特許異議申立
2020-700384
サマリウム-鉄-窒素系焼結磁石、及びサマリウム-鉄-窒素系焼結磁石の製造方法
- 審判番号
- 2020-700384
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-180017
- 登録番号
- 特許第6614647号(P6614647)
- 請求日
- 2020年06月03日
- 審決日
- 2021年07月06日
- 公報発行日
- 2021年12月24日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】国立研究開発法人産業技術総合研究所
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【異議申立人】浜 俊彦
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 井上 信一
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1652.161-ZDA(H01F) / P1652.537-ZDA(H01F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6614647号発明「サマリウム-鉄-窒素系焼結磁石、及びサマリウム-鉄-窒素系焼結磁石の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6614647号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを認める。
特許第6614647号の請求項1に係る特許を取り消す。
同請求項2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6614647号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年9月11日に出願され、令和1年11月15日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月4日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和2年 6月 3日 特許異議申立人 浜 俊彦による請求項1及
び2に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 8月21日付け 取消理由通知
令和2年10月26日 特許権者による意見書の提出
令和2年12月10日 特許異議申立人による上申書の提出
令和3年 1月13日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和3年 3月18日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出
令和3年 4月28日 特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年3月18日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第6614647号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下の訂正事項(訂正事項1)のとおりである。なお、下線は訂正部分を示す。
特許請求の範囲の請求項2に「 酸素含有率(重量%)と、前記結晶粒子の平均粒径(μm)とが、以下の式(1)の関係を満たすサマリウム-鉄-窒素系焼結磁石」と記載されているのを、「 酸素含有率(重量%)と、前記結晶粒子の平均粒径(μm)とが、以下の式(1)の関係を満たし、前記酸素含有率が0.7重量%以下であるサマリウム-鉄-窒素系焼結磁石」に訂正する。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項2に係る発明におけるサマリウム-鉄-窒素系焼結磁石の「酸素含有率」について、「0.7重量%以下」であることの限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0051】には「また、第2の構成例として説明した焼結磁石において焼結磁石の酸素含有率は特に限定されず、焼結磁石の酸素含有率を項に含む上記式(1)を充足していれば足りるが、特に焼結磁石の酸素含有率は0.7重量%以下であることが好ましい。」と記載されていることから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1は上述のとおり、訂正前の請求項2に係る発明におけるサマリウム-鉄-窒素系焼結磁石の「酸素含有率」について限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件においては、訂正前の請求項2について特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項2に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項2のとおり訂正することを認める。
第3 本件発明
請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)及び請求項2(以下、「本件発明2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
