特許異議申立
2020-700469
動力伝達機構の異常診断装置および動力伝達機構の異常診断方法
- 審判番号
- 2020-700469
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-556178
- 登録番号
- 特許第6628905号(P6628905)
- 請求日
- 2020年07月10日
- 審決日
- 2021年03月31日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱電機株式会社
- 【権利者代理人】村上 啓吾
- 【権利者代理人】大岩 増雄
- 【権利者代理人】吉澤 憲治
- 【権利者代理人】竹中 岑生
- 【異議申立人】坂井 弘人
- 審判長/審判官
- 審判長 福島 浩司
- 審判官 伊藤 幸仙
- 審判官 森 竜介
- 分類
- P1651.113-YAA(G01M) / P1651.121-YAA(G01M) / P1651.537-YAA(G01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6628905号発明「動力伝達機構の異常診断装置および動力伝達機構の異常診断方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6628905号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第6628905号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6628905号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)9月1日(優先権主張 2016年12月15日)を国際出願日とする国際出願PCT/JP2017/031609を国内段階に移行して特願2018-556178号として出願され、令和元年12月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年1月15日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和2年7月9日に特許異議申立人 坂井弘人(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年9月30日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年11月30日付けで意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、その指定期間内に意見書を提出しなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)ないし(6)のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1に係る
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。」
を
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部と、前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項2に係る
「前記解析部は、前記電動機の駆動電流スペクトル波形を解析するスペクトル解析部と、前記駆動電流スペクトル波形から、スペクトルピークを検出する側帯波解析部と、検出された前記スペクトルピークの中から前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯を解析する周波数解析部と、電源の周波数及び動力伝達機構周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部とからなる請求項1に記載の動力伝達機構の異常診断装置。」
を
「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、前記解析部は、前記電動機の駆動電流スペクトル波形を解析するスペクトル解析部と、前記駆動電流スペクトル波形から、スペクトルピークを検出する側帯波解析部と、検出された前記スペクトルピークの中から前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯を解析する周波数解析部と、電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。」
に訂正する。
請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3,4,5,7も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項3に係る
「検出された前記動力伝達機構周波数以外の前記側帯波」
を
「検出された前記電源の周波数及び前記動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の前記側帯波」
に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項5に係る
「請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達機構の異常診断装置」
を
「請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達機構の異常診断装置」
に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項6に係る
「前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較する比較部を備えた請求項5に記載の動力伝達機構の異常診断装置。」
を
「複数の同じ種類の電動機にそれぞれ接続された負荷としての同じ種類の機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備える動力伝達機構の異常診断装置。」
に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】の
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備えるものである。」という記載を
「前記監視診断部は、
前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部と、前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とからなるものである。
また、この発明に係る動力伝達機構の異常診断装置は、電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、前記解析部は、前記電動機の駆動電流スペクトル波形を解析するスペクトル解析部と、前記駆動電流スペクトル波形から、スペクトルピークを検出する側帯波解析部と、検出された前記スペクトルピークの中から前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯を解析する周波数解析部と、電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部とを備えるものでもある。
また、この発明に係る動力伝達機構の異常診断装置は、複数の同じ種類の電動機にそれぞれ接続された負荷としての同じ種類の機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備えるものでもある。」
に訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項、独立特許要件
(1)訂正事項1について
請求項1に係る
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置」は、
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部と、前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置」
を選択肢として含む上位概念であるから、
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置」を
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部と、前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置」
に変更する訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置」の具体例として
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部と、前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置」
が発明の詳細な説明の段落【0020】ないし【0028】に記載されている。よって、
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置」として
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部と、前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置」
を用いてなる発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
(2)訂正事項2について
請求項2に係る
「請求項1に記載の」を
「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、」
に変更する訂正は、請求項1の引用形式から、請求項1の発明特定事項を書き下して独立した請求項とする訂正であり、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、請求項2に係る
「電源の周波数及び動力伝達機構周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」は、
「電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」
を選択肢として含む上位概念であるから、
「電源の周波数及び動力伝達機構周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」を
「電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」
に変更する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、
「電源の周波数及び動力伝達機構周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」の具体例として
「電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」
が発明の詳細な説明の段落【0027】に記載されている。よって、
「電源の周波数及び動力伝達機構周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」として
「電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」
を用いてなる発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
(3)訂正事項3について
請求項3に係る
「検出された前記動力伝達機構周波数以外の前記側帯波」は、
「検出された前記電源の周波数及び前記動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の前記側帯波」
を選択肢として含む上位概念であるから、
「検出された前記動力伝達機構周波数以外の前記側帯波」を
「検出された前記電源の周波数及び前記動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の前記側帯波」
に変更する訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、
「検出された前記動力伝達機構周波数以外の前記側帯波」の具体例として
「検出された前記電源の周波数及び前記動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の前記側帯波」
が発明の詳細な説明の段落【0027】に記載されている。よって、
