特許拒絶査定不服審判
2020-013908
「「浮力式動力発生装置」の改良と利用」の改良
- 審判番号
- 2020-013908
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-202374外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年10月05日
- 審決日
- 2022年05月11日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】上坂 徹自
- 分類
- P18 .536-WZ (F03B) / P18 .1 -WZ (F03B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-202374「「「浮力式動力発生装置」の改良と利用」の改良」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 5月30日出願公開、特開2019- 82174〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は,平成30年10月26日に出願された特願2018-202374号であり,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
令和 元年 7月11日 手続補正書の提出
令和 元年 8月 7日 手続補正書の提出
令和 元年12月24日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 3月23日 意見書,手続補正書の提出
令和 2年 6月19日付け 拒絶査定
令和 2年10月 5日 審判請求書,手続補正書の提出
令和 3年 6月30日付け 拒絶理由通知書
令和 3年 9月12日 意見書の提出
令和 3年 9月13日 意見書,手続補正書の提出
令和 3年10月 6日付け 手続補正指令書(方式)
令和 3年11月 1日 手続補正書(方式)の提出
第2 本願発明
令和3年11月1日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「【請求項1】
容器と,該容器に収容された液体と,該液体に浮かぶ柱状の浮体と,物体と,該容器の一部であって該物体を挿入し抜去する空間である貯液部と,該物体を該貯液部に挿入し抜去する装置と,の「組み合わせ」において,該装置を駆動し,該液体の液位を増減し,該液体に浮かぶ該柱状の浮体を上下運動に導くことを特徴とする「液位増減方法」,を利用して駆動する「浮力式動力発生装置」であって,
該「液位増減方法」は,
「物体の挿入と抜去の方法」と,
「極少流体の方法」と,
「浮体の鉛直拡大の方法」と,からなり,
浮体の上下運動が発する「発生動力」と,該「物体を該貯液部に挿入し抜去する装置」を駆動する「駆動動力」と,の比較において「発生動力>駆動動力」の関係を成立させること,を特徴とすること,
前記「物体の挿入と抜去の方法」は,
該物体を該貯液部に挿入し抜去する操作によって,該液体の液位を増減し,該液体に浮かぶ該柱状の浮体を上下運動に導くこと,を目的とする方法であって,
前記「組み合わせ」において,前記該物体を該貯液部に挿入し抜去する装置を駆動し,該貯液部に該物体を挿入すること,によって液位を増加させること,該貯液部から該物体を抜去すること,によって液位を減少させること,前記液位の増加と減少によって,該液体に浮かぶ該柱状の浮体を上下運動に導くこと,を特徴とし,
前記「極少流体の方法」は,
前記「物体の挿入と抜去の方法」の実行において,「発生動力>駆動動力」を実現することを目的として,該液体の液位の増減幅を拡大し,該液体に浮かぶ該柱状の浮体の上下運動幅を拡大する方法であって,
前記「組み合わせ」において,「発生動力>駆動動力」を実現することを目的として,該浮体の側面と該容器の内壁との間隔,および該物体の内壁と該貯液部の内壁との間隔を,狭小に造作し,該間隔に存在する液体量を削減すること,によって,該物体の挿入と抜去による液位の増減幅を拡大させ,該液体に浮かぶ該柱状の浮体の上下運動の幅を拡大させ,これをもって「発生動力」を増大させること,を特徴とし,
前記「浮体の鉛直拡大の方法」は,
前記「物体の挿入と抜去の方法」と,前記「極少流体の方法」と共に利用し,「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることを目的として,該液体に浮かぶ柱状の浮体を鉛直に拡大すること,すなわち「底面積は定数・高さは変数」として浮体体積を拡大し,浮力を増大させ,「発生動力」を拡大させる方法であって,
前記「極少流体の方法」によって,該柱状の浮体を該容器に,該物体を該貯液部に収納し,前記「物体の挿入と抜去の方法」によって,該物体を該液体に挿入し抜去する装置を駆動して該柱状の浮体を上下運動に導く操作によって,「発生動力<駆動動力」となる場合,次なる操作において,該物体を該液体に挿入し抜去する装置を駆動し,一方,前記柱状の浮体を該容器とともに鉛直に拡大して行くこと,により,同一の該物体の操作によって駆動動力は変わらず,一方,前記柱状の浮体の体積拡大によって発生動力は拡大して行く,この「駆動動力は一定・発生動力は拡大」の原理によって「発生動力<駆動動力」が実現すること,を特徴とし,
