2020-016733
ポビドンヨードを使用した感冒の治療および予防
- 審判番号
- 2020-016733
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-503154外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年12月04日
- 審決日
- 2022年01月26日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ファイアブリック・ファーマ・リミテッド
- 【請求人代理人】押田 良隆
- 分類
- P18 .121-Z (A61K)(A61P)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条
- データ出所
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結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成27年7月6日(パリ条約による優先権主張 平成26年7月23日 オーストラリア(AU))を国際出願日とする出願であって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
第2 令和2年12月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年12月4日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項3の記載は次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項3】ヒト被験者における感冒の症状を軽減するために用いられる水性医薬製剤であって、前記水性医薬製剤は、0.10%w/vより高く約2.5%w/v未満の濃度でポビドンヨード(PVP-I)を有効量として含み、かつヒト被験者の鼻道に周囲温度で適用され、PVP-Iの少なくとも50%がリポソームまたは他の粒子状担体に結合しておらず、感冒の原因となるまたは原因となる可能性のある因子がインフルエンザウイルス以外のウイルスである場合に用いられる、水性医薬製剤。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年4月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3の記載は次のとおりである。
「【請求項3】ヒト被験者における感冒の症状を軽減するために用いられる医薬製剤であって、前記医薬製剤は、0.10%w/vより高く約2.5%w/v未満の濃度でポビドンヨード(PVP-I)を有効量として含み、かつヒト被験者の鼻道に周囲温度で適用され、PVP-Iの少なくとも50%がリポソームまたは他の粒子状担体に結合しておらず、感冒の原因となるまたは原因となる可能性のある因子がインフルエンザウイルス以外のウイルスである場合に用いられる、医薬製剤。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「医薬製剤」について、「水性」という限定を付加する補正を含むものであって、補正前の請求項3に記載された発明と補正後の請求項3に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項3に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)の記載より、以下のものである。
「ヒト被験者における感冒の症状を軽減するために用いられる医薬製剤であって、前記医薬製剤は、0.10%w/vより高く約2.5%w/v未満の濃度でポビドンヨード(PVP-I)を有効量として含み、かつヒト被験者の鼻道に周囲温度で適用され、PVP-Iの少なくとも50%がリポソームまたは他の粒子状担体に結合しておらず、感冒の原因となるまたは原因となる可能性のある因子がインフルエンザウイルス以外のウイルスである場合に用いられる、医薬製剤。」
(2)引用文献の記載事項
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ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用された「米国特許出願公開第2003/0180380号明細書」(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は英語であるため、当審合議体による和訳で摘記する。また、下線は当審合議体が付した。
(摘記1a)
「請求項1. 微生物感染のリスクを低減し、最初に鼻粘膜領域で確定された確定微生物感染に対抗する方法であって、鼻の中に鼻スプレー液を適用することを含み、前記鼻スプレー液は、以下の成分のうち1つ以上を有する水溶液を含む:a) 約1ppmwから約50,000ppmwの濃度のヨウ素;b) 約0.5ppmwから約50,000ppmwの濃度の次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム又は次亜塩素酸カルシウム;c) 約55ppmwから約75,000ppmwの濃度の塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム又は塩化カリウム;続きを表示(全12行)d) 約0.7ppmwから約140,000ppmwの濃度の臭化ナトリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム又は臭化カリウム;e) 約0.1ppmwから約160,000ppmwの濃度のヨウ化ナトリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム又はヨウ化カリウム;f) 約0.4ppmwから約50,000ppmwの濃度の塩素;g) 約1ppmwから約75,000ppmwの濃度の臭素;h) 約0.4ppmwから約50,000ppmwの濃度の塩化亜鉛;i) 約0.7ppmwから約80,000ppmwの濃度の臭化亜鉛;j) 約1ppmwから約120,000ppmwの濃度のヨウ化亜鉛;そして任意に、1又はそれ以上の、k) 約1.7ppmwから約60,000ppmwの濃度のグルコン酸亜鉛、及び、約0.01wt%から約5wt%の濃度のグリセリン又はプロピレングリコール。」
(摘記1b)
