2020-700099
溶接構造体
- 審判番号
- 2020-700099
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-519787外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年02月21日
- 審決日
- 2020年07月29日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人ブライタス
- 【異議申立人】豊田 敦子
- 分類
- P1652.113-Y (B23K) / P1652.121-Y (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 本件特許異議申立の主な経緯
平成30年12月26日 特許第6562190号(以下、「本件特
許」という。)の請求項1ないし5に係る
特許についての国際出願(特願2019-
519787号、優先権主張 2018年
5月18日(JP)日本国)
令和 元年 8月 2日 本件特許権の設定登録
同 年 8月21日 本件特許に係る特許掲載公報の発行
令和 2年 2月21日 特許異議申立人豊田敦子(以下、「異議申
立人」という。)による、請求項1ないし
4に係る特許についての特許異議の申立て
(以下、「本件異議申立て」という。)
同 年 4月21日付け 取消理由通知書
同 年 6月15日 特許権者との面接(テレビ会議システムに
よる)
同 年 6月25日 特許権者による意見書の提出
第2 本件発明
本件特許についての請求項1ないし5に係る発明は、特許請求の範囲の記載のとおりであるところ、本件異議申立てが対象とする請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に両側部分溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体であって、前記接合部材の前記端面に垂直な方向における長さをH(mm)とし、予め設定される前記接合部材の許容応力をσ(N/mm2)とした場合に、前記被接合部材の、前記被接合面の1mm深さ位置から採取され、厚さ方向が前記被接合部材の板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度NDTT(℃)が、下記(i)式を満足する、続きを表示(全17行)溶接構造体。NDTT≦360.4-46.8×ln{σ(πH)0.5} ・・・(i)【請求項2】前記被接合部材の板厚t(mm)が、下記(ii)式を満足する、請求項1に記載の溶接構造体。t≧50.0 ・・・(ii)【請求項3】前記被接合部材の板厚t(mm)が下記(iii)式を満足する、請求項1または請求項2に記載の溶接構造体。t>80.0 ・・・(iii)【請求項4】前記被接合部材の降伏応力が400~580MPaであり、引張強さが510~750MPaである、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の溶接構造体。」
第3 取消理由の概要
本件発明1ないし4についての特許に対して、当審が令和2年4月21日付けの取消理由通知書において、特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件発明1ないし4は、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、本件発明1ないし4についての特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明1ないし4についての特許は、取り消されるべきものである。
第4 引用文献の記載
取消理由通知において提示した引用文献は以下のとおりである。
甲第1号証(以下「甲1」という。): “超大型コンテナ船用極厚鋼板の必要アレスト靱性に関する研究開発”、一般財団法人 日本海事協会、一般社団法人 日本溶接協会、2016年9月
甲第2号証(以下「甲2」という。):Teppei Okawa外4名、“Simplified Evaluation of Brittle Brack Arrest Toughness in Heavy-Thick Plate by Combined Small-scale Tests”、Proceedings of the Twenty-fifth(2015)International Ocean and Polar Engineering Conference、International Society of Offshore and Polar Engineers(ISOPE)、2015年6月21-26日、1153-1157ページ
1.甲1の記載事項、甲1発明
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甲1には、超大型コンテナ船用極厚鋼板の必要アレスト靱性に関する研究開発について、以下の事項が記載されている。
ア 「」(8ページ)
イ 「」(10ページ)
ウ 「」(11ページ)
エ 「」(12ページ)
オ 「」(25ページ)
カ 「」(33ページ)
キ 「」(49ページ)
ク 上記アから、船舶の脆性亀裂のアレスト性について、2つのシナリオが検討され、シナリオ1では、ハッチサイドコーミング(HSC)からアッパーデッキ(UD)に向けて亀裂が伸展する場合、シナリオ2では、アッパーデッキからハッチサイドコーミングに向けて亀裂が伸展する場合について想定されたことが理解できる。
ケ 上記オによれば、シナリオ1について、中型構造モデル試験であるTest1-1、大型構造モデル試験であるTest1-2、及びTest1-3の3つのテストが行われ、いずれの結果もアレスト、すなわち脆性亀裂の伸展を停止することができたことが理解できる。
コ 上記オのTest1-2については、Kca値が7000N/mm3/2となる温度が-30℃であることが記載されているのみであり、Kca値が6000N/mm3/2となる温度の記載はないところ、Test1-2とTest1-3とは、同じテストプレートを用いているものであって、Kca値についても当然に同じ特性を有するから、Kca値6000N/mm3/2に対応する温度は、-35℃と認められる。
