2020-017630
ドライプロセス処理方法
- 審判番号
- 2020-017630
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-186932外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年12月23日
- 審決日
- 2022年09月08日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】森永乳業株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人スズエ国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 7項目
第1 手続の経緯
本願は、平成28年9月26日にされた特許出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
同年 7月27日 :意見書、補正書の提出
同年 9月11日付け:拒絶査定
第2 本願発明について
1.本願発明
本願の請求項1ないし23に係る発明は、令和2年7月27日提出の補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1、18に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」、「本願発明18」という。)は、その請求項1、18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】塩分濃度500mg/kg以下、有効塩素濃度5~200mg/kg、かつ、pH5~8の次亜塩素酸水を気体あるいは粒径1μm以下の次亜塩素酸成分を含むミストに変換した状態で所定空間内に発散させることにより、前記所定空間内に存在する対象物に次亜塩素酸成分を到達させ、前記所定空間内の設備に対する腐食を防止しつつ、前記対象物を濡らすことなく殺菌又は脱臭を行うドライプロセス処理方法。【請求項18】塩分濃度500mg/kg以下、有効塩素濃度5~200mg/kg、かつ、pH5~8の次亜塩素酸水をドライプロセスにより、所定空間内に存在する対象物に次亜塩素酸成分を到達させ、前記所定空間内の設備に対する腐食を防止しつつ、前記対象物を濡らすことなく殺菌又は脱臭を行うドライプロセス処理方法。」
2.原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明1は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明を主たる引用発明としたとき、当該発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本願発明18は、同じく下記の引用文献5に記載された発明を主たる引用発明としたとき、当該発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1.特開平11-169441号公報
引用文献5.特開2007-229051号公報
3.引用文献の記載事項等
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(1)引用文献1の記載事項等
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1には、図面とともに、次の記載がある。なお、下線は当審で付した(以下同様。)。
・「【請求項4】pH3~7.5、次亜塩素酸濃度10~200ppmの次亜塩素酸水を含む殺菌水を、遠心噴霧機により0.3μ以下の超微細ミストにして屋内に噴霧又は放出することを特徴とする屋内殺菌方法」
・「【0006】また、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の消毒剤を噴霧して殺菌するにしても、噴霧により室内湿度が100%以上になり、天井や壁から消毒剤が水滴となって滴り落ちるほど噴霧しないと殺菌効果が得られない。このため、人のいるときや、ふとん等の本来殺菌しなければならない物があるところでは作業ができないという不都合があった。
【0007】従って、本発明の主たる目的は、水中の残留塩素が次亜塩素酸として最も効率良く発生している殺菌水の噴霧により、薬害を発生させることなく天井や壁はもちろん空中も同時に殺菌ができ、しかも、水滴を生じない湿度で充分に殺菌効果が得られる屋内殺菌方法を提供することにある。」
