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特許拒絶査定不服審判

2020-015566

中性子捕捉療法用のビーム成形体

審判番号
2020-015566
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-532142外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年11月11日
審決日
2023年04月25日
公報発行日
2023年10月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-532142「中性子捕捉療法用のビーム成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月13日国際公開、WO2017/118291、平成31年 1月31日国内公表、特表2019-502455〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 9項目
理 由

第1 手続の経緯

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本願は、平成28(2016)年12月21日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2016年 1月 8日 中国、2016年 1月 8日 中国)を国際出願日とする出願であって、令和 2年 7月 9日付け(発送日:令和 2年 7月14日)で拒絶査定がされた。これに対して、令和 2年11月11日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において令和 3年10月28日付け(発送日:令和 3年11月 2日)で拒絶理由が通知され、令和 4年 2月 1日に意見書及び手続補正書が提出され、令和 4年 6月 2日付け(発送日:令和 4年 6月 7日)で拒絶理由が通知され、令和 4年10月 6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 令和 3年10月28日付け及び令和 4年 6月 2日付け拒絶理由の概要

(1)令和 3年10月28日付け拒絶理由

令和 3年10月28日付けで通知した拒絶理由は以下の理由を含むものである。

本件出願の請求項1に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:中国特許出願公開第104511096号明細書
引用文献2:特開2009-193934号公報

(2)令和 4年 6月 2日付け拒絶理由

令和 4年 6月 2日付けで通知した拒絶理由は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことから、上記(1)の令和 3年10月28日付け拒絶理由における、特許法第29条第2項についての判断を留保したものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

本願の請求項1~9に係る発明は、令和 4年10月 6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「中性子捕捉療法用のビーム成形体であって、
陽子ビームを加速させる加速管と、
ビーム入口と、
前記加速管内に配置されたターゲットと、
続きを表示(全18行)
前記ターゲットに隣接する減速体と、
前記減速体の外を囲む反射体と、
前記減速体に隣接する熱中性子吸収体と、
前記ビーム成形体内に配置された放射シールド及びビーム出口と、
を含み、
前記加速管は、前記減速体に埋め込まれ、
前記ターゲットは前記ビーム入口から入射された陽子ビームと原子核反応して中性子を発生し、前記中性子は中性子ビームを形成し、前記減速体は前記ターゲットから発生した中性子を熱外中性子エネルギー領域まで減速させ、前記反射体は逸脱した中性子を前記減速体に戻して熱外中性子ビームの強度を増加させ、前記熱中性子吸収体は熱中性子を吸収し、治療時に浅層の正常組織による過度の線量を回避するために使用され、前記放射シールドは漏れた中性子及び光子をシールドして非照射領域の正常組織線量を低減するために使用され、
前記ビーム成形体は、さらに冷却装置を有し、
前記冷却装置は、前記ターゲットを冷却するための第一部と、前記加速管の軸方向と平行に延在し、かつ、前記加速管の前記軸方向と直交する方向において前記加速管の両側に位置する第二部及び第三部とを含み、前記第一部は前記ターゲットと平面接触し、前記第一部は前記ターゲットと直接接触する第一接触部を含み、前記第二部及び前記第三部は、それぞれ、前記第一部と連通し、前記第二部は前記第一部に冷却媒体を流入させ、前記第三部は前記第一部中の冷却媒体を流出させ、
前記加速管は嵌入部及び延在部を含み、前記ターゲットは前記加速管の前記嵌入部の端部に配置され、前記嵌入部は前記減速体中に配置され、前記延在部は前記減速体の外側に配置されて前記反射体により囲まれ、前記第一部は前記ターゲットと前記減速体との間に位置し、前記第一部の一端は前記ターゲットと接続され、前記第一部の他端は前記減速体と接続され、前記第二部及び前記第三部は前記加速管の軸方向と平行に前記加速管の前記嵌入部の外側まで延在して前記ビーム成形体に位置し、
前記第二部の一部分は、前記反射体の内部に位置し、前記第二部の他の部分は、前記第一部に接続され、前記減速体の内部に位置し、
前記第三部の一部分は、前記反射体の内部に位置し、前記第三部の他の部分は、前記第一部に接続され、前記減速体の内部に位置する、
ことを特徴とする、
中性子捕捉療法用のビーム成形体。」

