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特許異議申立

2020-700273

パルスレーザーによる施工方法およびシステム

審判番号
2020-700273
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-030275
登録番号
6595135
請求日
2020年04月17日
審決日
2022年10月27日
公報発行日
2023年01月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】一般社団法人日本パルスレーザー振興協会
  • 【権利者代理人】原田 貴史
  • 【権利者代理人】備後 元晴
  • 【権利者】株式会社ミツヤ
  • 【権利者代理人】原田 貴史
  • 【権利者代理人】備後 元晴
  • 【権利者】株式会社平山工業
  • 【権利者代理人】原田 貴史
  • 【権利者代理人】備後 元晴
  • 【権利者】NKワークス株式会社
  • 【権利者代理人】原田 貴史
  • 【権利者代理人】備後 元晴
  • 【異議申立人】クリーンレーザージャパン 株式会社
  • 【異議申立人代理人】中村 政美
  • 【異議申立人代理人】原田 寛
  • 【異議申立人】泉 千登勢
審判長/審判官
  • 審判長 見目 省二
  • 審判官 刈間 宏信
  • 審判官 田々井 正吾
分類
P1651.121-YAA(B23K) / P1651.537-YAA(B23K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6595135号発明「パルスレーザーによる施工方法およびシステム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6595135号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5、7〕、6について訂正することを認める。 特許第6595135号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6595135号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成31年(2019年)2月22日に出願され、令和元年(2019年)10月4日にその特許権の設定登録がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行された。 そして、本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。 令和2年 4月17日 :特許異議申立人 クリーンレーザージャパン 株式会社(以下「申立人A」という。) による請求項1~7に係る特許に対する 特許異議の申立て 同 年 4月23日 :特許異議申立人 泉千登勢 (以下「申立人B」という。)による 請求項1~7に係る特許に対する 特許異議の申立て 同 年 6月30日付け:取消理由通知書 同 年 8月12日 :特許権者 一般社団法人日本パルスレーザー 振興協会、 株式会社ミツヤ、 株式会社平山工業、 及びNKワークス株式会社 (以下「特許権者」という。)による 意見書及び訂正請求書の提出 同 年 9月 7日 :申立人Aによる意見書の提出 同 年 9月18日 :申立人Bによる意見書の提出 令和3年 1月28日付け:訂正拒絶理由通知書 同 年 3月 4日 :特許権者による意見書の提出 同 年 5月20日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同 年 7月 7日 :特許権者と審判合議体との面接 同 年 7月21日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同 年 9月16日 :申立人Aによる意見書の提出 同 年 9月21日 :申立人Bによる意見書の提出 同 年11月11日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同 年12月 9日 :特許権者と審判合議体との面接 令和4年 1月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同 年 2月28日 :申立人Aによる意見書の提出 同 年 3月 2日 :申立人Bによる意見書の提出 同 年 4月20日付け:審尋 同 年 6月15日 :特許権者による回答書の提出 (以下、申立人Aが提出した書類には「A」を付して「異議申立書A」などといい、申立人Bが提出した書類には「B」を付して「異議申立書B」などという。) なお、令和2年8月12日及び令和3年7月21日にされた訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 令和4年1月17日付け訂正請求書によってされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正事項は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示すために当審が付したものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離が、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、 前記レンズの交換に伴い、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される、」 と記載されているのを、 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され、 前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される、」 と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~5及び7も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項6に 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離が、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、 前記レンズの交換に伴い、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される、」 と記載されているのを、 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され、 前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される、」 と訂正する。 また、本件訂正請求の訂正事項1は、一群の請求項〔1-5、7〕に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 ア 訂正事項1に係る訂正の目的の適否 (ア)訂正前の請求項1の 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離が、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、」 という記載は、いわゆる条件表現(「AになるとBされる」のように、Aを条件としてBの結果となることを示す表現)で記載されており、その意味は、「前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離が、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になる」という条件(以下「集塵吸引口の条件」という。)を満たす場合に、「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、」「焦点が合うように設定され」るという結果(以下「焦点が合う結果」という。)が得られることと理解できる。 (イ)これに対して、訂正事項1の 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され」 という事項は、訂正前の条件表現における焦点が合う結果について、より具体的に、第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であることを特定したものである。 (ウ)また、訂正事項1の 「前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され」 という事項は、上記(イ)と合わせて見れば、この条件を満たすことで上記(イ)の焦点が合う結果をもたらすこと、すなわち、訂正前の条件表現における集塵吸引口の条件について、さらに第二の距離よりも短いことを限定して特定したものであることが理解できる。 (エ)そして、訂正事項1の 「前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される」 という事項は、訂正前の請求項1には、「第二の距離」について、「前記レンズから照射対象まで」という定義と、「前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面まで」という定義の2種類の定義がされていたところ、「前記第二の距離」と記載することで、ここでいう「第二の距離」が、「前記」されているとおりの「第二の距離」、すなわち「前記レンズから照射対象までの第二の距離」であることを明瞭にするものである。 (オ)さらに、当該事項は、レンズの交換に伴って集塵吸引口が選択され、それにより、第二の距離が第一の距離の15mm前後の範囲内になること、すなわち訂正前の条件表現における集塵吸引口の条件と焦点が合う結果の関係を示しているといえるところ、選択される集塵吸引口が、上記(ウ)の集塵吸引口の条件を満たすものであることは明らかである。 (カ)以上を総合すると、訂正事項1に係る訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号(特許請求の範囲の減縮)及び3号(明瞭でない記載の釈明)に該当する。 イ 新規事項の有無 (ア)訂正事項1の 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され」 という事項は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0019】に 「例えば、レンズ205の下面から照射対象までの規定の焦点距離が300mmの場合に、レンズ205の下面から照射対象までの距離が285mmから315mmになると、焦点が合うように設定される。」 として記載されている。 (イ)また、訂正事項1の 「前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり」 という事項は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に 「前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離が、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になる」として記載されている。 また、下記第4の2(1)で説示するとおり、集塵吸引口の下面までの距離が第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内となることは、願書に添付した明細書及び図面に記載されていたに等しい事項といえる。 (ウ)さらに、訂正事項1の 「前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、」「かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され」 という事項は、願書に添付した図面の図6及び図7の記載から明らかな事項である。 (エ)そして、訂正事項1の 「前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される」 という事項を検討すると、本件明細書の【0019】に 「レンズ205ごとに対応する吸引口があり、レンズ205の交換に伴い、レンズ205に対応する吸引口に交換する。」 と記載されているように、レンズを交換する際に、レンズに対応する吸引口に交換することが示されている。 そして、当業者であれば、交換する集塵吸引口について、レンズの焦点を合わせることができるように集塵吸引口を選択することを当然に理解するといえるから、レンズの交換に伴って、レンズの焦点を合わせることができるように、すなわち、第二の距離が第一の距離の15mm前後の範囲内となるように、集塵吸引口を選択することは、願書に添付した明細書の記載から、当業者にとって自明な事項といえる。 (オ) 以上から、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、上記アに示すとおり、特許請求の範囲を減縮するものである。 そして、訂正前の請求項1の条件表現(上記ア(ア))、すなわち、集塵吸引口の条件を満たす場合に焦点が合う結果が得られることは、一見すると、訂正後の請求項1に記載されていないように見えるが、上記ア(ウ)、(オ)に説示するとおり、訂正後においても、集塵吸引口の条件を満たす場合に焦点が合う結果が得られることが示されているといえるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、訂正前の請求項6について、訂正事項1と同様に訂正するものであるから、上記(1)と同様の理由により、訂正事項2に係る訂正の目的は、特許法120条の5第2項ただし書1号に該当し、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 3 小括 上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5、7〕、6について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~7に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、本件発明1~7をまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 パルスレーザーを照射することにより、素材の付着物を除去する施工方法であって、 レーザー機器は、先端部にレンズが設けられるスキャナーヘッドと、前記スキャナーヘッドに脱着される集塵吸引口と、を有し、 (a)レーザー機器がパルスレーザーを照射する工程と、 (b)レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより吸収層を剥離する工程と、 (c)レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより照射領域周辺にプラズマを発生させる工程と、 (d)集塵吸引口が剥離された吸収層を吸引する工程と、 を含み、 前記レンズは、固有の焦点距離である第一の距離を有し、照射対象への距離や、照射対象の形状などに応じて選択され、 前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され、 前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される、 施工方法。 【請求項2】 請求項1に記載の施工方法において、 前記レーザー機器は、ファイバーケーブル伝送式で持ち運びできる小型レーザー、および車両に搭載して移動できる大型レーザーである、施工方法。 【請求項3】 請求項1に記載の施工方法において、 前記レーザー機器は、レーザーの出力パワーおよび照射パターンおよび照射幅を調整される、施工方法。 【請求項4】 請求項1に記載の施工方法において、 前記パルスレーザーの照射とともに、素材に冷却スプレーを噴射することで、レーザーによる素材の熱の上昇を制御する、施工方法。 【請求項5】 請求項1に記載の施工方法において、 レーザー機器と、前記集塵吸引口を有する集塵機と、前記レーザー機器および前記集塵機に電力を供給する発電機の各機器連動した一式を一つのシステムとする、施工方法。 【請求項6】 パルスレーザーを照射することにより、素材の付着物を除去する車両搭載保冷ハウジングシステムであって、 パルスレーザーを照射することで素材の吸着層を剥離し、照射領域周辺にプラズマを発生させるレーザー機器と、剥離された前記吸収層を吸引する集塵吸引口を有する集塵機と、前記レーザー機器および前記集塵機に電力を供給する発電機と、を有し、 レーザー機器は、先端部にレンズが設けられるスキャナーヘッドと、前記スキャナーヘッドに脱着される集塵吸引口とを有し、 前記レンズは、固有の焦点距離である第一の距離を有し、照射対象への距離や、照射対象の形状などに応じて選択され、 前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され、 前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される、 車両搭載保冷ハウジングシステム。 【請求項7】 請求項1に記載の施工方法において、 パルスレーザーを照射し表面処理を行った後に、塗装やコーティングの密着性を高めるためのブラスト工法によるアンカーパターンを形成させる施工方法。」 第4 取消理由についての当審の判断 1 取消理由(決定の予告)の概要 当審が令和3年11月11日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、特許法17条の2第3項(新規事項の追加)に係る理由であり、その概要は、次のとおりである。 ア 令和元年7月18日の手続補正及び令和元年8月28日の手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、令和3年7月21日の訂正請求により訂正された請求項1~7に係る発明についての特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。 