲3の抄訳文を提出し、以下の申立理由1~2により、訂正前の請求項1~10に係る特許を取り消すべきものである旨、主張している。 甲1:特開2011-124086号公報 甲2:特表2017-506805号公報 甲3:国際公開第2016/116862号 1 申立理由1(新規性、進歩性) (1)申立理由1-1 訂正前の請求項1~4、8に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。 したがって、訂正前の請求項1~4、8に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立理由1-2 訂正前の請求項5~7に係る発明は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、訂正前の請求項5~7に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (3)申立理由1-3 訂正前の請求項9、10に係る発明は、甲1及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、訂正前の請求項9、10に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (4)申立理由1-4 訂正前の請求項1、8~10に係る発明は、それぞれ、甲3に記載された発明であるか、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、訂正前の請求項1、8~10に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 2 申立理由2(記載不備) (1)申立理由2-1(サポート要件) ア.申立理由2-1-1(特許異議申立書36頁(4-1)(a)第1の理由) 訂正前の請求項1では、添加不純物であるAについては、元素種等は何ら規定されていないから、あらゆる元素、その組み合わせの場合を包含する。 しかしながら、本件明細書の実施例においては添加不純物を添加した具体的な例は開示されておらず、また、本件明細書において、あらゆる元素の添加不純物を添加した場合に、発明の課題を解決できることについて、合理的な説明もなされていない。また、あらゆる添加元素を添加した場合に、発明の課題を解決できることが、本件特許の優先日前に周知の技術であったとも認められない。 したがって、訂正前の請求項1で規定するようなあらゆる種類の添加不純物Aを添加した場合でも、本件発明の課題を解決できるかは明らかでない。 よって、訂正前の請求項1及び請求項1を引用する請求項2~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 イ.申立理由2-1-2(特許異議申立書38頁(4-1)(b)第2の理由) 本件明細書に記載された発明の課題は、「高可逆容量が良好」であること、「サイクル安定性」、「安全性」の3つであると解されるが、本件明細書の実施例では、安全性についての評価を行った試験はない。 そうすると、本件明細書の実施例からは、訂正前の請求項1に係る発明の組成を充足することで、発明の課題を解決できるかは、明らかでない。 また、本件明細書には、訂正前の請求項1に係る発明の組成を充足することで、発明の課題を解決できることについて合理的な説明もなされていないし、本件特許の優先日前に周知の技術であったとも認められない。 したがって、訂正前の請求項1及び請求項1を引用する請求項2~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 ウ.申立理由2-1-3(特許異議申立書39頁(4-1)(c)第3の理由) 本件明細書の【0029】の記載から、発明の課題を解決するためには、炭素の含有量、イオウの含有量が所定の範囲にあることが必須の要件であると解される。 そうすると、炭素の含有量とイオウの含有量の少なくとも一方が規定されていない場合を含む、訂正前の請求項1に係る発明は、サポート要件を充足していない。 したがって、訂正前の請求項1及び請求項1を引用する請求項2~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (2)申立理由2-2(明確性)(特許異議申立書40頁(4-2)) 訂正前の請求項9の「前記粉末が、・・・表面層を含むコアからなり」(当審注:「・・・」は省略を示す。以下、同様。)との記載では、「コア」に含まれるはずの「表面層」が、請求項9の「前記表面層が外側及び内側の界面により範囲を定められ、前記内側界面が前記コアに接触しており」との記載では、「コア」と接触しており、これらの記載は明らかに矛盾しているから、どのような構造になっているのかが不明確である。 また、訂正前の請求項9では、「Aが少なくとも1つの微量の添加不純物でありかつAlを含み・・・」とされているが、請求項1で規定する「添加不純物」である「A」との関係が明らかでなく、不明確である。 したがって、訂正前の請求項9及び請求項9を引用する請求項10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第5 取消理由について 当審は、令和2年5月25日(起案日)付けで、申立理由2-1-3の一部、申立理由2-2を採用するとともに、職権により発見した理由を加えた上で、取消理由1、2を通知した。 これに対して、同年8月13日に訂正請求書及び意見書が提出され、上記「第2」で検討したように本件訂正請求が認められるので、訂正後の本件発明について以下に検討する。 第6 訂正後の本件発明に対する取消理由解消有無の判断 1.取消理由1について (1)取消理由1(サポート要件:申立理由2-1-3の一部に対応)の概要 本件明細書【0016】より、発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「許容できる高Ni超過材料を作製するために、最適化されたNMC組成物及び高度の電池性能を有し、高可逆容量が良好なサイクル安定性及び安全性と共に得られる、このようなカソード材料」を提供することと認められ、また、本件明細書【0029】を参照すると、「炭素含有量」が「1000ppm」以下であれば、「可用性塩基」の量が上記課題を解決し得る程度の量であることが認められるが、「可用性塩基」が多すぎれば、上記課題を解決し得ないといえる。 そうすると、発明の詳細な説明において、上記課題を解決できるためには、「炭素含有量」が「1000ppm」以下であることが必要と認められる。 訂正前の請求項1、4~10においては、「炭素含有量」が特定されていないから、訂正前の請求項1、4~10に係る発明は、上記課題を解決できるために必要とした、「炭素含有量」が「1000ppm」以下との要件を備えないものをも含む。 したがって、訂正前の請求項1、4~10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものである。 (2)当審の判断 これに対し、訂正により請求項8は削除され、また、訂正後の本件発明1、4~7、9、10は、リチウム遷移金属系酸化物粉末が≦1000ppmの炭素含有量を有することが特定されており、「可用性塩基」の量が上記課題を解決し得る程度の量になると考えられるから、本件明細書の発明の詳細な説明に基づいて、当業者が課題を解決することができると認識可能な発明となっている。 