特許異議申立
2017-700785
水中構造物用構造体の水中配置構造及び水中搬送方法
- 審判番号
- 2017-700785
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-156469
- 登録番号
- 特許第6079836号(P6079836)
- 請求日
- 2017年08月14日
- 審決日
- 2018年04月18日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEエンジニアリング株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
- 【権利者代理人】石橋 良規
- 【異議申立人】松波 敏明
- 審判長/審判官
- 審判長 小野 忠悦
- 審判官 井上 博之
- 審判官 住田 秀弘
- 分類
- P1652.113-YAA(E02D) / P1652.121-YAA(E02D) / P1652.851-YAA(E02D) / P1652.852-YAA(E02D) / P1652.853-YAA(E02D) / P1652.856-YAA(E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6079836号発明「水中構造物用構造体の水中配置構造及び水中搬送方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6079836号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-14〕について訂正することを認める。
特許第6079836号の請求項1、7、15に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6079836号の請求項1~15に係る特許についての出願は、平成27年8月6日に特許出願され、平成29年1月27日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年8月14日に特許異議申立人松波敏明(以下「申立人」という。)より、請求項1、7、15に対して特許異議の申立てがされ、平成29年11月6日付けで取消理由(発送日同年11月10日)が通知され、その指定期間内である平成30年1月9日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年2月27日に申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)~(6)のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
請求項1に、
「水中構造物の一部又は全部を補強する構造体の水中配置構造であって、
水中に配置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材とを備えており、
前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記構造体とを連結しており、
前記複数個の浮力体のぞれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、
前記構造体は、水中で中性浮力状態にあることを特徴とする、水中構造物用構造体の水中配置構造。」
とあるのを、
「水中構造物の一部又は全部を補強する構造体の水中配置構造であって、
水中に配置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材と、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段とを備えており、
前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記構造体とを連結しており、
前記複数個の浮力体のそれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、
前記構造体は、水中で中性浮力状態にあるとともに、その中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であることを特徴とする、水中構造物用構造体の水中配置構造。」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項2に、
「前記取付部材は、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調節手段を備えており、
前記構造体の水中姿勢は、前記調整手段により調整可能であり、
前記複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置していることを特徴とする、請求項1に記載の、水中構造物用構造体の水中配置構造。」
とあるのを、
「前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記調整手段を備えており、前記複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置していることを特徴とする、請求項1に記載の、水中構造物用構造体の水中配置構造。」
に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項3~6も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項7に、
「水中構造物の一部又は全部を補強するための構造体の水中搬送方法であって、
構造体を準備する第1の工程と、
前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び浮力体を取り付ける第2の工程と、
前記調整手段ならびに前記錘及び前記浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有することを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」
とあるのを、
「水中構造物の一部又は全部を補強するための構造体の水中搬送方法であって、
構造体を準備する第1の工程と、
前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び浮力体を取り付ける第2の工程と、
前記調整手段ならびに前記錘及び前記浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有し、
中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を前記調整手段により調整する工程を更に有することを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」
に訂正する。
請求項7の記載を引用する請求項8~14も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0006】を、
