特許異議申立
2020-700255
ソイルセメント柱列壁よりなる杭の評価方法
- 審判番号
- 2020-700255
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-256565
- 登録番号
- 特許第6589634号(P6589634)
- 請求日
- 2020年04月14日
- 審決日
- 2021年03月26日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社大林組
- 【権利者代理人】一色国際特許業務法人
- 【異議申立人】丸山 博隆
- 審判長/審判官
- 審判長 住田 秀弘
- 審判官 有家 秀郎
- 審判官 長井 真一
- 分類
- P1651.841-YAA(E02D) / P1651.851-YAA(E02D) / P1651.536-YAA(E02D) / P1651.113-YAA(E02D) / P1651.121-YAA(E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6589634号発明「ソイルセメント柱列壁よりなる杭の評価方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6589634号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
特許第6589634号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6589634号は、平成27年12月28日に出願され、令和1年9月27日にその特許権の設定登録がされ、令和1年10月16日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許について、令和2年4月14日に、特許異議申立人 丸山 博隆(以下、「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1に係る発明の特許に対して、特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和2年 6月15日付け:取消理由通知
令和2年 8月11日: 特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
(以下、「1次訂正請求」という。)
令和2年 9月18日: 申立人による意見書の提出
令和2年10月15日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和2年12月16日: 特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
(以下、「本件訂正請求」という。)
なお、申立人に対して、本件訂正請求があった旨を通知(令和3年1月5日発送)したところ、指定期間内に申立人による意見書の提出はなかった。
1次訂正請求は、本件訂正請求がされたことから、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。以下、同様。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「地盤から定まる極限支持力と杭材料の許容応力度から定まる極限支持力の両者を算定したうえで、いずれか小さい方の値を前記単杭の極限支持力として選定し、該単杭の許容鉛直支持力を算定する」とあるのを、「地盤から定まる極限支持力と杭材料の許容応力度から定まる極限支持力の両者を算定したうえで、いずれか小さい方の値を前記単杭の極限支持力として選定し、該単杭の許容鉛直支持力を算定するものであり、前記杭材料の許容応力度から定まる極限支持力は、芯材及びソイルセメントの極限付着力と芯材及びソイルセメントから定まる極限先端支持力との和により算定され、前記芯材及びソイルセメントから定まる極限先端支持力は、前記芯材にスタッドがある場合及びない場合各々で設定したソイルセメント設計強度に応じた定数を採用して算定し、前記地盤から定まる極限支持力は、地盤の極限周面摩擦力と地盤の極限先端支持力との和により算定され、前記地盤の極限先端支持力は、前記芯材のせいとフランジ幅から定まる前記芯材の閉塞面積を採用して算定する」に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0008】に、「地盤から定まる極限支持力と杭材料の許容応力度から定まる極限支持力の両者を算定したうえで、いずれか小さい方の値を前記単杭の極限支持力として選定し、該単杭の許容鉛直支持力を算定することを特徴とする。」と記載されているのを、「地盤から定まる極限支持力と杭材料の許容応力度から定まる極限支持力の両者を算定したうえで、いずれか小さい方の値を前記単杭の極限支持力として選定し、該単杭の許容鉛直支持力を算定するものであり、前記杭材料の許容応力度から定まる極限支持力は、芯材及びソイルセメントの極限付着力と芯材及びソイルセメントから定まる極限先端支持力との和により算定され、前記芯材及びソイルセメントから定まる極限先端支持力は、前記芯材にスタッドがある場合及びない場合各々で設定したソイルセメント設計強度に応じた定数を採用して算定し、前記地盤から定まる極限支持力は、地盤の極限周面摩擦力と地盤の極限先端支持力との和により算定され、前記地盤の極限先端支持力は、前記芯材のせいとフランジ幅から定まる前記芯材の閉塞面積を採用して算定することを特徴とする。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、及び一群の請求項について