そうすると、訂正後の本件発明1、4~7、9、10は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、取消理由1(申立理由2-1-3の一部)は解消した。 (3)令和2年10月8日(提出日)意見書(申立人)について ア.上記意見書の3.(1)(1-1)(第1の理由)において、申立人は、本件明細書【0029】に記載された炭素含有量は、「カソード材料」、すなわち「正極材料」についての炭素含有量であり、本件明細書【0057】に記載された実施例における炭素含有量の評価方法においても、「カソード材料」、すなわち「正極材料」についての炭素含有量を評価した例が開示されているのみであり、さらに、【0088】の表5には、表面層を形成する前のEX2.1と、表面層であるアルミニウムでコーティングされたEX2.2とについてそれぞれ炭素含有量が示されていることから、実施例においてもリチウム遷移金属酸化物ではなく、表面層等も含む正極材料について炭素含有量の評価を行っていることは明らかであるとした上で、炭素含有量の規定が「リチウム遷移金属系酸化物の粉末」についてのものとなっており、「正極材料」についての炭素含有量の規定を有しない本件発明1、3~7、9、10については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの取消理由が生じている旨を主張する。 イ. しかしながら、「リチウム遷移金属系酸化物粉末が≦400ppmの炭素含有量を有」するとの発明特定事項を備えていた訂正前の請求項2及びこれを引用する請求項に係る発明も、炭素含有量の規定が「リチウム遷移金属系酸化物粉末」についてのものとなっており、「正極材料」についての炭素含有量の規定を有しないものであったといえる。そして、訂正前の請求項2記載の上記「リチウム遷移金属系酸化物粉末」は、本件発明の「リチウム遷移金属系酸化物の粉末」と同義であり、申立人が上記意見書の3.(1)(1-1)(第1の理由)で述べている取消理由の主張は、特許異議申立書の提出時に実質提示することのできた主張であって、訂正に伴って生じたといえない新たな理由を時機に後れて提示しているものと判断されるので、採用できない。 2.取消理由2について 2-1.取消理由2-1について (1)取消理由2-1(明確性:申立理由2-2の一部)の概要 訂正前の請求項9には、「前記粉末が、・・・表面層を含むコアからなり」と記載されており、当該記載からは、「表面層」は「コア」の一部といえる。 一方で、請求項9には、「前記表面層が外側及び内側の界面により範囲を定められ、前記内側界面が前記コアに接触しており」とも記載されており、当該記載からは、「表面層」が「コア」と接触しているから、「表面層」と「コア」とは別体であって、「表面層」は「コア」の一部ではないともいえる。 したがって、訂正前の請求項9において、「表面層」が「コア」の一部であるのか否かが不明確である。 よって、訂正前の請求項9及び請求項9を引用する請求項10に係る発明は明確でない。 (2)当審の判断 これに対し、訂正後の請求項9の記載では、「表面層」と「コア」とは別体であることが矛盾なく把握できるようになっている。 そうすると、訂正後の本件発明9、10の「表面層」と「コア」との関係は明確であるから、取消理由2-1(申立理由2-2の一部)は解消した。 2-2.取消理由2-2について (1)取消理由2-2(明確性:申立理由2-2の一部)の概要 訂正前の請求項9には、「Aが少なくとも1つの微量の添加不純物でありかつAlを含み・・・」と記載されているが、当該記載の「A」と、請求項9が間接的に引用する請求項1の「Aが微量の添加不純物であり」との記載における「A」とは、同一のものを指すのか否かが、不明確である。 よって、訂正前の請求項9及び請求項9を引用する請求項10に係る発明は明確でない。 (2)当審の判断 これに対し、訂正後の請求項9に記載の「A」は、請求項9が間接的に引用する請求項1の「Aが微量の添加不純物であり」との記載における「A」と明らかに同一のものを指すことを理解することができる。 そうすると、訂正後の本件発明9、10における「A」の内容は明確であるから、取消理由2-2(申立理由2-2の一部)は解消した。 2-3.取消理由2-3について (1)取消理由2-3(明確性:職権により発見した理由)の概要 訂正前の請求項1の「Aが微量の添加不純物であり」との記載における「A」に含まれるものの範囲が不明であり、「A」が、請求項2、3に記載の「炭素」、請求項4に記載の「イオウ」、請求項5、6に記載の「LiNaSO4」の「Na」、「S」、請求項7に記載の「Al2O3、LiAlO2、LiF、Li3PO4、MgO及びLi2TiO3」の「Al」、「F」、「P」、「Mg」及び「Ti」を含むのか否かが不明確である。 よって、訂正前の請求項1~7に係る発明は明確でない。 (2)当審の判断 これに対し、訂正後の請求項1に記載の「A」は、取消理由2-3が通知されなかった訂正前の請求項8に記載の「A」と同様に「Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg及びZrのうちいずれか1つ以上」であるもののみに限定されており、かつ、取消理由2-3で挙げたような、請求項2、3に記載の「炭素」、請求項4に記載の「イオウ」、請求項5、6に記載の「LiNaSO4」の「Na」、「S」、請求項7に記載の「Al2O3、LiAlO2、LiF、Li3PO4、MgO及びLi2TiO3」の「Al」、「F」、「P」、「Mg」及び「Ti」を含まないことも明らかとなっている。 そうすると、訂正後の本件発明1~7における「A」の内容は明確であるから、取消理由2-3(職権により発見した理由)は解消した。 2-4.取消理由2-4について (1)取消理由2-4(明確性:職権により発見した理由)の概要 訂正前の請求項6、9には、「前記リチウム遷移金属系酸化物」と記載されているが、請求項1の「リチウム遷移金属系酸化物粉末」との用語中の「リチウム遷移金属系酸化物」を指すのかその他のものを指すのかが十分明らかでなく、「前記リチウム遷移金属系酸化物」が何を指すのかが不明確である。 よって、訂正前の請求項6、9及び請求項6、9を引用する請求項7、8、10に係る発明は明確でない。 (2)当審の判断 これに対し、訂正前の請求項1の「リチウム遷移金属系酸化物粉末」との記載は、訂正後に「リチウム遷移金属系酸化物の粉末」とされ、また、請求項3、4についても同様の訂正がなされたので、訂正後の請求項1、3、4記載の「リチウム遷移金属系酸化物」は、請求項6、9記載の「前記リチウム遷移金属系酸化物」と明らかに同一のものを指すことを理解することができる。 そうすると、訂正後の請求項6、9記載の「リチウム遷移金属系酸化物」は、他の引用請求項の記載とも整合がとれており、訂正後の本件発明6、7、9、10は明確であるから、取消理由2-4(職権により発見した理由)は解消した。 なお、訂正により請求項8は削除されている。 (3)令和2年10月8日(提出日)意見書(申立人)について ア.上記意見書の3.