「検出された前記動力伝達機構周波数以外の前記側帯波」として
「検出された前記電源の周波数及び前記動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の前記側帯波」
を用いてなる発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
(4)訂正事項4について
請求項5に係る
「請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達機構の異常診断装置」を
「請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達機構の異常診断装置」
とする訂正は、上記(2)で検討したとおり、訂正後の請求項2は訂正前の請求項1の発明特定事項を全て含んでおり、さらに訂正後の請求項3ないし4は訂正後の請求項2を引用しており、訂正前の請求項1を引用する請求項5に係る発明を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、訂正後の請求項5に係る発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
(5)訂正事項5について
請求項6に係る
「前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較する比較部を備えた請求項5に記載の動力伝達機構の異常診断装置。」を
「複数の同じ種類の電動機にそれぞれ接続された負荷としての同じ種類の機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備える動力伝達機構の異常診断装置。」
に変更する訂正は、請求項1を引用する請求項5を引用する引用形式から、請求項1及び請求項5の発明特定事項を書き下して独立した請求項とする訂正を含むものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものを含んでいる。
また、請求項6に係る
「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する」は、
「複数の同じ種類の電動機にそれぞれ接続された負荷としての同じ種類の機械設備に動力を伝達する」
の上位概念であるから、
「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する」を
「複数の同じ種類の電動機にそれぞれ接続された負荷としての同じ種類の機械設備に動力を伝達する」
に変更する訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
さらに、請求項6に係る
「前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較する比較部を備えた」は、
「前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備える」
の上位概念であるから、
「前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較する比較部を備えた」を
「前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備える」
に変更する訂正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
次に、明細書の発明の詳細な説明には、「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する」の具体例として「複数の同じ種類の電動機にそれぞれ接続された負荷としての同じ種類の機械設備に動力を伝達する」が発明の詳細な説明の段落【0036】ないし【0037】に記載されているし、「前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較する比較部を備えた」の具体例として「前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備える」が発明の詳細な説明の段落【0036】ないし【0038】に記載されている。よって、「電源の周波数及び動力伝達機構周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」として「電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部」を用いてなる発明は、明細書に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
(6)訂正請求6について
段落【0008】について
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備えるものである。」を
「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部と、前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とからなるものである。
また、この発明に係る動力伝達機構の異常診断装置は、電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、前記解析部は、前記電動機の駆動電流スペクトル波形を解析するスペクトル解析部と、前記駆動電流スペクトル波形から、スペクトルピークを検出する側帯波解析部と、検出された前記スペクトルピークの中から前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯を解析する周波数解析部と、電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部とを備えるものでもある。
また、この発明に係る動力伝達機構の異常診断装置は、複数の同じ種類の電動機にそれぞれ接続された負荷としての同じ種類の機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備えるものでもある。」
とする訂正は、上記訂正事項1、2及び6に係る訂正による特許請求の範囲の訂正に伴い明細書の記載を整合させるための明細書の訂正である。そうすると、上記訂正事項6は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)一群の請求項及び独立特許要件について
本件訂正請求は、訂正前の請求項1ないし7について、請求項2ないし7は請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。そのため、請求項1ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
また、本件においては、訂正前の全ての請求項1ないし10について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1ないし7に係る訂正事項1ないし5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし7について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし7に係る発明(以下「本件発明1ないし7」という。)及び本件特許の登録時の請求項8ないし10に係る発明(以下「本件発明8ないし10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、
前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、
前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、
前記監視診断部は、
前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部と、
前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。
【請求項2】
電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、
前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、
前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、
前記監視診断部は、
前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、
前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、
前記解析部は、
前記電動機の駆動電流スペクトル波形を解析するスペクトル解析部と、
前記駆動電流スペクトル波形から、スペクトルピークを検出する側帯波解析部と、
検出された前記スペクトルピークの中から前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯を解析する周波数解析部と、
電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。
【請求項3】
前記異常判定部は、検出された前記電源の周波数及び前記動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の前記側帯波の個数から、前記異常のレベルを判定するレベル判定部を備えた請求項2に記載の動力伝達機構の異常診断装置。
【請求項4】
前記電源と前記電動機の間に電動機駆動制御装置を備え、
前記異常周波数カウント部は、前記電動機駆動制御装置の運転周波数以外の側帯波の個数を検出する請求項2又は請求項3に記載の動力伝達機構の異常診断装置。
【請求項5】
前記監視診断部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流を解析し、それぞれの前記電動機に接続された前記動力伝達機構の異常を判定する請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達機構の異常診断装置。
【請求項6】
複数の同じ種類の電動機にそれぞれ接続された負荷としての同じ種類の機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、
前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、
前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、
前記監視診断部は、
前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、
前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備え、
前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、
前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備える動力伝達機構の異常診断装置。
【請求項7】
前記監視診断部は、前記動力伝達機構の異常を前記電動機駆動制御装置にフィードバックし、前記電動機駆動制御装置は、前記異常のレベルに応じて、前記電動機の回転を制御する請求項4に記載の動力伝達機構の異常診断装置。
【請求項8】
電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断方法であって、
前記電動機に流れる電流を測定する第1ステップと、
前記電流の値を監視診断部に送信する第2ステップと、
前記電流の周波数解析をする第3ステップと、
前記第2ステップで得た駆動電流スペクトル波形の中から突出するスペクトルピークを検出する第4ステップと、
前記第4ステップにおいて検出された前記スペクトルピークの中から、等間隔で閾値以上の信号強度を有する複数のスペクトルピークを検知し、複数の前記スペクトルピークを前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯と判定する第5ステップと、
電源周波数及び動力伝達機構の周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する第6ステップと、
前記側帯波の数から前記動力伝達機構の異常の有無を判定する第7ステップとを有する動力伝達機構の異常診断方法。
【請求項9】
複数の電動機から、負荷としてのそれぞれの機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断方法であって、
それぞれの前記電動機に流れる電流を測定する第1ステップと、