・「【0009】本発明の第3の目的は、殺菌効果を奏する次亜塩素酸含有殺菌水の微細粒子が空気中の菌やほこりに吸着しやすく、また、天井、壁、カーテン等の殺菌すべき物品の表面に付着し易くして殺菌効率をさらに向上させる上記屋内殺菌方法を提供することにある。」
・「【0014】
【発明の実施の形態】塩化ナトリウム水溶液や塩化カリウム水溶液などの塩化物イオンを含む水を電解すると次亜塩素酸を含む水を生成することができる。水中の遊離残留塩素は、pH3~7.5の範囲ではその80~100%が殺菌力の強い次亜塩素酸(HClO)の形で存在する。この次亜塩素酸は、次亜塩素酸ナトリウムが水に溶けたときに生ずる次亜塩素酸イオンの80倍の殺菌力を有するので、次亜塩素酸濃度が10~200ppmという比較的低濃度でも充分な殺菌効果が得られる。また、この次亜塩素酸は反応性が高く、残留性が少ないから人体に対する影響が少ない。」
・「【0016】本発明の上記殺菌方法に使用するpH3~7.5、次亜塩素酸濃度10~200ppmの次亜塩素酸含有殺菌水は、塩化ナトリウム水溶液などの塩化物イオン含有水溶液を電気分解することによって調整することができるほか、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)に塩酸、硫酸、酢酸などの酸水溶液を添加・混合して調整することができる。ただし、本発明の殺菌方法は、これらの方法によって調整した殺菌水を使用する場合に限定されるものではなく、pH3~7.5、次亜塩素酸濃度10~200ppmの次亜塩素酸含有殺菌水であれば、他のいかなる方法によって調整したものでもよい。」
・「【0029】上記の実施形態はいずれも前記pH及び次亜塩素酸濃度の次亜塩素酸殺菌水を0.5μ~50μを主体とする霧状粒子にして噴霧するものである。このような霧状水粒子は前記殺菌水を圧縮空気の噴出流に合流・混合させることによって生成することができるが、この方法による次亜塩素酸殺菌水の微粒子化は0.5μまでが限度である。他方、殺菌水を霧化する場合、粒子が小さいほど単位量の殺菌水の総表面積が大きくなるので殺菌対象物との接触効率が高まり、殺菌効果が増大する。従って、殺菌効果を向上させるには殺菌水をできるだけ小さな霧状粒子に微細化することが望ましい。」
・「【0033】本発明の屋内殺菌方法において殺菌効率をより高めるためには、これに供されるpH3~7.5、次亜塩素濃度10~200ppmの次亜塩素酸水の微粒子は微細であればある程好ましく、又、すべての微粒子が所定の超微細ミストであることが望ましい。これを実現するために、本発明の他の実施形態は、上記の次亜塩素酸殺菌水を遠心噴霧機によって霧化することにより、供給した次亜塩素酸殺菌水のほとんどすべてを0.3μ以下の超微細ミストを発生させ、これを室内に噴霧又は放出させるようにしたものである。
【0034】図4は上記の方法に好適な遠心噴霧機の回転体の一例を示すもので、この遠心噴霧機用回転体16は、円板17の円周縁辺に沿って多数の翼片18を円板17に対して垂直に且つ、所定角度、所定間隔で固設し、各翼片18の先端側を補強リング19で一体化したものである。
【0035】高速(例えば5,000~50,000rpm)で回転させた上記遠心噴霧機用回転体16の円板17の中心に前記次亜塩素酸殺菌水を供給すると、次亜塩素酸殺菌水は遠心力により円板17の面を薄い層となって広がり、翼片18面によってさらに薄い層と化した後、外側に吹き飛ばされることにより、供給した次亜塩素酸殺菌水のほとんどが、0.3μ以下の超微細ミストに霧化される。」
イ 引用文献1に記載された発明
上記アの記載事項、特に請求項4、【0009】の記載を中心に整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明1>
pH3~7.5、次亜塩素酸濃度10~200ppmの次亜塩素酸水を含む殺菌水を、遠心噴霧機により0.3μ以下の超微細ミストにして屋内に噴霧又は放出し、天井、壁、カーテン等の殺菌すべき物品の表面に付着させる屋内殺菌方法。
(2)引用文献5の記載事項等
ア 引用文献5の記載事項
引用文献5には、図面とともに、次の記載がある。
・「【請求項1】
供給された水道水を電気分解して活性酸素種を含む電解水を生成する電解水生成部と、