「[0002] 本発明は概して、広域スペクトルの殺微生物剤であるヨウ素を使用した、微生物による感染症(鼻風邪、インフルエンザ又はその他感染症のようなもの)の治療(予防も)用のものであって、さらに、水性の塩素又は臭素、次亜塩素酸イオン及び/又は塩化物、臭化物又はヨウ化物イオンのうちの1つ以上を含んでいてもよい、水性点鼻液の適用に関するものである。発明の概要[0003] 本発明は概して、充血除去剤タイプの鼻スプレーの要領で鼻道に適用することができる、広域スペクトル殺微生物剤であるヨウ素を含む水溶液の使用(又は適用)に関するものである。このスプレーは、特にヒトに使用することを意図している。これは、風邪のウイルス、インフルエンザ、又は、例えばバクテリア、ウイルス、リケッチア、さらにはカビ及び菌類といった他の感染性微生物因子にさらされていることがわかっている又は疑われる個体に適用できる。これは、また、前記因子に起因する既存の感染症がある場合にも適用することができる。この溶液は、ヨウ素溶液をベースとした活性成分を含み、さらに次亜塩素酸ナトリウム溶液、又は、塩素若しくは次亜塩素酸塩に塩化物、臭化物若しくはヨウ化物の塩を加えた溶液のうちの1つ以上を含んでいてもよい。あるいは、この溶液は、ヨウ素に臭素を加えた溶液、又は、ヨウ素、臭素に塩化ナトリウム、塩化亜鉛、臭化ナトリウム、臭化亜鉛、ヨウ化ナトリウム若しくはヨウ化亜鉛といった塩化物、臭化物、ヨウ化物の塩を加えた溶液を含んでいてもよい。ヨウ素、塩素、次亜塩素酸塩、臭素、塩化物、臭化物及びヨウ化物は、元々無機化合物又は有機化合物に由来するものであってよく、それらは水に溶解される。さらに、ハロゲンやハロゲン化物には脱水性又は乾燥性があるため、溶液にはグリセリン又は他の鼻粘膜用の保湿剤や湿潤剤を含んでいてもよい。鼻粘膜をより滑りやすい状態にして、侵入した微生物のその領域への定着がより難しい状態にするために、グルコン酸亜鉛、又は、塩化亜鉛、臭化亜鉛若しくはヨウ化亜鉛といったハロゲン化亜鉛が含まれていてもよい。」
(摘記1c)
「[0006] したがって、本発明の目的は、感染の入り口、すなわち鼻、特に鼻の中、鼻窩、及び、鼻の中の副鼻腔に薬剤を適用することである。この治療は、既存の感染症を抑制するための治療的なものであっても、鼻の中の微生物に影響を与えることによって呼吸器系への広がりを防ぐための予防的なものであってもよい。そして、鼻スプレーの使用方法に従えば、風邪を“引いた”と判断したときにすぐに適用することができる。それは、息苦しさや筋肉痛、発熱といった風邪の初期症状を感じ始めてから適用することもできる。また、風邪をひいている人と接触して、そのような接触後に風邪をひくことを心配する本当の理由ができたときに、すぐに予防的に適用することもできる。さらに、これは、インフルエンザ及び他の感染症の場合にも同様に、症状及び”感染”の範囲を最小限にするために適用することができる。」
(摘記1d)
「[0008] 本発明は、新しいこと、すなわち、鼻の領域に限局している又は最初から限局している、風邪、インフルエンザ又はその他の微生物感染症を実際に治療する際に、ヨウ素をベースとした溶液が重要な役割を果たす可能性があることを認識している。これは、ヨウ素やヨウ化物、及び、他のハロゲンやハロゲン化物における、非常に多様で広範囲な抗微生物活性によるものである。ヨウ素、塩素、臭素、ヨウ化物、臭化物、及び、塩化物は、バクテリア、ウイルス、及び、他の多くの生物に対して抗微生物活性を有する。風邪、インフルエンザ、及び、他の類似の感染症の場合には、風邪や他の感染症が原因で鼻づまりが起こるのであって、その逆ではない。微生物は、健康な人の鼻腔の奥深くまで容易に侵入し、感染を引き起こし、体がそれに対抗しようとするために鼻づまりを引き起こす。ヨウ素、塩素、次亜塩素酸塩、並びに、臭素、ヨウ化物、臭化物、及び、塩化物は、風邪、インフルエンザ、及び、他の感染症の原因となる実際の微生物を駆除するために効果的である。」
(摘記1e)
「[0017] ヨウ素は、約1ppmw~約50,000ppmw、より好ましくは約10ppmw~約5,000ppmw、さらに好ましくは約10ppmw~約1,600ppmwの濃度で存在する。ポビドンヨード溶液が他のヨウ素溶液に比べて組織への刺激が少ないというよく知られた事実を利用して、ヨウ素は、ポビドンヨード溶液から導入することができる。鼻粘膜の組織は、外部の皮膚組織に比べてあらゆる刺激に敏感であることを考えると、これは非常に有益である。」
(摘記1f)
「 実施例1[0029] 実施例の溶液を調合して、51歳の男性に対し、典型的な鼻づまりを含む鼻風邪の症状を軽減するために使用した。風邪が初期段階に進行した後に適用を開始した。この治療が、風邪の発症の全体的な経過(症状及び程度を含む)をどの程度変化させたのかは不明である。実施例をより具体的に説明するために、その溶液の作り方を具体的に挙げる。[0030] まず、ポビドンヨードの濃度が10%で、相当する遊離ヨウ素の濃度が1%のポビドンヨード液であるBetadine-Iodineを得た。1.5グラムのNaI(ヨウ化ナトリウム)の結晶を45ミリリットルの水に溶かして溶液を作成した。溶質が十分に溶解した後、10%ポビドンヨード液(遊離ヨウ素が1%相当の溶液)を3滴加えた。この溶液を十分に混合し、鼻スプレーボトルに入れた。[0031] このスプレーを、わずかに息を吸いながら、鼻の中に2~4回素早く噴霧して投与した。これを必要に応じて約3~5時間ごとに繰り返した。被験者において、鼻の奥、並びに、扁桃腺及びアデノイドを含む咽頭の炎症が減少するだけでなく、粘膜の産生量の減少がみられた。さらにスプレーを使用すると、鼻や副鼻腔の詰まりが解消され、痛みといった他の風邪の症状も減少又は軽減した。」
イ 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において「引用文献2」として引用された「International Journal of Pharmaceutics, 2006, Vol.317, No.2, p.161-166」(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は英語であるため、当審合議体による和訳で摘記する。また、下線は当審合議体が付した。
(摘記2a)
「有効ヨウ素の量は、殺微生物活性の評価には適切な尺度ではない。このため、平衡透析によって遊離ヨウ素を測定する必要がある。」(Abstract 第3-4行)
(摘記2b)
「Horn and Ditter (1983)の詳細な研究により、水性ポビドンヨード(PI)溶液中のヨウ素の結合は複雑であり、ヨウ素の遊離種は、(a)ヨウ素/ヨウ化物間、(b)三ヨウ化物/ポリマー間、及び、(c)ヨウ素/三ヨウ化物-ポリマー複合体間における結合した可逆的相互作用を含む質量作用の法則によって形式的に制御されていることがよく知られている。これらの平衡の結合は、水性PI濃縮液において、殺微生物力の指標となる遊離ヨウ素の顕著なリザーバー効果を構成する。共にベルギーのマーケットで入手でき、それぞれ10%PI及び7.5%PIを含有するiso-Betadine<R>及びBraunol<R>、並びに、スイスのマーケットから入手できるBetadine<R>の3種類の市販の水性PI溶液を比較することが、本研究の目的である。Braunol<R>及びBetadine<R>は共にNaIO3で安定化されているが、iso-Betadineは安定化されていない。Betadine<R>は、したがって、以後標準化Betadine<R>と呼び、iso-Betadine<R>は非標準化iso-Betadine<R>と呼ぶ。この3種類の市販溶液について、平衡透析法を用い、非希釈時と希釈時における、遊離種、並びに、ヨウ素、ヨウ化物及び三ヨウ化物の結合種の含有量を分析した。そして、それらの殺微生物活性を比較した。」(Introduction 第1~2段落)(当審注:<R>は丸にRを示す。以下同様。)