(1)訂正事項1について
ア 訂正目的、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1における、「地盤から定まる極限支持力」及び「杭材料の許容応力度から定まる極限支持力」について、それぞれの算定方法を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定にも適合するものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1のうち、「杭材料の許容応力度から定まる極限支持力」に関して、願書に添付した明細書の段落【0019】には、「杭材料の許容応力度から定まる極限支持力Ruc1は、極限付着力Rfucと極限先端支持力Rpucの和で表すことができる。」と記載されている。そして、段落【0020】-【0023】には、「極限付着力Rfuc」が、「芯材2とソイルセメント柱3との間の極限付着力」として算定されることが記載されている。また、段落【0024】―【0026】には、「極限先端支持力Rpuc」が、「芯材およびソイルセメントから定まる極限先端支持力算定時の定数」である「ソイルセメント設計強度qucに応じた定数νpおよびνpst」のうち、「スタッドがない場合」には「νp」を用いて、「スタッドがある場合」には「νpst」を用いて、算定されることが記載されている。
訂正事項1のうち、「地盤から定まる極限支持力」に関して、願書に添付した明細書の段落【0029】には、「地盤から定まる極限支持力Ruc2は、地盤から定まる極限先端支持力Rpusと地盤から定まる極限周面摩擦力Rfusの和で表すことができる。」と記載されている。そして、段落【0030】には、「極限先端支持力Rpus」が、「芯材のせい」と「フランジ幅」とから求まる「芯材の閉塞面積」を用いて算定されることが記載されている。
そのため、訂正事項1において、「杭材料の許容応力度から定まる極限支持力」及び「地盤から定まる極限支持力」の「算定」について限定した構成は、願書に添付した明細書に記載されていたと認めることができる。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正目的、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、明細書の段落【0008】の記載を、訂正事項1により訂正される請求項1の記載に整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認めることができ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、同法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定にも適合するものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項2は、明細書の段落【0008】の記載を、訂正事項1により訂正される請求項1の記載と整合させるものであるところ、訂正事項1により訂正される請求項1の内容は、上記(1)イに指摘したとおり、願書に添付した明細書に記載されていたものである。
そのため、訂正事項2において、明細書の段落【0008】の記載を訂正した内容も、願書に添付した明細書に記載されていたと認めることができる。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)訂正の対象とする請求項、及び独立特許要件について
訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1について、特許請求の範囲を減縮するとともに、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載に整合させるものであるから、本件訂正は、請求項1に対して請求されたものである。
そして、本件においては、訂正前の請求項1について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1により特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正後の請求項1に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正に対する申立人の主張について