前記電流の値を監視診断部に送信する第2ステップと、
それぞれの前記電流の周波数解析をする第3ステップと、
前記第3ステップで得たそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して前記動力伝達機構の異常の有無を判定する第207ステップとを有する動力伝達機構の異常診断方法。
【請求項10】
前記第5ステップにおいて、前記動力伝達機構周波数帯と判定された前記スペクトルピークの数が0の場合は、前記動力伝達機構の動力伝達部材が破断していると判定する第51ステップを有する請求項8に記載の動力伝達機構の異常診断方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし10に係る特許に対して、当審が令和2年9月30日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1(新規性)について
ア 請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
イ 請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)理由2(進歩性)について
ア 請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
イ 請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
ウ 請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に開示された技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
エ 請求項5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に開示された技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。よって、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)理由3(サポート要件)について
請求項1ないし7に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
2.甲号証の記載
(1)甲第1号証
本件特許の優先日前である平成28年(2016年)9月6日に頒布された刊行物である「特許第5985099号公報」(以下「甲第1号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与。以下同様。)
ア 「【0001】
本発明は、回転機械系の駆動源である三相誘導電動機の稼働時電流信号の状態から回転機械系の異常を検知する回転機械系の異常検知方法、その異常検知方法を用いた回転機械系の異常監視方法、及びその異常監視方法を用いた回転機械系の異常監視装置に関する。」
イ 「【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る回転機械系の異常監視装置10は、回転機械系11の駆動源である三相誘導電動機12の稼働時電流信号の解析結果から、回転機械系11の総合的な状態や、回転機械系11の機械的構造に起因して発生する個別的な状態をそれぞれ定量的に評価する劣化パラメータを求める劣化パラメータ算出部13と、劣化パラメータの値を記録すると共に、求めた劣化パラメータの値と劣化判定基準値を比較する簡易異常診断部14と、簡易異常診断部14で回転機械系11に異常が検知された際に、劣化判定基準値に達した劣化パラメータに基づいて異常の種類と回転機械系11における異常箇所を特定する精密異常診断部15とを有している。以下、詳細に説明する。」
ウ 「【0012】
劣化パラメータ算出部13は、回転機械系11の電気室(制御盤)から三相誘導電動機12に電力を供給する三相毎の電源ケーブ12aに流れる稼働時電流信号を検出する電流検出器16(例えば、クランプ式電流センサー)と、電流検出器16で測定した稼働時電流信号をデジタル信号に変換するA/D変換器17と、A/D変換器17から出力された稼働時電流信号を処理する処理ユニット18とを有している。
【0013】
そして、処理ユニット18には、回転機械系11の状態を総合的に評価する劣化パラメータである電流情報量KIを算出する電流情報量算出手段19と、回転機械系11の負荷変動状況を評価する劣化パラメータである電流実効値Irmsを算出する電流実効値算出手段20と、電源品質又は三相誘導電動機12の固定子及びインバータの劣化状況を評価する劣化パラメータである稼働時電流信号の3相電流バランスIubを算出する3相電流バランス算出手段21と、電源品質又は三相誘導電動機12の固定子及びインバータの劣化状況を評価する劣化パラメータである稼働時電流信号の電流単調波比率idisを算出する電流単調波比率算出手段22と、電源品質又は三相誘導電動機12の固定子及びインバータの劣化状況を評価する劣化パラメータである稼働時電流信号の電流全調波比率Idisを算出する電流全調波比率算出手段23が設けられている。ここで、処理ユニット18には、更に、A/D変換器17から出力された稼働時電流信号を高速フーリエ変換(周波数解析の一例)する高速フーリエ変換器24が設けられており、電流単調波比率算出手段22と電流全調波比率算出手段23には、高速フーリエ変換器24から出力されるスペクトルデータ(周波数と対数変換した電流スペクトルの関係を示すデータ)が入力される。
なお、電流情報量KI、電流実効値Irms、3相電流バランスIub、電流単調波比率idis、及び電流全調波比率Idisの各劣化パラメータ(これらの劣化パラメータを総称して第1種劣化パラメータという)の値は、回転機械系11の劣化の進行に伴って上昇する特徴を有する。」
エ 「【0017】
更に、処理ユニット18には、三相誘導電動機12により駆動される回転機械系11が歯車装置の場合(三相誘導電動機12の回転子の回転軸に取付けられた歯車の一例)、歯車の摩耗、潤滑不良、折損等の異常を推測する劣化パラメータである噛合い電流比率Lgzを算出する噛合い電流比率算出手段29と、歯車の摩耗、潤滑不良、折損等の異常を推測する劣化パラメータであるギアポール電流比率Lgpを算出するギアポール電流比率算出手段29aと、三相誘導電動機12により駆動される回転機械系11がプーリーベルト駆動系の場合(三相誘導電動機12の回転子の回転軸に取付けられたプーリーの一例)、プーリーのミスアラインメントとベルトの張り具合の異常を推測する劣化パラメータであるベルト回転電流比率Lbrを算出するベルト回転電流比率算出手段30が設けられている。
なお、軸系電流比率Lshaft、ポール通過電流比率Lpole、回転子すべり電流比率Lrs、ブレード通過電流比率Lbp、噛合い電流比率Lgz、ギアポール電流比率Lgp、及びベルト回転電流比率Lbrの各劣化パラメータ(これらの劣化パラメータを総称して第2種劣化パラメータという)の値は、回転機械系11の劣化の進行に伴って低下する特徴を有する。」
オ 「【0023】
ベルト回転電流比率算出手段30では、ベルト回転電流比率Lbrを、スペクトルデータから、電源周波数の電流スペクトルピークの側帯波であって、三相誘導電動機12のベルト回転周波数に起因する側帯波、即ち、電源周波数の電流スペクトルピークを中心として、ベルト回転周波数分だけ低周波数側及び高周波数側にそれぞれ離れた周波数位置に存在する側帯波のいずれか一方のピーク値、例えば、最大ピーク値20logIbr(Ibrは、高速フーリエ変換器24から出力されるベルト回転周波数に起因する側帯波の電流スペクトルのピーク値)と、電源周波数の電流スペクトルピークのピーク高さ20logIlineを求め、20logIline-20logIbr、即ち、20log(Iline/Ibr)として評価している。」
カ 「【0025】
簡易異常診断部14は、劣化パラメータの値から回転機械系11の異常を検知(異常が発生したか否かを判定)する際に使用する劣化判定基準値を保存しているデータベース32と、劣化パラメータ算出部13から取得した劣化パラメータの値と劣化パラメータに対応する劣化判定基準値をデータベース32から取得して比較して回転機械系11の状態を診断する簡易診断手段33とを有している。
ここで、劣化判定基準値は、例えば、回転機械系11を想定したモデル回転機械系を用いた破壊試験や、従来の保守管理実績に基づいて設定する。なお、簡易診断手段33では、第1種劣化パラメータに対しては、第1種劣化パラメータの値が設定した劣化判定基準値以上となる場合、異常が発生したと判定する。一方、第2種劣化パラメータに対しては、第2種劣化パラメータの値が設定した劣化判定基準値以下となる場合、異常が発生したと判定する。
【0026】
更に、簡易異常診断部14は、劣化パラメータ算出部13から取得した劣化パラメータの値を時系列的に保存する劣化傾向管理手段34と、劣化傾向管理手段34に保存された劣化パラメータの値(劣化傾向管理データ)の経時変化挙動を示す近似関数を求め、劣化パラメータの値が劣化判定基準値に一致するまでの時間(期待使用寿命)を推定して表示する余寿命予測手段35とを有している。なお、余寿命予測手段35では、劣化パラメータ毎に、劣化判定基準値として危険判定基準値と注意判定基準値を設定している。劣化パラメータの値が、注意判定基準値に達すると当該パラメータに関する異常が発生していると判断し、危険判定基準値に達すると当該パラメータに関する異常により回転機械系11が停止又は破損の危険があると判断する。劣化パラメータの値が注意判定基準値に対して予め設定した注意範囲に到達した際に、注意範囲内の劣化パラメータの値の経時変化から近似関数を求めている。図2に3相電流バランスIubの劣化傾向管理データと推定した期待使用寿命を、図3に軸系電流比率Lshaftの劣化傾向管理データと推定した期待使用寿命を示す。」
キ 「【0028】
精密異常診断部15は、簡易異常診断部14において、電流実効値Irms、3相電流バランスIub、電流単調波比率idis、及び電流全調波比率Idis、軸系電流比率Lshaft、ポール通過電流比率Lpole、回転子すべり電流比率Lrs、ブレード通過電流比率Lbp、噛合い電流比率Lgz、ギアポール電流比率Lgp、及びベルト回転電流比率Lbrの値の中で少なくとも1つが劣化判定基準値に達した際に、劣化判定基準値に達した劣化パラメータに基づいて異常の種類と回転機械系11における異常箇所を特定する。例えば、劣化判定基準値に達した劣化パラメータが電流実効値Irmsの場合は回転機械系11に負荷変動が生じたと判定し、劣化判定基準値に達した劣化パラメータが3相電流バランスIub、電流単調波比率idis、又は電流全調波比率Idisの場合は回転機械系11に供給される電源品質又は三相誘導電動機12の固定子に劣化が生じたと判定する。」
ク 「【0030】
劣化判定基準値に達した劣化パラメータがブレード通過電流比率Lbpの場合は、三相誘導電動機12により駆動される流体回転機械に設けられたブレード及びケーシングの摩耗や腐食の発生が推測される。
劣化判定基準値に達した劣化パラメータが噛合い電流比率Lgz又はギアポール電流比率
Lgpの場合は、三相誘導電動機12により駆動される歯車装置の歯車の摩耗、潤滑不良、折損等の異常が推測される。劣化判定基準値に達した劣化パラメータがベルト回転電流比率Lbrの場合は、三相誘導電動機12により駆動されるプーリーベルト駆動系のプーリーのミスアラインメントとベルトの張り具合の異常が推測される。」
ケ 「【0052】
(劣化傾向管理工程)
また、回転機械系11が三相誘導電動機12により駆動されるベルト駆動回転機械の場合、ブレード通過電流比率Lbpの代わりにベルト回転電流比率Lbrを選定し、回転機械系の異常検知方法としてベルト回転電流比率Lbrによる簡易診断を行う。
即ち、第1工程では、図4に示すように、劣化パラメータ算出部13の電流検出器16で三相誘導電動機12の稼働時電流信号を計測し、A/D変換器17によりデジタル化した稼働時電流信号を得る(S-1)。次いで、デジタル化した稼働時電流信号を、劣化パラメータ算出部13の処理ユニット18の高速フーリエ変換器24に入力して電流スペクトルを求める(S-5)。
【0053】
第2工程では、得られた電流スペクトルをベルト回転電流比率算出手段30に入力し、電流スペクトルの中から、三相誘導電動機12の電源周波数の電流スペクトルピークを中心とし、三相誘導電動機12のベルト回転周波数(特徴周波数の一例)分だけ低周波数側及び高周波数側にそれぞれ離れた周波数位置に存在する側帯波を抽出し、ピークの高い側帯波のピーク値Ibrを求め、第3工程では、ピーク値20logIbr及び電源周波数の電流スペクトルピークのピーク値20logIlineを用いて、ベルト回転電流比率Lbrを20log(Iline/Ibr)として算出する(S-6)。