サマリウム-鉄-窒素系合金を含有し、
含有する結晶粒子の平均粒径が0.04μmより大きく5μm以下であり、
酸素含有率が0.7重量%以下であるサマリウム-鉄-窒素系焼結磁石。
【請求項2】
サマリウム-鉄-窒素系合金を含有し、
含有する結晶粒子の平均粒径が0.04μmより大きく5μm以下であり、
酸素含有率(重量%)と、前記結晶粒子の平均粒径(μm)とが、以下の式(1)の関係を満たし、前記酸素含有率が0.7重量%以下であるサマリウム-鉄-窒素系焼結磁石。
(酸素含有率)×(結晶粒子の平均粒径)<2.2 ・・・(1)」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
令和3年1月13日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1,2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
記
(1)本件発明1について
「請求項1には、『・・含有する結晶粒子の平均粒径が0.04μmより大きく5μm以下であり、酸素含有率が0.7重量%以下である・・』と記載されている。
・・・・・(中 略)・・・・・
しかしながら、・・・特許異議申立書23頁の図1のグラフに示されるように、X=5の直線,Y=0.7の直線,XY=2.2の曲線で囲まれた範囲は、本願請求項1に係る発明で特定する範囲に含まれるものの、本願請求項2に係る発明で特定する範囲には含まれない範囲であり、かかる範囲についても課題を解決できるとまでは技術常識に照らしても把握することができない。」
そして、より具体的な主な指摘は以下のとおりである。
「特許異議申立書23頁の図1のグラフに示されている実施例(赤丸)と比較例(青四角)との間には、直線以外のものを含めて様々な境界線を引き得るところ、その中でもY=0.7で表される直線の境界線を3.14≦X≦5の範囲も含めた全範囲(0.04<X≦5)にわたって採用することの技術的妥当性を裏付けるだけの十分な実施例、特に3.14≦X≦5、Y=0.7の範囲、中でもX=5、Y=0.7付近であっても、磁石粉末と同等以上の優れた保持力を有することを示す実施例が示されていない(なお、「3.14」はY=0.7の直線とXY=2.2の曲線との交点のXの値である。)。」
よって、「本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。」
(2)本件発明2について
「請求項2には、『・・含有する結晶粒子の平均粒径が0.04μmより大きく5μm以下であり、酸素含有率(重量%)と、前記結晶粒子の平均粒径(μm)とが、以下の式(1)の関係を満たす・・(酸素含有率)×(結晶粒子の平均粒径)<2.2・・・(1)』と記載されている。
・・・・・(中 略)・・・・・
しかしながら、・・・特許異議申立書25頁の図2のグラフに示されるように、X=0.04の直線,Y=0.7の直線,XY=2.2の曲線で囲まれた範囲(この範囲は、本願請求項2に係る発明で特定する範囲に含まれるものの、本願請求項1に係る発明で特定する範囲には含まれない範囲である。)についても課題を解決できるとまでは技術常識に照らしても把握することができない。中でも平均粒径が小さい場合は、式(1)を満たす範囲で酸素を多量に含有していても良いことになるが、そのような場合であっても課題を解決できるとは理解し得ない。」
そして、より具体的な指摘は以下のとおりである。
「特許異議申立書25頁の図2のグラフで言えば、実施例としてはX=2.8とX=4.0のわずか2点の場合しか示されておらず、特に0.04<X<2.8の範囲についてもXY=2.2の境界線を引くことができ、式(1)を充足する限り課題(磁石粉末と同等以上の優れた保持力を有する焼結磁石を得ること)を解決することができるとする根拠が不明である。例えば、結晶粒子の平均粒径が本件発明2で特定する『0.04μmより大きく5μm以下』の範囲のうち、下限の0.04μmに限りなく近い値である場合、式(1)によれば、(酸素含有率)<2.2/0.04=55となり、焼結磁石の酸素含有率は55質量%近くの高濃度であっても良い、つまり、焼結磁石の質量の半分以上が酸素であっても、磁石粉末と同等以上の優れた保持力を有する焼結磁石が得られるということになるが、このようなことは、当然ながら実施例などの裏付けがなく、発明の詳細な説明における段落【0022】の『焼結磁石に含まれる少量の酸素が保磁力低下の原因であることを突き止めた。このため、焼結磁石に含まれる酸素の含有率を抑制することで、原料粉末と同等以上の保磁力を有する、保磁力の優れた焼結磁石とすることができることを見出し、本発明を完成させた。』なる記載内容とも齟齬するものであり、技術常識に照らして妥当性に欠くと言わざるを得ない。」
よって、「本件発明2は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、本件発明2の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。」
2.当審の判断