イ すなわち、上記の各手続補正により、請求項1及び6に「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離が、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、」という事項が記載され、レンズと対応する集塵吸引口そのものが照射対象に焦点距離を合わせるためのガイドとなり、レンズ交換の前後においても焦点距離を容易に合わせることが可能である、という新たな技術的事項が導入されることとなった。 ウ また、当初明細書等の図2~7を参照すると、レンズの下面から集塵吸引口の下面までの距離よりも、レンズから照射対象までの距離の方が長いことを見て取ることができるところ、上記イの事項のとおりに、レンズの下面から集塵吸引口の下面までの距離を、第一の距離(レンズの固有の焦点距離)よりも15mm長くなるようにすれば、レンズから照射対象までの距離は、レンズの固有の焦点距離よりも15mmを超えて長くなり、焦点を合わせることができないから、上記イの事項は、当初明細書等に記載した事項の範囲を超えるものである。 2 取消理由(決定の予告)についての判断 (1)上記1イ(集塵吸引口がガイドとなること)について ア 当初明細書等を参照すると、本件特許の施工方法に関して、以下の事項を理解できる(なお、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載と、本件明細書及び図面の記載は同一であるため、記載箇所については、本件明細書の段落番号等を示す。)。 (ア)本件特許の施工方法は、素材の吸収層(付着物)にパルスレーザーを照射して吸収層を加熱し、吸収層と素材との熱拡張の違いにより、吸収層を素材から剥離させる(【0038】)が、剥離した吸収層の一部はプラズマとなって蒸発し(【0040】)、蒸発しなかった吸収層や粉塵は、集塵吸引口に吸引される(【0041】及び【0044】)こと。 (イ)集塵吸引口は、プラズマも吸引しているといえる(【図面の簡単な説明】の【図7】及び図面の図7)こと。 (ウ)粉塵は、環境及び人体に悪影響を与える物質である(【0068】)こと。 (エ)レンズの焦点距離は、レンズの下面から照射対象までの規定の焦点距離からおよそ15mm前後となる距離に設定される(【0019】)ことから、パルスレーザーを吸収層に照射する際は、レンズから吸収層までの距離が、レンズの規定の(固有の)焦点距離の15mm前後となるように照射するといえること。 イ 本件特許の施工方法に係る集塵吸引口は、剥離した吸収層、粉塵及びプラズマを吸引しようとするもの(上記ア(ア)及び(イ))であり、それらは、いずれも、素材の表面や吸収層を発生場所とすることは明らかである。 また、粉塵は、環境及び人体に悪影響を与える物質である(上記ア(ウ))から、確実に吸引すべきことは、当業者が当然に理解するといえる。 さらに、プラズマや、その蒸発気体は拡散されるから、発生場所の近傍で吸引すべきことは、当業者にとって自明な事項である。 これらを考慮すると、本件明細書の記載に接した当業者であれば、本件特許の集塵吸引口について、吸収層、粉塵及びプラズマを確実に吸引するように、その発生場所である素材の表面や吸収層の近傍に配置すべきことを当然に理解するといえるところ、素材の表面や吸収層の位置は、パルスレーザーの焦点が合っている位置、すなわち、レンズの固有の焦点距離の15mm前後となる位置(上記ア(エ))であるから、その近傍に配置されるべき集塵吸引口も同様の位置関係にあるものといえる。 ウ そうすると、本件明細書の記載に接した当業者であれば、レンズの固有の焦点距離の15mm前後となる位置の近傍に集塵吸引口を配置することを理解するといえるから、レンズと対応する集塵吸引口そのものが照射対象に焦点距離を合わせるためのガイドとなることは、本件明細書及び図面(当初明細書等)に記載されていたに等しい事項といえ、上記1イで指摘するような新たな技術的事項とはいえない。 (2)上記1ウ(レンズから集塵吸引口までの距離)について 本件発明1及び6には、 「前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され、 前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される」 と記載されているから、仮に、レンズの下面から集塵吸引口の下面までの距離を、レンズの固有の焦点距離よりも15mm長くなるようにしても、第二の距離が、第一の距離の15mm前後の範囲を超えて長くなることはなく、上記1ウで指摘するような当初明細書等に記載した事項の範囲を超えるものとはいえない。 (3)取消理由(決定の予告)についての判断のむすび 以上のとおり、レンズと対応する集塵吸引口そのものが照射対象に焦点距離を合わせるためのガイドとなることは、新たな技術的事項とはいえないし、本件発明1及び6において、レンズの下面から集塵吸引口の下面までの距離を、レンズの固有の焦点距離よりも15mm長くしても、第二の距離が第一の距離の15mm前後の範囲を超えて長くなることはないから、取消理由(決定の予告)で通知した理由(特許法17条の2第3項違反)により、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。 第5 申立人Aの特許異議申立理由についての当審の判断 1 申立人Aの特許異議申立理由の概要及び申立人が提出した証拠 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立人A(クリーンレーザージャパン株式会社)の特許異議申立理由の概要、及び申立人Aが提出した証拠は、以下のとおりである。 (1)特許法29条2項(進歩性)の理由 ・訂正前の本件発明1~3、5及び6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術思想に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ・訂正前の本件発明4は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載の技術思想、並びに甲第3号証及び甲第4号証に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 ・訂正前の本件発明7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載の技術思想、並びに甲第5号証及び甲第6号証に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)申立人Aが提出した証拠 甲第1号証:「取扱説明書 マニュアル ガイダブル マシニング オプティック 光学マシニングンシステム OS H 50 交換可能なノズル付」(クリーンレーザージャパン株式会社 2009年7月発行、1、2、10~12、16~19 ページ) 甲第2号証:特許第6059182号公報 甲第3号証:特開平11-300491号公報 甲第4号証:特開平10-128220号公報 甲第5号証:特開平 5-337433号公報 甲第6号証:特開平 9- 76903号公報 (以下、申立人Aが提出した証拠には「A」を付して、「甲1A」などという。) 2 証拠の記載 (1)甲1Aの発行日について ア 甲1Aの1ページの上部には「クリーンレーザージャパン株式会社」との記載があり、また、同ページの中央には写真が記載され、その右下に「バージョン:2009年7月」と記載されていることから、申立人Aは、甲1Aが2009年7月にクリーンレーザージャパン株式会社により発行された旨を説明している(特許異議申立書Aの6ページ下から11~9行)。 イ そこで、甲1Aの発行日を検討するため、クリーンレーザージャパン株式会社のウェブページの会社概要(https://www.cleanlaser.jp/company/index.html#company)を参照したところ、同社の設立は2018年2月15日とされており、さらに、2009年7月に同名の会社が同住所において存在していたかは確認できない。 ウ そうすると、2018年2月15日に設立された会社が、その9年5か月前の2009年7月に甲1Aを発行することは、一般常識からみて、きわめて不自然であるから、甲1Aが2009年7月に発行されたと認めるに足りる根拠がない。 エ なお付言すると、甲1Aの「バージョン:2009年7月」という記載は、ドイツ連邦共和国のクリーンレーザー社が外国語で作成した取扱説明書(以下「外国語の取扱説明書」という。)の発行日であり、甲1Aは、外国語の取扱説明書をクリーンレーザージャパン株式会社が、その設立後である2018年2月15日より後に日本語に翻訳し、発行されたものと善解する余地はある。 しかし、甲1Aに対応する外国語の取扱説明書は証拠として提出されておらず、当該外国語の取扱説明書の実際の発行日を確認することはできないから、甲1Aと同内容の取扱説明書が本件特許に係る出願前に発行されたものと認めることはできない。 また、上記のとおり外国語の取扱説明書は証拠申し出されていないから、甲1Aを外国語の取扱説明書の翻訳文として取り扱うこともできない。 (2)甲1Aの記載及び甲1A発明 ア 甲1Aの記載事項 上記(1)のとおり、甲1Aが本件特許に係る出願前に発行されたものと認めることはできないが、事案に鑑みて、甲1Aの記載についても検討すると、甲1Aには、以下の事項が記載されている(下線は当審で付したものである。)。 (ア)「2.3 光学システム 光学システムは作業者の“クリーニングツール”となります 基本機器で発生し、光学ウェーブガイドを通じて伝送されるパルスレーザ放射は、光学システムがワークピースをクリーニングできるように調整されて放出され、クリーンレーザシステムのオプティクスは、瞬時にレーザビームを水平方向に反射します ・・・ パルスレーザ放射は複数のレンズで構成されるフォーカスオプティクスにより、一つのラインとなります OSH 50オプティクスにおいては、オプティクスのプラスチックケーシングのレーザ出口から対象物までの作業距離は約80mm(光学距離f=100mm)となっています 一番良いクリーニング結果を出すために、この焦点距離は可能な限り正確に保たれる必要があります」(11ページ下から7行~12ページ6行) (イ)「4.1.1 クリーニングプロセスの為のレーザパワーの重要性 クリーニング速度によりレーザパワーを選択することが可能です いつも最大のレーザパワーを選択することを推奨致します 非常にセンシティブな対象物には、パルス周波数を高くするか、焦点距離を長くして対処すべきです」(16ページ1~5行) (ウ)「4.1.2 クリーニングプロセスのためのレーザパルス周波数の重要性 基本ユニットより発生されるレーザビームは、リゾネータ内の電子光学部品に蓄積され、短時間で高いインテンシブを持つパルスとして照射されます レーザビームの束により、パルスレーザは除去対象の外層除去が可能となります」(17ページ1~4行) (エ)「4.2.2 オプティカルシステムの操作 レーザソース(基本システム内)に接続され、レーザを発生させると、オプティカルシステムは除去対象の外層を除去できるようになります クリーニングプロセスで除去されたパーティクルを取り込むため、コントローラ上部にある吸引ユニット接続口に吸引ユニットホースが接続されます クリーニング(除去)された材質は組み込まれた吸引システムに回収されます。」(18ページ1~6行) (オ)「4.2.3 吸引ノズルの交換 OSH-50オプティカルシステムと一緒に、表面形状に対応できるよう、交換可能な吸引ノズルがついています これらのノズルは2つのフックによって固定されます ロックはオプティクス正面側の側面にあります(図6参照)。」(19ページ1~5行) ウ 甲1Aに記載された技術的事項 上記イの記載事項からみて、甲1Aには、以下の技術的事項が記載されているといえる。 (ア)パルスレーザ放射により、ワークピースをクリーニングする(上記ア(ア))クリーニングプロセス(上記ア(イ))に関すること。 (イ)甲1Aのオプティカルシステム(上記ア(エ))は、「光学システム」と表記される場合もあり(上記ア(ア))、複数のレンズで構成されるフォーカスオプティクスを有する(上記ア(ア))こと。 (ウ)クリーンレーザシステムは、パルスレーザを発生する基本機器と、レーザビームを反射するオプティカルシステムで構成される(上記ア(ア))こと。 (エ)オプティカルシステムは、表面形状に対応できるよう交換可能な吸引ノズルがついている(上記ア(オ))こと。 (オ)フォーカスオプティクスは、光学距離f=100mmを有する(上記ア(ア))こと。 (カ)また、クリーニングプロセスに、以下の工程が含まれることは、当業者にとって自明な事項といえる。 ・クリーンレーザシステムがパルスレーザ放射する工程 ・クリーンレーザシステムにより放射されるパルスレーザにより除去対象の外層を除去する(上記ア(エ))工程 ・クリーンレーザシステムにより放射されるパルスレーザにより除去対象の周辺にプラズマを発生させる工程 ・吸引ノズルが除去されたパーティクルを取り込む(上記ア(エ))工程 エ 甲1A発明 上記ウ(ア)~(オ)の技術的事項及び上記ウ(カ)の自明な事項をまとめると、甲1Aには、以下の発明が記載されているということができる。 「パルスレーザ放射により、ワークピースをクリーニングするクリーニングプロセスであって、 クリーンレーザシステムは、複数のレンズで構成されるフォーカスオプティクスを有するオプティカルシステムと、前記オプティカルシステムに表面形状に対応できるよう交換可能についている吸引ノズルと、を有し、 (a)クリーンレーザシステムがパルスレーザ放射する工程と、 (b)クリーンレーザシステムにより放射されるパルスレーザにより除去対象の外層を除去する工程と、 (c)クリーンレーザシステムにより放射されるパルスレーザにより除去対象の周辺にプラズマを発生させる工程と、 (d)吸引ノズルが除去されたパーティクルを取り込む工程と、 を含み、 前記フォーカスオプティクスは、光学距離f=100mmを有する、 クリーニングプロセス。」 (3)甲2Aの記載及び甲2A記載の技術的事項 ア 甲2Aの記載事項 甲2Aには、以下の事項が記載されている(下線は当審で付したものである。)。 「【0001】 本発明は、レーザー照射により構造物の表面の塗膜を除去し、その除去物を吸引回収する技術に関し、特に、構造物として、橋梁、建築物、船舶、配管等の固定されたもの又は大型のものに対して、可搬性のあるレーザーヘッドを用いてレーザー光を照射して塗膜又は付着物を除去するレーザー照射装置、レーザー照射システム及びかかる装置、システムを使用する塗膜又は付着物除去方法に関する。」 「【0050】 図1は、第1の実施形態のレーザー照射装置の概略構成図である。本レーザー照射装置は、レーザー発振器1、ファイバ2、レーザーヘッド3、吸引ホース8、吸引源9を備え、ガス供給源11及びガスホース12を備えてもよい。レーザーヘッド3は、小型軽量の携帯式のものであり、ファイバ2を介してレーザー発振器1に接続され、作業場所において取り回すことが可能である。」 「【0058】 このように、CW型レーザーを採用すると、塗膜除去後の塗装処理が容易となる可能性があるので好ましい。ただし、本実施形態はCW型レーザーに限定されるものではなく、対象とする構造物や塗膜の種類、装置の全体構成などに応じて、CW型レーザー及びパルス型レーザーのいずれを選択してもよい。 【0059】 レーザーヘッド3は、レーザー発振器1によって出力され、ファイバ2を介して伝送されたレーザーを構造物の表面20に照射し、表面20上の塗膜を除去し、その除去物を吸引する装置であり、作業場所において取り回すことが可能に構成される。レーザーヘッド3は、光学系4、除去物60を吸引する吸引手段31、これらを格納する筺体32、及び筺体32の先端部に取り付けられるアタッチメント5を有する。また、レーザーヘッド3は、レーザー照射点から生じる除去物から光学系4を防護するための遮蔽部材(図示省略)を有してもよい。」 「【0065】 表面20にレーザー光30が照射されると、照射点は高温、高圧の状態となってアブレーション(溶融・蒸散)が起こり、このアブレーションの作用によって塗膜が除去される。レーザー光を照射する際、照射点付近から除去物が生じる。本実施形態ではレーザーヘッド3に吸引手段31を設けたので、除去物60は基本的には吸引手段31の吸引口33を介して回収されるが、除去物60の一部は光学系4の方向に引きつけられ、光学系4のレンズに付着する虞がある。・・・ 【0066】 アタッチメント5は、レーザーヘッドの筺体32の先端に脱着可能に取付けられ、表面20に密着して、閉鎖的な空間を形成することが好ましい。・・・ 【0067】 また、アタッチメント5は、伸縮機構を有し、走査光学系4の主点から表面20までの距離d(図2A参照)を適宜設定できることが好ましい。アタッチメント5の伸縮機構は、例えば、一般的なカメラのズーム機構、オートフォーカス機構などを利用してもよい。アタッチメント5は、表面20の法線に対して、レーザーヘッド3の光軸Lの向きを変更できるように、その少なくとも一部に変形可能な継手部(フレキシブルチューブ)が形成されてもよい。 【0068】 本レーザーヘッド3では、レーザーヘッド先端に取付けられたアタッチメント5の伸縮機構によってレーザーヘッド3と表面20との間隔を適宜設定することができる。また、光学系4によって、レーザー光30の焦点距離を適宜設定することもできる。」 「【0071】 本実施形態において、デフォーカス量Δf(言い換えると被処理表面に対する焦点の位置)は、表面間距離dを変更することによって適宜設定可能であり、レーザーヘッドの当接時において表面間距離dは、例えば、伸縮機構を備えたアタッチメント5によって適宜変更できる。また、光学系4によって焦点距離fを適宜変更可能な構成(可変焦点機構)とすれば、アタッチメントを当接したまま、その伸縮機能を用いなくても焦点の位置を変更することができる。さらに、アタッチメントの伸縮機能及び光学系の可変焦点機構の両方を用いてデフォーカス量を適宜変更してもよい。」 「【0173】 [実施形態9] 本実施形態では、交換式光学ユニットを含むレーザーヘッドについて説明する。図19(A)は、第9の実施形態のレーザーヘッドにおける交換式光学ユニットを含む走査光学系(連結時)の概略構成図であり、図19(B)は交換式光学ユニットを取外したとき(分離時)の概略構成図である。