前記「物体の挿入と抜去の方法」と,「極少流体の方法」と,「浮体の鉛直拡大の方法」と,からなる「液位増減方法」を利用して駆動することを特徴とする「浮力式動力発生装置」。」
第3 拒絶の理由
令和3年6月30日付けで当審が通知した拒絶理由のうち,理由2(実施可能要件)及び理由3(発明該当性)の概要は,次のとおりのものである。
理由2.(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3.(発明該当性)この出願の下記の請求項に記載されたものは,下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。
記
●理由2(実施可能要件)について
(1)発明の詳細な説明の段落0018に「浮体・・・高さ1メートル・体積1立方メートルの立方体 浮力・・・1トン 浮体上のおもり・・・1トン 水を1立方メートル排出すると,浮体は1メートル下降する。 次に,水を1立方メートル注入すると,浮体は1メートル上昇する。すなわち1トンのおもりを1メートル持ち上げる。 仕事(W=FS)・・・1トン×1メートル=1」と記載されている。
しかし,水投入前の浮体は上向きに働く浮力と下向きに働く重力が釣り合って浮いているから,浮体全体としてみると,上下方向に何ら力がかかっていない。そして,そこから,水が注入され水面が上昇するにともない浮体が上昇したとしても,常に上向きの力と下向きの力とが釣り合った状態で上昇するから,浮体全体として見た上下方向に受ける力は0(ゼロ)であるため,浮体を動かすための仕事(=力×距離)は0(ゼロ)となる。
したがって,上記記載は自然法則に基づいたものとはいえない。同様に,段落0019~0020の記載も自然法則に基づいたものとはいえず,浮体の体積が大きくなり浮体上のおもりがそれに伴い増加しても,浮体を動かすための仕事が 0(ゼロ)であることは変わらず,当該仕事が浮体の体積及び浮体上のおもりの重さに比例して大きくなることはない。
このことから,段落0018~0020の記載から導かれた,段落0021の「前記「図1・1」と「図2・2」と「図2・3」において,注排水体積と浮体体積の比は,1:1,1:2,1:100であり,比の値は,1,0.5,0.01となる。このように,「浮体体積に対する注排水体積の割合」をより小さくすることによって,「仕事」と該「仕事」に要する駆動動力の比,すなわち「効率」がよくなることがわかる。この過程において「発生動力>駆動動力の関係」が成立することは言うまでもない。」との記載も,自然法則に基づくものとはいえず,「発生動力>駆動動力の関係」が成立することを理解できない。
よって,発明の詳細な説明で示された例は,請求項1~23に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
(2)発明の詳細な説明の段落0037に「「駆動装置」を駆動する動力が「駆動動力」である。電力が主体であるが,流水,圧縮空気,人力等も利用可能である。」と記載され,また,段落0039に「1回毎の「物体の挿入と抜去」に用いる駆動動力は一定であるが,発生動力は「浮体の沈下部分の体積」に比例して拡大する。この原理によって「一定である駆動動力」を「拡大する発生動力」が上回った時に「発生動力>駆動動力の関係」が成立する。」とあり,浮体の沈下部分の体積が拡大しないと「発生動力>駆動動力の関係」が成立しないことが記載されているものと認められる。
しかしながら,ここで説明される「発生動力」がどのように導出されるものであるのか明らかでなく,また,何故,発生動力が「浮体の沈下部分の体積」に比例して拡大するか明らかでないうえに,「発生動力<駆動動力」から「発生動力>駆動動力」になる分岐点も示されておらず,請求項1~23に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
●理由3(発明該当性)について
本願の請求項1~23に記載された事項は,「発生動力>駆動動力」の関係を成立させた点に特徴を有するものである。
そして,上記理由1で示したように「発生動力」が具体的にどのように導出され特定されるものか明らかでないところ,例えば,発明の詳細な説明の段落0017~0021に示されるように,「発生動力」が浮体を動かす仕事を意味する場合,上記理由2(1)に示したように,仕事は0(ゼロ)であり,図1に示される1トンの浮体を,図2に示される100トンの浮体に変えても,浮体を動かすための仕事は変わらず0であるから,発生動力が増加するとはいえず,発生動力を大きくすることで「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることはできない。