まず、本件発明1及び本件発明2の解決しようとする課題について、本件特許明細書の段落【0016】には「上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、単磁区粒径近傍で粉砕された結晶粒子を含有し、かつ保磁力に優れた、サマリウム-鉄-窒素系焼結磁石を提供することを目的とする。」と記載されている。さらに【0022】には「・・このため、焼結磁石に含まれる酸素の含有率を抑制することで、原料粉末と同等以上の保磁力を有する、保磁力の優れた焼結磁石とすることができることを見出し、本発明を完成させた。」と記載され、【0044】には「・・この焼結磁石の酸素含有率(重量%)と結晶粒子の平均粒径(μm)との積を、2.2より小さくした焼結磁石は、原料粉末と同等以上の保磁力を有することを見出し、上記(1)を完成させた。」と記載されている。以上のことから、本件発明1及び本件発明2が解決しようとする課題は、単磁区粒径近傍で粉砕された結晶粒子を含有し、かつ原料粉末と同等以上の保磁力を有するサマリウム-鉄-窒素系焼結磁石を提供することであるといえる。
次に、本件発明1及び本件発明2について、それぞれ特許法第36条第6項第1号に規定する要件、すなわちサポート要件を満たしているか否かを以下に検討する。
(1)本件発明1について
当審による上記「1.(1)」に記載したとおりのサポート要件に関する不備の指摘に対して、特許権者は令和3年3月18日に提出の意見書において、取消理由通知書で十分な実施例がないとされる結晶粒子の平均粒径(X)が3.14~5μmの範囲内、およびその近傍であるX=2.8とX=4.0の異なる2パターンの実施例、比較例があり、特に本件特許明細書の段落【0022】に記載されているように焼結磁石に含まれる少量の酸素が保磁力低下の原因であることから、その間の線であるY(酸素含有率)=0.7で境界線を引けることは明らかであると主張している。
しかしながら、X=2.8である実施例1,2と、X=4.0である実施例3,4,5とを比較した場合、原料粉末と同等以上の優れた保磁力を有する焼結磁石を提供するうえで、Xの値が小さいほど許容されるYの値の上限は増加傾向にある、逆に言えばXの値が大きいほど許容されるYの値の上限は減少傾向にあるといえ、かかる傾向は特許明細書の段落【0040】~【0044】に記載された式(1)から把握される傾向にも沿うものである。このような傾向があるなかで取消理由通知でも指摘したように、例えばX=5,Y=0.7であっても磁石粉末と同等以上の保磁力を有することを示す実施例は示されていない。したがって、たとえX=4.0においてY≦0.7であれば課題を解決できたとしても、Xの値がより大きいX=5付近の場合には課題を解決するうえで許容されるYの値の上限は減少しているといえることを考慮すると、X=5付近においてもY=0.7の直線で境界線を引け、例えばX=5,Y=0.7であっても課題を解決できるとまでは認識することはできない。
よって、特許権者の上記主張は採用できず、依然として本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)本件発明2について
当審による上記「1.(2)」に記載したとおりのサポート要件に関する不備の指摘に対して、本件訂正請求による訂正により、請求項2に対して「酸素含有率が0.7重量%以下」であることの限定が付加された。その結果、本件発明2は、取消理由通知において課題を解決できるとまでは技術常識に照らしても把握することができないと指摘した範囲である「特許異議申立書25頁の図2のグラフに示されるように、X=0.04の直線,Y=0.7の直線,XY=2.2.の曲線で囲まれた範囲」は含まれないものとなり、サポート要件に関して指摘した不備な点は解消されたといえるが、以下にさらに詳細に検討する。
特許異議申立書25頁の図2のグラフに示されるように、結晶粒子の平均粒径を「X」、酸素含有率を「Y」とした場合、本件特許明細書には、実施例としてX=2.8とX=4.0しか示されていない。しかしながら、例えばYの値が同程度である実施例1(X=2.8)と実施例5(X=4.0)を比較した場合、実施例1の方が焼結磁石における磁石粉末からの保磁力の増減率が増加することが示されており、Xの値が小さい場合に原料粉末と同等以上のより優れた保磁力を有するという効果を奏していることや、X=2.8である実施例1,2とX=4.0である実施例3,4,5とを比較した場合、原料粉末と同等以上の保磁力を有する焼結磁石を提供するうえで、Xの値が小さいほど許容されるYの値の上限は増加傾向にあること(このことは当然ながら、式(1)とも整合する)が見て取れるところ、0.04<X<3.14の範囲(なお、「3.14」はY=0.7の直線とXY=2.2の曲線との交点のXの値である。)ではY≦0.7の限定が付されたことから、0.04<X<2.8の範囲についても実施例1ないし5と同様に原料粉末と同等以上の保磁力を有する焼結磁石を提供するという課題を解決できると当業者であれば認識し得るものといえる。
ここで、特許異議申立人は令和3年4月28日に提出の意見書において、X=3.14の近傍の範囲において酸素含有率0.7質量%以下であれば課題を解決できるとは当業者であっても理解できず、また、3.14≦X≦5.0ではX=4.0のわずか1点の場合しか示されておらず、かかる範囲においてXY=2.2の境界線が引け、XY<2.2を満たす焼結磁石であれば保磁力に優れるとは当業者であっても認識できない旨主張している。