(摘記2c)
「[図:0001385641000001.jpg]図1. ポビドンヨード濃度の関数としての遊離ヨウ素。」(第163頁左欄下)
(当審注:図中の「BTD<R>-Stand」及び「iso-BTD<R>」はそれぞれ、摘記2bの記載に照らして「Betadine<R>」及び「iso-Betadine<R>」を意味する。)
ウ 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由において「引用文献3」として引用された「Dermatology, 2002, Vol.204, No.suppl 1, p.114-120」(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は英語であるため、当審合議体による和訳で摘記する。また、下線は当審合議体が付した。
(摘記3a)
「鼻粘膜の繊毛上皮に対するPVP-I製剤の毒性学的安全性についても最近の結果が現在得られており、皮膚やその他の粘膜に対する良好な忍容性も知られていることから、現在、MRSAのコロニー形成を防ぐための比較臨床試験が行われている。また、最近では、PVP-Iの単純ヘルペス、アデノウイルス、エンテロウイルスに対する抗ウイルス活性が、クラミジアに対する高い有効性と同様に証明されている。」(第114頁左欄下から2行~右欄第8行)
(摘記3b)
「PVP-Iの鼻腔内繊毛上皮に対する忍容性殺菌効果に加えて,局所的な忍容性もまた,抗感染症治療の適合性に決定的な影響を与える。一般的に、PVP-I製剤の皮膚や粘膜への良好な忍容性は、様々なin vitro及びin vivoの研究から知られており[10]、長年の成功した臨床使用によって確認されている。表1. PVP-I(Betaisodona solution, 12.5%)によるインキュベーション前(コントロール)と後の上皮の繊毛周波数続きを表示(全11行)[図:0001385641000002.jpg]暴露時間5分。繊毛の周波数:n = 100、すなわち、10人のボランティアからそれぞれ10種類の繊毛細胞を採取した。しかし、鼻粘膜の最も敏感な部分である繊毛上皮に対するPVP-Iの影響についてのデータはなかった。局所忍容性の重要な側面を調査するために,繊毛周波数を標準的に測定するin vitroモデルを使用した[11]。繊毛周波数は,上皮の生存率と機能に非常に敏感なパラメータである。簡単に言うと、健康なボランティア10名の下鼻甲介から採取した新鮮な繊毛細胞を、生理学的条件(37℃、ダルベッコ培地)で培養した。繊毛周波数は、フォトグラフィックセルを介して繊毛活動をコンピュータプログラムTurbolab(Stemmer Software GmbH,ドイツ)で分析したデジタル信号に変換する特殊な顕微鏡装置(Olympus Optical GmbH, ドイツ)を用いて測定された。周波数は、異なる濃度のBetaisodona溶液に細胞を5分間曝す前(コントロール)と後に測定した。その結果、50%と25%のBetaisodona溶液では、構造的な損傷は見られなかったものの、繊毛の活動が完全に阻害されることがわかった。また、12.5%Betaisodona溶液(1.25%PVP-I)では、阻害効果は見られなかった(表1)。このことは、適切な濃度と処方のPVP-Iは、上気道の最も敏感な上皮に良好な忍容性を示し、クロルヘキシジンやムピロシンと比較して、鼻の短時間治療に好適であると結論付けられる[12,13]。」(第115頁右欄下から9行~最終行、第117頁左欄第1~5段落、表1)
エ 引用文献4の記載事項
原査定の拒絶の理由において「引用文献4」(周知技術を示す文献)として引用された「特開2012-92153号公報」(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。
(摘記4a)
「【0047】ハロゲン化合物はまた、広いスペクトルの抗菌効果を有することが示されている。塩素は、水処理(例えば水道、冷却塔、用水プール・水泳プール(swimming pool)および鉱泉・温泉(spa))において使用される前線消毒薬として考えられる。塩素は、しばしば、ほぼ1000ppmで使用されるが、用水プール・水泳プール(swimming pool)および鉱泉・温泉(spa)においては一般的に全塩素濃度が3ppmと5ppmの間である。臭素は防腐剤および消毒薬として使用されている。臭素はほぼ1000ppmの濃度で防腐剤として、約4~6ppmで水処理用として効果的である。ヨウ素は、消毒薬として、および防腐剤としての両方に使用される。一般的には、約1~2%の濃度で防腐剤として使用される。ポビドンヨードは、以下:【0048】【化6】[図:0001385641000003.jpg]を含む細菌の広いスペクトルに対して抗菌活性を有することが示されている。広いスペクトルの細菌に対する活性に加えて、ポビドンヨード(ヨードフォア)は、アデノウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ロタウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、ライノウイルス、単純ヘルペスウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルスおよびヒト免疫不全ウイルス(HIV)を固定化するのに有効であることが分かっている(R.Kawanaら、Dermatology 195、補遺2、29~35(1997)を参照こと)。」
オ 引用文献5の記載事項
原査定の拒絶の理由において「引用文献5」(周知技術を示す文献)として引用された「特表2008-520258号公報」(以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。
(摘記5a)