ここで、第2工程において、ベルト回転周波数は、三相誘導電動機12の回転子の回転軸に設けられたプーリーの1回転に伴うベルト移動量のベルト全長に対する移動比率と、三相誘導電動機12の実回転周波数の積として定義される。
【0054】
第4工程では、得られたベルト回転電流比率Lbrを劣化傾向管理手段34に記録すると共に、ベルト回転電流比率Lbrの値とベルト回転電流比率Lbrの第1、第2の劣化判定基準値(注意判定基準値、危険判定基準値)とを比較する。また、余寿命予測手段35では保存したベルト回転電流比率Lbrを用いてベルト回転電流比率Lbrの経時変化挙動を監視する(以上、S-3)。そして、ベルト回転電流比率Lbrが第2の劣化判定基準値(危険判定基準値)に達していない場合はベルト回転電流比率Lbrによる簡易診断を繰り返し、ベルト回転電流比率Lbrが第2の劣化判定基準値(危険判定基準値)に達した場合は、ベルト回転電流比率Lbrで異常が検知されたことを精密異常診断部15に入力する(S-4)。
【0055】
(精密異常診断工程)
精密異常診断部15には、簡易異常診断部14において異常が検知された劣化パラメータの情報が入力されるので、入力された劣化パラメータの種類から、回転機械系11で発生した異常の種類と回転機械系11における異常箇所を特定し(S-7)、その結果を、例えば、表示器に表示する(S-8)。
精密異常診断部15に入力された劣化パラメータがベルト回転電流比率Lbrの場合は、三相誘導電動機12により駆動されるプーリーベルト駆動系のプーリーのミスアラインメントとベルトの張り具合及び摩耗の異常が推測できる。」
上記甲第1号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「回転機械系の駆動源である三相誘導電動機の稼働時電流信号の状態から回転機械系の異常を検知する回転機械系の異常検知方法、その異常検知方法を用いた回転機械系の異常監視方法、及びその異常監視方法を用いた回転機械系の異常監視装置において、
回転機械系の異常監視装置10は、回転機械系11の駆動源である三相誘導電動機12の稼働時電流信号の解析結果から、回転機械系11の総合的な状態や、回転機械系11の機械的構造に起因して発生する個別的な状態をそれぞれ定量的に評価する劣化パラメータを求める劣化パラメータ算出部13と、劣化パラメータの値を記録すると共に、求めた劣化パラメータの値と劣化判定基準値を比較する簡易異常診断部14と、簡易異常診断部14で回転機械系11に異常が検知された際に、劣化判定基準値に達した劣化パラメータに基づいて異常の種類と回転機械系11における異常箇所を特定する精密異常診断部15とを有しており、
劣化パラメータ算出部13は、回転機械系11の電気室(制御盤)から三相誘導電動機12に電力を供給する三相毎の電源ケーブ12aに流れる稼働時電流信号を検出する電流検出器16と、電流検出器16で測定した稼働時電流信号をデジタル信号に変換するA/D変換器17と、A/D変換器17から出力された稼働時電流信号を処理する処理ユニット18とを有しており、
処理ユニット18には、三相誘導電動機12により駆動される回転機械系11がプーリーベルト駆動系の場合(三相誘導電動機12の回転子の回転軸に取付けられたプーリーの一例)、プーリーのミスアラインメントとベルトの張り具合の異常を推測する劣化パラメータであるベルト回転電流比率Lbrを算出するベルト回転電流比率算出手段30が設けられており、
処理ユニット18には、更に、A/D変換器17から出力された稼働時電流信号を高速フーリエ変換(周波数解析の一例)する高速フーリエ変換器24が設けられており、
ベルト回転電流比率算出手段30では、ベルト回転電流比率Lbrを、スペクトルデータから、電源周波数の電流スペクトルピークの側帯波であって、三相誘導電動機12のベルト回転周波数に起因する側帯波、即ち、電源周波数の電流スペクトルピークを中心として、ベルト回転周波数分だけ低周波数側及び高周波数側にそれぞれ離れた周波数位置に存在する側帯波のいずれか一方のピーク値、例えば、最大ピーク値20logIbr(Ibrは、高速フーリエ変換器24から出力されるベルト回転周波数に起因する側帯波の電流スペクトルのピーク値)と、電源周波数の電流スペクトルピークのピーク高さ20logIlineを求め、20logIline-20logIbr、即ち、20log(Iline/Ibr)として評価しており、
簡易異常診断部14は、劣化パラメータの値から回転機械系11の異常を検知(異常が発生したか否かを判定)する際に使用する劣化判定基準値を保存しているデータベース32と、劣化パラメータ算出部13から取得した劣化パラメータの値と劣化パラメータに対応する劣化判定基準値をデータベース32から取得して比較して回転機械系11の状態を診断する簡易診断手段33とを有しており、
精密異常診断部15は、ベルト回転電流比率Lbrの値が劣化判定基準値に達した際に、劣化判定基準値に達した劣化パラメータに基づいて異常の種類と回転機械系11における異常箇所を特定し、劣化判定基準値に達した劣化パラメータがベルト回転電流比率Lbrの場合は、三相誘導電動機12により駆動されるプーリーベルト駆動系のプーリーのミスアラインメントとベルトの張り具合の異常が推測される、
方法及び装置。」
(2)甲第2号証
本件特許の優先日前である2004年(平成16年)8月19日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「国際公開第2004/070402号」(以下「甲第2号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。
ア 「技術分野
本発明は、電気設備診断に係る技術分野に属し、電動機及びインバータを対象とした電気設備の高調波診断方法に関する。」(明細書第1頁第5-7行)
イ 「電気設備を構成する電動機やインバータに流れる電流高調波より、前記電動機やインバータの異常を判定する劣化診断方法において、前記電流高調波の各次数の高調波含有率を、あらかじめ定められた次数までの電流高調波の総合歪み率で除した指数値、該指数値よりなる各次数の高調波関数と、前記各次数の高調波含有率から演算して得られる各次数の診断計算値とを乗じて算出した判定基準値、該判定基準値と前記指数値とを比較する事によって劣化判定を行う診断方法であって、前記判定基準値に乗みをつけて前記電動機やインバータの劣化度合いを区分し、更に劣化部位を前記電流高調波の特定の高調波次数より判定する。」(明細書第4頁22-29行)
ウ 「以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、インバータに係るブロック図である。1は三相交流電源で、入力電力1′が電動機2を制御するAC-ACコンバータ3のコンバータ部4に流入する。5は平滑コンデンサ、6はインバータ部でコントロール部7及びドライブ部8により出力電力2′が制御される。コントロール部7及びドライブ部8はIC、抵抗、コンデンサ、トランジスクなどの電子部品を搭載したコントロール基板及びドライブ基板である。また、AC-ACコンバータ3が正弦波PWM方式の場合の入力電流と電動機電流(出力電流)は図1に示したような波形となる。」(明細書第5頁第18-25行)
エ 「図4は電動機の診断フローチャートである。ステップS10で図1の出力電力2′中の電流に含まれる高調波の総合歪み率(THD)を求める。ここで、電流高調波の検出はクランプ式測定器やサーチコイルによる非接触式電磁界測定器等の周知のものを用いればよい。総合歪み率を求める高調波次数は、例えば第2次~第40次とする。ステップS11は指数計算を行うもので、各次数の高調波含有率をステップS10で求まった総合歪み率で除した指数値(THk)を算出するステップである。
そして劣化判定を行うステップがS12である。ここで、CHkは後述する第K次高調波の判定基準値であり、ステップS11で求まったTHkと比較する。その結果、電動機が正常な状態ならステップS13、劣化状態ならステップS14へ移る。次に、インバータの診断フローチャートを図5A~Cに示す。図5Aは図1の平滑コンデンサ5を診断するフローで図1の入力電力1′の電流高調波を測定し劣化判定を行う。ステップP100、P111及びP112は図4のステップS10、S11及びS12で演算した内容と同様である。」(明細書第8頁第12-25行)
オ 「ここで、図4及び図5A、B、Cで記した判定基準値CHkは次のように求める。Kは
第K次高調波、Ckは第K次高調波の診断計算値である。
電動機については
(数式5)
CHk=Ck×f(Mk)
ただし、f(Mk)は第K次高調波関数である。
インバータについては
(数式6)
CHk=Ck×f(Ns)
CHk=Ck×f(Nc)
CHk=Ck×f(Np)
CHk=Ck×f(Nd)
ただし、f(Ns)、f(Nc)、f(Np)は複数の第K次高調波関数、f(Nd)=1.0(この場合のみCHk=1.0)
数式5と数式6の中のCk、f(Mk)、f(Ns)、f(Nc)、f(Np)については後述の実施例にて記す。」(明細書第9頁第7-19行)
カ 「次に、電流高調波と機器の劣化部位の関連に着目して分析するには多変量解析法が有効であるので、これに関して以下説明する。本発明の機器の劣化診断のように、判定基準が初めから明確に与えられていないような外的基準がない場合で、多次元事象の特性値間の関連性を分析するには、多変量解析に属する主成分分析法が最も適している。
この主成分分析法に関する文献は数多くあるので、詳細な説明は省略するが、ここでは主成分分析法の寄与率を用いて電流高調波と機器の劣化部位の関連を、電動機とインバータに分けて述べる。以下、主成分の横に記した()内は寄与率である。また、主成分は固有値が大きい(主成分得点の分散が大きい)ものを順に取る。」(明細書第10頁第4-13行)
キ 「(8)負荷側の歯車もしくはクラッチもしくはVベルト等の損傷。主成分を5個求めると、第6次高調波(6)、第7次高調波(23)、第8次高調波(17)、第9次高調波(15)、第10次高調波(30)となり累積寄与率は93%である。」(明細書第11頁第11-14行)
ク 「図1
」
ケ 「図4
」
コ 上記「ウ及びク」より、「電動機2の電動機電流」は「出力電力2’」についての電流(電力の電流成分)であることが見てとれる。
サ 上記「イ」より、甲第2号証には「電気設備を構成する電動機やインバータに流れる電流高調波より、前記電動機やインバータの異常を判定する劣化診断方法」及び「前記電流高調波の各次数の高調波含有率を、あらかじめ定められた次数までの電流高調波の総合歪み率で除した指数値、該指数値よりなる各次数の高調波関数と、前記各次数の高調波含有率から演算して得られる各次数の診断計算値とを乗じて算出した判定基準値、該判定基準値と前記指数値とを比較する事によって劣化判定を行」い「前記判定基準値に乗みをつけて前記電動機やインバータの劣化度合いを区分し、更に劣化部位を前記電流高調波の特定の高調波次数より判定する」方法が開示されている。
該方法は、通常装置で実施されるものであるから、該方法を行う手段を有する装置である
「電気設備を構成する電動機やインバータに流れる電流高調波より、前記電動機やインバータの異常を判定する劣化診断方法」を実行する装置、及び「前記電流高調波の各次数の高調波含有率を、あらかじめ定められた次数までの電流高調波の総合歪み率で除した指数値、該指数値よりなる各次数の高調波関数と、前記各次数の高調波含有率から演算して得られる各次数の診断計算値とを乗じて算出した判定基準値、該判定基準値と前記指数値とを比較する事によって劣化判定を行」い「前記判定基準値に乗みをつけて前記電動機やインバータの劣化度合いを区分し、更に劣化部位を前記電流高調波の特定の高調波次数より判定する」劣化判定手段
も甲第2号証には開示されている。
上記甲第2号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「電気設備を構成する電動機やインバータに流れる電流高調波より、前記電動機やインバータの異常を判定する劣化診断方法を実行する装置において、
前記電流高調波の各次数の高調波含有率を、あらかじめ定められた次数までの電流高調波の総合歪み率で除した指数値、該指数値よりなる各次数の高調波関数と、前記各次数の高調波含有率から演算して得られる各次数の診断計算値とを乗じて算出した判定基準値、該判定基準値と前記指数値とを比較する事によって劣化判定を行い、前記判定基準値に乗みをつけて前記電動機やインバータの劣化度合いを区分し、更に劣化部位を前記電流高調波の特定の高調波次数より判定する劣化判定手段と、
電動機2の電動機電流は出力電力2’についての電流であり、出力電力2′についての電流に含まれる高調波の総合歪み率(THD)を求めるために電流高調波を検出するクランプ式測定器と、
を備え、
上記劣化判定手段では、
総合歪み率を求める高調波次数は、例えば第2次~第40次とし、
各次数の高調波含有率をステップS10で求まった総合歪み率で除した指数値(THk)を算出し、求まったTHkと第K次高調波の判定基準値であるCHkとを比較して劣化判定を行い、