申立人は、本件訂正請求があった旨の通知に対して、指定期間内に意見書を提出しなかった。
また、本件訂正請求による訂正の適否について、上記2と異なる判断をすべき事情を見いだすことはできない。
4 まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5ただし書第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1について訂正を認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
仮設山留め壁として機能するソイルセメント柱列壁を、前記仮設山留め壁を利用して地下部分を構築した構造物の本設杭として利用するための、ソイルセメント柱列壁よりなる杭の評価方法であって、
前記ソイルセメント柱列壁において、芯材が埋設された複数のソイルセメント柱各々を単杭とみなして、前記構造物の底盤下面高さを杭頭、前記芯材の先端部を杭先端部に設定し、
地盤から定まる極限支持力と杭材料の許容応力度から定まる極限支持力の両者を算定したうえで、いずれか小さい方の値を前記単杭の極限支持力として選定し、該単杭の許容鉛直支持力を算定するものであり、
前記杭材料の許容応力度から定まる極限支持力は、芯材及びソイルセメントの極限付着力と芯材及びソイルセメントから定まる極限先端支持力との和により算定され、
前記芯材及びソイルセメントから定まる極限先端支持力は、前記芯材にスタッドがある場合及びない場合各々で設定したソイルセメント設計強度に応じた定数を採用して算定し、
前記地盤から定まる極限支持力は、地盤の極限周面摩擦力と地盤の極限先端支持力との和により算定され、
前記地盤の極限先端支持力は、前記芯材のせいとフランジ幅から定まる前記芯材の閉塞面積を採用して算定することを特徴とするソイルセメント柱列壁よりなる杭の評価方法。」
第4 証拠一覧、異議申立理由の概要、取消理由の概要、及び証拠の記載
1 証拠一覧
(1)申立人により、申立書とともに提出された証拠は、以下のとおりである。
・甲第1号証:
「TSP合成地下壁・壁杭工法」、田屋 裕司、竹中技術研究報告 No.69、株式会社 竹中工務店、2013年12月発行
・甲第2号証:
「多くの実績を持つ「TSP合成地下壁・壁杭工法」が一般評定を取得~仮設の山留め壁を有効利用することで基礎工事の合理化や環境負荷の低減を実現~」、株式会社 竹中工務店 ホームページ、ニュースリリース2008、インターネットURL https://www.takenaka.eo.jp/news/pr0807 /m0807 _01.html(2020/03/19日出力)
・甲第3号証:
特開第3625750号公報(平成17年3月2日発行)
(2)その他の証拠(当審が職権により探知)は、以下のとおりである。
・文献1:
「ソイルセメント壁の杭利用に関する研究(その4 ソイルセメントと芯材の付着力・スタッド耐力)」、田屋 裕司他、日本建築学会大会学術講演梗概集B-1 構造1、2011年、第471-472頁(2011年7月20日発行)
2 異議申立理由、及び取消理由の概要
(1)申立人による異議申立理由の概要
ア 新規性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 進歩性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 実施可能要件
本件明細書の記載は、本件特許の請求項1に係る発明について、当業者が容易に実施をすることができる程度の記載をしておらず、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)令和2年10月15日付け取消理由(決定の予告)の概要
当審が令和2年10月15日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
・進歩性
1次訂正請求後の本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明、及び文献1に示される技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠に記載された事項
事案に鑑み、(1)甲第1号証、(2)文献1、(3)甲第2号証、(4)甲第3号証、の順に、各証拠に記載された事項を確認する。
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。
(ア)第13頁 表題
「2.6 TSP合成地下壁・壁杭工法
TAKENAKA Soil-cement Pile Method」
(イ)第13頁 第4行-第18行