2 引用文献の記載事項及び引用発明

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(1)引用文献1(中国特許出願公開第104511096号明細書)

当審の令和 3年10月28日付けの拒絶理由に引用され、本願の優先日前に日本国内または外国において頒布された引用文献1には、以下の記載がある。なお、括弧内の和文は、本件出願の日本語ファミリー文献である特開2016-107047号公報を参照して当審で付したものである。

A「

[図:0001402008000001.jpg]

」(1. ビーム入口と、

ターゲットと、

前記ターゲットに隣接する減速部と、

前記減速部の周囲に配置される反射体と、

前記減速部に隣接する熱中性子フィルターと、

放射線遮蔽体と、

ビーム出口と、

を備え、

前記ターゲットと前記ビーム入口から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、前記中性子により中性子ビームが形成され、前記中性子ビームは1つの主軸を定義し、

前記減速部により、前記ターゲットからの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速され、

熱外中性子束を向上させるために前記減速部と前記反射体との間には隙間通路が設けられ、

前記反射体は、熱外中性子ビーム強度を高めるため、前記主軸から逸れた前記中性子を前記主軸に導き、

前記熱中性子フィルターは、治療時に表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられ、

前記放射線遮蔽体は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子の遮蔽に用いられる、

中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。

2. 加速器ホウ素中性子捕捉療法に更に適用される、

請求項1に記載の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。

3. 陽子ビームは、加速器により、ターゲットの原子核のクーロン反発力に打ち勝つエネルギーを有するまで加速され、前記ターゲットとの原子核反応により中性子を生成し、

前記ターゲットは、金属製である、

請求項2に記載の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。)

B「

[図:0001402008000002.jpg]

」([0024]中性子捕捉療法は効果的ながん治療の手段として、近年ではその適用が増加しており、そのうち、ホウ素中性子捕捉療法が最も一般的なものとなった。ホウ素中性子捕捉療法に用いられる中性子は原子炉または加速器で供給できる。本発明の実施形態は加速器ホウ素中性子捕捉療法(Accelerated-based Boron Neutron Capture Therapy)を例とする。加速器ホウ素中性子捕捉療法の基本モジュールは、一般的に荷電粒子(陽子、デューテリウム原子核など)の加速に用いられる加速器、ターゲット、熱除去システム及びビーム整形アセンブリを含む。加速後の荷電粒子と金属ターゲットとの作用により中性子が生成され、必要な中性子収率及びエネルギー、提供可能な加速荷電粒子のエネルギー及び電流、及び、金属ターゲットの物理的・化学的特性などにより、適切な原子核反応が選定される。よく検討されている原子核反応は7Li(p,n)7Be及び9Be(p,n)9Bであり、この両方はすべて吸熱反応でエネルギー閾値がそれぞれ1.881MeVと2.055MeVである。ホウ素中性子捕捉療法の理想的中性子源はkeVエネルギーレベルの熱外中性子なので、理論的には、エネルギーが閾値よりやや高い陽子によるリチウムターゲットへの衝撃で、比較的低いエネルギーの中性子が生成され、あまり多くの減速処理を要しないで臨床適用が可能になる。しかし、リチウム(Li)及びベリリウム(Be)の2種のターゲットは、閾値エネルギーの陽子と作用する断面が大きくないので、十分な中性子束を確保するために、一般的には比較的高いエネルギーを持つ陽子で原子核反応を引き起こされる。)

C「

[図:0001402008000003.jpg]

」([0026]熱除去システムの要件は、選定された原子核反応により異なる。例えば、7Li(p,n)7Beの場合、金属ターゲット(リチウム)の低い融点と低い熱伝導率により、熱除去システムの要件は9Be(p,n)9Bより厳しくなる。本発明の実施形態では、7Li(p,n)7Beの原子核反応を採用する。)

D「

[図:0001402008000004.jpg]