(1)(1-2)において、申立人は、訂正により請求項1等の「リチウム遷移金属系酸化物粉末」が「リチウム遷移金属系酸化物の粉末」と訂正されたことで、前記粉末にリチウム遷移金属系酸化物以外の成分を任意の量含有することも許容するような請求項5、9(それぞれ請求項1を引用)の記載との関係から、本件発明1、3~7、9、10の「一般式Li1+a((NiZ(Ni0.5Mn0.5)yCox)1-kAk)1-aO2を有するリチウム遷移金属系酸化物」が粉末中のどの部分について組成を規定しているのかが明らかでなく、かつ、本件発明1、3~7、9、10が明らかに本件発明の課題を解決できない範囲を包含するため、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの新たな取消理由が生じた旨を主張する。 イ.しかしながら、「リチウム遷移金属系酸化物粉末」と「リチウム遷移金属系酸化物の粉末」とは同義であり、上記アで触れたような訂正の内容も、他の請求項記載との表記整合を図ることによって本件発明の内容を誤解なく把握できるようにしたものに過ぎないし、申立人が上記意見書の3.(1)(1-2)で述べている取消理由の主張は、訂正前の請求項1と請求項5、9との記載内容に照らし、特許異議申立書の提出時に実質提示することのできた主張であって、訂正に伴って生じた理由でない新たな理由を時機に後れて提示しているものと判断されるので、採用できない。 3.小括 以上のとおり、訂正により、令和2年5月25日(起案日)付け取消理由通知書で指摘をした取消理由は、すべて解消した。 第7 取消理由として採用しなかった申立理由についての判断 1.申立理由1について 1-1.申立理由1-1について (1)申立理由1-1(新規性・進歩性)の概要 取消理由として採用していない申立理由1-1の概要は、上記「第4」で見たように、訂正前の請求項1~4、8に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということを趣旨とする。 (2)当審の判断 ア.甲1の記載事項 甲1には、特許異議申立書11頁(2-1)(2-1-1)においても挙げられているとおり、次のことが記載されている。 なお、下線は当審による。 記載事項(ア) 【請求項1】 下記一般式(1): Li(x)Ni(1-a-b)Co(a)Mn(b)O2 (1) (式中、xは0.98≦x≦1.20、aは0<a≦0.5、bは0<b≦0.5である。) で表わされるリチウム複合酸化物であり、一次粒子の表層部に存在している残存アルカリ量が4000ppm以下であり、一次粒子の表層部に存在している硫酸根の量が500~11000ppmであることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。 記載事項(イ) 【請求項3】 B、Mg、Al、Si、Ti、Fe、Ga、Zr、Nb、Mo、Sn、W及びBiの群から選ばれる1種以上の金属元素を含有することを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のリチウム二次電池用正極活物質。 記載事項(ウ) 【0011】 従って、本発明の目的は、一次粒子の表層部に存在している残存アルカリ量が少なく、且つ、サイクル特性に優れるリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物を提供することにある。また、本発明の目的は、電池膨れの問題がなく、且つ、サイクル特性に優れるリチウム二次電池を提供することにある。 記載事項(エ) 【0025】 本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、Li、Ni、Co及びMn元素の他に、B、Mg、Al、Si、Ti、Fe、Ga、Zr、Nb、Mo、Sn、W及びBiの群から選ばれる1種以上の金属元素を含有してもよい。以下、B、Mg、Al、Si、Ti、Fe、Ga、Zr、Nb、Mo、Sn、W及びBiの群から選ばれる1種以上の金属元素を、M元素とも記載する。そして、本発明のリチウム二次電池用正極活物質が、Li、Ni、Co及びMn元素の他に、M元素を含有することが、電池の初期放電容量及びサイクル特性(容量維持率)が高くなる点で好ましい。前記一般式(1)で表わされるリチウム複合酸化物では、M元素は任意元素である。なお、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の二次粒子中で、M元素は、前記一般式(1)で表わされるリチウム複合酸化物中に固溶していてもよい。あるいは、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の二次粒子中で、M元素の金属酸化物又はリチウム化合物の粒子が、前記一般式(1)で表わされるリチウム複合酸化物と共に存在していてもよい。 【0026】 本発明のリチウム二次電池用正極活物質中、M元素の含有量は、ニッケル、マンガン、及びコバルトの合計mol数に対して、好ましくは0.1~5mol%、特に好ましくは1~3mol%である。なお、本発明のリチウム二次電池用正極活物質が、2種以上のM元素を含有する場合、M元素の含有量は、全M元素の合計の含有量を指す。 記載事項(オ) 【0027】 本発明のリチウム二次電池用正極活物質において、リチウム二次電池用正極活物質の一次粒子の表層部に存在している残存アルカリ量は、4000ppm以下、好ましくは3000ppm以下である。リチウム二次電池用正極活物質の一次粒子の表層部に存在している残存アルカリ量が、上記範囲内にあることにより、塗料のゲル化、電池膨れを抑制することができる。 【0028】 なお、本発明において、リチウム二次電池用正極活物質の一次粒子の表層部に存在している残存アルカリとは、リチウム二次電池用正極活物質を25℃の水に撹拌分散させたときに、水に溶出されるアルカリ成分を指す。そして、リチウム二次電池用正極活物質の一次粒子の表層部に存在している残存アルカリ量は、リチウム二次電池用正極活物質5g及び超純水100gをビーカーに計り採り、25℃で、マグネチックスターラーで5分間分散させ、次いで、この分散液をろ過し、得られるろ液中に存在するアルカリの量を中和滴定することによって求められる。なお、該残存アルカリ量は、滴定によりリチウム量を測定して炭酸リチウムに換算した値である。 記載事項(カ) 【0029】 本発明のリチウム二次電池用正極活物質において、リチウム二次電池用正極活物質の一次粒子の表層部に存在している硫酸根(SO4)の量は、500~11000ppm、好ましくは1000~4000ppmである。リチウム二次電池用正極活物質の一次粒子の表層部に存在している硫酸根(SO4)の量が、上記範囲内にあることにより、リチウム二次電池の容量維持率が高く且つ放電容量が高くなる。一方、リチウム二次電池用正極活物質の一次粒子の表層部に存在している硫酸根の量が、上記範囲未満だと、容量維持率が低くなり、一方、上記範囲を超えると、放電容量が低くなる。 【0030】 なお、本発明において、リチウム二次電池用正極活物質の一次粒子の表層部に存在している硫酸根とは、リチウム二次電池用正極活物質を25℃の水に撹拌分散させたときに、水に溶出される硫酸根を指す。