本実施形態のレーザーヘッドの走査光学系は、少なくとも集束又は偏向する光学部材を含む交換式光学ユニット190と、少なくとも駆動手段49を含む本体部分191とを連結して構成されて(図19(A)参照)、交換式光学ユニット190は、レーザーヘッドの本体部分191から簡易な操作で脱着可能に構成され(図19(B)参照)、レーザー光の照射条件を簡単に変更することができる。」 「【0178】 このように、本実施形態では、交換式光学ユニットを採用したので、目的(被処理物の種類、状態、大きさなど)に合わせた適宜のユニットを選択し、装着することによって、各種のレーザー光の照射態様を実現することができる。・・・」 図1 [図:0001393042000001.jpg] 図19 [図:0001393042000002.jpg] イ 甲2Aに記載された技術的事項 上記アの記載事項からみて、甲2Aには、以下の技術的事項が記載されているといえる。 (ア)レーザー照射により構造物の表面の塗膜を除去し、その除去物を吸引回収するレーザー照射装置及び付着物除去方法(【0001】)に関すること。 (イ)照射するレーザーにはパルス型レーザーを選択できる(【0058】)こと。 (ウ)レーザー照射装置は、レーザーヘッド3を備えており(【0050】)、レーザーヘッド3は、光学系4、除去物60を吸引する吸引手段31、これらを格納する筺体32、及び筺体32の先端部に取り付けられるアタッチメント5を有する(【0059】)こと。 (エ)アタッチメント5は、レーザーヘッドの筺体32の先端に脱着可能に取付けられ、表面20に密着して、閉鎖的な空間を形成する(【0066】)こと。 (オ)構造物の表面20にレーザー光が照射されると、照射点の塗膜が除去され、照射点付近から除去物が生じるが、除去物60は吸引手段31の吸引口33を介して回収される(【0065】)こと。 (カ)レーザーヘッドを、レーザーヘッドの本体部分191と、本体部分から脱着可能な交換式光学ユニット190で構成し、レーザー光の照射条件を簡単に変更できる(【0173】、図19)こと。 (キ)交換式光学ユニットは、被処理物の種類、状態、大きさなどに合わせて選択される(【0178】)こと。 また、以下の事項は当業者にとって自明な事項といえる。 (ク)レーザーヘッド3の先端には、閉鎖的な空間であるアタッチメント5が取り付けられている(上記(エ))ため、塗膜の除去物(上記(オ))は、アタッチメント5から吸引されるといえること。 (ケ)レーザーヘッドを交換式光学ユニット190で構成する場合(上記(オ))に、その先端にアタッチメント5を取り付けるといえること。 (コ)交換式光学ユニット190は、固有の焦点距離を有するといえること。 (サ)レーザー光の照射点が高温、高圧の状態となってアブレーション(溶融・蒸散)が起こる(【0065】)際には、プラズマが発生しているといえること。 ウ 甲2A記載の技術的事項 上記イ(ア)~(キ)の技術的事項及び上記イ(ク)~(サ)の自明な事項をまとめると、甲2Aには、以下の技術的事項が記載されているということができる。 「パルス型レーザーを照射することにより、構造物の表面20の塗膜を除去する付着物除去方法であって、 レーザー照射装置は、交換式光学ユニット190を有するレーザーヘッドと、前記レーザーヘッドに脱着可能に取り付けられるアタッチメント5と、を有し、 (a)レーザー照射装置がパルス型レーザーを照射する工程と、 (b)レーザー照射装置により照射されるパルス型レーザーにより構造物の表面20の塗膜を除去する工程と、 (c)レーザー照射装置により照射されるパルス型レーザーにより照射点周辺にプラズマを発生させる工程と、 (d)アタッチメント5が除去物60を吸引する工程と、 を含み、 前記交換式光学ユニット190は、固有の焦点距離を有し、被処理物の種類、状態、大きさなどに合わせて選択される、 付着物除去方法。」(以下「甲2A記載の技術的事項」という。) 3 本件発明1の進歩性について (1)本件発明1と甲1A発明の対比 本件発明1と甲1A発明を対比すると、甲1A発明の「パルスレーザ放射」が本件発明1の「パルスレーザーを照射すること」に相当することは明らかであり、以下同様に、「ワークピースをクリーニングするクリーニングプロセス」が「素材の付着物を除去する施工方法」に相当し、「クリーンレーザシステム」が「レーザー機器」に相当し、「複数のレンズ」が「レンズ」に相当し、「複数のレンズで構成されるフォーカスオプティクスを有する」ことが「先端部にレンズが設けられる」ことに相当し、「オプティカルシステム」が「スキャナーヘッド」に相当し、「前記オプティカルシステムに表面形状に対応できるよう交換可能についている吸引ノズル」が「前記スキャナーヘッドに脱着される集塵吸引口」に相当し、「クリーンレーザシステムがパルスレーザ放射する工程」が「レーザー機器がパルスレーザーを照射する工程」に相当し、「クリーンレーザシステムにより放射されるパルスレーザにより除去対象の外層を除去する工程」が「レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより吸収層を剥離する工程」に相当し、「クリーンレーザシステムにより放射されるパルスレーザにより除去対象の周辺にプラズマを発生させる工程」が「レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより照射領域周辺にプラズマを発生させる工程」に相当し、「吸引ノズルが除去されたパーティクルを取り込む工程」が「集塵吸引口が剥離された吸収層を吸引する工程」に相当し、「前記フォーカスオプティクスは、光学距離f=100mmを有」することが「前記レンズは、固有の焦点距離である第一の距離を有」することに相当する。 (2)一致点及び相違点 上記(1)の対比から、本件発明1と甲1A発明は、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。 <一致点> 「パルスレーザーを照射することにより、素材の付着物を除去する施工方法であって、 レーザー機器は、先端部にレンズが設けられるスキャナーヘッドと、前記スキャナーヘッドに脱着される集塵吸引口と、を有し、 (a)レーザー機器がパルスレーザーを照射する工程と、 (b)レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより吸収層を剥離する工程と、 (c)レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより照射領域周辺にプラズマを発生させる工程と、 (d)集塵吸引口が剥離された吸収層を吸引する工程と、 を含み、 前記レンズは、固有の焦点距離である第一の距離を有する、施工方法。」 <相違点> 本件発明1は、レンズが、「照射対象への距離や、照射対象の形状などに応じて選択」されるものであり、また、「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され、前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択」されるのに対して、甲1A発明は、レンズが、照射対象への距離や照射対象の形状などに応じて選択されるものであるか不明であり、そのため、レンズの交換に伴って吸引ノズルが選択されるかどうか不明な点。 (3)相違点の検討 ア 一般に、「選択」は、「多くのものの中から、よいもの、目的にかなうものなどを選ぶこと。」をいうから、上記相違点に係る本件発明1おいて、レンズが「照射対象への距離や、照射対象の形状などに応じて選択」されることは、多くのレンズが用意されている中から、照射対象への距離や、照射対象の形状にかなうようなレンズが選ばれることを意味する。 同様に、本件発明1において、「集塵吸引口が選択」されることは、多くの集塵吸引口が用意されている中から、交換されたレンズに適する集塵吸引口が選ばれること、より具体的には、レンズの下面から集塵吸引口の下面までの距離が、交換されたレンズの固有の焦点距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内でありかつ、レンズから照射対象までの距離よりも短くなるような長さの集塵吸引口が選ばれることを意味する。 イ これを前提に、甲2A記載の技術的事項を参照すると、甲2A記載の技術的事項には、本件発明1のレンズに相当する「交換式光学ユニット190」を選択すること、すなわち、多くの交換式光学ユニットが用意されている中から、被処理物の種類、状態、大きさなどにかなうような交換式光学ユニットを選ぶことについては示されている。 しかし、甲2A記載の技術的事項には、本件発明1の集塵吸引口に相当する「アタッチメント5」を選択すること、すなわち、多くのアタッチメントを用意して、光学ユニットの交換に伴って、光学ユニットの焦点距離に適するアタッチメントを選ぶことについて、記載や示唆はない。 ウ むしろ、甲2Aには、「アタッチメント5は、伸縮機構を有し、走査光学系4の主点から表面20までの距離d(図2A参照)を適宜設定できることが好ましい。アタッチメント5の伸縮機構は、例えば、一般的なカメラのズーム機構・・・を利用してもよい。」(【0067】)、「アタッチメント5の伸縮機構によってレーザーヘッド3と表面20との間隔を適宜設定することができる。また、光学系4によって、レーザー光30の焦点距離を適宜設定することもできる」(【0068】)と記載されている。 