そうすると、上記ア~オ、キの記載から、船舶のハッチサイドコーミングからアッパーデッキに向けて亀裂が伸展する場合を想定したシナリオ1のTest1-1ないしTest1-3について、以下の「甲1発明」が記載されているといえる。
「板状のハッチサイドコーミングの端面が板状のアッパーデッキの被接合面に当接した状態で、前記ハッチサイドコーミングが前記アッパーデッキに両側部分溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体であって、a 前記ハッチサイドコーミングの前記端面に垂直な方向における長さHが500mmであり、前記ハッチサイドコーミングのKca値6000N/mm3/2に対応する温度が-23℃である(Test1-1)か、b 前記ハッチサイドコーミングの前記端面に垂直な方向における長さHが1600mmであり、前記ハッチサイドコーミングのKca値6000N/mm3/2に対応する温度が-35℃である(Test1-2、Test1-3)、脆性亀裂がアレストする溶接構造体。」
第5 対比・判断
1.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ハッチサイドコーミング」及び「アッパーデッキ」が、本件発明1の「接合部材」及び「被接合部材」に相当することは明らかであるから、両者は、
「板状の接合部材の端面が板状の被接合部材の被接合面に当接した状態で、前記接合部材が前記被接合部材に両側部分溶込み溶接されたT継手部を有する溶接構造体」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点:本件発明1においては、接合部材の端面に垂直な方向における長さをH(mm)とし、予め設定される前記接合部材の許容応力をσ(N/mm2)とした場合に、被接合部材の、被接合面の1mm深さ位置から採取され、厚さ方向が前記被接合部材の板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度NDTT(℃)が、NDTT≦360.4-46.8×ln{σ(πH)0.5}(式(i))を満足するのに対し、甲1発明がこの条件を満たすかは不明である点。
上記相違点について、まず、「予め設定される接合部材の許容応力」について検討する。甲1発明には、「予め設定される接合部材の許容応力」について特定がないが、上記第4の1.オには、テストプレートが「EH40」である場合の適用応力(Applied stress)σが「257MPa(EH40設計応力)」である旨の記載がある。
一方、同アの右上の図によれば、ハッチサイドコーミングからアッパーデッキに向けて亀裂が伸展する場合におけるテストプレート(Test plate)は、アッパーデッキ(UD)であり、本件発明1でいう「接合部材」ではなく、「被接合部材」に当たるものであるから、甲1の「257MPa」は、接合部材についての適用応力ではなく、接合部材に相当するハッチサイドコーミングの鋼板の強度グレードや設計応力は不明である。
また、甲1の「適応応力」は、試験の際に付与される応力負荷と考えられるから、本件発明1の「許容応力」に当たるものであるかどうかも不明であるし、仮に、上記の「257MPa(EH40設計応力)」という記載が、テストプレートであるアッパーデッキ(被接合部材)の鋼板の強度グレードがEH40であり、その設計応力が257MPaであることを示すものであるとしても、接合部材についての許容応力が明らかになるわけでもない。
結局、甲1からは、接合部材についての許容応力を読み取ることはできないから、甲1発明において、本件発明1に特定される式(i)の条件を満足するかどうかについては不明と言わざるを得ない。
したがって、上記相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明ではない。
2.本件訂正発明2ないし4について
本件発明2ないし本件発明4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1のすべての発明特定事項を含むものであるところ、上記1.のとおり、本件発明1は、甲1発明ではないから、本件発明2ないし本件発明4についても同様に、甲1発明ではない。
3.小括
以上のとおり、本件発明1ないし4についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものということはできない。
第6 その他の異議申立ての理由について
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異議申立人は、本件異議申立ての理由として、本件発明1ないし4について、甲1を主引例とする特許法第29条第2項違反(進歩性欠如)も主張するので、これについて検討する。
甲1発明は、上記第4のとおりであるところ、本件発明1との一致点、相違点は上記第5の1.のとおりである。
そして、相違点について、甲1には、そもそも接合部材の許容応力についての開示がないから、「接合部材の端面に垂直な方向における長さをH(mm)とし、予め設定される前記接合部材の許容応力をσ(N/mm2)とした場合に、被接合部材の、被接合面の1mm深さ位置から採取され、厚さ方向が前記被接合部材の板厚方向と一致するASTM E208に規定されるタイプP3試験片を用いたNRL落重試験による無延性遷移温度NDTT(℃)が、NDTT≦360.4-46.8×ln{σ(πH)0.5}(式(i))を満足する」ことについては、開示がないところ、甲2を見ても、当該事項についての開示も示唆もない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2から当業者が容易に想到し得た程度のものということはできない。
また、本件発明2ないし本件発明4は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1のすべての発明特定事項を含むものであるところ、同じ相違点を有するものであるから、本件発明2ないし本件発明4についても同様に、甲1発明及び甲2から当業者が容易に想到し得た程度のものということはできない。
よって、本件発明1ないし4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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