「上記目的を達成するための、本発明の第1の形態に係る水中構造物用構造体の水中配置構造は、水中構造物の一部又は全部を補強する構造体の水中配置構造であって、水中に記置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材と、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段とを備えており、前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記愕造体とを連結しており、前記複数個の浮力体のそれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、前記構造体は、水中で中性浮力状態にあるとともに、その中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であることを特徴とする。」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0007】を、
「本発明の第2の形態に係る水中構造物用構造体の水中配置構造は、第1の形態に係る水中配置構造であって、前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記調整手段を備えており、前記複数個の浮力体の少なくとも一つの頂部は、残りの前記複数個の浮力体の頂部よりも上に位置していることを特徴とする。」
に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0013】を、
「本発明の第7の形態に係る構造体の水中搬送方法は、水中構造物の一部又は全部を補強するための構造体の水中搬送方法であって、構造体を準備する第1の工程と、前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び浮力体を取り付ける第2の工程と、前記調整手段ならびに前記錘及び前記浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有し、中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を前記調整手段により調整する工程を更に有することを特徴とする。」
に訂正する。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、水中配置構造の態様について「調整手段」の構成を付加し限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項1は水中配置構造の態様について限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項1に関して、願書に添付した明細書には「【0007】・・・前記取付部材は、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調節手段を備えており、前記構造体の水中姿勢は、前記調整手段により調整可能であり」と記載されているから、訂正事項1は願書に添付した明細書に記載されているものと認められる。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、上記訂正事項1の訂正に伴って、請求項1と請求項2の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。なお、「調節手段」を「調整手段」に訂正することは、誤記の訂正を目的とするものともいえる。
また、訂正事項2は、願書に(最初に)添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項3は、水中搬送方法の態様について「調整する工程」を付加し限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて
上記アで説示したように、訂正事項3は水中搬送方法の態様について限定したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
訂正事項3に関して、願書に添付した明細書には「【0044】本発明の第8の形態によれば、構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び浮力体を取り付け、当該構造体を、その水中姿勢を当該調整手段により調整しながら、中性浮力状態を維持することができるので・・・」と記載されているから、訂正事項3は願書に添付した明細書に記載されているものと認められる。
(4)訂正事項4~6について
訂正事項4~6は、上記訂正事項1~3の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4~6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
(5)独立特許要件について
上記(1)(ア)、(3)(ア)で説示したとおり、訂正事項1及び訂正事項3は、それぞれ特許異議の申立てがされていない請求項2~6及び請求項8~14に対しても訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定により、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項2~6、8~14に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
下記第3の4(1)、(2)において後記するように、訂正後の請求項1に係る発明及び訂正後の請求項7に係る発明は、甲第1号証~甲第6号証に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものではない。そして、訂正後の請求項2~6に係る発明及び訂正後の請求項8~14に係る発明は、それぞれ訂正後の請求項1に係る発明及び訂正後の請求項7に係る発明に従属し、それぞれの発明特定事項をすべて含むものであるから、訂正後の請求項1に係る発明及び訂正後の請求項7に係る発明と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
上記で検討した事項に加え、訂正後の請求項2~6に係る発明及び訂正後の請求項8~14に係る発明が、独立して特許を受けることができないとするその他の理由は見いだせない。
したがって、訂正後の請求項2~6に係る発明及び訂正後の請求項8~14に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができない発明とすることはできないから、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1~6は、請求項2~5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあり、訂正前の請求項7~14は、請求項8~14が、訂正の請求の対象である請求項7の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~6及び請求項7~14は、それぞれ訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
(7)申立人の主張について