「【0007】ヨウ素は有効な抗ウイルス剤であり、皮膚上で残効性の抗ライノウイルス活性をもたらすことが知られている。実験的に誘発した風邪と自然の風邪との伝染の研究において、ヨウ素製品を使用した被験者は、プラセボを使用したユーザーより顕著に風邪が軽かった。このことは、ヨウ素が長期間にわたってライノウイルス感染の伝染防止に有効であることを示している。従って、即効性と残効性の抗ウイルス活性を共にもたらす(ヨウ素に付随する色やにおいの欠点がない)手用の製品、ローション、又は洗浄剤の開発は、風邪の発生率の低下に有効であると考えられる。同様に、抗ウイルス活性を示す局所製品は、アデノウイルス、ロタウイルス、ヘルペスウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、コロナウイルス、パラインフルエンザ・ウイルス、エンテロウイルス、インフルエンザ・ウイルスなどのその他のウイルスにより引き起こされるウイルス誘発疾病の予防および/又は治療に有効であると考えられる。」
カ 引用文献6の記載事項
原査定の拒絶の理由において「引用文献6」(周知技術を示す文献)として引用された「特表2008-523066号公報」(以下「引用文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。
(摘記6a)
「【0057】例えば、ライノウイルスは「感冒」と呼ばれる急性呼吸器疾患に付随する最も有意な微生物である。他のウイルス(例えば、パラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、エンテロウイルス、およびコロナウイルス)もまた、「感冒」の症状を引き起こすことが知られているが、ライノウイルスは、最も多数の感冒を引き起こすと理論付けられている。ライノウイルスはまた、中でも、制御することが最も困難な感冒を引き起こすウイルスであり、4日以上にわたって乾燥した硬い表面上で生存できる能力を有している。加えて、ほとんどのウイルスは、70%エタノール溶液に対して暴露されると不活化される。しかし、ライノウイルスは、エタノールに暴露されても生存したままである。【0058】ライノウイルスは感冒について知られている最大原因であるため、抗ウイルス作用を有している組成物がライノウイルスに対して活性があることが重要である。ライノウイルスの分生生物学は現在理解されているが、ライノウイルスによって引き起こされる感冒を予防するため、および感染していない被験体に対するウイルスの拡散を防ぐための有効な方法を見出すことは無意味ではない。【0059】ヨウ素が有効な抗ウイルス剤であり、そして皮膚上で持続的な抗ライノウイルス作用を提供することは公知である。実験によって誘導された感冒および自然なままの感冒の伝染の実験においては、ヨウ素製品を使用した被験体は、プラセボを使用した者よりも有意に少ない数の感冒を有していた。これは、ヨウ素がライノウイルス感染の伝染をブロックすることについて長期間にわたって有効であることを示している。したがって、即座の抗ウイルス作用と持続的な抗ウイルス作用の両方をもたらす製品の開発が、感冒の離間率を低下させることにおいて有効である。同様に、抗ウイルス作用を示す局所に適用される組成物は、他の非エンベロープウイルス(酸に不安定なウイルスを含む)によって引き起こされる疾患を予防および/または処置することにおいて有効である。」
キ 引用文献9の記載事項
本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「臨床とウイルス, 1998, Vol.26, No.5, p.371-386」(周知技術を示す文献)(以下「引用文献9」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。
(摘記9a)
「7) ライノウイルス;Table 13に示すように,PVP-I原末によるライノウイルスの不活化は濃度依存性でなく,濃度0.05~0.1%で最大の不活化が示されたが,PVP-I 5%では2log程度の不活化しか見られなかった。Table 14に示すように,PVP-I製剤は2~3logの不活化を示したが,他の消毒剤は不活化効果を示さなかった.」(第378頁左欄第3~10行)
(摘記9b)
「[図:0001385641000004.jpg]」
(第382頁)
ク 引用文献10の記載事項
「『ツイート(akio)』、[online]、2013年11月22日、[2021年11月16日検索]、<URL: https://twitter.com/ciaoakio/status/403764534990483456>」(周知技術を示す文献)(以下「引用文献10」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、「午後2:59・2013年11月22日」という日時の記載から、本願の優先権主張の日前の2013年11月22日に公開されたものと認められる。
(摘記10a)
「風邪の時、鼻の奥に綿棒突っ込んでイソジンを塗るという荒業をやってたら鼻の奥の大きさが違う事に気づいた。」
ケ 引用文献11の記載事項
「『ツイート(YSK)』、[online]、2010年11月4日、[2021年11月16日検索]、<URL: https://twitter.com/kyock_you/status/29640490815>」(周知技術を示す文献)(以下「引用文献11」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、「午後1:37・2010年11月4日」という日時の記載から、本願の優先権主張の日前の2010年11月4日に公開されたものと認められる。
(摘記11a)
「とりあえず風邪対策にルルEXを飲みつつイソジンのどスプレー使って鼻スプレーもやって口内炎塗り薬使ってるなう。」
コ 引用文献12の記載事項
「『うがい薬のイソジン(ポビドンヨード)は、鼻の中の消毒にも使っていいのでしょうか?-Yahoo!知恵袋』、[online]、2006年9月17日、[2021年10月14日検索]、<URL: https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q139378933>」(周知技術を示す文献)(以下「引用文献12」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、ベストアンサーの「2006/9/17 21:03」という日時の記載から、本願の優先権主張の日前の2006年9月17日に公開されたものと認められる。
(摘記12a)
「うがい薬のイソジン(ポビドンヨード)は、鼻の中の消毒にも使っていいのでしょうか?」
(摘記12b)
「鼻風邪を引いた時には5倍ぐらいに希釈したものを目薬の容器に入れて、上を向いて鼻に垂らし込みます。結構効果あります。」
サ 引用文献13の記載事項
本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった「特表2003-500435号公報」(以下「引用文献13」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。
(摘記13a)