判定基準値CHkは、Kは第K次高調波、Ckは第K次高調波の診断計算値とすると、
CHk=Ck×f(Mk) ( ただし、f(Mk)は第K次高調波関数)
となり、
電流高調波と機器の劣化部位の関連に着目して分析するには多変量解析に属する主成分分析法が有効であり、
負荷側の歯車もしくはクラッチもしくはVベルト等の損傷を判定するには、主成分を5個求めると、第6次高調波(6)、第7次高調波(23)、第8次高調波(17)、第9次高調波(15)、第10次高調波(30)(主成分の横に記した()内は寄与率)であり。また、主成分は固有値が大きい(主成分得点の分散が大きい)ものを順に取るものである、
装置。」
(3)甲第3号証
本件特許の優先日前である平成22年(2010年)12月24日に頒布された刊行物である「特開2010-288352号公報」(以下「甲第3号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機と、前記誘導電動機により駆動される機器と、それら誘導電動機及び機器を相互に接続するカップリングとを有する設備の異常を診断する設備の異常診断方法であって、
前記誘導電動機の少なくとも一相分の負荷電流を測定する電流測定工程と、
前記測定した負荷電流を周波数解析する周波数解析工程と、
前記周波数解析により得られた波形において、前記誘導電動機に印加される電圧の周波数である運転周波数の高周波数側及び低周波数側の両側に現われる側波帯の有無と、前記側波帯の位置及び大きさとの少なくとも何れかに基づいて、前記設備の異常の有無を判断し、前記設備の異常がある場合には、前記設備の異常の種類を判定する異常判定工程と、を有することを特徴とする設備の異常診断方法。」
イ「【0013】
本発明の設備の異常診断方法は、誘導電動機と、前記誘導電動機により駆動される機器と、それら誘導電動機及び機器を相互に接続するカップリングとを有する設備の異常を診断する設備の異常診断方法であって、前記誘導電動機の少なくとも一相分の負荷電流を測定する電流測定工程と、前記測定した負荷電流を周波数解析する周波数解析工程と、前記周波数解析により得られた波形において、前記誘導電動機に印加される電圧の周波数である運転周波数の高周波数側及び低周波数側の両側に現われる側波帯の有無と、前記側波帯の位置及び大きさとの少なくとも何れかに基づいて、前記設備の異常の有無を判断し、前記設備の異常がある場合には、前記設備の異常の種類を判定する異常判定工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明の設備の異常診断方法の他の特徴とするところは、誘導電動機と、前記誘導電動機により駆動される機器と、それら誘導電動機及び機器を相互に接続するカップリングとを有する設備の異常を診断する設備の異常診断方法であって、前記誘導電動機の少なくとも一相分の負荷電流を測定する電流測定工程と、前記測定した負荷電流を周波数解析する周波数解析工程と、前記周波数解析により得られた波形の乱れ及びうねりの状態に基づいて、前記設備の異常の有無を判断し、前記設備の異常がある場合には、前記設備の異常の種類を判定する異常判定工程と、を有する点にある。」
ウ「【0035】
図10は、設備の異常診断装置の構成の一例を示す図である。
図10において、設備は、誘導電動機14の駆動軸15と、誘導電動機14によって駆動される機器類17とがカップリング16で相互に接続されて構成される。誘導電動機14を制御する制御盤18において、誘導電動機14の負荷電流を検出する電流検出器19と、その負荷電流の値を記憶するデータ収集装置20とを用いて、誘導電動機14の少なくとも1相分の電流及び零相電流の一方又は双方を計測し、そのデータを周波数解析装置21へ取り込み、周波数解析を行う。
尚、周波数解析装置21は、例えばパーソナルコンピュータを用いて実現することができる。また、機器類17は、減速器や機械装置等である。また、電流検出器19は、クランプメータ又は電流変成器等を用いることにより実現することができる。また、図11では、データ収集装置20と周波数解析装置21を別々の装置としているが、データ収集と周波数解析とを同一の機器で実施してもよい。この場合、誘導電動機14の負荷電流を高速でデータ収集ができるようにするのが好ましい。また、診断対象となる誘導電動機が多数存在する場合では、各誘導電動機に対して設けられている各制御盤に、各々電流検出器を用意し、各誘導電動機の負荷電流のデータを自動で一括して取り込み、それらを周波数解析するようにしてもよい。これらの構成は本発明の実施形態の自由な設計範囲に属する。」
上記甲第3号証の記載事項及び図面を総合勘案すると、甲第3号証には、以下の2つの記載事項(以下「甲3記載事項1」及び「甲3記載事項2」という。)が記載されている。
[甲3記載事項1]
「誘導電動機14を制御する制御盤18において、誘導電動機14の負荷電流を検出する電流検出器19と、その負荷電流の値を記憶するデータ収集装置20とを用いて、誘導電動機14の少なくとも1相分の電流及び零相電流の一方又は双方を計測し、そのデータを周波数解析装置21へ取り込み、周波数解析を行う。誘導電動機に印加される電圧の周波数である運転周波数の高周波数側及び低周波数側の両側に現われる側波帯の有無と、側波帯の位置及び大きさとの少なくとも何れかに基づいて、設備の異常の有無を判断し、設備の異常がある場合には、設備の異常の種類を判定する。」
[甲3記載事項2]
「診断対象となる誘導電動機が多数存在する場合では、各誘導電動機に対して設けられている各制御盤に、各々電流検出器を用意し、各誘導電動機の負荷電流のデータを自動で一括して取り込み、それらを周波数解析するようにしてもよい。」
(4)甲第4号証
本件特許の優先日前である昭和60年(1985年)1月17日に頒布された刊行物である「特開昭60-8905号公報」(以下「甲第4号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。
ア 「少なくとも一種類の複数の回転機の回転に伴う異常診断を前記回転機の生ずる振動波形の周波数分析により行なう際に、前記各回転軸系に含まれる同一種類の回転機相互間でのパワースペクトラム波形のパターン比較を計算機を用いて行なうようにした複合サイクルプラントの回転機異常診断方法」(請求項1)
イ 「次に複合サイクル発電ユニツトが複数ユニツト設置される事により構成される複合サイクルプラントの回転機異常診断に伴う問題点を述べる。従来の火力プラントと異なつて各回転軸に同一般計の回転機が設置される為、発電プラント全体の診断を考えると多くの機器を診断しなければならない。つまり各回転軸を構成する回転機を順々に診断する手間と、パターン認識の為のデータの蓄積を考慮しなければならず、従来の火力プラント以上の困難さが伴い、計算機による診断アルゴリズムが必要となつてくる。」(第2頁右上欄第20行―左下欄第10行)
上記甲第4号証の記載事項を総合勘案すると、甲第4号証には、以下の記載事項(以下「甲4記載事項」という。)及び技術(以下「甲4開示技術」という。)が記載されていると認められる。
[甲4記載事項]
「各回転軸系に含まれる同一種類の回転機相互間でのパワースペクトラム波形のパターン比較を計算機を用いて行なう。」
[甲4開示技術]
「複数ユニットで構成される複合サイクルプラントの回転機異常診断において、各回転軸を構成する回転機を順々に診断する技術。」
(5)甲第5号証
甲第5号証である特許第6190841号公報は、発行日が平成29年(2017年)8月30日であることから、本件特許の優先日(平成28年(2016年)12月15日)後で出願日(平成29年(2017年)9月1日)前に頒布された刊行物である。なお、甲第5号証と同内容の事項は、特開2016-195524号公報(以下「甲第5号証公開公報」という。)として平成28年(2016年)11月17日に開示されている。
甲第5号証公開公報には以下の事項が記載されている
ア 「【0010】
図1において、電力系統から引き込まれた主回路1には、配線用遮断器2と電磁接触器3および三相の主回路1の一相の負荷電流を検出する計器用変成器などの電流検出器4が設けられている。主回路1には負荷である三相誘導電動機などの電動機5が接続され、電動機5により機械設備6が運転駆動される。電動機の診断装置7には電源周波数や電動機5の定格出力、定格電圧、定格電流、極数、定格回転数等を予め入力しておく定格情報入力部8と、定格情報入力部8から入力された定格情報を保存しておく定格情報記憶部9が設けられている。定格情報は、電動機5の製造会社のカタログまたは電動機5に取付けられている銘板を見ることで容易に取得可能な情報である。なお、診断対象の電動機5が複数台ある場合には、予め全ての診断対象の電動機5の定格情報を入力しておくが、以降の説明においては1台の電動機5について説明する。また、電動機の診断装置7には、電流検出器4で検出された電流を入力する電流入力部10と、電流入力部10から入力された電流を使用して電動機5の異常の有無を診断する論理演算部11と、論理演算部11で異常が発見された場合に警報または異常ランプの点灯等によって警報を出力する警報出力部21が設けられている。
【0011】
論理演算部11の構成について図2にもとづき説明する。論理演算部11は、電流入力部10から入力された電流の変動有無を求める電流変動演算部12と、電流変動演算部12で求められた結果を使用して電流の安定した区間を抽出してパワースペクトル解析区間を決定するFFT解析区間判定部13と、FFT解析区間判定部13で決定された区間の電流を使用してパワースペクトル解析を実施するFFT解析部14と、FFT解析部14で解析されたパワースペクトルに含まれるピーク箇所を検出するピーク検出演算部15と、ピーク検出演算部15で検出されたピーク箇所から回転周波数に起因するピーク箇所を求める回転周波数帯判定部16と、複数回分のパワースペクトルの回転周波数帯の周波数を合わせる周波数軸変換演算部17と、周波数軸変換演算部17で周波数軸が変換された複数回分のパワースペクトルを平均化処理する平均化演算部18と、平均化演算部18で平均化されたパワースペクトルを使用して回転周波数帯以外に電源周波数の両側にピーク箇所があるかを抽出する(以下、このピーク箇所を側帯波と称す)側帯波抽出部19と、側帯波抽出部19で側帯波が抽出されたとき側帯波の信号強度が設定値以上か判定する側帯波判定部20によって構成されている。」
イ 「【0013】
FFT解析部14は、FFT解析区間判定部13で決定された区間に入力された電流波形を使用して周波数解析を行うことにより電流パワースペクトル強度を算出する。電流値が安定した状態の電流波形でパワースペクトル解析を実施することで、電源周波数の近傍両側でパワースペクトル強度が増加することは無くなり、ピーク箇所があれば確実に出現するようになる。
ピーク検出演算部15は、電流パワースペクトル強度の解析結果から電源周波数によるピーク箇所と回転周波数によるピーク箇所と側帯波によるピーク箇所およびその他のピーク箇所を検出する。ピーク箇所の検出は1次と2次と3次の微分計算によって算出した結果の急峻な傾きが反転する部分を抽出することで検出可能である。微分計算を3次まで実
施することによって、より小さい信号強度のピーク箇所の検出が可能となる。電源周波数によるピーク箇所は、定格情報記憶部9に保存されている電源周波数(一般に50Hzまたは60Hz)の位置に生じるため簡単に確認できる。
【0014】
回転周波数帯判定部16は、定格情報記憶部9に保存されている定格回転数から回転周波数を求め、電源周波数を中心として両側に回転周波数分ずれた位置付近にある信号強度が同様なピーク箇所を抽出する。一般に電動機5は負荷トルクの状況に応じてスベリが生じて回転数にずれが生じるため、回転周波数に起因するピーク箇所もその分ずれて出現する。回転周波数帯判定部16はこのずれを考慮した周波数帯内にあるピーク箇所を抽出して回転周波数帯として決定するものである。」
ウ 「【0017】
側帯波抽出部19は、平均化演算部18で平均化処理されたパワースペクトル解析結果から電源周波数を中心として両側に同一周波数ずれた位置に発生しているピーク箇所を側帯波として抽出する。側帯波の候補はピーク検出演算部15で得られたピーク箇所を候補として選択する。電源周波数を中心としてピーク箇所が片側にしか発生していない場合には側帯波ではないと判定して抽出しない。
側帯波判定部20は、側帯波抽出部19で抽出された側帯波の個数と信号強度から電動機5が異常か否かを判定する。電動機5が異常であると判定した場合には、警報出力部21から警報を出力する。」
上記甲第5号証公開公報の記載事項を総合勘案すると、甲第5号証公開公報には、以下の記載事項(以下「甲5公開公報記載事項1」及び「甲5公開公報記載事項2」という。)が記載されていると認められる。
[甲5公開公報記載事項1]