「近年,資源の有効利用による環境負荷低減およびコスト削減の観点から,仮設山留め壁であるソイルセメント柱列壁の鋼材(H形鋼)を合成構造の地下外壁として活用する工法1)、2)が普及してきている。また, ソイルセメント柱列壁工法は,逆打ち工事における仮設の支持杭としても利用されているが,ソイルセメント品質の安定性に対する問題等から,建物の本設杭へ活用するための工法開発・適用はあまり進んでいないのが現状のようである3)。RC連続壁より採用事例の多いソイルセメント柱列壁を地下外壁だけでなく杭としても活用できれば,建物外周部の杭が不要となることで, 基礎工事のさらなる環境負荷低減と経済性向上に寄与できる。
ここでは,特に狭小地において地下外壁を薄くできることで地下階の有効面積拡大が図れるとともに,地下外壁外側に配置されているため巨大地震による押込み・引抜き力に対して合理的な抵抗要素となるTSP合成地下壁・壁杭工法の概要について紹介する。」
(ウ)第13頁 第19行-第32行
「(1)工法概要
TSP合成地下壁・壁杭工法は,従来の多軸オーガー機を使用し,施工法や品質管理の仕様をより厳密に規定することでソイルセメント品質の安定化を図り,本設杭としての支持性能と山留め壁としての連続性(遮水性)を確保した工法である。工法の概念図をFig.1に示す。仮設のソイルセメント柱列壁との主な相違点は下記の通りである。
・ソイルセメント強度はFc=1.0N/mm2程度(仮設では一般に0.3~0.5N/mm2)
・施工仕様(撹拌翼形状・段数,撹拌回数等)を規定し,安定したソイルセメント品質を確保
・鉛直支持力確保のため,鋼材の杭利用部分にはスタッドを打設(ウェブ面)
・建物荷重は合成壁のスタッドまたは鋼材頭部の臥梁により伝達」
(エ)第13頁 第33行-第45行
「(2)支持力の考え方
設計における鉛直支持力の算定は,TSP壁杭が地盤改良を併用したH鋼杭と考え,Fig.2に示す3つの想定破壊モードの最小値としている。一般に地盤が軟弱でソイルセメント強度が高い場合,○1地盤破壊で支持力が決まり,地盤が硬質でソイルセメント強度が低い場合,○3芯材表面すべり破壊が最小値となる。○2芯材閉鎖断面破壊は,ソイルコラム径に対してサイズが小さい広幅系の鋼材で最小値となることもあるが,一般に山留めで用いられる鋼材では,鉛直支持力は○1または○3で決定されることが多い。なお,必要な支持力係数は,○1地盤破壊および○3芯材表面すべり破壊の原位置載荷試験データを蓄積して,地盤に対する周面摩擦力,先端支持力,鋼材とソイルセメントの付着力(Fig.3),スタッド耐力を設定している4),5)。」(当審注;「○1」等は、○の中に1を示す。)
(オ)第1図
第1図には、次の図示がある。
上記第1図からは、TSP合成地下壁・壁杭のうち、建物の地下部分の下面高さから上の部分を、合成地下壁部分であるTSP合成地下壁とし、建物の地下部分の下面高さから下の部分を、壁杭部分であるTSP壁杭とすることが、看て取れる。
(カ)第2図
第2図には、次の図示がある。
上記第2図より、3つの想定破壊モードの支持力は、
○1地盤破壊; ソイルコラム周面と先端地盤が極限状態となる支持力
○2芯材閉鎖断面破壊; ソイルコラム内の芯材閉鎖断面のせん断耐力が極限状態となる支持力
○3芯材表面すべり破壊; ソイルコラム内の芯材表面の付着とスタッドの支圧力が極限状態となる支持力
であることが、示されている。
(キ)第3図
第3図には、次の図示がある。
(ク)参考文献
第14頁の「参考文献」には、上記(エ)の末尾で言及する参考文献名として、次の記載がある。
「5)田屋 裕司ほか:ソイルセメント壁の杭利用に関する研究(その4)、日本建築学会大会学術講演梗概集(構造I)、pp471-472、2011.8.」
イ 記載された発明
上記ア(エ)において、TSP壁杭の設計における鉛直支持力の算定につき、3つの想定破壊モードの最小値とすることが記載されていることから、甲第1号証には、TSP壁杭の設計における鉛直支持力を算定する方法が記載されていると認められる。
このことを勘案すると、上記アより、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
・甲1発明
「仮設山留め壁であるソイルセメント柱列壁を、合成構造の地下外壁として活用するとともに、建物の本設杭としても活用できれば、基礎工事のさらなる環境負荷低減と経済性向上に寄与できることから、ソイルセメント品質の安定化を図り,本設杭としての支持性能と山留め壁としての連続性(遮水性)を確保した、TSP(Takenaka Soil-cement Pile)合成地下壁・壁杭工法において、
TSP合成地下壁・壁杭のうち、建物の地下部分の下面高さから上の部分を、合成地下壁部分であるTSP合成地下壁とし、建物の地下部分の下面高さから下の部分を、壁杭部分であるTSP壁杭とし、TSP壁杭を、地盤改良を併用したH鋼杭と考えて、次の3つの想定破壊モードの最小値として、設計における鉛直支持力を算定する方法。
○1地盤破壊; ソイルコラム周面と先端地盤が極限状態となる支持力
○2芯材閉鎖断面破壊; ソイルコラム内の芯材閉鎖断面のせん断耐力が極限状態となる支持力