」([0039] 中性子源の放射フラックス及び品質を向上させるように、本発明の実施形態は、中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリの改良に関するものであり、好ましいものとして、加速器ホウ素中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリの改良に関するものである。図3に示すように、本発明の第1実施形態の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ10は、ビーム入口11と、ターゲット12と、ターゲット12に隣接する減速部13と、減速部13の周囲に配置される反射体14と、減速部13に隣接する熱中性子フィルター15と、ビーム整形アセンブリ10内において設置されている放射線遮蔽体16と、ビーム出口17と、を備える。ターゲット12とビーム入口11から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、中性子により中性子ビームが形成され、中性子ビームは1つの主軸Xを定義する。減速部13により、ターゲット12からの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速される。反射体14は、熱外中性子ビーム強度を高めるため、主軸Xから逸れた中性子を主軸Xに導く。熱外中性子束を向上させるために減速部13と反射体14の間に隙間通路18が設けられる。熱中性子フィルター15は、治療時の表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられる。放射線遮蔽体16は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子との遮蔽に用いられる。

[0040]好ましくは、ターゲット12は金属で製作される。加速器ホウ素中性子捕捉療法では、陽子ビームは、加速器により、陽子ビームがターゲットの原子核のクーロン反発力に打ち勝つエネルギーを有するまで加速され、ターゲット12との7Li(p,n)7Be原子核反応により中性子を生成する。ビーム整形アセンブリ10は、中性子を熱外中性子エネルギー領域に減速し、かつ、熱中性子及び高速中性子の含有量を低減する。減速部13は、高速中性子が作用する断面が大きくかつ熱外中性子が作用する断面が小さい材料で製作される。言い換えれば、減速部13は、高速中性子が主に作用し、熱外中性子がほとんど作用しない断面を有する材料で製作される。好ましいものとして、減速部13は、D2O、AlF3、FluentalTM、CaF2、Li2CO3 、MgF2やAl2O3のうちの少なくとも1種で製作される。反射体14は中性子の反射性が高い材料で製作される。好ましいものとして、反射体14は、PbまたはNiのうちの少なくとも1種で製作される。熱中性子フィルター15は、熱中性子が作用する断面が大きい材料で製作される。好ましいものとして、熱中性子フィルター15は、6Liで製作され、熱中性子フィルター15とビーム出口17との間に空気通路19が設けられる。放射線遮蔽体16は、光子遮蔽体161と中性子遮蔽体162とを含む。好ましいものとして、放射線遮蔽体16は鉛(Pb)で製作され、中性子遮蔽体162はポリエチレン(PE)で製作される。)

E「

[図:0001402008000005.jpg]

[図:0001402008000006.jpg]

」

F 上記Aの「1. ビーム入口と、ターゲットと・・・を備え、・・・前記ターゲットと前記ビーム入口から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、前記中性子により中性子ビームが形成され・・・、中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。

・・・

3. 陽子ビームは、加速器により、ターゲットの原子核のクーロン反発力に打ち勝つエネルギーを有するまで加速され、前記ターゲットとの原子核反応により中性子を生成し、前記ターゲットは、金属製である、請求項2に記載の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。」との記載及び加速器で加速された陽子ビームは真空領域中で、加速器からターゲットまで移動させる必要があるという技術常識からみて、引用文献1に記載された中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリは、加速器からターゲットに陽子ビームを移動させるための接続構成を備えることが理解できる。

G 上記Bの「[0024]中性子捕捉療法は効果的ながん治療の手段として、近年ではその適用が増加しており、そのうち、ホウ素中性子捕捉療法が最も一般的なものとなった。ホウ素中性子捕捉療法に用いられる中性子は原子炉または加速器で供給できる。本発明の実施形態は加速器ホウ素中性子捕捉療法(Accelerated-based Boron Neutron Capture Therapy)を例とする。加速器ホウ素中性子捕捉療法の基本モジュールは、一般的に荷電粒子(陽子、デューテリウム原子核など)の加速に用いられる加速器、ターゲット、熱除去システム及びビーム整形アセンブリを含む。」との記載、上記Cの「[0026]熱除去システムの要件は、選定された原子核反応により異なる。例えば、7Li(p,n)7Beの場合、金属ターゲット(リチウム)の低い融点と低い熱伝導率により、熱除去システムの要件は9Be(p,n)9Bより厳しくなる。本発明の実施形態では、7Li(p,n)7Beの原子核反応を採用する。」との記載から、中性子捕捉療法に用いられ、加速器から供給した陽子ビームを導入して、ターゲットにおいて原子核反応により中性子を取り出す中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリは当該原子核反応に伴い必然的に放出される熱を除去するための熱除去システムを備えるということができる。