一方,「発生動力」が,図3に示される機構を参考に,浮体6の上昇によりロープ13を介して取り出すことができる仕事を意味する場合,ロープ13を介して取り出すことができる仕事は,「(ロープを上に引く力)×(距離)」と理解される。
ロープを上に引く力について検討すると,上向きの力である「浮力」が,下向きの力である「浮体(おもりも含む)に働く重力」を上回ったとき,はじめて浮体によりロープが上に引かれると考えられ,その力の大きさは,「(浮力)-(浮体に働く重力)」である。(全浮力がそのままロープを上に引く力にはならない。)
そして,浮体6において,釣り合い状態にあるとき水面上に出ている部分が,容器5内の液体の増加により一時的に水面下に沈むと,浮力は,釣り合い状態から新たに浮体が水面下に沈んだ体積分だけ上昇する。その浮力の上昇分が「(浮力)-(浮体に働く重力)」であり,ロープを上に引く力として働く。(なお,釣り合いの状態にあるときに,浮体6が完全に水没している場合は,水面の上昇があったとしても浮力の増加はないから,ロープを上に引く力は発生しない。)
そうすると,図1に示される1トンの浮体を,図2に示される100トンの浮体に変更しても,(両浮体の断面積は変わらないことから)物体9の貯液部4への挿入による容器5の水位上昇分は変わらず,釣り合い状態から新たに浮体が水面下に沈んだ部分の体積も同じと認められる。その結果,浮力の上昇分は1トンの浮体でも100トンの浮体でも変わらず,ロープを上に引く力も変わらない。
したがって,発生動力は「浮体の沈下部分の体積」に比例して拡大するといった原理はなく,発生動力を大きくすることで「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることはできない。
以上によれば,本願の請求項1~23に記載された事項の「浮体の鉛直拡大の方法」に基づき「発生動力>駆動動力」の関係を成立させた構成は,自然法則に反するものである。
よって,本願の請求項1~23に記載された事項は,特許法第29条第1項柱書きに規定される「産業上利用することができる発明」に該当しないから,同項の規定により特許をすることができない。
第4 当審の判断
1 理由2(実施可能要件)について
(1)発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件(以下,「実施可能要件」という。)に適合するというためには,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その発明を実施することができる程度の記載があることを要する。
そして,本願発明は,「発生動力>駆動動力」の関係を成立させる「浮力式動力発生装置」という物の発明であるから,実施可能要件を満たすためには,過度の試行錯誤を要することなく,本願発明である「浮力式動力発生装置」を生産し,使用して,「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることができると当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明の記載があることを要する。
(2)本願発明は,前記第2で示したとおりのものであるところ,本願発明の「浮体の上下運動が発する「発生動力」と,該「物体を該貯液部に挿入し抜去する装置」を駆動する「駆動動力」と,の比較において「発生動力>駆動動力」の関係を成立させること,」という特定事項について,「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることができるかを検討する。
「発生動力>駆動動力」に関し,本願の発明の詳細な説明には,次のように記載されている。
「【0017】
「極少流体」の具体的説明
浮体底部と容器内底部との間隙にある水は,いずれも1立方メートルとする。浮体はおもりを載せて水中に全没状態で静止している。ここで,浮体の駆動方法として,該容器内の水を注排水して浮体を上下に移動させる方法を用いる。この場合,浮体側面と容器内壁との間隔はほぼゼロに等しく,浮体の重さも考えないものとする。
【0018】
図1・1
浮体・・・高さ1メートル・体積1立方メートルの立方体
浮力・・・1トン
浮体上のおもり・・・1トン
水を1立方メートル排出すると,浮体は1メートル下降する。
次に,水を1立方メートル注入すると,浮体は1メートル上昇する。すなわち1トンのおもりを1メートル持ち上げる。
仕事(W=FS)・・・1トン×1メートル=1
【0019】
図2・2
浮体・・・高さ2メートル・体積2立方メートルの直方体
浮力・・・2トン
浮体上のおもり・・・2トン
水を1立方メートル排出すると,浮体は1メートル下降する。
次に,水を1立方メートル注入すると,浮体は1メートル上昇する。すなわち2トンのおもりを1メートル持ち上げる。
仕事・・・2トン×1メートル=2
【0020】
図2・3
浮体・・・高さ100メートル・体積100立方メートルの直方体
浮力・・・100トン
浮体上のおもり・・・100トン
水を1立方メートル排出すると,浮体は1メートル下降する。