「 【請求項20】 ヒトまたは動物の気道に、少なくとも1種の抗炎症剤、特に防腐剤および/または創傷治癒促進剤を粒状担体と組合わせて含有する医薬製剤を投与することによる、前記気道における機能的かつ美容的な組織の再構築および修復方法。」
(摘記13b)
「 【請求項26】 防腐剤がポビドンヨードである、請求項20に記載の方法。」
(摘記13c)
「 【請求項28】 担体製剤、特にリポソーム製剤が、長時間、好ましくは数持続時間もの長時間にわたって前記物質を放出する、請求項20に記載の方法。【請求項29】 担体製剤、特にリポソーム製剤が、放出時間全体にわたってほぼ同じ放出速度で前記物質を放出する、請求項20に記載の方法。」
(3)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、ヒトの鼻道にスプレーして使用する、広域スペクトルの殺微生物剤であるヨウ素を含む水溶液に関する発明について開示され(摘記1b)、ヨウ素やヨウ化物等は、風邪、インフルエンザ、他の感染の原因となる実際の微生物を駆除するのに効果的であることが記載されている(摘記1d)。
また、引用文献1には、実施例1として、1.5gのNaI、45mLの水、及び、10%ポビドンヨード液(遊離ヨウ素が1%相当の溶液)3滴からなる溶液を調製し、鼻風邪の症状を有する51歳の男性の鼻道にスプレーしたところ、咽頭の炎症や鼻づまり等の風邪の症状が軽減したことが記載されている(摘記1f)。
そうすると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ヒトにおける鼻風邪の症状を軽減するために用いられる溶液であって、前記溶液は、1.5gのNaI、45mLの水、及び、10%ポビドンヨード液(遊離ヨウ素が1%相当の溶液)3滴からなり、かつ、ヒトの鼻道にスプレーされる、溶液。」
(4)本件補正発明と引用発明との対比
引用発明の「ヒト」、「鼻風邪」、「スプレー」はそれぞれ、本件補正発明の「ヒト被験者」、「感冒」、「適用」に相当する。
また、引用発明の「1.5gのNaI、45mLの水、及び、10%ポビドンヨード液(遊離ヨウ素が1%相当の溶液)3滴からな」る「溶液」は、NaIやポビドンヨード等の溶質が水に溶解した水性のものであって、鼻風邪の症状を軽減するという治療目的で用いられる医薬製剤といえるから、水性医薬製剤である。
また、引用発明の「10%ポビドンヨード液(遊離ヨウ素が1%相当の溶液)」は、引用文献1に、リポソーム及びその他の粒子状担体を含有すると記載されていないことから、遊離ヨウ素が1%相当となる10%のポビドンヨードと、溶液を形成する溶媒から実質的に形成されていると解される。したがって、引用発明におけるポビドンヨードについては、リポソーム及びその他の粒子状担体を含有しないのであるから、当然、その50%以上がリポソーム又は他の粒子状担体に結合していることはないといえる。なお、本件補正発明においても、リポソーム又は他の粒子状担体を含有しない態様が含まれると解される(本願明細書【0113】等)。
また、引用文献1には、鼻風邪のヒトの鼻道にスプレーする際に、温度調整を行うことが記載されていないし、このように鼻風邪のヒトに鼻スプレーをする際に温度調整をするのが一般的であるという事情があるともいえない。したがって、引用発明のスプレーをする際の温度は、周囲の温度のままと解される。
そうすると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ヒト被験者における感冒の症状を軽減するために用いられる水性医薬製剤であって、前記水性医薬製剤は、ポビドンヨード(PVP-I)を含み、かつヒト被験者の鼻道に周囲温度で適用される、水性医薬製剤。」
<相違点1>
ヒト被験者の感冒の原因に関して、本件補正発明には「感冒の原因となるまたは原因となる可能性のある因子がインフルエンザウイルス以外のウイルスである」と規定されているのに対して、引用発明には当該規定がない点。
<相違点2>
水性医薬製剤の組成について、本件補正発明は、「0.10%w/vより高く約2.5%w/v未満の濃度でポビドンヨード(PVP-I)を有効量として含み、」「PVP-Iの少なくとも50%がリポソームまたは他の粒子状担体に結合して」いないものであるのに対し、引用発明は、「1.5gのNaI、45mLの水、及び、10%ポビドンヨード液(遊離ヨウ素が1%相当の溶液)3滴からな」る点。
(5)相違点についての判断
ア 相違点1について
引用発明において、鼻風邪とインフルエンザは別異のものとして扱われ、「鼻風邪」の原因となるのは、風邪ウイルスであるところ(摘記1b)、この風邪ウイルスは、本願補正発明における「感冒の原因となるまたは原因となる可能性のある因子」である「インフルエンザウイルス以外のウイルス」に相当することは明らかである。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 相違点2について
(ア)引用文献1には、鼻スプレー液がa~jの成分のうち1つ以上を有すると記載されている(摘記1a)ところ、a成分は「約1ppmwから約50,000ppmwの濃度のヨウ素」、e成分は「約0.1ppmwから約160,000ppmwの濃度のヨウ化ナトリウム、・・・」である。そして、引用文献1には、「ポビドンヨード溶液が他のヨウ素溶液に比べて組織への刺激が少ないというよく知られた事実を利用して、ヨウ素は、ポビドンヨード溶液から導入することができる。鼻粘膜の組織は、外部の皮膚組織に比べてあらゆる刺激に敏感であることを考えると、これは非常に有益である。」(摘記1e)とも記載されている。
そうすると、引用文献1には、鼻粘膜の組織が刺激に敏感であることから、「約1ppmwから約50,000ppmwの濃度のヨウ素」という広範な濃度範囲内でヨウ素を含むように、ヨウ素をポビドンヨード溶液から導入すること、すなわち、ポビドンヨードのみを含む鼻スプレー液の態様も記載されているといえ、引用発明における「1.5gのNaI、45mLの水、及び、10%ポビドンヨード液(遊離ヨウ素が1%相当の溶液)3滴からな」る溶液については、敏感な鼻粘膜に対する刺激の少なさという観点から、NaI(ヨウ化ナトリウム)とポビドンヨードという2種の成分よりも、組織への刺激が少なくヨウ素を導入することができるポビドンヨードのみを含む溶液の方が好ましいと、当業者であれば理解することができる。