「側帯波抽出部19は、パワースペクトル解析結果から電源周波数を中心として両側に同一周波数ずれた位置に発生しているピーク箇所を側帯波として抽出する。側帯波は、(負荷トルクの状況に応じて生ずるずれを考慮した)回転周波数帯以外に電源周波数の両側にピーク箇所があるかを抽出したものである。側帯波判定部20は、側帯波抽出部19で抽出された側帯波の個数と信号強度から電動機5が異常か否かを判定する。」
[甲5公開公報記載事項2]
「診断対象の電動機5が複数台ある場合には、予め全ての診断対象の電動機5の定格情報を入力しておく。」
(6)甲第6号証
本件特許の優先日前である平成11年(1999年)3月26日に頒布された刊行物である「特開平11-83686号公報」(以下「甲第6号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 機械設備を駆動する電動機の負荷電流信号を利用して機械設備の異常診断を行う方法において、電動機の負荷電流信号のスペクトル分析を行い、スペクトル分析結果から機械設備の異常を識別する診断パラメータを算出し、算出した診断パラメータと診断対象機械設備毎に予め設定した判定基準値とを比較し、算出した診断パラメータが判定基準値より大きい場合に、機械設備が異常であると判定することを特徴とする機械設備の異常診断方法。」
イ 「【0010】例えば、機械設備の回転がスムーズで負荷が小さい、つまり設備が正常の場合には、負荷電流の周波数スペクトル(以下、電流スペクトルという)は図3に示すように、電動機のnf0 成分のうち比較的低次の成分の割合が大きい。なお、図3および後出の図4において、電動機の回転数は600rpm であり、したがってf0 =10Hzとなる。
【0011】一方、伝動軸系のアライメント不良、軸受の潤滑不良、異物のかみ込みその他の原因で負荷が大きくなった、すなわち機械設備が異常になった場合には、電流スペクトルは図4に示すように、nf0 成分のうち高次成分の割合が正常時に比べて相対的に大きくなる。したがって、電流スペクトル分析を行い、電流スペクトルのnf0 成分中の低次成分と高次成分のバランスあるいは大小比較を行うことにより、過負荷による機械設備の異常診断を行うことができる。」
ウ 「【0013】【発明の実施の形態】図2は、本発明の機械設備の異常診断装置の実施の1形態を示している。異常診断対象の機械設備11は、ブロア、ポンプ等の回転機械12に伝動装置13を介して交流電動機14が接続されている。電動機14は、電力線16により電源15に接続されている。電動機14の負荷電流Iを検出する電流検出器18が電力線16に近接して配置されている。電流検出器18として、例えば検流器(CT;Current Transducer)が用いられる。電流検出器18は、電流-電圧変換器19およびA/D変換器20を介してコンピュータ21に接続されている。電流-電圧変換器19は、以降の処理が容易になるように、検出した負荷電流信号iを電圧信号vに変換する。A/D変換器20は、ここまでのアナログ信号vをデジタル信号vD に変換する。したがって、これ以降の処理はデジタル信号処理となる。」
上記甲第6号証の記載事項を総合勘案すると、甲第6号証には、以下の記載事項(以下「甲6記載事項」という。)が記載されていると認められる。
[甲6記載事項]
「機械設備11(ブロア、ポンプ等の回転機械12と電動装置13とを含む)の異常診断を、例えば伝動軸系(伝動装置13)のアライメント不良を、機械設備11を駆動する電動機14の負荷電流I(電流スペクトル分析)を利用して行う。」
(7)甲第7号証
本件特許の優先日前である平成18年(2006年)9月7日に頒布された刊行物である「特開2006-234785号公報」(以下「甲第7号証」という。)には、図面とともに、以下の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、機械設備、例えば、減速機や電動機あるいは風車や鉄道車両等に用いられる回転或いは摺動する部品の異常診断装置及び異常診断方法に関し、特に、該部品の異常の有無や前兆、或いはその異常部位を特定する機械設備の異常診断装置及び異常診断方法に関する。」
イ 「【0025】
比較判定部58は、振動分析部56による振動の周波数スペクトルと、この周波数スペクトルから算出される異常診断に用いられる基準値とを比較し、周波数スペクトルから基準値より大きいピーク成分を抽出して、ピーク間の周波数値を算出する。一方で、図4及び図5に示す関係式から、各回転部品の異常時に起因して発生する回転部品の振動発生周波数成分、即ち、軸受の傷成分Sx(内輪傷成分Si、外輪傷成分So、転動体傷成分Sb及び保持器成分Sc)、歯車の噛み合いに対応する傷成分Sg、車輪等の回転体の摩耗やアンバランス成分Srを求め、この振動発生周波数成分とピーク間の周波数値を比較する。さらに、比較判定部58は、判定結果に基づき、異常の有無及び異常部位の特定を行う。」
ウ 「【0027】
そして、比較判定部58での判定結果は、メモリやHDD等の内部データ保存部60に保存されても良いし、データ伝送手段42を介して出力装置40へ伝送されてもよい。また、この判定結果を、機械設備10の駆動機構の動作を制御する制御部34へ出力し、この判定結果に応じた制御信号をフィードバックするようにしてもよい。」
上記甲第7号証の記載事項を総合勘案すると、甲第7号証には、以下の記載事項(以下「甲7記載事項」という。)が記載されていると認められる。
[甲7記載事項]
「(各回転部品の異常の有無及び異常部位の特定等の)判定結果を、機械設備10の駆動機構の動作を制御する制御部34へ出力し、この判定結果に応じた制御信号をフィードバックするようにしてもよい。」
3.当審の判断
(1)取消理由1(新規性)について
ア 甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを比較する。
(ア)甲1発明の「三相誘導電動機12」は、本件発明1における「電動機」に相当する。
(イ)甲1発明における「回転機械系11」は、「三相誘導電動機12により駆動され」、その駆動方式は「プーリーベルト駆動」であるから、本件発明1における「負荷としての機械設備」に相当する。
(ウ)甲1発明の「プーリーベルト」は、「三相誘導電動機12」が「回転機械系11」を駆動させるために用いるものであるから、本件発明1における「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構」に相当する。
(エ)甲1発明の「回転機械系11の電気室(制御盤)から三相誘導電動機12に電力を供給する三相毎の電源ケーブ12aに流れる稼働時電流信号を検出する電流検出器16」は、本件発明1における「電動機の電源線に接続された電流検出器」に相当する。
(オ)甲1発明の「電流検出器16で測定した稼働時電流信号をデジタル信号に変換するA/D変換器17」「から出力された稼働時電流信号を処理する処理ユニット18」は、「A/D変換器17から出力された稼働時電流信号を高速フーリエ変換(周波数解析の一例)する高速フーリエ変換器24」と「プーリーのミスアラインメントとベルトの張り具合の異常を推測する劣化パラメータであるベルト回転電流比率Lbrを算出するベルト回転電流比率算出手段30が設けられて」おり、「ベルト回転電流比率算出手段30では、ベルト回転電流比率Lbrを、スペクトルデータから、電源周波数の電流スペクトルピークの側帯波であって、三相誘導電動機12のベルト回転周波数に起因する側帯波、即ち、電源周波数の電流スペクトルピークを中心として、ベルト回転周波数分だけ低周波数側及び高周波数側にそれぞれ離れた周波数位置に存在する側帯波のいずれか一方のピーク値、例えば、最大ピーク値20logIbr(Ibrは、高速フーリエ変換器24から出力されるベルト回転周波数に起因する側帯波の電流スペクトルのピーク値)と、電源周波数の電流スペクトルピークのピーク高さ20logIlineを求め、20logIline-20logIbr、即ち、20log(Iline/Ibr)として評価して」いることから、本件発明1における「電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から」「電源周波数と」「側帯波のスペクトルピークの信号強度」「を検出する解析部」に相当する。
(カ)甲1発明の「簡易異常診断部14」と「精密異常診断部15」とを合わせたものは、「簡易異常診断部14」が「劣化パラメータであるベルト回転電流比率Lbr」「の値から回転機械系11の異常を検知(異常が発生したか否かを判定)する際に使用する劣化判定基準値を保存しているデータベース32と、劣化パラメータ算出部13から取得した劣化パラメータの値と劣化パラメータに対応する劣化判定基準値をデータベース32から取得して比較して回転機械系11の状態を診断する簡易診断手段33とを有しており」、「精密異常診断部15」が「ベルト回転電流比率Lbrの値が劣化判定基準値に達した際に、劣化判定基準値に達した劣化パラメータに基づいて異常の種類と回転機械系11における異常箇所を特定し、劣化判定基準値に達した劣化パラメータがベルト回転電流比率Lbrの場合は、三相誘導電動機12により駆動されるプーリーベルト駆動系のプーリーのミスアラインメントとベルトの張り具合の異常」を推測するものであるから、本件発明1における「解析部の解析結果から、」「動力伝達機構の異常を判定する異常判定部」に相当する。
(キ)甲1発明の「処理ユニット18」を備える「劣化パラメータ算出部13」と「簡易異常診断部14」と「精密異常診断部15」とを合わせたものは、本件発明1における「解析部」と「異常判定部」とを備えた「動力伝達機構の異常を判定する監視診断部」に相当する。
(ク)甲1発明の「回転機械系の異常監視装置10」は、「電流検出器16」と「処理ユニット18」とを備え「回転機械系11の駆動源である三相誘導電動機12の稼働時電流信号の解析結果から、回転機械系11の総合的な状態や、回転機械系11の機械的構造に起因して発生する個別的な状態をそれぞれ定量的に評価する劣化パラメータを求める劣化パラメータ算出部13」と、「劣化パラメータの値を記録すると共に、求めた劣化パラメータの値と劣化判定基準値を比較する簡易異常診断部14と、簡易異常診断部14で回転機械系11に異常が検知された際に、劣化判定基準値に達した劣化パラメータに基づいて異常の種類と回転機械系11における異常箇所を特定する精密異常診断部15とを有して」いることから、本件発明1における「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置」に相当する。
すると、本件発明1と、甲1発明とは、
「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、
前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、
前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、
前記監視診断部は、
前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から、電源周波数と側帯波のスペクトルピークの信号強度を検出する解析部と、
前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える
動力伝達機構の異常診断装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、解析部が「前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部」であり、異常判定部が「前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部」であるのに対し、甲1発明は、解析部と異常判定部で、電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から、電源周波数と側帯波のスペクトルピークの信号強度を検出して異常を判定しているが、上記構成を備えていない点。
よって、本件発明1は、甲1発明ではない。
イ 甲2発明との対比・判断
本件発明1と甲2発明とを比較する。
(ア)甲2発明の「電動機2」は、本件発明1における「電動機」に相当する。
(イ)甲2発明の「負荷側」は、本件発明1における「負荷としての機械設備」に相当する。
(ウ)甲2発明の「負荷側」の「Vベルト」は、本件発明1における「負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構」に相当する。
(エ)甲2発明の「出力電力2′中の電流に含まれる高調波」「を検出するクランプ式測定器」は、本件発明1における「電動機の電源線に接続された電流検出器」に相当する。
(オ)甲2発明の「劣化判定手段」は、「負荷側の」「Vベルト」「の損傷を判定」していることから、甲2発明と本件発明1とは「動力伝達機構の異常を判定する監視診断部」を備える点で一致する。