次に,水を1立方メートル注入すると,浮体は1メートル上昇する。すなわち100トンのおもりを1メートル持ち上げる。
仕事・・・100トン×1メートル=100
【0021】
「極少流体」と効率
前記「図1・1」と「図2・2」と「図2・3」において,注排水体積と浮体体積の比は,1:1,1:2,1:100であり,比の値は,1,0.5,0.01となる。このように,「浮体体積に対する注排水体積の割合」をより小さくすることによって,「仕事」と該「仕事」に要する駆動動力の比,すなわち「効率」がよくなることがわかる。この過程において「発生動力>駆動動力の関係」が成立することは言うまでもない。」
これらの記載から,本願発明において,「発生動力」とは,浮体を動かすための仕事であり,「浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ)」と「浮体の上昇距離」との積で導出されるもの([発生動力]=[浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ)]×[浮体の上昇距離])であることが説明されていると理解できる。
しかしながら,「図1・1」と「図2・2」と「図2・3」に示される系において,一定の駆動動力により,1立方メートルの水が容器内に注入される際の浮体による発生動力,すなわち,浮体を動かすための仕事について考えると,水投入前の浮体は,浮体の体積や,浮体上のおもりの重さによらず,上向きに働く浮力と下向きに働くおもりの重力が釣り合って浮いているから,浮体全体としてみると,上下方向に何ら力がかかっておらず,該浮体を上下方向に動かすために必要な力は0(ゼロ)である。そして,そこから,水が注入され水面が上昇するにともない浮体が上昇したとしても,常に上向きの力と下向きの力とが釣り合った状態で上昇するから,浮体を上下方向に動かすために必要な力は0(ゼロ)のままであり,浮体を動かすための仕事(=力×距離)は0(ゼロ)である。したがって,浮体の体積や,浮体上のおもりの重さによらず,浮体を動かすための仕事は一定(0(ゼロ))といえる。
そして,体積の大きい浮体が水面の上昇にともない上昇すると,当該浮体上のおもりの重さも大きいから,一見,一定の駆動動力(1立方メートルの水を容器内へ注入するための動力)により,浮体の位置エネルギーが大きなものになるとも解されるため,浮体の位置エネルギーについて考えると,該一定の駆動動力は,水位を一定の高さ,上昇させることには寄与するものの,浮体の位置エネルギーの増加には寄与しない。すなわち,浮体は前記したように,上向きに働く浮力と下向きに働くおもりの重力が釣り合って浮いており,重力加速度Gが打ち消された状態におかれているから,重力加速度Gは0(ゼロ)とみなすことができ,浮体の位置エネルギー(=質量×重力加速度G×高さ)は,浮体の体積や,浮体上のおもりの重さによらず,浮体の上昇前後において,0(ゼロ)のまま変化しない。したがって、体積が大きく,浮体上のおもりの重さが大きい浮体を用いたとしても,位置エネルギーが増加することはない。
以上のとおりであるから,浮体を動かすための仕事,すなわち「発生動力」が,「浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ)」と「浮体の上昇距離」との積で導出されるという発明の詳細な説明の記載は誤りであり,浮体の体積が大きくなり浮体上のおもりがそれに伴い増加しても,浮体を動かすための仕事が0(ゼロ)であることは変わらず,当該仕事が浮体の体積及び浮体上のおもりの重さに比例して大きくなることはない。
よって,明細書の発明の詳細な説明には,過度の試行錯誤を要することなく,本願発明である「浮力式動力発生装置」を生産し,使用して,「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることができると当業者が理解できる程度の記載があるとはいえない。
(3)以上によれば,発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。
2 理由3(発明該当性)について
本願発明は,前記第2で示したとおり,「浮体の上下運動が発する「発生動力」と,該「物体を該貯液部に挿入し抜去する装置」を駆動する「駆動動力」と,の比較において「発生動力>駆動動力」の関係を成立させること,」という事項(以下,「事項ア」という。),「該液体に浮かぶ該柱状の浮体の上下運動の幅を拡大させ,これをもって「発生動力」を増大させること,」という事項(以下,「事項イ」という。),「該液体に浮かぶ柱状の浮体を鉛直に拡大すること,すなわち「底面積は定数・高さは変数」として浮体体積を拡大し,浮力を増大させ,「発生動力」を拡大させる」という事項(以下,「事項ウ」という。)を有するものである。
一方,前記1(2)で検討したように,浮体を動かすための仕事は0(ゼロ)であり,図1に示される1トンの浮体を,図2・3に示される100トンの浮体に変えても,浮体を動かすための仕事は変わらず0(ゼロ)であり発生動力は増加しないから,前記事項イ及び前記事項ウにより発生動力を増加させることはできず,発生動力を大きくすることで,前記事項アで特定される「発生動力>駆動動力」の関係を成立させることはできない。