(イ)また、引用文献2には、「有効ヨウ素の量は、殺微生物活性の評価には適切な尺度ではない。このため、平衡透析によって遊離ヨウ素を測定する必要がある」(摘記2a)と記載されていることから、殺微生物活性は、有効ヨウ素の濃度ではなく、遊離ヨウ素の濃度で決まるといえる。また、引用文献2に、「水性ポビドンヨード(PI)溶液中・・・ヨウ素の遊離種は、(a)ヨウ素/ヨウ化物間、(b)三ヨウ化物/ポリマー間、及び、(c)ヨウ素/三ヨウ化物-ポリマー複合体間における結合した可逆的相互作用を含む質量作用の法則によって形式的に制御されている」(摘記2b)と記載されていることから、ポビドンヨード溶液中では、遊離ヨウ素及びポビドンヨードを含む各ヨウ素種同士が質量作用の法則の関係(化学平衡)にあり、遊離ヨウ素の濃度は、ポビドンヨードの濃度が決まれば自ずと決まるものといえる。そして、引用文献2における「iso-Betadine<R>」、「Braunol<R>」及び「Betadine<R>」という3種類の市販のポビドンヨード溶液における遊離ヨウ素等の含有量を分析した実験(摘記2b)に対する結果を示した図(縦軸:遊離ヨウ素(mg/L)、横軸:ポビドンヨウ素(g/L))(摘記2c)から、ポビドンヨード溶液中で遊離ヨウ素の濃度が最も高くなるのは、ポビドンヨードの濃度が約1~3g/L(約0.1~0.3%w/v)の時であると理解できる。
また、引用文献3には、ポビドンヨード溶液の鼻腔内繊毛上皮に対する忍容性の実験結果として、「50%と25%のBetaisodona溶液では、構造的な損傷は見られなかったものの、繊毛の活動が完全に阻害されることがわかった。また、12.5%Betaisodona溶液(1.25%PVP-I)では、阻害効果は見られなかった(表1)。」「このことは、適切な濃度と処方のPVP-Iは、上気道の最も敏感な上皮に良好な忍容性を示し、クロルヘキシジンやムピロシンと比較して、鼻の短時間治療に好適であると結論付けられる[12,13]。」(摘記3b)と記載されており、ポビドンヨード溶液は、少なくとも1.25%以下の濃度であれば、鼻粘膜が忍容性を示し、鼻の治療に好適に用い得ると理解できる。
してみると、上述した、ポビドンヨード溶液で遊離ヨウ素の濃度が最も高くなる、約0.1~0.3%w/vというポビドンヨードの濃度は、鼻粘膜が忍容性を示し、鼻の治療に好適に用い得る1.25%以下の濃度であって、鼻道に適用するに当たって好適な濃度の範囲内にあるといえる。
(ウ)そうすると、引用発明における「1.5gのNaI、45mLの水、及び、10%ポビドンヨード液(遊離ヨウ素が1%相当の溶液)3滴からな」る溶液について、上記(ア)で説示したように、敏感な鼻粘膜に対する刺激を少なくするべく、ポビドンヨードのみを含む溶液であって、上記(イ)で説示したとおり、遊離ヨウ素濃度が最も高くなる濃度であって、鼻粘膜への適用に当たって好適な範囲内といえる濃度である、約0.1~0.3%w/v程度とし、相違点2の本件補正発明の構成を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。
(6)本件補正発明の効果について
ア 本願明細書の実施例1には、鼻道のHRV(ヒトライノウイルス)感染症及び感冒の総体的症状について公表されている情報から導かれる各種変数及び仮定を組み込んで創り出し、臨床試験からのデータに基づいて較正した、経時的なEVL(細胞外ウイルス量)と全般的なかぜ症状の重症度を予測する、ヒトライノウイルスによって引き起こされる典型的な感冒感染の数理モデル(HRVモデル)における予測において、ポビドンヨードで治療された者の、鼻におけるウイルス量(図1)が低下し、かぜ症状スコア(TSS;総症状スコア)(図2)が減少したことが記載されている。
実施例2には、ヒトライノウイルスかぜを疑われた3名及び非ヒトライノウイルスかぜを疑われた1名に対して、市販の製剤と生理食塩水(およそ1:30希釈)を混合して得られた、0.25%ポビドンヨードのPVP-I NS製剤(鼻内スプレー製剤)を所定の用法で使用した治療を、かぜ症状に最初に気づいてからおよそ24時間後に始めたところ、副鼻腔炎、中耳炎又は気管支炎を含む二次的疾病に罹患した者はおらず、プラセボ対照群を使用する公表された研究で報告されている、未治療患者についての典型的な結果と比較して、総症状スコア及びかぜの持続期間が減少したことが記載されている(図3~7及び13、表2)。
実施例3には、成人1名が、18ヵ月の期間にわたってかぜを回避する方法として、実施例2で用いたものと同一のPVP-I NS製剤を、かぜ症状を呈した人に出くわしたときのみ所定の用法で使用することを続けたところ、その使用者は、かぜに罹る自身のリスクを大いに減少させ、症状は、1回かぜが発生した程度に大いに改善され、二次的疾病は全く起こらないと考えたことが記載されている。
実施例4には、定期的なかぜ罹患者であった成人2名が、かぜの最初の徴候時(かぜの症状を経験し始め、症状がかぜのものであると確信した場合)に、PVP-I NS製剤を所定の用法で使用したところ、公表されている試験から推定された典型的な未治療の場合、及び、かぜ症状に最初に気づいてからおよそ24時間後に治療を始めた実施例2の場合と比較して、総症状スコアが減少したことが記載されている(図8~13、表3)。
イ しかしながら、引用文献1における「本発明は概して、広域スペクトルの殺微生物剤であるヨウ素を使用した、微生物による感染症(鼻風邪、・・・)の治療(予防も)用の・・・水性点鼻液の適用に関するものである。」(摘記1b)という記載、及び、ポビドンヨードを含む溶液によって風邪の症状が軽減した実施例1(摘記1f)の記載から、本願明細書の実施例1において、ポビドンヨードにより、かぜの代表的な原因ウイルスであるヒトライノウイルスのウイルス量及び総症状スコアが減少したというHRVモデルの結果、及び、実施例2~4において、0.25%のPVP-I NS製剤により、かぜの治療及び予防ができたという効果は、当業者が予測できたものにすぎない。
また、上記実施例1のHRVモデルの結果は、数理モデルであって、実際の臨床結果を正確に反映するものかどうか定かではないし、上記実施例2~4においては、かぜの原因ウイルスの種類も、ウイルスの減少した程度も確認されていないから、ポビドンヨードの効果が当業者の予測を超える顕著なものということもできない。
ウ したがって、引用発明における溶液を「0.10%w/vより高く約2.5%w/v未満の濃度でポビドンヨード(PVP-I)を有効量として含」む溶液とした本件補正発明が、当業者の予測を超える顕著な効果を奏するものであるとはいえない。
(7)請求人の主張について
以下、令和2年12月4日提出の審判請求書(以下「請求書」という。)及び令和3年4月22日提出の上申書(以下「上申書」という。)における請求人の主張について検討する。
ア 請求人は、本願の優先権主張の日時点で、当業者は遊離(分子)ヨウ素のみに抗菌作用(当審注:一般的に抗菌と抗ウイルスとは異なる概念であるが、請求書の「抗菌」は、文脈からみて抗ウイルスを含むと理解した。以下では、請求書の記載のとおり「抗菌」と表記し、抗ウイルスを含むものとして扱う。)があると理解していたから、ポビドンヨードの使用量がごく僅かである引用文献1の製剤については、基本的に抗菌作用がないか、あるいは、認められる抗菌効果は他の成分によるものであると理解する旨を主張する(請求書10頁4~7行、21~22行)。