○3芯材表面すべり破壊; ソイルコラム内の芯材表面の付着とスタッドの支圧力が極限状態となる支持力
ただし、○2芯材閉鎖断面破壊は、ソイルコラム径に対してサイズが小さい広幅系の鋼材で最小値となることもあるが、一般に山留めで用いられる鋼材では、鉛直支持力は○1地盤破壊または○3芯材表面すべり破壊で決定されることが多い。」
(2)文献1
ア 文献1の記載
文献1は、上記(1)ア(ク)において甲第1号証が参照する文献であり、同文献1には、次の事項が記載されている。
(ア)第471頁左欄第1行-第10行
「1.はじめに
著者らは、ソイルセメント壁を本設の支持杭として活用するため、既報1)において原位置載荷試験を行いその支持力特性について報告した。ソイルセメント壁の鉛直支持力については、地盤が硬質でソイルセメントの強度が低い場合、地盤の降伏より先にソイルセメント中で芯材表面に滑りが発生して破壊に至ることが考えられる(図-1)。本研究では、原位置載荷試験による壁体中のソイルセメントとその芯材の付着力、および滑り防止のため芯材に打設したスタッド耐力について検討した。」
(イ)第472頁左欄第15行-第26行
「1)ソイルセメントと芯材の付着力
載荷試験結果の残留付着力を付着面積で除した付着強度とその計測深度との関係を土質別に整理して図-4に示す。また、付着強度と計測深度のソイルセメントコアの平均圧縮強度との関係を図-5に示す。但し、縦軸は付着強度をソイルセメント強度で除した値(付着強度率と表記)で整理した。図-4より、計測された付着強度は深度に関係なくばらついており、拘束圧や土質による付着強度への影響は小さい。一方、図-5より付着強度率はソイルセメント強度が大きくなると減少する傾向を示した。quの大きさに応じて強度の3%~6%程度の付着力は期待できるものと考えられる。」
(ウ)第472頁左欄第27行-第33行
「2)ソイルセメントに対するスタッド耐力
試験場所毎のスタッド有り・無しの耐力差をスタッド本数で除して算定した1本当りのスタッド耐力とソイルセメントの平均圧縮強度との関係を図-6に示す。スタッド寸法はすべてφ19、長さ90~100mmである。図より、1本当りのスタッド耐力は、ソイルセメント強度に比例して大きくなる傾向を示した。」
(エ)図-1
図-1には、次の図示がある。
(オ)図-5
図-5には、次の図示がある。
(カ)図-6
図-6には、次の図示がある。
イ 文献1に示される技術的事項
上記アより、文献1には、
「ソイルセメント壁を本設の支持杭として活用するための支持力特性について、
ソイルセメント中で芯材表面に滑りが発生して破壊に至る際の鉛直支持力である、壁体中のソイルセメントとその芯材の付着力、および滑り防止のために芯材に打設したスタッド耐力に関し、
ソイルセメントと芯材の付着力は、計測深度のソイルセメントコアの平均圧縮強度quの大きさに応じて強度の3%~6%程度の付着力は期待できるものと考えられ、
スタッド有り・無しの耐力差をスタッド本数で除して算定した1本当りのスタッド耐力は、ソイルセメント強度に比例して大きくなる傾向を示す。」
という技術的事項が示されている。
(3)甲第2号証
甲第2号証には、冒頭部に次の事項が記載されている。
「(株)竹中工務店(本社:大阪市)は、地下のある建物において、仮設の山留め壁を地下の外壁及び建物外周部の杭として有効利用する「TSP(TAKENAKA SOIL CEMENT PILE)合成地下壁・壁杭工法」について、(財)ベターリビングによる一般評定をこのほど取得しました。」
(4)甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
「【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。図1は本発明の建物の地下部の構造の説明図であり、図2は本発明に係る連結部を示す説明図であり、図3は本発明の建物の地下部の構造を平面視した説明図である。
【0012】
これらの図において、8は地層9を掘削して例えば直方体形状に形成した地下空間であり、この地下空間8を囲繞するように掘削形成溝10に沿って地中壁体11が形成されている。
【0013】
地中壁体11は、従来の土留壁としての機能とともに支持杭或いは摩擦杭としての機能を有するものであって、前記SMWと同様のものであり、土圧、水圧を受け止める応力材としてのH鋼12(図1、図3参照)を掘削形成溝10に沿って並設するとともに、止水材としてのセメント系固化材13(掘削土とセメントを混ぜたもの)を打設して固めたものであり、地中を掘削中は掘削形成壁10側から受ける土圧・水圧を受け止める土留壁体としての働きを成す。この地中壁体11の下端部14は、図示の例では支持層15内に埋設されている。なお、H鋼下端部にはセメント系固化材13より強度の高いセメント系根固め材が打設されている。」
第5 当審の判断
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められたので、以下では本件訂正発明について判断する。