以上によれば,本願発明の前記事項アないしウに基づき「発生動力>駆動動力」の関係を成立させた構成は,自然法則に反するものであるといえる。
よって,本願の請求項1に記載された事項は,特許法第29条第1項柱書きに規定される「産業上利用することができる発明」に該当しないから,同項の規定により特許をすることができない。
3 審判請求人の意見について
審判請求人は,令和3年9月13日提出の意見書(以下,単に「意見書」という。)において,概略,次の(1)ないし(3)のような主張している。
(1)審判請求人は意見書で,位置エネルギーによる浮体の上昇(物体の挿入)について,「物体の沈下とともに水位が上昇する。それにともなってA内の浮体と錘も上昇する。物体はx沈下した時に全没状態となり,AとBの水位は等しくなる。物体の位置エネルギーが,浮体と錘を押し上げる仕事をしたことになる。」(意見書の4頁7~9行(空白行含まず。以下同様。))と主張する。
しかしながら,物体の位置エネルギーは,容器内の水の水位を上昇させ水を押し上げることに寄与しているものの,浮体と錘を押し上げる仕事をしたものではない。すなわち,前記1(2)で検討したように,浮体と錘についてみると,水位上昇中も含む水位上昇前後において,浮体及び錘には上向きに働く浮力と下向きに働く重力が釣り合って浮いているから,浮体及び錘を全体としてみると,常に上下方向に何ら力がかかっていないものと同じ状態となっている。したがって,浮体及び錘を全体として見た上下方向に受ける力は常に0(ゼロ)であるから,浮体を動かすための仕事(=力×距離)は0(ゼロ)となる。以上によれば,審判請求人の上記主張は当を得たものとはいえず採用することはできない。
(2)審判請求人は意見書で,「浮力Fを一定にした場合,水位の上昇距離sと仕事Wは正比例の関係にある。したがって,「挿入する物体の体積=水位の上昇距離s」を大きくすることによって,仕事Wを大きくすることができる。」(意見書の6頁12~14行)と,また,「水位の上昇距離sを一定にした場合,浮力Fと仕事Wは正比例の関係にある。したがって,「浮体の体積=浮力F」を大きくすることによって,仕事Wを大きくすることができる。」(意見書の6頁15~17行)と主張する。
しかしながら,前記1(2)で検討したように,浮体を動かすための仕事(発生動力)と,「浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ)」と「浮体の上昇距離」との間に,[発生動力]=[浮体の浮力(=浮体上のおもりの重さ)]×[浮体の上昇距離]といった関係はなく,そして,水位の上昇距離sと仕事Wに正比例の関係はなく,また,浮力Fと仕事Wに正比例の関係はないから,審判請求人の上記主張は当を得たものとはいえず採用することはできない。
(3)審判請求人は意見書で,
「9 浮体の鉛直拡大による「発生動力>駆動動力」の成立
下記の設定で,物体の抜去と錘の上昇の仕事Wを算出してみる。物体と浮体の形状は同一とする。
物体・・・体積V=10,高さh=2,密度ρ=1,質量M=10
浮体・・・体積V=10,高さh=2,重さはないものとする
全没状態での発生浮力はρVg=10
錘・・・質量M=10(浮体の生浮力に等しい)
浮体側面と容器内壁,物体側面と容器内壁との間隔は,限りなく狭小なものと仮定する。物体を挿入し抜去する操作を1回転とする。
物体の挿入 重力で水に沈む。全没したときの沈下距離は1
錘の上昇 物体の位置エネルギーの作用によって水位が1上昇し,それにともなって錘も1上昇する。
物体の抜去 駆動動力によって水中から引き上げる。全没状態では浮力によって重さが0,引き上げるにしたがって浮力が減少していき,全体を引き上げた時は重さが10となるので,仕事は W= Fs/2。引き上げる距離は1。
物体の抜去 W= Fs/2より,W=10×1÷2=5 駆動動力は5
錘の上昇 W= F s (当審注:「F s」は「F×s」を意味したものと思われる。)より,W=10×1=10 発生動力は10
(W=Mgx/2 M=ρVg)」(意見書6頁下から8行~7頁10行)と主張する。
しかしながら,前記1(2)や前記(1)で検討したように,浮体上の錘の上昇に,当該錘を動かすための仕事は発生せず,発生動力は0(ゼロ)であり,また,浮体上の錘の位置エネルギーも変化はないから,審判請求人の上記主張は当を得たものとはいえず採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおり,本願は,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから,拒絶すべきものである。
また,本願発明は,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから,特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2020-013908