しかしながら、X=3.14ではそもそもXY<2.2の限定が付されているところ、例えば特許異議申立書25頁の図2のグラフから明らかなように、X=2.8及びX=4.0のそれぞれにおいて実施例と比較例の間を通っていることや、上述したように、X=2.8である実施例1,2と、X=4.0である実施例3,4,5とを比較した場合、原料粉末と同等以上の保磁力を有する焼結磁石を提供するうえで、Xの値が小さいほど許容されるYの値の上限は増加傾向にある(逆に言えば、Xの値が大きいほど許容されるYの値の上限は減少傾向にある)といえ、かかる傾向はXY<2.2の式から把握される傾向に沿うものであることを踏まえると、3.14≦X≦5.0の範囲においてXY=2.2の境界線を引くことに根拠がないとまではいえず、かかる範囲においてXY<2.2を満たせば実施例1ないし5と同様に原料粉末と同等以上の保磁力を有する焼結磁石を提供するという課題を解決できると推認し得る。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
以上を踏まえると、本件発明2は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるといえる。
3.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
一方、本件発明2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由等について
1.申立理由の概要
取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由では取り消すことはできないと判断した請求項2に係る発明に関して、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
(1)理由1(拡大先願)
請求項2に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、請求項2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである(同法第184条の13参照)。(かかる理由1は、令和2年8月21日付け取消理由通知において採用した理由でもある。)
記
特願2016-529610号(国際公開第2015/199096号)(甲第1号証に相当)
(2)理由2(拡大先願)
請求項2に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされたされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項2に係る発明は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。(以下、「理由2」という。)
記
特願2014-214867号(特開2016-82175号)(甲第4号証)
2.先願発明
2-1.特願2016-529610号(国際公開第2015/199096号)(甲第1号証に相当)
甲第1号証に相当する上記先願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書1」という。)には、「希土類磁石成形体の製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項1】
600℃以下の温度のSm-Fe-N系磁石粉末を、1~5GPaの成形面圧で圧密成形し、相対密度80%以上のSm-Fe-N系磁石成形体を得る温間圧密成形工程を有するSm-Fe-N系磁石成形体の製造方法。」
(2)「【0032】
本実施形態においては、高分子、特に有機高分子からなるバインダーは使用しないことが好ましい。有機高分子のバインダーは、ボンド磁石成形体に占める割合が3割程度と大きいが、磁石としては機能しないため、磁石成形体の磁気特性は低下してしまうためである。本実施形態は、高分子のバインダーを含まなくとも温間圧密成形によって磁石成形体を得られるため、有機高分子バインダーによる磁気特性の低下を防止できる点で優れている。また、融点の低い高分子バインダーを使用しないことにより、より高温の環境においても使用可能な磁石を得ることができる。また、本実施形態の磁石形成体は、ボンド磁石に対して、こうした樹脂が不要となり軽量化できる。しかしながら、本実施形態には、高分子バインダーを磁気特性の低下がない程度に微量に含む場合も包含される。」
(3)「【0084】
<実施例23~27>
(準備工程(S41))
Sm-Fe-N系粗粉は、平均粒子径D50≒20μmのSm2Fe17Nx(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製)を用いた。Sm-Fe-N系粗粉をアシザワ・ファインテック(株)の湿式ビーズミルLMZ2を用いて微粉砕した。微粉砕粉の平均粒子径D50は1.7μmであった。
【0085】
Sm-Fe-N系微粉と金属バインダー粉末としてZn粉末を、93:7の割合(質量比)で混合し、ブレンド粉末Cを調製した。なお、亜鉛(Zn)粉末は株式会社高純度化学研究所製であり、平均粒子径は3μmであった。
【0086】
(予備圧縮成形工程(S42))
ブレンド粉末Cを2.56g秤量し、直径約7mmサイズのダイセット(円筒形金型)に充填し、実施例23~27について、それぞれ、下記表4に示す相対密度となるように、油圧プレスを用いて、冷間(室温)で予備圧縮して予備圧縮成形体を得た。