甲2Aのこれらの記載は、アタッチメントを、一般的なカメラのズーム機構のように伸縮できるように構成すること、すなわち、同じアタッチメントを交換せずに使えることを示しているから、本件発明1のように、多くのアタッチメントを用意して選択することとは、技術的思想が異なるといえる。 エ また、甲1A発明の吸引ノズルは、交換可能についているものの、そもそも甲1Aにはレンズを交換することについては記載がないのであるから、吸引ノズルは交換されたレンズの焦点距離に適するものを選ぶのではなく、単に表面形状に対応できるようにしたものであるし、甲2Aのほか、申立人Aが提出した甲3A~甲6Aを参照しても、多くの集塵吸引口を用意して、その中から、交換されたレンズの焦点距離に適する集塵吸引口を選ぶことについては、記載も示唆もない。 オ したがって、本件発明1と甲1A発明との相違点は、甲2A~甲6Aに基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。 (4)申立人Aの主張について ア 申立人Aの主張の概要 上記相違点に関して申立人Aが主張する点は、概ね以下のとおりである。 甲2Aには、「また、光学系4によって焦点距離fを適宜変更可能な構成(可変焦点機構)とすれば、アタッチメントを当接したまま、・・・焦点の位置を変更することができる。さらに、アタッチメントの伸縮機能及び光学系の可変焦点機構の両方を用いてデフォーカス量を適宜変更してもよい。」(【0071】)との記載があるから、甲2Aには、本件発明1の「前記レンズの交換に伴い」「集塵吸引口が選択される」ことに相当する事項が記載されている。(異議申立書Aの15ページ1~9行) イ 申立人Aの主張の検討 甲2Aの【0071】(上記2(3))には、デフォーカス量Δfは、アタッチメント5によって表面間距離dを変更することで調整でき、また、光学系4の可変焦点機構によって焦点距離fを変更すれば、アタッチメント5の伸縮機能を用いなくても調整でき、さらに、アタッチメントの伸縮機能及び光学系の可変焦点機構の両方を用いても調整できることが示されている。 しかし、当該【0071】には、多くのアタッチメントを用意して、光学ユニットの交換に伴って、光学ユニットの焦点距離に適するアタッチメントを選ぶことについて示されていないから、申立人Aの主張は採用できない。 (5)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1A発明及び甲2A~甲6Aに基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、進歩性に係る特許異議申立理由により、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 4 本件発明2~5及び7の進歩性について 本件発明2~5及び7は、本件発明1を引用する発明であって、本件発明1の特定事項を全て含むから、本件発明1と同様に、甲1A発明及び甲2A~甲6Aに基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 したがって、進歩性に係る特許異議申立理由により、本件発明2~5及び7に係る特許を取り消すことはできない。 5 本件発明6の進歩性について 本件発明6は、「車両搭載保冷ハウジングシステム」という物の発明であるが、上記3(2)の相違点に係る発明特定事項と同じ発明特定事項、すなわち、レンズが、「照射対象への距離や、照射対象の形状などに応じて選択」されるものであり、また、「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され、前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択」されるという発明特定事項を含んでいる。 そして、本件発明6の上記発明特定事項は、上記3(2)の相違点と同様に、甲1A発明及び甲2A~甲6Aに基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、本件発明6は、甲1A発明及び甲2A~甲6Aに基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 したがって、進歩性に係る特許異議申立理由により、本件発明6に係る特許を取り消すことはできない。 6 小括 以上のとおりであるから、請求項1~7に係る特許は、特許異議申立書Aに記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 第6 申立人Bの特許異議申立理由についての当審の判断 1 申立人Bの特許異議申立理由の概要及び申立人が提出した証拠 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立人B(泉千登勢)の特許異議申立理由の概要、及び申立人Bが提出した証拠は、以下のとおりである。 (1)特許法29条2項(進歩性)の理由 訂正前の本件発明1~7は、甲第1号証に記載の発明及び甲第2号証~甲第6号証に記載の構成に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)特許法36条6項1号(サポート要件)の理由 訂正前の本件発明1及び6の 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離が、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、 前記レンズの交換に伴い、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される、」 という構成は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載も示唆もされていないから、訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許法36条6項1号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3)特許法36条6項2号(明確性要件)の理由 訂正前の本件発明1及び6の 「前記レンズから照射対象までの」距離と、 「前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの」距離が、 いずれも「第二の距離」として規定されており、明確でないから、訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許法36条6項2号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (4)申立人Bが提出した証拠 甲第1号証:特許第5574354号公報 甲第2号証;豊澤一晃、ほか6名「レーザー光による塗膜除去装置」、 第14回新機械振興賞受賞者業績概要、一般財団法人 機械振興協会、平成29年2月21日発行、 33~36ページ 甲第3号証:特許第5663776号公報 甲第4号証の1:映像データを記録したCD-R <URL:https://www.youtube.com/watch? v=g4n3bAiXfC0> 甲第4号証の2:「SURFACE CLEANING」と題する P-Laser社ウェブページを印刷した書面 <URL:https://www.p-laser.com/applications/ surface-cleaning> 甲第5号証:特開平10-309899号公報 甲第6号証:特開2017-124391号公報 甲第7号証:本件特許に係る出願(特願2019-30275号) において、令和元年7月18日に提出された手続補正書 甲第8号証:本件特許に係る出願(特願2019-30275号) において、令和元年7月18日に提出された意見書 甲第9号証:佐々木浩一、ほか1名「講座 レーザーアブレーションの 物理と応用」、Journal of Plasma and Fusion Research、2003年10月発行、79巻10号、 1033~1034ページ (以下、申立人Bが提出した証拠には「B」を付して、「甲1B」などという。) 2 証拠の記載 (1)甲1Bの記載及び甲1B発明 ア 甲1Bの記載事項 甲1Bには、以下の事項が記載されている(下線は当審で付したものである。)。 「【0001】 本発明は、レーザー照射により構造物の表面の塗膜を除去し、その除去物を吸引回収する技術に関し、特に、構造物として、橋梁、建築物、船舶、配管等の固定されたもの又は大型のものに対して、可搬性のあるレーザーヘッドを用いてレーザー光を照射して塗膜又は付着物を除去するレーザー照射装置、レーザー照射システム及びかかる装置、システムを使用する塗膜又は付着物除去方法に関する。」 「【0050】 図1は、第1の実施形態のレーザー照射装置の概略構成図である。本レーザー照射装置は、レーザー発振器1、ファイバ2、レーザーヘッド3、吸引ホース8、吸引源9を備え、ガス供給源11及びガスホース12を備えてもよい。レーザーヘッド3は、小型軽量の携帯式のものであり、ファイバ2を介してレーザー発振器1に接続され、作業場所において取り回すことが可能である。」 「【0058】 このように、CW型レーザーを採用すると、塗膜除去後の塗装処理が容易となる可能性があるので好ましい。