H 上記Dの「([0039] ・・・図3に示すように、本発明の第1実施形態の中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ10は、ビーム入口11と、ターゲット12と、ターゲット12に隣接する減速部13と、減速部13の周囲に配置される反射体14と、減速部13に隣接する熱中性子フィルター15と、ビーム整形アセンブリ10内において設置されている放射線遮蔽体16と、ビーム出口17と、を備える。・・・」との記載を踏まえて、上記Eの図3をみると、放射線遮蔽体16とビーム出口17とはビーム整形アセンブリ10内に配置されたものであるといえる。

I 上記Dの「[0040]好ましくは、ターゲット12は金属で製作される。加速器ホウ素中性子捕捉療法では、陽子ビームは、加速器により、陽子ビームがターゲットの原子核のクーロン反発力に打ち勝つエネルギーを有するまで加速され、ターゲット12との7Li(p,n)7Be原子核反応により中性子を生成する。」との記載を踏まえて、上記Eの図3をみると、中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリの「ターゲット」は、加速器から中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリに導入された陽子ビームと原子核反応により中性子を発生するものであるから、「接続構成内に配置された」ものであることが、さらに当該「接続構成」は、「減速部内に延在」することが理解できる。

上記A~Eの記載事項及びF~Iの認定事項を総合し、本願発明に倣って整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリであって、
加速器からターゲットに陽子ビームを移動させるための接続構成と、
ビーム入口と、
前記接続構成内に配置されたターゲットと、
続きを表示(全18行)
前記ターゲットに隣接する減速部と、
前記減速部の周囲に配置される反射体と、
前記減速部に隣接する熱中性子フィルターと、
前記中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ内に配置された放射線遮蔽体とビーム出口と、
を備え、
前記接続構成は、前記減速部内に延在し、
前記ターゲットと前記ビーム入口から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、前記中性子により中性子ビームが形成され、前記中性子ビームは1つの主軸を定義し、
前記減速部により、前記ターゲットからの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速され、
熱外中性子束を向上させるために前記減速部と前記反射体との間には隙間通路が設けられ、
前記反射体は、熱外中性子ビーム強度を高めるため、前記主軸から逸れた前記中性子を前記主軸に導き、
前記熱中性子フィルターは、治療時に表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられ、
前記放射線遮蔽体は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子の遮蔽に用いられ、
前記ビーム整形アセンブリは、さらにターゲットにおける原子核反応に伴って生じる熱を除去するための熱除去システムを備える、
中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ。」

(2)引用文献2(特開2009-193934号公報)