1 先の取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)対比
本件訂正発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明において、「TSP(Takenaka Soil-cement Pile)合成地下壁・壁杭工法」は、「仮設山留め壁であるソイルセメント柱列壁を、合成構造の地下外壁として活用するとともに、建物の本設杭としても活用できれば、基礎工事のさらなる環境負荷低減と経済性向上に寄与できることから、ソイルセメント品質の安定化を図り,本設杭としての支持性能と山留め壁としての連続性(遮水性)を確保した」ものであるから、甲1発明における「TSP合成地下壁・壁杭」は、「ソイルセメント柱列壁」の一形態であり、本件訂正発明における「ソイルセメント柱列壁」に相当する。
甲1発明において、「TSP合成地下壁・壁杭」は、「仮設山留め壁であるソイルセメント柱列壁」について、「ソイルセメント品質の安定化を図り,本設杭としての支持性能と山留め壁としての連続性(遮水性)を確保」したものであるところ、品質の安定化を図ることによって「ソイルセメント柱列壁」が有する「仮設山留め壁」としての機能が失われる事情はないから、甲1発明における「TSP合成地下壁・壁杭」が「ソイルセメント柱列壁」として「仮設山留め壁である」機能も有する点は、本件訂正発明における「ソイルセメント柱列壁」が「仮設山留め壁として機能する」構成に相当する。
甲1発明において、「TSP(Takenaka Soil-cement Pile)合成地下壁・壁杭工法」により、「仮設山留め壁であるソイルセメント柱列壁を、合成構造の地下外壁として活用するとともに、建物の本設杭としても活用」した「建物」は、本件訂正発明において、「前記仮設山留め壁を利用して地下部分を構築した構造物」に相当する。
甲1発明において、「TSP合成地下壁・壁杭」を「建物の本設杭としても活用」することは、本件訂正発明において、「ソイルセメント柱列壁」を「構造物の本設杭として利用」することに相当する。また、甲1発明において、「TSP合成地下壁・壁杭」のうち、「建物の地下部分の下面高さから下の部分を、壁杭部分であるTSP壁杭」とした「TSP壁杭」は、本件訂正発明における「ソイルセメント柱列壁よりなる杭」に相当する。そして、甲1発明において、「TSP壁杭」の「設計における鉛直支持力を算定する方法」は、「TSP壁杭」を「建物の本設杭としても活用」する意図があることを勘案すると、本件訂正発明において、「構造物の本設杭として利用するため」の「杭の評価方法」に相当する。
甲1発明において、「TSP合成地下壁・壁杭」のうちの「TSP壁杭」を、「地盤改良を併用したH鋼杭と考え」ることは、本件訂正発明において、「前記ソイルセメント柱列壁において、芯材が埋設された複数のソイルセメント柱各々を単杭とみな」すことに相当する。また、甲1発明において、「TSP合成地下壁・壁杭」のうち、「建物の地下部分の下面高さから下の部分を、壁杭部分であるTSP壁杭」としていることは、本件訂正発明において、「前記構造物の底盤下面高さを杭頭」に設定することに相当する。さらに、甲1発明においては、「TSP壁杭」を、「地盤改良を併用したH鋼杭と考え」ているとともに、杭としての支持力を算定するうえでも「芯材閉鎖断面のせん断耐力が極限状態となる支持力」や「芯材表面の付着とスタッドの支圧力が極限状態となる支持力」を考慮するから、「杭」としての先端は「芯材」である「H鋼」の先端に設定すると解され、このことは本件訂正発明において、「前記芯材の先端部を杭先端部に設定」することに相当する。
甲1発明において、「TSP壁杭」を「地盤改良を併用したH鋼杭と考え」たうえで、「TSP壁杭」の「設計における鉛直支持力を算定」することは、本件訂正発明において、「単杭の許容鉛直支持力を算出」することに相当する。
甲1発明において、「TSP壁杭」の「設計における鉛直支持力を算定」する際の、「○1地盤破壊; ソイルコラム周面と先端地盤が極限状態となる支持力」は、本件訂正発明における、「地盤から定まる極限支持力」に相当する。また、甲1発明において、「TSP壁杭」の「設計における鉛直支持力を算定」する際の、「○2芯材閉鎖断面破壊; ソイルコラム内の芯材閉鎖断面のせん断耐力が極限状態となる支持力」、及び「○3芯材表面すべり破壊; ソイルコラム内の芯材表面の付着とスタッドの支圧力が極限状態となる支持力」は、いずれも杭の材料である芯材及びソイルコラムが、すべりやせん断といった応力にどこまで耐えられるかによって定まる支持力であるから、本件訂正発明における「杭材料の許容応力度から定まる極限支持力」に相当する。