しかしながら、上記(3)において説示したように、引用文献1には、実施例1の溶液(引用発明に係る溶液)を、鼻風邪に罹患した男性の鼻道にスプレーしたところ、風邪の症状が軽減したことが記載されているのであるから、引用文献1の実施例の溶液におけるポビドンヨードの使用量が僅かであるからといって、当業者が当該溶液に基本的に抗菌作用がないと理解するとはいえない。
仮に、請求人が主張するように、引用文献1の製剤において、ポビドンヨードによる抗菌効果が基本的にないと当業者が理解したとしても、上記(5)イにおいて説示したとおり、ポビドンヨードを約0.1~0.3%w/v程度とし、抗菌効果を十分に発揮させることを当業者が容易に想到しえたものといえる。
したがって、請求人の上記主張は、上記(5)における判断を左右するものではない。
イ 請求人は、患者の鼻道には遊離ヨウ素を不活性化する多量の鼻粘膜分泌物を含むことが知られており(本願明細書【0036】)、引用文献1の製剤には抗菌作用がないことから(特に、ムチンの存在下において)、引用文献1で治療される患者に見られる効能は、液体製剤を患者の鼻道に塗布したことによる、単に鼻洗浄による可能性が高いと、当業者は理解する旨を主張する(請求書10頁10~16行、23~29行)。
しかしながら、請求人の上記主張は、引用文献1の製剤に抗菌作用が基本的にないことを前提とするものであるところ、その前提が誤りであることは、上記アで説示したとおりである。
また、引用発明における溶液による効果が鼻洗浄によるものであるとする主張は、具体的な根拠に欠ける。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
ウ 請求人は、引用文献1(【0017】)には、ポビドンヨード溶液からのヨウ素が他のヨウ素溶液よりも組織に対する刺激が少なく好ましい旨が記載されているが、引用文献1の製剤の刺激が少ないのは遊離ヨウ素の量が僅かだからであると当業者は理解する旨を主張する(請求書10頁17~22行)。
しかしながら、ポビドンヨードが組織に対する刺激が少ないことは、引用文献1の【0017】だけでなく、引用文献3にも、「鼻粘膜の繊毛上皮に対するPVP-I製剤の毒性学的安全性についても最近の結果が現在得られており、皮膚やその他の粘膜に対する良好な忍容性も知られている」(摘記3a)及び「一般的に、PVP-I製剤の皮膚や粘膜への良好な忍容性は、様々なin vitro及びin vivoの研究から知られており[10]、長年の成功した臨床使用によって確認されている。」(摘記3b)と記載されていることから、一般に広く認識されていたと理解するのが相当である。そうすると、単に引用文献1の製剤の刺激が少ないのは遊離ヨウ素の量が僅かだからであるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
エ 請求人は、上記ア~ウの主張を踏まえて、当業者が引用文献1の製剤の抗菌作用を高めようとする理由がない旨を主張する(請求書10頁最終行~11頁2行)。
しかしながら、請求人の上記ア~ウの主張は採用できないから、それらを踏まえた請求人の上記主張も採用できない。
オ 請求人は、引用文献3の118頁に、ポビドンヨードに対し耐性があると記載されている、コクサッキーウイルス等のエンテロウイルス属には、ライノウイルスが含まれること、引用文献3の図5において、ポビドンヨードの濃度が最も高い2.5%(1:4の希釈)の場合でさえ、5分後の暴露後でもライノウイルスに対する殺菌作用を得られなかったこと、引用文献3と同じ筆者らによる研究論文(Dermatolgy,1997,195(2):3-9)に記載されたポビドンヨードの殺菌スペクトルに、ライノウイルスが挙げられていないこと等を指摘して、引用文献3は、ライノウイルスによる気道の感染症の治療又は予防にポビドンヨードが使用できることについて、開示も合理的な示唆もしておらず、ポビドンヨードがライノウイルスに対し殺ウイルス性がないことと併せて考慮すると、本願明細書に記載の結果は驚くべき結果である旨を主張する(請求書11頁8行~14頁8行)。
しかしながら、引用文献3及び同じ著者らによる上記研究論文には、ポビドンヨードがライノウイルスに対して有効性を示さないことが明記されているわけではないし、むしろ、引用文献3の図5は、ポビドンヨードが、インフルエンザウイルスよりも速効性に劣るものの、ライノウイルスに有効であることを示すものであるから、引用文献3及び同じ著者らによる上記研究論文に記載された事項が、引用文献1の記載と矛盾するというものでもない。
したがって、請求人の上記主張は、上記(5)及び(6)で説示した判断を左右するものではなく、採用できない。
なお、ポビドンヨードがライノウイルスに対して殺ウイルス性を示すことは、以下(i)~(iv)に示すように、本願の優先権主張の日時点において周知であったことは明らかであることを考慮すると、請求人の、ポビドンヨードがライノウイルスに対し殺ウイルス性がないとの主張も採用できない。
(i) 引用文献4には、「ポビドンヨード(ヨードフォア)は、・・・、ライノウイルス、・・・を固定化するのに有効であることが分かっている」(摘記4a)と記載されている。
(ii) 引用文献5には、「ヨウ素は有効な抗ウイルス剤であり、皮膚上で残効性の抗ライノウイルス活性をもたらすことが知られている」(摘記5a)と記載されている。
(iii) 引用文献6には、「ヨウ素が有効な抗ウイルス剤であり、そして皮膚上で持続的な抗ライノウイルス作用を提供することは公知である。」(摘記6a)と記載されている。
(iv) 引用文献9には、「Table 13に示すように,PVP-I原末によるライノウイルスの不活化は・・・,濃度0.05~0.1%で最大の不活化が示された・・・.」(摘記9a)と記載され、実際にライノウイルスを不活化した結果がTable 13(摘記9b)に記載されている。
カ 請求人は、ポビドンヨードがウイルスに接触し不活性化する時間が、粘液線毛クリアランス並びに粘液性分泌物(鼻漏)による希釈及び排除により極めて短いことを考慮すると、当業者は、ウイルスの不活性化に依存する薬剤は、効果をもたらすのに30秒以内、確実に2分以内に殺ウイルス性を有する必要があると想定するものの、ポビドンヨードは、ライノウイルスに対しin vitroで2分以内の殺ウイルス性を有しないこと(当審注:引用文献3の図5を前提に主張していると解される)、前記粘液性分泌物中のムチンによりポビドンヨードが急速に不活性化すること、及び、ポビドンヨードは鼻の細胞に入らない局所薬剤であるのに対し、ライノウイルスの複製は鼻の細胞内に排他的に起こるから、ポビドンヨードが鼻粘液中のウイルス量を一時的に僅かに低下させ得ても、感染した細胞が破裂し、より多くのウイルスを放出すると、鼻粘膜中のウイルス量が補充されてしまうことを指摘して、当業者はポビドンヨードが感冒の治療に効果が無いと想定する旨を主張する(請求書14頁9行~15頁2行、上申書4頁22~46行)。
しかしながら、請求人の主張は、ライノウイルスに対してin vitroで2分以内の殺ウイルス性を有しないと、ポビドンヨードを鼻道に適用しても感冒の治療に効果が無いとする、具体的な根拠に欠ける。