【0087】
(温間圧密成形工程(S43))
その後得られた予備圧縮成形体を、それぞれ、200℃で10分間保持した。予備圧縮成形体が十分に成形温度(200℃)に達した後、油圧プレスを用いて、200℃で3.5GPaの成形面圧を負荷し、30秒間保持して温間圧密成形した。以上のような工程で実施例23~27の磁石成形体を得た。
【0088】
<実施例28>
実施例28では、実施例23と同様にしてブレンド粉末Cを準備し、予備圧縮成形工程(S42)を行うことなく、このブレンド粉末Cを2.56g秤量し、直径約7mmサイズのダイセット(円筒形金型)に充填し、200℃で10分間保持した。ブレンド粉末Cが十分に成形温度(200℃)に達した後、油圧プレスを用いて、200℃で3.5GPaの成形面圧を負荷し、30秒間保持して温間圧密成形した。以上のような工程で実施例28の磁石成形体を得た。
【0089】
(評価)
実施例23~28の磁石成形体の残留磁束密度Brは、直流BHトレーサー(東英工業株式会社製TRF-5AH)を用いて測定した。実施例23~28の磁石成形体の酸素量は、株式会社堀場製作所製 酸素窒素分析装置EMGA-920型により測定した。これら残留磁束密度Br及び酸素量の測定結果を表4に示す。更に、実施例23~27の予備圧縮成形体の相対密度も、磁石成形体の相対密度と同様に、計算により求めた真密度と、予備圧縮成形体の寸法および重量測定から求めた実測密度とを用いて求めた。予備圧縮成形体の相対密度は、真密度に対する実測密度の割合(%)であり、実測密度の値を理論密度の値で除し、100をかけて計算したものである。得られた予備圧縮成形体の相対密度を表4に示す。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0091】
」
上記(1)及び(3)から以下のことがいえる。
・上記先願明細書1には、Sm-Fe-N系磁石成形体を得る温間圧密成形工程を有するSm-Fe-N系磁石成形体の製造方法について記載されている(【請求項1】)。
・実施例23~28のSm-Fe-N系磁石成形体は、Sm-Fe-N系粗粉(平均粒子径D50≒20μmのSm2Fe17Nx(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製))を微粉砕して得た平均粒子径D50が1.7μmの微粉砕紛と、Zn粉末からなる金属バインダー粉末とを混合したブレンド粉末を任意的に冷間(室温)で予備圧縮(実施例23~27)した後、200℃で3.5GPaの成形面圧を負荷し、30秒間保持して温間圧密成形することにより得られるものである(段落【0084】~【0088】)。
・実施例23~28において製造されたSm-Fe-N系磁石成形体の酸素量は、0.60質量%(実施例27)~0.70質量%(実施例28)である(段落【0091】の表4)。
以上のことから、実施例23~28において製造される「Sm-Fe-N系磁石成形体」を発明として捉え、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書1には、次の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されている。
「Sm-Fe-N系粗紛(平均粒子径D50≒20μmのSm2Fe17Nx(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製))を微粉砕して得た平均粒子径D50が1.7μmの微粉砕紛と、Zn粉末からなる金属バインダー粉末とを混合したブレンド粉末を任意的に冷間(室温)で予備圧縮した後、200℃で3.5GPaの成形面圧を負荷し、30秒間保持して温間圧密成形することにより得られ、酸素量が0.60~0.70質量%であるSm-Fe-N系磁石成形体。」
2-2.特願2014-214867号(特開2016-82175号)(甲第4号証)
甲第4号証に係る上記先願の願書に最初に添付した明細書、請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書2」という。)には、「Sm-Fe-N系磁石成形体およびその製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
(1)「【請求項12】
焼結することなく、かつ爆薬を用いた粉末衝撃成形法を用いることなく、冷間圧密成形で作製されてなる、相対密度が80%以上であるSm-Fe-N系磁石成形体。」
(2)「【0010】
また、本発明のSm-Fe-N系磁石成形体は、焼結することなく、かつ爆薬を用いた粉末衝撃成形法を用いることなく、冷間圧密成形で作製されてなる、相対密度が80%以上であることを特徴とする。」
(3)「【0057】
<第四実施形態>
第四実施形態の磁石成形体は、焼結することなく、かつ爆薬を用いた粉末衝撃成形法を用いることなく、冷間圧密成形で作製されてなる、相対密度が80%以上のSm-Fe-N系磁石成形体である。詳しくは、上記した第一~第三実施形態の製造方法により得られてなるSm-Fe-N系磁石成形体である。本実施形態の磁石成形体では、Sm-Fe-N系磁石を600℃を超えた高温で加熱(焼結)する必要がないため、希土類窒化物とα-Feに分解することなく、熱的安定性に優れる。また、爆薬を用いた粉末衝撃成形法を用いる必要がないため、大きな衝撃力によりSm-Fe-N系磁石が希土類窒化物とα-Feに分解することもなく、磁気特性の低下を防止することができる点で優れている。」