ただし、本実施形態はCW型レーザーに限定されるものではなく、対象とする構造物や塗膜の種類、装置の全体構成などに応じて、CW型レーザー及びパルス型レーザーのいずれを選択してもよい。 【0059】 レーザーヘッド3は、レーザー発振器1によって出力され、ファイバ2を介して伝送されたレーザーを構造物の表面20に照射し、表面20上の塗膜を除去し、その除去物を吸引する装置であり、作業場所において取り回すことが可能に構成される。レーザーヘッド3は、光学系4、除去物60を吸引する吸引手段31、これらを格納する筺体32、及び筺体32の先端部に取り付けられるアタッチメント5を有する。また、レーザーヘッド3は、レーザー照射点から生じる除去物から光学系4を防護するための遮蔽部材(図示省略)を有してもよい。」 「【0065】 表面20にレーザー光30が照射されると、照射点は高温、高圧の状態となってアブレーション(溶融・蒸散)が起こり、このアブレーションの作用によって塗膜が除去される。レーザー光を照射する際、照射点付近から除去物が生じる。本実施形態ではレーザーヘッド3に吸引手段31を設けたので、除去物60は基本的には吸引手段31の吸引口33を介して回収されるが、除去物60の一部は光学系4の方向に引きつけられ、光学系4のレンズに付着する虞がある。・・・ 【0066】 アタッチメント5は、レーザーヘッドの筺体32の先端に脱着可能に取付けられ、表面20に密着して、閉鎖的な空間を形成することが好ましい。・・・ 【0067】 また、アタッチメント5は、伸縮機構を有し、走査光学系4の主点から表面20までの距離d(図2A参照)を適宜設定できることが好ましい。アタッチメント5の伸縮機構は、例えば、一般的なカメラのズーム機構、オートフォーカス機構などを利用してもよい。アタッチメント5は、表面20の法線に対して、レーザーヘッド3の光軸Lの向きを変更できるように、その少なくとも一部に変形可能な継手部(フレキシブルチューブ)が形成されてもよい。 【0068】 本レーザーヘッド3では、レーザーヘッド先端に取付けられたアタッチメント5の伸縮機構によってレーザーヘッド3と表面20との間隔を適宜設定することができる。また、光学系4によって、レーザー光30の焦点距離を適宜設定することもできる。」 「【0173】 [実施形態9] 本実施形態では、交換式光学ユニットを含むレーザーヘッドについて説明する。図19(A)は、第9の実施形態のレーザーヘッドにおける交換式光学ユニットを含む走査光学系(連結時)の概略構成図であり、図19(B)は交換式光学ユニットを取外したとき(分離時)の概略構成図である。本実施形態のレーザーヘッドの走査光学系は、少なくとも集束又は偏向する光学部材を含む交換式光学ユニット190と、少なくとも駆動手段49を含む本体部分191とを連結して構成されて(図19(A)参照)、交換式光学ユニット190は、レーザーヘッドの本体部分191から簡易な操作で脱着可能に構成され(図19(B)参照)、レーザー光の照射条件を簡単に変更することができる。」 「【0178】 このように、本実施形態では、交換式光学ユニットを採用したので、目的(被処理物の種類、状態、大きさなど)に合わせた適宜のユニットを選択し、装着することによって、各種のレーザー光の照射態様を実現することができる。・・・」 図1 [図:0001393042000003.jpg] 図19 [図:0001393042000004.jpg] イ 甲1Bに記載された技術的事項 上記アの記載事項からみて、甲1Bには、以下の技術的事項が記載されているといえる。 (ア)レーザー照射により構造物の表面の塗膜を除去し、その除去物を吸引回収するレーザー照射装置及び付着物除去方法(【0001】)に関すること。 (イ)照射するレーザーにはパルス型レーザーを選択できる(【0058】)こと。 (ウ)レーザー照射装置は、レーザーヘッド3を備えており(【0050】)、レーザーヘッド3は、光学系4、除去物60を吸引する吸引手段31、これらを格納する筺体32、及び筺体32の先端部に取り付けられるアタッチメント5を有する(【0059】)こと。 (エ)アタッチメント5は、レーザーヘッドの筺体32の先端に脱着可能に取付けられ、表面20に密着して、閉鎖的な空間を形成する(【0066】)こと。 (オ)構造物の表面20にレーザー光が照射されると、照射点の塗膜が除去され、照射点付近から除去物が生じるが、除去物60は吸引手段31の吸引口33を介して回収される(【0065】)こと。 (カ)レーザーヘッドを、レーザーヘッドの本体部分191と、本体部分から脱着可能な交換式光学ユニット190で構成し、レーザー光の照射条件を簡単に変更できる(【0173】、図19)こと。 (キ)交換式光学ユニットは、被処理物の種類、状態、大きさなどに合わせて選択される(【0178】)こと。 また、以下の事項は当業者にとって自明な事項といえる。 (ク)レーザーヘッド3の先端には、閉鎖的な空間であるアタッチメント5が取り付けられている(上記(エ))ため、塗膜の除去物(上記(オ))は、アタッチメント5から吸引されるといえること。 (ケ)レーザーヘッドを交換式光学ユニット190で構成する場合(上記(オ))に、その先端にアタッチメント5を取り付けるといえること。 (コ)交換式光学ユニット190は、固有の焦点距離を有するといえること。 (サ)レーザー光の照射点が高温、高圧の状態となってアブレーション(溶融・蒸散)が起こる(【0065】)際には、プラズマが発生しているといえること。 ウ 甲1B発明 上記イ(ア)~(キ)の技術的事項及び上記イ(ク)~(サ)の自明な事項をまとめると、甲1Bには、以下の発明が記載されているということができる。 「パルス型レーザーを照射することにより、構造物の表面20の塗膜を除去する付着物除去方法であって、 レーザー照射装置は、交換式光学ユニット190を有するレーザーヘッドと、前記レーザーヘッドに脱着可能に取り付けられるアタッチメント5と、を有し、 (a)レーザー照射装置がパルス型レーザーを照射する工程と、 (b)レーザー照射装置により照射されるパルス型レーザーにより構造物の表面20の塗膜を除去する工程と、 (c)レーザー照射装置により照射されるパルス型レーザーにより照射点周辺にプラズマを発生させる工程と、 (d)アタッチメント5が除去物60を吸引する工程と、 を含み、 前記交換式光学ユニット190は、固有の焦点距離を有し、被処理物の種類、状態、大きさなどに合わせて選択される、 付着物除去方法。」(以下「甲1B発明」という。) (2)甲2Bの記載 甲2Bには、以下の事項が記載されている。 「3.<粉塵巻き込み防止集塵ダクト> レーザー光により除去された塗膜や錆等の粉塵が装置内に巻き込まれるとレンズ等の光学系素子が損傷し、装置の故障に繋がる。これを防止するために、本装置の先端部分(レーザー出光口付近)にレーザー照射と同時に粉塵を吸引するダクトを用意している。 レーザーによる施工では、溶融・蒸散・熱破砕の熱加工プロセスによって塗膜除去を行うため、通常、粉塵の飛散は少ないが、施工する対象物によっては比較的大きな粉塵が発生することも考慮し、オプションとして本装置の先端に集塵ダクトを取り付けることも可能にしている。これにより、汚染防止のためのエアーの排出と装置本体の冷却及び粉塵吸引機構の一体構造を実現した。」(35ページ右欄下から10行~36ページ左欄6行) 3 本件発明1の進歩性について (1)本件発明1と甲1B発明の対比 本件発明1と甲1B発明を対比すると、甲1B発明の「パルス型レーザーを照射すること」が本件発明1の「パルスレーザーを照射すること」に相当することは明らかであり、以下同様に、「構造物の表面20の塗膜を除去する付着物除去方法」が「素材の付着物を除去する施工方法」に相当し、「レーザー照射装置」が「レーザー機器」に相当し、「交換式光学ユニット190」が「レンズ」に相当し、「交換式光学ユニット190を有する」ことが「先端部にレンズが設けられる」ことに相当し、「レーザーヘッド」が「スキャナーヘッド」に相当し、「前記レーザーヘッドに脱着可能に取り付けられるアタッチメント5」が「前記スキャナーヘッドに脱着される集塵吸引口」に相当し、「レーザー照射装置がパルス型レーザーを照射する工程」が「レーザー機器がパルスレーザーを照射する工程」に相当し、「レーザー照射装置により照射されるパルス型レーザーにより構造物の表面20の塗膜を除去する工程」が「レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより吸収層を剥離する工程」に相当し、「レーザー照射装置により照射されるパルス型レーザーにより照射点周辺にプラズマを発生させる工程」が「レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより照射領域周辺にプラズマを発生させる工程」に相当し、「アタッチメント5が除去物60を吸引する工程」が「集塵吸引口が剥離された吸収層を吸引する工程」に相当し、「前記交換式光学ユニット190は、固有の焦点距離を有」することが「前記レンズは、固有の焦点距離である第一の距離を有」することに相当し、「被処理物の種類、状態、大きさなどに合わせて選択」されることが「照射対象への距離や、照射対象の形状などに応じて選択」されることに相当する。 (2)一致点及び相違点 上記(1)の対比から、本件発明1と甲1B発明は、以下の一致点で一致し、相違点で相違する。 <一致点> 「パルスレーザーを照射することにより、素材の付着物を除去する施工方法であって、 レーザー機器は、先端部にレンズが設けられるスキャナーヘッドと、前記スキャナーヘッドに脱着される集塵吸引口と、を有し、 (a)レーザー機器がパルスレーザーを照射する工程と、 (b)レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより吸収層を剥離する工程と、 (c)レーザー機器により照射されるパルスレーザーにより照射領域周辺にプラズマを発生させる工程と、 (d)集塵吸引口が剥離された吸収層を吸引する工程と、 を含み、 前記レンズは、固有の焦点距離である第一の距離を有し、照射対象への距離や、照射対象の形状などに応じて選択される、施工方法。」 <相違点> 本件発明1は、「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され、前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される」のに対して、甲1B発明のアタッチメント5は、交換式光学ユニット190の交換に伴って選択されるものであるか不明な点。 (3)相違点の検討 ア 上記第5の3(3)アで説示するとおり、本件発明1において、「集塵吸引口が選択」されることは、多くの集塵吸引口が用意されている中から、交換されたレンズに適する集塵吸引口が選ばれること、より具体的には、レンズの下面から集塵吸引口の下面までの距離が、交換されたレンズの固有の焦点距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内でありかつ、レンズから照射対象までの距離よりも短くなるような長さの集塵吸引口が選ばれることを意味する。 イ これに対して、甲1Bには、多くのアタッチメントを用意して、光学ユニットの交換に伴って、光学ユニットの焦点距離に適するアタッチメントを選ぶことについて、記載や示唆はない。 ウ むしろ、甲1Bには、「アタッチメント5は、伸縮機構を有し、走査光学系4の主点から表面20までの距離d(図2A参照)を適宜設定できることが好ましい。アタッチメント5の伸縮機構は、例えば、一般的なカメラのズーム機構・・・を利用してもよい。」(【0067】)、「アタッチメント5の伸縮機構によってレーザーヘッド3と表面20との間隔を適宜設定することができる。また、光学系4によって、レーザー光30の焦点距離を適宜設定することもできる」(【0068】)と記載されている。 甲1Bのこれらの記載は、アタッチメントを、一般的なカメラのズーム機構のように伸縮できるように構成することで、光学系の焦点距離に合わせてアタッチメントの長さを伸縮でき、アタッチメントを交換する必要がないこと、すなわち、焦点距離の変更があっても一つのアタッチメントで対応できるようにしたものであるから、本件発明1のように構成を変更する動機がないことは明らかである。 エ また、甲2Bや甲3B~甲9Bを参照しても、多くの集塵吸引口を用意して、その中から、交換されたレンズの焦点距離に適する集塵吸引口を選ぶことについては、記載も示唆もない。 オ したがって、本件発明1と甲1B発明との相違点は、甲1B~甲9Bに基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえない。 (4)申立人Bの主張について ア 申立人Bの主張の概要 上記相違点に関して申立人Bが主張する点は、概ね以下のとおりである。 アタッチメントの下面が光学ユニットの焦点位置から15mm前後の距離となるように設定するにあたり、光学ユニットに合わせ、アタッチメントを選択可能とすることは設計事項にすぎず、当業者が容易に想到し得る事項である。(異議申立書Bの28ページ5~9行) イ 申立人Bの主張の検討 甲1B発明の光学ユニットは、固有の焦点距離を変更するように交換するものであるから、当業者であれば、甲1B発明の光学ユニットを交換する際に、アタッチメントによって、光学ユニットの焦点を合わせることが阻害されないように考慮することは当然といえる。 しかし、光学ユニットの焦点を合わせることを阻害しないようなアタッチメントの具体的構成として、甲1Bには伸縮機構が示されており、当該伸縮機構によりアタッチメントの長さを変えることで、光学ユニットを交換してもアタッチメントを交換せずに焦点を合わせることができるようにしたものであるから、甲1Bの記載に接した当業者が、本件発明1のように、交換されたレンズの焦点距離に適する集塵吸引口を選択する構成を採用する動機があるとはいえない。 また、甲2B~甲9Bにも、多くの集塵吸引口の中から、交換されたレンズの焦点距離に適する集塵吸引口を選ぶことについては示されていないから、上記相違点を設計事項ということはできず、申立人Bの主張は採用できない。 (5)小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1B発明及び甲1B~甲9Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、進歩性に係る特許異議申立理由により、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。 4 本件発明2~7の進歩性について 本件発明2~5及び7は、本件発明1を引用する発明であって、本件発明1の特定事項を全て含むから、本件発明1と同様に、甲1B発明及び甲1B~甲9Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、進歩性に係る特許異議申立理由により、本件発明2~7に係る特許を取り消すことはできない。 5 本件発明6の進歩性について 本件発明6は、「車両搭載保冷ハウジングシステム」という物の発明であるが、上記3(2)の相違点に係る発明特定事項と同じ発明特定事項、すなわち、 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され、前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され、 前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される」 という発明特定事項を含んでいる。 そして、本件発明6の上記発明特定事項は、上記3(2)の相違点と同様に、甲1B~甲9Bに基づいて、当業者が容易に想到できたものとはいえないから、本件発明6は、甲1B発明及び甲1B~甲9Bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって、進歩性に係る特許異議申立理由により、本件発明2~7に係る特許を取り消すことはできない。 6 サポート要件について 本件発明1及び6は、上記第3に記載するとおりのものであるところ、そのうちの、 「前記レンズから照射対象までの第二の距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内になると、焦点が合うように設定され」という発明特定事項、 「前記レンズの下面から前記集塵吸引口の下面までの距離は、前記第一の距離からおよそ15mm前後となる距離の範囲内であり、かつ、前記第二の距離よりも短くなるように設定され」 という発明特定事項、及び、 「前記レンズの交換に伴い、前記第二の距離が、前記第一の距離の15mm前後の範囲内となる、前記集塵吸引口が選択される」 という発明特定事項が、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは、上記第2の2(1)イに説示するとおりである。 したがって、上記発明特定事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項又は当該記載された事項から自明な事項であって、本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、サポート要件に係る特許異議申立理由により、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。 7 明確性要件について 本件発明1及び6は、上記第3に記載するとおりのものであり、「第二の距離」は「前記レンズから照射対象までの」距離であることが明確である。 したがって、本件発明1~7は、明確であり、明確性要件に係る特許異議申立理由により、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。 8 小括 したがって、請求項1~7に係る特許は、特許異議申立書Bに記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 第7 むすび 以上のとおり、請求項1~7に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書A及び特許異議申立書Bに記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700273

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