当審の令和 3年10月28日付けの拒絶理由に引用され、本願の優先日前に日本国内または外国において頒布された引用文献2には、以下の記載がある。

A 「【0014】
図1に示されるように、BNCT装置1は、中性子捕捉療法(NCT:Neutron Capture Therapy)によってがん治療等を行うための装置である。BNCT装置1は、患者が治療を受けるために座る治療台3と、サイクロトロンでつくられる高速の陽子(以下、「陽子線」という)L(図2参照)を受けて中性子を発生させるターゲット装置5と、ターゲット装置5で発生した中性子Nを減速させ、低エネルギーの中性子として患者に照射する中性子減速装置(「モデレータ」ともいう)7と、を備えている。陽子線Lは、加速粒子に相当する。
【0015】
図2~図5に示されるように、ターゲット装置5は、サイクロトロンに繋がるように敷設されたビームダクト9の端部に、着脱自在に取り付けられている。ターゲット装置5は、陽子線Lの照射を受けて中性子Nを発生するターゲット10と、ターゲット10を保持するターゲットホルダー11とからなる。ターゲット10は、円板状に成形されており、ターゲットホルダー11は、ターゲット10を挟み付けて保持するフランジ付き短管(筒部)13と冷却板(冷却部)15とを有する。フランジ付き短管13はビームダクト9に固定されている。フランジ付き短管13を通過した陽子線Lはターゲット10の一方の端面10aに照射される。ターゲット10は、陽子線Lの照射を受けると中性子を発生し、その中性子は、ターゲット10の背面10b、すなわち冷却板15に接する他方の端面側から放出される。ターゲット10の背面10bには、防蝕のための陽極酸化処理が施されている。
続きを表示(全12行)
【0016】
冷却板15は銅(Cu)またはグラファイトによって形成される。冷却板15には、ターゲット10に接する一方の端面15a側に冷却水Wが通過する複数の螺旋溝17(図4参照)が形成されている。さらに、冷却板15には、一方の端面15aの裏側、すなわち他方の端面15b側に、冷却水W(図5参照)を導入するための導入溝19と冷却水を排出するための排出溝21とが形成されている。
【0017】
螺旋溝17は、冷却板15の中央から外側に向けて螺旋(「平面曲線」、(「渦巻き線」ともいう)を描くように形成されている。螺旋溝17は、流路断面が略一様である。また、複数の螺旋溝17は、互いに交差することなく冷却板15の略中央で一つにまとまり、中央孔23を介して裏側の導入溝19に連通している。また、螺旋溝17の外側の端部は、貫通孔25を介して裏側の排出溝21に連通している。冷却水Wは、導入溝19内を通り、中央孔23を抜けて四本の螺旋溝17それぞれに分かれる。さらに、冷却水Wは、螺旋溝17の外側の端部から貫通孔25を通って合流し、裏側の排出溝21を通って排出される。本実施形態では、一本の螺旋溝17で冷却水Wの流路長を確保するのではなく、複数の螺旋溝17に冷却水Wを分岐させて冷却水Wの流路長を確保するようにしたので、一本の場合に比べて圧力損失は低下する。
【0018】
冷却板15は、ターゲット10の形状に対応した略円形の本体部27と、本体部27を挟むようにして上下の対向位置に設けられた張出し部28,29とを有する。本体部27には、前述の螺旋溝17が形成されている。一対の張出し部28,29のうち、下側の張出し部28には、導入溝19に連通する導入孔31が形成されている。さらに、張出し部28は、両フランジ管32を介して、冷却水Wの導入のために敷設された上流管33に接続されている。また、上側の張出し部29には、排出溝21に連通する排出孔35が形成されている。張出し部29は、両フランジ管36を介して、冷却水Wの排出のために敷設された下流管37に接続されている。
【0019】
冷却板15の背面には、冷却板15の本体部27及び両張出し部28,29の形状に対応する形状の蓋部39がボルト留めされている。蓋部39は、導入溝19及び排出溝21を塞ぐように取り付けられており、導入溝19内に冷却水Wの導入路を形成し、排出溝21内に冷却水Wの排出路を形成する。なお、冷却板15と蓋部39とを一体成形するようにしてもよい。」

B「【0025】

図1に示されるように、中性子減速装置7には、ターゲット装置5を受け入れるために開放された円筒状のターゲット収容部7aが設けられている。中性子減速装置7は、前後方向に移動可能であり、ビームダクト9に固定されたターゲット装置5をターゲット収容部7a内に収容する。中性子減速装置7は、ターゲット装置5を冷却板15側から受け入れる。冷却板15の螺旋溝17に冷却水Wを導入、排出するための流路は、冷却板15に形成された導入溝19及び排出溝21によって形成されている。従って、冷却板15の周りには、冷却水Wの導入用または排出用の配管は無く、障害物は少ない。中性子減速装置7が移動してターゲット装置5をターゲット収容部7a内に受け入れる際には、障害物が無い分、ターゲット10を中性子減速装置7に近づけることができる。その結果として、ターゲット10から発生した中性子を中性子減速装置7で減速させて低エネルギーの中性子として患者に照射する際のロスが低減する。」

C「

[図:0001402008000007.jpg]