前記電解水が供給されて前記電解水が浸透される気液接触部材と、
前記電解水が供給され、前記電解水から電解水ミストを生成する電解水ミスト生成部と、
前記気液接触部材内を通過させて空気を室内に吹き出すべく送風し、あるいは、前記電解水ミストを前記室内に散布すべく送風する送風部と、
を備えたことを特徴とする除菌装置。」
・「【0003】
しかしながら、上記した除菌装置では、電解ミストをノズルにより拡散させるに留まり、微粒子状の電解水ミストが到達しやすい使用環境下、すなわち、比較的小空間では効力を発揮するものの、電解水ミストが到達しにくい使用環境下、すなわち、大空間、例えば幼稚園や小・中・高等学校や、介護保険施設や、病院等では効力を発揮しにくいという問題がある。
そこで、本発明の目的は、電解水ミストが到達しにくい大空間であっても効率よく空気中および物体表面の除菌を行うことが可能な除菌装置を提供することにある。」
・「【0013】
図6は、電界槽の構成説明図である。
電解槽31は、図6に示すように、水受皿9及び給水タンク支持皿10より上方に配置され、電解槽31には循環ポンプ13が運転を開始すると、給水タンク支持皿10から吸い上げられた水が貯留され、循環ポンプ13が運転を停止すると、電解槽31内の水は重力により給水タンク支持皿10に自然落下し、電解槽31が空になる。
【0014】
この電解槽31には、図6に示すように、一方が正、他方が負となる対の電極32、33を交互に備え、電極32、33は、通電された場合、電解槽31に流入した水道水を電気分解して活性酸素種を生成させる。ここで、活性酸素種とは、通常の酸素よりも高い酸化活性を持つ酸素と、その関連物質のことであり、スーパーオキシドアニオン、一重項酸素、ヒドロキシルラジカル、或いは過酸化水素といった、いわゆる狭義の活性酸素に、オゾン、次亜ハロゲン酸等といった、いわゆる広義の活性酸素を含めたものとする。電解槽31は、気液接触部材5に接近して配置され、水道水を電気分解して生成された活性酸素種を、ただちに気液接触部材5に供給できるように構成される。
電極32、33は、例えばベースがTi(チタン)で皮膜層がIr(イリジウム)、Pt(白金)から構成された電極板であり、この電極32、33に流れる電流値は、電流密度で数mA(ミリアンペア)/cm2(平方センチメートル)~数十mA/cm2になるように設定され、所定の遊離残留塩素濃度(例えば1mg(ミリグラム)/l(リットル))を発生させる。 【0015】
詳述すると、上記電極32、33により水道水に通電すると、カソード電極では、
4H++4e-+(4OH-)→2H2+(4OH-)
の反応が起こり、アノード電極では、
2H2O→4H++O2+4e-
の反応が起こると同時に、
水に含まれる塩素イオン(水道水に予め添加されているもの)が、
2Cl-→Cl2+2e-
のように反応し、さらにこのCl2は水と反応し、
Cl2+H2O→HClO+HCl
となる。
従って、電極32、33に通電することにより、殺菌力の大きいHClO(次亜塩素酸)を発生させ、この次亜塩素酸が供給された気液接触部材5に空気を通過させることにより、この気液接触部材5で雑菌が繁殖することを防止でき、気液接触部材5を通過する空気中に浮遊するウィルスを不活化することができる。また、空気中の臭気も気液接触部材5を通過する際に、次亜塩素酸と反応し、イオン化して溶解するので、空気が脱臭される。」
・「【0025】
この電解槽31では、電極32、33への通電により、水道水が電気分解されて活性酸素種を含む電解水EWが生成される。
このとき、三方弁35は、電解水供給感17B側に切り替えられており、電解水貯水部91内に所定量の電解水EWが供給される。
これにより、ミスト生成装置90の超音波振動子92は、電解水貯水部91内の電解水EWを加振して電解水ミストMを生成する。
これと並行して、床置き式除菌装置1の図示しない制御装置は、送風ファン7を駆動する。この結果、送風ファン7からの空気がミスト生成装置90の下面開口94から導入され、生成された電解水ミストMとともにミスト散布口4Aから放出され、室内に散布されることとなる(ステップS2)。
この結果、室内の机、棚、テーブル、椅子など物体の表面(特に上面)には、電解水ミストが付着し、当該物体の表面の除菌がなされることとなる。」
・「
[図:0001391273000001.jpg]
」(図5)
イ 引用文献5に記載された発明