(4)「【0091】
<実施例5~7>
(準備工程)
Sm-Fe-N系粗粉は、平均粒子径D50≒20μmの異方性Sm2Fe17Nx粉(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製)を用いた。Sm-Fe-N系粗粉を日本ニューマチック工業株式会社製の乾式ジェットミル装置PJM-80SPを用いて微粉砕して、Sm-Fe-N系微粉を得た。Sm-Fe-N系微粉(磁粉)は、平均粒子径D50=3.9μmで、酸素量はおよそ0.4質量%であった。
【0092】
上記Sm-Fe-N系微粉と金属バインダ粉末としてZn粉末を、Sm-Fe-N系微粉:Zn粉末=95:5(ブレンド粉末L)、90:10(ブレンド粉末M)、80:20(ブレンド粉末N)の割合(質量比)で混合し、ブレンド粉末L~Nを調製した。なお、亜鉛(Zn)粉末は、株式会社高純度化学研究所製であり、平均粒子径D50は3μmであった。
【0093】
(磁場中冷間圧密成形工程)
上記準備工程で得られたブレンド粉末L~Nをそれぞれ2.6g秤量し、7×7mmサイズの超硬合金製ダイセット(四角柱状金型;図4の符号14参照)に投入、充填し、磁場成形プレス装置を用いて、21kOeの磁界(磁場)中で4GPaの成形面圧を負荷し、30秒下死点保持して冷間(室温;おおむね25℃)で圧密成形して、Sm-Fe-N系磁石成形体を得た。
【0094】
(熱処理工程)
上記磁場中冷間圧密成形工程で得られたSm-Fe-N系磁石成形体を、下記表5の条件で熱処理をした。以上のような工程で実施例5~7のSm-Fe-N系磁石成形体をそれぞれ得た。なお、微粉砕以降の工程はすべて、100ppm以下の低酸素(雰囲気)の不活性(N2ガス)雰囲気下で行った。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0097】
」
上記(1)ないし(4)から以下のことがいえる。
・上記先願明細書2に記載の「Sm-Fe-N系磁石成形体」は、焼結することなく、冷間圧密成形で作製されてなるものである(【請求項12】、段落【0010】、【0057】)。
・実施例5~7として、Sm-Fe-N系磁石成形体は、Sm-Fe-N系粗粉(平均粒子径D50≒20μmの異方性Sm2Fe17Nx紛(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製))を微粉砕して得た平均粒子径D50が3.9μm、酸素量がおよそ0.4質量%のSm-Fe-N系微粉と、Zn粉末からなる金属バインダー粉末とを混合したブレンド粉末を21kOeの磁界(磁場)中で4GPaの成形面圧を負荷し、30秒下死点保持して冷間(おおむね25℃)で圧密成形し、さらに熱処理をすることで得られるものである(段落【0091】~【0094】)。
・実施例5~7において、磁場中冷間圧密成形で得られた成形体に対する熱処理は、435℃(実施例7)~465℃(実施例5)×60min.である。(段落【0097】の表5)。
・実施例5~7では、Sm-Fe-N系磁石成形体を製造する工程において、微粉砕以降の工程はすべて100ppm以下の低酸素(雰囲気)の不活性(N2ガス)雰囲気下で行われてなるものである(段落【0094】)。
以上のことから、実施例5~7において製造される「Sm-Fe-N系磁石成形体」に着目し、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書2には、次の発明(以下、「先願発明2」という。)が記載されている。
「Sm-Fe-N系粗粉(平均粒子径D50≒20μmの異方性Sm2Fe17Nx紛(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製))を微粉砕して得た平均粒子径D50が3.9μm、酸素量がおよそ0.4質量%のSm-Fe-N系微粉と、Zn粉末からなる金属バインダー粉末とを混合したブレンド粉末を21kOeの磁界(磁場)中で4GPaの成形面圧を負荷し、30秒下死点保持して焼結することなく、冷間(おおむね25℃)で圧密成形し、さらに435℃~465℃×60min.の熱処理をすることで得られたSm-Fe-N系磁石成形体であって、
微粉砕以降の工程はすべて100ppm以下の低酸素(雰囲気)の不活性(N2ガス)雰囲気下で行われてなるSm-Fe-N系磁石成形体。」
3.対比・判断
3-1.理由1(拡大先願)について
本件発明2と先願発明1とを対比する。
(1)磁石について
先願発明1はSm-Fe-N系の粉末を用いた「Sm-Fe-N系磁石成形体」であるから、Sm(サマリウム)-Fe(鉄)-N(窒素)系合金を含有する磁石であることは明らかであり、本件発明2と先願発明1とは、「サマリウム―鉄―窒素系合金を含有」する「サマリウム―鉄―窒素系磁石」である点で共通するといえる。
ただし、本件発明2では「焼結」磁石であると特定するのに対し、先願発明1ではそのような特定がされていない点で相違している。
(2)含有する結晶粒子の平均粒径について