(カ)甲2発明の「劣化判定手段」は、「出力電力2′中の電流に含まれる高調波」を検出し、「主成分分析法」で「多変量解析」を行って「電流高調波と機器の劣化部位の関連に着目して分析」を行い「劣化判定を行う」ことから、甲2発明と本件発明1とは「電流検出器から送信される電流を解析する解析部」とその「解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部」を備える点で一致する。
(キ)上記(オ)及び(カ)より、甲2発明の「劣化判定手段」は、本件発明1における「電流検出器から送信される電流を解析する解析部」と「解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部」とを備えた「動力伝達機構の異常を判定する監視診断部」を備えている。
すると、本件発明1と、甲2発明とは、
「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、
前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、
前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、
前記監視診断部は、
前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、
前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える
動力伝達機構の異常診断装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1は、解析部が「前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部」であり、異常判定部が「前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部」であるのに対し、甲2発明は、解析部と異常判定部で、電流検出器から送信される電流を解析して異常を判定しているが、上記構成を備えていない点。
ゆえに、本件発明1は、甲2発明ではない。
(2)取消理由2(進歩性)について
ア 本件発明1と甲1発明との対比・判断
上記「(1)ア」より、本件発明1と甲1発明との相違点は、上記「相違点1」である。
ここで、甲第2号証ないし甲第7号証には、上記「第2(2)~(7)」のとおり、上記相違点1に係る本件発明1の構成について記載も示唆もない。また、上記相違点1に係る本件発明1の構成が周知技術であるという証拠もない。そして、上記相違点1を備える本件発明1は、本件特許明細書の【0011】に「電動機に接続された動力伝達機構に発生した異常を、特別なセンサ等を用いることなく、電流検出器を用いることにより早期に、簡単に、低コストに検出できる」と記載されているように格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明1と甲2発明との対比・判断
上記「(1)イ」より、本件発明1と甲2発明との相違点は、上記「相違点2」である。
ここで、甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第7号証には、上記「第2(1)、(3)~(7)」のとおり、上記相違点2に係る本件発明1の構成について記載も示唆もない。また、上記相違点2に係る本件発明1の構成が周知技術であるという証拠もない。そして、上記相違点2を備える本件発明1は、本件特許明細書の【0011】に「電動機に接続された動力伝達機構に発生した異常を、特別なセンサ等を用いることなく、電流検出器を用いることにより早期に、簡単に、低コストに検出できる」と記載されているように格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲2発明、甲1発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明5と甲1発明との対比・判断
本件発明5は本件発明2ないし4を引用する発明であり、本件発明3及び4は本件発明2を引用する発明であるから、本件発明5は少なくとも本件発明2の発明特定事項を備えている。
また、本件発明2と本件発明1とは
「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。」
の点で一致しているから、本件発明2と甲1発明とを比較すると、上記「(1)ア」より、以下の点で相違する。
<相違点3>
解析部が、本件発明2は「前記電動機の駆動電流スペクトル波形を解析するスペクトル解析部と、前記駆動電流スペクトル波形から、スペクトルピークを検出する側帯波解析部と、
検出された前記スペクトルピークの中から前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯を解析する周波数解析部と、電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。」であるのに対し、甲1発明は「電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数と側帯波のスペクトルピークの信号強度を検出する解析部」であるが、上記構成を備えていない点。
上記相違点3について検討すると、甲第2号証ないし甲第7号証には、上記「第2(2)~(7)」のとおり、上記相違点3に係る本件発明2の構成について記載も示唆もない。また、上記相違点3に係る本件発明2の構成が周知技術であるという証拠もない。そして、上記相違点3を備える本件発明2は、本件特許明細書の【0011】に「電動機に接続された動力伝達機構に発生した異常を、特別なセンサ等を用いることなく、電流検出器を用いることにより早期に、簡単に、低コストに検出できる」と記載されているように格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。それゆえ、本件発明2を引用する本件発明5も、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明5と甲2発明との対比・判断
上記「ウ」と同様の検討により、本件発明2と甲2発明とを比較すると、上記「(1)イ」より、以下の点で相違する。
<相違点4>
解析部が、本件発明2は「前記電動機の駆動電流スペクトル波形を解析するスペクトル解析部と、前記駆動電流スペクトル波形から、スペクトルピークを検出する側帯波解析部と、
検出された前記スペクトルピークの中から前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯を解析する周波数解析部と、電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。」であるのに対し、甲2発明は解析部において、上記構成を備えていない点。
上記相違点4について検討すると、甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第7号証には、上記「第2(1)、(3)~(7)」のとおり、上記相違点4に係る本件発明2の構成について記載も示唆もない。また、上記相違点4に係る本件発明2の構成が周知技術であるという証拠もない。そして、上記相違点4を備える本件発明2は、本件特許明細書の【0011】に「電動機に接続された動力伝達機構に発生した異常を、特別なセンサ等を用いることなく、電流検出器を用いることにより早期に、簡単に、低コストに検出できる」と記載されているように格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、甲2発明、甲1発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。それゆえ、本件発明2を引用する本件発明5も、甲2発明、甲1発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)取消理由3(サポート要件)について
ア 本件発明1の監視診断部は、訂正により「前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部と、前記解析部の解析結果である前記個数から、または前記信号強度の時間変化から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える」ものとなった。この訂正により限定された事項は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0027】及び【0028】の記載をもとに限定された事項であるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
すると、本件発明1に係るサポート要件についての理由は、上記訂正により解消した。
イ 次に本件発明2は、訂正前の請求項2に係る発明の解析部を、訂正により「前記解析部は、前記電動機の駆動電流スペクトル波形を解析するスペクトル解析部と、前記駆動電流スペクトル波形から、スペクトルピークを検出する側帯波解析部と、検出された前記スペクトルピークの中から前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯を解析する周波数解析部と、電源の周波数及び動力伝達機構周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する異常周波数カウント部とを備える」ものに限定した発明である。この訂正により限定された事項は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】ないし【0023】及び【0027】の記載をもとに限定された事項であるから、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、本件発明2を引用する本件発明3ないし5及び7も、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
すると、本件発明2及び本件発明2を引用する本件発明3ないし5及び7に係るサポート要件についての理由は、上記訂正により解消した。
ウ 第3に本件発明6は、訂正前の請求項6に係る発明の解析部と異常判定部を「前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備える」ものに限定した発明である。この訂正により限定された事項は、明細書の発明の詳細な説明の段落【0027】、【0036】ないし【0039】及び【図5】【図9】の記載をもとに限定された事項であるから、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
すると、本件発明6に係るサポート要件についての理由は、上記訂正により解消した。
4.小括
以上のことから、当審が令和2年9月30日付けで特許権者に通知した取消理由1ないし3はいずれも解消されており、本件特許1ないし10を取り消す理由とはならない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1.甲号証について
申立人が特許異議申立書において証拠として提示した甲号証は以下のとおりである。
甲第1号証:特許第5985099号公報
甲第2号証:国際公開第2004/070402号
甲第3号証:特開2010-288352号公報
甲第4号証:特開昭60-8905号公報
甲第5号証:特許第6190841号公報
甲第6号証:特開平11-83686号公報
甲第7号証:特開2006-234785号公報
2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人が特許異議申立書において申し立てた理由のうち、上記「第4.1」の取消理由通知で採用した理由以外の特許異議申立理由の概要は以下のとおりである。
(1)異議申立理由2:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
ア 請求項2、3について
本件発明2,3は、甲1発明及び甲5記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 請求項4について
本件発明4は、甲1発明と、甲3及び甲5記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 請求項6について
本件発明6は、甲1発明及び/又は甲2発明、甲3ないし甲5記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 請求項7について
本件発明7は、甲1発明と、甲3、甲5及び甲7記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 請求項8について
本件発明8は、甲1発明及び甲5記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 請求項9について