上記アの記載事項、特に請求項1、【0014】、【0015】、【0025】の記載を中心に整理すると、引用文献5には次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明5>
水道水を電気分解して得られた、所定の遊離残留塩素濃度を有し次亜塩素酸を含む電解水から電解水ミストを生成し、生成された電解水ミストを室内に散布することにより、室内の机、棚、テーブル、椅子など物体の表面に、電解水ミストを付着させる除菌方法。
(3)引用文献3の記載事項
特開2009-178710号公報(審決注:審査官の拒絶理由において引用文献3として引用された文献である。以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
・「【0042】
図1は、電解水の製造装置(以下、「電解装置」という)に係る模式図を示す。図2は、陽極室と陰極室との隔壁および電極を示す図である。
【0043】
電解装置10は、陽極室20と陰極室30と中間室40とを含む。中間室40は、陽極室20と陰極室30の間に設けられている。陽極室20と陰極室30とを隔てる隔壁50には、連通孔52が設けられている。連通孔52は、中間室40の周囲に設けられている。この連通孔52により、陽極室20と陰極室30との間で水が双方向に移動可能に構成されている。
【0044】
中間室40には電解質水溶液が充填されている。中間室40に供給された電解室水溶液は、陽イオン(たとえばナトリウムイオン)が陰極室30に供給され、陰イオン(たとえば塩化物イオン)が陽極室20に供給される。中間室40を通過した水溶液を電解質水溶液の供給源80に戻して、電解質水溶液を再利用し循環させてもよいし、または、消費した分だけの電解質を中間室40に追加してもよい。電解質水溶液は、たとえば、塩化物塩水溶液(塩化ナトリウム水溶液や塩化カリウム水溶液)を挙げることができる。電解質水溶液の濃度としては、たとえば、電解質の飽和濃度とすることができる。」
・「【0128】
本実施の形態に係る電解装置によれば、陽極室と陰極室とが連通されているものの、中間室から移動してくる塩化物イオンの量は、陽極室で電解が可能な量であるため、実質的に塩化物イオンは残存しないか極めて微量となる。このように、中間室を備えた二隔膜三室型電解装置から生成する電解水は、塩化物イオンが実質的に含まないか極めて微量なため、加湿器から発生するミストも塩分が実質的に含まない。したがって、高い除菌性能や消臭性能に加え、室内の金属等に錆びを起こしにくい水道水並みの加湿を可能にした。
【0129】
さらに、ミスト発生器として本願発明者が発明者となっている特開2006-141864号公報に開示された技術や特開2006-320856号公報に開示されたサイクロン式ミスト発生装置の技術を適用することができる。従来の超音波式ミスト発生装置から発生するミストは目に見えるが、これらのサイクロン式発生装置は、全く目視できない超微粒子を湿度99.9%の微少なミストを発生できる。
【0130】
(1)この電解水生成装置は上記の電解装置を使用するため、得られる酸性水およびアルカリ水は、塩分を実質的にほとんど含まない。したがって、錆び等については水道水並みの使用環境を実現できる。」
・「
[図:0001391273000002.jpg]
」(図1)
4.対比・判断
(1)本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明1との対比
引用発明1の「0.3μ」は0.3μmを意味することは技術常識に照らして明らかであるから、引用発明1の「次亜塩素酸水を含む殺菌水を、遠心噴霧機により0.3μ以下の超微細ミストにして屋内に噴霧又は放出」する点は、本願発明1の「次亜塩素酸水を気体あるいは粒径1μm以下の次亜塩素酸成分を含むミストに変換した状態で所定空間内に発散させる」ことに相当し、次亜塩素酸水を含む殺菌水について、引用発明1の「天井、壁、カーテン等の殺菌すべき物品の表面に付着させ」ている点は、本願発明1の「前記所定空間内に存在する対象物に次亜塩素酸成分を到達させ」る点に相当する。また、引用発明1における殺菌水のpHは本願発明1の規定する次亜塩素酸水のpHと一部重複している。
そして、本願明細書【0032】の「・・・この状態にて通風を行うと1μmよりも大きい粒径にて放出されるため、ドライプロセスとして成立しなくなる。」との記載からみて、1μmよりも小さい粒径である「0.3μ以下の超微細ミスト」を用いた引用発明1の殺菌方法は、本願発明1の「前記対象物を濡らすことなく殺菌又は脱臭を行うドライプロセス処理方法」に相当する。
してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。
・一致点
所定のpHを有する次亜塩素酸水を気体あるいは粒径1μm以下の次亜塩素酸成分を含むミストに変換した状態で所定空間内に発散させることにより、前記所定空間内に存在する対象物に次亜塩素酸成分を到達させ、前記対象物を濡らすことなく殺菌又は脱臭を行うドライプロセス処理方法。
・相違点1
次亜塩素酸水の塩分濃度について、本願発明1が「500mg/kg以下」と特定するのに対し、引用発明1はそのような特定を有しない点
・相違点2
次亜塩素酸水の有効塩素濃度について、本願発明1が「5~200mg/kg」と特定するのに対し、引用発明1はそのような特定を有しない点
・相違点3
次亜塩素酸水のpHについて、本願発明1が「5~8」と特定するのに対し、引用発明1は「3~7.5」である点
・相違点4
本願発明1が「所定空間内の設備に対する腐食を防止しつつ」殺菌又は脱臭するのに対し、引用発明1はそのような特定を有しない点
イ 相違点1~4についての判断
<相違点1、4について>
引用文献1には殺菌水の塩分濃度について記載されていない。しかしながら、次亜塩素酸を用いたドライプロセス処理において、塩分に起因して錆が発生することは上記引用文献3の他、特開2011-50702号公報(【0008】等)、特開2005-138001号公報(【0017】等)にも見られる周知の課題であり、引用発明1にも同様の課題は内在しているといえる。
そして、引用文献3には、三室型電解装置を用いて実質的に塩分を含まないミストを生成する点が記載されており、当該ミストは「500mg/kg以下」を満たすとともに「所定空間内の設備に対する腐食を防止」できるものであると解されるところ、引用発明1において、塩分に起因する錆の発生を防止するとの上記周知の課題を解決するため、引用文献3に記載されたミストを採用すること、すなわち、相違点1、4に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
<相違点2、3について>
引用文献1には次亜塩素酸水の有効塩素濃度について記載されておらず、引用発明1のpHの数値範囲も本願発明1と一部が重複するに止まっている。
しかしながら、引用文献1の【0014】には「水中の遊離残留塩素は、pH3~7.5の範囲ではその80~100%が殺菌力の強い次亜塩素酸(HClO)の形で存在する。この次亜塩素酸は、次亜塩素酸ナトリウムが水に溶けたときに生ずる次亜塩素酸イオンの80倍の殺菌力を有するので、次亜塩素酸濃度が10~200ppmという比較的低濃度でも充分な殺菌効果が得られる。また、この次亜塩素酸は反応性が高く、残留性が少ないから人体に対する影響が少ない。」と記載されているように、次亜塩素酸水の塩素濃度やpHは、ミストの殺菌力と安全性を考慮して、当業者が適宜決定すべき設計事項にすぎないから、引用発明1において、相違点2、3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
<効果について>
上記のように、引用発明1において、相違点1~4に係る本願発明1の構成を採用した際の効果も、格別のものとは認められない。
(2)本願発明18について
ア 本願発明18と引用発明5との対比
引用発明5の「次亜塩素酸を含む電解水」、「生成された電解水ミストを室内に散布することにより、室内の机、棚、テーブル、椅子など物体の表面に、電解水ミストを付着させる」点は、それぞれ、本願発明18の「次亜塩素酸水」、「所定空間内に存在する対象物に次亜塩素酸成分を到達させ」る点に相当する。また、引用文献5には明記されていないものの、引用発明5の方法が本願発明18の「前記対象物を濡らすことなく殺菌又は脱臭を行うドライプロセス処理方法」に相当することは、技術常識に照らして明らかである。
してみると、両者の一致点、一応の相違点はそれぞれ次のとおりである。
・一致点
次亜塩素酸水をドライプロセスにより、所定空間内に存在する対象物に次亜塩素酸成分を到達させ、前記対象物を濡らすことなく殺菌又は脱臭を行うドライプロセス処理方法。
・相違点5
次亜塩素酸水の塩分濃度について、本願発明18が「500mg/kg以下」と特定するのに対し、引用発明5はそのような特定を有しない点