」

2 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「中性子捕捉療法用ビーム整形アセンブリ」は、その機能や技術的意義を踏まえると本願発明の「中性子捕捉療法用のビーム成形体」に相当し、以下同様に、「減速部」は「減速体」に、「減速部の周囲に配置される反射体」は「減速体の外を囲む反射体」に、「熱中性子フィルター」は「熱中性子吸収体」に、「放射線遮蔽体」は「放射シールド」に、「減速部内に延在し」は「減速体に埋め込まれ」に、「前記ターゲットと前記ビーム入口から入射した陽子ビームとの原子核反応により中性子が生成され、前記中性子により中性子ビームが形成され」は「前記ターゲットは前記ビーム入口から入射された陽子ビームと原子核反応して中性子を発生し、前記中性子は中性子ビームを形成し」に、「前記減速部により、前記ターゲットからの中性子が熱外中性子エネルギー領域に減速され」は「前記減速体は前記ターゲットから発生した中性子を熱外中性子エネルギー領域まで減速させ」に、「前記反射体は、熱外中性子ビーム強度を高めるため、前記主軸から逸れた前記中性子を前記主軸に導き、」は「前記反射体は逸脱した中性子を前記減速体に戻して熱外中性子ビームの強度を増加させ」に、「前記熱中性子フィルターは、治療時に表層の正常組織への過度の線量を避けるために熱中性子の吸収に用いられ」は「前記熱中性子吸収体は熱中性子を吸収し、治療時に浅層の正常組織による過度の線量を回避するために使用され」に、「前記放射線遮蔽体は、非照射領域における正常組織への線量を減らすために漏れた中性子と光子の遮蔽に用いられ」は「前記放射シールドは漏れた中性子及び光子をシールドして非照射領域の正常組織線量を低減するために使用され」に、「熱除去システム」は「冷却装置」に、それぞれ相当する。

(2)引用発明の「加速器からターゲットに陽子ビームを移動させるための接続構成」は、その機能からみて、本願発明の「陽子ビームを加速させる加速管」と、「陽子ビームを移動させる構成」の限度で一致する。

なお、本願発明における「陽子ビームを加速させる加速管」について、請求人は、令和 4年 2月 1日提出の意見書において、「加速器の構成の一部であって、電場や磁場で加速される荷電粒子を移動させるものであるということは、当業者の一般的な技術常識である」と主張しており、この認定は、当該主張を踏襲したものである。

そうすると、本願発明と引用発明とは、

<一致点>

「中性子捕捉療法用のビーム成形体であって、
陽子ビームを移動させる構成と、
ビーム入口と、
前記陽子ビームを移動させる構成内に配置されたターゲットと、
続きを表示(全13行)
前記ターゲットに隣接する減速体と、
前記減速体の外を囲む反射体と、
前記減速体に隣接する熱中性子吸収体と、
前記ビーム成形体内に配置された放射シールド及びビーム出口と、
を含み、
前記陽子ビームを移動させる構成は、減速体に埋め込まれ、
前記ターゲットは前記ビーム入口から入射された陽子ビームと原子核反応して中性子を発生し、前記中性子は中性子ビームを形成し、前記減速体は前記ターゲットから発生した中性子を熱外中性子エネルギー領域まで減速させ、前記反射体は逸脱した中性子を前記減速体に戻して熱外中性子ビームの強度を増加させ、前記熱中性子吸収体は熱中性子を吸収し、治療時に浅層の正常組織による過度の線量を回避するために使用され、前記放射シールドは漏れた中性子及び光子をシールドして非照射領域の正常組織線量を低減するために使用され、
前記ビーム成形体は、さらに冷却装置を有する、
中性子捕捉療法用のビーム成形体。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

陽子ビームを移動させる構成について、本願発明は、「陽子ビームを加速させる加速管」であるのに対して、引用発明は、陽子ビームを加速させる加速管といえるか明らかでない点。

<相違点2>

冷却装置について、本願発明は、「前記冷却装置は、前記ターゲットを冷却するための第一部と、前記加速管の軸方向と平行に延在し、かつ、前記加速管の前記軸方向と直交する方向において前記加速管の両側に位置する第二部及び第三部とを含み、前記第一部は前記ターゲットと平面接触し、前記第一部は前記ターゲットと直接接触する第一接触部を含み、前記第二部及び前記第三部は、それぞれ、前記第一部と連通し、前記第二部は前記第一部に冷却媒体を流入させ、前記第三部は前記第一部中の冷却媒体を流出させ、

前記加速管は嵌入部及び延在部を含み、前記ターゲットは前記加速管の前記嵌入部の端部に配置され、前記嵌入部は前記減速体中に配置され、前記延在部は前記減速体の外側に配置されて前記反射体により囲まれ、前記第一部は前記ターゲットと前記減速体との間に位置し、前記第一部の一端は前記ターゲットと接続され、前記第一部の他端は前記減速体と接続され、前記第二部及び前記第三部は前記加速管の軸方向と平行に前記加速管の前記嵌入部の外側まで延在して前記ビーム成形体に位置し、