本件発明9は、甲1発明と、甲3ないし甲5記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
あるいは、本件発明9は、甲1発明と甲2発明と、甲3ないし甲5記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
キ 請求項10について
本件発明10は、甲1発明及び甲5記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
あるいは、本件発明10は、甲1発明と甲2発明と、甲5記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)異議申立理由3:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)
本件発明8,10は、本件の発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。
(3)異議申立理由4:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)
本件発明1-8,10は、その発明が不明確である。
3.当審の判断
(1)異議申立理由2について
ア 本件発明2、3について
本件発明2については、上記「第4 3.(2)ウないしエ」で検討したように、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないし、甲2発明、甲1発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
また、本件発明3は、本件発明2を引用する発明であるから、上記と同様の理由で、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないし、甲2発明、甲1発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
イ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明2または3を引用する発明であるから、上記「ア」と同様の理由で、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないし、甲2発明、甲1発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲1発明とを対比すると、両発明は「動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。」の点で一致し、少なくとも本件発明6が「前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備える」という技術的事項を有するのに対して、甲1発明が上記技術的事項を有していない点(以下「相違点5」という。)で相違する。
ここで、甲第2号証ないし甲第7号証には、上記「第2(2)~(7)」のとおり、上記相違点5に係る本件発明6の構成について記載も示唆もない。また、上記相違点5に係る本件発明6の構成が周知技術であるという証拠もない。そして、上記相違点5を備える本件発明6は、本件特許明細書の【0011】に「電動機に接続された動力伝達機構に発生した異常を、特別なセンサ等を用いることなく、電流検出器を用いることにより早期に、簡単に、低コストに検出できる」と記載されているように格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明6は、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明6と甲2発明とを対比すると、両発明は「動力伝達機構の異常診断装置であって、前記動力伝達機構の異常を判定する監視診断部と、前記電動機の電源線に接続された電流検出器を備え、前記監視診断部は、前記電流検出器から送信される電流を解析する解析部と、前記解析部の解析結果から、前記動力伝達機構の異常を判定する異常判定部とを備える動力伝達機構の異常診断装置。」の点で一致し、少なくとも本件発明6が「前記解析部は、複数の前記電動機の電源線にそれぞれ接続された複数の前記電流検出器からの前記電流をスペクトル解析し、前記異常判定部は、前記複数の電流検出器からの前記電流を解析したそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して他の波形と異なる複数のスペクトルピークが前記動力伝達機構の周波数近傍にあることによって異常を判定する比較部を備える」という技術的事項を有するのに対して、甲2発明が上記技術的事項を有していない点(以下「相違点6」という。)で相違する。
ここで、甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第7号証には、上記「第2(1)、(3)~(7)」のとおり、上記相違点6に係る本件発明6の構成について記載も示唆もない。また、上記相違点6に係る本件発明6の構成が周知技術であるという証拠もない。そして、上記相違点6を備える本件発明6は、本件特許明細書の【0011】に「電動機に接続された動力伝達機構に発生した異常を、特別なセンサ等を用いることなく、電流検出器を用いることにより早期に、簡単に、低コストに検出できる」と記載されているように格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明6は、甲2発明、甲1発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明7について
本件発明7は、本件発明4を引用する発明であるから、上記「イ」と同様の理由により、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないし、甲2発明、甲1発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
オ 本件発明8について
本件発明8と甲1発明とを対比すると、両発明は「電動機から、負荷としての機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断方法であって、前記電動機に流れる電流を測定する第1ステップと、前記電流の値を監視診断部に送信する第2ステップと、前記電流の周波数解析をする第3ステップと、前記第2ステップで得た駆動電流スペクトル波形の中から突出するスペクトルピークを検出する第4ステップと、を有する動力伝達機構の異常診断方法。」の点で一致し、少なくとも本件発明8が「前記第4ステップにおいて検出された前記スペクトルピークの中から、等間隔で閾値以上の信号強度を有する複数のスペクトルピークを検知し、複数の前記スペクトルピークを前記動力伝達機構の回転速度に伴い発生する動力伝達機構周波数帯と判定する第5ステップと、電源周波数及び動力伝達機構の周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する第6ステップと、前記側帯波の数から前記動力伝達機構の異常の有無を判定する第7ステップ」という技術的事項を有するのに対して、甲1発明が上記技術的事項を有していない点(以下「相違点7」という。)で相違する。
ここで、ここで、甲第2号証ないし甲第7号証には、上記「第2(2)~(7)」のとおり、上記相違点7に係る本件発明8の構成について記載も示唆もない。また、上記相違点7に係る本件発明8の構成が周知技術であるという証拠もない。そして、上記相違点7を備える本件発明8は、本件特許明細書の【0011】に「電動機に接続された動力伝達機構に発生した異常を、特別なセンサ等を用いることなく、電流検出器を用いることにより早期に、簡単に、低コストに検出できる」と記載されているように格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明8は、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明9について
本件発明9と甲1発明とを対比すると、両発明は「動力伝達機構の異常診断方法であって、それぞれの前記電動機に流れる電流を測定する第1ステップと、前記電流の値を監視診断部に送信する第2ステップと、それぞれの前記電流の周波数解析をする第3ステップと、を有する動力伝達機構の異常診断方法。」の点で一致し、少なくとも本件発明9が「複数の電動機から、負荷としてのそれぞれの機械設備に動力を伝達する動力伝達機構の異常を検知する、動力伝達機構の異常診断方法であって」、「前記第3ステップで得たそれぞれの駆動電流スペクトル波形を比較して前記動力伝達機構の異常の有無を判定する第207ステップとを有する」という技術的事項を有するのに対して、甲1発明が上記技術的事項を有していない点(以下「相違点8」という。)で相違する。
ここで、甲第2号証ないし甲第7号証には、上記「第2(2)~(7)」のとおり、上記相違点8に係る本件発明9の構成について記載も示唆もない。また、上記相違点8に係る本件発明9の構成が周知技術であるという証拠もない。そして、上記相違点8を備える本件発明9は、本件特許明細書の【0011】に「電動機に接続された動力伝達機構に発生した異常を、特別なセンサ等を用いることなく、電流検出器を用いることにより早期に、簡単に、低コストに検出できる」と記載されているように格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明9は、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
キ 本件発明10について、
本件発明10は、本件発明8を引用する発明であり、上記「オ」と同様の理由により、甲1発明、甲2発明及び甲3ないし甲7の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ク 小括
以上のことから、取消理由で採用しなかった申立人の異議申立理由2は、採用することができない。
(2)異議申立理由3について
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項8及び10に記載の「電動機の回転周波数」は発明の詳細な説明において具体的な説明が欠落しているから、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求している旨を主張する。
しかしながら、発明の詳細な説明の段落【0026】ないし【0027】及び【図5】に「電動機の回転周波数」に関する記載があることから、本件発明8及び10は発明の詳細な説明に記載したものであり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たす。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
(3)異議申立理由4について
ア 本件発明1ないし7について
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1ないし7に記載の「電流を解析する解析部」の「電流を解析する」はどのような電流をどのように解析するのか不明確であるから、特許を受けようとする発明が不明確である旨を主張する。
しかしながら、訂正により、本件発明1ないし7の「解析部」は「前記電流検出器から送信される電流のスペクトル解析で得たスペクトル波形から電源周波数とこの高調波および動力伝達機構周波数とこの高調波および電動機の回転周波数以外の側帯波のスペクトルピークの信号強度および個数を検出する解析部」となり、解析部の電流の解析手法は明確化されたのであるから、本件発明1ないし7は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
イ 本件発明8および10について
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項8及び10に記載の「電源周波数及び動力伝達機構の周波数及び前記電動機の回転周波数以外の側帯波の個数を検出する第6ステップ」の「側帯波」や「以外の側帯波」は何を指すのか不明確であるから、特許を受けようとする発明が不明確である旨を主張する。
しかしながら、本件発明8ないし10の「第6ステップ」については、発明の詳細な説明の段落【0027】及び【図5】を参酌すれば明確であるから、本件発明8及び10は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
(4)小括
以上のことから、当審が取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由2ないし4は、本件発明1ないし10を取り消す理由とはならない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700469