・相違点6
次亜塩素酸水の有効塩素濃度について、本願発明18が「5~200mg/kg」と特定するのに対し、引用発明5はそのような特定を有しない点
・相違点7
次亜塩素酸水のpHについて、本願発明18が「5~8」と特定するのに対し、引用発明5はそのような特定を有しない点
・相違点8
本願発明18が「所定空間内の設備に対する腐食を防止しつつ」行うものであるのに対し、引用発明5はそのような特定を有しない点
イ 相違点5~8についての判断
<相違点5、7、8について>
引用文献5には電解水の塩分濃度について記載されていないが、引用発明5の電解水は、水道水を電気分解して得られるものであることから、実質的に塩分を含んでいないため、「塩分濃度500mg/kg以下」であるということができ、また、実質的に塩分を含んでいないのであるから、このような電解水を用いる除菌方法は「所定空間内の設備に対する腐食を防止しつつ」殺菌又は脱臭が行われるものであるともいえる。
また、引用文献5には電解水のpHについての記載はないが、上述のとおり、引用発明5の電解水は水道水を電気分解して得られるものであるところ、当該電解水のpHは本願発明18の規定する数値範囲に包含される蓋然性が極めて高い(必要であれば、特開2013-47366号公報【0013】等参照)。
したがって、相違点5、7、8は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、相違点5、7、8に係る本願発明18の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
<相違点6について>
引用文献5には電解水の有効塩素濃度について記載されておらず、所定の遊離残留塩素濃度について「例えば1mg(ミリグラム)/l(リットル)」(【0014】)と例示されるに止まる。
しかしながら、上記相違点2についての検討と同様に、次亜塩素酸水の塩素濃度は、ミストの殺菌力と安全性を考慮して、当業者が適宜決定すべき設計事項にすぎないから、引用発明5において、相違点6に係る本願発明18の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
<効果について>
上記のように、引用発明5において、相違点5~8に係る本願発明18の構成を採用した際の効果も、格別のものとは認められない。
(3)請求人の主張について
請求人は、請求書において以下の点を主張しているので、それぞれ検討する。
・請求人は、本願明細書の段落0018、段落0026、段落0027~0028の記載を挙げた上で、「上記の通り、ドライプロセス処理方法に用いる次亜塩素酸水であることを前提として、次亜塩素酸水の塩分濃度に基づく腐食の程度を検証したのであり、上記検証結果から、塩分濃度500mg/kg以下の次亜塩素酸水を含むミストに変換した状態で空間内に発散させることにより、対象物の腐食を防止する効果が得られることは言うまでもなく明らかであります。従って、審査官殿の「根拠となる記載はない」とする認定は誤りであると言わざるを得ません。」と主張している。
しかしながら、本願請求項1に「次亜塩素酸水を気体あるいは粒径1μm以下の次亜塩素酸成分を含むミストに変換した状態で」と記載されているように、本願発明1は次亜塩素酸水を気体に変換する態様を包含するドライプロセスに関するものであるが、請求人の主張に係る明細書の記載は、「塩分濃度の異なる複数種類の次亜塩素酸水を用意し、各次亜塩素酸水に金属板片を浸漬し・・・測定した。」(【0026】)とあるようにウェットプロセスに関するものであり、本願発明1のドライプロセス処理方法における効果を推認できる根拠とはならない。
・請求人は、審査官が挙げた引用文献には「次亜塩素酸水の塩分濃度を500mg/kg以下や200mg/kg以下とした」技術思想は開示されていない旨、主張している。
しかしながら、上記(1)、(2)のとおり、次亜塩素酸水の塩分濃度を
低くすることにより錆の発生を低減させる技術思想は周知であるし、審査官が挙げた引用文献にも塩分を実質的に含まない次亜塩素酸水が開示されている。
よって、請求人の主張は採用できない。
第3 むすび(結論)
上記のとおりであるから、本願発明1および本願発明18は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-017630