申立人は、訂正に関して「訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものである。・・・ しかしながら、本件特許公報の段落【0101】~【0110】には、取付部材を短くして浮力体を構造体に接近させることにより、構造体の短くした取付部材側を水面に向けて傾斜させることが開示されているに過ぎず、「中性浮力状態にある水中姿勢は調整手段により調整可能である」とする訂正は、上述した具体的な調整手順以外の調整方法を包括的に含むものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるから特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に違反するものである」(申立人意見書1頁3.(1))旨主張するが、上記(1)において説示したように、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
したがって、上記訂正請求による訂正事項1~8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項~第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~14〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 訂正後の請求項1、7、15に係る発明
上記訂正請求により訂正された請求項1、7に係る発明及び請求項15に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、以下のとおりのものである。(下線は訂正箇所を示す。)
本件発明1
「【請求項1】
水中構造物の一部又は全部を補強する構造体の水中配置構造であって、
水中に配置する構造体と、複数個の浮力体と、複数個の取付部材と、前記複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段とを備えており、
前記複数個の取付部材のそれぞれは、前記複数個の浮力体のそれぞれと前記構造体とを連結しており、
前記複数個の浮力体のそれぞれは、その全体が前記取付部材とともに水没しており、
前記構造体は、水中で中性浮力状態にあるとともに、その中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能であることを特徴とする、水中構造物用構造体の水中配置構造。」
本件発明7
「【請求項7】
水中構造物の一部又は全部を補強するための構造体の水中搬送方法であって、
構造体を準備する第1の工程と、
前記構造体に、その水中姿勢を調整するための調整手段ならびに錘及び浮力体を取り付ける第2の工程と、
前記調整手段ならびに前記錘及び前記浮力体により前記構造体を水中で中性浮力状態に設定し、中性浮力状態にある前記構造体を水中搬送する第3の工程とを有し、
中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を前記調整手段により調整する工程を更に有することを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」
本件発明15
「【請求項15】
水中構造物の一部又は全部を補強するための構造体の水中搬送方法であって、
取付部材により構造体に取り付けた複数個の浮力体のそれぞれの全体が前記取付部材とともに水没するまで前記構造体を水没させることにより、前記構造体を水中で中性浮力状態に設定する工程と、
水中で中性浮力状態にある前記構造体に錘と前記複数個の浮力体とは別の浮力体を取り付け、前記錘と前記別の浮力体を取り付けた前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態に設定する工程と、
水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態にある前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく水中搬送する工程とを有することを特徴とする、構造体の水中搬送方法。」
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1、7に係る特許に対して平成29年11月6日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前において頒布された甲第1号証、又は甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)本件特許の請求項1、7に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証~甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
3 刊行物の記載
甲第1号証:黒米郁、外2名、「水中格点工法による杭式橋脚の耐震補強」、土木学会関東支部技術研究発表会講演概要集、2002年、2002年29巻、p.934、935
甲第2号証:吉原到、外2名、「供用中の桟橋に適用した桟橋補強工法の施工事例」、土木学会第70回年次学術講演会(平成27年9月)、平成27年8月1日発行、p.401、402
甲第3号証:特開2008-37253号公報
甲第4号証:実願平4-65172号(実開平6-27868号)のCD-ROM
甲第5号証:特許第4864774号公報
甲第6号証:特開平1-169021号公報(平成30年2月27日付け意見書において追加された刊行物)
(1)取消理由通知において引用した甲第1号証には、図面とともに次の記載があり、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
ア 「水中格点工法においては、小型の起重機船で格点材を吊り降ろし、浮体力(アクアリフター)を用いることで潜水士による設置が可能となり、水中作業は多くなるものの設備等への影響はほとんどない。また作業船についても容易に移動でき、拘束日数も少ない等の利点がある。
水中格点工法による施工方法は、図-5に示す手順で行った。ここでは、特に格点材の取り付けについて述べる。
格点材の運搬取付は、施工性および作業時間を考慮して4基ずつ行う。図-6に示すように、アクアリフターを取り付けた格点材を起重機船にて海面上に吊り降ろし、浮力調整後に潜水士によって受台上に仮置きする。次に、チェーンブロックによって格点材を鋼管杭に固定したうえで外管片割れの仮止めを行う。格点材4基分の仮置きが完了後、取付位置の微調整を行い、受台と格点材の水中溶接を行う。」(935頁21行~39行)
イ 図-6から、格点材には複数のアクアリフターが取り付けられており、アクアリフターはその全体が水没しており、格点材は水中で中性浮力状態にあることが看て取れる。
ウ 甲1発明
「複数のアクアリフターを取り付けた格点材を起重機船にて海面上に吊り降ろし、アクアリフターはその全体が水没しており、複数のアクアリフターを取り付けた格点材は、水中で中性浮力状態とし、浮力調整後に潜水士によって受台上に仮置きし、チェーンブロックによって格点材を鋼管杭に固定したうえで外管片割れの仮止めを行い、格点材4基分の仮置きが完了後、取付位置の微調整を行い、受台と格点材の水中溶接を行う、格点材の水中配置構造及び水中搬送方法」
(2)取消理由通知において引用した甲第2号証には、図面とともに次の記載があり、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