甲1発明において、「TSP壁杭」の「設計における鉛直支持力を算定」するうえで、「○1地盤破壊; ソイルコラム周面と先端地盤が極限状態となる支持力」、「○2芯材閉鎖断面破壊; ソイルコラム内の芯材閉鎖断面のせん断耐力が極限状態となる支持力」、「○3芯材表面すべり破壊; ソイルコラム内の芯材表面の付着とスタッドの支圧力が極限状態となる支持力」の「3つの想定破壊モードの最小値」とする構成と、本件訂正発明において、「単杭の許容鉛直支持力を算定」するうえで、「地盤から定まる極限支持力と杭材料の許容応力度から定まる極限支持力の両者を算定したうえで、いずれか小さい方の値を前記単杭の極限支持力として選定」する構成とは、「地盤から定まる極限支持力と杭材料の許容応力度から定まる極限支持力を算定したうえで、小さい値を前記単杭の極限支持力とする」という点で、共通する。
以上より、甲1発明と本件訂正発明とは、
「仮設山留め壁として機能するソイルセメント柱列壁を、前記仮設山留め壁を利用して地下部分を構築した構造物の本設杭として利用するための、ソイルセメント柱列壁よりなる杭の評価方法であって、
前記ソイルセメント柱列壁において、芯材が埋設された複数のソイルセメント柱各々を単杭とみなして、前記構造物の底盤下面高さを杭頭、前記芯材の先端部を杭先端部に設定し、
地盤から定まる極限支持力と杭材料の許容応力度から定まる極限支持力を算定したうえで、小さい値を前記単杭の極限支持力として選定し、該単杭の許容鉛直支持力を算定する、ソイルセメント柱列壁よりなる杭の評価方法。」
という点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
単杭の極限支持力の選定に関し、
本件訂正発明においては、「地盤から定まる極限支持力と杭材料の許容応力度から定まる極限支持力の両者を算定したうえで、いずれか小さい方の値」を選定すると特定されているのに対し、
甲1発明においては、「○1地盤破壊; ソイルコラム周面と先端地盤が極限状態となる支持力」、「○2芯材閉鎖断面破壊; ソイルコラム内の芯材閉鎖断面のせん断耐力が極限状態となる支持力」、及び、「○3芯材表面すべり破壊; ソイルコラム内の芯材表面の付着とスタッドの支圧力が極限状態となる支持力」という、「3つの想定破壊モードの最小値」としており、選定対象を「○1」又は「○2」、あるいは「○1」又は「○3」の「両者」としたうえで、「いずれか小さい方」の値を選定するとは、特定されていない点。
<相違点2>
杭材料の許容応力度から定まる極限支持力、及び、地盤から定まる極限支持力に関し、
本件訂正発明においては、「前記杭材料の許容応力度から定まる極限支持力は、芯材及びソイルセメントの極限付着力と芯材及びソイルセメントから定まる極限先端支持力との和により算定され、前記芯材及びソイルセメントから定まる極限先端支持力は、前記芯材にスタッドがある場合及びない場合各々で設定したソイルセメント設計強度に応じた定数を採用して算定し、前記地盤から定まる極限支持力は、地盤の極限周面摩擦力と地盤の極限先端支持力との和により算定され、前記地盤の極限先端支持力は、前記芯材のせいとフランジ幅から定まる前記芯材の閉塞面積を採用して算定する」と特定されているのに対し、
甲1発明においては、「○1地盤破壊」の支持力と「○2芯材閉鎖断面破壊」の支持力、若しくは、「○1地盤破壊」の支持力と「○3芯材表面すべり破壊」の支持力について、本件訂正発明と同様の手法で算定することが特定されていない点。
(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず上記相違点2について判断する。
本件訂正発明は、上記相違点2に係る構成を採用したことにより、「杭材料の許容応力度から定まる極限支持力」及び「地盤から定まる極限支持力」のいずれについても、「極限先端支持力」と「極限付着力」若しくは「極限周面摩擦力」の両者を考慮して算定し、いずれか小さい方の値を単杭の極限支持力として選定する2種類の極限支持力について、考慮する条件のバランスをとりつつ、それぞれ算定の精度を高めるという効果を奏することが、当業者であれば理解できる。
これに対して、先の取消理由通知(決定の予告)で引用した文献1には、上記第4の3(2)に示した技術的事項が記載されているが、杭材料の許容応力度から定まる極限支持力と地盤から定まる極限支持力とを、上記相違点2に係る本件訂正発明の構成により算定することは、記載も示唆もされていない。
甲第2号証、及び甲第3号証には、それぞれ上記第4の3(3)及び(4)に摘記した事項が記載されているが、支持力の算定について記載あるいは示唆するものではない。
したがって、甲1発明において、上記相違点2に係る本件訂正発明の構成に至ることは、文献1に記載される事項、及び甲第2号証並びに甲第3号証に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に想到できたものではない。
そして、相違点2が想到容易でないから、その余の相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明は、甲1発明、及び文献1に記載された事項並びに甲第2号証ないし甲第3号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件訂正発明に係る特許は、先の取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によって取り消されるべきものではない。