先願発明1において、出発原料として用いられるSm-Fe-N系粗粉(平均粒子径D50≒20μmのSm2Fe17Nx(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製))は、異方性である〔必要であれば甲第2号証(産総研「ジスプロシウムを使わない高性能な等方性焼結磁石」)の2頁目「用語の説明」の2項目、甲第5号証(国際公開第2017/033266号)の段落【0140】を参照〕。粗粉が多結晶やアモルファスの場合には異方性を有さないはずであるから、先願発明1における上記粗粉は単結晶であると解される。そして、先願発明1では、平均粒子径D50が1.7μmの微粉砕紛と金属バインダー粉末とを混合したブレンド粉末を任意的に冷間(室温)で予備圧縮した後に行われる温間圧密成形の温度は200℃であり、このような温度はSm-Fe-N系粉末の熱分解温度以下の温度であり、結晶粒子の粒成長は起こらないといえる(この点については、本件特許明細書の段落【0031】の記載も参照)。よって、先願発明1のSm-Fe-N系磁石成形体が含有する結晶粒子の平均粒径は、単結晶であるSm-Fe-N系粗粉(平均粒子径D50≒20μmのSm2Fe17Nx(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製))を微粉砕して得た微粉砕紛とほぼ同じ1.7μm程度であるということができ、本件発明2で特定する「0.04μmより大きく5μm以下」の条件(範囲)を満たす。
(3)酸素含有率について
先願発明1におけるSm-Fe-N系磁石成形体の酸素量は「0.60質量%~0.70質量%」であるから、本件発明2で特定する「0.7重量%以下」の条件(範囲)を満たす。
(4)式(1)の関係について
上記(2)及び(3)によれば、先願発明1のSm-Fe-N系磁石成形体が含有する結晶粒子の平均粒径は1.7μm程度であり、また、酸素量は0.60質量%~0.70質量%であることから、(酸素含有率)×(結晶粒子の平均粒径)≒1.0~1.2であり、本件発明2で特定する式(1)の「(酸素含有率)×(結晶粒子の平均粒径)<2.2」の条件(範囲)を満たす。
よって、上記(1)ないし(4)によれば、本件発明2と先願発明1とは、
「サマリウム―鉄―窒素系合金を含有し、
含有する結晶粒子の平均粒径が0.04μmより大きく5μm以下であり、
酸素含有率(重量%)と、前記結晶粒子の平均粒径(μm)とが、以下の式(1)の関係を満たし、前記酸素含有率が0.7重量%以下であるサマリウム―鉄―窒素系磁石。
(酸素含有率)×(結晶粒子の平均粒径)<2.2 ・・・(1)」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
サマリウム―鉄―窒素系磁石について、本件発明2では「焼結」磁石であると特定するのに対し、先願発明1ではそのような特定がされていない点。
そこで、上記相違点について検討する。
先願明細書1の段落【0004】~【0008】には背景技術に関して、Sm-Fe-N系磁石は従来の粉末冶金法のように焼結法で磁石成形体を作製することができない。そのため、ボンド磁石用の磁石粉末として用いられてきたが、バインダとして樹脂の体積が全体の約3割を占めるため、十分な磁力を得ることができないことから、磁石粉末以外の物質をできるだけ含有させない磁石成形体が得られる固化成形方法として爆薬を用いた粉末衝撃成形法が従来技術として検討されていること、そして、先願発明1は、その従来技術(爆薬を用いた粉末衝撃成形法)の品質安定性、生産性、加工歩留まりといった課題を解決するためになされたものであることが記載されている。かかる記載によれば、先願発明1は少なくとも積極的に「焼結」された磁石成形体を得ようとするものではないことは明らかである。そしてこのことに加えて、先願発明1は金属バインダーを含むものであることや、先願明細書1の段落【0032】に記載のように高分子バインダーを微量に含む場合も包含するものであることを踏まえると、先願発明1におけるSm-Fe-N系磁石成形体は少なくとも「焼結」磁石に分類されるべきものではないといえる。
なお、特許異議申立人は令和2年12月10日に提出の上申書において、甲第7号証(特開平3-16102号公報)及び甲第8号証(国際公開第2018/163967号)を提示し、これら各号証にSm-Fe-N系合金粉末(結晶粒子)とZn粉末とから「焼結」磁石が得られることが開示されていることを根拠として、先願発明1は「焼結」磁石である旨主張している(なお、甲第8号証は本件出願日前に公知となった文献ではない。)。
しかしながら、焼結時の温度は甲第7号証のものが470℃、甲第8号証のものが500℃であって、いずれも先願発明1の温間圧密成形時の200℃よりも2倍以上高温であり、甲第7号証及び甲第8号証のものはZn粉末の融点(419.5℃)よりも高いのに対して、先願発明1はZn粉末の融点よりも低いといった違いがあることを踏まえると、甲第7号証及び甲第8号証にSm-Fe-N系合金粉末(結晶粒子)とZn粉末とから「焼結」磁石が得られることが開示されているからといって、先願発明1におけるSm-Fe-N系磁石成形体が「焼結」磁石であるとまではいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
よって、本件発明2と先願発明1とは磁石の種類において相違し、前提において異なるものであるから、本件発明2は、先願発明1と実質的に同一ということはできない。
3-2.理由2(拡大先願)について
本件発明2と先願発明2とを対比する。
(1)磁石について