そして、リチウム二次電池用正極活物質の一次粒子の表層部に存在している硫酸根の量は、リチウム二次電池用正極活物質5g及び超純水100gをビーカーに計り採り、25℃で、マグネチックスターラーで5分間分散させ、次いで、この分散液をろ過し、得られるろ液中に存在する硫酸根の量を、イオンクロマトグラフィーで測定することによって求められる。 記載事項(キ) 【0032】 本発明のリチウム二次電池用正極活物質中の硫酸根の全量は、1000~12000ppm、好ましくは2000~5000ppmである。リチウム二次電池用正極活物質中の硫酸根の全量が、上記範囲内にあることにより、リチウム二次電池の容量維持率が高く且つ放電容量が高くなる。 記載事項(ク) 【0068】 焼成原料混合物中に、硫酸根を存在させて、つまり、焼成原料として硫酸塩を用い、そのような焼成原料混合物を焼成して得られるリチウム複合酸化物中には、硫酸根が存在する。そして、リチウム複合酸化物中に存在する硫酸根は、リチウム二次電池の容量維持率を高くすることができる。一方で、このようなリチウム複合酸化物の一次粒子の表層部には、残存アルカリが存在するため、リチウム複合酸化物の一次粒子の表層部に存在する残存アルカリの影響で、塗料のゲル化、電池膨れが生じてしまう。リチウム複合酸化物の一次粒子の表層部に存在する残存アルカリは、水洗することによって、除去することができる。ところが、リチウム複合酸化物の水洗の際に、リチウム複合酸化物の一次粒子の表層部に存在している硫酸根まで除去されてしまうため、リチウム複合酸化物を単に水洗したのでは、リチウム二次電池の容量維持率が低くなってしまう。そこで、本発明では、該第一焼成工程を行い得られる前記一般式(1)で表わされるリチウム複合酸化物を、水又は該硫酸塩の水溶液で洗浄することにより、リチウム複合酸化物の一次粒子の表層部に存在している残存アルカリを除去すると共に、前記一般式(1)で表わされるリチウム複合酸化物を、該硫酸塩の水溶液に接触させて、焼成することにより、リチウム複合酸化物の一次粒子の表層部に硫酸根を補充又は追加することができるので、一次粒子の表層部に存在する残存アルカリ量が少なく且つ一次粒子の表層部に存在する硫酸根の量が多いリチウム二次電池用正極活物質を得ることできる。 記載事項(ケ) 【0090】 (実施例1) 上記で得られたリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(I)100重量部と、3.81重量%の硫酸リチウム(Li2SO4・H2O)水溶液250重量部と、を容器に仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌した。次いで、試料が沈降してから上澄み液を除去後、シャワー水として、3.81重量%の硫酸リチウム水溶液250重量部を25℃でかけながら、ろ過した。なお、硫酸リチウム水溶液の調製には、硫酸リチウムの1水和物(Li2SO4・H2O)を用いた。 得られたろ過ケーキを600℃で5時間、大気雰囲気で焼成し、焼成物を粉砕し、分級して組成式LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2である正極活物質A1を得た。 記載事項(コ) 【0095】 (実施例6) 前記リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(I)100重量部と、超純水250重量部と、を容器に仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌した。次いで、試料が沈降してから上澄み液を除去後、シャワー水として、3.81重量%の硫酸リチウム水溶液250重量部を25℃でかけながら、ろ過した。 得られたろ過ケーキを、600℃で5時間、大気雰囲気中で焼成し、焼成物を粉砕し、次いで、分級して組成式LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2である正極活物質Dを得た。なお、硫酸リチウム水溶液の調製には、硫酸リチウムの1水和物(Li2SO4・H2O)を用いた。 記載事項(サ) 【0099】 (比較例3) 前記リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(I)100重量部と、超純水250重量部と、を容器に仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌した。次いで、試料が沈降してから上澄み液を除去後、シャワー水として、超純水250重量部を25℃でかけながら、ろ過した。 得られたろ過ケーキを600℃で5時間、大気雰囲気で焼成し、焼成物を粉砕し、分級して組成式LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2である正極活物質bを得た。 記載事項(シ) 【0106】 【表1】 イ.甲1に記載された発明 上記アの記載事項(ア)、(イ)、(エ)、(ケ)、(コ)、(サ)の下線箇所より、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲1発明> 下記一般式(1): Li(x)Ni(1-a-b)Co(a)Mn(b)O2 (1) (式中、xは0.98≦x≦1.20、aは0<a≦0.5、bは0<b≦0.5である。) で表わされるリチウム複合酸化物であり、一次粒子の表層部に存在している残存アルカリ量が4000ppm以下であり、Li、Ni、Co及びMn元素の他に、B、Mg、Al、Si、Ti、Fe、Ga、Zr、Nb、Mo、Sn、W及びBiの群から選ばれる1種以上の金属元素を含有する、焼成物を粉砕し、分級して得られるリチウム二次電池用正極活物質。 ウ.本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「下記一般式(1): Li(x)Ni(1-a-b)Co(a)Mn(b)O2 (1) (式中、xは0.98≦x≦1.20、aは0<a≦0.5、bは0<b≦0.5である。) で表わされるリチウム複合酸化物であり、」「焼成物を粉砕し、分級して得られるリチウム二次電池用正極活物質」は、本件発明1の「リチウム遷移金属系酸化物の粉末」に相当し、また、本件発明1の「リチウムイオン電池のための正極材料」にも相当する。 (イ)また、甲1発明の「リチウム複合酸化物」の「下記一般式(1): Li(x)Ni(1-a-b)Co(a)Mn(b)O2 (1) (式中、xは0.98≦x≦1.20、aは0<a≦0.5、bは0<b≦0.5である。) で表わされ」、かつ、「Li、Ni、Co及びMn元素の他に、B、Mg、Al、Si、Ti、Fe、Ga、Zr、Nb、Mo、Sn、W及びBiの群から選ばれる1種以上の金属元素を含有する」組成と、本件発明1の「リチウム遷移金属系酸化物」の「一般式Li1+a((NiZ(Ni0.5Mn0.5)yCox)1-kAk)1-aO2」、かつ、「Aが微量の添加不純物であり、-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1及びk≦0.01」、かつ、「微量の添加不純物Aが、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg及びZrのうちいずれか1つ以上である」という組成とは、互いに必須の元素として「Li、Ni、Co及びMn」を含むことに加え、「Al」、「B」、「Si、Ti」のうちいずれか1つ以上の元素を含む場合があることでも共通する。 (ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点、及び、相違点を有する。 <一致点> 「Li、Ni、Co及びMnを有し、かつ、Al、B、Si、Tiのうちいずれか1つ以上の元素を含むリチウム遷移金属系酸化物の粉末を含む、リチウムイオン電池のための正極材料。」 <相違点1> 本件発明1の「リチウム遷移金属系酸化物」は、「一般式Li1+a((NiZ(Ni0.5Mn0.5)yCox)1-kAk)1-aO2」について「-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1及びk≦0.01」と、各パラメータで表される組成範囲が特定されているのに対し、甲1発明の「リチウム複合酸化物」は、本件発明1とは組成範囲の特定が同じではない点。 <相違点2> 本件発明1は「リチウム遷移金属系酸化物の粉末が≦1000ppmの炭素含有量」を有するのに対し、甲1発明は正極活物質の「一次粒子の表層部に存在している残存アルカリ量が4000ppm以下」とまでは特定されているものの、炭素含有量の範囲までは特定されていない点。 エ.相違点の検討 (ア)事案に鑑み、相違点1について検討する。 (イ)本件発明1は、本件特許明細書【0033】の記載からも示唆されるように、「高容量と同時に良好なサイクル安定性及び安全性を得ることを可能する」正極材料を提供することを課題としており、かかる課題を解決するために、正極材料に含まれる粉末の「リチウム遷移金属系酸化物」の組成を表す「一般式Li1+a((NiZ(Ni0.5Mn0.5)yCox)1-kAk)1-aO2」について、「-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1及びk≦0.01」と、各パラメータの範囲を狭い範囲に限定しているものである。 また、本件発明1のように、正極材料に含まれる粉末の「リチウム遷移金属系酸化物」を「狭い組成範囲」を特定することで「高容量と同時に良好なサイクル安定性及び安全性」が得られることは、本件発明1に特定された組成範囲を満たす実施例では良好な結果が得られ、満たさない比較実施例では悪い結果が得られることを示している本件特許明細書【0088】【表5】により、裏付けられている。 (ウ)その一方、甲1発明は、上記記載事項(ウ)のとおり、「電池膨れの問題がなく、且つ、サイクル特性に優れるリチウム二次電池を提供する」ことを課題する一方、上記(イ)で触れた本件発明1のような「高容量と同時に良好なサイクル安定性及び安全性を得ることを可能する」との課題を有しておらず、本件発明1における「リチウム遷移金属系酸化物」と同様の組成範囲を特定しようとする動機が見いだせない。 (エ)また、甲1発明の抽出根拠とした箇所以外も含む甲1の記載全体について総合的に検討しても、上記記載事項(ケ)、(コ)、(サ)に示されるような実施例・比較例の正極活物質の具体的な「組成式LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2」は、本件発明1で特定される「リチウム遷移金属系酸化物」の組成範囲のものでないし、かつ、その他には、実施例・比較例に用いられる正極活物質の具体的な組成式を示す記載も存在しない。また、甲1記載の上記「組成式LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2」を、本件発明1で特定される「リチウム遷移金属系酸化物」の組成範囲に変更する動機も見いだせない。 (オ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、一見、両者で「リチウム遷移金属系酸化物」の組成の範囲が重複するように思える部分があったとしても、これらは互いに課題が異なり、技術思想が共通しない発明同士であり、このように本件発明1とは異なる課題の甲1発明について、当該甲1発明の課題を解決するために適した組成を選択して当該発明を実施する際において、「リチウム遷移金属系酸化物」の組成が本件発明の範囲のものになるといえる根拠、または、なるように調整される動機は、甲1に何ら記載も示唆もされていないから、上記相違点1は両者の実質的な相違点であり、かつ、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が甲1発明から通常の創作能力の範囲で想到できたものでもない。 オ.結言 以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明との間に相違点があり、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。また、本件発明1を引用する本件発明3、4についても同様である。 よって、申立人による申立理由1-1を採用することはできない。 なお、請求項2、8は、訂正により削除されている。 (3)令和2年10月8日(提出日)意見書(申立人)について 上記意見書の3.(2)において、申立人は、特許異議申立書の第20頁第5行目~第32頁17行目に記載されている理由と同じ理由から、本件発明1、3~7、9、10は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨を述べているが、申立理由1-1も含めた特許異議申立書における主張を再度繰り返した内容にすぎず、採用することはできない。 1-2.申立理由1-2について (1)申立理由1-2(進歩性)の概要 取消理由として採用していない申立理由1-2の概要は、上記「第4」で見たように、訂正前の請求項5~7に係る発明は、甲1及び甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということを趣旨とする。 (2)当審の判断 本件発明5~7は、本件発明1を直接的または間接的に引用し、これに、さらに限定を付したものであり、本件発明1の発明特定事項全てを含むものである。 そして、上記1-1.エで検討したように、上記1-1.ウで抽出した相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が甲1発明から通常の創作能力の範囲で想到できたものでなく、本件発明5~7においても共通する該発明特定事項は、当業者が甲1発明から通常の創作能力の範囲で想到できたものでない。 また、申立理由1-2における甲2は、本件発明1にはない本件発明5~7の発明特定事項が甲1発明との新たな相違点となるために、その点に対応する文献として申立人により提示されたものであり、仮に甲1に記載された発明と甲2に記載された発明とを組み合わせようとしたところで、上記1-1.ウで抽出した相違点1に係るものと共通する本件発明5~7の発明特定事項は示唆されないし、当業者が通常の創作能力の範囲で想到できたものともいえない。 したがって、申立人による申立理由1-2も採用することはできない。 (3)令和2年10月8日(提出日)意見書(申立人)について 上記意見書の3.(2)において、申立人は、特許異議申立書の第20頁第5行目~第32頁17行目に記載されている理由と同じ理由から、本件発明1、3~7、9、10は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨を述べているが、申立理由1-2も含めた特許異議申立書における主張を再度繰り返した内容にすぎず、採用することはできない。 1-3.申立理由1-3について (1)申立理由1-3(進歩性)の概要 取消理由として採用していない申立理由1-2の概要は、上記「第4」で見たように、訂正前の請求項9、10に係る発明は、甲1及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということを趣旨とする。 (2)当審の判断 本件発明9、10は、本件発明1を直接的または間接的に引用し、これに、さらに限定を付したものであり、本件発明1の発明特定事項全てを含むものである。 そして、上記1-1.エで検討したように、上記1-1.ウで抽出した相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が甲1発明から通常の創作能力の範囲で想到できたものでなく、本件発明9、10においても共通する該発明特定事項は、当業者が甲1発明から通常の創作能力の範囲で想到できたものでない。 また、申立理由1-3における甲3は、本件発明1にはない本件発明9、10の発明特定事項が甲1発明との新たな相違点となるために、その点に対応する文献として申立人によって提示されたものであり、仮に甲1に記載された発明と甲3に記載された発明とを組み合わせようとしたところで、上記1-1.ウで抽出した相違点1に係るものと共通する本件発明5~7の発明特定事項は示唆されないし、当業者が通常の創作能力の範囲で想到できたものともいえない。 したがって、申立人による申立理由1-3も採用することはできない。 (3)令和2年10月8日(提出日)意見書(申立人)について 上記意見書の3.(2)において、申立人は、特許異議申立書の第20頁第5行目~第32頁17行目に記載されている理由と同じ理由から、本件発明1、3~7、9、10は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨を述べているが、申立理由1-3も含めた特許異議申立書における主張を再度繰り返した内容にすぎず、採用することはできない。 1-4.申立理由1-4について (1)申立理由1-4(新規性・進歩性)の概要 取消理由として採用していない申立理由1-4の概要は、上記「第4」で見たように、訂正前の請求項1、8~10に係る発明は、甲3に記載された発明であるか、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということを趣旨とする。 (2)当審の判断 訂正後の本件発明1、8~10は、申立理由1-4の対象とされていなかった訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「前記リチウム遷移金属系酸化物の粉末が≦1000ppmの炭素含有量を有し、」との発明特定事項を含むものであって、申立人による申立理由1-4において、甲3に記載や示唆があるとも主張されていなかったものであるし、当審において甲3の記載事項について改めて確認しても、甲3には開示も示唆もされていない。 したがって、訂正後の本件発明1、8~10は、少なくとも「前記リチウム遷移金属系酸化物の粉末が≦1000ppmの炭素含有量を有し、」の点で、甲3に記載された発明でないのはもちろん、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)令和2年10月8日(提出日)意見書(申立人)について 上記意見書の3.(2)において、申立人は、特許異議申立書の第20頁第5行目~第32頁17行目に記載されている理由と同じ理由から、本件発明1、3~7、9、10は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨を述べているが、申立理由1-4も含めた特許異議申立書における主張を再度繰り返した内容にすぎず、採用することはできない。 2.申立理由2について 2-1.申立理由2-1-1について (1)申立理由2-1-1(特許異議申立書36頁(4-1)(a)第1の理由)の概要 訂正前の請求項1では、添加不純物であるAについては、元素種等は何ら規定されていないから、あらゆる元素、その組み合わせの場合を包含する。 しかしながら、本件明細書の実施例においては添加不純物を添加した具体的な例は開示されておらず、また、本件明細書において、あらゆる元素の添加不純物を添加した場合に、発明の課題を解決できることについて、合理的な説明もなされていない。また、あらゆる添加元素を添加した場合に、発明の課題を解決できることが、本件特許に係る出願の優先日前に周知の技術であったとも認められない。 したがって、訂正前の請求項1で規定するようなあらゆる種類の添加不純物Aを添加した場合でも、発明の課題を解決できるかは明らかでない。 よって、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を明らかに超えている。また、請求項1を引用する請求項2~10に係る発明も同様である。 (2)当審の判断 ア.訂正後の本件発明1は、「微量の添加不純物A」に関し、「一般式Li1+a((NiZ(Ni0.5Mn0.5)yCox)1-kAk)1-aO2を有するリチウム遷移金属系酸化物の粉末を含む、リチウムイオン電池のための正極材料であって、 Aが微量の添加不純物であり、-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1及びk≦0.01であり、」との成分割合に関する特定と、「前記微量の添加不純物Aが、Al、Ca、W、B、Si、Ti、Mg及びZrのうちいずれか1つ以上である」との添加不純物Aの具体的な元素に関する特定とを含む。 イ.上記「第6」1.(1)で触れた取消理由1のとおり、本件明細書【0016】より、課題は、「許容できる高Ni超過材料を作製するために、最適化されたNMC組成物及び高度の電池性能を有し、高可逆容量が良好なサイクル安定性及び安全性と共に得られる、このようなカソード材料」を提供することと認められる。 ウ.そして、本件明細書の実施例においては添加不純物を添加した具体的な例は開示されておらず、また、本件明細書において、このような元素の添加不純物を添加した場合に、本件発明の課題を解決できることについて特に説明もなされていないものの、当業者であれば、本件発明1において、微量添加する「A」の添加量を課題の解決を妨げない程度に抑えることは明らかであり、本件発明1が、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を明らかに超えているとはいえない。また、訂正後の本件発明3~7、9、10も同様である。なお、訂正により請求項2、8は削除されている。 したがって、申立人による申立理由2-1-1を採用することもできない。 (3)令和2年10月8日(提出日)意見書(申立人)について 上記意見書の3.