2 先の取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった異議申立理由について
(1)新規性について
申立人は申立書において、登録査定時の本件特許の請求項1に係る発明は、甲1発明と同一である旨を申立てている(申立書第11頁第10行-第17頁第17行参照)。
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められたので、本件訂正発明が甲1発明と同一であるか否かを判断する。
本件訂正発明と甲1発明とは、上記1(2)で示した相違点1及び相違点2で相違する。
そして、本件訂正発明は、相違点2に係る構成を有することで、「杭材料の許容応力度から定まる極限支持力」及び「地盤から定まる極限支持力」のいずれについても、「極限先端支持力」と「極限付着力」若しくは「極限周面摩擦力」の両者を考慮して算定し、いずれか小さい方の値を単杭の極限支持力として選定する2種類の極限支持力について、考慮する条件のバランスをとりつつ、それぞれ算定の精度を高めるという効果を奏することが、当業者であれば理解できるから、相違点2は実質的な相違点である。
したがって、その余の相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明は甲1発明と同一ではない。
(2)実施可能要件について
申立人は申立書において、本件明細書の発明の詳細な説明は、次の点で、登録査定時の本件発明について、当業者がその実施をすることができる程度の説明を記載したものではない旨を申立てている(申立書第22頁下から4行-第26頁下から5行)。
ア 本発明は、建物の設計段階からソイルセメント柱列壁を本設杭として期待するものに他ならないから、ソイルセメント柱列壁は分担することとなる構造物の鉛直荷重を負担できるように設計されることとなり、土留壁として機能するソイルセメント柱列壁を本設杭として利用することには結びつかず、解決すべき課題と効果、及び課題解決手段に整合性がない。
イ 本件明細書の記載は、極限支持力の算出について、一般式を記載するのみで、具体的な算出例を示していないから、どの程度の支持力が算出されてソイルセメント柱列壁が本設杭として機能するのか、確認することができない。
ウ 本件明細書の記載は、具体的なデータを開示しておらず、明細書に記載される一般式にも具体性がないから、実施例が検証できず発明の成立性も確認できない。
申立人の上記主張について、判断する。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に、明確かつ十分な説明を記載しなければならない旨を規定するところ、実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の説明が記載されていることを要する。
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められたので、本件訂正請求により訂正された明細書について、過度の試行錯誤を要することなく、本件訂正発明を実施することができる程度の説明が記載されているか否かを判断する。
本件訂正発明は、「ソイルセメント柱列壁よりなる杭の評価方法」の発明であり、「芯材が埋設された複数のソイルセメント柱各々を単杭とみなして・・・・該単杭の許容鉛直支持力を算定するもの」であるから、「芯材が埋設された複数のソイルセメント柱各々」について、「単杭」とみなした場合の「許容鉛直支持力」を、過度の試行錯誤を要することなく算定することができれば、本件訂正発明は実施できるものである。なお、本件訂正発明は、、ソイルセメント柱列壁の杭としての強度を高める発明ではないから、算定した杭としての許容鉛直支持力が具体的にどの程度の値となるかは、本件訂正発明を実施することができるか否かに影響するものではない。
そして、訂正明細書には、段落【0019】-【0035】に、単杭の許容鉛直支持力Racを算定する手順が必要十分な程度に記載されている。また、訂正明細書に記載される一般式はいずれも意味内容を理解することができるものであるから、具体的な数値を用いた計算例が示されていなくとも、当業者がソイルセメント柱列壁のソイルセメント柱について、単杭としての許容鉛直支持力を算定するうえで、過度の試行錯誤が必要となるものではない。
したがって、訂正明細書は、本件訂正発明を実施することができる程度に、発明の説明を記載しているものである。
(3)小括
よって、本件訂正発明に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった異議申立理由によっても、取り消されるべきものではない。
第6 むすび
以上のとおり、本件訂正発明に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700255