また、鼻道にポビドンヨードを適用して、感冒を実際に治療することは、本願の優先権主張の日時点における日本においては日常生活で一般的に行われていたことを考慮すると(引用文献10~12;摘記10a~12b)、引用文献3の図5の記載があるからといって、ポビドンヨードを鼻道に適用しても感冒の治療に効果が無いと当業者が想定したとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
キ 請求人は、引用発明が「水溶液の製剤」であるのに対し、本件補正発明の「水性医薬製剤」は、ポビドンヨードを含む水相と、ポビドンヨードを閉じ込め、あるいはポビドンヨードと結合した「リボソーム相(格子状担体を含む)」(当審注:「リボソーム」は「リポソーム」の誤記と判断した。)との2相から構成されるスラリー(懸濁液)のような水性製剤である点で相違する旨を主張する(請求書15頁3~9行、上申書5頁1~10行)。
しかしながら、本件補正発明に係る請求項3を引用する請求項15において、「前記医薬製剤が、リポソームを含有しない」ことを発明特定事項としていること、及び、本願明細書には、「本明細書において使用される場合、・・・「非リポソームPVP-I」または「非リポソームPVP-I製剤」という用語は、PVP-Iの大部分が、リポソームまたは他の粒子状担体に閉じ込められていない、カプセル化されていないまたは別のやり方で結合されていない、PVP-Iの製剤を指す。」(【0005】)、「・・・本発明は、リポソームPVP-I製剤が、感冒の治療における使用には適しておらず、非リポソームPVP-I製剤であることが非常に好ましいことを認識している。」(【0094】)、「医薬製剤は、リポソームを含有しないことがさらに好ましい。」(【0113】)等と記載されていることを考慮すると、本件補正発明の「少なくとも50%がリポソームまたは他の粒子状担体に結合しておらず」とは、リポソーム又は他の粒子状担体を含有しない態様も含むと解される。
そうすると、請求人が主張する「ポビドンヨードを含む水相と、リポソーム相(格子状担体を含む)との2相から構成されるスラリー(懸濁液)のような水性製剤」であることは、本件補正発明の必須の発明特定事項ではないから、2相から構成されるスラリーのような水性製剤の点は、引用発明との相違点ではない。
なお、仮に、本件補正発明が、リポソームを含む2相の水性懸濁液であるとしても、引用文献13に記載されているように、ポビドンヨードについて、長時間放出したり、放出時間全体にわたってほぼ同じ放出速度としたりするために、リポソームを含む製剤とすることは既に知られた技術である(摘記13a~13c)から、引用発明に係る溶液において、リポソームに包含したポビドンヨードを用いることに特段の困難性は見いだせないし、そのことにより顕著な効果を奏することが本願明細書に記載されているわけでもない。したがって、仮に請求人が主張する上記相違点が存在するとしても、本件補正発明が、当業者において容易に想到し得たものであるという結論は変わらない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
ク 以上ア~キのとおり、請求人の主張を検討しても、上記(5)及び(6)で説示した判断に誤りはない。
(8)小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明並びに引用文献1~3に記載された事項に基いて、本願の優先権主張の日前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年12月4日にされた手続補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~24に係る発明は、令和2年4月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~24に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項3の記載より、以下のものである。
「ヒト被験者における感冒の症状を軽減するために用いられる医薬製剤であって、前記医薬製剤は、0.10%w/vより高く約2.5%w/v未満の濃度でポビドンヨード(PVP-I)を有効量として含み、かつヒト被験者の鼻道に周囲温度で適用され、PVP-Iの少なくとも50%がリポソームまたは他の粒子状担体に結合しておらず、感冒の原因となるまたは原因となる可能性のある因子がインフルエンザウイルス以外のウイルスである場合に用いられる、医薬製剤。」
2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項3に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献1~3に記載された事項に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものであり、その対象とされた請求項3に係る発明は、上記1で認定した本願発明である。
3 当審の判断
(1)引用文献の記載事項等
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1~3の記載事項は、上記第2の[理由]2(2)ア~ウに記載したとおりである。
(2)対比・判断
本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本件補正発明における、医薬品製剤についての「水性」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(4)~(6)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び引用文献1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び引用文献1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、令和2年4月22日提出の意見書における請求人の主張については、上記第2の[理由]2(7)に記載した請求人の主張と同様の主張である。しかし当該主張は、同箇所で説示したとおり採用できず、本願発明が引用文献1に記載された発明及び引用文献1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとする結論を左右するものではない。
第4 むすび
以上のとおり、本願請求項3に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1~3に記載された事項に基いて、本願の優先権主張の日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-016733