(1)(1-1)(第2の理由)において、申立人は、訂正により本件発明1の添加不純物Aについて具体的な元素が特定されたとしても、申立理由2-1-1のような特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの取消理由は依然存在している旨のことを主張しているが、上記(2)のように判断したとおりであり、採用することはできない。 2-2.申立理由2-1-2について (1)申立理由2-1-2(特許異議申立書38頁(4-1)(b)第2の理由)の概要 ア.本件明細書の記載によれば、発明の課題は、「高可逆容量が良好」であること、「サイクル安定性」、「安全性」の3つであると解されるが、本件明細書の実施例では、安全性についての評価を行った試験はない。 イ.また、本件明細書には、請求項1に記載の組成を充足することで、発明の課題を解決できることについて合理的な説明もなされていないし、本件特許に係る出願の優先日前に周知の技術であったとも認められない。 ウ.そうすると、本件明細書の実施例からは、請求項1に記載の組成を充足することで、発明の課題を解決できるかは、明らかでない。すなわち、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を明らかに超えている。また、訂正前の請求項2~10に係る発明も同様である。 エ.なお、本件明細書に開示された実施例のうち、充電池試験以外の全ての試験を実施しているのは、表5からも明らかなように、EX1.1と表記された例のみである。このため、仮に本件明細書に開示された既述の試験方法のいずれかが安全性に関する試験を含んでいたとしても、EX1.1以外の組成の場合に、発明の課題を解決できるかは明らかではなく、依然としてサポート要件を充足しない。 (2)当審の判断 ア.本件明細書【0101】及び本件図面の図8には、次の記載がある。 「【0101】 図8は、EX1.1、CEX4及びCEX5のDSCスペクトルを示す。本図では、x軸は温度(℃)に関し、またy軸は熱流(W/g)に関する。約180℃から開始して最大約250℃~264℃に到達する主な発熱ピークは、酸素放出及び酸素によるその後の電解質の燃焼を伴う脱リチウム化カソードの構造変化からもたらされる。特に、NMCにおけるNi含有量が増大するので、主な発熱ピークの温度が持続的に低下し、かつ放出される発熱が持続的に増大するが、これは不十分な安全性を示している。Ni-超過(0.56)を伴うCEX5は、その他の実施例よりもより低い発熱ピーク温度及びより高い発熱反応エンタルピーを有する。これらのサンプルは、Ni-超過が増大するので、充電カソード材料の熱安定性が著しく低下することを示す。従って、増大した容量はサイクル安定性を低下させるだけでなく、安全性をも低下させる。従って、これらの実施例から、EX1.1は、高度の電池性能及び高い熱安定性を伴う最適化された組成物を有する。」 「【図8】 」 上記に示されるように、本件明細書【0101】及び本件図面の図8には、実施例EX1.1並びに比較実施例CEX4及びCEX5のDSCスペクトルの測定結果が記載され、また、本件明細書【0101】には、かかる測定結果をもとに、本件発明のリチウム遷移金属系酸化物のNi含有量と安全性との関係について説明されている。 そうすると、上記(1)アのような「本件明細書の実施例では、安全性についての評価を行った試験はない。」という申立人の主張は理由がない。 イ.上記(1)イにおける「本件明細書の実施例からは、請求項1に記載の組成を充足することで、発明の課題を解決できるかは、明らかでない。」という申立理由2-1-2の「組成」とは、訂正前の請求項1記載の「Aが微量の添加不純物であり、-0.025≦a≦0.025、0.18≦x≦0.22、0.42≦z≦0.52、1.075<z/y<1.625、x+y+z=1及びk≦0.01」である「一般式Li1+a((NiZ(Ni0.5Mn0.5)yCox)1-kAk)1-aO2」という「リチウム遷移金属系酸化物」の組成のことを指していると判断される。そして、訂正後の本件発明3~7、9、10の「リチウム遷移金属系酸化物」にも、これと同じ組成の特定がなされている。なお、訂正により請求項2、8は削除されている。 また、上記2-1(2)イのとおり、本件明細書【0016】より、課題は、「許容できる高Ni超過材料を作製するために、最適化されたNMC組成物及び高度の電池性能を有し、高可逆容量が良好なサイクル安定性及び安全性と共に得られる、このようなカソード材料」を提供することと認められる。 ウ.ここで、本件明細書には、上記イのような申立理由2-1-2の「組成」に関する技術上の意義に関し、上記アで挙げた【0101】の他、以下のような記載もなされている。 「【0021】 中でも、良好なサイクル安定性及び安全性と共に、高可逆容量が達成される。Coの容量が0.18~0.22の範囲であり、かつNi及びMnが狭い範囲内で変化する場合に、向上した性能が得られる。このNi-Mnの範囲は、互いに関連する2つの関係(Ni-Mn及びNi/Mn)によって表すことができる。1+2*z/yにより表されるNi/Mnのモル比はまた、『Ionics,20,1361~1366(2014)』に記載されているように、容量及びサイクル安定性などの性能に影響を与え得る。Ni/Mn比率の増大に伴って総放電容量が増大するが、比率が大きくなり過ぎる場合に、電極材料の安定性が低下する。他方では、Ni含有量に対してMn含有量が増大する場合、容量は減少する。Ni含有量がNi超過『z』(=NiマイナスMn)の両方を増大させるので、Mnに対するNiの化学量論比も同様に増大する。Ni-超過が0.42~0.52の範囲で変化する場合、またMnに対するNiの化学量論比が3.15~4.25の範囲で変化する場合、向上した性能が得られる。」 「【0031】 Ni-超過が0.52よりも高い場合、表面処理の性能を向上させる効果はより少ない。Ni-超過が0.42未満の場合、次に、表面処理は性能を向上させるが、容量は不十分となる。」 「【0033】 本発明では、狭い組成範囲のみが、高容量と同時に良好なサイクル安定性及び安全性を得ることを可能にする、ということが観察されている。組成物が最適な領域から逸脱している場合、次にサイクル安定性の低下が観察される。」 そうすると、本件明細書には、上記組成のうち「Co」、「Ni」、「Mn」に関するすべての特定について、課題解決に寄与する技術上の意義が説明されており、これらの特定がなされた定性的理由があることを理解することができる。そして、本件明細書のそのような説明内容と矛盾をするような本願明細書の実施例・比較実施例の各試験結果及び技術常識も見出せない。 また、上記2-1.で検討したとおり、上記組成における「A」に関する特定も、課題解決の妨げになる点はないと判断される。 そうすると、上記(1)エのように「本件明細書に開示された実施例のうち、充電池試験以外の全ての試験を実施しているのは、表5からも明らかなように、EX1.1と表記された例のみ」であったとしても、上記イで挙げた本件発明3~7、9、10の「リチウム遷移金属系酸化物」の組成の特定が課題解決に寄与することを理解することができ、また、上記(1)イのような「本件明細書には、請求項1に記載の組成を充足することで、発明の課題を解決できることについて合理的な説明もなされていない」という申立人の主張についても、それを裏付ける具体的根拠も見出せない。 