先願発明2はSm-Fe-N系の粉末を用いた「Sm-Fe-N系磁石成形体」であるから、Sm(サマリウム)-Fe(鉄)-N(窒素)系合金を含有する磁石であることは明らかであり、本件発明2と先願発明2とは、「サマリウム―鉄―窒素系合金を含有」する「サマリウム―鉄―窒素系磁石」である点で共通するといえる。
ただし、本件発明2は「焼結」磁石であるのに対し、先願発明2は焼結することなく冷間圧密成形で作製されたもの、つまり焼結磁石ではない点で相違するということができる。
なお、先願発明2では冷間圧密成形した後、さらに435℃~465℃×60min.の熱処理をしているが、高加圧下で行われているわけでもなく、このような熱処理工程は通常、特性改善のための処理工程であって(例えば甲第4号証の段落【0043】を参照)、「焼結」工程とは異なるものであり、かかる熱処理で「焼結」することはないと解される。
(2)含有する結晶粒子の平均粒径について
先願発明2において、出発原料として用いられるSm-Fe-N系粗粉(平均粒子径D50≒20μmの異方性Sm2Fe17Nx紛(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製))は異方性である。粗粉が多結晶やアモルファスの場合には異方性を有さないはずであるから、先願発明2における上記粗粉は単結晶であると解される。そして、先願発明2では、平均粒子径D50が3.9μmの微粉と金属バインダー粉末とを混合したブレンド粉末に対して行われる冷間圧密成形の温度は概ね25℃であり、このような温度では当然ながら結晶粒子の粒成長は起こらない(この点については、本件特許明細書の段落【0031】の記載も参照)。したがって、先願発明2のSm-Fe-N系磁石成形体が含有する結晶粒子の平均粒径は、単結晶であるSm-Fe-N系粗粉(平均粒子径D50≒20μmの異方性Sm2Fe17Nx紛(x≒3)(住友金属鉱山株式会社製))を微粉砕して得た微粉とほぼ同じ3.9μm程度であるということができ、本件発明2で特定する「0.04μmより大きく5μm以下」の条件(範囲)を満たす。
(3)酸素含有率について
先願発明2におけるSm-Fe-N系磁石成形体は、酸素量がおよそ0.4質量%のSm-Fe-N系微粉が用いられ、微粉砕以降の工程はすべて100ppm以下の低酸素(雰囲気)の不活性(N2ガス)雰囲気下で行われてなるものであるが、最終的に得られるSm-Fe-N系磁石成形体の酸素含有率は不明である。ここで、微粉砕以降の工程における低酸素(雰囲気)の上限である「100ppm」は、本件特許明細書に記載(【0061】~【0078】を参照)されている「0.5体積ppm」に比べると極めて低いというわけでもないことを踏まえると、最終的に得られるSm-Fe-N系磁石成形体の酸素含有率が本件発明2で特定する「0.7重量%以下」の条件(範囲)を必ず満たすとは限らない。
(4)式(1)の関係について
上記(3)によれば、先願発明2のSm-Fe-N系磁石成形体の酸素含有率は不明であることから、(酸素含有率)×(結晶粒子の平均粒径)の値も不明であり、本件発明2で特定する式(1)の「(酸素含有率)×(結晶粒子の平均粒径)<2.2」の条件(範囲)を満たすとも限らない。
よって、上記(1)ないし(4)によれば、本件発明2と先願発明2とは、
「サマリウム―鉄―窒素系合金を含有し、
含有する結晶粒子の平均粒径が0.04μmより大きく5μm以下であるサマリウム―鉄―窒素系磁石。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
サマリウム―鉄―窒素系磁石について、本件発明2は「焼結」磁石であるのに対し、先願発明2は焼結磁石ではない点。
[相違点2]
本件発明2では、「酸素含有率(重量%)と、前記結晶粒子の平均粒径(μm)とが、以下の式(1)の関係を満たし、前記酸素含有率が0.7重量%以下」であると特定するのに対し、先願発明2ではそのような式(1)の関係、酸素含有率の条件(範囲)を満たすか否か不明である点。
(酸素含有率)×(結晶粒子の平均粒径)<2.2 ・・・(1)
よって、本件発明2と先願発明2とは少なくとも磁石の種類において相違し、前提において異なるものであるから、本件発明2は、先願発明2と実質的に同一ではないことは明らかである。
なお、特許異議申立人は申立書において、先願明細書2に記載された発明について、成形体を465℃、450℃、又は435℃で60分間の条件で熱処理することは、「焼結」にあたる旨主張している。
しかしながら、上記「(1)磁石について」でも述べたとおり、435℃~465℃×60min.の熱処理は、高加圧下で行われているわけでもなく、このような熱処理工程は通常、特性改善のための処理工程であって(例えば甲第4号証の段落【0043】を参照)、「焼結」工程とは異なるものであり、かかる熱処理で「焼結」することはないと解される。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
4.まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項2に係る発明に関して、特許異議申立人による特許法第29条の2についての申立理由はいずれも理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明2に係る特許については、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700384