前記第二部の一部分は、前記反射体の内部に位置し、前記第二部の他の部分は、前記第一部に接続され、前記減速体の内部に位置し、

前記第三部の一部分は、前記反射体の内部に位置し、前記第三部の他の部分は、前記第一部に接続され、前記減速体の内部に位置する、」構成を備えるのに対して、引用発明の熱除去システムは、そのような構成を備えるか明らかでない点。

3 判断

事案に鑑み、上記相違点1及び2について併せて検討する。

中性子捕捉療法用のビーム成形体に設けられる冷却装置に相当するBNCT装置1のターゲット装置5に設けられる冷却部に関し、引用文献2には上記1(2)に摘記した記載がある。

以下、引用文献2の記載事項について検討する。

(1)上記1(2)Aの「【0014】

図1に示されるように、BNCT装置1は、中性子捕捉療法(NCT:Neutron Capture Therapy)によってがん治療等を行うための装置である。BNCT装置1は、患者が治療を受けるために座る治療台3と、サイクロトロンでつくられる高速の陽子(以下、「陽子線」という)L(図2参照)を受けて中性子を発生させるターゲット装置5と、ターゲット装置5で発生した中性子Nを減速させ、低エネルギーの中性子として患者に照射する中性子減速装置(「モデレータ」ともいう)7と、を備えている。陽子線Lは、加速粒子に相当する。

【0015】

・・・ターゲット10は、円板状に成形されており、ターゲットホルダー11は、ターゲット10を挟み付けて保持するフランジ付き短管(筒部)13と冷却板(冷却部)15とを有する。フランジ付き短管13はビームダクト9に固定されている。

・・・

【0018】

冷却板15は、ターゲット10の形状に対応した略円形の本体部27と、本体部27を挟むようにして上下の対向位置に設けられた張出し部28,29とを有する。本体部27には、前述の螺旋溝17が形成されている。一対の張出し部28,29のうち、下側の張出し部28には、導入溝19に連通する導入孔31が形成されている。さらに、張出し部28は、両フランジ管32を介して、冷却水Wの導入のために敷設された上流管33に接続されている。また、上側の張出し部29には、排出溝21に連通する排出孔35が形成されている。張出し部29は、両フランジ管36を介して、冷却水Wの排出のために敷設された下流管37に接続されている。

【0019】

冷却板15の背面には、冷却板15の本体部27及び両張出し部28,29の形状に対応する形状の蓋部39がボルト留めされている。蓋部39は、導入溝19及び排出溝21を塞ぐように取り付けられており、導入溝19内に冷却水Wの導入路を形成し、排出溝21内に冷却水Wの排出路を形成する。なお、冷却板15と蓋部39とを一体成形するようにしてもよい。」との記載から、サイクロトロン、すなわち加速器からターゲット10に陽子線を移動するための接続領域を構成するための具体的構成として、ビームダクト9及びフランジ付き短管13を採用したことが理解できる。

また、BNCT装置1の冷却部は、ターゲット10を冷却するための冷却板15及び蓋部39と、冷却水Wの導入のために敷設された上流管33と、冷却水Wの排出のために敷設された下流管37を備え、上流管33及び下流管37は、それぞれ、冷却板15及び蓋部39と連通し、上流管33は冷却板15及び蓋部39に冷却水Wを流入させ、下流管37は冷却板15及び蓋部39中の冷却水Wを流出させることが理解できる。

(2)上記1(2)Cの図2における、上流管33、下流管37とビームダクト9及びフランジ付き短管13との位置関係をみると、中性子捕捉療法に用いられるBNCT装置1の冷却部の上流管33、下流管37は、ビームダクト9及びフランジ付き短管13の軸方向と平行に延在し、ビームダクト9及びフランジ付き短管13の軸方向と直交する方向において、ビームダクト9及びフランジ付き短管13の両側に位置することが看て取れる。

(3)上記1(2)Aの「・・・

【0015】

・・・ターゲット装置5は、陽子線Lの照射を受けて中性子Nを発生するターゲット10と、ターゲット10を保持するターゲットホルダー11とからなる。ターゲット10は、円板状に成形されており、ターゲットホルダー11は、ターゲット10を挟み付けて保持するフランジ付き短管(筒部)13と冷却板(冷却部)15とを有する。・・・