エ.以上のとおりであるから、申立人による申立理由2-1-2を採用することもできない。 (3)令和2年10月8日(提出日)意見書(申立人)について 上記意見書の3.(1)(1-1)(第3の理由)において、申立人は、特許異議申立書の第38頁第1行目~第39頁6行目に記載されている理由と同じ理由から、本件発明1、3~7、9、10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてない旨を述べているが、申立理由2-1-2に関する特許異議申立書における主張を再度繰り返した内容にすぎず、採用することはできない。 2-3.申立理由2-1-3の一部について (1)申立理由2-1-3の一部(特許異議申立書39頁(4-1)(c)第3の理由の一部)の概要 ア.上記第4 2.(1)ウに挙げた申立理由2-1-3のうち取消理由で採用しなかった理由部分は、当審において、以下イのように整理ができると判断している。 イ.本件明細書の【0029】には、「最終的に、カソードはイオウを含有してよい。少なくとも0.05質量%、好ましくは少なくとも0.1質量%のイオウが存在してよい。イオウの存在は、サイクル安定性を向上させて、可逆容量を増大させる。結果は、イオウが多結晶カソード材料における粒界を最適化するのに重要である、ということを示している。イオウ含有量が幾分少ない場合、次に粒界が非常に狭く、かつ可逆容量が低下する。イオウ含有量は1質量%を超えるべきではなく、さもなければ可逆容量が失われてしまう。」と記載されている。 そして、既述のように、本件明細書に記載された発明の課題は、「高可逆容量が良好」であること、「サイクル安定性」、「安全性」の3つであると解される。 上記の課題を解決するためには、カソード材料のイオウの含有量が所定の範囲にあることが必須の要件であると解されるから、イオウの含有量が規定されていない場合を含む訂正前の1~3、5~10に係る発明は、サポート要件を充足していない。 (2)当審の判断 ア.上記(1)イの本件明細書【0029】の記載から、イオウは正極材料に含有された方がよい成分とは理解される一方、必須の成分であることまでは読み取れない。また、本件明細書の実施例としても、イオウを含有した正極材料は記載されておらず、イオウの含有が必須である理由は見いだせない。 イ.そうすると、正極材料がイオウを含有しない場合を含む訂正後の本件発明1、3、5~7、9、10が、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を明らかに超えているとはいえない。なお、訂正により請求項2、8は削除されている。 ウ.以上のとおりであるから、正極材料がイオウを含有することが必須であるかのような申立人による申立理由2-1-3の一部についても、採用することができない。 (3)令和2年10月8日(提出日)意見書(申立人)について 上記意見書の3.(1)(1-1)(第1の理由)のなお書きにおいて、申立人は、上記(1)イ.に整理したのと同様の理由から、本件発明1、3~7、9、10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてない旨を述べているが、上記(2)のように判断したとおりであり、採用することはできない。 3.小括 以上のとおり、令和2年5月25日(起案日)付け取消理由通知書で採用しなかった申立理由について改めて検討しても、訂正後の本件発明について採用できる理由はない。 第8 むすび 以上のとおり、請求項〔1~10〕についての訂正は適法であるから、これを認める。 そして、当審の取消理由通知書及び特許異議申立書に記載した理由によっては、本件特許の請求項1、3~7、9~10に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件特許の請求項1、3~7、9~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項2、8は、訂正により削除されたから、請求項2、8に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2020-700125

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決87件(ユミコア、ユミコア・コリア・リミテッド、金澤 毅)
  • 2022-700039異議申立 / 2022-10-20 / 維持充電式リチウムイオン電池用の正極材料及びその製造方法
    同じ当事者: ユミコア、ユミコア・コリア・リミテッド
  • 2021-700151異議申立 / 2022-05-31 / 訂正認容ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法
    同じ当事者: ユミコア、金澤 毅
  • 2020-700609異議申立 / 2021-07-06 / 訂正認容充電式バッテリー用のリチウム遷移金属酸化物カソード材料の前駆体
    同じ当事者: ユミコア、ユミコア・コリア・リミテッド
  • 2019-700707異議申立 / 2021-02-09 / 訂正認容ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法
    同じ当事者: ユミコア、金澤 毅
  • 2019-700709異議申立 / 2020-12-18 / 訂正認容ニッケルリチウム金属複合酸化物の製造方法
    同じ当事者: ユミコア、金澤 毅
同じ論点・分野の審決(審決分類)1,892件(113・H01M、121・H01M、537・H01M)
  • 2026-700447異議申立 / 2026-08-26 / 維持窒素含有多孔質炭素及びその製造方法、並びに燃料電池用電極触媒
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M
  • 2025-701066異議申立 / 2026-07-16 / 維持二次電池バインダー、スラリー、電極、二次電池の製造方法、及び二次電池
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M
  • 2026-700111異議申立 / 2026-06-22 / 維持固体酸化物形電気化学セル及びその利用
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M
  • 2026-700141異議申立 / 2026-05-27 / 維持電気化学装置
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M
  • 2025-701146異議申立 / 2026-05-13 / 維持二次電池バインダー、スラリー、電極、二次電池の製造方法、及び二次電池
    共通の審決分類: 113・H01M、121・H01M、537・H01M

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存