ア 「本工法の部材据付手順を図-4に示す。まず、桟橋上でストラット部材にフローターを艤装し、クレーンで進水する。ストラット部材を上部工直下の杭間まで移動・運搬し、設置位置で上部工からワイヤーで吊り替え、所定の位置に部材を設置する。
これら一連の作業は潜水士による人力作業となる。・・・従来このような作業では発砲スチロール製などのフローターを使用して中性浮力状態として作業を行うが、部材設置後フローターを外すとフローターが急浮上し、作業する潜水士に危険が伴う。その対策として、浮力を調整できるバルーン型のフローターを使用することもある」(402頁3行~12行)
イ 甲2発明
「ストラット部材にフローターを艤装し、クレーンで進水し、ストラット部材を浮力を調整できるバルーン型のフローターを使用して中性浮力状態として作業を行い、所定の位置に部材を設置するストラット部材の水中配置構造及び水中搬送方法」
(3)取消理由通知において引用した甲第3号証には、申立人が主張するとおり、以下の技術(以下「甲3技術」という。)が記載されていると認められる。
甲3技術
「水中で中性浮力状態を得るために錘を用いること」
(4)取消理由通知において引用した甲第4号証には、申立人が主張するとおり、以下の技術(以下「甲4技術」という。)が記載されていると認められる。
甲4技術
「2本の玉掛けロープを異なる長さに設定することにより、吊荷を傾けることができること」
(5)取消理由通知において引用した甲第5号証には、申立人が主張するとおり、以下の技術(以下「甲5技術」という。)が記載されていると認められる。
甲5技術
「ストラット部材4に取り付けられたフロータ6を水面に浮かべて、ストラット部材4を杭2、2の間に曳航すること」
4 取消理由通知に記載した取消理由(第29条第1項第3号、第29条第2項)について
(1)本件発明1について(第29条第1項第3号、第29条第2項)
ア 本件発明1と甲1発明又は甲2発明の対比
本件発明1と、甲1発明又は甲2発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1が「複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段」を備え、(構造体の)「中性浮力状態にある水中姿勢は前記調整手段により調整可能である」のに対し、甲1発明又は甲2発明では、そのような特定がなされていない点。
イ 判断
相違点1について検討するに、「中性浮力状態にある水中姿勢」を「調整可能である」「複数個の浮力体のうち少なくとも一つと前記構造体との間の距離を調整するための調整手段」を備えることは、甲第1号証~甲第5号証には何ら記載されておらず、そのような手段を備えることを示唆する記載もない。
申立人は、平成30年2月27日付け意見書(以下「申立人意見書」という。)において「しかしながら、「水中で中性浮力状態にある構造体の水中姿勢を調整することができる調整手段」は、今回提出する甲第6号証に開示された周知事項であり、当業者が、当該周知技術を甲第1号証乃至甲第5号証に適用することに何ら困難性は存在しない。・・・すなわち、甲第6号証には、「ジャッキ11がワイヤロープ7の中間部分を上昇させることにより、2台のフロート1に架設されたビーム6(浮力体)をケーソン2(構造体)に接近させる」ことが開示されている。」(申立人意見書2頁6行~下から2行)と主張する。しかしながら、甲第6号証の明細書及び図面の記載を見ても、ワイヤロープ7はケーソン2を吊持するものではあるが、ケーソン2が中性浮力状態にあるとは解されず、ワイヤロープ7は(ケーソン2の)「中性浮力状態にある水中姿勢」を「調整可能」とするものでないことは明らかであるから、上記申立人の主張は採用できない。
したがって、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明ではなく、また、甲1発明又は甲2発明において相違点1に係る本件発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
(2)本件発明7について(第29条第2項)
ア 本件発明7と甲1発明の対比
本件発明7と、甲1発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明7が「中性浮力状態にある前記構造体の水中姿勢を前記調整手段により調整する工程を更に有」するのに対し、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。
イ 判断
相違点2は、実質的に上記相違点1と同じであるので、上記(1)イと同様の理由により、甲1発明において、相違点2に係る本件発明7の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
(3)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明と同一ではなく、その特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明1、7は、甲第1号証~甲第6号証に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(第29条第2項)について
申立人より、「本件発明15は、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。」旨の特許異議の申立てがなされているので、以下に検討する。
(1)本件発明15と甲1発明の対比
本件発明15と、甲1発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明15が「水中で中性浮力状態にある前記構造体に錘と前記複数個の浮力体とは別の浮力体を取り付け、前記錘と前記別の浮力体を取り付けた前記構造体を、前記別の浮力体の全体を水没させることなく、水中で前記別の浮力体に吊り下げた状態に設定する工程」を有するのに対し、甲1発明では、そのような特定がなされていない点。
(2)判断
相違点3について検討するに、本件発明15のように「複数の浮力体」とは「別の浮力体」を備え、「複数の浮力体」は水没させ、「別の浮力体の全体」は水没させないようにして水中搬送することは、甲第1号証~甲第5号証には何ら記載されておらず、そのような手段を備えることを示唆する記載もない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明15の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
(3)小括
よって、本件発明15は、甲第1号証~甲第5号証に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、平成29年11月6日付け取消理由通知及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由、証拠によっては、本件請求項1、7、15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、7、15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700785