【0016】

冷却板15は銅(Cu)またはグラファイトによって形成される。冷却板15には、ターゲット10に接する一方の端面15a側に冷却水Wが通過する複数の螺旋溝17(図4参照)が形成されている。・・・」との記載からみて、引用文献2に記載された中性子捕捉療法に用いられるBNCT装置1の冷却部の冷却板15及び蓋部39は、ターゲット10と平面接触し、直接接触する冷却板15を備えることが理解できる。

上記1(2)の記載事項及び上記(1)~(3)の認定事項を整理すると、引用文献2には、加速器からターゲット10に陽子ビームを移動するための具体的構成として、ビームダクト9及びフランジ付き短管13という管を採用した点(以下「引用文献2記載事項1」という。)、さらにBNCT装置1のターゲット装置5に設けられる冷却部において、ターゲット10を冷却するための冷却板15及び蓋部39と、ビームダクト9及びフランジ付き短管13の軸方向と平行に延在し、かつ、前記ビームダクト9及びフランジ付き短管13の軸方向と直交する方向において、前記ビームダクト9及びフランジ付き短管13の両側に位置する上流管33及び下流管37を含み、前記冷却板15及び蓋部39は、ターゲット10と平面接触し、前記冷却板15及び蓋部39は前記ターゲット10と直接接触する冷却板15を含み、上流管33及び下流管37は、それぞれ、冷却板15及び蓋部39と連通し、上流管33は冷却板15及び蓋部39に冷却水Wを流入させ、下流管37は冷却板15及び蓋部39中の冷却水Wを流出させる点(以下「引用文献2記載事項2」という。)が記載されているといえる。

そして、上記引用文献2記載事項1のビームダクト9及びフランジ付き短管13は加速器からターゲット10に陽子ビームを移動するための構成であるところ、上記2(2)で指摘した審判請求人の「本願発明における「陽子ビームを加速させる加速管」は、「加速器の構成の一部であって、電場や磁場で加速される荷電粒子を移動させるものである」との主張に鑑みれば、上記引用文献2記載事項1のビームダクト9及びフランジ付き短管13は、本願発明の「陽子ビームを加速させる加速管」に相当する。

ここで、引用発明と引用文献2記載事項1及び2とは、中性子捕捉療法用のビーム成形体に関する発明として共通するところ、引用発明において、熱除去システムを具体化するに際して、上記引用文献2記載事項1及び2を採用することは、当業者が容易になし得ることである。

そして、引用発明の熱除去システムの具体的な構成として引用文献2記載事項1及び2を採用する場合に、原子核分裂反応によって熱が生じるターゲットから熱を除去するために、当該ターゲットに引用文献2記載事項2の冷却板15及び蓋部39を接触させて設ける場合、ビームダクト9及びフランジ付き短管13は引用発明の減速部に嵌入する部分及び減速部の外側に配置されて反射体に囲まれて延在する部分を含み、前記冷却板15及び蓋部39は引用発明のターゲットと減速部との間に位置し、前記冷却板15及び蓋部39の一端は引用発明のターゲットと接続され、前記冷却板15及び蓋部39の他端は引用発明の減速部と接続され、上流管33及び下流管37は前記ビームダクト9及びフランジ付き短管13の軸方向と平行に前記ビームダクト9及びフランジ付き短管13の前記嵌入する部分の外側まで延在して引用発明のビーム整形アセンブリに位置し、上流管33の一部分は引用発明の反射体の内部に位置し、前記上流管33の他の部分は前記冷却板15及び蓋部39に接続されるとともに、引用発明の減速部の内部に位置し、下流管37の一部分は引用発明の反射体の内部に位置し、前記下流管37の他の部分は前記冷却板15及び蓋部39に接続されるとともに、引用発明の減速部の内部に位置することになる。

よって、引用発明に引用文献2記載事項1及び2を適用して、相違点1及び2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことといえる。

そして、本願発明の奏する効果は、引用発明及び引用文献2記載事項1及び2から、当業者が容易に想到しうる範囲のものであって、格別なものとはいえない。

4 まとめ

したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2020-015566

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